JP2004217782A - 水性樹脂組成物 - Google Patents
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Abstract
【課題】耐ブロッキング性、防食性、金属付着性、油面密着性等に優れた塗膜を形成することができる水性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物で、異相構造粒子を構成する各相がエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体で形成されており、その少なくとも1相がラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体とを、重合開始剤の存在下で乳化重合させて得られる乳化共重合体で形成されており、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が−50〜15℃、異相構造粒子の内部相の少なくとも一相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が30〜150℃、両者のガラス転移温度の差が30〜135℃である、水性樹脂組成物。
【選択図】なし
【解決手段】多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物で、異相構造粒子を構成する各相がエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体で形成されており、その少なくとも1相がラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体とを、重合開始剤の存在下で乳化重合させて得られる乳化共重合体で形成されており、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が−50〜15℃、異相構造粒子の内部相の少なくとも一相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が30〜150℃、両者のガラス転移温度の差が30〜135℃である、水性樹脂組成物。
【選択図】なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は水性樹脂組成物に関し、より詳しくは、揮発性有機化合物(以下、VOCという。)を殆ど含有せず、低い最低造膜温度(以下、MFTという。)を有する水性樹脂組成物であって、耐ブロッキング性に非常に優れ、防食性、金属付着性、油面密着性、耐水二次密着性、低温成膜性等の諸物性にも優れた塗膜を形成することが可能であり、更に、高沸点の有機溶剤を殆ど含有しないので、速乾性、作業性に優れていて屋内外の塗装に用いることができ、特に金属素材を塗装するのに適している水性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属製の内外装用材料や、金属製家具、型鋼等の各種分野に適用されている金属素材には、防食性や美装を付与させるために有機溶剤型塗料が多く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、近年、生物及び環境への配慮からVOCや有毒物質の低減の必要性、及び省資源の観点から、塗料業界では溶媒として有機溶剤を使用した溶剤型塗料から水を使用した水性塗料への転換が急速になされつつある。その代表的な水性塗料として水性エマルション塗料を挙げることができる。しかしながら、水性エマルション塗料には固有のMFTがあり、それで、被塗装面の温度がMFTよりも低い場合には、造膜助剤としてVOCを添加しなければ、連続した塗膜を得ることはできない。それで、水性エマルション塗料と雖も相当量の揮発性有機溶剤を配合する必要があり、塗料業界では水性エマルション塗料中に必要とされるVOCの配合量を更に減量、削減するために鋭意検討が行われている。
【0004】
また、金属素材の成形工程において、通常、成形油が使用されており、その脱脂が不十分であると、その表面上に水性塗料を塗装しても密着不良やハジキが生じるという問題があった。そこで油面密着を改良した水性塗料が提案されているが、それらの塗料は有機溶剤を含む上に、十分な防食性が得られていなかった(例えば、特許文献1〜2参照。)。
また、多段乳化重合法によって得られる種々の異相構造粒子含有エマルションを含有する種々の塗料組成物が提案されているが、必ずしも金属付着性、油面密着性に優れているとは言えない(例えば、特許文献3〜6参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−41701号公報
【特許文献2】
特開平7−41702号公報
【特許文献3】
特開2001−164178号公報
【特許文献4】
特開2002−003778号公報
【特許文献5】
特開2002−206067号公報
【特許文献6】
特開2002−256202号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、環境汚染や臭気、シックハウス症候群の原因となるVOCを全く含まず、或いは極小量の含有だけで、耐ブロッキング性、防食性をはじめとする諸物性に優れ、更に金属付着性や、油面密着性に優れた塗膜を形成することができる水性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定の単量体を用いて多段乳化重合させることにより得られる特定の異相構造粒子含有エマルションを用いることにより、上記の目的が確実に達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の水性樹脂組成物は、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)を含む水性樹脂組成物であって、
(1)該異相構造粒子を構成する各相がエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体で形成されており、その少なくとも1相がラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体(d)とを、重合開始剤(e)の存在下で乳化重合させて得られる乳化共重合体で形成されており、
(2)該異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が−50〜15℃であり、
(3)該異相構造粒子の最外相よりも内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が30〜150℃であり、
(4)該異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度と、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度との差が30〜135℃である、
ことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)は、水中で、エチレン性不飽和単量体を多段乳化共重合させて各相を形成し、その少なくとも1相、好ましくは少なくとも最外相をラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体(d)とを、重合開始剤(e)の存在下で乳化共重合させることにより得られる。
【0010】
異相構造粒子含有エマルションの製造に採用される多段乳化重合法は、エチレン性不飽和単量体を含有する水性乳濁液を形成し、従来から公知の乳化重合法を2段階以上、通常は2〜5段階繰り返し実施して、形成されるエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体が異相構造、即ち、特性の異なる最外相と1相以上の内部相からなる粒子を形成させる多段乳化重合法である。
【0011】
多段乳化重合法の代表例として、エチレン性不飽和単量体を含有する水性乳濁液中に乳化剤及び重合開始剤、更に必要に応じて連鎖移動剤や、乳化安定剤等を存在させ、通常60〜90℃の加温下で乳化重合し、この工程を複数回繰り返して実施する多段乳化重合法を挙げることができる。
【0012】
上記の乳化剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、燐酸系界面活性剤、スルホン酸基、硫酸エステル基又は燐酸エステル基と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合とを分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又はこれらの化合物の骨格と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合とを分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、(変性)ポリビニルアルコール等を挙げることができる。燐酸系界面活性剤又はポリカルボン酸型高分子界面活性剤を使用することが特に好適である。
【0013】
上記の重合開始剤(e)として、従来からラジカル重合に一般的に使用されている化合物を使用することができる。しかし、金属素材の塗装を想定すると、好ましい重合開始剤(e)として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ハイドロクロライド、4,4’−アゾビス−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジハイドロクロライドテトラハイドレート等のアゾ系化合物、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、過酸化水素水を挙げることができる。更に、L−アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤と、硫酸第一鉄等を組み合わせたレドックス系も使用できる。しかし、4,4’−アゾビス−シアノ吉草酸、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び過酸化水素水が特に好適である。一方、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩を使用すると防食性、耐塩水噴霧性が悪化するので、金属素材の塗装用途の場合には好ましくない。
【0014】
上記の連鎖移動剤として、例えば、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンや、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2−メチル−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。これらを適宜使用することによって、塗膜の光沢や、成膜性、不粘着性を制御することができる。
【0015】
上記の乳化安定剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
また、上記の多段乳化重合法として、単量体を一括で仕込む単量体一括仕込み法、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体を水及び乳化剤と予め混合して乳化させておき、この乳濁液を滴下するプレエマルション法、或いは、これらを組み合わせる方法等を挙げることができる。
【0016】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)の代表例として、一般式
CH2 =CRCOO(Cn H2nCOO)m −H
及び一般式
CH2 =CRCOORO−[CO(CH2 )5 O]n COR−COOH
(式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、nは2〜10の整数であり、mは1〜5の整数である)
で表される単量体を挙げることができる。このような単量体の市販品としては、商品名「sipomer β−CEA」(ローディア日華株式会社)、「アロニクスM−5300」、「アロニクスM−5600」(以上、東亞合成株式会社)、「プラクセルFM1A」、「プラクセルFM4A」(以上、ダイセル化学工業株式会社)等がある。
【0017】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の代表例として、一般式
CH2 =CRXOCOCH2 COCH2 Y
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは単結合、メチレン基、COOR2 又はCONHR2 であって、R2 は炭素数1〜6の直鎖若しくは分枝アルキレン基であり、Yは水素又はCNである)
で表される単量体を挙げることができる。
【0018】
この様な単量体の具体例として、アセト酢酸ビニル、アセト酢酸アリル等のアセト酢酸アルケニルエステル類;2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステル;2−アセトアセトキシエチルクロトネート、2−アセトアセトキシプロピルクロトネート等のアルキレングリコールのクロトン酸アセト酢酸ジエステル;N−アセトアセトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキロール(メタ)アクリルアミドのアセト酢酸エステル;等を挙げることができる。
これらの中でも、2−アセトアセトキシエチルアクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシプロピルアクリレートが好ましく使用できる。
【0019】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の各相を形成するのに用いる上記のその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体(d)として、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、α―クロロエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等のスチレン系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2(3)−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコールや、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応によって得られるエポキシ基含有単量体やオリゴマー;(メタ)アクリロイルイソシアネート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート含有単量体;その他N−メチロール基を有したN−メチロールアクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、更にはエチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を代表的なものとして挙げることができる。
【0020】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度(以下、Tgという。)が−50〜15℃、好ましくは−30〜0℃であることが必須である。
【0021】
異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のTgが−50℃未満である場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐汚染性や耐温水性等が悪くなる傾向があり、逆に15℃を超える場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションの低温時における造膜性が悪くなる傾向があるので好ましくない。
【0022】
従って、異相構造粒子の最外相を形成するための多段乳化重合の最終段階で加えるエチレン性不飽和単量体組成として、そのような条件を満足する乳化共重合体を形成し得るように、上記の各々のエチレン性不飽和単量体(b)、(c)及び(d)を適宜組み合わせて使用する必要がある。
【0023】
また、異相構造粒子の最外相より内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgが30〜150℃、好ましくは30〜95℃であることが必須である。
内部相を形成する全ての相の乳化共重合体のTgが30℃未満である場合(即ち、異相構造粒子の最外相より内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgが30〜150℃であるという条件を満足しない場合)には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐ブロッキング性や物理的塗膜強度が低下する傾向があり、逆に150℃を超える場合には、異相構造粒子を製造するための乳化重合反応を制御することが困難となる傾向があるので好ましくない。
【0024】
従って、異相構造粒子の最外相より内側にある少なくとも1相を形成するために加えるエチレン性不飽和単量体組成として、そのような条件を満足する乳化共重合体を形成し得るように、上記の各々のエチレン性不飽和単量体(b)、(c)及び(d)を適宜組み合わせて使用する必要がある。
【0025】
更に、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のTgと、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgとの差が30〜135℃であることが必須である。
異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のTgと、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgとの差が30℃未満である場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物の低温成膜性及びそのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の低粘着性を両立させることが困難になる傾向があり、逆に135℃を超える場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物の成膜性及びそのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の透明性が劣る傾向があるので好ましくない。
【0026】
尚、本発明に於いて、乳化共重合体のTgは、次のFOX式を用いて計算された値である。
1/Tg=W1 /Tg1 +W2 /Tg2 +・・・・+Wn /Tgn
(上記のFOX式は、n種の単量体単位からなる乳化共重合体を構成する各々の単量体についてのホモポリマーのガラス転移温度をそれぞれTg1 、Tg2 、・・・・、Tgn (K)とし、各々の単量体の質量分率をそれぞれW1 、W2 、・・・・、Wn (W1 +W2 +・・・・+Wn =1)としている。)
【0027】
本発明の水性樹脂組成物は、上記の諸条件を満足することにより、造膜助剤や凍結防止剤等のVOCを使用しなくとも、また、使用したとしても水性樹脂組成物中のVOCの含有量が1質量%未満となる量の添加で、低いMFTを有する水性樹脂組成物であって、耐ブロッキング性に非常に優れ、防食性、金属付着性、油面密着性、耐水二次密着性、低温成膜性等の諸物性にも優れた塗膜を形成することが可能であり、特に金属素材を塗装するのに適している。
【0028】
本発明で用いる異相構造粒子含有エマルションにおいては、その異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相が、更に、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を0.5〜10質量%、好ましくは0.5〜3質量%含有し、且つポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体単位を1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%含有する乳化共重合体で形成されていることが好適である。
【0029】
本発明で用いる異相構造粒子含有エマルションを上記の多段乳化重合法で製造する際に、その異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相を形成するための乳化重合段階で加えるエチレン性不飽和単量体は、該少なくとも1相を形成するのに用いられるエチレン性不飽和単量体の合計質量を基準にして、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を0.5質量%以上加えると、その相を形成する乳化重合時の安定性が改善される。しかし、10質量%を超える場合には、得られる異相構造粒子含有エマルションを用いて形成される塗膜の耐水性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0030】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の各相の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル等を挙げることができる。
【0031】
本発明で用いる異相構造粒子含有エマルションを上記の多段乳化重合法で製造する際に、その異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相を形成するための乳化重合段階で加えるエチレン性不飽和単量体は、該少なくとも1相を形成するのに用いられるエチレン性不飽和単量体の合計質量を基準にして、ポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体単位を1質量%以上加えると、得られる異相構造粒子含有エマルションの各種の安定性が高くなる傾向がある。しかし、20質量%を超える場合には、得られる異相構造粒子含有エマルションを用いて形成される塗膜の耐水性が悪くなる傾向があるので好ましくない。
【0032】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の各相の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、一般式
CH2 =C(R1 )−C(=O)−O−(X−O)n −R2
及び一般式
CH2 =C(R1 )−(CH2 )m −O−(X−O)n −R2
(式中、R1 は−H又は−CH3 であり、R2 は−H又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Xは−(CH2 )2 −、−(CH2 )3 −、又は−CH2 CH(CH3 )−であり、mは1〜30の整数であり、nは1〜30の整数である。)
で示されるものを挙げることができる。
【0033】
これらのポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸やアリルアルコール等にエチレンオキサド及び/又はプロピレンオキサイドを付加重合反応させた後、必要に応じて、炭素数1〜8個のアルキル基でエーテル化することによって容易に調製することができる。この様なエチレン性不飽和単量体の市販品としては、例えば、商品名「MA−30」、「MA−50」、「MA−100」、[MA−150]、「MPG−130MA」(以上、日本乳化剤株式会社製)、「ブレンマーPE」、「ブレンマーPP」、「ブレンマーAP−400」、「ブレンマーAE−350」、「ブレンマーPEP」(以上、日本油脂株式会社製)等を挙げることができる。
【0034】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相が内部架橋構造を有する乳化共重合体で形成されていることが好ましい。このような粒子内部架橋構造を有する乳化共重合体は、内部架橋構造を有する相を形成させるための多段乳化重合の所定の段階で加えるエチレン性不飽和単量体の一部としてジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体を使用して乳化重合させる方法;乳化重合反応時の温度で相互に反応する官能基を持つ単量体の組合せ、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の組合せの官能基を持つエチレン性不飽和単量体を選択含有させた単量体混合物を使用して乳化重合させる方法;加水分解縮合反応の生じる(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシリル基含有エチレン性不飽和単量体を含有させた単量体混合物を使用して乳化重合させる方法;等の方法により製造することができる。
【0035】
本発明の水性樹脂組成物は、塗装時等の乾燥段階で各々の異相構造粒子相互間の架橋構造、即ち、粒子間架橋構造を形成し得ることが好ましい。このように粒子間架橋構造を形成し得る代表的な水性樹脂組成物は、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体が、該最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1〜25質量%、好ましくは2〜20質量%の、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を含有しており、更に水性樹脂組成物中には、分子内にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)が、該カルボニル基数の0.1〜2.0倍、好ましくは0.3〜1.2倍のヒドラジド基数となる量で存在している水性樹脂組成物である。
【0036】
上記のような水性樹脂組成物において、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体単位の含有量が、最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1質量%未満である場合には、粒子間の架橋が不十分となる傾向があり、一方、25質量%を超える場合にはそのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐水性が悪くなる傾向がある。
【0037】
また、上記の分子中にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)の配合量が異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体中のカルボニル基数の0.1倍未満のヒドラジド基数となる量で存在している場合には、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体中のカルボニル基との反応が不十分となり、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐ブロッキング性や塗膜強度が得られにくくなる傾向があり、逆に2.0倍よりも多い場合には、成分(g)が残存し、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の塗膜強度、耐ブロッキング性の改善が頭打ちとなる。
【0038】
上記のような粒子間架橋構造を形成し得る代表的な水性樹脂組成物は、代表的な方法として、異相構造粒子の最外相を形成する際に、該最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1〜25質量%の、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合させ、一方、水性樹脂組成物中に、分子中にヒドラジド基を2個以上有する化合物を、該カルボニル基数の0.1〜2.0倍のヒドラジド基数となる量で存在させることにより得られる。このようにして得られた水性樹脂組成物は塗装時等の乾燥により粒子間架橋構造を形成する。
【0039】
上記のカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、アクロレインや、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミスチロール、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアクリレート、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン等を挙げることができる。特に、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトンが好ましい。
【0040】
上記のカルボニル基の対となる、分子中にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)として、例えば、カルボジヒドラジド、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、チオカルボジヒドラジド等を挙げることができる。これらの中でも、エマルションへの分散性や水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐水性のバランスからカルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドが好ましい。
【0041】
本発明の水性樹脂組成物が、上記のような“粒子内部架橋構造”を有する水性樹脂組成物であるか、又は/且つ“粒子間架橋構造”を形成し得る水性樹脂組成物である場合には、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の強靱性、耐ブロッキング性、不粘着性、耐溶剤性等の性能を大幅に向上させることができる。そのため、これら架橋構造を適宜組み込むことが好ましい。
【0042】
本発明の水性樹脂組成物は、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)に加えて、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート基を有する化合物、アジリジン環を有する樹脂、オキサゾリン環を有する樹脂及び、カルボジイミド基を有する樹脂からなる群(f)より選ばれる少なくとも一種を、(a)成分中の異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして、0.1〜95質量%、好ましくは1〜30質量%となる量で配合することができる。
【0043】
本発明の水性樹脂組成物に、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート基を有する化合物、アジリジン環を有する樹脂、オキサゾリン環を有する樹脂及びカルボジイミド基を有する樹脂からなる群(f)より選ばれる少なくとも一種を配合することによって、耐候性、耐水性、密着性、光沢、不粘着性、塗膜強度等の諸物性が更に改善された塗膜を得ることができる。上記の群から選ばれる樹脂の配合量が、(a)成分中の異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.1質量%未満である場合には、それらの諸物性の改善効果が期待できず、逆に95質量%を超える場合には、そのような組成物の低温成膜性、及び形成される塗膜のクリアー性、耐アルカリ性等が劣る傾向があるので好ましくない。
【0044】
上記のエポキシ樹脂として、エポキシ基含有アルコキシシラン、アルキルグリシジルエーテル及びエステル、シクロエポキシ化合物、ビスフェノールA系及びビスフェノールF系の低分子量エポキシ樹脂、或いはこれらの乳化物等を挙げることができ、市販品としては、例えば、商品名「EA1」、「EA2」、「EA20」(以上、カネボウNSC株式会社製)等を挙げることができる。
【0045】
上記のアミノ樹脂として、ブチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルエーテル化シクロヘキシルベンゾグアナミン樹脂、或いはこれらの水溶化物等を挙げることができる。
【0046】
上記のイソシアネート基を有する化合物としては二個以上のイソシアネート基を分子内に有するものであれば特には限定されない。上記のイソシアネート基を有する化合物の具体例として、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、及び、これらジイソシアネートの誘導体であるトリメチロールプロパンアダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等のアダクトポリイソシアネート化合物、上記のイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法で単独重合させたもの、或いは他のエチレン性不飽和単量体と共重合させたもの等、或いは、これらの乳化物を挙げることができ、市販品として、商品名「アクアネートAQシリーズ」(日本ポリウレタン工業株式会社製)等を例示することができる。
【0047】
上記のアジリジン環を有する樹脂として、(メタ)アクリル酸−2−アリジニルエチル等のアジリジニル基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法を用いて単独重合させたもの、或いは、他の不飽和単量体と共重合させたものを使用することが可能である。
【0048】
上記のオキサゾリン環を有する樹脂として、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法を用いて単独重合させたもの、或いは、他の不飽和単量体と共重合させたものを使用することができ、市販品としては、商品名「エポクロスWS500」、「エポクロスK201E」(以上、日本触媒株式会社製)等を挙げることができる。
【0049】
カルボジイミド基を有する樹脂として種々のものが知られており、例えば、特開平6−56950号公報、特開平9−77839号公報等に記載の製造方法によって得られるものを使用することができ、市販品としては、商品名「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−02」(以上、日清紡株式会社製)等を挙げることができる。
尚、異相構造粒子含有エマルション(a)成分と、上記の樹脂成分との反応を高める目的で、適宜触媒を使用することももちろん可能である。
【0050】
更に、本発明の水性樹脂組成物においては、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)に加えて、更には異相構造粒子含有エマルション(a)及び成分(f)に加えて、重量平均分子量1000〜50000の水溶性樹脂を配合することもできる。該水溶性樹脂を、異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.5〜40質量%、好ましくは2〜20質量%となる量で配合することによって、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の光沢、耐水性、付着性を向上させることができる。該水溶性樹脂の配合量が異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.5質量%未満である場合には、上記のような添加効果が得られず、逆に40質量%を超える場合には、その様な水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐アルカリ性、耐水性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0051】
本発明の水性樹脂組成物で用いることのできる水溶性樹脂として、前記のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含む単量体混合物を公知の方法で重合した後、アミン等の中和剤で中和し、その後水溶化して得られたもの、前記のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含む単量体混合物を公知の方法で重合した後、酸等で中和し、その後水溶化したもの、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
尚、本発明の水性樹脂組成物のMFTが30℃を超える場合には造膜助剤をより多く配合する必要があり、それで、本発明の水性樹脂組成物はMFTが30℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。水性樹脂組成物のMFTが造膜助剤や、可塑剤の添加なしで30℃以下となるように、エチレン性不飽和単量体を適宜組み合わせて多段乳化重合法によって異相構造粒子含有エマルションを製造するか、又は成分(f)や、水溶性樹脂等を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0053】
尚、本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)の製造においては、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることが各種安定性の点で好ましいので、該単量体を用いた場合には、アンモニア、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基等を用いて中和することも可能である。
【0054】
本発明の水性樹脂組成物は塗料として用い得るだけでなく、医療用担持体や、接着剤等としても用いることができる。
塗料として使用する場合には、本発明の水性樹脂組成物を単独でクリアー塗料として用いることができるが、塗料に一般的に使用されているベンガラ、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の着色顔料や、炭酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の体質顔料、リン酸アルミニウム等の防錆顏料、光触媒活性を有する酸化チタン、シミ止め・吸着機能を有するフライポンタイト、活性亜鉛華、珪酸マグネシウム等の機能性顔料も添加することが可能である。更に、亜硫酸ナトリウム等の防錆剤等を添加することも好ましく、また、塗料としての各種機能を付与させるためには、増粘剤、分散剤、沈降防止剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜添加してもよい。
【0055】
この様にして得られた水性樹脂組成物は各種の無機質素材、金属素材、木材素材、プラスチック素材等に適用できるが、特に金属素材表面上に塗布することによって優れた防食性、耐塩水噴霧性、密着性を示す塗膜を形成することが可能である。
乾燥は、自然乾燥させるか、若しくは、50℃以上の温度で強制乾燥させることにより優れた塗膜を形成することが可能である。
【0056】
また、本発明の水性樹脂組成物は揮発性有機化合物を全く又は殆ど含有しないので、本発明の水性樹脂組成物を塗料として用いて、建築物、一般家屋、車両等の気密性の高い環境で用いる素材に塗装しても、塗料を起源とする揮発性有機化合物の発生が全くないか、若しくは極少量の発生に止めることができるので、住人や使用者の健康、自然環境に全く負荷がかからない。
【0057】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例及び比較例中の記載において「部」及び「%」は質量基準で示す。
【0058】
<水溶性樹脂の製造例>
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、エチレングリコールモノブチルエーテル150部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温させた後、メタクリル酸メチル100部、スチレン180部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30部、アクリル酸30部及びt−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート[「カヤエステルO」(化薬アクゾ株式会社製)]の混合物を3時間かけて連続滴下した。滴下終了後70℃で4時間撹拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、反応器より取り出し、100℃で減圧乾燥させてペレット状の樹脂固形物を得た。更に、この樹脂ペレットを25%アンモニア水及び蒸留水で溶解し、固形分40%、重量平均分子量10000の水溶性樹脂を得た。
【0059】
実施例1〜4及び比較例1〜2
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水200部、炭酸水素ナトリウム(pH調整剤)1部及びポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(乳化剤)(「PHOSPHANOL RS−710」、東邦化学工業株式会社製)2部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら80℃まで昇温させた後、第1表に記載の各重合開始剤をそれぞれ添加した。次いで、1段目乳化重合として、予め別容器にて撹拌混合しておいた下記の第1表に示す各成分を第1表に示す組成(部)で含む乳化物(A)を3時間かけて連続滴下し、滴下終了後、1時間かけて反応槽内の温度を75℃まで下げた。続いて、2段目乳化重合として、予め別容器にて撹拌混合しておいた下記の第1表に示す各成分を第1表で示す組成(部)で含む乳化物(B)を4時間かけて連続滴下した。滴下終了後75℃で2時間撹拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、28%アンモニア水にてpH8.5に調整して、異相構造粒子含有エマルションを得た。
【0060】
更に、実施例2、3及び4には、それぞれ、上記の製造例で得た水溶性樹脂、イソシアネート樹脂「アクアネートAQ2000」(日本ポリウレタン工業社製)、ヒドラジド基含有化合物(アジピン酸ジヒドラジド)を、第1表に示す量(部)で添加して、それぞれ実施例2、3、4の組成物を得た。
【0061】
比較例3
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水200部、炭酸水素ナトリウム(pH調整剤)1部及びポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(乳化剤)(「PHOSPHANOL RS−710」、東邦化学工業株式会社製)2部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら80℃まで昇温させた後、第1表記載の過硫酸カリウム(重合開始剤)を第1表に示す量(部)で添加した。次いで、予め別容器で撹拌混合しておいた第1表に示す各成分を第1表に示す組成(部)で含む乳化物(A)を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後、反応槽内温度を80℃で2時間撹拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、28%アンモニア水にてpH8.5に調整して、比較例3のエマルションを得た。
【0062】
尚、第1表に示した原料の略号は下記の意味を有し、括弧()内の数値は、Tgを計算するのに用いた各単量体のホモポリマーのTgを示す。また、乳化剤として、上記したように、「PHOSPHANOL RS−710(東邦化学工業株式会社製)」を用いた。
・MMA:メタクリル酸メチル(105℃)
・BA:アクリル酸ブチル(−54℃)
・DVB:ジビニルベンゼン(116℃)
・AA:アクリル酸(106℃)
・β−CEA:カルボキシエチルアクリレート( CH2 =CHCOO(C2 H4 COO)n −H、37℃) (ラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体)
・AEM:アセトアセトキシエチルメタクリレート(11℃)(アセトアセチ ル基含有エチレン性不飽和単量体)
・PEG:ポリエチレングリコール鎖保有エチレン性不飽和単量体(−50℃)H2 C=C(CH3 )−C(=O)−O(CH2 CH2 O)8 H
・ACVA:アゾビスシアノ吉草酸
・KPS:過硫酸カリウム
・ADH:アジピン酸ジヒドラジド
【0063】
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた水性樹脂組成物中に含有される異相構造粒子及び比較例3で得られた水性樹脂組成物中に含有される粒子の各々のTg、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水性樹脂組成物のMFT及び低温成膜性をそれぞれ下記の方法で試験し、下記の評価方法で評価した。それらの結果は第2表に示す通りであった。
【0064】
<Tg>
第2表で示したTg(℃)について、「内部相」は1段目乳化物を単独で乳化重合した場合に得られる共重合体のTgであり、「最外相」は2段目乳化物を単独で乳化重合した場合に得られる共重合体のTgであり、「トータル」は1段目乳化物と2段目乳化物との混合物を1段で乳化重合した場合に得られる共重合体のTgである。
【0065】
<MFT>
0〜40℃の範囲で温度勾配をつけたアルミ板上に膜厚0.2mmのアプリケーターで各々の水性樹脂組成物を塗布し、乾燥させた後、塗膜の状態を目視で観察し、連続塗膜を形成している境界位置の温度をMFTとした。但し、境界位置が40℃を超える場合には、40〜80℃の範囲で温度勾配を付けて同様にしてMFTを求めた。
【0066】
<低温成膜性>
各々の水性樹脂組成物を5℃の低温恒温室中で6ミルアプリケーターを用いてガラス板に塗装し、1日放置した。得られた塗膜の外観を下記の評価基準で目視で判定した。
(評価基準)
○:マッドクラック、マイクロクラック等が全く見受けられず、完全に成膜し
ている。
×:局所的に、若しくは、全面的にクラックや剥離が見られる。
【0067】
<試験板の作製>
JIS G 3141に規定するSPCC−SB鋼板の表面をJIS R 6252に規定するP280耐水研磨紙によって研磨して得た鋼板(150×70×0.8mm)の表面に、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水性樹脂組成物を6ミルアプリケーターで塗装し、50℃で30分間乾燥させた。該乾燥条件で造膜できなかった比較例2、3については、造膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートを連続塗膜が得られるまでゆっくりと添加した。該水性樹脂組成物の塗膜以外の箇所(側面及び裏面等)には、鉛丹さび止めペイントを塗装しシールとした。
【0068】
<金属付着性>
JIS K5621 7.10の付着安定性の試験法に準拠して、上記で作製した試験板上の各水性樹脂組成物によって得られた塗膜にカッターで内角30°、40mmとなるようにX字に切り傷を入れ、カット面にセロハン粘着テープを貼り付け、消しゴムで均等に擦って塗膜にテープを完全に密着させた。その後、テープの一端をもって、塗面に垂直に瞬間的に引きはがし、その後のカット面を目視で判定した。
(判定基準)
○:剥がれが全く見られない。
△:カット部の交点でやや剥がれが見受けられる。
×:セロハン粘着テープ接着部の全面剥離が見られる。
【0069】
<耐水二次密着性>
上記で作製した試験板を、水道水に168時間浸漬し、浸漬後、23℃恒温室にて24時間乾燥させた。乾燥後、付着性試験と同様の試験を行い、耐水二次密着性試験とした。
(判定基準)
○:剥がれが全く見られない。
△:カット部の交点でやや剥がれが見受けられる。
×:セロハン粘着テープ接着部の全面剥離が見られる。
【0070】
<耐アルカリ性>
上記で作製した試験板を、飽和消石灰水に168時間浸漬し、浸漬後、23℃恒温室にて24時間乾燥させた。乾燥後、付着性試験と同様の試験を行い、耐アルカリ性試験とした。
(判定基準)
○:剥がれが全く見られない。
△:カット部の交点でやや剥がれが見受けられる。
×:セロハン粘着テープ接着部の全面剥離が見られる。
【0071】
<耐塩水噴霧性>
JIS K 5600に準拠して、50±10g/Lに調製した塩化ナトリウム水溶液を上記で作製した試験板に240時間噴霧した。噴霧槽内温度を35±2℃に設定した。噴霧処理後に、塗膜外観を目視で判定した。
(判定基準)
○:塗膜に異常のないこと。
△:塗膜の膨れ又は、局所的に点錆が見られる。
×:塗膜全面に錆が見られる。
【0072】
<耐ブロッキング性>
上記で作製した試験板の表面に、カーボン紙のカーボン部と塗膜が接触するようにしてカーボン紙を載せ、更にその上に分銅を載せた。分銅は0.5kg/cm2 相当の荷重となるようにした。24時間荷重をかけた後、カーボン紙をゆっくりと剥がし、塗膜外観を下記の評価基準で目視で評価した。
(評価基準)
◎:全くカーボンが付着していない。
○:荷重のかかっていた面積の30%未満にカーボンが付着している。
△:荷重のかかっていた面積の30%以上、70%未満にカーボンが付着して
いる。
×:荷重のかかっていた面積の70%以上にカーボンが付着している。
【0073】
<油面密着性>
黒皮鋼板に鉱物油を塗布し、余分の鉱物油を拭き取った。その黒皮鋼板を90℃に加熱した後、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水性樹脂組成物を6ミルアプリケーターで塗装し、25℃で24時間乾燥させた。その後、カッターナイフを用いてその塗膜に2mm幅で5×5個の碁盤目を作製した。その表面に粘着テープを貼付した後、剥離試験を行い、剥離しなかったマス目の個数で判定した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
第2表に示すデータから明らかなように、実施例1〜4の水性塗料組成物はMFTが低く、低温性膜性に優れており、またそれらの水性塗料組成物から得られた塗膜は優れた塗膜性能を有していた。
一方、成分(b)又は成分(c)の化合物を含有しない比較例1の水性塗料組成物から得られた塗膜では、金属付着性、耐水二次密着性、耐アルカリ性、油面密着性が劣っていた。また、粒子内部相のTgが−0.1℃、最外相のTgが60.2℃の異相構造粒子を含有する比較例2の水性塗料組成物では、成膜助剤・可塑剤を含有しないと低温で成膜することができず、成膜助剤を添加して試験を行った場合でも、耐アルカリ性、耐ブロッキング性が不十分であり、耐塩水噴霧性が著しく劣っていた。更に、異相構造粒子ではなくて均一組成粒子を含有する比較例3の水性塗料組成物では、成膜助剤・可塑剤を含有しないと低温で成膜することができず、成膜助剤を添加して試験を行った場合でも、金属付着性、耐アルカリ性が不十分であり、耐塩水噴霧性、耐ブロッキング性が著しく劣っていた。
【0077】
【発明の効果】
本発明の水性塗料組成物は、低いMFTを有し、環境汚染や臭気の発生源となる造膜助剤等のVOCを全く含まず、或いは極少量含有するだけで諸物性に優れた塗膜を形成することができ、耐ブロッキング性に非常に優れ、防食性、金属付着性、油面密着性、耐水二次密着性、低温成膜性等の諸物性にも優れた塗膜を形成することが可能であり、速乾性、作業性に優れていて屋内外の塗装に用いることができ、特に金属素材を塗装するのに適している。
【発明の属する技術分野】
本発明は水性樹脂組成物に関し、より詳しくは、揮発性有機化合物(以下、VOCという。)を殆ど含有せず、低い最低造膜温度(以下、MFTという。)を有する水性樹脂組成物であって、耐ブロッキング性に非常に優れ、防食性、金属付着性、油面密着性、耐水二次密着性、低温成膜性等の諸物性にも優れた塗膜を形成することが可能であり、更に、高沸点の有機溶剤を殆ど含有しないので、速乾性、作業性に優れていて屋内外の塗装に用いることができ、特に金属素材を塗装するのに適している水性樹脂組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
金属製の内外装用材料や、金属製家具、型鋼等の各種分野に適用されている金属素材には、防食性や美装を付与させるために有機溶剤型塗料が多く用いられてきた。
【0003】
しかしながら、近年、生物及び環境への配慮からVOCや有毒物質の低減の必要性、及び省資源の観点から、塗料業界では溶媒として有機溶剤を使用した溶剤型塗料から水を使用した水性塗料への転換が急速になされつつある。その代表的な水性塗料として水性エマルション塗料を挙げることができる。しかしながら、水性エマルション塗料には固有のMFTがあり、それで、被塗装面の温度がMFTよりも低い場合には、造膜助剤としてVOCを添加しなければ、連続した塗膜を得ることはできない。それで、水性エマルション塗料と雖も相当量の揮発性有機溶剤を配合する必要があり、塗料業界では水性エマルション塗料中に必要とされるVOCの配合量を更に減量、削減するために鋭意検討が行われている。
【0004】
また、金属素材の成形工程において、通常、成形油が使用されており、その脱脂が不十分であると、その表面上に水性塗料を塗装しても密着不良やハジキが生じるという問題があった。そこで油面密着を改良した水性塗料が提案されているが、それらの塗料は有機溶剤を含む上に、十分な防食性が得られていなかった(例えば、特許文献1〜2参照。)。
また、多段乳化重合法によって得られる種々の異相構造粒子含有エマルションを含有する種々の塗料組成物が提案されているが、必ずしも金属付着性、油面密着性に優れているとは言えない(例えば、特許文献3〜6参照。)。
【0005】
【特許文献1】
特開平7−41701号公報
【特許文献2】
特開平7−41702号公報
【特許文献3】
特開2001−164178号公報
【特許文献4】
特開2002−003778号公報
【特許文献5】
特開2002−206067号公報
【特許文献6】
特開2002−256202号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、環境汚染や臭気、シックハウス症候群の原因となるVOCを全く含まず、或いは極小量の含有だけで、耐ブロッキング性、防食性をはじめとする諸物性に優れ、更に金属付着性や、油面密着性に優れた塗膜を形成することができる水性樹脂組成物を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定の単量体を用いて多段乳化重合させることにより得られる特定の異相構造粒子含有エマルションを用いることにより、上記の目的が確実に達成できることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
即ち、本発明の水性樹脂組成物は、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)を含む水性樹脂組成物であって、
(1)該異相構造粒子を構成する各相がエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体で形成されており、その少なくとも1相がラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体(d)とを、重合開始剤(e)の存在下で乳化重合させて得られる乳化共重合体で形成されており、
(2)該異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が−50〜15℃であり、
(3)該異相構造粒子の最外相よりも内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が30〜150℃であり、
(4)該異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度と、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度との差が30〜135℃である、
ことを特徴とする。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)は、水中で、エチレン性不飽和単量体を多段乳化共重合させて各相を形成し、その少なくとも1相、好ましくは少なくとも最外相をラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体(d)とを、重合開始剤(e)の存在下で乳化共重合させることにより得られる。
【0010】
異相構造粒子含有エマルションの製造に採用される多段乳化重合法は、エチレン性不飽和単量体を含有する水性乳濁液を形成し、従来から公知の乳化重合法を2段階以上、通常は2〜5段階繰り返し実施して、形成されるエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体が異相構造、即ち、特性の異なる最外相と1相以上の内部相からなる粒子を形成させる多段乳化重合法である。
【0011】
多段乳化重合法の代表例として、エチレン性不飽和単量体を含有する水性乳濁液中に乳化剤及び重合開始剤、更に必要に応じて連鎖移動剤や、乳化安定剤等を存在させ、通常60〜90℃の加温下で乳化重合し、この工程を複数回繰り返して実施する多段乳化重合法を挙げることができる。
【0012】
上記の乳化剤として、例えば、ラウリン酸ナトリウム等の脂肪酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の高級アルコール硫酸エステル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシノニルフェニルエーテルスルホン酸アンモニウム、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコールエーテル硫酸塩、ポリカルボン酸型高分子界面活性剤、燐酸系界面活性剤、スルホン酸基、硫酸エステル基又は燐酸エステル基と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合とを分子中に有する、いわゆる反応性乳化剤等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロックコポリマー、又はこれらの化合物の骨格と重合性の炭素−炭素不飽和二重結合とを分子中に有する反応性ノニオン性界面活性剤等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩、第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤、(変性)ポリビニルアルコール等を挙げることができる。燐酸系界面活性剤又はポリカルボン酸型高分子界面活性剤を使用することが特に好適である。
【0013】
上記の重合開始剤(e)として、従来からラジカル重合に一般的に使用されている化合物を使用することができる。しかし、金属素材の塗装を想定すると、好ましい重合開始剤(e)として、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)ハイドロクロライド、4,4’−アゾビス−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス(2−メチルブタンアミドオキシム)ジハイドロクロライドテトラハイドレート等のアゾ系化合物、t−ブチルハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物、過酸化水素水を挙げることができる。更に、L−アスコルビン酸、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤と、硫酸第一鉄等を組み合わせたレドックス系も使用できる。しかし、4,4’−アゾビス−シアノ吉草酸、t−ブチルハイドロパーオキサイド及び過酸化水素水が特に好適である。一方、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム等の過硫酸塩を使用すると防食性、耐塩水噴霧性が悪化するので、金属素材の塗装用途の場合には好ましくない。
【0014】
上記の連鎖移動剤として、例えば、ラウリルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、t−ブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタンや、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2−メチル−t−ブチルチオフェノール、四臭化炭素、α−メチルスチレンダイマー等を挙げることができる。これらを適宜使用することによって、塗膜の光沢や、成膜性、不粘着性を制御することができる。
【0015】
上記の乳化安定剤として、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
また、上記の多段乳化重合法として、単量体を一括で仕込む単量体一括仕込み法、単量体を連続的に滴下する単量体滴下法、単量体を水及び乳化剤と予め混合して乳化させておき、この乳濁液を滴下するプレエマルション法、或いは、これらを組み合わせる方法等を挙げることができる。
【0016】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)の代表例として、一般式
CH2 =CRCOO(Cn H2nCOO)m −H
及び一般式
CH2 =CRCOORO−[CO(CH2 )5 O]n COR−COOH
(式中、Rは水素原子又はアルキル基であり、nは2〜10の整数であり、mは1〜5の整数である)
で表される単量体を挙げることができる。このような単量体の市販品としては、商品名「sipomer β−CEA」(ローディア日華株式会社)、「アロニクスM−5300」、「アロニクスM−5600」(以上、東亞合成株式会社)、「プラクセルFM1A」、「プラクセルFM4A」(以上、ダイセル化学工業株式会社)等がある。
【0017】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の代表例として、一般式
CH2 =CRXOCOCH2 COCH2 Y
(式中、Rは水素原子又はメチル基であり、Xは単結合、メチレン基、COOR2 又はCONHR2 であって、R2 は炭素数1〜6の直鎖若しくは分枝アルキレン基であり、Yは水素又はCNである)
で表される単量体を挙げることができる。
【0018】
この様な単量体の具体例として、アセト酢酸ビニル、アセト酢酸アリル等のアセト酢酸アルケニルエステル類;2−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−アセトアセトキシプロピル(メタ)アクリレート、2−シアノアセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート等のアルキレングリコールの(メタ)アクリル酸アセト酢酸ジエステル;2−アセトアセトキシエチルクロトネート、2−アセトアセトキシプロピルクロトネート等のアルキレングリコールのクロトン酸アセト酢酸ジエステル;N−アセトアセトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−アセトアセトキシエチル(メタ)アクリルアミド等のN−アルキロール(メタ)アクリルアミドのアセト酢酸エステル;等を挙げることができる。
これらの中でも、2−アセトアセトキシエチルアクリレート、2−アセトアセトキシエチルメタクリレート、2−アセトアセトキシプロピルアクリレートが好ましく使用できる。
【0019】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の各相を形成するのに用いる上記のその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体(d)として、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体;メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、α―クロロエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体;スチレン、メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン等のスチレン系単量体;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2(3)−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、アリルアルコールや、多価アルコールのモノ(メタ)アクリル酸エステル等の水酸基含有単量体;2−アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ビニルピリジン等のアミノ基含有単量体;グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、2個以上のグリシジル基を有するエポキシ化合物と活性水素原子を有するエチレン性不飽和単量体との反応によって得られるエポキシ基含有単量体やオリゴマー;(メタ)アクリロイルイソシアネート、イソシアネートエチル(メタ)アクリレート、m−イソプロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート等のイソシアネート含有単量体;その他N−メチロール基を有したN−メチロールアクリルアミド、酢酸ビニル、塩化ビニル、更にはエチレン、ブタジエン、アクリロニトリル、ジアルキルフマレート等を代表的なものとして挙げることができる。
【0020】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度(以下、Tgという。)が−50〜15℃、好ましくは−30〜0℃であることが必須である。
【0021】
異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のTgが−50℃未満である場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐汚染性や耐温水性等が悪くなる傾向があり、逆に15℃を超える場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションの低温時における造膜性が悪くなる傾向があるので好ましくない。
【0022】
従って、異相構造粒子の最外相を形成するための多段乳化重合の最終段階で加えるエチレン性不飽和単量体組成として、そのような条件を満足する乳化共重合体を形成し得るように、上記の各々のエチレン性不飽和単量体(b)、(c)及び(d)を適宜組み合わせて使用する必要がある。
【0023】
また、異相構造粒子の最外相より内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgが30〜150℃、好ましくは30〜95℃であることが必須である。
内部相を形成する全ての相の乳化共重合体のTgが30℃未満である場合(即ち、異相構造粒子の最外相より内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgが30〜150℃であるという条件を満足しない場合)には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の耐ブロッキング性や物理的塗膜強度が低下する傾向があり、逆に150℃を超える場合には、異相構造粒子を製造するための乳化重合反応を制御することが困難となる傾向があるので好ましくない。
【0024】
従って、異相構造粒子の最外相より内側にある少なくとも1相を形成するために加えるエチレン性不飽和単量体組成として、そのような条件を満足する乳化共重合体を形成し得るように、上記の各々のエチレン性不飽和単量体(b)、(c)及び(d)を適宜組み合わせて使用する必要がある。
【0025】
更に、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のTgと、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgとの差が30〜135℃であることが必須である。
異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のTgと、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のTgとの差が30℃未満である場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物の低温成膜性及びそのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の低粘着性を両立させることが困難になる傾向があり、逆に135℃を超える場合には、そのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物の成膜性及びそのような異相構造粒子含有エマルションを含む水性樹脂組成物を用いて形成される塗膜の透明性が劣る傾向があるので好ましくない。
【0026】
尚、本発明に於いて、乳化共重合体のTgは、次のFOX式を用いて計算された値である。
1/Tg=W1 /Tg1 +W2 /Tg2 +・・・・+Wn /Tgn
(上記のFOX式は、n種の単量体単位からなる乳化共重合体を構成する各々の単量体についてのホモポリマーのガラス転移温度をそれぞれTg1 、Tg2 、・・・・、Tgn (K)とし、各々の単量体の質量分率をそれぞれW1 、W2 、・・・・、Wn (W1 +W2 +・・・・+Wn =1)としている。)
【0027】
本発明の水性樹脂組成物は、上記の諸条件を満足することにより、造膜助剤や凍結防止剤等のVOCを使用しなくとも、また、使用したとしても水性樹脂組成物中のVOCの含有量が1質量%未満となる量の添加で、低いMFTを有する水性樹脂組成物であって、耐ブロッキング性に非常に優れ、防食性、金属付着性、油面密着性、耐水二次密着性、低温成膜性等の諸物性にも優れた塗膜を形成することが可能であり、特に金属素材を塗装するのに適している。
【0028】
本発明で用いる異相構造粒子含有エマルションにおいては、その異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相が、更に、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を0.5〜10質量%、好ましくは0.5〜3質量%含有し、且つポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体単位を1〜20質量%、好ましくは5〜15質量%含有する乳化共重合体で形成されていることが好適である。
【0029】
本発明で用いる異相構造粒子含有エマルションを上記の多段乳化重合法で製造する際に、その異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相を形成するための乳化重合段階で加えるエチレン性不飽和単量体は、該少なくとも1相を形成するのに用いられるエチレン性不飽和単量体の合計質量を基準にして、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を0.5質量%以上加えると、その相を形成する乳化重合時の安定性が改善される。しかし、10質量%を超える場合には、得られる異相構造粒子含有エマルションを用いて形成される塗膜の耐水性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0030】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の各相の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のカルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸、マレイン酸ハーフエステル等を挙げることができる。
【0031】
本発明で用いる異相構造粒子含有エマルションを上記の多段乳化重合法で製造する際に、その異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相を形成するための乳化重合段階で加えるエチレン性不飽和単量体は、該少なくとも1相を形成するのに用いられるエチレン性不飽和単量体の合計質量を基準にして、ポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体単位を1質量%以上加えると、得られる異相構造粒子含有エマルションの各種の安定性が高くなる傾向がある。しかし、20質量%を超える場合には、得られる異相構造粒子含有エマルションを用いて形成される塗膜の耐水性が悪くなる傾向があるので好ましくない。
【0032】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、その異相構造粒子の各相の少なくとも1相を形成するのに用いることができる上記のポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、一般式
CH2 =C(R1 )−C(=O)−O−(X−O)n −R2
及び一般式
CH2 =C(R1 )−(CH2 )m −O−(X−O)n −R2
(式中、R1 は−H又は−CH3 であり、R2 は−H又は炭素数1〜8のアルキル基であり、Xは−(CH2 )2 −、−(CH2 )3 −、又は−CH2 CH(CH3 )−であり、mは1〜30の整数であり、nは1〜30の整数である。)
で示されるものを挙げることができる。
【0033】
これらのポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体は、例えば、(メタ)アクリル酸やアリルアルコール等にエチレンオキサド及び/又はプロピレンオキサイドを付加重合反応させた後、必要に応じて、炭素数1〜8個のアルキル基でエーテル化することによって容易に調製することができる。この様なエチレン性不飽和単量体の市販品としては、例えば、商品名「MA−30」、「MA−50」、「MA−100」、[MA−150]、「MPG−130MA」(以上、日本乳化剤株式会社製)、「ブレンマーPE」、「ブレンマーPP」、「ブレンマーAP−400」、「ブレンマーAE−350」、「ブレンマーPEP」(以上、日本油脂株式会社製)等を挙げることができる。
【0034】
本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)においては、異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相が内部架橋構造を有する乳化共重合体で形成されていることが好ましい。このような粒子内部架橋構造を有する乳化共重合体は、内部架橋構造を有する相を形成させるための多段乳化重合の所定の段階で加えるエチレン性不飽和単量体の一部としてジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート等の分子中に重合性不飽和二重結合を2個以上有する単量体を使用して乳化重合させる方法;乳化重合反応時の温度で相互に反応する官能基を持つ単量体の組合せ、例えば、カルボキシル基とグリシジル基や、水酸基とイソシアネート基等の組合せの官能基を持つエチレン性不飽和単量体を選択含有させた単量体混合物を使用して乳化重合させる方法;加水分解縮合反応の生じる(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等のシリル基含有エチレン性不飽和単量体を含有させた単量体混合物を使用して乳化重合させる方法;等の方法により製造することができる。
【0035】
本発明の水性樹脂組成物は、塗装時等の乾燥段階で各々の異相構造粒子相互間の架橋構造、即ち、粒子間架橋構造を形成し得ることが好ましい。このように粒子間架橋構造を形成し得る代表的な水性樹脂組成物は、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体が、該最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1〜25質量%、好ましくは2〜20質量%の、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を含有しており、更に水性樹脂組成物中には、分子内にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)が、該カルボニル基数の0.1〜2.0倍、好ましくは0.3〜1.2倍のヒドラジド基数となる量で存在している水性樹脂組成物である。
【0036】
上記のような水性樹脂組成物において、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体単位の含有量が、最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1質量%未満である場合には、粒子間の架橋が不十分となる傾向があり、一方、25質量%を超える場合にはそのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐水性が悪くなる傾向がある。
【0037】
また、上記の分子中にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)の配合量が異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体中のカルボニル基数の0.1倍未満のヒドラジド基数となる量で存在している場合には、異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体中のカルボニル基との反応が不十分となり、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐ブロッキング性や塗膜強度が得られにくくなる傾向があり、逆に2.0倍よりも多い場合には、成分(g)が残存し、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の塗膜強度、耐ブロッキング性の改善が頭打ちとなる。
【0038】
上記のような粒子間架橋構造を形成し得る代表的な水性樹脂組成物は、代表的な方法として、異相構造粒子の最外相を形成する際に、該最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1〜25質量%の、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体を共重合させ、一方、水性樹脂組成物中に、分子中にヒドラジド基を2個以上有する化合物を、該カルボニル基数の0.1〜2.0倍のヒドラジド基数となる量で存在させることにより得られる。このようにして得られた水性樹脂組成物は塗装時等の乾燥により粒子間架橋構造を形成する。
【0039】
上記のカルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体として、例えば、アクロレインや、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ホルミスチロール、(メタ)アクリルオキシアルキルプロパナール、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−アクリレート−アセチルアクリレート、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトン等を挙げることができる。特に、アクロレイン、ジアセトンアクリルアミド、ビニルメチルケトンが好ましい。
【0040】
上記のカルボニル基の対となる、分子中にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)として、例えば、カルボジヒドラジド、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン2酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド、1,2,4−ベンゼントリヒドラジド、チオカルボジヒドラジド等を挙げることができる。これらの中でも、エマルションへの分散性や水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐水性のバランスからカルボジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドが好ましい。
【0041】
本発明の水性樹脂組成物が、上記のような“粒子内部架橋構造”を有する水性樹脂組成物であるか、又は/且つ“粒子間架橋構造”を形成し得る水性樹脂組成物である場合には、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の強靱性、耐ブロッキング性、不粘着性、耐溶剤性等の性能を大幅に向上させることができる。そのため、これら架橋構造を適宜組み込むことが好ましい。
【0042】
本発明の水性樹脂組成物は、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)に加えて、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート基を有する化合物、アジリジン環を有する樹脂、オキサゾリン環を有する樹脂及び、カルボジイミド基を有する樹脂からなる群(f)より選ばれる少なくとも一種を、(a)成分中の異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして、0.1〜95質量%、好ましくは1〜30質量%となる量で配合することができる。
【0043】
本発明の水性樹脂組成物に、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート基を有する化合物、アジリジン環を有する樹脂、オキサゾリン環を有する樹脂及びカルボジイミド基を有する樹脂からなる群(f)より選ばれる少なくとも一種を配合することによって、耐候性、耐水性、密着性、光沢、不粘着性、塗膜強度等の諸物性が更に改善された塗膜を得ることができる。上記の群から選ばれる樹脂の配合量が、(a)成分中の異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.1質量%未満である場合には、それらの諸物性の改善効果が期待できず、逆に95質量%を超える場合には、そのような組成物の低温成膜性、及び形成される塗膜のクリアー性、耐アルカリ性等が劣る傾向があるので好ましくない。
【0044】
上記のエポキシ樹脂として、エポキシ基含有アルコキシシラン、アルキルグリシジルエーテル及びエステル、シクロエポキシ化合物、ビスフェノールA系及びビスフェノールF系の低分子量エポキシ樹脂、或いはこれらの乳化物等を挙げることができ、市販品としては、例えば、商品名「EA1」、「EA2」、「EA20」(以上、カネボウNSC株式会社製)等を挙げることができる。
【0045】
上記のアミノ樹脂として、ブチルエーテル化メラミン樹脂、ブチルエーテル化ベンゾグアナミン樹脂、ブチルエーテル化シクロヘキシルベンゾグアナミン樹脂、或いはこれらの水溶化物等を挙げることができる。
【0046】
上記のイソシアネート基を有する化合物としては二個以上のイソシアネート基を分子内に有するものであれば特には限定されない。上記のイソシアネート基を有する化合物の具体例として、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、及び、これらジイソシアネートの誘導体であるトリメチロールプロパンアダクト体、ビュウレット体、イソシアヌレート体等のアダクトポリイソシアネート化合物、上記のイソシアネート基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法で単独重合させたもの、或いは他のエチレン性不飽和単量体と共重合させたもの等、或いは、これらの乳化物を挙げることができ、市販品として、商品名「アクアネートAQシリーズ」(日本ポリウレタン工業株式会社製)等を例示することができる。
【0047】
上記のアジリジン環を有する樹脂として、(メタ)アクリル酸−2−アリジニルエチル等のアジリジニル基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法を用いて単独重合させたもの、或いは、他の不飽和単量体と共重合させたものを使用することが可能である。
【0048】
上記のオキサゾリン環を有する樹脂として、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン等のオキサゾリン基含有エチレン性不飽和単量体を公知の重合方法を用いて単独重合させたもの、或いは、他の不飽和単量体と共重合させたものを使用することができ、市販品としては、商品名「エポクロスWS500」、「エポクロスK201E」(以上、日本触媒株式会社製)等を挙げることができる。
【0049】
カルボジイミド基を有する樹脂として種々のものが知られており、例えば、特開平6−56950号公報、特開平9−77839号公報等に記載の製造方法によって得られるものを使用することができ、市販品としては、商品名「カルボジライトE−01」、「カルボジライトE−02」(以上、日清紡株式会社製)等を挙げることができる。
尚、異相構造粒子含有エマルション(a)成分と、上記の樹脂成分との反応を高める目的で、適宜触媒を使用することももちろん可能である。
【0050】
更に、本発明の水性樹脂組成物においては、多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)に加えて、更には異相構造粒子含有エマルション(a)及び成分(f)に加えて、重量平均分子量1000〜50000の水溶性樹脂を配合することもできる。該水溶性樹脂を、異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.5〜40質量%、好ましくは2〜20質量%となる量で配合することによって、そのような水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の光沢、耐水性、付着性を向上させることができる。該水溶性樹脂の配合量が異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.5質量%未満である場合には、上記のような添加効果が得られず、逆に40質量%を超える場合には、その様な水性樹脂組成物を用いて得られる塗膜の耐アルカリ性、耐水性が低下する傾向があるので好ましくない。
【0051】
本発明の水性樹脂組成物で用いることのできる水溶性樹脂として、前記のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含む単量体混合物を公知の方法で重合した後、アミン等の中和剤で中和し、その後水溶化して得られたもの、前記のアミノ基含有エチレン性不飽和単量体を必須成分として含む単量体混合物を公知の方法で重合した後、酸等で中和し、その後水溶化したもの、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0052】
尚、本発明の水性樹脂組成物のMFTが30℃を超える場合には造膜助剤をより多く配合する必要があり、それで、本発明の水性樹脂組成物はMFTが30℃以下であることが好ましく、10℃以下であることがより好ましい。水性樹脂組成物のMFTが造膜助剤や、可塑剤の添加なしで30℃以下となるように、エチレン性不飽和単量体を適宜組み合わせて多段乳化重合法によって異相構造粒子含有エマルションを製造するか、又は成分(f)や、水溶性樹脂等を適宜組み合わせて使用すればよい。
【0053】
尚、本発明の水性樹脂組成物を構成する異相構造粒子含有エマルション(a)の製造においては、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体を用いることが各種安定性の点で好ましいので、該単量体を用いた場合には、アンモニア、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン等の有機塩基、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の無機塩基等を用いて中和することも可能である。
【0054】
本発明の水性樹脂組成物は塗料として用い得るだけでなく、医療用担持体や、接着剤等としても用いることができる。
塗料として使用する場合には、本発明の水性樹脂組成物を単独でクリアー塗料として用いることができるが、塗料に一般的に使用されているベンガラ、カーボンブラック、酸化チタン、炭酸カルシウム等の着色顔料や、炭酸バリウム、タルク、クレー、マイカ、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、珪藻土等の体質顔料、リン酸アルミニウム等の防錆顏料、光触媒活性を有する酸化チタン、シミ止め・吸着機能を有するフライポンタイト、活性亜鉛華、珪酸マグネシウム等の機能性顔料も添加することが可能である。更に、亜硫酸ナトリウム等の防錆剤等を添加することも好ましく、また、塗料としての各種機能を付与させるためには、増粘剤、分散剤、沈降防止剤、防カビ剤、防腐剤、紫外線吸収剤、光安定剤等を適宜添加してもよい。
【0055】
この様にして得られた水性樹脂組成物は各種の無機質素材、金属素材、木材素材、プラスチック素材等に適用できるが、特に金属素材表面上に塗布することによって優れた防食性、耐塩水噴霧性、密着性を示す塗膜を形成することが可能である。
乾燥は、自然乾燥させるか、若しくは、50℃以上の温度で強制乾燥させることにより優れた塗膜を形成することが可能である。
【0056】
また、本発明の水性樹脂組成物は揮発性有機化合物を全く又は殆ど含有しないので、本発明の水性樹脂組成物を塗料として用いて、建築物、一般家屋、車両等の気密性の高い環境で用いる素材に塗装しても、塗料を起源とする揮発性有機化合物の発生が全くないか、若しくは極少量の発生に止めることができるので、住人や使用者の健康、自然環境に全く負荷がかからない。
【0057】
【実施例】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。尚、実施例及び比較例中の記載において「部」及び「%」は質量基準で示す。
【0058】
<水溶性樹脂の製造例>
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、エチレングリコールモノブチルエーテル150部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら70℃まで昇温させた後、メタクリル酸メチル100部、スチレン180部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート30部、アクリル酸30部及びt−ブチルペルオキシ2−エチルヘキサノエート[「カヤエステルO」(化薬アクゾ株式会社製)]の混合物を3時間かけて連続滴下した。滴下終了後70℃で4時間撹拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、反応器より取り出し、100℃で減圧乾燥させてペレット状の樹脂固形物を得た。更に、この樹脂ペレットを25%アンモニア水及び蒸留水で溶解し、固形分40%、重量平均分子量10000の水溶性樹脂を得た。
【0059】
実施例1〜4及び比較例1〜2
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水200部、炭酸水素ナトリウム(pH調整剤)1部及びポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(乳化剤)(「PHOSPHANOL RS−710」、東邦化学工業株式会社製)2部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら80℃まで昇温させた後、第1表に記載の各重合開始剤をそれぞれ添加した。次いで、1段目乳化重合として、予め別容器にて撹拌混合しておいた下記の第1表に示す各成分を第1表に示す組成(部)で含む乳化物(A)を3時間かけて連続滴下し、滴下終了後、1時間かけて反応槽内の温度を75℃まで下げた。続いて、2段目乳化重合として、予め別容器にて撹拌混合しておいた下記の第1表に示す各成分を第1表で示す組成(部)で含む乳化物(B)を4時間かけて連続滴下した。滴下終了後75℃で2時間撹拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、28%アンモニア水にてpH8.5に調整して、異相構造粒子含有エマルションを得た。
【0060】
更に、実施例2、3及び4には、それぞれ、上記の製造例で得た水溶性樹脂、イソシアネート樹脂「アクアネートAQ2000」(日本ポリウレタン工業社製)、ヒドラジド基含有化合物(アジピン酸ジヒドラジド)を、第1表に示す量(部)で添加して、それぞれ実施例2、3、4の組成物を得た。
【0061】
比較例3
撹拌装置、温度計、冷却管及び滴下装置を備えた反応器中に、イオン交換水200部、炭酸水素ナトリウム(pH調整剤)1部及びポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル(乳化剤)(「PHOSPHANOL RS−710」、東邦化学工業株式会社製)2部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら80℃まで昇温させた後、第1表記載の過硫酸カリウム(重合開始剤)を第1表に示す量(部)で添加した。次いで、予め別容器で撹拌混合しておいた第1表に示す各成分を第1表に示す組成(部)で含む乳化物(A)を5時間かけて連続滴下し、滴下終了後、反応槽内温度を80℃で2時間撹拌を続けながら熟成し、40℃まで冷却した後、28%アンモニア水にてpH8.5に調整して、比較例3のエマルションを得た。
【0062】
尚、第1表に示した原料の略号は下記の意味を有し、括弧()内の数値は、Tgを計算するのに用いた各単量体のホモポリマーのTgを示す。また、乳化剤として、上記したように、「PHOSPHANOL RS−710(東邦化学工業株式会社製)」を用いた。
・MMA:メタクリル酸メチル(105℃)
・BA:アクリル酸ブチル(−54℃)
・DVB:ジビニルベンゼン(116℃)
・AA:アクリル酸(106℃)
・β−CEA:カルボキシエチルアクリレート( CH2 =CHCOO(C2 H4 COO)n −H、37℃) (ラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体)
・AEM:アセトアセトキシエチルメタクリレート(11℃)(アセトアセチ ル基含有エチレン性不飽和単量体)
・PEG:ポリエチレングリコール鎖保有エチレン性不飽和単量体(−50℃)H2 C=C(CH3 )−C(=O)−O(CH2 CH2 O)8 H
・ACVA:アゾビスシアノ吉草酸
・KPS:過硫酸カリウム
・ADH:アジピン酸ジヒドラジド
【0063】
実施例1〜4及び比較例1〜2で得られた水性樹脂組成物中に含有される異相構造粒子及び比較例3で得られた水性樹脂組成物中に含有される粒子の各々のTg、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水性樹脂組成物のMFT及び低温成膜性をそれぞれ下記の方法で試験し、下記の評価方法で評価した。それらの結果は第2表に示す通りであった。
【0064】
<Tg>
第2表で示したTg(℃)について、「内部相」は1段目乳化物を単独で乳化重合した場合に得られる共重合体のTgであり、「最外相」は2段目乳化物を単独で乳化重合した場合に得られる共重合体のTgであり、「トータル」は1段目乳化物と2段目乳化物との混合物を1段で乳化重合した場合に得られる共重合体のTgである。
【0065】
<MFT>
0〜40℃の範囲で温度勾配をつけたアルミ板上に膜厚0.2mmのアプリケーターで各々の水性樹脂組成物を塗布し、乾燥させた後、塗膜の状態を目視で観察し、連続塗膜を形成している境界位置の温度をMFTとした。但し、境界位置が40℃を超える場合には、40〜80℃の範囲で温度勾配を付けて同様にしてMFTを求めた。
【0066】
<低温成膜性>
各々の水性樹脂組成物を5℃の低温恒温室中で6ミルアプリケーターを用いてガラス板に塗装し、1日放置した。得られた塗膜の外観を下記の評価基準で目視で判定した。
(評価基準)
○:マッドクラック、マイクロクラック等が全く見受けられず、完全に成膜し
ている。
×:局所的に、若しくは、全面的にクラックや剥離が見られる。
【0067】
<試験板の作製>
JIS G 3141に規定するSPCC−SB鋼板の表面をJIS R 6252に規定するP280耐水研磨紙によって研磨して得た鋼板(150×70×0.8mm)の表面に、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水性樹脂組成物を6ミルアプリケーターで塗装し、50℃で30分間乾燥させた。該乾燥条件で造膜できなかった比較例2、3については、造膜助剤として2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレートを連続塗膜が得られるまでゆっくりと添加した。該水性樹脂組成物の塗膜以外の箇所(側面及び裏面等)には、鉛丹さび止めペイントを塗装しシールとした。
【0068】
<金属付着性>
JIS K5621 7.10の付着安定性の試験法に準拠して、上記で作製した試験板上の各水性樹脂組成物によって得られた塗膜にカッターで内角30°、40mmとなるようにX字に切り傷を入れ、カット面にセロハン粘着テープを貼り付け、消しゴムで均等に擦って塗膜にテープを完全に密着させた。その後、テープの一端をもって、塗面に垂直に瞬間的に引きはがし、その後のカット面を目視で判定した。
(判定基準)
○:剥がれが全く見られない。
△:カット部の交点でやや剥がれが見受けられる。
×:セロハン粘着テープ接着部の全面剥離が見られる。
【0069】
<耐水二次密着性>
上記で作製した試験板を、水道水に168時間浸漬し、浸漬後、23℃恒温室にて24時間乾燥させた。乾燥後、付着性試験と同様の試験を行い、耐水二次密着性試験とした。
(判定基準)
○:剥がれが全く見られない。
△:カット部の交点でやや剥がれが見受けられる。
×:セロハン粘着テープ接着部の全面剥離が見られる。
【0070】
<耐アルカリ性>
上記で作製した試験板を、飽和消石灰水に168時間浸漬し、浸漬後、23℃恒温室にて24時間乾燥させた。乾燥後、付着性試験と同様の試験を行い、耐アルカリ性試験とした。
(判定基準)
○:剥がれが全く見られない。
△:カット部の交点でやや剥がれが見受けられる。
×:セロハン粘着テープ接着部の全面剥離が見られる。
【0071】
<耐塩水噴霧性>
JIS K 5600に準拠して、50±10g/Lに調製した塩化ナトリウム水溶液を上記で作製した試験板に240時間噴霧した。噴霧槽内温度を35±2℃に設定した。噴霧処理後に、塗膜外観を目視で判定した。
(判定基準)
○:塗膜に異常のないこと。
△:塗膜の膨れ又は、局所的に点錆が見られる。
×:塗膜全面に錆が見られる。
【0072】
<耐ブロッキング性>
上記で作製した試験板の表面に、カーボン紙のカーボン部と塗膜が接触するようにしてカーボン紙を載せ、更にその上に分銅を載せた。分銅は0.5kg/cm2 相当の荷重となるようにした。24時間荷重をかけた後、カーボン紙をゆっくりと剥がし、塗膜外観を下記の評価基準で目視で評価した。
(評価基準)
◎:全くカーボンが付着していない。
○:荷重のかかっていた面積の30%未満にカーボンが付着している。
△:荷重のかかっていた面積の30%以上、70%未満にカーボンが付着して
いる。
×:荷重のかかっていた面積の70%以上にカーボンが付着している。
【0073】
<油面密着性>
黒皮鋼板に鉱物油を塗布し、余分の鉱物油を拭き取った。その黒皮鋼板を90℃に加熱した後、実施例1〜4及び比較例1〜3で得られた水性樹脂組成物を6ミルアプリケーターで塗装し、25℃で24時間乾燥させた。その後、カッターナイフを用いてその塗膜に2mm幅で5×5個の碁盤目を作製した。その表面に粘着テープを貼付した後、剥離試験を行い、剥離しなかったマス目の個数で判定した。
【0074】
【表1】
【0075】
【表2】
【0076】
第2表に示すデータから明らかなように、実施例1〜4の水性塗料組成物はMFTが低く、低温性膜性に優れており、またそれらの水性塗料組成物から得られた塗膜は優れた塗膜性能を有していた。
一方、成分(b)又は成分(c)の化合物を含有しない比較例1の水性塗料組成物から得られた塗膜では、金属付着性、耐水二次密着性、耐アルカリ性、油面密着性が劣っていた。また、粒子内部相のTgが−0.1℃、最外相のTgが60.2℃の異相構造粒子を含有する比較例2の水性塗料組成物では、成膜助剤・可塑剤を含有しないと低温で成膜することができず、成膜助剤を添加して試験を行った場合でも、耐アルカリ性、耐ブロッキング性が不十分であり、耐塩水噴霧性が著しく劣っていた。更に、異相構造粒子ではなくて均一組成粒子を含有する比較例3の水性塗料組成物では、成膜助剤・可塑剤を含有しないと低温で成膜することができず、成膜助剤を添加して試験を行った場合でも、金属付着性、耐アルカリ性が不十分であり、耐塩水噴霧性、耐ブロッキング性が著しく劣っていた。
【0077】
【発明の効果】
本発明の水性塗料組成物は、低いMFTを有し、環境汚染や臭気の発生源となる造膜助剤等のVOCを全く含まず、或いは極少量含有するだけで諸物性に優れた塗膜を形成することができ、耐ブロッキング性に非常に優れ、防食性、金属付着性、油面密着性、耐水二次密着性、低温成膜性等の諸物性にも優れた塗膜を形成することが可能であり、速乾性、作業性に優れていて屋内外の塗装に用いることができ、特に金属素材を塗装するのに適している。
Claims (10)
- 多段乳化重合法によって得られる異相構造粒子含有エマルション(a)を含む水性樹脂組成物であって、
(1)該異相構造粒子を構成する各相がエチレン性不飽和単量体の乳化共重合体で形成されており、その少なくとも1相がラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体(d)とを、重合開始剤(e)の存在下で乳化重合させて得られる乳化共重合体で形成されており、
(2)該異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が−50〜15℃であり、
(3)該異相構造粒子の最外相よりも内側にある内部相の少なくとも1相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度が30〜150℃であり、
(4)該異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度と、該内部相の該少なくとも1相を形成する乳化共重合体のガラス転移温度との差が30〜135℃である、
ことを特徴とする水性樹脂組成物。 - 異相構造粒子を構成する各相の少なくとも最外相が、ラクトン変性されたエチレン性不飽和単量体(b)及びアセトアセチル基を有するエチレン性不飽和単量体(c)の少なくとも1種の単量体と、その他の共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体(d)とを、重合開始剤(e)の存在下で乳化重合させて得られる乳化共重合体で形成されている請求項1記載の水性樹脂組成物。
- 異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相が、更に、カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を0.5〜10質量%含有し、且つポリエチレングリコール鎖及びポリプロピレングリコール鎖の少なくとも一方を有するエチレン性不飽和単量体単位を1〜20質量%含有する乳化共重合体で形成されている請求項1又は2記載の水性樹脂組成物。
- 異相構造粒子を構成する各相の少なくとも1相が内部架橋構造を有する乳化共重合体で形成されている請求項1、2又は3記載の水性樹脂組成物。
- 異相構造粒子の最外相を形成する乳化共重合体が、該最外相を形成する乳化共重合体の質量を基準にして1〜25質量%の、カルボニル基を有するエチレン性不飽和単量体単位を含有しており、更に水性樹脂組成物中に、分子内にヒドラジド基を2個以上有する化合物(g)が、該カルボニル基数の0.1〜2.0倍のヒドラジド基数となる量で存在している請求項1〜4の何れかに記載の水性樹脂組成物。
- 重合開始剤(e)がアゾ系化合物、有機過酸化物及び過酸化水素水からなる群より選ばれた化合物である請求項1〜5の何れかに記載の水性樹脂組成物。
- 重合開始剤(e)が4,4’−アゾビス−シアノ吉草酸である請求項6記載の水性樹脂組成物。
- 水性樹脂組成物が、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、イソシアネート基を有する化合物、アジリジン環を有する樹脂、オキサゾリン環を有する樹脂、及びカルボジイミド基を有する樹脂からなる群(f)より選ばれる少なくとも1種を、異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.1〜95質量%となる量で追加含有している請求項1〜7の何れかに記載の水性樹脂組成物。
- 水性樹脂組成物が、重量平均分子量1000〜50000の水溶性樹脂を、異相構造粒子の樹脂分質量を基準にして0.5〜40質量%となる量で追加含有している請求項1〜8の何れかに記載の水性樹脂組成物。
- 水性樹脂組成物中の揮発性有機化合物の含有量が1質量%未満である請求項1〜9の何れかに記載の水性樹脂組成物。
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JP2020164879A (ja) * | 2014-12-08 | 2020-10-08 | ローム アンド ハース カンパニーRohm And Haas Company | (メタ)アクリレート添加剤を調製するための方法、ポリオレフィンの耐たるみ性を改善する方法、及び耐たるみ性ポリオレフィン |
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