JP2004107768A - セルフタップ用表面処理組成物とそれで表面処理した部品およびその部品を用いた精密機械とその精密機械の接合方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】精密機械または部品の接合方法であるセルフタップにおいては、良好なねじ込みを行う為、部品に焼鈍処理やメッキ処理等を施している。その為、製造に手間がかかっている。また、部品を径圧入した時の変形やセルフタップによる雌ネジの成形時、切粉の飛散等の課題がある。
【解決手段】精密機械または部品の接合方法であるセルフタップにおいて、溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤と混合した事を特徴とする表面処理組成物を用いる。
【選択図】 なし
【解決手段】精密機械または部品の接合方法であるセルフタップにおいて、溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤と混合した事を特徴とする表面処理組成物を用いる。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は2つ以上の部品で構成される精密機械をネジ成形部品と被ネジ成形部品を使用しネジ接合するセルフタッップのセルフタップ用表面処理組成物とこれを用いた部品に関し、特に時計等の精密機械の各種部品をネジで接合する為のセルフタップに適したセルフタップ用表面処理組成物とこれを用いた部品や精密機械およびその接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、2つ以上の部品から構成される機械の多くは溶接、ネジ接合、リベット接合などにより接合されている。ネジ接合においては雄ネジと雌ネジ有する部品に一定のトルクを加え、ネジを締めて部品の接合を行っている。
【0003】
一般に雄ネジや雌ネジを有する接合部品の加工手段としては、自動盤や鍛造機を使用し、ネジ部以外の形状を切削や鍛造加工により成形した後、自動盤にあらかじめ取り付けられたネジ成形工具であるタップやダイスを使用しネジ部の成形を行う手段と、ネジ部以外の形状を成形した後、転造機等にネジ成形工具のダイスを取り付け、ネジを成形する手段がある。
【0004】
前記ネジ加工に際しては加工油を使用しており、加工後、洗浄をする必要がある。更にネジの強度を確保する為、焼き入れを施し硬度を上げる場合や、逆に靭性の確保や、2次加工を容易にする為、焼きなましを施し硬度を下げる場合があり、必要に応じて熱処理により硬さの調整をしている。この様に多くの加工工程を経てネジを有する接合部品を製造している。
【0005】
この様に、ネジを有する接合部品の加工には多くの加工工程を要する為、その製造には手間がかかる問題がある。
【0006】
これを解決する為、従来は鍛造加工によって止まり穴を明けた受足(後に雌ネジが成形される部品、被ネジ成形部品)を焼鈍処理した後、ネジ成形工具を使用せず、時計の構成部品であるネジ(ネジ成形部品)を使用して、セルフタップで受足の穴に雌ネジの成形をし、且つ、部品を接合しているものがある。(例えば特許文献1参照)
【0007】
また、セルフタップを行い易くする為、セルフタッピングネジ(ネジ成形部品)に硬性のニッケルメッキ皮膜を施した後、軟性の亜鉛系メッキ皮膜を表面処理し、被ネジ成形部品に対し雌ネジ成形、接合時に表面軟質層を変形させる事によりセルフタップし易い状態を作るものがある。(例えば特許文献2参照)
【0008】
【特許文献1】
特許第3201160号公報(第2−4項、第1、2、4図)
【特許文献2】
登録実用新案第3085604号公報(第5−10項、第2−3図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1によれば受足の雌ネジ成形工程を省略できるが、鍛造加工による加工硬化が発生する為、受足の硬度をある一定範囲に入れないとネジ立てに適した受足の状態を得る事ができない。その為、新たに焼鈍処理を必要とする問題があった。
【0010】
更に、特許文献1によれば製造時においては硬度の管理をしなくてはならない問題があった。また、金属同士を径圧入した場合、焼鈍処理を施して軟化した受足が変形等をおこす問題があった。
【0011】
また、特許文献1の方法によれば雌ネジの成形時に切粉を発生させる問題があった。特に切粉が飛散すると動作不良を発生する時計等の精密機械に使用した場合には、切粉が他の場所に移動しない様に止まり穴の構造にしなくてはならず、構造的制約受けるといった問題があった。
【0012】
又、特許文献2の方法によればメッキを施す為、メッキ工程、メッキ装置等が必要となり、加工に更に手間がかかってしまう問題があった。
【0013】
本発明の目的は、従来の課題に鑑み、被ネジ成形部品に焼鈍処理を必要とせず、径圧入しても部品の変形がなく、更に切粉の飛散もなく、構造的制約も受けず、更に、ネジ成形部品にメッキ等の大がかりな処理も行う必要のない、セルフタップ用表面処理組成物とこれを用いた部品、およびセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品または精密機械とその接合方法を提供する事にある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する為の本発明の要旨は以下の通りである。
溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を混合した事を特徴とし、または、前記極圧添加剤が、中性リン酸エステル、中性亜リン酸エステル、ホウ酸カルシウムである事を特徴とし、または、前記ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである事を特徴とするセルフタップ用表面処理組成物を用いる。
【0015】
また、さらに防錆剤が添加されている事を特徴とし、防錆剤が、エステル系、イソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステル、直鎖脂肪酸から選ばれる事を特徴とし、または、極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度が0.25wt%以上15wt%以下で、防錆剤の濃度が、0.01wt%以上0.5wt%以下でかつ、極圧添加剤の濃度以下である事を特徴とするセルフタップ用表面処理組成物を用いる。
【0016】
また、セルフタップ用表面処理組成物で表面処理する部品が、ネジ径3mm以下で、且つ、かみ合い長さがネジ径の4倍以下である事を特徴とし、または前記部品のビッカース硬度がHv300以下である事を特徴とする部品、または前記部品を用いた事を特徴とする精密機械を、前記部品を用いて組立てる接合方法を用いる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を実施例を基に更に詳しく説明する。
【0018】
本発明の表面処理組成物について説明する。
セルフタップ用表面処理組成物は、溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を添加してできる。
【0019】
前記極圧添加剤も、前記ノニオン系界面活性剤も金属表面に対する親和性が高い。その結果、これらの化合物が金属表面に接触すると薄い分子皮膜を形成する事が出来る。
【0020】
表面との親和性が高い理由は、極圧添加剤も、ノニオン系界面活性剤も共に極性基を有するからである。極性基はその親和性による金属との相互作用が強いので金属に化学的に吸着する事が知られている。
【0021】
本発明の表面処理組成物は、基本原理にこの特性を利用する。
極圧添加剤は、金属表面と相互作用する元素を有する。この元素は硫黄、リンなどで、金属に直接的に化学吸着する。化学吸着した結果、金属表面に極圧添加剤の被膜が出来る。
【0022】
前記被膜は、セツフタップを行う時、金属同士の間に挟まれる為、金属同士が直接接触する事がなくなる。この状態になると、極圧添加剤は潤滑剤として作用する事になる。また、セルフタップを行う時に強い極圧状態になったとしても、前記の元素が金属と高圧条件で化学反応を起こし、表面に金属リン化膜や、硫化膜の様な硬い皮膜を生成する為、融着等の現象が起きない。
【0023】
また、融着が起きないので切粉の発生を押えながら、セルフタップを安定して行う事が出来る。
【0024】
界面活性剤は、親油性基と親水性基とを1分子中に有している。この様な分子は親油性基の分子量が大きい為、極圧添加剤よりも分子量が大きい。
【0025】
親水性基は、水等と水素結合できる官能基である為、この基には酸素や水素等からなる極性基を有している。例えば、スルホン酸塩や、水酸基などがこれにあたる。これらの官能基は金属表面に化学的に吸着するので、表面に膜を形成するには好適な化合物である。
【0026】
金属表面にこの様な界面活性剤が存在するとセルフタップの時に金属同士の間に界面活性剤が挟まれる為、金属同士の直接的な接触が出来なくなる。
【0027】
この為、この界面活性剤の付着層が潤滑膜として作用して、結果として、良好にセルフタップが出来る事になる。界面活性剤の場合は、極圧状態におかれた場合、化合物自身の分子量が大きい為、極圧面から分子が逃げにくい性質がある。この為、安定したセルフタップを行う事が出来る。
【0028】
本発明の表面処理組成物の溶媒としては、前記添加剤が溶解すれば使用できる。
【0029】
この様な溶媒の候補としては、例えば石油系炭化水素、ヘキサン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ポリαオレフィン等の芳香族および脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、トリメチロールプロパン・吉草酸ヘプタン酸の混合エステル等のエステル類。
【0030】
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチルフェニルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、ジクロルメタン、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類、ジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類等、および水が挙げられる。
【0031】
これらの溶媒は、乾燥速度やそれぞれの添加剤の溶解性が異なる。この為、添加剤と溶媒はそれぞれの相溶性(溶解性)を確認して、溶ける場合だけ使用する事が出来る。
【0032】
次に本発明のセルフタップ用表面処理組成物に添加する極圧添加剤の説明をする。
【0033】
極圧添加剤としては、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデンや、硫化イソブチレン、ジ−t−ノニルポリサルファイド、ジベンジルサルファイド等の硫黄系、リン酸エステル系、亜リン酸エステル系、ホウ酸カルシウムなどがあげられるが、硫黄系の焼き付き防止剤を使用した場合には錆を生じた事から、中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムが本発明のセルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤として好適である事が判った。
【0034】
中性リン酸エステルとしては、具体的には、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリメチロールプロパンフォスフェ−ト、トリフェニルフォスフェート、トリス(ノニルフェニル)フォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリス(トリデシル)フォスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスフェート、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタユリスリトールテトラフォスフェート。
【0035】
テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルフォスフェート、ビス(トリデシル)ペンタユリスリトールジフォスフェート、ビス(ノニルフェニル)ペンタユリスリトールジフォスフェート、トリステアリルフォスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、水添ビスフェノール・A・ペンタユリスリトールフォスフェートポリマーなどが挙げられる。
【0036】
中性亜リン酸エステルとしては、具体的には、トリオレイルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、トリメチロールプロパンフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイト。
【0037】
テトラ(トリデシル)−4,4−イソプロピリデンジフェニルフォスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリステアリルフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスファイトポリマーなどが挙げられる。
【0038】
これらは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いる事ができる
【0039】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物に添加するノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等がある。
【0040】
本発明者は、市販の界面活性剤を各種試験して最適な材料を検討した。検討した材料としては脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、第4級アンモニウム塩など様々な陰イオン性、非イオン性、陽イオン性の界面活性剤を比較検討した。
【0041】
その結果、特にノニオン系が変色などもなく安定であった。ノニオン系界面活性剤としては特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルに分類されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが良好な効果を示す事を見いだした。
【0042】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、1分子中に有する脂肪酸エステルの数は3個以下が好ましく、脂肪酸としては、炭素数が10以上20以下の飽和および不飽和脂肪酸が好ましい。具体的には、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸が良い。
【0043】
ポリオキシエチレン鎖は、繰り返し単位であるオキシエチレン基の繰り返し数が6以上20以下が好ましく、特に繰り返し数が20が最も好ましい。
【0044】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物は、更に防錆剤を添加する事ができる。部品をセルフタップ用表面処理組成物で処理した後、長期にわたって保存する場合に特に有効である。
【0045】
防錆剤は、極圧添加剤同様に、金属の表面に化学吸着する為、結果として添加剤の金属表面に対する付着量が減る為、処理機能が低下するので添加量に注意が必要である。
【0046】
但し、ノニオン系界面活性剤としてソルビタンエステルを使用している場合には、前記化合物が防錆剤の機能を有する為、新たに防錆剤を添加する必要はない。
【0047】
防錆剤としては、ソルビンタンモノエステル、ペンタエリスリトールモノエステル等のエステル系、イソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステル(ASA)系、スルフォネート系、アミン塩系、直鎖脂肪酸系が考えられる。
【0048】
それぞれの防錆剤を用いて種々選定したところ、エステル系、ASA系、直鎖脂肪酸系が優れた結果を与えた。
【0049】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物の溶媒に対する極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度について説明する。
【0050】
溶媒に対する極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度としては、1wt%から15wt%の範囲で添加されている事が好ましい。15wt%以上入れても効果は変わらず、溶媒が蒸発した後、表面に多くの添加剤が析出するので、量は15wt%以下にとどめておく事が好ましい。また、添加量が1wt%以下になると処理の効果が現れなくなるので1wt%以上添加する事が好ましい。
【0051】
以上の事から添加量としては1wt%から15wt%で添加する必要があるが、処理の効果を安定させる為、1wt%から10wt%の範囲で添加する事が更に好ましい。
【0052】
本発明のセルフタップ表面処理組成物の防錆材としては、0.01wt%以上0.5wt%以下で添加する事が好ましい。添加量が少ないと、防錆効果を発揮しなく、逆に多すぎると極圧添加剤の処理機能を低下させる為、0.5wt%以下にする事が好ましい。また、極圧添加剤の添加量以下で添加する事が好ましい。
【0053】
次に、本発明の部品について説明する。
本発明の部品は以下に説明する部品にセルフタップ用表面処理組成物で表面処理を施した部品を示す。
【0054】
本発明の部品はネジ接合を目的とし、金属製でネジ成形部品の雄ネジおよび雌ネジを有する部品、あるいは金属製で被ネジ成形部品の孔、柱状の形状を有する部品を指す。前記部品の役割を果たすものであれば特に定まった形状に限定されるものではない。
【0055】
代表的な本発明の部品構造の略図を図2から図5に示す。
【0056】
図2は被ネジ成形部品である、孔11を有する部品を示す基枠1の代表的な断面図である。
【0057】
図3は同じく被ネジ成形部品である柱状21の形状を有する部品を示す基枠2の代表的な断面図である。
【0058】
図4はネジ成形部品の雄ネジ3の代表的な側面図である。
【0059】
図5は同じくネジ成形部品の雌ネジを有する部品、いわゆるナット4の代表的な断面図である。
【0060】
この様にセルフタップ用表面処理組成物で表面処理される本発明の部品は、被ネジ成形部品または、ネジ成形部品であって、前記ネジ機能を果たす部品で有れば良く、形状が限定されるものではない。
【0061】
本発明の部品のサイズについて説明する。
【0062】
ネジ成形部品および被ネジ成形部品の大きさとしてはネジ径が3mm以下のネジで且つ、かみ合い長さがネジ径の4倍以下の部品を指す。
前記部品のネジ径が3mmを超える場合、もしくはかみ合い長さがネジ径の4倍を超える場合、本発明のセルフタップ用表面処理組成物で表面処理を施してもネジを成形するトルクの低下に効果がない。
【0063】
本発明の被ネジ成形部品の材料について説明する。
【0064】
被ネジ成形部品の材質としては例えば鉄系および銅系等の一般金属単体、および金属合金を指す。
【0065】
被ネジ成形部品の硬度(本実施例の硬度はビッカース硬度を示している)としては前記一般金属単体および金属合金において硬度がHv300以下の材料を指す。
【0066】
被ネジ成形部品の硬度がHv300を超える硬質の材料やステンレス等の難削材には本発明のセルフタップ用表面処理組成物で表面処理を施してもネジを成形するトルクの低下に効果がない。
次に本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品の表面処理方法について説明する。
【0067】
まず、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いてネジの成形と同時に部品表面に処理を行う第1の表面処理方法について説明する。
【0068】
該第1の表面処理方法は、ネジ成形部品のネジ3のネジ部31、ナット4のネジ部41、もしくは被ネジ成形部品の基枠1の孔11、基枠2の柱状部21に、もしくはその両方にセルフタップ用表面処理組成物を直接塗布する事で、金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ、膜を形成させる方法である。
【0069】
つぎに、ネジを成形する前にセルフタップ用表面処理組成物を用いて処理を行う第2の表面処理方法について説明する。
【0070】
該第2の表面処理方法は、セルフタップ用表面処理組成物を入れた槽の中にネジ成形部品のネジ3、ナット4もしくは被ネジ成形部品の基枠1、基枠2、またはその両方を入れ、超音波、揺動を加えながら浸漬させ、ネジ3、ナット4もしくは基枠1、基枠2、またはその両方の部品の表面に表面処理による分子の膜を形成させる方法である。
【0071】
なお、部品の表面に残る残存液が不要な場合は、熱風、冷風乾燥または常温放置により乾燥させるか、もしくはふき取っても良い。
【0072】
次に、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品、精密機械について説明する。
【0073】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品は、例えば、前述のセルフタップを行うネジ成形部品もしくは被ネジ成形部品を指し、そのネジ径は3mm以下、かみ合い長さはネジ径の4倍以下のものを指し、且つ、被ネジ成形部品の硬度はHv300以下の部品を指す。
【0074】
また、本発明を用いた部品の精密機械としては、例えば時計、携帯電話およびカメラ等の中にある部品、例えば回路基盤やシールドケース等を金属製の基枠にセルフタップで接合する構造の部品を指す。
【0075】
次に、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた精密機械の接合方法を説明する。
【0076】
図6は本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた精密機械の組立断面図で、押え部材5を金属製の基枠1とネジ3で接合する構造の断面図を示す。
【0077】
本発明の精密機械の接合方法は、まずネジ3のネジ部31もしくは基枠1の孔11、またはその両方に直接、ディスペンサー等の空圧機器を使用しシリンジ(液槽)とニードル(塗布針)を介してセルフタップ用表面処理組成物を塗布し、基枠1とネジ3の金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ、膜を形成させる。
【0078】
前記状態においてネジ3に一定なトルクを加え、基枠1の孔11にネジ部31を螺入する事で雌ネジ12を成形し、押え部材5と基枠1を接合する。
【0079】
前記螺入時に、セルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤および/または界面活性剤の膜は、ネジ3のネジ部31と基枠1の孔11の間に保持され、潤滑膜として作用しながら雌ネジ12を成形する。この為、セルフタップが一定のトルクで容易に行う事ができる。
【0080】
また前記状態においてはネジ3のネジ部31と基枠1の雌ネジ12の間には融着が起きず、切粉の発生を押える事ができる。
【0081】
なお、塗布の方法としてはディスペンサー等を使わず、注射器もしくは針等を使用し塗布してもかまわない。
【0082】
図7は押え部材5を金属製の基枠2とナット4で接合する構造の断面図を示す。
【0083】
この場合もナット4のネジ部41もしくは基枠2の柱状部21、またはその両方に直接、ディスペンサー等の空圧機器を使用しシリンジ(液槽)とニードル(塗布針)を介してセルフタップ用表面処理組成物を塗布し、基枠2とナット4の金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ、膜を形成させる。
【0084】
前記状態においてナット4に一定なトルクを加え、基枠2の柱状部21にネジ部41を螺入する事で雄ネジ22を成形し、押え部材5と基枠2を接合する。
【0085】
前記螺入時に、セルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤および/または界面活性剤の膜は、ナット4のネジ部41と基枠2の柱状部21の間に保持され、潤滑膜として作用しながら雄ネジ22を成形する。この為、セルフタップが一定のトルクで容易に行う事ができる。
【0086】
また前記状態においてはナット4のネジ部41と基枠2の雄ネジ22の間には融着が起きず、切粉の発生を押える事ができる。
【0087】
なお、図6の場合と同じように塗布の方法としてはディスペンサー等を使わず、注射器もしくは針等を使用し塗布してもかまわない。
【0088】
また、前記表面処理方法ではセルフタップ用表面処理組成物を塗布するのが困難な場合、セルフタップ用表面処理組成物を入れた槽の中に複数のネジ3、ナット4もしくは基枠1、基枠2、またはその両方を入れ、超音波、揺動を加えながら浸漬させ、ネジ3、ナット4、基枠1、基枠2、または両方の部品の表面に分子の膜を形成させれば良い。
【0089】
その後、一定なトルクを加えたネジ3、ナット4を基枠1、基枠2に螺入させ、雌ネジを成形、押え部材5を接合する。
【0090】
螺入および接合、精密機械に残存液が弊害を及ぼす場合は、熱風、冷風乾燥または常温放置により乾燥させるか、もしくはふき取って螺入、接合を行う。
【0091】
次に本発明の部品を用いた代表的な精密機械である時計の接合方法について説明する。
【0092】
図9は、従来の時計のムーブメントの組立断面図を示す。
時計のムーブメントは、一般に図9に示すように地板7と呼ばれる基枠とその地板7上に配置されたコイル9,ヨーク8等の部品を、地板7に接合された雌ネジ61を有する金属製の受足6に、ネジ3を螺入する事によって接合している。
【0093】
この様にネジ3によってする接合方法はムーブメントの分解、組立が容易である事から時計の接合方法では多く用いられている。
【0094】
図8は本発明に使用する孔101を有する金属製の受足10の断面図である。
本発明を用いて時計部品を接合する場合、図9に示す様な受足6を使用せず、図8に示すような孔101を有する金属製の受足10を使用する。
【0095】
まず、受足10にネジ3を螺入する前に、ネジ3のネジ部31、もしくは受足10の孔101、もしくはその両方にディスペンサー等の空圧機器を使用しシリンジ(液槽)とニードル(塗布針)を介してセルフタップ用表面処理組成物を塗布する事で、金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ膜を形成させる。
【0096】
次に前記状態において一定のトルクでネジ3を受足10の孔101に螺入する事で図1に示す様に雌ネジ102を成形し、ヨーク8、コイル9を接合する。
【0097】
前記螺入時に、セルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤および/または界面活性剤の膜は、ネジ3のネジ部31と受足10の孔101の間に保持され、潤滑膜として作用しながら雌ネジ102を成形する。この為、セルフタップが一定のトルクで容易に行う事ができる。
【0098】
また前記状態においてはネジ3のネジ部31と受足10の雌ネジ102の間には融着が起きず、切粉の発生を押える事ができる。
【0099】
なお、塗布の方法としてはディスペンサー等を使わず、注射器もしくは針等を使用し塗布してもかまわない。
【0100】
また、前記表面処理方法ではセルフタップ用表面処理組成物を塗布するのが困難な場合、地板7に接合する前の孔101を有する金属製の受足10、もしくはネジ3、またはその両方をセルフタップ用表面処理組成物を入れた槽の中に入れ、浸漬、乾燥させた後、受足10を地板に接合させ、一定なトルクを加えたネジ3を受足10の孔101に螺入する事により図1に示す様に雌ネジを成形し、ヨーク8、コイル9を接合してもよい。
【0101】
(実施例1および比較例1)
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、硫黄系の極圧添加剤として、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、硫化イソブチレン、ジ−t−ノニルポリサルファイド、ジベンジルサルファイドを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0102】
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、中性リン酸エステル系の極圧添加剤としてトリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリメチロールプロパンフォスフェ−ト、トリフェニルフォスフェート、トリス(ノニルフェニル)フォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリス(トリデシル)フォスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスフェート、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタユリスリトールテトラフォスフェートを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0103】
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、中性亜リン酸エステル系の極圧添加剤としてトリオレイルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、トリメチロールプロパンフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフにェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイトを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0104】
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、ホウ酸カルシウムを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0105】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、以上の表面処理組成物を用いて浸積により表面処理を行った。続いて処理した受足10を40℃で相対湿度が95%の恒温高湿層に保管して腐食の状態を観察した。
【0106】
この結果、硫黄系の焼き付き防止剤を使用した場合には錆を生じたが、中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムの場合は特に変化は見受けられなかった。
【0107】
次に変化が見受けられなかった中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムで処理した前記受足10を用いてネジ立てを実施したところ処理をしていない受足10に比べネジを成形するトルクも30%以上低下し、良好にネジ立てが出来た。
【0108】
以上の事から、本発明のセルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤として中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムが好適である事が判った。
【0109】
(実施例2および比較例2)
溶媒に水を用い、市販の界面活性剤を各種溶媒に5wt%の濃度で添加し、表面処理組成物を得た。試験した市販の界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンの繰り返し回数は20で、脂肪酸はラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸の3種類)、第4級アンモニウム塩である。
【0110】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、上記の表面処理組成物を用いて浸積によりそれぞれ表面処理を行った。続いて処理した受足10を40℃で相対湿度が95%の恒温高湿層に保管して腐食の状態を観察した。
【0111】
その結果、特にノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが変色などもなく良好であった。
【0112】
次に変化が見受けられなかった前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルで処理した前記受足10を用いてネジ立てを実施したところ処理をしていない受足10に比べネジを成形するトルクも30%以上低下し、良好にネジ立てが出来た。
【0113】
以上の事から、本発明のセルフタップ用表面処理組成物の界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンの繰り返し回数は20で、脂肪酸はラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸の3種類)が好適である事が判った。
【0114】
(実施例3および比較例3)
溶媒にイソプロピルアルコールを用いこれにトリオレイルフォスフェートを0.1wt%から20wt%まで0.05wt%毎に濃度を変えたセルフタップ用表面処理組成物を作成した。
【0115】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、前記の表面処理組成物を用いて浸積によりそれぞれ表面処理を行った。
つづいて前記時計部品を用いてネジ立てを実施した。
【0116】
この結果、濃度が0.20wt%以下ではネジを成形するトルクに低下の効果は見受けられなかった。濃度が0.25wt%から15wt%以下の範囲では処理をしていない受足10に比べ、トルク30%低下して良好な結果であった。10.05wt%以上では部品に汚れが発生したので外観品質不良となった。
【0117】
また、合わせてトリオレイルフォスファイト、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンの繰り返し回数は20で、脂肪酸はラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸の3種類)についても同様の実験を行ったところ、同様の結果を得た。
【0118】
以上の事から、極圧添加剤とノニオン系界面活性剤の最適濃度は0.25wt%以上15wt%以下が最適である事が判った。
【0119】
また、前記実験で用いた極圧添加剤とノニオン系界面活性剤を混合した場合についても同様の実験を実施したところ、極圧添加剤とノニオン系界面活性剤の添加量の合計が0.25wt%以上15wt%以下が最適である事が判った。
【0120】
(実施例4および比較例4)
トリオレイルフォスファイトとトリオレイルフォスフェートをノナン中にそれぞれ0.3wt%の濃度で溶解させ2種類のセルフタップ用表面処理組成物を得た。また、前記の表面処理組成物にイソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステルの防錆剤を添加してセルフタップ用表面処理組成物を得た。防錆剤を添加した量は、0wt%、0.01wt%、0.1wt%、0.25wt%、0.5wt%、0.6wt%である。
【0121】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、前記の表面処理組成物を用いて浸積によりそれぞれ表面処理を行った。
【0122】
つづいて前記時計部品を用いてネジ立てを実施した。
【0123】
この結果、防錆剤を0.3wt%以下で添加した物はいずれも処理をしていない受足10に比べ、ネジを成形するトルクが30%低下して良好な結果を得た。また、防錆性も良く錆の発生はなかった。
3wt%以上添加した物はトルクが10%以内しか低下しなかった。
【0124】
以上のように幾通りも実験を重ねた結果、極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度が0.25wt%以上10wt%以下で、防錆剤の濃度が、0.01wt%以上0.5wt%以下でかつ、極圧添加剤の濃度以下である事が良い事が分かった。
【0125】
(実施例5から9および比較例5から9)
はじめに実施例5から9および比較例5から9に使用する部品と試験方法について説明する。
【0126】
試験に使用したネジ成形部品、ネジ3およびナット4についての説明する。
【0127】
ネジ成形部品については図4に示すネジ3および図5に示すナット4の形状を使用した。ネジ径としてはS0.4、S0.6、M1、M1.6、M2、M2.5、M3、M3.5を使用し、かみ合い長さはネジ径に対して2倍〜5倍のものを使用した。
【0128】
ネジ3は鍛造加工により加工されたブランクに対して転造加工にてネジ部を成形し、ナットについては鍛造加工されたブランクにタップを使用しネジ部を成形した。ネジ3およびナット4の硬度は、Hv450以上とした。
【0129】
被ネジ成形部品は図2に示す孔を有する部品、基枠1および図3に示す柱状の形状を有する部品基枠2の形状を使用した。
【0130】
被ネジ成形部品の基枠1,2の材質は黄銅、リン青銅、低炭素鋼、ステンレス鋼等を使用した。また、硬度はHv150〜Hv300を使用し、低炭素鋼およびステンレス鋼の硬度は、Hv300〜Hv350を使用した。
【0131】
孔11および柱状部21の径の寸法はネジ成形部品のネジ径に対して80%〜90%とし、厚みは各ネジの長さに対して厚いものを使用した。
【0132】
孔11は切削加工にて貫通穴を明け、柱状部21については切削加工により柱状を成形し基枠1に接合したものを使用した。
【0133】
ねじ込みは市販の電動ドライバーを使用し、ネジ3、ナット4と基枠1,2との間に0.2mmの固定部品を配置し、ネジ3またはナット4を着座まで締め込む事とした。
【0134】
試験の判定は、固定部品にネジ3またはナット4が着座するまでのネジを成形するトルクとネジが破壊するトルクとをトルク測定器にて測定した。
【0135】
ネジが破壊するトルクに対してネジを成形するトルクが高くなるとネジの破壊が発生しネジの成形は成立しない事が判っている。
【0136】
また、着座後のネジ3およびナット4を10回、ネジ締めを繰り返して切粉の飛散状況を確認した。飛散状態の確認は顕微鏡を用いて観察する。
【0137】
(実施例5および比較例5)
ネジ3およびナット4、ネジ径がS0.4からM3.5に対してセルフタップ用表面処理組成物を直接、塗布し、黄銅、低炭素鋼等の各材料の基枠1または基枠2に対して螺入を行った。
この時のネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の2倍を使用した。
【0138】
この結果、黄銅、リン青銅、低炭素鋼に対してのS0.4からM3まで領域において、ネジを成形するトルクに15%〜30%の低下が認められ、良好な結果を得る事ができた。
【0139】
特にリン青銅に対しては30%を超えるトルクの低下が認められた。
【0140】
但し、ネジ径がM3.5になるとトルクの低下は認められなかった。
【0141】
また、硬度Hv300〜Hv350の低炭素鋼およびステンレス鋼についてはトルクの低下が認められず、特にS0.4からM1のネジではネジ破壊を起こした。
【0142】
以上の事から、ネジ径がM3以下のネジで、Hv300以下の銅系、鉄系の材質のものに最適と分かった。
【0143】
(実施例6および比較例6)
ネジ3およびナット4のネジ径としてS0.4、M1、M2、M3を使用し、基枠1および基枠2にセルフタップ用表面処理組成物を直接、塗布し、黄銅、低炭素鋼等の各材料の基枠1または基枠2に対して螺入を行った。
このときのネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の2倍、3倍、4倍、5倍に設定した。
【0144】
この結果、ネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の4倍までの領域でネジを成形するトルクに15%〜30%の低下が認められた。但し、ネジの長さがネジ径の5倍においてはネジを成形するトルクの低下が認められず、特にS0.4とM1のネジにおいてはネジの破壊を起こした。
【0145】
以上の事から、ネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の4倍以下が最適と判った。
【0146】
(実施例7および比較例7)
ネジ径としてS0.4、M1、M2、M3のネジ3およびナット4と基枠1および基枠2をセルフタップ用表面処理組成物入れた槽の中に入れ、超音波、揺動を加えながら浸漬させた後、乾燥させたものを使用し、基枠1または基枠2に対して螺入を行った。
ネジのかみ合い長さはネジ径の4倍を使用した。
【0147】
表面処理の組み合わせとしては、ネジ3および/または基枠1とナット4および/または基枠2に表面処理を行った。
【0148】
その結果、ネジ3、ナット4に表面処理をした場合、基枠1および基枠2に表面処理をした場合、ネジ3、ナット4および基枠1、基枠2の両方に表面処理を行った場合のいずれもネジを成形するトルクに15%〜30%の低下が認められた。
【0149】
特にネジ3、ナット4および基枠1、基枠2の両方に表面処理を行った場合のネジを成 形するトルクの低下が20%〜35%認められた。
【0150】
以上の事から、浸漬における表面処理方法についても良好なネジ立てができる事が判った。
【0151】
(実施例8および比較例8)
前記実施例7において着座後のネジおよびナットのネジ締めを10回繰り返して切粉の飛散状況を確認した。
【0152】
その結果、切粉の発生量は著しく少なくなり、微量な切粉も飛散しない事が認められた。
以上の事から、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いると切粉が飛散しない事が判った。
【0153】
(実施例9および比較例9)
以上の結果をもとに、時計部品を用いてネジ立てを実施し、精密機械(ここでは例に時計を挙げている)を製造した。受足10は鍛造加工したリン青銅製の部品でネジ3はネジ径がS0.6、かみ合い長さはネジ径の2倍の部品である。この受足10の孔101に各種セルフタップ用表面処理組成物を直接塗布し、ネジ3の螺入を行った。
【0154】
その結果、すべてのセルフタップ用表面処理組成物に対してネジを成形するトルクに30%以上の低下が認められ、且つ、ネジ3を10回、ネジ締めを繰り返しても切粉の飛散はおこらず、良好なネジ締め結果を得る事ができた。
【0155】
また、時計部品の接合が効率よくできた。また、分解組立を行っても切り粉が出ない為、時計に切粉が混入して時計を停止させる事もなかった。
【0156】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば以下の効果を奏する。
【0157】
溶媒に少なくとも極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を混合したセルフタップ用表面処理組成物で、精密機械用のネジ立てと固定に関する部品の表面処理を実施したので、ネジ形成時のトルクが大幅に低減した。
【0158】
この為、熱処理やメッキ処理などの大がかりな前処理を行う事なく、手間を掛けずに簡便にただネジを螺入するだけで部品または精密機械を固定する事が出来るようになった。
【0159】
また、前記の部品を使用して精密部品や精密機械を接合する方法を行ったので、製造に要する手間が大幅に削減でき、従来のネジ締めと固定に関する工程を、本発明のセルフタップ用表面処理組成物で部品の表面処理を行った部品をただネジを締めるだけで固定を完了できるようになり、製造工程が簡素になった。
【0160】
さらに、前記の製造工程で製造された精密機械(例えばここでは時計を例にとって説明してきた)を、ネジを使用して分解・組立を繰り返し(切粉が飛散せず、ネジ部も破壊されないので)行う事が出来るようになった。また、切粉が飛散しないので、従来のような止まり穴構造にする制約がなくなり、設計に余裕が出来た。
【0161】
この他、本発明によれば、焼鈍により硬度を下げる事がない為、従来抱えていた部品の削れや傷、へこみや曲がりと言うような問題も完全に解消できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す時計のムーブメントの組立断面図で、本発明の実施例である時計用金属製受足を用いて各部品を接合した状態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る孔を有する部品の断面図である。
【図3】本発明に係る柱状の形状を有する部品の断面図である。
【図4】本発明に係る雄ネジを有する部品、ネジの側面図である。
【図5】本発明に係る雌ネジを有する部品、ナットの断面図である。
【図6】本発明に係る孔を有する部品と雄ネジを有する部品の実施例を用いて押え部材を接合した状態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る柱状形状有する部品と雌ネジを有する部品の実施例を用いて押え部材を接合した状態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る時計用金属製受足の実施例を示す断面図である。
【図9】従来の時計のムーブメントの組立断面図で、従来の時計用金属製受足を用いて各部品を接合した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1、2 基枠
3 ネジ
4 ナット
6、10 受足
11、101 孔
12、22、102 成形されたネジ部
21 柱状部
31、41 ネジ部
【発明の属する技術分野】
本発明は2つ以上の部品で構成される精密機械をネジ成形部品と被ネジ成形部品を使用しネジ接合するセルフタッップのセルフタップ用表面処理組成物とこれを用いた部品に関し、特に時計等の精密機械の各種部品をネジで接合する為のセルフタップに適したセルフタップ用表面処理組成物とこれを用いた部品や精密機械およびその接合方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、2つ以上の部品から構成される機械の多くは溶接、ネジ接合、リベット接合などにより接合されている。ネジ接合においては雄ネジと雌ネジ有する部品に一定のトルクを加え、ネジを締めて部品の接合を行っている。
【0003】
一般に雄ネジや雌ネジを有する接合部品の加工手段としては、自動盤や鍛造機を使用し、ネジ部以外の形状を切削や鍛造加工により成形した後、自動盤にあらかじめ取り付けられたネジ成形工具であるタップやダイスを使用しネジ部の成形を行う手段と、ネジ部以外の形状を成形した後、転造機等にネジ成形工具のダイスを取り付け、ネジを成形する手段がある。
【0004】
前記ネジ加工に際しては加工油を使用しており、加工後、洗浄をする必要がある。更にネジの強度を確保する為、焼き入れを施し硬度を上げる場合や、逆に靭性の確保や、2次加工を容易にする為、焼きなましを施し硬度を下げる場合があり、必要に応じて熱処理により硬さの調整をしている。この様に多くの加工工程を経てネジを有する接合部品を製造している。
【0005】
この様に、ネジを有する接合部品の加工には多くの加工工程を要する為、その製造には手間がかかる問題がある。
【0006】
これを解決する為、従来は鍛造加工によって止まり穴を明けた受足(後に雌ネジが成形される部品、被ネジ成形部品)を焼鈍処理した後、ネジ成形工具を使用せず、時計の構成部品であるネジ(ネジ成形部品)を使用して、セルフタップで受足の穴に雌ネジの成形をし、且つ、部品を接合しているものがある。(例えば特許文献1参照)
【0007】
また、セルフタップを行い易くする為、セルフタッピングネジ(ネジ成形部品)に硬性のニッケルメッキ皮膜を施した後、軟性の亜鉛系メッキ皮膜を表面処理し、被ネジ成形部品に対し雌ネジ成形、接合時に表面軟質層を変形させる事によりセルフタップし易い状態を作るものがある。(例えば特許文献2参照)
【0008】
【特許文献1】
特許第3201160号公報(第2−4項、第1、2、4図)
【特許文献2】
登録実用新案第3085604号公報(第5−10項、第2−3図)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
特許文献1によれば受足の雌ネジ成形工程を省略できるが、鍛造加工による加工硬化が発生する為、受足の硬度をある一定範囲に入れないとネジ立てに適した受足の状態を得る事ができない。その為、新たに焼鈍処理を必要とする問題があった。
【0010】
更に、特許文献1によれば製造時においては硬度の管理をしなくてはならない問題があった。また、金属同士を径圧入した場合、焼鈍処理を施して軟化した受足が変形等をおこす問題があった。
【0011】
また、特許文献1の方法によれば雌ネジの成形時に切粉を発生させる問題があった。特に切粉が飛散すると動作不良を発生する時計等の精密機械に使用した場合には、切粉が他の場所に移動しない様に止まり穴の構造にしなくてはならず、構造的制約受けるといった問題があった。
【0012】
又、特許文献2の方法によればメッキを施す為、メッキ工程、メッキ装置等が必要となり、加工に更に手間がかかってしまう問題があった。
【0013】
本発明の目的は、従来の課題に鑑み、被ネジ成形部品に焼鈍処理を必要とせず、径圧入しても部品の変形がなく、更に切粉の飛散もなく、構造的制約も受けず、更に、ネジ成形部品にメッキ等の大がかりな処理も行う必要のない、セルフタップ用表面処理組成物とこれを用いた部品、およびセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品または精密機械とその接合方法を提供する事にある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成する為の本発明の要旨は以下の通りである。
溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を混合した事を特徴とし、または、前記極圧添加剤が、中性リン酸エステル、中性亜リン酸エステル、ホウ酸カルシウムである事を特徴とし、または、前記ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである事を特徴とするセルフタップ用表面処理組成物を用いる。
【0015】
また、さらに防錆剤が添加されている事を特徴とし、防錆剤が、エステル系、イソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステル、直鎖脂肪酸から選ばれる事を特徴とし、または、極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度が0.25wt%以上15wt%以下で、防錆剤の濃度が、0.01wt%以上0.5wt%以下でかつ、極圧添加剤の濃度以下である事を特徴とするセルフタップ用表面処理組成物を用いる。
【0016】
また、セルフタップ用表面処理組成物で表面処理する部品が、ネジ径3mm以下で、且つ、かみ合い長さがネジ径の4倍以下である事を特徴とし、または前記部品のビッカース硬度がHv300以下である事を特徴とする部品、または前記部品を用いた事を特徴とする精密機械を、前記部品を用いて組立てる接合方法を用いる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を実施例を基に更に詳しく説明する。
【0018】
本発明の表面処理組成物について説明する。
セルフタップ用表面処理組成物は、溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を添加してできる。
【0019】
前記極圧添加剤も、前記ノニオン系界面活性剤も金属表面に対する親和性が高い。その結果、これらの化合物が金属表面に接触すると薄い分子皮膜を形成する事が出来る。
【0020】
表面との親和性が高い理由は、極圧添加剤も、ノニオン系界面活性剤も共に極性基を有するからである。極性基はその親和性による金属との相互作用が強いので金属に化学的に吸着する事が知られている。
【0021】
本発明の表面処理組成物は、基本原理にこの特性を利用する。
極圧添加剤は、金属表面と相互作用する元素を有する。この元素は硫黄、リンなどで、金属に直接的に化学吸着する。化学吸着した結果、金属表面に極圧添加剤の被膜が出来る。
【0022】
前記被膜は、セツフタップを行う時、金属同士の間に挟まれる為、金属同士が直接接触する事がなくなる。この状態になると、極圧添加剤は潤滑剤として作用する事になる。また、セルフタップを行う時に強い極圧状態になったとしても、前記の元素が金属と高圧条件で化学反応を起こし、表面に金属リン化膜や、硫化膜の様な硬い皮膜を生成する為、融着等の現象が起きない。
【0023】
また、融着が起きないので切粉の発生を押えながら、セルフタップを安定して行う事が出来る。
【0024】
界面活性剤は、親油性基と親水性基とを1分子中に有している。この様な分子は親油性基の分子量が大きい為、極圧添加剤よりも分子量が大きい。
【0025】
親水性基は、水等と水素結合できる官能基である為、この基には酸素や水素等からなる極性基を有している。例えば、スルホン酸塩や、水酸基などがこれにあたる。これらの官能基は金属表面に化学的に吸着するので、表面に膜を形成するには好適な化合物である。
【0026】
金属表面にこの様な界面活性剤が存在するとセルフタップの時に金属同士の間に界面活性剤が挟まれる為、金属同士の直接的な接触が出来なくなる。
【0027】
この為、この界面活性剤の付着層が潤滑膜として作用して、結果として、良好にセルフタップが出来る事になる。界面活性剤の場合は、極圧状態におかれた場合、化合物自身の分子量が大きい為、極圧面から分子が逃げにくい性質がある。この為、安定したセルフタップを行う事が出来る。
【0028】
本発明の表面処理組成物の溶媒としては、前記添加剤が溶解すれば使用できる。
【0029】
この様な溶媒の候補としては、例えば石油系炭化水素、ヘキサン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ポリαオレフィン等の芳香族および脂肪族炭化水素、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル、トリメチロールプロパン・吉草酸ヘプタン酸の混合エステル等のエステル類。
【0030】
アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチルフェニルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、ジクロルメタン、トリクロロエチレン等の塩素系溶剤類、ジエチレングリコール、グリセリン等のグリコール類等、および水が挙げられる。
【0031】
これらの溶媒は、乾燥速度やそれぞれの添加剤の溶解性が異なる。この為、添加剤と溶媒はそれぞれの相溶性(溶解性)を確認して、溶ける場合だけ使用する事が出来る。
【0032】
次に本発明のセルフタップ用表面処理組成物に添加する極圧添加剤の説明をする。
【0033】
極圧添加剤としては、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデンや、硫化イソブチレン、ジ−t−ノニルポリサルファイド、ジベンジルサルファイド等の硫黄系、リン酸エステル系、亜リン酸エステル系、ホウ酸カルシウムなどがあげられるが、硫黄系の焼き付き防止剤を使用した場合には錆を生じた事から、中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムが本発明のセルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤として好適である事が判った。
【0034】
中性リン酸エステルとしては、具体的には、トリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリメチロールプロパンフォスフェ−ト、トリフェニルフォスフェート、トリス(ノニルフェニル)フォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリス(トリデシル)フォスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスフェート、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタユリスリトールテトラフォスフェート。
【0035】
テトラ(トリデシル)−4,4’−イソプロピリデンジフェニルフォスフェート、ビス(トリデシル)ペンタユリスリトールジフォスフェート、ビス(ノニルフェニル)ペンタユリスリトールジフォスフェート、トリステアリルフォスフェート、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスフェート、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスフェート、水添ビスフェノール・A・ペンタユリスリトールフォスフェートポリマーなどが挙げられる。
【0036】
中性亜リン酸エステルとしては、具体的には、トリオレイルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、トリメチロールプロパンフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイト。
【0037】
テトラ(トリデシル)−4,4−イソプロピリデンジフェニルフォスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジフォスファイト、トリステアリルフォスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジフォスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイト、水添ビスフェノールA・ペンタエリスリトールフォスファイトポリマーなどが挙げられる。
【0038】
これらは、1種単独で、あるいは2種以上組み合わせて用いる事ができる
【0039】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物に添加するノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等がある。
【0040】
本発明者は、市販の界面活性剤を各種試験して最適な材料を検討した。検討した材料としては脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、第4級アンモニウム塩など様々な陰イオン性、非イオン性、陽イオン性の界面活性剤を比較検討した。
【0041】
その結果、特にノニオン系が変色などもなく安定であった。ノニオン系界面活性剤としては特に、ポリオキシエチレンアルキルエーテルに分類されるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが良好な効果を示す事を見いだした。
【0042】
ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルは、1分子中に有する脂肪酸エステルの数は3個以下が好ましく、脂肪酸としては、炭素数が10以上20以下の飽和および不飽和脂肪酸が好ましい。具体的には、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸が良い。
【0043】
ポリオキシエチレン鎖は、繰り返し単位であるオキシエチレン基の繰り返し数が6以上20以下が好ましく、特に繰り返し数が20が最も好ましい。
【0044】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物は、更に防錆剤を添加する事ができる。部品をセルフタップ用表面処理組成物で処理した後、長期にわたって保存する場合に特に有効である。
【0045】
防錆剤は、極圧添加剤同様に、金属の表面に化学吸着する為、結果として添加剤の金属表面に対する付着量が減る為、処理機能が低下するので添加量に注意が必要である。
【0046】
但し、ノニオン系界面活性剤としてソルビタンエステルを使用している場合には、前記化合物が防錆剤の機能を有する為、新たに防錆剤を添加する必要はない。
【0047】
防錆剤としては、ソルビンタンモノエステル、ペンタエリスリトールモノエステル等のエステル系、イソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステル(ASA)系、スルフォネート系、アミン塩系、直鎖脂肪酸系が考えられる。
【0048】
それぞれの防錆剤を用いて種々選定したところ、エステル系、ASA系、直鎖脂肪酸系が優れた結果を与えた。
【0049】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物の溶媒に対する極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度について説明する。
【0050】
溶媒に対する極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度としては、1wt%から15wt%の範囲で添加されている事が好ましい。15wt%以上入れても効果は変わらず、溶媒が蒸発した後、表面に多くの添加剤が析出するので、量は15wt%以下にとどめておく事が好ましい。また、添加量が1wt%以下になると処理の効果が現れなくなるので1wt%以上添加する事が好ましい。
【0051】
以上の事から添加量としては1wt%から15wt%で添加する必要があるが、処理の効果を安定させる為、1wt%から10wt%の範囲で添加する事が更に好ましい。
【0052】
本発明のセルフタップ表面処理組成物の防錆材としては、0.01wt%以上0.5wt%以下で添加する事が好ましい。添加量が少ないと、防錆効果を発揮しなく、逆に多すぎると極圧添加剤の処理機能を低下させる為、0.5wt%以下にする事が好ましい。また、極圧添加剤の添加量以下で添加する事が好ましい。
【0053】
次に、本発明の部品について説明する。
本発明の部品は以下に説明する部品にセルフタップ用表面処理組成物で表面処理を施した部品を示す。
【0054】
本発明の部品はネジ接合を目的とし、金属製でネジ成形部品の雄ネジおよび雌ネジを有する部品、あるいは金属製で被ネジ成形部品の孔、柱状の形状を有する部品を指す。前記部品の役割を果たすものであれば特に定まった形状に限定されるものではない。
【0055】
代表的な本発明の部品構造の略図を図2から図5に示す。
【0056】
図2は被ネジ成形部品である、孔11を有する部品を示す基枠1の代表的な断面図である。
【0057】
図3は同じく被ネジ成形部品である柱状21の形状を有する部品を示す基枠2の代表的な断面図である。
【0058】
図4はネジ成形部品の雄ネジ3の代表的な側面図である。
【0059】
図5は同じくネジ成形部品の雌ネジを有する部品、いわゆるナット4の代表的な断面図である。
【0060】
この様にセルフタップ用表面処理組成物で表面処理される本発明の部品は、被ネジ成形部品または、ネジ成形部品であって、前記ネジ機能を果たす部品で有れば良く、形状が限定されるものではない。
【0061】
本発明の部品のサイズについて説明する。
【0062】
ネジ成形部品および被ネジ成形部品の大きさとしてはネジ径が3mm以下のネジで且つ、かみ合い長さがネジ径の4倍以下の部品を指す。
前記部品のネジ径が3mmを超える場合、もしくはかみ合い長さがネジ径の4倍を超える場合、本発明のセルフタップ用表面処理組成物で表面処理を施してもネジを成形するトルクの低下に効果がない。
【0063】
本発明の被ネジ成形部品の材料について説明する。
【0064】
被ネジ成形部品の材質としては例えば鉄系および銅系等の一般金属単体、および金属合金を指す。
【0065】
被ネジ成形部品の硬度(本実施例の硬度はビッカース硬度を示している)としては前記一般金属単体および金属合金において硬度がHv300以下の材料を指す。
【0066】
被ネジ成形部品の硬度がHv300を超える硬質の材料やステンレス等の難削材には本発明のセルフタップ用表面処理組成物で表面処理を施してもネジを成形するトルクの低下に効果がない。
次に本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品の表面処理方法について説明する。
【0067】
まず、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いてネジの成形と同時に部品表面に処理を行う第1の表面処理方法について説明する。
【0068】
該第1の表面処理方法は、ネジ成形部品のネジ3のネジ部31、ナット4のネジ部41、もしくは被ネジ成形部品の基枠1の孔11、基枠2の柱状部21に、もしくはその両方にセルフタップ用表面処理組成物を直接塗布する事で、金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ、膜を形成させる方法である。
【0069】
つぎに、ネジを成形する前にセルフタップ用表面処理組成物を用いて処理を行う第2の表面処理方法について説明する。
【0070】
該第2の表面処理方法は、セルフタップ用表面処理組成物を入れた槽の中にネジ成形部品のネジ3、ナット4もしくは被ネジ成形部品の基枠1、基枠2、またはその両方を入れ、超音波、揺動を加えながら浸漬させ、ネジ3、ナット4もしくは基枠1、基枠2、またはその両方の部品の表面に表面処理による分子の膜を形成させる方法である。
【0071】
なお、部品の表面に残る残存液が不要な場合は、熱風、冷風乾燥または常温放置により乾燥させるか、もしくはふき取っても良い。
【0072】
次に、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品、精密機械について説明する。
【0073】
本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた部品は、例えば、前述のセルフタップを行うネジ成形部品もしくは被ネジ成形部品を指し、そのネジ径は3mm以下、かみ合い長さはネジ径の4倍以下のものを指し、且つ、被ネジ成形部品の硬度はHv300以下の部品を指す。
【0074】
また、本発明を用いた部品の精密機械としては、例えば時計、携帯電話およびカメラ等の中にある部品、例えば回路基盤やシールドケース等を金属製の基枠にセルフタップで接合する構造の部品を指す。
【0075】
次に、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた精密機械の接合方法を説明する。
【0076】
図6は本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いた精密機械の組立断面図で、押え部材5を金属製の基枠1とネジ3で接合する構造の断面図を示す。
【0077】
本発明の精密機械の接合方法は、まずネジ3のネジ部31もしくは基枠1の孔11、またはその両方に直接、ディスペンサー等の空圧機器を使用しシリンジ(液槽)とニードル(塗布針)を介してセルフタップ用表面処理組成物を塗布し、基枠1とネジ3の金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ、膜を形成させる。
【0078】
前記状態においてネジ3に一定なトルクを加え、基枠1の孔11にネジ部31を螺入する事で雌ネジ12を成形し、押え部材5と基枠1を接合する。
【0079】
前記螺入時に、セルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤および/または界面活性剤の膜は、ネジ3のネジ部31と基枠1の孔11の間に保持され、潤滑膜として作用しながら雌ネジ12を成形する。この為、セルフタップが一定のトルクで容易に行う事ができる。
【0080】
また前記状態においてはネジ3のネジ部31と基枠1の雌ネジ12の間には融着が起きず、切粉の発生を押える事ができる。
【0081】
なお、塗布の方法としてはディスペンサー等を使わず、注射器もしくは針等を使用し塗布してもかまわない。
【0082】
図7は押え部材5を金属製の基枠2とナット4で接合する構造の断面図を示す。
【0083】
この場合もナット4のネジ部41もしくは基枠2の柱状部21、またはその両方に直接、ディスペンサー等の空圧機器を使用しシリンジ(液槽)とニードル(塗布針)を介してセルフタップ用表面処理組成物を塗布し、基枠2とナット4の金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ、膜を形成させる。
【0084】
前記状態においてナット4に一定なトルクを加え、基枠2の柱状部21にネジ部41を螺入する事で雄ネジ22を成形し、押え部材5と基枠2を接合する。
【0085】
前記螺入時に、セルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤および/または界面活性剤の膜は、ナット4のネジ部41と基枠2の柱状部21の間に保持され、潤滑膜として作用しながら雄ネジ22を成形する。この為、セルフタップが一定のトルクで容易に行う事ができる。
【0086】
また前記状態においてはナット4のネジ部41と基枠2の雄ネジ22の間には融着が起きず、切粉の発生を押える事ができる。
【0087】
なお、図6の場合と同じように塗布の方法としてはディスペンサー等を使わず、注射器もしくは針等を使用し塗布してもかまわない。
【0088】
また、前記表面処理方法ではセルフタップ用表面処理組成物を塗布するのが困難な場合、セルフタップ用表面処理組成物を入れた槽の中に複数のネジ3、ナット4もしくは基枠1、基枠2、またはその両方を入れ、超音波、揺動を加えながら浸漬させ、ネジ3、ナット4、基枠1、基枠2、または両方の部品の表面に分子の膜を形成させれば良い。
【0089】
その後、一定なトルクを加えたネジ3、ナット4を基枠1、基枠2に螺入させ、雌ネジを成形、押え部材5を接合する。
【0090】
螺入および接合、精密機械に残存液が弊害を及ぼす場合は、熱風、冷風乾燥または常温放置により乾燥させるか、もしくはふき取って螺入、接合を行う。
【0091】
次に本発明の部品を用いた代表的な精密機械である時計の接合方法について説明する。
【0092】
図9は、従来の時計のムーブメントの組立断面図を示す。
時計のムーブメントは、一般に図9に示すように地板7と呼ばれる基枠とその地板7上に配置されたコイル9,ヨーク8等の部品を、地板7に接合された雌ネジ61を有する金属製の受足6に、ネジ3を螺入する事によって接合している。
【0093】
この様にネジ3によってする接合方法はムーブメントの分解、組立が容易である事から時計の接合方法では多く用いられている。
【0094】
図8は本発明に使用する孔101を有する金属製の受足10の断面図である。
本発明を用いて時計部品を接合する場合、図9に示す様な受足6を使用せず、図8に示すような孔101を有する金属製の受足10を使用する。
【0095】
まず、受足10にネジ3を螺入する前に、ネジ3のネジ部31、もしくは受足10の孔101、もしくはその両方にディスペンサー等の空圧機器を使用しシリンジ(液槽)とニードル(塗布針)を介してセルフタップ用表面処理組成物を塗布する事で、金属表面に極圧添加剤および/または界面活性剤を化学吸着させ膜を形成させる。
【0096】
次に前記状態において一定のトルクでネジ3を受足10の孔101に螺入する事で図1に示す様に雌ネジ102を成形し、ヨーク8、コイル9を接合する。
【0097】
前記螺入時に、セルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤および/または界面活性剤の膜は、ネジ3のネジ部31と受足10の孔101の間に保持され、潤滑膜として作用しながら雌ネジ102を成形する。この為、セルフタップが一定のトルクで容易に行う事ができる。
【0098】
また前記状態においてはネジ3のネジ部31と受足10の雌ネジ102の間には融着が起きず、切粉の発生を押える事ができる。
【0099】
なお、塗布の方法としてはディスペンサー等を使わず、注射器もしくは針等を使用し塗布してもかまわない。
【0100】
また、前記表面処理方法ではセルフタップ用表面処理組成物を塗布するのが困難な場合、地板7に接合する前の孔101を有する金属製の受足10、もしくはネジ3、またはその両方をセルフタップ用表面処理組成物を入れた槽の中に入れ、浸漬、乾燥させた後、受足10を地板に接合させ、一定なトルクを加えたネジ3を受足10の孔101に螺入する事により図1に示す様に雌ネジを成形し、ヨーク8、コイル9を接合してもよい。
【0101】
(実施例1および比較例1)
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、硫黄系の極圧添加剤として、ジチオリン酸モリブデン、ジチオカルバミン酸モリブデン、硫化イソブチレン、ジ−t−ノニルポリサルファイド、ジベンジルサルファイドを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0102】
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、中性リン酸エステル系の極圧添加剤としてトリクレジルフォスフェート、トリキシレニルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート、トリメチロールプロパンフォスフェ−ト、トリフェニルフォスフェート、トリス(ノニルフェニル)フォスフェート、トリエチルフォスフェート、トリス(トリデシル)フォスフェート、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスフェート、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタユリスリトールテトラフォスフェートを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0103】
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、中性亜リン酸エステル系の極圧添加剤としてトリオレイルフォスファイト、トリオクチルフォスファイト、トリメチロールプロパンフォスファイト、トリフェニルフォスファイト、トリス(ノニルフェニル)フォスファイト、トリエチルフォスファイト、トリス(トリデシル)フォスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジフォスファイト、テトラフにェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラフォスファイトを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0104】
溶媒にトリメチロールプロパン吉草酸エステルを用い、ホウ酸カルシウムを溶媒に対してそれぞれ3wt%添加し表面処理組成物を得た。
【0105】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、以上の表面処理組成物を用いて浸積により表面処理を行った。続いて処理した受足10を40℃で相対湿度が95%の恒温高湿層に保管して腐食の状態を観察した。
【0106】
この結果、硫黄系の焼き付き防止剤を使用した場合には錆を生じたが、中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムの場合は特に変化は見受けられなかった。
【0107】
次に変化が見受けられなかった中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムで処理した前記受足10を用いてネジ立てを実施したところ処理をしていない受足10に比べネジを成形するトルクも30%以上低下し、良好にネジ立てが出来た。
【0108】
以上の事から、本発明のセルフタップ用表面処理組成物の極圧添加剤として中性のリン酸エステルと中性の亜リン酸エステルとホウ酸カルシウムが好適である事が判った。
【0109】
(実施例2および比較例2)
溶媒に水を用い、市販の界面活性剤を各種溶媒に5wt%の濃度で添加し、表面処理組成物を得た。試験した市販の界面活性剤は、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンの繰り返し回数は20で、脂肪酸はラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸の3種類)、第4級アンモニウム塩である。
【0110】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、上記の表面処理組成物を用いて浸積によりそれぞれ表面処理を行った。続いて処理した受足10を40℃で相対湿度が95%の恒温高湿層に保管して腐食の状態を観察した。
【0111】
その結果、特にノニオン系界面活性剤であるポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルが変色などもなく良好であった。
【0112】
次に変化が見受けられなかった前記ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルで処理した前記受足10を用いてネジ立てを実施したところ処理をしていない受足10に比べネジを成形するトルクも30%以上低下し、良好にネジ立てが出来た。
【0113】
以上の事から、本発明のセルフタップ用表面処理組成物の界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンの繰り返し回数は20で、脂肪酸はラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸の3種類)が好適である事が判った。
【0114】
(実施例3および比較例3)
溶媒にイソプロピルアルコールを用いこれにトリオレイルフォスフェートを0.1wt%から20wt%まで0.05wt%毎に濃度を変えたセルフタップ用表面処理組成物を作成した。
【0115】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、前記の表面処理組成物を用いて浸積によりそれぞれ表面処理を行った。
つづいて前記時計部品を用いてネジ立てを実施した。
【0116】
この結果、濃度が0.20wt%以下ではネジを成形するトルクに低下の効果は見受けられなかった。濃度が0.25wt%から15wt%以下の範囲では処理をしていない受足10に比べ、トルク30%低下して良好な結果であった。10.05wt%以上では部品に汚れが発生したので外観品質不良となった。
【0117】
また、合わせてトリオレイルフォスファイト、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(ポリオキシエチレンの繰り返し回数は20で、脂肪酸はラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸の3種類)についても同様の実験を行ったところ、同様の結果を得た。
【0118】
以上の事から、極圧添加剤とノニオン系界面活性剤の最適濃度は0.25wt%以上15wt%以下が最適である事が判った。
【0119】
また、前記実験で用いた極圧添加剤とノニオン系界面活性剤を混合した場合についても同様の実験を実施したところ、極圧添加剤とノニオン系界面活性剤の添加量の合計が0.25wt%以上15wt%以下が最適である事が判った。
【0120】
(実施例4および比較例4)
トリオレイルフォスファイトとトリオレイルフォスフェートをノナン中にそれぞれ0.3wt%の濃度で溶解させ2種類のセルフタップ用表面処理組成物を得た。また、前記の表面処理組成物にイソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステルの防錆剤を添加してセルフタップ用表面処理組成物を得た。防錆剤を添加した量は、0wt%、0.01wt%、0.1wt%、0.25wt%、0.5wt%、0.6wt%である。
【0121】
鍛造加工したリン青銅製の時計部品である受足10を、前記の表面処理組成物を用いて浸積によりそれぞれ表面処理を行った。
【0122】
つづいて前記時計部品を用いてネジ立てを実施した。
【0123】
この結果、防錆剤を0.3wt%以下で添加した物はいずれも処理をしていない受足10に比べ、ネジを成形するトルクが30%低下して良好な結果を得た。また、防錆性も良く錆の発生はなかった。
3wt%以上添加した物はトルクが10%以内しか低下しなかった。
【0124】
以上のように幾通りも実験を重ねた結果、極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度が0.25wt%以上10wt%以下で、防錆剤の濃度が、0.01wt%以上0.5wt%以下でかつ、極圧添加剤の濃度以下である事が良い事が分かった。
【0125】
(実施例5から9および比較例5から9)
はじめに実施例5から9および比較例5から9に使用する部品と試験方法について説明する。
【0126】
試験に使用したネジ成形部品、ネジ3およびナット4についての説明する。
【0127】
ネジ成形部品については図4に示すネジ3および図5に示すナット4の形状を使用した。ネジ径としてはS0.4、S0.6、M1、M1.6、M2、M2.5、M3、M3.5を使用し、かみ合い長さはネジ径に対して2倍〜5倍のものを使用した。
【0128】
ネジ3は鍛造加工により加工されたブランクに対して転造加工にてネジ部を成形し、ナットについては鍛造加工されたブランクにタップを使用しネジ部を成形した。ネジ3およびナット4の硬度は、Hv450以上とした。
【0129】
被ネジ成形部品は図2に示す孔を有する部品、基枠1および図3に示す柱状の形状を有する部品基枠2の形状を使用した。
【0130】
被ネジ成形部品の基枠1,2の材質は黄銅、リン青銅、低炭素鋼、ステンレス鋼等を使用した。また、硬度はHv150〜Hv300を使用し、低炭素鋼およびステンレス鋼の硬度は、Hv300〜Hv350を使用した。
【0131】
孔11および柱状部21の径の寸法はネジ成形部品のネジ径に対して80%〜90%とし、厚みは各ネジの長さに対して厚いものを使用した。
【0132】
孔11は切削加工にて貫通穴を明け、柱状部21については切削加工により柱状を成形し基枠1に接合したものを使用した。
【0133】
ねじ込みは市販の電動ドライバーを使用し、ネジ3、ナット4と基枠1,2との間に0.2mmの固定部品を配置し、ネジ3またはナット4を着座まで締め込む事とした。
【0134】
試験の判定は、固定部品にネジ3またはナット4が着座するまでのネジを成形するトルクとネジが破壊するトルクとをトルク測定器にて測定した。
【0135】
ネジが破壊するトルクに対してネジを成形するトルクが高くなるとネジの破壊が発生しネジの成形は成立しない事が判っている。
【0136】
また、着座後のネジ3およびナット4を10回、ネジ締めを繰り返して切粉の飛散状況を確認した。飛散状態の確認は顕微鏡を用いて観察する。
【0137】
(実施例5および比較例5)
ネジ3およびナット4、ネジ径がS0.4からM3.5に対してセルフタップ用表面処理組成物を直接、塗布し、黄銅、低炭素鋼等の各材料の基枠1または基枠2に対して螺入を行った。
この時のネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の2倍を使用した。
【0138】
この結果、黄銅、リン青銅、低炭素鋼に対してのS0.4からM3まで領域において、ネジを成形するトルクに15%〜30%の低下が認められ、良好な結果を得る事ができた。
【0139】
特にリン青銅に対しては30%を超えるトルクの低下が認められた。
【0140】
但し、ネジ径がM3.5になるとトルクの低下は認められなかった。
【0141】
また、硬度Hv300〜Hv350の低炭素鋼およびステンレス鋼についてはトルクの低下が認められず、特にS0.4からM1のネジではネジ破壊を起こした。
【0142】
以上の事から、ネジ径がM3以下のネジで、Hv300以下の銅系、鉄系の材質のものに最適と分かった。
【0143】
(実施例6および比較例6)
ネジ3およびナット4のネジ径としてS0.4、M1、M2、M3を使用し、基枠1および基枠2にセルフタップ用表面処理組成物を直接、塗布し、黄銅、低炭素鋼等の各材料の基枠1または基枠2に対して螺入を行った。
このときのネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の2倍、3倍、4倍、5倍に設定した。
【0144】
この結果、ネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の4倍までの領域でネジを成形するトルクに15%〜30%の低下が認められた。但し、ネジの長さがネジ径の5倍においてはネジを成形するトルクの低下が認められず、特にS0.4とM1のネジにおいてはネジの破壊を起こした。
【0145】
以上の事から、ネジ3およびナット4のかみ合い長さはネジ径の4倍以下が最適と判った。
【0146】
(実施例7および比較例7)
ネジ径としてS0.4、M1、M2、M3のネジ3およびナット4と基枠1および基枠2をセルフタップ用表面処理組成物入れた槽の中に入れ、超音波、揺動を加えながら浸漬させた後、乾燥させたものを使用し、基枠1または基枠2に対して螺入を行った。
ネジのかみ合い長さはネジ径の4倍を使用した。
【0147】
表面処理の組み合わせとしては、ネジ3および/または基枠1とナット4および/または基枠2に表面処理を行った。
【0148】
その結果、ネジ3、ナット4に表面処理をした場合、基枠1および基枠2に表面処理をした場合、ネジ3、ナット4および基枠1、基枠2の両方に表面処理を行った場合のいずれもネジを成形するトルクに15%〜30%の低下が認められた。
【0149】
特にネジ3、ナット4および基枠1、基枠2の両方に表面処理を行った場合のネジを成 形するトルクの低下が20%〜35%認められた。
【0150】
以上の事から、浸漬における表面処理方法についても良好なネジ立てができる事が判った。
【0151】
(実施例8および比較例8)
前記実施例7において着座後のネジおよびナットのネジ締めを10回繰り返して切粉の飛散状況を確認した。
【0152】
その結果、切粉の発生量は著しく少なくなり、微量な切粉も飛散しない事が認められた。
以上の事から、本発明のセルフタップ用表面処理組成物を用いると切粉が飛散しない事が判った。
【0153】
(実施例9および比較例9)
以上の結果をもとに、時計部品を用いてネジ立てを実施し、精密機械(ここでは例に時計を挙げている)を製造した。受足10は鍛造加工したリン青銅製の部品でネジ3はネジ径がS0.6、かみ合い長さはネジ径の2倍の部品である。この受足10の孔101に各種セルフタップ用表面処理組成物を直接塗布し、ネジ3の螺入を行った。
【0154】
その結果、すべてのセルフタップ用表面処理組成物に対してネジを成形するトルクに30%以上の低下が認められ、且つ、ネジ3を10回、ネジ締めを繰り返しても切粉の飛散はおこらず、良好なネジ締め結果を得る事ができた。
【0155】
また、時計部品の接合が効率よくできた。また、分解組立を行っても切り粉が出ない為、時計に切粉が混入して時計を停止させる事もなかった。
【0156】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば以下の効果を奏する。
【0157】
溶媒に少なくとも極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を混合したセルフタップ用表面処理組成物で、精密機械用のネジ立てと固定に関する部品の表面処理を実施したので、ネジ形成時のトルクが大幅に低減した。
【0158】
この為、熱処理やメッキ処理などの大がかりな前処理を行う事なく、手間を掛けずに簡便にただネジを螺入するだけで部品または精密機械を固定する事が出来るようになった。
【0159】
また、前記の部品を使用して精密部品や精密機械を接合する方法を行ったので、製造に要する手間が大幅に削減でき、従来のネジ締めと固定に関する工程を、本発明のセルフタップ用表面処理組成物で部品の表面処理を行った部品をただネジを締めるだけで固定を完了できるようになり、製造工程が簡素になった。
【0160】
さらに、前記の製造工程で製造された精密機械(例えばここでは時計を例にとって説明してきた)を、ネジを使用して分解・組立を繰り返し(切粉が飛散せず、ネジ部も破壊されないので)行う事が出来るようになった。また、切粉が飛散しないので、従来のような止まり穴構造にする制約がなくなり、設計に余裕が出来た。
【0161】
この他、本発明によれば、焼鈍により硬度を下げる事がない為、従来抱えていた部品の削れや傷、へこみや曲がりと言うような問題も完全に解消できた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態を示す時計のムーブメントの組立断面図で、本発明の実施例である時計用金属製受足を用いて各部品を接合した状態を示す断面図である。
【図2】本発明に係る孔を有する部品の断面図である。
【図3】本発明に係る柱状の形状を有する部品の断面図である。
【図4】本発明に係る雄ネジを有する部品、ネジの側面図である。
【図5】本発明に係る雌ネジを有する部品、ナットの断面図である。
【図6】本発明に係る孔を有する部品と雄ネジを有する部品の実施例を用いて押え部材を接合した状態を示す断面図である。
【図7】本発明に係る柱状形状有する部品と雌ネジを有する部品の実施例を用いて押え部材を接合した状態を示す断面図である。
【図8】本発明に係る時計用金属製受足の実施例を示す断面図である。
【図9】従来の時計のムーブメントの組立断面図で、従来の時計用金属製受足を用いて各部品を接合した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
1、2 基枠
3 ネジ
4 ナット
6、10 受足
11、101 孔
12、22、102 成形されたネジ部
21 柱状部
31、41 ネジ部
Claims (10)
- 溶媒に極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤を混合した事を特徴とするセルフタップ用表面処理組成物。
- 前記極圧添加剤が、中性リン酸エステル、中性亜リン酸エステル、ホウ酸カルシウムである事を特徴とする請求項1に記載のセルフタップ用表面処理組成物。
- 前記ノニオン系界面活性剤が、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである事を特徴とする請求項1に記載のセルフタップ用表面処理組成物。
- さらに防錆剤が添加されている事を特徴とする請求項1から請求項3に記載のセルフタップ用表面処理組成物。
- 防錆剤が、エステル系、イソデシルコハク酸とエチレンオキサイドとの部分エステル、直鎖脂肪酸から選ばれる事を特徴とする請求項4記載のセルフタップ用表面処理組成物。
- 極圧添加剤または/およびノニオン系界面活性剤の濃度が0.25wt%以上15wt%以下で、防錆剤の濃度が、0.01wt%以上0.5wt%以下でかつ、極圧添加剤の濃度以下である事を特徴とする請求項4又は請求項5に記載のセルフタップ用表面処理組成物。
- 請求項1,4,6のいずれか1項記載のセルフタップ用表面処理組成物で表面処理する部品が、ネジ径が3mm以下で、且つ、かみ合い長さがネジ径の4倍以下のネジである事を特徴とする部品。
- 前記部品のビッカース硬度がHv300以下である事を特徴とする請求項7に記載の部品。
- 請求項7又は請求項8の部品を用いた事を特徴とする精密機械。
- 請求項7又は請求項8の部品を用いて組立てる事を特徴とする精密機械の接合方法。
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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JP2010001333A (ja) * | 2008-06-18 | 2010-01-07 | Citizen Watch Co Ltd | 時計バンド用潤滑組成物およびこれを用いた時計バンド |
CN108239569A (zh) * | 2016-12-27 | 2018-07-03 | 西铁城时计株式会社 | 装饰品用润滑处理剂、钟表的制造方法以及钟表 |
JP2018104677A (ja) * | 2016-12-27 | 2018-07-05 | シチズン時計株式会社 | 装飾品用潤滑処理剤、時計の製造方法および時計 |
-
2002
- 2002-09-20 JP JP2002274775A patent/JP2004107768A/ja active Pending
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