JP2004276040A - 偏肉管の製造方法および偏肉管 - Google Patents
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Abstract
【課題】自動車のラックバーなどの機械部品の軽量化素材として好適な偏肉管を提供する。
【解決手段】周方向に均等肉厚で形成された金属管素材の内周に肉厚増加を発生させる方法であって、前記金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域とで構成したのち、縮径加工を施すことを特徴とする偏肉管の製造方法およびこれにより製造された偏肉管である。上記の偏肉管の製造方法では、低強度領域と高強度領域とを構成する際に、第1の方法として、加工硬化した金属管素材の周方向の一部を軟化熱処理すること、第2の方法として、金属管素材の周方向に温度分布を形成すること、さらに、第3の方法として、円弧断面形状の低強度金属板および高強度金属板を組み合わせたのち直線状エッジを接合して構成することができる。
【選択図】図1
【解決手段】周方向に均等肉厚で形成された金属管素材の内周に肉厚増加を発生させる方法であって、前記金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域とで構成したのち、縮径加工を施すことを特徴とする偏肉管の製造方法およびこれにより製造された偏肉管である。上記の偏肉管の製造方法では、低強度領域と高強度領域とを構成する際に、第1の方法として、加工硬化した金属管素材の周方向の一部を軟化熱処理すること、第2の方法として、金属管素材の周方向に温度分布を形成すること、さらに、第3の方法として、円弧断面形状の低強度金属板および高強度金属板を組み合わせたのち直線状エッジを接合して構成することができる。
【選択図】図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、管内周に肉厚増加を発生させて、その断面の周方向に厚肉部位と薄肉部位とを有する偏肉管の製造方法、および偏肉管に関するものである。
【0002】
【従来技術】
自動車用の機械部品には、金属丸棒のような中実金属素材の外周面に部分的な切削加工を施して使用する事例が多くある。このような機械部品の軽量化ニーズに対応するには、素材を金属管に置き換えるのが一般的であるが、周方向に均等肉厚からなる金属管では、切削加工を施す部位で肉厚を確保するために、金属管素材の肉厚を薄くすることができず、素材の軽量化が制約される。
【0003】
これに対し、金属管素材として偏肉管を使用し、周方向の厚肉部を切削加工を施す部位とすることにより、機械部品の軽量化が効果的に達成できる。以下、このことを自動車ハンドルの回転運動を直線運動に変換するためのステアリングラックバー(以下、単に「ラックバー」という)を例にして説明する。
【0004】
図6は、丸鋼製のラックバーの構成例を示す図である。同(a)は部分斜視図であり、同(b)はラック歯底の構成を示すX−X視野による横断面図である。図5(a)に示す丸鋼製のラックバー100は、素材直径Dが25〜35mmで、素材長さが500〜700mmに切断され、丸鋼100aの端部近傍にラック部100bが歯切り加工され、エア抜き孔100eがガンドリル加工された形状で使用される。
【0005】
そして、図5(b)に示すように、ラック歯底100dの位置では、歯幅wを確保するために、まず歯先部100cとなる平坦面を機械加工した後に歯切り加工が行われる。自動車の燃費向上を図るため、部品軽量化のニーズに応えて、ラックバーについても素材の金属管に置き換えが進みつつある。
【0006】
図7は、金属管を素材としたラックバーの構成例を示す図である。自動車の燃費向上を図る部品軽量化のニーズに対応して、ラックバーについても金属管を素材とすることが推進されている。図7に示す中空ラックバー110のラック部には、上記図6と同様に、金属管素材の外面に歯先部110cとなる平坦面を機械加工した後に歯切り加工が施される。この場合に、金属管素材の内径部がエア抜き孔として利用されるので、ガンドリル加工による孔あけは不要であるが、歯底110dと管内壁111の間の肉厚hを確保するために、金属管素材の肉厚Tは少なくとも10mm程度とする厚肉管が必要となり、それにともなって内径dを小さくする必要がある。
【0007】
このため、図7に示す中空ラックバー110では、軽量化の効果が小さい。また、このような小径厚肉の金属管素材は、通常、熱間押出しなどで素管を製造した後、冷間抽伸を行って製造することが必要になるので、製造コストが嵩むという問題がある。
【0008】
ところで、上記図7に示す中空ラックバー110において、平面部の切削加工および歯切り後の歯底肉厚hを確保し、かつ素材鋼管の内径dを極力大きくするには、歯切り予定部の肉厚が大きく、他の部位の肉厚が小さい偏肉管を使用すれば、部品軽量化に有利となる。
【0009】
図8は、本発明に係る偏肉管であって、中空ラックバーの金属管素材として使用できる偏肉管の構成を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部の加工を施す部位の正面図および縦断面図を示している。図8では、外径中心軸の上側が厚肉部120a、下側が薄肉部120bで、内径部の断面形状は、略D字形である。
【0010】
厚肉部120aの最大肉厚をta、これと対向位置にある薄肉部120bの最小肉厚をtbとし、偏肉率αを下記(a)式で定義すれば、αが大きいほど偏肉が大きい。
【0011】
α=2(ta−tb)/(ta+tb) ・・・ (a)
図8に示す偏肉管の製造方法として、例えば、押出し法を採用した特許文献1および特許文献2で提案された方法がある。
【0012】
しかしながら、これらの特許文献に記載の製管法を用いた場合には、製造設備が大規模になると同時に、外径が小さい(φ25〜30)管を製造するためには、生産性が低く、製造コストが嵩むという問題がある。
【0013】
【特許文献1】
特開昭52−86960号公報
【特許文献2】
特開平5−154539号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、通常の工業プロセスで量産される金属管を素材に用い、不均等な肉厚増加を発生させて、図8に示すような偏肉管を効率的に製造し、前述の中空ラックバー等の機械部品の軽量化を実現することができる、偏肉管の製造方法およびそれを用いて製造される偏肉管を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、下記の2つの基本条件に留意しながら、偏肉管の製造方法を種々検討した。
(a) 加工の出発素材となる金属管は、周方向に均等肉厚で形成される金属管(以下、単に「均肉管」という)を使用する。金属管素材としては継目無し管、溶接管および鍛接管の管種を問わない。
(b) 前記金属管素材の外径を縮小させる塑性加工(以下、単に「縮径加工」という)することによって偏肉管を製造する。
【0016】
上記(a)、(b)に留意したのは、工業的な量産性に優れる均肉管を金属管素材に流用することによって、偏肉管の製造コストの低減を図るためである。
【0017】
そして、上記の均肉管を金属管素材に流用し、これに塑性加工を施して、不均等な肉厚増加を発生させれば、前記図8に示す偏肉管を製造できることに着目したのである。
【0018】
具体的には、上記不均等な肉厚増加のうち、肉厚増加が大きい部位が前記図8に示す厚肉部120aに、肉厚増加が小さい部位が同薄肉部120bになるように、金属管素材に塑性加工を施す方法を種々検討した。その結果、均肉管からなる金属管素材の断面の周方向に強度差を設けることによって、上記の縮径加工を施せば、前記図8に示す偏肉管120を低コストで効率的に製造できることを知見した。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記の(1)および(2)の偏肉管の製造方法、並びに(3)の偏肉管を要旨としている。
(1) 周方向に均等肉厚で形成された金属管素材に対して、周方向に不均等の肉厚増加を発生させて偏肉管を製造する方法であって、前記金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域とで構成したのち、縮径加工を施すことを特徴とする偏肉管の製造方法である。
(2) 上記(1)の偏肉管の製造方法では、第1の方法として、加工硬化した金属管素材の周方向の一部を軟化熱処理することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成することができる。
【0020】
また、第2の方法として、金属管素材の周方向に温度分布を形成することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成することもできる。 さらに、第3の方法として、金属管素材を同じ板厚と曲率半径とからなる円弧断面形状の低強度金属板および高強度金属板を組み合わせたのち直線状エッジを接合して構成することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成することも可能である。
(3) 管内周に発生した肉厚増加が不均等で円周方向の部位により肉厚が異なる偏肉管であって、肉厚が大きい部位に対向して肉厚が小さい部位が位置し、偏肉管の内径部の断面形状が略D字形であることを特徴とする偏肉管である。
【0021】
本発明の説明において、「均肉管」とは周方向が均等肉厚で形成される金属管であるが、不可避的に発生する周方向の偏肉を含むものであり、実質的な均等肉厚からなる金属管を意味する。ただし、本発明が対象とする「均肉管」は、円形断面の金属管に限定されず、周方向が均等肉厚である限り、小判形断面の扁平管も含むものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の偏肉管の製造方法は、均肉管で形成される金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域で構成したのち、縮径加工を施すことによって実現できる。以下に、本発明の詳細な内容を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の製造方法で金属管素材として用いられる均肉管および縮径加工された偏肉管の構成を説明する図である。同(a)は均肉管の断面構成を、同(b)は偏肉管の断面構成を示している。本発明では、均肉管1の寸法を外径D0および肉厚t0とし、偏肉管120の寸法を外径Dとして、均肉管1に周方向に圧縮を加えて縮径加工を施すこととしている。この縮径加工の加工度は、外径比D0/D(以下、「絞り比γ」という)で定義する。
【0024】
図1(a)に示すように、均肉管1の断面は領域イおよび領域ロで構成されるが、これらは、図1(b)に示す偏肉管120の断面の領域イおよび領域ロにそれぞれ対応する。均肉管1の領域ロの広がりは周方向長さlbで示され、偏肉管120の領域ロの広がりは周方向長さlb′で示されるが、周方向長さlb、lb′の挙動については後述する。また、周方向長さlb、lb′は、均肉管1、または偏肉管120での肉厚中心における円周長さを示している。
【0025】
縮径加工に伴う管円周の肉厚増加は、均肉管1の領域イで大きく、領域ロで小さくなる。さらに詳細には、図1(b)に示すように、領域イの肉厚増加を断面C−C(同じく断面D−D)から断面A−Aにかけて徐々に大きくすることによって、偏肉管120の肉厚分布を調整できる。このような管円周の不均等な肉厚増加は、縮径加工における周方向圧縮力による変形の大きさを、管の周方向に不均等にすれば実現できる。
【0026】
図2は、縮径加工における周方向圧縮力Fとそれに伴って変形する肉厚tとの関係を、領域イの断面A−A、領域ロの断面B−Bを代表例として、模擬的に示す図である。図中の曲線Fa、Fbは、断面A−Aおよび断面B−Bの周方向圧縮に対する降伏応力とそれぞれの肉厚の積を示している。
【0027】
したがって、縮径加工による肉厚増加にともなうFa、Fbの増加には、断面A−Aおよび断面B−Bにおける材料の加工硬化の影響も含まれる。ただし、図中のFa0、Fb0は、それぞれ断面A−Aおよび断面B−Bで肉厚増加が開始する周方向圧縮力を示している。
【0028】
縮径加工において肉厚断面(例えば、断面A−A、断面B−B等)に作用する周方向圧縮応力(σ)とその部位の肉厚(t)の積(以下、「周方向圧縮力F」という)は、基本的には、いずれの肉厚断面においても同一である。例えば、縮径加工での周方向圧縮力がF1の場合には、図2に示すように、断面A−Aでは圧縮変形によって肉厚がta1まで増加する。
【0029】
一方、F1<Fb0であるため、断面B−Bでは周方向圧縮力による変形は生ぜず、肉厚増加はない。これらの関係を前記図1に示す縮径加工に当てはめれば、同(b)での断面A−A(領域イ)の肉厚はta=ta1となり、断面B−B(領域ロ)の肉厚はtb=t0のままである。
【0030】
次に、縮径加工での周方向圧縮力がF2まで増加すると、図2に示すように、断面A−Aの肉厚はta2まで増加し、断面B−Bの肉厚は若干増加してtb2になる。同様に、これらの関係を前記図1に示す縮径加工に当てはめれば、同(b)での断面A−A(領域イ)の肉厚はta=ta2となり、断面B−B(領域ロ)の肉厚はtb=tb2となる。
【0031】
換言すれば、縮径加工を施した後の断面A−Aおよび断面B−Bの肉厚は、Fa、Fbおよび作用させる周方向圧縮力Fによって調整することができる。例えば、周方向圧縮力Fが一定の場合には、FaとFbの差を大きくすることによって、断面A−Aと断面B−Bでの肉厚増加の差を大きくすることができる。一方、Fa、Fbが一定の場合には、周方向圧縮力Fを増加させことによって、断面A−Aと断面B−Bでの肉厚増加の差を大きくすることができる。
【0032】
周方向圧縮力Fを増加させる場合に、2つの手段を採用することができる。第1は、絞り比γを増加させる手段であり、第2は、金属管素材の均肉管での領域ロにおける周方向長さlbを増加させる手段である。
【0033】
前記図1に示すように、第2の手段において、肉厚中心での周方向長さlbの増加は、領域イでの周方向圧縮力による変形の増加を促し、断面A−Aの肉厚増加を促進することになる。すなわち、均肉管1の周方向長さlbの増加は、偏肉管120の領域ロでの周方向長さlb′を増加させることになる。
【0034】
図3は、縮径加工に伴う肉厚増加による偏肉管の内面形状の一例を示す図である。上述の通り、周方向長さlbの増加は偏肉管120での周方向長さlb′を増加させるので、周方向長さlbを大きくし過ぎて縮径加工を施すと、図3に示すように、断面A−Aの肉厚増加が大きくなるので、偏肉管内面側に盛り上がることになる。
【0035】
したがって、均肉管1の肉厚中心での周方向長さlbは、目標とする偏肉管120の内面形状に応じて選定する必要がある。また、前記図2に基づいて説明した金属管素材の肉厚増加は、断面A−Aおよび断面B−B以外の断面にも適用されることはいうまでもなく、それぞれの断面における周方向圧縮に対する降伏応力を調整することによって、得られる偏肉管に所定の肉厚分布を形成することができる。
【0036】
次に、本発明の製造方法において、金属管素材の断面の円周方向に降伏応力分布を形成する方法、すなわち、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成する方法について説明する。その方法として、次の3つが挙げられる。
【0037】
第1の方法は、管に抽伸加工などの冷間加工を施して、図1(a)に示す形状を有する均肉管1を製造した後、前記図1に示す領域イに相当する部位を加熱して応力除去、さらには再結晶させることによって、領域イの硬度を領域ロよりも低下せしめる方法である。
【0038】
次に、第2の方法は、図1(a)に示す形状を有する均肉管1を製造した後、前記図1に示す領域イに相当する部位のみを所定温度に加熱して、降伏応力を領域ロに相当する部位よりも小さくするように、部分加熱を施す方法である。
【0039】
さらに、第3の方法は、図1(a)に示す形状を有する均肉管1の領域イおよび領域ロの部位をそれぞれ低強度、高強度の材料で構成する方法である。具体例を挙げれば、領域イおよび領域ロの部位をそれぞれ低強度、高強度の板をロールフォーミングなどの方法で、円弧断面に成形した後、前記図1に示す断面C−Cおよび断面D−Dの位置でレーザ溶接などの方法で接合して、均肉管1を製造する方法である。
【0040】
図4は、本発明の製造方法で採用できる、金属管素材を縮径加工する方法の例を説明する図である。図4(a)はダイス抽伸法を示しており、図示しない牽引装置に取り付けたチャック11で金属管素材である均肉管1の先端を把持して牽引し、軸対称の先細り形状の内郭部を有するダイス10によって外径絞りを行って偏肉管120に加工する。
【0041】
次に、図4(b)はダイス押し込み法を示しており、図示しない加圧装置に取り付けた押し金21により、金属管素材である均肉管1を軸対称の先細り形状の内郭部を有するダイス20に押し込み、均肉管120に加工する。
【0042】
さらに、図4(c)はロータリスエージ法を示しており、図示しない駆動装置で高速上下動する複数のダイス30に金属管素材である均肉管1を回転させながら軸方向に送り込んで偏肉管120に加工する。
【0043】
金属管素材の円周方向に降伏応力分布を形成するため、上記第2の方法によって部分加熱を施す場合には、周方向に形成した温度分布が変化しないように、加熱直後に迅速に縮径加工を施すことが必要である。そのためには、図4(a)〜(c)に示す縮径加工を行うダイス加工の直前で、高周波加熱などの方法によって急速に部分加熱を行うことが望ましい。
【0044】
図4に示す縮径加工方法では、円形断面の均肉管1を金属管素材として、円形断面形状を保ちながら縮径加工を軸方向に進めていく方法である。しかし、本発明の製造方法では、これに限定されるものではなく、金属管素材としての均肉管をいったん小判形断面の扁平管(均肉管)に成形した後、これを縮径加工して偏肉管を製造する方法も採用することができる。
【0045】
図5は、本発明の製造方法において小判形断面の扁平管に成形した金属管素材を縮径加工する方法を説明する図である。図5(a)は、金属管素材として扁平管2を図示しないプレス機のベッドに取り付けた下型41の半円断面溝41aにセットした状態を示している。ここで、扁平管2の断面は、前記図1に示す均肉管1と同様に、領域イおよび領域ロで構成され、所定の周方向圧縮に対する降伏応力分布が形成されている。
【0046】
扁平管2に降伏応力の周方向分布を形成するため、上記第2の方法によって部分加熱を施す場合には、周方向に形成した温度分布が変化しないように、素材を扁平加工した後に部分加熱を行うことが望ましい。
【0047】
図5(a)に示すセットの後、上方より、図示しない同プレス機の上ラムに取り付けた上型40を降下させ、上型40の半円断面溝40aで均肉扁平管2を長径方向に押圧する。図5(b)は、縮径加工が終了し、偏肉管120が得られた状態を示している。次に、本発明の製造方法の効果を、実施例を基づいて説明する。
【0048】
【実施例】
(実施例1)
金属管素材を継ぎ目無し鋼管で作製して、縮径加工をダイスを用いた抽伸加工で行う場合について確認した。素管として外径48.6mm、肉厚8mmの継ぎ目無し鋼管STKM12A(JIS G 3445、降伏強度YS=350MPa、引張強さTS=410MPa)を用いて、冷間ダイス抽伸で外径D0=35mm、肉厚t0=5mmの鋼管に仕上げた。この状態では、YS=610MPa、TS=620MPaであった。
【0049】
この後、前記図1(a)に示す周方向長さlb=40mmの領域ロを水冷した状態で、領域イを680℃で10分間加熱、冷却して均肉管1とした。この状態の領域イでは、YS=310MPa、TS=370MPaであった。
【0050】
この均肉管1を図4(a)に示すダイス抽伸法で外径30mmにする縮径加工を施したところ、図1(b)に示す領域イの断面A−Aの肉厚taは10mmまで肉厚が増加するが、領域ロでは増加が抑制されて、tbは5mmのままであり、偏肉率α=0.67の偏肉管120が得られた。
(実施例2)
金属管素材を溶接鋼管で作製し、縮径加工をロータリスエージ法で行う場合について確認した。素管として外径42.7mm、肉厚6mmの電気抵抗溶接鋼管STKM13C(JIS G 3445、YS=530MPa、TS=620MPa)を使用し、図1(a)に示す周方向長さlb=50mmの領域ロを除く部分、すなわち領域イの断面A−A部とその近傍を高周波加熱で700℃に昇温させた。このとき、領域イでは、YS=100MPa、TS=120MPaであった。なお、領域ロの材料強度は、素管と同一であった。
【0051】
上記領域イを高周波加熱した直後、図4(c)に示すロータリスエージ法で外径30mmに縮径加工を施した結果、図1(b)に示す領域イはta=14mmまで肉厚が増加したのに対し、領域ロの肉厚はtb=7mmにとどまり、偏肉率α=0.67の偏肉管120が得られた。
(実施例3)
金属管素材を熱間圧延鋼板を用いてレーザ溶接で構成して、縮径加工をダイス押し込み法で行う場合について確認した。金属管素材として外径D0=35mm、肉厚t0=5mmの均肉管を、板厚5mmの熱間圧延鋼板SPHC(JIS G 3131、YS=310MPa、TS=350MPa)をプレス曲げして領域イの部材とし、板厚5mmの熱間圧延鋼板SPFH60(JIS G 3134、YS=580MPa、TS=650MPa)をプレス曲げして周方向長さlb=39mmの領域ロの部材とし、両者の長手方向エッジ同士をレーザ溶接して製造した。
【0052】
得られた均肉管を、図4(b)に示すダイス押し込み法で外径30mmになるように縮径加工を施したところ、図1(b)に示す領域イはta=10mmまで肉厚が増加したが、領域ロではtb=5mmと肉厚が増加せず、偏肉率α=0.67の偏肉管120が得られた。
(実施例4)
金属管素材を鍛接鋼管を用いて小判形断面に扁平加工して作製し、縮径加工を冷間プレス成形で行う場合について確認した。外径42.7mm、肉厚8mmの鍛接鋼管STKM13C(JIS G 3445、YS=530MPa、TS=620MPa)を冷間プレス成形で長径50mm、短径30mmの小判形断面に扁平加工して、均等肉厚の金属管素材を製造した。
【0053】
この金属管素材の全体を700℃に昇温させた後、図5(a)に示すの周方向長さlb=40mmの領域ロの部分を水冷した。このとき、領域イの断面A−A部では、YS=100MPa、TS=120MPaであった。なお、領域ロの材料強度は、加熱前の金属管素材と同一であった。
【0054】
次いで、図5(b)に示すように、外径φ30に縮径加工を施した。縮径加工後の領域イではta=16mmと肉厚が増加しており、領域ロの肉厚はtb=10mmと増加が抑制され、偏肉率α=0.46の偏肉管120が得られた。
【0055】
【発明の効果】
本発明の偏肉管の製造方法によれば、通常の工業プロセスで量産される継ぎ目無し管、溶接管、鍛接管などの均肉管を素材とし、これに縮径加工を施して、素材内周に不均等な肉厚増加を発生させて効率的に偏肉管を製造することができるので、必要とする加工設備は、従来の熱間押し出し法と比較して、簡単かつ安価となる。
【0056】
しかも、自動車のラックバーなどの素材として使用すれば、従来の丸鋼を機械加工して製造されるラックバーよりも軽量化が図れ、燃費向上に著しい効果を発揮することができる偏肉管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法で金属管素材として用いられる均肉管および縮径加工された偏肉管の構成を説明する図であり、同(a)は均肉管の断面構成を、同(b)は偏肉管の断面構成を示している。
【図2】縮径加工における周方向圧縮力Fとそれに伴う肉厚tの変化の関係を、領域イの断面A−A、領域ロの断面B−Bを代表例として、模擬的に示す図である。。
【図3】縮径加工に伴う肉厚増加による偏肉管の内面形状の一例を示す図である。
【図4】本発明の製造方法で採用できる、金属管素材を縮径加工する方法の例を説明する図であり、同(a)はダイス抽伸法を、同(b)はダイス押し込み法を、同(c)はロータリスエージ法を示している。
【図5】本発明の製造方法において小判形断面の扁平管に成形した金属管素材を縮径加工する方法を説明する図である。
【図6】丸鋼製のラックバーの構成例を示す図である。同(a)は部分斜視図であり、同(b)はラック歯底の構成を示すX−X視野による横断面図である。
【図7】金属管を素材としたラックバーの構成例を示す図である。
【図8】ラックバーの金属管素材として使用できる偏肉管の構成を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部の加工を施す部位の正面図および縦断面図を示している。
【符号の説明】
1:均肉管、 2:扁平管
10、20、30:ダイス
11:チャック、 21:押し金
40:上型、 41:下型
100、110:ラックバー
120:偏肉管
【発明の属する技術分野】
本発明は、管内周に肉厚増加を発生させて、その断面の周方向に厚肉部位と薄肉部位とを有する偏肉管の製造方法、および偏肉管に関するものである。
【0002】
【従来技術】
自動車用の機械部品には、金属丸棒のような中実金属素材の外周面に部分的な切削加工を施して使用する事例が多くある。このような機械部品の軽量化ニーズに対応するには、素材を金属管に置き換えるのが一般的であるが、周方向に均等肉厚からなる金属管では、切削加工を施す部位で肉厚を確保するために、金属管素材の肉厚を薄くすることができず、素材の軽量化が制約される。
【0003】
これに対し、金属管素材として偏肉管を使用し、周方向の厚肉部を切削加工を施す部位とすることにより、機械部品の軽量化が効果的に達成できる。以下、このことを自動車ハンドルの回転運動を直線運動に変換するためのステアリングラックバー(以下、単に「ラックバー」という)を例にして説明する。
【0004】
図6は、丸鋼製のラックバーの構成例を示す図である。同(a)は部分斜視図であり、同(b)はラック歯底の構成を示すX−X視野による横断面図である。図5(a)に示す丸鋼製のラックバー100は、素材直径Dが25〜35mmで、素材長さが500〜700mmに切断され、丸鋼100aの端部近傍にラック部100bが歯切り加工され、エア抜き孔100eがガンドリル加工された形状で使用される。
【0005】
そして、図5(b)に示すように、ラック歯底100dの位置では、歯幅wを確保するために、まず歯先部100cとなる平坦面を機械加工した後に歯切り加工が行われる。自動車の燃費向上を図るため、部品軽量化のニーズに応えて、ラックバーについても素材の金属管に置き換えが進みつつある。
【0006】
図7は、金属管を素材としたラックバーの構成例を示す図である。自動車の燃費向上を図る部品軽量化のニーズに対応して、ラックバーについても金属管を素材とすることが推進されている。図7に示す中空ラックバー110のラック部には、上記図6と同様に、金属管素材の外面に歯先部110cとなる平坦面を機械加工した後に歯切り加工が施される。この場合に、金属管素材の内径部がエア抜き孔として利用されるので、ガンドリル加工による孔あけは不要であるが、歯底110dと管内壁111の間の肉厚hを確保するために、金属管素材の肉厚Tは少なくとも10mm程度とする厚肉管が必要となり、それにともなって内径dを小さくする必要がある。
【0007】
このため、図7に示す中空ラックバー110では、軽量化の効果が小さい。また、このような小径厚肉の金属管素材は、通常、熱間押出しなどで素管を製造した後、冷間抽伸を行って製造することが必要になるので、製造コストが嵩むという問題がある。
【0008】
ところで、上記図7に示す中空ラックバー110において、平面部の切削加工および歯切り後の歯底肉厚hを確保し、かつ素材鋼管の内径dを極力大きくするには、歯切り予定部の肉厚が大きく、他の部位の肉厚が小さい偏肉管を使用すれば、部品軽量化に有利となる。
【0009】
図8は、本発明に係る偏肉管であって、中空ラックバーの金属管素材として使用できる偏肉管の構成を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部の加工を施す部位の正面図および縦断面図を示している。図8では、外径中心軸の上側が厚肉部120a、下側が薄肉部120bで、内径部の断面形状は、略D字形である。
【0010】
厚肉部120aの最大肉厚をta、これと対向位置にある薄肉部120bの最小肉厚をtbとし、偏肉率αを下記(a)式で定義すれば、αが大きいほど偏肉が大きい。
【0011】
α=2(ta−tb)/(ta+tb) ・・・ (a)
図8に示す偏肉管の製造方法として、例えば、押出し法を採用した特許文献1および特許文献2で提案された方法がある。
【0012】
しかしながら、これらの特許文献に記載の製管法を用いた場合には、製造設備が大規模になると同時に、外径が小さい(φ25〜30)管を製造するためには、生産性が低く、製造コストが嵩むという問題がある。
【0013】
【特許文献1】
特開昭52−86960号公報
【特許文献2】
特開平5−154539号公報
【0014】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、通常の工業プロセスで量産される金属管を素材に用い、不均等な肉厚増加を発生させて、図8に示すような偏肉管を効率的に製造し、前述の中空ラックバー等の機械部品の軽量化を実現することができる、偏肉管の製造方法およびそれを用いて製造される偏肉管を提供することを目的としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、下記の2つの基本条件に留意しながら、偏肉管の製造方法を種々検討した。
(a) 加工の出発素材となる金属管は、周方向に均等肉厚で形成される金属管(以下、単に「均肉管」という)を使用する。金属管素材としては継目無し管、溶接管および鍛接管の管種を問わない。
(b) 前記金属管素材の外径を縮小させる塑性加工(以下、単に「縮径加工」という)することによって偏肉管を製造する。
【0016】
上記(a)、(b)に留意したのは、工業的な量産性に優れる均肉管を金属管素材に流用することによって、偏肉管の製造コストの低減を図るためである。
【0017】
そして、上記の均肉管を金属管素材に流用し、これに塑性加工を施して、不均等な肉厚増加を発生させれば、前記図8に示す偏肉管を製造できることに着目したのである。
【0018】
具体的には、上記不均等な肉厚増加のうち、肉厚増加が大きい部位が前記図8に示す厚肉部120aに、肉厚増加が小さい部位が同薄肉部120bになるように、金属管素材に塑性加工を施す方法を種々検討した。その結果、均肉管からなる金属管素材の断面の周方向に強度差を設けることによって、上記の縮径加工を施せば、前記図8に示す偏肉管120を低コストで効率的に製造できることを知見した。
【0019】
本発明は、上記の知見に基づいて完成されたものであり、下記の(1)および(2)の偏肉管の製造方法、並びに(3)の偏肉管を要旨としている。
(1) 周方向に均等肉厚で形成された金属管素材に対して、周方向に不均等の肉厚増加を発生させて偏肉管を製造する方法であって、前記金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域とで構成したのち、縮径加工を施すことを特徴とする偏肉管の製造方法である。
(2) 上記(1)の偏肉管の製造方法では、第1の方法として、加工硬化した金属管素材の周方向の一部を軟化熱処理することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成することができる。
【0020】
また、第2の方法として、金属管素材の周方向に温度分布を形成することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成することもできる。 さらに、第3の方法として、金属管素材を同じ板厚と曲率半径とからなる円弧断面形状の低強度金属板および高強度金属板を組み合わせたのち直線状エッジを接合して構成することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成することも可能である。
(3) 管内周に発生した肉厚増加が不均等で円周方向の部位により肉厚が異なる偏肉管であって、肉厚が大きい部位に対向して肉厚が小さい部位が位置し、偏肉管の内径部の断面形状が略D字形であることを特徴とする偏肉管である。
【0021】
本発明の説明において、「均肉管」とは周方向が均等肉厚で形成される金属管であるが、不可避的に発生する周方向の偏肉を含むものであり、実質的な均等肉厚からなる金属管を意味する。ただし、本発明が対象とする「均肉管」は、円形断面の金属管に限定されず、周方向が均等肉厚である限り、小判形断面の扁平管も含むものである。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明の偏肉管の製造方法は、均肉管で形成される金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域で構成したのち、縮径加工を施すことによって実現できる。以下に、本発明の詳細な内容を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1は、本発明の製造方法で金属管素材として用いられる均肉管および縮径加工された偏肉管の構成を説明する図である。同(a)は均肉管の断面構成を、同(b)は偏肉管の断面構成を示している。本発明では、均肉管1の寸法を外径D0および肉厚t0とし、偏肉管120の寸法を外径Dとして、均肉管1に周方向に圧縮を加えて縮径加工を施すこととしている。この縮径加工の加工度は、外径比D0/D(以下、「絞り比γ」という)で定義する。
【0024】
図1(a)に示すように、均肉管1の断面は領域イおよび領域ロで構成されるが、これらは、図1(b)に示す偏肉管120の断面の領域イおよび領域ロにそれぞれ対応する。均肉管1の領域ロの広がりは周方向長さlbで示され、偏肉管120の領域ロの広がりは周方向長さlb′で示されるが、周方向長さlb、lb′の挙動については後述する。また、周方向長さlb、lb′は、均肉管1、または偏肉管120での肉厚中心における円周長さを示している。
【0025】
縮径加工に伴う管円周の肉厚増加は、均肉管1の領域イで大きく、領域ロで小さくなる。さらに詳細には、図1(b)に示すように、領域イの肉厚増加を断面C−C(同じく断面D−D)から断面A−Aにかけて徐々に大きくすることによって、偏肉管120の肉厚分布を調整できる。このような管円周の不均等な肉厚増加は、縮径加工における周方向圧縮力による変形の大きさを、管の周方向に不均等にすれば実現できる。
【0026】
図2は、縮径加工における周方向圧縮力Fとそれに伴って変形する肉厚tとの関係を、領域イの断面A−A、領域ロの断面B−Bを代表例として、模擬的に示す図である。図中の曲線Fa、Fbは、断面A−Aおよび断面B−Bの周方向圧縮に対する降伏応力とそれぞれの肉厚の積を示している。
【0027】
したがって、縮径加工による肉厚増加にともなうFa、Fbの増加には、断面A−Aおよび断面B−Bにおける材料の加工硬化の影響も含まれる。ただし、図中のFa0、Fb0は、それぞれ断面A−Aおよび断面B−Bで肉厚増加が開始する周方向圧縮力を示している。
【0028】
縮径加工において肉厚断面(例えば、断面A−A、断面B−B等)に作用する周方向圧縮応力(σ)とその部位の肉厚(t)の積(以下、「周方向圧縮力F」という)は、基本的には、いずれの肉厚断面においても同一である。例えば、縮径加工での周方向圧縮力がF1の場合には、図2に示すように、断面A−Aでは圧縮変形によって肉厚がta1まで増加する。
【0029】
一方、F1<Fb0であるため、断面B−Bでは周方向圧縮力による変形は生ぜず、肉厚増加はない。これらの関係を前記図1に示す縮径加工に当てはめれば、同(b)での断面A−A(領域イ)の肉厚はta=ta1となり、断面B−B(領域ロ)の肉厚はtb=t0のままである。
【0030】
次に、縮径加工での周方向圧縮力がF2まで増加すると、図2に示すように、断面A−Aの肉厚はta2まで増加し、断面B−Bの肉厚は若干増加してtb2になる。同様に、これらの関係を前記図1に示す縮径加工に当てはめれば、同(b)での断面A−A(領域イ)の肉厚はta=ta2となり、断面B−B(領域ロ)の肉厚はtb=tb2となる。
【0031】
換言すれば、縮径加工を施した後の断面A−Aおよび断面B−Bの肉厚は、Fa、Fbおよび作用させる周方向圧縮力Fによって調整することができる。例えば、周方向圧縮力Fが一定の場合には、FaとFbの差を大きくすることによって、断面A−Aと断面B−Bでの肉厚増加の差を大きくすることができる。一方、Fa、Fbが一定の場合には、周方向圧縮力Fを増加させことによって、断面A−Aと断面B−Bでの肉厚増加の差を大きくすることができる。
【0032】
周方向圧縮力Fを増加させる場合に、2つの手段を採用することができる。第1は、絞り比γを増加させる手段であり、第2は、金属管素材の均肉管での領域ロにおける周方向長さlbを増加させる手段である。
【0033】
前記図1に示すように、第2の手段において、肉厚中心での周方向長さlbの増加は、領域イでの周方向圧縮力による変形の増加を促し、断面A−Aの肉厚増加を促進することになる。すなわち、均肉管1の周方向長さlbの増加は、偏肉管120の領域ロでの周方向長さlb′を増加させることになる。
【0034】
図3は、縮径加工に伴う肉厚増加による偏肉管の内面形状の一例を示す図である。上述の通り、周方向長さlbの増加は偏肉管120での周方向長さlb′を増加させるので、周方向長さlbを大きくし過ぎて縮径加工を施すと、図3に示すように、断面A−Aの肉厚増加が大きくなるので、偏肉管内面側に盛り上がることになる。
【0035】
したがって、均肉管1の肉厚中心での周方向長さlbは、目標とする偏肉管120の内面形状に応じて選定する必要がある。また、前記図2に基づいて説明した金属管素材の肉厚増加は、断面A−Aおよび断面B−B以外の断面にも適用されることはいうまでもなく、それぞれの断面における周方向圧縮に対する降伏応力を調整することによって、得られる偏肉管に所定の肉厚分布を形成することができる。
【0036】
次に、本発明の製造方法において、金属管素材の断面の円周方向に降伏応力分布を形成する方法、すなわち、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域を構成する方法について説明する。その方法として、次の3つが挙げられる。
【0037】
第1の方法は、管に抽伸加工などの冷間加工を施して、図1(a)に示す形状を有する均肉管1を製造した後、前記図1に示す領域イに相当する部位を加熱して応力除去、さらには再結晶させることによって、領域イの硬度を領域ロよりも低下せしめる方法である。
【0038】
次に、第2の方法は、図1(a)に示す形状を有する均肉管1を製造した後、前記図1に示す領域イに相当する部位のみを所定温度に加熱して、降伏応力を領域ロに相当する部位よりも小さくするように、部分加熱を施す方法である。
【0039】
さらに、第3の方法は、図1(a)に示す形状を有する均肉管1の領域イおよび領域ロの部位をそれぞれ低強度、高強度の材料で構成する方法である。具体例を挙げれば、領域イおよび領域ロの部位をそれぞれ低強度、高強度の板をロールフォーミングなどの方法で、円弧断面に成形した後、前記図1に示す断面C−Cおよび断面D−Dの位置でレーザ溶接などの方法で接合して、均肉管1を製造する方法である。
【0040】
図4は、本発明の製造方法で採用できる、金属管素材を縮径加工する方法の例を説明する図である。図4(a)はダイス抽伸法を示しており、図示しない牽引装置に取り付けたチャック11で金属管素材である均肉管1の先端を把持して牽引し、軸対称の先細り形状の内郭部を有するダイス10によって外径絞りを行って偏肉管120に加工する。
【0041】
次に、図4(b)はダイス押し込み法を示しており、図示しない加圧装置に取り付けた押し金21により、金属管素材である均肉管1を軸対称の先細り形状の内郭部を有するダイス20に押し込み、均肉管120に加工する。
【0042】
さらに、図4(c)はロータリスエージ法を示しており、図示しない駆動装置で高速上下動する複数のダイス30に金属管素材である均肉管1を回転させながら軸方向に送り込んで偏肉管120に加工する。
【0043】
金属管素材の円周方向に降伏応力分布を形成するため、上記第2の方法によって部分加熱を施す場合には、周方向に形成した温度分布が変化しないように、加熱直後に迅速に縮径加工を施すことが必要である。そのためには、図4(a)〜(c)に示す縮径加工を行うダイス加工の直前で、高周波加熱などの方法によって急速に部分加熱を行うことが望ましい。
【0044】
図4に示す縮径加工方法では、円形断面の均肉管1を金属管素材として、円形断面形状を保ちながら縮径加工を軸方向に進めていく方法である。しかし、本発明の製造方法では、これに限定されるものではなく、金属管素材としての均肉管をいったん小判形断面の扁平管(均肉管)に成形した後、これを縮径加工して偏肉管を製造する方法も採用することができる。
【0045】
図5は、本発明の製造方法において小判形断面の扁平管に成形した金属管素材を縮径加工する方法を説明する図である。図5(a)は、金属管素材として扁平管2を図示しないプレス機のベッドに取り付けた下型41の半円断面溝41aにセットした状態を示している。ここで、扁平管2の断面は、前記図1に示す均肉管1と同様に、領域イおよび領域ロで構成され、所定の周方向圧縮に対する降伏応力分布が形成されている。
【0046】
扁平管2に降伏応力の周方向分布を形成するため、上記第2の方法によって部分加熱を施す場合には、周方向に形成した温度分布が変化しないように、素材を扁平加工した後に部分加熱を行うことが望ましい。
【0047】
図5(a)に示すセットの後、上方より、図示しない同プレス機の上ラムに取り付けた上型40を降下させ、上型40の半円断面溝40aで均肉扁平管2を長径方向に押圧する。図5(b)は、縮径加工が終了し、偏肉管120が得られた状態を示している。次に、本発明の製造方法の効果を、実施例を基づいて説明する。
【0048】
【実施例】
(実施例1)
金属管素材を継ぎ目無し鋼管で作製して、縮径加工をダイスを用いた抽伸加工で行う場合について確認した。素管として外径48.6mm、肉厚8mmの継ぎ目無し鋼管STKM12A(JIS G 3445、降伏強度YS=350MPa、引張強さTS=410MPa)を用いて、冷間ダイス抽伸で外径D0=35mm、肉厚t0=5mmの鋼管に仕上げた。この状態では、YS=610MPa、TS=620MPaであった。
【0049】
この後、前記図1(a)に示す周方向長さlb=40mmの領域ロを水冷した状態で、領域イを680℃で10分間加熱、冷却して均肉管1とした。この状態の領域イでは、YS=310MPa、TS=370MPaであった。
【0050】
この均肉管1を図4(a)に示すダイス抽伸法で外径30mmにする縮径加工を施したところ、図1(b)に示す領域イの断面A−Aの肉厚taは10mmまで肉厚が増加するが、領域ロでは増加が抑制されて、tbは5mmのままであり、偏肉率α=0.67の偏肉管120が得られた。
(実施例2)
金属管素材を溶接鋼管で作製し、縮径加工をロータリスエージ法で行う場合について確認した。素管として外径42.7mm、肉厚6mmの電気抵抗溶接鋼管STKM13C(JIS G 3445、YS=530MPa、TS=620MPa)を使用し、図1(a)に示す周方向長さlb=50mmの領域ロを除く部分、すなわち領域イの断面A−A部とその近傍を高周波加熱で700℃に昇温させた。このとき、領域イでは、YS=100MPa、TS=120MPaであった。なお、領域ロの材料強度は、素管と同一であった。
【0051】
上記領域イを高周波加熱した直後、図4(c)に示すロータリスエージ法で外径30mmに縮径加工を施した結果、図1(b)に示す領域イはta=14mmまで肉厚が増加したのに対し、領域ロの肉厚はtb=7mmにとどまり、偏肉率α=0.67の偏肉管120が得られた。
(実施例3)
金属管素材を熱間圧延鋼板を用いてレーザ溶接で構成して、縮径加工をダイス押し込み法で行う場合について確認した。金属管素材として外径D0=35mm、肉厚t0=5mmの均肉管を、板厚5mmの熱間圧延鋼板SPHC(JIS G 3131、YS=310MPa、TS=350MPa)をプレス曲げして領域イの部材とし、板厚5mmの熱間圧延鋼板SPFH60(JIS G 3134、YS=580MPa、TS=650MPa)をプレス曲げして周方向長さlb=39mmの領域ロの部材とし、両者の長手方向エッジ同士をレーザ溶接して製造した。
【0052】
得られた均肉管を、図4(b)に示すダイス押し込み法で外径30mmになるように縮径加工を施したところ、図1(b)に示す領域イはta=10mmまで肉厚が増加したが、領域ロではtb=5mmと肉厚が増加せず、偏肉率α=0.67の偏肉管120が得られた。
(実施例4)
金属管素材を鍛接鋼管を用いて小判形断面に扁平加工して作製し、縮径加工を冷間プレス成形で行う場合について確認した。外径42.7mm、肉厚8mmの鍛接鋼管STKM13C(JIS G 3445、YS=530MPa、TS=620MPa)を冷間プレス成形で長径50mm、短径30mmの小判形断面に扁平加工して、均等肉厚の金属管素材を製造した。
【0053】
この金属管素材の全体を700℃に昇温させた後、図5(a)に示すの周方向長さlb=40mmの領域ロの部分を水冷した。このとき、領域イの断面A−A部では、YS=100MPa、TS=120MPaであった。なお、領域ロの材料強度は、加熱前の金属管素材と同一であった。
【0054】
次いで、図5(b)に示すように、外径φ30に縮径加工を施した。縮径加工後の領域イではta=16mmと肉厚が増加しており、領域ロの肉厚はtb=10mmと増加が抑制され、偏肉率α=0.46の偏肉管120が得られた。
【0055】
【発明の効果】
本発明の偏肉管の製造方法によれば、通常の工業プロセスで量産される継ぎ目無し管、溶接管、鍛接管などの均肉管を素材とし、これに縮径加工を施して、素材内周に不均等な肉厚増加を発生させて効率的に偏肉管を製造することができるので、必要とする加工設備は、従来の熱間押し出し法と比較して、簡単かつ安価となる。
【0056】
しかも、自動車のラックバーなどの素材として使用すれば、従来の丸鋼を機械加工して製造されるラックバーよりも軽量化が図れ、燃費向上に著しい効果を発揮することができる偏肉管を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法で金属管素材として用いられる均肉管および縮径加工された偏肉管の構成を説明する図であり、同(a)は均肉管の断面構成を、同(b)は偏肉管の断面構成を示している。
【図2】縮径加工における周方向圧縮力Fとそれに伴う肉厚tの変化の関係を、領域イの断面A−A、領域ロの断面B−Bを代表例として、模擬的に示す図である。。
【図3】縮径加工に伴う肉厚増加による偏肉管の内面形状の一例を示す図である。
【図4】本発明の製造方法で採用できる、金属管素材を縮径加工する方法の例を説明する図であり、同(a)はダイス抽伸法を、同(b)はダイス押し込み法を、同(c)はロータリスエージ法を示している。
【図5】本発明の製造方法において小判形断面の扁平管に成形した金属管素材を縮径加工する方法を説明する図である。
【図6】丸鋼製のラックバーの構成例を示す図である。同(a)は部分斜視図であり、同(b)はラック歯底の構成を示すX−X視野による横断面図である。
【図7】金属管を素材としたラックバーの構成例を示す図である。
【図8】ラックバーの金属管素材として使用できる偏肉管の構成を示す図であり、同(a)および(b)は、それぞれラック部の加工を施す部位の正面図および縦断面図を示している。
【符号の説明】
1:均肉管、 2:扁平管
10、20、30:ダイス
11:チャック、 21:押し金
40:上型、 41:下型
100、110:ラックバー
120:偏肉管
Claims (5)
- 周方向に均等肉厚で形成された金属管素材に対して、周方向に不均等の肉厚増加を発生させて偏肉管を製造する方法であって、前記金属管素材の断面を周方向に低強度領域と高強度領域とで構成したのち、外径を縮小させる塑性加工を施すことを特徴とする偏肉管の製造方法。
- 加工硬化した上記金属管素材の周方向の一部を軟化熱処理することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域とを構成することを特徴とする請求項1に記載の偏肉管の製造方法。
- 上記金属管素材の周方向に温度分布を形成することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域とを構成することを特徴とする請求項1に記載の偏肉管の製造方法。
- 上記金属管素材を同じ板厚と曲率半径とからなる円弧断面形状の低強度金属板および高強度金属板を組み合わせたのち直線状エッジを接合して構成することによって、その断面の周方向に低強度領域と高強度領域とを構成することを特徴とする請求項1に記載の偏肉管の製造方法。
- 管内周に発生した肉厚増加が不均等で円周方向の部位により肉厚が異なる偏肉管であって、肉厚が大きい部位に対向して肉厚が小さい部位が位置し、偏肉管の内径部の断面形状が略D字形であることを特徴とする偏肉管。
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