JP2004258503A - 偏光素子および光学系および光学測定装置 - Google Patents
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Abstract
【課題】紫外領域において、消光比が良好かつ十分な光量が得られる偏光素子を得る。
【解決手段】基板上に、高屈折率層の各層の光学的膜厚が同一かつ低屈折率層の各層の光学的膜厚が同一な交互層からなり、150nm≦λ≦250nmの波長範囲のp偏光に対して、入射角θが70°≦θ≦80°の入射角範囲で反射防止の効果を有する多層反射防止膜を設けて偏光素子とする。
【選択図】 図1
【解決手段】基板上に、高屈折率層の各層の光学的膜厚が同一かつ低屈折率層の各層の光学的膜厚が同一な交互層からなり、150nm≦λ≦250nmの波長範囲のp偏光に対して、入射角θが70°≦θ≦80°の入射角範囲で反射防止の効果を有する多層反射防止膜を設けて偏光素子とする。
【選択図】 図1
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、紫外光領域で良好な消光比を有する偏光素子の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、光学部品を斜方からの入射光に対して使用する場合、その光学部品の特性は入射光の偏光方向によって異なるものとなる。図10は合成石英ガラス(屈折率n=1.55)の反射率と入射角との関係を表したものである。入射角が大きくなるにつれてs偏光に対する反射率Rsは増大するのに対し、p偏光に対する反射率Rpは入射角θ≒57°程度まで減少後、増加に転じる。p偏光に対する反射率最小となる角度はブリュースター角(brewster angle)と呼ばれる。斜入射時の偏光特性は反射防止膜等の光学薄膜に関しても重要な因子である。特許文献1には斜入射光に対して反射防止効果を有する光学薄膜が開示されている。
【0003】
このような斜入射時の光学部品の特性は各偏光成分ごとに測定する必要がある。光学部品の偏光特性を測定する際に、被測定部品に対する照射光を特定の偏光成分を持つものにする目的で、あるいは被測定部品の情報を含む測定光を偏光成分に分離して計測する目的で直線偏光素子が用いられる。
【0004】
一般的に使用されている直線偏光素子としては方解石(CaCO3)等を利用した複屈折結晶偏光素子があり、可視光領域では方解石とカナダバルサムを組み合わせたニコル(Nicol)プリズムやグラン−トンプソン(Glan−Thompson)プリズム、方解石と空気層を組み合わせたグラン−テーラー(Glan−Taylor)プリズムやグラン−フーコー(Glan−Foucault)プリズムなどが知られている。これらの偏光素子に使用される方解石は波長220nm以下では光吸収が大きくなるため、更に短波長の紫外光領域ではフッ化マグネシウム(MgF2)単結晶をオプティカルコンタクトで接合したロション(Rochon)プリズムが適用される。図11はグラン−テーラープリズムの例、図12はロションプリズムの例である。入射光線101は、これらの偏光素子によりs偏光光線102およびp偏光光線103に分割される。
【0005】
上述の各偏光素子は結晶の複屈折を利用したものであるが、材料のブリュースター角を利用した偏光素子も存在する。図13は、偏光素子として合成石英ガラスの板材41を2枚用い、これらを光軸に垂直な面13に対して対象に配置した偏光機能を有する光学系の例である。図13の例では入射角θ(素子面の法線100からの角度をいう。以下同じ)を合成石英ガラスのブリュースター角θ=57°に設定してあるため、p偏光成分の反射率がほぼ0、すなわち透過率Tp≒100%となるのに対し、s偏光成分の透過率Ts≒85.2%である。偏光素子の性能は一般に消光比、すなわち各偏光成分に対する透過率の比で表される。合成石英ガラスのブリュースター角を利用した上記偏光素子の場合には、
素子1枚あたりの消光比=1:0.852=1.17:1
光学系全体(素子2枚)の消光比=12:(0.852)2=1.38:1
となる。消光比が大きいほど優れた偏光素子である。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−268106号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
紫外領域の偏光素子には、上述のようにロションプリズムまたはブリュースター角を利用した素子が用いられる。
【0008】
しかしながら、前者では各偏光成分の分離角が約4度と小さいために、たとえば重水素ランプのような面光源を用いた測定機のように数度程度の光線角度幅しか持たない場合、偏光成分を十分に分離できなかったり、光線分離を十分に行うためには焦点距離を大きくとる必要があるなどの問題があった。またオプティカルコンタクト面の平坦性が悪いと密着力が弱くなるため、耐久性を確保するには高精度な面仕上げが必要なこと、消光比を高くするために結晶性の良いフッ化マグネシウム単結晶を利用する必要があることから、ロションプリズムは高価になる傾向があった。
【0009】
一方、後者では素子1枚あたりの消光比が不十分という問題がある。偏光素子に要求される消光比は、用途によって異なるものの、最低100:1、通常は1000:1以上が求められる。偏光素子を光路に直列に複数配置すれば消光比を上げることができるが、前述の合成石英ガラスの例で1000:1の消光比を実現するためには22枚もの素子が必要となり、素子全長が非常に長くなってしまうという問題があった。一方素子面で反射したs偏光成分を利用する場合には、p偏光成分の反射率がほぼ0であるため消光比は非常に高いものとなるが、s偏光成分に対する反射率が14.8%と低いため、光量損失が大きくなるという問題があった。
【0010】
本発明は従来のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、特に紫外領域において偏光比が良好で、十分な光量が得られる偏光素子を提供することを目的とする。
【0011】
【発明を解決するための手段】
以上の問題点を解決するため、本発明では光学部材の複屈折やブリュースター角を利用するのではなく、多層反射防止膜の偏光特性を利用する。すなわち本発明は、特に紫外領域において、消光比が良好かつ十分な光量が得られる偏光素子として、
「基板と、前記基板上に形成された反射防止膜とを備え、
前記反射防止膜が、入射媒質側から高屈折率層、低屈折率層の交互層が順次積層されてなる多層反射防止膜であって、前記交互層の前記高屈折率層の各層の光学的膜厚が同一であり、かつ前記低屈折率層の各層の光学的膜厚が同一であり、150nm≦λ≦250nmの波長範囲のp偏光に対して、入射角θが、
70°≦θ≦80°
の入射角範囲で反射防止の効果を有する多層反射防止膜である偏光素子(請求項1)」
を提供する。
【0012】
また本発明は、特に有効な偏光分離機能を有する反射防止膜を備えた偏光素子として、
「前記反射防止膜を構成する、前記高屈折率層の光学的膜厚と前記低屈折率層の光学的膜厚との和である光学的周期長ndは、
0.6λ≦nd≦0.65λ(λは入射光の波長である)
の範囲であり、かつ前記高屈折率層の光学的膜厚の前記光学的周期長に対する比率Γは、
0.38≦Γ≦0.73
の範囲であることを特徴とする請求項1記載の偏光素子(請求項2)」
及び、
「前記反射防止膜を構成する前記交互層の層数Nは、
5≦N≦17
の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2記載の偏光素子(請求項3)」
を提供する。
【0013】
また本発明は、紫外領域で優れた透過率を備える偏光素子として、
「前記高屈折率層の材料は、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化イットリウム(YF3)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であり、前記低屈折率層の材料は、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al3F14)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の偏光素子(請求項4)」
及び、
「前記基板は酸化ケイ素(SiO2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化バリウム(BaF2)のいずれかである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の偏光素子または光学系(請求項5)」
を提供する。
【0014】
また本発明は、より高い消光比が得られ、かつ入射光軸と出射光軸が平行である偏光素子として、
「前記基板は互いに平行な2平面を備え、かつ該2平面のそれぞれに前記反射防止膜が設けられたことを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の偏光素子(請求項6)」
を提供する。
【0015】
さらに本発明は、前記偏光素子を複数備え、全体として偏光分離機能を有する光学系であって、より高い消光比が得られ、または入射光軸と出射光軸を一致させた光学系として、
「請求項6記載の偏光素子を複数備える光学系であって、前記複数の偏光素子は光軸に垂直な面に対して対称に配置され、かつ入射光軸と出射光軸が同一直線上にあることを特徴とする光学系(請求項7)」
を提供する。
【0016】
また本発明は、特にs偏光成分を利用することができる光学系として、
「光線の入射側から、第1の偏光素子、反射素子、第2の偏光素子の順に光学素子を配置してなる光学系であって、
前記第1の偏光素子および第2の偏光素子は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の偏光素子であり、
入射光軸と出射光軸とが同一直線上にあることを特徴とする光学系(請求項8)」
を提供する。
【0017】
また本発明は、前記の偏光素子または偏光分離機能を有する光学系を備え、光学素子の偏光特性を高精度で測定可能な装置として、
「請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の、偏光素子または光学系を備えた光学測定装置(請求項9)」
を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、実施例にもとづき本発明の実施の形態を説明する。なお本発明にかかる反射防止膜を構成する各層の薄膜は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなど、特に成膜方法に制限は無く、いずれの方法により成膜したものでも用いることができる。また実施例で使用した材料はあくまで例示であり、本発明における偏光素子を構成する基板としては、酸化ケイ素(SiO2)、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、またはフッ化バリウム(BaF2)を、また前記高屈折率層の材料としては、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化イットリウム(YF3)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分を、低屈折率層の材料としては、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al3F14)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分を用いることができる。
【0019】
【実施例】
〔実施例1〕
図1は、第1の実施例による偏光素子を示す。図1(a)は斜視図、図1(b)は紙面を光線入射面とする側面図である。なお、図が煩雑となるのを避けるため、斜視図においては反射防止膜等の薄膜を省略して記載する(以下同じ)。入射光線11は図左側から入射角θで入射し、右側へ抜ける出射光線はp偏光となる。図1(a)において光線上の矢印は、各々の光線の偏光面を表す。
【0020】
本実施例の偏光素子3は、石英ガラス(SiO2)からなる平行平板基板1の両面に、表1に示す構成の反射防止膜2を形成したものである。
【0021】
【表1】
【0022】
本実施例における反射防止膜はフッ化マグネシウムおよびフッ化ランタンの交互層からなり、層数は全10層である。各層の光学膜厚はいずれも同一で、高屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の和である光学的周期長は0.64λである。また高屈折率層の光学膜厚の光学周期長に対する比率Γ=0.5となる。
【0023】
本発明による偏光素子は、基板と該基板上に設けられた反射防止膜とからなり、該反射防止膜は斜入射光線のp偏光成分に対して反射防止特性が得られるように設計される。また大きな消光比を得るために、p偏光成分とs偏光成分のそれぞれに対する反射率の差が大きいことが要求される。これらの目的のためには入射角θが70°以上である必要がある。さらにθが80°以上では透過光と反射光の分離が困難となるため、入射角は70°以上80°以下の範囲で設計されることが好ましい。また反射防止膜の設計製造の容易性という観点からは、各層の膜厚が異なる、いわゆる任意膜厚構造ではなく、高屈折率層と低屈折率層がそれぞれ同一の光学膜厚を有する周期構造とすることが望ましい。以上の条件を全て満たす反射防止膜を設計するためには、前記光学的周期長は0.6λ以上0.65λ以下であることが好ましく、前記比率Γは0.38以上0.73以下であることが好ましく、また前記層数Nは7層以上17層以下であることが好ましい。
【0024】
図2は、表1に示した反射防止膜の入射角−透過率曲線である。波長λ=193nmとした。入射角θ=75°においてp偏光成分に対する透過率Tp=0.9998、s偏光成分に対する透過率Ts=0.044である。p偏光成分に対しては優れた反射防止特性を有し、一方s偏光成分に対しては反射膜として機能し95%以上が反射される。
【0025】
本実施例の偏光素子では入射光線が反射防止膜を2面透過するため、各偏光成分の透過率は1面あたりの透過率の2乗となり、消光比は(0.9998)2:(0.044)2≒500:1が得られる。またp偏光について見れば偏光素子の透過率は(0.9998)2=99.96%に達し、大きな出射光量を得ることができる。また平行平板基板を使用しているため、入射光線は出射光線と平行となる。
〔実施例2〕
図3は、第2の実施例による光学系を示す。図3(a)は斜視図、図3(b)は紙面を光線入射面とする側面図である。図3に示す光学系は、実施例1で示したものと同一の偏光素子3を2枚用い、光軸に垂直な面13に対して対称となるように配置したものである。実施例1で示した偏光素子を単独で用いる場合には、入射光が斜入射であるため屈折による入射光軸と出射光軸のずれが避けられない。本実施例では2枚の偏光素子が中心に対して対称に配置されているため、発生した光軸のずれを相殺することになり、入射光線11と出射光線12の光軸を一致させることができる。さらに本実施例による光学系では入射光が反射防止膜を4面通過するため、その消光比は実施例1で示した値の2乗、すなわち2.5×105:1という高い値が得られる。本実施例は、図13に示したブリュースター角を利用する従来の偏光光学系と同一の配置を持つが、従来の消光比はわずか1.38:1に過ぎず、本発明が消光比の向上に極めて有効であることが立証された。
〔実施例3〕
図4は、第3の実施例による光学系を示す。図4(a)は斜視図、図4(b)は紙面を光線入射面とする側面図である。
【0026】
【表2】
【0027】
フッ化カルシウムからなる平行平板基板21の両面には、表2に示す構成の反射防止膜22が形成されている。本実施例における反射防止膜はフッ化アルミニウムおよびフッ化ランタンの交互層からなり、層数は全6層である。高屈折率層の光学膜厚は0.32λ、低屈折率層の光学膜厚は0.29λで、高屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の和である光学的周期長は0.61λである。また高屈折率層の光学膜厚の光学周期長に対する比率Γ=0.52となる。
【0028】
本実施例は、4枚の同一の偏光素子を、光軸に垂直な面13に対して対称となるように配置したものである。本実施例によれば、それぞれの偏光素子による光軸のずれが相殺され、入射光軸と出射光軸を一致させることができる。光軸を一致させることにより周辺光学系の設計が容易になる他、既存の光学系に挿入することも可能で、また本光学系全体を光軸の周りに回転させれば任意の偏光面が得られるという利点がある。
【0029】
図5は、表2に示した反射防止膜の入射角−透過率曲線である。λ=157nmとした。入射角θ=70°において、p偏光成分に対する透過率Tp=0.9998、s偏光成分に対する透過率Ts=0.244である。この場合、入射光は反射防止膜を8面通過するため、各偏光成分の透過率は図5に示す透過率の8乗となり、透過光における消光比は(0.9998)8:(0.244)8=8×104:1という極めて高い値が得られる。さらにp偏光に対する光学系の透過率は(0.9998)8=99.84%と十分な光量が確保できる。
〔実施例4〕
図6は、第4の実施例による光学系を示す。図6(a)は斜視図、図6(b)は紙面を入射面とする側面図である。
【0030】
【表3】
【0031】
フッ化カルシウムからなる基板31の片面には、表3に示す構成の反射防止膜32が形成されている。本実施例における反射防止膜はフッ化アルミニウムおよびフッ化ランタンの交互層からなり、層数は全7層である。高屈折率層の光学膜厚は0.31λ、低屈折率層の光学膜厚は0.33λで、高屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の和である光学的周期長は0.64λである。また高屈折率層の光学膜厚の光学周期長に対する比率Γ=0.48となる。
【0032】
本実施例では反射防止膜32で反射されるs偏光成分側を利用する。また本実施例では入射光軸と出射光軸を一致させるために反射素子を配置する。反射素子に要求される特性としては、使用波長で十分な反射率を有すること、また偏光素子の性能を減失させるような独自の偏光特性を有しないことが挙げられるが、その他の構造・材料等に特段の制限はない。本実施例では、消光比を大きく変えない反射素子の一例として、石英ガラス基板33上に表4に示す多層膜34を形成したものを用いた。多層膜34はフッ化マグネシウムとフッ化ランタンの交互層からなる誘電体多層膜ミラーで、層数は全51層である。
【0033】
【表4】
【0034】
図7は、表3に示した反射防止膜の入射角−反射率曲線、図8は表4に示した誘電体多層膜ミラーの入射角−反射率曲線である。λはいずれもλ=193nmとした。入射角θ1=72°において、反射防止膜32のp偏光成分に対する反射率Rp=0.0002、s偏光成分に対する反射率Rs=0.890である。また入射角θ2=54°において、誘電体多層膜ミラー34のp偏光成分に対する反射率R’p=0.999、s偏光成分に対する反射率R’s=0.985であり、該ミラーによって消光比は影響を受けない。本実施例では、入射光は反射防止膜で2回、誘電体多層膜ミラーで1回反射するため、消光比は(0.890)2×0.985:(0.0002)2×0.999≒2×107:1という極めて高い値が得られる。また従来のブリュースター角を利用する方法では偏光素子1枚あたりのs偏光反射率が15%程度であるのに対し、本実施例では98.5%の反射率が得られる。これを光学系全体の透過率に換算すると、約40倍の差となり、従来法に比べて大きな出射光量を得ることができる。
〔実施例5〕
図9は、第5の実施例による光学系を示す。図9(a)は斜視図、図9(b)は紙面を入射面とする側面図である。本実施例は実施例4に示した偏光素子35を4枚使用し、反射防止膜32で反射されたs偏光成分側を利用するものである。
【0035】
本実施例によれば、二組の偏光分離機能を有する光学系が、光軸に垂直な面13に対して対称に配置されているため、発生した光軸のずれを相殺することによって入射光軸と出射光軸を一致させることができる。その効果は実施例3と同様である。
【0036】
本実施例では、入射光は反射防止膜で4回反射するため、消光比は(0.890)4:(0.0002)4≒4×1014:1が得られる。
〔実施例6〕
図14は、本発明による偏光素子を備えた、紫外光を光源とする透過率測定機の例である。
【0037】
本透過率測定機は、光源部201、偏光光学系202、試料室203、透過光検出器204、ビームスプリッタ205、参照光検出器206から構成される。披検サンプル207は試料室内に置かれるが、光軸のまわりに回転できるほか、光軸に対して任意の傾斜角に固定することができる。
【0038】
本実施例における偏光光学系202は、実施例5に記載した4枚の偏光素子からなる光学系をハウジング208に固定して一体となしたものであり、全体を光軸のまわりに任意の角度で回転することができる。
【0039】
光源部はKrF、ArF等のエキシマレーザーや、水銀ランプに適当なフィルタを付加して単色化したものなど、使用波長に応じて選択すればよい。
【0040】
光源部より出た無偏光の光線209を、偏光光学系202により直線偏光光となし、被検サンプル207に照射する。このとき光線の一部はビームスプリッタにより分割され、参照光検出器に入射する。参照光検出器の出力を監視すれば光源の強度揺らぎを補正することができる。透過光線は透過光用検出器204により検出される。被検サンプルを外した状態で透過光量を同様に検出し、これらの比率を取ることで、披検サンプルの透過率が測定される。被検サンプルおよび偏光光学系のいずれか又は両方を光軸のまわりに回転させることにより、被検サンプルに対する入射光の偏光成分を任意に変更することができる。また被検サンプルの入射光軸に対する傾斜角を変えながら測定すれば、透過率の入射角度依存性を測定することも可能である。
【0041】
【発明の効果】
本発明による偏光素子または光学系は、接合構造を持たないため、光吸収や剥離など従来の偏光素子に見られた接合面に起因する問題を解決することができ、紫外光領域で安定な性能を発揮することができる。また基板上に形成された多層膜に偏光分離機能を持たせるため、複屈折を持つ高価な単結晶材料を使用する必要がなく、石英ガラスやフッ化カルシウムなどの一般的な光学基板を用いることができ、格段に安価に製造することができる。さらに本発明による複数の光学素子を備える光学系は、入射光軸と出射光軸が一致しているため、周辺光学系の設計が容易になるという効果を有する。加えて光軸を一致させるために用いる手段自体が偏光分離機能を備えているため、別個の手段で光軸を調整する場合と比較して、より高い消光比を得ることができる。本発明による偏光素子または光学系を光学測定装置の一部として用いれば、非常に高精度な測定が可能となる。また本発明による光学系は、同一の消光比を有する他の光学系と比較して全長を短く抑えることが可能であり、既存の光学分析機器の試料室等に挿入することにより偏光測定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1にかかる偏光素子の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図2】実施例1にかかる偏光素子を構成する反射防止膜の入射角−透過率曲線である。
【図3】実施例2にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図4】実施例3にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図5】実施例3にかかる偏光素子を構成する反射防止膜の入射角−透過率曲線である。
【図6】実施例4にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図7】実施例4にかかる偏光素子を構成する反射防止膜の入射角−反射率曲線である。
【図8】実施例4にかかる反射素子を構成する誘電体多層膜ミラーの入射角−反射率曲線である。
【図9】実施例5にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図10】合成石英ガラスの入射角−反射率曲線である。
【図11】グラン−テーラープリズムの例である。
【図12】ロションプリズムの例である。
【図13】合成石英ガラスを用いた従来の偏光素子の例である。
【図14】実施例6にかかる測定機の概略図である。
【符号の説明】
1:基板、2:反射防止膜、3:偏光素子、11:入射光線、12:出射光線、13:光軸に垂直な対称面、34:誘電体多層膜ミラー、100:光学素子面の法線、201:光源、202:偏光光学系、208:ハウジング、207:被検サンプル
【発明の属する技術分野】
本発明は、紫外光領域で良好な消光比を有する偏光素子の構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、光学部品を斜方からの入射光に対して使用する場合、その光学部品の特性は入射光の偏光方向によって異なるものとなる。図10は合成石英ガラス(屈折率n=1.55)の反射率と入射角との関係を表したものである。入射角が大きくなるにつれてs偏光に対する反射率Rsは増大するのに対し、p偏光に対する反射率Rpは入射角θ≒57°程度まで減少後、増加に転じる。p偏光に対する反射率最小となる角度はブリュースター角(brewster angle)と呼ばれる。斜入射時の偏光特性は反射防止膜等の光学薄膜に関しても重要な因子である。特許文献1には斜入射光に対して反射防止効果を有する光学薄膜が開示されている。
【0003】
このような斜入射時の光学部品の特性は各偏光成分ごとに測定する必要がある。光学部品の偏光特性を測定する際に、被測定部品に対する照射光を特定の偏光成分を持つものにする目的で、あるいは被測定部品の情報を含む測定光を偏光成分に分離して計測する目的で直線偏光素子が用いられる。
【0004】
一般的に使用されている直線偏光素子としては方解石(CaCO3)等を利用した複屈折結晶偏光素子があり、可視光領域では方解石とカナダバルサムを組み合わせたニコル(Nicol)プリズムやグラン−トンプソン(Glan−Thompson)プリズム、方解石と空気層を組み合わせたグラン−テーラー(Glan−Taylor)プリズムやグラン−フーコー(Glan−Foucault)プリズムなどが知られている。これらの偏光素子に使用される方解石は波長220nm以下では光吸収が大きくなるため、更に短波長の紫外光領域ではフッ化マグネシウム(MgF2)単結晶をオプティカルコンタクトで接合したロション(Rochon)プリズムが適用される。図11はグラン−テーラープリズムの例、図12はロションプリズムの例である。入射光線101は、これらの偏光素子によりs偏光光線102およびp偏光光線103に分割される。
【0005】
上述の各偏光素子は結晶の複屈折を利用したものであるが、材料のブリュースター角を利用した偏光素子も存在する。図13は、偏光素子として合成石英ガラスの板材41を2枚用い、これらを光軸に垂直な面13に対して対象に配置した偏光機能を有する光学系の例である。図13の例では入射角θ(素子面の法線100からの角度をいう。以下同じ)を合成石英ガラスのブリュースター角θ=57°に設定してあるため、p偏光成分の反射率がほぼ0、すなわち透過率Tp≒100%となるのに対し、s偏光成分の透過率Ts≒85.2%である。偏光素子の性能は一般に消光比、すなわち各偏光成分に対する透過率の比で表される。合成石英ガラスのブリュースター角を利用した上記偏光素子の場合には、
素子1枚あたりの消光比=1:0.852=1.17:1
光学系全体(素子2枚)の消光比=12:(0.852)2=1.38:1
となる。消光比が大きいほど優れた偏光素子である。
【0006】
【特許文献1】
特開平10−268106号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
紫外領域の偏光素子には、上述のようにロションプリズムまたはブリュースター角を利用した素子が用いられる。
【0008】
しかしながら、前者では各偏光成分の分離角が約4度と小さいために、たとえば重水素ランプのような面光源を用いた測定機のように数度程度の光線角度幅しか持たない場合、偏光成分を十分に分離できなかったり、光線分離を十分に行うためには焦点距離を大きくとる必要があるなどの問題があった。またオプティカルコンタクト面の平坦性が悪いと密着力が弱くなるため、耐久性を確保するには高精度な面仕上げが必要なこと、消光比を高くするために結晶性の良いフッ化マグネシウム単結晶を利用する必要があることから、ロションプリズムは高価になる傾向があった。
【0009】
一方、後者では素子1枚あたりの消光比が不十分という問題がある。偏光素子に要求される消光比は、用途によって異なるものの、最低100:1、通常は1000:1以上が求められる。偏光素子を光路に直列に複数配置すれば消光比を上げることができるが、前述の合成石英ガラスの例で1000:1の消光比を実現するためには22枚もの素子が必要となり、素子全長が非常に長くなってしまうという問題があった。一方素子面で反射したs偏光成分を利用する場合には、p偏光成分の反射率がほぼ0であるため消光比は非常に高いものとなるが、s偏光成分に対する反射率が14.8%と低いため、光量損失が大きくなるという問題があった。
【0010】
本発明は従来のこのような問題点に鑑みてなされたものであり、特に紫外領域において偏光比が良好で、十分な光量が得られる偏光素子を提供することを目的とする。
【0011】
【発明を解決するための手段】
以上の問題点を解決するため、本発明では光学部材の複屈折やブリュースター角を利用するのではなく、多層反射防止膜の偏光特性を利用する。すなわち本発明は、特に紫外領域において、消光比が良好かつ十分な光量が得られる偏光素子として、
「基板と、前記基板上に形成された反射防止膜とを備え、
前記反射防止膜が、入射媒質側から高屈折率層、低屈折率層の交互層が順次積層されてなる多層反射防止膜であって、前記交互層の前記高屈折率層の各層の光学的膜厚が同一であり、かつ前記低屈折率層の各層の光学的膜厚が同一であり、150nm≦λ≦250nmの波長範囲のp偏光に対して、入射角θが、
70°≦θ≦80°
の入射角範囲で反射防止の効果を有する多層反射防止膜である偏光素子(請求項1)」
を提供する。
【0012】
また本発明は、特に有効な偏光分離機能を有する反射防止膜を備えた偏光素子として、
「前記反射防止膜を構成する、前記高屈折率層の光学的膜厚と前記低屈折率層の光学的膜厚との和である光学的周期長ndは、
0.6λ≦nd≦0.65λ(λは入射光の波長である)
の範囲であり、かつ前記高屈折率層の光学的膜厚の前記光学的周期長に対する比率Γは、
0.38≦Γ≦0.73
の範囲であることを特徴とする請求項1記載の偏光素子(請求項2)」
及び、
「前記反射防止膜を構成する前記交互層の層数Nは、
5≦N≦17
の範囲にあることを特徴とする請求項1又は2記載の偏光素子(請求項3)」
を提供する。
【0013】
また本発明は、紫外領域で優れた透過率を備える偏光素子として、
「前記高屈折率層の材料は、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化イットリウム(YF3)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であり、前記低屈折率層の材料は、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al3F14)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の偏光素子(請求項4)」
及び、
「前記基板は酸化ケイ素(SiO2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化バリウム(BaF2)のいずれかである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の偏光素子または光学系(請求項5)」
を提供する。
【0014】
また本発明は、より高い消光比が得られ、かつ入射光軸と出射光軸が平行である偏光素子として、
「前記基板は互いに平行な2平面を備え、かつ該2平面のそれぞれに前記反射防止膜が設けられたことを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の偏光素子(請求項6)」
を提供する。
【0015】
さらに本発明は、前記偏光素子を複数備え、全体として偏光分離機能を有する光学系であって、より高い消光比が得られ、または入射光軸と出射光軸を一致させた光学系として、
「請求項6記載の偏光素子を複数備える光学系であって、前記複数の偏光素子は光軸に垂直な面に対して対称に配置され、かつ入射光軸と出射光軸が同一直線上にあることを特徴とする光学系(請求項7)」
を提供する。
【0016】
また本発明は、特にs偏光成分を利用することができる光学系として、
「光線の入射側から、第1の偏光素子、反射素子、第2の偏光素子の順に光学素子を配置してなる光学系であって、
前記第1の偏光素子および第2の偏光素子は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の偏光素子であり、
入射光軸と出射光軸とが同一直線上にあることを特徴とする光学系(請求項8)」
を提供する。
【0017】
また本発明は、前記の偏光素子または偏光分離機能を有する光学系を備え、光学素子の偏光特性を高精度で測定可能な装置として、
「請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の、偏光素子または光学系を備えた光学測定装置(請求項9)」
を提供する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、実施例にもとづき本発明の実施の形態を説明する。なお本発明にかかる反射防止膜を構成する各層の薄膜は、真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティングなど、特に成膜方法に制限は無く、いずれの方法により成膜したものでも用いることができる。また実施例で使用した材料はあくまで例示であり、本発明における偏光素子を構成する基板としては、酸化ケイ素(SiO2)、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、またはフッ化バリウム(BaF2)を、また前記高屈折率層の材料としては、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化イットリウム(YF3)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分を、低屈折率層の材料としては、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al3F14)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分を用いることができる。
【0019】
【実施例】
〔実施例1〕
図1は、第1の実施例による偏光素子を示す。図1(a)は斜視図、図1(b)は紙面を光線入射面とする側面図である。なお、図が煩雑となるのを避けるため、斜視図においては反射防止膜等の薄膜を省略して記載する(以下同じ)。入射光線11は図左側から入射角θで入射し、右側へ抜ける出射光線はp偏光となる。図1(a)において光線上の矢印は、各々の光線の偏光面を表す。
【0020】
本実施例の偏光素子3は、石英ガラス(SiO2)からなる平行平板基板1の両面に、表1に示す構成の反射防止膜2を形成したものである。
【0021】
【表1】
【0022】
本実施例における反射防止膜はフッ化マグネシウムおよびフッ化ランタンの交互層からなり、層数は全10層である。各層の光学膜厚はいずれも同一で、高屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の和である光学的周期長は0.64λである。また高屈折率層の光学膜厚の光学周期長に対する比率Γ=0.5となる。
【0023】
本発明による偏光素子は、基板と該基板上に設けられた反射防止膜とからなり、該反射防止膜は斜入射光線のp偏光成分に対して反射防止特性が得られるように設計される。また大きな消光比を得るために、p偏光成分とs偏光成分のそれぞれに対する反射率の差が大きいことが要求される。これらの目的のためには入射角θが70°以上である必要がある。さらにθが80°以上では透過光と反射光の分離が困難となるため、入射角は70°以上80°以下の範囲で設計されることが好ましい。また反射防止膜の設計製造の容易性という観点からは、各層の膜厚が異なる、いわゆる任意膜厚構造ではなく、高屈折率層と低屈折率層がそれぞれ同一の光学膜厚を有する周期構造とすることが望ましい。以上の条件を全て満たす反射防止膜を設計するためには、前記光学的周期長は0.6λ以上0.65λ以下であることが好ましく、前記比率Γは0.38以上0.73以下であることが好ましく、また前記層数Nは7層以上17層以下であることが好ましい。
【0024】
図2は、表1に示した反射防止膜の入射角−透過率曲線である。波長λ=193nmとした。入射角θ=75°においてp偏光成分に対する透過率Tp=0.9998、s偏光成分に対する透過率Ts=0.044である。p偏光成分に対しては優れた反射防止特性を有し、一方s偏光成分に対しては反射膜として機能し95%以上が反射される。
【0025】
本実施例の偏光素子では入射光線が反射防止膜を2面透過するため、各偏光成分の透過率は1面あたりの透過率の2乗となり、消光比は(0.9998)2:(0.044)2≒500:1が得られる。またp偏光について見れば偏光素子の透過率は(0.9998)2=99.96%に達し、大きな出射光量を得ることができる。また平行平板基板を使用しているため、入射光線は出射光線と平行となる。
〔実施例2〕
図3は、第2の実施例による光学系を示す。図3(a)は斜視図、図3(b)は紙面を光線入射面とする側面図である。図3に示す光学系は、実施例1で示したものと同一の偏光素子3を2枚用い、光軸に垂直な面13に対して対称となるように配置したものである。実施例1で示した偏光素子を単独で用いる場合には、入射光が斜入射であるため屈折による入射光軸と出射光軸のずれが避けられない。本実施例では2枚の偏光素子が中心に対して対称に配置されているため、発生した光軸のずれを相殺することになり、入射光線11と出射光線12の光軸を一致させることができる。さらに本実施例による光学系では入射光が反射防止膜を4面通過するため、その消光比は実施例1で示した値の2乗、すなわち2.5×105:1という高い値が得られる。本実施例は、図13に示したブリュースター角を利用する従来の偏光光学系と同一の配置を持つが、従来の消光比はわずか1.38:1に過ぎず、本発明が消光比の向上に極めて有効であることが立証された。
〔実施例3〕
図4は、第3の実施例による光学系を示す。図4(a)は斜視図、図4(b)は紙面を光線入射面とする側面図である。
【0026】
【表2】
【0027】
フッ化カルシウムからなる平行平板基板21の両面には、表2に示す構成の反射防止膜22が形成されている。本実施例における反射防止膜はフッ化アルミニウムおよびフッ化ランタンの交互層からなり、層数は全6層である。高屈折率層の光学膜厚は0.32λ、低屈折率層の光学膜厚は0.29λで、高屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の和である光学的周期長は0.61λである。また高屈折率層の光学膜厚の光学周期長に対する比率Γ=0.52となる。
【0028】
本実施例は、4枚の同一の偏光素子を、光軸に垂直な面13に対して対称となるように配置したものである。本実施例によれば、それぞれの偏光素子による光軸のずれが相殺され、入射光軸と出射光軸を一致させることができる。光軸を一致させることにより周辺光学系の設計が容易になる他、既存の光学系に挿入することも可能で、また本光学系全体を光軸の周りに回転させれば任意の偏光面が得られるという利点がある。
【0029】
図5は、表2に示した反射防止膜の入射角−透過率曲線である。λ=157nmとした。入射角θ=70°において、p偏光成分に対する透過率Tp=0.9998、s偏光成分に対する透過率Ts=0.244である。この場合、入射光は反射防止膜を8面通過するため、各偏光成分の透過率は図5に示す透過率の8乗となり、透過光における消光比は(0.9998)8:(0.244)8=8×104:1という極めて高い値が得られる。さらにp偏光に対する光学系の透過率は(0.9998)8=99.84%と十分な光量が確保できる。
〔実施例4〕
図6は、第4の実施例による光学系を示す。図6(a)は斜視図、図6(b)は紙面を入射面とする側面図である。
【0030】
【表3】
【0031】
フッ化カルシウムからなる基板31の片面には、表3に示す構成の反射防止膜32が形成されている。本実施例における反射防止膜はフッ化アルミニウムおよびフッ化ランタンの交互層からなり、層数は全7層である。高屈折率層の光学膜厚は0.31λ、低屈折率層の光学膜厚は0.33λで、高屈折率層と低屈折率層の光学膜厚の和である光学的周期長は0.64λである。また高屈折率層の光学膜厚の光学周期長に対する比率Γ=0.48となる。
【0032】
本実施例では反射防止膜32で反射されるs偏光成分側を利用する。また本実施例では入射光軸と出射光軸を一致させるために反射素子を配置する。反射素子に要求される特性としては、使用波長で十分な反射率を有すること、また偏光素子の性能を減失させるような独自の偏光特性を有しないことが挙げられるが、その他の構造・材料等に特段の制限はない。本実施例では、消光比を大きく変えない反射素子の一例として、石英ガラス基板33上に表4に示す多層膜34を形成したものを用いた。多層膜34はフッ化マグネシウムとフッ化ランタンの交互層からなる誘電体多層膜ミラーで、層数は全51層である。
【0033】
【表4】
【0034】
図7は、表3に示した反射防止膜の入射角−反射率曲線、図8は表4に示した誘電体多層膜ミラーの入射角−反射率曲線である。λはいずれもλ=193nmとした。入射角θ1=72°において、反射防止膜32のp偏光成分に対する反射率Rp=0.0002、s偏光成分に対する反射率Rs=0.890である。また入射角θ2=54°において、誘電体多層膜ミラー34のp偏光成分に対する反射率R’p=0.999、s偏光成分に対する反射率R’s=0.985であり、該ミラーによって消光比は影響を受けない。本実施例では、入射光は反射防止膜で2回、誘電体多層膜ミラーで1回反射するため、消光比は(0.890)2×0.985:(0.0002)2×0.999≒2×107:1という極めて高い値が得られる。また従来のブリュースター角を利用する方法では偏光素子1枚あたりのs偏光反射率が15%程度であるのに対し、本実施例では98.5%の反射率が得られる。これを光学系全体の透過率に換算すると、約40倍の差となり、従来法に比べて大きな出射光量を得ることができる。
〔実施例5〕
図9は、第5の実施例による光学系を示す。図9(a)は斜視図、図9(b)は紙面を入射面とする側面図である。本実施例は実施例4に示した偏光素子35を4枚使用し、反射防止膜32で反射されたs偏光成分側を利用するものである。
【0035】
本実施例によれば、二組の偏光分離機能を有する光学系が、光軸に垂直な面13に対して対称に配置されているため、発生した光軸のずれを相殺することによって入射光軸と出射光軸を一致させることができる。その効果は実施例3と同様である。
【0036】
本実施例では、入射光は反射防止膜で4回反射するため、消光比は(0.890)4:(0.0002)4≒4×1014:1が得られる。
〔実施例6〕
図14は、本発明による偏光素子を備えた、紫外光を光源とする透過率測定機の例である。
【0037】
本透過率測定機は、光源部201、偏光光学系202、試料室203、透過光検出器204、ビームスプリッタ205、参照光検出器206から構成される。披検サンプル207は試料室内に置かれるが、光軸のまわりに回転できるほか、光軸に対して任意の傾斜角に固定することができる。
【0038】
本実施例における偏光光学系202は、実施例5に記載した4枚の偏光素子からなる光学系をハウジング208に固定して一体となしたものであり、全体を光軸のまわりに任意の角度で回転することができる。
【0039】
光源部はKrF、ArF等のエキシマレーザーや、水銀ランプに適当なフィルタを付加して単色化したものなど、使用波長に応じて選択すればよい。
【0040】
光源部より出た無偏光の光線209を、偏光光学系202により直線偏光光となし、被検サンプル207に照射する。このとき光線の一部はビームスプリッタにより分割され、参照光検出器に入射する。参照光検出器の出力を監視すれば光源の強度揺らぎを補正することができる。透過光線は透過光用検出器204により検出される。被検サンプルを外した状態で透過光量を同様に検出し、これらの比率を取ることで、披検サンプルの透過率が測定される。被検サンプルおよび偏光光学系のいずれか又は両方を光軸のまわりに回転させることにより、被検サンプルに対する入射光の偏光成分を任意に変更することができる。また被検サンプルの入射光軸に対する傾斜角を変えながら測定すれば、透過率の入射角度依存性を測定することも可能である。
【0041】
【発明の効果】
本発明による偏光素子または光学系は、接合構造を持たないため、光吸収や剥離など従来の偏光素子に見られた接合面に起因する問題を解決することができ、紫外光領域で安定な性能を発揮することができる。また基板上に形成された多層膜に偏光分離機能を持たせるため、複屈折を持つ高価な単結晶材料を使用する必要がなく、石英ガラスやフッ化カルシウムなどの一般的な光学基板を用いることができ、格段に安価に製造することができる。さらに本発明による複数の光学素子を備える光学系は、入射光軸と出射光軸が一致しているため、周辺光学系の設計が容易になるという効果を有する。加えて光軸を一致させるために用いる手段自体が偏光分離機能を備えているため、別個の手段で光軸を調整する場合と比較して、より高い消光比を得ることができる。本発明による偏光素子または光学系を光学測定装置の一部として用いれば、非常に高精度な測定が可能となる。また本発明による光学系は、同一の消光比を有する他の光学系と比較して全長を短く抑えることが可能であり、既存の光学分析機器の試料室等に挿入することにより偏光測定を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1にかかる偏光素子の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図2】実施例1にかかる偏光素子を構成する反射防止膜の入射角−透過率曲線である。
【図3】実施例2にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図4】実施例3にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図5】実施例3にかかる偏光素子を構成する反射防止膜の入射角−透過率曲線である。
【図6】実施例4にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図7】実施例4にかかる偏光素子を構成する反射防止膜の入射角−反射率曲線である。
【図8】実施例4にかかる反射素子を構成する誘電体多層膜ミラーの入射角−反射率曲線である。
【図9】実施例5にかかる光学系の斜視図(a)および側面図(b)である。
【図10】合成石英ガラスの入射角−反射率曲線である。
【図11】グラン−テーラープリズムの例である。
【図12】ロションプリズムの例である。
【図13】合成石英ガラスを用いた従来の偏光素子の例である。
【図14】実施例6にかかる測定機の概略図である。
【符号の説明】
1:基板、2:反射防止膜、3:偏光素子、11:入射光線、12:出射光線、13:光軸に垂直な対称面、34:誘電体多層膜ミラー、100:光学素子面の法線、201:光源、202:偏光光学系、208:ハウジング、207:被検サンプル
Claims (9)
- 基板と、前記基板上に形成された反射防止膜とを備え、
前記反射防止膜が、入射媒質側から高屈折率層、低屈折率層の交互層が順次積層されてなる多層反射防止膜であって、前記交互層の前記高屈折率層の各層の光学的膜厚が同一であり、かつ前記低屈折率層の各層の光学的膜厚が同一であり、150nm≦λ≦250nmの波長範囲のp偏光に対して、入射角θが、
70°≦θ≦80°
の入射角範囲で反射防止の効果を有する多層反射防止膜である偏光素子。 - 前記反射防止膜を構成する、前記高屈折率層の光学的膜厚と前記低屈折率層の光学的膜厚との和である光学的周期長ndは、
0.6λ≦nd≦0.65λ(λは入射光の波長である)
の範囲であり、かつ前記高屈折率層の光学的膜厚の前記光学的周期長に対する比率Γは、
0.38≦Γ≦0.73
の範囲であることを特徴とする、請求項1記載の偏光素子。 - 前記反射防止膜を構成する前記交互層の層数Nは、
5≦N≦17
の範囲にあることを特徴とする、請求項1または請求項2記載の偏光素子。 - 前記高屈折率層の材料は、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化ガドリニウム(GdF3)、フッ化ネオジム(NdF3)、フッ化ディスプロシウム(DyF3)、フッ化イットリウム(YF3)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であり、前記低屈折率層の材料は、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化ナトリウム(NaF)、クライオライト(Na3AlF6)、チオライト(Na5Al3F14)およびこれらの混合物質又は化合物の群より選ばれた1つ以上の成分であることを特徴とする、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の偏光素子。
- 前記基板は酸化ケイ素(SiO2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化バリウム(BaF2)のいずれかである、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の偏光素子または光学系。
- 前記基板は互いに平行な2平面を備え、かつ該2平面のそれぞれに前記反射防止膜が設けられたことを特徴とする、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の偏光素子。
- 請求項6記載の偏光素子を複数備える光学系であって、前記複数の偏光素子は光軸に垂直な面に対して対称に配置され、かつ入射光軸と出射光軸が同一直線上にあることを特徴とする光学系。
- 光線の入射側から、第1の偏光素子、反射素子、第2の偏光素子の順に光学素子を配置してなる光学系であって、
前記第1の偏光素子および第2の偏光素子は、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の偏光素子であり、
入射光軸と出射光軸とが同一直線上にあることを特徴とする光学系。 - 請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の、偏光素子または光学系を備えた光学測定装置。
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2003
- 2003-02-27 JP JP2003051278A patent/JP2004258503A/ja not_active Withdrawn
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