JP2004278702A - 無給油チェーン - Google Patents

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Yoshio Okumura
善雄 奥村
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Abstract

【課題】無給油にて保持されるブシュ及びピン間のオイルが高環境下においても早期に劣化することを防止してチェーンの耐久性を向上する。
【解決手段】ピン3は、リン酸マンガン皮膜処理が施されて、その表面にリン酸マンガン系皮膜12を形成する。リン酸マンガン系皮膜は、高温域にあっても触媒反応が進まず、かつ多孔質からなり、該多孔を介してピン素地の鉄成分が境界面の酸素イオンと結合し易く、その分、高温環境下においても、焼結ブシュ7から滲出したオイルの劣化を抑制して、オイルの劣化を遅延すると共にスラッジの発生を抑制し、かつ上記多孔質に基づきオイルの吸収性及び保持性を向上し、オイルが劣化しない低粘度状態に保持されているにも拘ず、上記オイルの遠心力等による飛散を防止する。
【選択図】 図2

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、無給油環境においてオイルを介在して互に摺接するピン及びブシュを有する無給油チェーンに係り、特に含油焼結材からなるブシュを用いた焼結ブシュチェーンに適用して好適であり、詳しくは比較的高温環境下にあっても、ピン及びブシュとの間のオイルの劣化を抑制した無給油チェーンに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、焼結ブシュチェーンは、焼結ブシュと浸炭焼入ピンよりなる軸受装置を有しており、無給油状態でチェーンの滑らかな屈曲性を保持していた。しかし、該焼結ブシュチェーンは、オートバイ用チェーンのように、その使用条件が苛酷な場合、ブシュ及びピンの間に凝着現象が発生したり、また浸炭焼入ピンの表面が酸化・摩耗して、これにより焼結ブシュの空孔が目詰りし、上述した焼結ブシュチェーン特有の効果を充分発揮することができなかった。
【0003】
本出願人は、焼結ブシュチェーンのピンにニッケルメッキを施し、該ピン表面にニッケル層を形成し、もってニッケル層の触媒作用に基づき焼結含油ブシュから滲出したオイルを酸化して、該酸化により高粘度化したグリース状の油膜をピン及び焼結含油ブシュとの間に介在することにより、高耐摩耗性及び長寿化を図った焼結ブシュチェーンを案出した(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】
特公昭63−43610号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記ピンにニッケルメッキを施した焼結ブシュチェーンは、特に、使用温度が常温付近であるような環境において優れた耐摩性を示し、広い用途で使用されている。一般に、このようなチェーンの焼結ブシュに含浸せしめているオイルには耐熱性が必要なく、安価な鉱物油が適用される。仮に、耐熱性に優れ比較的高価なエステル系のような合成油を含浸せしめたとしても、常温付近における耐摩性はさほど優れないが(後述)、上記鉱物油を含浸させた焼結ブシュチェーンの使用温度が80〜100[℃]を超えると、オイルの蒸発損量が大きくなったり、屈曲不良や異常伸びなどの問題が生じる場合が多い。
【0006】
高温環境における耐摩性を改善する場合、耐熱性に優れたオイルを適用する方法が簡便であり、広く適用される。しかし、耐熱性に優れるオイルでは、常温における粘度が高く、常温付近では焼結ブシュの孔からのオイルのしみだし効果が継続的に得られ難く、オイルの消耗に先行して摩耗粉等による焼結ブシュの目詰まりが生じ易く、さほど優れた摩耗寿命を得ることができない。すなわち、耐熱性に優れたオイルを適用することにより、耐熱環境での摩耗寿命を延命することができるが、そのようなチェーンを常温付近で使用すると、比較的高価なオイルを適用しても、従来の焼結ブシュチェーンよりも摩耗寿命が劣るといった問題が生じる懸念を有する。
【0007】
ところで、上記ピンにニッケルメッキを施した焼結ブシュチェーンが優れた耐摩性を示す理由は、ニッケルの触媒反応によりオイルが高粘度化してグリース状となり、ピン、ブシュ間に潤滑剤を長期にわたって保持できるためと理解されている。触媒反応の進行速度を大きく支配する因子は温度であり、チェーン未使用状態のままでは高粘度化、すなわち触媒反応が進行しないことより、駆動中のわずかな摩擦熱、あるいは繰り返し摺動(摩擦)による金属活性面の出現が、触媒反応進行の駆動力となる。触媒機能について考察すると、一つの機能は、「反応性を高めること(促進効果、あるいは活性効果)」であり、さらにもう一つの機能は、「特定の反応だけを起こさせること(選択性効果)」である。上記ニッケルメッキ触媒による機能は、前者の「反応性を高めること」であり、故にオイルの酸化等の変質、あるいはスラッジ(炭化物)生成反応が促進されることを意味している。すなわち、オイル単体として考えると、これらの事象はマイナスの要因であり、100℃を越えるような高温で使用する焼結ブシュチェーンピンにニッケルメッキを適用すると、触媒反応の進行が早く、多量のスラッジが早期に生成して、ピン、ブシュ間につまりを生じ、屈曲トルクを増大させるとともに、硬直や摩耗伸びに対して悪影響を及ぼすこと等が、鋭意研究の結果、明らかとなった。
【0008】
一般的には、ニッケルの触媒機能はマイナス要因と理解され、常温付近で優れた摩耗寿命を示すのは、触媒反応の駆動力となる熱入力が非常に小さいために、触媒反応の進行が極めて遅く、オイルの劣化がほとんど生じずにオイルがグリース状になるためであることが実験的に明らかとなった。スラッジ(炭化物)の生成は、オイル中の極圧添加剤と金属触媒の熱的反応による副生成物であり、比較的安価な鉱物油であれ、比較的高価で耐熱性に優れるような合成油であれ、ニッケルのような触媒能力の高い金属が存在する環境では、スラッジの生成を回避することは容易ではない。このような観点では、比較的高温環境で使われる焼結ブシュチェーンでは、オイルの選定だけで摩耗寿命を延命させることは困難であり、触媒反応を抑制するピン仕様(触媒種)を見い出す必要がある。換言すれば、最適ピン仕様(触媒種)を見い出すことにより、比較的安価なオイルでも、高温環境で優れた耐摩性を得ることができることが示唆された。
【0009】
そこで、本発明は、無給油にて保持されるブシュ及びピン間のオイルが高温環境下においても早期に劣化することを防止し、もって上述した課題を解消した無給油チェーンを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る本発明は、2個のリンクプレート(2,2)の両端部をピン(3)にて連結した第1のリンク(5)と、2個のリンクプレート(6,6)をブシュ(7,17)にて連結した第2のリンク(10)とを、前記ピン(3)を前記ブシュ(7,17)に遊嵌することにより交互に連結し、かつ前記ピンとブシュ間にオイルが保持されてなる無給油チェーン(1,1)において、
前記ピン(3)は、リン酸金属皮膜処理が施されて、その表面にリン酸金属皮膜(12)を形成してなる、
無給油チェーンにある。
【0011】
請求項2に係る本発明は、前記リン酸金属皮膜処理は、リン酸マンガン皮膜処理であり、前記リン酸金属皮膜は、リン酸マンガン系皮膜(12)である、
請求項1記載の無給油チェーンにある。
【0012】
請求項3に係る本発明は(例えば図1、図2参照)、前記ブシュ(7)は、焼結含油軸受材からなる、
請求項1又は2記載の無給油チェーンにある。
【0013】
請求項4に係る本発明は(例えば図5参照)、前記ブシュ(17)を囲むように、前記第1のリンク(5)のリンクプレート(2)と前記第2のリンク(10)のリンクプレート(6)の間にOリング(20)を配置し、該Oリングにて、前記ピンとブシュとの間に潤滑油を封入してなる、
請求項1又は2記載の無給油チェーンにある。
【0014】
【発明の効果】
請求項1に係る本発明によると、ピン表面のリン酸金属皮膜は、比較的高温域にあっても、触媒反応が進まず、初期オイルの性状のまま、ブシュ中のオイルが消費されるまで潤滑機能が作用しており、かつリン酸金属皮膜は、多孔質からなり、金属皮膜自体は安定していても、該多孔を介してピン素地の鉄成分が境界面の酸素イオンと結合し易く、その分、高温環境下においてもオイルの劣化を抑制して、オイルの劣化を遅延すると共にスラッジの発生を抑制し、かつ上記多孔質に基づきオイルの吸収性及び保持性を向上し、オイルが劣化しない低粘度状態に保持されているにも拘ず、上記オイルの遠心力等による飛散を防止して、無給油状態にあっても、適正な状態のオイルをピン及びブシュの摺動面に長期間に亘って保持し、これにより高温環境下にあっても、ピン及びブシュ間の摩耗を減少して、チェーンの耐久性を向上することができる。また、比較的高温環境下にて使用するチェーンであっても、通常の鉱物油等の比較的安価なオイルを用いることができ、コストアップを招くことなく、チェーンの長寿命化が可能となる。
【0015】
請求項2に係る本発明によると、リン酸マンガン系皮膜は、耐摩耗性、上記多孔質によるオイルの劣化抑制及びオイルの吸収性・保持性に優れ、高温環境化における無給油チェーンの耐久性に対して優れた効果を発揮し得る。
【0016】
請求項3に係る本発明によると、上記リン酸金属皮膜、特にリン酸マンガン系皮膜は、硬くかつ耐摩耗性に優れ、また焼き付き、カジリ等の現象を防止すると共に防蝕性にも優れ、これらの物理的特性により焼結ブシュの空孔に目詰りが生じることを防止し、上述したオイルの劣化防止及び保持性の向上と相俟って、焼結ブシュチェーンの耐久性を向上することができる。
【0017】
請求項4に係る本発明によると、Oリングにより封入されたピンとブシュとの間の潤滑油、特に一般の機械潤滑用の低粘度のオイルは、上述したように触媒反応による劣化が抑制されて、長期に亘り適正な状態に維持され、かつ該オイルが、両リンクプレートとOリングの間を潤滑してチェーン屈曲性を向上しつつ、徐々に漏れて、ピンとブシュとの間のオイル量が減少しても、上記リン酸金属皮膜特にリン酸マンガン系皮膜による優れたオイルの展延性及び保持性により、長期に亘って金属同士の接触を阻止して、高温環境下にあってもピン及びブシュの摩耗を減少して、シールタイプチェーンの耐久性を向上することができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って本発明の実施の形態を説明する。焼結ブシュチェーン1は、図1に示すように、2枚のピンリンクプレート2,2の両端部を、後述するリン酸マンガン皮膜処理したピン3,3により結合したピンリンク5と、同様な2枚のローラリンクプレート6,6の両端部を焼結含油金属からなるブシュ7,7で結合したローラリンク10と、を有し、ピン3をブシュ7に嵌挿することにより交互に無端状に連結して構成されている。
【0019】
そして、図2に詳示するように、ピン3及びブシュ7はチェーン1の自由なる屈曲のための軸受装置11を構成しており、ブシュ7は鉄を主成分とし、これに銅、ニッケル、モリブデン、クロム等を適宜配合してなる焼結含油軸受材により構成されている。
【0020】
前記ピン3は、素材として、例えば、S45C等の機械構造用炭素鋼(S−C)、又はクロムモリブデン鋼(SCM)、高炭素クロム軸受鋼(SUJ)のコイル材が用いられ、所定長さにせん断された後、浸炭、焼入れ、焼もどし等の熱処理が施されて、高い表面硬度と強靭な内部組織が与えられる。更に、表面が研摩されて、正確な外径と精度の高い表面に仕上げられる。
【0021】
ついで、上記熱処理及び研摩が施されたピンに、リン酸マンガン皮膜処理[パルホスM(IA)]が施される。該リン酸マンガン皮膜処理は、上記ピンを、脱脂→水洗→表面洗浄した後、リン酸マンガン溶液に浸漬する。上記ピンは、該リン酸マンガン溶液に基づき、遊離リン酸による腐蝕作用と、分解によるリン酸マンガン系の不溶解性生成物の沈着作用が同時に進行し、これにより該ピンの表面に、3〜5[μm]の比較的薄いリン酸マンガン系皮膜12が生成される。なお、該リン酸マンガン系皮膜は、(Mn,Fe)(PO・4HOで表わされるHereauliteと呼ばれるリン酸マンガン塩を主成分とした微細結晶で構成されている。
【0022】
上述して生成したリン酸マンガン系皮膜12を施したピンを5個抜き取って(n=5)測定した結果を図3に示す。図3(a)は、(化成処理後−化成皮膜剥離後)/2により皮膜厚さをマイクロメータにて測定した結果であり、図3(b)は、(化成後のピン重量−化成皮膜剥離後のピン重量)/ピン表面積で算出した化成皮膜重量を測定した結果を示す。なお、ピン表面積は、5.4599[cm]である。
【0023】
以上の結果、素地より凸部までの皮膜厚さは、3.5〜4.5[μm]であり、大きなバラツキはない。また、スンプ法により、リン酸マンガン皮膜結晶粒度を観察した結果、10[μm]前後のポーラスな結晶粒を形成していることが確認された。
【0024】
該ピン表面のリン酸マンガン系皮膜12は、ピン素材に浸透し、表面に均一にむらのない状態で生成されている。また、該皮膜は、化学反応生成皮膜であるため、処理前後における寸法変化及び重量変化は極めて少なく、かつ処理温度が100[℃]以下であるため、上記焼入れしたピンに対して物理的変化は殆んど生じない。
【0025】
上述したリン酸マンガンの化成処理後、ピン3は、湯洗され、そして乾燥される。このようにして完成されたピン3は、前述した焼結含油軸受材からなるブシュ7に嵌挿して、該ピン表面のリン酸マンガン系皮膜12と、上記焼結含油材からなるブシュ7の内周面7aとが摺接する。該摺接に際し、上記リン酸マンガン系皮膜12は、耐摩耗性に優れると共に、圧力により応力を減少させ、かつ多孔質の結晶体からなるので、上記焼結含油軸受材からのオイルの吸収性・保持性が良く、該オイルによる潤滑性能を向上する。また、該皮膜12は、上記焼結含油軸受材からなるブシュ7と相俟って、金属同士の接触を防止し、焼き付き(凝着)、ガジリ等の現象を阻止し、また摺動部分の初期なじみを向上する。
【0026】
そして、上記チェーン1は、例えばエンジンのタイミングチェーンとして用いられ、このような高温環境下での使用状態にあっては、上記ピン3とブシュ7の摺接部分は、80[℃]以上の高温となり、かつ大きな圧力が作用するが、上述した多孔質からなるリン酸マンガン系皮膜12によるオイルの展拡性及び保持性に基づくブシュ7の焼結材からのオイルによる潤滑機能の向上と、上記皮膜の高い硬度、耐摩耗性、耐剥離性、耐防蝕性等の物理的特性が相俟って、長期に亘って凝着現象の発生及び摩耗を減少して、焼結含油軸受材の目詰りを防止する。
【0027】
更に、上記高温環境下にあっては、上記含油焼結材からのオイルが比較的早期に酸化して劣化する傾向となるが、上記ピン表面にリン酸マンガン系皮膜12を有する本発明に係るものは、従来のニッケル又はクロムメッキを施したものに比し、上記オイルの劣化が抑制される。その理由は、以下の通りと推測される。
【0028】
まず、触媒機能について、より詳細に検討を進める。地球上のほとんどの元素は、触媒能力に程度の差はあるが、単体あるいは化合物として、何らかの触媒作用を有する。図4には、各元素およびそれらの化合物(酸化物あるいはハロゲン化物)の触媒能力の違いについて示している。斜線が多いほど触媒能力が大きいことを示している。一般に、銅(Cu)の触媒能力が高いことは広く知られており、オイルの評価試験として銅板腐食試験が適用されることは、特に銅系材料の潤滑オイル選定には注意が必要であることを意味している。図4より、触媒能力が高い金属として注目されるのは、周期律表に集中している26番の鉄(Fe)、27番のコバルト(Co)、28番のニッケル(Ni)、29番の銅(Cu)であり、ニッケルが含まれることが理解される。また、チェーン部品の基本材質である鉄の触媒能力も高いことも分かる。
【0029】
従って、従来のニッケルメッキ仕様では、触媒反応によりオイルの高粘度化が進み、摩耗寿命の延命化に寄与しているのに対し、リン酸マンガン仕様では触媒反応が進まず、初期オイルの性状のまま、焼結ブシュ中への含浸分が消費されるまで潤滑機能が作用しており、多孔質構造によるオイルの保持性が必要以上に発現されないと考えられる。
【0030】
更に、上記リン酸マンガン系皮膜12は、多孔質結晶体からなるため、含油焼結軸受材から滲出したオイルは、上記結晶体の多孔内に保持されて、酸素との接触面積が小さく、その分酸化が抑制される。
【0031】
また、上記リン酸マンガン系皮膜自体は、上記80[℃]程度の環境にあっては酸化に対して安定した充分な耐蝕性を有するが、該皮膜が5[μm]以下の比較的薄くかつ多孔質からなるため、その素材である鉄成分が、ピン界面で酸素イオンと結合し易く、その分、上記オイルの酸化が抑制される。
【0032】
即ち、従来のチェーンは、ニッケル等の触媒作用により上記オイルの酸化を促進して、ネバネバしたグリース状の油膜とし、遠心力による拡散を防止したのに対し、本発明のものは、上記高温環境下にあっても、オイルの酸化を抑制し、該オイルの早期劣化を防止して該オイルによる潤滑性能を維持しつつ、上記皮膜の多孔質によりオイルを保持して、遠心力等によるオイルの飛散を抑制したものである。これにより、上述した高温環境下での苛酷な使用によっても、チェーンは、長期に亘って適正なオイル潤滑が保持されて、チェーンの伸びが抑制される。
【0033】
ついで、以上のことを明らかにするため、上記本発明に係るチェーン(ピンにリン酸マンガン皮膜処理仕様)1と、従来のニッケルメッキを施したチェーン(ニッケルメッキ仕様)1と、従来のピンにクロマイジング処理を施したチェーン(クロム炭化物仕様:例えば特公昭57−60422号公報参照)1と、を比較した実験結果を図5に示す。上記実験の条件は以下の通りである。
【0034】
各チェーン1,1,1は、JIS60番の同じ大きさの焼結ブシュチェーンを用い、ピンのみを、上述したようにニッケルメッキ、クロマイジング処理、リン酸マンガン皮膜処理をそれぞれ施したものを用いる。
【0035】
上記各チェーン1,1,1は、速度0.95[m/s]、チェーン張力2.5[PS]で駆動する。なお、オイルは、すべて同一であり、耐熱性を特別重視していない普通の鉱物油を用いる。そして、上記各チェーンの駆動環境は、100[℃]に保持する。
【0036】
以上、上記100[℃]環境での焼結ブシュチェーンの実駆動摩耗試験結果を、図5に示す。ニッケルメッキ仕様のチェーン1は、早期に屈曲トルクが大きくなり、触媒反応によりピン、ブシュ間にスラッジの生成が示唆され、引き続き摩耗伸びが増大した。非常に硬質で耐摩性に優位と理解されるクロム炭化物皮膜仕様のチェーン1でも、ニッケルメッキ仕様に引き続き屈曲トルクが大きくなり、引き続き摩耗伸びが増大した。屈曲トルクの増大とチェーンの摩耗伸びは連続的に生じ、触媒反応によるスラッジの生成が耐摩性に悪影響を及ぼしていることが確認された。一方、リン酸マンガン仕様のチェーン1では、上記ニッケル及びクロム炭化物仕様チェーン1,1のように屈曲トルクが大きくなることがなく、定常摩耗域からの変曲(変移)もなだらかであり、触媒反応の抑制効果によりピン、ブシュ間に適正オイルが長期にわたって保持されることが示された。ここでは、特に、耐熱性に特別配慮されていない鉱物油を含浸した焼結ブシュチェーンで明確な摩耗寿命の延命効果を確認できた。即ち、従来のニッケルメッキ仕様のチェーン1及びクロム炭化物皮膜仕様のチェーン1に比して、本発明に係るリン酸マンガン皮膜仕様のチェーン1は、チェーンの伸び率が少ない状態で駆動時間を大幅に向上し、ピンとブシュとの軸受部分の摩耗が少なく、優れた耐久性を有することが証明された。
【0037】
一般に、リン酸マンガン皮膜の適用により、摺動部品の摩耗寿命を延命できるが、その理由は、多孔質構造によるオイルの保持性によると定性的な説明がなされていることが多い。多孔質構造によるオイルの保持性について検討するために、リン酸マンガン皮膜適用ピン仕様焼結ブシュチェーン1とニッケルメッキ適用ピン仕様焼結ブシュチェーン1の摩耗寿命を常温で比較した結果を図6に示す。リン酸マンガン仕様チェーン1では、駆動時間の経過と共に屈曲トルクが大きくなることなく、チェーン伸びの増大をむかえる。一方、ニッケルメッキ仕様では、漸次屈曲トルクが僅かに大きくなるが、必要以上に大きくはならず、より長い定常摩耗域を経た後に摩耗伸びの増大をむかえる。この結果は、ニッケルメッキ仕様では、触媒反応によりオイルの高粘度化が進み、摩耗寿命の延命化に寄与しているのに対し、リン酸マンガン仕様では触媒反応が進まず、初期オイルの性状のまま、焼結ブシュ中への含浸分が消費されるまで潤滑機能が作用しており、多孔質構造によるオイルの保持性が必要以上に発現されていないことを示していると考えられる。
【0038】
なお、上記図6は、ニッケルメッキ仕様と比較したためにこのような結果になったのであって、表面処理を適用していない一般的な焼入焼戻しピン、あるいは浸炭焼入ピンを適用したような焼結ブシュチェーンとの比較では、リン酸マンガン皮膜適用の効果が得られる可能性が高い。このことは再現性も確認され、常温付近では、ピンヘのニッケルメッキ適用が有効であることが改めて示されるとともに、リン酸マンガン仕様では触媒反応を抑制でき、80〜100℃を越えるような比較的高温で使用するチェーン用ピンとして有効であることが示唆される。
【0039】
即ち、触媒反応が機能し易い、充分な熱入力が確保される環境下(比較的高温環境下)であっては、リン酸マンガン皮膜仕様のピン1は、ニッケルメッキ、クロム炭化物皮膜、硬質クロムメッキ、表面処理のない鋼のままの各ピンに比し、耐摩性が優れ、摩耗寿命が延長できることが明らかとなった。
【0040】
なお、上述した実施例は、ピンにリン酸マンガン皮膜処理を施したが、これに限らず、リン酸スズ皮膜処理(パルメットB−43処理)、リン酸亜鉛皮膜処理等、他のリン酸金属皮膜処理を施しても上述と近似した作用を奏するが、硬度、耐摩耗性及び多孔度等において、リン酸マンガン皮膜処理が最も優れている。また、リン酸金属皮膜は、リン酸金属塩の結晶相で構成される皮膜であり、リン酸金属皮膜処理とはリン酸塩皮膜処理と同義である。
【0041】
また、上記リン酸皮膜処理を施したピンは、焼結ブシュと組合せることに限らず、他の無給油タイプのチェーン、例えばシールタイプチェーンにも同様に適用可能である。即ち、シールタイプチェーン1は、図7に示すように、2枚のピンリンクプレート2,2の両端部を、上記リン酸マンガン皮膜処理を施したピン3により結合したピンリンク5と、2枚のローラリンクプレート6,6の両端部を、パイプ状の鋼鉄製のブシュ17で結合したローラリンク10と、からなり、更に上記ブシュ17には鋼鉄製のローラ19が回転自在に遊嵌されている。そして、軸受部を構成する上記ピン3とブシュ17との間には、グリース又は通常の鉱物油等の潤滑油が充填され、かつブシュ17を囲むように上記両プレート2,6に挟まれてOリング20が配置されて、上記潤滑油が封入されている。なお、上記ブシュ17は、ローラリンクプレート6から所定量突出して固定されており、該突出部により上記Oリングの圧縮量を規制している。
【0042】
本シールタイプのチェーン1にも、上述したリン酸マンガン皮膜処理を施したピン3を用いることにより、同様に、上記潤滑油の酸化による早期劣化を防止して、チェーンの耐摩耗性を向上し得る。また、グラファイト又は二硫化モリブデン等の固体潤滑剤を、前記焼結ブシュ7とピン3との間に介在するか、又は上記シールタイプチェーンの潤滑油に混在して、使用することにより、耐摩耗性を更に向上することが可能となる。
【0043】
なお、オイルは、多種類あり、耐熱性が高くなるとともに高価になる傾向にあるが、耐熱環境における潤滑性が改善されるだけで、常温特性は劣化する場合がほとんどである。本発明は、比較的安価なオイルでも最適ピン仕様を見い出すことにより、より高温環境での摩耗寿命の延命を達成している。即ち、オイルの耐熱性向上による価格アップの影響は比較的大きい場合が多いのに対し、本発明に係るリン酸マンガン系皮膜は、従来のニッケルメッキと同等のコストで比較的高温環境下に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される焼結ブシュチェーンを示す一部断面した平面図。
【図2】そのピン及びブシュ部分の横断面図。
【図3】ピンのリン酸マンガン系皮膜を測定した結果を示し、(a)は皮膜の厚さを、(b)は、皮膜重量を測定した結果を示す図。
【図4】元素及びその化合物の触媒能力を示す図。
【図5】従来のピンを用いた焼結ブシュチェーンと、本発明に係るピンを用いた焼結ブシュチェーンとを、高温(100[℃])環境下で実駆動摩耗試験を行った結果を示す図。
【図6】ニッケルピン適用の焼結ブシュチェーンと、本発明に係るピン適用の焼結プッシュチェーンとを、常温環境下で実駆動摩耗試験を行った結果を示す図。
【図7】本発明が適用されるシールタイプチェーンを示す一部断面した平面図。
【符号の説明】
1,1 無給油チェーン(焼結ブシュチェーン,シールタイプチェーン)
2 (ピン)リンクプレート
3 ピン
5 第1の(ピン)リンク
6 (ローラ)リンクプレート
7 焼結ブシュ
12 リン酸金属(マンガン系)皮膜
17 ブシュ
20 Oリング

Claims (4)

  1. 2個のリンクプレートの両端部をピンにて連結した第1のリンクと、2個のリンクプレートをブシュにて連結した第2のリンクとを、前記ピンを前記ブシュに遊嵌することにより交互に連結し、かつ前記ピンとブシュ間にオイルが保持されてなる無給油チェーンにおいて、
    前記ピンは、リン酸金属皮膜処理が施されて、その表面にリン酸金属皮膜を形成してなる、
    無給油チェーン。
  2. 前記リン酸金属皮膜処理は、リン酸マンガン皮膜処理であり、前記リン酸金属皮膜は、リン酸マンガン系皮膜である、
    請求項1記載の無給油チェーン。
  3. 前記ブシュは、焼結含油軸受材からなる、
    請求項1又は2記載の無給油チェーン。
  4. 前記ブシュを囲むように、前記第1のリンクのリンクプレートと前記第2のリンクのリンクプレートの間にOリングを配置し、該Oリングにて、前記ピンとブシュとの間に潤滑油を封入してなる、
    請求項1又は2記載の無給油チェーン。
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