JP2004337133A - 鉄臭味抑制剤 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明の鉄臭味抑制剤は、CFを有効成分としたこれまでにない全く新しい鉄臭味抑制剤であり、鉄臭味を有する飲食品をはじめとする各種の物品に幅広く応用できる汎用性が高いものである。本発明の鉄臭味抑制剤は、鉄臭味を抑え、物品に良好な香りや風味を与えるものであり、本発明によれば、風味の良好な鉄分強化飲食品や不快臭のない染毛剤などを提供することができる。また、本発明の鉄臭味抑制剤は、使用時に血液の付着により鉄臭が発生する衛生用品などに対しても適用することができる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フラクトース分子がβ−2,1結合で環状に結合して構成される環状イヌロオリゴ糖であるシクロフラクタンを有効成分とする鉄臭味抑制剤、鉄臭味抑制方法および有効量のシクロフラクタンを配合することにより鉄臭味が抑制された物品に関する。より詳しくは、本発明は、鉄化合物に由来する鉄臭味を有する飲食品や使用時に血液の付着により鉄臭が発生する衛生用品をはじめとする各種の物品に対し、有効成分としてシクロフラクタン、中でも7個のフルクトース分子からなる環状イヌロヘプタオースを配合することにより、その鉄臭味を抑えるものであり、飲食品などに対しては良好な香りや風味を与えるものである。
【0002】
【従来の技術】
鉄は、人間が活動を行う上で不可欠な必須ミネラルとして分類される。平成12年国民栄養調査によると、鉄の摂取量は、男性では1〜6歳、女性では1〜49歳の年齢層において平均栄養所要量を下回っており、男女とも特に若年層において鉄分不足の傾向がみられる。生体内において鉄が不足すると、赤血球数やヘモグロビン濃度が減少するなどの変化が生じて貧血症状を呈し、それに伴い自覚症状として、疲れ、疲労感、倦怠感、立ちくらみ、めまい、動悸・息切れ、手足の冷え、集中力低下などの不定愁訴が生じることが知られている。その際に、鉄を十分に補給することにより、赤血球数やヘモグロビン濃度などの血液所見に改善が見られることが非特許文献1に報告されている。従って、1日あたりの鉄の栄養所要量を充足させることは大変重要であり、このような背景から、鉄含量を強化した鉄分強化飲食品の開発が進められている。
鉄分強化飲食品の開発にあたっては、特に、2価鉄化合物を配合する試みが盛んに行われている。これは、2価鉄イオンの方が3価鉄イオンに比べて吸収性がよいことによるものである。しかし、2価鉄イオンは非常に強い鉄臭味を有するので、2価鉄化合物を配合した鉄分強化飲食品の場合、飲食品としての風味が著しく損なわれるといった問題がある。
このような事情から、鉄分強化飲食品の開発において、2価鉄イオンに由来する鉄臭味を改善する方法が種々提案されている。例えば、特許文献1には、2価鉄イオンに非イオン界面活性剤を配合することで、2価鉄イオンに由来する鉄臭味を抑制した内服液剤が開示されている。特許文献2には、2価鉄イオン−糖−カルボキシレート複合体を形成させる方法が開示されている。特許文献3には、2価鉄イオンに難消化性デキストリン、さらに、トレハロースまたは還元性物質を配合して鉄臭味を抑制した内服液剤が開示されている。特許文献4には、2価鉄イオンおよびムコ多糖類および/または難消化性デキストリンを含有してなる鉄イオン配合内服液剤が開示されている。また、鉄化合物として体内への吸収率が優れるヘム鉄を使用した鉄分強化飲食品として、例えば、特許文献5には、ヘム鉄にパプリカ色素を配合した鉄分強化食品が開示されている。特許文献6には、ヘム鉄とアナトー色素および/または紅麹色素を含有した鉄分強化食品が開示されている。さらに、3価鉄イオンを含有した鉄分強化飲食品として、例えば、特許文献7には、3価鉄イオンに非還元性糖質および/または高甘味度甘味料を配合した鉄分強化飲食品が開示されている。特許文献8には、3価鉄イオンおよびスクラロースを含有することを特徴とする内服液剤組成物が開示されている。その他の2価鉄イオンに由来する鉄臭味を改善する方法として、例えば、特許文献9には、鉄含有水溶性食物繊維を含有した鉄呈味低減健康飲食品が、特許文献10には、鉄および炭酸/重炭酸にラクトフェリン複合体を配合する方法が、特許文献11には、鉄および炭酸/重炭酸にカゼイン類複合体を配合する方法が、特許文献12には、鉄および炭酸/重炭酸にホエータンパク質加水分解物複合体を配合する方法が、特許文献13には、鉄成分、地黄およびキシリトールを含有した内服液剤が、特許文献14には、鉄分を1〜30mg%配合した果実加工食品が、特許文献15には、甘蔗由来の蒸留物を有効成分とする飲食品の風味改善剤が、特許文献16には、難消化性オリゴ糖および鉄化合物を含有する貧血改善剤が、特許文献17には、酵母抽出物を有効成分とする缶詰めにおける缶臭および金属味マスキング剤が、特許文献18には、鉄剤として鉄およびラクトフェリン類を含む鉄剤と、酸味料として酢酸、グルコン酸および乳酸から選ばれる一種以上を用いた鉄分強化飲料が、特許文献19には、鉄化合物および当帰を含有することを特徴とする経口用液剤が開示されている。
他方、鉄は、飲食品として摂取する以外にも応用されている。例えば、鉄化合物は毛髪へ艶を生じさせる効果があることから、染毛剤などのヘアケア製品に配合されている。しかし、このような鉄化合物を含有した染毛剤を使用する場合、鉄化合物などが毛髪や肌に付着し、不快な鉄臭を発生してしまうという問題がある。従って、このような問題を解決する方法として、例えば、特許文献20には、鉄臭を抑制した染毛剤として、柑橘系天然精油であるメチルイオノン、リモネンまたはこれらの混合物からなる鉄錆臭マスキング香料を配合した染毛剤が開示されている。特許文献21には、鉄塩にトコフェロール類を添加する方法が開示されている。特許文献22には、第一鉄塩に水溶性亜鉛化合物とグリシンとを添加する方法が開示されている。
しかし、これまでに提案されたいずれの方法よりも、鉄臭味を有する飲食品をはじめとする各種の物品に幅広く応用できる汎用性が高い鉄臭味抑制剤が待ち望まれている。
【0003】
【非特許文献1】
八幡義人、臨床検査、Vol.34, No.11, p.1311−1321, 1990
【特許文献1】
特開2002−80347号公報
【特許文献2】
特開平2−72843号公報
【特許文献3】
特開2001−316246号公報
【特許文献4】
特開2002−161040号公報
【特許文献5】
特開平8−140627号公報
【特許文献6】
特開平11−187846号公報
【特許文献7】
特開平11−178543号公報
【特許文献8】
特開2000−239173号公報
【特許文献9】
特開平5−123136号公報
【特許文献10】
特開平7−304798号公報
【特許文献11】
特開平9−77793号公報
【特許文献12】
特開2000−50812号公報
【特許文献13】
特開2000−169385号公報
【特許文献14】
特開2000−245361号公報
【特許文献15】
特開2000−299264号公報
【特許文献16】
特開平7−145064号公報
【特許文献17】
特開2001−269149号公報
【特許文献18】
特開2000−279143号公報
【特許文献19】
特開2000−226327号公報
【特許文献20】
特開平5−51594号公報
【特許文献21】
特開平5−214680号公報
【特許文献22】
特開平7−291843号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明は、従来の技術で知られていない新たな物質を有効成分とした、鉄臭味を有する飲食品をはじめとする各種の物品に幅広く応用できる汎用性が高い鉄臭味抑制剤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、フラクトース分子がβ−2,1結合で環状に結合して構成される環状イヌロオリゴ糖であるシクロフラクタンが、鉄臭味を有する飲食品をはじめとする各種の物品に対し、鉄臭味抑制剤として有効に機能し、その鉄臭味を抑え、物品に良好な香りや風味を与える作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
シクロフラクタンの機能性についての知見は現在のところまだわずかである。それらのうち代表的なものを挙げれば、例えば、特開平5−76756号公報には、金属イオンの分析や分離に用いる金属イオン捕捉剤としてシクロフラクタンが有用であることが記載されている。また、特開平7−46956号公報には、シクロフラクタンを添加したパン生地は長期間の冷凍保存が可能であり、シクロフラクタンを添加したパン生地から製造されるパン類はパン体積やクラムの柔らかさに優れることが記載されている。また、特開平7−53347号公報には、シクロフラクタンを有効成分として含有する皮膚化粧料が角質層水分低下に基づく乾燥性皮膚を回復させる効果を有することが記載されている。また、特開平8−133986号公報には、リポソーム凍結乾燥製剤における凍結安定化剤としてシクロフラクタンが有用であることが記載されている。しかし、シクロフラクタンが鉄臭味を有する物品に対して鉄臭味抑制剤として機能することは、これまでに報告された例はなく、また、従来の技術からは想起することができない全く新しい知見である。
【0006】
即ち、本発明の鉄臭味抑制剤は、請求項1記載の通り、シクロフラクタンを有効成分とするものである。
また、請求項2記載の鉄臭味抑制剤は、請求項1記載の鉄臭味抑制剤において、シクロフラクタンが環状イヌロヘプタオースである。
また、本発明の物品の鉄臭味抑制方法は、請求項3記載の通り、有効量のシクロフラクタンを配合することによるものである。
また、請求項4記載の鉄臭味抑制方法は、請求項3記載の鉄臭味抑制方法において、物品が鉄化合物含有飲食品である。
また、請求項5記載の鉄臭味抑制方法は、請求項3記載の鉄臭味抑制方法において、物品が鉄化合物含有ヘアケア製品である。
また、本発明の物品は、請求項6記載の通り、有効量のシクロフラクタンを配合することにより鉄臭味が抑制されたものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明において鉄臭味抑制剤の有効成分として機能するシクロフラクタン(以下「CF」と略称する)とは、フラクトース分子がβ−2,1結合で環状に結合して構成される環状イヌロオリゴ糖を意味し、6個のフルクトース分子からなる環状イヌロヘキサオース(以下「CF6」と略称する)、7個のフルクトース分子からなる環状イヌロヘプタオース(以下「CF7」と略称する)、8個のフルクトース分子からなる環状イヌロオクタオース(以下「CF8」と略称する)などが知られている。これらは全て白色粉末であり、水に対する溶解性が極めて高く、含水有機溶媒などにも若干は溶解する。CFは、例えば、キクイモ、チコリ、ゴボウ、ダリアなどのキク科、ユリ科、アヤメ科、ラン科などの植物の根、根茎から得られる炭水化物の主成分であるイヌリンに、環状イヌロオリゴ糖生成酵素であるシクロイヌロオリゴサッカライド フラクタノトランスフェラーゼ(以下「CFTase」と略称する)を作用させることにより取得することができる。
【0008】
以下にCFの取得方法および精製方法について詳しく記載する。CFの取得に必要なCFTaseは、バチルス マセランス(Bacillus macerans)に属するCFC1(KIM HWA−Young and YONG−JIN CHOI, J. Microbiol. Biotechnol, vl.8, no.3, p.251−257, 1998)、バチルス サーキュランス(Bacillus circulans)に属するOKUMZ 31B(Mishio Kawamura and Takao Uchiyama, Carbohydr Res, vl.260, p.297−304, 1994)、バチルス サーキュランスに属するMCI−2554(Sachiko Kushibe and Kaori Mitsui, Biosci. Biotech. Biochem., vl.59, no.1, p31−34, 1995、特開平7−41500号公報)、パエニバチルス ポリミキサ(Paenibacillus polymyxa)に属するMG−CF6(FERM P−19158)などのCFTase生産微生物を用いて生産させることができる。CFは、このようなCFTase生産微生物をイヌリンを含む培地で培養した後、遠心分離などを用いて除菌し、その培養上清液から取得することができる。また、CFは、CFTase生産微生物の培養上清液から単離した粗CFTaseや高精製CFTaseを別途イヌリンに作用させることで取得することもできる。このような方法にて取得されるCFは、CF6やCF7やCF8などからなるCF混合物であるが、これらは活性炭カラムクロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、ゲル濾過(川村三志夫、内山喬夫、澱粉科学、第39巻、p.109−116, 1992、KIM HWA−Young et al., J. Microbiol. Biotechnol, vol.6, no.6, p.397−401, 1996)などにより、分離・精製することができる。
【0009】
本発明の鉄臭味抑制剤は、上記のような方法にて取得したCF混合物をそのまま有効成分として用いてもよいし、分離・精製した単一CF化合物を用いてもよいし、2種類以上の単一CF化合物を所望する混合比で混合して用いてもよく、いずれの用い方であっても、鉄臭味抑制効果を十分発揮することができる。CFの中でも、CF7の鉄臭味抑制効果がとりわけ優れているので、鉄臭味抑制剤の主成分としてはCF7を用いることが好ましい。
【0010】
本発明の鉄臭味抑制剤は、鉄臭味を有する物品や使用時に鉄臭が発生する物品などの各種の物品に有効量を配合することとで、優れた鉄臭味抑制効果を発揮する。本発明において、鉄臭味を有する物品とは、鉄化合物、特に、2価鉄化合物を含むことで鉄臭味を有する飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などを意味するが、物品はこれらに限定されるものではない。使用時に鉄臭が発生する物品とは、使用時に血液の付着により鉄臭が発生する衛生用品などを意味する。また、鉄臭味とは、口に含んだ際に感じる鉄イオン、特に、2価鉄イオンに由来する不快な鉄錆味および/または鉄錆臭、さらに、毛髪や肌に付着した時に感じる鉄イオン、特に、2価鉄イオンに由来する不快な鉄錆臭などを意味する。
【0011】
鉄臭味を有する飲食品としては、例えば、鉄化合物を含んだ即席食品類(即席めん、カップめん、レトルト・調理食品、調理缶詰め、電子レンジ食品、即席みそ汁・吸い物、スープ缶詰め、フリーズドライ食品など)、炭酸飲料、天然果汁、果汁飲料、果汁入り清涼飲料、果肉飲料、果粒入り果実飲料、野菜系飲料、豆乳・豆乳飲料、コーヒー飲料、お茶飲料、粉末飲料、濃縮飲料、スポーツ飲料、栄養飲料、アルコール飲料、タバコなどの嗜好飲料・嗜好品類、パン、マカロニ・スパゲッティ、めん類、ケーキミックス、から揚げ粉・パン粉、ギョーザの皮などの小麦粉製品、キャラメル・キャンディー、チューイングガム、チョコレート、クッキー・ビスケット、ケーキ・パイ、スナック・クラッカー、和菓子・米菓子・豆菓子、デザート菓子などの菓子類、しょうゆ、みそ、ソース類、トマト加工調味料、みりん類、食酢類、甘味料などの基礎調味料、風味調味料、調理ミックス、カレーの素類、たれ類、ドレッシング類、めんつゆ類、スパイス類などの複合調味料・食品類、バター、マーガリン類、マヨネーズ類、植物油などの油脂類、牛乳・加工乳、乳飲料、ヨーグルト類、乳酸菌飲料、チーズ、アイスクリーム類、調製粉乳類、クリームなどの乳・乳製品、素材冷凍食品、半調理冷凍食品、調理済冷凍食品などの冷凍食品、水産缶詰め・ペースト類、魚肉ハム・ソーセージ、水産練り製品、水産珍味類、水産乾物類、つくだ煮類などの水産加工品、畜産缶詰め・ペースト類、畜肉缶詰め、果実缶詰め、ジャム・マーマレード類、漬物・煮豆類、農産乾物類、シリアル(穀物加工品)などの農産加工品、ベビーフード、ふりかけ・お茶漬けのりなどの市販食品、さらに、ペットフード、動物用飼料などが挙げられる。従来、飲食品中に3価鉄化合物と亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、エリソルビン酸、エリソルビン酸塩、システイン、グルタチオンなどの還元性物質を共存させた場合、3価鉄イオンが還元されて2価鉄イオンが生成して鉄臭味を有するようになるという問題があったが、本発明の鉄臭味抑制剤を配合すれば、2価鉄イオンに由来する鉄臭味を効果的に抑制することができることから、3価鉄化合物と還元性物質を共存させることにより生じる問題を解消することができる。飲食品には、必要に応じて、抗酸化剤、着色剤、香料、矯味剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、甘味料などの添加物を適宜配合することができる。なお、飲食品の形態は、液剤、ゼリー剤、粉剤、顆粒剤、カプセル剤、錠剤などどのようなものであってもよい。
【0012】
鉄臭味を有する医薬品としては、日本薬局方に収められている医薬品で鉄臭味を有するものであれば特に限定されるものではない。その製剤形態としては、例えば、エアゾール剤、液剤、エキス剤、エリキシル剤、カプセル剤、顆粒剤、丸剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、浸剤・煎剤、トローチ剤、芳香水剤、リモナーデ剤などが挙げられる。
【0013】
鉄臭味を有する医薬部外品としては、厚生労働大臣が指定した医薬部外品で鉄臭味を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、鉄臭味を有する内服液剤、健康飲料、消毒剤、消毒保護剤、ビタミン含有保健剤、薬用化粧品、薬用歯磨き、洗口剤、口中清涼剤などが挙げられる。
【0014】
鉄臭味を有する化粧品としては、厚生労働省が許可した化粧品で鉄臭味を有するものであれば特に限定されるものではない。例えば、鉄臭味を有するヘアケア製品の他、基礎化粧品、口中洗浄料、芳香化粧品などが挙げられる。
【0015】
ヘアケア製品には、髪を染色するための染毛剤、髪を脱色するための脱色剤の他、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ヘアワックス、ヘアスプレイ、スタイリングジェル、スタイリングムースなどのあらゆる形態のスタイリング剤、シャンプー、リンス、コンディショナー、トリートメントなどを幅広く包含する。従来、ヘアケア製品中に3価鉄化合物と亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、アスコルビン酸、アスコルビン酸塩、エリソルビン酸、エリソルビン酸塩、システイン、グルタチオンなどの還元性物質を共存させた場合、3価鉄イオンが還元されて2価鉄イオンが生成して鉄臭味を有するようになるという問題があったが、本発明の鉄臭味抑制剤を配合すれば、2価鉄イオンに由来する鉄臭味を効果的に抑制することができることから、3価鉄化合物と還元性物質を共存させることにより生じる問題を解消することができる。例えば、染毛剤には、必要に応じて、カチオン性高分子化合物、両性高分子化合物、ノニオン性高分子化合物、ケイ素誘導体、タンパク質分解物、多価アルコール、親水性油剤、防腐剤、清涼感付与剤、ビタミン、生薬、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、エタノールやプロパノールなどの溶剤、色素、香料などの添加物を適宜配合することができる。また、染毛方法に応じて従来慣用されている各種添加物を配合してもよい。なお、ヘアケア製品の形態は、液剤、クリーム剤、ジェル剤、粉剤などどのようなものであってもよい。
【0016】
使用時に血液の付着により鉄臭が発生する衛生用品としては、生理用ナプキンや生理用下着などの生理用品、痔用ナプキンや痔用下着などの痔用品の他、絆創膏や包帯などが挙げられる。
【0017】
本発明の鉄臭味抑制剤の作用対象となる鉄化合物としては、2価鉄化合物に限定されず、3価鉄化合物であってもよい。具体的には、例えば、クエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄などの2価鉄化合物や、塩化第二鉄、クエン酸第二鉄アンモニウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第二鉄などの3価鉄化合物のような食品添加物などとして知られるものが挙げられる。なお、鉄化合物には、ヘム鉄またはフェリチンなどのタンパク質結合型のものや血液中に含まれるものなども包含される。鉄化合物を物品に配合する場合、単独で配合してもよいし、2種類以上を組み合わせて配合してもよい。その配合量は特に限定されるものではないが、飲食品への配合量は、栄養素摂取量の面から考えると、1日の鉄の栄養所要量は男性で10.0mg、女性で11.5mgである。従って、鉄化合物中の鉄イオンに換算すれば1日あたり0.5〜60mgが好ましいので、例えば、液状の物品100mlに換算すると0.0005〜0.06W/V%である。
【0018】
鉄イオン(2価鉄イオンおよび/または3価鉄イオン)に対する本発明の鉄臭味抑制剤の配合量は、特に限定されるものではないが、その鉄臭味抑制効果を最大限に発揮させるためには、鉄イオン1重量部に対して5〜1000重量部が好ましく、25〜500重量部がより好ましい。鉄臭味抑制剤の配合量が鉄イオン1重量部に対して5重量部より少ない場合には目的とする鉄臭味抑制効果が期待できない恐れがある一方、1000重量部より多い場合には配合量の割には効果の向上が少なく、むしろ経済的に不利となる。
【0019】
【実施例】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0020】
実施例1:2価鉄化合物に対するCFによる鉄臭味抑制効果試験
2価鉄化合物水溶液にCFを添加した後の鉄臭味の評価を、以下の試験方法と評価基準に従って行った。
【0021】
(試験方法)
ランダムに選んだ男女12名をパネラーとして官能検査を行った。2価鉄イオンとして20ppmとなるようにクエン酸第一鉄ナトリウム、グルコン酸第一鉄、ピロリン酸第一鉄、硫酸第一鉄、フマル酸第一鉄、以上5種類の2価鉄化合物水溶液を調製した。これにCF混合物(組成比はCF6:61.7%、CF7:30.7%、その他:7.6%。以下同じ)を2価鉄イオン1重量部に対して25重量部となるように添加し試験液とした。そして、この試験液について、CF混合物を添加していない対照液と比べて鉄臭味が抑制されているかどうか評価した。なお、1つの試験液・対照液を評価した後は温湯で口中をすすぎ、30分以上経過してから次の評価を行った。
鉄臭味に対する抑制効果の評価は以下の6段階評価で行い、それぞれについてパネラー12名の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0022】
(評価基準)
鉄臭がまったくしない ・・・・・1点
鉄臭がほとんどしない ・・・・・2点
鉄臭がややする ・・・・・3点
鉄臭がする ・・・・・4点
鉄臭がやや強い ・・・・・5点
鉄臭がかなり強い ・・・・・6点
【0023】
【表1】
【0024】
表1から明らかなように、いずれの試験液にCF混合物を添加した場合でも、2価鉄イオンに由来する鉄臭味が明らかに抑制された。とりわけ、クエン酸第一鉄ナトリウムに対する鉄臭味抑制効果が優れていた。
【0025】
実施例2:還元性物質共存下における3価鉄化合物に対するCFによる鉄臭味抑制試験
3価鉄化合物水溶液にCFと還元性物質を添加し、その直後および一定期間保存後の鉄臭味の評価を、以下の試験方法と評価基準に従って行った。
【0026】
(試験方法)
ランダムに選んだ男女12人をパネラーとして官能検査を行った。3価鉄イオンとして20ppmとなるように塩化第二鉄、クエン酸第二鉄アンモニウム、クエン酸鉄、クエン酸鉄アンモニウム、乳酸鉄、ピロリン酸第二鉄、硫酸第二鉄、以上7種類の3価鉄化合物水溶液を調製した。これに還元性物質として50mg%濃度となるようにアスコルビン酸を添加後、CF混合物を3価鉄イオン1重量部に対して25重量部となるように添加し試験液とした。この試験液をpH3.8〜4.0に調整し、65℃・10分間の加熱条件にて殺菌処理した後、缶容器に充填し1週間保存した。そして、調製直後の試験液と1週間保存後の試験液について、CF混合物を添加していない対照液と比べて鉄臭味が抑制されているかどうか評価した。なお、1つの試験液・対照液を評価した後は温湯で口中をすすぎ、30分以上経過してから次の評価を行った。
鉄臭味に対する抑制効果の評価は実施例1記載の評価基準に基づいて行い、それぞれについてパネラー12名の平均値を算出した。結果を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2から明らかなように、いずれの試験液にCF混合物を添加した場合でも、生成した2価鉄イオンに由来する鉄臭味が明らかに抑制され、その効果は1週間後も維持されていた。このように、3価鉄化合物と還元性物質の共存下で生成する2価鉄イオンに由来する鉄臭味についても、CF混合物は優れた鉄臭味抑制効果を有することが明らかとなった。
【0029】
実施例3:2価鉄イオンに由来する鉄臭味に対するCF配合量の影響
2価鉄イオン濃度とCF配合量を変化させた場合のCFの鉄臭味抑制効果の評価を、以下の試験方法と評価基準に従って行った。
【0030】
(試験方法)
ランダムに選んだ男女12人をパネラーとして官能検査を行った。2価鉄イオンとして2ppm、20ppm、100ppmとなるように3種類の濃度のクエン酸第一鉄ナトリウム水溶液を調製した。これにCF混合物を2価鉄イオン1重量部に対して2重量部、5重量部、25重量部、50重量部、500重量部、1000重量部、1200重量部となるように添加し試験液とした。そして、この試験液について、CF混合物を添加していない対照液と比べて鉄臭味が抑制されているかどうか評価した。なお、1つの試験液・対照液を評価した後は温湯で口中をすすぎ、30分以上経過してから次の評価を行った。
鉄臭味に対する抑制効果の評価は実施例1記載の評価基準に基づいて行い、それぞれについてパネラー12名の平均値を算出した。結果を表3に示す。
【0031】
【表3】
【0032】
表3から明らかなように、この試験において、CF混合物の鉄臭味抑制効果があらわれるのは、2価鉄イオン1重量部に対してCF混合物を5重量部添加した場合であった。また、この試験において、官能的に十分な鉄臭味抑制効果が発揮できたのは、2価鉄イオン1重量部に対してCF混合物を25重量部以上添加した場合であったが、2価鉄イオン1重量部に対してCF混合物を500重量部添加した場合と1000重量部添加した場合とではその効果が若干高まる程度にとどまった。また、CF混合物を1000重量部以上添加しても鉄臭味抑制効果は向上しなかった。
【0033】
実施例4:CF6とCF7の鉄臭味抑制効果について
CF混合物から分離・精製したCF6とCF7の鉄臭味抑制効果の評価を、以下の試験方法と評価基準に従って行った。
【0034】
(試験方法)
ランダムに選んだ男女12人をパネラーとして官能検査を行った。2価鉄イオンとして20ppmとなるようにクエン酸第一鉄ナトリウム水溶液を調製した。これにCF6またはCF7を2価鉄イオン1重量部に対して25重量部となるように添加し試験液とした。そして、この試験液について、CFを添加していない対照液と比べて鉄臭味が抑制されているかどうか評価した。なお、1つの試験液・対照液を評価した後は温湯で口中をすすぎ、30分以上経過してから次の評価を行った。
鉄臭味に対する抑制効果の評価は実施例1記載の評価基準に基づいて行い、それぞれについてパネラー12名の平均値を算出した。
【0035】
(試験結果)
対照液の点数が5.5点であったのに対し、CF6添加試験液の点数は3.0点であり、CF7添加試験液の点数は1.2点であった。以上の結果から、CF6もCF7もいずれもが優れた鉄臭味抑制効果を発揮することがわかったが、CF6と比べてCF7の方がその効果が著しく高かった。
【0036】
上記成分をイオン交換水で溶解し、全量を100gとした。これを80℃で容器に充填し、鉄分を強化した清涼飲料水を得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。
【0037】
上記成分を混合し、鉄分を強化したドレッシングを得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。
【0038】
上記成分をイオン交換水で加温しながら完全に溶解し、全量を100gとした。これをカップ容器に注ぎ、ヒートシールで蓋をして冷却し、鉄分を強化したゼリーを得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。
【0039】
上記成分を常法に従い煮詰めて、鉄分を強化したジャムを得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。
【0040】
上記成分をイオン交換水で溶解し、全量を100gとした。これをpH4.5に調整し、ガラス瓶に充填しキャップを施して、鉄分を強化した内服液剤を得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。
【0041】
上記成分を混合した粉体を錠剤プレスによって圧縮し、鉄分を強化した錠剤を得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。
【0042】
実施例11:二液型染毛剤に対するCFの鉄臭味抑制効果試験
上記の第一剤成分をイオン交換水で溶解し、全量を50gとした。これをトリエタノールアミンでpH5.0に調整し、第一剤を得た(2価鉄イオン1重量部に対しCF混合物を25重量部添加)。また、上記の第二剤成分をイオン交換水で溶解し、全量を50gとした。これを硫酸でpH4.0に調整し、第二剤を得た。第一剤と第二剤を浸漬処理して二液型染毛剤を得た。なお、ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルにおけるカッコ内に記した数値20はエチレンオキシドの付加モル数を示している。
上記の第一剤の鉄錆臭のマスキング効果を、以下の試験方法に従って調べた。
【0043】
(試験方法)
ランダムに選んだ男女5名のパネラーの皮膚に、第一剤を0.1g塗布してから指でこすり、その際に発生する鉄臭味を評価した。また、CF混合物を添加しないこと以外は第一剤と同様にして得た対照剤についても、0.1g塗布してから指でこすり、その際に発生する鉄臭味を評価した。
【0044】
(試験結果)
対照剤については5人全員が鉄臭味を感じると訴えたが、第一剤については鉄臭味を感じると訴えたパネラーはいなかった。このことから、染毛剤にCFを添加するとその鉄臭味が抑制されることがわかった。
【0045】
参考例:CFの製造方法
イヌリン1%、イーストエキストラクト0.2%、硝酸ナトリウム0.5%、硫酸マグネシウム0.05%、塩化カリウム0.05%、リン酸1カリウム0.05%、塩化第二鉄0.001%を含んだ培地150mlをpH7.5に調整して、120度15分間蒸気滅菌した。この滅菌した培地にパエニバチルス ポリミキサMG−CF6(FERM P−19158)を1白金耳接種し、200rpm、35℃で72時間振とう培養した。培養終了後遠心分離により菌体を除去し、培養上清液を得た。得られた培養上清100mlを一夜20mMリン酸緩衝液(pH7.0)を用いて透析し、得られた透析液を粗酵素液とした。これに最終濃度が10%となるようにイヌリンを加え、40℃で60時間反応させた。得られた反応液を加熱し酵素を失活させた後、pHを4.5に調整しインベルターゼ(生化学工業社製)を添加した。この反応溶液を50℃で24時間インキュベーション後、酵素を加熱失活させ活性炭カラムクロマトグラフィーに供した。カラムを蒸留水で洗浄後、30%エタノール水溶液で溶出させた。溶出液を減圧濃縮後、凍結乾燥してCF混合物(組成比はCF6:61.7%、CF7:30.7%、その他:7.6%)を得た。このCF混合物を少量の70%エタノール水溶液に溶解し、同濃度のエタノール水溶液で平衡化したQAE−トーヨーパールカラムに供しCF6とCF7を分離し、凍結乾燥してこれらの純品の粉末を得た。
【0046】
【発明の効果】
本発明の鉄臭味抑制剤は、CFを有効成分としたこれまでにない全く新しい鉄臭味抑制剤であり、鉄臭味を有する飲食品をはじめとする各種の物品に幅広く応用できる汎用性が高いものである。本発明の鉄臭味抑制剤は、鉄臭味を抑え、物品に良好な香りや風味を与えるものであり、本発明によれば、風味の良好な鉄分強化飲食品や不快臭のない染毛剤などを提供することができる。また、本発明の鉄臭味抑制剤は、使用時に血液の付着により鉄臭が発生する衛生用品などに対しても適用することができる。
Claims (6)
- シクロフラクタンを有効成分とする鉄臭味抑制剤。
- シクロフラクタンが環状イヌロヘプタオースである請求項1記載の鉄臭味抑制剤。
- 有効量のシクロフラクタンを配合することによる物品の鉄臭味抑制方法。
- 物品が鉄化合物含有飲食品である請求項3記載の鉄臭味抑制方法。
- 物品が鉄化合物含有ヘアケア製品である請求項3記載の鉄臭味抑制方法。
- 有効量のシクロフラクタンを配合することにより鉄臭味が抑制された物品。
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