JP2004225061A - 耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材および該クラッドチューブ材を組付けた熱交換器 - Google Patents
耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材および該クラッドチューブ材を組付けた熱交換器 Download PDFInfo
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Abstract
【解決手段】芯材用アルミニウム合金に犠牲陽極材用アルミニウム合金をクラッドしてなる厚さ300μm以下のクラッドチューブ材であり、内面側が芯材、外面側が犠牲陽極材となるよう成形されていることを特徴とする。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材、とくに自動車用エバポレータ、コンデンサのように、外面の耐食性が問題となる熱交換器部材として好適に使用される耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材および該クラッドチューブ材を組付けた熱交換器に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車用のラジエータ、ヒータコアのように、冷却水が内面側を循環している熱交換器のチューブ材として、Al−Mn系合金などを芯材とし、芯材にAl−Zn系合金などの犠牲陽極材をクラッドし、芯材を外面側、犠牲陽極材を内面側となるよう成形したアルミニウム合金クラッド材、あるいはこのクラッド材の外面の芯材にさらにAl−Si系合金ろう材をクラッドしたアルミニウム合金クラッド材が使用されている(特許文献1参照)。
【0003】
上記従来のアルミニウム合金クラッド材において、チューブ内面側の犠牲陽極材は冷却水に起因する腐食を防止するためのものであり、外面側のAl−Si系合金ろう材は、チューブ外面にアウターフィンをろう付け接合するためのものである。アウターフィンは犠牲陽極効果を発揮して芯材を防食する。
【0004】
また、アルミニウム合金芯材の両面にAl−Si系合金ろう材を有し、芯材とろう材との間に犠牲陽極材をクラッドしてなる4層クラッド材も提案されている(特許文献2参照)。この4層クラッド材は、例えばドロンカップ型エバポレータの部材として使用される。
【0005】
ドロンカップ型エバポレータは、プレス成形した4層クラッド材よりなるコアプレートとコルゲート成形したフィンとを積層し、コアプレートのろう材を介してコアプレートとフィンとを接合し、コアプレートの間に冷媒通路を形成してなるものである。
【0006】
エバポレータの使用環境は、凝縮水など伝導度の低い水溶液に曝されるため、フィンによる防食効果が発揮され難く、従ってクラッド材自身の耐食性が重要となり、高寿命価を図るために芯材とろう材との間に犠牲陽極材を介在させている。
【0007】
しかしながら、ろう材が存在することにより犠牲陽極材の消耗速度が早まり、腐食が促進されるという問題がある。この問題を解消するために、最近、両面にAl−Si系合金ろう材を有するクラッド材を用いることなく、チューブ材の内外面にブレージングフィンを装着してろう付け接合する構造の新規なエバポレータが提案されている。
【0008】
【特許文献1】
特開平11−293372号公報(請求項1、請求項2)
【特許文献2】
特開2002−12935号公報(請求項6、図2)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、両面にAl−Si系合金ろう材を有するクラッド材を用いることのない上記の新規な構造のエバポレータや、コンデンサなど、内面にフィンがろう付け接合されて冷媒通路となり、外面側にもフィンがろう付けされ、大気からの結露水や融雪剤などに曝される場合に好適に使用できる熱交換器用部材として、強度、ろう付け性および耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材および当該クラッドチューブ材を組付けた熱交換器を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するための本発明の請求項1による耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材は、芯材用アルミニウム合金に犠牲陽極材用アルミニウム合金をクラッドしてなる厚さ300μm以下のクラッドチューブ材であり、内面側が芯材、外面側が犠牲陽極材となるよう成形されていることを特徴とする。
【0011】
請求項2によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項1において、犠牲陽極材用アルミニウム合金が、Zn2〜6%、In0.01〜0.1%、Sn0.01〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Fe含有量を0.5%以下、Mg含有量を0.5%以下に制限したことを特徴とする。
【0012】
請求項3によるアルミニウム合金クラッドチューブは、請求項2において、犠牲陽極材用アルミニウム合金が、さらにMn0.1〜0.8%を含有し、Si含有量を0.2%未満に制限したことを特徴とする。
【0013】
請求項4によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項2において、犠牲陽極材用アルミニウム合金が、さらにSi0.2〜1.0%を含有し、Mn含有量を0.1%未満に制限したことを特徴とする。
【0014】
請求項5によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項1において、犠牲陽極材用アルミニウム合金が、Zn3〜6%、In0.02〜0.06%、Sn0.03〜0.08%のうちの1種以上を含有し、さらにMn0.1〜0.8%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Fe含有量を0.5%以下、Mg含有量を0.5%以下、Si含有量を0.2%未満に制限したことを特徴とする。
【0015】
請求項6によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項1において、犠牲陽極材用アルミニウム合金が、Zn3〜6%、In0.02〜0.06%、Sn0.03〜0.08%のうちの1種以上を含有し、さらにSi0.2〜1.0%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Fe含有量を0.5%以下、Mg含有量を0.5%以下、Mn含有量を0.1%未満に制限したことを特徴とする。
【0016】
請求項7によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項2〜6のいずれかにおいて、犠牲陽極材用アルミニウム合金が、さらにCr0.05〜0.25%、Zr0.05〜0.25%の1種または2種を含有することを特徴とする。
【0017】
請求項8によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項1〜7のいずれかにおいて、芯材用アルミニウム合金が、Si0.2〜1%、Cu0.1〜0.8%、Mn0.6〜2%、Ti0.1〜0.3%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Mg含有量を0.5%以下に制限したことを特徴とする。
【0018】
請求項9によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項1〜8のいずれかにおいて、犠牲陽極材が厚さ15μm以上、クラッド率40%以下でクラッドされていることを特徴とする。
【0019】
請求項10によるアルミニウム合金クラッドクラッドチューブ材は、請求項1〜9のいずれかにおいて、芯材が厚さ30μm以上でクラッドされていることを特徴とする。
【0020】
請求項11によるアルミニウム合金クラッドチューブ材は、請求項1〜10のいずれかにおいて、アルミニウム合金クラッドチューブ材がH調質材であることを特徴とする。
【0021】
また、本発明による熱交換器は、請求項1〜11のいずれかに記載のクラッドチューブ材の内部にブレージングからなるインナーフィンを装着、ろう付け加熱時にろう材を生成させるペーストを塗布したベアフィンをインナーフィンとして装着、またはクラッドチューブ材の内面に前記ペーストを塗布しベアフィンをインナーフィンとして装着、ろう付け接合してなり、ろう付け後、芯材と犠牲陽極材の界面から犠牲陽極材側に15μmの部位におけるCu濃度が、ろう付け加熱前の段階での芯材の平均Cu濃度の1/2以下であることを特徴とする。
【0022】
【発明の実施の形態】
本発明のアルミニウム合金クラッドチューブ材の構成の意義およびその限定理由について説明する。
(犠牲陽極材の組成)
Znは、クラッドチューブ材に犠牲陽極効果を与えるよう機能する。Znの好ましい含有量は2〜6%の範囲であり、2%未満ではその効果が十分でなく、6%を越えると自己腐食による消耗が激しくなる。Znのさらに好ましい含有範囲は2〜5%である。
【0023】
Inは、クラッドチューブ材に犠牲陽極効果を与えるよう機能する。Inの好ましい含有量は0.01〜0.1%の範囲であり、0.01%未満ではその効果が十分でなく、0.1%を越えると自己腐食による消耗が激しくなる。Inのさらに好ましい含有範囲は0.02〜0.06%である。
【0024】
Snは、クラッドチューブ材に犠牲陽極効果を与えるよう機能する。Snの好ましい含有量は0.01〜0.1%の範囲であり、0.01%未満ではその効果が十分でなく、0.1%を越えると自己腐食による消耗が激しくなる。Snのさらに好ましい含有範囲は0.03〜0.08%である。
【0025】
Feは、0.5%以下に制限するのが好ましく、0.5%を越えると自己腐食速度が大きくなる。0.1%以下に制限するのがさらに好ましいが、例えば0.01%未満まで低減するには高純度地金を使用しなければならずコスト高となるから、コスト的には0.01%以上とすることが望ましい。
【0026】
Mgは、フッ化物系フラックスを使用するろう付けにおいて、フッ化物と反応してろう付け性を害するので、0.5%以下に制限することが好ましい。
【0027】
Mnは、強度を高めるよう機能する。Mnの好ましい含有量は0.1〜0.8%の範囲であり、0.1%未満ではその効果が小さく、幅方向のクラッド率が不均一となる。0.8%を越えると自己腐食が激しくなる。Mnを0.1〜0.8%の範囲で含有する場合は、Si量を0.2%未満に限定することが好ましく、0.2%以上含有すると、Mnと化合物を形成し自己腐食量が多くなる。さらに好ましくはSiを0.1%以下に限定するが、Si量を例えば0.01%未満にまで低減するには高純度地金を使用しなければならずコスト高となるから、コスト的には0.01%以上とすることが望ましい。
【0028】
また、Mnを0.1〜0.8%含有させた場合におけるZn、InおよびSnは、それらのうちの1種以上をそれぞれ3〜6%、0.02〜0.06%および0.03〜0.08%の範囲で含有させるのが好ましい。
【0029】
Siは、強度を高めるよう機能する。Siの好ましい含有量は0.2〜1.0%の範囲であり、0.2%未満では幅方向のクラッド率が不均一となる。1.0%を越えると自己腐食が激しくなる。Siを0.2〜1.0%の範囲で含有する場合は、Mn量を0.1%未満に限定することが好ましく、0.1%以上含有すると、Siと化合物を形成し自己腐食量が多くなる。好ましくは0.05%以下に限定する。
【0030】
また、Siを0.2〜1.0%含有させた場合におけるZn、InおよびSnは、それらのうちの1種以上をそれぞれ3〜6%、0.02〜0.06%および0.03〜0.08%の範囲で含有させるのが好ましい。
【0031】
Crは、ろう付け加熱時に結晶粒を粗大化してろう付け性を改善する。Crの好ましい含有量は0.05〜0.25%の範囲であり、0.05%未満ではその効果が小さく、0.25%を越えると巨大晶出物が生成し、巨大晶出物周辺部でのクラッド率を不安定にする。
【0032】
Zrは、ろう付け加熱時に結晶粒を粗大化してろう付け性を改善する。Zrの好ましい含有量は0.05〜0.25%の範囲であり、0.05%未満ではその効果が小さく、0.25%を越えると巨大晶出物が生成し、巨大晶出物周辺部でのクラッド率を不安定にする。
【0033】
(芯材の組成)
Siは、強度を向上させるよう機能する。Siの好ましい含有量は0.2〜1%の範囲であり、0.2%未満ではその効果が十分でなく、1%を越えて含有すると融点が低下し、ろう付け接合部に溶融が生じ易くなる。Siのさらに好ましい含有範囲は0.5〜0.9%である。
【0034】
Cuは、芯材の電位を貴にするよう作用する。Cuの好ましい含有量は0.1〜0.8%の範囲であり、0.1%未満ではその効果が十分でなく、0.8%を越えると融点が低下し、ろう付け接合部に溶融が生じ易くなる。Cuのさらに好ましい含有範囲は0.2%を越え0.8%以下である。
【0035】
Mnは、強度を高めるよう機能する。Mnの好ましい含有量は0.6〜2%の範囲であり、0.6%未満ではその効果が小さく、2%を越えると強度が大きくなり圧延が困難となる。Mnのさらに好ましい含有範囲は1.5%を越え2%以下である。
【0036】
Mgは0.5%以下に制限することが必要であり、0.5%を越えて含有すると、フッ化物系フラックスを使用するろう付けにおいて、Mgがフラックスと反応し、ろう付け性を害する。
【0037】
Tiは、層状に分布して腐食形態を層状の全面腐食型とし、耐食性を向上させる。Tiの好ましい含有量は0.1〜0.3%の範囲であり、0.1%未満ではその効果が小さく、0.3%を越えると巨大化合物が生成し、巨大化合物周辺部におけるクラッド率を不均一にする。
【0038】
(クラッドチューブ材の厚さ)
本発明のアルミニウム合金管材は、芯材用アルミニウム合金に犠牲陽極材用アルミニウム合金をクラッドしてなる厚さ300μm以下のクラッドチューブ材であり、熱交換器の軽量化を達成し得る薄肉化されたクラッドチューブ材を得るものである。好ましい厚さは45〜300μmであり、45μm未満では十分な耐食性が得難くなる。
【0039】
(犠牲陽極材の厚さ)
本発明のクラッドチューブ材における犠牲陽極材のクラッド厚は15μm以上で、クラッド率は40%以下が好ましい。クラッド厚が15μm未満では犠牲陽極効果が小さく十分な耐食性が得難く、クラッド率が40%を越えるとクラッドが困難となる。
【0040】
(芯材の厚さ)
本発明のクラッドチューブ材における芯材の厚さは30μm以上とすることが好ましい。30μm未満では、芯材と犠牲陽極材との電位差を確保することが困難となって犠牲陽極効果は発揮できず貫通腐食が生じ易くなる。
【0041】
(調質)
本発明のクラッドチューブ材はH調質材、とくに冷間加工材、クラッドチューブ材に成形する前のクラッド材はH14材などの冷間圧延材であることが望ましい。例えば、O材では、ろう付け時に、ろうが芯材中に浸透してろう付け性を低下させ、また、ろう付け時に犠牲陽極材にエロージョンが生じ易くなる。
【0042】
本発明による熱交換器は、クラッドチューブ材の内部にブレージングからなるインナーフィンを装着、ろう付け加熱時にろう材を生成させるペーストを塗布したベアフィンをインナーフィンとして装着、またはクラッドチューブ材の内面に前記ペーストを塗布しベアフィンをインナーフィンとして装着、ろう付け接合してなるもので、ろう付け後、芯材と犠牲陽極材の界面から犠牲陽極材側に15μmの部位におけるCu濃度が、ろう付け加熱前の段階での芯材の平均Cu濃度の1/2以下とすることにより、犠牲陽極材と芯材との電位差が十分に確保され、犠牲陽極効果が顕著に発揮される。
【0043】
本発明のアルミニウム合金クラッドチューブ材は、芯材と犠牲陽極材を構成するアルミニウム合金を、例えば半連続鋳造により造塊し、必要に応じて均質化理した後、それぞれ所定の厚さまで熱間圧延し、ついで、各材料を組合わせ、常法に従って熱間圧延し、必要に応じて中間焼鈍を行いながら、所定厚さまで冷間圧延することによってクラッド材とし、これを曲成することにより製造される。
【0044】
本発明のアルミニウム合金クラッドチューブ材を、自動車用エバポレータ、コンデンサなどに適用する場合には、例えば、クラッド材を曲成してチューブ形状としたクラッドチューブ材の内部にブレージングシートからなるインナーフィンが装着、ろう付け加熱時にろう材を生成させるペーストを塗布したベアフィンをインナーフィンとして装着、またはクラッドチューブ材の内面に前記ペーストを塗布しベアフィンをインナーフィンとして装着、ろう付け接合し、外面側にもアウターフィンがろう付けされる。内部は冷媒通路となり、外面は大気からの結露水や融雪剤などに曝されるが、犠牲陽極材の存在により芯材を保護する。
【0045】
【実施例】
以下、本発明の実施例を比較例と対比して説明する。なお、これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
実施例1
表1に示す組成を有する犠牲陽極材用アルミニウム合金および表2に示す組成を有する芯材用アルミニウム合金を半連続鋳造により造塊し、犠牲陽極用アルミニウム合金の鋳塊については200〜600℃で1〜20時間、芯材用アルミニウム合金の鋳塊については400〜600℃で5〜20時間均質化処理した後、面削した。ついで、表3に示す組み合わせで、犠牲陽極材/芯材となるように重ね合わせ、300〜550℃で熱間圧延を行い、さらに、必要に応じて200〜500℃での中間焼鈍を介して冷間圧延を行いクラッド材(クラッドチューブ材)とした。得られたクラッド材における犠牲陽極材の厚さとクラッド率、芯材の厚さとクラッド率およびクラッド材全体厚さを表3に示す。
【0047】
上記クラッド材を試験材として、下記の方法で耐食性、ろう付け性、クラッド性および強度を評価した。結果を表4に示す。
耐食性:犠牲陽極材側に、Cl− 500ppm、SO4 2− 2000ppmを含む50℃の腐食液(pH3)を6時間噴霧し、50℃の温度で6時間乾燥するサイクルを行い、貫通腐食が生じるまでに2000時間以上を要するものは合格(○)、2000時間未満で貫通腐食が生じるものは不合格(×)とする。また、下記のろう付け性評価時に、芯材と犠牲陽極材の界面近傍のCu濃度(ろう付け加熱時、界面から犠牲陽極材側へ芯材中のCuが拡散する)を測定した。
【0048】
ろう付け性:Al−Mn系合金芯材、Al−10%Si合金ろう材からなるブレージングシートをコルゲート加工してフィン材とし、これを試験材の犠牲陽極材面にアウターフィンとして組合わせ、また試験材の芯材面にインナーフィンとして組合わせ、フッ化物系フラックスを塗布して600℃の温度でろう付け接合し、接合率が98%以上のものを合格(○)、98%未満のものを不合格(×)とする。
【0049】
クラッド性:冷間圧延コイルとして得られるクラッド材の幅方向において、クラッド率が設定値の±5%を外れる部分がコイル両端から8cmを越え15mm以下の場合は○、8cm以下の場合は◎とする。
強度:クラッド材と同じ工程で作製した芯材から引張試験片を採取して引張試験を行い、引張強さが120MPa以上のものを合格(○)、120MPa未満のものを不合格(×)とする。実際の使用環境においては、犠牲陽極材は腐食により消耗して、芯材のみが残存し芯材のみで熱交換器の強度を維持する場合が多い。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
表4にみられるように、本発明に従う試験材No.1〜20はいずれも、耐食性、ろう付け性。クラッド性に優れ、130MPa以上の優れた強度を有している。また、圧延加工性も良好であった。
【0055】
比較例1
表5に示す組成を有する犠牲陽極材用アルミニウム合金および表6に示す組成を有する芯材用アルミニウム合金を半連続鋳造により造塊し、犠牲陽極用アルミニウム合金の鋳塊については200〜600℃で1〜20時間、芯材用アルミニウム合金の鋳塊については400〜600℃で5〜20時間均質化処理した後、面削した。ついで、表3に示す組み合わせで、犠牲陽極材/芯材となるように重ね合わせ、300〜550℃で熱間圧延を行い、さらに、必要に応じて200〜500℃での中間焼鈍を介して冷間圧延を行いクラッド材(クラッドチューブ材)とした。得られたクラッド材における犠牲陽極材の厚さとクラッド率、芯材の厚さとクラッド率およびクラッド材全体厚さを表7〜8に示す。なお、表5〜8において、本発明の条件を外れたものには下線を付した。
【0056】
上記クラッド材を試験材として、実施例1と同じ方法で耐食性、ろう付け性、クラッド性および強度を評価した。結果を表9〜10に示す。なお、試験材No.25以外はH14材に調質され、試験材No.25はO材(焼鈍材)に調質された。
【0057】
【表5】
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
【表9】
【0062】
【表10】
【0063】
表9〜10に示すように、試験材No.21は犠牲陽極材のSiが多く単体Siが晶出するため、犠牲陽極材の消耗速度が早くなり耐食性が劣る。また、犠牲陽極材とアウターフィンのろう付け接合部において犠牲陽極材に溶融が生じ、ろう付け性が害される。試験材No.22は、犠牲陽極材のMnとSiの含有量の組合わせが適切でないため、Al−Mn−Si系の化合物が生成して犠牲陽極材の消耗速度が大きくなり、耐食性が劣る。試験材No.23は犠牲陽極材のFe量が多いため、Al−Fe系化合物が生成して犠牲陽極材の消耗速度が大きくなり、耐食性が劣る。また、犠牲陽極材の結晶粒径が微細となるため、ろう付け時にろうが犠牲陽極材の結晶粒界に浸透し、ろう付け性を害する。
【0064】
試験材No.24は犠牲陽極材のMn量が多いため、Al−Mn系化合物が生成して犠牲陽極材の消耗速度が大きくなり、耐食性が劣る。また、Cr、Zrの添加が少ないため、その効果も認められない。試験材No.25は、犠牲陽極材のMnとSiの含有量の組合わせが適切でないため、Al−Mn−Si系の化合物が生成して犠牲陽極材の消耗速度が大きくなり、耐食性が劣る。また、O材に調質されているため、ろう付け時、芯材中にろうが浸透してろう付け不良が生じた。試験材No.26は犠牲陽極材のMg量が多いため、Mgがフッ化物系フラックスと反応して、ろう付け性が害される。
【0065】
試験材No.27は犠牲陽極材のCr量が多いため、Al−Cr系の巨大晶出物が生成し、この晶出物周辺部においてクラッド率が不均一となった。試験材No.28は犠牲陽極材のZr量が多いため、Al−Zr系の巨大晶出物が生成し、この晶出物周辺部においてクラッド率が不均一となった。試験材No.29は犠牲陽極材のZn量が多いため、犠牲陽極材の消耗が顕著となり耐食性が劣る。
【0066】
試験材No.30は犠牲陽極材のZn、In、Sn量が少なく犠牲陽極材の犠牲陽極効果が十分に発揮されないため耐食性が劣り、早期に貫通腐食が生じた。試験材No.31は犠牲陽極材のIn量が多いため、犠牲陽極材の消耗速度が大きく耐食性が劣る。試験材No.32はSn量が多いため、犠牲陽極材の消耗速度が大きく耐食性が劣る。
【0067】
試験材No.33は芯材のSi量が多いため、ろう付け時、ろう付け接合部に溶融が生じ、ろう付け性が害される。試験材No.34は芯材のSi量が少ないため強度が不十分となった。試験材No.35は芯材のCu量が多いため、ろう付け時、ろう付け接合部に溶融が生じ、ろう付け性が害される。試験材No.36は芯材のCu量が少なく芯材と犠牲陽極材との電位差が十分に確保できないため、犠牲陽極材の犠牲陽極効果が不十分となり耐食性が劣る。
【0068】
試験材No.37は芯材のMn量が多いため、芯材が硬くなり熱間圧延が困難となってクラッド材の製造ができなかった。試験材No.38は芯材のMn量が少ないため強度が不十分となった。試験材No.39は芯材のMg量が多いため、Mgがフッ化物系フラックスと反応して、ろう付け性が害される。
【0069】
試験材No.40は芯材のTi量が多いため、Al−Ti系の巨大晶出物が生成し、この晶出物周辺部においてクラッド率が不均一となった。試験材No.41は芯材のTi量が少ないため、芯材が層状腐食形態を示さず、早期に貫通腐食が生じた。試験材No.42は犠牲陽極材のクラッド率が高いため、熱間圧延時に犠牲陽極材と芯材とが接合せずクラッド材が製造できなかった。
【0070】
試験材No.43は犠牲陽極材の厚さが小さいため、犠牲陽極材の犠牲陽極効果が十分に発揮されず耐食性に劣る。試験材No.44はクラッド材の全体厚さが小さく、犠牲陽極材の厚さも小さいため、犠牲陽極材の犠牲陽極効果が十分に発揮されず耐食性に劣る。試験材No.45はろう付け加熱時の保持時間を長くしたもので、芯材と犠牲陽極材との界面のCu濃度が高くなり、Cuの犠牲陽極材への拡散が生じるため、犠牲陽極材の犠牲陽極効果が不十分となり早期に貫通腐食が生じた。
【0071】
【発明の効果】
本発明によれば、内面にブレージングシートからなるフィンがろう付け接合されて冷媒通路となり、外面側にもフィンがろう付けされ、大気からの結露水や融雪剤などに曝される場合に好適に使用できる熱交換器用部材、とくに自動車用熱交換器部材として、強度、ろう付け性および耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材、および当該クラッドチューブ材を組付けたコンデンサ、エバポレータのような熱交換器が提供される。
Claims (12)
- 芯材用アルミニウム合金に犠牲陽極材用アルミニウム合金をクラッドしてなる厚さ300μm以下のクラッドチューブ材であり、内面側が芯材、外面側が犠牲陽極材となるよう成形されていることを特徴とする耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金が、Zn2〜6%(質量%、以下同じ)、In0.01〜0.1%、Sn0.01〜0.1%のうちの1種以上を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Fe含有量を0.5%以下、Mg含有量を0.5%以下に制限したことを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金が、さらにMn0.1〜0.8%を含有し、Si含有量を0.2%未満に制限したことを特徴とする請求項2記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金が、さらにSi0.2〜1.0%を含有し、Mn含有量を0.1%未満に制限したことを特徴とする請求項2記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金が、Zn3〜6%、In0.02〜0.06%、Sn0.03〜0.08%のうちの1種以上を含有し、さらにMn0.1〜0.8%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Fe含有量を0.5%以下、Mg含有量を0.5%以下、Si含有量を0.2%未満に制限したことを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金が、Zn3〜6%、In0.02〜0.06%、Sn0.03〜0.08%のうちの1種以上を含有し、さらにSi0.2〜1.0%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Fe含有量を0.5%以下、Mg含有量を0.5%以下、Mn含有量を0.1%未満に制限したことを特徴とする請求項1記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記犠牲陽極材用アルミニウム合金が、さらにCr0.05〜0.25%、Zr0.05〜0.25%の1種または2種を含有することを特徴とする請求項2〜6のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 前記芯材用アルミニウム合金が、Si0.2〜1%、Cu0.1〜0.8%、Mn0.6〜2%、Ti0.1〜0.3%を含有し、残部Alおよび不純物からなり、Mg含有量を0.5%以下に制限したことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 犠牲陽極材が厚さ15μm以上、クラッド率40%以下でクラッドされていることを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 芯材が厚さ30μm以上でクラッドされていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- H調質材であることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の耐食性に優れたアルミニウム合金クラッドチューブ材。
- 請求項1〜11のいずれかに記載のクラッドチューブ材の内部にブレージングからなるインナーフィンを装着、ろう付け加熱時にろう材を生成させるペーストを塗布したベアフィンをインナーフィンとして装着、またはクラッドチューブ材の内面に前記ペーストを塗布しベアフィンをインナーフィンとして装着、ろう付け接合してなり、ろう付け後、芯材と犠牲陽極材の界面から犠牲陽極材側に15μmの部位におけるCu濃度が、ろう付け加熱前の段階での芯材の平均Cu濃度の1/2以下であることを特徴とする熱交換器。
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