JP2004256339A - 窒化珪素質焼結体の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】Si粉末もしくはSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を主成分とし、周期律表第3a族酸化物を含有してなる成形体を、窒化反応を行って窒化体を得た後に、焼成を行って反応焼結させる方法において、窒化反応の初期に、低窒素分圧下(950kPa)かつ低温(1000℃以上1200℃以下)で窒化反応を行って、成形体中のSi粉末の10%以上70%以下を窒化珪素に変換するとともに、該成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上として、α化率を高くすることによって、最初に生成される窒化珪素のα化率を高くし、後の窒化反応によって生成される窒化珪素も高いα化率のものを得る。
【選択図】なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エンジニアリングセラミックスとして実用化されている窒化珪素質焼結体に関し、焼成時の寸法変化が小さく、かつ機械特性に優れた、低コストの窒化珪素質焼結体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
粉末焼結法で得られる緻密な窒化珪素質焼結体は、焼成時に20%程度収縮するため、高精度の寸法の焼結体を得ることが困難である。また、Si粉末の成形体を窒素中1000〜1500℃で窒化させることによって得られる反応焼結窒化珪素は、成形体の収縮が少ないため、焼結体を高精度にすることが可能であるが、緻密化していないため機械的特性が低い。
【0003】
上記課題を解決するために、Si粉末、またはSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物に窒化珪素質焼結体で用いる焼結助剤を添加した後に、Siを窒素中で窒化させて窒化珪素とし、その後窒化珪素質焼結体を緻密化させる反応焼結法の改良技術について、特許文献1、または本出願人らの特許文献2、特許文献3などに開示されている。これらの技術を用いたときは、外形寸法はほとんど変化せずにSiの窒化反応により成形体が重量増加するため、成形体の相対密度が大幅に向上する。したがって、焼成時に緻密化させても焼成収縮が小さい。
【0004】
[特許文献1]特開平7−309669号公報(第2頁〜第3頁)
[特許文献2]特開平7−187797号公報(第2頁)
[特許文献3]特開平7−187798号公報(第2頁)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
Siを窒化させることによって窒化珪素質焼結体を得るときの最大の課題は、Siの窒化反応が発熱反応であるため温度暴走が発生する可能性があるということであった。いったん温度暴走が発生すると、温度制御が不可能となり異常昇温して主成分のSiが融点(1420℃)以上に加熱され、溶融してしまう恐れがある。このような現象が発生すると、塊状Siが生成しクラックが生じたり、溶融した状態のSiを窒化しても不均一な窒化珪素質焼結体組織となったりして、機械的特性が不十分な焼結体しか得られない。また、暴走温度がSiの溶融の起こらない温度以下であったとしても、窒化された窒化珪素がβ型となり、焼結性が悪くなるという問題があった。
【0006】
そのため現状では、発熱量を減らし、温度暴走を起こさないようにするために、焼成炉内に投入する製品量を減らす、製品サイズを小さいものに限定する、窒化反応温度を下げる、反応時間を長くして窒化反応を緩やかに行う、などの非効率な方法で対応しなければならなかった。
【0007】
例えば、特許文献1には、平均粒径10〜30μmの粗大シリコン粉末を80〜95質量%含ませることにより窒化反応を緩やかに進行させる内容が記載されている。しかしながら、粗大シリコン粉末から得られる窒化珪素粒子は、微細な窒化珪素結晶が凝集した粗大な窒化珪素凝集体となり、その後の焼結性の低下、低強度化を招く可能性が強かった。
【0008】
これに対して、本出願人らは特許文献2、3において、窒化後の成形体中のβ−窒化珪素量の含有量を全窒化珪素量に対して10%以下に制御することで焼結性の向上を達成する技術を開示した。この方法は、窒素ガス圧を101kPa〜3MPaの範囲内で温度を多段状に上昇させ、特に1300℃以上の温度域では窒素ガス圧を506kPa以下に設定することによりβ−窒化珪素の生成量を10%以下に抑える内容であり、これによって、安定して焼結性に優れ、高強度の焼結体を得ることができるようになった。
【0009】
しかしながら、製品の肉厚が厚く、10mm以上となるような場合、上記の条件では製品中心部付近において発熱した熱量が放熱されないためにβ−窒化珪素の生成量を10%以下に抑えることが難しいケースがあった。
【0010】
本発明者はこの問題に鑑み、鋭意検討を行った結果、窒素分圧と窒化温度とを所定の範囲内に収めることによって、肉厚の大きい窒化珪素質焼結体の製品であっても的確に発熱反応を制御し、温度暴走を抑止できることを見いだした。これによって、製品肉厚の影響を受けることなく、焼成時の寸法変化が小さく、かつ機械特性に優れた、低コストの窒化珪素質焼結体の製造方法を見いだすに至った。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法は、Si粉末もしくはSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を主成分とし、周期律表第3a族酸化物を含有してなる成形体を、窒素分圧950kPa以下の雰囲気下で窒化体に変換する窒化工程と、前記窒化工程に引き続いて、窒素を含む非酸化性雰囲気中で前記窒化体の焼成を行い緻密化させる焼成工程とからなり、前記窒化工程は、1000℃以上1200℃以下の温度域で前記成形体中のSi粉末の10%以上70%以下を窒化珪素に変換するとともに、前記成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上とする第1の窒化工程と、前記第1の窒化工程に引き続いて、1100℃以上1500℃以下の温度域で前記成形体中のSi粉末の残部を窒化珪素に変換して窒化体を得るとともに、前記窒化体中の全窒化珪素のα化率を60%以上とする第2の窒化工程とからなる。
【0012】
このとき、成形体の原料として、Si粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を用いたときは、窒化珪素粉末のα化率を50%以上とすることが望ましく、Si粉末と窒化珪素粉末の質量比率が、(Si粉末)/{(Si粉末)+(窒化珪素粉末)}において0.4以上1未満であることが望ましい。
【0013】
また、前記成形体に、Al2O3が含有されていることを特徴とする。
【0014】
なお、Si粉末から窒化珪素への変換率は、窒化反応前後のSi粉末の重量変化より次式のように算出する。
【0015】
変換率(%)=100×ΔW/ΔW(th)
ΔW;窒化反応前後の成形体の重量増加量
ΔW(th);成形体中のSi粉末が全て窒化されたと考慮した重量増加量
=(成形体中のSi粉末の重量)×1.67
まお、係数1.67は反応3Si+2N2→Si3N4で示されるSiから窒化珪素へ変換した際の理論重量増加率である。また、成形体を脱脂していない場合は成形体中のバインダー分の重量を除去して考える必要がある。
【0016】
また、窒化珪素のα化率は、粉末X線回折によって得られる回折強度を用いて、次式によって算出される。
【0017】
α化率(%)=100×I(α)/{I(α)+I(β)}
I(α);α−Si3N4の(102)面と(210)面との回折強度の和
I(β);β−Si3N4の(101)面と(210)面との回折強度の和
【0018】
【発明の実施の形態】
以下に本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法は、まず、成形体を構成する材料としては、Si粉末もしくはSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を主成分とし、これに周期律表第3a族酸化物を含有させたものを用いる。
【0020】
成形体を構成するSi粉末は、通常SiO2を還元する方法によって得られ、不可避不純物としてAlやFe化合物やCやSiO2などを2質量%以下含んでいる。
【0021】
このSi粉末に窒化珪素粉末を混合させても良く、理由は後述するが、該窒化珪素粉末中にα−Si3N4を多く含有していることが望ましい。窒化珪素粉末はSiの直接窒化法やSiO2の還元窒化法、イミド熱分解法などの方法によって得られる。イミド熱分解法で得られた原料は高純度で微粉であるため焼結性の向上の面で有利であり、これに対しSiの直接窒化法で得られた窒化珪素粉末はFe化合物などの不純物をイミド熱分解法で得られた粉末よりも多く(1質量%以下程度)含んでいるもののコストの面で有利である。本発明にかかる窒化珪素質焼結体の製造方法においては、いずれの方法で得られた窒化珪素粉末を用いても良い。
【0022】
さらに周期律表第3a族酸化物が含有されているが、これは窒化珪素の焼結性を促進する焼結助剤である。含有する量は1〜30質量%が望ましい。1質量%未満では緻密化させるために焼成温度を高温にする必要があるため、粗大な結晶が生成して機械的特性が低下するからであり、また、30質量%を越えると窒化珪素質焼結体の機械的特性が低下する傾向があるからである。
【0023】
また、周期律表第3a族酸化物は、窒化珪素やSi原料に不可避的に存在するSiO2、または添加するSiO2に対してその混合比が重要である。SiO2/周期律表第3a族酸化物質量比が1/15〜1/0.3となるようにすると、機械的特性が良好な窒化珪素質セラミック焼結体を得ることができる。質量比が1/0.3を超えた場合、または質量比が1/15未満の場合、SiO2−周期律表第3a族酸化物の組成が低融点組成から大幅に外れるため、液相生成が不十分となり、焼結不良が発生して機械的特性の低い焼結体になる。
【0024】
なお、SiO2は窒化珪素やSi原料中に最初から含まれていたものに加え、焼結助剤として別途加えても構わない。また、製造工程中で原料の酸化などにより増加したり、焼成分解などによって減少したりしても構わないが、焼結体として上記範囲内にあることが重要である。焼結体中のSiO2成分はICP発光分析や酸素量分析などの化学分析法などで求めればよい。
【0025】
なお、本発明に用いられる周期律表第3a族酸化物としては、Y、Er、Yb、Luの酸化物が、高温強度、耐酸化特性などの耐熱性を有する点で望ましい。
【0026】
これらの原料はあらかじめ従来周知の方法により、成形する。成形時にスプレードライヤーによる顆粒を使用する場合にはPVA、PEGなどのバインダーを適量含有した方が良い。
【0027】
焼成収縮を小さくするためには粉末成型時の相対密度を大きくすればよいが、従来の方法では、寸法変動を抑えようとすると成形圧力を非実用的な範囲まで上げる必要があった。それに対して本発明では、例えば400〜1200kgf/cm2程度の成形圧の金型プレスや400〜3000kgf/cm2程度の成形圧のCIP(Cold Isostatic Press)、粉体スラリーを鋳型に注入する鋳込み成形などによる、通常の成形条件で成形を行うことができる。これらの中から目的に適合した最適な成型方法を選択して成形を行い、粉末成型時の相対密度を45〜55%とすることが望ましい。
【0028】
バインダーを含有している場合は、窒化工程に先立ってN2などの非酸化性雰囲気中または真空中で400〜1000℃程度で脱脂する。脱脂工程から引き続いて窒化工程を行ってもよく、脱脂工程後、あらためて窒化工程を行ってもよい。
【0029】
次に、上記の方法により作製した成形体を、窒素分圧950kPa以下の雰囲気下において窒化を行い、窒化体に変換する。本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法においては、この窒化工程が第1の窒化工程と第2の窒化工程の2つからなっている。
【0030】
第1の窒化工程では、1000℃以上1200℃以下の温度域で成形体中のSi粉末の10%以上70%以下を窒化珪素に変換するとともに、成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上とする。
【0031】
また、第2の窒化工程では、第1の窒化工程に引き続いて、1100℃以上1500℃以下の温度域で成形体中のSi粉末の残部を窒化珪素に変換して窒化体を得るとともに、窒化体中の全窒化珪素のα化率を60%以上とする。
【0032】
このように窒化工程を2つ設けたことにより、窒化による発熱反応を制御することができるので、その後の均一な焼結を進行することが可能となる。これらの方法により、窒化による発熱反応を制御することができる理由は次のように考えられる。
【0033】
まず、窒化反応の初期段階は、Si粉末粒子の活性な表面と窒素ガスが反応することによる反応律速であるために、急激な反応が起こり、温度暴走が生じやすい。
【0034】
温度暴走が生じると、Siの融点以下の温度であっても、高温型のβ型窒化珪素の生成が増える。さらに、窒化初期にβ型窒化珪素が生成すると、これが核となってその後に生成する窒化珪素もβ型が生成しやすくなり、焼結時の焼結性が低下する。
【0035】
この傾向は、肉厚の大きい製品の中心部付近では顕著であり、製品端部では十分な緻密体となるが、中心付近では緻密化不十分となり、製品の中央部分が膨れた状態となり、寸法精度不良となる。
【0036】
これを回避するために、本発明者は、第1の窒化工程において、窒化初期に窒素分圧950kPa以下の低窒素分圧下において1000〜1200℃の低温度域で緩やかに窒化初期反応を進行させ、成形体中のSi粉末の10〜70%を窒化珪素に変換するとともに、成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上とすることが重要であることを見いだした。
【0037】
窒素分圧が950kPaを超えると、低温度域であっても急激な窒化反応が生じβ型窒化珪素が生成しやすくなる。望ましくは300kPa以下、さらに望ましくは150kPa以下が良い。また、温度が1000℃以下では反応がほとんど進行せず、1200℃を超えると反応が急激に生じるためにβ型窒化珪素が生成し、好ましくない。望ましい温度は1050〜1150℃である。
【0038】
このように窒素分圧950kPa以下の低窒素分圧下かつ1000〜1200℃の低温度域で緩やかに窒化初期反応を進行させることにより、温度暴走を防止し、α化率の高い窒化珪素を生成することが可能となる。
【0039】
このとき、成形体中のSi粉末の10%〜70%を窒化珪素に変換するようにすることが重要である。窒化珪素への変換が10%未満ではその後の窒化反応が急激に進行しやすくなり好ましくない。窒化珪素への変換が70%を超えても、品質上は問題にはならないが、反応に長時間を要するため好ましくない。望ましいSiの窒化珪素への変換量20〜50%である。
【0040】
また、本発明においては、窒化珪素に変換した後に成形体中の全窒化珪素中に占めるα化率が70%以上となるようにすることが、大変重要である。その理由として、α化率70%以上の窒化珪素は、その後の窒化反応時の核として働くため、α化率70%未満では核としての働きが弱く、窒化完了した時点でα化率の高い窒化体とはならないからである。この第1の窒化工程終了時点での望ましいα化率は、90%以上である。
【0041】
なお、原料としてSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を用いたときは、成形体中の全窒化珪素は、Si粉末から変換した窒化珪素と原料中に含まれていた窒化珪素との総和となることは言うまでもない。
【0042】
次に、第2の窒化工程により、1100℃以上1500℃以下の温度で成形体中の残部のSi粉末を窒化珪素に変換させる。なお、第2の窒化工程を開始する時点で、すでに第1の窒化工程によってSi粉末粒子の10〜70%が窒化珪素に変換され、残部のSi粉末粒子も活性な表面が窒化珪素により覆われているため、Si粉末粒子と窒素ガスとの急激な反応が抑えられ、窒化反応は緩やかに進行する。
【0043】
そして、前記第1の窒化工程により、成形体中の全窒化珪素のα化率は70%以上となっており、これが、第2の窒化工程における窒化反応時の核として働くため、第2の窒化工程で、第1の窒化工程よりも高い温度で窒化を行っても、高いα化率の窒化珪素を得ることができる。
【0044】
なお、第2の窒化工程においては、1100℃以上1500℃以下の温度範囲で、できるだけ高温で窒化反応を進行させることにより、反応を短時間で終了させることができるが、α化率の高い窒化珪素を得るためにはできるだけ低温で反応させることが望ましい。なお、1100℃より低い温度でも窒化反応は進行するが、時間がかかりすぎて望ましくない。また、1500℃より高温の場合は、未窒化Siが融解してしまうことがあるため、望ましくない。
【0045】
反応時間の短縮とα化率の高いものを達成するために望ましい温度範囲は、1200℃〜1350℃である。
【0046】
このように第2の窒化工程において、最適な温度条件で窒化反応を行うことにより、得られた窒化体は、表面から中心付近までα型窒化珪素が多く含まれ、α化率60%以上となる。α化率がこれより小さいと、均一な焼成収縮が生じず、特に肉厚の大きい製品において寸法精度が低下し、さらには緻密化不良部分における強度が低下し、製品強度が低下する。α化率が60%以上であれば、均一な緻密体が得られ、寸法精度が良好となり、また製品の強度が大きくなる。望ましいα化率は80%以上である。
【0047】
なお、第1の窒化工程と第2の窒化工程は、連続して同じ炉を使って行っても構わないし、第1の窒化工程の後に一旦炉外に取り出した後に、別途第2の窒化工程を行っても構わない。
【0048】
本発明において最も重要な点は、窒化反応の初期に、低窒素分圧下(950kPa)かつ低温(1000℃以上1200℃以下)で窒化反応を行って、成形体中のSi粉末の10%以上70%以下を窒化珪素に変換するとともに、該成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上として、α化率を高くすることにある。最初に生成される窒化珪素のα化率を高くしておけば、後の窒化反応によって生成される窒化珪素も高いα化率のものが得られるからである。
【0049】
したがって、第1の窒化工程と第2の窒化工程を連続して行うときには、あらかじめ製造する製品と同一形状の試料を用いて、成形体中のSi粉末の10%以上70%以下が窒化珪素に変換され、該成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上となるように、窒化反応の条件を最適化しておくことが必要である。
【0050】
以上の2段階の窒化工程を経て、成形体中のSiは粉末X線回折においてSiのピークは確認されない程度まで窒化が進行している。
【0051】
このSiの窒化反応により成形体は重量増加するが、外形寸法はほとんど変化しない。言い換えれば、成形体の相対密度が大幅に向上する。
【0052】
この後、通常の窒化珪素の焼成工程にしたがい、窒素を含む非酸化性雰囲気中で通常1600℃以上の温度域で焼成する。すでに上記の窒化工程により成形体の相対密度は大幅に向上しているため、焼成工程によって、相対密度97%以上に緻密化させても、焼成収縮が小さく、焼結体内部にSiが残存しない均一な微細組織を有した高強度窒化珪素質焼結体が得られる。
【0053】
焼成方法として、ガス圧焼結やHIP焼結を採用すれば、ボイドが減少し、さらに高強度の窒化珪素質焼結体が得られる。なお、焼成工程は窒化工程と連続して同一の炉を用いて行っても構わないし、窒化工程の後に一旦炉外に取り出した後に別途焼成工程を行っても構わない。
【0054】
また、本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法は、成形体の出発原料として、Si粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を用いたときは、窒化珪素粉末のα化率を50%以上とすることが望ましい。
【0055】
その理由として、混合物原料中の窒化珪素粉末は、Si粉末より窒化して生成する窒化珪素の種結晶として作用するため、α化率の高い窒化珪素粉末を用いた場合、アスペクト比の高い窒化珪素が生成し、実用上十分な強度を有するα率の高い高強度窒化珪素質焼結体が得られるからである。
【0056】
逆に、混合物原料中の窒化珪素粉末のα化率が50%より小さいと窒化後の全体のα率が小さくなり、アスペクト比の低い、低強度の窒化珪素質焼結体となる。混合物原料中の窒化珪素粉末中のα化率は、好ましくは70%以上、さらに好ましくは90%以上が高強度化という観点から望ましい。
【0057】
さらに、成形体の原料として、Si粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を用いたときは、Si粉末と窒化珪素粉末の質量比率が、(Si粉末)/{(Si粉末)+(窒化珪素粉末)}において0.4以上1未満であることが望ましい。
【0058】
Si粉末と窒化珪素粉末の質量比率が、0.4より小さい場合、Si粉末の窒化による相対密度向上の効果が不十分で緻密化による焼成収縮が大きくなり、高精度の寸法を得ることが困難となる。特に望ましくは、0.6〜0.95である。0.95を超えると窒化発熱反応が大きくなって、特に肉厚の大きい形状の製品の窒化反応に時間を要することがあるからである。
【0059】
また、本発明の窒化珪素質焼結体の製造方法は、前記成形体に、Al2O3が含有されていると焼結性が向上する点で望ましい。焼結性が向上する理由は、Al2O3−周期律表第3a族酸化物の2成分系の低融点液相、またはAl2O3−周期律表第3a族酸化物−SiO2の3成分系の低融点液相が生成し、窒化珪素を低温で溶解−析出するためでる。
【0060】
好ましいAl2O3量は、Al2O3/周期律表第3a族酸化物の質量比が1/10〜1/0.5、さらに好ましくは、1/5〜1/1の範囲である。その理由は、Al2O3/周期律表第3a族酸化物の質量比が1/0.5を超えると、破壊靭性値が低下する傾向にあり、1/10未満になると、焼結性が悪くなるからである。
【0061】
なお、副成分として周期律表第3a族酸化物、Al2O3以外に、Fe、Mn、Cr、Moなどの酸化物を0.1〜3質量%添加しても良い。これらの酸化物は、窒化を促進する効果が高い。
【0062】
また、Si粉末や窒化珪素粉末中の中にあらかじめ混入している珪化鉄やステンレスなどの不純物や、原料の粉砕工程時などに外部から混入した珪化鉄やステンレスなどは、窒化珪素質焼結体の破壊源となり、強度を下げる原因となる。これに対して、タングステン化合物を0.01〜3質量%添加することにより、不純物をタングステン珪化物中に固溶させ、破壊源を減少させるので、強度を向上させる効果がある。
【0063】
以上の様にして得られる窒化珪素質焼結体は、寸法精度が良く、かつ機械特性に優れ、また、低価格のSi粉末を使用するので低コストの窒化珪素質焼結体となり、強度や耐摩耗性、耐熱衝撃性などを要求される産業機器用のセラミック部品、たとえば、砂利粉砕羽根、金属溶湯部品、自動車用部品、切削工具部品などに利用することが可能である。特に肉厚が10〜60mmと大きく、焼結体の外表面から肉厚中心部まで高い均一な機械的特性を必要とする砂利粉砕羽根においては、本発明の効果が大きい。
【0064】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0065】
実施例1
(第1の窒化工程)
平均粒径5μmのSi粉末70質量%、平均粒径2μm、α化率90%のSi3N4粉末10質量%、Y2O3粉末13質量%、Al2O3粉末5質量%、Fe2O3粉末1質量%、WO3粉末1質量%の組成で混合後、バインダーとしてPVAを添加し、スプレードライヤーで造粒した。得られた顆粒粉体を、成型圧80MPaで成形し、N2中600℃で脱脂して、外径60mm、厚み45mmの相対密度52%の円柱型成形体を得た。
【0066】
この成形体を、外径540mm、内径500mm、高さ50mmの窒化珪素製リング(5個)と、外径540mm、厚み20mmの窒化珪素製円板(6枚)を交互に重ねるようにして5段に構成した窒化珪素製焼成鉢の中に、1段当たり15個をほぼ均等な間隔になるように配置した。以上のようにして成形体を配置した5段から成る焼成鉢を焼成炉内に導入し、表1に示すN2分圧、温度パターンにより第1の窒化工程を行った。その評価結果も合わせて表1に記載した。
【0067】
なお、指定がない限り、900℃以上における昇温時の昇温速度は50℃/Hrである。また、保持時間を斜線としたものはその温度で保持していないことを示す。さらに、温度はW−Re(5%−26%)系熱電対を焼成鉢内に導入して、測温した温度である。
【0068】
第1の窒化工程後一旦冷却して、下より3段目の窒化珪素製焼成鉢中の中央部に配置した窒化体を取り出し、その窒化体の重量変化によりSi粉末の窒化珪素への変換率を算出した。また、同じ窒化体の中心部分より5mm角の立方体を切り出し、粉末X線回折によりα化率を求めている。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、本発明の範囲内である、N2分圧が950kPa以下で、かつ1000℃から1200℃の範囲内で窒化させたパターン2〜6、8〜14は、窒化珪素への変換率が10〜70%、α化率が70%以上となり良好な結果が得られた。
【0071】
これに対し、本発明の範囲外となる、窒化温度が1000℃未満のパターン1は窒化珪素への変換率が10%未満で窒化不足、窒化温度が1200℃を超えるパターン7およびN2分圧が950kPaを超えるパターン15はα化率が70%未満でα化率が低く、不満足な結果であった。
【0072】
(第2の窒化工程)
次に、第1の窒化工程と全く同じ構成で、表2に示すような窒化パターンを実施した。第1の窒化工程は表1に示す第1の窒化パターンにしたがい、その後、炉から取り出すことなく、連続的に表2に示す第2の窒化パターンの条件によって窒化した。窒化後一旦冷却して、第1の窒化工程と全く同じ手法にしたがって評価した結果を表2に記載した。
【0073】
【表2】
【0074】
表2に示すように、第1の窒化工程において、本発明の範囲内で行われたパターン2〜6、11で窒化させた試料を、第2の窒化工程でも本発明の範囲内となるように、N2分圧950kPa以下、かつ1100℃から1500℃の範囲で窒化させたパターン21〜26、30〜33、35〜37は、α化率が60%以上であり、粉末X線回折でもSiの残存が確認されず、良好な結果が得られた。
【0075】
これに対し、第1の窒化工程を本発明の範囲外で行ったパターン1、7、15による試料を用いたパターン21、27、28は、第2の窒化工程で本発明の範囲内となるように窒化反応を実施しても、α化率が60%未満と低く、不満足な結果であった。
【0076】
また、第1の窒化工程において本発明の範囲内で窒化反応を行ったパターン2、11で窒化させた試料を用いても、第2の窒化工程において、本発明の範囲外となる条件で窒化を行った、パターン29(窒化温度が1100℃未満)では粉末X線回折によりSiの残存が確認され、また、パターン34(第2の窒化工程の窒化温度が1500℃を超える)、パターン38(N2分圧が950kPaを超える)では、α化率が60%未満と小さく、不満足な結果であった。
【0077】
(焼成工程)
上記窒化工程において、本発明の範囲内と範囲外の双方の試料を含むパターン21〜38で窒化された窒化体をそれぞれ試料21〜38と命名し、表3に記載した。なお、表3には、第2の窒化工程で得られた窒化体のα化率についても合わせて記載してある。
【0078】
これらの試料を、900kPaのN2ガス中において1750℃で10時間保持して焼結させて焼結体を得た。
【0079】
なお、試料No.39は、Si粉末の代わりに全て上記窒化珪素粉末を用いた原料粉体を同様の方法にて作製した比較例である。Si粉末を添加していないため窒化工程は行っていない。原料調合組成は、Si粉末が全て窒化珪素に変換したと仮定したときの比率、すなわち、平均粒径2μm、α化率90%のSi3N4粉末86.4質量%、Y2O3粉末8.85質量%、Al2O3粉末3.40質量%、Fe2O3粉末0.68質量%、WO3粉末0.68質量%の組成である。
【0080】
得られた円柱型焼結体の上面部の外径部の寸法収縮率と厚み方向中央部の外径部の寸法収縮率を測定した。次に、焼結体中心部がJIS R1601に準ずる試験片の引っ張り面となるように切り出し、4点曲げ試験にて抗折強度(7本平均)を測定した。結果を表3に示す。
【0081】
【表3】
【0082】
表1〜3からわかるように、第1の窒化工程と第2の窒化工程において、本発明の範囲内となるように窒化を実施した後に焼結させた試料22〜26、30〜33、35〜37は、上面部の収縮率と中央部収縮率の差がいずれも0.5%を下回る程度に小さく、肉厚製品であっても均一な寸法収縮の焼結体が得られた。また、肉厚製品の中心部でも十分緻密化しており、切り出し試験片の抗折強度も700MPa以上となり高い値が得られた。
【0083】
これに対し、本発明の範囲外となるような条件で窒化工程を実施した試料21、27、28、29、34、38は収縮率の差が大きく、中心部の切り出し試験片の抗折強度も低いものであった。
【0084】
試料のうち、21、27、28、34、38は、α化率が低いために中央部の収縮率が小さく上面部の収縮率との差が大きく、中央部が膨れた形状の焼結体となった。また中央部が十分緻密化していないために、中心部からの切り出し試験片の抗折強度が低かったものと推測される。また、試料29は、窒化工程後のα化率は高かったものの、焼成前にSiが十分窒化終了していなかったために、焼結後にSiが残存して抗折強度が低くなり、不満足な結果であった。
【0085】
また、Siを添加しない試料No.39は収縮率が大きく、本発明の効果が全く見られなかった。
【0086】
実施例2
表4にしたがい、α化率の異なるSi3N4粉末、ならびに、Si粉末の添加比率を変更し、その他は実施例1と同様の方法によって焼結体を得た。窒化条件は実施例1で最も良好な強度が得られた試料(No.31)と同一とし、第1の窒化工程、第2の窒化工程、焼成工程において、各工程後冷却することなく連続して実施した。
【0087】
なお、焼成条件は120kPaの窒素雰囲気中で1750℃、5時間保持後、900kPaの窒素中で1850℃、3時間保持する条件で行った。
【0088】
得られた焼結体も実施例1にしたがって、得られた円柱型焼結体の上面部の外径部の寸法収縮率と厚み方向中央部の外径部の寸法収縮率を測定した。次に、焼結体中心部がJIS R1601に準ずる試験片の引っ張り面となるように切り出し、4点曲げ試験にて抗折強度(7本平均)を測定した。その結果を表4に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
表4からわかるように、Siの添加比率が0.4より小さい試料(No.1〜2)は、許容範囲内ではあるが全体の収縮率が大きくなる傾向にあった。
【0091】
また、添加する窒化珪素粉末中のα−Si3N4の割合が50%より小さい試料(No.10)は、許容範囲内であるが中央部の収縮率と上面部の収縮率との差が大きくなる傾向にあった。また許容範囲内ではあるが中心部からの切り出し試験片の抗折強度が低くなる傾向にあった。
【0092】
これらに対して、Siの添加比率が0.4から1の範囲にある試料(No.3〜7)および、添加する窒化珪素粉末中のα−Si3N4の割合が50%以上の試料(No.8〜9)については、すべて焼成収縮が小さく、かつ上面部の収縮率と中央部収縮率の差が小さく肉厚製品であっても均一な寸法収縮の焼結体が得られた。また、機械的強度の高い窒化珪素質焼結体となった。
【0093】
実施例3
平均粒径5μmのSi粉末85.4重量部、平均粒径2μm、α−Si3N4率90%のSi3N4粉末12.2重量部、Fe2O3粉末2.0重量部、WO3粉末0.4重量部の計100重量部に対し、さらに表5に示すように、Y2O3粉末、Al2O3粉末を添加し、その他は実施例1と同様の方法によって、焼結体を得た。
【0094】
窒化条件は実施例1で最も良好な強度が得られた試料(No.31)と同一とし、第1の窒化工程、第2の窒化工程、焼成工程において、各工程後冷却することなく連続して実施した。焼成条件は120kPaの窒素雰囲気中で1500℃、3時間保持後、1780℃で10時間保持する条件で行った。
【0095】
なお、表5中のSiO2含有量は、得られた焼結体をLECO社製酸素分析計により全酸素量を分析し、添加したY2O3、Al2O3、Fe2O3、WO3の酸素量を焼結体の全酸素量から差し引いた残りの酸素が全てSiO2であるとして算出したものである。
【0096】
得られた焼結体も実施例1にしたがって、得られた円柱型焼結体の上面部の外径部の寸法収縮率と厚み方向中央部の外径部の寸法収縮率を測定した。次に、焼結体中心部がJIS R1601に準ずる試験片の引っ張り面となるように切り出し、4点曲げ試験にて抗折強度(7本平均)を測定した。その結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5からわかるように、Al2O3を含有しない試料(No.1)は、許容範囲にはあるものの、他の試料と比べて強度が低くなる傾向にあった。これに対して、Al2O3を添加した試料(No.2〜8)は機械的強度の高い窒化珪素質焼結体となり、特に、Al2O3/Y2O3比が1/5から1/1の範囲の試料(No.3〜6)では高い強度が得られた。また、いずれも上面部の収縮率と中央部収縮率の差が小さく肉厚製品であっても均一な寸法収縮の焼結体が得られた。
【0099】
【発明の効果】
以上詳述したように本発明によれば、Si粉末もしくはSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を主成分とし、周期律表第3a族酸化物を含有してなる成形体を、窒化反応を行って窒化体を得た後に、焼成を行って反応焼結させる方法において、窒化反応の初期に、低窒素分圧下(950kPa)かつ低温(1000℃以上1200℃以下)で窒化反応を行って、成形体中のSi粉末の10%以上70%以下を窒化珪素に変換するとともに、該成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上として、α化率を高くすることによって、最初に生成される窒化珪素のα化率を高くし、後の窒化反応によって生成される窒化珪素も高いα化率のものを得ることができる。
【0100】
これによって、焼成時の寸法変化が小さく、特に肉厚製品において均一な収縮を示し、かつ機械特性に優れ、また、低価格のSi粉末を使用するので低コストの窒化珪素質焼結体が得られる。
Claims (4)
- Si粉末もしくはSi粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物を主成分とし、周期律表第3a族酸化物を含有してなる成形体を、窒素分圧950kPa以下の雰囲気下で窒化体に変換する窒化工程と、前記窒化工程に引き続いて、窒素を含む非酸化性雰囲気中で前記窒化体の焼成を行い緻密化させる焼成工程とからなり、前記窒化工程は、1000℃以上1200℃以下の温度域で前記成形体中のSi粉末の10%以上70%以下を窒化珪素に変換するとともに、前記成形体中の全窒化珪素のα化率を70%以上とする第1の窒化工程と、前記第1の窒化工程に引き続いて、1100℃以上1500℃以下の温度域で前記成形体中のSi粉末の残部を窒化珪素に変換して窒化体を得るとともに、前記窒化体中の全窒化珪素のα化率を60%以上とする第2の窒化工程とからなることを特徴とする窒化珪素質焼結体の製造方法。
- Si粉末と窒化珪素粉末とから成る混合物中の窒化珪素粉末のα化率を50%以上としたことを特徴とする請求項1記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
- 前記成形体中のSi粉末と窒化珪素粉末の質量比率が、(Si粉末)/{(Si粉末)+(窒化珪素粉末)}において0.4以上1未満であることを特徴とする請求項1または2に記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
- 前記成形体に、Al2O3が含有されていることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の窒化珪素質焼結体の製造方法。
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2003
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