JP2004270121A - 漂白パルプの製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素脱リグニンし、その後、芒硝及び/又はセスキ芒硝を添加して反応初期pHを1.5〜4.5で過酸化水素処理し、次いで、元素状塩素を使用しない多段漂白工程で処理して漂白完成パルプのヘキセンウロン酸量を絶乾パルプ当たり15mmol以下とする。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、リグノセルロース物質由来の漂白パルプの製造方法に関する。更に詳しく述べれば、本発明は、リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素脱リグニンし、その後、酸性領域で芒硝あるいはセスキ芒硝含有溶液を添加した過酸化水素処理を行い、次いで、塩素、次亜塩素酸塩を用いない(ECF,TCF)多段漂白工程で処理してなるパルプ粘度の低下が少ない漂白パルプの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
リグノセルロース物質を製紙原料として多くの用途に使用するためには、蒸解のような化学作用によってパルプ化した後、或いはリファイナー等を用いて機械的作用によってパルプ化した後、得られるパルプを漂白薬品で漂白して白色度を高める必要がある。例えば、クラフトパルプは包装資材のように強度を必要とする用途に使う場合を除いて、通常、アルカリ酸素脱リグニンした後、塩素、次亜塩素酸塩、二酸化塩素、酸素、オゾン、過酸化水素、苛性ソーダ等の漂白剤及び漂白助剤により漂白処理され、パルプに含まれる着色原因物質であるリグニン等が除去された後に漂白クラフトパルプとして使用されるのが一般的である。
【0003】
未漂白パルプから漂白パルプを製造する場合は、パルプ繊維自体の強度を或る程度維持することが必要であり、そのため、パルプ繊維を構成するセルロース、ヘミセルロース等の炭水化物の分解を最小限に止めるように、過激な一段での漂白を避け、漂白薬品と漂白条件を様々に組み合わせ三〜六段の多段漂白法を採用するのが一般的である。
【0004】
従来から、多段漂白法においては、パルプを最初に塩素で処理し、パルプ中に含有されるリグニンを塩素化し、リグニンに可溶性を付加した後、次にアルカリで塩素化リグニンを溶解抽出して、パルプ中からリグニンを分離除去し、更に次亜塩素酸塩、二酸化塩素等を使用し、残留する少量のリグニンを分解除去し、白色度の高いパルプを得る方法が採られてきた。
しかしながら、近年、パルプの塩素化段からの漂白排水に含まれる有機塩素化合物(以下、AOXと略す)の環境への影響が懸念され、パルプ漂白に塩素を用いない動きが高まってきている。また、次亜塩素酸塩を用いた場合も、パルプの漂白時にクロロホルムが生成し、環境に悪影響を及ぼす可能性があることから、次亜塩素酸塩をパルプ漂白に使用しない漂白シーケンスが求められてきている。
【0005】
現在、塩素や次亜塩素酸塩の代替として、オゾン、酸素、過酸化水素及び過酢酸、過硫酸等の過酸等の酸素系の漂白薬品が注目されている。しかしながら、過酢酸、過硫酸は、脱リグニンに対する選択性が低くパルプ強度を損なう危険性があること、薬品コストが高いこと、あるいは爆発性を有しており取り扱いが困難であること等の理由から一般に普及するまでには至っていない。したがって、現在のところ、塩素や次亜塩素酸塩の代替としては、既に使用実績のある二酸化塩素、アルカリ過酸化水素を主に用いるのが一般的である。特に、塩素漂白−アルカリ抽出の順序で始まる漂白を二酸化塩素漂白及びアルカリ過酸化水素漂白に置き換える実例が多くなってきている。しかしながら、二酸化塩素やアルカリ過酸化水素は、反応漂白機構が塩素と異なることから、特に広葉樹を原料として、酸性で抄紙した場合には、実際に近い条件下では漂白後のパルプの退色性が極端に劣るという問題点があった。
【0006】
また、塩素や次亜塩素酸塩を用いない一般的な漂白シーケンス(例えば、D−E−D−P:D=二酸化塩素段、E=アルカリ抽出段、P=アルカリ過酸化水素段)で漂白したパルプのパルプ中のヘキセンウロン酸量が、絶乾パルプ1kg当たり15mmolより高い場合は、パルプの退色性が著しく劣るという問題点があった。
【0007】
退色性を改善する方法としては、パルプの酸素漂白の前又は後にキシラナーゼ処理することが公知(例えば、特開平2−264087号公報、特開平2−293486号公報参照。)であり、キシラナーゼ前処理により退色性を改善する提案(例えば、特開平6−101185号公報参照。)もあるが、処方するコストの割に退色性の改善効果はそれほど大きくないという問題がある。また、酸前処理を行なう方法(例えば、イギリス特許第1062734明細書、特表平10−508346号公報参照。)では、未漂白パルプを漂白段の前に、酸性下で80℃以上の温度(例えば、イギリス特許第1062734明細書参照。)あるいは85〜150℃で処理(例えば、特表平10−508346号公報参照。)し、その後、多段で漂白し、パルプの退色性が改善されていることが報告されている。
【0008】
しかしながら、本発明者らが、これらの条件で処理し漂白してみたところ、85℃を超える温度では退色性は改善されるものの、強度が大きく低下することが判明した。更に、この高温で酸前処理を行なう方法は、酸処理後の白色度低下が大きいため、カッパー価の低下ほどには晒薬品の低減は少なく、パルプ収率の低下、また、排水CODの増加、高温・低pHに耐えうる設備が必要等の理由から、設備コストがかかるなどの問題も有していた。
【0009】
一方、退色性の評価には乾式加熱法(105℃で24時間加熱)を用いている(例えば、特表平10−508346号公報参照。)が、実際に則した退色性をみるためには、退色試験を熱・湿度条件(例えば、80℃、相対湿度65%)下で行うことが必須であるにもかかわらず、この評価法は熱処理だけの退色評価であるため、我が国の湿度の高い気候条件を考慮すれば、この評価法で製品の退色性を評価することは困難である。
【0010】
退色の評価として通常用いられるPC価(ポストカラーナンバー)は、退色処理前後の白色度の差から求められる。PC価の少ないパルプを用いた写真用材料(例えば、特開昭56−54436号公報参照。)、酸素漂白を含むシーケンスで漂白したパルプを用いている退色に優れた写真用材料(例えば、特開昭63−303191号公報参照。)についての報告例があるが、何れも塩素をベースとした漂白によって製造されているパルプを使用している例であり、また、写真用材料という特性から、白色度90%以上と高くされていることから、当然ながら漂白パルプの退色性は優れている。しかし、本発明のように、塩素及び次亜塩素酸塩を用いない漂白法によって、強度低下のない、退色性に優れたパルプを製造しているものではない。
【0011】
一方、酸性領域での過酸化水素処理については、数件提案されている(例えば、特許文献1、特許文献2、非特許文献1参照。)が、有機又は無機錯化物併用における過酸化水素の漂白の効果を示しただけであり、パルプシートの退色性との関係を調査したものではなく、その記述もない。また、未晒パルプを酸性下で有機又は無機錯化物併用下で過酸化水素処理する方法(特許文献1)にしても、酸素晒後にさらに同様な処理を行うことについての記述は見当らない。
【0012】
また、酸性領域での過酸化水素処理において、芒硝あるいは、セスキ芒硝含有溶液を用いず、過酸化水素処理した場合では、退色性は優れるものの、パルプ粘度の低下防止に関しては改善すべき点があった。(例えば、本発明者等の先願である特願2001−227274号明細書)
【0013】
漂白パルプ製造工程において、パルプ粘度の低下を防止する方法としては、アルカリパルプをpH1.0〜1.6の酸性処理液中で、約80℃で亜硝酸塩及び硝酸塩を加えて加熱処理した後、酸素を添加しないリグニンのアルカリ抽出処理を行なう方法(例えば、特許文献4参照。)があるが、あくまで酸素漂白との代替を提案しているだけで、多段漂白段での粘度低下を防止するものではない。
【0014】
一方、塩素酸塩、硫酸、メタノールを原料とする二酸化塩素製造設備から排出される廃液の組成及び量は、一般的に、セスキ芒硝が二酸化塩素製造量1トンに対し1.2〜1.4トン、塩素酸ナトリウムが二酸化塩素製造量1トンに対し0.5〜5kg、塩化ナトリウムが二酸化塩素製造量1トンに対し0.1〜0.5kgの割合となっており、工場廃液の凝集沈殿処理槽、漂白工程等に利用される以外は廃棄処分されている。そのため、通常、元素状塩素を使用しないECF漂白法では、例えば、D−E/O−P−Dのような通常のECFシーケンスで一日当たり、生産量1000トン製造している場合、二酸化塩素の使用量は、5〜15トン必要であり、それに付随して発生する廃液中のセスキ芒硝量は一日当たり6〜21トン排出されることとなり、二酸化塩素設備からの排出量はかなりの量になる。塩素酸塩をメタノール還元して二酸化塩素を製造する方法は、日本カーリット社のR−8法や保土谷エンジニアリング社のSVP−LITE法がある。
【0015】
二酸化塩素製造設備からの廃液処理方法としては、アルミニウム又はアルミニウム化合物を添加し、硫酸アルミニウムを製造する方法(例えば、特開昭51−96796号公報参照。)、蒸解薬液に利用する方法(例えば、特開昭52―107302号公報参照。)、バイポーラ膜と陽イオン交換膜とより構成した二室式電気透析装置にて硫酸塩を硫酸とアルカリに分解し、硫酸を二酸化塩素製造設備で再利用する方法(例えば、特開平5−58601号公報参照。)等があるが、何れも製造コストや設備コストが嵩み、実際の殆どのパルプ製造工場では、工場廃液の凝集沈殿処理槽のpH調整、漂白工程のpH調整等に利用する以外は、廃棄するしかないのが現状である。
【0016】
【特許文献1】
特公昭63−20953号公報
【特許文献2】
W079/00637
【特許文献3】
特許第3265036号公報参照。
【非特許文献1】
1985,Wood and Pulping Chemistry Symposium,Hans Ulrich Suss等
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者等は、先に、リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素脱リグニンし、その後、多段漂白工程で元素状塩素を使用せずに漂白処理してなる漂白パルプの製造方法であって、該アルカリ酸素脱リグニン後のパルプに過酸化水素処理を反応初期pH1.5〜4.5で行い、該漂白パルプ中のヘキセンウロン酸量が、絶乾パルプ1kg当たり15mmol以下であることを特徴とする退色性の改善された漂白パルプの製造方法を提案している。
【0018】
本発明は、上記方法において、漂白完成パルプ中のヘキセンウロン酸の量を、パルプ絶乾1kg当たり15mmol以下とすることによって、漂白パルプの退色性が改善されているのみならず、パルプ粘度の低下も少なくなる方法を目的とするものである。また、更に二酸化塩素製造設備より排出される廃液を有効利用することができる方法を目的とするものである。
【0019】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成することができる本発明は、以下の発明を包含する。
(1)リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素脱リグニンし、反応初期pH1.5〜4.5で芒硝及び/又はセスキ芒硝の存在下で過酸化水素処理を行い、次いで、元素状塩素を使用しない多段漂白工程で漂白し、パルプ中のヘキセンウロン酸量を絶乾パルプ1kg当たり15mmol以下にすることを特徴とする漂白パルプの製造方法。
【0020】
(2)前記過酸化水素処理における芒硝及び/又はセスキ芒硝の存在率は、対絶乾パルプ当たり0.01質量%〜10質量%であることを特徴とする(1)項記載の漂白パルプの製造方法。
【0021】
(3)前記過酸化水素処理における反応温度が50〜85℃であることを特徴とする(1)項又は(2)項に記載の漂白パルプの製造方法。
【0022】
(4)前記芒硝及び/又はセスキ芒硝が二酸化塩素製造設備から廃液として排出されるセスキ芒硝含有廃液であることを特徴とする(1)項〜(3)項のいずれか1項に記載の漂白パルプの製造方法。
【0023】
(5)前記過酸化水素処理にキレート剤を添加することを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1項に記載の漂白パルプの製造方法。
【0024】
(6)前記漂白パルプが広葉樹パルプであることを特徴とする(1)項〜(5)項のいずれかに1項に記載の漂白パルプの製造方法。
【0025】
(7)前記(1)項〜(6)項のいずれか1項に記載の方法で製造された漂白パルプを主成分とする酸性紙。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明で用いられるリグノセルロース物質は、特に限定するものではない。本発明に使用されるパルプを得るための蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法、又はポリサルファイド蒸解法が好適に用いられる。例えば、木材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5〜75%、好ましくは15〜45%、有効アルカリ添加率は絶乾木材重量当たり5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、蒸解温度は130〜170℃で、蒸解方式は、連続蒸解法あるいはバッチ蒸解法のどちらでもよく、連続蒸解釜を用いる場合は、蒸解液を多点で添加する修正蒸解法でもよく、その方式は特に問わない。
【0027】
蒸解に際して、使用する蒸解液に蒸解助剤として、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノン及び前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、或いは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種或いは2種以上が添加されてもよく、その添加率は木材チップの絶乾質量当たり0.001〜1.0質量%である。
【0028】
本発明では、公知の蒸解法により得られた未漂白化学パルプは、洗浄、粗選及び精選工程を経て、公知のアルカリ酸素脱リグニン法により脱リグニンされる。本発明に使用されるアルカリ酸素脱リグニン法は、公知の中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できるが、現在汎用的に用いられているパルプ濃度が8〜15質量%で行われる中濃度法が好ましい。
【0029】
前記中濃度法によるアルカリ酸素脱リグニン法において、アルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素及びアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。
【0030】
酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ質量当たり0.5〜3質量%、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜100分、パルプ濃度は8〜15質量%であり、この他の条件は公知のものが適用できる。本発明では、アルカリ酸素脱リグニン工程において、上記アルカリ酸素脱リグニンを連続して複数回行い、できる限り脱リグニンを進めるのが好ましい実施形態である。アルカリ酸素脱リグニンが施されたパルプは次いで洗浄工程へ送られる。パルプは洗浄後、酸性領域の過酸化水素処理工程へ送られる。
【0031】
本発明における酸性領域の過酸化水素処理における反応温度は50〜85℃が好ましい。温度が50℃未満の場合には、退色性は十分に改善されず、一方、85℃を超える温度では、退色性は改善されるものの、漂白パルプの粘度及び強度が著しく低下する。反応初期pHは1.5〜4.5がよい。反応初期pHが1.5未満であると、パルプ強度への悪影響が大きく、また上記の温度下で1.5未満のpHでは耐久性のあるライニングを見出すことが難しく、あっても非常に高価なものになり、実用的ではない。pHが4.5より大きいと、ヘキセンウロン酸の除去効果が少なくなると同時に工程内の蓚酸カルシウムのスケーリングが激しくなる。また、酸性領域での過酸化水素処理は、反応初期pHと反応終了pHは、略同等となるのが特徴的である。
【0032】
一方、過酸化水素の添加率は、絶乾パルプ当り、0.05〜5質量%がよく、効果やパルプ繊維へのダメージを考えると好ましくは、0.1〜2質量%である。
更に、過酸化水素処理のリテンションは、その効果とパルプ繊維へのダメージを考えると30〜300分がよく、処理濃度は、一般的な工程内濃度であれば、制限はないが、8〜15%の中濃度法、又は25〜40%の高濃度法が好ましい。本発明で酸性領域を維持するために用いられる酸は、無機酸、有機酸のいずれを併用してもよい。酸処理時のpHは、1.5〜4.5であり、具体的には、硫酸、硝酸、塩酸、亜硫酸、亜硝酸あるいは二酸化塩素発生設備から排出されるセスキ芒硝等の無機酸が使用できる。セスキ芒硝以外の酸には、硫酸が入手と取り扱いが容易であるため好適に用いられる。その他、酸処理については一般的な処方が用いられる。一方、芒硝あるいは、セスキ芒硝の添加率は、絶乾パルプ当り、0.01〜10質量%がよく、好ましくは、0.1〜5質量%がよいいが、添加率が0.01質量%未満では、粘度上昇の効果が薄く、10質量%を超えると製造コストが嵩む。
【0033】
本発明の酸性領域の過酸化水素処理においては、キレート剤を添加することが更に好ましい。キレート剤の種類は、Fe2+、Cu2+、Mn2+ 等の金属イオンを封鎖できるものであればEDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)、DTPMP(ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸)、PHAS(ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸塩)等何でもよく、各種キレート剤を混合使用してもよい。また、キレート剤の添加率は、一般的に絶乾パルプに対し0.001質量%〜5質量%の範囲で添加され、キレート剤の添加は、過酸化水素添加の前後どちらで添加しても構わないが、キレート効果を最大限に発揮させるためには、過酸化水素添加前の方が効果的である。
【0034】
本発明の酸性領域の過酸化水素処理においては、酸素含有ガスあるいは窒素含有ガスを用いて加圧することもできる。処理時に加圧のために用いられる酸素含有ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSAからの酸素、VSAからの酸素等のように工業規模での利用が可能で、現在、アルカリ酸素脱リグニンに使用されている酸素純度が85容量%以上の酸素或いは酸素含有ガス、前記モレキュラーシーブを用いた酸素製造設備を用いて酸素の含有量を21容量%を超えて調整された酸素含有ガス、前記酸素純度が85容量%以上の酸素含有ガスと空気を混合して製造される酸素富化ガス、酸素含有量が20容量%以上の空気等を挙げることができ、これらの中から適宜選択して用いることができる。過酸化水素処理時の酸素含有ガス、あるいは窒素含有ガスによる酸処理時の加圧圧力は0.05〜0.9MPa(ゲージ圧力)であり、好ましくは0.15〜0.7MPaである。
【0035】
また、多段漂白処理工程においてオゾン漂白段を有する場合には、酸素を含有するその排ガスも好適に使用することができる。本発明の過酸化水素処理段に使用される窒素含有ガスとしては、窒素ガス含有率が95%以上のガスであればいかなるガスでもよいが、経済的見地から、アルカリ酸素脱リグニンに使用される深冷分離法からの酸素、PSAからの酸素、VSAからの酸素等の酸素ガスを製造する際に副生する窒素含有ガスが好適に用いられる。
【0036】
本発明においては、酸性領域の過酸化水素処理工程後に、酵素処理工程を設けることも可能である。前記酵素処理工程で使用される酵素は、パルプと反応させることにより、JIS P 8206で測定されるパルプの過マンガン酸カリウム価が低下するものであれば、いかなる酵素でもよい。例えば、キシラナーゼ、リグニンパーオキシダーゼ、マンガンパーオキシダーゼ、ラッカーゼ等が知られいるが、勿論これらの酵素でもよく、未だ知られていない酵素でも該当する酵素であればよいことは言うまでもない。また、これらの酵素は単独で用いてもよく、あるいは複合、混合して、さらには複数回に分けて使用することもできる。これらの酵素のうち、キシラナーゼと呼ばれるキシラン分解酵素は、漂白促進効果も同時に有しており、好適に用いられる。
【0037】
本発明においては、アルカリ酸素漂白工程後に酸性領域での過酸化水素処理工程を設けるが、さらに、その後段で酸処理工程を設けることも可能である。本発明の酸処理工程の酸処理は、好ましくはpH2.5〜3.5、温度は、好ましくは85〜110℃、保持時間は、好ましくは20〜90分の条件下で行われる。本発明の酸処理に用いられる酸は、酸処理時のpHを所定値に調整できるものであれば無機酸、有機酸のいずれでもよいが、具体的には、硫酸、硝酸、塩酸、亜硫酸等が使用でき、中でも硫酸が入手と取り扱いが容易であるため好適に用いられる。その他、酸処理については、一般的な処方が採用される。
【0038】
本発明の多段漂白処理工程では、初段は二酸化塩素漂白段(D)、あるいは、オゾン漂白段(Z)、あるいは、オゾン漂白と二酸化塩素漂白を連続して組み合わせた漂白段(Z/D)等が好適に用いられ、二段目にはアルカリ抽出段(E)が用いられ、三段目以降には、二酸化塩素、アルカリ過酸化水素等の組み合わせが好適に用いられる。本発明の初段の二酸化塩素漂白段に用いられる二酸化塩素は、当業者にとって公知の多くの二酸化塩素発生法より得られる二酸化塩素から選ぶことができるが、好適には、塩素を副生しない発生法から得られる二酸化塩素が用いられる。本発明の初段の二酸化塩素段でのpHは2〜6、好ましくは2.5〜4であり、pHを調整するために任意の酸又はアルカリを補助的に添加することも可能である。また、二酸化塩素処理時間、処理温度、パルプ濃度等のその他の二酸化塩素漂白条件は、全て公知の条件を採用することができる。
【0039】
本発明の二酸化塩素漂白段に続くアルカリ抽出段では、当業者にとって公知の多くのアルカリ化合物を使用することができるが、苛性ソーダが最も使用しやすく、好適に使用される。本発明のアルカリ抽出段では、酸素及び/又は過酸化水素を併用することもできる。その他、本発明のアルカリ抽出段は、公知の条件で行うことができる。
【0040】
本発明の多段漂白工程で用いられる二酸化塩素漂白段、アルカリ抽出段に続く三段目以降の漂白段では、塩素及び次亜塩素酸塩以外の漂白薬品であれば如何なる漂白薬品を用いてもよいが、二酸化塩素、アルカリ過酸化水素、オゾン、過酸等の一般的な漂白薬品が好適に用いられる。三段目以降の段数も特に限定されるわけではないが、エネルギー効率、生産性等を考慮すると、合計で三段あるいは四段で終了するのが好適である。
【0041】
本発明に用いられる薬品としては、塩素及び次亜塩素酸塩を除く、酸性領域での過酸化水素(A/P)、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、アルカリ過酸化水素(P)、オゾン(Z)、酵素(Ez)、有機過酸等の公知の漂白剤と漂白助剤を挙げることができる。漂白シーケンスとしては、酸素脱リグニン後に、例えば酸性領域での過酸化水素段(A/P)から始まるシーケンスとしては、A/P−D−E/O−D、A/P−D−E/O−P−D、A/P−D−E/O−D−D、A/P−D−E/O−D−P、A/P−D−E/OP−D、A/P−D−E/O−Z−D、A/P−Z−E/O−D、A/P−Z−E/OP−D、A/P−Z−E/OP−D−P、A/P−Z−E/OP−P−D、A/P−Z−D−E/O−D、A/P−Z−D−E/OP−D、A/P−Z/D−E/O−D、A/P−Z/D−E/OP−D等、及び酵素を含むA/P−Ez−D−E/O−D、A/P−Ez−D−E/O−P−D、 A/P−Ez−D−E/O−D−D、A/P−Ez−D−E/O−D−P、A/P−Ez−D−E/OP−D、A/P−Ez−D−E/O−Z−D、A/P−Ez−Z−E/O−D、A/P−Ez−Z−E/OP−D、A/P−Ez−Z−E/OP−D−P、A/P−Ez−Z−E/OP−P−D、A/P−Ez−Z−D−E/O−D、A/P−Ez−Z−D−E/OP−D、A/P−Ez−Z/D−E/O−D、A/P−Ez−Z/D−E/OP−D等も挙げることができる。
【0042】
また、本発明におけるA/P段は、アルカリ酸素脱リグニン後であれば、多段漂白処理工程中の何処で行ってもいいが、アルカリ酸素脱リグニン直後の方が効果的である。酸性領域での過酸化水素段(A/P)が多段漂白工程中にあるシーケンスとしては、例えば、D−A/P−E/O−D、D−E/O−A/P−D、D− A/P−E/OP−D、D−E/OP−A/P−D、D−E/O−D−A/P、Z−A/P−E/O−D、Z−E/O−A/P−D、Z−E/OP−A/P−D、Z−D−A/P−E/O−D、Z−D−E/O−A/P−D、Z/D−A/P−E/O−D、Z/D−E/O−A/P−D等を挙げることができる。また、多段漂白工程中にエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段を挿入してもよい。
【0043】
また、多段漂白工程中のA/P段の前にEDTA(エチレンジアミンテトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)、DTPMP(ジエチレントリアミンペンタメチレンホスホン酸)、PHAS(ポリ−α−ヒドロキシアクリル酸塩)等によるキレート剤処理段(Q)を設けても良い。例えば、Q−A/P−D−E/O−D、Q−A/P−D−E/O−P−D、Q−A/P−D−E/O−D−D、Q−A/P−D−E/O−D−P、Q−A/P−D−E/OP−D、Q−A/P−D−E/O−Z−D、Q−A/P−Z−E/O−D、Q−A/P−Z−E/OP−D、Q−A/P−Z−E/OP−D−P、Q−A/P−Z−E/OP−P−D、Q−A/P−Z−D−E/O−D、Q−A/P−Z−D−E/OP−D、Q−A/P−Z/D−E/O−D、Q−A/P−Z/D−E/OP−D等が挙げられる。
【0044】
本発明において、未漂白パルプをアルカリ酸素漂白し、その後、酸性領域での過酸化水素処理をし、次いで、多段漂白してなる漂白完成パルプのヘキセンウロン酸量を絶乾パルプ1kg当たり15mmol以下にすれば、退色性が改善される理由については今後の研究を待たなければならないが、ヘキセンウロン酸が酸性紙の完成パルプ中に多く残留していると、湿度が高く、かつ温度も高い条件下では、これが色素団に変化し、白色度が低下すると考えている。したがって、針葉樹に比べ、ヘキセンウロン酸の含有量の多い広葉樹の方が退色しやすい。
【0045】
また、本発明において、酸性領域で過酸化水素がヘキセンウロン酸を分解する反応機構についても、今後の研究を待たなければならないが、過酸化水素が酸性領域で、一部リグニン等と反応し、ヘキセンウロン酸を分解しやすいラジカル種を生成しているか、酸性領域で過酸化水素から生成すると予想されるハイドロオキソニウムイオン(OH+)がヘキセンウロン酸の分解に関与していると考えられる。
【0046】
一方、本発明において、セスキ芒硝がパルプ粘度を保持させる反応機構についても、今後の研究を待たなければならないが、過酸化水素由来の(OH)ラジカルの生成を抑制するか、若しくは、捕捉するような反応が起こっていると考えられる。
【0047】
本発明の漂白パルプを用いて、酸性紙を調製する方法は、漂白パルプをビーターでCSF(カナダ標準ろ水度、カナディアンスタンダードフリーネス)350ml〜550ml程度に叩解し、その後、硫酸バンド約2.5%、ロジンサイズ剤(例えば、サイズパインE、荒川化学工業製)約0.5%、タルク(例えば、イライト、日本タルク製)約20%、歩留向上剤(例えば、パーコール182、協和産業製)約0.02%の順に配合し、常法にて坪量64g/m2程度の酸性紙を抄造する方法がある。酸性紙の抄紙に際しては,本発明の漂白パルプによる酸性紙が有する優れた特性を損なわない範囲で他の漂白パルプを混合使用することはもちろん可能である。
【0048】
また、本発明の漂白パルプを用いて、中性紙を調製する方法は、漂白パルプをビーターでCSF350ml〜550ml程度に叩解し、その後、カチオン化澱粉(例えば、エースK100、王子コーンスターチ製)約0.5%、硫酸バンド約0.5%、AKD(例えば、SPK902、荒川化学工業製)約0.05%、軽質炭酸カルシウム(例えば、TP121、奥多摩工業製)約20%、歩留向上剤(例えば、パーコール182、協和産業製)約0.02%の順に配合し、常法にて坪量64g/m2程度の中性紙を抄造する方法がある。
本発明の退色性改善効果は、酸性紙の場合に大きいが、本発明で処理したパルプを中性紙に用いて何ら問題はない。
【0049】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、勿論、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下に示す実施例1〜5及び比較例1〜3は、工場製アルカリ酸素漂白後の広葉樹クラフトパルプをA/P−D−E−Dシーケンスで漂白を行ったものである。
また、特に示さない限り、カッパー価の測定、パルプ中のヘキセンウロン酸量の測定、パルプ白色度の測定、パルプの退色性の評価、パルプ粘度の測定はそれぞれ以下の方法で行った。なお、実施例及び比較例における薬品の添加率は絶乾パルプ質量当たりの質量%示す。
【0050】
1.パルプのカッパー価の測定
カッパー価の測定は、JIS P 8211に準じて行った。
【0051】
2.パルプ中のヘキセンウロン酸量の定量
500mlのSUS製容器に十分にイオン交換水で洗浄したパルプを絶乾パルプ5g量り取って入れ、蟻酸−蟻酸ナトリウムバッファー10mmol/l溶液を用いてトータル300mlとした。その後、SUS製容器内を窒素ガスで置換し、油恒温槽内で、110℃、5時間処理した。SUS容器を流水冷却後、処理後のパルプ懸濁液を洗浄液を含めて500mlにメスアップした後、ろ過して、液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)にて分析し、2−furoic acidと5−carboxy−2−furaldehydeを定量した。定量に際し、算出式、参考文献は、以下のものを使用した。
【0052】
算出式:(各サンプル20μlの濃度)=a、b(ng/μl)とした。
1)2−furoic acid量(mmol/kg)=a×(500/1000)/(10×10−3)/112.08
2)5−carboxy−2−furaldehyde量(mmol/kg)=b×(500/1000)/(10×10−3)/140.1
3)ヘキセンウロン酸量(mmol/l)=2−furoic acid量+5−carboxy−2−furaldehyde量
【0053】
参考文献:著者 Vuorinen,T.
Selective hydrolysis of hexenuronic acid groups and its application in ECF and TCF bleaching of kraft pulps International Pulp Bleaching Conference,April 14−18,1996,P43−51
【0054】
3.漂白パルプの白色度の測定
漂白パルプを離解後、パルプスラリーに硫酸バンドを対パルプ3.0%加え、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って坪量60g/m2のシートを作製した。その後、JIS P 8123に従ってパルプの白色度を測定した。
【0055】
4.パルプの退色性評価
白色度測定用パルプシートを80℃、相対湿度65%の条件下で、48時間の退色させ、退色前後のパルプ白色度から下式に従いPC価を算出し、評価した。
PC価=100×[{(1−退色後白色度)2/(2×退色後白色度)}−(1−退色前白色度)2/(2×退色前白色度)}]
【0056】
5.漂白パルプの粘度の測定
パルプ粘度の測定は、J.TAPPI 44に準じて行った。
6.漂白パルプの比引裂き強度の測定
パルプを離解した後、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って坪量60g/m2のシートを作製し、JIS P 8116に従ってパルプの比引裂き強度を測定した。
【0057】
実施例1
工場製広葉樹の蒸解−アルカリ酸素脱リグニン後のクラフトパルプ(白色度50.1%、カッパー価10.5)の絶乾質量80.0gをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度を10%に調整した後、絶乾パルプ質量当たりセスキ芒硝を0.1%、硫酸を0.68%、過酸化水素を0.4%添加し、温度が70℃の恒温槽に120分間浸漬して、酸性領域での過酸化水素処理を行った(以下、A/P段と略す)。A/P段の反応初期pHは3.1であった。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈した後、ブフナーロートを用いて脱水・洗浄し、A/P段後パルプを得た。次いで、A/P後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度を10%に調整し、絶乾パルプ質量当たり二酸化塩素を0.7%添加し、温度が70℃の恒温水槽に40分間浸漬して初段の二酸化塩素段(以下、D段と略す)の漂白を行った。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。
【0058】
D段後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度を10%に調整した後、苛性ソーダを絶乾パルプ質量当たり1.2%加え、D段と同様にして温度70℃で110分間処理し、アルカリ抽出段(以下、E段と略す)を行った。得られたパルプをイオン交換水で希釈してパルプ濃度を3%に調整した後、ブフナーロートを用いて脱水・洗浄し、E段後パルプを得た。
続いて、E段後パルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度10%に調整した後、絶乾パルプ質量当たり二酸化塩素を0.25%添加し、D段と同様にして温度70℃で240分間処理し、二段目のD段の漂白を行った。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈し、ブフナーロートを用いて洗浄、脱水し、白色度が83.4%の漂白パルプを得た。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0059】
実施例2
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝を2.0%、硫酸添加率を0.33%とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.9%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0060】
実施例3
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝を2.0%、硫酸添加率を0.33%、過酸化水素添加率0.3%とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.7%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0061】
実施例4
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝を2.0%、硫酸添加率を0.33%、過酸化水素添加率0.2%とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.5%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0062】
実施例5
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝を3.7%、硫酸無添加とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.2であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.5%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0063】
実施例6
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理での芒硝を2.0%、硫酸0.70%添加とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は84.0%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0064】
実施例7
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でDTPAを0.30%添加した以外は実施例2と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.9%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0065】
比較例1
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝を0%、硫酸添加率を0.70%とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.7%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0066】
比較例2
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝を0%、硫酸添加率を0.70%、過酸化水素添加率0.2%とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は84.1%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0067】
比較例3
アルカリ酸素脱リグニン後、クラフトパルプの酸性領域の過酸化水素処理でのセスキ芒硝添加率を2.0%、硫酸添加率を0.33%、過酸化水素無添加とした以外は実施例1と同様の操作を行った。A/P段の反応初期pHは、3.1であり、多段漂白後のパルプ白色度は83.2%であった。得られた漂白パルプのヘキセンウロン酸量、48時間後の漂白パルプシートのPC価、漂白パルプの粘度及び比引裂き強度を測定し、表1に示した。
【0068】
【表1】
【0069】
表1の実施例1〜7と比較例1を比較すると明らかなように、酸性領域での過酸化水素処理時に芒硝あるいは、セスキ芒硝を使用しない場合、粘度及び比引裂強度が低下することが判る。また、実施例7の様にキレート剤を添加すると更に粘度が向上する。一方、実施例1〜7と比較例2を比較すると明らかなように、粘度を向上させるために過酸化水素の添加率を減添加しても、ヘキセンウロン酸量が多くなり、PC価が高く、退色性に劣ったパルプとなる。更に、実施例2〜4と比較例3を比較すると明らかなように、セスキ芒硝を添加しても、過酸化水素無添加であれば、やはりヘキセンウロン酸量が多くなり、PC価が高く、退色性に劣ったパルプとなる。
【0070】
【発明の効果】
リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素脱リグニンし、その後、セスキ芒硝を添加した酸性領域での過酸化水素処理を行い、塩素、次亜塩素酸塩を共に用いない多段漂白工程で処理してなる漂白完成パルプの製造方法を用いて、漂白完成パルプのヘキセンウロン酸量が絶乾パルプ当たり、15mmol以下とすることで、前記漂白パルプを離解した後、パルプシートを作製し、80℃、相対湿度65%の恒温度かつ恒湿度条件で48時間処理したPC価は、10.0以下となり、漂白パルプの退色性を著しく改善すると共にパルプ粘度を大幅に向上させることが可能となった。
Claims (7)
- リグノセルロース物質を蒸解して得られる未漂白パルプをアルカリ酸素脱リグニンし、該アルカリ酸素脱リグニン後に、反応初期pH1.5〜4.5、芒硝及び/又はセスキ芒硝の存在下で過酸化水素処理を行い、次いで、元素状塩素を使用しない多段漂白工程で処理し、漂白パルプ中のヘキセンウロン酸量を絶乾パルプ1kg当たり15mmol以下にすることを特徴とする漂白パルプの製造方法。
- 前記過酸化水素処理における芒硝及び/又はセスキ芒硝の存在率は、対絶乾パルプ当たり0.01質量%〜10質量%であることを特徴とする請求項1記載の漂白パルプの製造方法。
- 前記過酸化水素処理における反応温度が50〜85℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載の漂白パルプの製造方法。
- 前記芒硝及び/又はセスキ芒硝が二酸化塩素製造設備から廃液として排出されるセスキ芒硝含有廃液であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の漂白パルプの製造方法。
- 前記過酸化水素処理にキレート剤を添加することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の漂白パルプの製造方法。
- 前記漂白パルプが広葉樹パルプであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の漂白パルプの製造方法。
- 前記請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法で製造された漂白パルプを主成分とする酸性紙。
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