JP2004293714A - 動力伝達シャフト及びその製造方法並びに治具 - Google Patents
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Abstract
【課題】FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する不具合を解消し、かつ回転トルクの伝達を良くする。
【解決手段】FRP製の筒部材12の両端に端部部材13,14が結合されているプロペラシャフト11である。端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面にセレーション16が形成され、筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように外周面において端部部材13,14に巻き付けられ、かつ最内層にヘリカル巻層が設けられている。ヘリカル巻層を構成する繊維束はセレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに全長にわたって連続している。端部部材13,14が被巻付け部材15に嵌合された状態で樹脂含浸繊維束が巻き付けられ、その状態で樹脂が硬化される。
【選択図】 図1
【解決手段】FRP製の筒部材12の両端に端部部材13,14が結合されているプロペラシャフト11である。端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面にセレーション16が形成され、筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように外周面において端部部材13,14に巻き付けられ、かつ最内層にヘリカル巻層が設けられている。ヘリカル巻層を構成する繊維束はセレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに全長にわたって連続している。端部部材13,14が被巻付け部材15に嵌合された状態で樹脂含浸繊維束が巻き付けられ、その状態で樹脂が硬化される。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維強化プラスチック(以下、FRPと記載する)製の筒部材の少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフト及びその製造方法並びに治具に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両のエンジンで発生する回転動力を車両の駆動輪に伝達するプロペラシャフトは、一般に金属製シャフト部材の両端に、駆動軸や従動軸と連結する金属製の自在継手(ユニバーサルジョイント)のヨークを溶接したもの(以下、金属製プロペラシャフトという)が使用されている。
【0003】
近年、車両の軽量化を図るために各構造部材のさらなる軽量化が要求され、プロペラシャフトにおいてもFRP製のものに切り替えることによる軽量化が検討され、一部実施されている。図11(a)に示すように、FRP製プロペラシャフト51として、FRP製パイプ52の両端(片側のみ図示)に、FRP製パイプ52を駆動軸や従動軸等(図示せず)と連結する金属製の継手(ヨーク)53を圧入接合した構造のものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
継手53にはFRP製パイプ52との接合部となる外周面に、図11(b)に示すように、FRP製パイプ52の端部内径より大きな外径のセレーション54が形成されている。そして、FRP製パイプ52に継手53の接合部を圧入することで、継手53のセレーション54の歯によって、FRP製パイプ52の内周面に溝が刻設され、歯が溝に食い込むことで継手53とFRP製パイプ52とが一体回転するための接合強度が確保される。図11(c)に示すように、継手53はFRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在する状態でFRP製パイプ52に結合されている。
【0005】
また、図12(a)に示すように、外側端に中心軸55を突設した端部金具56を両端にそれぞれ嵌着した薄肉円筒57を使用してフィラメントワインディング法により製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法では、図12(b)に示すように、樹脂が含浸された炭素繊維58を端部金具56から薄肉円筒57にかけて連続して巻き付けて樹脂含浸炭素繊維層を形成し、そのまま硬化成形した後、必要により中心軸55を除去してプロペラシャフトを製造する。
【0006】
また、FRP製の内側軸部材の両端に、端面部の中心から軸部が突出する金属製継手部材を嵌合させ、前記内側軸部材及び前記金属製継手部材の筒状部にフィラメントワインディング法により樹脂被覆した繊維束を巻き付けて製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−139170号公報(明細書の段落[0014]、[0018]、[0020]、図1、図2)
【特許文献2】
特開昭55−118831号公報(2頁、図3、図4)
【特許文献3】
特開昭59−50216号公報(2,3頁、図2)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に開示されたFRP製プロペラシャフト51のように、FRP製パイプ52に継手53を圧入する構成では、圧入時にFRP製パイプ52に掛かる多大な応力の対策が必要である。また、FRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在するため、FRP製パイプ52の端面から水分が侵入するのを防止するためシール等の対策が必要であった。また、FRP製パイプ52をフィラメントワインディング法で製造する際に、マンドレルの脱型の工程が必要であった。
【0009】
一方、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、継手53に相当する端部金具56をFRP製パイプに圧入する工程が不要なため、セレーションの加工やマンドレルの脱型が不要となり、シール工程も不要となる。しかし、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、端部金具56に中心軸55が必須のため、孔を有する一対の支持部を備えたヨークタイプの継手53(特許文献1に開示されたもの)を設けることができない。その結果、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸でなく特別な構造のものが必要となるという問題がある。また、端部金具56に巻き付けられる炭素繊維58の折り返し部の回転バランスが悪いという問題がある。また、プロペラシャフトでは一般に回転バランスの正確な調整を行うため、バランスピースを継手に溶接で取り付けていた。しかし、特許文献2に開示された構成のプロペラシャフトでは、継手の部分全体がFRPで被覆されているため、バランスピースを溶接で取り付ける場合には、バランスピースを取り付けるためには、FRPを構成している繊維を切断する必要があり、強度が低下するという問題がある。バランスピースをFRP表面に接着で取り付ける場合には、その取り付け強度が不十分であった。
【0010】
また、特許文献3に開示された製造方法においても、ヨークタイプの継手53(特許文献1に開示されたもの)を設けることができないという問題がある。さらに、特許文献3に開示された製造方法では、繊維束の巻き付けを前記内側軸部材及び前記金属製継手部材の筒状部にのみ巻き付けるため、ヘリカル巻を行う場合、巻き付け角度を小さくできず、圧縮や引っ張り強度を高めることが難しいという問題がある。
【0011】
本発明の第1の目的は、FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する不具合を解消でき、しかも、回転トルクの伝達が良好な動力伝達シャフトを提供することにある。第2の目的は、前記動力伝達シャフトを容易に製造できるとともに、ヨークタイプの継手を設けることが可能な製造方法を提供することにある。また、第3の目的は、前記動力伝達シャフトを製造する際に使用する治具を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、繊維強化プラスチック製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトである。前記端部部材の少なくとも一方は、前記筒部材との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記筒部材の強化繊維は複数の層を構成するように前記外周面において前記端部部材に巻き付けられ、かつ最内層を構成する繊維束は互いに交差せずに配列され、前記係止部により前記端部部材に対する周方向への相対移動が規制されている。
【0013】
この発明では、端部部材をFRP製の筒部材に圧入せずに形成可能なため、FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する従来の不具合を解消できる。また、FRP製の筒部材を構成する繊維束は、端部部材の外周面に形成された係止部により前記端部部材に対する周方向への相対移動が規制され、回転トルクの伝達が良い。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記最内層は繊維束が互いに平行に配列され、かつ全長にわたって連続しているヘリカル巻にて構成されている。この発明では、繊維束が全長にわたって連続しているため、即ち切断されていないため、回転トルクの伝達が良い。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記複数の層を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は前記係止部を有する端部部材側の端部が切断されている。この発明では、ヘリカル巻層を形成する繊維束が端部部材の端部で折り返すように配列されていないため、回転バランス良く形成するのが容易となる。また、端部部材が金属製であれば筒部材との結合部から突出した部分にバランスピースを溶接することができる。仮に、端部部材が金属製でない場合でも、強化繊維を切断することなくバランスピースを容易に取り付けることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記複数の層を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は同一層において互いに平行に配列されている。この発明では、ヘリカル巻層を形成する際、1層分の繊維束を同時に巻き付けることが可能なため、巻き付け時間の短縮が可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記係止部は前記最内層の繊維束の配列方向に沿って延びる複数の凸条で構成されている。この発明では、最内層を構成する全ての繊維束の配列方向と、係止部としての凸条の延びる方向とが平行なため、端部部材とFRP製の筒部材との相対移動の規制機能が高まり、回転トルクの伝達がより良好に行われる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記係止部はセレーションで構成されている。この発明では、前記係止部の加工が容易となる。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記端部部材の両方に前記係止部が設けられている。この発明では、動力伝達シャフトの両側において、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明と対応する効果が得られる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記端部部材は少なくとも一方がヨークタイプの継手部を備えている。この発明では、プロペラシャフトとして使用する際、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸を使用することができる。
【0020】
第2の目的を達成するため、請求項9に記載の発明は、FRP製シャフトの少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフトの製造方法である。筒状の被巻付け部材の少なくとも一端に、外周面に係止部が形成された繊維束被巻付け部を備えた端部部材を取り付け、該端部部材の前記繊維束被巻付け部を除いた箇所を覆うカバー部を備えた治具を前記端部部材に対して前記被巻付け部材との結合側と反対側から取り外し可能に連結する。前記被巻付け部材を前記端部部材が取り付けられた側は前記治具を介してフィラメントワインディング装置の回転支持部に一体回転可能に支持する。前記治具が取り付けられない側は前記回転支持部に支持される軸部を有する軸部付き端部部材又は前記回転支持部に支持される軸部を有する支持部材を介して前記回転支持部に一体回転可能に支持する。そして、その状態でフィラメントワインディングを行った後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化前又は硬化後に切断し、前記治具と端部部材との連結を解除し、前記支持部材を使用した場合は該支持部材も取り外す。
【0021】
この発明では、マンドレルを使用せずに、端部部材が取り付けられて製品の一部を構成する被巻付け部材及び端部部材の繊維束被巻付け部に樹脂含浸繊維束が巻き付けられて硬化されることにより、端部部材がFRP製の筒部材に結合される。端部部材は樹脂含浸繊維束が巻き付けられる必要が無い部分をカバー部で覆われた状態で治具を介してフィラメントワインディング装置の回転支持部に支持され、フィラメントワインディングが行われる。フィラメントワインディングの際、樹脂含浸繊維束は治具にも巻き付けられて治具と対応する箇所で折り返すことができ、端部部材に巻き付けながら樹脂含浸繊維束を端部部材で折り返す必要がなく、得られた動力伝達シャフトの回転バランスが良くなる。また、端部部材としてヨークタイプの継手部を備えたものを使用することにより、ヨークタイプの継手部を備えた動力伝達シャフトを容易に製造することができる。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、フィラメントワインディングは少なくとも最内層にヘリカル巻層が形成されるように行われ、前記係止部は前記最内層の繊維束の配列方向を所定方向に規制可能に規則的に設けられた複数の凸部によって構成されている。この発明では、端部部材に設けられた係止部により、樹脂含浸繊維束の端部部材への巻付け角度が適正な値に規制される。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記係止部は一定間隔で端部部材の軸方向に対して最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条で構成されている。そして、フィラメントワインディングは、ヘリカル巻層を形成する際には、ヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる。この発明では、同じヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束が同時に巻き付けられるため、樹脂含浸繊維束を巻き付けるのに必要な時間を短縮できて、生産性が向上する。
【0024】
請求項12に記載の発明は、請求項9〜請求項11のいずれか一項に記載の発明において、前記カバー部にはフィラメントワインディング時に樹脂含浸繊維束の配列を規制するピンが突設されている。フィラメントワインディング後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に前記ピンの突設位置より前記繊維束被巻付け部寄りの治具の表面と対向する位置で切断して繊維束供給部に繋がる繊維束から切り離す。その切断箇所より前記ピン側に巻き付けられた未硬化の樹脂含浸繊維束を除去した後、樹脂の加熱硬化を行う。その後、前記繊維束被巻付け部と治具の端部との間と対応する位置で繊維束を硬化樹脂とともに切断し、治具を端部部材から取り外す。
【0025】
この発明では、カバー部に突設されたピンの作用により、端部部材の繊維束被巻付け部に巻き付けられる樹脂含浸繊維束の巻付け角度が適正な値に規制される。また、樹脂含浸繊維束の巻付け完了後、治具に巻き付けられた樹脂含浸繊維束のうちピンと対応する箇所に巻き付けられた樹脂含浸繊維束は樹脂硬化前に除去されるため、硬化後に除去するのに比較して容易に除去できる。
【0026】
請求項13に記載の発明は、請求項9〜請求項12のいずれか一項に記載の発明において、前記端部部材は前記被巻付け部材の両端に取り付けられる。この発明では、被巻付け部材の両側において、請求項9〜請求項12のいずれか一項に記載の発明と対応する効果が得られる。
【0027】
第3の目的を達成するため、請求項14に記載の発明は、少なくとも一方の端部に端部部材が取着された被巻付け部材にフィラメントワインディング法により前記端部部材の一部及び前記被巻付け部材に樹脂含浸繊維束を巻き付ける際に、前記被巻付け部材をフィラメントワインディング装置の回転支持部に取り付けるための治具である。治具は、前記端部部材の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、フィラメントワインディング時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部を備えている。また、治具は、前記カバー部と一体的に形成され、フィラメントワインディング装置の回転支持部に支持可能な軸部と、前記端部部材を前記軸部と前記被巻付け部材の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、前記軸部と一体回転可能な支持部とを備えている。
【0028】
この発明の治具を使用する場合は、治具はカバー部が端部部材の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆う状態で端部部材に取り付けられる。治具は軸部においてフィラメントワインディング装置の回転支持部に支持される。そして、治具を構成する支持部が、端部部材を被巻き付け部材の回転中心と、軸部とが同軸となる状態で支持する。従って、少なくとも一方の端部に端部部材が取着された被巻付け部材は、フィラメントワインディング時に、治具を介してバランスの取れた状態で回転され、端部部材の必要な箇所に樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる。
【0029】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、前記カバー部の周面にはピンが一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている。この発明では、フィラメントワインディングによる樹脂含浸繊維束の巻付け時に、カバー部に設けられたピンにより樹脂含浸繊維束の巻き付け位置が規制されて、樹脂含浸繊維束を端部部材の軸方向に対して所定の角度で巻き付けるのが容易になる。また、樹脂含浸繊維束をピンに巻き掛けて折り返すように配列することが可能になる。
【0030】
請求項16に記載の発明は、請求項14又は請求項15に記載の発明において、前記支持部は、一端側に前記端部部材に取り外し可能に固定される固定部が設けられている。そして、前記固定部が前記端部部材に固定された状態で他端側が前記軸部に形成された孔から前記カバー部の外部に突出可能な長さのシャフトで構成され、該シャフトには前記軸部から突出する位置に雄ねじ部が形成されている。この発明では、支持部は、一端側に設けられた固定部が端部部材に固定され、他端側が治具の軸部に形成された孔から突出するシャフトの雄ねじ部にナットを螺合することにより、端部部材を所定の位置に支持する。
【0031】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフトに具体化した第1の実施の形態を図1〜図5に従って説明する。図1(a)はプロペラシャフトの一部破断模式側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図である。
【0032】
図1(a)に示すように、プロペラシャフト11は、FRP製の筒部材12と、その第1端部に接合された第1の端部部材13と、第2端部に接合された第2の端部部材14と、筒部材12の内側で第1及び第2の端部部材13,14間に配置された筒状の被巻付け部材15とを備えている。被巻付け部材15には紙製の円筒が使用されている。第1の端部部材13には自在継手を構成する継手としての金属製のヨークが使用され、第2の端部部材14には金属製の滑り継手が使用されている。筒部材12は、第1及び第2の端部部材13,14との結合部分12aが肉厚に形成されている。
【0033】
第1の端部部材13及び第2の端部部材14は、筒部材12との結合部分となる円筒状の繊維束被巻付け部13a,14aを備え、その外周面には係止部としてのセレーション16が形成されている。筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように巻き付けられた繊維束からなり、最内層にヘリカル巻層が設けられている。繊維束は同一層においては互いに平行に配列されており、セレーション16はその歯が繊維束の配列方向に沿って延びるように形成されている。ヘリカル巻層を構成する繊維束は、セレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに筒部材12の全長にわたって連続している。即ち、セレーション16が形成された端部部材をFRP製のパイプに後から圧入する構成と異なり、セレーション16と係合する繊維束が切断されていない。
【0034】
セレーション16の歯は、最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束が第1及び第2の端部部材13,14の軸方向と成す角度(配列角度)に等しい角度で、第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に対して延びるように形成されている。また、セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに形成されている。
【0035】
第1の端部部材13は、繊維束被巻付け部13aの一端側に継手部13bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部13aより小径の嵌合筒部13cが突設されている。継手部13bには、例えば十字軸式ジョイントを取り付けるための孔13dが形成されている。第2の端部部材14は、繊維束被巻付け部14aの一端側にシャフト状の継手部14bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部14aより小径の嵌合筒部14cが突設されている。シャフト状の継手部14bには、筒部材12をフィラメントワインディング法で形成する際に使用する治具の固定に使用するねじ穴14dが先端に形成されている。第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aと、継手部13b,14bとの間には、環状溝17が形成されている。環状溝17はバランスピース(図示せず)を溶接する必要がある場合に、該バランスピースが外側に突出しない幅及び深さに形成されている。なお、以後、フィラメントワインディングをFWと略す。
【0036】
被巻付け部材15はその端部が嵌合筒部13c,14cの外周に嵌合された状態で第1及び第2の端部部材13,14に連結されている。被巻付け部材15は紙製(例えば、ボール紙製)で円筒状に形成されている。被巻付け部材15は筒部材12をFW法で形成する際に、樹脂含浸繊維束が巻き付けられても所定の円筒形状を保つ強度があればよく、プロペラシャフト11が使用される際のトルク伝達に寄与する強度を有する必要はない。
【0037】
筒部材12は、第1及び第2の端部部材13,14との結合部分12aが肉厚に形成されている。筒部材12はFW法によって形成され、強化繊維としては炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が使用されている。
【0038】
筒部材12は主にヘリカル巻層で構成されているが、結合部分12a及びその近くにはフープ巻層が形成されている。また、筒部材12の最外層には炭素繊維束ではなく、ポリエステル糸が全長にわたってフープ巻で巻き付けられている。図1(b)に示すように、第1の端部部材13と筒部材12との結合部分の構成は、繊維束被巻付け部13aと接触する最内層側から順に、ヘリカル巻層18a、フープ巻層18b、ヘリカル巻層18c、ポリエステル糸層18dが設けられた構成となる。
【0039】
次に前記のように構成されたプロペラシャフト11の製造方法を説明する。図2は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20の関係を示す模式分解斜視図であり、図3は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20が組み付けられた状態の一部破断模式断面図である。
【0040】
プロペラシャフト11を製造する際は、マンドレルを使用せずに、治具20を使用して第1及び第2の端部部材13,14が両端に結合された被巻付け部材15をFW装置に支持してFWが行われる。
【0041】
図2に示すように、治具20は、各端部部材13,14の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、FW時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部21を備えている。カバー部21は一端側が小径に形成され、FW装置の回転支持部に支持可能な軸部22がカバー部21の小径側の端部に連続して一体的に形成されている。カバー部21の周面にはピン23が一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている。
【0042】
また、第1の端部部材13に組み付けられる治具20は、第1の端部部材13を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部24を備えている。支持部24は、一端側に端部部材13に取り外し可能に固定される固定部としてのT字状部24aが設けられたシャフトで構成され、他端側に雄ねじ部24bが形成されている。そして、T字状部24aが孔13dに挿通された状態で、軸部22から突出した雄ねじ部24bに螺合されるナット26が締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部13bの段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0043】
第2の端部部材14の支持部に組み付けられる治具20は、第2の端部部材14を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部としてのボルト25を備えている。ボルト25は先端部に雄ねじ25aが設けられ、雄ねじ25aが端部部材14に取り外し可能に固定される固定部を構成する。ボルト25は雄ねじ25aがねじ穴14dに螺合される状態で締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部14bの基端の段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0044】
図4はFW装置の模式側面図、図5は図4のB−B線における模式部分断面図である。図4に示すように、フィラメントワインディング装置(以下、FW装置と称す)30はマンドレルや芯材あるいはタンクを製造する場合のライナ等の被繊維束巻付け部材31を回転可能に支持する一組の回転支持部材としてのチャック32を備えている。FW装置30は、本願出願人が先に提案した装置(特開2002−283467号公報に開示された装置)と同様な巻付けヘッド(ヘリカル巻用ヘッド及びフープ巻用ヘッド)33を備えており、図4ではヘリカル巻用ヘッドのみが図示されている。巻付けヘッド33はベースプレート34上に設けられたレール35(図5に図示)上をチャック32に支持された被繊維束巻付け部材31に沿って、図示しない駆動手段により移動可能となっている。チャック32は可変速モータ(図示せず)により回転駆動され、制御装置Cの指令によってチャック32が巻付けヘッド33の移動速度と同期した状態で回転駆動される。そして、図示しない繊維束供給部から樹脂含浸装置を経て供給される繊維束Rを、被繊維束巻付け部材31に対する巻付け角度を任意の角度に設定して被繊維束巻付け部材31に巻き付けることができるようになっている。
【0045】
図5に示すように、巻付けヘッド33は、被繊維束巻付け部材31に貫通される孔を有する支持板36を備えている。ヘリカル巻用ヘッドの支持板36には、複数本の繊維束を同時に被繊維束巻付け部材31に対してヘリカル巻で巻付け可能とするため、図5に示すように複数のガイド37が被繊維束巻付け部材31の周方向に沿って配列された状態で設けられている。この実施の形態では28本の繊維束を案内可能にそれぞれ28個の大小2種のガイド37が2個の同心円上に配列されている。フープ巻部を備えたフープ巻用ヘッドは、繊維束Rを被繊維束巻付け部材31に対して2本同時にフープ巻で巻付け可能とするためのガイドを備えている。ヘリカル巻用ヘッドとフープ巻用ヘッドとは一体的な移動と、独立した状態での移動とが可能に構成されている。そして、数本の繊維束Rを同時に被繊維束巻付け部材31に対してヘリカル巻で巻付け可能となり、ヘリカル巻用ヘッドが被繊維束巻付け部材31に沿って一回往動又は復動することで被繊維束巻付け部材31の全周面に亘って繊維束Rがヘリカル巻で巻き付けられる。
【0046】
両端に第1及び第2の端部部材13,14がそれぞれ連結された被巻付け部材15にFWを行う場合は、先ず第1及び第2の端部部材13,14にそれぞれ治具20を組み付ける。第1の端部部材13に治具20を組み付ける際は、支持部24のT字状部24aを孔13dに挿通した後、支持部24をカバー部21の大径部側から軸部22に挿通する。そして、軸部22から突出した雄ねじ部24bにナット26を螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とナット26との間に介装された座金部27を介して軸部22を第1の端部部材13側に押圧し、支持部24を介して治具20が第1の端部部材13に組み付けられる。
【0047】
第2の端部部材14に治具20を組み付ける際は、カバー部21を第2の端部部材14の継手部14b側を覆うように第2の端部部材14に当接させ、ボルト25を座金部27に挿通して軸部22側からカバー部21に挿通する。そして、雄ねじ25aを第2の端部部材14のねじ穴14dに螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とボルト25の頭部との間に介装された座金部27を介して軸部22を第2の端部部材14側に押圧し、ボルト25を介して治具20が第2の端部部材14に組み付けられる。そして、図3に示すように、被巻付け部材15、第1の端部部材13、第2の端部部材14及び治具20が組み付けられると、FW装置30の一組のチャック32間に支持される被繊維束巻付け部材31を構成する。
【0048】
そして、作業者により被繊維束巻付け部材31がFW装置30のチャック32に支持される。次に作業者は、繊維束供給部から繊維束Rを引き出し、開繊機構、樹脂含浸槽、張力調整部等を経て巻付けヘッド33に導き、巻付けヘッド33のガイド37に挿通した後、繊維束Rの端部をカバー部21の所定位置に固定する。繊維束Rの端部の固定作業は作業者が手作業で行い、例えば粘着テープを使用して行われる。
【0049】
また、作業者は、被繊維束巻付け部材31の回転速度、巻付けヘッド33の巻付け時の往復移動幅等の巻付け条件を制御装置Cに入力する。繊維束Rとして炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。
【0050】
次にFW装置30による繊維束Rの巻付け運転が開始される。FW装置30が駆動されると、被繊維束巻付け部材31が一定方向に回転され、巻付けヘッド33が被繊維束巻付け部材31の長手方向に沿って往復移動される。繊維束Rは少なくとも最内層となる一層目がヘリカル巻層を形成するように、被繊維束巻付け部材31の軸方向となす角度(巻付け角度)が所定の角度となるように巻き付けられる。巻付け角度は製品のFRPパイプに要求される、曲げ、ねじり、振動等の特性を満足する所定の値(例えば、10〜15°)に設定される。そして、この巻付け角度がセレーション16の歯の延びる方向と軸方向との成す角度と同じため、繊維束Rはセレーション16の溝内に配列されるように巻き付けられる。また、繊維束Rはカバー部21に設けられたピン23の間を通過するように巻き付けられ、ピン23によってカバー部21の周方向への移動が規制された状態で巻き付けられる。
【0051】
ヘリカル巻層が所定層(例えば4層)形成された後、第1及び第2の端部部材13,14と対応する部分及び被巻付け部材15の第1及び第2の端部部材13,14の近傍部に、繊維束Rの巻付け角度がほぼ90°に近い状態で巻き付けられる所謂フープ巻層が所定層(例えば1層)形成される。その後、再びヘリカル巻層が所定層(例えば2層)形成された段階で樹脂が含浸された繊維束Rの巻き付けが完了する。次にポリエステル糸がフープ巻で巻き付けられる。ポリエステル糸が巻き付けられる際に、内側に巻き付けられている繊維束Rに含浸されている樹脂の一部が染み出しポリエステル糸の表面が樹脂で被覆された状態となる。
【0052】
ポリエステル糸の巻付けが完了した後、被繊維束巻付け部材31上に形成された成形体38の両端部を、ピン23の突設位置より繊維束被巻付け部13a,14a寄りの治具20の表面と対向する位置でそれぞれ切断する。第1の端部部材13側の切断位置は、例えば、図6にAで示す位置となり、第2の端部部材14側の切断位置も同様な位置になる。そして、繊維束供給部に繋がる繊維束Rから成形体38が切り離された後、被繊維束巻付け部材31がFW装置30のチャック32から取り外され、成形体38の未硬化の段階で、前記切断位置より軸部22側に巻き付けられた樹脂含浸繊維束が除去される。
【0053】
その後、被繊維束巻付け部材31が成形体38と共に加熱炉に入れられ、所定温度で樹脂が硬化される。硬化温度は樹脂により異なるが、例えばエポキシ樹脂の場合は180℃程度である。加熱硬化後、成形体38が繊維束被巻付け部13a,14aと、カバー部21の先端との間に対応する位置、この実施の形態では環状溝17と対応する位置で切断される。図6に示すように、切断はカッター39により行われる。次に両治具20を取り外された後、回転バランスの検査が行われる。回転バランスが悪い場合は、バランスピースを第1及び第2の端部部材13,14の少なくとも一方に溶接して、バランス調整処理がなされて、筒部材12の端部に第1及び第2の端部部材13,14が結合されたプロペラシャフト11が完成する。
【0054】
治具20を取り外す場合、第1の端部部材13側では、ナット26を緩めて支持部24から取り外し、次にカバー部21を取り外し、最後にT字状部24aを孔13dから取り外す。第2の端部部材14側では、ボルト25の雄ねじ25aと第2の端部部材14のねじ穴14dとの螺合を解除した後、カバー部21を取り外すことで治具20の除去が完了する。
【0055】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) FRP製の筒部材12の両端に結合された第1及び第2の端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面に、最内層の繊維束の配列方向に沿って延びる複数の凸条で構成された係止部(セレーション16)が形成されている。そして、筒部材12の強化繊維は最内層にヘリカル巻層が設けられた複数層に構成され、強化繊維を構成する繊維束Rは最内層において前記係止部により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに全長にわたって連続するように配列されている。即ち、FRP製の筒部材に端部部材のセレーションを圧入して製造する場合と異なり、繊維が切断されていない。従って、第1及び第2の端部部材13,14間のねじり強度が、FRP製の筒部材に端部部材のセレーションを圧入して製造されたプロペラシャフトに比較して大きくなり、回転トルクの伝達が良好に行われる。
【0056】
(2) 前記係止部はセレーション16で構成されている。従って、複数の凸条をセレーション16と異なり規則性のない状態で設ける場合に比較して、前記係止部の加工が容易となる。
【0057】
(3) 被巻付け部材15が紙製のため、金属製や樹脂製とした場合に比較して軽量化できるとともにコストも安くなる。
(4) 筒部材12の一端にヨークタイプの継手部13bを備えているため、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸を使用することができる。
【0058】
(5) プロペラシャフト11を製造する際は、筒状の被巻付け部材15の両端に、第1及び第2の端部部材13,14を連結し、該端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aを除いた箇所を覆うカバー部21を備えた治具20を使用してFWを行う。そして、FWを行った後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化前又は硬化後に切断し、治具20と端部部材13,14との連結を解除することにより、筒部材12の両端に第1及び第2の端部部材13,14が結合されたプロペラシャフト11が製造される。
【0059】
従って、FWの際にマンドレルを使用しないため、マンドレルからの脱型工程が不要となる。その結果、マンドレルの径の管理やその補修(再メッキ等)が不要となるとともに、筒部材12の寸法精度(内径、端面直角度、面粗度)が高くなくてもよく、製造コストが低くなる。また、第1及び第2の端部部材13,14のセレーション16をFRP製の筒部材12に圧入しないため、その分低コストになるとともに、FRP製チューブへセレーションの圧入を行う構成に起因する従来の不具合を解消できる。即ち、端部部材の圧入によりクラックが発生する虞がなく、クラック発生を防止するためにFRP製の筒部材12の精度を高める必要がなく、セレーション加工の精度を高める必要もない。例えば、セレーション16の歯の加工にホブを使用せずに転造でよくなる。また、樹脂含浸繊維束がセレーションの溝内を埋めるように配列された後、樹脂が硬化されるため、筒部材12の内面とセレーション16の溝の底部との間に隙間が存在しないため、端面から水分が侵入するのを防止するシールが不要となる。さらに、セレーション16が熱硬化性樹脂に埋まった状態で熱硬化性樹脂が硬化されるため、従来のFRP製のパイプに後からセレーションを圧入する場合に比較して、セレーション16と熱硬化性樹脂との接着面積が大きくなり、ねじり強度がより大きくなる。
【0060】
(6) 第1及び第2の端部部材13,14は樹脂含浸繊維束が巻き付けられる必要が無い部分をカバー部21で覆われた状態で治具20を介してFW装置30のチャック32に支持され、FWが行われる。従って、FWの際、樹脂含浸繊維束は治具20にも巻き付けられて治具20と対応する箇所で折り返すことができ、第1及び第2の端部部材13,14に巻き付けながら樹脂含浸繊維束を第1及び第2の端部部材13,14で折り返す必要がない。その結果、得られるプロペラシャフト11の回転バランスが良くなる。また、特許文献2に記載の方法と異なり、第1の端部部材13の継手部13bのようにヨークタイプの継手部13bであっても支障なく設けることができる。さらに、第1及び第2の端部部材13,14が金属製で、筒部材12との結合部から突出した部分が存在するため、バランスピースを溶接することができる。
【0061】
(7) FWは少なくとも最内層にヘリカル巻層が形成されるように行われる。第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面には、一定間隔で第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に対して、最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条(セレーション16)が形成されている。そして、FWは、ヘリカル巻層を形成する際には、ヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる。従って、樹脂含浸繊維束を巻き付けるのに必要な時間を短縮できて、生産性が向上する。
【0062】
(8) カバー部21にはFW時に樹脂含浸繊維束の配列を規制するピン23が突設されている。従って、第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aに巻き付けられる樹脂含浸繊維束の巻付け角度が適正な値に規制され、プロペラシャフト11のねじり強度の向上に寄与する。
【0063】
(9) FW後、被繊維束巻付け部材31に巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前にピン23の突設位置より繊維束被巻付け部13a,14a寄りの治具20の表面と対向する位置で切断して繊維束供給部に繋がる繊維束Rから切り離す。その切断箇所よりピン23側に巻き付けられた未硬化の樹脂含浸繊維束を除去した後、樹脂の加熱硬化を行う。従って、治具20に巻き付けられた樹脂含浸繊維束のうちピン23と対応する箇所に巻き付けられた樹脂含浸繊維束は樹脂硬化前に除去されるため、硬化後に除去するのに比較して容易に除去でき、治具20を再使用するための手間が少なくなる。例えば、樹脂硬化後にピン23が突出している部分のFRPを除去するには、ピン23を取り外し可能に構成し、ピン23をカバー部21から取り外した後、前記FRPを除去する必要があり、作業が面倒になる。
【0064】
(10) セレーション16は歯の高さが、1層分の繊維束Rの厚さとほぼ同じに形成されているため、1層目のヘリカル巻層と配列方向が軸線に対して対称な2層目を構成する繊維束Rの配列に支障を与えない。
【0065】
(11) 第1及び第2の端部部材13,14に環状溝17が形成されており、治具20が第1及び第2の端部部材13,14に連結された状態では、環状溝17はカバー部21に覆われず、繊維束Rは環状溝17を跨いで巻き付けられる。従って、成形体38の加熱硬化後に環状溝17と対応する位置で成形体38を切断することにより、切断時にカッター39の刃が傷ついたり、あるいは第1及び第2の端部部材13,14が傷つけられることを回避できる。また、バランスピースを環状溝17内に溶接すれば、バランスピースが第1及び第2の端部部材13,14の周面から突出するのを回避できる。
【0066】
(12) 治具20は、カバー部21と一体的に形成され、FW装置30のチャック32に支持可能な軸部22を備えており、第2の端部部材14のように、軸状の継手部14bを有する端部部材であっても、端部部材の軸部はFW装置30のチャック32に支持されることはない。従って、製品の軸部(シャフト)をFW装置30のチャック32で支持してFWを行う特許文献2に開示された方法と異なり、製品の軸部(継手部14b)が傷つく虞がない。
【0067】
(13) 第1の端部部材13と治具20とを連結固定する支持部24は、T字状のシャフトで構成されている。そして、T字状部24aが第1の端部部材13の孔13dと係合した状態で、軸部22から突出した雄ねじ部24bに螺合するナット26を締め付けることで第1の端部部材13と治具20とが連結固定され、ナット26を緩めると、カバー部21と第1の端部部材13との係合が解除される。従って、治具20の第1の端部部材13への組み付け、取り外しが簡単である。
【0068】
(14) 第2の端部部材14と治具20とを連結固定する支持部はボルト25で構成され、その先端部に形成された雄ねじ25aを第2の端部部材14の継手部14bに形成されたねじ穴14dに螺合させて締め付けることで、第2の端部部材14と治具20とが連結固定される。そして、ボルト25を緩めると、カバー部21と第2の端部部材14との係合が解除される。従って、治具20の第2の端部部材14への組み付け、取り外しが簡単である。
【0069】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態を図7及び図8に従って説明する。この実施の形態では第1の端部部材13のヨーク径、即ち継手部13bを構成する一組の支持片40aが突設される大径部40の外径が、繊維束被巻付け部13aの外径より大きな場合の製造方法に関するものである。ヨーク径が繊維束被巻付け部13aの外径より大きいと、第1の端部部材13の継手部13bをカバー部21で覆った状態で治具20を第1の端部部材13に連結したときに、カバー部21と繊維束被巻付け部13aとの間に段差部が存在する状態となる。従って、樹脂が含浸された繊維束Rを被繊維束巻付け部材31にFWで巻き付けると、繊維束被巻付け部13aのカバー部21寄りにおいて、繊維束Rがセレーション16の溝内に配列するのが困難となる。
【0070】
この実施の形態はそのような不具合を解消することができる製造方法に関するものである。そして、第1の端部部材13が繊維束被巻付け部13a側と継手部13b側とに分割され、FWによる繊維束Rの巻付け、成形体38の硬化及び治具20の取り外しが完了した後、継手部13b側が繊維束被巻付け部13a側に結合される点が第1の実施の形態と大きく異なっている。第1の実施の形態と同様な部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。図7はプロペラシャフト11の第1の端部部材13側の部分模式分解側面図、図8は治具の連結状態を示す模式部分断面図である。
【0071】
図7に示すように、第1の端部部材13は繊維束被巻付け部13aが形成された支持筒41と、継手部13bとから構成され、筒部材12の形成が完了した後、支持筒41と継手部13bとが摩擦圧接で接合される。支持筒41には、筒部材12に結合された状態で筒部材12から突出する突出部41aが形成されている。また、支持筒41の中心には、ねじ孔41cが形成されている。継手部13bの大径部40には突出部41aの先端の環状部と同径の接合部40bが突設されている。
【0072】
図8に示すように、第1の端部部材13に連結される治具20は第1の実施の形態と異なり、第1の端部部材13を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部としてボルト25を備えている。従って、治具20は第2の端部部材14側の治具20と同様な構成となる。ボルト25は雄ねじ25aがねじ孔41cに螺合可能な太さに形成されている。
【0073】
この実施の形態では被巻付け部材15の一端に支持筒41が、他端に第2の端部部材14がそれぞれ嵌合され、支持筒41及び第2の端部部材14に治具20が組み付けられて被繊維束巻付け部材31が構成される。支持筒41に対する治具20の組み付けは、図8に示すように、カバー部21を支持筒41の突出部41aを覆うように支持筒41に当接させ、ボルト25を座金部27に挿通して軸部22側からカバー部21に挿通する。そして、雄ねじ25aを支持筒41のねじ孔41cに螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とボルト25の頭部との間に介在する座金部27を介して軸部22を支持筒41側に押圧し、ボルト25を介して治具20が支持筒41に組み付けられる。
【0074】
そして、前記のように構成された被繊維束巻付け部材31が第1の実施の形態と同様にFW装置30のチャック32に支持された状態でFWが行われ、被繊維束巻付け部材31上に成形体38が形成される。次に、成形体38の未硬化の段階で、カバー部21上に巻き付けられている樹脂含浸繊維束の大部分が除去された後、成形体38が硬化され、加熱硬化後、成形体38が所定の位置で切断される。
【0075】
次に、筒部材12に結合された支持筒41の突出部41aに継手部13bが摩擦圧接によりに溶着される。継手部13bを突出部41aに溶着する際には、筒部材12を固定し、継手部13b側を回転させた状態で、継手部13bの接合部40bの端面を突出部41aの端面に圧接させる。摩擦圧接装置(図示せず)には、図7に鎖線で示すように、突出部41aと係合して支持筒41を芯出しした状態で支持する金属製の芯出し支持部42が設けられている。そして、芯出し支持部42が突出部41aと係合することにより、支持筒41はその回転が阻止された状態で支持されて摩擦圧接が行われる。継手部13bの溶着が完了すると、プロペラシャフト11が完成する。
【0076】
この実施の形態の製造方法では、第1の実施の形態の(5)〜(12),(14)と同様の効果を有する他に次の効果を有する。
(15) ヨークタイプの継手部13bを備えた第1の端部部材13は、FWにより支持筒41が結合された筒部材12の完成後に、継手部13bが支持筒41に溶着される。従って、継手部13bの大径部40の外径が繊維束被巻付け部13aの外径より大きな場合でも、繊維束被巻付け部13aのセレーション16の溝内に最内層の繊維束Rが確実に充填された状態に配列することができる。
【0077】
(16) 継手部13bの大径部40の外径が繊維束被巻付け部13aの外径より小さな場合でも、継手部13b以外の部分を予め製造して保管しておき、必要なときに継手部13bを溶着することにより、継手部13bの形状が車種に対応して多種存在する場合に対応し易くなる。また、継手部13bを除いた他の部分からなる中間製品の状態で、部品メーカーから組立メーカーに納品し、組立メーカーが独自の継手部13bを溶着することも可能となる。
【0078】
(17) 第1の端部部材13を軸部22と一体回転可能に支持するためのT字状部24aを設ける必要がなく、第1及び第2の端部部材13,14に組み付ける治具20の構成を同じ構成にすることが可能となる。
【0079】
(18) 継手部13bと支持筒41との溶着が摩擦圧接により行われる。従って、溶着作業の際に火花が飛ぶ虞がなく、火花の飛散防止処置が不要になる。(19) 筒部材12は熱に比較的弱いため、筒部材12に結合された支持筒41に金属製の継手部13bを摩擦圧接により溶着する際、摩擦圧接による熱で筒部材12が加熱されるのを抑制する必要がある。この実施の形態では、金属製の芯出し支持部42が支持筒41に接触した状態で摩擦圧接が行われるため、摩擦圧接の際に発生する熱が芯出し支持部42を介して逃げる状態となり、筒部材12が加熱されるのを抑制することができる。
【0080】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 筒部材12の最内層を構成し、互いに交差せずに配列される繊維束は、ヘリカル巻に限らず、フープ巻であってもよい。この場合、第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、ねじ状の溝が形成される。また、フープ巻の範囲はFRP製の筒部材12の全長に亘ってもよいし、繊維束被巻付け部13a,14aを覆う部分のみでもよい。
【0081】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが該係止部により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動を規制可能な形状であればよく、セレーション16に限らない。例えば、繊維束Rの配列方向に沿って延びるように形成された複数の凸条を設けてもよい。凸条は繊維束被巻付け部13a,14aの軸方向全長に連続している必要はなく、また、隣接する凸条間の周方向における間隔も一定でなくてもよい。この場合も、同一層においては繊維束Rが互いに平行に配列される構成において、最内層のヘリカル巻層が所定の巻付け角度で巻き付けられるのに凸条が寄与する。
【0082】
〇 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に配列される繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条に限らず、軸方向に対する配列角度が互いに反対となるヘリカル巻層を構成するいずれの繊維束Rに対してもその配列を案内可能な多数の凸部を係止部として設けてもよい。例えば、図9(a)に示すように、繊維束被巻付け部13aの表面に多数のピン43を突設したり、図9(b)に示すように、溝が繊維束Rの配列角度と同じ方向に延びるローレット44を形成してもよい。繊維束被巻付け部14aについても同様なピン43やローレット44を設けてもよい。図9(a)ではピン43の長さを誇張して表しているが、ピン43は少なくともヘリカル巻層1層分の厚さに相当する長さ以上で、最外層に配列された繊維束Rの外側に突出しない長さが好ましい。ローレット44の溝の深さは、ヘリカル巻層1層分の厚さに相当する深さが加工の容易性の点から好ましい。
【0083】
これらの係止部(ピン43又はローレット44)が設けられた第1及び第2の端部部材13,14を使用した場合は、同一層において繊維束Rが互いに平行に配列される構成は必ずしも必要ではない。同時に巻き付ける繊維束の本数が1本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、ヘリカル巻層を構成する繊維束は同じ層内で互いに交差するように配列される。従って、係止部がヘリカル巻層を構成する繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条の場合は、繊維束Rを該凸条が存在する面内で交差するように配列することが阻止されるため一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、繊維束の配列が円滑に行われない。しかし、前記構成のピン43やローレット44が設けられた場合は、同時に巻き付ける繊維束の本数が1本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成しても、繊維束が係止部によって案内されて所定の巻付け角度で良好に配列される。
【0084】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、外周面をサンドブラスト等で粗面化した構成としてもよい。この場合も、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束の周方向への移動が規制される。
【0085】
〇 第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外径は一定に限らず、例えば、図10(a)〜(d)に示すように、テーパ部を有する形状に形成してもよい(第1の端部部材13のみ図示)。なお、図ではテーパを誇張して表している。繊維束被巻付け部13a,14aが継手部13b,14b側に向かって拡径となるテーパ部を有する第1及び第2の端部部材13,14を使用した場合は、第1及び第2の端部部材13,14が筒部材12から抜け難くなる。
【0086】
○ 第1及び第2の端部部材13,14に環状溝17を設けなくてもよい。しかし、成形体38を切断する際にカッター39が第1及び第2の端部部材13,14に当たるのを防止するため段差部を設けるとともに、段差部にカバー部21の端部が、繊維束被巻付け部13a,14aの端面に当接するのを規制する凸部(例えばピン)を設けてもよい。
【0087】
○ 第2の実施の形態において、成形体38の切断時にカッター39がカバー部21に当たるのを防止するため、カバー部21の外周面に環状溝を設けたり、段差部を設けてもよい。
【0088】
〇 被巻付け部材15は紙製の円筒に限らず、樹脂製としてもよい。耐熱性が不充分な熱可塑性の樹脂製とした場合は、成形体38を硬化させる際に被巻付け部材15が溶融し、筒部材12の内面に偏った状態で付着して回転バランス不良となり易い。従って、熱硬化性樹脂製もしくは耐熱性の熱可塑性樹脂とする方がよい。耐熱性の熱可塑性樹脂とする場合、FRPマトリックス樹脂の硬化温度(百数十℃)より耐熱温度が高い樹脂がより好ましいが、マトリックス樹脂の初期硬化温度(100℃程度)より耐熱温度が高ければ適用可能である。被巻付け部材15が紙製の場合は、プロペラシャフト11を使用する際、被巻付け部材15の部分は回転トルクの伝達に殆ど寄与しないが、樹脂製とすることにより回転トルクの伝達に寄与する。また、樹脂製の方が紙製より被巻付け部材15の真円精度が高く、回転バランスが良い。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の熱可塑性樹脂のうち、エポキシ(マトリックス)硬化温度以上の耐熱性があるものとして、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)等の所謂スーパーエンプラが挙げられる。また、エポキシ初期硬化温度より耐熱性がある熱可塑性樹脂としては、ポリアミド=ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート=ポリエステル(PET)等の汎用エンプラで耐熱性が比較的高いものが挙げられる。
【0089】
〇 被巻付け部材15として熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた紙製としてもよい。この場合も樹脂製の被巻付け部材15を使用した場合と同様な効果が得られる他に、熱硬化性樹脂だけで被巻付け部材15を製造する場合に比較して製造が簡単になる。
【0090】
〇 被巻付け部材15としてFRP製の円筒を使用してもよい。強化繊維としては炭素繊維が好ましい。また、本硬化したFRP製の円筒に限らず、プレキュア(前硬化)された状態のFRP製の円筒を使用してもよい。プレキュアされた状態のFRP製の円筒は成形体38の硬化時に本硬化されるため、製品であるプロペラシャフト11として完成した段階では、回転トルクの伝達に寄与する。そして、炭素繊維強化のFRP製の円筒を使用した場合は、被巻付け部材15に巻き付けられた繊維束Rによって形成されるヘリカル巻層の層数を減らすことも可能になり、小径化、軽量化に寄与する。また、プレキュアされた状態のFRP製の円筒の場合、その上に巻き付けられる樹脂含浸繊維束との接着強度が、本硬化されたFRP製の円筒に巻き付ける場合に比較して高くなる。
【0091】
〇 被巻付け部材15として金属製の円筒を使用してもよい。金属製とする場合は、軽量で耐熱性及び剛性の高い金属で形成されたものが好ましい。この場合も紙製より被巻付け部材15の真円精度が高く、回転バランスが良くなる。
【0092】
○ 被巻付け部材15の外周面に係止部を設けてもよい。係止部としては例えば、表面を荒らして多数の凹凸を形成したものや、繊維束Rの配列方向に沿って延びる溝を有するローレット加工を施したものが挙げられる。この場合、前記係止部により繊維束Rの巻き付け時に繊維束を所定の位置に巻き付け易くなる。また、前記係止部により繊維束Rが被巻付け部材15の周方向に相対移動するのが規制されるため、被巻付け部材15を金属製や樹脂製として被巻付け部材15にもトルク伝達機能を持たせる構成においてより有効となる。
【0093】
○ 被巻付け部材15と第1及び第2の端部部材13,14との結合は、13,14の嵌合筒部13c,14cの外周面に被巻付け部材15の端部を嵌合させるのではなく、嵌合筒部13c,14cの内面に被巻付け部材15の端部を嵌合させてもよい。また、嵌合筒部13c,14cを突設せずに、繊維束被巻付け部13a,14aの端面に被巻付け部材15の端部が嵌合される嵌合穴を形成してもよい。それらの場合、被巻付け部材15を一定径とせずに、端部を小径としてもよい。
【0094】
○ 被巻付け部材15に制振作用を持たせてもよい。プロペラシャフト11が自動車に組み付けられた場合、露出状態で使用されるため、走行中にタイヤが跳ねた小石等の異物が当たることがあり、その際、大きな音が発生する。被巻付け部材15に制振作用を持たせることにより、前記異物が当たった際の振動を吸収して大きな音の発生を抑制することができる。例えば、ボール紙製や段ボール製の筒の表面に樹脂の含浸を阻止する処理を施したり、被巻付け部材15の材質を独立気泡の発泡体で形成する。独立気泡の発泡体としては、例えばポリイミド系の発泡プラスチックなどが適用可能である。
【0095】
〇 端部部材の組み合わせは、ヨークタイプの第1の端部部材13と、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14との組み合わせに限られない。例えば、プロペラシャフト11の使用態様に応じて、ヨークタイプの第1の端部部材13が筒部材12の両端に結合された構成や、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14が筒部材12の両端に結合された構成としてもよい。これらのプロペラシャフト11も前記各実施の形態と同様にして製造することができる。
【0096】
○ 筒部材12は必ずしも結合部分12aの肉厚が厚く形成されるものに限らず、全長にわたって一定の厚さであってもよい。両端部部材13,14はFRP製の筒部材12に後から圧入するのではなく、各端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aに樹脂が含浸された繊維束Rを巻き付けて硬化させるため、圧入時にFRP製の筒部材12に掛かる応力に対抗する機能を有するフープ巻層18bの層数を少なくしたり省略してもよい。省略した場合は、筒部材12は全長にわたって一定の厚さとなり、軽量化にも寄与する。
【0097】
〇 成形体38の一部(樹脂含浸繊維束)を硬化前にカバー部21から除去する際、ピン23を抜いた後に除去してもよい。
〇 成形体38の硬化前には繊維束供給部に繋がる繊維束の切断だけを行い、不要な部分の除去は成形体38の硬化後に、ピン23を抜いた状態で除去するようにしてもよい。ピン23が取り外し不能な場合は、成形体38の硬化後に不要な部分を除去するには、不要な部分を細かく破壊して除去する必要があるが、ピン23を取り外し可能にすることにより、成形体38の硬化後に不要な部分を除去するのが容易となる。
【0098】
〇 カバー部21のピン23を省略してもよい。ピン23を省略した構成では、成形体38の硬化後に不要な部分の除去を行う場合でも、ピン23の抜き取り作業が不要となり、成形体38の不要部分の除去作業が容易になる。
【0099】
〇 ヨークタイプの第1の端部部材13に組み付ける治具20において、繊維束被巻付け部13a側と継手部13b側との間にある壁にねじ孔を形成し、支持部としてボルトを使用してもよい。この場合、T字状部24aを備えた支持部24より構造が簡単になる。
【0100】
○ 治具20は、第1及び第2の端部部材13,14を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部と、カバー部21とを一体に形成してもよい。例えば、カバー部の内側において軸部22と同軸にシャフトを設けその先端に雄ねじ部を設ける。そして、第1の端部部材13には前記雄ねじ部が螺合されるねじ孔を又はねじ穴を設ける。
【0101】
○ 治具20の軸部22をカバー部21と分離可能とし、軸部22と前記支持部とを一体に形成してもよい。例えば、カバー部21の端部に軸部22が嵌合される孔を形成し、軸部22をその孔に嵌合した状態で雄ねじ部を第1及び第2の端部部材13,14のねじ孔又はねじ穴に螺合させる。
【0102】
○ 第2の端部部材14に取り付ける治具20の芯出しは、カバー部21の端部内面を、継手部14bの基端の段部に嵌合することにより行う構成に代えて、継手部14bの軸部が治具20の軸部22の内面と嵌合することで芯出しが行われる構成としてもよい。
【0103】
○ 治具20と端部部材13,14とを固定する方法は、上記実施の形態に限らない。例えば、第1の端部部材13を固定する方法として、カバー部21にヨークタイプの継手部13bに形成されている孔13dと対応する孔を形成する。そして、カバー部21が継手部13bの段部と嵌合した状態で、その孔及び孔13dが対応し、その状態で孔及び孔13dを貫通するようにピンを挿入して、治具20と第1の端部部材13とを固定してもよい。
【0104】
また、第2の端部部材14と治具20とを固定する場合、継手部14bのシャフト部にねじ穴14dを設けずに、第2の端部部材14と治具20とを固定する補助部材を使用する。補助部材は板材の両端が直角に折り曲げられて形成され、継手部14bのシャフト部の中間位置に形成された溝部に係止される係止部が一端に形成され、ボルト25の雄ねじ25aが螺合されるねじ孔が他端に形成されている。そして、係止部が前記溝部に係止されて第2の端部部材14に固定された状態で、ボルト25の雄ねじ25aがねじ孔に螺合されることにより第2の端部部材14と治具20とが固定される。
【0105】
○ 筒部材12に巻き付けられる繊維束Rのうち、少なくとも最内層に配列されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが同一層内において互いに平行に配列されていれば、他の層は互いに平行に配列されていなくてもよい。例えば、最内層のヘリカル巻層のみ全周一斉に繊維束Rを配列し、他の層は1〜3本の繊維束の巻付けにより構成してもよい。
【0106】
○ FW後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に治具20の端部と繊維束被巻付け部13a,14aとの間と対応する位置で切断する。そして、治具20を第1及び第2の端部部材13,14から取り外し、被巻付け部材15及び第1及び第2の端部部材13,14に巻き付けられた樹脂含浸繊維束(成形体38)を硬化する。切断前に切断箇所を含む一定幅の領域にテープを巻き付け、テープの上から成形体38を切断する。この場合、切断作業が1回で済む。また、テープを巻き付けた状態で成形体38を切断するため、未硬化の状態でも、切断端部の繊維束Rが毛羽立つのが抑制される。
【0107】
○ 筒部材12との結合部分にセレーション16等の係止部が形成された端部部材が筒部材12の一端に結合され、他端にはセレーションが形成された継手を筒部材12が形成された後から圧入する構成としてもよい。この構成のプロペラシャフト11を製造する場合は、被巻付け部材15の一端に第1及び第2の端部部材13,14の一方を嵌合するとともに治具20を組み付け、他端にはFW装置30のチャック32に支持される軸部を有する支持部材組み付けて被繊維束巻付け部材31を構成する。そして、FW法により一端に端部部材が結合されたFRP製の筒部材12を形成し、セレーションが形成された継手を筒部材12の他端に圧入する。この場合でも、セレーションが形成された継手をFRP製のパイプの両端に圧入する構成に比較して、圧入に起因する不具合を抑制することができる。
【0108】
○ 筒部材12との結合部分にセレーション16等の係止部が形成された端部部材が筒部材12の両端に結合されたプロペラシャフト11であっても、FWの際に片側のみ治具20を介してFW装置30に支持し、片側は治具20を介さずにチャック32に支持してもよい。例えば、治具20を組み付けない側の端部部材は、チャック32に支持される軸部を有する軸部付き端部部材を使用する。そして、FWにより樹脂含浸繊維束が被巻付け部材15及び端部部材に巻き付けられる。治具20を使用しない側は、端部部材で折り返すように繊維束が巻き付けられるが、両側とも端部部材に巻き掛けられて繊維束が折り返す構成に比較して、プロペラシャフト11の回転バランスは良くなる。
【0109】
○ セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに限らず、最内層の繊維束の厚さの1/4層程度〜1層分あれば充分である。
【0110】
○ 治具20を第1及び第2の端部部材13,14に連結する際、第1及び第2の端部部材13,14に当接されるカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との隙間から、樹脂がカバー部21の内側に入り込むのを防止した状態で繊維束Rの巻き付けを行ってもよい。例えば、カバー部21の端部の外周面に、耐熱性のテープを第1及び第2の端部部材13,14の境に跨るように巻き付ける。ここで言う「耐熱性のテープ」とは、FWの後の樹脂の硬化時の温度で溶融しないテープを意味する。カバー部21の端部を第1及び第2の端部部材13,14に当接させて治具20を第1及び第2の端部部材13,14連結したただけでは、加熱硬化時に当接部から樹脂がカバー部21の内側に侵入する虞がある。しかし、耐熱性のテープを巻き付けることにより、FW後に、成形体38を硬化させる際、樹脂がカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との隙間から、カバー部21の内側に入り込んで硬化することを防止できる。その結果、治具20と第1及び第2の端部部材13,14との連結を解除する際、カバー部21の取り外しが難くなるのを防止することができる。
【0111】
○ 樹脂がカバー部21の内側に入り込むのを防止する手段として、治具20を第1及び第2の端部部材13,14に連結する際、第1及び第2の端部部材13,14に当接されるカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との間に耐熱性のシールリングを介装してもよい。耐熱性のシールリングとはFWの後の樹脂の硬化時の温度に耐え得るものであり、例えばシリコーンゴム製、フッ素樹脂製のものが挙げられる。この場合も、FW後に、成形体38を硬化させる際、樹脂がカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との隙間から、カバー部21の内側に入り込んで硬化することを防止できる。図8のように、カバー部21の外周面と、第1及び第2の端部部材13,14の外周面との間に段差がある状態でカバー部21を第1及び第2の端部部材13,14に当接させる場合、耐熱性のテープを巻き付けたのでは、シールを良好に行うことが難しい。しかし、シールリングを使用すると、段差がある場合でもシールを良好に行うことができる。
【0112】
○ 摩擦圧接により支持筒41と継手部13bとを接合して第1の端部部材13を構成する場合、支持筒41を摩擦圧接に必要な力で保持できれば、突出部41aの形状は任意である。例えば、突出部41aの外周面にギヤ部や多角形の把持部を設けてもよい。
【0113】
〇 第1及び第2の端部部材13,14の材質は金属に限らず、セラミックスでもよい。しかし、金属の方がバランスピースの取付けが容易、動力伝達シャフトの取り扱いの際に第1及び第2の端部部材13,14がどこかにぶっかっても壊れ難い等の利点がある。
【0114】
○ 動力伝達用シャフトは、プロペラシャフト11用に限定されず、その他の動力伝達用シャフトに適用してもよい。
○ 筒部材12の形状は全体を円筒状とするものに限定されず、両端部を円筒状とし、中間部を多角形筒状としてもよい。その場合、被巻付け部材15も対応する多角形筒状に形成される。
【0115】
○ 筒部材12の材料であるFRPは、強化繊維として炭素繊維を、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用したものに限らない。例えば、強化繊維として、アラミド繊維、ガラス繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を採用したり、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等のその他の熱硬化性樹脂を採用してもよい。しかし、プロペラシャフト11の場合は、炭素繊維とエポキシ樹脂の組み合わせが強度やコストの点で好ましい。
【0116】
○ FRPのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることに限定されない。例えば紫外線硬化樹脂をマトリックス樹脂として使用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施の形態から把握できる。
【0117】
(1) 請求項7に記載の発明において、前記端部部材は少なくとも一方がヨークタイプの継手である。
(2) 請求項9に記載の発明において、FW時に1〜3本の繊維束が同時に巻き付けられる。
【0118】
(3) 請求項9又は前記技術的思想(2)に記載の発明において、前記凸部はピンによって構成されている。
(4) 請求項9又は前記技術的思想(2)に記載の発明において、前記係止部は繊維束の巻き付け角度に対応したローレットによって構成されている。
【0119】
(5) 請求項9に記載の発明において、前記係止部は一定間隔で端部部材の軸方向に対して最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条で構成され、FWは少なくとも最内層のヘリカル巻層を形成する際は、当該最内層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる。
【0120】
(6) 請求項8〜請求項10のいずれか一項に記載の発明において、FW後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に前記治具の端部と前記繊維束被巻付け部との間と対応する位置で切断した後、治具を端部部材から取り外し、被巻付け部及び端部部材に巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化する。
【0121】
(7) 請求項14に記載の発明において、前記ピンは前記カバー部に取り外し可能に設けられている。
(8) 繊維強化プラスチック製シャフトの少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフトの製造方法であって、
被巻付け部材の少なくとも一端に繊維束被巻付け部を備えた端部部材を取り付け、該端部部材の前記繊維束被巻付け部を除いた箇所をカバー部を備えた治具で覆った状態でFWを行い、その後前記治具を取り外す動力伝達シャフトの製造方法。
【0122】
(9) 請求項8〜請求項12及び前記技術的思想(2)〜(5)に記載の発明において、前記治具を前記端部部材に連結する際、前記端部部材に当接される前記カバー部の端面と、前記端部部材との隙間から、樹脂がカバー部の内側に入り込むのを防止した状態でフィラメントワインディングを行う。
【0123】
【発明の効果】
以上、詳述したように、請求項1〜請求項8に記載の発明の動力伝達シャフトによれば、FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する不具合を解消でき、しかも、回転トルクの伝達が良い。また、請求項9〜請求項13に記載の発明によれば、前記の効果を有する動力伝達シャフトを容易に製造することができ、ヨークタイプの継手を設けることが可能になる。また、請求項14〜請求項16に記載の発明の治具を使用することで、前記動力伝達シャフトの製造が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は第1の実施の形態のプロペラシャフトの一部破断側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図。
【図2】模式分解斜視図。
【図3】治具が組み付けられた状態の一部破断模式断面図。
【図4】FW装置の部分概略図。
【図5】図4のB−B線における模式拡大断面図。
【図6】樹脂含浸繊維束の切断位置を示す模式断面図。
【図7】第2の実施の形態の部分模式分解断面図。
【図8】治具の連結状態を示す模式部分断面図。
【図9】(a)は別の実施の形態の端部部材の斜視図、(b)は別の端部部材の側面図。
【図10】(a)〜(d)は別の実施の形態の端部部材の側面図。
【図11】(a)は従来技術のプロペラシャフトの部分分解断面図、(b)はプロペラシャフトの断面図、(c)は(b)の部分拡大図。
【図12】(a),(b)は別の従来技術のプロペラシャフトの製法を示す模式斜視図。
【符号の説明】
R…繊維束、11…動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフト、12…筒部材、12a…結合部分、13,14…端部部材、13a,14a…繊維束被巻付け部、13b,14b…継手部、13d…孔、15…被巻付け部材、16…セレーション、18a,18c…ヘリカル巻層、20…治具、21…カバー部、22…軸部、23…ピン、24…支持部、24a…固定部としてのT字状部、24b…雄ねじ部、25…支持部としてのボルト、30…フィラメントワインディング装置(FW装置)、32…回転支持部としてのチャック、43…係止部としてのピン、44…係止部としてのローレット。
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維強化プラスチック(以下、FRPと記載する)製の筒部材の少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフト及びその製造方法並びに治具に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両のエンジンで発生する回転動力を車両の駆動輪に伝達するプロペラシャフトは、一般に金属製シャフト部材の両端に、駆動軸や従動軸と連結する金属製の自在継手(ユニバーサルジョイント)のヨークを溶接したもの(以下、金属製プロペラシャフトという)が使用されている。
【0003】
近年、車両の軽量化を図るために各構造部材のさらなる軽量化が要求され、プロペラシャフトにおいてもFRP製のものに切り替えることによる軽量化が検討され、一部実施されている。図11(a)に示すように、FRP製プロペラシャフト51として、FRP製パイプ52の両端(片側のみ図示)に、FRP製パイプ52を駆動軸や従動軸等(図示せず)と連結する金属製の継手(ヨーク)53を圧入接合した構造のものが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
継手53にはFRP製パイプ52との接合部となる外周面に、図11(b)に示すように、FRP製パイプ52の端部内径より大きな外径のセレーション54が形成されている。そして、FRP製パイプ52に継手53の接合部を圧入することで、継手53のセレーション54の歯によって、FRP製パイプ52の内周面に溝が刻設され、歯が溝に食い込むことで継手53とFRP製パイプ52とが一体回転するための接合強度が確保される。図11(c)に示すように、継手53はFRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在する状態でFRP製パイプ52に結合されている。
【0005】
また、図12(a)に示すように、外側端に中心軸55を突設した端部金具56を両端にそれぞれ嵌着した薄肉円筒57を使用してフィラメントワインディング法により製造する方法も提案されている(例えば、特許文献2参照)。この製造方法では、図12(b)に示すように、樹脂が含浸された炭素繊維58を端部金具56から薄肉円筒57にかけて連続して巻き付けて樹脂含浸炭素繊維層を形成し、そのまま硬化成形した後、必要により中心軸55を除去してプロペラシャフトを製造する。
【0006】
また、FRP製の内側軸部材の両端に、端面部の中心から軸部が突出する金属製継手部材を嵌合させ、前記内側軸部材及び前記金属製継手部材の筒状部にフィラメントワインディング法により樹脂被覆した繊維束を巻き付けて製造する方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
【特許文献1】
特開平5−139170号公報(明細書の段落[0014]、[0018]、[0020]、図1、図2)
【特許文献2】
特開昭55−118831号公報(2頁、図3、図4)
【特許文献3】
特開昭59−50216号公報(2,3頁、図2)
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1に開示されたFRP製プロペラシャフト51のように、FRP製パイプ52に継手53を圧入する構成では、圧入時にFRP製パイプ52に掛かる多大な応力の対策が必要である。また、FRP製パイプ52の内面とセレーション54の溝の底部との間に隙間が存在するため、FRP製パイプ52の端面から水分が侵入するのを防止するためシール等の対策が必要であった。また、FRP製パイプ52をフィラメントワインディング法で製造する際に、マンドレルの脱型の工程が必要であった。
【0009】
一方、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、継手53に相当する端部金具56をFRP製パイプに圧入する工程が不要なため、セレーションの加工やマンドレルの脱型が不要となり、シール工程も不要となる。しかし、特許文献2に開示されたプロペラシャフトでは、端部金具56に中心軸55が必須のため、孔を有する一対の支持部を備えたヨークタイプの継手53(特許文献1に開示されたもの)を設けることができない。その結果、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸でなく特別な構造のものが必要となるという問題がある。また、端部金具56に巻き付けられる炭素繊維58の折り返し部の回転バランスが悪いという問題がある。また、プロペラシャフトでは一般に回転バランスの正確な調整を行うため、バランスピースを継手に溶接で取り付けていた。しかし、特許文献2に開示された構成のプロペラシャフトでは、継手の部分全体がFRPで被覆されているため、バランスピースを溶接で取り付ける場合には、バランスピースを取り付けるためには、FRPを構成している繊維を切断する必要があり、強度が低下するという問題がある。バランスピースをFRP表面に接着で取り付ける場合には、その取り付け強度が不十分であった。
【0010】
また、特許文献3に開示された製造方法においても、ヨークタイプの継手53(特許文献1に開示されたもの)を設けることができないという問題がある。さらに、特許文献3に開示された製造方法では、繊維束の巻き付けを前記内側軸部材及び前記金属製継手部材の筒状部にのみ巻き付けるため、ヘリカル巻を行う場合、巻き付け角度を小さくできず、圧縮や引っ張り強度を高めることが難しいという問題がある。
【0011】
本発明の第1の目的は、FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する不具合を解消でき、しかも、回転トルクの伝達が良好な動力伝達シャフトを提供することにある。第2の目的は、前記動力伝達シャフトを容易に製造できるとともに、ヨークタイプの継手を設けることが可能な製造方法を提供することにある。また、第3の目的は、前記動力伝達シャフトを製造する際に使用する治具を提供することにある。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前記第1の目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、繊維強化プラスチック製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトである。前記端部部材の少なくとも一方は、前記筒部材との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記筒部材の強化繊維は複数の層を構成するように前記外周面において前記端部部材に巻き付けられ、かつ最内層を構成する繊維束は互いに交差せずに配列され、前記係止部により前記端部部材に対する周方向への相対移動が規制されている。
【0013】
この発明では、端部部材をFRP製の筒部材に圧入せずに形成可能なため、FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する従来の不具合を解消できる。また、FRP製の筒部材を構成する繊維束は、端部部材の外周面に形成された係止部により前記端部部材に対する周方向への相対移動が規制され、回転トルクの伝達が良い。
【0014】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記最内層は繊維束が互いに平行に配列され、かつ全長にわたって連続しているヘリカル巻にて構成されている。この発明では、繊維束が全長にわたって連続しているため、即ち切断されていないため、回転トルクの伝達が良い。
【0015】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記複数の層を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は前記係止部を有する端部部材側の端部が切断されている。この発明では、ヘリカル巻層を形成する繊維束が端部部材の端部で折り返すように配列されていないため、回転バランス良く形成するのが容易となる。また、端部部材が金属製であれば筒部材との結合部から突出した部分にバランスピースを溶接することができる。仮に、端部部材が金属製でない場合でも、強化繊維を切断することなくバランスピースを容易に取り付けることができる。
【0016】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記複数の層を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は同一層において互いに平行に配列されている。この発明では、ヘリカル巻層を形成する際、1層分の繊維束を同時に巻き付けることが可能なため、巻き付け時間の短縮が可能となる。
【0017】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記係止部は前記最内層の繊維束の配列方向に沿って延びる複数の凸条で構成されている。この発明では、最内層を構成する全ての繊維束の配列方向と、係止部としての凸条の延びる方向とが平行なため、端部部材とFRP製の筒部材との相対移動の規制機能が高まり、回転トルクの伝達がより良好に行われる。
【0018】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、前記係止部はセレーションで構成されている。この発明では、前記係止部の加工が容易となる。
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明において、前記端部部材の両方に前記係止部が設けられている。この発明では、動力伝達シャフトの両側において、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の発明と対応する効果が得られる。
【0019】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の発明において、前記端部部材は少なくとも一方がヨークタイプの継手部を備えている。この発明では、プロペラシャフトとして使用する際、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸を使用することができる。
【0020】
第2の目的を達成するため、請求項9に記載の発明は、FRP製シャフトの少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフトの製造方法である。筒状の被巻付け部材の少なくとも一端に、外周面に係止部が形成された繊維束被巻付け部を備えた端部部材を取り付け、該端部部材の前記繊維束被巻付け部を除いた箇所を覆うカバー部を備えた治具を前記端部部材に対して前記被巻付け部材との結合側と反対側から取り外し可能に連結する。前記被巻付け部材を前記端部部材が取り付けられた側は前記治具を介してフィラメントワインディング装置の回転支持部に一体回転可能に支持する。前記治具が取り付けられない側は前記回転支持部に支持される軸部を有する軸部付き端部部材又は前記回転支持部に支持される軸部を有する支持部材を介して前記回転支持部に一体回転可能に支持する。そして、その状態でフィラメントワインディングを行った後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化前又は硬化後に切断し、前記治具と端部部材との連結を解除し、前記支持部材を使用した場合は該支持部材も取り外す。
【0021】
この発明では、マンドレルを使用せずに、端部部材が取り付けられて製品の一部を構成する被巻付け部材及び端部部材の繊維束被巻付け部に樹脂含浸繊維束が巻き付けられて硬化されることにより、端部部材がFRP製の筒部材に結合される。端部部材は樹脂含浸繊維束が巻き付けられる必要が無い部分をカバー部で覆われた状態で治具を介してフィラメントワインディング装置の回転支持部に支持され、フィラメントワインディングが行われる。フィラメントワインディングの際、樹脂含浸繊維束は治具にも巻き付けられて治具と対応する箇所で折り返すことができ、端部部材に巻き付けながら樹脂含浸繊維束を端部部材で折り返す必要がなく、得られた動力伝達シャフトの回転バランスが良くなる。また、端部部材としてヨークタイプの継手部を備えたものを使用することにより、ヨークタイプの継手部を備えた動力伝達シャフトを容易に製造することができる。
【0022】
請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の発明において、フィラメントワインディングは少なくとも最内層にヘリカル巻層が形成されるように行われ、前記係止部は前記最内層の繊維束の配列方向を所定方向に規制可能に規則的に設けられた複数の凸部によって構成されている。この発明では、端部部材に設けられた係止部により、樹脂含浸繊維束の端部部材への巻付け角度が適正な値に規制される。
【0023】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の発明において、前記係止部は一定間隔で端部部材の軸方向に対して最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条で構成されている。そして、フィラメントワインディングは、ヘリカル巻層を形成する際には、ヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる。この発明では、同じヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束が同時に巻き付けられるため、樹脂含浸繊維束を巻き付けるのに必要な時間を短縮できて、生産性が向上する。
【0024】
請求項12に記載の発明は、請求項9〜請求項11のいずれか一項に記載の発明において、前記カバー部にはフィラメントワインディング時に樹脂含浸繊維束の配列を規制するピンが突設されている。フィラメントワインディング後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に前記ピンの突設位置より前記繊維束被巻付け部寄りの治具の表面と対向する位置で切断して繊維束供給部に繋がる繊維束から切り離す。その切断箇所より前記ピン側に巻き付けられた未硬化の樹脂含浸繊維束を除去した後、樹脂の加熱硬化を行う。その後、前記繊維束被巻付け部と治具の端部との間と対応する位置で繊維束を硬化樹脂とともに切断し、治具を端部部材から取り外す。
【0025】
この発明では、カバー部に突設されたピンの作用により、端部部材の繊維束被巻付け部に巻き付けられる樹脂含浸繊維束の巻付け角度が適正な値に規制される。また、樹脂含浸繊維束の巻付け完了後、治具に巻き付けられた樹脂含浸繊維束のうちピンと対応する箇所に巻き付けられた樹脂含浸繊維束は樹脂硬化前に除去されるため、硬化後に除去するのに比較して容易に除去できる。
【0026】
請求項13に記載の発明は、請求項9〜請求項12のいずれか一項に記載の発明において、前記端部部材は前記被巻付け部材の両端に取り付けられる。この発明では、被巻付け部材の両側において、請求項9〜請求項12のいずれか一項に記載の発明と対応する効果が得られる。
【0027】
第3の目的を達成するため、請求項14に記載の発明は、少なくとも一方の端部に端部部材が取着された被巻付け部材にフィラメントワインディング法により前記端部部材の一部及び前記被巻付け部材に樹脂含浸繊維束を巻き付ける際に、前記被巻付け部材をフィラメントワインディング装置の回転支持部に取り付けるための治具である。治具は、前記端部部材の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、フィラメントワインディング時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部を備えている。また、治具は、前記カバー部と一体的に形成され、フィラメントワインディング装置の回転支持部に支持可能な軸部と、前記端部部材を前記軸部と前記被巻付け部材の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、前記軸部と一体回転可能な支持部とを備えている。
【0028】
この発明の治具を使用する場合は、治具はカバー部が端部部材の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆う状態で端部部材に取り付けられる。治具は軸部においてフィラメントワインディング装置の回転支持部に支持される。そして、治具を構成する支持部が、端部部材を被巻き付け部材の回転中心と、軸部とが同軸となる状態で支持する。従って、少なくとも一方の端部に端部部材が取着された被巻付け部材は、フィラメントワインディング時に、治具を介してバランスの取れた状態で回転され、端部部材の必要な箇所に樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる。
【0029】
請求項15に記載の発明は、請求項14に記載の発明において、前記カバー部の周面にはピンが一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている。この発明では、フィラメントワインディングによる樹脂含浸繊維束の巻付け時に、カバー部に設けられたピンにより樹脂含浸繊維束の巻き付け位置が規制されて、樹脂含浸繊維束を端部部材の軸方向に対して所定の角度で巻き付けるのが容易になる。また、樹脂含浸繊維束をピンに巻き掛けて折り返すように配列することが可能になる。
【0030】
請求項16に記載の発明は、請求項14又は請求項15に記載の発明において、前記支持部は、一端側に前記端部部材に取り外し可能に固定される固定部が設けられている。そして、前記固定部が前記端部部材に固定された状態で他端側が前記軸部に形成された孔から前記カバー部の外部に突出可能な長さのシャフトで構成され、該シャフトには前記軸部から突出する位置に雄ねじ部が形成されている。この発明では、支持部は、一端側に設けられた固定部が端部部材に固定され、他端側が治具の軸部に形成された孔から突出するシャフトの雄ねじ部にナットを螺合することにより、端部部材を所定の位置に支持する。
【0031】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
以下、本発明を動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフトに具体化した第1の実施の形態を図1〜図5に従って説明する。図1(a)はプロペラシャフトの一部破断模式側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図である。
【0032】
図1(a)に示すように、プロペラシャフト11は、FRP製の筒部材12と、その第1端部に接合された第1の端部部材13と、第2端部に接合された第2の端部部材14と、筒部材12の内側で第1及び第2の端部部材13,14間に配置された筒状の被巻付け部材15とを備えている。被巻付け部材15には紙製の円筒が使用されている。第1の端部部材13には自在継手を構成する継手としての金属製のヨークが使用され、第2の端部部材14には金属製の滑り継手が使用されている。筒部材12は、第1及び第2の端部部材13,14との結合部分12aが肉厚に形成されている。
【0033】
第1の端部部材13及び第2の端部部材14は、筒部材12との結合部分となる円筒状の繊維束被巻付け部13a,14aを備え、その外周面には係止部としてのセレーション16が形成されている。筒部材12の強化繊維は複数の層を構成するように巻き付けられた繊維束からなり、最内層にヘリカル巻層が設けられている。繊維束は同一層においては互いに平行に配列されており、セレーション16はその歯が繊維束の配列方向に沿って延びるように形成されている。ヘリカル巻層を構成する繊維束は、セレーション16により端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに筒部材12の全長にわたって連続している。即ち、セレーション16が形成された端部部材をFRP製のパイプに後から圧入する構成と異なり、セレーション16と係合する繊維束が切断されていない。
【0034】
セレーション16の歯は、最内層のヘリカル巻層を構成する繊維束が第1及び第2の端部部材13,14の軸方向と成す角度(配列角度)に等しい角度で、第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に対して延びるように形成されている。また、セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに形成されている。
【0035】
第1の端部部材13は、繊維束被巻付け部13aの一端側に継手部13bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部13aより小径の嵌合筒部13cが突設されている。継手部13bには、例えば十字軸式ジョイントを取り付けるための孔13dが形成されている。第2の端部部材14は、繊維束被巻付け部14aの一端側にシャフト状の継手部14bが突設され、他端側に繊維束被巻付け部14aより小径の嵌合筒部14cが突設されている。シャフト状の継手部14bには、筒部材12をフィラメントワインディング法で形成する際に使用する治具の固定に使用するねじ穴14dが先端に形成されている。第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aと、継手部13b,14bとの間には、環状溝17が形成されている。環状溝17はバランスピース(図示せず)を溶接する必要がある場合に、該バランスピースが外側に突出しない幅及び深さに形成されている。なお、以後、フィラメントワインディングをFWと略す。
【0036】
被巻付け部材15はその端部が嵌合筒部13c,14cの外周に嵌合された状態で第1及び第2の端部部材13,14に連結されている。被巻付け部材15は紙製(例えば、ボール紙製)で円筒状に形成されている。被巻付け部材15は筒部材12をFW法で形成する際に、樹脂含浸繊維束が巻き付けられても所定の円筒形状を保つ強度があればよく、プロペラシャフト11が使用される際のトルク伝達に寄与する強度を有する必要はない。
【0037】
筒部材12は、第1及び第2の端部部材13,14との結合部分12aが肉厚に形成されている。筒部材12はFW法によって形成され、強化繊維としては炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。マトリックス樹脂としてはエポキシ樹脂が使用されている。
【0038】
筒部材12は主にヘリカル巻層で構成されているが、結合部分12a及びその近くにはフープ巻層が形成されている。また、筒部材12の最外層には炭素繊維束ではなく、ポリエステル糸が全長にわたってフープ巻で巻き付けられている。図1(b)に示すように、第1の端部部材13と筒部材12との結合部分の構成は、繊維束被巻付け部13aと接触する最内層側から順に、ヘリカル巻層18a、フープ巻層18b、ヘリカル巻層18c、ポリエステル糸層18dが設けられた構成となる。
【0039】
次に前記のように構成されたプロペラシャフト11の製造方法を説明する。図2は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20の関係を示す模式分解斜視図であり、図3は第1の端部部材13、第2の端部部材14、被巻付け部材15及び治具20が組み付けられた状態の一部破断模式断面図である。
【0040】
プロペラシャフト11を製造する際は、マンドレルを使用せずに、治具20を使用して第1及び第2の端部部材13,14が両端に結合された被巻付け部材15をFW装置に支持してFWが行われる。
【0041】
図2に示すように、治具20は、各端部部材13,14の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、FW時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部21を備えている。カバー部21は一端側が小径に形成され、FW装置の回転支持部に支持可能な軸部22がカバー部21の小径側の端部に連続して一体的に形成されている。カバー部21の周面にはピン23が一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている。
【0042】
また、第1の端部部材13に組み付けられる治具20は、第1の端部部材13を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部24を備えている。支持部24は、一端側に端部部材13に取り外し可能に固定される固定部としてのT字状部24aが設けられたシャフトで構成され、他端側に雄ねじ部24bが形成されている。そして、T字状部24aが孔13dに挿通された状態で、軸部22から突出した雄ねじ部24bに螺合されるナット26が締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部13bの段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0043】
第2の端部部材14の支持部に組み付けられる治具20は、第2の端部部材14を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部としてのボルト25を備えている。ボルト25は先端部に雄ねじ25aが設けられ、雄ねじ25aが端部部材14に取り外し可能に固定される固定部を構成する。ボルト25は雄ねじ25aがねじ穴14dに螺合される状態で締め付けられることにより、軸部22の端部に一体に形成された座金部27を介して軸部22に固定されるようになっている。図3に示すように、治具20はカバー部21の端部内面が、継手部14bの基端の段部に嵌合されて、治具20の芯出しが行われるようになっている。
【0044】
図4はFW装置の模式側面図、図5は図4のB−B線における模式部分断面図である。図4に示すように、フィラメントワインディング装置(以下、FW装置と称す)30はマンドレルや芯材あるいはタンクを製造する場合のライナ等の被繊維束巻付け部材31を回転可能に支持する一組の回転支持部材としてのチャック32を備えている。FW装置30は、本願出願人が先に提案した装置(特開2002−283467号公報に開示された装置)と同様な巻付けヘッド(ヘリカル巻用ヘッド及びフープ巻用ヘッド)33を備えており、図4ではヘリカル巻用ヘッドのみが図示されている。巻付けヘッド33はベースプレート34上に設けられたレール35(図5に図示)上をチャック32に支持された被繊維束巻付け部材31に沿って、図示しない駆動手段により移動可能となっている。チャック32は可変速モータ(図示せず)により回転駆動され、制御装置Cの指令によってチャック32が巻付けヘッド33の移動速度と同期した状態で回転駆動される。そして、図示しない繊維束供給部から樹脂含浸装置を経て供給される繊維束Rを、被繊維束巻付け部材31に対する巻付け角度を任意の角度に設定して被繊維束巻付け部材31に巻き付けることができるようになっている。
【0045】
図5に示すように、巻付けヘッド33は、被繊維束巻付け部材31に貫通される孔を有する支持板36を備えている。ヘリカル巻用ヘッドの支持板36には、複数本の繊維束を同時に被繊維束巻付け部材31に対してヘリカル巻で巻付け可能とするため、図5に示すように複数のガイド37が被繊維束巻付け部材31の周方向に沿って配列された状態で設けられている。この実施の形態では28本の繊維束を案内可能にそれぞれ28個の大小2種のガイド37が2個の同心円上に配列されている。フープ巻部を備えたフープ巻用ヘッドは、繊維束Rを被繊維束巻付け部材31に対して2本同時にフープ巻で巻付け可能とするためのガイドを備えている。ヘリカル巻用ヘッドとフープ巻用ヘッドとは一体的な移動と、独立した状態での移動とが可能に構成されている。そして、数本の繊維束Rを同時に被繊維束巻付け部材31に対してヘリカル巻で巻付け可能となり、ヘリカル巻用ヘッドが被繊維束巻付け部材31に沿って一回往動又は復動することで被繊維束巻付け部材31の全周面に亘って繊維束Rがヘリカル巻で巻き付けられる。
【0046】
両端に第1及び第2の端部部材13,14がそれぞれ連結された被巻付け部材15にFWを行う場合は、先ず第1及び第2の端部部材13,14にそれぞれ治具20を組み付ける。第1の端部部材13に治具20を組み付ける際は、支持部24のT字状部24aを孔13dに挿通した後、支持部24をカバー部21の大径部側から軸部22に挿通する。そして、軸部22から突出した雄ねじ部24bにナット26を螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とナット26との間に介装された座金部27を介して軸部22を第1の端部部材13側に押圧し、支持部24を介して治具20が第1の端部部材13に組み付けられる。
【0047】
第2の端部部材14に治具20を組み付ける際は、カバー部21を第2の端部部材14の継手部14b側を覆うように第2の端部部材14に当接させ、ボルト25を座金部27に挿通して軸部22側からカバー部21に挿通する。そして、雄ねじ25aを第2の端部部材14のねじ穴14dに螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とボルト25の頭部との間に介装された座金部27を介して軸部22を第2の端部部材14側に押圧し、ボルト25を介して治具20が第2の端部部材14に組み付けられる。そして、図3に示すように、被巻付け部材15、第1の端部部材13、第2の端部部材14及び治具20が組み付けられると、FW装置30の一組のチャック32間に支持される被繊維束巻付け部材31を構成する。
【0048】
そして、作業者により被繊維束巻付け部材31がFW装置30のチャック32に支持される。次に作業者は、繊維束供給部から繊維束Rを引き出し、開繊機構、樹脂含浸槽、張力調整部等を経て巻付けヘッド33に導き、巻付けヘッド33のガイド37に挿通した後、繊維束Rの端部をカバー部21の所定位置に固定する。繊維束Rの端部の固定作業は作業者が手作業で行い、例えば粘着テープを使用して行われる。
【0049】
また、作業者は、被繊維束巻付け部材31の回転速度、巻付けヘッド33の巻付け時の往復移動幅等の巻付け条件を制御装置Cに入力する。繊維束Rとして炭素繊維のロービングが使用される。ロービングとは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。
【0050】
次にFW装置30による繊維束Rの巻付け運転が開始される。FW装置30が駆動されると、被繊維束巻付け部材31が一定方向に回転され、巻付けヘッド33が被繊維束巻付け部材31の長手方向に沿って往復移動される。繊維束Rは少なくとも最内層となる一層目がヘリカル巻層を形成するように、被繊維束巻付け部材31の軸方向となす角度(巻付け角度)が所定の角度となるように巻き付けられる。巻付け角度は製品のFRPパイプに要求される、曲げ、ねじり、振動等の特性を満足する所定の値(例えば、10〜15°)に設定される。そして、この巻付け角度がセレーション16の歯の延びる方向と軸方向との成す角度と同じため、繊維束Rはセレーション16の溝内に配列されるように巻き付けられる。また、繊維束Rはカバー部21に設けられたピン23の間を通過するように巻き付けられ、ピン23によってカバー部21の周方向への移動が規制された状態で巻き付けられる。
【0051】
ヘリカル巻層が所定層(例えば4層)形成された後、第1及び第2の端部部材13,14と対応する部分及び被巻付け部材15の第1及び第2の端部部材13,14の近傍部に、繊維束Rの巻付け角度がほぼ90°に近い状態で巻き付けられる所謂フープ巻層が所定層(例えば1層)形成される。その後、再びヘリカル巻層が所定層(例えば2層)形成された段階で樹脂が含浸された繊維束Rの巻き付けが完了する。次にポリエステル糸がフープ巻で巻き付けられる。ポリエステル糸が巻き付けられる際に、内側に巻き付けられている繊維束Rに含浸されている樹脂の一部が染み出しポリエステル糸の表面が樹脂で被覆された状態となる。
【0052】
ポリエステル糸の巻付けが完了した後、被繊維束巻付け部材31上に形成された成形体38の両端部を、ピン23の突設位置より繊維束被巻付け部13a,14a寄りの治具20の表面と対向する位置でそれぞれ切断する。第1の端部部材13側の切断位置は、例えば、図6にAで示す位置となり、第2の端部部材14側の切断位置も同様な位置になる。そして、繊維束供給部に繋がる繊維束Rから成形体38が切り離された後、被繊維束巻付け部材31がFW装置30のチャック32から取り外され、成形体38の未硬化の段階で、前記切断位置より軸部22側に巻き付けられた樹脂含浸繊維束が除去される。
【0053】
その後、被繊維束巻付け部材31が成形体38と共に加熱炉に入れられ、所定温度で樹脂が硬化される。硬化温度は樹脂により異なるが、例えばエポキシ樹脂の場合は180℃程度である。加熱硬化後、成形体38が繊維束被巻付け部13a,14aと、カバー部21の先端との間に対応する位置、この実施の形態では環状溝17と対応する位置で切断される。図6に示すように、切断はカッター39により行われる。次に両治具20を取り外された後、回転バランスの検査が行われる。回転バランスが悪い場合は、バランスピースを第1及び第2の端部部材13,14の少なくとも一方に溶接して、バランス調整処理がなされて、筒部材12の端部に第1及び第2の端部部材13,14が結合されたプロペラシャフト11が完成する。
【0054】
治具20を取り外す場合、第1の端部部材13側では、ナット26を緩めて支持部24から取り外し、次にカバー部21を取り外し、最後にT字状部24aを孔13dから取り外す。第2の端部部材14側では、ボルト25の雄ねじ25aと第2の端部部材14のねじ穴14dとの螺合を解除した後、カバー部21を取り外すことで治具20の除去が完了する。
【0055】
この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) FRP製の筒部材12の両端に結合された第1及び第2の端部部材13,14の筒部材12との結合部分における外周面に、最内層の繊維束の配列方向に沿って延びる複数の凸条で構成された係止部(セレーション16)が形成されている。そして、筒部材12の強化繊維は最内層にヘリカル巻層が設けられた複数層に構成され、強化繊維を構成する繊維束Rは最内層において前記係止部により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動が規制されるとともに全長にわたって連続するように配列されている。即ち、FRP製の筒部材に端部部材のセレーションを圧入して製造する場合と異なり、繊維が切断されていない。従って、第1及び第2の端部部材13,14間のねじり強度が、FRP製の筒部材に端部部材のセレーションを圧入して製造されたプロペラシャフトに比較して大きくなり、回転トルクの伝達が良好に行われる。
【0056】
(2) 前記係止部はセレーション16で構成されている。従って、複数の凸条をセレーション16と異なり規則性のない状態で設ける場合に比較して、前記係止部の加工が容易となる。
【0057】
(3) 被巻付け部材15が紙製のため、金属製や樹脂製とした場合に比較して軽量化できるとともにコストも安くなる。
(4) 筒部材12の一端にヨークタイプの継手部13bを備えているため、プロペラシャフトをドライブシャフトと連結するユニバーサルジョイントに一般的な十字軸を使用することができる。
【0058】
(5) プロペラシャフト11を製造する際は、筒状の被巻付け部材15の両端に、第1及び第2の端部部材13,14を連結し、該端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aを除いた箇所を覆うカバー部21を備えた治具20を使用してFWを行う。そして、FWを行った後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化前又は硬化後に切断し、治具20と端部部材13,14との連結を解除することにより、筒部材12の両端に第1及び第2の端部部材13,14が結合されたプロペラシャフト11が製造される。
【0059】
従って、FWの際にマンドレルを使用しないため、マンドレルからの脱型工程が不要となる。その結果、マンドレルの径の管理やその補修(再メッキ等)が不要となるとともに、筒部材12の寸法精度(内径、端面直角度、面粗度)が高くなくてもよく、製造コストが低くなる。また、第1及び第2の端部部材13,14のセレーション16をFRP製の筒部材12に圧入しないため、その分低コストになるとともに、FRP製チューブへセレーションの圧入を行う構成に起因する従来の不具合を解消できる。即ち、端部部材の圧入によりクラックが発生する虞がなく、クラック発生を防止するためにFRP製の筒部材12の精度を高める必要がなく、セレーション加工の精度を高める必要もない。例えば、セレーション16の歯の加工にホブを使用せずに転造でよくなる。また、樹脂含浸繊維束がセレーションの溝内を埋めるように配列された後、樹脂が硬化されるため、筒部材12の内面とセレーション16の溝の底部との間に隙間が存在しないため、端面から水分が侵入するのを防止するシールが不要となる。さらに、セレーション16が熱硬化性樹脂に埋まった状態で熱硬化性樹脂が硬化されるため、従来のFRP製のパイプに後からセレーションを圧入する場合に比較して、セレーション16と熱硬化性樹脂との接着面積が大きくなり、ねじり強度がより大きくなる。
【0060】
(6) 第1及び第2の端部部材13,14は樹脂含浸繊維束が巻き付けられる必要が無い部分をカバー部21で覆われた状態で治具20を介してFW装置30のチャック32に支持され、FWが行われる。従って、FWの際、樹脂含浸繊維束は治具20にも巻き付けられて治具20と対応する箇所で折り返すことができ、第1及び第2の端部部材13,14に巻き付けながら樹脂含浸繊維束を第1及び第2の端部部材13,14で折り返す必要がない。その結果、得られるプロペラシャフト11の回転バランスが良くなる。また、特許文献2に記載の方法と異なり、第1の端部部材13の継手部13bのようにヨークタイプの継手部13bであっても支障なく設けることができる。さらに、第1及び第2の端部部材13,14が金属製で、筒部材12との結合部から突出した部分が存在するため、バランスピースを溶接することができる。
【0061】
(7) FWは少なくとも最内層にヘリカル巻層が形成されるように行われる。第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面には、一定間隔で第1及び第2の端部部材13,14の軸方向に対して、最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条(セレーション16)が形成されている。そして、FWは、ヘリカル巻層を形成する際には、ヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる。従って、樹脂含浸繊維束を巻き付けるのに必要な時間を短縮できて、生産性が向上する。
【0062】
(8) カバー部21にはFW時に樹脂含浸繊維束の配列を規制するピン23が突設されている。従って、第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aに巻き付けられる樹脂含浸繊維束の巻付け角度が適正な値に規制され、プロペラシャフト11のねじり強度の向上に寄与する。
【0063】
(9) FW後、被繊維束巻付け部材31に巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前にピン23の突設位置より繊維束被巻付け部13a,14a寄りの治具20の表面と対向する位置で切断して繊維束供給部に繋がる繊維束Rから切り離す。その切断箇所よりピン23側に巻き付けられた未硬化の樹脂含浸繊維束を除去した後、樹脂の加熱硬化を行う。従って、治具20に巻き付けられた樹脂含浸繊維束のうちピン23と対応する箇所に巻き付けられた樹脂含浸繊維束は樹脂硬化前に除去されるため、硬化後に除去するのに比較して容易に除去でき、治具20を再使用するための手間が少なくなる。例えば、樹脂硬化後にピン23が突出している部分のFRPを除去するには、ピン23を取り外し可能に構成し、ピン23をカバー部21から取り外した後、前記FRPを除去する必要があり、作業が面倒になる。
【0064】
(10) セレーション16は歯の高さが、1層分の繊維束Rの厚さとほぼ同じに形成されているため、1層目のヘリカル巻層と配列方向が軸線に対して対称な2層目を構成する繊維束Rの配列に支障を与えない。
【0065】
(11) 第1及び第2の端部部材13,14に環状溝17が形成されており、治具20が第1及び第2の端部部材13,14に連結された状態では、環状溝17はカバー部21に覆われず、繊維束Rは環状溝17を跨いで巻き付けられる。従って、成形体38の加熱硬化後に環状溝17と対応する位置で成形体38を切断することにより、切断時にカッター39の刃が傷ついたり、あるいは第1及び第2の端部部材13,14が傷つけられることを回避できる。また、バランスピースを環状溝17内に溶接すれば、バランスピースが第1及び第2の端部部材13,14の周面から突出するのを回避できる。
【0066】
(12) 治具20は、カバー部21と一体的に形成され、FW装置30のチャック32に支持可能な軸部22を備えており、第2の端部部材14のように、軸状の継手部14bを有する端部部材であっても、端部部材の軸部はFW装置30のチャック32に支持されることはない。従って、製品の軸部(シャフト)をFW装置30のチャック32で支持してFWを行う特許文献2に開示された方法と異なり、製品の軸部(継手部14b)が傷つく虞がない。
【0067】
(13) 第1の端部部材13と治具20とを連結固定する支持部24は、T字状のシャフトで構成されている。そして、T字状部24aが第1の端部部材13の孔13dと係合した状態で、軸部22から突出した雄ねじ部24bに螺合するナット26を締め付けることで第1の端部部材13と治具20とが連結固定され、ナット26を緩めると、カバー部21と第1の端部部材13との係合が解除される。従って、治具20の第1の端部部材13への組み付け、取り外しが簡単である。
【0068】
(14) 第2の端部部材14と治具20とを連結固定する支持部はボルト25で構成され、その先端部に形成された雄ねじ25aを第2の端部部材14の継手部14bに形成されたねじ穴14dに螺合させて締め付けることで、第2の端部部材14と治具20とが連結固定される。そして、ボルト25を緩めると、カバー部21と第2の端部部材14との係合が解除される。従って、治具20の第2の端部部材14への組み付け、取り外しが簡単である。
【0069】
(第2の実施の形態)
次に第2の実施の形態を図7及び図8に従って説明する。この実施の形態では第1の端部部材13のヨーク径、即ち継手部13bを構成する一組の支持片40aが突設される大径部40の外径が、繊維束被巻付け部13aの外径より大きな場合の製造方法に関するものである。ヨーク径が繊維束被巻付け部13aの外径より大きいと、第1の端部部材13の継手部13bをカバー部21で覆った状態で治具20を第1の端部部材13に連結したときに、カバー部21と繊維束被巻付け部13aとの間に段差部が存在する状態となる。従って、樹脂が含浸された繊維束Rを被繊維束巻付け部材31にFWで巻き付けると、繊維束被巻付け部13aのカバー部21寄りにおいて、繊維束Rがセレーション16の溝内に配列するのが困難となる。
【0070】
この実施の形態はそのような不具合を解消することができる製造方法に関するものである。そして、第1の端部部材13が繊維束被巻付け部13a側と継手部13b側とに分割され、FWによる繊維束Rの巻付け、成形体38の硬化及び治具20の取り外しが完了した後、継手部13b側が繊維束被巻付け部13a側に結合される点が第1の実施の形態と大きく異なっている。第1の実施の形態と同様な部分は同一符号を付して詳しい説明を省略する。図7はプロペラシャフト11の第1の端部部材13側の部分模式分解側面図、図8は治具の連結状態を示す模式部分断面図である。
【0071】
図7に示すように、第1の端部部材13は繊維束被巻付け部13aが形成された支持筒41と、継手部13bとから構成され、筒部材12の形成が完了した後、支持筒41と継手部13bとが摩擦圧接で接合される。支持筒41には、筒部材12に結合された状態で筒部材12から突出する突出部41aが形成されている。また、支持筒41の中心には、ねじ孔41cが形成されている。継手部13bの大径部40には突出部41aの先端の環状部と同径の接合部40bが突設されている。
【0072】
図8に示すように、第1の端部部材13に連結される治具20は第1の実施の形態と異なり、第1の端部部材13を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部としてボルト25を備えている。従って、治具20は第2の端部部材14側の治具20と同様な構成となる。ボルト25は雄ねじ25aがねじ孔41cに螺合可能な太さに形成されている。
【0073】
この実施の形態では被巻付け部材15の一端に支持筒41が、他端に第2の端部部材14がそれぞれ嵌合され、支持筒41及び第2の端部部材14に治具20が組み付けられて被繊維束巻付け部材31が構成される。支持筒41に対する治具20の組み付けは、図8に示すように、カバー部21を支持筒41の突出部41aを覆うように支持筒41に当接させ、ボルト25を座金部27に挿通して軸部22側からカバー部21に挿通する。そして、雄ねじ25aを支持筒41のねじ孔41cに螺合させて締め付けることにより、軸部22の端面とボルト25の頭部との間に介在する座金部27を介して軸部22を支持筒41側に押圧し、ボルト25を介して治具20が支持筒41に組み付けられる。
【0074】
そして、前記のように構成された被繊維束巻付け部材31が第1の実施の形態と同様にFW装置30のチャック32に支持された状態でFWが行われ、被繊維束巻付け部材31上に成形体38が形成される。次に、成形体38の未硬化の段階で、カバー部21上に巻き付けられている樹脂含浸繊維束の大部分が除去された後、成形体38が硬化され、加熱硬化後、成形体38が所定の位置で切断される。
【0075】
次に、筒部材12に結合された支持筒41の突出部41aに継手部13bが摩擦圧接によりに溶着される。継手部13bを突出部41aに溶着する際には、筒部材12を固定し、継手部13b側を回転させた状態で、継手部13bの接合部40bの端面を突出部41aの端面に圧接させる。摩擦圧接装置(図示せず)には、図7に鎖線で示すように、突出部41aと係合して支持筒41を芯出しした状態で支持する金属製の芯出し支持部42が設けられている。そして、芯出し支持部42が突出部41aと係合することにより、支持筒41はその回転が阻止された状態で支持されて摩擦圧接が行われる。継手部13bの溶着が完了すると、プロペラシャフト11が完成する。
【0076】
この実施の形態の製造方法では、第1の実施の形態の(5)〜(12),(14)と同様の効果を有する他に次の効果を有する。
(15) ヨークタイプの継手部13bを備えた第1の端部部材13は、FWにより支持筒41が結合された筒部材12の完成後に、継手部13bが支持筒41に溶着される。従って、継手部13bの大径部40の外径が繊維束被巻付け部13aの外径より大きな場合でも、繊維束被巻付け部13aのセレーション16の溝内に最内層の繊維束Rが確実に充填された状態に配列することができる。
【0077】
(16) 継手部13bの大径部40の外径が繊維束被巻付け部13aの外径より小さな場合でも、継手部13b以外の部分を予め製造して保管しておき、必要なときに継手部13bを溶着することにより、継手部13bの形状が車種に対応して多種存在する場合に対応し易くなる。また、継手部13bを除いた他の部分からなる中間製品の状態で、部品メーカーから組立メーカーに納品し、組立メーカーが独自の継手部13bを溶着することも可能となる。
【0078】
(17) 第1の端部部材13を軸部22と一体回転可能に支持するためのT字状部24aを設ける必要がなく、第1及び第2の端部部材13,14に組み付ける治具20の構成を同じ構成にすることが可能となる。
【0079】
(18) 継手部13bと支持筒41との溶着が摩擦圧接により行われる。従って、溶着作業の際に火花が飛ぶ虞がなく、火花の飛散防止処置が不要になる。(19) 筒部材12は熱に比較的弱いため、筒部材12に結合された支持筒41に金属製の継手部13bを摩擦圧接により溶着する際、摩擦圧接による熱で筒部材12が加熱されるのを抑制する必要がある。この実施の形態では、金属製の芯出し支持部42が支持筒41に接触した状態で摩擦圧接が行われるため、摩擦圧接の際に発生する熱が芯出し支持部42を介して逃げる状態となり、筒部材12が加熱されるのを抑制することができる。
【0080】
なお、実施の形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 筒部材12の最内層を構成し、互いに交差せずに配列される繊維束は、ヘリカル巻に限らず、フープ巻であってもよい。この場合、第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、ねじ状の溝が形成される。また、フープ巻の範囲はFRP製の筒部材12の全長に亘ってもよいし、繊維束被巻付け部13a,14aを覆う部分のみでもよい。
【0081】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが該係止部により第1及び第2の端部部材13,14に対する周方向への相対移動を規制可能な形状であればよく、セレーション16に限らない。例えば、繊維束Rの配列方向に沿って延びるように形成された複数の凸条を設けてもよい。凸条は繊維束被巻付け部13a,14aの軸方向全長に連続している必要はなく、また、隣接する凸条間の周方向における間隔も一定でなくてもよい。この場合も、同一層においては繊維束Rが互いに平行に配列される構成において、最内層のヘリカル巻層が所定の巻付け角度で巻き付けられるのに凸条が寄与する。
【0082】
〇 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部は、最内層に配列される繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条に限らず、軸方向に対する配列角度が互いに反対となるヘリカル巻層を構成するいずれの繊維束Rに対してもその配列を案内可能な多数の凸部を係止部として設けてもよい。例えば、図9(a)に示すように、繊維束被巻付け部13aの表面に多数のピン43を突設したり、図9(b)に示すように、溝が繊維束Rの配列角度と同じ方向に延びるローレット44を形成してもよい。繊維束被巻付け部14aについても同様なピン43やローレット44を設けてもよい。図9(a)ではピン43の長さを誇張して表しているが、ピン43は少なくともヘリカル巻層1層分の厚さに相当する長さ以上で、最外層に配列された繊維束Rの外側に突出しない長さが好ましい。ローレット44の溝の深さは、ヘリカル巻層1層分の厚さに相当する深さが加工の容易性の点から好ましい。
【0083】
これらの係止部(ピン43又はローレット44)が設けられた第1及び第2の端部部材13,14を使用した場合は、同一層において繊維束Rが互いに平行に配列される構成は必ずしも必要ではない。同時に巻き付ける繊維束の本数が1本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、ヘリカル巻層を構成する繊維束は同じ層内で互いに交差するように配列される。従って、係止部がヘリカル巻層を構成する繊維束Rの配列方向に沿って延びる凸条の場合は、繊維束Rを該凸条が存在する面内で交差するように配列することが阻止されるため一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成すると、繊維束の配列が円滑に行われない。しかし、前記構成のピン43やローレット44が設けられた場合は、同時に巻き付ける繊維束の本数が1本の一般的なFW装置を使用してヘリカル巻層を形成しても、繊維束が係止部によって案内されて所定の巻付け角度で良好に配列される。
【0084】
○ 繊維束被巻付け部13a,14aの外周面に形成される係止部として、外周面をサンドブラスト等で粗面化した構成としてもよい。この場合も、最内層に形成されるヘリカル巻層を構成する繊維束の周方向への移動が規制される。
【0085】
〇 第1及び第2の端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aの外径は一定に限らず、例えば、図10(a)〜(d)に示すように、テーパ部を有する形状に形成してもよい(第1の端部部材13のみ図示)。なお、図ではテーパを誇張して表している。繊維束被巻付け部13a,14aが継手部13b,14b側に向かって拡径となるテーパ部を有する第1及び第2の端部部材13,14を使用した場合は、第1及び第2の端部部材13,14が筒部材12から抜け難くなる。
【0086】
○ 第1及び第2の端部部材13,14に環状溝17を設けなくてもよい。しかし、成形体38を切断する際にカッター39が第1及び第2の端部部材13,14に当たるのを防止するため段差部を設けるとともに、段差部にカバー部21の端部が、繊維束被巻付け部13a,14aの端面に当接するのを規制する凸部(例えばピン)を設けてもよい。
【0087】
○ 第2の実施の形態において、成形体38の切断時にカッター39がカバー部21に当たるのを防止するため、カバー部21の外周面に環状溝を設けたり、段差部を設けてもよい。
【0088】
〇 被巻付け部材15は紙製の円筒に限らず、樹脂製としてもよい。耐熱性が不充分な熱可塑性の樹脂製とした場合は、成形体38を硬化させる際に被巻付け部材15が溶融し、筒部材12の内面に偏った状態で付着して回転バランス不良となり易い。従って、熱硬化性樹脂製もしくは耐熱性の熱可塑性樹脂とする方がよい。耐熱性の熱可塑性樹脂とする場合、FRPマトリックス樹脂の硬化温度(百数十℃)より耐熱温度が高い樹脂がより好ましいが、マトリックス樹脂の初期硬化温度(100℃程度)より耐熱温度が高ければ適用可能である。被巻付け部材15が紙製の場合は、プロペラシャフト11を使用する際、被巻付け部材15の部分は回転トルクの伝達に殆ど寄与しないが、樹脂製とすることにより回転トルクの伝達に寄与する。また、樹脂製の方が紙製より被巻付け部材15の真円精度が高く、回転バランスが良い。熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、アルキッド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂、シリコーン樹脂、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。耐熱性の熱可塑性樹脂のうち、エポキシ(マトリックス)硬化温度以上の耐熱性があるものとして、例えば、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、液晶ポリマー(LCP)、ポリアミドイミド(PAI)、熱可塑性ポリイミド(PI)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリサルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルイミド(PEI)等の所謂スーパーエンプラが挙げられる。また、エポキシ初期硬化温度より耐熱性がある熱可塑性樹脂としては、ポリアミド=ナイロン(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート=ポリエステル(PET)等の汎用エンプラで耐熱性が比較的高いものが挙げられる。
【0089】
〇 被巻付け部材15として熱硬化性樹脂を含浸、硬化させた紙製としてもよい。この場合も樹脂製の被巻付け部材15を使用した場合と同様な効果が得られる他に、熱硬化性樹脂だけで被巻付け部材15を製造する場合に比較して製造が簡単になる。
【0090】
〇 被巻付け部材15としてFRP製の円筒を使用してもよい。強化繊維としては炭素繊維が好ましい。また、本硬化したFRP製の円筒に限らず、プレキュア(前硬化)された状態のFRP製の円筒を使用してもよい。プレキュアされた状態のFRP製の円筒は成形体38の硬化時に本硬化されるため、製品であるプロペラシャフト11として完成した段階では、回転トルクの伝達に寄与する。そして、炭素繊維強化のFRP製の円筒を使用した場合は、被巻付け部材15に巻き付けられた繊維束Rによって形成されるヘリカル巻層の層数を減らすことも可能になり、小径化、軽量化に寄与する。また、プレキュアされた状態のFRP製の円筒の場合、その上に巻き付けられる樹脂含浸繊維束との接着強度が、本硬化されたFRP製の円筒に巻き付ける場合に比較して高くなる。
【0091】
〇 被巻付け部材15として金属製の円筒を使用してもよい。金属製とする場合は、軽量で耐熱性及び剛性の高い金属で形成されたものが好ましい。この場合も紙製より被巻付け部材15の真円精度が高く、回転バランスが良くなる。
【0092】
○ 被巻付け部材15の外周面に係止部を設けてもよい。係止部としては例えば、表面を荒らして多数の凹凸を形成したものや、繊維束Rの配列方向に沿って延びる溝を有するローレット加工を施したものが挙げられる。この場合、前記係止部により繊維束Rの巻き付け時に繊維束を所定の位置に巻き付け易くなる。また、前記係止部により繊維束Rが被巻付け部材15の周方向に相対移動するのが規制されるため、被巻付け部材15を金属製や樹脂製として被巻付け部材15にもトルク伝達機能を持たせる構成においてより有効となる。
【0093】
○ 被巻付け部材15と第1及び第2の端部部材13,14との結合は、13,14の嵌合筒部13c,14cの外周面に被巻付け部材15の端部を嵌合させるのではなく、嵌合筒部13c,14cの内面に被巻付け部材15の端部を嵌合させてもよい。また、嵌合筒部13c,14cを突設せずに、繊維束被巻付け部13a,14aの端面に被巻付け部材15の端部が嵌合される嵌合穴を形成してもよい。それらの場合、被巻付け部材15を一定径とせずに、端部を小径としてもよい。
【0094】
○ 被巻付け部材15に制振作用を持たせてもよい。プロペラシャフト11が自動車に組み付けられた場合、露出状態で使用されるため、走行中にタイヤが跳ねた小石等の異物が当たることがあり、その際、大きな音が発生する。被巻付け部材15に制振作用を持たせることにより、前記異物が当たった際の振動を吸収して大きな音の発生を抑制することができる。例えば、ボール紙製や段ボール製の筒の表面に樹脂の含浸を阻止する処理を施したり、被巻付け部材15の材質を独立気泡の発泡体で形成する。独立気泡の発泡体としては、例えばポリイミド系の発泡プラスチックなどが適用可能である。
【0095】
〇 端部部材の組み合わせは、ヨークタイプの第1の端部部材13と、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14との組み合わせに限られない。例えば、プロペラシャフト11の使用態様に応じて、ヨークタイプの第1の端部部材13が筒部材12の両端に結合された構成や、シャフトを有するタイプの第2の端部部材14が筒部材12の両端に結合された構成としてもよい。これらのプロペラシャフト11も前記各実施の形態と同様にして製造することができる。
【0096】
○ 筒部材12は必ずしも結合部分12aの肉厚が厚く形成されるものに限らず、全長にわたって一定の厚さであってもよい。両端部部材13,14はFRP製の筒部材12に後から圧入するのではなく、各端部部材13,14の繊維束被巻付け部13a,14aに樹脂が含浸された繊維束Rを巻き付けて硬化させるため、圧入時にFRP製の筒部材12に掛かる応力に対抗する機能を有するフープ巻層18bの層数を少なくしたり省略してもよい。省略した場合は、筒部材12は全長にわたって一定の厚さとなり、軽量化にも寄与する。
【0097】
〇 成形体38の一部(樹脂含浸繊維束)を硬化前にカバー部21から除去する際、ピン23を抜いた後に除去してもよい。
〇 成形体38の硬化前には繊維束供給部に繋がる繊維束の切断だけを行い、不要な部分の除去は成形体38の硬化後に、ピン23を抜いた状態で除去するようにしてもよい。ピン23が取り外し不能な場合は、成形体38の硬化後に不要な部分を除去するには、不要な部分を細かく破壊して除去する必要があるが、ピン23を取り外し可能にすることにより、成形体38の硬化後に不要な部分を除去するのが容易となる。
【0098】
〇 カバー部21のピン23を省略してもよい。ピン23を省略した構成では、成形体38の硬化後に不要な部分の除去を行う場合でも、ピン23の抜き取り作業が不要となり、成形体38の不要部分の除去作業が容易になる。
【0099】
〇 ヨークタイプの第1の端部部材13に組み付ける治具20において、繊維束被巻付け部13a側と継手部13b側との間にある壁にねじ孔を形成し、支持部としてボルトを使用してもよい。この場合、T字状部24aを備えた支持部24より構造が簡単になる。
【0100】
○ 治具20は、第1及び第2の端部部材13,14を軸部22と被巻付け部材15の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、軸部22と一体回転可能な支持部と、カバー部21とを一体に形成してもよい。例えば、カバー部の内側において軸部22と同軸にシャフトを設けその先端に雄ねじ部を設ける。そして、第1の端部部材13には前記雄ねじ部が螺合されるねじ孔を又はねじ穴を設ける。
【0101】
○ 治具20の軸部22をカバー部21と分離可能とし、軸部22と前記支持部とを一体に形成してもよい。例えば、カバー部21の端部に軸部22が嵌合される孔を形成し、軸部22をその孔に嵌合した状態で雄ねじ部を第1及び第2の端部部材13,14のねじ孔又はねじ穴に螺合させる。
【0102】
○ 第2の端部部材14に取り付ける治具20の芯出しは、カバー部21の端部内面を、継手部14bの基端の段部に嵌合することにより行う構成に代えて、継手部14bの軸部が治具20の軸部22の内面と嵌合することで芯出しが行われる構成としてもよい。
【0103】
○ 治具20と端部部材13,14とを固定する方法は、上記実施の形態に限らない。例えば、第1の端部部材13を固定する方法として、カバー部21にヨークタイプの継手部13bに形成されている孔13dと対応する孔を形成する。そして、カバー部21が継手部13bの段部と嵌合した状態で、その孔及び孔13dが対応し、その状態で孔及び孔13dを貫通するようにピンを挿入して、治具20と第1の端部部材13とを固定してもよい。
【0104】
また、第2の端部部材14と治具20とを固定する場合、継手部14bのシャフト部にねじ穴14dを設けずに、第2の端部部材14と治具20とを固定する補助部材を使用する。補助部材は板材の両端が直角に折り曲げられて形成され、継手部14bのシャフト部の中間位置に形成された溝部に係止される係止部が一端に形成され、ボルト25の雄ねじ25aが螺合されるねじ孔が他端に形成されている。そして、係止部が前記溝部に係止されて第2の端部部材14に固定された状態で、ボルト25の雄ねじ25aがねじ孔に螺合されることにより第2の端部部材14と治具20とが固定される。
【0105】
○ 筒部材12に巻き付けられる繊維束Rのうち、少なくとも最内層に配列されるヘリカル巻層を構成する繊維束Rが同一層内において互いに平行に配列されていれば、他の層は互いに平行に配列されていなくてもよい。例えば、最内層のヘリカル巻層のみ全周一斉に繊維束Rを配列し、他の層は1〜3本の繊維束の巻付けにより構成してもよい。
【0106】
○ FW後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に治具20の端部と繊維束被巻付け部13a,14aとの間と対応する位置で切断する。そして、治具20を第1及び第2の端部部材13,14から取り外し、被巻付け部材15及び第1及び第2の端部部材13,14に巻き付けられた樹脂含浸繊維束(成形体38)を硬化する。切断前に切断箇所を含む一定幅の領域にテープを巻き付け、テープの上から成形体38を切断する。この場合、切断作業が1回で済む。また、テープを巻き付けた状態で成形体38を切断するため、未硬化の状態でも、切断端部の繊維束Rが毛羽立つのが抑制される。
【0107】
○ 筒部材12との結合部分にセレーション16等の係止部が形成された端部部材が筒部材12の一端に結合され、他端にはセレーションが形成された継手を筒部材12が形成された後から圧入する構成としてもよい。この構成のプロペラシャフト11を製造する場合は、被巻付け部材15の一端に第1及び第2の端部部材13,14の一方を嵌合するとともに治具20を組み付け、他端にはFW装置30のチャック32に支持される軸部を有する支持部材組み付けて被繊維束巻付け部材31を構成する。そして、FW法により一端に端部部材が結合されたFRP製の筒部材12を形成し、セレーションが形成された継手を筒部材12の他端に圧入する。この場合でも、セレーションが形成された継手をFRP製のパイプの両端に圧入する構成に比較して、圧入に起因する不具合を抑制することができる。
【0108】
○ 筒部材12との結合部分にセレーション16等の係止部が形成された端部部材が筒部材12の両端に結合されたプロペラシャフト11であっても、FWの際に片側のみ治具20を介してFW装置30に支持し、片側は治具20を介さずにチャック32に支持してもよい。例えば、治具20を組み付けない側の端部部材は、チャック32に支持される軸部を有する軸部付き端部部材を使用する。そして、FWにより樹脂含浸繊維束が被巻付け部材15及び端部部材に巻き付けられる。治具20を使用しない側は、端部部材で折り返すように繊維束が巻き付けられるが、両側とも端部部材に巻き掛けられて繊維束が折り返す構成に比較して、プロペラシャフト11の回転バランスは良くなる。
【0109】
○ セレーション16の歯の高さ、即ち溝の深さは1層分の繊維束の厚さとほぼ同じに限らず、最内層の繊維束の厚さの1/4層程度〜1層分あれば充分である。
【0110】
○ 治具20を第1及び第2の端部部材13,14に連結する際、第1及び第2の端部部材13,14に当接されるカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との隙間から、樹脂がカバー部21の内側に入り込むのを防止した状態で繊維束Rの巻き付けを行ってもよい。例えば、カバー部21の端部の外周面に、耐熱性のテープを第1及び第2の端部部材13,14の境に跨るように巻き付ける。ここで言う「耐熱性のテープ」とは、FWの後の樹脂の硬化時の温度で溶融しないテープを意味する。カバー部21の端部を第1及び第2の端部部材13,14に当接させて治具20を第1及び第2の端部部材13,14連結したただけでは、加熱硬化時に当接部から樹脂がカバー部21の内側に侵入する虞がある。しかし、耐熱性のテープを巻き付けることにより、FW後に、成形体38を硬化させる際、樹脂がカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との隙間から、カバー部21の内側に入り込んで硬化することを防止できる。その結果、治具20と第1及び第2の端部部材13,14との連結を解除する際、カバー部21の取り外しが難くなるのを防止することができる。
【0111】
○ 樹脂がカバー部21の内側に入り込むのを防止する手段として、治具20を第1及び第2の端部部材13,14に連結する際、第1及び第2の端部部材13,14に当接されるカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との間に耐熱性のシールリングを介装してもよい。耐熱性のシールリングとはFWの後の樹脂の硬化時の温度に耐え得るものであり、例えばシリコーンゴム製、フッ素樹脂製のものが挙げられる。この場合も、FW後に、成形体38を硬化させる際、樹脂がカバー部21の端面と、第1及び第2の端部部材13,14との隙間から、カバー部21の内側に入り込んで硬化することを防止できる。図8のように、カバー部21の外周面と、第1及び第2の端部部材13,14の外周面との間に段差がある状態でカバー部21を第1及び第2の端部部材13,14に当接させる場合、耐熱性のテープを巻き付けたのでは、シールを良好に行うことが難しい。しかし、シールリングを使用すると、段差がある場合でもシールを良好に行うことができる。
【0112】
○ 摩擦圧接により支持筒41と継手部13bとを接合して第1の端部部材13を構成する場合、支持筒41を摩擦圧接に必要な力で保持できれば、突出部41aの形状は任意である。例えば、突出部41aの外周面にギヤ部や多角形の把持部を設けてもよい。
【0113】
〇 第1及び第2の端部部材13,14の材質は金属に限らず、セラミックスでもよい。しかし、金属の方がバランスピースの取付けが容易、動力伝達シャフトの取り扱いの際に第1及び第2の端部部材13,14がどこかにぶっかっても壊れ難い等の利点がある。
【0114】
○ 動力伝達用シャフトは、プロペラシャフト11用に限定されず、その他の動力伝達用シャフトに適用してもよい。
○ 筒部材12の形状は全体を円筒状とするものに限定されず、両端部を円筒状とし、中間部を多角形筒状としてもよい。その場合、被巻付け部材15も対応する多角形筒状に形成される。
【0115】
○ 筒部材12の材料であるFRPは、強化繊維として炭素繊維を、マトリックス樹脂としてエポキシ樹脂を使用したものに限らない。例えば、強化繊維として、アラミド繊維、ガラス繊維等の一般に高弾性・高強度といわれるその他の繊維を採用したり、マトリックス樹脂として、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂等のその他の熱硬化性樹脂を採用してもよい。しかし、プロペラシャフト11の場合は、炭素繊維とエポキシ樹脂の組み合わせが強度やコストの点で好ましい。
【0116】
○ FRPのマトリックス樹脂が熱硬化性樹脂であることに限定されない。例えば紫外線硬化樹脂をマトリックス樹脂として使用してもよい。
以下の技術的思想(発明)は前記実施の形態から把握できる。
【0117】
(1) 請求項7に記載の発明において、前記端部部材は少なくとも一方がヨークタイプの継手である。
(2) 請求項9に記載の発明において、FW時に1〜3本の繊維束が同時に巻き付けられる。
【0118】
(3) 請求項9又は前記技術的思想(2)に記載の発明において、前記凸部はピンによって構成されている。
(4) 請求項9又は前記技術的思想(2)に記載の発明において、前記係止部は繊維束の巻き付け角度に対応したローレットによって構成されている。
【0119】
(5) 請求項9に記載の発明において、前記係止部は一定間隔で端部部材の軸方向に対して最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条で構成され、FWは少なくとも最内層のヘリカル巻層を形成する際は、当該最内層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる。
【0120】
(6) 請求項8〜請求項10のいずれか一項に記載の発明において、FW後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に前記治具の端部と前記繊維束被巻付け部との間と対応する位置で切断した後、治具を端部部材から取り外し、被巻付け部及び端部部材に巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化する。
【0121】
(7) 請求項14に記載の発明において、前記ピンは前記カバー部に取り外し可能に設けられている。
(8) 繊維強化プラスチック製シャフトの少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフトの製造方法であって、
被巻付け部材の少なくとも一端に繊維束被巻付け部を備えた端部部材を取り付け、該端部部材の前記繊維束被巻付け部を除いた箇所をカバー部を備えた治具で覆った状態でFWを行い、その後前記治具を取り外す動力伝達シャフトの製造方法。
【0122】
(9) 請求項8〜請求項12及び前記技術的思想(2)〜(5)に記載の発明において、前記治具を前記端部部材に連結する際、前記端部部材に当接される前記カバー部の端面と、前記端部部材との隙間から、樹脂がカバー部の内側に入り込むのを防止した状態でフィラメントワインディングを行う。
【0123】
【発明の効果】
以上、詳述したように、請求項1〜請求項8に記載の発明の動力伝達シャフトによれば、FRP製チューブへのセレーションの圧入を行うための構成に起因する不具合を解消でき、しかも、回転トルクの伝達が良い。また、請求項9〜請求項13に記載の発明によれば、前記の効果を有する動力伝達シャフトを容易に製造することができ、ヨークタイプの継手を設けることが可能になる。また、請求項14〜請求項16に記載の発明の治具を使用することで、前記動力伝達シャフトの製造が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【図1】(a)は第1の実施の形態のプロペラシャフトの一部破断側面図、(b)は(a)のA−A線における模式断面図。
【図2】模式分解斜視図。
【図3】治具が組み付けられた状態の一部破断模式断面図。
【図4】FW装置の部分概略図。
【図5】図4のB−B線における模式拡大断面図。
【図6】樹脂含浸繊維束の切断位置を示す模式断面図。
【図7】第2の実施の形態の部分模式分解断面図。
【図8】治具の連結状態を示す模式部分断面図。
【図9】(a)は別の実施の形態の端部部材の斜視図、(b)は別の端部部材の側面図。
【図10】(a)〜(d)は別の実施の形態の端部部材の側面図。
【図11】(a)は従来技術のプロペラシャフトの部分分解断面図、(b)はプロペラシャフトの断面図、(c)は(b)の部分拡大図。
【図12】(a),(b)は別の従来技術のプロペラシャフトの製法を示す模式斜視図。
【符号の説明】
R…繊維束、11…動力伝達シャフトとしてのプロペラシャフト、12…筒部材、12a…結合部分、13,14…端部部材、13a,14a…繊維束被巻付け部、13b,14b…継手部、13d…孔、15…被巻付け部材、16…セレーション、18a,18c…ヘリカル巻層、20…治具、21…カバー部、22…軸部、23…ピン、24…支持部、24a…固定部としてのT字状部、24b…雄ねじ部、25…支持部としてのボルト、30…フィラメントワインディング装置(FW装置)、32…回転支持部としてのチャック、43…係止部としてのピン、44…係止部としてのローレット。
Claims (16)
- 繊維強化プラスチック製の筒部材の両端に端部部材が結合された動力伝達シャフトであって、
前記端部部材の少なくとも一方は、前記筒部材との結合部分における外周面に係止部が形成され、前記筒部材の強化繊維は複数の層を構成するように前記外周面において前記端部部材に巻き付けられ、かつ最内層を構成する繊維束は互いに交差せずに配列され、前記係止部により前記端部部材に対する周方向への相対移動が規制されている動力伝達シャフト。 - 前記最内層は繊維束が互いに平行に配列され、かつ全長にわたって連続しているヘリカル巻にて構成されている請求項1に記載の動力伝達シャフト。
- 前記複数の層を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は前記係止部を有する端部部材側の端部が切断されている請求項2に記載の動力伝達シャフト。
- 前記複数の層を構成する繊維束のうちヘリカル巻で配列された繊維束は同一層において互いに平行に配列されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の動力伝達シャフト。
- 前記係止部は前記最内層の繊維束の配列方向に沿って延びる複数の凸条で構成されている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の動力伝達シャフト。
- 前記係止部はセレーションで構成されている請求項5に記載の動力伝達シャフト。
- 前記端部部材の両方に前記係止部が設けられている請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の動力伝達シャフト。
- 前記端部部材は少なくとも一方がヨークタイプの継手部を備えている請求項7に記載の動力伝達シャフト。
- 繊維強化プラスチック製シャフトの少なくとも一端に端部部材が結合された動力伝達シャフトの製造方法であって、
筒状の被巻付け部材の少なくとも一端に、外周面に係止部が形成された繊維束被巻付け部を備えた端部部材を取り付け、該端部部材の前記繊維束被巻付け部を除いた箇所を覆うカバー部を備えた治具を前記端部部材に対して前記被巻付け部材との結合側と反対側から取り外し可能に連結し、前記被巻付け部材を前記端部部材が取り付けられた側は前記治具を介してフィラメントワインディング装置の回転支持部に一体回転可能に支持し、前記治具が取り付けられない側は前記回転支持部に支持される軸部を有する軸部付き端部部材又は前記回転支持部に支持される軸部を有する支持部材を介して前記回転支持部に一体回転可能に支持し、その状態でフィラメントワインディングを行った後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を硬化前又は硬化後に切断し、前記治具と端部部材との連結を解除し、前記支持部材を使用した場合は該支持部材も取り外す動力伝達シャフトの製造方法。 - フィラメントワインディングは少なくとも最内層にヘリカル巻層が形成されるように行われ、前記係止部は前記最内層の繊維束の配列方向を所定方向に規制可能に規則的に設けられた複数の凸部によって構成されている請求項9に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
- 前記係止部は一定間隔で端部部材の軸方向に対して最内層に形成されるヘリカル巻層の樹脂含浸繊維束の配列角度と等しい角度で互いに平行に延びる複数の凸条で構成され、フィラメントワインディングはヘリカル巻層を形成する際は、ヘリカル巻層を構成する全ての樹脂含浸繊維束の巻付けが同時に行われる請求項10に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
- 前記カバー部にはフィラメントワインディング時に樹脂含浸繊維束の配列を規制するピンが突設され、フィラメントワインディング後、巻き付けられた樹脂含浸繊維束を、樹脂硬化前に前記ピンの突設位置より前記繊維束被巻付け部寄りの治具の表面と対向する位置で切断して繊維束供給部に繋がる繊維束から切り離し、その切断箇所より前記ピン側に巻き付けられた未硬化の樹脂含浸繊維束を除去した後、樹脂の加熱硬化を行い、その後、前記繊維束被巻付け部と治具の端部との間と対応する位置で繊維束を硬化樹脂とともに切断し、治具を端部部材から取り外す請求項9〜請求項11のいずれか一項に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
- 前記端部部材は前記被巻付け部材の両端に取り付けられる請求項9〜請求項12のいずれか一項に記載の動力伝達シャフトの製造方法。
- 少なくとも一方の端部に端部部材が取着された被巻付け部材にフィラメントワインディング法により前記端部部材の一部及び前記被巻付け部材に樹脂含浸繊維束を巻き付ける際に、前記被巻付け部材をフィラメントワインディング装置の回転支持部に取り付けるための治具であって、
前記端部部材の樹脂含浸繊維束が密着して巻き付けられる部分を除いた部分を覆うとともに、前記フィラメントワインディング時に樹脂含浸繊維束の一部が巻き付けられる筒状のカバー部と、
前記カバー部と一体的に形成され、前記フィラメントワインディング装置の回転支持部に支持可能な軸部と、
前記端部部材を前記軸部と前記被巻付け部材の回転中心とが同軸となる状態で支持可能で、前記軸部と一体回転可能な支持部と
を備えた治具。 - 前記カバー部の周面にはピンが一定ピッチで周方向に沿って環状に設けられている請求項14に記載の治具。
- 前記支持部は、一端側に前記端部部材に取り外し可能に固定される固定部が設けられ、前記固定部が前記端部部材に固定された状態で他端側が前記軸部に形成された孔から前記カバー部の外部に突出可能な長さのシャフトで構成され、該シャフトには前記軸部から突出する位置に雄ねじ部が形成されている請求項14又は請求項15に記載の治具。
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