JP2004082878A - ゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤ - Google Patents
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Abstract
【解決手段】天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分に対し、マレイミド樹脂0.1〜5重量部およびtert−ブチル基を2個有するビスフェノール化合物0.5〜8重量部を含有し、かつ、少なくとも一種の高級脂肪酸が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなる。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤに関し、詳しくは、空気入りタイヤや工業用ベルト等に使用されるゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ラジアルタイヤのベルトやカーカス用ボディープライ、および各種工業用ベルト部材などのゴム物品においては、ブラスめっきを施したスチールワイヤまたはこれを複数本撚り合わせてなるスチールコードをゴムで被覆してなるものを用いることにより、補強効果を得ることが行われている。従ってこの場合、補強効果を十全に得るためにはスチールコードとゴムとの間の接着性を十分に確保することが必要であり、かかる観点からブラスめっきにおける銅と亜鉛との割合やめっき厚さを適正化すること等が検討され、これまでに一定の知見が確立されている。
【0003】
かかる知見の下に適正化されたブラスめっきを施すことにより設計、製造されたスチールコードを用いれば、ゴムとの間の接着性は向上するが、この場合でも、その接着対象となるゴムについては極めて制限された条件が要求される。例えば、タイヤを所定時間内に加硫製造しようとする場合には、スチールコード−ゴム間の接着の速さとその完結性、即ち、良好な初期接着性を求める観点から、ゴム中に接着プロモーターとしてCo塩やNi塩を相当の割合で添加し、かつ硫黄を高配合して、接着反応の促進を図ることが必要となる。
【0004】
しかし、かかる接着プロモーターや硫黄の添加は、接着反応の促進には有効である反面、未加硫ゴムからのブルームの発生という問題を招く難点がある。添加剤のブルームは、作業性を低下させ、周辺ゴムとの密着、接着性を阻害するばかりでなく、加硫ゴムの劣化、即ち加硫戻りを引き起こして、タイヤ耐久性を低下させる原因ともなる。そのため、これを防止する観点から、スチールコードとの接着を必要とするコーティングゴム中に含有させる接着プロモーターの減少を図るべく、プロモーターの種類、特にCo塩やNi塩の酸種を変更したり、接着プロモーターをコーティングゴムとスチールコードとの間に薄膜として存在させることにより、ゴム組成物中に直接接着プロモーターを含有させずに接着性を改善するなどの試みがなされてきている(例えば、特開平10−324753号公報中に記載)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、接着プロモーターの種類の変更は部分的な最適化を施すにすぎず、Co含有量は基本的に同一にせざるをえないので、初期接着性を改良すれば、結果として、耐久接着性が低下したりブルーム性が低下したりする二律背反を免れないという問題があった。
【0006】
また、ゴムとブラスめっきスチールコードとの接着に際して用いられるコバルト金属塩などの接着プロモーターは一般に高価であるので、これらの使用量の減少を図ることは、タイヤ性能の向上のみらず、配合コストの大幅ダウンによる省資源化の観点からも重要である。ところが、上記特開平10−324753号公報に記載されたコーティングゴムとスチールコードとの間に薄膜として接着プロモーターを介在させる技術では、コーティングゴムにおけるCoの配合を省略することは可能であるものの、接着反応以前に逆にコーティングゴム中に拡散するCoの割合が多くなるので薄膜の厚みを数十μm程度とする必要があり、Coの削減効果が十分であるとは言えないことから、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
このように、ブラスめっきスチールコードとコーティングゴムとの接着において要求される性能としては、単に初期接着性が良好であればよいというものではなく、タイヤが実使用時に劣化環境に曝された際に接着界面の劣化に起因する故障を生じないことや、タイヤ製造工程におけるトラブルの防止、配合コストの抑制など、様々な条件を満足することが必要となる。
【0008】
一方、スチールコードで補強されるコーティングゴム組成物には、高弾性、低発熱性、耐劣化性、接着性などが要求される。このうち高弾性化の改良は、ゴム−スチールコード複合体に入力が付加された際の歪みを抑制する意味で製品の耐久性向上の観点から有効な手段であるので、充填剤や架橋剤の増量、樹脂による補強などが行われている。これらの手法には夫々一長一短があるが、中でもビスマレイミド樹脂による補強は、短時間接着が遅くなるという欠点を解決できれば、極めて有効な手法となると考えられる。
【0009】
特に、ゴム組成物中の水分率が低下する冬期には、短時間接着の遅延が起こりやすい。蛋白質等の極性成分を含有する天然ゴム中の水分は、生産地や保管状態、さらにはコンパウンドの製造プロセスなどによっても変動するので、ゴム−スチールコード複合体の短時間接着性についても気候等の環境変化に影響を受ける。特に、冬場の乾燥期にはゴムコンパウンドの水分率が0.3%以下まで低下することが度々生じ、このような状況においては短時間接着性が悪化する。このため、気候に対する不安定性を排除する観点から、通常は、不要な高級脂肪酸を少量配合することで、初期接着性を安定的に確保することが行われる。しかし、その一方、高級脂肪酸は過加硫に代表されるように耐熱接着に対してはマイナスの側面を持ち、気候変動に対して安定した短時間接着性および耐熱接着性を得ることとはゴム配合面からは相容れないものがある。
【0010】
そこで本発明の目的は、上述の従来技術における問題を生ずることなく、短時間接着性と耐熱接着性とを高いレベルで両立することが可能なゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的に対して、コーティングゴムの配合とブラスめっきスチールコード表面の反応性との所定の組み合わせによる改良手法を検討した結果、以下に述べるような特定のゴム組成物とスチールコードとを組み合わせることにより、特に、短時間接着性および過加硫時接着性が高いレベルで著しく改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のゴム−スチールコード複合体は、以下のとおりである。
(1)天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分に対し、マレイミド樹脂0.1〜5重量部およびtert−ブチル基を2個有するビスフェノール化合物0.5〜8重量部を含有し、かつ、少なくとも一種の高級脂肪酸が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体である。
【0013】
(2)前記(1)のゴム−スチールコード複合体において、前記高級脂肪酸の配合量が、前記ゴム成分100重量部に対し0.75重量部以下であるゴム−スチールコード複合体である。
【0014】
(3)前記(1)または(2)のゴム−スチールコード複合体において、前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%であるゴム−スチールコード複合体である。
【0015】
(4)前記(1)〜(3)のうちいずれかのゴム−スチールコード複合体において、前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmであるゴム−スチールコード複合体である。
【0016】
(5)前記(1)〜(4)のうちいずれかのゴム−スチールコード複合体において、前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下であるゴム−スチールコード複合体である。
【0017】
(6)一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、前記(1)〜(5)のうちいずれかのゴム−スチールコード複合体を用いたことを特徴とするタイヤである。
【0018】
本発明のゴム−スチールコード複合体によれば、従来のゴム−スチールコード複合体に比較して、非常に高いレベルで安定した短時間接着性を得ることができるが、これは高級脂肪酸による接着安定化システムが独立して作用するだけでなく、ブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでの表層領域において酸化物として含まれるリンの量が、ゴム接着性と密接に相関するという事実に基づいている。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
本発明のゴム−スチールコード複合体に係るゴム組成物は、ゴム成分のうち、天然ゴムを50重量%以上含有する。天然ゴムの含有量が50重量%未満では、接着特性およびゴム破壊特性の低下を招き好ましくない。また、ゴム成分の残部をなす合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、好ましくは、臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとP−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)等が挙げられる。
【0020】
また、SBRとしては、ブタジエン部分のビニル含有量が35〜85重量%であり、かつ、スチレン含有量が30重量%以下である溶液重合SBRが好適である。溶液重合SBRのビニル含有量が35重量%未満ではゴムの耐熱老化性が改良できない一方、85重量%を超えるとゴムの破壊特性が低下し、また、スチレン含有量が30重量%を超えると、接着性が低下してしまう。
【0021】
本発明においては、上記ゴム成分に対して、0.1〜5重量部のマレイミド樹脂が配合されている。マレイミド樹脂の配合量が0.1重量部より小さいと高弾性化の効果が得られず、一方、5重量部より多いと加硫戻りが大きくなり、耐発熱性が低下する。例えば、ビスマレイミド樹脂の一般式は、下式、
(式中、Rは炭素数6〜18の芳香族基、または炭素数7〜24のアルキル芳香族基を示し、xおよびyは0〜3の整数をそれぞれ独立に示す)で表される。
【0022】
また、本発明においては、上記ゴム成分に対し、さらに、tert−ブチル基を2個有するビスフェノール化合物が0.5〜8重量部にて含有されている。かかるビスフェノール化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、本発明の所期の接着性向上効果を十全に得ることができる。かかるビスフェノール化合物の一般式は、下式、
(式中、R1およびR2は炭素数1〜3のアルキル基を示す)で表される。
【0023】
さらに、上記ゴム成分には、少なくとも一種の高級脂肪酸が配合されている。
高級脂肪酸としては、例えば、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等を挙げることができ、その含有量としては、得られる接着性改良効果および他物性への影響の観点から、好ましくは、ゴム成分100重量部に対し0.75重量部以下である。高級脂肪酸の配合量が0.75重量部を超えると、耐熱接着性の低下が著しく、組み合わせるスチールコードの接着特性の向上効果によってはカバーしきれない。
【0024】
また、本発明に係るスチールコードにおいては、周面ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量を、1.5原子%以下に抑制することが肝要である。リンの含有量が1.5原子%を超えて増加すると、それにつれてゴムとの接着速度が遅くなってしまう。リンの量を1.5原子%以下とすることにより、ゴム中の水分率にかかわらず優れたゴム接着性を安定して得ることが可能となる。
【0025】
ここで、ブラスめっき層のワイヤ表層領域におけるリンの定量は、X線光電子分光法を用いて、ワイヤの曲率の影響を受けないよう20〜30μmφの分析面積にて、めっき層のワイヤ表層領域に存在する原子、即ち、C、Cu、Zn、O、PおよびNの原子数を計測することにより行い、これらC、Cu、Zn、O、PおよびNの合計原子数を100としたときのPの原子数の比率として、リンの含有量を求めた。各原子の原子数は、C:C1S、O:O1S、P:P2P、Cu:Cu2p3/2、Zn:Zn2p3/2およびN:N1Sの光電子のカウント数を夫々用いて、夫々の感度係数で補正することにより求めた。例えば、リンの検出原子数[P]は、下記式にて求めることができる。
[P]=Fp(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント数)
【0026】
他の原子についても同様にして検出原子数を求めれば、それらの結果から、下記式、
P(原子%)={[P]/([Cu]+[Zn]+[C]+[O]+[N]+[P])}×100
に従い、リンの相対原子%を求めることができる。また、周面からワイヤ半径方向内方への深さ方向の元素の分布についても、アルゴンエッチング等を行えば詳細に測定することが可能である。
【0027】
なお、上記分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されていた場合には、正確な分析を行うために、ワイヤ表面を適切な溶媒で洗浄し、さらに、必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施すことが必要である。
【0028】
上記ワイヤ表層領域中に酸化物として含まれるリンの量を1.5原子%以下とするためには、伸線加工のパススケジュール、ダイスのエントランスやアプローチの形状並びに角度、ダイスの材質および潤滑剤組成などの調整を、夫々単独で、または適宜組み合わせることにより、かかるリンの量を適宜調整する。とりわけ、最終伸線工程において、極圧添加剤を含む潤滑剤を通常と同様に用いて、最終伸線工程の概略20パスのダイスのうち最終パスまたは最終パスを含む後段数パス程度において、優れた自己潤滑性と切削性とを兼ね備えた材質からなるダイス、例えば、焼結ダイヤモンドダイスを適用して伸線加工を行うことが、極めて有効である。
【0029】
ブラスめっき層の平均厚みは、好適には、0.13〜0.30μmである。ブラスめっき層の平均厚みが0.13μm未満では、鉄地が露出する部分が増加して初期接着性が阻害され、一方、0.30μmを超えると、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行して、脆弱な接着しか得られなくなる。
【0030】
また、本発明においては、ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、上記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%であることが好ましい。ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60重量%未満になると、伸線性が悪化して断線により生産性が阻害され、量産することが難しくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を15原子%以上に制御することが困難となる。一方、70重量%を超えると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下して、タイヤが曝される環境に対して十分な耐久性を維持できなくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を45原子%以下に制御することが困難となる。また、ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15原子%未満であると、ワイヤ表層領域におけるリンの量を上記した1.5原子%以下に制限した場合であっても、ゴムとの接着反応に乏しくなる結果、より優れたゴム接着性の確保が困難となる。一方、45原子%を超えると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下するという不利を招く。
【0031】
スチールワイヤの直径は、0.40mm以下であることが有利である。直径が0.40mmを超えると、使用したゴム物品が曲げ変形下で繰り返し歪みを受けたときに表面歪が大きくなり、座屈を引き起こし易くなる。
【0032】
かかるスチールワイヤは、単線で用いてもよく、また、その複数本を撚り合わせたスチールコードとして用いることもでき、ゴム物品、中でもタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適である。特に、本発明のゴム−スチールコード複合体を、乗用車用タイヤ、中でも乗用車用ラジアルタイヤのベルトに適用する場合には、ゴムとの接着速度が速くなることにより、タイヤの加硫時間を大幅に短縮することができる効果をも得ることができる。一方、トラックおよびバス用タイヤ、中でもトラックおよびバス用ラジアルタイヤのカーカスに適用する場合には、ビード部においてゴムとの接着速度が速くなるため、加硫時間の短縮と併せて、ビード部耐久性の向上をも図ることが可能である。
【0033】
本発明のゴム−スチールコード複合体は、上記スチールコードコーティング用ゴム組成物およびスチールコードから構成されるものであり、この複合体は、例えば自動車用タイヤやコンベアベルトなどの工業用ゴム製品の性能を向上させるための補強材として好適に用いられる。即ち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、そのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、かかるカーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記本発明のいずれかのゴム−スチールコード複合体を用いたものであり、これにより、耐久性に優れた高性能の空気入りタイヤを得ることができる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
下記の表1に記載の配合処方に従い、各種ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。図1は、アルゴンエッチングを行いながら測定した、スチールコードAおよびBの周面からワイヤ半径方向内方へのリン量の深さ方向分布を示すグラフである。
これらの結果を下記の表2、表3および図2、図3中に示す。
【0035】
(短時間加硫後接着力)
上記ブラスめっきスチールコード(1×3構造、素線径0.30mm)を30本/インチ間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表1記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×7分間〜13分間(下記表2または表3に記載)の条件で加硫した後、得られたゴム−スチールコード複合体につき、ゴムからスチールコードを剥離し、その時のゴム付着率を測定して、その結果をパーセント表示した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0036】
(耐熱接着性(過加硫後接着性))
上記と同様にしてサンプルを作製し、これを160℃×100分間〜400分間(下記表2または表3に記載)の条件で加硫した後、上記と同様にしてゴムとスチールコードとの剥離を行い、ゴム付着率を測定し、その結果をパーセント表示した。数値が大きいほど接着性が良好であることを示す。
【0037】
【表1】
1):N−(1,3−ジメチル−ブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業(株)製 ノクラック6C)
2):N,N’−(4,4−ジフェニルメタン)ビスマレイミド
3):2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)(大内新興化学工業(株)製 NS−6)
4):N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製 ノクセラーDZ)
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
上記表2と表3との比較から明らかなように、表層領域におけるPを低減したスチールコードを適用することにより、ゴム組成物にステアリン酸を配合したことに起因して低下する耐熱(過加硫時)接着性を大幅に向上することが可能となる。
【0041】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、優れた短時間接着性と耐熱接着性とを兼ね備えたゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルゴンエッチングを行いながら測定した、実施例で用いたスチールコードA,Bの周面からワイヤ半径方向内方へのリン量の深さ方向分布の測定結果を示すグラフである。
【図2】比較例の加硫条件とゴム付着率との関係を表すグラフである。
【図3】実施例の加硫条件とゴム付着率との関係を表すグラフである。
Claims (6)
- 天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分に対し、マレイミド樹脂0.1〜5重量部およびtert−ブチル基を2個有するビスフェノール化合物0.5〜8重量部を含有し、かつ、少なくとも一種の高級脂肪酸が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
- 前記高級脂肪酸の配合量が、前記ゴム成分100重量部に対し0.75重量部以下である請求項1記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%である請求項1または2記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmである請求項1〜3のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下である請求項1〜4のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、請求項1〜5のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体を用いたことを特徴とするタイヤ。
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