JP2004083766A - ゴム−スチールコード複合体およびそれを用いた空気入りタイヤ - Google Patents
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Abstract
【課題】特に、初期接着性、耐ゴム劣化性、耐熱劣化性およびコスト性に優れたゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供する。
【解決手段】ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、またはスチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなるゴム−スチールコード複合体である。一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤである。カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記ゴム−スチールコード複合体を用いた。
【選択図】 なし
【解決手段】ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、またはスチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなるゴム−スチールコード複合体である。一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤである。カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記ゴム−スチールコード複合体を用いた。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はゴム−スチールコード複合体およびタイヤに関し、詳しくは、トラックやバス、乗用車等に使用される空気入りタイヤのベルトやカーカス部材等、または、工業用ベルト部材などを補強するために使用されるゴム−スチールコード複合体、特にはタイヤ用ゴム−スチールコード複合体と、それを用いたタイヤに関する。また、本発明は、ゴム組成物中に多孔質無機充填剤を配合して、これと特定のめっきを施したスチールコードとを組み合わせることにより、初期接着性および耐劣化接着性を改良したゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤに関する。さらに、本発明は、ブラスめっきスチールコードのめっき表面から深さ5nmの領域の元素組成、特には伸線時の極圧潤滑剤のリン酸由来のPを極限まで低減して、これと所定の配合のゴム組成物とを組み合わせることにより、放置による接着性の安定を改良したゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ラジアルタイヤのベルトやカーカス用ボディープライ、および各種工業用ベルト部材などのゴム物品においては、ブラスめっきを施したスチールワイヤまたはこれを複数本撚り合わせてなるスチールコードをゴムで被覆してなるものを用いることにより、補強効果を得ることが行われている。従ってこの場合、補強効果を十全に得るためにはスチールコードとゴムとの間の接着性を十分に確保することが必要であり、かかる観点からブラスめっきにおける銅と亜鉛との割合やめっき厚さを適正化すること等が検討され、これまでに一定の知見が確立されている。
【0003】
かかる知見の下に適正化されたブラスめっきを施すことにより設計、製造されたスチールコードを用いれば、ゴムとの間の接着性は向上するが、この場合でも、その接着対象となるゴムについては極めて制限された条件が要求される。例えば、タイヤを所定時間内に加硫製造しようとする場合には、スチールコード−ゴム間の接着の速さとその完結性、即ち、良好な初期接着性を求める観点から、ゴム中に接着プロモーターとしてCo塩やNi塩を相当の割合で添加し、かつ硫黄を高配合して、接着反応の促進を図ることが必要となる。
【0004】
しかし、かかる接着プロモーターや硫黄の添加は、接着反応の促進には有効である反面、未加硫ゴムからのブルームの発生という問題を招く難点がある。添加剤のブルームは、作業性を低下させ、周辺ゴムとの密着、接着性を阻害するばかりでなく、加硫ゴムの劣化、即ち加硫戻りを引き起こして、タイヤ耐久性を低下させる原因ともなる。そのため、これを防止する観点から、スチールコードとの接着を必要とするコーティングゴム中に含有させる接着プロモーターの減少を図るべく、プロモーターの種類、特にCo塩やNi塩の酸種を変更したり、接着プロモーターをコーティングゴムとスチールコードとの間に薄膜として存在させることにより、ゴム組成物中に直接接着プロモーターを含有させずに接着性を改善するなどの試みがなされてきている(例えば、特開平10−324753号公報中に記載)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、接着プロモーターの種類の変更は部分的な最適化を施すにすぎず、Co含有量は基本的に同一にせざるをえないので、初期接着性を改良すれば、結果として、耐久接着性が低下したりブルーム性が低下したりする二律背反を免れないという問題があった。
【0006】
また、ゴムとブラスめっきスチールコードとの接着に際して用いられるコバルト金属塩などの接着プロモーターは一般に高価であるので、これらの使用量の減少を図ることは、タイヤ性能の向上のみらず、配合コストの大幅ダウンによる省資源化の観点からも重要である。ところが、上記特開平10−324753号公報に記載されたコーティングゴムとスチールコードとの間に薄膜として接着プロモーターを介在させる技術では、コーティングゴムにおけるCoの配合を省略することは可能であるものの、接着反応以前に逆にコーティングゴム中に拡散するCoの割合が多くなるので薄膜の厚みを数十μm程度とする必要があり、Coの削減効果が十分であるとは言えないことから、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
このように、ブラスめっきスチールコードとコーティングゴムとの接着において要求される性能としては、単に初期接着性が良好であればよいというものではなく、タイヤが実使用時に劣化環境に曝された際に接着界面の劣化に起因する故障を生じないことや、タイヤ製造工程におけるトラブルの防止、配合コストの抑制など、様々な条件を満足することが必要となる。
【0008】
そこで本発明の第1の目的は、コーティングゴム組成物中に添加する接着プロモーターの量をごく少量に抑えるか若しくは全く添加せず、かつ、スチールコードとコーティングゴムとの間に接着プロモーターを薄膜で適用することも必要とせずに、極めて効率的にスチールコードとコーティングゴムとの間の接着性を改良することができるブラスめっき条件を規定することにより、特に、初期接着性、耐ゴム劣化性、耐熱劣化性およびコスト性に優れたゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0009】
また、特開平10−195237号公報には、スチールコードのコーティングゴム中に1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(HTS)および所定の無機化合物を配合することによりゴムの耐熱老化性および接着性を改善する技術が、特開平9−328573号公報には、コーティングゴム中にチアジアゾール化合物を配合することにより初期接着性を損なわずに耐熱接着性を改善する技術が、また、特開平9−3206号公報には、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩とホウ酸およびホウ酸エステルのうち少なくとも1種を配合することによりゴム組成物の初期接着性および耐久接着性を向上する技術が、夫々記載されている。
【0010】
これらの技術によれば、初期接着性の向上等の所期の効果を得ることが可能であるが、夫々、以下のような問題点をも残すものであった。即ち、特開平10−195237号公報記載の技術では、ゴム薬品としては比較的高価なHTSをゴム成分配合量に対して多く配合するためにコスト性を損なう場合があり、また、コスト性を考慮すると、初期接着性の効果が十分ではなかった。また、特開平9−328573号公報記載の技術では、チアジアゾール化合物に加硫反応を阻害する傾向があるために多量には配合することができず、より高い効果を得ることが困難であった。さらに、特開平9−3206号公報記載の技術では、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩がゴム薬品としては高価であるという難点があり、また、その配合量が多すぎるとゴムのスコーチ性が悪化するという不都合もあった。
【0011】
そこで本発明の第2の目的は、上記従来技術における不十分な点を解消して、初期接着性および耐熱接着性を高いレベルで両立しつつ、かつ、製品コストの低減をも図ることができるゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0012】
さらに、ゴム−スチールコード複合体の初期接着性および耐劣化接着性の改良に関しては、従来のブラスめっきを施したスチールコードに対し、多孔質無機充填剤を配合したコーティングゴム組成物を適用する技術が、特開2000−7838号公報中に記載されている。しかし、多孔質充填剤を配合した場合、初期接着性および耐劣化接着性を改良する効果は得られるものの、その一方でゴム組成物の耐破壊性を低下させるという不都合があり、この点に関しては上記公報においては検討されていなかった。また、初期接着性に関しては、更なる向上が望まれている現状があった。
【0013】
そこで本発明の第3の目的は、かかる多孔質充填剤を配合したコーティングゴムとの組み合わせにおいて、接着界面となるスチールコードのブラスめっきを改良することにより、ゴム組成物の耐破壊性を低下させることなく、耐劣化接着性および初期接着性を向上させたゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0014】
さらにまた、特開2002−13082公報中では、加硫後接着力および耐熱老化特性を改良するためにゴムの練り中または加硫中に無機含水塩を配合して水分を供給する従来技術に対し、かかる無機含水塩配合ゴム組成物をゴム−スチールコード複合体の形成に使用する場合には、配合後のゴム組成物を室温下で空気中に長時間放置すると初期接着力が低下してしまうという不都合があることから、これを改善するための技術が提案されている。
【0015】
そこで本発明の第4の目的は、上記のような無機含水塩配合ゴム組成物を用いた系において、高い接着力を安定して発揮することができ、しかも長期間保存しても初期接着力が低下しない新たなゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記第1の課題を解決するために、本発明者は、ブラスめっきを施したスチールコードとゴムとの間の接着反応を支配するコード表面因子を従来知られている以上に機器分析的手法を駆使してコントロールし、詳細に表面を造り込んで、接着性との対応を検討した結果、ブラスめっきのバルク組成が同じである場合には、その最表面から深さ5nmまでの表層領域において、伸線時に用いる極圧潤滑剤由来のリン酸量を制御することにより接着性を改良できることを見出して、本発明のゴム−スチールコード複合体を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明の第1のゴム−スチールコード複合体は、ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第1のゴム−スチールコード複合体においては、特に、前記ゴム組成物がコバルト塩を含有しないことが好ましい。
【0019】
以下に、上記の知見を得るに至った経緯を説明する。
まず、スチールワイヤを得るための伸線工程において、そのパススケジュールやダイスの材質、潤滑剤の成分組成、熟成条件または液温度などを種々に変更して作製した各種ワイヤのゴム接着性を評価したところ、ワイヤによってゴム接着性が異なることが明らかとなった。次に、ゴム接着性の良好なワイヤに共通の条件を調査した結果、ゴム接着性に関する従来の一般的指標である、めっき層における銅やリンの含有量ではその条件を包括しきれないことが判明した。そこで、ゴム接着性に影響を与える要因についてさらに鋭意究明したところ、めっき層の極表層の領域、具体的にはめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれるリンの量が、ゴム接着性と相関していることを見出したのである。
【0020】
ここで、上記表層領域における酸化物として含まれるリンの量は、X線光電子分光法に従って計測することができる。本発明においては、X線光電子分光法に従って計測される光電子の脱出深さ領域において、全元素の原子数と酸化物中のリンの原子数とを検出し、全元素の原子数を100としたときの酸化物中のリンの原子数を指数で表示したものを、当該領域における酸化物に含まれるリンの原子%とした。なお、酸化物としてのリンと他のリンとの判別は、リン原子のX線光電子スペクトルで測定されるP=p光電子の結合エネルギーの化学シフトに基づいて行うことができる。また、この深さ5nmまでの表層領域は、固体の光電子分光に関する一般的な文献にて示される、電子の運動エネルギーと脱出深度とによって認識することができる。
【0021】
また、上記第2の課題を解決するために、本発明者は、ゴムの配合とスチールコード表面の反応性との組み合わせにより改良手法を検討した結果、以下に述べる特定のゴム組成物とスチールコードとを組み合わせることにより、特に初期接着性が著しく改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
即ち、本発明の第2のゴム−スチールコード複合体は、天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分と、1,6−ヘキサメチレンジアミン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体およびその水和物、並びにトリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とが配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の第2のゴム−スチールコード複合体においては、前記ゴム組成物に、含水無機塩および硫黄のいずれか一方または双方が配合されてなることが好ましい。また、前記ジメルカプトチアジアゾールが、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールであることが好ましく、前記ジメルカプトチアジアゾールの一置換体が、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩および亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、前記トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩の金属元素が、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
さらにまた、前記ゴム組成物がホウ酸およびホウ酸エステルのいずれか一方または双方を含有することが好ましく、より好ましくは、前記ホウ酸エステルが1分子あたり1〜3個のホウ素原子を有し、かつ、炭素数1〜4個のアルコール残基を有する。
【0025】
上記本発明の第2のゴム−スチールコード複合体によれば、従来のゴム−スチールコード複合体に比較して非常に高い接着力が得られるが、これは、HTS、チアジアゾール化合物、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩等の接着システムが夫々独立して作用するだけでなく、ブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでの表層領域において酸化物として含まれるリンの量が、ゴム接着性と密接に相関するという事実に基づいている。
【0026】
さらに、上記第3の課題を解決するために、本発明の第3のゴム−スチールコード複合体は、ゴム成分と、多孔質無機充填剤とが配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の第3のゴム−スチールコード複合体においては、前記多孔質無機充填剤が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライトおよび下記一般式(I)、
mM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物であり、mは1〜5の整数であり、xは0〜10の整数であり、yは2〜5の整数であり、zは0〜10の整数である)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーおよびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
また、前記多孔質無機充填剤が、ゴム成分100重量部に対し3〜30重量部配合されていることが好ましい。
【0029】
多孔質充填剤は吸湿性があるので、加硫時に水分が放出されてスチールコードとゴム相との接着が高まると考えられる。また、コード伸線時に極圧潤滑剤と反応して表面に残存するリンを極限まで低減させた本発明のスチールコードにおいては、従来におけるゴム中にCo系接着剤を添加するシステムでは少量の水分供給により初期接着が高められるが、これまでよりも少ない量の多孔質物質により同等の性能が得られると考えられる。本発明の第3のゴム−スチールコード複合体は、かかる知見に基づくものである。
【0030】
さらにまた、上記第4の課題を解決するために、本発明者は、長期保存中に接着力および加硫ゴムの諸物性が変化するのは、無機含水塩が少しずつ徐々にゴム中のCo塩やNi塩と反応するためと考えられることから、無機含水塩とCo塩との反応に対して鈍感なめっき表面を作り出すことで長期保存しても高い接着力を得るための方策を検討した結果、コード伸線時に極圧潤滑剤と反応して表面に残存する表層5nm領域のリンを極限まで低減させることによりかかる高接着力が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0031】
即ち、本発明の第4のゴム−スチールコード複合体は、天然ゴムおよび/または合成ゴムよりなるゴム成分100重量部に対し、無機含水塩0.1〜10重量部および硫黄3〜8重量部を配合してなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第4のゴム−スチールコード複合体においては、前記ゴム成分が、天然ゴムを50重量%以上含有することが好ましい。また、前記合成ゴムが、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)およびイソプレンゴム(IR)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、前記スチレン・ブタジエンゴムが、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合スチレン・ブタジエンゴムであることが好ましく、前記ブタジエンゴムのビニル結合量が1〜85重量%であることも好ましい。
【0033】
また、本発明の上記第1〜第4のゴム−スチールコード複合体においては、好適には、前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%である。また、前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmであることが好ましく、前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下であることも好ましい。
【0034】
さらに、本発明のタイヤは、一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記本発明の第1〜第4のゴム−スチールコード複合体のうちのいずれかを用いたことを特徴とするものである。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
最初に、本発明の第1〜第4のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物について説明する。
本発明の第1のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるものであり、好ましくはコバルト塩を含有しない。ゴム組成物中のCo塩の含有量を、ゴム成分100重量部に対して0.1重量部以下、好ましくはゼロにすることにより、ゴム組成物の劣化を抑制することができるとともに、接着性を確保することができ、さらに、コストの削減を図ることができる。
【0036】
Co塩を含有する場合のかかるCo塩を構成する酸としては、例えば、バーサチック酸、ナフテン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイン酸、脱水ひまし油酸、樹脂酸、ヒドロキシステアリン酸、アビエチン酸、カブリル酸、2−エチルヘキサン酸、オクチル酸、安息香酸、ビバリン酸、n−ヘプタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、4,4−ジメチルペンタン酸、n−オクタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、4,4−ジメチルヘキサン酸、2,4,4−トリメチルペンタン酸、n−ノナン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、6,6−ジメチルペプタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、n−デカン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、7,7−ジメチルオクタン酸、n−ウンデカン酸などが挙げられ、具体的な商品としては、例えば、「ベルサティック」10((登録商標)、ネオデカン酸を主成分とし、英国においてシェルインターナショナルカンパニーリミテッド(Shell International Company Limited)により販売されている合成混合物)などが挙げられる。
【0037】
また、本発明に好適なゴム成分としては、特に制限されないが、天然ゴムの含有量が50重量%以上であることが好ましい。合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、とりわけ臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)等を例示することができる。なお、本発明のゴム組成物には、通常使用される他の添加剤を、通常の使用量で適宜配合することができる。
【0038】
本発明の第2のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物は、ゴム成分のうち、天然ゴムを50重量%以上含有する。天然ゴムが50重量%未満では、接着特性およびゴム破壊特性の低下を招くので好ましくない。ゴム成分の残部をなす合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、好ましくは、臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとP−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、イソプレンゴム等が挙げられる。
【0039】
ここで、ゴム成分の残部をなす合成ゴムがSBRである場合には、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合スチレン・ブタジエンゴムを用いることが好ましい。溶液重合SBRのビニル結合量が35重量%未満ではゴムの耐熱老化性が十分改良できず、一方、85重量%を超えるとゴムの破壊特性が低下するため、いずれも好ましくない。また、結合スチレン量が30重量%を超えると、接着性が低下してしまう。
【0040】
また、上記ゴム組成物には、1,6−ヘキサメチレンジアミン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体およびその水和物、並びにトリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が配合されている。かかる化合物の配合量は、得られる接着改良効果と他物性への影響の観点から、好ましくは、ゴム成分100重量部に対して0.5〜2.0重量部である。
【0041】
上記ジメルカプトチアジアゾール(DMTD)としては、例えば、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等を挙げることができ、また、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩および亜鉛塩等を挙げることができる。また、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩としては、金属元素が、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであるものが好ましい。
【0042】
また、上記ゴム組成物には、含水無機塩および硫黄のいずれか一方または双方が配合されていることが好ましい。さらに、ゴム組成物がホウ酸およびホウ酸エステルのいずれか一方または双方を含有することも好ましい。なお、かかるホウ酸エステルとしては、好適には、1分子あたり1〜3個のホウ素原子を有し、かつ、炭素数1〜4個のアルコール残基を有するものを用いる。
【0043】
本発明の第3のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物に係るゴム成分としては、天然ゴムや合成ゴムが用いられる。合成ゴムとしては、例えばブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムが好ましく、さらに臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴムなども好適なものとして挙げることができる。本発明におけるゴム成分は、スチールコードを補強材とするゴム製品の用途に応じて、天然ゴムおよび上記合成ゴムの中から、適宜一種または二種以上選択して用いられるが、特に接着性およびゴム破壊特性などの面から、天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを50重量%以上の割合で含有するゴム成分が好適である。
【0044】
また、上記ゴム組成物中には、多孔質無機充填剤が配合されている。かかる多孔質無機充填剤としては、多孔質であって吸湿性や吸水性を有するものであればよく、特に制限はないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライト、および下記一般式(I)、
mM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物であり、mは1〜5の整数であり、xは0〜10の整数であり、yは2〜5の整数であり、zは0〜10の整数である)で表される化合物などを好ましく挙げることができる。
【0045】
上記一般式(I)において、x、zが共に0である場合には、この式により表される化合物は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物となる。
【0046】
上記一般式(I)で表される多孔質無機充填剤の具体例としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム[Al(OH)3]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO2)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン(TiO2)、チタン黒(TiO2n−1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al2O3)、クレー(Al2O3・2SiO2)、カリオン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、パイロフイライト(Al2O3・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al2O3・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5、Al4・3SiO4・5H2O等)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸カルシウム(Ca2・SiO4等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al2O3・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)等が挙げられる。また、水酸化アルミニウムには、アルミナ水和物(Al2O3・3H2O)も含まれる。
【0047】
より好ましい多孔質無機充填剤は、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーおよびゼオライトである。これら多孔質無機充填剤は単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて混合して用いてもよい。
【0048】
本発明のゴム組成物における多孔質無機充填剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対し、好ましくは3〜30重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲で選定される。この含有量が3重量部未満では、初期接着性および耐劣化接着性の向上効果が十分に発揮されないおそれがあり、一方、30重量部を超えると、その量の割には効果の向上が認められず、むしろ他の物性が損なわれる原因となる。初期接着性や耐劣化接着性の向上効果および他の物性などを考慮すると、多孔質充填剤の特に好ましい含有量は、2〜5重量部の範囲である。
【0049】
上記ゴム組成物中には、所望により、従来スチールコードコーティング用ゴム組成物において慣用されている各種接着促進剤を適宜含有させることができ、これにより、これらを配合した場合の初期接着性および耐劣化接着性を一段と向上させることができる。かかる接着促進剤としては、例えば、有機酸の金属塩、特に有機酸のコバルト塩が好ましく挙げられる。ここで、有機酸としては、飽和、不飽和、あるいは直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えば、ネオデカン酸、ステアリン酸、ナフテン酸、ロジン、トール油酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。また、かかる有機酸は、金属が多価の場合には、その一部をホウ素、ホウ酸またはアルミニウムなどを含有する化合物と置換することもできる。有機酸の金属塩の配合量は、好ましくは、ゴム成分100重量部に対して、金属元素含有量として0.1〜0.2重量部である。
【0050】
また、本発明のゴム組成物には、硫黄を含有することができる。硫黄の含有量としては、ゴム成分100重量部に対し3〜8重量部の範囲が好ましく、この含有量が3重量部未満では、接着力発現の元となるCuxS(スチールコードの黄銅めっき中の銅と硫黄との反応により生成する)の生成に十分な硫黄を提供することができず、接着力が不十分になるおそれがある。一方、硫黄の含有量が8重量部を超えると、CuxSが過剰に生成するために、肥大化したCuxSの凝集破壊が起こり、接着力が低下するとともに、ゴム物性としての耐熱老化性が低下する傾向がみられる。
【0051】
さらに、本発明のゴム組成物には、上記の各成分以外に、ゴム業界で通常使用される添加剤を通常の配合量で適宜配合することができる。具体的には、カーボンブラックやシリカ等の充填剤、アロマオイル等の軟化剤、ジフェニルグアニジン等のグアニジン類、メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール類、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチウラム類などの加硫促進剤、酸化亜鉛等の加硫促進助剤、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン類などの老化防止剤等を挙げることができる。
【0052】
これら添加剤のうち、カーボンブラックやシリカなどの充填剤は加硫ゴムの引張り強さ、破断強度、引張応力、硬さなどの増加や、耐摩耗性、引張り抵抗性の向上などに用いられる補強剤として知られており、酸化亜鉛は脂肪酸と錯化合物を形成し、加硫促進効果を高める加硫促進助剤として知られている。
【0053】
本発明の第4のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物は、天然ゴムおよび/または合成ゴムよりなるゴム成分100重量部に対し、無機含水塩0.1〜10重量部が配合されてなる。無機含水塩の配合量が0.1重量部未満では接着性の改良効果が得られず、一方、10重量部超過では、ゴム中水分率が高くなり過ぎて逆に接着力およびゴム破壊特性の低下を招くために、いずれも好ましくない。無機含水塩の配合量は、より好ましくは0.2〜8重量部、特には0.3〜3重量部であり、この場合、より効果的である。
【0054】
本発明に好適に使用される無機含水塩としては、例えば、NiSO4・7H2O、CoSO4・7H2O、NaSO4・10H2O、CaSO4・2H2O、CuSO4・5H4O、Al2(SO4)3・18H2O、FeSO4・7H2O、ZnSO4・7H2O、MgSO4・7H2O、Na2S・9H2O、Na3PO4・12H2O、NaH2PO4・2H2O、Na2HPO4・12H2O、Ni3(PO4)2・8H2O、Mg3(PO4)2・8H2O、Li3PO45H2O、Na4P2O7・10H2O、Ni2P2O7・6H2O、Mn4(P2O7)3・14H2O、CoCO3・6H2O、NiCO3・6H2O、Na2CO3・10H2O、Nd2(CO3)3・8H2O、Na2SO3・7H2O、Ca2Cl2・6H2O、NiCl2・6H2O、NaB4O7・10H2O、FeCl3・6H2O、Na2SiO3・9H2Oなどが挙げられる。
【0055】
また、ゴム成分は、天然ゴムを50重量%以上含有することが好ましく、天然ゴムが50重量%未満であると、接着特性およびゴム破壊特性の低下を招くために好ましくない。
【0056】
本発明のゴム成分のうち、合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、とりわけ臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、イソプレンゴムなどが、耐熱老化性の点で好ましい。
【0057】
また、SBRとしては、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合SBRが好適である。これは、ビニル結合量が35〜85重量%であるとゴム組成物の耐熱老化性と破壊特性とのバランスがよく、また、結合スチレン量が30重量%以下であると接着性により優れるからである。さらに、BRの場合には、ビニル結合量が1〜85重量%であると、ゴム組成物の耐熱老化性のメリットが大きく、破壊特性にも優れるため好ましい。
【0058】
また、上記ゴム組成物には、ゴム成分100重量部に対して、3〜8重量部の硫黄が配合されている。硫黄の配合量が3重量部未満では、硫黄−ゴム加硫接着本来の接着力の確保が困難となり、8重量部を超えると、ゴム物性の耐熱老化性および耐熱接着特性の低下を招くため、いずれにおいても本発明の所期の効果が得られない。
【0059】
さらに、本発明では、上記成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤を適宜配合することができる。具体的には、ゴム成分100重量部に対して、例えば、亜鉛華を2〜10重量部、加硫促進剤を0.3〜2重量部、カーボンブラックを30〜70重量部、接着促進剤を0.25〜3重量部にて、夫々配合することができる。ゴム成分100重量部に対して、亜鉛華が2重量部未満ではゴム弾性率が十分に得られない一方、10重量部を超えると接着性が低下する。また、加硫促進剤が0.3重量部未満では十分なゴム弾性率が得られない一方、2重量部を超えると接着性が低下する。さらに、カーボンブラックが30重量部未満では、十分なゴム弾性率が得られない一方、70重量部を超えると破壊特性が低下する。さらにまた、接着促進剤が0.25重量部未満では十分な効果が得られない一方、3重量部を超えると耐熱老化性に劣ることになる。
【0060】
次に、本発明の第1〜第4のゴム−スチールコード複合体のスチールコードについて説明する。
本発明に係るスチールコードにおいては、周面ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量を、1.5原子%以下に抑制することが肝要である。酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%を超えて増加すると、それにつれてゴムとの接着速度が遅くなり、所望のゴム接着性を確保するためにはゴム配合を厳密に規制する等の難しい操作が必要になるとともに、ゴム中の水分率の影響が大きくなって、かかる水分率の低下する冬期の製造においてはゴムの接着性が確保できなくなってしまう。リンの量を1.5原子%以下とすることにより、ゴム中の水分率にかかわらず優れたゴム接着性を安定して得ることが可能になる。
【0061】
ここで、ブラスめっき層のワイヤ表層領域におけるリンの定量は、X線光電子分光法を用いて、ワイヤの曲率の影響を受けないよう20〜30μmφの分析面積にて、めっき層のワイヤ表層領域に存在する原子、即ち、C、Cu、Zn、O、PおよびNの原子数を計測することにより行い、これらC、Cu、Zn、O、PおよびNの合計原子数を100としたときのPの原子数の比率として、リンの含有量を求めた。各原子の原子数は、C:C1S、O:O1S、P:P2P、Cu:Cu2p3/2、Zn:Zn2p3/2およびN:N1Sの光電子のカウント数を夫々用いて、夫々の感度係数で補正することにより求めた。例えば、リンの検出原子数[P]は、下記式にて求めることができる。
[P]=Fp(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント数)
【0062】
他の原子についても同様にして検出原子数を求めれば、それらの結果から、下記式、
P(原子%)={[P]/([Cu]+[Zn]+[C]+[O]+[N]+[P])}×100
に従い、リンの相対原子%を求めることができる。また、周面からワイヤ半径方向内方への深さ方向の元素の分布についても、アルゴンエッチング等を行えば詳細に測定することが可能である。
【0063】
なお、上記分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されていた場合には、正確な分析を行うために、ワイヤ表面を適切な溶媒で洗浄し、さらに、必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施すことが必要である。
【0064】
上記ワイヤ表層領域中に酸化物として含まれるリンの量を1.5原子%以下とするためには、伸線加工のパススケジュール、ダイスのエントランスやアプローチの形状並びに角度、ダイスの材質および潤滑剤組成などの調整を、夫々単独で、または適宜組み合わせることにより、かかるリンの量を適宜調整する。とりわけ、最終伸線工程において、極圧添加剤を含む潤滑剤を通常と同様に用いて、最終伸線工程の概略20パスのダイスのうち最終パスまたは最終パスを含む後段数パス程度において、優れた自己潤滑性と切削性とを兼ね備えた材質からなるダイス、例えば、焼結ダイヤモンドダイスを適用して伸線加工を行うことが、極めて有効である。
【0065】
ブラスめっき層の平均厚みは、好適には、0.13〜0.30μmである。ブラスめっき層の平均厚みが0.13μm未満では、鉄地が露出する部分が増加して初期接着性が阻害され、一方、0.30μmを超えると、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行して、脆弱な接着しか得られなくなる。
【0066】
また、本発明においては、ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、上記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%であることが好ましい。ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60重量%未満になると、伸線性が悪化して断線により生産性が阻害され、量産することが難しくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を15原子%以上に制御することが困難となる。一方、70重量%を超えると、耐熱接着性の耐水分接着性が低下して、タイヤが曝される環境に対して十分な耐久性を維持できなくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を45原子%以下に制御することが困難となる。また、ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15原子%未満であると、ワイヤ表層領域におけるリンの量を上記した1.5原子%以下に制限した場合であっても、ゴムとの接着反応に乏しくなる結果、より優れたゴム接着性の確保が困難となる。一方、45原子%を超えると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下するという不利を招く。
【0067】
スチールワイヤの直径は、0.40mm以下であることが有利である。直径が0.40mmを超えると、使用したゴム物品が曲げ変形下で繰り返し歪みを受けたときに表面歪が大きくなり、座屈を引き起こし易くなる。
【0068】
かかるスチールワイヤは、単線で用いてもよく、また、その複数本を撚り合わせたスチールコードとして用いることもでき、ゴム物品、中でもタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適である。特に、本発明のゴム−スチールコード複合体を、乗用車用タイヤ、中でも乗用車用ラジアルタイヤのベルトに適用する場合には、ゴムとの接着速度が速くなることにより、タイヤの加硫時間を大幅に短縮することができる効果をも得ることができる。一方、トラックおよびバス用タイヤ、中でもトラックおよびバス用ラジアルタイヤのカーカスに適用する場合には、ビード部においてゴムとの接着速度が速くなるため、加硫時間の短縮と併せて、ビード部耐久性の向上をも図ることが可能である。
【0069】
本発明のゴム−スチールコード複合体は、上記スチールコードコーティング用ゴム組成物およびスチールコードから構成されるものであり、この複合体は、例えば自動車用タイヤやコンベアベルトなどの工業用ゴム製品の性能を向上させるための補強材として好適に用いられる。即ち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、そのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、かかるカーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記本発明のいずれかのゴム−スチールコード複合体を用いたものであり、これにより、耐久性に優れた高性能の空気入りタイヤを得ることができる。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
第1のゴム−スチールコード複合体の実施例
下記の表1に記載の配合処方に従い、各種ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。図1は、アルゴンエッチングを行いながら測定した、スチールコードAおよびBの周面からワイヤ半径方向内方へのリン量の深さ方向分布を示すグラフである。
この測定結果を下記の表1中に併せて記載する。
【0071】
(初期接着性測定法)
上記の各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表1記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×10分間で加硫した後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その時の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例1−1をコントロールとして指数表示した。数値が大きい程接着力が大きく良好である。
【0072】
(耐熱劣化性(TB、EB)測定法)
上記と同様にしてサンプルを作製し、160℃×20分間で加硫した後、これをオーブン(100℃×72時間)中で熱老化させて、JIS K 6301−1995に基づく引張試験を行った。得られた結果は、比較例1−1の引張強さ(TB)、破断時伸び(EB)の値をそれぞれ100として、指数表示した。数値が大きい程熱老化後の破壊物性が高く、良好であることを示す。
【0073】
【表1】
【0074】
第2のゴム−スチールコード複合体の実施例
下記の表2および表3に記載の配合に従い、各種ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、表1の場合と同様の、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。この測定結果を下記の表2および表3中に併せて記載する。
【0075】
(初期加硫後接着性測定法)
上記の各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表2または3記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×10分間で加硫した後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その時の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例2−4をコントロールとして指数表示した。数値が大きい程接着力が大きく良好である。
【0076】
(通常加硫後接着力測定法)
上記と同様にして作製したサンプルを、160℃×20分間で加硫した後、上記と同様にして引き抜き力を測定し、その結果を比較例2−1を100として指数表示した。数値が大きいほど接着力が大きく、良好であることを示す。
【0077】
(熱老化処理接着力測定法)
上記と同様にして作製したサンプルを、160℃×20分間で加硫し、さらに100℃×10日間で処理した後、上記と同様にして引き抜き力を測定し、その結果を比較例2−5を100として指数表示した。数値が大きいほど接着力が大きく、良好であることを示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
*1:老化防止剤、N−(1,3−ジメチル−ブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業(株)製 ノクラック6C)
*2:デュラリンクHTS(登録商標):フレキシス社製
*3:加硫促進剤、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製 ノクセラ−DZ)
【0081】
上記表2および表3に示したように、表層領域におけるPを低減したスチールコードにHTSや2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、ナトリウム塩を用いた場合には、それぞれを単独に用いた場合に比べて明らかに高い初期加硫後接着力が得られている。また、実施例2−4のように、HTSを減らしても、十分に高い初期加硫後接着力、通常加硫後接着力および熱老化処理後接着力が得られるので、コスト的にも安価なゴム−スチールコード複合体が得られることがわかる。
【0082】
第3のゴム−スチールコード複合体の実施例
以下に示すゴム配合に従い、下記の表4〜表6に記載の多孔質無機充填剤を夫々配合して、各種ゴム組成物を調製した。これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、表1等の場合と同様の、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。この測定結果を下記の表4〜表6中に併せて記載する。
【0083】
(ゴム組成物の配合)
天然ゴム100重量部に対し、カーボンブラック(東海カーボン(株)製、N330)60重量部、酸化亜鉛2重量部、加硫促進剤N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製、ノクセラ−DZ(登録商標))1重量部、老化防止剤N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業(株)製、ノクラック6C(登録商標))1重量部、硫黄5重量部および接着促進剤(ローヌプーラン社製、マノボンドC(登録商標)、有効成分:コバルト金属として22%)0.35重量部を配合した。さらに、下記の表4〜表6に記載の多孔質無機充填剤を夫々加えて、各実施例および比較例のゴム組成物を得た。
【0084】
(初期接着性測定法)
A,Bの各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側から各ゴム組成物からなるシートでコーティングして、これを160℃×10分間の条件下で加硫し、厚さ12.5mmのサンプルを作製した。このサンプルにつき、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その際の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例3−1の値を100として指数表示した。数値が大きい程結果が良好である。
【0085】
(耐劣化接着性測定法)
上記と同様にしてスチールコードをゴム組成物シートでコーティングし、160℃×20分間の条件で加硫して、厚さ12.5mmのサンプルを作製した。これを空気中にて100℃で7日間放置して劣化させた後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その際の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例3−1の値を100として指数表示した。数値が大きい程結果が良好である。
【0086】
【表4】
*4:ゴム成分100重量部に対する量
【0087】
【表5】
*4:ゴム成分100重量部に対する量
【0088】
【表6】
*4:ゴム成分100重量部に対する量
【0089】
上記の結果より、実施例のゴム−スチールコード複合体では、高い耐劣化接着性を維持しながら、初期接着性が大きく向上していることがわかる。
【0090】
第4のゴム−スチールコード複合体の実施例
下記の表7に記載の配合に従い、ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。この測定結果を下記の表7中に併せて記載する。なお、表中、「乾燥後」の接着力は、ゴム成分、カーボンブラック、ZnO、老化防止剤、加流促進剤、硫黄に関し、配合前に真空乾燥した場合のデータであり、また、「放置後」の接着力は、ゴムの混練り後、25℃、湿度50%に調温調湿された空気中に1日、1週間、2週間、4週間の期間それぞれ放置した後に、同様な方法で測定を行った場合のデータである。
【0091】
(接着力測定法)
用いたスチールコードは、表1の場合と同様の、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表7記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×20分間で加流した後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その時の引き抜き力を測定した。得られた結果はコントロール(比較例4−1の1日放置後の接着力)を100として指数表示した。数値が大きい程接着力が大きく、良好であることを示す。
【0092】
【表7】
*5:大内新興化学工業(株)製 ノクラック6C相当
*6:大内新興化学工業(株)製 ノクラセラーDZ相当
【0093】
上記表7の結果より、実施例のゴム−スチールコード複合体は、「乾燥後」および「放置後」の接着力ともに、高い接着力を維持していることがわかる。
【0094】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の第1のゴム−スチールコード複合体によれば、初期接着性、耐ゴム劣化性、耐熱劣化性ともに向上するとともに、高価なCo含量をゼロか極少量としているので、材料コストの削減をも図ることができる。また、本発明の第2のゴム−スチールコード複合体によれば、HTSやチアジアゾール化合物を配合した従来のゴム組成物およびスチールコードの組み合わせからなるゴム−スチールコード複合体では得られない高い接着力を、初期および熱劣化後のいずれにおいても安定して得ることができる。さらに、本発明の第3のゴム−スチールコード複合体によれば、ゴム組成物の耐破壊性を低下させることなく、初期接着性および耐劣化接着性を共に向上することができる。さらにまた、本発明の第4のゴム−スチールコード複合体によれば、季節等の環境条件や作業条件に左右されない安定した接着力を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルゴンエッチングを行いながら測定した、実施例で用いたスチールコードA,Bの周面からワイヤ半径方向内方へのP量の深さ方向分布の測定結果を示すグラフである。
【発明の属する技術分野】
本発明はゴム−スチールコード複合体およびタイヤに関し、詳しくは、トラックやバス、乗用車等に使用される空気入りタイヤのベルトやカーカス部材等、または、工業用ベルト部材などを補強するために使用されるゴム−スチールコード複合体、特にはタイヤ用ゴム−スチールコード複合体と、それを用いたタイヤに関する。また、本発明は、ゴム組成物中に多孔質無機充填剤を配合して、これと特定のめっきを施したスチールコードとを組み合わせることにより、初期接着性および耐劣化接着性を改良したゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤに関する。さらに、本発明は、ブラスめっきスチールコードのめっき表面から深さ5nmの領域の元素組成、特には伸線時の極圧潤滑剤のリン酸由来のPを極限まで低減して、これと所定の配合のゴム組成物とを組み合わせることにより、放置による接着性の安定を改良したゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、ラジアルタイヤのベルトやカーカス用ボディープライ、および各種工業用ベルト部材などのゴム物品においては、ブラスめっきを施したスチールワイヤまたはこれを複数本撚り合わせてなるスチールコードをゴムで被覆してなるものを用いることにより、補強効果を得ることが行われている。従ってこの場合、補強効果を十全に得るためにはスチールコードとゴムとの間の接着性を十分に確保することが必要であり、かかる観点からブラスめっきにおける銅と亜鉛との割合やめっき厚さを適正化すること等が検討され、これまでに一定の知見が確立されている。
【0003】
かかる知見の下に適正化されたブラスめっきを施すことにより設計、製造されたスチールコードを用いれば、ゴムとの間の接着性は向上するが、この場合でも、その接着対象となるゴムについては極めて制限された条件が要求される。例えば、タイヤを所定時間内に加硫製造しようとする場合には、スチールコード−ゴム間の接着の速さとその完結性、即ち、良好な初期接着性を求める観点から、ゴム中に接着プロモーターとしてCo塩やNi塩を相当の割合で添加し、かつ硫黄を高配合して、接着反応の促進を図ることが必要となる。
【0004】
しかし、かかる接着プロモーターや硫黄の添加は、接着反応の促進には有効である反面、未加硫ゴムからのブルームの発生という問題を招く難点がある。添加剤のブルームは、作業性を低下させ、周辺ゴムとの密着、接着性を阻害するばかりでなく、加硫ゴムの劣化、即ち加硫戻りを引き起こして、タイヤ耐久性を低下させる原因ともなる。そのため、これを防止する観点から、スチールコードとの接着を必要とするコーティングゴム中に含有させる接着プロモーターの減少を図るべく、プロモーターの種類、特にCo塩やNi塩の酸種を変更したり、接着プロモーターをコーティングゴムとスチールコードとの間に薄膜として存在させることにより、ゴム組成物中に直接接着プロモーターを含有させずに接着性を改善するなどの試みがなされてきている(例えば、特開平10−324753号公報中に記載)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、接着プロモーターの種類の変更は部分的な最適化を施すにすぎず、Co含有量は基本的に同一にせざるをえないので、初期接着性を改良すれば、結果として、耐久接着性が低下したりブルーム性が低下したりする二律背反を免れないという問題があった。
【0006】
また、ゴムとブラスめっきスチールコードとの接着に際して用いられるコバルト金属塩などの接着プロモーターは一般に高価であるので、これらの使用量の減少を図ることは、タイヤ性能の向上のみらず、配合コストの大幅ダウンによる省資源化の観点からも重要である。ところが、上記特開平10−324753号公報に記載されたコーティングゴムとスチールコードとの間に薄膜として接着プロモーターを介在させる技術では、コーティングゴムにおけるCoの配合を省略することは可能であるものの、接着反応以前に逆にコーティングゴム中に拡散するCoの割合が多くなるので薄膜の厚みを数十μm程度とする必要があり、Coの削減効果が十分であるとは言えないことから、さらなる改善が望まれていた。
【0007】
このように、ブラスめっきスチールコードとコーティングゴムとの接着において要求される性能としては、単に初期接着性が良好であればよいというものではなく、タイヤが実使用時に劣化環境に曝された際に接着界面の劣化に起因する故障を生じないことや、タイヤ製造工程におけるトラブルの防止、配合コストの抑制など、様々な条件を満足することが必要となる。
【0008】
そこで本発明の第1の目的は、コーティングゴム組成物中に添加する接着プロモーターの量をごく少量に抑えるか若しくは全く添加せず、かつ、スチールコードとコーティングゴムとの間に接着プロモーターを薄膜で適用することも必要とせずに、極めて効率的にスチールコードとコーティングゴムとの間の接着性を改良することができるブラスめっき条件を規定することにより、特に、初期接着性、耐ゴム劣化性、耐熱劣化性およびコスト性に優れたゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0009】
また、特開平10−195237号公報には、スチールコードのコーティングゴム中に1,6−ヘキサメチレン−ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物(HTS)および所定の無機化合物を配合することによりゴムの耐熱老化性および接着性を改善する技術が、特開平9−328573号公報には、コーティングゴム中にチアジアゾール化合物を配合することにより初期接着性を損なわずに耐熱接着性を改善する技術が、また、特開平9−3206号公報には、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩とホウ酸およびホウ酸エステルのうち少なくとも1種を配合することによりゴム組成物の初期接着性および耐久接着性を向上する技術が、夫々記載されている。
【0010】
これらの技術によれば、初期接着性の向上等の所期の効果を得ることが可能であるが、夫々、以下のような問題点をも残すものであった。即ち、特開平10−195237号公報記載の技術では、ゴム薬品としては比較的高価なHTSをゴム成分配合量に対して多く配合するためにコスト性を損なう場合があり、また、コスト性を考慮すると、初期接着性の効果が十分ではなかった。また、特開平9−328573号公報記載の技術では、チアジアゾール化合物に加硫反応を阻害する傾向があるために多量には配合することができず、より高い効果を得ることが困難であった。さらに、特開平9−3206号公報記載の技術では、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩がゴム薬品としては高価であるという難点があり、また、その配合量が多すぎるとゴムのスコーチ性が悪化するという不都合もあった。
【0011】
そこで本発明の第2の目的は、上記従来技術における不十分な点を解消して、初期接着性および耐熱接着性を高いレベルで両立しつつ、かつ、製品コストの低減をも図ることができるゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0012】
さらに、ゴム−スチールコード複合体の初期接着性および耐劣化接着性の改良に関しては、従来のブラスめっきを施したスチールコードに対し、多孔質無機充填剤を配合したコーティングゴム組成物を適用する技術が、特開2000−7838号公報中に記載されている。しかし、多孔質充填剤を配合した場合、初期接着性および耐劣化接着性を改良する効果は得られるものの、その一方でゴム組成物の耐破壊性を低下させるという不都合があり、この点に関しては上記公報においては検討されていなかった。また、初期接着性に関しては、更なる向上が望まれている現状があった。
【0013】
そこで本発明の第3の目的は、かかる多孔質充填剤を配合したコーティングゴムとの組み合わせにおいて、接着界面となるスチールコードのブラスめっきを改良することにより、ゴム組成物の耐破壊性を低下させることなく、耐劣化接着性および初期接着性を向上させたゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0014】
さらにまた、特開2002−13082公報中では、加硫後接着力および耐熱老化特性を改良するためにゴムの練り中または加硫中に無機含水塩を配合して水分を供給する従来技術に対し、かかる無機含水塩配合ゴム組成物をゴム−スチールコード複合体の形成に使用する場合には、配合後のゴム組成物を室温下で空気中に長時間放置すると初期接着力が低下してしまうという不都合があることから、これを改善するための技術が提案されている。
【0015】
そこで本発明の第4の目的は、上記のような無機含水塩配合ゴム組成物を用いた系において、高い接着力を安定して発揮することができ、しかも長期間保存しても初期接着力が低下しない新たなゴム−スチールコード複合体およびそれを用いたタイヤを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
上記第1の課題を解決するために、本発明者は、ブラスめっきを施したスチールコードとゴムとの間の接着反応を支配するコード表面因子を従来知られている以上に機器分析的手法を駆使してコントロールし、詳細に表面を造り込んで、接着性との対応を検討した結果、ブラスめっきのバルク組成が同じである場合には、その最表面から深さ5nmまでの表層領域において、伸線時に用いる極圧潤滑剤由来のリン酸量を制御することにより接着性を改良できることを見出して、本発明のゴム−スチールコード複合体を完成するに至った。
【0017】
即ち、本発明の第1のゴム−スチールコード複合体は、ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0018】
本発明の第1のゴム−スチールコード複合体においては、特に、前記ゴム組成物がコバルト塩を含有しないことが好ましい。
【0019】
以下に、上記の知見を得るに至った経緯を説明する。
まず、スチールワイヤを得るための伸線工程において、そのパススケジュールやダイスの材質、潤滑剤の成分組成、熟成条件または液温度などを種々に変更して作製した各種ワイヤのゴム接着性を評価したところ、ワイヤによってゴム接着性が異なることが明らかとなった。次に、ゴム接着性の良好なワイヤに共通の条件を調査した結果、ゴム接着性に関する従来の一般的指標である、めっき層における銅やリンの含有量ではその条件を包括しきれないことが判明した。そこで、ゴム接着性に影響を与える要因についてさらに鋭意究明したところ、めっき層の極表層の領域、具体的にはめっきの表面からワイヤ半径方向内側に5nmの深さまでの表層領域における、酸化物として含まれるリンの量が、ゴム接着性と相関していることを見出したのである。
【0020】
ここで、上記表層領域における酸化物として含まれるリンの量は、X線光電子分光法に従って計測することができる。本発明においては、X線光電子分光法に従って計測される光電子の脱出深さ領域において、全元素の原子数と酸化物中のリンの原子数とを検出し、全元素の原子数を100としたときの酸化物中のリンの原子数を指数で表示したものを、当該領域における酸化物に含まれるリンの原子%とした。なお、酸化物としてのリンと他のリンとの判別は、リン原子のX線光電子スペクトルで測定されるP=p光電子の結合エネルギーの化学シフトに基づいて行うことができる。また、この深さ5nmまでの表層領域は、固体の光電子分光に関する一般的な文献にて示される、電子の運動エネルギーと脱出深度とによって認識することができる。
【0021】
また、上記第2の課題を解決するために、本発明者は、ゴムの配合とスチールコード表面の反応性との組み合わせにより改良手法を検討した結果、以下に述べる特定のゴム組成物とスチールコードとを組み合わせることにより、特に初期接着性が著しく改良されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0022】
即ち、本発明の第2のゴム−スチールコード複合体は、天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分と、1,6−ヘキサメチレンジアミン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体およびその水和物、並びにトリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とが配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0023】
本発明の第2のゴム−スチールコード複合体においては、前記ゴム組成物に、含水無機塩および硫黄のいずれか一方または双方が配合されてなることが好ましい。また、前記ジメルカプトチアジアゾールが、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールであることが好ましく、前記ジメルカプトチアジアゾールの一置換体が、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩および亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、前記トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩の金属元素が、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0024】
さらにまた、前記ゴム組成物がホウ酸およびホウ酸エステルのいずれか一方または双方を含有することが好ましく、より好ましくは、前記ホウ酸エステルが1分子あたり1〜3個のホウ素原子を有し、かつ、炭素数1〜4個のアルコール残基を有する。
【0025】
上記本発明の第2のゴム−スチールコード複合体によれば、従来のゴム−スチールコード複合体に比較して非常に高い接着力が得られるが、これは、HTS、チアジアゾール化合物、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩等の接着システムが夫々独立して作用するだけでなく、ブラスめっきの表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでの表層領域において酸化物として含まれるリンの量が、ゴム接着性と密接に相関するという事実に基づいている。
【0026】
さらに、上記第3の課題を解決するために、本発明の第3のゴム−スチールコード複合体は、ゴム成分と、多孔質無機充填剤とが配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0027】
本発明の第3のゴム−スチールコード複合体においては、前記多孔質無機充填剤が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライトおよび下記一般式(I)、
mM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物であり、mは1〜5の整数であり、xは0〜10の整数であり、yは2〜5の整数であり、zは0〜10の整数である)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、より好ましくは、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーおよびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0028】
また、前記多孔質無機充填剤が、ゴム成分100重量部に対し3〜30重量部配合されていることが好ましい。
【0029】
多孔質充填剤は吸湿性があるので、加硫時に水分が放出されてスチールコードとゴム相との接着が高まると考えられる。また、コード伸線時に極圧潤滑剤と反応して表面に残存するリンを極限まで低減させた本発明のスチールコードにおいては、従来におけるゴム中にCo系接着剤を添加するシステムでは少量の水分供給により初期接着が高められるが、これまでよりも少ない量の多孔質物質により同等の性能が得られると考えられる。本発明の第3のゴム−スチールコード複合体は、かかる知見に基づくものである。
【0030】
さらにまた、上記第4の課題を解決するために、本発明者は、長期保存中に接着力および加硫ゴムの諸物性が変化するのは、無機含水塩が少しずつ徐々にゴム中のCo塩やNi塩と反応するためと考えられることから、無機含水塩とCo塩との反応に対して鈍感なめっき表面を作り出すことで長期保存しても高い接着力を得るための方策を検討した結果、コード伸線時に極圧潤滑剤と反応して表面に残存する表層5nm領域のリンを極限まで低減させることによりかかる高接着力が実現できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0031】
即ち、本発明の第4のゴム−スチールコード複合体は、天然ゴムおよび/または合成ゴムよりなるゴム成分100重量部に対し、無機含水塩0.1〜10重量部および硫黄3〜8重量部を配合してなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするものである。
【0032】
本発明の第4のゴム−スチールコード複合体においては、前記ゴム成分が、天然ゴムを50重量%以上含有することが好ましい。また、前記合成ゴムが、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)およびイソプレンゴム(IR)からなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、前記スチレン・ブタジエンゴムが、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合スチレン・ブタジエンゴムであることが好ましく、前記ブタジエンゴムのビニル結合量が1〜85重量%であることも好ましい。
【0033】
また、本発明の上記第1〜第4のゴム−スチールコード複合体においては、好適には、前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%である。また、前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmであることが好ましく、前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下であることも好ましい。
【0034】
さらに、本発明のタイヤは、一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記本発明の第1〜第4のゴム−スチールコード複合体のうちのいずれかを用いたことを特徴とするものである。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態につき具体的に説明する。
最初に、本発明の第1〜第4のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物について説明する。
本発明の第1のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物は、ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるものであり、好ましくはコバルト塩を含有しない。ゴム組成物中のCo塩の含有量を、ゴム成分100重量部に対して0.1重量部以下、好ましくはゼロにすることにより、ゴム組成物の劣化を抑制することができるとともに、接着性を確保することができ、さらに、コストの削減を図ることができる。
【0036】
Co塩を含有する場合のかかるCo塩を構成する酸としては、例えば、バーサチック酸、ナフテン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、リノレイン酸、脱水ひまし油酸、樹脂酸、ヒドロキシステアリン酸、アビエチン酸、カブリル酸、2−エチルヘキサン酸、オクチル酸、安息香酸、ビバリン酸、n−ヘプタン酸、2,2−ジメチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、4,4−ジメチルペンタン酸、n−オクタン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、4,4−ジメチルヘキサン酸、2,4,4−トリメチルペンタン酸、n−ノナン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、6,6−ジメチルペプタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、n−デカン酸、2,2−ジメチルオクタン酸、7,7−ジメチルオクタン酸、n−ウンデカン酸などが挙げられ、具体的な商品としては、例えば、「ベルサティック」10((登録商標)、ネオデカン酸を主成分とし、英国においてシェルインターナショナルカンパニーリミテッド(Shell International Company Limited)により販売されている合成混合物)などが挙げられる。
【0037】
また、本発明に好適なゴム成分としては、特に制限されないが、天然ゴムの含有量が50重量%以上であることが好ましい。合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム、とりわけ臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)、イソプレンゴム(IR)等を例示することができる。なお、本発明のゴム組成物には、通常使用される他の添加剤を、通常の使用量で適宜配合することができる。
【0038】
本発明の第2のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物は、ゴム成分のうち、天然ゴムを50重量%以上含有する。天然ゴムが50重量%未満では、接着特性およびゴム破壊特性の低下を招くので好ましくない。ゴム成分の残部をなす合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、好ましくは、臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとP−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、イソプレンゴム等が挙げられる。
【0039】
ここで、ゴム成分の残部をなす合成ゴムがSBRである場合には、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合スチレン・ブタジエンゴムを用いることが好ましい。溶液重合SBRのビニル結合量が35重量%未満ではゴムの耐熱老化性が十分改良できず、一方、85重量%を超えるとゴムの破壊特性が低下するため、いずれも好ましくない。また、結合スチレン量が30重量%を超えると、接着性が低下してしまう。
【0040】
また、上記ゴム組成物には、1,6−ヘキサメチレンジアミン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体およびその水和物、並びにトリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物が配合されている。かかる化合物の配合量は、得られる接着改良効果と他物性への影響の観点から、好ましくは、ゴム成分100重量部に対して0.5〜2.0重量部である。
【0041】
上記ジメルカプトチアジアゾール(DMTD)としては、例えば、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール等を挙げることができ、また、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩および亜鉛塩等を挙げることができる。また、トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩としては、金属元素が、リチウム、ナトリウムまたはカリウムであるものが好ましい。
【0042】
また、上記ゴム組成物には、含水無機塩および硫黄のいずれか一方または双方が配合されていることが好ましい。さらに、ゴム組成物がホウ酸およびホウ酸エステルのいずれか一方または双方を含有することも好ましい。なお、かかるホウ酸エステルとしては、好適には、1分子あたり1〜3個のホウ素原子を有し、かつ、炭素数1〜4個のアルコール残基を有するものを用いる。
【0043】
本発明の第3のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物に係るゴム成分としては、天然ゴムや合成ゴムが用いられる。合成ゴムとしては、例えばブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムが好ましく、さらに臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴムなども好適なものとして挙げることができる。本発明におけるゴム成分は、スチールコードを補強材とするゴム製品の用途に応じて、天然ゴムおよび上記合成ゴムの中から、適宜一種または二種以上選択して用いられるが、特に接着性およびゴム破壊特性などの面から、天然ゴムおよび/または合成イソプレンゴムを50重量%以上の割合で含有するゴム成分が好適である。
【0044】
また、上記ゴム組成物中には、多孔質無機充填剤が配合されている。かかる多孔質無機充填剤としては、多孔質であって吸湿性や吸水性を有するものであればよく、特に制限はないが、例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライト、および下記一般式(I)、
mM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物であり、mは1〜5の整数であり、xは0〜10の整数であり、yは2〜5の整数であり、zは0〜10の整数である)で表される化合物などを好ましく挙げることができる。
【0045】
上記一般式(I)において、x、zが共に0である場合には、この式により表される化合物は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物となる。
【0046】
上記一般式(I)で表される多孔質無機充填剤の具体例としては、例えば、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム[Al(OH)3]、水酸化マグネシウム[Mg(OH)2]、酸化マグネシウム(MgO2)、タルク(3MgO・4SiO2・H2O)、アタパルジャイト(5MgO・8SiO2・9H2O)、チタン(TiO2)、チタン黒(TiO2n−1)、酸化カルシウム(CaO)、水酸化カルシウム[Ca(OH)2]、酸化アルミニウムマグネシウム(MgO・Al2O3)、クレー(Al2O3・2SiO2)、カリオン(Al2O3・2SiO2・2H2O)、パイロフイライト(Al2O3・4SiO2・H2O)、ベントナイト(Al2O3・4SiO2・2H2O)、ケイ酸アルミニウム(Al2SiO5、Al4・3SiO4・5H2O等)、ケイ酸マグネシウム(Mg2SiO4、MgSiO3等)、ケイ酸カルシウム(Ca2・SiO4等)、ケイ酸アルミニウムカルシウム(Al2O3・CaO・2SiO2等)、ケイ酸マグネシウムカルシウム(CaMgSiO4)等が挙げられる。また、水酸化アルミニウムには、アルミナ水和物(Al2O3・3H2O)も含まれる。
【0047】
より好ましい多孔質無機充填剤は、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーおよびゼオライトである。これら多孔質無機充填剤は単独で用いてもよく、2種以上を適宜組み合わせて混合して用いてもよい。
【0048】
本発明のゴム組成物における多孔質無機充填剤の含有量は、ゴム成分100重量部に対し、好ましくは3〜30重量部、より好ましくは1〜10重量部の範囲で選定される。この含有量が3重量部未満では、初期接着性および耐劣化接着性の向上効果が十分に発揮されないおそれがあり、一方、30重量部を超えると、その量の割には効果の向上が認められず、むしろ他の物性が損なわれる原因となる。初期接着性や耐劣化接着性の向上効果および他の物性などを考慮すると、多孔質充填剤の特に好ましい含有量は、2〜5重量部の範囲である。
【0049】
上記ゴム組成物中には、所望により、従来スチールコードコーティング用ゴム組成物において慣用されている各種接着促進剤を適宜含有させることができ、これにより、これらを配合した場合の初期接着性および耐劣化接着性を一段と向上させることができる。かかる接着促進剤としては、例えば、有機酸の金属塩、特に有機酸のコバルト塩が好ましく挙げられる。ここで、有機酸としては、飽和、不飽和、あるいは直鎖状、分岐状のいずれであってもよく、例えば、ネオデカン酸、ステアリン酸、ナフテン酸、ロジン、トール油酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。また、かかる有機酸は、金属が多価の場合には、その一部をホウ素、ホウ酸またはアルミニウムなどを含有する化合物と置換することもできる。有機酸の金属塩の配合量は、好ましくは、ゴム成分100重量部に対して、金属元素含有量として0.1〜0.2重量部である。
【0050】
また、本発明のゴム組成物には、硫黄を含有することができる。硫黄の含有量としては、ゴム成分100重量部に対し3〜8重量部の範囲が好ましく、この含有量が3重量部未満では、接着力発現の元となるCuxS(スチールコードの黄銅めっき中の銅と硫黄との反応により生成する)の生成に十分な硫黄を提供することができず、接着力が不十分になるおそれがある。一方、硫黄の含有量が8重量部を超えると、CuxSが過剰に生成するために、肥大化したCuxSの凝集破壊が起こり、接着力が低下するとともに、ゴム物性としての耐熱老化性が低下する傾向がみられる。
【0051】
さらに、本発明のゴム組成物には、上記の各成分以外に、ゴム業界で通常使用される添加剤を通常の配合量で適宜配合することができる。具体的には、カーボンブラックやシリカ等の充填剤、アロマオイル等の軟化剤、ジフェニルグアニジン等のグアニジン類、メルカプトベンゾチアゾール等のチアゾール類、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等のスルフェンアミド類、テトラメチルチウラムジスルフィド等のチウラム類などの加硫促進剤、酸化亜鉛等の加硫促進助剤、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)、フェニル−α−ナフチルアミン等のアミン類などの老化防止剤等を挙げることができる。
【0052】
これら添加剤のうち、カーボンブラックやシリカなどの充填剤は加硫ゴムの引張り強さ、破断強度、引張応力、硬さなどの増加や、耐摩耗性、引張り抵抗性の向上などに用いられる補強剤として知られており、酸化亜鉛は脂肪酸と錯化合物を形成し、加硫促進効果を高める加硫促進助剤として知られている。
【0053】
本発明の第4のゴム−スチールコード複合体のゴム組成物は、天然ゴムおよび/または合成ゴムよりなるゴム成分100重量部に対し、無機含水塩0.1〜10重量部が配合されてなる。無機含水塩の配合量が0.1重量部未満では接着性の改良効果が得られず、一方、10重量部超過では、ゴム中水分率が高くなり過ぎて逆に接着力およびゴム破壊特性の低下を招くために、いずれも好ましくない。無機含水塩の配合量は、より好ましくは0.2〜8重量部、特には0.3〜3重量部であり、この場合、より効果的である。
【0054】
本発明に好適に使用される無機含水塩としては、例えば、NiSO4・7H2O、CoSO4・7H2O、NaSO4・10H2O、CaSO4・2H2O、CuSO4・5H4O、Al2(SO4)3・18H2O、FeSO4・7H2O、ZnSO4・7H2O、MgSO4・7H2O、Na2S・9H2O、Na3PO4・12H2O、NaH2PO4・2H2O、Na2HPO4・12H2O、Ni3(PO4)2・8H2O、Mg3(PO4)2・8H2O、Li3PO45H2O、Na4P2O7・10H2O、Ni2P2O7・6H2O、Mn4(P2O7)3・14H2O、CoCO3・6H2O、NiCO3・6H2O、Na2CO3・10H2O、Nd2(CO3)3・8H2O、Na2SO3・7H2O、Ca2Cl2・6H2O、NiCl2・6H2O、NaB4O7・10H2O、FeCl3・6H2O、Na2SiO3・9H2Oなどが挙げられる。
【0055】
また、ゴム成分は、天然ゴムを50重量%以上含有することが好ましく、天然ゴムが50重量%未満であると、接着特性およびゴム破壊特性の低下を招くために好ましくない。
【0056】
本発明のゴム成分のうち、合成ゴムとしては、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、とりわけ臭素化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム(具体的には、イソブチレンとp−ハロゲン化メチルスチレンとの共重合体等)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、イソプレンゴムなどが、耐熱老化性の点で好ましい。
【0057】
また、SBRとしては、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合SBRが好適である。これは、ビニル結合量が35〜85重量%であるとゴム組成物の耐熱老化性と破壊特性とのバランスがよく、また、結合スチレン量が30重量%以下であると接着性により優れるからである。さらに、BRの場合には、ビニル結合量が1〜85重量%であると、ゴム組成物の耐熱老化性のメリットが大きく、破壊特性にも優れるため好ましい。
【0058】
また、上記ゴム組成物には、ゴム成分100重量部に対して、3〜8重量部の硫黄が配合されている。硫黄の配合量が3重量部未満では、硫黄−ゴム加硫接着本来の接着力の確保が困難となり、8重量部を超えると、ゴム物性の耐熱老化性および耐熱接着特性の低下を招くため、いずれにおいても本発明の所期の効果が得られない。
【0059】
さらに、本発明では、上記成分の他に、ゴム業界で通常使用される配合剤を適宜配合することができる。具体的には、ゴム成分100重量部に対して、例えば、亜鉛華を2〜10重量部、加硫促進剤を0.3〜2重量部、カーボンブラックを30〜70重量部、接着促進剤を0.25〜3重量部にて、夫々配合することができる。ゴム成分100重量部に対して、亜鉛華が2重量部未満ではゴム弾性率が十分に得られない一方、10重量部を超えると接着性が低下する。また、加硫促進剤が0.3重量部未満では十分なゴム弾性率が得られない一方、2重量部を超えると接着性が低下する。さらに、カーボンブラックが30重量部未満では、十分なゴム弾性率が得られない一方、70重量部を超えると破壊特性が低下する。さらにまた、接着促進剤が0.25重量部未満では十分な効果が得られない一方、3重量部を超えると耐熱老化性に劣ることになる。
【0060】
次に、本発明の第1〜第4のゴム−スチールコード複合体のスチールコードについて説明する。
本発明に係るスチールコードにおいては、周面ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量を、1.5原子%以下に抑制することが肝要である。酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%を超えて増加すると、それにつれてゴムとの接着速度が遅くなり、所望のゴム接着性を確保するためにはゴム配合を厳密に規制する等の難しい操作が必要になるとともに、ゴム中の水分率の影響が大きくなって、かかる水分率の低下する冬期の製造においてはゴムの接着性が確保できなくなってしまう。リンの量を1.5原子%以下とすることにより、ゴム中の水分率にかかわらず優れたゴム接着性を安定して得ることが可能になる。
【0061】
ここで、ブラスめっき層のワイヤ表層領域におけるリンの定量は、X線光電子分光法を用いて、ワイヤの曲率の影響を受けないよう20〜30μmφの分析面積にて、めっき層のワイヤ表層領域に存在する原子、即ち、C、Cu、Zn、O、PおよびNの原子数を計測することにより行い、これらC、Cu、Zn、O、PおよびNの合計原子数を100としたときのPの原子数の比率として、リンの含有量を求めた。各原子の原子数は、C:C1S、O:O1S、P:P2P、Cu:Cu2p3/2、Zn:Zn2p3/2およびN:N1Sの光電子のカウント数を夫々用いて、夫々の感度係数で補正することにより求めた。例えば、リンの検出原子数[P]は、下記式にて求めることができる。
[P]=Fp(P2pの感度係数)×(一定時間当たりのP2p光電子のカウント数)
【0062】
他の原子についても同様にして検出原子数を求めれば、それらの結果から、下記式、
P(原子%)={[P]/([Cu]+[Zn]+[C]+[O]+[N]+[P])}×100
に従い、リンの相対原子%を求めることができる。また、周面からワイヤ半径方向内方への深さ方向の元素の分布についても、アルゴンエッチング等を行えば詳細に測定することが可能である。
【0063】
なお、上記分析前のワイヤの表面がオイル等で覆われていたり有機物で汚染されていた場合には、正確な分析を行うために、ワイヤ表面を適切な溶媒で洗浄し、さらに、必要に応じて表面を改質しない程度の軽度の乾式クリーニングを施すことが必要である。
【0064】
上記ワイヤ表層領域中に酸化物として含まれるリンの量を1.5原子%以下とするためには、伸線加工のパススケジュール、ダイスのエントランスやアプローチの形状並びに角度、ダイスの材質および潤滑剤組成などの調整を、夫々単独で、または適宜組み合わせることにより、かかるリンの量を適宜調整する。とりわけ、最終伸線工程において、極圧添加剤を含む潤滑剤を通常と同様に用いて、最終伸線工程の概略20パスのダイスのうち最終パスまたは最終パスを含む後段数パス程度において、優れた自己潤滑性と切削性とを兼ね備えた材質からなるダイス、例えば、焼結ダイヤモンドダイスを適用して伸線加工を行うことが、極めて有効である。
【0065】
ブラスめっき層の平均厚みは、好適には、0.13〜0.30μmである。ブラスめっき層の平均厚みが0.13μm未満では、鉄地が露出する部分が増加して初期接着性が阻害され、一方、0.30μmを超えると、ゴム物品使用中の熱によって過剰に接着反応が進行して、脆弱な接着しか得られなくなる。
【0066】
また、本発明においては、ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、上記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%であることが好ましい。ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60重量%未満になると、伸線性が悪化して断線により生産性が阻害され、量産することが難しくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を15原子%以上に制御することが困難となる。一方、70重量%を超えると、耐熱接着性の耐水分接着性が低下して、タイヤが曝される環境に対して十分な耐久性を維持できなくなるうえ、ワイヤ表層領域における後述の銅含有率を45原子%以下に制御することが困難となる。また、ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15原子%未満であると、ワイヤ表層領域におけるリンの量を上記した1.5原子%以下に制限した場合であっても、ゴムとの接着反応に乏しくなる結果、より優れたゴム接着性の確保が困難となる。一方、45原子%を超えると、耐熱接着性や耐水分接着性が低下するという不利を招く。
【0067】
スチールワイヤの直径は、0.40mm以下であることが有利である。直径が0.40mmを超えると、使用したゴム物品が曲げ変形下で繰り返し歪みを受けたときに表面歪が大きくなり、座屈を引き起こし易くなる。
【0068】
かかるスチールワイヤは、単線で用いてもよく、また、その複数本を撚り合わせたスチールコードとして用いることもでき、ゴム物品、中でもタイヤのカーカスやベルトの補強材として好適である。特に、本発明のゴム−スチールコード複合体を、乗用車用タイヤ、中でも乗用車用ラジアルタイヤのベルトに適用する場合には、ゴムとの接着速度が速くなることにより、タイヤの加硫時間を大幅に短縮することができる効果をも得ることができる。一方、トラックおよびバス用タイヤ、中でもトラックおよびバス用ラジアルタイヤのカーカスに適用する場合には、ビード部においてゴムとの接着速度が速くなるため、加硫時間の短縮と併せて、ビード部耐久性の向上をも図ることが可能である。
【0069】
本発明のゴム−スチールコード複合体は、上記スチールコードコーティング用ゴム組成物およびスチールコードから構成されるものであり、この複合体は、例えば自動車用タイヤやコンベアベルトなどの工業用ゴム製品の性能を向上させるための補強材として好適に用いられる。即ち、本発明の空気入りタイヤは、一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、そのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、かかるカーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、上記本発明のいずれかのゴム−スチールコード複合体を用いたものであり、これにより、耐久性に優れた高性能の空気入りタイヤを得ることができる。
【0070】
【実施例】
以下、本発明を実施例を用いてより具体的に説明する。
第1のゴム−スチールコード複合体の実施例
下記の表1に記載の配合処方に従い、各種ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。図1は、アルゴンエッチングを行いながら測定した、スチールコードAおよびBの周面からワイヤ半径方向内方へのリン量の深さ方向分布を示すグラフである。
この測定結果を下記の表1中に併せて記載する。
【0071】
(初期接着性測定法)
上記の各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表1記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×10分間で加硫した後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その時の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例1−1をコントロールとして指数表示した。数値が大きい程接着力が大きく良好である。
【0072】
(耐熱劣化性(TB、EB)測定法)
上記と同様にしてサンプルを作製し、160℃×20分間で加硫した後、これをオーブン(100℃×72時間)中で熱老化させて、JIS K 6301−1995に基づく引張試験を行った。得られた結果は、比較例1−1の引張強さ(TB)、破断時伸び(EB)の値をそれぞれ100として、指数表示した。数値が大きい程熱老化後の破壊物性が高く、良好であることを示す。
【0073】
【表1】
【0074】
第2のゴム−スチールコード複合体の実施例
下記の表2および表3に記載の配合に従い、各種ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、表1の場合と同様の、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。この測定結果を下記の表2および表3中に併せて記載する。
【0075】
(初期加硫後接着性測定法)
上記の各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表2または3記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×10分間で加硫した後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その時の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例2−4をコントロールとして指数表示した。数値が大きい程接着力が大きく良好である。
【0076】
(通常加硫後接着力測定法)
上記と同様にして作製したサンプルを、160℃×20分間で加硫した後、上記と同様にして引き抜き力を測定し、その結果を比較例2−1を100として指数表示した。数値が大きいほど接着力が大きく、良好であることを示す。
【0077】
(熱老化処理接着力測定法)
上記と同様にして作製したサンプルを、160℃×20分間で加硫し、さらに100℃×10日間で処理した後、上記と同様にして引き抜き力を測定し、その結果を比較例2−5を100として指数表示した。数値が大きいほど接着力が大きく、良好であることを示す。
【0078】
【表2】
【0079】
【表3】
【0080】
*1:老化防止剤、N−(1,3−ジメチル−ブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業(株)製 ノクラック6C)
*2:デュラリンクHTS(登録商標):フレキシス社製
*3:加硫促進剤、N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製 ノクセラ−DZ)
【0081】
上記表2および表3に示したように、表層領域におけるPを低減したスチールコードにHTSや2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、ナトリウム塩を用いた場合には、それぞれを単独に用いた場合に比べて明らかに高い初期加硫後接着力が得られている。また、実施例2−4のように、HTSを減らしても、十分に高い初期加硫後接着力、通常加硫後接着力および熱老化処理後接着力が得られるので、コスト的にも安価なゴム−スチールコード複合体が得られることがわかる。
【0082】
第3のゴム−スチールコード複合体の実施例
以下に示すゴム配合に従い、下記の表4〜表6に記載の多孔質無機充填剤を夫々配合して、各種ゴム組成物を調製した。これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。用いたスチールコードは、表1等の場合と同様の、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。この測定結果を下記の表4〜表6中に併せて記載する。
【0083】
(ゴム組成物の配合)
天然ゴム100重量部に対し、カーボンブラック(東海カーボン(株)製、N330)60重量部、酸化亜鉛2重量部、加硫促進剤N,N’−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(大内新興化学工業(株)製、ノクセラ−DZ(登録商標))1重量部、老化防止剤N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(大内新興化学工業(株)製、ノクラック6C(登録商標))1重量部、硫黄5重量部および接着促進剤(ローヌプーラン社製、マノボンドC(登録商標)、有効成分:コバルト金属として22%)0.35重量部を配合した。さらに、下記の表4〜表6に記載の多孔質無機充填剤を夫々加えて、各実施例および比較例のゴム組成物を得た。
【0084】
(初期接着性測定法)
A,Bの各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側から各ゴム組成物からなるシートでコーティングして、これを160℃×10分間の条件下で加硫し、厚さ12.5mmのサンプルを作製した。このサンプルにつき、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その際の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例3−1の値を100として指数表示した。数値が大きい程結果が良好である。
【0085】
(耐劣化接着性測定法)
上記と同様にしてスチールコードをゴム組成物シートでコーティングし、160℃×20分間の条件で加硫して、厚さ12.5mmのサンプルを作製した。これを空気中にて100℃で7日間放置して劣化させた後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その際の引き抜き力を測定した。得られた結果は比較例3−1の値を100として指数表示した。数値が大きい程結果が良好である。
【0086】
【表4】
*4:ゴム成分100重量部に対する量
【0087】
【表5】
*4:ゴム成分100重量部に対する量
【0088】
【表6】
*4:ゴム成分100重量部に対する量
【0089】
上記の結果より、実施例のゴム−スチールコード複合体では、高い耐劣化接着性を維持しながら、初期接着性が大きく向上していることがわかる。
【0090】
第4のゴム−スチールコード複合体の実施例
下記の表7に記載の配合に従い、ゴム組成物を調製して、これによりスチールコードをコーティングし、以下の条件で加硫して、得られた各実施例および比較例のゴム−スチールコード複合体につき、下記の方法で性能を測定した。この測定結果を下記の表7中に併せて記載する。なお、表中、「乾燥後」の接着力は、ゴム成分、カーボンブラック、ZnO、老化防止剤、加流促進剤、硫黄に関し、配合前に真空乾燥した場合のデータであり、また、「放置後」の接着力は、ゴムの混練り後、25℃、湿度50%に調温調湿された空気中に1日、1週間、2週間、4週間の期間それぞれ放置した後に、同様な方法で測定を行った場合のデータである。
【0091】
(接着力測定法)
用いたスチールコードは、表1の場合と同様の、Cu:63重量%、Zn:37重量%でブラスめっきされたスチールコードA(ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの量:2.5原子%)およびスチールコードB(同量:1.0原子%)である。各スチールコード(1×5構造、素線径0.25mm)を12.5mm間隔で平行に並べ、このスチールコードを両側からゴム組成物(下記表7記載の配合)にてコーティングして、サンプルを作製した。これを160℃×20分間で加流した後、ASTM−D−2229に準拠して、スチールコードを引き抜き、その時の引き抜き力を測定した。得られた結果はコントロール(比較例4−1の1日放置後の接着力)を100として指数表示した。数値が大きい程接着力が大きく、良好であることを示す。
【0092】
【表7】
*5:大内新興化学工業(株)製 ノクラック6C相当
*6:大内新興化学工業(株)製 ノクラセラーDZ相当
【0093】
上記表7の結果より、実施例のゴム−スチールコード複合体は、「乾燥後」および「放置後」の接着力ともに、高い接着力を維持していることがわかる。
【0094】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明の第1のゴム−スチールコード複合体によれば、初期接着性、耐ゴム劣化性、耐熱劣化性ともに向上するとともに、高価なCo含量をゼロか極少量としているので、材料コストの削減をも図ることができる。また、本発明の第2のゴム−スチールコード複合体によれば、HTSやチアジアゾール化合物を配合した従来のゴム組成物およびスチールコードの組み合わせからなるゴム−スチールコード複合体では得られない高い接着力を、初期および熱劣化後のいずれにおいても安定して得ることができる。さらに、本発明の第3のゴム−スチールコード複合体によれば、ゴム組成物の耐破壊性を低下させることなく、初期接着性および耐劣化接着性を共に向上することができる。さらにまた、本発明の第4のゴム−スチールコード複合体によれば、季節等の環境条件や作業条件に左右されない安定した接着力を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】アルゴンエッチングを行いながら測定した、実施例で用いたスチールコードA,Bの周面からワイヤ半径方向内方へのP量の深さ方向分布の測定結果を示すグラフである。
Claims (22)
- ゴム成分100重量部に対し0.1重量部以下のコバルト塩が配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
- 前記ゴム組成物がコバルト塩を含有しない請求項1記載のゴム−スチールコード複合体。
- 天然ゴムを50重量%以上含有するゴム成分と、1,6−ヘキサメチレンジアミン−ジチオ硫酸ナトリウム二水和物、ジメルカプトチアジアゾールの一置換体およびその水和物、並びにトリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩からなる群から選ばれる少なくとも1種とが配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
- 前記ゴム組成物に含水無機塩および硫黄のいずれか一方または双方が配合されてなる請求項3記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ジメルカプトチアジアゾールが、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールである請求項3または4記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ジメルカプトチアジアゾールの一置換体が、ナトリウム塩、カリウム塩、リチウム塩、アンモニウム塩および亜鉛塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3〜5のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記トリアジントリチオール・モノアルカリ金属塩の金属元素が、リチウム、ナトリウムおよびカリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項3〜6のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ゴム組成物がホウ酸およびホウ酸エステルのいずれか一方または双方を含有する請求項3〜7のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ホウ酸エステルが1分子あたり1〜3個のホウ素原子を有し、かつ、炭素数1〜4個のアルコール残基を有する請求項8記載のゴム−スチールコード複合体。
- ゴム成分と、多孔質無機充填剤とが配合されてなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
- 前記多孔質無機充填剤が、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ゼオライトおよび下記一般式(I)、
mM1・xSiOy・zH2O (I)
(式中、M1は、Al、Mg、TiおよびCaから選ばれる少なくとも1種の金属、または、これら金属の酸化物若しくは水酸化物であり、mは1〜5の整数であり、xは0〜10の整数であり、yは2〜5の整数であり、zは0〜10の整数である)で表される化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項10記載のゴム−スチールコード複合体。 - 前記多孔質無機充填剤が、シリカ、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、クレーおよびゼオライトからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項11記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記多孔質無機充填剤が、ゴム成分100重量部に対し3〜30重量部配合されている請求項10〜12のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 天然ゴムおよび/または合成ゴムよりなるゴム成分100重量部に対し、無機含水塩0.1〜10重量部および硫黄3〜8重量部を配合してなるゴム組成物と、周面にブラスめっき層を有し、該ブラスめっき層の表面からワイヤ半径方向内方に深さ5nmまでのワイヤ表層領域における酸化物として含まれるリンの含有量が1.5原子%以下であるスチールワイヤの単線、または該スチールワイヤの複数本を撚り合わせてなるスチールコードと、からなることを特徴とするゴム−スチールコード複合体。
- 前記ゴム成分が、天然ゴムを50重量%以上含有する請求項14記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記合成ゴムが、スチレン・ブタジエンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム、パラメチルスチレン基を有するブチルゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴムおよびイソプレンゴムからなる群から選ばれる少なくとも1種である請求項15または16記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記スチレン・ブタジエンゴムが、ブタジエン部分のビニル結合量が35〜85重量%であり、かつ、結合スチレン量が30重量%以下である溶液重合スチレン・ブタジエンゴムである請求項16記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ブタジエンゴムのビニル結合量が1〜85重量%である請求項16記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ブラスめっき層全体における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が60〜70重量%であり、かつ、前記ワイヤ表層領域における銅および亜鉛の総量に対する銅の比率が15〜45原子%である請求項1〜18のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記ブラスめっき層の平均厚みが0.13〜0.30μmである請求項1〜19のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 前記スチールワイヤの直径が0.40mm以下である請求項1〜20のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体。
- 一対のビード間でトロイド状に延びるカーカスを骨格とし、該カーカスのタイヤ半径方向外側にベルトを備えるタイヤにおいて、該カーカスおよびベルトのうちのいずれか一方または双方に、請求項1〜21のうちいずれか一項記載のゴム−スチールコード複合体を用いたことを特徴とするタイヤ。
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