JP2004257901A - 散乱光を利用した核酸検出方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して該標的配列を検出することを特徴とする、核酸検出方法。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、散乱光を利用した核酸検出方法に関する。より詳細には、標的配列をLAMP増幅し、得られるリピート構造を有する核酸を散乱光を利用して検出する核酸検出方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、散乱光を利用して高分子やコロイドの分子量を測定する方法は公知である。例えば、大塚電子(株)製のスタティック光散乱光度計 SLS−6000シリーズは、タンパク、核酸、ウイルス等の生体高分子や各種合成高分子の分子量測定、または高分子相分離現象解析を行うことができる。また、核酸分子を不溶化し、この不溶化した核酸分子に光を照射して、生じる散乱光から該核酸分子の大きさを分析する方法も開発されている(例えば、特許文献1等参照)。
【0003】
しかし、核酸の場合、散乱光を用いた分析では、分子量が小さい短鎖の核酸分子では著しく感度が悪くなる。そのため、前述の方法で測定対象とされる核酸分子は十分に大きなものでなければならず、例えば、不溶化核酸分子の分析方法では、直径50nm〜200nm前後の核酸沈殿物が用いられている。したがって、PCRで得られるような短い核酸増幅産物は、光散乱法による検出には不向きである。
【0004】
一方、発明者らは、PCR法で不可欠とされる複雑な温度制御を必要としない新しい核酸増幅法:LAMP法(Loop−mediated isothermal amplification)の開発に成功している(例えば、特許文献2及び非特許文献1参照)。LAMP法では、特有のプライマーを用いることで、同一鎖上末端に互いに相補的な配列を有する増幅産物が生成する。生成した増幅産物は、相補的配列間のアニールによって形成されるループを起点とした伸長反応と、このループにアニールする別なプライマー(ループプライマー)による伸長反応によって、リピート構造(同一鎖上に互いに相補的な配列が繰り返し含まれる構造)を有する長鎖の増幅産物を生成する。発明者らは、このLAMP法の高い増幅効率を利用して、目視(濁度)による遺伝子の検出方法等(例えば、非特許文献2参照)を報告している。しかし、この方法では、核酸増幅反応の副産物であるピロリン酸マグネシウムの沈澱を検出するため、沈澱がまだ形成されていないような増幅初期段階で核酸検出を行うことはできない。
【0005】
【特許文献1】
特開平9−685252号(特許2973887号)
【特許文献2】
国際公開00/28082号パンフレット
【非特許文献1】
納富継宣ら(Tsugunori Notomi et al.),「Loop−mediated isothermal amplification of DNA.」,ヌクレイック アシッド リサーチ(Nucleic Acids Res.), Vol.28, No.12: e63, (2000)
【非特許文献2】
森安義、長嶺憲太郎ら,「Detection of Loop−Mediated Isothermal Amplification Reaction by Turbidity Derived from Magnesium Pyrophosphate Formation.」,バイオケミカル アンド バイオフィジカル リサーチ コミュニケーションズ(Biochemical and Biophysical Research Communications), Vol. 289, No.1, 150−154, (2001)
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、散乱光を利用して、微量な検出対象をその鎖長にかかわらず高感度かつ簡便に検出しうる核酸検出方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、標的配列のLAMP増幅で得られるような、リピート構造を有する核酸は、光散乱法によって感度よく検出しうることを見出した。そして、この方法を利用すれば、微量検体を高感度に検出できるばかりか、増幅産物のリアルタイムモニタリングやSNP等の多型検出も可能であることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(10)を提供する。
(1) 標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して該標的配列を検出することを特徴とする、核酸検出方法。
(2) リピート構造を有する核酸が、以下のプライマー(a)及び/又は(b)を用いた増幅法によって提供される、上記(1)記載の方法。
(a) 鋳型核酸上の標的配列の3’側から該鋳型核酸上の3’末端方向に向かって、順に第1の任意配列F1c及び第2の任意配列F2cを選択したとき、該F1cと同一の配列及び該F2cに相補的な配列F2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(b) 鋳型核酸上の標的配列の5’側から該鋳型核酸上の5’末端方向に向かって、順に第3の任意配列R1及び第4の任意配列R2を選択したとき、該R1に相補的配列R1c及び該R2と同一の配列R2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(3) 増幅法がLAMP法である、上記(2)記載の方法。
(4) 以下の工程を含む、核酸検出方法:
1)鋳型核酸上の標的配列をLAMP増幅し、該標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る工程;
2)上記リピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して、上記標的配列を検出する工程。
(5) 上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法において、散乱光をリアルタイムモニタリングすることを特徴とする、核酸検出方法。
(6) 上記(1)〜(5)のいずれか1項に記載の方法において、リピート構造を有する核酸を標的配列を特異的に切断しうる制限酵素で処理し、その処理後の核酸から生じる散乱光を処理しない場合と比較して、該標的配列の有無を判断することを特徴とする、核酸検出方法。
(7) 上記(6)記載の方法を利用して標的配列上の多型を検出することを特徴とする、核酸検出方法。
(8) 以下の工程を含む上記(7)記載の方法:
1)鋳型核酸上の標的配列をLAMP増幅し、該標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る工程;
2)上記リピート構造を有する核酸を、標的配列上の多型部位を特異的に切断しうる制限酵素で処理する工程;
3)上記制限酵素処理後の核酸に照射光をあて、生じる散乱光を制限酵素で処理しない場合と比較し、上記標的配列上に多型が存在するか否かを判断する工程。
(9) 上記(1)〜(8)のいずれか1項に記載の方法に利用されるキットであって、以下のi)〜iv)の少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする、前記キット。
i)以下の(a)及び/又は(b)のインナープライマー
(a) 鋳型核酸上の標的配列の3’側から該鋳型核酸上の3’末端方向に向かって、順に第1の任意配列F1c及び第2の任意配列F2cを選択したとき、該F1cと同一の配列及び該F2cに相補的な配列F2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(b) 鋳型核酸上の標的配列の5’側から該鋳型核酸上の5’末端方向に向かって、順に第3の任意配列R1及び第4の任意配列R2を選択したとき、該R1に相補的配列R1c及び該R2と同一の配列R2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
ii)以下の(c)及び/又は(d)のアウタープライマー
(c) 鋳型核酸鎖上の任意配列F2cよりも3’末端方向に任意配列F3cを選択したとき、該F3cに相補的な配列F3を含むプライマー
(d) 鋳型核酸鎖上の任意配列R2よりも5’末端方向に任意配列R3を選択したとき、該R3と同一の配列を含むプライマー
iii)鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
iv)要素iii)の基質となるヌクレオチド
(10) さらに、以下の(e)及び/又は(f)のループプライマーを含む、上記(9)記載のキット。
(e) インナープライマー上のF1c及びF2の間の任意配列に相補的な配列を含むプライマー
(f) インナープライマー上のR1c及びR2の間の任意配列に相補的な配列を含むプライマー
【0009】
【発明の実施の形態】
本発明は、標的配列とこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して該標的配列を検出することを特徴とする核酸検出方法、および該方法を利用した多型の検出方法、ならびにこれら方法のためのキットに関する。
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
1.用語の定義
核酸:本明細書中における「核酸」は天然のものであっても、人工的に合成されたものであってもよい。該核酸には、DNA、cDNA、RNA、cRNA、及びPNA等の全てを含むものとする。また1本鎖核酸及び2本鎖核酸の双方を含むものとする。さらに、部分的に修飾された、あるいは全体が完全に人工的構造からなるヌクレオチド誘導体であっても、それが塩基対結合を形成しうるものであるかぎり、本発明の核酸に含まれる。また、遺伝子(生命に関わる特定の機能や情報を担う核酸)という用語も、核酸に含まれる。なお、本発明における核酸の構成塩基数は制限されない。
【0011】
標的配列:本明細書中における「標的配列」又は「標的核酸」とは、検出すべき核酸配列又は核酸分子を意味する。また、標的配列とは、標的核酸の塩基配列を意味する。
【0012】
リピート構造:本発明にかかる「リピート(反復)構造」とは、特定の配列が同一鎖上に(縦列して)繰り返し含まれる構造であるが、特に本明細書中においては、互いに相補的な2つの配列が同一鎖上に繰り返し含まれる構造を意味するものとする。このリピート構造については、次項で詳述する。
【0013】
鋳型と相補鎖:本明細書中における「鋳型」とは、相補鎖合成の鋳型となる側の核酸を意味する。鋳型に相補的な塩基配列を持つ「相補鎖」は、鋳型に対応する鎖としての意味を持つが、両者の関係はあくまでも相対的なものに過ぎない。
【0014】
鋳型核酸:本発明において「鋳型核酸」とは、本来の検出対象であって、その分子中に標的配列を含み、リピート構造を有する核酸増幅産物調製やそのためのプライマー設計の基礎となる核酸を意味する。
【0015】
ハイブリダイズ:「ハイブリダイズ」と「アニール」とは、核酸がワトソン−クリックのモデルに基づく相補的塩基対結合によって2本鎖を形成することを意味する。したがって、塩基対結合を構成する核酸鎖が同一鎖上にあっても、分子内の相補的な塩基配列が塩基対結合を形成すれば、ハイブリダイズ、あるいはアニールである。本発明において、ハイブリダイズとアニールは、核酸が塩基対結合による2本鎖構造を構成する点で同義である。
【0016】
2. リピート構造を有する核酸
2.1 リピート構造
本発明の方法で用いられるリピート構造を有する核酸は、「標的配列とこれに相補的な配列が縦列した構造」を同一鎖上に1回又は2回以上反復して含む。
【0017】
本発明のリピート構造を有する核酸の鎖長は、特に限定されないが、通常少なくとも100塩基長以上、平均1000塩基長程度が好ましい。これは、核酸の鎖長が長いほど散乱光の強度が高く、高感度な検出が可能になるためである。
【0018】
また、前記リピート構造を有する核酸中に含まれる「標的配列とこれに相補的な配列が縦列した構造」の反復数は特に限定されないが、通常少なくとも1〜10回程度、平均10回以上が好ましい。該核酸中に含まれる標的配列の数が多いほど、散乱光の強度が高く、高感度な検出が可能になるためである。
【0019】
なお、リピート構造を有する核酸は、後述するような核酸増幅反応によって提供されるものであるため、必ずしも均一ではなく、様々な鎖長、増幅率のものが含まれる。したがって、上記鎖長や反復数の好ましい数値については、「平均」という表現を用いるものとする(なお、平均は通常の相加平均を意味する)。
【0020】
本発明のリピート構造を有する核酸中に含まれる「標的配列」は、検出対象とする核酸(ゲノム遺伝子やmRNA)の一部であっても、全部であってもよい。含まれる領域は、検出対象とする核酸に特異的な配列を選択して用いることが好ましく、例えば、構造遺伝子ならば繰り返し配列を含まない、mRNA3’非翻訳領域に存在する配列特異性が高い部分、多型解析であれば当該多型近傍部位等を好適に用いることができる。
【0021】
また「これに相補的な配列」とは、例えば、5’−agttcatc−3’に対して、その相補的配列3’−tcaagtag−5’を意味するが、これらは同一鎖上に含まれるため、後者は5’−gatgaact−3’として逆方向に配置される。この意味で、本発明のリピート構造はインバーテッドリピート(逆反復)ともいえる。この互いに相補的な2つの配列は少なくとも一部において、鎖内アニール(同一鎖内でアニール)することによってループ構造を形成しうる。そして、このループ形成は本発明のリピート構造を有する核酸に特異な2次(あるいは3次)構造を与える。例えば、同一鎖上の両端にループが形成されると、本発明のリピート構造を有する核酸はダンベル型構造となり、同一鎖上に多数のループが形成されれば、該リピート構造を有する核酸はカリフラワー型構造となる。本発明のリピート構造を有する核酸が、散乱光によって高感度で検出しうるのは、その長い鎖長と標的配列の高い反復数(高い増幅効率)に加えて、このような特異な構造が寄与していると考えられる。
【0022】
2.2 リピート構造を有する核酸の調製
本発明のリピート構造を有する核酸は、本来の検出対象であるゲノムDNAやmRNA等を鋳型核酸として用い、その少なくとも一部を標的配列として、調製することができる。調製方法は特に限定されず、化学的合成等の公知の核酸合成法や、PCR法、SDA法等の公知の核酸増幅法を適宜選択しうるが、後述するX1c+X2構造を有するプライマーを用いた増幅法(例えば、LAMP法等)を利用すれば、効率的に調製することができる。
【0023】
(1)X1c+X2構造を有するプライマーを用いた増幅法
X1c+X2構造を有するプライマーは、具体的には以下のようにして設計する。
(a) 鋳型核酸鎖上の標的配列の3’側から当該鋳型核酸鎖上の3’末端方向に向かって、順に第1の任意配列F1c及び第2の任意配列F2cを選択したとき、該F1cと同一の配列及び該F2cに相補的な配列F2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(b) 鋳型核酸鎖上の標的配列の5’側から当該鋳型核酸鎖上の5’末端方向に向かって、順に第3の任意配列R1及び第4の任意配列R2を選択したとき、該R1に相補的配列R1c及び該R2と同一の配列R2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
【0024】
なお、上記プライマーは(a)(b)をペアとして用いてもよいし、(a)(b)どちらか一方と通常のプライマーをペアにして用いてもよい。
増幅反応は、例えば上記プライマー、鋳型核酸、ヌクレオチド基質及びDNA(RNA)ポリメラーゼを用いて、通常のPCR法により達成できる。
【0025】
さらに、前記増幅反応はポリメラーゼとして鎖置換型DNAポリメラーゼを用いれば、等温条件下で行うこともできる。これは、プライマーがX1c+X2の構造を有するため、該プライマーからの伸長生成物はX1c+(X2+)X1の相補的配列(下線部)を含み、これが鎖内アニールして、合成された2本鎖核酸上に1本鎖部分を生成するためである。すなわち、2本鎖を高温で解離させなくとも、伸長生成物上には鎖内アニールによる新たな鎖置換反応の開始点が与えられる。この反応の概略は後述するLAMP法を参照されたい。
【0026】
なお、前記鎖置換型DNAポリメラーゼとしては、例えばBst DNAポリメラーゼ、Bca(exo−)DNAポリメラーゼ、E. coli DNA ポリメラーゼIのクレノウフラグメント、Vent DNAポリメラーゼ、Vent(Exo−)DNAポリメラーゼ(Vent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、DeepVent DNAポリメラーゼ、DeepVent(Exo−)DNAポリメラーゼ(DeepVent DNAポリメラーゼからエクソヌクレアーゼ活性を除いたもの)、Φ29ファージDNAポリメラーゼ、MS−2ファージDNAポリメラーゼ、Z−Taq DNAポリメラーゼ(宝酒造製)、KOD DNAポリメラーゼ(東洋紡社製)等が挙げられる。
【0027】
(2)LAMP法
1)LAMP(Loop−mediated isothermal amplification)法の概要
前記増幅法の好適な態様として、LAMP法による増幅法を用いることができる。「LAMP法」とは本発明者らが開発した核酸の増幅方法で、インナープライマーペア或いはこれにアウタープライマーペア、さらにループプライマーペアを加えた、2種、4種或いは6種の特異的プライマーと、鎖置換型ポリメラーゼ及び基質であるヌクレオチドを用いて、等温条件下(65℃前後)でDNA又はRNAを迅速かつ安価に増幅する方法である。LAMP法の概要については、文献:Notomi, T et al.:Nucleic Acids Res. 28(12):e63(2000)、特許:国際公開WO 00/28082号、あるいは栄研化学(株)ホームページ(http://www.eiken.co.jp/)を参照されたい。
【0028】
LAMP法では、増幅生成物の同一鎖上末端に互いに相補的な配列が生成し、これらがアニールしてヘアピン状のループが形成され、そのループを起点としたポリメラーゼによる伸長反応が起きる。同時に、ループ内にアニールしたプライマーからは鎖置換型伸長反応が起こり、先の伸長生成物を1本鎖に解離させていく。解離した1本鎖もまた、末端に相補的配列を有するため、この反応は繰り返し起きる。こうして、LAMP法では増幅生成物の同一鎖上の複数の位置で、伸長反応と増幅反応が同時進行するため、DNAの増幅が超指数関数的にしかも等温条件下で達成され、本発明で用いられるリピート構造を有する核酸を効率的に合成できる。
【0029】
2)LAMP法用プライマー
LAMP法ではインナープライマー、アウタープライマー、ループプライマーと呼ばれる、特異的プライマーが用いられる。
【0030】
インナープライマーとはLAMP法に必須のプライマーであって、鋳型DNAのそれぞれの鎖において、3’側に存在する任意配列X2c、これより5’側の任意配列X1cを選択したとき、該X2cに相補的配列X2と該X1cと同一の配列X1cを3’側から5’側にこの順で含む(X1c+X2の構造をもつ)プライマーをいう。機能的にいえば、インナープライマー上のX2は鋳型に特異的にアニールして相補鎖合成の起点を与える部分であり、X1cは増幅(伸長)生成物がループを形成するための相補的配列を与える。そして、このループが新たな相補鎖合成の起点となる。
【0031】
アウタープライマーとは、インナープライマーよりも外側(すなわち鋳型の3’側)の任意配列X3cに相補的配列を有し、これにアニールしうるプライマー2種(2本鎖に相補的な各々について1つずつ)をいう。
【0032】
なお、プライマーの鋳型核酸へのアニールを容易にするため、上記X1(X1c)、X2(X2c)、X3(X3c)の長さは5〜100塩基が好ましく、10〜50塩基がさらに好ましい。
【0033】
上記インナープライマー及びアウタープライマーは、2本鎖(F及びR)のそれぞれについて必要であり、インナープライマー(F1c+F2、R1c+R2)、アウタープライマー(F3、R3)の各々2種が設計される。
【0034】
各任意配列は、LAMP法により得られる増幅産物が分子間アニールではなく、分子内アニールを優先的に生じ、末端ヘアピン構造を形成するように選択することが好ましい。例えば、分子内アニールを優先的に生じさせるためには、任意配列の選択に当たって、F1c配列とF2c配列との間の距離及びR1配列とR1c配列との間の距離を考慮することが重要である。具体的には、両者各配列が、0〜500塩基、好ましくは0〜100塩基、最も好ましくは10〜70塩基の距離を介して存在するように選択することが好ましい。ここで、数値はそれぞれ、F1c配列及びF2c配列自身並びにR1配列及びR2配列自身を含まない塩基数を示している。
【0035】
また、ループプライマーとは、LAMP法による増幅生成物の同一鎖上に生じる相補的配列が互いにアニールしてループを形成するとき、該ループ内の配列に相補的な塩基配列をその3’末端に含むプライマー2種(2本鎖に相補的な各々について1つずつ)をいう。前記アウタープライマーとループプライマーはLAMP法に必須のプライマーではないが、これらがあれば増幅(伸長)反応はより効率的に進行する。
【0036】
3)増幅用鋳型核酸
LAMP法で用いられる増幅用鋳型核酸はDNAであってもRNAであってもよく、組織又は細胞等の生物学的試料から公知方法により、あるいは化学合成法により調製することができる。この場合、増幅すべき領域(標的領域という)の両側には、適当な長さの配列(両側配列という)が存在するように鋳型ポリヌクレオチドを調製する。両側配列とは、当該標的領域の5’末端からポリヌクレオチド鎖の5’末端までの領域の配列、及び当該標的領域の3’末端からポリヌクレオチド鎖の3’末端までの領域の配列を意味する。両側配列の長さは、標的領域の5’側及び3’側のいずれの領域も、10〜1000塩基、好ましくは30〜500塩基である。
【0037】
4)反応条件
一連の反応は、酵素反応に好適なpHを与える緩衝剤、酵素の触媒活性の維持やアニールのために必要な塩類、酵素の保護剤、更には必要に応じて融解温度(Tm)の調整剤等の共存下で行うことが好ましい。緩衝剤としては、Tris−HCl等の中性から弱アルカリ性に緩衝作用を持つものが用いられる。pHは使用するDNAポリメラーゼに応じて調整すればよい。塩類としては、例えばKCl、NaCl、MgCl2あるいは(NH4)2SO4等が、酵素の活性維持とDNAの融解温度(Tm)調整のために適宜添加される。酵素の保護剤としては、ウシ血清アルブミンや糖類が利用される。また、融解温度(Tm)調整剤としては、ベタイン、プロリン、ジメチルスルホキシド、あるいはホルムアミドを一般的に利用することができる。
【0038】
5)LAMP反応
LAMP法における反応は、鋳型核酸に対して、以下の成分(i)(ii)(iii)を加え、インナープライマーが鋳型核酸上の相補的配列に対して安定な塩基対結合を形成することができ、かつ鎖置換型ポリメラーゼが酵素活性を維持しうる温度でインキュベートすることにより進行する。インキュベート温度は50〜75℃、好ましくは55〜70℃であり、インキュベート時間は1分〜10時間、好ましくは5分〜4時間である。
(i) インナープライマー2種、或いはさらにアウタープライマー2種、或いはさらにループプライマー2種
(ii) 鎖置換型ポリメラーゼ
(iii)基質ヌクレオチド
【0039】
3. 核酸検出方法の具体的手順
本発明における、リピート構造を有する核酸の調製から検出までの具体的な手順は以下の工程を含む。
1)鋳型核酸上の標的配列をLAMP法等を用いて増幅し、該標的配列とこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る工程;
2)上記リピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して、上記標的配列を検出する工程。
【0040】
3.1 標的配列の増幅
まず、鋳型核酸上の標的配列を増幅し、該標的配列とこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る。
【0041】
例えば、生物試料中の特定遺伝子の検出であれば、周知の方法に従って細胞より全RNAあるいはmRNAを調製し、このmRNAを逆転写によりcDNAとして増幅してリピート構造を有する核酸を調製してもよい。解析対象とする核酸量が少ない場合には、さらに前記cDNAをT7RNAポリメラーゼによってcRNAとして増幅して用いてもよい。増幅方法としては、前述したX1c+X2の構造を有するプライマーを用いた増幅反応や、LAMP法を好適に用いることができる。
【0042】
3.2 散乱光による標的配列の検出
散乱光の検出のため、リピート構造を有する核酸を含む試料をセルに入れ、その一面に光源からの照射光をあてる。セルは、通常の分析に用いられるような、ガラス、石英等の透明材料からなる方形セルを用いることができる。前記セルは、静止セルでもフローセルでもよい。また、照射光の光源は特に限定されず、He−Naレーザー光源、Arレーザー光源、またはこれらを組み合わなど、散乱光検出に通常用いられるものを使用することができる。試料への光照射は、直接であってもよいし、ミラー、フィルター、集光レンズ、偏光素子あるいは光ファイバ等を通して行っても良い。
【0043】
散乱光検出器は、光源からの光を受ける面とは別なセルの一面(側方または後方)に配置され、試料から生じる散乱光を直接、あるいは、偏光素子、集光レンズ、ピンホール、光ファイバ等を通して検出する。散乱光の検出は、微弱光を感度良く検出できる、フォトンカウンティング法を利用したシステムが好ましい。検出された光は、通常、検出器に付属したソフトを用いてリアルタイムで処理解析することができる。このような散乱光検出のための光源、検出器(フォトンカウンター等)は、既に当該技術分野で周知のものであり、市販のものを(大塚電子製、島津製作所製等)を好適に利用することができる。
【0044】
4. 散乱光検出装置
図1に、本発明の核酸検出方法のために利用しうる装置の一例を示す。この装置は、大きく、光源、反応部(試料挿入部、ホットプレート等)、検出部(散乱光検出器、カウンタメモリ等)からなり、光源と反応部、反応部と検出部はそれぞれ光ファイバA及びBで連結されている。試料挿入部にはセルに入れられた試料が挿入され、光ファイバAを通して光源からの照射光があてられる。セルは、入射光の入射および散乱光の検出を妨げないように設計したヒートブロックによって保持される。ヒートブロックは温度コントローラーによって温度制御され、セル中の反応液を所定の温度に保持することができる。なお、反応液は加熱による揮発防止のため、ミネラルオイル等を重層することが好ましい。散乱光は、入射光に対して例えば90°方向の散乱光を光ファイバBを通して検出、解析される。
【0045】
上記装置は例示であって、本発明の実施には、生体高分子等の分子量測定に用いられる他の市販の光散乱光度計(大塚電子製、スタティック光散乱光度計 SLS−6000シリーズ等)等を利用することもできる。
【0046】
5.標的配列の核酸検出方法用キット
本発明はまた、本発明の検出方法に用いられるキットを提供する。該キットは、以下のi)〜iv)の少なくとも一つ以上を含む。
【0047】
i)以下の(a)及び/又は(b)のインナープライマー
(a) 鋳型核酸上の標的配列の3’側から該鋳型核酸上の3’末端方向に向かって、順に第1の任意配列F1c及び第2の任意配列F2cを選択したとき、該F1cと同一の配列及び該F2cに相補的な配列F2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(b) 鋳型核酸上の標的配列の5’側から該鋳型核酸上の5’末端方向に向かって、順に第3の任意配列R1及び第4の任意配列R2を選択したとき、該R1に相補的配列R1c及び該R2と同一の配列R2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
ii)以下の(c)及び/又は(d)のアウタープライマー
(c) 鋳型核酸鎖上の任意配列F2cよりも3’末端方向に任意配列F3cを選択したとき、該F3cに相補的な配列F3を含むプライマー
(d) 鋳型核酸鎖上の任意配列R2よりも5’末端方向に任意配列R3を選択したとき、該R3と同一の配列を含むプライマー
iii)鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
iv)要素iii)の基質となるヌクレオチド
上記キットは、LAMP増幅をより効率的に進めるために、以下の(e)及び/又は(f)のループプライマーをさらに含んでいてもよい。
(e) インナープライマー上のF1c及びF2の間の任意配列に相補的な配列を含むプライマー
(f) インナープライマー上のR1c及びR2の間の任意配列に相補的な配列を含むプライマー
【0048】
本発明のキットには、上記必須構成要素のほか、必要に応じて融解温度調整剤(例えば、ベタイン、トリメチルアミンN−オキシド等)、酵素反応に好適な条件を与える緩衝液、合成反応生成物の検出のために必要な他の試薬類を含んでいても良い。さらに、該キットは、1回の反応に必要な試薬を反応容器に分注した状態で供給するものであってもよい。
前記キットはまた、次項に説明する制限酵素処理の有無や、多型の検出方法のためにも用いられる。
【0049】
6.本発明の検出方法の利用
6.1 LAMP産物のリアルタイムモニタリング
本発明はLAMP反応と組み合わせることによって、微量核酸の測定、特にLAMP産物のリアルタイムモニタリングに使用できる。LAMP産物は、反応副産物であるピロリン酸マグネシウムによる反応液の白濁を利用して、目視により検出することも可能である(Biochemical and Biophysical Research Communications), Vol. 289, No.1, 150−154, (2001))。しかしながら、合成されたDNAそのものに基づく散乱光を利用した本発明の検出方法は、増幅反応副産物であるピロリン酸マグネシウムを検出する前記方法よりも信頼性が高く、迅速性にも優れている。すなわち、本発明の方法は、沈澱が生じていないLAMP反応初期段階での微量増幅DNA分子を高感度に検出することができる。
【0050】
6.2 制限酵素消化の検出
また、本発明の方法は、制限酵素処理の有無を電気泳動等の煩雑な操作を行うことなく、簡便に検出することができる。すなわち、標的配列に制限酵素サイトが含まれている場合、リピート構造を有するLAMP産物ではその構造中に多数の制限酵素サイトが含まれることになる。したがって、制限酵素消化を受けると著しく分子量が減少し、これは散乱光の減少となって明確に観察される。こうした効果は、PCR産物のような単純な増幅産物ではみられない。
【0051】
このような制限酵素消化の有無の検出は、(1)増幅反応の特異性の検証、(2)マルチプレックスLAMP(同一チューブ内で複数のLAMP産物を増幅する場合)による、増幅核酸の確認のほか、次項に説明する(3)多型(SNP等)の検出に利用できる。
【0052】
6.3 多型(SNP等)の検出
本発明の方法を利用することにより、標的配列上の多型の検出を行うことができる。該方法は、例えば以下の工程を含む。
1)鋳型核酸上の標的配列をLAMP増幅し、該標的配列とこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る工程;
2)上記リピート構造を有する核酸を、標的配列上の多型部位を特異的に切断しうる制限酵素で処理する工程;
3)上記制限酵素処理後の核酸に照射光をあて、生じる散乱光を制限酵素で処理しない場合と比較し、上記標的配列上に多型が存在するか否かを判断する工程。上記多型にはSNPも含まれる。
【0053】
本発明の検出方法は、散乱光を利用して、微量な検出対象をその鎖長にかかわらず高感度かつ簡便に検出することができる。この方法は処理の自動化やリアルタイムモニタリングも可能であることから、生物試料中に含まれる微量な遺伝子の検出やSNPを含む多型の検出等、種々の核酸の検出への応用が期待される。
【0054】
高分子であるDNAが光を散乱することは公知の事実であるが、遺伝子増幅反応を散乱光測定によって検出する方法は、これまで報告されていない。これはおそらく、散乱光測定に有利な長鎖のDNAを多量に精度良く合成できる増幅法がなかったためと推測される(たとえばPCRの増幅効率は、LAMPより2桁悪く、特異性も悪い)。本発明の方法は、リピート構造というLAMP産物の特徴を生かし、生物試料中の微量遺伝子をその鎖長にかかわらず高感度に検出できるばかりか、制限酵素反応の有無やSNP等の多型の検出にも利用できる。また、本発明によれば、核酸増幅反応の検出と、その産物の検証を一度に行う方法、あるいはそのための装置も提供される。
【0055】
【実施例】
以下、実施例を用いて本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕 散乱光測定によるLAMP反応のモニタリング
1.試験方法
(1)LAMP反応
PSA(prostate−specific antigen cDNA fragment;配列番号1)を鋳型に、以下のLAMPプライマーを用いて、LAMP反応を行った。LAMP反応は、鋳型核酸の熱変性を行わず、表1に示す反応液組成にて、60℃、40分反応させた。
PSA用LAMPプライマー:
FIP; 5’−TGTTCCTGATGCAGTGGGCAGCTTTAGTCTGCGGCGGTGTTCTG−3’(配列番号2)
RIP; 5’−TGCTGGGTCGGCACAGCCTGAAGCTGACCTGAAATACCTGGCCTG−3’(配列番号3)
F3; 5’−TGCTTGTGGCCTCTCGTG−3’(配列番号4)
R3; 5’−GGGTGTGTGAAGCTGTG−3’(配列番号5)
(FIP、RIPはそれぞれForward Inner Primer、Reverese Inner Primerを、F3、R3はそれぞれForward Outer Primer、Reverse Outer Primerを示す。)
【0057】
【表1】
【0058】
(2)散乱光測定
浜松ホトニクス株式会社が、図1に示すような散乱光検出装置を作製した。前項で調整したLAMP反応液の散乱光をこの装置を用いて測定した。光源としては、50ワットの白色キセノンランプを用い、直径1mmφの光ファイバーAを通して、全ての波長の光をサンプルに照射した。サンプル用セルとしては、3mm×3mm角の方形セル(石英製)を用いた。セルは、入射光の入射および散乱光の検出を妨げないように設計したヒートブロックによって保持されるが、このヒートブロックを加熱することで、セル中の反応液を所定の温度に保持することができる。なお、反応液には、揮発防止のためにミネラルオイルを重層した。検出は、入射光に対して90°方向の散乱光を、光ファイバBを通して高感度光電子増倍管を用いてフォトンカウンティング法で検出した。
【0059】
〔実施例2〕 散乱光の由来確認
1.試験方法
観察されている散乱光が、ピロリン酸マグネシウムの沈澱に由来するのか、LAMP産物(長鎖DNA分子)に由来するのかを次のようにして確認した。
【0060】
耐熱性Pyrophosphatase(Ppase)をLAMP反応液に共存させておくと、ピロリン酸マグネシウムの沈殿が生成しないことがわかっている。そこで、Ppase(20 mU Tth Pyrophosphatase, thermostable;Roche社製)共存下で、実施例1と同様にLAMP反応を行い、実施例1の結果と比較した。結果を図2に示す。
【0061】
2.試験結果
Ppase無添加の場合、反応開始後約10分から15分の間で穏やかな散乱光増加がみられ、約17分(図中矢印)から爆発的な散乱光の増加がみられた。Ppaseを添加した場合、約10分から15分の間の穏やかな散乱光増加はみられたが、17分からの爆発的な散乱光増加は観察されなかった。したがって、17分からの爆発的な散乱光増加は、ピロリン酸マグネシウムの沈殿生成に由来しており、約10分からみられる穏やかな散乱光増加は、長鎖DNA(LAMP産物)に由来していると考えられた。この結果から、ピロリン酸マグネシウムからの散乱光を検出するよりも、LAMP反応によって合成された長鎖DNAからの散乱光を検出する方が、迅速性に優れていることが確認された。
【0062】
〔実施例3〕 散乱光測定によるLAMP産物の制限酵素消化反応のモニタリング
1.試験方法
増幅したDNAを制限酵素処理することによって、その増幅反応の特異性を検証することが広く行われている。そこで、LAMP反応液にLAMP産物を認識しない制限酵素:EcoRI (宝酒造社製;認識配列 GAATTC)、又はLAMP産物を認識する制限酵素:Sau3AI (宝酒造社製;認識配列 GATC)をそれぞれ同一ユニット数(50U/tube)添加し、散乱光の変化をみた。なお、配列表の配列番号1に示されるPSAの塩基配列中、ヌクレオチド番号228から231のGATC配列部分が、Sau3AI認識部位にあたる。
【0063】
また、酵素消化の有無を直接確認するため、各制限酵素反応後のサンプルについて、アガロースゲル電気泳動分析を行った。
【0064】
2.試験結果
図3に示すように、EcoRIを添加しても、散乱光強度はほとんど変化しなかったが(散乱光強度の低下:3%)、Sau3AIを添加すると、散乱光強度が著しく減少した(散乱光強度の低下:30%)。このことは、合成されたDNAがSau3AIによって消化され、断片化したために散乱効率が低下したためであり、LAMP反応液で観測される散乱光強度の増加がLAMP反応によって合成された長鎖DNAによるものであることを示す。
【0065】
図4に示すように、電気泳動の結果、EcoRI処理後のサンプルの泳動パターン(レーン2)は、制限酵素未処理のLAMP産物の泳動パターン(レーン1)と一致し、Sau3AI処理後のサンプルの泳動パターン(レーン3)には、分解されたDNA由来のバンド(図中矢印)が観察された。これにより、Sau3AI処理による散乱光強度の低下は、Sau3AIによって長鎖DNAが断片化したためであることが証明された。
【0066】
通常、制限酵素反応の有無はアガロース電気泳動という煩雑な操作によって調べられているが、本発明の方法を用いれば、散乱光測定によって増幅産物の制限酵素消化の有無を簡単にチューブ内で検出することができる。LAMP産物は、リピート構造を持つ長鎖DNAであるため、一本のDNAの中に多数の制限酵素サイトを有している。そのため、制限酵素処理による分子量低下が著しく、散乱光強度の減少度も大きい。つまり、LAMP産物は、PCR産物のような単純なDNAよりも高感度に、酵素消化の有無を検出することができると考えられる。
【0067】
〔実施例4〕 散乱光測定によるPCR産物とLAMP産物の検出結果の比較
1.試験方法
同一の標的配列について、そのLAMP産物とPCR産物間で、散乱光測定による検出結果を比較した。LAMP反応は実施例1と同様の方法で実施し、PCR反応はLAMPプライマーのアウタープライマーをプライマーとして用い、以下に示す反応液組成(表2)と反応条件で、一般的なプロトコールにしたがって実施した。
【0068】
【表2】
【0069】
【0070】
2.試験結果
PCR反応液では、バックグランド(蒸留水)に対する散乱光増加はほとんど観察されなかった。この結果から、増幅領域が同じ場合、リピート(インバーテッドリピート)構造の長鎖DNAを多量に合成するLAMP反応のほうがPCR反応よりも散乱光検出に適していることが確認された。PCR産物を効率よく散乱光で検出するためには、今回より長い領域を多量に増幅する必要があるが、それは一般的に非常に困難である。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、散乱光を利用して、微量な検出対象をその鎖長にかかわらず高感度かつ簡便に検出することができる。また、この方法は処理の自動化やリアルタイムモニタリングも可能であることから、生物試料中に含まれる微量な遺伝子の検出やSNPを含む多型の検出等、種々の核酸の検出への応用が期待される。
【0072】
【配列表】
【0073】
【配列表フリーテキスト】
配列番号2−人工配列の説明:プライマー
配列番号3−人工配列の説明:プライマー
配列番号4−人工配列の説明:プライマー
配列番号5−人工配列の説明:プライマー
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明の方法に使用するための散乱光検出器を示す図である。
【図2】図2は、光散乱法によるLAMP産物(PSA)のリアルタイム検出結果を示すグラフである。図中、上の曲線はPPase無添加(ピロリン酸マグネシウム生成)、下の曲線はPPase添加(ピロリン酸マグネシウム生成せず)の結果を示す。また、矢印は、ピロリン酸マグネシウム沈澱の検出開始点を示す。
【図3】図3は、LAMP産物の散乱光強度に及ぼす制限酵素処理の影響を示すグラフである。図中、上の曲線はEcoRI(PSAを認識しない酵素)、下の曲線はSau3AI(PSAを認識する酵素)による結果を示す。
【図4】図4は、制限酵素処理後の反応液の3%アガロース電気泳動結果を示す。図中左より、M:100bpラダー、1:制限酵素未処理LAMP反応液(PSA)、2:EcoRI処理後、3:Sau3AI処理後。また、矢印はSau3AI反応産物のバンドを示す。
【図5】図5は、散乱光検出におけるLAMP法とPCR法を比較した結果を示すグラフである。
Claims (10)
- 標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して該標的配列を検出することを特徴とする、核酸検出方法。
- リピート構造を有する核酸が、以下のプライマー(a)及び/又は(b)を用いた増幅法によって提供される、請求項1記載の方法。
(a) 鋳型核酸上の標的配列の3’側から該鋳型核酸上の3’末端方向に向かって、順に第1の任意配列F1c及び第2の任意配列F2cを選択したとき、該F1cと同一の配列及び該F2cに相補的な配列F2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(b) 鋳型核酸上の標的配列の5’側から該鋳型核酸上の5’末端方向に向かって、順に第3の任意配列R1及び第4の任意配列R2を選択したとき、該R1に相補的配列R1c及び該R2と同一の配列R2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー - 増幅法がLAMP法である、請求項2記載の方法。
- 以下の工程を含む、核酸検出方法:
1)鋳型核酸上の標的配列をLAMP増幅し、該標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る工程;
2)上記リピート構造を有する核酸に照射光をあて、生じる散乱光を利用して、上記標的配列を検出する工程。 - 請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法において、散乱光をリアルタイムモニタリングすることを特徴とする、核酸検出方法。
- 請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法において、リピート構造を有する核酸を標的配列を特異的に切断しうる制限酵素で処理し、その処理後の核酸から生じる散乱光を処理しない場合と比較して、該標的配列の有無を判断することを特徴とする、核酸検出方法。
- 請求項6記載の方法を利用して標的配列上の多型を検出することを特徴とする、核酸検出方法。
- 以下の工程を含む請求項7記載の方法:
1)鋳型核酸上の標的配列をLAMP増幅し、該標的配列及びこれに相補的な配列とを同一鎖上に1回又は2回以上反復して含むリピート構造を有する核酸を得る工程;
2)上記リピート構造を有する核酸を、標的配列上の多型部位を特異的に切断しうる制限酵素で処理する工程;
3)上記制限酵素処理後の核酸に照射光をあて、生じる散乱光を制限酵素で処理しない場合と比較し、上記標的配列上に多型が存在するか否かを判断する工程。 - 請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法に利用されるキットであって、以下のi)〜iv)の少なくとも一つ以上を含むことを特徴とする、前記キット。
i)以下の(a)及び/又は(b)のインナープライマー
(a) 鋳型核酸上の標的配列の3’側から該鋳型核酸上の3’末端方向に向かって、順に第1の任意配列F1c及び第2の任意配列F2cを選択したとき、該F1cと同一の配列及び該F2cに相補的な配列F2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
(b) 鋳型核酸上の標的配列の5’側から該鋳型核酸上の5’末端方向に向かって、順に第3の任意配列R1及び第4の任意配列R2を選択したとき、該R1に相補的配列R1c及び該R2と同一の配列R2を5’側から3’側にこの順で含むプライマー
ii)以下の(c)及び/又は(d)のアウタープライマー
(c) 鋳型核酸鎖上の任意配列F2cよりも3’末端方向に任意配列F3cを選択したとき、該F3cに相補的な配列F3を含むプライマー
(d) 鋳型核酸鎖上の任意配列R2よりも5’末端方向に任意配列R3を選択したとき、該R3と同一の配列を含むプライマー
iii)鎖置換型の相補鎖合成反応を触媒するDNAポリメラーゼ
iv)要素iii)の基質となるヌクレオチド - さらに、以下の(e)及び/又は(f)のループプライマーを含む、請求項9記載のキット。
(e) インナープライマー上のF1c及びF2の間の任意配列に相補的な配列を含むプライマー
(f) インナープライマー上のR1c及びR2の間の任意配列に相補的な配列を含むプライマー
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