明細書 熱ショック蛋白質の発現誘導制御物質のスクリーニング方法
技術分野
本発明は、 熱ショック蛋白質の発現誘導制御物質のスクリーニング方法、 かか る方法により選別され得る熱ショック蛋白質の発現誘導制御物質およぴ該発現誘 導制御物質を含む医薬組成物に関する。 背景技術
熱ショック蛋白質 (HSP) は、 元来、 細胞を高温というストレスに曝したと きに誘導される蛋白質として同定されたが、 高温以外のストレス、 例えば、 放射 線、 化学物質、 重金属、 低酸素等への暴露によっても誘導される。 HSPをコー ドする遺伝子は多数知られており、 高温等のストレスを受けたときに発現が誘導 される HSPと、 恒常的にある程度発現している HSPとがある。 これは、 HS Pが平常時でも重要な役割を担つており、 ストレスにより発現が誘導されるのは ストレス時に一時的にこれらの蛋白質が特に必要とされるためであると考えられ ている。
主要な HSPは、 その分子量から HSP 90ファミリ一、 HS P 70ファミリ 一、 HSP 60フアミリ一および低分子 HSPファミリーの 4つのファミリーに 大別される。
前記 HSPの機能は、 様々な生体機能と関連して注目されながら、 長らく不明 のままであつたが、 最近ようやく統一的にその分子機構が理解されるようになつ てきた。 すなわち、 特に HSP 70ファミリ一および HSP 60フアミ リ一は、 他のポリペプチドと会合して、 正しい折り畳み (高次構造の形成) や第 3の蛋白
質や核酸との会合 (複合体の形成) 、 さらに細胞内での局在化や膜透過に関与す るなど、 いわゆる分子シャペロン (介添え分子) とよばれる機能を担っているこ とが明らかにされている (Hendrick, J. P. and Hart 1, F. -U. C1993) Ann. Rev . Biochem. 62, 349-384; Georgopoulos, C. and Welch, W. J. (1993) Ann. Rev. Cel l Biol. 9. 601-634)。
一方、 このような H S Pの機能解明とあいまって、 細胞にとってストレスとな り得る種々の疾患において H S Pが関与していることが明らかになつてきた。 癌の治療において、 放射線療法の寄与はかなり大きいとされているが、 近年大 きな進歩はなく、 癌細胞が放射線耐性化しやすいことが問題となっている。 また 、 温熱療法も癌の治療に重要な補助療法の一つであるが、 患者の体を温めるとい う点で苦痛を伴うことがあり、 同様に癌細胞が温熱耐性を獲得することが問題と されている。 癌細胞が放射線療法または温熱療法により耐性を獲得する主要な機 構は、 放射線または温熱処理により癌細胞に H S Pの発現が誘導され、 誘導され た H S Pが癌細胞に保護的に作用することによると考えられている。
温熱処理または熱以外のヒ素ゃエタノール等による 7 0 k D aおよび 8 7 k D aの H S Pの発現誘導と細胞の温熱耐性獲得とがよく相関していること(Li, G. C. and Werb, Z. (1982) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 79, 3218-3222), 熱に抵抗 性となった変異細胞株では親株に比べて H S P 7 0の発現レベルが高いこと(Las zlo, A, and Li, G. C. (1985) Poc. Nat l. Acad. Sci. USA 82, 8029-8033)、 H S P 7 0遺伝子を細胞に導入し、 構成的に H S P 7 0の発現を高めた場合でも親 株に比べ温熱抵抗性になること(Li, G. C. et al. (1991) Proc. Natl. Acad. Sc i. USA 88, 1681-1685)、 逆に、 H S P 7 0に対する抗体を細胞に注入したり、 H S P 7 0の発現を阻害すると、 熱に対して非常に弱くなること(Riabowol, K. T. et al. (1988) Science 242, 433-436 ; Johnson, R. N. et al. (1988) Science 2 42, 1551-1554)が知られており、 これらはいずれも H S P 7 0と温熱耐性獲得の 関連を示唆するものである。
また、 癌細胞はしばしば HSP 70を高レベルに発現しており、 HSP 70の アンチセンスオリゴヌクレオチドで処理することにより、 増殖が阻害されアポト —シスが誘導されるということが知られている(Wei, Y.-q. et al. (1995) Cance r Immunol. Immunother. 40, 73-78)0
このような癌と HSPとの関連、 さらには予想される癌細胞中での HS Pの役 割に着目すると、 癌細胞における HSP 70の発現誘導を阻害することにより温 熱または放射線に対する耐性獲得を抑制したり、 温熱または放射線による細胞死 を増強することが可能と考えられ、 HSP 70の発現誘導阻害剤は、 制癌剤とし て有用であることが期待される。
さらに、 癌細胞の制癌剤に対する多剤耐性の原因となる P—糖蛋白質は、 MD R 1遺伝子によりコードされており、 HSPと同様に、 熱ショックや重金属によ り誘導されることが知られている(Chin, K. V. et al.(1990) J. Biol. Chem. 2 65, 221-226; Miyazaki, M. et al. (1992) Biochem. Biophys. Res. Co画. 187, 677-684)。 HSPの発現誘導を阻害するケルセチン (後述) が、 ヒト癌細胞の P—糖蛋白質の発現誘導をも阻害することが報告されており(Kioka, N. et al. (1992) EFBS Lett. 301, 307-309)、 H S Pの発現誘導阻害剤は、 P—糖蛋白質 の発現誘導阻害活性を持ち、 癌の化学療法における耐性克服剤としても有用であ ることが期待される。
脳虚血により神経細胞が損傷を受けたとき、 一般の細胞と同様にストレス応答 を引き起こす。 全脳虚血で HSP 70が誘導されることは、 まず砂ネズミを用い た実験で明らかにされた。 すなわち、 HSP 70は虚血によって代謝性ストレス を受けた細胞、 特に海馬歯状回顆粒細胞や C A 3錐体細胞に強く発現するが、 ス トレスが強く細胞が死んでしまう海馬 C A 1錐体細胞では発現が見られないこと が報告されている (Vass, K.ら、 (1988) Acta Neuropathol. 77, 128-135) 。 し かし、 mRNAレベルでは海馬の全領域で強い HSP 7 OmRNAの発現が観察 されている (Nowak, T. S. (1991) J. Cereb. Blood Flow Metab. 11, 432-439)
。 また、 短時間の虚血を負荷したとき、 海馬 CA 1錐体細胞に強く HSP 70の 発現が誘導され、 この時期により強い虚血を負荷しても神経細胞は虚血耐性を獲 得して生き延びることも報告されている (Kirino, T.ら、 (1991) J. Cereb. Bio od Flow etab. 11, 299-307) 。 同様の現象は、 砂ネズミだけではなく、 ラット でも観察されている (Nishi, S. ら、 (1993) Brain Res. 615, 281-288; Hi gash i, T. ら、 (1994) Brain Res. 650, 239-248; Gaspary, H. ら、 (1995) Mol. Br ain Res. 34, 327-332) 。
HSP 70が虚血耐性に関わっていることは、 細胞レベルでの実験からも支持 されている。 例えば、 遺伝子導入によりマウスァストロサイトに HSP 70を過 剰発現させると、 イン ' ビトロでの虚血に相当する酸素とグルコースの欠乏に耐 性になること (Papadopoulos, M. C. ら、 (1996) NeuroReport 7, 429-432)、 ま た、 後根神経節二ユーロンに過剰発現させたときもやはり虚血抵抗性になること (Amin, V.ら、 (1996) Neurosci. Lett. 206, 45-48)が知られている。
また、 心筋虚血においても HSP 70が保護的に作用することが知られている 。 例えば、 温熱処理したラットは、 心筋に HSP 70の誘導が観察され、 冠動脈 結紮による梗塞巣サイズが有意に減少することが報告されている (Hutter, M. M . ら、 (1994) Circulation 89, 355-360) 。 HSP 70 トランスジエニックマウ スにおける HSP 70の過剰発現は、 虚血再港流による心筋機能の傷害や梗塞巣 サイズを減少させる (Marber, M. S. ら、 (1995) J. Clin. Invest. 95, 1446-1 456; Plumier, J.-C. しら、 (1995) J. Clin. Invest. 95, 1854-1860; Radford , N. B. ら、 (1996) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 93. 2339-2342; Hutte, J. J. (1996) Circulation 94, 1408-1411)。 さらに、 HV J—リボソームで H S P 70遺伝子を導入したラットでも虚血再港流傷害に対する保護効果が確認されて いる (Suzuki, K.ら、 (1997) J. Clin. Invest. 99, 1645-1650)。
さらに、 治癒性の創傷においては、 HSP 70レベルが高レベルで発現してい るのに対し、 慢性化した創傷組織では HSP 70の発現はほとんど見られないか
低いレベルに停まっているとの報告がある (Oberringer, M.ら、 (1995) Biochem . Biophys. Res. Commun. 214, 1009-1014) 。 ラットのスキンフラップ移植にお いて、 予め温熱処理を施し H S P 7 0を誘導しておいたラットから取ったフラッ ブは、 有意に高い生存率を示すことも報告されている (Koening, W. J.ら、 (199 2) Plast. Reconstr. Surg. 90, 659-664)。
最後に、 抗潰瘍剤ゲラニルゲラニルアセトンがラッ ト培養胃粘膜細胞に H S P 7 0を始め、 H S P 6 0、 H S P 9 0を誘導し、 その結果、 エタノールによる傷 害と剝離に対し、 保護作用を示すとの報告もある (Hirakawa, T.ら、 (1996) Gas troenterology 111, 345-357) 。
このような知見から、 H S Pを積極的に誘導する薬剤は、 虚血性疾患の治療薬 もしくは予防薬、 創傷治癒薬または潰瘍治療薬となり得ることが期待される。 しかし、 H S Pの発現誘導を阻害あるいは促進する薬剤に関する研究はこれま で活発になされてきたとはいい難い。 例えば、 H S Pの発現誘導阻害剤としては 、 ケルセチン等の植物性フラボノィドがヒトの細胞で H S Pの発現誘導に阻害活 性をもつことが報告されている(Hosokawa, N. et al. (1990) Cel l Struct. Func t. 15, 393-401; Hosokawa, N. et al. (1992) Mol. Cel l. Biol. 12, 3490-3498 ) にすぎない。 その後、 プロテインキナーゼ Cの阻害剤である H— 7ゃスタウロ スポリンが、 H S Pの発現誘導を阻害することが報告されている (Kim, R, S. e t al. (1993) Biochem. Biophys. Res. Comm. 193, 759-763; Lee, Y. J. et al , (1994) Biochem. Pharmacol. 48, 2057-2063) が、 これらは、 プロテインキナ ーゼ Cの阻害により細胞機能の様々な局面に影響を及ぼすものと考えられ、 H S Pの発現誘導に対して特異的に阻害作用を有する薬剤とはいえない。
さらに、 これまで H S Pの発現を誘導する薬剤として、 プロスタグランジン A 1 (Amici, C. ら、 (1992) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89, 6227-6231)、 ァラ キドン酸(Jurivich, D. ら、 (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91. 2280-2 284; Hegde, R. S. ら、 (1995) J. Cell. Physiol. 165, 186-200)、 ハーピマイ
シン A (Morris, S. D.ら、 (1996) J. Clin. Invest. 97, 706-712)、 アスピリン (Amici, C. ら、 (1995) Cancer Res. 55, 4452-4457) 等が知られているが、 こ れらは、 H S Pの発現誘導に対して特異的に促進作用を示す薬剤とはいえない。 また、 最近ゲラニルゲラ二ルァセトンにも H S P発現誘導活性があることが報告 されている (Hirakawa, T.ら、 (1996) Gastroenterol. Ill, 345-357) が、 活性 をあらわすには高濃度を要する。
また、 熱ショック蛋白質の発現誘導を阻害したり、 促進したりする発現誘導制 御物質を効率的にスクリーニングする方法については知られていない。 発明の開示
本発明は、 前記従来技術に鑑みてなされたものであり、 本発明の目的は、 熱シ ョック蛋白質の発現誘導阻害剤、 発現誘導剤、 発現誘導増強剤などの発現誘導制 御物質のスクリーニング方法を提供することにある。 本発明の他の目的は、 かか るスクリーニング方法により選別され得る物質であって、 熱ショック蛋白質の発 現誘導に特異的な阻害活性のある物質を有効成分とする熱ショック蛋白質の発現 誘導阻害剤を提供することにある。 本発明の他の目的は、 かかるスクリーニング 方法により選別され得る物質であって、 熱ショック蛋白質の発現誘導に特異的な 誘導活性のある物質を有効成分とする熱ショック蛋白質の発現誘導剤を提供する ことにある。 本発明の他の目的は、 かかるスクリーニング方法により選別され得 る物質であって、 熱ショック蛋白質の発現誘導に特異的な増強活性のある物質を 有効成分とする熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤を提供することにある。 本発 明のさらに他の目的は、 かかる熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤を含む医薬組 成物を提供することにある。 本発明のさらに他の目的は、 かかる熱ショック蛋白 質の発現誘導剤を含む医薬組成物を提供することにある。 本発明のさらに他の目 的は、 かかる熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤を含む医薬組成物を提供するこ とにめる。
即ち、 本発明の要旨は、
( 1 ) 熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流にレポ一ター遺伝子を連 結したベクターで形質転換された細胞株を用いて、 被験化合物の存在下にレボー 夕一遺伝子産物の発現を調べる工程を有する、 熱ショック蛋白質の発現誘導制御 物質のスクリーニング方法、
( 2 ) 熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子を連 結したベクターで形質転換された細胞株を用いて、 被験化合物の存在下にレポ一 タ一遺伝子産物の発現の阻害を調べる工程を有するスクリ一ニング方法により選 別され得る、 熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤、
( 3 ) 熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流にレポー夕一遺伝子を連 結したベクタ一で形質転換された細胞株を用レ、て、 被験化合物の存在下にレポー 夕一遺伝子産物の発現誘導を調べる工程を有するスクリーニング方法により選別 され得る、 熱ショック蛋白質の発現誘導剤、
( 4 ) 熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流にレポータ一遺伝子を連 結したべクターで形質転換された細胞株を用レ、て、 被験化合物の存在下にレポー 夕一遺伝子産物の発現誘導の増強を調べる工程を有するスクリーニング方法によ り選別され得る、 熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤、
( 5 ) 前記 ( 2 ) 記載の熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤を有効成分として 含有してなる、 癌の処置に使用される医薬組成物、
( 6 ) 前記 (3 ) 記載の熱ショック蛋白質の発現誘導剤を有効成分として含有 してなる、 虚血性疾患、 創傷または潰瘍において使用される医薬組成物、
( 7 ) 前記 (4 ) 記載の熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤を有効成分として 含有してなる、 虚血性疾患、 創傷または潰瘍において使用される医薬組成物、 に関する。 図面の簡単な説明
第 1図は、 ノーザンプロッティングにより内在性 HSP 70の発現誘導に対す る SR— 1 040の作用を示す電気泳動の図である。
第 2図は、 ウェスタンプロッティングにより内在性 HSP 70の発現誘導に対 する SR— 1 04 0の作用を示す電気泳動の図である。
第 3図は、 ウエスタンプロッティングにより内在性 HSP 70の発現誘導に対 する SR— 2 1 25の作用を示す電気泳動の図である。
第 4図は、 B r dUの取り込みを指標として、 4 5での致死的熱ショックを与 えたときの細胞の増殖能を示すグラフである。
第 5図は、 SR— 229 7がレポ一夕一遺伝子の発現を誘導することを示すグ ラフである。 図中、 HS (—) は、 熱ショックを与えないことを意味する。 第 6図は、 SR— 2297が熱ショックによるレポーター遺伝子の発現誘導を 増強することを示すグラフである。 図中、 HS ( + ) は、 熱ショックを与えるこ とを意味する。
第 7図は、 SR— 2297が内在性 HSP 70の発現を誘導することを示すグ ラフである。 図中、 HS (—) は、 熱ショックを与えないことを意味する。 第 8図は、 SR— 2297が熱ショックによる内在性 HSP 70の発現誘導を 増強することを示すグラフである。 図中、 HS ( + ) は、 熱ショックを与えるこ とを意味する。 発明を実施するための最良の形態
本発明は、 熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流にレポーター遺伝子 を連結したベクターで形質転換された細胞株を用いて、 被験化合物の存在下にレ ポー夕一遺伝子産物の発現を調べることにより、 熱ショック蛋白質の発現誘導制 御物質をスクリーニングするスクリ一ニング方法を提供する。
本発明のスクリーニング方法は、 熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤、 熱ショ ック蛋白質の発現誘導剤および発現誘導増強剤を容易にスクリーニングできる方
法である。 すなわち、 本明細書において、 熱ショック蛋白質の発現誘導制御物質 とは、 発現誘導阻害剤、 発現誘導剤および発現誘導増強剤を含む意味である。 本発明において、 熱ショック蛋白質 (HSP) とは、 熱、 放射線、 化学物質、 重金属および低酸素等のストレスへの曝露によつて発現が誘導される蛋白質であ ればいかなる蛋白質でも構わない。 かかる HSPとしては、 HSP 1 1 0 (HS P 1 05) 、 HSP 90, HSP 70、 HSP 60, HSP 56, HSP 47, HSP 40, HSP 27等が挙げられる。
スクリーニング方法を実施する際に用いる熱ショック蛋白質遺伝子としては、 分子量 70キロダルトンの HSP遺伝子、 特にヒト HSP 70遺伝子が好ましい 。 ヒト HSP 70のアミノ酸配列および塩基配列は、 Hunt, C. & Mori mo to, R. I. (1985) Pro Natl. Acad. Sci. USA, 82, 6455-6459 に開示されている。 用いるレポ一夕一遺伝子としては、 ルシフェラ一ゼ遺伝子、 クロラムフエニコ ールァセチルトランスフヱラーゼ遺伝子等が挙げられ、 感度、 定量性、 操作の簡 便性や迅速性という観点から、 ルシフェラ一ゼ遺伝子が好ましい。
ルシフヱラーゼ遺伝子は、 例えば、 pGL 2— B a s i c (Promega社製) 等 の公知のベクタ一に含まれており、 制限酵素等を用レ、て適宜べクタ一から切り出 して用いることができる。
熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流に、 ルシフヱラーゼ遺伝子等の レポー夕一遺伝子を連結してべク夕一を作製する方法は、 常法により行うことが でき、 例えば、 後述の実施例に記載されている方法を用いることができる。 形質転換する細胞株としては、 He L a細胞 (ATCC CCL 2) 、 BAL B/3T3細胞 (ATCC CCL 1 6 3) 、 CHO細胞 (ATCC CCL 6 1) 等が挙げられ、 特に限定されないが、 熱ショック応答の研究に最も多様され ているヒト細胞という点から、 He L a細胞が好適に用いられる。
前記ベクターを用いて前記細胞株を形質転換する方法は、 リン酸カルシウム法 、 リボフヱクシヨン法、 エレクト口ポレーシヨン法等の公知の方法が挙げられる
本発明のスクリ一二ング方法は、 下記工程:
( a ) 熱ショック蛋白質遺伝子のプロモーターの下流にレポ一夕一遺伝子を連 結したベクターで形質転換された細胞株を培養プレートに播種して、 培養に適し た条件、 例えば、 3 5〜3 7 °Cの通常の培養条件下で当該細胞株の培養に適した 培地中で培養する工程;
( b ) 工程 (a ) の細胞株の培地に被験化合物を添加して培養する工程; ここで、 熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤および発現誘導増強剤のスクリ一二 ング方法 (b— 1 ) と熱ショック蛋白質の発現誘導剤のスクリーニング方法 (b 一 2 ) とでは以下の 2つの態様に分けられる。
( b - 1 ) 被験化合物を工程 (a ) の細胞株の培地に添加後、 該細胞株の培養 に適した条件下、 例えば、 3 5〜3 7 °Cで必要に応じて (0〜1 2時間等) 培養 し、 次いで、 熱ショックに適した条件下、 例えば、 4 0〜4 5 °Cで数時間 ( 1 0 分〜 5時間等) 熱ショックを与え、 さらに該細胞株の培養に適した条件下、 例え ば、 3 5〜3 7 °Cで 1 0分〜 1 2時間程度回復培養する工程、 または
( b - 2 ) 被験化合物を工程 ( a ) の細胞株の培地に添加後、 該細胞株の培養 に適した条件下、 例えば、 3 5〜3 7 °Cで 2 0分〜 4 8時間程度培養する工程、 ならびに
( c ) 工程 (b ) の細胞株におけるレポ一ター遺伝子産物の発現を、 被験化合 物を添加しない細胞株におけるレポ一夕一遺伝子産物の発現を対照として、 当該 レポータ一遺伝子産物に応じた測定法により検出する工程;
を含む。
ここで、 熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤および発現誘導増強剤とは、 それ ぞれ、 熱ショックによる前記レポ一夕一遺伝子産物の発現を阻害および増強する 化合物、 ならびに熱ショック蛋白質の発現誘導剤とは、 熱ショックによらない前 記レポーター遺伝子産物の発現を誘導する化合物として定義される。
以下に、 HSP 70遺伝子のプロモーター、 レポ一夕一遺伝子としてルシフエ ラーゼ遺伝子および He L a細胞を用いて、 熱ショック蛋白質の発現誘導制御物 質をスクリ一二ングする方法の 1例を具体的に述べる。
(1) プラスミ ドの構築
ヒト HSP 70遺伝子の 5' 側上流領域 2. 8 kbとクロラムフヱニコールァ セチルトランスフェラーゼ (CAT)遺伝子とを連結したレポ一夕一プラスミ ド pHBCATCWu, B. et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5, 330-341; Wu, B. et al.(1986) Pro atl. Acad. Sci. USA 83, 629-633) を、 BamH Iで消化し た後、 ァガロース電気泳動に付し、 2. 8 kbのバンドをゲルから抽出し、 ヒト HSP70遺伝子の 5' 側上流領域を含む BamH I断片を調製する。 得られた 断片を、 pGL2— Ba s i c (Promega社製) の B g 111部位に挿入して、 ヒ ト HSP 70遺伝子の 5' 側上流領域 2. 8 kbにホタルルシフヱラ一ゼ遺伝子 を連結したレポ一夕一プラスミ ド PH70 LUC- 85を作製する。
熱ショックに応答して前記レポータープラスミ ド pH70 LUC- 85力、らル シフェラーゼが誘導されるかどうかを調べるために、 He L a細胞を用いた一過 性発現の系で確認する。 すなわち、 He La細胞を培養ディッシュに播種し、 1 0%ゥシ胎児血清 (FCS) を含む Du 1 b e c c o改変 E a g 1 e培地 (DM EM) 中で 24時間培養後に、 前記 pH70LUC— 85と pSV/8— Ga l a c t o s i d a s e (Promega社製) を用いて、 D E AE—デキストラン法によ り形質転換を行なう。 37°Cで 48時間培養後、 4 1°Cまたは 42 °Cで 2時間熱 ショックを与え、 その後 37 °Cで 2時間回復培養する。 細胞表面を PBSで洗浄 後、 セルスクレイパーで細胞を剝がし、 遠心分離により細胞を集め、 ルシフェラ ーゼアツセィシステム (Promega社製) のプロトコールに従って、 細胞抽出液中 のルシフェラーゼ活性をルミノメータ一(Labsystems社製、 Luminoskan) により 測定する。
熱ショックを与えないコントロールの細胞抽出液にはルシフヱラーゼ活性が検 出されないが、 41°Cおよび 42°Cの熱ショックを与えた細胞抽出液にはルシフ エラーゼ活性が検出され、 熱ショックに応答して pH 70 LUC- 85からルシ フェラーゼが誘導されることがわかる。
次に、 前記 pH70 LUC- 85にネオマイシン耐性遺伝子 (n e o) を組み 込む。 すなわち、 pB l u e s c r i p tIISK+ (Stratagene社製) の E c o R I -H i n dill 部位に p gk— n e oカセット(McBurney, M. W. et al.(19 91) Nucleic Acids Res. 20, 5755-5761)が挿入された p B 1 u e s c r i p t - pgk— ne oを No t Iで消化し、 S a 1 I— No t Iアダプターをライゲー シヨンした後、 Sa l Iで消化して両末端が S a 1 Iの付着末端である 2 k bの p gk-n e o断片を調製する。 得られた p gk— n e o断片を pH70 LUC 一 85のルシフェラーゼ遺伝子 3' 側非翻訳領域直後の Sa l I部位にライゲ一 シヨンして、 ネオマイシン耐性遺伝子を有するレポ一夕一プラスミ ド pHLUC -n e oを作製する。
( 2 ) 細胞株の樹立
( 1 ) で作製した pHLUC— n e oを用いて、 通常のエレクトロポレーショ ン法により He La細胞を形質転換する。 形質転換した H e L a細胞を、 700 U g/m 1の G— 4 1 8 (Life Technologies社製) および 1 0%FCSを含む DMEM中で培養することにより、 G— 4 1 8耐性形質転換細胞を選択する。 得 られた形質転換細胞を増殖させ、 1 0 cm培養ディッシュに 90%コンフルェン トになった時点で、 熱ショック依存的なルシフェラ一ゼ活性を調べる。
すなわち、 前記 G— 4 1 8耐性形質転換細胞に 42 °Cで 2時間の熱ショックを 与えた後、 37でで 2時間回復培養した後、 細胞抽出液中のルシフ ラーゼ活性 をルミノメーターにより測定する。
G- 4 1 8耐性形質転換細胞 30クローンについてルシフェラーゼ活性を調べ
、 後述の実施例 2に記載のように、 6クローンに熱ショック依存的なルシフェラ 一ゼ活性の誘導が観察される。
これらのクローンの内、 熱ショックによるルシフェラ一ゼの誘導倍率が高く、 かつ、 9 6ゥエル培養プレートを用いるアツセィ系においてもルシフヱラーゼ活 性が十分検出可能な程度に発現レベルの高い He L a— 1 98株が、 本発明の H SP 70発現誘導制御物質のスクリーニングに最も適していると考えられる。
(3) HSP 70発現誘導阻害剤に対する He La - 1 9 8株の応答性
HSP 70発現誘導阻害活性を有することが知られているケルセチンを用いて
、 前記 He L a— 1 98株における熱ショック依存的なルシフヱラーゼの誘導が 阻害されるかどうかを調べる。 He L a— 1 9 8株を、 9 6ゥエル培養プレート に播種し、 DMEM中、 37°C 5%C02 雰囲気下で 4 8時間培養した後、 終 濃度 5 0〜200 Mのケルセチン (シグマ社製) を添加し、 さらに 37 Cで 1 時間培養を続ける。 次いで、 42T;、 2時間の熱ショックを与え、 37°Cで 2時 間回復培養を行う。 これらの細胞のルシフェラーゼ活性を測定したところ、 熱シ ョックによって誘導されるルシフヱラ一ゼ活性が 50 //M以上のケルセチンで抑 制されることがわかる。 この効果がケルセチンによって細胞が何らかの障害を受 けた結果でないことは、 例えば、 細胞増殖キット (ベーリンガーマンハイム社製 :) を用いる MTT 〔3— (4, 5—ジメチルチアゾ一ルー 2—ィル) 一 2, 5— ジフエ二ルテトラゾリゥムブロミ ド〕 アツセィで確認する。 また、 ケルセチンは 熱ショックを与えない場合の基底レベルのルシフェラ一ゼの発現には影響を与え ない。
以上の結果により、 He L a— 1 9 8株が HSP 70発現誘導阻害剤のスクリ 一二ングに使用可能なことがわかる。
(4) HSP 70発現誘導剤に対する HeL a - 1 98株の応答性
プロスタグランジン A l (PGA 1 ) は、 HSP 70発現誘導活性を有するこ とが知られている(Amici, C. et al.(1992) Pro Natl. Acad. Sci. USA 91,22 80-2284)。 H e L a - 1 9 8株の培養液に、 P G A 1 (和光純薬工業(株) 製) を 50 M添加し、 5時間培養した後、 細胞抽出液のルシフェラ一ゼ活性を測定し たところ、 PGA 1を添加していないコントロールに比べて 2〜3倍高い活性を 示す。 このことにより、 He L a— 1 9 8株が HSP 70発現誘導剤のスクリー ニングにも使用できることが示される。
(5) HSP 70発現誘導制御物質のスクリーニング法
前記 He L a— 1 9 8株を、 96ゥエル培養プレートに播種し、 DMEM中、 37°C、 5%C02 雰囲気下で 4 8時間培養する。 DMSOに溶解した種々の被 験化合物を終濃度が 1 0〜50 Mとなるように含む DMEMに交換した後、 さ らに 37てで 1時間培養する。 次いで、 42 °Cで 2時間の熱ショックを与え、 そ の後、 37 °Cで 2時間回復培養する。 このとき、 42 °Cの熱ショックを与えない で、 37 °Cで培養を続けた系を対照とする。 培地を除去し、 ルシフ ラ一ゼアツ セィシステム (Promega社製) のプロトコールに従って、 細胞抽出液中のルシフ ヱラーゼ活性をルミノメ一夕一( bsysteras 社製、 Luminoskan) により測定する o
溶媒の DMSOのみを含む DMEMで処理した細胞におけるルシフェラーゼの 発現誘導を対照として、 熱ショックによるルシフェラ一ゼの発現誘導を阻害する 化合物を HSP 70の発現誘導阻害剤とし、 37°Cでルシフヱラーゼの発現を誘 導する化合物を HSP 70の発現誘導剤、 熱ショックによるルシフヱラ一ゼの発 現誘導を増強する化合物を HSP 70の発現誘導増強剤と定義する。
前記被験化合物が H S P 70以外のプロモーターからの転写には作用しないこ とを確認するために、 SV40初期プロモータ一を選択する。 まず、 SV40初 期プロモーターを利用したルシフェラーゼ発現プラスミ ド PGL 2— C on t r
o 1 (Promega社製) の S a 1 I部位に、 前記 p gk— n e oカセットを組み込 んで pSVLUC— n e oを作製する。 次いで、 前記と同様に p S VLUC— n eoを用いて He La細胞を形質転換し、 SV40初期プロモーターの制御下に ルシフヱラーゼを発現する細胞株 H eLa-SV-3を樹立する。
HeLa-SV-3細胞の培養液に、 前記被験化合物を添加し (終濃度 50 u M)、 さらに 5時間培養した後、 細胞抽出液中のルシフ ラーゼ活性を測定する 。 溶媒の DMS0のみの添加の対照に比べて有意な差が認められなかった場合に 、 被験化合物は、 HSP 70プロモーター特異的であると定義する。
また、 内在性 HSP 70の発現誘導に対する被験化合物の作用は、 実施例 6に 記載のノ一ザンブロッティングおよびゥエスタンブロッティングにより、 それぞ れ、 mRN Aレベルおよび蛋白質レベルで調べることができる。
したがって、 本発明のスクリーニング方法は、 前記したように、 熱ショック蛋 白質の発現誘導阻害剤、 発現誘導剤および発現誘導増強剤を同時にかつ容易にス クリーニングできる画期的な方法であり、 また、 多数の被験化合物を同時にスク リーニングできる方法でもある。
また、 本発明は、 前記スクリーニング方法により選別され得る HSPの発現誘 導阻害剤を提供する。
本発明の HSPの発現誘導阻害剤とは、 細胞における HSPの発現を主に転写 レベルで阻害することにより、 HSPの発現誘導を阻害する化合物を有効成分と して含有するものをいう。
本発明においては、 癌細胞の温熱耐性または放射線耐性との関連が示唆されて いる HSP70に対する発現誘導阻害剤が好ましく、 ヒト HSP70に対する発 現誘導阻害剤がより好ましい。
また、 本発明は、 前記スクリーニング方法により選別され得る HSPの発現誘 導剤を提供する。
本発明の H S Pの発現誘導剤とは、 細胞における H S Pの発現を主に転写レベ
ルで誘導することにより、 HS Pの発現を誘導する化合物を有効成分として含有 するものをいう。
また、 本発明は、 前記スクリーニング方法により選別され得る HSPの発現誘 導増強剤を提供する。
本発明の H S Pの発現誘導増強剤とは、 細胞における H S Pの発現を主に転写 レベルで誘導増強することにより、 HS Pの発現誘導を増強する化合物を有効成 分として含有するものをいう。
本発明においては、 虚血に対する保護作用、 創傷の治癒促進、 潰瘍に対する保 護作用との関連が示唆されている HSP70に対する発現誘導剤または発現誘導 増強剤が好ましく、 ヒト HSP70に対する発現誘導剤または発現誘導増強剤が より好ましい。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤は、 具体的には、 一般式 (I) ま たは (II) :
(式中、 R1 は水素原子、 炭素数 1〜8のアルキル基、 炭素数 3〜 8のァルケ二 ル基または炭素数 3〜8のアルキニル基を示し、 R2 は水素原子、 炭素数 1〜8 のアルキル基または炭素数?〜 10のァラルキル基を示し、 R3 は水素原子また は水酸基を示し、 R4 は置換もしくは非置換のフニニル基または炭素数 5〜8の
シクロアルキルアルキル基を示し、 R 5 および R e は、 それぞれ、 水素原子、 ハ ロゲン、 炭素数 1〜4のアルキル基または炭素数 1〜4のアルコキシ基を示す) で表されるキナゾリン誘導体を有効成分として含有するものが挙げられる。 前記 R 1 および R 2 において、 炭素数 1〜8のアルキル基としては、 メチル基 、 ェチル基、 プロピル基、 ブチル基、 ペンチル基、 へキシル基、 ヘプチル基およ びォクチル基の直鎖状アルキル基ならびにイソプロピル基、 イソブチル基、 t e r t—ブチル基、 イソペンチル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。
前記 R 1 において、 炭素数 3〜8のアルケニル基としては、 1—プロぺニル基 、 ァリル基、 2—ブテニル基、 3—ブテニル基、 3—ペンテニル基、 4一へキセ ニル基、 5—ヘプテニル基および 6 _ォクテニル基等が挙げられる。
前記 R 1 において、 炭素数 3〜 8のアルキニル基としては、 2—プロピニル基 、 3—ブチュル基、 4一ペンチニル基、 5—へキシニル基、 6—へプチニル基お よび 7—ォクチニル基等が挙げられる。
前記!?1 のなかでは、 水素原子、 炭素数 1〜5のアルキル基または炭素数 3〜 8のアルケニル基が好ましい。
前記 R 2 において、 炭素数 7〜1 0のァラルキル基としては、 ベンジル基、 フ エネチル基、 フヱニルプロピル基等が挙げられる。
前記 R 2 のなかでは、 水素、 メチル基またはべンジル基が好ましい。
前記 R 4 において、 置換のフヱニル基としては、 炭素数 1〜4のアルキル基も しくは炭素数 1〜4のアルコキシ基で置換されたフヱニル基が挙げられる。 前記 R 4 において、 炭素数 5〜 8のシクロアルキルアルキル基としては、 シク ロブチルメチル基、 シクロペンチルメチル基、 シクロへキシルメチル基およびシ クロへキシルェチル基等が挙げられる。
前記 R 4 のなかでは、 フエニル基または炭素数 5〜8のシクロアルキルアルキ ル基が好ましく、 フ工ニル基またはシクロへキシルメチル基がより好ましい。 前記 R 5 および R 6 において、 ハロゲンとしては、 フッ素原子、 塩素原子、 臭
素原子およびヨウ素原子が挙げられる。
前記 R5 および において、 炭素数 1〜4のアルキル基としては、 メチル基 、 ェチル基、 プロピル基およびブチル基の直鎖状アルキル基ならびにイソプロピ ル基、 イソブチル基および t e r t—プチル基等の分岐状アルキル基が挙げられ る。
前記 R5 および R6 において、 炭素数 1〜4のアルコキシ基としては、 メ トキ シ基、 エトキシ基、 n—プロポキシ基、 イソプロポキシ基および n—ブトキシ基 等が挙げられる。
前記 R5 のなかでは、 水素原子またはハロゲンが好ましく、 水素原子または塩 素原子がより好ましい。
前記 R6 のなかでは、 水素原子またはハロゲンが好ましく、 水素原子または塩 素原子がより好ましい。
R6 および R6 の位置は特に限定されないが、 一般式 ( I) または (II) のキ ナゾリン誘導体骨格において、 それぞれ 7位および 8位が好ましい。
前記一般式 ( I) または (II) で表わされるキナゾリン誘導体の好適な具体例 を次に述べるが、 本発明は、 これらの化合物に限定されるものではない。 すなわ ち、 HSP 70等の熱ショック蛋白質の発現誘導を阻害するという観点から、 1 0—メチル _ 5—フエニル一 2, 3, 5, 1 0—テトラヒドロイミダゾ [ 2, 1 一 b] キナゾリン (コード No. SR— 2 1 24) 、 1 0— (n—プチル) 一 7 —クロロー 5—シクロへキシルメチル一 2, 3, 5, 1 0—テトラヒドロイミダ ゾ[ 2, 1—b] キナゾリン (コード No. SR— 1 6 1 8) 、 1 0— (2' — プロぺニル) 一 5—フエニル一 2, 3, 5, 1 0—テトラヒドロイミダゾ [ 2, 1—b] キナゾリン (コード No. SR— 2 1 25) 、 1 0—イソペンチルー 8 —クロ口一 5—フエ二ルー 2, 3, 5, 1 0—テトラヒドロイミダゾ [ 2, 1 - b] キナゾリン (コード No. SR— 1 544 ) 、 1 0—イソペンチルー 7—ク ロロ一 5—フエニル一 5—ヒドロキシー 2, 3, 5, 1 0—テトラヒドロイミダ
ゾ[ 2, 1 -b] キナゾリン (コード No. SR— 2 1 5 8) 、 5—フエ二ルー 1, 2, 3, 5—テトラヒドロイミダゾ [ 2, 1—b] キナゾリン (コード No . SR— 2 1 47) 、 1—メチルー 5—フエ二ルー 7—クロロー 1, 2, 3, 5 ーテトラヒドロイミダゾ [ 2, 1—b] キナブリン (コード No. SR— 1 04 0)、 1—ベンジル一 5—フエ二ルー 7—クロロー 1 , 2, 3, 5—テトラヒド ロイミダゾ [ 2, 1 -b] キナゾリン (コード No. SR— 22 1 0) 等が好ま しく、 SR— 1 04 0、 SR— 2 1 24および SR— 2 1 25がより好ましい。
1—メチルー 5—フエ二ルー 7—クロ口一 1 , 2, 3, 5—テトラヒドロイミ ダゾ [ 2, 1 -b] キナゾリン (コード No. SR- 1 040 ) の構造は、 式(I II) で示される。
1 0— (2, 一プロべニル) ― 5—フエ二ルー 2, 3, 5, 1 0—テトラヒド ロイミダゾ [ 2, 1—b] キナゾリ ン (コード No. SR- 2 1 25) の構造は 、 式(IV)で示される。
前記一般式 ( I) または (II) で表わされるキナゾリン誘導体は、 抗抑うつ作 用、 利尿作用、 降圧作用等の薬理作用を有することが知られている既知の化合物 であり、 これらの化合物の製造方法は、 特開昭 50 - 1 1 64 9 6号公報および 特開昭 54 - 4 8 7 97号公報に記載の方法に従って、 合成することができる。 本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤の 1つの態様は、 前記キナゾリン 誘導体を有効成分として含有するものである。 キナゾリン誘導体の含有量として は、 熱ショック蛋白質の発現誘導を阻害する限りいかなる量でもよく、 例えば、 5 0〜 1 0 0重量%が好ましい。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤は、 前記キナゾリン誘導体を溶解 させるために、 製剤学上許容される溶媒を含んでもよい。
前記キナゾリン誘導体のうち、 前記 SR— 1 04 0および SR— 2 1 2 5は、 実施例 6に記載のように、 内在性 HSP 70の発現誘導を阻害する。
また、 SR— 1 04 0は、 細胞の温熱耐性獲得を阻害する活性を有する。 He L a- 1 9 8株を用いた細胞の温熱耐性獲得の阻害活性の測定方法は、 実施例 7 に記載されている。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤を用いることにより、 癌細胞の温
熱または放射線に対する耐性を克服したり、 温熱または放射線による細胞死を増 強できることから、 癌の温熱療法や放射線療法の有効性をより高めることができ る。 さらに、 癌の多剤耐性の原因となる P—糖蛋白質の発現誘導を阻害すること により、 癌の化学療法における耐性克服が可能となる。 このように、 H S Pの発 現誘導阻害剤は、 従来にない新しい作用機序に基づく制癌剤または耐性克服剤と してきわめて有用であると考えられる。 また、 生体のストレス応答制御機構の解 析、 特にストレス応答依 的な転写調節機構の解析にも有用で、 生命科学分野に おける研究用試薬としての用途も期待される。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導剤は、 1つの態様として、 一般式 (V)
(式中、 R 7 は炭素数 1〜8のアルキル基を示し、 R 8 は水素原子またはハロゲ ンを示す) で表されるカルコン誘導体を有効成分として含有するものである。 前記 R 7 において、 炭素数 1〜8のアルキル基としては、 メチル基、 ェチル基 、 プロピル基、 ブチル基、 ペンチル基、 へキシル基、 ヘプチル基、 ォクチル基の 直鎖状アルキル基およびィソプロピル基、 ィソブチル基、 t e r t —ブチル基、 ィソペンチル基等の分岐状アルキル基が挙げられる。
前記 R 7 のなかでは、 炭素数 1〜4のアルキル基が好ましい。
前記 R 8 において、 ハロゲンとしては、 フッ素原子、 塩素原子、 臭素原子およ びヨウ素原子が挙げられる。
前記 R 8 のなかでは、 水素原子、 塩素原子が好ましい。
R7 および R8 の位置は特に限定されないが、 それぞれが結合するベンゼン環 の配向性により、 それぞれ 4位および 2位が好ましい。
前記一般式で表わされるカルコン誘導体の好適な具体例を次に述べるが、 本発 明は、 これらの化合物に限定されるものではない。 すなわち、 HSP 70等の熱 ショック蛋白質の発現を誘導するという観点から、 1— [ 4一 (2—メチルプロ ピル) フエニル] 一 3— (3—二トロフエニル) 一 2—プロペン一 1一オン (コ —ド No. SR— 229 7) 、 3— (2—クロロー 5—ニトロフエニル) ― 1― (4—メチルフエニル) 一 2—プロペン一 1一オン (コード No. SR- 260 7) 等が好ましく、 熱ショックによる HSP 70等の熱ショック蛋白質の発現誘 導を増強する活性も有するという観点から、 SR— 229 7が好ましい。
1 -[ 4 - (2—メチルプロピル) フエニル] 一 3— (3—ニトロフエニル) 一 2—プロペン— 1—オン (コード No. SR— 2297) の構造は、 式(VI)で 示される。
Oゥ N
3 - (2—クロロー 5—ニトロフエニル) 一 1一 (4一メチルフエニル) 一 2 一プロペン一 1一オン (コード No. SR- 2 6 07) の構造は、 式 (VII) で示 される。
—般式 (V) で表わされるカルコン誘導体は既知の化合物であり、 常法により 製造することができる。
カルコン誘導体の含有量としては、 熱ショック蛋白質の発現を誘導する限りい かなる量でもよく、 例えば、 5 0〜1 0 0重量%が好ましい。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導剤は、 前記カルコン誘導体を溶解させる ために、 製剤学上許容される溶媒を含んでもよい。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤としては、 1つの例として、 前記 式 (VI):
で表される 1— [ 4一 (2—メチルプロピル) フエニル] — 3— (3—二トロフ ェニル) 一 2—プロペン— 1—オン (コード N o . S R - 2 2 9 7 ) が挙げられ る。
かかる化合物の含有量としては、 熱ショック蛋白質の発現誘導を増強する限り いかなる量でもよく、 例えば、 5 0〜1 0 0重量%が好ましい。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤は、 前記化合物を溶解させるため に、 製剤学上許容される溶媒を含んでもよい。
本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導剤または発現誘導増強剤は、 H S P 7 0 等の高発現を介して、 神経細胞、 心筋細胞等の虚血耐性を獲得する効果を奏する 。 また、 当該発現誘導剤または発現誘導増強剤は、 H S P 7 0等の高発現を介し て、 創傷組織の再生を促進させる効果を奏する。 さらに、 当該発現誘導剤または 発現誘導増強剤は、 H S P 7 0等の高発現を介して、 消化管粘膜細胞を保護する 効果を奏する。 このように、 本発明の熱ショック蛋白質の発現誘導剤または発現
誘導増強剤は、 従来にない新しい作用機序に基づく虚血疾患、 創傷または潰瘍の 治療薬または予防薬として有用であると考えられる。 また、 本発明の熱ショック 蛋白質の発現誘導剤または発現誘導増強剤は、 生体のストレス応答制御機構の解 析、 特にストレス応答依存的な転写調節機構の解析にも有用であり、 生命科学分 野における研究用試薬としての用途も期待される。
さらに、 本発明は、 前記熱ショック蛋白質の発現阻害剤を有効成分として含有 する、 癌の処置に使用される医薬組成物、 好ましくは癌の温熱療法または放射線 療法に使用される医薬組成物を提供する。
本発明の医薬組成物は、 前記熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤を有効成分と して含有することにより、 癌の温熱療法または放射線療法に使用した場合、 前記 したように、 癌細胞の温熱または放射線に対する耐性を克服したり、 温熱または 放射線による細胞死を増強できることから、 癌の温熱療法や放射線療法の有効性 をより高めることができる。 さらに、 癌の多剤耐性の原因となる P—糖蛋白質の 発現誘導を阻害することにより、 癌の化学療法における耐性克服が可能となる。 このように、 本発明の医薬組成物は、 制癌剤または耐性克服剤として種々の癌お よぴ前癌状態を治療することができる。
前記医薬組成物は、 必要に応じて担体、 安定化剤、 吸収促進剤等を添加し、 錠 剤、 散剤、 顆粒剤、 カプセル剤、 シロップ剤等として経口的に投与してもよいし 、 また坐剤、 注射剤、 外用剤、 点滴剤等として非経口的に投与してもよい。 前記医薬組成物は、 単独で投与してもよいし、 他の化学療法剤とともに投与し てもよい。 投与時期としては、 癌の温熱療法または放射線療法に使用する場合、 かかる療法を行なう前または同時でもよいが、 例えば、 2 4時間前までに投与す ることが好ましい。
本発明の医薬組成物中の熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤の投与量は、 治療 目的の疾患、 患者の年齢、 体重等により適宜調整することができるが、 通常、 1 回当たり 0 . 1 m g〜 1 0 0 O m g、 好ましくは、 1 m g〜 5 0 0 m gであり、
目的に応じて投与回数を決定することが好ましい。
また、 本発明は、 前記熱ショック蛋白質の発現誘導剤を含有する医薬組成物を 提供する。
かかる医薬組成物は、 必要に応じて担体、 安定化剤、 吸収促進剤等を添加し、 錠剤、 散剤、 顆粒剤、 カプセル剤、 シロップ剤等として経口的に投与してもよい し、 また坐剤、 注射剤、 外用剤、 点滴剤等として非経口的に投与してもよい。 前記医薬組成物は、 単独で投与してもよいし、 他の医薬とともに投与してもよ い。
前記医薬組成物中の熱ショック蛋白質の発現誘導剤の投与量は、 目的の疾患、 患者の年齢、 体重等により適宜調整することができるが、 通常、 1回当たり 0 . l m g〜l 0 0 O m g、 好ましくは、 l m g〜5 0 O m gであり、 目的に応じて 投与回数を決定することが好ましい。
また、 本発明は、 前記熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤を含有する医薬組成 物を提供する。
かかる医薬組成物は、 必要に応じて担体、 安定化剤、 吸収促進剤等を添加し、 錠剤、 散剤、 顆粒剤、 カプセル剤、 シロップ剤等として経口的に投与してもよい し、 また坐剤、 注射剤、 外用剤、 点滴剤等として非経口的に投与してもよい。 前記医薬組成物は、 単独で投与してもよいし、 他の医薬とともに投与してもよ い o
前記医薬組成物中の熱ショック蛋白質の発現誘導増強剤の投与量は、 目的の疾 患、 患者の年齢、 体重等により適宜調整することができるが、 通常、 1回当たり 0 . 1 m g〜 1 0 0 O m g、 好ましくは、 1 m g〜 5 0 0 m gであり、 目的に応 じて投与回数を決定することが好ましい。
本発明の医薬組成物は、 熱ショック蛋白質の発現誘導剤または発現誘導増強剤 を有効成分として含有することにより、 前記したように H S P 7 0等の高発現を 介して、 虚血性疾患、 創傷または潰瘍を治療または予防することができる。
以下、 実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、 本発明はこれらの実施 例によりなんら限定されるものではない。 特に明記しない限り、 以下の実施例は
、 Sambrook, J. ら著、 Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 2nd ed.. C old Spring Harbor Laboratory Press, New York, 1989年発行、 Ausubel, F. M. ら編、 Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Inc. 等に記載の方法で行った。
実施例 1
プラスミ ドの構築
ヒト HSP 70遺伝子の 5' 側上流領域 2. 8 kbとクロラムフエニコールァ セチルトランスフェラーゼ (CAT)遺伝子とを連結したレポ一夕一プラスミ ド pHBCATCWu, B. et al. (1985) Mol. Cell. Biol. 5, 330-341; Wu, B. et al.(1986) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83, 629-633) を、 BamH Iで消化し た後、 ァガロース電気泳動に付し、 2. 8 kbのバンドをゲルから抽出し、 ヒト HSP70遺伝子の 5' 側上流領域を含む B a mH I断片を調製した。 得られた 断片を、 pGL2— Ba s i c (Promega社製) の B g 111部位に挿入して、 ヒ ト HSP70遺伝子の 5' 側上流領域 2. 8 kbにホタルルシフヱラーゼ遺伝子 を連結したレポータープラスミ ド PH70 LUC— 85を作製した。
熱ショックに応答して前記レポータープラスミ ド pH70 LUC- 85からル シフヱラ一ゼが誘導されるかどうかを調べるために、 He L a細胞を用いた一過 性発現の系で確認した。 すなわち、 He La細胞を 1 0 cm培養ディッシュに 1 . 0 X 1 04 細胞 Zcm2 で播種し、 1 0%FCSを含む DME1V [中、 37。C、 5%C02 雰囲気下で 24時間培養後に 1 0〃gの pH70LUC_85と 4 gの pSVyS— Ga 1 a c t o s i d a s e (Promega社製) を用いて、 DE A E—デキストラン法により形質転換を行なった。 48時間培養後、 4 Cまたは 42 °Cで 2時間熱ショックを与え、 その後 37 °Cで 2時間回復培養した。 細胞表
面を PBSで洗浄後、 セルスクレイパーで細胞を剝がし、 遠心分離により細胞を 集め、 ルシフェラ一ゼアツセィシステム (Promega社製) のプロトコールに従つ て細胞抽出液中のルシフヱラーゼ活性をルミノメーター(Labsystems 社製、 Lumi noskan) により測定した。
その結果、 熱ショックを与えないコントロールの細胞抽出液にはルシフヱラー ゼ活性が検出されないが、 41°Cおよび 42 °Cの熱ショックを与えた細胞抽出液 は、 それぞれ 4. 9 RLU (Relative Light Units;相対発光単位) および 2. 5 RLUのルシフェラーゼ活性が検出され、 熱ショックに応答して pH 70 LU C- 85からルシフヱラーゼが誘導されることがわかった。
次に、 前記 PH70 LUC- 85にネオマイシン耐性遺伝子 (n e o) を組み 込んだ。 すなわち、 pB l ue s c r i p t IISK+ (Stratagene社製) の E c oR I -H i n dill部位に p gk— n e oカセット(McBurney, M. W. et al.( 1991) Nucleic Acids Res. 20, 5755-5761)が挿入された p B 1 u e s c r i p t — pgk— neoを No t Iで消化し、 S a 1 I—No t Iアダプターをライゲ ーシヨンした後、 Sa l Iで消化して両末端が S a 1 Iの付着末端である 2 kb の p gk_n e o断片を調製した。 得られた p gk— n e o断片を pH 70 LU C一 85のルシフヱラーゼ遺伝子 3' 側非翻訳領域直後の Sa l I部位にライゲ ーシヨンして、 ネオマイシン耐性遺伝子を有するレポータープラスミ ド pHLU C-n e oを作製した。 実施例 2
細胞株の樹立
実施例 1で得られた 1 の pHLUC— ne oを用いて、 通常のエレクト 口ポレーシヨン法 (電圧 250 V、 電荷 25 F、 パルス 2回) により、 5 x 1 06 個の HeLa細胞 (ATCC CCL2)を形質転換した。 エレクトロポレ ーシヨンの後、 700 g/m 1の G— 418および 10% 〇3を含む01^£
M中、 3 7 °C、 5 %雰囲気下で培養することにより、 G— 4 1 8耐性形質転換細 胞を選択した。 得られた形質転換細胞を増殖させ、 1 0 c m培養ディッシュに 9 0 %コンフルェン卜になった時点で、 熱ショック依存的なルシフェラーゼ活性を 調 、 。
すなわち、 前記 G— 4 1 8耐性形質転換細胞に 4 2でで 2時間の熱ショックを 与えた後、 3 7 °Cで 2時間回復培養した。 その後、 実施例 1と同様にして、 細胞 抽出液中のルシフェラーゼ活性をルミノメータ一により測定した。
G— 4 1 8耐性形質転換細胞 3 0クローンについてルシフェラーゼ活性を調べ たところ、 表 1に記載のように、 6クローンに熱ショック依存的なルシフェラ一 ゼ活性の誘導が観察された。 表 1
これらのクローンの内、 熱ショックによるルシフェラ一ゼの誘導倍率が高く、 かつ、 9 6ゥエル培養プレートを用いるアツセィ系においてもルシフェラーゼ活 性が十分検出可能な程度に発現レベルの高い H e L a— 1 9 8株が、 本発明の H S P 7 0発現誘導制御物質のスクリーニングに最も適していると考えられる。 実施例 3
HSP 70発現誘導剤に対する He La - 1 98株の応答性
HSP 70発現誘導阻害活性を有することが知られているケルセチンを用いて 、 実施例 2で得られた He La— 1 9 8株における熱ショック依存的なルシフエ ラーゼの誘導が阻害されるかどうかを調べた。 He L a— 1 9 8株を、 9 6ゥェ ル培養プレートに 3. 0 X 1 03 細胞/ゥエルで播種し、 37°C、 5%C02 雰 囲気下で 4 8時間培養した後、 終濃度 50〜200 Μのケルセチン (シグマ社 製) を添加し、 さらに 37 °Cで 1時間培養を続けた。 次いで、 42'C、 2時間の 熱ショックを与え、 37 °Cで 2時間回復培養を行った。 これらの細胞のルシフエ ラーゼ活性を測定したところ、 熱ショックによって誘導されるルシフヱラーゼ活 性が 50 zM以上のケルセチンで抑制されることがわかった。 この効果がケルセ チンによって細胞が何らかの障害を受けた結果でないことは、 細胞増殖キット ( ベ一リンガーマンハイム社製) を用いる MTT 〔3— (4, 5—ジメチルチアゾ —ルー 2—ィル) — 2, 5—ジフエニルテトラゾリゥムブロミ ド〕 アツセィで確 認した。 また、 ケルセチンは熱ショックを与えない場合の基底レベルのルシフエ ラーゼの発現には影響を与えなかった。
以上の結果から、 He La— 1 98株が HSP 70発現誘導阻害剤のスクリー 二ングに使用可能なことがわかつた。 実施例 4
HSP 70発現誘導剤に対する He La - 1 98株の応答性
プロスタグランジン A 1 (PGA 1 ) は、 HSP 70発現誘導活性を有するこ とが知られている(Amici, et al. (1992) Pro Natl. Acad. Sci. USA 91,22 80-2284) o He L a— 1 98株の培養液に、 P G A 1を 50〃lv [添加し、 37て、 5%C02 雰囲気下で 5時間培養した後、 細胞抽出液のルシフ ラ一ゼ活性を測 定したところ、 PGA 1を添加していないコントロールに比べて 2〜3倍高い活 性を示した。 このことにより、 He La— 1 98株が HSP 70発現誘導剤のス
2 g
クリーユングにも使用できることが示された。 実施例 5
HSP 70発現誘導制御物質のスクリーニング法
被験化合物として、 表 2に示す化合物を特開昭 50 - 1 1 64 9 6号公報およ び特開昭 54 - 4879 7号公報に記載の方法により合成した。 実施例 2で得ら れた He La— 1 9 8株を、 9 6ゥエル培養プレートに 3. 0 x 1 03 細胞 ウ エルにて播種し、 DMEM中、 37°C、 5 %C02 雰囲気下で 48時間培養した 。 DM SOに溶解した被験化合物を終濃度が 1 0〜50 IV [となるように含む D MEMに交換した後、 さらに 37て、 5%C02 雰囲気下で 1時間培養した。 次 いで、 42 °Cで 2時間の熱ショックを与え、 その後、 37°Cで 2時間回復培養し た。 培地を除去し、 ルシフヱラーゼアツセィシステム (Promega社製) のプロト コールに従って、 細胞抽出液中のルシフヱラーゼ活性をルミノメーター(Labsyst eras 社製、 Luminoskan) により測定した。 溶媒の DMS 0のみを含む DMEMで 処理した細胞で誘導されるルシフェラーゼ活性を 1 0 0とした時の被験化合物で 処理した細胞のルシフヱラーゼ活性 (X) を求め、 その差 ( 1 00— X) をルシ フェラ一ゼ誘導阻害率として、 表 2に示す。
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表 2に示すように、 SR— 1 040および SR— 2 1 25を含むすべての被験 化合物は、 ルシフヱラーゼ誘導を阻害した。 また、 SR— 2 1 25は、 濃度依存 的にルシフヱラーゼ誘導を阻害した。
次に、 SR— 1 040が HSP 70以外のプロモーターからの転写にも作用す るかどうかを調べるために、 SV4 0初期プロモータ一を選択した。 まず、 SV 40初期プロモータ一を利用したルシフヱラーゼ発現プラスミ ド PGL 2— C 0 n t r 0 1 (Promega社製) の S a 1 I部位に、 前記 p gk— n e oカセットを 組み込んで pSVLUC - n e oを作製した。 次いで、 前記と同様に pSVLU C一 n e oを用いて He L a細胞を形質転換し、 SV40初期プロモーターの制 御下にルシフ ラーゼを発現する細胞株 He L a— SV— 3を樹立した。
He L a— SV— 3細胞の培養液に、 SR— 1 04 0を添加し (終濃度 5 0 n M) 、 さらに 5時間培養した後、 実施例 1と同様に細胞抽出液中のルシフ ラ一 ゼ活性を測定したところ、 SR— 1 04 0無添加 (溶媒の DMSOのみの添加) のコントロールに比べて有意な差は認められなかった。 従って、 SR— 1 040 によるルシフヱラーゼ発現誘導阻害は、 HSPプロモータ一特異的であると考え られる。 実施例 6
ノ—ザ ブロッティングおよびウェス夕ンブロッティング
内在性 HSP 70の発現誘導に対する SR— 1 04 0の作用を、 ノーザンプロ ッティングおよびウエスタンプロッティングによりそれぞれ m RNAレベルおよ び蛋白質レベルで調べた。 また、 内在性 HSP 70の発現誘導に対する SR— 2 1 25の作用を、 同様にウェスタンブロッテイングにより蛋白質レベルで調べた 。 1 0 cm培養ディッシュに、 H e L a— 1 98株を 1. 1 x 1 06 細胞 Zcm 2 で播種し、 実施例 5と同様に 4 8時間培養後、 実施例 5の SR— 1 04 0溶液 または SR— 2 1 25溶液を終濃度 50 Mとなるように添加し、 さらに 37°C
で 1時間培養した。 42 'Cで 2時間熱ショックを与えた後、 直ちに全 RNAを A GPC (酸性グァニジニゥムーフヱノールークロロホルム) 法により調製し、 ノ 一ザンブロッティングにより HSP 7 OmRN Aおよび内部標準としてのグリセ ルアルデヒドー 3一リン酸デヒドロゲナ一ゼ (G 3 PDH) mRNAを検出した (第 1図) 。 また、 42 °Cで 2時間の熱ショックを与えた後、 37 °Cで 2時間回 培養した細胞の抽出液を、 SDS—ポリアクリルアミ ドゲル電気泳動に供し、 抗 HSP 70抗体 (StressGen社製) を用いたウエスタンプロッティングにより、 細胞内 HSP 70の蓄積量を調べた (第 2図および第 3図) 。
第 1図および第 2図より、 SR— 1 04 0は、 42°C、 2時間の熱ショックに よる内在性 HSP 70の発現誘導を阻害することが、 mRNAレベルおよび蛋白 質レベルで確認された。 また、 第 3図より、 SR— 2 1 25も同様に、 42 °C、 2時間の熱ショックによる内在性 HSP 70の発現誘導を阻害することが、 蛋白 質レベルで確認された。 実施例 7
細胞の温熱耐性獲得阻害活性
実施例 5で調べた H S P 70発現誘導阻害活性を有する S R - 1 040を含む キナゾリン誘導体が細胞の温熱耐性獲得を阻害するかどうかを調べた。
He L a— 1 98株は、 4 5 °C、 5 0分間の熱ショックに曝すと、 形態変化を 起こし、 培養フラスコの底壁から剝がれて死んでしまうが、 予め 42'C、 2時間 の非致死的な熱ショックを与えておくと、 6時間後に行なった 45 °C、 5 0分間 の致死的な熱ショックに対しても細胞の形態変化を起こさず、 温熱耐性を獲得し たことがわかる。 ここで、 SR— 1 04 0 (終濃度 5 0 Μ) を前記非致死的な 熱ショックの 1時間前から作用させたとき、 4 5°C、 50分間の熱ショック後の 生細胞を明らかに減少させ、 直接 45°C、 50分間の致死的熱ショックを与えた 場合と同様に、 ほとんどの細胞が底壁から剝離し、 死細胞として観察された。 こ
のとき、 SR— 1 040を 45°C、 5 0分間の致死的熱ショックの間だけ作用さ せると、 細胞の形態変化は認められず、 温熱耐性の獲得が観察された。 このこと は、 SR— 1 04 0が 42 、 2時間の非致死的熱ショック時に存在すると HS P 70の発現誘導が阻害され、 その結果、 H e L a - 1 9 8株は温熱耐性を獲得 できなかったことを示唆する。
次に、 前記温熱耐性獲得阻害活性に関してより客観性と定量性を持たせるため 、 チミジンのアナログであるプロモデォキシゥリジン (B r dU) の取り込みに よる細胞の増殖能を指標として、 温熱耐性獲得阻害活性の測定を行なった。 He L a - 1 98株に、 終濃度 5 0 となるように SR— 1 04 0を添加してから
1時間後に非致死的熱ショック (42°C、 2時間) を与え、 37 °Cで 6時間回復 培養を行ない、 その後 1 0〜1 20分間にわたり、 45 °Cの致死的熱ショックを 与えた。 この間、 非致死的熱ショックの直前、 非致死的熱ショック直後または致 死的熱ショックの 1時間前に SR— 1 040を含まない培地に置き換え、 培養系 から SR— 1 04 0を除去した。 致死的熱ショックの後、 37°Cで 1 8時間回復 培養し、 細胞増殖アツセィシステム (Amersham社製、 Cell proliferation EL ISA system)のプロトコ一ルに従い、 B r d Uを添加して 6時間培養を続けた。 細胞 に取り込まれた B r dUは、 該プロトコールに従い定量した (第 4図) 。
第 4図に、 前記 45°Cの致死的熱ショックを与えたときの細胞の増殖能を示す 。 第 4図より、 42°C、 2時間の非致死的熱ショックを与えないとき、 SR— 1
04 0の有無に係わらず同様の増殖能を示した。 一方、 非致死的熱ショック時に SR- 1 04 0が存在しない場合は、 4 5°Cの熱ショックを 75分間与えても紬 胞の増殖能はほとんど低下しておらず、 温熱耐性の獲得が認められた。 しかし、 非致死的熱ショック時に SR— 1 040を存在させた場合は、 45 °Cの熱ショッ クにより明らかな増殖能の低下が観察され、 HeL a— 1 98株の温熱耐性獲得 が阻害されたことがわかる。
実施例 8
SR— 22 9 7のレポ一夕一遺伝子発現誘導活性
SR- 22 9 7およびその周辺化合物を含むケミカルライブラリ一を実施例 5 に記載のようにスクリーニングし、 1 0〃Mの SR— 22 9 7が He L a— 1 9 8株のルシフエラーゼ活性の発現を約 3倍増加させることを見出した。 すなわち 、 実施例 2で得られた He L a— 1 9 8株を、 9 6ゥエル培養プレートに 3. 0 X 1 03 細胞 ゥエルにて播種し、 1 0 %FCSを含む DMEM中、 3 7°C、 5 %C02 雰囲気下で 4 8時間培養した。 SR— 22 9 7を 1 0 ίΜ含む培地 (D MSOに溶解した 1 OmMの SR— 2 2 9 7溶液を 0. 1 %含む DMEM) に交 換した後、 さらに 3 7°C、 5%C〇2 雰囲気下で 5時間該細胞を培養した。 次い で、 培地を除去し、 ルシフヱラーゼアツセィシステム (Proraega社製) のプロト コールに従って、 細胞抽出液中のルシフヱラーゼ活性をルミノメ一ター(Labsyst ems 社製、 Luminoskan) により測定した。
その結果、 溶媒の DMSOのみを含む培地で培養した細胞では、 2. 3 3RL Uのルシフヱラーゼ活性が検出されたのに対し、 SR— 22 9 7を含む培地で培 養した細胞のルシフェラ一ゼ活性は、 6. 9 7RLUであった。 実施例 9
SR— 22 9 7によるレポ一夕一遺伝子発現誘導の経時変化
次に、 SR— 22 9 7を含む培地で He L a— 1 9 8株を培養したときのルシ フェラ一ゼ活性の誘導を経時的に追跡した。 He L a— 1 9 8株を実施例 8と同 様に培養し、 SR— 22 9 7の添加後 1、 3、 5、 7、 9および 1 1時間の時点 で細胞内のルシフェラーゼ活性を測定した (第 5図) 。
第 5図に示すように、 S R - 22 9 7は、 添加後 5〜 1 1時間の範囲で対照の
DMSO処理に比べ、 2〜3. 5倍のルシフヱラ一ゼ誘導活性を示した。
実施例 1 o
SR— 2297のレボータ一遺伝子発現誘導増強活性
SR- 2297が熱ショックによるルシフヱラーゼ誘導をさらに増強するかど うかを調べた。 実施例 8と同様に、 He La— 1 98株を 96ゥエル培養プレー トに 3. 0 X 1 03 細胞/ゥエルにて播種し、 培養した。 SR— 2297を 1 0 /M含む培地に交換した後、 さらに 1時間、 37 °Cで該細胞を培養した。 次いで 、 該細胞に 42 °Cで 2時間の熱ショックを与え、 その後 37 °Cで 2時間回復培養 した。 SR— 2297を 1 0〃M含む培地に交換後 1、 3、 5、 7、 9および 1 1時間の時点で培地を除去し、 細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を測定した。 対照として、 DMSOのみを含む培地で同様の処理をした (第 6図) 。
第 6図に示すように、 熱ショック後のルシフヱラーゼ活性の誘導は、 7〜1 1 時間 (熱ショック後 4〜 8時間) の範囲で、 S R— 2297の存在下約 2倍増大 し、 SR— 2297は、 熱ショック発現誘導増強剤でもあることがわかった。 実施例 1 1
SR- 2297の内在性 H SP 70発現誘導活性
内在性 HSP 70の発現誘導に対する SR— 2297の作用を、 ウエスタンブ 口ッティングにより調べた。 1 0 cm培養ディッシュに、 H e L a— 1 98株を 1. 1 X 1 06 細胞/ cm2 で播種し、 4 8時間培養後に SR - 2297を終濃 度 1 0 UlV [となるように添加した。 37°Cで培養を続け、 SR— 2297を添加 して 1、 3、 5、 7、 9および 1 1時間後に細胞の抽出液を調製した。 各細胞抽 出液を SDS—ボリアクリルアミ ドゲル電気泳動にかけた後、 抗 HSP 70抗体 (StressGen社製) を用いたウエスタンブロッテイングにより、 細胞内 HSP 7 0の蓄積量を調べた。 ウエスタンプロッティングにより得られたバンドの強度を バイオイメージングアナライザ一 (富士フィルム社製) で定量し、 数値化した。 対照として、 DM SOのみを含む培地で同様の処理をした (第 7図) 。
第 7図に示すように、 SR— 2297は、 内在性 HSP 70の発現に対し、 明 らかに誘導作用を示すことがわかつた。 実施例 1 2
SR- 2297の熱ショックによる内在性 HSP 70発現誘導増強活性
次に、 熱ショックによる内在性 HSP 70の発現誘導に対する SR— 2297 の作用を、 実施例 1 1と同様に調べた。 1 0 cm培養ディッシュで He La— 1 9 8株を 4 8時間培養後、 S R— 229 7を 1 0 M含む培地に交換した後、 さ らに 1時間、 37°Cで培養した。 次いで、 該細胞に 42 °Cで 2時間熱ショックを 与えた後、 37 °Cで回復培養を行なった。 SR— 2297を含む培地に交換後 1 、 3、 5、 7、 9および 1 1時間の時点で細胞抽出液を調製し、 SDS—ポリア クリルアミ ドゲル電気泳動を行なった。 次いで、 抗 HSP 70抗体 (StressGen 社製) を用いたウエスタンブロッテイングにより、 細胞内 HSP 70の蓄積量を 調べた。 対照として、 DMSOのみを含む培地で同様の処理をした (第 8図) 。 第 8図に示すように、 SR— 229 7は、 42°C、 2時間の熱ショックによる 内在性 HSP 70の誘導に対し、 明らかに増強効果を示すことがわかった。 実施例 1 3
SR- 260 7のレボータ一遺伝子発現誘導活性
SR— 2297の類縁化合物である SR - 2607およびその周辺化合物のル シフ ラ一ゼ誘導活性を、 実施例 8と同様に調べた。 He La— 1 98株を、 各 化合物をそれぞれ 1 0 M含む培地に交換し、 37 °Cで 5時間培養の後、 細胞抽 出液中のルシフヱラーゼ活性を測定した。
その結果、 溶媒の DMSOのみを添加した細胞では、 4. 5 0RLUのルシフ エラ一ゼ活性が検出されたのに対し、 SR— 26 0 7を含む培地で培養した細胞
のルシフェラーゼ活性は、 1 0. 4 7RLUであり、 SR— 2607 (1 0 ) は、 He La— 1 98株のルシフェラーゼ活性を約 2. 3倍増加させた。 産業上の利用可能性
本発明により、 熱ショック蛋白質の発現誘導制御物質のスクリーニング方法、 かかる方法により選別され得る熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤、 発現誘導剤 および発現誘導増強剤、 ならびにかかる熱ショック蛋白質の発現誘導阻害剤、 発 現誘導剤および発現誘導増強剤をそれぞれ含む医薬組成物が提供される。 本発明 のスクリーニング方法により、 熱ショック蛋白質の発現誘導制御物質が容易に選 別され、 熱ショック蛋白質が関与する様々な生体のストレス応答による病態の解 明または治療が可能となる。