JP2004239387A - 軸受機構、モータおよびディスク駆動装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】スラストプレート211を有するシャフト部21と、潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成されたスリーブ22とを有する軸受機構2において、スリーブ22にスラストプレート211に対向するフランジ形状のスラスト部222を設ける。これにより、スリーブ22の円筒部221の肉厚を薄くすることができ、スリーブ22が含有する潤滑油の量を少なくすることができる。その結果、オイルバッファを設けるために軸受機構2の有効長を短くする必要がなくなり、軸受機構2の性能を低下させることなく潤滑油の漏れを容易に防止することが実現される。
【選択図】 図3
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成されたスリーブを有する軸受機構、モータおよびディスク駆動装置に関し、特に、ディスク駆動装置のモータに用いられる軸受機構に関する。
【0002】
【従来の技術】
図1は従来の軸受機構9の一例を示す図である。軸受機構9は、スラストプレート911を有するシャフト91、および、潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成された中空円筒状のスリーブ92を有する。スリーブ92の下面には流体動圧発生用の溝が形成されており、スラストプレート911の上面との間で流体動圧を利用したスラスト軸受機構を構成する。スリーブ92はスリーブ保持部93に保持されており、スラストプレート911の下面はスリーブ保持部93に取り付けられたカウンタプレート94と対向する。スラストプレート911の周囲は潤滑油で満たされており、スラストプレート911とカウンタプレート94との間においても流体動圧を利用したスラスト軸受機構が構成される。軸受機構9は、例えば、特許文献1に開示されている。
【0003】
スリーブ92として多孔質材料を用いることにより、シャフト91とスリーブ92との間における焼き付きやロックを防止することができる。
【0004】
【特許文献1】
特開2002−327734号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の軸受機構9では、円筒状のスリーブ保持部93に円筒状のスリーブ92を挿入して組み立てられることが前提となっているため、スリーブ92の外径がスラストプレート911の外径と等しい、あるいは、(スラストプレート911とスリーブ保持部93との間の隙間だけ)僅かに大きくされてきた。しかしながら、多孔質材料にて形成されたスリーブ92を用いると、スリーブ92内にも潤滑油が充填されているため、金属により成形されるスリーブ(いわゆる、ソリッド軸受)にて軸受機構が構成される場合に比べて多くの潤滑油が使用されることとなる。
【0006】
通常、潤滑油の熱膨張係数は金属の10倍程度であり、温度変化により潤滑油の体積が大きく変化する。したがって、多孔質のスリーブ92を用いる場合にスリーブ92の上方にオイルバッファとしての間隙95を設けることが必要となる。潤滑油の量に合わせてオイルバッファが軸方向に長く設けられると、軸受機構9の全体長が長くなる。逆に、軸受機構9の全体長を短く抑えようとした場合、軸受としての有効長が短くなってしまい、回転安定性が低下し、衝撃に対して弱くなるおそれがある。
【0007】
一方、軸受機構9ではスリーブ92の内周面にも流体動圧発生用の溝が形成され、シャフト91の外周面との間でラジアル軸受機構が構成される。スリーブ92の内周面に溝を形成する際には、スリーブ92内に型を挿入し、外周面から圧力を加えてスリーブ92を弾性変形させることにより溝が形成される。このとき、スリーブ92は肉厚が薄いほど大きく弾性変形することからスリーブ92の肉厚はできるだけ薄い方が好ましい。しかしながら、既述のようにスリーブ92の外径はスラストプレート911を基準として決定されてきたため、スリーブ92の内周面に形成可能な溝の深さが制限されてきた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、多孔質材料にて形成されるスリーブに含まれる潤滑油の量を含油率を変えることなく削減することを目的としており、スリーブに溝を形成する場合において深い溝を容易に形成可能とすることも目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、軸受機構であって、中心軸に対して垂直な第1スラスト面を有するシャフト部と、潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成されたスリーブとを備え、前記スリーブが、前記シャフト部が挿入される円筒部と、前記円筒部の一の端部から前記中心軸に垂直な方向に広がるとともに前記第1スラスト面と対向する第2スラスト面を有するスラスト部とを有し、前記円筒部の内周面または前記第2スラスト面に流体動圧発生用の溝が形成されている。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の軸受機構であって、前記スリーブが、複数の要素部材により構成される。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の軸受機構であって、前記複数の要素部材が、前記円筒部である部材と前記スラスト部である部材とを含む。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の軸受機構であって、前記シャフト部が、シャフトと、前記シャフトの一端から前記中心軸に垂直な方向に広がるプレートとを有し、前記スリーブの前記スラスト部が、前記円筒部の前記一の端部から前記中心軸に対して外側に広がるフランジ形状とされ、前記第1スラスト面が前記プレートの前記シャフト側の面であり、前記第2スラスト面が前記スラスト部の前記円筒部とは反対側の面である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の軸受機構であって、前記スリーブを外周側から保持するスリーブ保持部と、前記プレートの前記シャフトとは反対側の面に対向する対向部材とをさらに備え、前記スリーブ、前記スリーブ保持部および前記対向部材により前記プレートの周囲が覆われ、前記円筒部の内周面と前記シャフトの外周面との間の間隙、並びに、前記第2スラスト面、前記スリーブ保持部および前記対向部材と前記プレートとの間の間隙に潤滑油が連続して存在する。
【0014】
請求項6に記載の発明は、請求項4または5に記載の軸受機構であって、前記円筒部の外径が、前記プレートの外径よりも小さい。
【0015】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の軸受機構であって、前記シャフト部が、シャフトと、前記シャフトの一端に接続されるシャフト固定部材とを有し、前記スリーブの前記スラスト部が、前記円筒部の前記一の端部から前記中心軸に対して外側に広がるフランジ形状とされ、前記第1スラスト面が前記シャフト固定部材の前記シャフト側に形成された面であり、前記第2スラスト面が前記スラスト部の前記円筒部とは反対側の面である。
【0016】
請求項8に記載の発明は、請求項7に記載の軸受機構であって、前記スリーブを外周側から保持し、前記円筒部の前記フランジ部とは反対側の端部を閉塞するスリーブ保持部をさらに備え、前記シャフト固定部材が、前記中心軸を中心として前記スラスト部の外周に沿って前記シャフトの自由端側へと突出する円筒状の突出部を有し、前記スラスト部の外周面と前記突出部の内周面との間の間隙、前記第1スラスト面と前記第2スラスト面との間の間隙、前記円筒部の内周面と前記シャフトの外周面との間の間隙、および、前記シャフトの前記自由端側の端面と前記スリーブ保持部との間の間隙に潤滑油が連続して存在する。
【0017】
請求項9に記載の発明は、軸受機構であって、シャフトと、前記シャフトの一端から中心軸に垂直な方向に広がるプレートとを有するシャフト部と、潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成され、前記シャフトが挿入されて一の端面が前記プレートと対向する円筒状のスリーブと、前記スリーブを外周側から保持するスリーブ保持部と、前記プレートの前記シャフトとは反対側の面に対向する対向部材とを備え、前記スリーブ、前記スリーブ保持部および前記対向部材により前記プレートの周囲が覆われ、前記スリーブの内周面または前記一の端面に流体動圧発生用の溝が形成されており、前記スリーブの外径が、前記プレートの外径よりも小さく、前記スリーブの内周面と前記シャフトの外周面との間の間隙、並びに、前記スリーブの前記一の端面、前記スリーブ保持部および前記対向部材と前記プレートとの間の間隙に潤滑油が連続して存在する。
【0018】
請求項10に記載の発明は、モータであって、請求項1ないし9のいずれかに記載の軸受機構と、前記シャフト部を前記中心軸を中心に前記スリーブに対して相対的に回転させる駆動機構とを備える。
【0019】
請求項11に記載の発明は、ディスク駆動装置であって、情報を記録するディスク状の記録媒体を収容する筐体と、前記筐体内部に固定されて、前記記録媒体を回転させる請求項10に記載のモータと、前記記録媒体に対する情報の書き込みまたは読み出しを行うアクセス手段とを備える。
【0020】
【発明の実施の形態】
図2は電動式のモータ1が取り付けられた一般的なディスク駆動装置70の内部構成を示す図である。ディスク駆動装置70の内部は筐体であるハウジング71により塵や埃が極度に少ないクリーンな空間とされる。ハウジング71は、円板状の記録媒体である複数のディスク板72、ディスク板72への情報の書き込みおよび(/または)読み出しを行うアクセス部73、並びに、ハウジング71内に固定されてディスク板72を回転させるモータ1を収容する。
【0021】
アクセス部73は、ディスク板72に近接して情報の書き込みおよび読み出しを磁気的に行うヘッド731、ヘッド731を支持するアーム732、並びに、アーム732を移動させることによりヘッド731とディスク板72との相対的位置を変更するヘッド移動機構733を有する。このような構成により、ヘッド731は回転するディスク板72に近接した状態でディスク板72の所要の位置にアクセスし、情報の書き込みおよび読み出しを行う。
【0022】
図3はモータ1の構成を示す縦断面図である。モータ1は中心軸11Jを中心に回転するロータ11と取り付け側のステータ12とから構成され、ロータ11は潤滑油による流体動圧を利用した軸受機構2によりステータ12に対して回転可能に支持される。
【0023】
ロータ11は、ロータ本体111、中心軸11Jの位置にてロータ本体111に取り付けられたシャフト部21、および、ロータ本体111の下部の外周に取り付けられた円環状の界磁用磁石31を有する。界磁用磁石31には周方向に多極着磁が施されている。ステータ12は、中央に円筒状のスリーブ保持部122が取り付けられたブラケット121を有し、スリーブ保持部122はスリーブ22を外周側から保持する。また、シャフト部21の下側にはカウンタプレート23が配置され、ブラケット121の外周壁の内側面には複数の電機子32が取り付けられる。
【0024】
図4は、軸受機構2近傍を拡大して示す縦断面図である。スリーブ22は潤滑油が含浸された多孔質材料(例えば、焼結材料)にて形成されており、シャフト部21が挿入される円筒部221と円筒部221の下端(シャフト部21の自由端側)から中心軸11Jに対して外側へと垂直な方向に広がるフランジ形状のスラスト部222を有する。スリーブ22の上側(シャフト部21の固定端側)にはキャップ24が設けられ、キャップ24とシャフト部21との間の間隙25はスリーブ22が含有する潤滑油が膨張したとしても表面張力を利用して潤滑油の漏れを防止するオイルバッファとしての役割を果たす。なお、スリーブ22を含油多孔質材料にて形成することにより、モータ1の焼き付きやロックを容易に防止することができる。
【0025】
シャフト部21は、シャフト212と、シャフト212の下端から中心軸11Jに垂直な方向に円板状に広がるスラストプレート211を有し、スラストプレート211の上面(スラストプレート211のシャフト212側の面)は中心軸11Jに対して垂直なスラスト軸受面(以下、単に「スラスト面」という。)211aとなっており、スリーブ22のスラスト部222の下面(スラスト部222の円筒部221とは反対側の面)であるスラスト面222aと対向する。スラストプレート211の下面はカウンタプレート23の上面と対向する。カウンタプレート23の上面にはスパイラル溝41(面に対して傾いた太線にて示しており、面から離れる方向が軸受面内にて圧力が高められる方向である。以下同様)が形成され、スリーブ22のスラスト面222aにもスパイラル溝42が形成されている。スラストプレート211の周囲はスリーブ22、スリーブ保持部122およびカウンタプレート23に覆われて潤滑油が充填されており、シャフト部21が回転すると、スラストプレート211の上下面に流体動圧が生じ、上下面は非接触状態とされる。すなわち、スラストプレート211の上下面、スリーブ22の下面およびカウンタプレート23の上面により、中心軸11Jの方向を向くスラスト荷重を受ける流体動圧軸受機構が構成される。
【0026】
シャフト212の外周面とスリーブ22の円筒部221の内周面との間にも潤滑油が充填されており、円筒部221の内周面にはヘリングボーン溝43が形成されている。したがって、シャフト212が回転すると、シャフト212の外周面とスリーブ22の円筒部221の内周面との間に流体動圧が生じ、シャフト212の外周面と円筒部221の内周面とは非接触状態とされる。すなわち、シャフト212の外周面と円筒部221の内周面とによりラジアル荷重を受ける流体動圧軸受機構が構成される。なお、円筒部221の内周面とシャフト212の外周面との間の間隙、並びに、スラスト部222のスラスト面222a、スリーブ保持部122およびカウンタプレート23とスラストプレート211との間の間隙には潤滑油が連続して存在し、いわゆる、フルフィル構造となっている。
【0027】
以上のように、モータ1の軸受機構2は、シャフト部21、スリーブ22およびカウンタプレート23により、ラジアル荷重およびスラスト荷重を受ける流体動圧軸受機構が組み合わされたものとなっており、ロータ11がステータ12に対して回転可能に支持される。
【0028】
多極着磁された円環状の界磁用磁石31および複数の電機子32は図3に示すように互いに対向して中心軸11Jの周囲に配置され、シャフト部21を有するロータ11をスリーブ22を有するステータ12に対して回転させる駆動機構となっている。複数の電機子32に与えられる電流が制御されると、界磁用磁石31と複数の電機子32との間に中心軸11J周りの回転力が発生し、ステータ12に対してロータ11が回転する。このとき、シャフト部21とスリーブ22との間、および、シャフト部21とカウンタプレート23との間に流体動圧が発生し、シャフト部21が非接触状態にて円滑に回転する。
【0029】
ところで、モータ1の軸受機構2ではスリーブ22がフランジ形状の鍔が設けられた形状とされる。これにより、図1に示す従来の軸受機構9と比較してスリーブ22の体積が減少し、含油率(すなわち、スリーブ22の含浸前の空孔率)を変えることなくスリーブ22が含有する潤滑油の量を少なくすることができる。一方で、スリーブ22の下面とスラストプレート211の上面との間の対向する領域の面積を十分に確保することができるため、軸受機構2のスラスト軸受機構としての機能が損なわれることはない。
【0030】
その結果、軸受機構2の潤滑油の温度が上昇したとしても潤滑油の漏れを容易に防止することができ、モータ1の信頼性を向上することができる。さらに、大きなオイルバッファを設けるために軸受機構2の有効長を短くする必要がないことから、耐衝撃性や性能が損なわれることもない。特に、軸受機構2のようにフルフィル構造の場合であっても潤滑油の漏れを適切に防止することができ、モータ1の製造コストを低減するとともに信頼性を高めることができる。
【0031】
なお、スリーブ22の円筒部221の肉厚は、過剰に薄くならない範囲で可能な限り薄くされることが好ましいため、一般的には、円筒部221の外径がスラストプレート211の外径よりも小さくされることが好ましいといえる。
【0032】
図5はモータ1の他の例を示す縦断面図である。モータ1は図3のモータ1と同様に、中心軸11Jを中心に回転するロータ11と取り付け側のステータ12とから構成され、ロータ11は潤滑油による流体動圧を利用した軸受機構2によりステータ12に対して回転可能に支持される。
【0033】
ロータ11は、ロータ本体111、中心軸11Jの位置にてロータ本体111に固定端側が接続されたシャフト212、および、ロータ本体111の外周の内側に取り付けられた円環状の界磁用磁石31を有する。界磁用磁石31には周方向に多極着磁が施されている。ステータ12は、中央に有底円筒状のスリーブ保持部122が取り付けられたブラケット121を有し、スリーブ保持部122はスリーブ22を外周側から保持する。スリーブ保持部122の周囲において複数の電機子32がブラケット121に取り付けられる。
【0034】
図6は、軸受機構2近傍を拡大して示す縦断面図である。スリーブ22は潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成されており、シャフト212が挿入される円筒部221と円筒部の上端(シャフト212の固定端側)から中心軸11Jに対して外側へと垂直な方向に広がるフランジ形状のスラスト部222を有する。円筒部221のスラスト部222とは反対側の端部はスリーブ保持部122により閉塞される。スリーブ保持部122の上側(ロータ本体111側)は中心軸11Jを中心として垂直に外側に僅かに広がるフランジ部122aとなっている。
【0035】
ロータ本体111の下面(シャフト212側の面)のうち、シャフト212の周囲の部分は、中心軸11Jに垂直な方向に広がるように形成されたスラスト面111aとなっており、スリーブ22のスラスト部222の円筒部221とは反対側の面(シャフト212の固定端側の面)であるスラスト面222aと対向する。スリーブ22のスラスト面222aにはスパイラル溝42が形成され、かつ、スラスト面111aとスラスト面222aとの間には潤滑油が充填されており、シャフト212が回転すると、流体動圧が生じて両スラスト面111a,222aは非接触状態とされる。すなわち、両スラスト面111a,222aにより中心軸11Jの方向を向くスラスト荷重を受ける流体動圧軸受機構が構成される。なお、以下の説明では、スラスト面111a近傍のロータ本体111の部位とシャフト212とを合わせてシャフト部21と呼ぶ。
【0036】
シャフト212の外周面とスリーブ22の円筒部221の内周面との間にも潤滑油が充填されており、円筒部221の内周面にはヘリングボーン溝43が形成されている。したがって、シャフト212が回転すると、シャフト212の外周面と円筒部221の内周面との間に流体動圧が生じ、シャフト212の外周面と円筒部221の内周面とは非接触状態とされる。すなわち、シャフト212の外周面と円筒部221の内周面とによりラジアル荷重を受ける流体動圧軸受機構が構成される。
【0037】
ロータ本体111は、スラスト面111aの周囲に中心軸11Jを中心としてスラスト部222およびスリーブ保持部122のフランジ部122aの外周に沿ってシャフト212の自由端側へと突出する円筒状の突出部111bを有する。突出部111bの内周面上であってフランジ部122aよりも下方には円環状の抜止部材27が取り付けられ、フランジ部122aと係合してシャフト212がスリーブ22から抜けてしまうことが防止される。スラスト部222およびフランジ部122aの外周面と突出部111bとの間の間隙26にも潤滑油が充填されており、この間隙26がスリーブ22が含有する潤滑油が膨張したとしても表面張力を利用して潤滑油の漏れを防止するオイルバッファとしての役割を果たす。
【0038】
なお、スラスト部222およびフランジ部122aの外周面と突出部111bの内周面との間の間隙26、両スラスト面111a,222aの間の間隙、円筒部221の内周面とシャフト212の外周面との間の間隙、および、シャフト212の自由端側の端面とスリーブ保持部122との間の間隙に潤滑油が連続して存在し、いわゆる、フルフィル構造となっている。
【0039】
以上のように、モータ1の軸受機構2は、シャフト部21およびスリーブ22により、ラジアル荷重およびスラスト荷重を受ける流体動圧軸受機構が組み合わされたものとなっており、ロータ11がステータ12に対して回転可能に支持される。
【0040】
多極着磁された円環状の界磁用磁石31および複数の電機子32は図5に示すように互いに対向して中心軸11Jの周囲に配置され、シャフト部21を有するロータ11をスリーブ22を有するステータ12に対して回転させる駆動機構となっている。複数の電機子32に与えられる電流が制御されると、界磁用磁石31と複数の電機子32との間に中心軸11J周りの回転力が発生し、ステータ12に対してロータ11が流体動圧を利用して円滑に回転する。
【0041】
ここで、図4に示す軸受機構2と同様に、図6に示す軸受機構2ではスリーブ22がフランジ形状の鍔が設けられた形状とされる。これにより、図1に示す従来の軸受機構9と比較して含油率を変えることなくスリーブ22が含有する潤滑油の量を少なくすることができる。一方で、スリーブ22の上面(スラスト面222a)とロータ本体111のスラスト面111aとの間の対向する領域の面積を十分に確保することができるため、軸受機構2のスラスト軸受機構としての機能が損なわれることはない。
【0042】
その結果、軸受機構2(およびモータ1)の性能を損なうことなく、潤滑油の温度が上昇したとしても潤滑油の漏れを容易に防止することが実現される。特に、軸受機構2のようにフルフィル構造の場合であっても潤滑油の漏れを適切に防止することができ、モータ1の製造コストを低減するとともに信頼性を高めることができる。
【0043】
また、スリーブ22をフランジ付きの形状とすることにより、スラスト部222の下面、円筒部221の外周面、および、円筒部221の下端面に連続する溝を形成してラジアル軸受機構の下部とスラスト軸受機構の外周部(大気圧となる間隙26)とを連通させてラジアル軸受機構の下端部の過剰圧や負圧を緩和することが容易に実現される。
【0044】
図7ないし図9は、円筒部221およびスラスト部222を有するスリーブ部材220に流体動圧発生用の溝を形成して図4または図6に示すスリーブ22とする工程を説明するための図である。まず、図7に示すようにスリーブ部材220内にコアロッド51が挿入され、スリーブ部材220の上面および下面が上側パンチ52および下側パンチ53により押圧される。なお、コアロッド51の外径はスリーブ部材220の内周面の径よりも僅かに小さく、コアロッド51の外周面には溝形成用の型として突起が形成されている。この状態でスリーブ部材220はダイ54内へと導かれる。
【0045】
その後、ダイ54がスリーブ部材220の円筒部221の外周を均一に押圧し、図8に示すように円筒部221が弾性変形してコアロッド51に付勢される。ダイ54が押圧を解除すると円筒部221は弾性により元の径に戻り、図9に示すように上側パンチ52および下側パンチ53によりダイ54の外部へと導かれる。これにより、円筒部の内周面は流体動圧発生用の溝が形成されたラジアル軸受用の面とされる。
【0046】
なお、図4に示すスリーブ22の場合には、ダイ54の上面に流体動圧溝形成用の型として突起を設け、上側パンチ52による押圧により、スラスト部222の円筒部221側の面にスラスト軸受用の溝が形成されてもよい。図6に示すスリーブ22の場合には、上側パンチ52の下面に流体動圧溝形成用の型として突起を設け、上側パンチ52による押圧により、スラスト部222の円筒部221とは反対側の面にスラスト軸受用の溝が形成されてもよい。これにより、ラジアル軸受用の溝とスラスト軸受用の溝とを同時に形成することができ、スリーブ22の製造コストを低減することができる。また、ラジアル軸受機構とスラスト軸受機構との相対的な位置関係の精度も高めることができる。
【0047】
ここで、既述のようにスリーブ22の円筒部221の肉厚は従来のスリーブよりも薄くすることができるため、円筒部221を大きく弾性変形させることができる(いわゆる、スプリングバックが大きくなる)。したがって、円筒部221に深い溝を形成することが可能とり、従来のスリーブのように溝の深さが肉厚の制限を受ける(特に、小型のスリーブの場合に制限を受ける)という問題が解決される。
【0048】
図10(a)および(b)はスリーブ22の他の例を示す縦断面図である。図10(a)および(b)に示すスリーブ22は、円筒部221の要素部材とスラスト部222の要素部材とにより構成される。図10(a)では円筒部221の外周面にスラスト部222が取り付けられるため、円筒部221の設計の自由度が高くなる。図10(b)では円筒部221の端面にスラスト部222が取り付けられるため、スラスト部222の設計の自由度が高くなる。
【0049】
両要素部材が多孔質材料にて形成される点や製造タクトを考慮した場合、接着剤を用いるのではなく溶接により接合されることが好ましい。レーザ溶接を利用する場合には、図10(a)、(b)に示される奥まった接合部位(L字状の断面の凹部)に対しても溶接を容易に行うことができる。そして、接合後にスリーブ22がスリーブ保持部122に挿入される。複数の要素部材を接合してスリーブ22を形成することにより、各要素部材に個別に流体動圧発生用の溝を容易に形成することが可能となり、スリーブ22の製造を容易に行うことができる。スリーブ22の分割方法は図10(a)および(b)に示す例には限定されず、例えば、円筒部221の中央にて分割されてもよいし、中心軸を含む平面にて分割されてもよい。
【0050】
なお、図5に示すモータ1に対応する従来の構造では、スリーブを円筒状とし、スリーブ保持部の上端面にスラスト軸受用の溝が形成されていたが、肉厚の薄いスリーブ保持部の上端面に溝を形成するには高度な技術が必要であった。図5に示すモータ1では、フランジ形状のスラスト部222に溝が形成されるため、容易にスラスト軸受機構を構成することが実現される。
【0051】
また、図10(a)または(b)に示すスリーブ22を図5に示すモータ1に利用する場合には、円筒部221の外周面に上下に伸びる溝を設け、スラスト部222の円筒部221側の面に内側から外側へと向かう溝を設けることにより、ラジアル軸受機構と外部との連通を容易に得ることができる。
【0052】
図11はモータ1の軸受機構2の他の例を示す縦断面図である。図11に示す軸受機構2は、図4に示す軸受機構2のスリーブ22のスラスト部222が省かれたものとなっている。他の構成は図4と同様であり、同符号を付している。
【0053】
すなわち、軸受機構2のシャフト部21は、シャフト212の自由端から中心軸11Jに垂直な方向に広がるスラストプレート211を有し、潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成されたスリーブ22は円筒状であり、スリーブ22の外径が、スラストプレート211の外径よりも小さくなっている。
【0054】
スラストプレート211の上面(スラスト面211a)に対向するスリーブ22の下面222bには流体動圧発生用の溝42が形成され、スリーブ保持部122はスリーブ22を外周側から保持し、スリーブ22およびカウンタプレート23とともにスラストプレート211の周囲を覆う。スリーブ22の内周面にもラジアル軸受用の流体動圧発生用の溝43が形成され、カウンタプレート23の上面にもスラスト軸受用の流体動圧発生用の溝41が形成される。
【0055】
また、スリーブ22の内周面とシャフト212の外周面との間の間隙、および、スリーブ22の下面、スリーブ保持部122およびカウンタプレート23とスラストプレート211との間の間隙に潤滑油が連続して存在するフルフィル構造となっている。
【0056】
図11に示す軸受機構2においても図1に示す従来の軸受機構9と比較して含油率を変えることなくスリーブ22が含有する潤滑油の量を少なくすることができる。その結果、潤滑油の温度が上昇したとしても潤滑油の漏れを容易に防止することが実現される。特に、軸受機構2のようにフルフィル構造の場合であっても潤滑油の漏れを適切に防止することができ、モータ1の製造コストを低減するとともに信頼性を高めることができる。
【0057】
なお、図11に示す軸受機構2は、図4に示す軸受機構2においてスリーブ22のスラスト面222aの外縁部に流体動圧発生用の溝を形成する必要がない場合に(すなわち、内側の部分のみに溝を形成すれば足りる場合)好ましい構造である。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態には限定されず、様々な変形が可能である。
【0059】
例えば、上記実施の形態ではいわゆるフルフィル構造の軸受機構2を例示したが、潤滑油が間隙の複数箇所に存在するいわゆるパーシャルフィル構造の軸受機構に対してもフランジ状のスリーブ22を利用することができる。軸受機構2やモータ1の基本構造も上記実施の形態にて例示したものには限定されない。
【0060】
スリーブ22は、フランジ(スラスト部222)を1つだけ有するものには限定されず、例えば、円筒部の上下両端に中心軸に対して垂直に外側に広がるフランジ形状のスラスト部が設けられてもよい。この場合、例えば、スリーブは、その外周に配置されるスリーブ保持部等と一体的に成形される。これにより、上下のスラスト面の溝を同時に形成することも可能となり、製造コストを低減することができる。
【0061】
また、スラスト部222は中心軸11Jに対して垂直に内側に広がる(または、外側および内側に広がる)ものであってもよい。この場合においても、スラスト部が円筒部の両端に設けられてもよい。すなわち、スラスト部222は中心軸11Jに対して垂直に広がるのであれば、任意に設けられてよい。スラスト部222を設けることにより、軸受機構の設計の自由度が増し、ラジアル軸受機構やスラスト軸受機構の配置の設計が容易となる。
【0062】
スリーブ22には流体動圧溝が円筒部221の内周面およびスラスト面222aの少なくともいずれかに存在すればよい。これにより、流体動圧を利用したラジアル軸受機構またはスラスト軸受機構を有するモータの潤滑油の含有量を削減するという目的が達成される。
【0063】
モータ1は、いわゆるインナーロータ型であってもアウターロータ型であってもよい。また、シャフト部21をスリーブ22に対して相対的に回転させるのであるならば、シャフト部21をロータ側に設けるかステータ側に設けるか、あるいは、界磁用磁石31をロータ側に設けるかステータ側に設けるかは任意に変更されてよい。
【0064】
モータ1を有するディスク駆動装置70は、磁気ディスクのみならず、光ディスク、光磁気ディスク、その他のディスク状の記録媒体を駆動する装置として利用することができる。
【0065】
【発明の効果】
本発明によれば、スリーブが含有する潤滑油の量を少なくすることができ、潤滑油の漏れを容易に防止することが実現される。また、スリーブの円筒部を弾性変形させて円筒部の内周部に溝を形成する場合には、深い溝を容易に形成することができる。
【0066】
また、請求項2および3の発明によれば、スリーブを容易に製造することができる。
【0067】
また、請求項10および11の発明によれば、モータやディスク駆動装置の信頼性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の軸受機構の一例を示す図である。
【図2】モータが取り付けられた一般的なディスク駆動装置の内部構成を示す図である。
【図3】モータの構成を示す縦断面図である。
【図4】軸受機構近傍を拡大して示す縦断面図である。
【図5】モータの他の例を示す縦断面図である。
【図6】軸受機構近傍を拡大して示す縦断面図である。
【図7】スリーブ部材に流体動圧発生用の溝を形成する工程を示す図である。
【図8】スリーブ部材に流体動圧発生用の溝を形成する工程を示す図である。
【図9】スリーブ部材に流体動圧発生用の溝を形成する工程を示す図である。
【図10】(a)および(b)はスリーブの他の例を示す縦断面図である。
【図11】軸受機構の他の例を示す縦断面図である。
【符号の説明】
1 モータ
2 軸受機構
11J 中心軸
21 シャフト部
22 スリーブ
31 界磁用磁石
32 電機子
42,43 溝
70 ディスク駆動装置
71 ハウジング
72 ディスク板
73 アクセス部
111 ロータ本体
111a,211a,222a スラスト面
111b 突出部
122 スリーブ保持部
211 スラストプレート
212 シャフト
221 円筒部
222 スラスト部
Claims (11)
- 軸受機構であって、
中心軸に対して垂直な第1スラスト面を有するシャフト部と、
潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成されたスリーブと、
を備え、
前記スリーブが、
前記シャフト部が挿入される円筒部と、
前記円筒部の一の端部から前記中心軸に垂直な方向に広がるとともに前記第1スラスト面と対向する第2スラスト面を有するスラスト部と、
を有し、
前記円筒部の内周面または前記第2スラスト面に流体動圧発生用の溝が形成されていることを特徴とする軸受機構。 - 請求項1に記載の軸受機構であって、
前記スリーブが、複数の要素部材により構成されることを特徴とする軸受機構。 - 請求項2に記載の軸受機構であって、
前記複数の要素部材が、前記円筒部である部材と前記スラスト部である部材とを含むことを特徴とする軸受機構。 - 請求項1ないし3のいずれかに記載の軸受機構であって、
前記シャフト部が、
シャフトと、
前記シャフトの一端から前記中心軸に垂直な方向に広がるプレートと、
を有し、
前記スリーブの前記スラスト部が、前記円筒部の前記一の端部から前記中心軸に対して外側に広がるフランジ形状とされ、
前記第1スラスト面が前記プレートの前記シャフト側の面であり、前記第2スラスト面が前記スラスト部の前記円筒部とは反対側の面であることを特徴とする軸受機構。 - 請求項4に記載の軸受機構であって、
前記スリーブを外周側から保持するスリーブ保持部と、
前記プレートの前記シャフトとは反対側の面に対向する対向部材と、
をさらに備え、
前記スリーブ、前記スリーブ保持部および前記対向部材により前記プレートの周囲が覆われ、
前記円筒部の内周面と前記シャフトの外周面との間の間隙、並びに、前記第2スラスト面、前記スリーブ保持部および前記対向部材と前記プレートとの間の間隙に潤滑油が連続して存在することを特徴とする軸受機構。 - 請求項4または5に記載の軸受機構であって、
前記円筒部の外径が、前記プレートの外径よりも小さいことを特徴とする軸受機構。 - 請求項1ないし3のいずれかに記載の軸受機構であって、
前記シャフト部が、
シャフトと、
前記シャフトの一端に接続されるシャフト固定部材と、
を有し、
前記スリーブの前記スラスト部が、前記円筒部の前記一の端部から前記中心軸に対して外側に広がるフランジ形状とされ、
前記第1スラスト面が前記シャフト固定部材の前記シャフト側に形成された面であり、前記第2スラスト面が前記スラスト部の前記円筒部とは反対側の面であることを特徴とする軸受機構。 - 請求項7に記載の軸受機構であって、
前記スリーブを外周側から保持し、前記円筒部の前記フランジ部とは反対側の端部を閉塞するスリーブ保持部をさらに備え、
前記シャフト固定部材が、前記中心軸を中心として前記スラスト部の外周に沿って前記シャフトの自由端側へと突出する円筒状の突出部を有し、
前記スラスト部の外周面と前記突出部の内周面との間の間隙、前記第1スラスト面と前記第2スラスト面との間の間隙、前記円筒部の内周面と前記シャフトの外周面との間の間隙、および、前記シャフトの前記自由端側の端面と前記スリーブ保持部との間の間隙に潤滑油が連続して存在することを特徴とする軸受機構。 - 軸受機構であって、
シャフトと、前記シャフトの一端から中心軸に垂直な方向に広がるプレートとを有するシャフト部と、
潤滑油が含浸された多孔質材料にて形成され、前記シャフトが挿入されて一の端面が前記プレートと対向する円筒状のスリーブと、
前記スリーブを外周側から保持するスリーブ保持部と、
前記プレートの前記シャフトとは反対側の面に対向する対向部材と、
を備え、
前記スリーブ、前記スリーブ保持部および前記対向部材により前記プレートの周囲が覆われ、
前記スリーブの内周面または前記一の端面に流体動圧発生用の溝が形成されており、前記スリーブの外径が、前記プレートの外径よりも小さく、
前記スリーブの内周面と前記シャフトの外周面との間の間隙、並びに、前記スリーブの前記一の端面、前記スリーブ保持部および前記対向部材と前記プレートとの間の間隙に潤滑油が連続して存在することを特徴とする軸受機構。 - モータであって、
請求項1ないし9のいずれかに記載の軸受機構と、
前記シャフト部を前記中心軸を中心に前記スリーブに対して相対的に回転させる駆動機構と、
を備えることを特徴とするモータ。 - ディスク駆動装置であって、
情報を記録するディスク状の記録媒体を収容する筐体と、
前記筐体内部に固定されて、前記記録媒体を回転させる請求項10に記載のモータと、
前記記録媒体に対する情報の書き込みまたは読み出しを行うアクセス手段と、を備えることを特徴とするディスク駆動装置。
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-
2003
- 2003-02-07 JP JP2003030637A patent/JP2004239387A/ja active Pending
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