JP2004000003A - 新規なダイズ突然変異体及びそれを用いたダイズ油脂の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】配列表配列番号1の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体KK21、配列表配列番号2の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M23、配列表配列番号3の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M24、配列表配列番号4の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M5、配列表配列番号5の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体J18であり、これらのダイズ突然変異体の少なくとも1種を交配及び選抜し、育成して多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ油脂を製造する。
【選択図】 なし
Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ダイズ品種ベイ(Bay)を親品種として、X線照射により得られる新規な突然変異体及びこれを用いて多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ油脂を製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、植物、特にその種子中に存在する油脂の主成分であるトリアシルグリセロールは、1分子のグリセロールに対して3分子の脂肪酸が結合した化合物であるが、その結合した脂肪酸の種類により、物理的、化学的性質や栄養価が異なる。そして、この脂肪酸組成は、それらが由来する植物種により特異的であり、そのため、植物種ごとにその用途が制限されるのを免れない。
他方、この植物油脂の貯蔵に際し、酸化による変質を抑制するには、酸化しやすい多価不飽和脂肪酸含量を低下させることが必要である。
【0003】
ところで、ダイズ種子中には、パルミチン酸→ステアリン酸→オレイン酸→リノール酸→リノレン酸の生合成系が存在し、このオレイン酸からリノール酸への変換は、小胞体型ω−6脂肪酸不飽和化酵素により、またリノール酸からリノレン酸への変換は、小胞体型ω−3脂肪酸不飽和化酵素により行われていること、これらの酵素によるω−6及びω−3脂肪酸不飽和化には、複数の遺伝子が関連し、その一部はFAD2位及びFAD3位の遺伝子によりコントロールされていることが知られている[「Plant Physiol.」,(1993),第103巻,第467〜476ページ、「Theor.Appl.Genet.」,(1997)第94巻,第356〜359ページ]。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ダイズの種子中の多価不飽和脂肪酸含量を低下させる品種改良に使用可能な突然変異体及びそれを用いて多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ油脂を製造することを目的としてなされたものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、油脂品質が改良されたダイズ品種を得るために鋭意研究を重ねた結果、ダイズ品種Bayを親品種としてこれにX線照射して得られる突然変異体がリノール酸及びリノレン酸の含量が低下した油脂を生成させることを見出し、この知見に基づいて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、配列表配列番号1の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体KK21、配列表配列番号2の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M23、配列表配列番号3の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M24、配列表配列番号4の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M5、配列表配列番号5の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体J18、及びこれらのダイズ突然変異体の少なくとも1種を交配及び選抜し、育成することを特徴とする多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ油脂の製造方法を提供するものである。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明のダイズ突然変異体KK21を特徴づける配列表配列番号1の塩基配列をもつ変異遺伝子は、ダイズ中の小胞体型ω−6脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の1つであるFAD2−1における開始コドンから233番目の塩基チミン(t)が欠失したものであり、このためリノール酸の合成に必要な酵素の1つが正常に形成されない。また、ダイズ突然変異体M23を特徴づける変異遺伝子は、配列表配列番号2の塩基配列をもつFAD2−1遺伝子の発現が認められず、必要な酵素の1つが合成されない。また、ダイズ突然変異体M24を特徴づける配列表配列番号3の塩基配列をもつ変異遺伝子は、ダイズ中の小胞体型ω−3脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の1つであるFAD3−1aにおける開始コドンから1078番目の塩基アデニン(a)が欠失したものであり、このためリノレン酸の合成に必要な酵素の1つが正常に形成されない。ダイズ突然変異体M5を特徴づける配列表配列番号4の塩基配列をもつ変異遺伝子は、FAD3−1b遺伝子の開始コドンから1033番目のシトシン(c)から1051番目のグアニン(g)までの塩基が欠失したものであり、このためリノレン酸の合成に必要な酵素の1つが正常に形成されない。さらに、ダイズ突然変異体J18を特徴づける変異遺伝子は、配列表配列番号5の塩基配列をもつFAD3−1bの遺伝子の発現が全く認められず必要な酵素の1つが全然合成されない。
【0008】
これらのダイズ突然変異体は、親品種のダイズ品種Bay4000粒に、X線を1Sv/分の強さで200分間、計約200Sv(シーベルト)を照射して突然変異を誘発させることにより得られる。
【0009】
次に、このようにしてX線照射した種子、すなわち照射第1世代(以下M1種子という)を圃場に播種し栽培することにより自殖後代、すなわち照射第2世代(以下M2種子という)を得る。そして、このM2種子のそれぞれから同様にして照射第3世代(以下M3種子という)を育成し、M2種子の個体別に脂肪酸組成を分析する。このようにして、脂肪酸組成の分析結果から、M2種子約2000個から平均4〜5個の突然変異体が発生することを確認し、突然変異体を分離した。このようにして得たM3種子から得られる照射M4世代以降については、突然変異体を確認する実験を継続して行い、各突然変異体を得た。
【0010】
本発明において、これらの各遺伝子の検出は、以下の(1)〜(5)に示すように、RT−PCR(revers transcribed−polymerase chain reaction)法、この方法とジデオキシ法との組合せ又はサザンブロット法などによって行うことができる。
【0011】
(1)KK21系統(高オレイン酸突然変異系統)に生じた変異型FAD2−1遺伝子の検出;
RT−PCR法とジデオキシ法を組み合わせることにより、次のようにして行うことができる。
すなわち、植物材料(未熟種子)から常法に従い、全RNAの抽出を行ったのち、常法に従いoligo−dTプライマーを用いてcDNAを作成する。次にこのcDNAを鋳型として、プライマー1:5´−attgatagcccctccgttcccaaga−3´及びプライマー2:5´−attgtgagtgtgacgagaagagaaac−3´を用いて常法に従ってPCR反応を行い、FAD2−1遺伝子の塩基配列の一部を増幅したのち、精製したDNA断片を鋳型として、プライマー3:5´−gggtctagcaaaggaaacaacaatgggaggt−3´を用いて常法に従い塩基配列の解析を行う。その結果、図1下に示したt塩基の欠失が観察されれば、KK21系統由来の変異型FAD2−1遺伝子であると識別できる。
【0012】
(2)M23系統(高オレイン酸突然変異系統)に生じた変異型FAD2−1遺伝子の検出;
(a)サザンブロット法による検出;
植物材料(緑葉、種子、根などいずれの組織でも可)から常法に従って抽出を行ったDNAを制限酵素EcoR Iを用いて消化し、常法に従ってサザンブロット法による分析を行う。この際、プローブとしてFAD2−1遺伝子を用いるが、プローブの標識化については放射性同位体を用いる方法、あるいは化学的な修飾を用いる方法のいずれでも差しつかえない。正常なFAD2−1遺伝子をもつBay(原品種)では、約1.9kbp、2.5kbp及び4.6kbpの3本のバンドが検出されるが、M23系統由来の変異型FAD2−1遺伝子をもつ場合には、このうち約4.6kbpのバンドが消失することから識別ができる。この方法による分析パターンを図2に示す。
【0013】
(b)RT−PCR法による検出;
植物材料(未熟種子)から常法に従い、全RNAの抽出を行ったのち、常法に従いoligo−dTプライマーを用いてcDNAを作成する。次にこのcDNAを鋳型として、プライマー1:5´−attgatagcccctccgttcccaaga−3´及びプライマー4:5´−atacacacaaagtcattacgcggcaa−3´を用い、常法に従ってPCR反応を行うことによりFAD2−1遺伝子のタンパク質コード領域の全長を含む塩基配列を増幅する。この反応生成物を常法に従いアガロース電気泳動法により分析すると、正常なFAD2−1遺伝子をもつBay(原品種)では、約1.3kbpの1本のバンドが検出されるが、M23系統由来の変異型FAD2−1遺伝子をもつ場合には、全くバンドが検出されないことから識別できる。この解析データを図3に示す。
【0014】
(3)M24系統(低リノレン酸突然変異系統)に生じた変異型FAD3−1a遺伝子の検出;
RT−PCR法とジデオキシ法を組み合わせることにより、次のようにして行うことができる。
植物材料(未熟種子)から常法に従い、全RNAの抽出を行ったのち、常法に従い、oligo−dTプライマーを用いてcDNAを作成する。次にこのcDNAを鋳型として、プライマー5:5´−ttattacgcaccacccaccacgtatccct−3´及びプライマー6:5´−gttgcgagtggaggagcagagaatcagtc−3´を用いて常法に従ってPCR反応を行い、FAD3−1a及びFAD3−1b遺伝子のタンパク質コード領域の全長を含む塩基配列を同時に増幅する。次いで常法に従って精製したDNA断片を制限酵素Kpn Iを用いて消化し、約1.2kbpのDNA断片をアガロースゲルを用いてFAD3−1a遺伝子のみを分離、精製したのち、これを鋳型として、プライマー7:5´−gtggatcgtgactatggttggatcta−3´を用いて、常法に従い塩基配列の解析を行う。この際の分析パターンを図4に示す。その結果、図4下に示したa塩基の欠失が観察されれば、M24系統由来の変異型FAD3−1a遺伝子であると識別できる。
【0015】
(4)M5系統(低リノレン酸突然変異系統)に生じた変異型FAD3−1b遺伝子の検出;
RT−PCR法とジデオキシ法を組み合わせることにより、次のようにして行うことができる。
植物材料(未熟種子)から常法に従い、全RNAの抽出を行ったのち、常法に従いoligo−dTプライマーを用いてcDNAを作成する。次にこのcDNAを鋳型として、プライマー5:5´−ttattacgcaccacccaccacgtatccct−3´及びプライマー6:5´−gttgcgagtggaggagcagagaatcagtc−3´を用いて常法に従ってPCR反応を行い、FAD3−1a及びFAD3−1b遺伝子のタンパク質コード領域の全長を含む塩基配列を同時に増幅する。次いで、常法に従って精製したDNA断片を制限酵素Kpn Iを用いて消化し、約0.3kbpのDNA断片をアガロースゲルを用いてFAD3−1b遺伝子のみを分離、精製したのち、これを鋳型として、プライマー7:5´−gtggatcgtgactatggttggatcta−3´を用いて常法に従い塩基配列の解析を行う。この際の分析パターンを図5に示す。その結果、図5下に示した19塩基(5´−cttcgtaagtgacactgga−3´)の欠失が観察されれば、M5系統由来の変異型FAD3−1b遺伝子であると識別できる。
【0016】
(5)J18系統(低リノレン酸突然変異系統)に生じた変異型FAD3−1b遺伝子の検出;
(a)サザンブロット法による検出;
常法に従って抽出を行ったDNAを制限酵素EcoR Iを用いて消化し、常法に従ってサザンブロット法による分析を行う。この際、プローブとしてFAD3−1b遺伝子を用いるが、プローブの標識化については放射性同位体を用いた方法又は化学的な修飾を用いた方法のいずれでも差しつかえない。正常なFAD3−1b遺伝子をもつBay(原品種)では、約0.35kbp、2.1kbp、2.3kbp及び4.3kbpの4本のバンドが検出されるが、J18系統由来の変異型FAD3−1b遺伝子をもつ場合には、このうち約0.35kbp及び4.3kbpの2本のバンドが消失することから識別が可能である。この際の分析パターンを図6に示す。
【0017】
(b)RT−PCR法による検出;
植物材料(未熟種子を用いる)から常法に従い、全RNAの抽出を行ったのち、常法に従いoligo−dTプライマーを用いてcDNAを作成する。次にこのcDNAを鋳型として、プライマー5:5´−ttattacgcaccacccaccacgtatccct−3´及びプライマー6:5´−gttgcgagtggaggagcagagaatcagtc−3´を用いて、常法に従ってPCR反応を行い、FAD3−1a及びFAD3−1b遺伝子のタンパク質コード領域の全長を含む塩基配列を同時に増幅する。常法に従って精製したDNA断片を制限酵素Kpn Iを用いて消化し、アガロースゲルを用いてDNA断片を分離すると、正常なFAD3−1a及びFAD3−1b遺伝子をもつBay(原品種)では、FAD3−1b遺伝子に由来する約1.2kbpのDNA断片とFAD3−1a遺伝子に由来する約900bp及び300bpのDNA断片が検出されるが、J18系統由来の変異型FAD3−1b遺伝子をもつ場合には、このうち約1.2kbpのDNA断片が消失することから識別できる。この際の分析パターンを図7に示す。
【0018】
【実施例】
次に実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0019】
なお、植物材料としては、原品種Bay及びBayにX線を照射して得られた3種の低リノレン酸含量の突然変異体M24、M5及びJ18を、佐賀大学農学部温室内で栽培し、その緑葉をサンプリングしたのち、液体窒素中で凍結し、−80℃のフリーザー中に保存したものを用いた。
【0020】
実施例
(1)ゲノミックDNAの抽出;
凍結した葉を乳鉢中で粉砕後、この粉末1gに対して3mlの2%CTABバッファー[10mM Tris−HCl(pH8.0),1.4M NaCl,20mM EDTA,2%CTAB]を加え、ゆっくり撹拌した。これを、65℃のウォーターバス中で30分間インキュベートし、等量のクロロホルムを加えてゆっくり撹拌したのち、4℃、8000rpmの条件で、10分間遠心してタンパク質を除去し、再度、クロロホルム抽出により水層中のタンパク質除去を行った。この水層を新しい遠心管に移し、1%CTAB沈殿バッファー[50mMTris−HCl(pH8.0),1%CTAB]を総量が12mlになるように加えて、ゆっくりと混合したのち、4℃、8000rpmの条件で、10分間遠心することによりCTAB−DNA複合体を沈殿させた。上清を捨てたのち、CTABを除去するために4mlの1M NaClに沈殿を溶解して、4mlのイソプロパノールを加え、4℃、8000rpmの条件で、10分間遠心することにより、DNAを回収した。この沈殿を70%エタノールで洗ったのち、RNase A(10μg/μl)を含むTEバッファー[10mM Tris−HCl(pH8.0),1mM EDTA]200μlに溶解し、37℃で1時間インキュベートすることによりRNAを消化した。タンパク質を除去するため、これに、TLE飽和フェノール−クロロホルム(1:1)を等量加えて、4℃、15000rpmの条件で、5分間遠心し、水層を1.5mlの新しい遠心管に移し再度抽出操作を行ったのち、クロロホルムのみを用いて水層中のフェノールを除去した。これらのサンプルを、切断していないλDNAと共に電気泳動を行い、濃度を測定したのち、DNA濃度が0.2μg/μlとなるように調整して−20℃に保存した。
【0021】
(2)total RNAの調製;
フェノール/SDS法を改良した方法に従い、4ステージ(5mm以下、5〜7mm、7〜10mm及び10mm以上)に分けてサンプリングしたダイズの種子を液体窒素中で凍結し、乳鉢中で粉砕したのち、この粉末5gに対して、25mlの抽出バッファー[180mM Tris−HCl(pH8.2),90mM LiCl,4.5mM EDTA,1%SDS]及び、10mlの水飽和フェノールを加え、ポリトロン型ホモジナイザーを用いて最高速で約1分間撹拌した。さらに9mlのクロロホルムを加えよく撹拌し、4℃、8000rpmの条件で、10分間遠心した。この水層を新しい遠心管に移して、5mlの2M NaOAc(pH4.0)及び水飽和フェノールとクロロホルムを5mlずつ加えよく撹拌して、4℃、8000rpmの条件で10分間遠心した。その後、10mlの水飽和フェノールとクロロホルムによる抽出を合計6回行ったのち、上清を10mlのクロロホルムで抽出することによりフェノールを除去した。15mlの8M LiClにこの水層を加えて、ゆっくりと上下に撹拌したのち、氷上で一晩静置してRNAのリチウム塩を沈殿させ、4℃、8000rpmの条件で10分間遠心することにより、沈殿を回収した。得られた沈殿を500μlの滅菌水に溶かし、1.5mlの遠心管に移したのち、1/10量の3M NaOAcを加え、氷上で30分冷却したのち、4℃、15000rpmの条件で5分間遠心し、混入する多糖類を除去した。1.5倍量のイソプロパノール750μlを分注した1.5mlの遠心管に上清を加えて、4℃、15000rpmの条件で5分間遠心し、上清を捨てて、沈殿を500μlの滅菌水に溶解した。
【0022】
(3)cDNAの精製;
5μgのtotal RNAから、50mM Tris−HCl(pH8.3)、75mM KCl、3mM MgCl2、10mM DDT、300μM dNTPs、0.5μgのOligo−dTプライマー及び200unitのM−MLV逆転写酵素(GIBCO−BRL社製)を含む全量20μlの反応液を、37℃において、1時間インキュベートし、cDNA合成を行った。次に、この10倍希釈したcDNA溶液1μlをテンプレートとして、0.4μlのAdvantageIIポリメラーゼ(CRONTECH社製)、1×AdvantageII buffer、1×GC−RICH solution、250μM dNTPs及び0.1pmolのプライマーを含むPCR反応液20μlを調製し、PCR反応を行った。PCR反応の条件は95℃で2分間のインキュベートを1サイクルに続いて、95℃で30秒間、65℃で30秒間、72℃で3分間の反応サイクルインキュベートを35回繰り返した。得られたPCR生成物は、1%アガロースゲルを用い、100Vで30分間の電気泳動処理し、エチジウムブロマイドで染色により検出された目的のcDNA断片(Gm FAD3−1:約1.2kbp,Gm FAD3−2:約1.3kbp)を、QIAEXII Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて、ゲルから回収した。
【0023】
(4)RNAプローブの作成;
1μlのプラスミド(pGEM−T Easy Vecter)、5μlのT4 DNA Ligase、1×Rapid Ligation buffer及び1μlのT4 DNA Ligaseに3μlの精製したFAD3−1若しくはFAD3−2遺伝子断片を加え、12℃で一晩インキュベートした。ライゲーションしたプラスミドは大腸菌(XL−10 Gold)に形質転換した後、50mg/lのカルベニシリン、40mg/lのX−gal及び200μMのIPTGを含むLB寒天培地にプレーティングし、37℃にて一晩培養した後、白色コロニーを選んで、PCR法を用いて断片の組み込みと方向を確認した。目的とするプラスミドを保持する菌を、カルベニシリンを含むLB液体培地に植え付け、37℃で約14時間培養したのち、プラスミドを抽出した。得られたプラスミドをテンプレートとしてPCR反応を行い、マルチクローニングサイトを含むDNA断片を増幅して、アガロース電気泳導により精製した。このDNA断片に対し、37℃で2時間のプロテアーゼ処理[0.5% SDS、20μg/mlプロテアーゼ]を行い、DNA溶液中に混在するRNaseを完全に消化し、2回のフェノール−クロロホルム抽出により、プロテアーゼを除去した。この上清に75μlのイソプロパノール及び5μlの3M NaOAcを加え、−80℃で15分間冷却したのち、4℃、15000rpmの条件で10分間遠心し、生じた沈殿を20μlの滅菌水に溶解した。このDNAを鋳型としてDIG RNA Labeling Mix(Roche社製)を用いて標識したRNAプローブを作成した。
【0024】
(5)サザンブロット分析;
ゲノミックDNAをEcoR Iで完全に消化し、1%アガロースゲル電気泳動によって分子量に応じて分離した。このゲル上のDNA断片をアルカリ液[1.5M NaCl,0.5M NaOH]でトランスファーを行い、バイオダインプラスメンブレン(PALL社製)に転写した。その後、高SDS濃度ハブリダイゼーションバッファー[50%ホルムアミド,5×SSC,0.1%N−ラウロイルサルコシン,0.02%SDS,1%ブロッキング試薬]中で、50℃で5時間以上プレハイブリダイゼーションを行い、DIG−標識したGm FAD3−1及びGm FAD3−2のRNAプローブを加え、さらに50℃で一晩ハイブリダイゼーションを行った。その後、メンブレンを2×SSC及び0.1%SDSを含む水溶液中で5分間ずつ2回、さらに、0.1×SSC及び0.1%SDSを含む水溶液中で65℃にて20分ずつ3回の洗浄を行い、メンブレンに付着した余分なプローブを取り除いたのち、SDSを除去するため室温の洗浄バッファー[0.1M マレイン酸,0.15M NaCl,0.3%Tween20(pH7.5)]で5分間の洗浄を行った。次に、バッファー2[0.1M マレイン酸,0.15M NaCl,0%ブロッキング試薬(pH7.5)]中で1時間のブロッキング反応を行い、1000倍に希釈したAnti−Digoxigenin−AP Fab fragments(Roche社製)を含むバッファー2中で1時間のインキュベートを行い、DIG標識したプローブに標識抗体を結合させた。その後、洗浄バッファー中で15分間ずつ3回の洗浄を行い、余分な抗体を取り除いた。これをバッファー3[10mM Tris−HCl,10mM NaCl,1mM MgCl2]中で平衡化したのち、CDP−Star溶液(Roche社製)中で5分間のインキュベートを行い、メンブレンをラップで密閉して37℃で15分間インキュベートした。化学発光は、X線フィルムに感光させることにより検出した。
【0025】
(6)ノーザンブロット分析;
5μgのtotal RNAを1.2%のホルムアルデヒド・アガロースゲル[1×MOPSバッファー,5%ホルムアルデヒド,1.2%アガロース]を用いた電気泳動により分離し、20×SSCバッファーを用いて、バイオダインプラスメンブレン(PALL社製)に転写した。メンブレンを2×SSCで濯いだのち、UVクロスリンカー(Amersham Pharmacia社製)を用いて70mJ/cm2のUV光を照射することによりRNAの固定化を行った。ハイブリダイゼーションは、サザンブロット分析と同様に、高SDS濃度ハイブリダイゼーションバッファーを用い65℃にて行い、検出についても同様に行った。
【0026】
(7)シークエンス解析;
塩基配列の解析は、Big Dye Terminator v3.0 Ready Reaction Cycle sequencing Kit(Applied Biosystems社製)を用いて行った。テンプレートにはQIAEX II Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いてゲルより回収したcDNA断片(cDNA断片:テンプレートの濃度,100〜200bp:2ng/μl,200〜500bp:5ng/μl,500〜1000bp:10ng/μl,1000〜2000bp:20ng/μl,>2000bp:50ng/μl)、1×Terminator Ready Reaction PreMix、1×シークエンシングバッファー[80mMTris−HCl(pH9.0),2mM MgCl2,0.01%BSA]、1pmol/μlのプライマーを含むシークエンス反応液を作成し、95℃で30秒間インキュベートを1回行ったのち、95℃で30秒間、60℃で4分間の反応サイクルを30回繰り返すことによりシークエンス反応を行った。この反応液を、マルチスクリーンHVプレート(MILLIPORE社製)にSephadex G−50 Fine(Amarsham Pharmacia社製)を充填したスピンカラムを用いて反応産物の精製を行い、65℃のオーブン中で精製物を乾固した。これを30μlのTemplate suspension reagentで完全に溶解し、95℃で10分間加熱し熱変性を行ったのち、10分間氷水で急冷したものを、ABI PRISM 310 Genetic
Analyzerを用いて分析した。
【0027】
このようにして得られた突然変異体M24、M5及びJ18の遺伝子の塩基配列を配列表配列番号3、4及び5に示す。
【0028】
次に、本発明方法に従い、多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ油脂を製造するには、前記のようにして得たダイズ突然変異体を交配、選抜し、育成することにより増殖栽培して種子を収穫する。この際、突然変異体中の遺伝子は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0029】
そして、ダイズ突然変異体KK21及びM23の場合は、オレイン酸からリノール酸を生成する小胞体型ω−6脂肪酸不飽和化酵素を欠くことになるので、リノール酸及びそれがさらに変化するリノレン酸の生成が抑制され、リノール酸及びリノレン酸含量の低いダイズ油脂が得られることになるし、またダイズ突然変異体M24、M5及びJ18は、リノール酸からリノレン酸を生成する小胞体型ω−3脂肪酸不飽和化酵素を欠くことになるので、リノレン酸含量の低いダイズ油脂が得られることになる。
【0030】
【発明の効果】
本発明によれば、酸化による品質低下の原因となる多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ種子を生産するダイズ品種の突然変異体を得ることができ、これを用いて酸化安定性の優れたダイズ油脂を効率よく製造することができる。
【0031】
【配列表】
【図面の簡単な説明】
【図1】ダイズ突然変異体KK21の遺伝子の分析パターン。
【図2】ダイズ突然変異体M23の遺伝子及びそれと対比される他の遺伝子のサザンブロット法による分析パターン。
【図3】ダイズ突然変異体M23の遺伝子及びそれと対比される他の遺伝子のRT−PCR法による分析パターン。
【図4】ダイズ突然変異体M24の遺伝子の分析パターン。
【図5】ダイズ突然変異体M5の遺伝子の分析パターン。
【図6】ダイズ突然変異体J18の遺伝子及びそれと対比される他の遺伝子のサザンブロット法による分析パターン。
【図7】ダイズ突然変異体J18の遺伝子及びそれと対比される他の遺伝子のRT−PCR法による分析パターン。
Claims (7)
- 配列表配列番号1の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体KK21。
- 配列表配列番号2の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M23。
- 配列表配列番号3の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M24。
- 配列表配列番号4の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体M5。
- 配列表配列番号5の塩基配列を有する遺伝子により特徴づけられるダイズ突然変異体J18。
- 請求項1ないし5のいずれかに記載のダイズ突然変異体の少なくとも1種を交配及び選抜し、育成することを特徴とする多価不飽和脂肪酸含量の低いダイズ油脂の製造方法。
- 多価不飽和脂肪酸がリノール酸又はリノレン酸あるいはその両方である請求項6記載のダイズ油脂の製造方法。
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