JP2004058743A - 車両用操舵装置 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】伝達比可変ユニットを駆動する前記モータの電磁力発生部にモータ出力軸を回転不能状態に保持する電磁保持力を生じさせるロック電流を通電し、これにより前記モータを電気的にロックし、前記ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で直結して前記伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させる電気ロック装置を、メカニカルロック装置に併せて設ける。そしてメカロックが正常に作用している場合は電気ロックは作動させず、メカロックが正常に作用しない場合において電気ロックを作動させる。
【選択図】 図15
Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、自動車等の車両用操舵装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
車両の操舵装置、特に自動車用の操舵装置において、近年、その更なる高機能化の一端として、操舵ハンドルの操作角(ハンドル操作角)と車輪操舵角とを1:1比率に固定せず、ハンドル操作角の車輪操舵角への変換比(舵角変換比)を車両の運転状態に応じて可変とした、いわゆる可変舵角変換比機構を搭載したものが開発されている。
【0003】
車両の運転状態としては、例えば、車両速度(車速)を例示でき、高速運転時においては舵角変換比を小さくすることにより、ハンドル操作角の増加に対して操舵角が急激に大きくならないようにすれば、高速走行の安定化を図ることができる。他方、低速走行時には、逆に舵角変換比を大きくすることで、一杯まで切るのに必要なハンドルの回転数を減少させることができ、車庫入れや縦列駐車あるいは幅寄せなど、操舵角の大きい運転操作を非常に簡便に行なうことができる。
【0004】
舵角変換比(伝達比)を可変化する機構としては、例えば特開平11−334604号公報に開示されているように、ハンドル軸と車輪操舵軸とを、ギア比が可変な歯車式伝達部にて直結したタイプのものがあるが、この構成は、歯車式伝達部のギア比変更機構が複雑になる欠点がある。そこで、ハンドル軸と車輪操舵軸とを分離し、モータ等のアクチュエータにより車輪操舵軸を回転駆動するタイプのものが、例えば特開平11−334628号公報等に提案されている。具体的には、角度検出部が検出するハンドル操作角と車両運転状態とに応じて定まる舵角変換比とに基づいて、コンピュータ処理により最終的に必要な車輪操舵角を演算し、その演算された車輪操舵角が得られるように、ハンドル軸から機械的に切り離された車輪操舵軸をアクチュエータ(モータ)により回転駆動する。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記の伝達比可変ユニットにおいて、そのアクチュエータの主体をなすモータへの通電が例えばCPUの故障等により正常に行われなくなると(あるいはモータの故障も含め)、予定されている伝達比制御が実行されなくなるおそれがあるので、その場合は、ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で機械的に直結されるように固定して、伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させる(無効化する)メカニカルロック装置を備えたものが提案されている。
しかしながら、このメカニカルロック装置が故障する可能性がゼロとは言い切れず、その意味で更なるセーフティーシステムを付加することは意味があると言える。
本発明の課題は、メカニカルロック装置の不具合時にも有効に対応できる伝達比可変ユニットを備えた車両用操舵装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段及び発明の効果】
この発明は、操舵ハンドルのハンドル軸と車輪操舵軸とを連結する操舵伝達系の途中に伝達比を可変にするモータで駆動される伝達比可変ユニットを介在させ、前記伝達比を所定の要素に応じて制御する車両用操舵装置において、
前記ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で機械的に直結されるように固定して前記伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させるメカニカルロック装置と、
前記伝達比可変ユニットを駆動する前記モータの電磁力発生部にモータ出力軸を回転不能状態に保持する電磁保持力を生じさせるロック電流を通電することにより前記モータを電気的にロックし、前記ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で直結して前記伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させる電気ロック装置と、
を備え、好適にはメカニカルロック装置が正常に作用している場合は電気ロック装置は作動させず、メカニカルロック装置が正常に作用しない場合において前記電気ロック装置を作動させるものである。
【0007】
このように電気ロック装置を併用すれば、仮にメカニカルロック装置が正常に作動しない状況が生じても、代わりに電気ロック装置を作動させて、ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で直結して伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させることができる。よって伝達比可変ユニットの異常に対する信頼性が向上する。またその電気ロック装置は、もともとアクチュエータとして必要なモータの電磁力発生部に、モータ出力軸を回転不能状態に保持するロック電流を通電することに基づく電磁保持力によりモータを電気的にロックする構成であるから、そのモータに対する通電手法を変えることによりモータをロック装置に兼用することができ、専用の電気ロック装置が要らないので構造が複雑にならない利点がある。
なお、メカニカルロック装置の故障時に臨時に作動させる電気ロック装置という位置付けに限らず、メカニカルロック装置を省略して、伝達比可変ユニットの故障時等に、その伝達比可変機能を停止させることを全て電気ロック装置に担わせることもできる。
【0008】
電気ロック装置を作動させる際に、ロック電流を長時間流し続けるとモータが過熱状態となる場合も考えられるので、必要なときだけに(特定の条件下で)ロック電流を流すようにすること、あるいは操舵状況等に応じてロック電流を変え、小さいロック電流で済むときにはロック電流を下げることが可能である。あるいは大きく又は急激に舵を切るときなど、必要な電磁保持力が大きいときはロック電流値を上げるようにすることもできる。
【0009】
電気ロック作用時のモータの過熱防止のため、又は場面に応じた充分なロック機能の確保のために、例えば、操舵ハンドルの回転操作角度であるハンドル角が特定の条件下にある場合、又はそのハンドル角と操舵輪を操舵する車輪操舵軸の回転角度である操舵角との関係が特定の条件下にある場合は、モータへのロック電流の通電を停止して電気的なロックを一時的に解除し、又はモータに通電するロック電流値を変化させて電磁保持力を一時的に減少又は増加させることができる。
【0010】
特に電気ロック作用に伴うモータの過熱防止のために、例えば次のような制御が有効である。具体的には、操舵ハンドルの回転操作角度であるハンドル角が中立位置ないしその近傍にある場合は、モータへのロック電流の通電を停止して電気的なロックを一時的に解除し、又は前記モータに通電するロック電流値を下げて電磁保持力を一時的に減少させる。ハンドル角が中立付近にある場合は車両はほぼ直進走行しており、操舵トルクもほとんどかからないので、電気ロックは解除しても差し支えないか、又は小さい電磁保持力で足りるため、モータへのロック電流を遮断又は減少させることで、モータの過熱を抑制することになる。
【0011】
あるいは、上記ハンドル角と操舵角との角度差が所定値以下の場合は、モータに通電するロック電流の通電を停止して電気的なロックを一時的に解除し、又は前記モータに通電するロック電流値を下げて電磁保持力を一時的に減少させる。ハンドル角と操舵角の差が小さいということは、大きな(又は強い)ハンドル操作が行われていないことを意味し、この場合も車両の直進時と同様、電気ロックの解除又はロック電流値の低減を行うことでモータの過熱防止に有効となる。なお、ハンドル角と操舵角との単純な角度差ではなく、角度差の増大する(又は減少する)割合、言い換えれば角度差増加又は減少率(正負を踏まえた増加率と言える:角度差の微分値等)により、ロック電流の通電停止や電流値低減の制御を行うこともできる。つまりハンドル角と操舵角との角度差に基づく又は関連した制御と言える。このことはハンドル角を単独で見た場合も同様であり、ハンドル角が中立位置を基準としてどの値にあるかという点のみならず、ハンドル角の増加又は減少率(正負の増加率)に基づき、ロック電流の通電停止や低減化を図ることもできる。例えばハンドル角の増加率、又はハンドル角と操舵角との角度差の増加率が負(減少傾向)であれば、ハンドル操作は終わりに近い等と推定でき、ロック電流を切ったり低くしたりして、モータの負担を軽減することができる、逆にその増加率が正(増加傾向)であれば、ハンドル操作はさらに継続して行われるもの等と推定でき、ロック電流を切らない(ロック作用を継続する)制御を行い、又はより強いロック機能を得るためにロック電流を増加する制御も可能である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を、図面を用いて説明する。
図1は、本発明が適用される車両用操舵制御システムの、全体構成の一例を模式的に示したものである(なお、本実施形態において「車両」は自動車とするが、本発明の適用対象はこれに限定されるものではない)。該車両用操舵制御システム1は、操舵用ハンドル2に直結されたハンドル軸3と、車輪操舵軸8とが機械的に分離された構成を有する。車輪操舵軸8はアクチュエータとしてのモータ6により回転駆動される。車輪操舵軸8の先端はステアリングギアボックス9内に延び、該車輪操舵軸8とともに回転するピニオン10がラックバー11を軸線方向に往復動させることにより、車輪13,13の転舵角が変化する。なお、本実施形態の車両用操舵制御システム1においては、ラックバー11の往復動が、周知の油圧式、電動式あるいは電動油圧式のパワーアシスト機構12により駆動補助されるパワーステアリングが採用されている。
【0013】
ハンドル軸3の角度位置φは、ロータリエンコーダ等の周知の角度検出部からなるハンドル軸角度検出部101により検出される。他方、車輪操舵軸8の角度位置θは、同じくロータリエンコーダ等の角度検出部からなる操舵軸角度検出部103により検出される。また、本実施形態においては、自動車の運転状態を検出する運転状態検出部として、車速Vを検出する車速検出部(車速センサ)102が設けられている。車速検出部102は、例えば車輪13の回転を検出する回転検出部(例えばロータリエンコーダやタコジェネレータ)で構成される。そして、操舵制御部100が、検出されたハンドル軸3の角度位置φと車速Vとに基づいて、車輪操舵軸8の目標角度位置θ’を決定し、該車輪操舵軸8の角度位置θが目標角度位置θ’に近づくように、モータ6の動作を制御する。
【0014】
なお、ハンドル軸3と車輪操舵軸8との間には、両者を一体回転可能にロック結合したロック状態と、該ロック結合を解除したアンロック状態との間で切り替え可能なロック機構19が設けられている。ロック状態では、ハンドル軸3の回転角が変換されることなく(つまり、舵角変換比が1:1)車輪操舵軸8に伝達され、マニュアルステアリングが可能となる。該ロック機構19のロック状態への切り替えは、異常発生時などにおいて操舵制御部100からの指令によりなされる。
【0015】
図2は、モータ6による車輪操舵軸8の駆動部ユニットの構成例を、自動車への取付状態にて示すものである。該駆動部ユニット14において、ハンドル2(図1)の操作によりハンドル軸3を回転させると、モータケース33がその内側に組み付けられたモータ6とともに一体的に回転するようになっている。本実施形態においては、ハンドル軸3は、ユニバーサルジョイント319を介して入力軸20に連結され、該入力軸20がボルト21,21を介して第一カップリング部材22に結合されている。この第一カップリング部材22にはピン31が一体化されている。他方、ピン31は、第二カップリング部材32の一方の板面中央から後方に延びるスリーブ32a内に係合してはめ込まれている。他方、筒状のモータケース33は、第二カップリング部材32の他方の板面側に一体化されている。なお、符号44はゴムあるいは樹脂にて構成されたカバーであり、ハンドル軸3と一体的に回転する。また、符号46は、コックピットパネル48に一体化された駆動部ユニット14を収容するためのケースであり、符号45は、カバー44とケース46との間をシールするシールリングである。
【0016】
モータケース33の内側には、コイル35,35を含むモータ6のステータ部分23が一体的に組み付けられている。該ステータ部分23の内側には、モータ出力軸36がベアリング41を介して回転可能に組み付けられている。また、モータ出力軸36の外周面には永久磁石からなる電機子34が一体化されており、この電機子34を挟む形でコイル35,35が配置されている。なお、コイル35,35からは、モータケース33の後端面に連なるように給電端子50が取り出され、該給電端子50において給電ケーブル42によりコイル35,35に給電がなされる。
【0017】
後述の通り、本実施形態においてモータ6はブラシレスモータであり、給電ケーブル42は、該ブラシレスモータの各相のコイル35,35に個別に給電する素線を集合させた帯状の集合ケーブルとして構成されている。そして、モータケース33の後端側に隣接する形でハブ43aを有するケーブルケース43が設けられ、その中に給電ケーブル42が、ハブ43aに対してゼンマイ状に巻かれた形で収容されている。給電ケーブル42の、給電端子50に接続されているのと反対の端部は、ケーブルケース43のハブ43aに固定されている。そして、ハンドル軸3がモータケース33ひいては給電端子50とともに正方向又は逆方向に回転すると、ケーブルケース43内の給電ケーブル42は、ハブ43aへの巻き付き又は繰り出しを生じさせることにより、上記モータケース33の回転を吸収する役割を果たす。
【0018】
モータ出力軸36の回転は、減速機構7を介して所定比率(例えば1/50)に減速された上で車輪操舵軸8に伝達される。本実施形態において減速機構7は、ハーモニックドライブ減速機にて構成してある。すなわち、モータ出力軸36には、楕円型のインナーレース付ベアリング37が一体化され、その外側に変形可能な薄肉の外歯車38がはめ込まれている。そして、この外歯車38の外側に、カップリング40を介して車輪操舵軸8が一体化された内歯車39,139が噛み合っている。内歯車39,139は、同軸的に配置された内歯車(以下、第一内歯車ともいう)39と内歯車(以下、第二内歯車ともいう)139とからなり、第一内歯車39がモータケース33に固定されて該モータケース33と一体回転する一方、第二内歯車139はモータケース33に非固定とされ、該モータケース33に対して相対回転可能とされている。第一内歯車39はこれと噛み合う外歯車38との歯数差がゼロであり、外歯車38との間での相対回転を生じない(つまり、回転するモータ出力軸36に対して、第一内歯車39ひいてはモータケース33及びハンドル軸3が、遊転可能に結合されているともいえる)。他方、第二内歯車139は外歯車38よりも歯数が大きく(例えば2)、内歯車139の歯数をN、外歯車38と内歯車139との歯数差をnとすると、モータ出力軸36の回転をn/Nに減速した形で車輪操舵軸8に伝達する。また、内歯車39,139は、本実施形態においては、コンパクト化を図るために、ハンドル軸3の入力軸20、モータ出力軸36及び車輪操舵軸8が同軸的に配置されている。
【0019】
次に、ロック機構19は、ハンドル軸3に対して相対回転不能なロックベース部(本実施形態においてはモータケース33)側に固定されたロック部材51と、ロック受けベース部(本実施形態においては、モータ出力軸36側)に設けられたロック受け部材52とを有する。図3に示すように、ロック部材51は、ロック受け部材52に形成されたロック受け部53に係合するロック位置と、該ロック受け部53から退避したアンロック位置との間で進退可能に設けられている。本実施形態においては、車輪操舵軸8と一体的に回転するロック受け部材52の周方向にロック受け部53が所定の間隔で複数形成され、ロック部材51の先端に設けられたロック部51aが、車輪操舵軸8の回転角位相に応じて、それら複数のロック受け部53の任意の1つのものに選択的に係合するようになっている。ハンドル軸3はモータケース33に対し(本実施形態では、カップリング22及びピンにより)相対回転不能に結合されている。ロック部材51とロック受け部材52とが非係合(非ロック状態)の場合は、モータ出力軸36はモータケース33に対して回転し、その回転が外歯車38を経て第一内歯車39及び第二内歯車139にそれぞれ伝達される。モータケース33に固定された第一内歯車39は、前述の通り外歯車38に対して相対回転しないので、結果的にハンドル軸3と同速で回転する(つまり、ハンドル操作に追従して回転する)。また、第二内歯車139は、モータ出力軸36の回転を車輪操舵軸8に減速して伝達し、車輪操舵軸8の回転駆動を担う。他方、ロック部材51とロック受け部材52とが係合してロック状態になると、モータ出力軸36はモータケース33に対して相対回転不能となる。そして、減速機構7の内歯車39,139のうち、第一内歯車39がモータケース33に固定されているから、第一内歯車39、外歯車38及び第二内歯車139の順でハンドル軸3の回転が車輪操舵軸8に直接伝達されることとなる。
【0020】
なお、本実施形態においては、ロック受け部材52は、モータ出力軸36の一端の外周面に取り付けられ、各ロック受け部53は、該ロック受け部材52の外周面から半径方向に切れ込む凹状に形成されている。また、図2に示すように、ロック部材51は、モータケース33に設けられた回転ベース300に対し、車輪操舵軸8とほぼ平行な軸線周りに回転可能に取り付けられ、その後端部55aが結合されている。また、ソレノイド55の付勢が解除されたときに、ロック部材51を元の位置に弾性復帰させる弾性部材54が設けられている。ソレノイド55の付勢及び付勢解除の動作により、ソレノイド55aの先端に設けられた凸部55aとロック部材51の一端部51bに形成された溝部を介してロック部材51の先端に形成されたロック部51aが、前記したロック/アンロックのためにロック受け部材52に対し接近/離間する。つまりこの例ではロック部材51、ロック受け部53及び弾性部材54を含んでメカニカルロック装置が構成される(これを以下ではメカロック等とも略称する)
【0021】
図4は、操舵制御部100の電気的構成の一例を示すブロック図である。操舵制御部100の要部をなすのは2つのマイコン110及び120である。主マイコン110は、主CPU111、制御プログラムを格納したROM112、CPU111のワークエリアとなる主CPU側RAM113及び入出力インターフェース114を有する。また、副マイコン120は、副CPU121、制御プログラムを格納したROM122、副CPU121のワークエリアとなる副CPU側RAM123及び入出力インターフェース124を有する。車輪操舵軸8を駆動するモータ6(アクチュエータ)の動作制御を直接行なうのは主マイコン110であり、副マイコン120は、必要なパラメータ演算等、モータ6の動作制御に必要なデータ処理を主マイコン110と並行して行なうとともに、そのデータ処理結果を主マイコン110との間で通信することにより、主マイコン110の動作が正常であるかどうかを監視・確認し、必要に応じて情報の補完を行なう補助制御部としての機能を果たす。本実施形態において主マイコン110と副マイコン120とのデータ通信は、入出力インターフェース114,124間の通信によりなされる。なお、両マイコン110及び120は、自動車の運転終了後(すなわち、イグニッションOFF後)においても、図示しない安定化電源からの電源電圧Vcc(例えば+5V)の供給を受け、RAM113,123あるいはEEPROM(後述)115の記憶内容が保持されるようになっている。
【0022】
ハンドル軸角度検出部101、車速検出部102及び操舵軸角度検出部103の各出力は、主マイコン110及び副マイコン120の入出力インターフェース114,124にそれぞれ分配入力される。本実施形態では、いずれの検出部もロータリエンコーダで構成され、そのエンコーダからの計数信号が図示しないシュミットトリガ部を経て入出力インターフェース114,124のデジタルデータポートに直接入力されている。また、主マイコン110の入出力インターフェース114には、前述のロック機構19の駆動部をなすソレノイド55が、ソレノイドドライバ56を介して接続されている。
【0023】
モータ6はブラシレスモータ、本実施形態では3相ブラシレスモータにて構成されている。図2に示すコイル35,35は、図5に示すように、120゜間隔で配置された3相のコイルU,V,Wからなり、これらのコイルU,V,Wと、電機子34との相対的な角度関係が、モータ内に設けられた角度センサをなすホールICにより検出される。そして、これらホールICの出力を受けて、図1のモータドライバ18は、図5に示すように、コイルU,V,Wの通電を、W→U(1)、U→V(3)、V→W(5)のごとく循環的に順次切り替える(正方向回転の場合:逆方向回転の場合は、上記の逆順のスイッチングとなる)。図8(b)に、正方向回転の場合の、各相のコイルの通電シーケンスを示している(「H」が通電、「L」が非通電を表す:逆方向回転の場合は、図の左右を反転したシーケンスとなる)。図中の括弧書きの数字は、図5の対応する番号における電機子34の角度位置を表している。
【0024】
図4に戻り、モータ6の回転制御は、上記コイルU,V,Wの各相の通電切り替えシーケンスに、駆動制御部100(本実施形態では、主マイコン110)からのPWM信号によるデューティ比制御シーケンスが重畳された形で行なわれる。図7は、モータドライバ18の回路例を示すもので、コイルU,V,Wの各端子u,u’,v,v’,w、w’に対応したFET(半導体スイッチング素子)75〜80が、周知のH型ブリッジ回路を構成するように配線されている(符号87〜92は、コイルU,V,Wのスイッチングに伴なう誘導電流のバイパス経路を形成するフライホイールダイオードである)。ANDゲート81〜86によりモータ側のホールIC(角度センサ)からのスイッチング信号と駆動制御部100からのPWM信号との論理積信号を作り、これを用いてFET75〜80をスイッチング駆動すれば、通電に関与する相のコイルを選択的にPWM通電することができる。なお、PWM通電の方式によっては、H型ブリッジ回路の上段(75,77,79)あるいは下段(76,78,80)のFETにのみPWM信号を入力すればよく、この場合は、ANDゲート81〜86のうち対応するものを省略して、ホールICからのスイッチング信号を直接入力するように構成することができる。
【0025】
なお、駆動制御部100側においてFET75〜80にPWM信号を順次与えるためのタイミングは、ホールIC(角度センサ)からの信号を駆動制御部100に分配することにより認識させてもよいが、本実施形態では、別途、角度センサとしてのロータリエンコーダを用いてこれを検出している。このロータリエンコーダはモータ出力軸36の回転角度を検出するものであり、その角度検出値は減速後の車輪操舵軸8の角度位置と一義的な対応関係を有する。そこで、本実施形態では、このロータリエンコーダを操舵軸角度検出部103として利用する。
【0026】
図8(a)は、上記のロータリエンコーダを模式的に示すもので、ブラシレスモータの通電シーケンスを制御するために、時系列的な出現順序が定められたコイル通電パターンを各々特定するためのビットパターン(角度識別パターン)が、円板の周方向に一定の角度間隔で形成されたものである。本実施形態においてビットパターンは、図面中ハッチング領域で示すスリットであり、回転体をなす円板の周方向に区間を定めて形成されたスリット群が、円板の半径方向に複数組(本実施形態では3組)形成されている。検出部としては、各スリット群に対応した図示しない透過型光センサ(例えばフォトカプラなど)が用いられ、半径方向の各スリット群の形成位置において、スリットが検出されるか否かの組合せにより、円板の回転角度位相を示すビットパターンを出力する。
【0027】
本実施形態においては、3相ブラシレスモータを使用しているので、図8(b)に示すコイルU,V,Wの通電シーケンスが得られるように、その(1)〜(6)(図5参照)の通電パターンに対応した6種類のビットパターンが、円板の周方向に60゜間隔で形成されている。従って、モータ6の電機子34が回転すると、これと同期回転する上記ロータリエンコーダからは、現在通電されるべきコイルを特定するビットパターンが刻々出力される。そこで、駆動制御部100は、このエンコーダのビットパターンを読み取ることにより、PWM信号を送るべきコイルの端子(すなわち、図7のFET75〜80)を自発的に決定することができる。
【0028】
モータ出力軸36の回転は減速されて車輪操舵軸8に伝達されるから、車輪操舵軸8が1回転する間に、ロータリエンコーダが設けられるモータ出力軸36は複数回回転する。従って、モータ出力軸36の絶対角度位置のみを示すエンコーダのビットパターンからは、車輪操舵軸8の絶対角度位置を知ることはできない。従って、図4に示すように、RAM113(123)内に、ビットパターン変化の検出回数を計数するカウンタ(操舵軸角度位置カウンタ)を形成し、操舵軸角度位置(θ)をそのカウント数から求めるようにしてある。従って、機能的にはインクリメント型ロータリエンコーダに相当するものとみなすことができる。なお、モータ出力軸36(モータ6の電機子)の絶対角度位置についてはビットパターンの種別により読み取ることができるから、そのビットパターンの変化順序をモニタすれば、モータ出力軸36ひいては車輪操舵軸8の回転方向(すなわち、ハンドルを切る向きである)を知ることができる。従って、操舵軸角度検出部103は、車輪操舵軸8の回転方向が正であれば上記のカウンタをインクリメントし、逆であればカウンタをデクリメントする。
【0029】
モータドライバ18には、モータ6の電源となる車載バッテリー57が接続されている。モータドライバ18が受電するバッテリー57の電圧(電源電圧)Vsは、自動車の各所に分散した負荷の状態や、オルタ−ネータの発電状態により随時変化する(例えば9〜14V)。本実施形態においては、このような変動するバッテリー電圧Vsを、安定化電源回路を介さず、モータ電源電圧として直接使用する。操舵制御部100は、このように相当幅にて変動する電源電圧Vsの使用を前提として、モータ6の制御を行なうので、電源電圧Vsの測定部が設けられている。本実施形態では、モータ6への通電経路(モータドライバ18の直前)から電圧測定用の分岐経路が引き出され、そこに設けられた分圧抵抗60,60を経て電圧測定信号を取り出している。該電圧測定信号はコンデンサ61により平滑化された後、電圧フォロワ62を経て入出力インターフェース114,124のA/D変換機能付入力ポート(以下、A/Dポートという)に入力される。
【0030】
また、過電流発生の有無など、モータ6の通電状態を監視するために、モータ6への通電経路上に電流検出部が設けられている。具体的には、経路上に設けられたシャント抵抗(電流検出抵抗)58の両端電圧差を電流センサ70により測定し、入出力インターフェース114,124のA/Dポートに入力するようにしている。電流センサ70は、例えば図6に示すように、シャント抵抗58の両端電圧を、電圧フォロワ71,72を介して取り出し、オペアンプ73と周辺の抵抗器74とからなる差動増幅器75により増幅して出力するものである。差動増幅器75の出力は、シャント抵抗58を流れる電流値に比例したものとなるので、これを電流測定値Isとして用いることができる。なお、シャント抵抗以外にも、ホール素子や電流検出コイルなど、電磁的な原理に基づいて電流検出するプローブを用いてもよい。
【0031】
図4に戻り、両マイコン110,120のRAM113,123には、それぞれ以下のようなメモリエリアが形成されている。
▲1▼車速測定値メモリ:車速センサ102からの現在の車速の測定値を記憶する。
▲2▼ハンドル軸角度位置(φ)カウンタメモリ:ハンドル軸角度位置検出部101をなすロータリエンコーダからの計数信号をカウントし、ハンドル軸角度位置φを示すそのカウント値を記憶する。なお、ロータリエンコーダは回転方向の識別が可能なものを使用し、正方向回転の場合はカウンタをインクリメントし、逆方向回転の場合はデクリメントする。
▲3▼舵角変換比(α)算出値メモリ:車速測定値に基づいて算出された舵角変換比αを記憶する。
▲4▼目標操舵軸角度位置(θ’)算出値メモリ:現在のハンドル軸角度位置φと舵角変換比αとの値から、例えばφ×αにより算出された操舵軸角度位置の目標値、すなわち目標操舵軸角度位置θ’の値を記憶する。
▲5▼操舵軸角度位置(θ)カウンタメモリ:操舵軸角度検出部103をなすロータリエンコーダからの計数信号をカウントし、操舵軸角度位置θを示すそのカウント値を記憶する。
▲6▼Δθ算出値メモリ:目標操舵軸角度位置θ’と現在の操舵軸角度位置θとの隔たりΔθ(≡θ’−θ)の算出値を記憶する。
▲7▼電源電圧(Vs)測定値メモリ:モータ6の電源電圧Vsの測定値を記憶する。
▲8▼デューティ比(η)決定値メモリ:モータ6をPWM通電するための、Δθと電源電圧Vsとに基づいて決定されたデューティ比ηを記憶する。
▲9▼電流(Is)測定値:電流センサ70による電流Isの測定値を記憶する。さらに、ハンドル角(ハンドル軸角度位置)φと操舵角(操舵軸角度位置)θとの角度差ΔβがCPU111又は121により演算されて、その角度差Δβを一時記憶する角度差メモリも、RAMに設けられている。
【0032】
また、主マイコン110の入出力インターフェース114には、運転終了時(つまり、イグニッションOFF時)における車輪操舵軸8の角度位置、すなわち終了角度位置を記憶するためのEEPROM115が第二の記憶部として設けられている。該EEPROM115(PROM)は、主CPU111が主CPU側RAM112に対するデータ読出し/書込みを行なう第一の動作電圧(+5V)においては、主CPU111によるデータの読出しのみが可能であり、他方、第一の動作電圧(+5V)とは異なる第二の動作電圧(本実施形態では、第一の動作電圧より高い電圧が採用される:例えば+7V)を設定することにより主CPU111によるデータの書込みが可能となるものであり、主CPU111が暴走しても内容が誤って書き換えられることがない。第二の動作電圧は、EEPROM115と入出力インターフェース114との間に介在する図示しない昇圧回路によって生成される。
【0033】
以下、車両用操舵制御システム1の動作について説明する。
図12には、主マイコン110による制御プログラムの主ルーチンの処理の流れを示すものである。S1は初期化処理であり、前回イグニッションスイッチをOFFにしたときの終了処理にてEEPROM115に書き込まれている車輪操舵軸8の終了角度位置(後述)を読み出し、該終了角度位置を、処理開始に際しての車輪操舵軸8の初期角度位置として設定することを要旨とする。具体的には、終了角度位置を示すカウンタ値を、前述の操舵軸角度位置カウンタメモリにセットする。なお、後述するEEPROM115へのデータ書込み完了フラグは、この時点でクリアしておく。
【0034】
初期化処理が終了すれば、S2に進んで操舵制御処理となる。該操舵制御処理は、パラメータサンプリングの間隔を均一化するために、一定の周期(例えば数百μs)にて繰り返し実行される。その詳細を、図13により説明する。S201においては、現在の車速Vの測定値をリードし、次いでS202ではハンドル軸角度位置φをリードする。そして、S203においては、車速Vの算出値から、ハンドル軸角度位置φを操舵軸の目標角度位置θ’に変換するための舵角変換比αを決定する。舵角変換比αは、車速Vに応じて異なる値が設定される。具体的には、図10に示すように、車速Vが一定以上に大きい状態では、舵角変換比αは小さく設定され、車速Vが一定以下に小さい低速走行時には舵角変換比αは大きく設定される。本実施形態では、図9に示すような、種々の車速Vに対応した舵角変換比αの設定値を与えるテーブル130をROM112(122)に格納しておき、このテーブル130を参照して現在の車速Vに対応する舵角変換比αを補間法により算出する。なお、本実施形態においては、車両の運転状態を示す情報として車速Vを用いているが、これ以外にも、車両が受ける横圧や路面の傾斜角等を車両の運転状態を示す情報としてセンサにより検出し、その検出値に応じて舵角変換比αを特有の値に設定することが可能である。また、車速Vに応じて舵角変換比αの基本値を決定し、上記のような車速以外の情報に基づいて、その基本値を随時補正して使用することも可能である。
【0035】
S204では、検出されたハンドル軸角度位置φに、決定された舵角変換比αを乗じて目標操舵軸角度位置θ’を算出する。そして、S205において、現在の操舵軸角度位置θを読み取る。この操舵軸角度位置θは、具体的には以下のようにして行っている。まず、操舵軸角度位置θは、図8のロータリエンコーダからのビットパターンの変化を計数信号として、操舵軸角度位置カウンタにより計数し、その計数値によって与えられる。ビットパターンが変化したかどうかは、前回周期にて検出したビットパターンをメモリ記憶ないしハードウェア的にラッチしておき、次に入るビットパターンと照合したとき、両者が一致したかどうかにより検出できる。前述の通り、各ビットパターンはエンコーダの円板の回転位相を個別に表すものであるから、円板の回転方向によりビットパターンの変化シーケンスも変わる。従って、あるビットパターンがその前後のビットパターンのいずれに変化したかを見て回転方向を識別し、カウンタの計数値をインクリメントするかデクリメントするかを決める。
【0036】
S206では、上記のようにして更新確定された現在の操舵軸角度位置θ(操舵軸角度位置カウンタから求められたもの)と目標操舵軸角度位置θ’との隔たりΔθ(=θ’−θ)を算出する。さらにS207においては、現在の電源電圧Vsの測定値を読み取る。モータ6は、目標操舵軸角度位置θ’と現在の操舵軸角度位置θとの差Δθが縮小するように車輪操舵軸8を回転駆動する。そして、操舵軸角度位置θが目標操舵軸角度位置θ’に迅速かつスムーズに近づくことができるように、Δθが大きいときはモータ6の回転速度を大きくし、逆にΔθが小さいときはモータ6の回転速度を小さくする。基本的にはΔθをパラメータとした比例制御であるが、オーバーシュートやハンチング等を抑制し、制御の安定化を図るために、Δθの微分あるいは積分を考慮した周知のPID制御を行なうことが望ましい。
【0037】
モータ6は前述の通りPWM制御されており、回転速度は、そのデューティ比ηを変更することにより調整される。電源電圧Vsが一定であれば、デューティ比により回転速度をほぼ一義的に調整できるが、本実施形態では前述の通り電源電圧Vsは一定でない。従って、電源電圧Vsも考慮してデューティ比ηを定めるようにする。例えば、図11に示すように、種々の電源電圧VsとΔθとの各組み合わせに対応したデューティ比ηを与える二次元のデューティ比変換テーブル131をROM112(122)に格納しておき、電源電圧Vsの測定値とΔθの算出値に対応するデューティ比ηの値を読み取って用いることができる。なお、モータ6の回転速度は負荷によっても変動する。この場合、電流センサ70によるモータ電流Isの測定値を元に、モータ負荷の状態を推定し、デューティ比ηを補正して用いることも可能である。
【0038】
ここまでの処理は、図4の主マイコン110(主CPU111)と副マイコン120(副CPU121)との双方にて並列的に実行される。例えば、主マイコン110の動作が正常であるかどうかは、主マイコン110のRAM113に記憶された各パラメータの演算結果を副マイコン120に随時転送し、副マイコン120側にて、RAM123の記憶内容と照合することにより、異常発生の有無を監視させることができる。他方、主マイコン110側では、決定されたデューティ比ηを元にPWM信号を生成する。そして、操舵軸角度検出部103をなすロータリエンコーダからの信号を参照してモータドライバ18に対し、通電に関与する相のコイルをスイッチングするFET(図7)へ該PWM信号を出力することにより、モータ6をPWM制御する。
【0039】
図12に戻り、S3ではイグニッションスイッチがOFFされているかどうかを確認し、もしOFFされている場合はS4の終了処理となる。すなわち、イグニッションスイッチがOFFになっている場合は、自動車の運転が終了したことを意味するから、主マイコン110において操舵軸角度位置カウンタに記憶されている、車輪操舵軸8の終了角度位置を読み出し、これをEEPROM115に格納し、さらに、RAM113に設けられたデータ書込み完了フラグをセットして処理を終了する。
【0040】
次に、伝達比可変ユニットのアクチュエータである前記モータ6への通電異常(例えばCPUの暴走や、その他のシステム上の異常等)が生じた場合、その異常は、例えばメモリに記憶されているモータ電流予定値と電流センサ70が検出する実際のモータ電流検出値との比較処理により、両者間の大きな隔たりが検出されることや、あるいはハンドル角と操舵角との間に予定されていない角度差が検出されること等により、システムがその異常を検知する。
【0041】
そして、その異常が検知されると、図3のソレノイド55が非作動状態とされ(消磁)、アンロック位置にあったロック部材51が弾性部材54の付勢力で、ロック受け部材52のロック受け部53の一つに嵌まるようにロック位置に移動する。これによりハンドル軸3と車両操舵軸8が直結され(伝達比1:1で固定)、伝達比可変ユニットの伝達比可変機能がロックされる。いわゆるメカニカルロック(メカロック)である。このメカロックは、ソレノイド55を励磁してロック部材51をアンロック位置に移動させない限り、ロック作用が継続するはずであるが、何らかの理由によりメカロックが正常に機能しない場合を考慮して、図14に概念的に示すメカロック故障判定をルーチンを実行する。
【0042】
ステップP1でメカロックの信号が出力されると(上記ソレノイド55を消磁)、P2でメカロックの異常を判断するステップに移行する。このロックの異常(故障)を検出するには、例えばロック部材51の近傍に光センサ、電磁気的な近接センサ、接触型のマイクロセンサ等のメカロック異常(故障)検出センサ180を設けることができる。このセンサ180はCPU111及び121の少なくとも一方に接続され、図3のロック部材51がロック受け部53から離脱ように変位したとき、これを検出することによりCPUにメカロックの異常信号を出力することができる。さらにセンサ180の機能としては、例えばメカロック信号が出て、ソレノイド55の拘束が解除されてロック部材がロック位置に至ったことを確認する信号(正常信号)を出力し(ロック位置への移動による確認信号があれば正常、確認信号がなければ異常)、さらにはメカロック信号が出てから、ロック部材51がロック位置に移動したことの確認信号を出力した後、ロック部材51のロック位置からの離脱をセンサ180が監視し、その離脱を検出すれば、それもメカロック異常信号として出力することができる。
【0043】
なお、このような専用のセンサ180を設けることが以外に、ハンドル軸角度位置φと操舵軸角度位置θの角度差の演算等の処理をCPUに行わせることにより、これをもってメカロック異常検出装置とすることもできる。すなわちメカロック信号(ロック指令信号)が出力されメカロックが完了したと推定される時間が経過した後においては、メカロックが正常に作用していればハンドル軸3と車輪操舵軸8とは相対回転不能に直結されるから、ハンドル軸角度位置φと操舵軸角度位置θとの間には相対変化が生じ得ないはずである。これに反し、メカロック信号が出てメカロックが作用したと推定されてから、ハンドル軸角度位置φと操舵軸角度位置θとの角度変化が生じたことが、図4のハンドル角度検出部101及び操舵軸角度検出103からの角度φ、θの取り込み及びCPUによる相対変化の演算(φ−θの演算等)により判明すれば、メカロック異常(故障)と判断できる。
【0044】
いずれにしても、図14のP2でメカロック異常と判断されれば、P3において、メカロックの故障をカバーするために、伝達比可変ユニットを駆動するモータ6の電磁力発生部(コイル部)に、モータ出力軸(ひいては車輪操舵軸8)を回転不能状態に保持する電磁保持力を生じさせるロック電流を通電し、前記モータを電気的にロックする。モータロック、言い換えれば電気ロック装置をオン状態とすることになり、これによりハンドル軸3と車輪操舵軸8とを伝達比1:1で直結して伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させる。よってメカロックが故障した場合の信頼性が高められる。
【0045】
このようなモータロックは、図5の例に則していれば、図17に概念を示すように、モータ6のコイルU、V、Wに例えば同時にかつ継続的にロック電流を通電し、かつその通電によりモータ6の回転子のS極及びN極と引き合う磁界(電磁力)を各コイルU、V、Wへ生じさせる。これによりモータ6の回転子の磁極がステータ側のコイルと引き合ってモータ出力軸を固定状態に維持する電磁保持力を発生し、これが電気ロック(モータロック)となる。なお、一定の電磁保持力が得られるのであれば、モータ6のすべてのコイルへロック電流を供給することは不可欠ではなく、モータのコイルの一部のものへロック電流を通電してモータロックを果たすことも可能である。なお、このような電気ロックに伴うモータ6への通電は、予めROM等に書き込まれたプログラムに従い、CPU111等が通電パターンを読み出し、実行命令を出すことによりモータドライバ18を介して行われる。
【0046】
図15に示すメカロック不作動時処理のルーチンは、R1でメカロックがオンとなったどうかが判断され、オンとならなければ、前述した通常の伝達比制御がR2で行われるが、メカロックがオンされると、R3でメカロックに異常(故障)が生じていないかが上述のようにチェックされる。メカロックに異常がなければ、ハンドル軸3と車輪操舵軸8とはそのまま直結状態に固定されるから、電気ロックは作用しない。一方、メカロックに異常があると判断されると、単純に一定のロック電流をモータ6へ通電するのではなく、R4でロック電流演算のステップを介在させる。つまり、一定のロック電流を流し続けているとモータ6が過熱しやすくなるので、直進時は小さなロック電流、操舵時はその操舵トルク(操舵角ないしハンドル角とも言える)に応じたロック電流を流すことにより、メカロック不作動時のモータに過熱を防ぐ趣旨がある。
【0047】
例えばロック電流を縦軸、操舵角(操舵トルク又はハンドル角)を横軸にとったとき、操舵角がゼロに近ければ、車両は直進状態に近いので、ロック電流は小さいかゼロになる。また、操舵角が大きくても(ハンドルを大きく切っても)、操舵がゆっくり(操舵トルクが小)であればロック電流は小さく、操舵角が小さくてもハンドル操作が強い(急激な操舵等で操作トルクが大きい)場合は、ロック電流は大きくする。操舵時の操舵トルクは、例えば目標操舵角(例えばハンドル角をプロット)と実際の操舵角(例えば車両操舵角をプロット)との角度差(厳密には差の絶対値)を演算し、この角度差の大小をもって操舵トルク(推定値)とすることができる。つまり、どの程度のロック電流をモータに通電すべきかを決定する要素として、どのくらいハンドルが切られた状態にあるかを示す操舵角を抽出し、通電すべきロック電流を、上記角度差(操舵トルク)を係数とする操舵角の関数として把握し、その予め設定された関数式又は換算テーブルに基づき、通電すべきロック電流を演算又は参照により決定する。そのように決定されたロック電流を、R5でモータ6に通電して電気ロックをかける。
【0048】
図16に示すルーチンは、操舵角(図4のハンドル軸角度位置(φ)検出部103により逐次検出(サンプリング)されるハンドル角)に基づいて、ロック電流を決定する例である。T1、T2、T3は前述のR1、R2、R3と同様である。メカロックの異常が検出されると(T3)、T4でハンドル角φの大きさ又はその増加率(dφ/dt)が検出又は算出される。ハンドル角の大きさはどれだけハンドルが切られているかを示し、ハンドル角の増加率はハンドルを切る操作(操舵操作)がこれから更に進行しようしているか(正の増加率ないし増加傾向等)、終わりに近づいているのか(負の増加率又は減少傾向)を反映するものと言える。よって、前者の場合は操舵トルクが大きいものと推定でき、後者の場合は操舵トルクが小さいと推定できる。
【0049】
そして、T5でハンドル角φ又はその増加率(dφ/dt)が設定値以下かどうかが判断され、その設定値を超えていれば、通常のロック電流(規定電流)が通電されて電気ロックがかけられ(T7)、その設定値以下であれば、ロック電流を小さくして緩い電気ロックをかけるか、又はロック電流を通電しないで電気ロックをかけないようにすることができる(T6)。このような処理は所定のサイクルタイムで実行されるから、電気ロックのために通電される電流値は刻々と変化し、また状況に応じてロック電流がゼロ(電気ロックの一時的な解除)に行い得る。その場合は、ロック電流の通電が間欠的になることもあり、さらにはロック電流の通電自体を最初から所定のサイクルで間欠的に行うことを前提にしてもよい。間欠的に行う場合、ロック電流をデューティー比制御してモータの過熱を抑制したり消費電力を抑えたりすることもできる。
なお、図16では一定のしきい値を超えるかどうかでロック電流を調整すること前提に説明したが、図15のR4と同様に、T8として、T4のハンドル軸角度位置φやその増加率をロック電流の調整要素として数式化ないし換算テーブル化し、その数式や換算テーブルに基づき最適なロック電流値を決定してモータに通電するロック電流制御を行うこともできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の車両用操舵制御システムの全体構成を模式的に示す図。
【図2】駆動部ユニットの一実施例を示す縦断面図。
【図3】図2のA−A断面図。
【図4】本発明の車両用操舵制御システムの電気的構成の一例を示すブロック図。
【図5】本発明の実施形態に使用する3相ブラシレスモータの動作説明図。
【図6】電流センサの回路例を示す図。
【図7】3相ブラシレスモータのドライバ部分の一例を示す回路図。
【図8】図5の3相ブラシレスモータに使用するロータリエンコーダの説明図。
【図9】舵角変換比と車速との関係を与えるテーブルの模式図。
【図10】車速に応じて舵角変換比を変化させるパターンの一例を示す模式図。
【図11】モータ電源電圧と角度偏差Δθとによりデューティ比を決定するための二次元テーブルの模式図。
【図12】本発明の車両用操舵制御システムにおけるコンピュータ処理の主ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図13】図12の操舵制御処理の詳細の一例を示すフローチャート。
【図14】メカロック故障判定時の処理の一例を示すフローチャート。
【図15】図14の変形例を示すフローチャート。
【図16】図15の更に変形例を示すフローチャート。
【図17】モータロック(電気ロック)の一例を示す概念図。
【符号の説明】
3 ハンドル軸
6 モータ(アクチュエータ)
8 車輪操舵軸
51 ロック部材
52 ロック受け部材
100 操舵制御部
101 ハンドル軸角度検出部
103 操舵軸角度検出部
111 主CPU(角度決定手段)
121 副CPU(角度決定手段)
180 メカロック異常検出センサ
Claims (8)
- 操舵ハンドルのハンドル軸と車輪操舵軸とを連結する操舵伝達系の途中に伝達比を可変にするモータで駆動される伝達比可変ユニットを介在させ、前記伝達比を所定の要素に応じて制御する車両用操舵装置において、
前記伝達比可変ユニットを駆動する前記モータの電磁力発生部に、モータ出力軸を回転不能状態に保持する電磁保持力を生じさせるロック電流を通電することにより前記モータを電気的にロックし、前記ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で直結して前記伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させる電気ロック装置を備えることを特徴とする車両用操舵装置。 - 操舵ハンドルのハンドル軸と車輪操舵軸とを連結する操舵伝達系の途中に伝達比を可変にするモータで駆動される伝達比可変ユニットを介在させ、前記伝達比を所定の要素に応じて制御する車両用操舵装置において、
前記ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で機械的に直結されるように固定して前記伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させるメカニカルロック装置と、
前記伝達比可変ユニットを駆動する前記モータの電磁力発生部にモータ出力軸を回転不能状態に保持する電磁保持力を生じさせるロック電流を通電することにより前記モータを電気的にロックし、前記ハンドル軸と車輪操舵軸とを伝達比1:1で直結して前記伝達比可変ユニットの伝達比可変機能を停止させる電気ロック装置と、
を備えることを特徴とする車両用操舵装置。 - 前記メカニカルロック装置が正常に作用している場合は前記電気ロック装置は作動させず、メカニカルロック装置が正常に作用しない場合において前記電気ロック装置を作動させる請求項2に記載の車両用操舵装置。
- 前記メカニカルロック装置の異常を検出するメカニカルロック異常検出装置と、
メカニカルロック装置に異常が検出された場合に、直ちに又は特定の条件下で前記電気ロック装置を作動させる電気ロック制御装置と、
を含む請求項2又は3に記載の車両用操舵装置。 - 前記電気ロック制御装置は、特定の条件下で、前記モータに通電するロック電流の通電を停止して電気的なロックを解除し、又は前記モータに通電するロック電流値を変化させて電磁保持力を減少又は増加させる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
- 前記電気ロック制御装置は、前記操舵ハンドルの回転操作角度であるハンドル角が特定の条件下にある場合、又はそのハンドル角と操舵輪を操舵する車輪操舵軸の回転角度である操舵角との関係が特定の条件下にある場合は、前記モータへのロック電流の通電を停止して電気的なロックを一時的に解除し、又は前記モータに通電するロック電流値を変化させて電磁保持力を一時的に減少又は増加させる請求項1ないし5のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
- 前記電気ロック制御装置は、前記操舵ハンドルの回転操作角度であるハンドル角が中立位置ないしその近傍にある場合は、前記モータへのロック電流の通電を停止して電気的なロックを一時的に解除し、又は前記モータに通電するロック電流値を下げて電磁保持力を一時的に減少させる請求項1ないし6のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
- 前記電気ロック制御装置は、前記操舵ハンドルの回転操作角度であるハンドル角と、操舵輪を操舵する車輪操舵軸の回転角度である操舵角との角度差が所定値以下の場合は、前記モータに通電するロック電流の通電を停止して電気的なロックを一時的に解除し、又は前記モータに通電するロック電流値を下げて電磁保持力を一時的に減少させる請求項1ないし7のいずれか1項に記載の車両用操舵装置。
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