JP2003053502A - ダイカストマシン用射出スリーブ - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 アルミニウム溶湯に対する耐食性及び保温性
を備え、且つ金型の背面に接続される先端部において欠
けが発生し難い射出スリーブを提供する。 【解決手段】 本発明に基づく射出スリーブは、内外の
二層からなる複合構造を備えている。内筒２の先端近傍
以外の部分を占める第一部分２１は耐溶損性に優れた材
料で構成され、最先端部分を占める第三部分２３は靭性
に優れた材料で構成され、第二部分２２は第一部分２１
と第三部分２３の中間の組成で構成されている。この例
では、外筒１はＳ４８Ｃで構成され、第一部分２１は、
Ｓｉ：４．５％、Ｍｏ：２１％、Ｂ：３％からなるニッ
ケル合金で、第二部分２２は、Ｓｉ：５．１％、Ｍｏ：
１４％、Ｂ：２．３％からなるニッケル合金で、第三部
分２３は、Ｓｉ：５．５％、Ｍｏ：９．２％、Ｂ：１．
４％からなるニッケル合金で構成されている。外筒１と
内筒２はＨＩＰ法を用いて互いに接合されている。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【発明の属する技術分野】本発明は、アルミニウム合金
用のダイカストマシンにおいて、溶湯受けと加圧シリン
ダとを兼ねる射出スリーブの構造に関する。

【０００２】

【従来の技術】ダイカストマシンにおいて溶湯受けと加
圧シリンダとを兼ねる射出スリーブには、従来より、Ｓ
ＫＤ６１（ＪＩＳ）などの合金工具鋼が使用されてい
る。ＳＫＤ６１製の射出スリーブは、靭性に優れ且つ比
較的安価であるので、広く使用されている。しかし、Ｓ
ＫＤ６１製の射出スリーブは、アルミニウム溶湯に対す
る耐食性（いわゆる耐溶損性）が必ずしも十分ではな
く、比較的早期に給湯口下部において溶損が生じ、使用
不能になることが多い。

【０００３】この様な問題を解決するため、特開平１１
−３００４５９号公報には、鋼製の外筒の内側に、厚さ
２〜１０ｍｍ程度のニッケル合金からなる内筒を接合し
た複合構造の射出スリーブが提案されている。内筒部分
を構成する上記のニッケル合金は、耐摩耗性、保温性、
耐ヒートクラック性に優れていることに加え、特に、ア
ルミニウム溶湯に対する耐溶損性に優れている。このた
め、上記の複合構造の射出スリーブは、従来のＳＫＤ６
１製の射出スリーブと比べて、優れた寿命を示してい
る。

【０００４】しかしながら、上記のニッケル合金は、Ｓ
ＫＤ６１材と比べてやや靭性が低いので、分割型の射出
スリーブの場合には、金型側に設けられたスリーブブッ
シュ（湯口スリーブ）との間の突合せ部において欠けが
生じ易く、また、上記スリーブブッシュと射出スリーブ
を一体型にした射出スリーブの場合には、射出スリーブ
の金型側端面において欠けが生じ易いという問題があ
る。

【０００５】図６に、射出スリーブと金型との接続部の
構造を示す。図中、１０は射出スリーブ、３１は固定ダ
イプレート、３２は移動ダイプレート、３３は固定金
型、３４は移動金型、３６はスリーブブッシュ、４０は
プランジャである。

【０００６】射出スリーブ１０は、ブッシュ３５を介し
て固定ダイプレート３１に取り付けられている。固定金
型３３のゲート部分にはスリーブブッシュ３６が取り付
けられている。射出スリーブ１０の先端は、ブッシュ３
５の中を貫通し、スリーブブッシュ３６の端面に突き当
てられた状態で、固定金型３３の背面に接続される。

【０００７】溶湯は、給湯口１３から射出スリーブ１０
の中に注入された後、プランジャ４０（プランジャロッ
ド４１及びプランジャチップ４２などから構成されてい
る）によって前方に押し出され、スリーブブッシュ３６
を通って、金型のキャビティ３９内に充填される。な
お、この例では、射出スリーブ１０は、内筒１２及び外
筒１１からなる二層構造を備えている。

【０００８】上述したような射出スリーブ１０の先端の
角部に欠けが生ずる原因は、射出スリーブ１０内をプラ
ンジャ４０が摺動する際、プランジャチップ４２が射出
スリーブ１０の先端の突合せ部の僅かな段差に繰り返し
衝突するためと考えられる。

【０００９】また、一体型の射出スリーブの場合は、成
形製品を抜型する際のビスケット部との摩擦力、あるい
は移動型による繰り返し応力を受けることによって、射
出スリーブ端面に欠けが発生する。

【００１０】更に、このような欠けは、プランジャチッ
プ４０の摺動に伴い、プランジャチップ４２の表面を摩
耗させる。プランジャチップ４２の表面が摩耗すると、
射出スリーブ１０の内周面との間の隙間が大きくなり、
溶湯に対するシールが不完全になる。従って、射出スリ
ーブ１０の先端の角部の欠けは、プランジャチップ４２
の寿命を短くする要因の一つとなっている。

【００１１】

【発明が解決しようとする課題】本発明は、以上のよう
な従来の複合構造の射出スリーブの問題点に鑑み成され
たものであり、本発明の目的は、射出スリーブの先端面
（金型の背面に接続される方の端面）に欠けが生じにく
く、従って、プランジャチップの表面を傷付けにくいダ
イカストマシン用の射出スリーブを提供することにあ
る。

【００１２】

【課題を解決するための手段】本発明のダイカストマシ
ン用射出スリーブは、内筒と外筒からなる二層構造を備
えるとともに、内筒が、先端近傍以外の部分を占める第
一部分と、この第一部分に続く先端近傍を占め第一部分
とは組成が異なる第二部分と、この第二部分に続く最先
端部分を占め第一部分及び第二部分とは組成が異なる第
三部分と、で構成されたダイカストマシン用射出スリー
ブであって、前記外筒は、鋼で構成され、前記内筒の第
一部分は、Ｓｉが４．４ｗｔ％以上４．８ｗｔ％以下、
Ｍｏが１８ｗｔ％以上２２ｗｔ％以下、Ｂが２．８ｗｔ
％以上３．５ｗｔ％以下で、残部がＮｉからなる第一の
ニッケル合金で構成され、前記内筒の第二部分は、Ｓｉ
が４．９ｗｔ％以上５．３ｗｔ％以下、Ｍｏが１３ｗｔ
％以上１７ｗｔ％以下、Ｂが１．９ｗｔ％以上２．７ｗ
ｔ％以下で、残部がＮｉからなる第二のニッケル合金で
構成され、前記内筒の第三部分は、Ｓｉが５．４ｗｔ％
以上５．８ｗｔ％以下、Ｍｏが８ｗｔ％以上１２ｗｔ％
以下、Ｂが１．１ｗｔ％以上１．８ｗｔ％以下で、残部
がＮｉからなる第三のニッケル合金で構成されているこ
と、を特徴とする。

【００１３】本発明のダイカストマシン用射出スリーブ
において、内筒の前記第一部分（先端近傍以外の部分）
を構成する第一のニッケル合金は、アルミニウム溶湯に
対する耐食性に優れるともに、耐摩耗性、保温性、耐ヒ
ートクラック性に優れている。特に、アルミニウム溶湯
に対する耐溶損性は、図７に示すように、従来から使用
されているＳＫＤ６１材と比べて大幅に優れている。

【００１４】また、内筒の前記第三部分（最先端部分）
を構成する第三のニッケル合金は、以下に示すように、
第一のニッケル合金と比べて、強度及び靭性に優れてお
り、プランジャチップの摺動による欠けが生じにくい。

【００１５】更にまた、内筒の前記第二部分は、本発明
によるダイカストマシン用射出スリーブを焼結により製
造する場合、上記内筒の第一部分と第三部分の焼結温度
が異なることにより、境界部の第三部分側に欠陥（空
孔）が発生することを防止する役目を有している。即
ち、第二部分がない場合には、焼結温度が低い第三部分
が先に液相を発生し、これが第一部分に浸透して第三部
分のうち第一部分に近い部分に液相が不足する個所が生
じるために、空孔を生じる。第二部分は、液相発生の時
間的ズレを小さく抑える役目を有し、これにより、液相
の移動を抑えて空孔の発生を防止する役目を果たす。

【００１６】なお、この効果をより高めるために、第二
部分の長さは、第三部分の長さより大きくすることが好
ましい。

【００１７】第一のニッケル合金 抗折力 ：１，１００ ＭＰａ 破壊靭性値： ２１ ＭＰａ・ｍ^1/2 焼結温度 ：１，０２０ ℃ 第二のニッケル合金 抗折力 ：１，４００ ＭＰａ 破壊靭性値： ２６ ＭＰａ・ｍ^1/2 焼結温度 ：１，０１５ ℃ 第三のニッケル合金 抗折力 ：１，７２０ ＭＰａ 破壊靭性値： ３３ ＭＰａ・ｍ^1/2 焼結温度 ：１，０１０ ℃ 但し、第三のニッケル合金は、図７に示すように、第一
のニッケル合金と比較すると、アルミニウム溶湯に対す
る耐溶損性が劣るため、欠けが発生するおそれがある部
分のみに使用する。特に、溶損が問題となる給湯口の下
部には使用しない。なお、図７には、第二のニッケル合
金の耐溶損性も参考として示した。

【００１８】第二及び第三のニッケル合金は、第一のニ
ッケル合金と構成元素が同一で、組成のみが異なってい
る。そのため、相互間の接合強度が大きく、熱膨張係数
も近似しているので、使用中にこれらの接合部において
分離する恐れはない。また、第二及び第三のニッケル合
金は、射出スリーブとして使用する上での十分な耐摩耗
性を備えている。

【００１９】なお、外筒の内周面上に、内筒の第一部
分、第二部分及び第三部分を接合する際、好ましくは、
ＨＩＰ法（熱間静水圧プレス法）などを用いて焼結と同
時に接合を行う。その他、外筒の内周面上へ内筒の第一
部分、第二部分及び第三部分の接合は、熱間押出し法あ
るいは焼結法などによって行うこともできる。

【００２０】

【発明の実施の形態】図１に、本発明に基づくダイカス
トマシン用射出スリーブの概要を示す。図中、１は外
筒、２は内筒、２１は内筒の第一部分、２２は内筒の第
二部分、２３は内筒の第三部分である。

【００２１】図１に示す様に、本発明に基づく射出スリ
ーブは、内外の二層からなる複合構造を備え、更に、内
筒２は、組成が互いに異なる三つの部分で構成されてい
る。即ち、内筒２は、先端近傍以外の部分を占める第一
部分２１と、これに続く先端近傍を占める第二部分２２
と、最先端部分を占める第三部分２３とで構成されてい
る。

【００２２】この例では、射出スリーブの全長は２４７
ｍｍ、外径は１０３ｍｍ、内径は８０ｍｍである。内筒
２の肉厚は１．５ｍｍ、内筒の第三部分２３の長さ（軸
方向の寸法）は１０ｍｍ、内筒の第二部分２２の長さは
１５ｍｍである。なお、内筒２の肉厚の好ましい範囲は
０．５〜３．０ｍｍ程度、内筒の第三部分２３の長さの
好ましい範囲は５〜３０ｍｍ、同じく第二部分２２の長
さの好ましい範囲は第三部分２３の長さより長い１０〜
４０ｍｍ程度である。

【００２３】この例では、外筒１は、機械構造用炭素鋼
Ｓ４８Ｃで構成されている。内筒の第一部分２１は、Ｓ
ｉ：４．５ｗｔ％、Ｍｏ：２１ｗｔ％、Ｂ：３．０ｗｔ
％、Ｎｉ：残部、からなるニッケル合金（第一のニッケ
ル合金）で構成されている。内筒の第二部分２２は、Ｓ
ｉ：５．１ｗｔ％、Ｍｏ：１４．０ｗｔ％、Ｂ：２．３
ｗｔ％、Ｎｉ：残部、からなるニッケル合金（第二のニ
ッケル合金）で構成されている。内筒の第三部分２３
は、Ｓｉ：５．５ｗｔ％、Ｍｏ：９．２ｗｔ％、Ｂ：
１．４ｗｔ％、Ｎｉ：残部、からなるニッケル合金（第
三のニッケル合金）で構成されている。

【００２４】外筒１と内筒２は、ＨＩＰ法（熱間静水圧
プレス法）を用いて、互いに金属組織的に接合されて一
体化されている。

【００２５】次に、図１に示した射出スリーブの製造方
法の例について説明する。

【００２６】（イ）外筒相当部分１ａを、機械構造用炭
素鋼Ｓ４８Ｃを用いて、図２に示す形状に、機械加工に
よって製作した。

【００２７】（ロ）ＨＩＰ加工の際に中子３として使用
する部分を、機械構造用炭素鋼Ｓ４８Ｃを用いて、図３
に示す形状に、機械加工によって製作した。

【００２８】（ハ）内筒の第一部分２１に相当する組成
の焼結原料粉末２１ａ、第二部分２２に相当する組成の
焼結原料粉末２２ａ、及び第三部分２３に相当する組成
の焼結原料粉末２３ａを、それぞれガス・アトマイズ法
を用いて調製した（粒径：５０〜１００μｍ）。

【００２９】（ニ）図４に示す様に、缶体５の中に外筒
相当部分１ａを収容し、外筒相当部分１ａの内側に中子
３をセットした。

【００３０】（ホ）外筒相当部分１ａと中子２との間の
環状の隙間に、焼結原料粉末２３ａを高さ１０ｍｍで充
填した。更に、その上に焼結原料粉末２２ａを高さ１５
ｍｍに充填し、その上から焼結原料粉末２１ａを上端ま
で充填した。

【００３１】（ヘ）図５に示す様に、缶体５の上部に蓋
６を溶接で取り付けた。なお、蓋６には、真空引き用パ
イプ７が取り付けられている。

【００３２】（ト）真空引き用パイプ７を介して、缶体
５の内部を真空に引き、所定の真空度に到達したところ
で、真空引き用パイプ７を潰して塞いだ後、更に溶接で
封じた。

【００３３】（チ）以上の様にして準備したものを、Ｈ
ＩＰ（熱間静水圧プレス）装置に装着し、１０００気圧
のアルゴンガスの下で９５０℃に加熱し、原料粉末２１
ａ、２２ａ及び２３ａを焼結するとともに、これらの焼
結体を互いに接合し、同時に、これらの焼結体を外筒相
当部分１ａに接合した。

【００３４】（リ）缶体５、６、７及び中子３を、切削
加工で除去した後、内径、外径及び端部に機械加工を施
し、先に図１に示した形状に仕上げた。なお、ここで、
内筒２の第一ないし第三部分２１〜２３の内周面を目視
観察した結果、いずれの内周面にも空孔などの欠陥は認
められなかった。

【００３５】以上の様にして製作された射出スリーブ
を、コールドチャンバ方式のダイカストマシンに取り付
け、アルミニウム合金を用いて自動車用部品の鋳造試験
を行った。同時に、比較材として、従来のＳＫＤ６１製
の単層構造の射出スリーブ、及び単一組成のＳｉ−Ｍｏ
−Ｂ−Ｎｉ系ニッケル合金（第一のニッケル合金）で内
筒が構成された複合構造の射出スリーブを用いて、同じ
条件で鋳造試験を行った。

【００３６】鋳造条件の概要は、次の通りである。

【００３７】 ・鋳造材料：ＡＤＣ１２ ・１回の溶湯重量：６００ｇ ・溶解温度：６８０℃ ・射出速度：２．５ｍ／ｓｅｃ 表１に、鋳造試験の結果を示す。射出スリーブの寿命に
はバラツキがあると考えなければならないが、本発明の
射出スリーブは、従来の射出スリーブと比較して優れた
結果を示した。

【００３８】

【表１】

【００３９】

【発明の効果】本発明に基づく射出スリーブは、内外の
二層からなる複合構造を備え、内筒の先端近傍を除く部
分が、アルミニウム溶湯に対する耐食性、耐摩耗性、保
温性、耐ヒートクラック性に優れた第一のニッケル合金
で構成されるとともに、内筒の先端近傍の部分が強度及
び靭性に優れた第二及び第三のニッケル合金で構成され
ている。このため、本発明に基づく射出スリーブは、ア
ルミニウム溶湯に対する耐食性に優れると同時に、内筒
の先端部において欠けが発生し難く、長い寿命を備えて
いる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本発明に基づく射出スリーブの概要を示す軸方
向断面図。

【図２】本発明に基づく射出スリーブの製造工程につい
て説明する図。

【図３】本発明に基づく射出スリーブの製造工程につい
て説明する図。

【図４】本発明に基づく射出スリーブの製造工程につい
て説明する図。

【図５】本発明に基づく射出スリーブの製造工程につい
て説明する図。

【図６】射出スリーブと金型の接続部分の構造について
説明する図。

【図７】アルミニウム溶湯中での溶損量についてＳＫＤ
６１と二種類のニッケル合金とを比較した図。

【符号の説明】

１・・・外筒、 ２・・・内筒、 ２１・・・第一部分、 ２２・・・第二部分、 ２３・・・第三部分、 ３・・・中子、 ５・・・缶体、 ６・・・蓋、 ７・・・真空引き用パイプ、 １０・・・射出スリーブ、 １１・・・外筒、 １２・・・内筒、 １３・・・給湯口、 ３１・・・固定ダイプレート、 ３２・・・移動ダイプレート、 ３３・・・固定金型、 ３４・・・移動金型、 ３５・・・ブッシュ、 ３６・・・スリーブブッシュ、 ３９・・・キャビティ、 ４０・・・プランジャ、 ４１・・・プランジャロッド、 ４２・・・プランジャチップ。

───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 本間 周平 静岡県沼津市大岡2068の３ 東芝機械株式 会社内 (72)発明者 田代 貴晴 静岡県沼津市大岡2068の３ 東芝機械株式 会社内

Claims (3)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 内筒と外筒からなる二層構造を備えると
   ともに、内筒が、先端近傍以外の部分を占める第一部分
   と、この第一部分に続く先端近傍を占め第一部分とは組
   成が異なる第二部分と、この第二部分に続く最先端部分
   を占め第一部分及び第二部分とは組成が異なる第三部分
   と、で構成されたダイカストマシン用射出スリーブであ
   って、 前記外筒は、鋼で構成され、 前記内筒の第一部分は、Ｓｉが４．４ｗｔ％以上４．８
   ｗｔ％以下、Ｍｏが１８ｗｔ％以上２２ｗｔ％以下、Ｂ
   が２．８ｗｔ％以上３．５ｗｔ％以下で、残部がＮｉか
   らなる第一のニッケル合金で構成され、 前記内筒の第二部分は、Ｓｉが４．９ｗｔ％以上５．３
   ｗｔ％以下、Ｍｏが１３ｗｔ％以上１７ｗｔ％以下、Ｂ
   が１．９ｗｔ％以上２．７ｗｔ％以下で、残部がＮｉか
   らなる第二のニッケル合金で構成され、 前記内筒の第三部分は、Ｓｉが５．４ｗｔ％以上５．８
   ｗｔ％以下、Ｍｏが８ｗｔ％以上１２ｗｔ％以下、Ｂが
   １．１ｗｔ％以上１．８ｗｔ％以下で、残部がＮｉから
   なる第三のニッケル合金で構成されていること、を特徴
   とするダイカストマシン用射出スリーブ。
2. 【請求項２】 前記外筒の内周面上に、前記内筒の第一
   部分、第二部分及び第三部分が、焼結と同時に接合され
   ていることを特徴とする請求項１に記載のダイカストマ
   シン用射出スリーブ。
3. 【請求項３】 前記内筒の第二部分は、前記内筒の第三
   部分よりスリーブの長手方向の長さが大きいことを特徴
   とする請求項２に記載のダイカストマシン用射出スリー
   ブ。