JP2001123241A - ディスクブレーキ用ロータ及びその製造方法 - Google Patents

ディスクブレーキ用ロータ及びその製造方法

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JP2001123241A
JP2001123241A JP30040499A JP30040499A JP2001123241A JP 2001123241 A JP2001123241 A JP 2001123241A JP 30040499 A JP30040499 A JP 30040499A JP 30040499 A JP30040499 A JP 30040499A JP 2001123241 A JP2001123241 A JP 2001123241A
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rotor
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brake
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Hakuei Cho
柏榮 趙
Katsuji Ueno
勝司 上野
Yoshiaki Kobayashi
良紀 小林
Hide Akune
秀 阿久根
Akio Miyazaki
聡夫 宮崎
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AUTOMOBILE FOUNDRY
JIDOSHA IMONO KK
Akebono Brake Industry Co Ltd
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AUTOMOBILE FOUNDRY
JIDOSHA IMONO KK
Akebono Brake Industry Co Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 大型商用車用ブレーキロータとしての必要強
度を満足したうえ、高い減衰性、且つ耐熱亀裂性などに
も優れたディスクブレーキ用ロータ及びその製造方法を
提供する。 【解決手段】 重量%で、C:3.4〜4.0%、Si:1.6〜
2.4%、Mn:0.5〜1.0%、S:0.15%以下、P:0を超え
て0.15%以下、Cr:0.1〜0.6%、Cu:0〜0.5%、M
o:0.1〜0.5%、Ni:0.2〜2.0%、残部が実質的にFeで
ある化学組成をそれぞれ含み、ロータ摺動部の黒鉛組織
は晶出した黒鉛の面積率が10〜16%、かつ黒鉛の形状に
係わる細長さ係数k0:30〜45とする、A型、又はA型と
C型とが混合した片状黒鉛組織からなり、また、基地組
織としては緻密なパーライトと、0〜10%の、マルテン
サイト及びベイナイトの混合組織を有する片状黒鉛鋳鉄
からなるブレーキロータである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車に用いられ
るディスクブレーキ用ロータ及びその製造方法に関し、
更に詳しくは、特に大型商用車に求められる高い減衰性
と良好な耐熱亀裂性等を有するディスクブレーキ用ロー
タ及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来のブレーキディスク材としては、例
えば、特許公報第2676456号(平成9年11月1
7日発行)、及び特開平10−212545号公報に記
載されたものがある。このうち、特許公報第26764
56号では、耐摩耗性と耐熱亀裂性を向上させた、鉄道
車両等に用いられるブレーキディスク材が開示されてい
る。この公報には、添加元素をそれぞれ所定の範囲に含
有させ、鋳造後の温度及び時間を管理して型バラシする
ことによって、基地組織をマルテンサイト又はパーライ
トに制御し、耐摩耗性及び耐熱亀裂性に優れたブレーキ
ディスク材に関する技術が記載されている。
【0003】一方、上記特開平10−212545号公
報には、ブレーキディスク材の疲労強度を向上すること
によって、鉄道車両用などに適用されるブレーキディス
ク材が記載されている。この公報によれば、重量%で、
Cを3.10〜3.45、Siを1.10〜1.50に選定し、Ni,Cr,Mo等
の合金を所定の範囲に添加し、且つ、C重量%÷[4.23
−(Si重量%/3.2)]で算出される炭素飽和度(Sc
値)を0.82〜0.91の範囲に限定することにより、ブレー
キディスク材の複雑に錯綜した耐熱亀裂性、引張り、圧
縮疲労限度の各要素間の理想的平衡関係を保持してい
る。とくに、耐熱亀裂性を、従来の鉄道車両のブレーキ
材として定評のあるNi,Mo,Crを適量添加した低合金鋳鉄
の水準又はそれ以上に維持すると共に、疲労強度も従来
より更に優れていることを挙げている。なお、本明細書
では、以下の記述において、特にことわらない限り、元
素の含有量の単位を全て「重量%」で表すこととする。
【0004】更に、別のブレーキ部品としては、例えば
特開平7−305138号公報に記載されたように、ブ
レーキの減衰能、即ち振動吸収能や鳴きの点ばかりでな
く、ブレーキの制動性や耐摩耗性の点でも満足できるも
のが提案されている。このブレーキ部品の化学組成は、
C:3.8%以上、Si:1.6〜2.6%、且つ炭素当量(以
下、C.E.値という):4.9%以下、Mn:0.4〜1.2%、
P:0.1%以下、S:0.15%以下、Cr:0.1〜0.25%、S
n:0.01〜0.05%、残部が実質的にFeである。また、組
織は片状黒鉛が晶出したパーライト組織であり、晶出黒
鉛の面積率は18〜28%、平均長さが70〜150μmである
ことを特徴としている。上記公報に開示された技術によ
れば、C.E.値と引張強さの相関関係、及び合金元素の添
加量を調製することにより、高い引張強さを有し、かつ
熱拡散率、減衰性、摩耗量及び摩擦係数に優れたブレー
キ部品を得ることができる。
【0005】しかし、上記従来のブレーキ部品の引張強
さは170MPa程度であり、乗用車用ブレーキ部品と
しては十分な強度ではあるが、大型トラック等の大型商
用車のように、乗用車よりもかなり過酷な条件、例えば
大きな積載重量のもとで使用されるブレーキロータに適
用する場合は、ロータの強度不足が生じる。従って、単
にC.E.値を高くすることによって減衰性を向上させる手
段では、上記大型商用車等に用いることが困難である。
また、大型トラックの場合は、乗用車以上に耐熱亀裂性
や耐摩耗性などが求められるため、高減衰性、優れた耐
熱亀裂性及び高強度などをバランス良く兼ね備えること
が必要である。
【0006】一方、特開平10−1736号公報、特開
平11−63045号公報において開示されたディスク
ブレーキ用ロータは、上記の課題を鋭意解決しようとす
るものと見られる。特開平10−1736号のものでは
C:3.7%以上、Mn<0.5%、Cr:0.5〜1.5%、更にMnと
Crの総和αが重量比で、0.5%≦α≦1.5%に管理される
ことを特徴としている。また、特開平11−68045
号のものでは、C:3.7〜4.2%、より好ましくはC:3.
9〜4.2%、Si:1.5〜3.0%、より好ましくはSi:2.1〜
2.6%、Mn:0.5%未満、Cr:0.5%を超え1.5%以下、C
u:2.0%以下である。これらのロータは、各公報によれ
ば、従来のFC200,FC250同等以上の機械的強
度を持ちながら、減衰性、耐熱亀裂性、耐摩耗性を向上
することが可能になると考えられる。
【0007】しかし、特開平10−1736号公報、特
開平11−63045号公報の実施例の化学組成をみる
限り、いずれもCrが0.5%以上添加されたうえ、更にCu
を1.0%添加している。ところが、本発明者らの試験結
果によれば、Cu,Crを多量添加すると、確かに引張強さ
が向上し、また、熱伝導率も良くなるが、しかし、材料
が脆くなり、熱亀裂、摩耗量の増加などを招いてしまう
ことがある。また、これらの公報記載の実施例の化学組
成に近い発明者らの試験例によると、対数減衰率は従来
のFC200,FC250に比較して、高くても2〜3
倍程度しか向上できなかった。更に、当該ロータはCuを
添加することによって、大型トラック用ロータとしての
必要強度を、製造工程における熱処理などのプロセスを
複雑化することなく低コストに達成するためと位置付け
ている。しかし、熱処理工程自体は、コスト的に高くな
るので、高特性ロータを鋳放し化で得ることが望まれ
る。
【0008】現在、日本国内における大型商用車の場
合、ドラムブレーキによる制動方式が未だに主流であ
る。しかし、高速走行時の停止距離がドラムブレーキよ
りはるかに短くて安全性の高い、かつ車両の軽量化ニー
ズにも応えうるディスクブレーキ化の傾向が一段と強ま
ってきている。近年、更に、ブレーキの静粛性について
の要求も年々高まってきている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】本発明の課題は、高い
減衰性を有し、大型商用車用ブレーキロータにも適用で
きる強度を満足しつつ、且つ耐熱亀裂性や耐摩耗性等に
優れたディスクブレーキ用ロータを提供することにあ
る。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、鋭意研究
を重ね、減衰能、耐熱亀裂性及び強度等における優れた
諸特性を得ることが可能な、C.E.値、化学組成、黒鉛形
態、基地組織及び製造条件などの条件を見い出した。こ
れらによって、大型商用車用ブレーキロータの必要強度
を満足し、従来のロータ材に用いられたFC250に比
べ、ブレーキの効きや耐摩耗性などが劣ること無く、耐
熱亀裂性が優れ、かつ、特に対数減衰率が試験片ベース
で3〜8倍、実体ロータでは2倍以上も高いディスクブ
レーキロータ材を得ることができた。
【0011】ここで、上述した従来技術と本発明の内容
を比較する。上記特許公報第2676456号に開示さ
れたうち、一部の化学成分の範囲は本発明と似ていて、
鋳型バラシ方法の一部も類似しているが、しかし、本発
明とは解決しようとする課題が異なっている。即ち、上
記公報は鉄道車両用などのブレーキディスク材として、
耐摩耗性を改善すると同時に、耐熱亀裂性を付与したも
のである。これに対し、本発明の課題は、大型商用車用
ブレーキディスク材にも適用できる必要強度を満足した
うえ、更に、減衰能を従来材であるJIS FC250相当の数
倍まで高くすることができ、かつ耐熱亀裂性やブレーキ
の効きや耐摩耗性などにも優れたロータ材を提供するこ
とにある。
【0012】従って、解決手段としての化学成分、又は
鋳型バラシ温度において、近い範囲に限定しても、得よ
うとするブレーキ用ロータ材の最終組織は当然ながら異
なる。即ち、上記公報では、黒鉛組織について特に限定
する記述はなく、基地組織については、770〜950℃で鋳
型バラシすることによって、オールマルテンサイト組織
を形成するか、又は、鋳型中で室温付近まで長時間保持
したのち、型バラシを行って、オールパーライト組織を
得ることを特徴としている。一方、本発明では、基地組
織については、A1 変態点〜950℃で型バラシを行うこ
とによって、パーライト組織、0〜10%のマルテンサイ
ト組織、及び0〜10%のベイナイト組織からなる混合組
織を得て、更に、黒鉛組織については、黒鉛の細長さを
表す指標としての細長さ係数k0及び黒鉛面積率を用
い、最も好ましい範囲を特定することによって、かかる
課題を解決した。
【0013】また、上記特開平10−212545号公
報と本発明との比較によれば、後述する実施例3による
と、C,Siが上記公報の範囲と異なっていても、また、S
cが0.82〜0.91から外れていても、従来材のFC250に比較
して、耐熱亀裂性に明らかに優れていることが判明し
た。更に、本発明の基本目標であるブレーキディスク材
の減衰性を従来材FC250の数倍高い値まで向上させるた
めに、黒鉛の細長さ係数k0 及び黒鉛面積率、更に基地
組織に関する組織制御の具体的指標を特定することがで
きた。
【0014】[態様1]即ち、本発明は、化学組成が、
重量%で、C:3.3〜4.0%、Si:1.6〜2.4%、Mn:0.4〜
1.0%、S:0.03〜0.15%、かつ過剰マンガンexMn (exM
n% = Mn% - 1.7 × S%):0.3〜0.8%、P:0を超え
て0.15%以下、Cr:0.1〜0.8%、Cu:0〜0.5%、Mo:
0.1〜0.5%、Ni:0.2〜2.0%を含み、残部が実質的にFe
からなるディスクブレーキ用ロータである。
【0015】[態様2]また、本発明は、上記態様1に
記載した化学組成を含むと共に、ロータの摺動部に晶出
した黒鉛が、黒鉛全体に対する面積率が少なくとも90%
以上のA型片状黒鉛組織であり、又は、面積率が多くと
も5%以下のC型片状黒鉛組織と、A型片状黒鉛組織と
が混合した片状黒鉛組織であり、かつ、その晶出黒鉛の
面積率が10〜16%で、細長さ係数k0を30〜45と
し、ロータの摺動部の基地が、基地全体に対する面積率
が0〜10%である、マルテンサイト組織及びベイナイト
組織の混合組織と、残部がパーライト組織を有する片状
黒鉛鋳鉄からなるディスクブレーキ用ロータである。
【0016】つまり、上記態様2に係るディスクブレー
キ用ロータは、以下の5点からなる構成要件を備えてい
る。 (1) 上記態様1に記載した化学組成、即ち、C:3.
3〜4.0%、Si:1.6〜2.4%、Mn:0.4〜1.0%、S:0.03
〜0.15%、かつ過剰マンガンexMn (exMn% = Mn% - 1.
7 × S%):0.3〜0.8%、P:0を超えて0.15%以下、C
r:0.1〜0.8%、Cu:0〜0.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:
0.2〜2.0%を含み、残部が実質的にFeであること。 (2) ロータの摺動部に晶出した黒鉛がASTM規格
におけるA型片状黒鉛を主体とした黒鉛組織であり、こ
のA型片状黒鉛の面積率が、黒鉛組織全体に対して少な
くとも90%以上である。また、A型片状黒鉛にC型片状
黒鉛が混合しても良いが、このC型片状黒鉛は多くても
5%以下の面積率に抑えることが必要である。 (3) 晶出黒鉛の面積率が10〜16%の範囲である
こと。ここで、晶出黒鉛の面積率とは、基地の面積と黒
鉛の面積とを合わせた全体の面積に対し、黒鉛のみの面
積の割合を示した数値である。 (4) 細長さ係数k0が30〜45の範囲であること。
この細長さ係数k0の定義等については、詳細に後述す
る。 (5) ロータの摺動部の基地が、基地全体に対する面
積率が0〜10%である、マルテンサイト組織及びベイナ
イト組織の混合組織と、残部がパーライト組織を有する
片状黒鉛鋳鉄からなること。 上記基地の面積率とは、晶出黒鉛を除いた基地のみの面
積に対し、マルテンサイト組織やベイナイト組織の占め
る面積の割合をいう。したがって、基地全てがパーライ
ト組織である形態、マルテンサイトとパーライトとの混
合組織である形態、ベイナイトとパーライトとの混合組
織である形態、及びマルテンサイトとベイナイトとパー
ライトとの全てが混合した組織である形態の計4形態が
ある。
【0017】[態様3]さらに、本発明は、化学組成
が、重量%で、C:3.3〜4.0%、Si:1.6〜2.4%、Mn:
0.4〜1.0%、S:0.03〜0.15%、かつ過剰マンガンexMn
(exMn% = Mn%- 1.7 × S%):0.3〜0.8%、P:0を
超えて0.15%以下、Cr:0.1〜0.8%、Cu:0〜0.5%、M
o:0.1〜0.5%、Ni:0.2〜2.0%を含み、残部が実質的
にFeからなる合金溶湯を鋳型中に注入したのち、冷却
し、A1変態点〜950℃の温度範囲で型ばらしを行う
ことによって、基地全体に対する面積率が0〜10%の、
マルテンサイト組織及びベイナイト組織の混合組織と、
残部がパーライト組織とから構成された基地組織を有す
るディスクブレーキ用ロータの製造方法である。上記製
造方法によれば、型ばらしをA1変態点〜950℃の温
度範囲で行うことで、通常の徐冷よりも速い速度で鋳物
の冷却を行うことができる。この型ばらしによる冷却速
度は、0.2〜1.0℃/秒に制御する。この結果、上述した
パーライト組織を主とし、これにマルテンサイトとベイ
ナイトが混合した基地組織を形成することができる。上
記型ばらしを行う更に好ましい温度範囲は800〜95
0℃である。
【0018】
【発明の実施の形態】以下に、図面を参照しながら本発
明の実施の形態について、詳細に説明する。まず、ブレ
ーキロータにおける減衰能、耐熱亀裂性、耐摩耗性、及
び強度等の特性を向上させるに至った基本的な考え方、
及び本発明者らが多くの実験結果により得られた知見を
述べる。 [ブレーキロータにおける特性の向上]減衰能及び強度について ブレーキロータの減衰性を高めるためには、一般に、炭
素又は炭素当量(C.E.値)を高くすることが効果的である
ことが知られている。しかし、C.E.値を高くすると、逆
に強度が低下してしまう。そこで、本発明の発明者ら
は、これらの相反する両特性を両立させるために、過共
晶を生成するC.E.値の基本組成を選び、基地を強化する
Mn,Cr,Moなどの合金元素を組み合わせて少量添加し、さ
らにマンガンと硫黄のバランスであるexMn量を調整する
ことによって、大型商用車等に必要とされる引張強さを
達成できることを見い出し、両特性の両立が一定的なレ
ベルにおいて、実現可能であることを見いだした。
【0019】しかし、全く同じ化学組成、例えば同一な
C.E.値や合金元素の鋳物製品でも、接種や型ばらしなど
の製造条件を変えることによって、形成されるミクロ組
織が異なるため、鋳物製品の減衰率が大幅に異なること
がある。従って、高い減衰性を得るために、黒鉛組織及
び基地組織を制御することも重要となる。本発明では、
一般的に言われる鋳鉄の減衰メカニズムにおいて、特に
黒鉛と基地における内部摩擦及び黒鉛の先端の塑性変形
による減衰、また、比較的硬いマルテンサイト、ベイナ
イト基地を有する片状黒鉛鋳鉄が、パーライト基地を有
する鋳鉄より減衰率が格段に高いことに注目して、従来
から黒鉛の定量評価に用いられている黒鉛長さや黒鉛周
囲長などと違って、黒鉛と基地の界面面積を間接的に評
価することが可能な黒鉛細長さ係数k0を用い、黒鉛の
晶出量を評価する黒鉛面積率と併せて、ロータ材におけ
る黒鉛組織の細長さ度合い及び晶出量を評価し制御す
る。そして、基地組織中のマルテンサイト量又はベイナ
イト量をも定量化して制御することにより、非常に高い
減衰率を有するロータ材を得ることに成功した。
【0020】耐熱亀裂性及び耐摩耗性 一方、高特性ロータは高い減衰性を満足するだけでは、
かかるすべての課題を解決するとは言い難い。特に、大
型商用車の場合、上記の特性のほかに、耐熱亀裂性や耐
摩耗性などの改良も重要な課題である。耐熱亀裂性及び
耐摩耗性を向上させるためには、一般に、材料の熱伝導
性を高くし、強度、特に高温強度を高める必要があると
言われている。その理由は、熱伝導性を良くすることに
よって、制動時に発生する摩擦熱を迅速にロータ摺動面
から大気中に発散することで、摺動面の表面の温度上昇
を抑えることにより、熱亀裂の発生や進展を抑制するた
めである。
【0021】しかし、熱伝導率や高温強度を単に向上さ
せても、必ずしも耐熱亀裂性の向上に繋がるものとは限
らない。耐熱亀裂性に関しては、強度と熱伝導率の適度
なバランスが重要であることが知られているからであ
る。それを実現するためにも、上述した組成成分、組織
の制御及び製造条件等をバランス良く実現させることが
重要である。即ち、そのバランスを実現するために、上
述した態様1の化学組成を所定の範囲で添加し、片状黒
鉛鋳鉄中の黒鉛組織を大きく且つ細長く均一に分布する
A型片状黒鉛にし、基地組織を、一定量のマルテンサイ
ト組織又はベイナイト組織が混在するパーライト組織に
することによって、ロータの耐熱亀裂性等を向上するに
至った。
【0022】次いで、本発明に係るディスクブレーキ用
ロータの成分組成、組織制御及び製造方法について説明
する。 [成分組成] (1)C(炭素):3.3〜4.0wt% Cは、3.3%より少ない含有量の場合は、黒鉛の晶出量
が少なく、黒鉛の形状も短く細くなるため、引張強度に
は良いが、減衰能の向上効果が少なく、且つ熱伝導性が
不十分となる。一方、4.0%を超えると粗大黒鉛が晶出
して強度が低下するばかりでなく、耐熱亀裂性も悪化す
る。従って、Cの添加量を3.3〜4.0%とする。好ましく
は3.5〜3.9%であり、更に好ましくは3.7〜3.9%であ
る。 (2)Si(珪素):1.6〜2.4wt% Siは1.6%より少ないとチルが生じ易く、2.4%を超える
と、高炭素との相乗効果で黒鉛を粗大化し、かつフェラ
イトが析出し易くなるために、耐摩耗性を低下させる。
従って、Siの添加量を1.6〜2.4%とする。好ましくは
1.7〜2.3%であり、更に好ましくは1.8〜2.1%である。
【0023】(3)Mn(マンガン):0.4〜1.0wt%、かつ
exMn%:0.3〜0.8wt% Mnはパーライトを微細化し、フェライトの析出を困難に
するため、引張強さを向上することができる。また、Mn
の影響は一般的に良く知られた過剰マンガン量(exMn%=
Mn−1.7×S%)で検討されることが妥当であるため、硫
黄との作用も考えると、0.4%未満では、強度を向上す
る効果が不十分となり、1.0%を超えると、他の基地強
化元素との関係で、チルが生じ易くなり、材料も脆くな
るおそれがある。従って、Mnの添加量を0.4〜1.0%と
する。好ましくは0.5〜0.9%であり、更に好ましくは0.
5〜0.8%である。また、exMn%は、0.3〜0.8%が適当で
ある。好ましくは0.4〜0.7%であり、更に好ましくは0.
5〜0.7%である。 (4)S(硫黄):0.03〜0.15wt% Sは、黒鉛の形態や分布に大きい影響を与えることが一
般的に知られている。従って、Sが0.15%を超えると、
均一なA型片状黒鉛組織(ASTM規格)が得ることが
困難になる。また、Sが0.03%未満になると、D型片状
黒鉛組織が晶出しやすく、基地組織がフェライト化しや
すくなって、強度が著しく低下する。従って、Sの添加
量を0.03〜0.15%とする。好ましくは0.05〜0.12%であ
り、更に好ましくは0.06〜0.10%である。
【0024】(5)P(リン):0を超えて0.15wt%以
下 Pは0.15%を超えると、非常に硬くて脆い、Fe,P,Cの三
元共晶物であるステダイトが多量晶出し、材料の被削性
を悪化させると共に材料自体が脆くなるおそれがある。
しかし、特に過共晶C.E.値組成の片状黒鉛鋳鉄におい
て、リンを適量添加することによって、多少の強度アッ
プ及び耐摩耗性を向上する効果が期待できる。また、抗
折試験におけるたわみ量は、鋳鉄の粘さを表す指標であ
るが、このたわみ量を大きくする作用も奏する。従っ
て、リンの添加量を0を超えて0.15wt%以下とする。好
ましくは0.03〜0.10%であり、更に好ましくは0.03〜0.
08%である。 (6)Cr(クロム):0.1〜0.8wt% Crはセメンタイトを安定にし、チル化を深くする作用が
強い。片状黒鉛鋳鉄にCrを添加することにより、フェラ
イトの析出を阻止し、パーライトを微細化する作用によ
って、耐熱亀裂性および耐摩耗性、また機械的性質を向
上する。従って、本発明材において、Crの適量な添加は
強度を確保すると共に、黒鉛と基地組織間のバランスを
良くする働きをもつ。一方、Crを添加しすぎると、チル
が出やすくなり、基地が脆くなるために、耐熱亀裂性お
よび耐摩耗性はかえって悪くなる。よって、Crが0.1%
未満では、大型トラック用ロータに必要な強度を確保出
来ず、0.8%を超えると、ロータの摩耗量が大きくなる
危険性がある。従って、Crの添加量を0.1〜0.8%とす
る。好ましくは0.2〜0.7%とし、更に好ましくは0.3〜
0.6%とする。
【0025】(7)Cu(銅):0〜0.5wt% Cuは僅かに黒鉛化を助長する元素であると共に、黒鉛形
状を均等に且つ微細にする作用がある。また、パーライ
ト組織を緻密にする働きがあるが、機械的性質に対する
影響はあまり大きくはない。しかし、本発明者らが実験
結果から得た知見では、Cuを添加しすぎると、熱伝導率
は良くなるが、基地組織が脆くなることにより、耐熱亀
裂性や摩擦係数の低下を招くことがある。従って、Cuの
添加量を0〜0.5%とする。好ましくは、0〜0.3%であ
る。 (8)Mo(モリブデン):0.1〜0.5wt% Moは黒鉛化を若干防ぎ、チル深さをやや増す作用を有す
るが、鋳鉄中の黒鉛を微細化、均一化させることや高温
強度を向上させることなどの働きがあることが知られて
いる。本発明においては、Ni等の元素と組み合わせて添
加をすることにより、上記態様2に記述した黒鉛及び基
地組織をほどよく制御することが可能である。従って、
Moが0.1%未満では、その効果が不十分であり、0.5%を
超えると、好ましい組織の上限を超えてしまい、また、
鋳造性(引け性)を悪化させてしまう。従って、Moの添
加量を0.1〜0.5%とする。好ましくは、0.15〜0.4%で
あり、更に好ましくは0.15〜0.3%である。
【0026】(9)Ni(ニッケル):0.2〜2.0wt% 一般的に、Niは耐熱元素であることが知られており、本
発明においても重要な元素である。しかし、少量しか添
加しない場合は、耐熱効果が不十分なだけでなく、パー
ライトが粗大化することによって、強度を低下すること
がある。本発明においては、Mo等の元素と組み合わせて
添加することによって、黒鉛及び基地組織を適度に制御
することが可能である。従って、添加量が0.2%未満で
は、ディスクロータの耐熱亀裂性の効果がなく、2.0%
を超えると、基地中のマルテンサイトの面積率が10%を
超え、かえって耐熱亀裂性及び加工性を低下させてしま
うと共にNi自身が高価な元素でもあり、製造コストが高
くなってしまう。従って、Niの添加量を0.2〜2.0%とす
る。好ましくは0.2〜1.5%であり、更に好ましくは0.7
〜1.3%である。
【0027】[組織制御]次に、組織を所定の範囲に制
御する理由について説明する。上述したように、一般的
にディスクブレーキ用ロータ、特に大型商用車用のディ
スクブレーキ用ロータに要求される諸特性のうち、減衰
性又は熱伝導率と、C.E.値との間には正比例関係があ
る。つまりC.E.値が高ければ黒鉛が大きく多く晶出し、
それらの特性に大きく貢献するが、しかし、片状黒鉛鋳
鉄においては、黒鉛が粗大化すると、材料の強度が極端
に低下する。また、耐熱亀裂性の場合、熱伝導率を向上
すれば、耐熱亀裂性も向上するが、しかし、黒鉛を粗大
化しすぎると、初期に生成した熱亀裂が粗大黒鉛と基地
の界面に沿って進行し易く、結果的に耐ヒートクラック
性を損なってしまう。また、基地組織に関しては、特に
耐熱亀裂性及び摩耗に対して、基地の強化によって、高
C.E.値組成による材料強度の低下を補うことができる。
また、基地のパーライトを安定化することによって、摺
動熱によるパーライト基地の分解を防ぎ、耐熱亀裂性及
び耐摩耗性を向上することができる。しかし、基地の強
化元素は、いわゆるチル化元素がほとんどであるため、
基地を強化する反面、基地を脆くするおそれもある。従
って、C.E.値を高くしつつ黒鉛組織をあまりに粗大化せ
ず、かつ、基地を強化しつつ脆くせずに制御することが
本発明に係るロータ材の組織制御において重要である。
【0028】具体的な組織制御の目標として、ロータ摺
動部の黒鉛組織は、晶出黒鉛の面積率が10〜16%、
かつ細長さ係数k0が30〜45である片状黒鉛組織と
する。この黒鉛の組織は、少なくとも90%の面積率を有
するA型片状黒鉛組織、又は多くとも5%の面積率を有
するC型片状黒鉛組織と、A型片状黒鉛組織との混合組
織である片状黒鉛組織とする。また、基地組織は、面積
率が0〜10%の、マルテンサイトとベイナイトとの混
合組織、及び、残部が緻密なパーライトとから構成され
た組織とする。上記晶出黒鉛の面積率が10%未満で
は、黒鉛の晶出量が少なく、鋳物製品の減衰性及び熱伝
導率などを向上する効果が不十分である。一方、晶出黒
鉛の面積率が16%を超えると、黒鉛の晶出量が多く黒
鉛が粗大化することにより、減衰性は黒鉛が多く晶出す
る分だけ向上するが、耐熱亀裂性も悪くなると共に強度
が著しく低下する。よって、晶出黒鉛の面積率を10〜
16%に限定する。好ましくは10〜13%である。黒鉛細
長さ係数k0については、k0が30未満では、黒鉛の形
状が太く粗大化し、又は細くて短くなるために、減衰性
及び熱伝導率を向上する効果が不十分であり、強度も著
しく低下する。一方、k0が45を超えると、事実上そ
の制御が困難となる。従って、k0を30〜45に限定
する。好ましくは35〜40%である。
【0029】ここで、上記黒鉛細長さ係数k0の定義に
ついて説明する。黒鉛細長さ係数k0は、黒鉛組織の周
囲長をPM、黒鉛組織の面積をSとした場合に、k0
PM/√Sで示される係数である。上記周囲長PMは、
黒鉛組織の形状を模式的に図1に示すような長方形と考
えた場合、横の長さをa、縦の長さをb=4aとする
と、PM=2a+2b=10aであり、長方形の面積S
は、S=a×b=4a2 である。従って、k0=PM/
√S=10a/√(4a2 )=5となり、a,bの値に
関係なく、同一形状の場合は、全て同一の係数となる。
このとき、k0の値が大きいほど、aが小さいか又はb
が大きいことを示しており、形状の細長さの度合いを係
数として表すことができる。また、黒鉛組織が同一面積
を有する場合であっても、k0の値が大きいほど形状が
細長くなる。図2は、黒鉛組織を模式的に示した、同一
面積を有する3つの長方形であり、横と縦の長さは、各
々、a1 ,b1 ,a2 ,b2 ,a3 ,b3 である。ここで、
1 =a、a2 =2a、a3 =3aとし、b1 =10
a、b2 =10a/2、a3 =10a/3とする。面積
Sは、S1 =a1×b1=10a2 、S2=a2×b2=1
0a2 、S3 =a3×b3=10a2となり、3つの長方
形の面積は等しくなる。一方、周囲長PMは、PM1
22a、PM2 =14a、PM3=38a/3となる。
従って、細長さ係数k0 は、k0(1) =6.96、k
0(2) =4.43、k0(3) =4.01となり、k0(1)
0(2) >k0(3) であり、面積が等しい場合でも、k0
の値が大きいものほど、細長いことを示している。
【0030】次いで、実際に観察される黒鉛組織におけ
る、上記周囲長PM、面積S、面積率の算出方法を説明
する。図3に示すように、ある特定の面積範囲内に観察
される黒鉛の数をn個、それぞれの黒鉛の周囲長をPM
1,PM2…、各々の黒鉛組織の面積をS1,S2,S3
とすると、以下の式が導き出される。 周囲長PM=(PM1+PM2+……PMn-1+PMn )/n 面積S=(S1+S2+……Sn-1+Sn )/n 面積率=(S1+S2+……Sn-1+Sn )/(基地面積+S1+S2+……Sn-1+ Sn )×100
【0031】さらに、基地については、少量のマルテン
サイト組織が混在すると、減衰率のみならず耐熱亀裂性
も向上する。しかし、マルテンサイトとベイナイトとの
混合組織の面積率が10%を超えると、減衰性は更に幾
分向上するが、基地が脆くなる傾向に転じることによっ
て、結果的に耐熱亀裂性及び耐摩耗性を悪化する。よっ
て、マルテンサイトとベイナイトとの混合組織の面積率
を0〜10%とする。
【0032】[製造方法]更に、上記の黒鉛組織及び基
地組織を得るために、上記の各化学組成を所定範囲内に
適量組み合わせ添加したうえ、A1変態点〜950℃、
より好ましくは800〜950℃のときに、型ばらしを
行う製造方法とした。ここで、A1変態点とは、オース
テナイトからパーライトへの共析変態の起こる温度をい
う。また、上記型ばらしによって、鋳物を0.2〜1.0℃/
秒の冷却速度に制御して冷却することが好ましい。
【0033】
【実施例】以下、各請求項記載の発明を具体化した実施
例及び比較例を挙げながら、詳細に説明する。 [実施例1]引張強さと添加元素との関係 本発明に係るブレーキロータ材の化学成分、exMn及びこ
れらの組成に対する引張強さの試験を行った。引張試験
はφ30丸棒よりJIS8C号試験片寸法に加工し、引張試
験を行った。その結果を表1に示す。
【0034】
【表1】
【0035】一部の成分を全く添加していない比較材に
比べ、Cr,Mo等を少量添加することにより、ロータ材の
強度を大幅に向上することができることが判明した。ま
た、引張強さの値を大型商用車に必要とされる200M
Pa以上にするために、更に、exMn%を0.3〜0.8%に限
定する必要があることも判った。
【0036】[実施例2]減衰性と黒鉛、基地組織との関係 次いで、ブレーキロータ材の化学成分、黒鉛組織及び基
地組織が減衰能に及ぼす影響について検証した。表2は
ブレーキロータ材の化学成分を、表3はこれらに対する
黒鉛組織と基地組織を示している。これらのブレーキロ
ータ材を用いて対数減衰率を検証した。尚、表2,表3
における比較材2−4はJISFC250である。また、比較材
2−2は本発明材2−2と同一成分であり、鋳造したの
ち、焼入れを施すことにより基地組織の全てをマルテン
サイト組織にしたものである。
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】まず、各種材料の溶製方法は、表2に示す
重量%で、C,Si,Mn,P及びSの組成を有する溶湯中に、C
r,Cu,Mo,Niを表2に示す重量%で添加し、各溶湯を溶製
した。これらの溶湯を自硬性鋳型に注湯し、各種の試験
片を得た。対数減衰率評価用試験片は、摩擦摩耗試験用
の円盤試験片(以下、実施例中においてロータという)
から切り出した試験片を用い、100×10×3mmの
寸法を有する板状試験片に加工したのち、2本吊り自由
端横振動法を用いて減衰率を測定した。その結果を表
3、図4、図5、及び図6に示す。また、本発明材2−
1,2−3と、比較材2−4であるJISFC250の自由減衰
曲線を図7に示す。
【0040】表3に示すように、k0が30未満の比較
材のうち、比較材2−3,2−4の減衰率がかなり低く
なっていた。一方、比較材2−2では、熱処理を施した
ために、基地がオールマルテンサイトとなっていたた
め、かなり高い減衰性が認められた。しかし、引張強さ
を測定したことろ、167MPaと低く、大型商用車用
ロータの強度目標である200MPaには達せず、マイ
クロビッカース硬さが600〜700mHvと非常に硬
いために、加工性も好ましくなかった。これに対して、
本発明材の全てが、k0が30を超え、かつ、マルテン
サイトの面積率が0〜10%となっており、その結果、
図7の減衰率自由曲線に示すように、従来材より約3〜
8倍とかなり高い減衰率を持つロータ材を得ることがで
きた。
【0041】[実施例3]耐熱亀裂性及び耐摩耗性 次いで、ブレーキロータ材の耐熱亀裂性及び耐摩耗性を
検証した。表4は、実施例3に用いたロータ材の化学成
分を示している。耐熱亀裂性及び耐摩耗性の評価はロー
タを試験片とし、摩擦摩耗試験機として曙エンジニアリ
ング株式会社製スケールテスターを用い、熱亀裂を生成
させるヒートクラック耐久試験方法によって試験を行っ
た。なお、表4の比較材3−3はJISFC250であり、パッ
ド材はメタルパッドを使用した。
【0042】
【表4】
【0043】熱亀裂性は、試験後のロータ摺動面におい
て、発生したクラックの長さ及び深さで評価した。具体
的には、ロータ摺動面に分布する最も大きい亀裂20個
の長さを測定し、それらのうち最も長いもの、及び20
個の測定値の平均を熱亀裂長さとした。また、熱亀裂の
深さは亀裂の代表部位、即ちヒートクラックの最も発生
していた部位において、摺動面亀裂の垂直断面における
亀裂の深さを測定した。ロータ摩耗量は、試験後のロー
タの摺動面において、表面粗さを測定し、表面粗さ曲線
を得、その表面粗さ曲線により、うねり量を測定してロ
ータの摩耗量とした。パッドの摩耗量については、試験
前後のパッドの厚み寸法を測定し、その差でパッドの摩
耗量とした。その結果を表5に示す。
【0044】
【表5】
【0045】表5に示すように、本発明材3−2と比較
材3−2の結果を比較してみると、特に熱亀裂の深さ及
びロータ、パッドの摩耗量では、明らかに差が認められ
た。その原因について、本発明材3−2では、Mo,Niを
適量に添加することによって、耐熱性を向上し、また、
全体的に黒鉛組織と基地のバランスがとれたためであ
る。これに対して、比較材3−2はCuをより多く添加し
たために、Cr,Mnなどのチル化元素との相乗効果によ
り、基地が脆くなっていたと推測される。一方、過共晶
組成の本発明材3−1と比較材3−1を比べてみると、
耐熱亀裂性及び耐摩耗性において、本発明材3−1の方
が比較材3−1より明らかに優れていることがわかっ
た。その原因も基地中のマルテンサイトが10%を超え
ると、基地が脆くなることによって亀裂が発生しやす
く、また、亀裂の進展も早くなり、摩耗量も大きくなっ
たためと思われる。なお、図7と図8は、本発明材3−
1の黒鉛組織及び基地組織を示す顕微鏡写真である。
【0046】
【発明の効果】以上説明したように、本発明に係るディ
スクブレーキ用ロータによれば、大型商用車用ロータの
必要強度を満足したうえ、非常に高い減衰性を持ち、且
つ耐熱亀裂性及び耐摩耗性にも優れているので、大型商
用車用ブレーキロータのみならず、中、小型商用車や乗
用車などに適用しても、優れた効果がある。上記ディス
クブレーキ用ロータによれば、C.E.値を適当に設定し、
Cr,Mo,Cu,Niの合金元素を少量添加することによって、
優れた耐熱亀裂性、減衰性を有するロータと、過共晶C.
E組成を選定し、Ni,Cr,Mo及びexMnを少量組み合わせ添
加するとともに、型ばらし条件を制御することにより、
大型トラック等の荷重が非常に大きくかかるブレーキロ
ータに要求される最低強度を確保した上で、極めて高い
減衰性、優れた耐熱亀裂性を有するロータが得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】黒鉛組織を模式的に長方形として示した、細長
さ係数を説明するための概略図である。
【図2】同一の面積を有する3個の黒鉛組織を模式的に
長方形として示した、細長さ係数を説明するための概略
図である。
【図3】黒鉛組織と基地組織を模式的に示した、黒鉛組
織の周囲長及び面積率を説明するための概略図である。
【図4】黒鉛細長さ係数k0と対数減衰率の関係を示す
グラフである。
【図5】マルテンサイト面積率と対数減衰率の関係を示
すグラフである。
【図6】黒鉛面積率と対数減衰率の関係を示すグラフで
ある。
【図7】本図のうち、(a)は比較材2−4の自由減衰
率曲線、(b)は本発明材2−3の自由減衰率曲線、
(c)は本発明材2−1の自由減衰率曲線である。
【図8】本発明材3−1の黒鉛組織を示す、倍率が10
0倍の顕微鏡写真である。
【図9】本発明材3−1の基地組織を示す、倍率が40
0倍の顕微鏡写真である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 上野 勝司 茨城県土浦市北神立町4番2号 自動車鋳 物株式会社内 (72)発明者 小林 良紀 茨城県土浦市北神立町4番2号 自動車鋳 物株式会社内 (72)発明者 阿久根 秀 東京都中央区日本橋小網町19番5号 曙ブ レーキ工業株式会社内 (72)発明者 宮崎 聡夫 東京都中央区日本橋小網町19番5号 曙ブ レーキ工業株式会社内 Fターム(参考) 3J058 AA41 BA21 BA23 BA32 BA41 BA46 CB11 EA05 FA03

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 化学組成が、重量%で、C:3.3〜4.0
    %、Si:1.6〜2.4%、Mn:0.4〜1.0%、S:0.03〜0.15
    %、かつ過剰マンガンexMn (exMn% = Mn% - 1.7 ×
    S%):0.3〜0.8%、P:0を超えて0.15%以下、Cr:0.
    1〜0.8%、Cu:0〜0.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.2〜
    2.0%を含み、残部が実質的にFeからなることを特徴と
    するディスクブレーキ用ロータ。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の化学組成を含むと共
    に、 ロータの摺動部に晶出した黒鉛が、黒鉛全体に対する面
    積率が少なくとも90%以上のA型片状黒鉛組織であり、
    又は、面積率が多くとも5%以下のC型片状黒鉛組織
    と、A型片状黒鉛組織とが混合した片状黒鉛組織であ
    り、かつ、その晶出黒鉛の面積率が10〜16%で、細
    長さ係数k0を30〜45とし、 ロータの摺動部の基地が、基地全体に対する面積率が0
    〜10%である、マルテンサイト組織及びベイナイト組織
    の混合組織と、残部がパーライト組織とを含むことを特
    徴とするディスクブレーキ用ロータ。
  3. 【請求項3】 化学組成が、重量%で、C:3.3〜4.0
    %、Si:1.6〜2.4%、Mn:0.4〜1.0%、S:0.03〜0.15
    %、かつ過剰マンガンexMn (exMn% = Mn% - 1.7 ×
    S%):0.3〜0.8%、P:0を超えて0.15%以下、Cr:0.
    1〜0.8%、Cu:0〜0.5%、Mo:0.1〜0.5%、Ni:0.2〜
    2.0%を含み、残部が実質的にFeからなる合金溶湯を鋳
    型中に注入したのち、冷却し、A1変態点〜950℃の
    温度範囲で型ばらしを行って0.2〜1.0℃/秒の冷却速度
    にて冷却をすることによって、基地全体に対する面積率
    が0〜10%の、マルテンサイト組織及びベイナイト組織
    の混合組織と、残部のパーライト組織とを含む基地を形
    成することを特徴とするディスクブレーキ用ロータの製
    造方法。
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