JP2004137305A - 湿式摩擦材およびその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】摩擦係数が高く良好なμ−V特性を有しかつ相手攻撃性の抑えられた湿式摩擦材であって、充填材の脱落を抑えつつ充填材による摩擦増大効果を十分に発揮することができる湿式摩擦材を得る。
【解決手段】湿式摩擦材の充填材を、アルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子から構成し、この造粒粒子の平均粒径を繊維基材の平均繊維径より大きいものとする。
また、湿式摩擦材を製造する方法を、アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る粉末粒子製造工程と、粉末粒子を造粒結合材によって結合し繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子を得る造粒工程と、造粒粒子からなる充填材,繊維基材および結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する形成工程とから構成する。
【選択図】図3
【解決手段】湿式摩擦材の充填材を、アルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子から構成し、この造粒粒子の平均粒径を繊維基材の平均繊維径より大きいものとする。
また、湿式摩擦材を製造する方法を、アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る粉末粒子製造工程と、粉末粒子を造粒結合材によって結合し繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子を得る造粒工程と、造粒粒子からなる充填材,繊維基材および結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する形成工程とから構成する。
【選択図】図3
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は湿式摩擦材に関し、詳しくは良好な使用耐久性能と摩擦性能とを両立する湿式摩擦材に関する。
【0002】
【従来の技術】
湿式摩擦材は自動車のクラッチディスク等に多く用いられる。クラッチディスクに用いられた湿式摩擦材は潤滑油を介して相手材に圧接され、湿式摩擦材表面が摩擦面として相手材と係合する。この係合によって駆動側から従動側へ駆動力が伝達され、また、摩擦面と相手材とが開放されることによって駆動力が遮断される。このようなクラッチディスクにおいては、摩擦材の押しつけ加重を制御することによりすべりを発生させ継合いを滑らかにおこなうことができる。ここで用いられるような湿式摩擦材は、一般に繊維基材にフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸されたものであり、さらに、摩擦特性を調整する目的でケイ藻土やカシューダスト等の充填材や摩擦調整材が配合されたものである。また、ここで用いられる湿式摩擦材は、薄肉の形状のペーパ摩擦材に形成されたのちに金属プレートに接着されて用いられるものである。
【0003】
このような湿式摩擦材に求められる特性としては、摩擦係数が大きいこと,相手攻撃性が小さいこと,潤滑油を良好に保持・吸収すること等がある。本出願人らは先に出願した発明(特許文献1参照)において、アルミニウムを主成分とする酸化物よりなり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空体を充填材として湿式摩擦材に配合することで、湿式摩擦材の摩擦特性が向上されることを開示した。特許文献1に開示される湿式摩擦材によると、アルミニウムを主成分とする酸化物の特性により高い摩擦係数を得ることができる。また、中空体の皮殻の厚さは極めて薄く形成されていることから粒子自体が変形しやすい。このため摩擦材の相手攻撃性を抑えることができる。さらに、この湿式摩擦材によるとアルミニウムを主成分とする酸化物が中空構造を有することにより、湿式摩擦材の潤滑油のなじみ性,保持性および吸収性を向上させることができ、摩擦係数(μ)とすべり速度(V)との関係であるμ−V特性を向上させることができる。
【0004】
ここで、湿式摩擦材の製造方法としては、繊維基材よりなる抄紙体上に充填材および結合材を含む溶液を含浸させた後に加圧濾過によって過剰な溶液を除去し、加熱・加圧して湿式摩擦材とする方法がある。
【0005】
しかしこのような方法によると、抄紙体表面に充填材が堆積し、湿式摩擦材はその表面が充填材と結合材のみで覆われたものとなる場合がある。このような場合、得られた湿式摩擦材においては充填材が結合材のみで固定されるため、充填材は湿式摩擦材より脱落しやすいものとなり、湿式摩擦材の耐久性能が十分に発揮できない場合がある。
【0006】
充填材の脱落を防止するためには、抄紙体を抄紙する際に抄紙体の材料中に充填材を同時に添加しておくことができる。このことで、充填材を抄紙体内部に配置させることができ、充填材は湿式摩擦材中で繊維基材と結合材との両者によって保持されることとなる。あるいは、結合材,充填材および繊維基材を含む湿式摩擦材材料を成形型内に注入し加圧・加熱成形をおこなうこともできる。このことで、充填材は結合材と繊維基材との両者によって湿式摩擦材の内部に保持される。
【0007】
しかしこのような構成の湿式摩擦材においては、湿式摩擦材が相手材に圧接されるときに湿式摩擦材中の充填材が繊維基材同士の間隙に沈み込み易く、充填材が相手材に当接しない場合があった。この場合、充填材による摩擦増大効果が低減し、湿式摩擦材の摩擦性能が十分なものとならない場合があった。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−205317号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、摩擦係数が高く良好なμ−V特性を有しかつ相手攻撃性の抑えられた湿式摩擦材であって、充填材の脱落を抑えつつ充填材による摩擦増大効果を十分に発揮することができる湿式摩擦部材を得ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決する本発明の湿式摩擦材は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材であって、上記充填材はアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなり、上記造粒粒子の平均粒径は上記繊維基材の平均繊維径より大きいことを特徴とする。
【0011】
この構成によると、造粒粒子の平均粒径が繊維基材の平均繊維径より大きいことから、湿式摩擦材が相手材に圧接されるときにも、湿式摩擦材中の充填材は繊維基材同士の間隙に沈み込み難くなり、充填材は相手材に当接することとなる。したがって充填材による摩擦特性は良好に発揮されることとなる。
【0012】
また、上記繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、上記造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。そして、上記造粒結合材は、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
ここで、造粒粒子の平均粒径が10μmに満たないと、湿式摩擦材からの造粒粒子の脱落や造粒粒子の繊維基材間への沈み込みが生じ易くなり、充填材が高い摩擦係数および良好なμ特性を維持できない場合がある。また、造粒粒子の平均粒径が100μmを超えると、充填材によって形成される粗さが大きくなり、それによって相手材への攻撃性が増大する場合がある。すなわち、造粒粒子の粒径を10〜100μmの範囲とすることで、充填材による摩擦特性がより良好に発揮されることとなる。
【0014】
本発明の湿式摩擦材において、上記湿式摩擦材は抄紙されて形成され、上記充填材は上記繊維基材同士の間に保持されている構成とすることもできる。
【0015】
また、前記課題を解決する本発明の湿式摩擦材の製造方法は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材を製造する方法であって、アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る粉末粒子製造工程と、該粉末粒子を造粒結合材によって結合し上記繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子を得る造粒工程と、上記造粒粒子からなる充填材,上記繊維基材および上記結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する形成工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この構成によって、造粒粒子の平均粒径を繊維基材の平均繊維径よりも大きく形成することができ、充填材による摩擦特性が良好に発揮される湿式摩擦材を形成することが可能となる。
【0017】
また、上記繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、上記造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。そして、上記造粒結合材は、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
本発明の湿式摩擦材の製造方法において、上記形成工程は、上記充填材および上記繊維基材を混合してスラリー状にしこのスラリーを抄紙することで抄紙体を得る抄紙工程と、該抄紙体に上記結合材を含浸させたのち加圧加熱して湿式摩擦材を得る加圧加熱工程と、を有する構成とすることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の湿式摩擦部材は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材である。
【0020】
繊維基材は、従来の湿式摩擦材に用いられる既知の有機繊維または無機繊維を、単独あるいは併用して用いることができる。有機繊維としては、リンタパルプ,木材パルプ,合成パルプ,ポリエステル系繊維,アクリル繊維,ポリアミド系繊維,ポリビニルアルコール変成繊維,ポリ塩化ビニル繊維,ポリプロピレン繊維,炭素繊維等から適宜選択した一種を用いることもできるし、あるいは複数種を混合して用いることもできる。無機繊維としては、チタン酸カルシウム繊維,ガラス繊維,アルミナ繊維,シリカ繊維,ボーキサイト繊維,カヤナイト繊維,ホウ素繊維,マグネシア繊維,金属繊維等から適宜選択した一種を用いることもできるし、あるいは複数種を混合して用いることもできる。なお、繊維基材としては強度および柔軟性を両立するためには有機繊維を用いることがより好ましい。
【0021】
結合材は、従来の湿式摩擦材に結合材として用いられる既知の熱硬化性樹脂を用いることができるが、フェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,尿素樹脂等から選択して用いることが好ましく、特にフェノール樹脂を用いることが望ましい。
【0022】
本発明の湿式摩擦材において充填材は、後述するアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなるものであるが、この造粒粒子を単独で使用するだけでなく、その他の既知の充填材をさらに併用することも可能である。
【0023】
ここで使用可能な既知の充填材としては、例えば、珪藻土,シリカ,カシューダスト,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム,硫酸バリウム,リン酸カルシウム,タルク,グラファイト等の粉末が挙げられる。
【0024】
本発明の湿式摩擦材において、充填材はアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなる。
【0025】
粉末粒子は、本出願人らの特開2000−205317号公報に記載されるような中空体を用いることができる。すなわち本発明において粉末粒子とは、アルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子を指すものである。
【0026】
充填材の材料としてこの粉末粒子を用いることで、アルミニウムを主成分とする酸化物の物性により湿式摩擦材の摩擦係数が向上する。また、粉末粒子が中空状の形状を有する中空体を有することで、接する粉末粒子同士の間に空隙が形成され、空隙内に潤滑油が入り込んで保持されるため、μ−V特性が向上される。
【0027】
すなわち、空隙内に潤滑油が入り込むことで摩擦表面の油切れが良くなり、湿式摩擦材の相手材に対する実際の接触面積が増加することから摩擦係数(μ)が向上する。そして、空隙に入り込んだ潤滑油は空隙内に保持されることから、湿式摩擦材の摩擦表面付近には潤滑油が保持されることとなり、摩擦表面付近の焼き付きは抑制されて、すべり速度(V)が向上する。
【0028】
また、この粉末粒子は中空状の形状を有し、その皮殻は薄く形成されていることから、湿式摩擦材と相手材との当接部において粉末粒子自身の弾性変形が生じる。そして、粉末粒子の皮殻は薄く形成されていることから、湿式摩擦材より突出した粉末粒子は相手材と当接する際に一部破断する場合があり、この場合には破断によって生じた開口部より中空内部に潤滑油が保持される。したがって、湿式摩擦材と相手材との接触面付近には潤滑油が良好に保持されることとなる。これらのことによって、湿式摩擦材の相手攻撃性を低減させることができる。さらに、このような粉末粒子の弾性変形や破断によって湿式摩擦材表面は滑らかになり湿式摩擦材と相手材との接触は均一におこなわれるものとなる。したがって、湿式摩擦材は相手材にほぼ均一に当接することとなり、このことからも相手攻撃性は低減される。
【0029】
ここで、粉末粒子は中空状の形状を有していることから、その強度は内部空隙の分だけ低いものとなるが、本発明の粉末粒子はアルミニウムを主成分とする酸化物で形成されていることから、粉末粒子を所定量以上配合した場合においては、この粉末粒子の中空体形状であることに由来する湿式摩擦材の強度の低下は抑制される。また、粉末粒子の配合量が少なすぎると、潤滑油が湿式摩擦材中に十分に保持されなくなり、摩擦係数の向上の効果が十分でなくなる。このため、本発明における粉末粒子には好適な配合割合が存在する。すなわち、粉末粒子は湿式摩擦材中に0.05〜30重量%程度配合されることが好ましい。
【0030】
粉末粒子は、その全てが中空状の形状を有している必要はなく、一部破断して開口した破断中空状の形状を有するものが混在していても良い。破断中空状の粉末粒子は開口部より中空内部に潤滑油が入り込み保持されることとなり、湿式摩擦材の潤滑油なじみ性,保持性および吸収性を向上させる効果がある。これらの効果を良好に発揮するためには、粉末粒子の中空形状は半球〜前球形状を維持していることが好ましい。半球以下に破断した粉末粒子の割合が全粉末粒子に対して50質量%を超えると、潤滑油の保持性や吸収性を維持できなくなり、摩擦材の摩擦係数が低下するため好ましくない。
【0031】
また、本発明において粉末粒子は平均粒径が1μm以下であり皮殻の厚さが20nm以下である。粉末粒子の平均粒径が1μmを超えると、粉末粒子によって形成される摩擦材の粗さが大きくなるため、相手攻撃性が増すこととなり好ましくない。また、皮殻の厚さが20nmを超えると粉末粒子が硬くなり、弾性変形し難くなるため、相手攻撃性を抑制することが困難となる。
【0032】
本発明の湿式摩擦材において、造粒粒子はこの粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成されたものである。ここで、造粒結合材は後述する造粒粒子の製造方法によって既知のものから適宜選択して使用することができるが、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
造粒結合材の配合量は用途によって異なるが、造粒粒子を摩擦充填材として使用する場合、配合量が少なすぎると造粒粒子の強度が十分でなく、また、配合量が過多であると結合材によって多孔構造が塞がれてしまうため、この造粒結合材の配合量は粉末粒子に対して重量で5%〜200%となるような範囲であることが好ましく、10%〜100%の範囲であることが望ましい。
【0034】
また、本発明の湿式摩擦材において、造粒粒子の平均粒径は繊維基材の平均繊維径より大きいものとなる。ここで、造粒粒子の平均粒径が繊維基材の平均繊維径より大きいことで、湿式摩擦材の相手材への圧接時においても、湿式摩擦材中の充填材は繊維基材同士の間隙に沈み込むことが防止される。その結果、充填材は相手材に良好に当接することとなり、充填材による摩擦特性は良好に発揮されることとなる。
【0035】
ここで、繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。ここで限定される範囲のうち、繊維基材の平均繊維径は通常の繊維基材の有する平均繊維径である。また、造粒粒子の平均粒径はこの繊維基材の平均繊維径より大きいことが必要となるが、造粒粒子の平均粒径をここで限定される範囲とすることで、造粒粒子すなわち充填材の湿式摩擦材中での効果を良好に保つことができる。造粒粒子の平均粒径がこれより小さい場合は、造粒粒子の平均粒径を繊維基材の平均繊維径より大きいものとすることが困難であり、所望の特性が得られない。また、造粒粒子の平均粒径がこれより大きい場合には、相手材への攻撃性が大きくなるため好ましくない。
【0036】
本発明の湿式摩擦材は抄紙されて形成されたものとすることもできるし、成形型内に注入し加圧・加熱成形によって形成されたものとすることもできるが、本発明の湿式摩擦材を抄紙されて形成されたものとする場合、湿式摩擦材を良好かつ容易に薄肉のペーパ摩擦材の形状のものとすることができる。本発明の湿式摩擦材において充填材は、上述したように繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子よりなる。したがって、湿式摩擦材を抄紙されて形成されたものとする場合にも、充填材は繊維基材同士の間に保持されていることとなる。
【0037】
本発明の湿式摩擦材の製造方法は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材を製造する方法であって、粉末粒子製造工程と、造粒工程と、形成工程と、を有する。
【0038】
粉末粒子製造工程は、アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る工程である。本発明において粉末粒子製造工程は、例えばアルミニウム塩を溶解および/または懸濁させた水溶液に有機溶剤を添加して水滴径100nm以上のW/O型エマルジョンを形成し、このW/O型エマルジョンを噴霧・燃焼させて中空状アルミナを形成することによっておこなわれる。このとき、アルミニウム塩の種類については特に限定されるものではなく、水溶性のアルミニウム塩であればよい。水溶性のアルミニウム塩としては、例えば、アルミニウムの硝酸塩,酢酸塩,塩化物等の塩を挙げることができる。また、有機溶剤は、水に難溶性でW/O型のエマルジョンを形成できるものが用いられる。このような有機溶剤としては、例えば、ヘキサン,オクタン,ケロシン,ガソリン等の炭化水素系の有機溶剤を挙げることができる。
【0039】
粉末粒子の製造工程としては、まず、エマルジョンを形成する工程をおこなう。この工程は、酸化物を形成するアルミニウムを水に溶解および/または懸濁させ、得られたイオン状または微細な懸濁状の水溶液に有機溶剤を加えて混合することで、有機溶剤をマトリックスとするW/O型エマルジョンを形成する工程である。このとき、このW/O型エマルジョンの水滴径を100nm以上とするために、必要に応じて界面活性剤をさらに配合することで水滴の粒径を調整することもできる。ここで調整されたエマルジョンの水滴粒子は酸化物を形成するアルミニウムを含むものであり、この水滴径は後述する噴霧・燃焼時にも保持される。したがって、この水滴径を調整することで酸化物生成時の反応場を制御することができる。
【0040】
W/O型エマルジョンを安定に保持するために分散剤を添加することもできる。ここで添加される分散剤は、その種類および添加量を限定するものではい。例えばカチオン性界面活性剤,アニオン性界面活性剤,ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することもでき、水溶液や有機溶剤の種類および必要とする水滴径に応じて、最適な分散材の種類および添加量を適宜選択して使用することができる。
【0041】
つぎに、上述した工程で形成されたW/O型エマルジョンを噴霧・燃焼させてアルミニウム酸化物の中空状粉末を形成する。加熱された反応炉内に噴霧されたW/O型エマルジョンの水滴粒子は、外側が有機溶剤に被覆されていることから、有機溶剤の燃焼に伴って有機溶剤側に配置されるアルミニウム塩の酸化と水滴中心側に配置される水分の蒸発とが生じ、これによって酸化物が皮殻状に形成されてアルミニウム酸化物を主成分とした中空状の粉末粒子が形成される。
【0042】
ここで、中空状の粉末粒子を形成するには、噴霧されたときのエマルジョンの水滴径が100nm以上であることが必要となる。水滴径が100nm未満であると、水滴の表面側の酸化物皮殻が形成される前に水滴が完全に収縮してしまい、粉末粒子は中空状とならず中実状となるため好ましくない。一方、水滴径が10μmより大きいと、反応場が大きくなりすぎて酸化物の生成に時間を要し、生成物の組成が不均質になる可能性があるため好ましくない。
【0043】
造粒工程は、粉末粒子を造粒結合材によって結合し繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する前記造粒粒子を得る工程である。
【0044】
まず、上述した方法で得られた粉末粒子と溶媒とによってスラリーを形成する。ここで用いる溶媒は、水あるいはエタノール等の有機溶媒等、低沸点の液体を用いることができる。なかでも水は発火の危険性がなく安価であるため好ましく使用することができる。
【0045】
溶媒に対する粉末粒子の配合量は湿式摩擦材の用途によって異なるが、配合量が高すぎるとスラリーの流動性は良好なものとならない場合があり、また、配合量が低すぎると造粒粒子の粒径や強度が十分なものとならない場合がある。本発明において、粉末粒子の配合量は1〜50重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることが望ましい。
【0046】
また、このスラリーには、粉末粒子同士を結合する造粒結合材が配合される。造粒結合材は、上述した有機物,無機金属塩,無機ゾル溶液等の種々のものより適宜選択して使用することができる。ここで、有機物よりなる造粒結合材は一般的に耐熱性が低い。したがって、この有機物よりなる造粒結合材を用いて形成した造粒粉末を摩擦充填材として高摩擦条件で使用すると、過度の摩擦によって湿式摩擦材に発熱が生じるような場合があり、結合材が軟化して造粒粒子が崩壊する場合がある。また、無機金属塩を用いる場合には加熱・乾燥時に分解が生じ、塩化水素,窒素酸化物等の有毒ガスが生じる場合があるため取り扱いに注意を要する。さらに、アルミナは良好な摩擦特性を示す。これらのことから、湿式摩擦材を高負荷の条件下で使用する場合や造粒粒子の形成を加熱・乾燥条件でおこなうような場合には、造粒結合材としてアルミナゾルを用いることが特に好ましい。
【0047】
つぎに、上述した工程で調整された粉末粒子を含むスラリーを造粒する。造粒は上述したように既知の方法でおこなうことができるが、粒径のそろった造粒粒子を得るためにはスプレードライ乾燥法を用いることが好ましい。スプレードライ乾燥法によると、上述した工程で形成された粉末粒子のスラリーを既知のスプレードライヤーにかける加熱・乾燥をおこなうことで、スラリーに配合された溶媒が除去され粉末粒子同士が造粒結合体で結合されて造粒粒子が形成される。
【0048】
ここで用いられる加熱温度はスラリーの性質や必要な造粒粉末の粒径によって異なるが、製造効率等を考慮すると180〜250℃程度であることが好ましい。また、この工程が完了した後にも、造粒粒子中の造粒結合材には水酸基が残留している可能性がある。したがって、形成された造粒粒子の強度をより向上させるためには、さらに、この水酸基を分解するための熱処理工程をおこなうことが好ましい。この熱処理工程は、大気中400℃〜1000℃の温度条件で1〜10時間おこなうことが好ましい。
【0049】
形成工程は、造粒粒子,繊維基材および結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する工程である。この形成工程は、繊維基材と充填材とを抄紙して抄紙体を形成し、その後に得られた抄紙体に結合材を含浸しておこなうこともできるし、あるいは結合材,充填材および繊維基材を含む湿式摩擦材材料を成形型内に注入し加圧・加熱成形する方法でおこなうこともできる。また、これに限らず既知の方法を用いておこなうことが可能である。
【0050】
また、本発明の湿式摩擦材の製造方法において、形成工程は抄紙工程と加圧加熱工程とを含む構成とすることができる。
【0051】
抄紙工程は、造粒粒子および繊維基材を混合してスラリー状にし、このスラリーを抄紙することで抄紙体を得る工程である。この抄紙工程によって、造粒粒子は繊維基材同士の間に抄き込まれることとなり、繊維基材同士の間隙に良好に保持されることとなる。この抄紙工程において、抄紙体は所望の湿式摩擦材の形状に形成することもできるし、あるいは所望の湿式摩擦材の形状より大型に形成し、その後に所望の形状に切断して用いることもできる。
【0052】
また、加圧加熱工程は、抄紙体に結合材を含浸させたのち加圧加熱して湿式摩擦材を得る工程である。
【0053】
本発明において結合材は熱硬化性樹脂であるため、この加圧加熱工程によって抄紙体に含浸された結合材は硬化する。したがってこの抄紙工程と加圧加熱工程とによって、本発明の湿式摩擦材を所望の形状に形成することができ、本発明の湿式摩擦材が形成される。なお、本発明の湿式摩擦材はクラッチディスクに用いられる湿式摩擦材に限定されるものではなく、種々の用途に用いられるものである。したがって、その形状もペーパ摩擦材に限定されるものではなく、種々の形状に形成されるものである。
【0054】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
本発明の実施例1における湿式摩擦材は、粉末粒子として中空状のアルミナを用いた例であり、充填材としてはこの中空状のアルミナが造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子が用いられた例である。本実施例の湿式摩擦材において、繊維基材としては平均繊維径5μmかつ平均繊維長1mmのアラミド繊維が用いられ、結合材としてはカシュー変成フェノール樹脂が用いられている。
【0056】
また、本実施例の湿式摩擦材において、造粒粒子および繊維基材は各々湿式摩擦材の材料全体に対して40重量%配合され、結合材は湿式摩擦材の材料全体に対して20重量%配合されている。本実施例で製造された湿式摩擦材の各種材料の配合を表1に示す。また、後述する比較例1および比較例2の湿式摩擦材の各種材料の配合も同様に表1に示す。本実施例の湿式摩擦材の製造方法を以下に説明する。
【0057】
【表1】
【0058】
(粉末粒子製造工程)
▲1▼エマルジョン化工程;水相には市販の硝酸アルミニウム9水和物を脱イオン水に濃度0.1〜2モル/リットルで溶解した硝酸アルミニウム水溶液を用いることが好ましい。本実施例においてはこの濃度を1モル/リットルとした。有機溶剤には、市販のケロシンを用いた。エマルジョンを形成する分散剤としては、太陽化学(株)製・サンソフトNo.818Hをケロシンに対して5〜10重量%用いることが好ましく、本実施例では5重量%用いた。この分散剤入りのケロシンを油層とした。
【0059】
得られた水相と油層とを混合した。この混合割合は水相/油層=40〜70/60〜30容量%となるようにすることが好ましく、本実施例では65/35容量%となるようにした。混合溶液は、ホモジナイザを用いて1000〜20000rpmの回転数で5〜30分間攪拌することが好ましい。本実施例では10000rpmの回転数で10分間攪拌し、これによってW/O型エマルジョンを得た。なお、光学顕微鏡観察の結果から、このW/O型エマルジョンの水滴径は約1〜2μmであった。
【0060】
▲2▼粉末化工程;上記エマルジョン化工程で得られたW/O型エマルジョンを特開平7−81905号公報に記載されているエマルジョン燃焼反応装置を用いて噴霧状にして油層を燃焼させるとともに水相に存在する金属イオンを酸化して中空状の粉末粒子を形成した。この反応条件は、噴霧したエマルジョンが完全燃焼し、かつ、火炎温度が700〜1000℃(本実施例では約850℃)の一定温度になるように、エマルジョンの噴霧流量,空気量(酸素量)などを制御した状態とした。得られた粉末粒子を反応管後部に設置したバグフィルターで回収した。また、本粉末粒子製造で得られた粉末粒子の平均粒径は0.4μmであり、皮殻の厚さは10nmであった。
【0061】
(造粒工程)
上記粉末粒子製造工程で得られた粉末粒子を、スプレードライ乾燥法を用いて造粒し造粒粒子を形成した。まず、粉末粒子,溶媒としての水,造粒結合材としてのアルミナゾルを混合し、スラリーを調製した。ここで、水に対する粉末粒子の配合量は10〜15重量%とすることが好ましく、造粒結合材は粉末粒子に対して重量で30%〜80%となるように配合することが好ましい。なお、本実施例においては、水に対する粉末粒子の配合量を10重量%とし、造粒結合材の粉末粒子に対する配合量を40%とした。
【0062】
調製されたスラリーをスプレードライヤー(坂本技研製)を用いて加熱・乾燥造して造粒をおこなった。造粒温度は180℃〜250℃であることが好ましく、本実施例においては200℃であった。造粒粒子をサイクロンにより回収し、さらに、大気中で加熱処理をおこない、この造粒粒子中に含有される水酸基の分解をおこなった。このときの好ましい条件としては加熱温度400〜1000℃,加熱時間1〜10時間である。また、本実施例においては950℃で4時間の加熱処理をおこなった。なお、この加熱処理後の造粒粒子の粒度分布は加熱前と比較してほぼ変化がなく、加熱処理による造粒粒子同士の凝集はみられなかった。また、本造粒工程で形成された造粒粒子の平均粒径は40μmであった。
【0063】
(形成工程)
上述した造粒工程で得られた造粒粒子を充填材とし、この充填材と繊維基材および結合材とにより湿式摩擦材を形成した。
繊維基材と充填材とを水中に分散し、抄紙機によって抄くことで繊維基材と充填材とによる抄紙体を形成した。この抄紙体は、繊維基材同士の間隙に充填材が保持される形状に形成された。
【0064】
ここで得られた抄紙体を所定形状に切断した。他方、結合材をメタノールに溶解させて結合材の希釈液を調製した。所定形状に切断された抄紙体を結合材の希釈液中に浸漬し、抄紙体に結合材を含浸させた。続いてこの結合材含有抄紙体を大気乾燥させて、メタノールを蒸発させ除去した。さらに、この結合材含有抄紙体を加圧加熱機にかけ、180℃,10MPaで2時間加圧加熱することによって結合材であるフェノール樹脂をを硬化させて本実施例の湿式摩擦材を得た。
【0065】
(比較例1)
本比較例1の湿式摩擦材は、充填材として造粒粒子のかわりに実施例1と同じ粉末粒子が配合されていること以外は実施例の湿式摩擦材と同じものである。また、本比較例1の湿式摩擦材の製造方法は、造粒工程をおこなわなかったこと以外は実施例1と同様におこなわれた。本比較例1で製造された湿式摩擦材の各種材料の配合を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
本比較例2の湿式摩擦材は、充填材が配合されず、繊維基材が80重量%配合されていること以外は実施例の湿式摩擦材と同じものである。また、本比較例2の湿式摩擦材の製造方法は、粉末粒子製造工程と造粒工程とをおこなわなかったこと以外は実施例1と同様におこなわれた。本比較例2で製造された湿式摩擦材の各種材料の配合表を表1に示す。
【0067】
(評価試験)
上記実施例および比較例1〜2で製造された湿式摩擦材は摩擦面積が200mm2,外径がφ25.6mm,内径がφ20.0mmに形成されたものである。この各湿式摩擦材をエポキシ系樹脂を接着剤として用いて金属リングに接着し、室温で24時間乾燥させることで実施例1および比較例1〜2の被試験体を形成した。各被試験体を用いて摩擦試験を行い、湿式摩擦材の摩擦特性を測定した。摩擦試験は図1に示されるスラスト・カラー型摩擦試験機によって摩擦係数を測定することでおこなった。
【0068】
潤滑油としては、市販ATF(オートマチックトランスミッションフルード)のキャッスルオートフルードT−IIIを用いた。また、相手材としてはS35材により形成され、300mm角のプレート状試片であって、湿式摩擦材と圧接される摩擦面の表面粗さ(算術平均粗さ)が0.1μmRaであるものを用いた。
【0069】
なお、摩擦試験に先立って、油温80℃,面圧1.0MPa,すべり速度1.0m/sで30分間なじみをおこない、そののちに油温80℃,面圧1.0MPaで摩擦試験を行った。摩擦係数は、加重負荷開始から30秒経過した時点での値を読みとった。本摩擦試験におけるすべり速度,試験時間等の試験条件を表2に示す。また、本摩擦試験によって得られた実施例および比較例1〜2の湿式摩擦材の被試験体の摩擦特性の比較を表すグラフを図2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
(測定結果)
図2に示されるに摩擦特性の比較によると、充填材として造粒粒子が用いられている実施例の湿式摩擦材は、造粒粒子の代わりに粉末粒子が用いられている比較例1の湿式摩擦材と比較して全般的に高い摩擦係数を示すことがわかる。
【0072】
充填材として造粒粒子を用いた実施例の湿式摩擦材は、すべり速度の増加に伴って摩擦係数が高くなる傾向、すなわち正勾配のμ−V特性を示すものである。正勾配のμ−V特性を有することは、湿式クラッチにおいて変速ショックの防止並びに耐シャダー防止性の向上に有効であることが知られている。このことから、正勾配のμ−V特性は摩擦材として望ましい特性であるということができ、この正勾配のμ−V特性を有する本実施例の湿式摩擦材は優れた摩擦特性を示すものであることがわかる。
【0073】
これに対し、比較例1の充填材として粉末粒子を用いた湿式摩擦材は、比較例2の充填材を配合していない湿式摩擦材と比較すると高い摩擦係数を示すものではあるが、実施例の湿式摩擦材のように正勾配のμ−V特性を示すものではない。さらに、比較例2の湿式摩擦材は、非常に低い摩擦係数を示すものであり、かつ、正勾配のμ−V特性も示さない。
【0074】
以上のことから、粉末粒子を、繊維基材の平均繊維径より大きい平均粒径を有する造粒粒子に造粒し充填材として用いることが、湿式摩擦材のμ増大およびμ−V特性の向上に有効であることがわかる。
【0075】
(表面状態観察)
上記摩擦試験終了後の実施例の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真を図3に示し、比較例1の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真を図4に示す。
【0076】
図4に示されるように、比較例1の湿式摩擦材においては、摩擦面の繊維基材と繊維基材との間隙には繊維基材の繊維径よりも小さい粒径の粉末粒子が存在している。また、この粉末粒子は繊維基材の配置される高さよりも低い位置に配置されている。このことから、この粉末粒子は摩擦試験によって脱落し、あるいは繊維基材同士の間隙に沈み込んで、摩擦面より移動したものと考えられる。したがってこの比較例1の湿式摩擦材においては、湿式摩擦材が相手材に圧接された状態において、相手材に当接する粉末粒子は減少することとなる。
【0077】
これに対し、図3に示されるように、実施例の湿式摩擦材においては摩擦試験終了後も、摩擦面の繊維基材と繊維基材との間隙にはこの繊維径よりも大きい粒径の造粒粒子が多く存在している。また、この造粒粒子は繊維基材と同程度の高さにまで配置されている。このことから、本実施例の湿式摩擦材においては摩擦による充填材の脱落が抑制され、かつ、充填材が繊維基材同士の間隙に沈み込むことが抑制されていることがわかる。したがって、湿式摩擦材が相手材に圧接された状態においても、充填材に由来する摩擦特性は良好に発現されるものと考えられる。
【0078】
【発明の効果】
従って本発明の湿式摩擦部材によれば、粉末粒子の中空状構造により相手攻撃性を抑えることや高い摩擦係数と良好なμ−V特性を示すことが可能となり、かつこの粉末粒子を造粒し造粒粒子としたことで充填材の脱落を抑えつつ充填材による摩擦増大効果を十分に発揮することが可能となる。さらに、造粒粒子によると正勾配のμ−V特性が得られることから、湿式クラッチの湿式摩擦材としてより望ましい特性が付与される。
【図面の簡単な説明】
【図1】摩擦試験に用いるスラスト・カラー型摩擦試験機の概略を表す図である。
【図2】本発明の実施例および比較例1〜2の湿式摩擦材の被試験体の摩擦特性の比較を表すグラフである。
実施例2の湿式摩擦部材の形状を表す図である。
【図3】摩擦試験終了後の本発明の実施例の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真である。
実施例3の湿式摩擦部材の形状を表す図である。
【図4】摩擦試験終了後の比較例1の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真である。
【発明の属する技術分野】
本発明は湿式摩擦材に関し、詳しくは良好な使用耐久性能と摩擦性能とを両立する湿式摩擦材に関する。
【0002】
【従来の技術】
湿式摩擦材は自動車のクラッチディスク等に多く用いられる。クラッチディスクに用いられた湿式摩擦材は潤滑油を介して相手材に圧接され、湿式摩擦材表面が摩擦面として相手材と係合する。この係合によって駆動側から従動側へ駆動力が伝達され、また、摩擦面と相手材とが開放されることによって駆動力が遮断される。このようなクラッチディスクにおいては、摩擦材の押しつけ加重を制御することによりすべりを発生させ継合いを滑らかにおこなうことができる。ここで用いられるような湿式摩擦材は、一般に繊維基材にフェノール樹脂やエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が含浸されたものであり、さらに、摩擦特性を調整する目的でケイ藻土やカシューダスト等の充填材や摩擦調整材が配合されたものである。また、ここで用いられる湿式摩擦材は、薄肉の形状のペーパ摩擦材に形成されたのちに金属プレートに接着されて用いられるものである。
【0003】
このような湿式摩擦材に求められる特性としては、摩擦係数が大きいこと,相手攻撃性が小さいこと,潤滑油を良好に保持・吸収すること等がある。本出願人らは先に出願した発明(特許文献1参照)において、アルミニウムを主成分とする酸化物よりなり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空体を充填材として湿式摩擦材に配合することで、湿式摩擦材の摩擦特性が向上されることを開示した。特許文献1に開示される湿式摩擦材によると、アルミニウムを主成分とする酸化物の特性により高い摩擦係数を得ることができる。また、中空体の皮殻の厚さは極めて薄く形成されていることから粒子自体が変形しやすい。このため摩擦材の相手攻撃性を抑えることができる。さらに、この湿式摩擦材によるとアルミニウムを主成分とする酸化物が中空構造を有することにより、湿式摩擦材の潤滑油のなじみ性,保持性および吸収性を向上させることができ、摩擦係数(μ)とすべり速度(V)との関係であるμ−V特性を向上させることができる。
【0004】
ここで、湿式摩擦材の製造方法としては、繊維基材よりなる抄紙体上に充填材および結合材を含む溶液を含浸させた後に加圧濾過によって過剰な溶液を除去し、加熱・加圧して湿式摩擦材とする方法がある。
【0005】
しかしこのような方法によると、抄紙体表面に充填材が堆積し、湿式摩擦材はその表面が充填材と結合材のみで覆われたものとなる場合がある。このような場合、得られた湿式摩擦材においては充填材が結合材のみで固定されるため、充填材は湿式摩擦材より脱落しやすいものとなり、湿式摩擦材の耐久性能が十分に発揮できない場合がある。
【0006】
充填材の脱落を防止するためには、抄紙体を抄紙する際に抄紙体の材料中に充填材を同時に添加しておくことができる。このことで、充填材を抄紙体内部に配置させることができ、充填材は湿式摩擦材中で繊維基材と結合材との両者によって保持されることとなる。あるいは、結合材,充填材および繊維基材を含む湿式摩擦材材料を成形型内に注入し加圧・加熱成形をおこなうこともできる。このことで、充填材は結合材と繊維基材との両者によって湿式摩擦材の内部に保持される。
【0007】
しかしこのような構成の湿式摩擦材においては、湿式摩擦材が相手材に圧接されるときに湿式摩擦材中の充填材が繊維基材同士の間隙に沈み込み易く、充填材が相手材に当接しない場合があった。この場合、充填材による摩擦増大効果が低減し、湿式摩擦材の摩擦性能が十分なものとならない場合があった。
【0008】
【特許文献1】
特開2000−205317号公報
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、摩擦係数が高く良好なμ−V特性を有しかつ相手攻撃性の抑えられた湿式摩擦材であって、充填材の脱落を抑えつつ充填材による摩擦増大効果を十分に発揮することができる湿式摩擦部材を得ることを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決する本発明の湿式摩擦材は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材であって、上記充填材はアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなり、上記造粒粒子の平均粒径は上記繊維基材の平均繊維径より大きいことを特徴とする。
【0011】
この構成によると、造粒粒子の平均粒径が繊維基材の平均繊維径より大きいことから、湿式摩擦材が相手材に圧接されるときにも、湿式摩擦材中の充填材は繊維基材同士の間隙に沈み込み難くなり、充填材は相手材に当接することとなる。したがって充填材による摩擦特性は良好に発揮されることとなる。
【0012】
また、上記繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、上記造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。そして、上記造粒結合材は、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
ここで、造粒粒子の平均粒径が10μmに満たないと、湿式摩擦材からの造粒粒子の脱落や造粒粒子の繊維基材間への沈み込みが生じ易くなり、充填材が高い摩擦係数および良好なμ特性を維持できない場合がある。また、造粒粒子の平均粒径が100μmを超えると、充填材によって形成される粗さが大きくなり、それによって相手材への攻撃性が増大する場合がある。すなわち、造粒粒子の粒径を10〜100μmの範囲とすることで、充填材による摩擦特性がより良好に発揮されることとなる。
【0014】
本発明の湿式摩擦材において、上記湿式摩擦材は抄紙されて形成され、上記充填材は上記繊維基材同士の間に保持されている構成とすることもできる。
【0015】
また、前記課題を解決する本発明の湿式摩擦材の製造方法は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材を製造する方法であって、アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る粉末粒子製造工程と、該粉末粒子を造粒結合材によって結合し上記繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子を得る造粒工程と、上記造粒粒子からなる充填材,上記繊維基材および上記結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する形成工程と、を有することを特徴とする。
【0016】
この構成によって、造粒粒子の平均粒径を繊維基材の平均繊維径よりも大きく形成することができ、充填材による摩擦特性が良好に発揮される湿式摩擦材を形成することが可能となる。
【0017】
また、上記繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、上記造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。そして、上記造粒結合材は、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0018】
本発明の湿式摩擦材の製造方法において、上記形成工程は、上記充填材および上記繊維基材を混合してスラリー状にしこのスラリーを抄紙することで抄紙体を得る抄紙工程と、該抄紙体に上記結合材を含浸させたのち加圧加熱して湿式摩擦材を得る加圧加熱工程と、を有する構成とすることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明の湿式摩擦部材は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材である。
【0020】
繊維基材は、従来の湿式摩擦材に用いられる既知の有機繊維または無機繊維を、単独あるいは併用して用いることができる。有機繊維としては、リンタパルプ,木材パルプ,合成パルプ,ポリエステル系繊維,アクリル繊維,ポリアミド系繊維,ポリビニルアルコール変成繊維,ポリ塩化ビニル繊維,ポリプロピレン繊維,炭素繊維等から適宜選択した一種を用いることもできるし、あるいは複数種を混合して用いることもできる。無機繊維としては、チタン酸カルシウム繊維,ガラス繊維,アルミナ繊維,シリカ繊維,ボーキサイト繊維,カヤナイト繊維,ホウ素繊維,マグネシア繊維,金属繊維等から適宜選択した一種を用いることもできるし、あるいは複数種を混合して用いることもできる。なお、繊維基材としては強度および柔軟性を両立するためには有機繊維を用いることがより好ましい。
【0021】
結合材は、従来の湿式摩擦材に結合材として用いられる既知の熱硬化性樹脂を用いることができるが、フェノール樹脂,エポキシ樹脂,メラミン樹脂,尿素樹脂等から選択して用いることが好ましく、特にフェノール樹脂を用いることが望ましい。
【0022】
本発明の湿式摩擦材において充填材は、後述するアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなるものであるが、この造粒粒子を単独で使用するだけでなく、その他の既知の充填材をさらに併用することも可能である。
【0023】
ここで使用可能な既知の充填材としては、例えば、珪藻土,シリカ,カシューダスト,炭酸カルシウム,酸化マグネシウム,硫酸バリウム,リン酸カルシウム,タルク,グラファイト等の粉末が挙げられる。
【0024】
本発明の湿式摩擦材において、充填材はアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなる。
【0025】
粉末粒子は、本出願人らの特開2000−205317号公報に記載されるような中空体を用いることができる。すなわち本発明において粉末粒子とは、アルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子を指すものである。
【0026】
充填材の材料としてこの粉末粒子を用いることで、アルミニウムを主成分とする酸化物の物性により湿式摩擦材の摩擦係数が向上する。また、粉末粒子が中空状の形状を有する中空体を有することで、接する粉末粒子同士の間に空隙が形成され、空隙内に潤滑油が入り込んで保持されるため、μ−V特性が向上される。
【0027】
すなわち、空隙内に潤滑油が入り込むことで摩擦表面の油切れが良くなり、湿式摩擦材の相手材に対する実際の接触面積が増加することから摩擦係数(μ)が向上する。そして、空隙に入り込んだ潤滑油は空隙内に保持されることから、湿式摩擦材の摩擦表面付近には潤滑油が保持されることとなり、摩擦表面付近の焼き付きは抑制されて、すべり速度(V)が向上する。
【0028】
また、この粉末粒子は中空状の形状を有し、その皮殻は薄く形成されていることから、湿式摩擦材と相手材との当接部において粉末粒子自身の弾性変形が生じる。そして、粉末粒子の皮殻は薄く形成されていることから、湿式摩擦材より突出した粉末粒子は相手材と当接する際に一部破断する場合があり、この場合には破断によって生じた開口部より中空内部に潤滑油が保持される。したがって、湿式摩擦材と相手材との接触面付近には潤滑油が良好に保持されることとなる。これらのことによって、湿式摩擦材の相手攻撃性を低減させることができる。さらに、このような粉末粒子の弾性変形や破断によって湿式摩擦材表面は滑らかになり湿式摩擦材と相手材との接触は均一におこなわれるものとなる。したがって、湿式摩擦材は相手材にほぼ均一に当接することとなり、このことからも相手攻撃性は低減される。
【0029】
ここで、粉末粒子は中空状の形状を有していることから、その強度は内部空隙の分だけ低いものとなるが、本発明の粉末粒子はアルミニウムを主成分とする酸化物で形成されていることから、粉末粒子を所定量以上配合した場合においては、この粉末粒子の中空体形状であることに由来する湿式摩擦材の強度の低下は抑制される。また、粉末粒子の配合量が少なすぎると、潤滑油が湿式摩擦材中に十分に保持されなくなり、摩擦係数の向上の効果が十分でなくなる。このため、本発明における粉末粒子には好適な配合割合が存在する。すなわち、粉末粒子は湿式摩擦材中に0.05〜30重量%程度配合されることが好ましい。
【0030】
粉末粒子は、その全てが中空状の形状を有している必要はなく、一部破断して開口した破断中空状の形状を有するものが混在していても良い。破断中空状の粉末粒子は開口部より中空内部に潤滑油が入り込み保持されることとなり、湿式摩擦材の潤滑油なじみ性,保持性および吸収性を向上させる効果がある。これらの効果を良好に発揮するためには、粉末粒子の中空形状は半球〜前球形状を維持していることが好ましい。半球以下に破断した粉末粒子の割合が全粉末粒子に対して50質量%を超えると、潤滑油の保持性や吸収性を維持できなくなり、摩擦材の摩擦係数が低下するため好ましくない。
【0031】
また、本発明において粉末粒子は平均粒径が1μm以下であり皮殻の厚さが20nm以下である。粉末粒子の平均粒径が1μmを超えると、粉末粒子によって形成される摩擦材の粗さが大きくなるため、相手攻撃性が増すこととなり好ましくない。また、皮殻の厚さが20nmを超えると粉末粒子が硬くなり、弾性変形し難くなるため、相手攻撃性を抑制することが困難となる。
【0032】
本発明の湿式摩擦材において、造粒粒子はこの粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成されたものである。ここで、造粒結合材は後述する造粒粒子の製造方法によって既知のものから適宜選択して使用することができるが、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0033】
造粒結合材の配合量は用途によって異なるが、造粒粒子を摩擦充填材として使用する場合、配合量が少なすぎると造粒粒子の強度が十分でなく、また、配合量が過多であると結合材によって多孔構造が塞がれてしまうため、この造粒結合材の配合量は粉末粒子に対して重量で5%〜200%となるような範囲であることが好ましく、10%〜100%の範囲であることが望ましい。
【0034】
また、本発明の湿式摩擦材において、造粒粒子の平均粒径は繊維基材の平均繊維径より大きいものとなる。ここで、造粒粒子の平均粒径が繊維基材の平均繊維径より大きいことで、湿式摩擦材の相手材への圧接時においても、湿式摩擦材中の充填材は繊維基材同士の間隙に沈み込むことが防止される。その結果、充填材は相手材に良好に当接することとなり、充填材による摩擦特性は良好に発揮されることとなる。
【0035】
ここで、繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲であることが好ましい。ここで限定される範囲のうち、繊維基材の平均繊維径は通常の繊維基材の有する平均繊維径である。また、造粒粒子の平均粒径はこの繊維基材の平均繊維径より大きいことが必要となるが、造粒粒子の平均粒径をここで限定される範囲とすることで、造粒粒子すなわち充填材の湿式摩擦材中での効果を良好に保つことができる。造粒粒子の平均粒径がこれより小さい場合は、造粒粒子の平均粒径を繊維基材の平均繊維径より大きいものとすることが困難であり、所望の特性が得られない。また、造粒粒子の平均粒径がこれより大きい場合には、相手材への攻撃性が大きくなるため好ましくない。
【0036】
本発明の湿式摩擦材は抄紙されて形成されたものとすることもできるし、成形型内に注入し加圧・加熱成形によって形成されたものとすることもできるが、本発明の湿式摩擦材を抄紙されて形成されたものとする場合、湿式摩擦材を良好かつ容易に薄肉のペーパ摩擦材の形状のものとすることができる。本発明の湿式摩擦材において充填材は、上述したように繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子よりなる。したがって、湿式摩擦材を抄紙されて形成されたものとする場合にも、充填材は繊維基材同士の間に保持されていることとなる。
【0037】
本発明の湿式摩擦材の製造方法は、繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材を製造する方法であって、粉末粒子製造工程と、造粒工程と、形成工程と、を有する。
【0038】
粉末粒子製造工程は、アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る工程である。本発明において粉末粒子製造工程は、例えばアルミニウム塩を溶解および/または懸濁させた水溶液に有機溶剤を添加して水滴径100nm以上のW/O型エマルジョンを形成し、このW/O型エマルジョンを噴霧・燃焼させて中空状アルミナを形成することによっておこなわれる。このとき、アルミニウム塩の種類については特に限定されるものではなく、水溶性のアルミニウム塩であればよい。水溶性のアルミニウム塩としては、例えば、アルミニウムの硝酸塩,酢酸塩,塩化物等の塩を挙げることができる。また、有機溶剤は、水に難溶性でW/O型のエマルジョンを形成できるものが用いられる。このような有機溶剤としては、例えば、ヘキサン,オクタン,ケロシン,ガソリン等の炭化水素系の有機溶剤を挙げることができる。
【0039】
粉末粒子の製造工程としては、まず、エマルジョンを形成する工程をおこなう。この工程は、酸化物を形成するアルミニウムを水に溶解および/または懸濁させ、得られたイオン状または微細な懸濁状の水溶液に有機溶剤を加えて混合することで、有機溶剤をマトリックスとするW/O型エマルジョンを形成する工程である。このとき、このW/O型エマルジョンの水滴径を100nm以上とするために、必要に応じて界面活性剤をさらに配合することで水滴の粒径を調整することもできる。ここで調整されたエマルジョンの水滴粒子は酸化物を形成するアルミニウムを含むものであり、この水滴径は後述する噴霧・燃焼時にも保持される。したがって、この水滴径を調整することで酸化物生成時の反応場を制御することができる。
【0040】
W/O型エマルジョンを安定に保持するために分散剤を添加することもできる。ここで添加される分散剤は、その種類および添加量を限定するものではい。例えばカチオン性界面活性剤,アニオン性界面活性剤,ノニオン性界面活性剤のいずれも使用することもでき、水溶液や有機溶剤の種類および必要とする水滴径に応じて、最適な分散材の種類および添加量を適宜選択して使用することができる。
【0041】
つぎに、上述した工程で形成されたW/O型エマルジョンを噴霧・燃焼させてアルミニウム酸化物の中空状粉末を形成する。加熱された反応炉内に噴霧されたW/O型エマルジョンの水滴粒子は、外側が有機溶剤に被覆されていることから、有機溶剤の燃焼に伴って有機溶剤側に配置されるアルミニウム塩の酸化と水滴中心側に配置される水分の蒸発とが生じ、これによって酸化物が皮殻状に形成されてアルミニウム酸化物を主成分とした中空状の粉末粒子が形成される。
【0042】
ここで、中空状の粉末粒子を形成するには、噴霧されたときのエマルジョンの水滴径が100nm以上であることが必要となる。水滴径が100nm未満であると、水滴の表面側の酸化物皮殻が形成される前に水滴が完全に収縮してしまい、粉末粒子は中空状とならず中実状となるため好ましくない。一方、水滴径が10μmより大きいと、反応場が大きくなりすぎて酸化物の生成に時間を要し、生成物の組成が不均質になる可能性があるため好ましくない。
【0043】
造粒工程は、粉末粒子を造粒結合材によって結合し繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する前記造粒粒子を得る工程である。
【0044】
まず、上述した方法で得られた粉末粒子と溶媒とによってスラリーを形成する。ここで用いる溶媒は、水あるいはエタノール等の有機溶媒等、低沸点の液体を用いることができる。なかでも水は発火の危険性がなく安価であるため好ましく使用することができる。
【0045】
溶媒に対する粉末粒子の配合量は湿式摩擦材の用途によって異なるが、配合量が高すぎるとスラリーの流動性は良好なものとならない場合があり、また、配合量が低すぎると造粒粒子の粒径や強度が十分なものとならない場合がある。本発明において、粉末粒子の配合量は1〜50重量%であることが好ましく、5〜20重量%であることが望ましい。
【0046】
また、このスラリーには、粉末粒子同士を結合する造粒結合材が配合される。造粒結合材は、上述した有機物,無機金属塩,無機ゾル溶液等の種々のものより適宜選択して使用することができる。ここで、有機物よりなる造粒結合材は一般的に耐熱性が低い。したがって、この有機物よりなる造粒結合材を用いて形成した造粒粉末を摩擦充填材として高摩擦条件で使用すると、過度の摩擦によって湿式摩擦材に発熱が生じるような場合があり、結合材が軟化して造粒粒子が崩壊する場合がある。また、無機金属塩を用いる場合には加熱・乾燥時に分解が生じ、塩化水素,窒素酸化物等の有毒ガスが生じる場合があるため取り扱いに注意を要する。さらに、アルミナは良好な摩擦特性を示す。これらのことから、湿式摩擦材を高負荷の条件下で使用する場合や造粒粒子の形成を加熱・乾燥条件でおこなうような場合には、造粒結合材としてアルミナゾルを用いることが特に好ましい。
【0047】
つぎに、上述した工程で調整された粉末粒子を含むスラリーを造粒する。造粒は上述したように既知の方法でおこなうことができるが、粒径のそろった造粒粒子を得るためにはスプレードライ乾燥法を用いることが好ましい。スプレードライ乾燥法によると、上述した工程で形成された粉末粒子のスラリーを既知のスプレードライヤーにかける加熱・乾燥をおこなうことで、スラリーに配合された溶媒が除去され粉末粒子同士が造粒結合体で結合されて造粒粒子が形成される。
【0048】
ここで用いられる加熱温度はスラリーの性質や必要な造粒粉末の粒径によって異なるが、製造効率等を考慮すると180〜250℃程度であることが好ましい。また、この工程が完了した後にも、造粒粒子中の造粒結合材には水酸基が残留している可能性がある。したがって、形成された造粒粒子の強度をより向上させるためには、さらに、この水酸基を分解するための熱処理工程をおこなうことが好ましい。この熱処理工程は、大気中400℃〜1000℃の温度条件で1〜10時間おこなうことが好ましい。
【0049】
形成工程は、造粒粒子,繊維基材および結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する工程である。この形成工程は、繊維基材と充填材とを抄紙して抄紙体を形成し、その後に得られた抄紙体に結合材を含浸しておこなうこともできるし、あるいは結合材,充填材および繊維基材を含む湿式摩擦材材料を成形型内に注入し加圧・加熱成形する方法でおこなうこともできる。また、これに限らず既知の方法を用いておこなうことが可能である。
【0050】
また、本発明の湿式摩擦材の製造方法において、形成工程は抄紙工程と加圧加熱工程とを含む構成とすることができる。
【0051】
抄紙工程は、造粒粒子および繊維基材を混合してスラリー状にし、このスラリーを抄紙することで抄紙体を得る工程である。この抄紙工程によって、造粒粒子は繊維基材同士の間に抄き込まれることとなり、繊維基材同士の間隙に良好に保持されることとなる。この抄紙工程において、抄紙体は所望の湿式摩擦材の形状に形成することもできるし、あるいは所望の湿式摩擦材の形状より大型に形成し、その後に所望の形状に切断して用いることもできる。
【0052】
また、加圧加熱工程は、抄紙体に結合材を含浸させたのち加圧加熱して湿式摩擦材を得る工程である。
【0053】
本発明において結合材は熱硬化性樹脂であるため、この加圧加熱工程によって抄紙体に含浸された結合材は硬化する。したがってこの抄紙工程と加圧加熱工程とによって、本発明の湿式摩擦材を所望の形状に形成することができ、本発明の湿式摩擦材が形成される。なお、本発明の湿式摩擦材はクラッチディスクに用いられる湿式摩擦材に限定されるものではなく、種々の用途に用いられるものである。したがって、その形状もペーパ摩擦材に限定されるものではなく、種々の形状に形成されるものである。
【0054】
【実施例】
以下、実施例および比較例により本発明を具体的に説明する。
【0055】
(実施例1)
本発明の実施例1における湿式摩擦材は、粉末粒子として中空状のアルミナを用いた例であり、充填材としてはこの中空状のアルミナが造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子が用いられた例である。本実施例の湿式摩擦材において、繊維基材としては平均繊維径5μmかつ平均繊維長1mmのアラミド繊維が用いられ、結合材としてはカシュー変成フェノール樹脂が用いられている。
【0056】
また、本実施例の湿式摩擦材において、造粒粒子および繊維基材は各々湿式摩擦材の材料全体に対して40重量%配合され、結合材は湿式摩擦材の材料全体に対して20重量%配合されている。本実施例で製造された湿式摩擦材の各種材料の配合を表1に示す。また、後述する比較例1および比較例2の湿式摩擦材の各種材料の配合も同様に表1に示す。本実施例の湿式摩擦材の製造方法を以下に説明する。
【0057】
【表1】
【0058】
(粉末粒子製造工程)
▲1▼エマルジョン化工程;水相には市販の硝酸アルミニウム9水和物を脱イオン水に濃度0.1〜2モル/リットルで溶解した硝酸アルミニウム水溶液を用いることが好ましい。本実施例においてはこの濃度を1モル/リットルとした。有機溶剤には、市販のケロシンを用いた。エマルジョンを形成する分散剤としては、太陽化学(株)製・サンソフトNo.818Hをケロシンに対して5〜10重量%用いることが好ましく、本実施例では5重量%用いた。この分散剤入りのケロシンを油層とした。
【0059】
得られた水相と油層とを混合した。この混合割合は水相/油層=40〜70/60〜30容量%となるようにすることが好ましく、本実施例では65/35容量%となるようにした。混合溶液は、ホモジナイザを用いて1000〜20000rpmの回転数で5〜30分間攪拌することが好ましい。本実施例では10000rpmの回転数で10分間攪拌し、これによってW/O型エマルジョンを得た。なお、光学顕微鏡観察の結果から、このW/O型エマルジョンの水滴径は約1〜2μmであった。
【0060】
▲2▼粉末化工程;上記エマルジョン化工程で得られたW/O型エマルジョンを特開平7−81905号公報に記載されているエマルジョン燃焼反応装置を用いて噴霧状にして油層を燃焼させるとともに水相に存在する金属イオンを酸化して中空状の粉末粒子を形成した。この反応条件は、噴霧したエマルジョンが完全燃焼し、かつ、火炎温度が700〜1000℃(本実施例では約850℃)の一定温度になるように、エマルジョンの噴霧流量,空気量(酸素量)などを制御した状態とした。得られた粉末粒子を反応管後部に設置したバグフィルターで回収した。また、本粉末粒子製造で得られた粉末粒子の平均粒径は0.4μmであり、皮殻の厚さは10nmであった。
【0061】
(造粒工程)
上記粉末粒子製造工程で得られた粉末粒子を、スプレードライ乾燥法を用いて造粒し造粒粒子を形成した。まず、粉末粒子,溶媒としての水,造粒結合材としてのアルミナゾルを混合し、スラリーを調製した。ここで、水に対する粉末粒子の配合量は10〜15重量%とすることが好ましく、造粒結合材は粉末粒子に対して重量で30%〜80%となるように配合することが好ましい。なお、本実施例においては、水に対する粉末粒子の配合量を10重量%とし、造粒結合材の粉末粒子に対する配合量を40%とした。
【0062】
調製されたスラリーをスプレードライヤー(坂本技研製)を用いて加熱・乾燥造して造粒をおこなった。造粒温度は180℃〜250℃であることが好ましく、本実施例においては200℃であった。造粒粒子をサイクロンにより回収し、さらに、大気中で加熱処理をおこない、この造粒粒子中に含有される水酸基の分解をおこなった。このときの好ましい条件としては加熱温度400〜1000℃,加熱時間1〜10時間である。また、本実施例においては950℃で4時間の加熱処理をおこなった。なお、この加熱処理後の造粒粒子の粒度分布は加熱前と比較してほぼ変化がなく、加熱処理による造粒粒子同士の凝集はみられなかった。また、本造粒工程で形成された造粒粒子の平均粒径は40μmであった。
【0063】
(形成工程)
上述した造粒工程で得られた造粒粒子を充填材とし、この充填材と繊維基材および結合材とにより湿式摩擦材を形成した。
繊維基材と充填材とを水中に分散し、抄紙機によって抄くことで繊維基材と充填材とによる抄紙体を形成した。この抄紙体は、繊維基材同士の間隙に充填材が保持される形状に形成された。
【0064】
ここで得られた抄紙体を所定形状に切断した。他方、結合材をメタノールに溶解させて結合材の希釈液を調製した。所定形状に切断された抄紙体を結合材の希釈液中に浸漬し、抄紙体に結合材を含浸させた。続いてこの結合材含有抄紙体を大気乾燥させて、メタノールを蒸発させ除去した。さらに、この結合材含有抄紙体を加圧加熱機にかけ、180℃,10MPaで2時間加圧加熱することによって結合材であるフェノール樹脂をを硬化させて本実施例の湿式摩擦材を得た。
【0065】
(比較例1)
本比較例1の湿式摩擦材は、充填材として造粒粒子のかわりに実施例1と同じ粉末粒子が配合されていること以外は実施例の湿式摩擦材と同じものである。また、本比較例1の湿式摩擦材の製造方法は、造粒工程をおこなわなかったこと以外は実施例1と同様におこなわれた。本比較例1で製造された湿式摩擦材の各種材料の配合を表1に示す。
【0066】
(比較例2)
本比較例2の湿式摩擦材は、充填材が配合されず、繊維基材が80重量%配合されていること以外は実施例の湿式摩擦材と同じものである。また、本比較例2の湿式摩擦材の製造方法は、粉末粒子製造工程と造粒工程とをおこなわなかったこと以外は実施例1と同様におこなわれた。本比較例2で製造された湿式摩擦材の各種材料の配合表を表1に示す。
【0067】
(評価試験)
上記実施例および比較例1〜2で製造された湿式摩擦材は摩擦面積が200mm2,外径がφ25.6mm,内径がφ20.0mmに形成されたものである。この各湿式摩擦材をエポキシ系樹脂を接着剤として用いて金属リングに接着し、室温で24時間乾燥させることで実施例1および比較例1〜2の被試験体を形成した。各被試験体を用いて摩擦試験を行い、湿式摩擦材の摩擦特性を測定した。摩擦試験は図1に示されるスラスト・カラー型摩擦試験機によって摩擦係数を測定することでおこなった。
【0068】
潤滑油としては、市販ATF(オートマチックトランスミッションフルード)のキャッスルオートフルードT−IIIを用いた。また、相手材としてはS35材により形成され、300mm角のプレート状試片であって、湿式摩擦材と圧接される摩擦面の表面粗さ(算術平均粗さ)が0.1μmRaであるものを用いた。
【0069】
なお、摩擦試験に先立って、油温80℃,面圧1.0MPa,すべり速度1.0m/sで30分間なじみをおこない、そののちに油温80℃,面圧1.0MPaで摩擦試験を行った。摩擦係数は、加重負荷開始から30秒経過した時点での値を読みとった。本摩擦試験におけるすべり速度,試験時間等の試験条件を表2に示す。また、本摩擦試験によって得られた実施例および比較例1〜2の湿式摩擦材の被試験体の摩擦特性の比較を表すグラフを図2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
(測定結果)
図2に示されるに摩擦特性の比較によると、充填材として造粒粒子が用いられている実施例の湿式摩擦材は、造粒粒子の代わりに粉末粒子が用いられている比較例1の湿式摩擦材と比較して全般的に高い摩擦係数を示すことがわかる。
【0072】
充填材として造粒粒子を用いた実施例の湿式摩擦材は、すべり速度の増加に伴って摩擦係数が高くなる傾向、すなわち正勾配のμ−V特性を示すものである。正勾配のμ−V特性を有することは、湿式クラッチにおいて変速ショックの防止並びに耐シャダー防止性の向上に有効であることが知られている。このことから、正勾配のμ−V特性は摩擦材として望ましい特性であるということができ、この正勾配のμ−V特性を有する本実施例の湿式摩擦材は優れた摩擦特性を示すものであることがわかる。
【0073】
これに対し、比較例1の充填材として粉末粒子を用いた湿式摩擦材は、比較例2の充填材を配合していない湿式摩擦材と比較すると高い摩擦係数を示すものではあるが、実施例の湿式摩擦材のように正勾配のμ−V特性を示すものではない。さらに、比較例2の湿式摩擦材は、非常に低い摩擦係数を示すものであり、かつ、正勾配のμ−V特性も示さない。
【0074】
以上のことから、粉末粒子を、繊維基材の平均繊維径より大きい平均粒径を有する造粒粒子に造粒し充填材として用いることが、湿式摩擦材のμ増大およびμ−V特性の向上に有効であることがわかる。
【0075】
(表面状態観察)
上記摩擦試験終了後の実施例の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真を図3に示し、比較例1の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真を図4に示す。
【0076】
図4に示されるように、比較例1の湿式摩擦材においては、摩擦面の繊維基材と繊維基材との間隙には繊維基材の繊維径よりも小さい粒径の粉末粒子が存在している。また、この粉末粒子は繊維基材の配置される高さよりも低い位置に配置されている。このことから、この粉末粒子は摩擦試験によって脱落し、あるいは繊維基材同士の間隙に沈み込んで、摩擦面より移動したものと考えられる。したがってこの比較例1の湿式摩擦材においては、湿式摩擦材が相手材に圧接された状態において、相手材に当接する粉末粒子は減少することとなる。
【0077】
これに対し、図3に示されるように、実施例の湿式摩擦材においては摩擦試験終了後も、摩擦面の繊維基材と繊維基材との間隙にはこの繊維径よりも大きい粒径の造粒粒子が多く存在している。また、この造粒粒子は繊維基材と同程度の高さにまで配置されている。このことから、本実施例の湿式摩擦材においては摩擦による充填材の脱落が抑制され、かつ、充填材が繊維基材同士の間隙に沈み込むことが抑制されていることがわかる。したがって、湿式摩擦材が相手材に圧接された状態においても、充填材に由来する摩擦特性は良好に発現されるものと考えられる。
【0078】
【発明の効果】
従って本発明の湿式摩擦部材によれば、粉末粒子の中空状構造により相手攻撃性を抑えることや高い摩擦係数と良好なμ−V特性を示すことが可能となり、かつこの粉末粒子を造粒し造粒粒子としたことで充填材の脱落を抑えつつ充填材による摩擦増大効果を十分に発揮することが可能となる。さらに、造粒粒子によると正勾配のμ−V特性が得られることから、湿式クラッチの湿式摩擦材としてより望ましい特性が付与される。
【図面の簡単な説明】
【図1】摩擦試験に用いるスラスト・カラー型摩擦試験機の概略を表す図である。
【図2】本発明の実施例および比較例1〜2の湿式摩擦材の被試験体の摩擦特性の比較を表すグラフである。
実施例2の湿式摩擦部材の形状を表す図である。
【図3】摩擦試験終了後の本発明の実施例の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真である。
実施例3の湿式摩擦部材の形状を表す図である。
【図4】摩擦試験終了後の比較例1の湿式摩擦材の摩擦面を撮影したSEM写真である。
Claims (8)
- 繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材であって、
前記充填材はアルニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下の中空状の粉末粒子が造粒結合材により結合されて形成された造粒粒子からなり、
前記造粒粒子の平均粒径は前記繊維基材の平均繊維径より大きいことを特徴とする湿式摩擦材。 - 前記繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、前記造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲である請求項1に記載の湿式摩擦材。
- 前記造粒結合材は、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載の湿式摩擦材。
- 前記湿式摩擦材は抄紙されて形成され、前記充填材は前記繊維基材同士の間に保持されている請求項1〜3のいずれかに記載の湿式摩擦材。
- 繊維基材と,充填材と,結合材とを有する湿式摩擦材を製造する方法であって、
アルミニウムを主成分とした酸化物であり平均粒径が1μm以下かつ皮殻の厚さが20nm以下である中空状の粉末粒子を得る粉末粒子製造工程と、
該粉末粒子を造粒結合材によって結合し前記繊維基材の平均繊維径より大きな平均粒径を有する造粒粒子を得る造粒工程と、
前記造粒粒子からなる充填材,前記繊維基材および前記結合材を含む原料より湿式摩擦材を形成する形成工程と、を有することを特徴とする湿式摩擦材の製造方法。 - 前記繊維基材の平均繊維径は5〜20μmの範囲であり、前記造粒粒子の平均粒径は10〜100μmの範囲である請求項5に記載の湿式摩擦材の製造方法。
- 前記造粒結合材は、ポリビニルアルコール,ポリビニルブチラール等の有機物、硝酸アルミニウム,塩化アルミニウム等の無機金属塩、アルミナゾル,シリカゾル,ジルコニアゾル等の無機ゾル溶液から選ばれる少なくとも1種である請求項5または請求項6に記載の湿式摩擦材の製造方法。
- 前記形成工程は、前記充填材および前記繊維基材を混合してスラリー状にしこのスラリーを抄紙することで抄紙体を得る抄紙工程と、該抄紙体に前記結合材を含浸させたのち加圧加熱して湿式摩擦材を得る加圧加熱工程と、を有する請求項5〜請求項7のいずれかに記載の湿式摩擦材の製造方法。
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2002
- 2002-10-15 JP JP2002300904A patent/JP2004137305A/ja active Pending
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