JPWO2020075787A1 - トリコデルマ・リーセイ変異株およびタンパク質の製造方法 - Google Patents
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Abstract
本発明は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下して変異を有するトリコデルマ・リーセイの変異株および当該変異株を培養することによりタンパク質を高生産する方法である。【選択図】なし
Description
本発明は、タンパク質製造能が向上するトリコデルマ・リーセイの変異株および当該変異株を用いたタンパク質の製造方法に関する。
トリコデルマ・リーセイは、高いタンパク質製造能を有していることが知られており、これまで同糸状菌を用いたタンパク質の製造の検討が行われてきた。トリコデルマ・リーセイは、タンパク質の中でも特に糖化酵素に分類されるセルラーゼを製造する能力に優れており、例えばセルラーゼ製造量をさらに向上させるため、セルラーゼ製造を制御する因子の過剰発現や欠損が行われている。
非特許文献1では、トリコデルマ・リーセイのセルラーゼの製造を制御する因子の中でも、セルラーゼの製造を抑制する転写因子であるCre1の機能を低下させることにより高いセルラーゼ製造能を有するトリコデルマ・リーセイの変異株が取得されている。
Juliano P,Single nucleotide polymorphism analysis of a Trichoderma reesei hyper−cellulolytic mutant developed in Japan,Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry, Volume 77, 2013, Issue 3, P534−543
上記のとおり、トリコデルマ・リーセイのタンパク質製造を制御する因子の一つである転写因子が解明されているが、これは、制御機構の一部にすぎないと考える。そこで本発明では、トリコデルマ・リーセイのタンパク質製造を制御する新規因子を探索し、タンパク質製造能が強化されたトリコデルマ・リーセイの変異株の取得および当該トリコデルマ・リーセイの変異株を用いたタンパク質の製造方法を提供することを課題とする。
本発明者は、これまで知られていなかったタンパク質製造が向上する新規制御因子を解明できれば、トリコデルマ・リーセイのタンパク質の製造量をさらに向上させることができると考え、鋭意検討した結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド内に変異を有するトリコデルマ・リーセイの変異株を培養することにより、タンパク質生産性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(6)で構成される。
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異を有する、トリコデルマ・リーセイの変異株。
(2)前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのfungal transcription factor regulatory middle homology regionドメイン内でのアミノ酸残基の欠失、置換または付加の変異である、(1)に記載の変異株。
(3)前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から677番目のセリン残基のセリン以外のアミノ酸残基への変異である、(1)または(2)に記載の変異株。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
(6)(5)に記載のセルラーゼの製造方法によりセルラーゼを製造する工程および前記工程で得られたセルラーゼを用いてセルロース含有バイオマスを糖化する工程を含む、糖の製造方法。
(1)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異を有する、トリコデルマ・リーセイの変異株。
(2)前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのfungal transcription factor regulatory middle homology regionドメイン内でのアミノ酸残基の欠失、置換または付加の変異である、(1)に記載の変異株。
(3)前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から677番目のセリン残基のセリン以外のアミノ酸残基への変異である、(1)または(2)に記載の変異株。
(4)(1)〜(3)のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
(5)(1)〜(3)のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
(6)(5)に記載のセルラーゼの製造方法によりセルラーゼを製造する工程および前記工程で得られたセルラーゼを用いてセルロース含有バイオマスを糖化する工程を含む、糖の製造方法。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下したトリコデルマ・リーセイの変異株は、当該変異導入前の親株と比較して、タンパク質の製造能が向上し、タンパク質を高生産することが可能となる。さらに、製造されるタンパク質がセルラーゼの場合には、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果も得られる。
本発明は、もともとタンパク質の製造能に優れる微生物であるトリコデルマ・リーセイの親株に変異を導入することによって、さらにタンパク質製造能を高めることを特徴としている。具体的には、本発明はトリコデルマ・リーセイの変異株に関するものであり、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下することを特徴としている。
本発明で用いるトリコデルマ・リーセイの親株は野生株には制限されず、タンパク質製造能が高まるように改良された変異株も親株として好ましく用いることができ、例えば、変異剤や紫外線照射などで変異処理を施し、タンパク質の製造性が向上した変異株を上記親株として利用することができる。上記親株の具体例としては、トリコデルマ・リーセイQM6a株(NBRC31326)、QM9414株(NBRC31329)、PC−3−7株(ATCC66589)、QM9123株(NBRC31327)、RutC−30株(ATCC56765)、CL−847株(Enzyme.Microbiol.Technol.10,341−346(1988))、MCG77株(Biotechnol.Bioeng.Symp.8, 89(1978))、MCG80株(Biotechnol.Bioeng.12,451−459(1982))及びこれらの派生株などが挙げられる。なお、QM6a株、QM9414株、QM9123株はNBRC(NITE Biological Resource Center)より、PC−3−7株、RutC−30株はATCC(American Type Culture Collection)より入手することができる。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有する全長774アミノ酸のポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つpredicted protein(EGR50030)としても登録されている。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのConserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から280〜710番目のアミノ酸残基はfungal transcription factor regulatory middle homology regionドメインを有すると開示されている。この記載により、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、少なくとも糸状菌の転写調節に関与していると推定される。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。
本発明における、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を欠損または低下させる方法としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全欠損、fungal transcription factor regulatory middle homology regionドメインの全欠損、fungal transcription factor regulatory middle homology regionドメインの一部欠損させるような変異を導入する方法が挙げられ、具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子配列に対して、塩基の欠失、挿入、置換などによりフレームシフト変異やストップコドン変異を導入する方法が挙げられる。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドまたはfungal transcription factor regulatory middle homology regionドメインの欠損とは、そのポリペプチドまたはドメインが全て無くなる、一部が無くなる、全てが異なるアミノ酸に変わる、一部が異なるアミノ酸に変わる、またそれらの組み合わせのことを指す。さらに具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列と配列同一性が80%以下になることを指し、好ましくは50%以下であり、さらに好ましくは20%以下であり、さらに好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、さらに好ましくは1%以下であり、最も好ましくは0%である。
fungal transcription factor regulatory middle homology regionドメイン内に位置するアミノ酸配列に欠失、置換、または付加などの変異がおこることによって、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する具体例としては、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から677番目のセリン残基が、セリン以外のアミノ酸残基に変異していることが好ましく、特に好ましくはフェニルアラニンへ変異していることが好ましい。
配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から677番目のセリン残基がセリン以外のアミノ酸残基に変異したアミノ酸配列をコードする塩基配列の具体例としては、配列番号1で表される塩基配列において、2588番目の塩基であるシトシンがチミンへ変異した配列が挙げられる。当該変異により、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から677番目のアミノ酸残基がセリンからフェニルアラニンへ変異する。
また、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現を低下させる、または発現を消失させる変異を導入することによっても、当該ポリペプチドの機能を低下させてもよく、具体的には、配列番号2で表されるアミノ酸配列をコードする遺伝子のプロモーターやターミネーター領域の変異によるポリペプチドの発現量の低下または消失によるものであってもよい。一般的にプロモーターとターミネーター領域は、転写に関与する遺伝子の前後数百塩基の両気に相当し、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの転写に関与するプロモーターとターミネーターを含む塩基配列の具体例としては、配列番号1で表される塩基配列が挙げられる。
上記の遺伝子の変異導入は、当業者によって公知の変異剤または紫外線照射などによる変異処理、選択マーカーを用いた相同組換えなどの遺伝子組換え、あるいはトランスポゾンによる変異など、既存の遺伝子変異方法を用いることができる。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株は以下の方法で取得することができる。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの全ての機能が欠損または低下した変異株は、親株となるトリコデルマ・リーセイの胞子に対して、ニトロソグアニジン(NTG)、エチルメタンスルホン酸(EMS)、紫外線などを用いて遺伝子変異処理を行い、得られた変異株の遺伝子を解析して、上記の変異を有する変異株をスクリーニングすることで、取得できる。
本発明の変異株は、当該変異導入前の親株と比較し、タンパク質の製造能が向上するため、本発明の変異株の培養液は、同一の培養条件にて得られた当該変異導入前の親株の培養液と比較して、タンパク質濃度が増加する。また、タンパク質が酵素の場合には、酵素の比活性が増加する。ここで、タンパク質濃度の増加率や酵素の比活性の増加率は、増加していれば特に限定はされないが、20%以上であることが好ましい。
本発明の変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異以外にも、タンパク質製造量の向上および/または培養液の粘度が低下し培養液中の溶存酸素飽和度の低下が抑制される変異を有していてもよい。具体例としては、配列番号3、5、7、9、11、13、15のいずれかで表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの変異が挙げられる。
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つpredicted proteinのEGR50654として登録されている。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCenserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から95番目〜277番目のアミノ酸残基はMiddle domain of eukaryotic initiation factor 4Gドメイン(以降MIF4Gドメインと記載する。)、N末端側から380番目〜485番目のアミノ酸残基はMA−3ドメインを有すると開示されている。MIF4GおよびMA−3の両ドメインは、DNAまたはRNAに結合する機能を有することが知られている(Biochem.44,12265−12272(2005)、Mol.Cell.Biol.1,147−156(2007))。これらの記載により配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、少なくともDNAおよび/またはRNAに結合する機能を有すると推定される。
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号4で表される塩基配列が挙げられる。EGR50654の機能が低下または欠損する遺伝子変異とは、EGR50654が有するMIF4Gドメインおよび/またはMA−3ドメインの全欠損、MIF4Gドメインおよび/またはMA−3ドメインの一部欠損、MIF4GドメインとMA−3ドメインとの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下または欠損させることができる。配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号4で表される塩基配列において、1039番目から1044番目のいずれかの塩基が欠失する変異が挙げられる。
配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損することにより、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損しないトリコデルマ・リーセイと比較し、タンパク質の生産性が向上する。
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つpredicted proteinのEGR44419として登録されている。配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCenserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から26〜499番目のアミノ酸残基は「Sugar(and other) Transporterドメインを有すると開示されている。この記載により配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、少なくとも菌体の内側と外側の間における糖の輸送に関与していると推定される。
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号6で表される塩基配列が挙げられる。EGR44419の機能が低下または欠損する遺伝子変異とは、EGR44419が有するSugar(and other) Transporterドメインの全欠損、Sugar(and other) Transporterドメインの一部欠損、Sugar(and other) Transporterドメインの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下または欠損させることができる。配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号6で表される塩基配列での1415番目に11塩基が挿入する変異が挙げられる。
配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損することにより、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損しないトリコデルマ・リーセイと比較し、タンパク質の生産性およびβ−グルコシダーゼの比活性が向上する。
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つbeta−adaptin large subunitのEGR48910として登録されている。配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、真核生物に広く保存されているクラスリンと結合する細胞内外や菌体内外の輸送に関与する小胞を構成するアダプタープロテインを構成するタンパク質のひとつである(Proc.Nati.Acad.Sci.USA.101,14108−14113(2004))。
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号8で表される塩基配列が挙げられる。EGR48910の遺伝子変異とは、配列番号8で表される塩基配列での1080番目の塩基であるシトシンのアデニンへの変異が挙げられる。
配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド内に変異を有することにより、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド内に変異を有さないトリコデルマ・リーセイと比較し、液体培養時の培養液の粘性が低下する。
配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つpredicted proteinのEGR45828として登録されている。配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCenserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から86〜186番目のアミノ酸残基はheat shock factor(HSF)−type DNA−bindingドメインと開示されている。HSF−type DNA−bindingドメインは、ヒートショックプロテインの発現を制御する転写因子であるHSFをコードする遺伝子の上流域に結合する機能を有することが知られている(Cell,65(3),363−366(1991))。
配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号10で表される塩基配列が挙げられる。EGR45828の機能が低下または欠損する遺伝子変異とは、EGR45828が有するHSF−type DNA−bindingドメインの全欠損、HSF−type DNA−bindingドメインの一部欠損、HSF−type DNA−bindingドメインの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下または欠損させることができる。配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号10で表される塩基配列において、85番目にグアニン1塩基が挿入するフレームシフトを引き起こす変異が挙げられる。
配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損することにより、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損しないトリコデルマ・リーセイと比較し、タンパク質の生産性が向上する。
配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つpredicted protein(EGR47155)としても登録されている。配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCenserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から362番目〜553番目のアミノ酸残基はTLDドメインと開示されている。TLDドメインは機能未知である。配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号12で表される塩基配列が挙げられる。EGR47155の機能が低下または欠損する遺伝子変異とは、EGR47155が有するTLDドメインの全欠損、TLDドメインの一部欠損、TLDドメインの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下または欠損させることができる。配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号12で表される塩基配列において、6番目に配列番号13で表される46塩基が挿入するフレームシフト変異が挙げられる。
配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損することにより、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損しないトリコデルマ・リーセイと比較し、タンパク質の生産性が向上する。
配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つpredicted protein(EGR48056)としても登録されている。配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは機能未知のポリペプチドであるが、National Center for Biotechnology InformationのCenserved Domain Architecture Retrieval Toolによれば、N末端側から130番目〜172番目のアミノ酸残基はF−boxドメインと開示されている。F−boxドメインは、細胞周期を制御するタンパク質内に見られるドメインであることが知られている(Proc.Natl.Acad.Sci.,95,2417−2422(1998))。配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号15で表される塩基配列が挙げられる。EGR48056の機能が低下または欠損する遺伝子変異とは、EGR48056が有するF−boxドメインの全欠損、F−boxドメインの一部欠損、F−boxドメインの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下または欠損させることができる。配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号15で表される塩基配列において、499番目のシトシンが一塩基欠損するフレームシフト変異が挙げられる。配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損することにより、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損しないトリコデルマ・リーセイと比較し、タンパク質の生産性が向上する。
配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドは、トリコデルマ・リーセイが有するポリペプチドであり、National Center for Biotechnology Informationでは、トリコデルマ・リーセイ QM6a株が持つglycosyltransferase family 41,partial(EGR46476)としても登録されている。glycosyltransferase family 41は、2量体の複合体で構成されているタンパク質(The EMBO Journal,27,2080−2788(2008))であり、翻訳直後の新生タンパク質がゴルジ複合体を通過する過程において、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)をアミノ酸残基であるセリンまたはスレオニン残基に転移させる機能(Biochemistry,Fourth edition,11,280−281(1995))を有している。配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする遺伝子の具体例として、配列番号17で表される塩基配列が挙げられる。
EGR46476の機能が低下または欠損する遺伝子変異とは、EGR46476が有するglycosyltransferase family 41,partialの全欠損、glycosyltransferase family 41,partialの一部欠損、glycosyltransferase family 41,partialの立体配置関係の変化する遺伝子変異が挙げられる。さらに、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの発現量の低下や消失させる変異を導入することによっても当該ポリペプチドの機能を低下または欠損させることができる。配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損する具体例としては、配列番号17で表される塩基配列において、6261番目のシトシンがアデニンへ変異することによりストップコドンが挿入する変異が挙げられる。配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損することにより、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が低下または欠損しないトリコデルマ・リーセイと比較し、タンパク質の生産性が向上する。
また、本発明は前記変異株を培養する工程を含むタンパク質の製造方法に関する。
培養方法は特に限定されず、例えば遠沈管、フラスコ、ジャーファーメンター、タンクなどを用いた液体培養や、プレートなどを用いた固体培養などで培養することができる。トリコデルマ・リーセイは、好気的条件で培養することが好ましく、これらの培養方法の中でも、特にジャーファーメンターや、タンク内に通気や撹拌を行いながら培養する深部培養が好ましい。通気量は、0.1〜2.0vvm程度が好ましく、0.3〜1.5vvmがより好ましく0.5〜1.0vvmが特に好ましい。培養温度は、25〜35℃程度が好ましく、25〜31℃がより好ましい。培養におけるpHの条件は、pH3.0〜7.0が好ましく、pH4.0〜6.0がより好ましい。培養時間は、タンパク質が生産される条件で、回収可能な量のタンパク質が蓄積されるまで行う。通常、24〜288時間、好ましくは24〜240時間、より好ましくは36〜240時間、さらに好ましくは36〜192時間である。
本発明で製造するタンパク質は特に制限はないが、菌体外に分泌されるタンパク質を効率的に製造することができ、中でも好ましくは酵素であり、より好ましくはセルラーゼ、アミラーゼ、インベルターゼ、キチナーゼ、ペクチナーゼ等の糖化酵素であり、さらに好ましくはセルラーゼである。
本発明で製造されるセルラーゼには、様々な加水分解酵素が含まれており、キシラン、セルロース、ヘミセルロースに対する分解活性を持つ酵素などが含まれている。具体例としては、セルロース鎖の加水分解によりセロビオースを製造するセロビオハイドラーゼ(EC 3.2.1.91)、セルロース鎖の中央部分から加水分解するエンドグルカナーゼ(EC 3.2.1.4)、セロオリゴ糖およびセロビオースを加水分解するβ−グルコシダーゼ(EC 3.2.1.21)、ヘミセルロースや特にキシランに作用することを特徴とするキシラナーゼ(EC 3.2.1.8)、キシロオリゴ糖を加水分解するβ−キシロシダーゼ(EC 3.2.1.37)などが挙げられる。
本発明のトリコデルマ・リーセイ変異株が親株と比較してタンパク質の製造能が向上していることや、セルラーゼの比活性が向上していることは、変異株および親株を同じ条件で培養して得られる培養液を以下の方法により測定されるタンパク質濃度やβ−グルコシダーゼ比活性、β−キシロシダーゼ比活性およびセロビオハイドロラーゼ比活性からなる群から選択されるいずれか1種以上の比活性の比較により確認する。
タンパク質濃度は、変異株および親株の培養液を15,000×gで10分間遠心分離して得られた上清を希釈し、Quick Start Bradford プロテインアッセイ(Bio−Rad社製)250μLに希釈した上清を5μL添加し、室温で15分間静置後の595nmで用いる吸光度を測定する。牛血清アルブミン溶液を標準液とし、検量線に基づいて糖化酵素溶液に含まれるタンパク質濃度を算出する。
β−グルコシダーゼ比活性は、前記培養液上清に、まず、1mMのp−ニトロフェニル−β−グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加して30℃で10分間反応させる。次に2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に1分間あたり1μmolのp−ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとして比活性を算出する。
β−キシロシダーゼ比活性は、前記培養液上清に、まず、1mMのp−ニトロフェニル−β−キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で30分間反応させ、次に、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に1分間あたり1μmolのp−ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとして比活性を算出する。
セロビオハイドロラーゼ比活性は、前記培養液上清に、まず、1mMのp−ニトロフェニル−β−ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)を含有する50mM酢酸バッファー90μLに酵素希釈液10μLを添加し30℃で60分間反応させ、次に、2M炭酸ナトリウム10μLを加えてよく混合して反応を停止し、405nmの吸光度の増加を測定する。最後に、1分間あたり1μmolのp−ニトロフェノールを遊離する活性を1Uとして比活性を算出する。本発明の変異株の培養工程に用いる培地の組成は、トリコデルマ・リーセイがタンパク質を製造できるような培地組成となっていれば特に制限はなく、トリコデルマ属菌の周知の培地組成を採用することができる。窒素源としては、例えば、ポリペプトン、肉汁、CSL、大豆かすなどを用いることができる。また、培地には、タンパク質を製造させるための誘導物質を添加してもよい。
本発明によりセルラーゼを製造する場合には、培地にラクトース、セルロースおよびキシランからなる群から選択される少なくとも1種類または2種類以上の誘導剤を含む培地で培養することができる。また、セルロースやキシランは、セルロースやキシランを含むバイオマスを誘導物質として添加してもよい。セルロールやキシランを含有するバイオマスの具体例としては、種子植物、シダ植物、コケ植物、藻類、水草などの植物の他、廃建材なども用いることができる。種子植物は、裸子植物と被子植物に分類されるが、どちらも好ましく用いることができる。被子植物はさらに単子葉植物と双子葉植物に分類されるが、単子葉植物の具体例としては、バガス、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、コーンコブ、稲わら、麦わらなどが挙げられ、双子葉植物の具体例としては、ビートパルプ、ユーカリ、ナラ、シラカバなどが好ましく用いられる。
また、セルロースやキシランを含むバイオマスは、前処理されたものを用いてもよい。前処理方法は特に限定されないが、例えば、酸処理、硫酸処理、希硫酸処理、アルカリ処理、水熱処理、亜臨界処理、微粉砕処理、蒸煮処理、など公知の手法を用いることができる。このような前処理をされたセルロールやキシランを含むバイオマスとして、パルプを用いてもよい。
前記変異株を培養した培養液に含まれるタンパク質を回収する方法は特に限定されないが、前記変異株の菌体を培養液から除去し、タンパク質を回収することができる。菌体の除去方法としては、遠心分離法、膜分離法、フィルタープレス法などが例として挙げられる。
また、前記変異株を培養した培養液から菌体を除去せずに、タンパク質の溶解液として利用する場合には、培養液中でトリコデルマ・リーセイの変異株が生育できないように処理することが好ましい。菌体が生育できないように処理する方法としては、熱処理、薬剤処理、酸・アルカリ処理、UV処理などが挙げられる。
タンパク質が酵素の場合には、上記のように菌体を除去又は生育していないように処理した培養液を、そのまま酵素液として利用することができる。
また、製造対象であるタンパク質がセルラーゼの場合には、当該セルラーゼを用いて、セルロース含有バイオマスを糖化して、糖を製造することができる。また、前記変異株を培養して得られるセルラーゼは、前記変異導入前の親株を培養して得られるセルラーゼと比較して特にβ−グルコシダーゼの比活性が高いため、効率的にセルロース含有バイオマスを分解してグルコース濃度の高い糖液を得ることができ、より多くの糖を得ることができる。
本発明で用いるセルロース含有バイオマスは、上記の誘導剤として記載したセルロースを含むバイオマスと同様のバイオマスや、前処理されたバイオマスを用いることができる。
糖化反応の条件は、特に限定されないが、糖化反応の温度は、25〜60℃の範囲であることが好ましく、特に30〜55℃の範囲であることがより好ましい。糖化反応の時間は、2時間〜200時間の範囲であることが好ましい。糖化反応のpHは、pH3.0〜7.0の範囲が好ましく、pH4.0〜6.0の範囲であることがさらに好ましい。トリコデルマ属由来セルラーゼの場合、その反応最適pHは5.0である。さらに、加水分解の過程でpHの変化が起きるため、反応液に緩衝液を添加する、あるいは酸やアルカリを用いて一定pHを保持しながら実施することが好ましい。
糖化液から酵素を分離回収する場合には、糖化液を限外ろ過膜などでろ過し、非透過側に回収することができる、必要に応じてろ過の前工程として、糖化液から固形分を取り除いておいてもよい。回収した酵素は、再び糖化反応に用いることができる。
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
<参考例1>タンパク質濃度測定条件
使用するタンパク質濃度測定試薬:Quick Start Bradfordプロテインアッセイ、Bio−Rad製
測定条件
測定温度:室温
タンパク質濃度測定試薬:250μL
糸状菌の培養液:5μL
反応時間:5分
吸光度:595nm
標準品:BSA。
使用するタンパク質濃度測定試薬:Quick Start Bradfordプロテインアッセイ、Bio−Rad製
測定条件
測定温度:室温
タンパク質濃度測定試薬:250μL
糸状菌の培養液:5μL
反応時間:5分
吸光度:595nm
標準品:BSA。
<参考例2>セルラーゼの比活性の測定条件
(β−グルコシダーゼ比活性の測定条件)
基質:p−ニトロフェニル−β−グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp−ニトロフェニル−β−グルコピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
(β−グルコシダーゼ比活性の測定条件)
基質:p−ニトロフェニル−β−グルコピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp−ニトロフェニル−β−グルコピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
(β−キシロシダーゼ比活性の測定条件)
基質:p−ニトロフェニル−β−キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp−ニトロフェニル−β−キシロピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
基質:p−ニトロフェニル−β−キシロピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp−ニトロフェニル−β−キシロピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
(セロビオハイドロラーゼ比活性の測定条件)
基質:p−ニトロフェニル−β−ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp−ニトロフェニル−β−ラクトピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
基質:p−ニトロフェニル−β−ラクトピラノシド(シグマアルドリッチジャパン社製)
反応液:1mMのp−ニトロフェニル−β−ラクトピラノシドを含有する50mM酢酸バッファー90μL
酵素希釈液:10μL
反応温度:30℃
反応時間:10分間
反応停止剤:2M炭酸ナトリウム10μL
吸収度:405nm。
<参考例3>セルロース含有バイオマスの糖化試験
セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800(レッテンマイヤー社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスを用いた。酵素液としては、トリコデルマ・リーセイまたはトリコデルマ・リーセイ変異株の培養液を1mL採取して遠心分離し、菌体を除去した上清を回収し、さらに0.22μmのフィルターでろ過したろ液を用いた。
セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800(レッテンマイヤー社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスを用いた。酵素液としては、トリコデルマ・リーセイまたはトリコデルマ・リーセイ変異株の培養液を1mL採取して遠心分離し、菌体を除去した上清を回収し、さらに0.22μmのフィルターでろ過したろ液を用いた。
(糖化反応)
糖化反応の緩衝液として1M 酢酸ナトリウムバッファー100μL、雑菌の繁殖防止として50g/L エリスロマイシン溶液2μL、糖化対象物として、Arbocel(登録商標)B800(レッテンマイヤー株式会社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスをそれぞれ0.1g用いた。また、酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を用いたフラスコ培養により得られた酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は450μL、粉末バガスを糖化対象物とした場合は400μL用いた。ラクトースを用いたフラスコ培養により得られた酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は350μL、粉末バガスを糖化対象物とした場合は400μLそれぞれ添加し、計1mLになるよう滅菌水でメスアップしたものを2mLチューブに入れた。50℃の温度条件で24時間糖化反応を行い、糖化物を遠心分離した上清を糖化液として回収し、回収した糖化液の10分の1量の1N NaOH溶液を添加して、酵素反応を停止させた。反応停止後の糖化液中のグルコース濃度を下記に示すUPLCで測定した。
糖化反応の緩衝液として1M 酢酸ナトリウムバッファー100μL、雑菌の繁殖防止として50g/L エリスロマイシン溶液2μL、糖化対象物として、Arbocel(登録商標)B800(レッテンマイヤー株式会社製)または平均粒径100μmに粉末化したバガスをそれぞれ0.1g用いた。また、酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を用いたフラスコ培養により得られた酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は450μL、粉末バガスを糖化対象物とした場合は400μL用いた。ラクトースを用いたフラスコ培養により得られた酵素液は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は350μL、粉末バガスを糖化対象物とした場合は400μLそれぞれ添加し、計1mLになるよう滅菌水でメスアップしたものを2mLチューブに入れた。50℃の温度条件で24時間糖化反応を行い、糖化物を遠心分離した上清を糖化液として回収し、回収した糖化液の10分の1量の1N NaOH溶液を添加して、酵素反応を停止させた。反応停止後の糖化液中のグルコース濃度を下記に示すUPLCで測定した。
(グルコース濃度の測定)
グルコースは、ACQUITY UPLC システム(Waters)を用いて、以下の条件で定量分析した。グルコースの標品で作製した検量線をもとに、定量分析した。
カラム:AQUITY UPLC BEH Amide 1.7μm 2.1×100mm Column
分離法:HILIC
移動相:移動相A:80%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液、移動相B:30%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液とし、下記グラジエントに従った。グラジエントは下記の時間に対応する混合比に到達する直線的なグラジエントとした。
開始条件:(A99.90%、B0.10%)、開始2分後:(A96.70%、B3.30%)、開始3.5分後:(A95.00%、B5.00%)、開始3.55分後:(A99.90%、B0.10%)、開始6分後:(A99.90%、B0.10%)。
検出方法:ELSD(蒸発光散乱検出器)
流速:0.3mL/min
温度:55℃。
グルコースは、ACQUITY UPLC システム(Waters)を用いて、以下の条件で定量分析した。グルコースの標品で作製した検量線をもとに、定量分析した。
カラム:AQUITY UPLC BEH Amide 1.7μm 2.1×100mm Column
分離法:HILIC
移動相:移動相A:80%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液、移動相B:30%アセトニトリル、0.2%TEA水溶液とし、下記グラジエントに従った。グラジエントは下記の時間に対応する混合比に到達する直線的なグラジエントとした。
開始条件:(A99.90%、B0.10%)、開始2分後:(A96.70%、B3.30%)、開始3.5分後:(A95.00%、B5.00%)、開始3.55分後:(A99.90%、B0.10%)、開始6分後:(A99.90%、B0.10%)。
検出方法:ELSD(蒸発光散乱検出器)
流速:0.3mL/min
温度:55℃。
<実施例1>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドを欠損させたトリコデルマ・リーセイの変異株の作製
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする配列番号1で表される遺伝子を選択マーカーとしてアセトアミド、選択マーカー遺伝子としてアセトアミドを分解することができるアセトアミダーゼ遺伝子(amdS)と置き換えることで破壊する。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を欠損させるため、配列番号18で表される遺伝子配列からなるDNA断片を作製し、当該DNA断片をトリコデルマ・リーセイ QM9414株に形質転換して配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株を作製する。この方法により、配列番号1で表される塩基配列が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株が得られる。amdSを含むDNA配列の上流および下流に、上記の配列番号1で表される塩基配列からなるDNA断片を導入するために、トリコデルマ・リーセイ QM9414株の遺伝子配列と相同的な部分を付加するように変異導入用プラスミドを作製する。
配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株は、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドをコードする配列番号1で表される遺伝子を選択マーカーとしてアセトアミド、選択マーカー遺伝子としてアセトアミドを分解することができるアセトアミダーゼ遺伝子(amdS)と置き換えることで破壊する。配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能を欠損させるため、配列番号18で表される遺伝子配列からなるDNA断片を作製し、当該DNA断片をトリコデルマ・リーセイ QM9414株に形質転換して配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株を作製する。この方法により、配列番号1で表される塩基配列が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株が得られる。amdSを含むDNA配列の上流および下流に、上記の配列番号1で表される塩基配列からなるDNA断片を導入するために、トリコデルマ・リーセイ QM9414株の遺伝子配列と相同的な部分を付加するように変異導入用プラスミドを作製する。
具体的には、トリコデルマ・リーセイ QM9414株から定法に従って抽出したゲノムDNAと配列番号19および20で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素PacIとNotIで処理したDNA断片を上流DNA断片とする。また、配列番号21および22で表されるオリゴDNAを用いてPCRをし、得られた増幅断片を制限酵素MluIとSpeIで処理したDNA断片を下流DNA断片とする。そして、上流及び下流DNA断片をPacIとNotI、MluIとSpeIの制限酵素をそれぞれ用いてamdSが挿入されたプラスミドへ導入し、変異導入用プラスミドを構築する。そして、変異導入用プラスミドを制限酵素PacIとSpeIで処理し、配列番号18で示す得られたDNA断片でトリコデルマ・リーセイ QM9414株を形質転換する。分子生物学的手法は、Molecular cloning,laboratory manual,1st,2nd,3rd(1989)の記載通りに行う。また、形質転換は、標準的な手法であるプロトプラスト−PEG法を用い、具体的にはGene,61,165−176(1987)の記載通りに行う。
(変異株の作製・評価)
前述の方法に従って取得したトリコデルマ・リーセイの変異株をトリコデルマ・リーセイ 変異株Iとして、以下のタンパク質製造試験並びにタンパク質濃度およびセルラーゼ比活性測定の実験に用いた。
前述の方法に従って取得したトリコデルマ・リーセイの変異株をトリコデルマ・リーセイ 変異株Iとして、以下のタンパク質製造試験並びにタンパク質濃度およびセルラーゼ比活性測定の実験に用いた。
<実施例2>トリコデルマ・リーセイ変異株の培養試験
(前培養)
実施例1で作製したトリコデルマ・リーセイの変異株の胞子を1.0×107/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液2.5mLを表1に示した1Lバッフル付フラスコへ入れた250mLの前培養培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて72時間培養を行う。コントロールとして、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を用い、以下同様の実験操作を行う。
(前培養)
実施例1で作製したトリコデルマ・リーセイの変異株の胞子を1.0×107/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液2.5mLを表1に示した1Lバッフル付フラスコへ入れた250mLの前培養培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて72時間培養を行う。コントロールとして、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を用い、以下同様の実験操作を行う。
(本培養)
Arbocel B800(レッテンマイヤー社)を表2で示した本培養培地に添加し、5Lジャーファーメンター(バイオット社製)を用い、深部培養検討を行う。
Arbocel B800(レッテンマイヤー社)を表2で示した本培養培地に添加し、5Lジャーファーメンター(バイオット社製)を用い、深部培養検討を行う。
トリコデルマ・リーセイ QM9414株および実施例1で作製したトリコデルマ・リーセイの変異株の前培養液200mLをArbocel B800が添加された本培養培地2.5Lに接種する。
培養条件は、本培養培地に前培養培地を接種後、28℃、700rpm、通気量100mL/minの培養条件にて、pH5.0に制御しながら深部培養を行う。
(培養液の採取)
培養開始120時間経過後にそれぞれ20mLの培養液を採取する。採取した培養液の1部は、15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得る。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液をセルラーゼ溶液として、以下の実験に用いる。
培養開始120時間経過後にそれぞれ20mLの培養液を採取する。採取した培養液の1部は、15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得る。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液をセルラーゼ溶液として、以下の実験に用いる。
(タンパク質濃度の測定)
参考例1の条件で、培養開始120時間経過時に採取した培養液におけるタンパク質濃度を測定する。その結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株の培養液におけるタンパク質濃度は、トリコデルマ・リーセイ QM9414株の培養液におけるタンパク質濃度と比較して高くなる。
参考例1の条件で、培養開始120時間経過時に採取した培養液におけるタンパク質濃度を測定する。その結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株の培養液におけるタンパク質濃度は、トリコデルマ・リーセイ QM9414株の培養液におけるタンパク質濃度と比較して高くなる。
(酵素活性の測定)
参考例2の条件で、培養開始120時間経過時に採取した培養液におけるセルラーゼの比活性として、β−グルコシダーゼ、β−キシロシダーゼ、セロビオハイドラーゼの比活性をそれぞれ測定する。比活性は、405nmの吸光度の増加を測定し、1分間あたり1μmolの基質を遊離する活性を1Uとして算出する。その結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株の培養液における上記3種類の比活性は、トリコデルマ・リーセイ QM9414株の培養液における比活性と比較して高くなる。
参考例2の条件で、培養開始120時間経過時に採取した培養液におけるセルラーゼの比活性として、β−グルコシダーゼ、β−キシロシダーゼ、セロビオハイドラーゼの比活性をそれぞれ測定する。比活性は、405nmの吸光度の増加を測定し、1分間あたり1μmolの基質を遊離する活性を1Uとして算出する。その結果、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株の培養液における上記3種類の比活性は、トリコデルマ・リーセイ QM9414株の培養液における比活性と比較して高くなる。
(フラスコ培養)
実施例1で作製したトリコデルマ・リーセイ 変異株Iの胞子を、1.0×107/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液0.1mLを表3に示したArbocel(登録商標) B800(レッテンマイヤー社)またはラクトースが含まれる50mLバッフル付フラスコへ入れた10mLのフラスコ培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて120時間培養を行った。
実施例1で作製したトリコデルマ・リーセイ 変異株Iの胞子を、1.0×107/mLになるように生理食塩水で希釈し、その希釈胞子溶液0.1mLを表3に示したArbocel(登録商標) B800(レッテンマイヤー社)またはラクトースが含まれる50mLバッフル付フラスコへ入れた10mLのフラスコ培地へ接種させ、振盪培養機にて28℃、120rpmの条件にて120時間培養を行った。
また、変異株Iの変異導入前の親株であるトリコデルマ・リーセイ QM9414株についても比較対象として前述の方法に従って120時間培養を行った。
(培養液の採取)
フラスコ培養開始120時間後に1mL培養液を採取した。培養液を15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得た。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液を以下の各種実験に用いた。
フラスコ培養開始120時間後に1mL培養液を採取した。培養液を15,000×g、4℃の条件下で10分間遠心分離を行い、上清を得た。その上清を0.22μmのフィルターでろ過し、そのろ液を以下の各種実験に用いた。
(タンパク質濃度の測定)
Arbocel(登録商標) B800を用いた培養では、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を培養した培養液に含まれるタンパク質濃度を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.2であり、変異株のタンパク質製造能は親株よりも向上することを確認した。
Arbocel(登録商標) B800を用いた培養では、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を培養した培養液に含まれるタンパク質濃度を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.2であり、変異株のタンパク質製造能は親株よりも向上することを確認した。
ラクトースを用いた培養でも、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を培養した培養液に含まれるタンパク質濃度を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iの培養液に含まれるタンパク質濃度の相対値は1.2であり、変異株のタンパク質製造能は親株よりも向上することを確認した。
(セルラーゼ各種比活性の測定)
Arbocel(登録商標) B800を用いた培養では、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を培養した培養液のセルラーゼの各種比活性を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iを培養した培養液のセルラーゼの各種比活性の相対値は、β−グルコシダーゼ比活性は1.4、β−キシロシダーゼ比活性は1.5、セロビオハイドロラーゼ比活性は1.8であり、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果が得られることを確認した。
Arbocel(登録商標) B800を用いた培養では、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を培養した培養液のセルラーゼの各種比活性を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iを培養した培養液のセルラーゼの各種比活性の相対値は、β−グルコシダーゼ比活性は1.4、β−キシロシダーゼ比活性は1.5、セロビオハイドロラーゼ比活性は1.8であり、セルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果が得られることを確認した。
ラクトースを用いた培養でも、トリコデルマ・リーセイ QM9414株を培養した培養液のセルラーゼの各種比活性を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iを培養した培養液のセルラーゼの各種比活性の相対値は、β−グルコシダーゼ比活性は1.4、β−キシロシダーゼ比活性は2.0、セロビオハイドロラーゼ比活性は1.6でありセルラーゼの各種比活性も向上するという予想外の効果が得られることを確認した。
(糖化反応試験)
参考例3で記載した手法に従い、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iのフラスコ培養開始から120時間目の培養液をセルラーゼとして用いて、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800または粉末バガスを用いた。
参考例3で記載した手法に従い、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iのフラスコ培養開始から120時間目の培養液をセルラーゼとして用いて、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800または粉末バガスを用いた。
その結果、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合の糖化反応において、Arbocel(登録商標) B800を用いてフラスコ培養することにより得られたトリコデルマ・リーセイ QM9414株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iのセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は1.8、ラクトースを用いてフラスコ培養することにより得られたセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度の相対値も1.6であった。
粉末バガスを糖化対象物とした場合の糖化反応において、Arbocel(登録商標) B800を用いてフラスコ培養することにより得られたトリコデルマ・リーセイ QM9414株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iのセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は1.2、ラクトースを用いてフラスコ培養することにより得られたセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度の相対値も1.3であった。
この結果より、トリコデルマ・リーセイ 変異株Iが生産するセルラーゼは、親株が生産するセルラーゼよりも酵素活性に優れ、それによりセルロース含有バイオマスからのグルコースを製造する能力が優れることを確認した。
<実施例3>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチド内に変異を有するトリコデルマ・リーセイの変異株の作製その2
トリコデルマ・リーセイQM9414株の継代株であるQM9414−E株に対し、遺伝子変異処理を行って変異株であるQM9141−F株を取得した。遺伝子変異処理は、QM9414−E株の胞子を、表1に示す前培養培地1mLあたり1.0x105胞子になるよう接種し、前培養培地15mLを半日培養した後に遠心分離を行い、胞子を回収した。そして、回収した胞子をトリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)にて10mLの胞子溶液になるよう懸濁し、そこへトリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)で1.0g/Lになるよう溶解させたNTG溶液を0.5mL添加し、28℃、100分間、遺伝子変異処理を行った。遺伝子変異処理した胞子は、遠心分離にて回収した後に、トリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)で3回洗浄し、最終的にトリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)10mLにて懸濁したものを遺伝子変異処理胞子とした。
トリコデルマ・リーセイQM9414株の継代株であるQM9414−E株に対し、遺伝子変異処理を行って変異株であるQM9141−F株を取得した。遺伝子変異処理は、QM9414−E株の胞子を、表1に示す前培養培地1mLあたり1.0x105胞子になるよう接種し、前培養培地15mLを半日培養した後に遠心分離を行い、胞子を回収した。そして、回収した胞子をトリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)にて10mLの胞子溶液になるよう懸濁し、そこへトリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)で1.0g/Lになるよう溶解させたNTG溶液を0.5mL添加し、28℃、100分間、遺伝子変異処理を行った。遺伝子変異処理した胞子は、遠心分離にて回収した後に、トリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)で3回洗浄し、最終的にトリス−マレイン酸バッファー(pH6.0)10mLにて懸濁したものを遺伝子変異処理胞子とした。
その遺伝子変異処理胞子を、結晶セルロースを添加して調製した寒天培地へ添加し、コロニー周囲に生じるセルラーゼによる結晶セルロース分解領域であるハロの大きさを指標とし、ハロの大きかったQM9414−F株を選抜した。
QM9414−E株とQM9414−F株の遺伝子解析を行ったところ、QM9414−E株では配列番号1で表される塩基配列が保持されていたが、QM9414−F株では配列番号1で表される塩基配列の2588番目のシトシンがチミンへ変異していた。当該変異は、配列番号1で表される塩基配列がコードする配列番号2で表されるアミノ酸配列の677番目のセリン残基をフェニルアラニン残基へ変異させる変異である。
<実施例4>配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損したトリコデルマ・リーセイの変異株を用いたタンパク質の製造試験
(タンパク質濃度とセルラーゼ各種比活性の測定)
実施例3で取得したQM9414−F株について、実施例2と同様の方法で培養を行い、参考例1と参考例2の条件で、培養開始から120時間経過時の培養液におけるタンパク質濃度とセルラーゼの比活性を測定した。コントロールには、QM9414−E株を用いた。結果を表3に示す。
(タンパク質濃度とセルラーゼ各種比活性の測定)
実施例3で取得したQM9414−F株について、実施例2と同様の方法で培養を行い、参考例1と参考例2の条件で、培養開始から120時間経過時の培養液におけるタンパク質濃度とセルラーゼの比活性を測定した。コントロールには、QM9414−E株を用いた。結果を表3に示す。
これらの結果、QM9414−E株と比較して、QM9414−F株は、2.6倍培養液中のタンパク質濃度が高くなった。また、QM9414−E株と比較して、QM9414−F株の各種比活性は、β−グルコシダーゼは3.1倍、β−キシロシダーゼは1.5倍、セロビオハイドロラーゼは2.0倍高くなった。
(糖化反応試験)
参考例3で記載した手法に従い、トリコデルマ・リーセイ QM9414−F株の培養開始から120時間目の培養液をセルラーゼとして用いて、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800または粉末バガスを用いた。
参考例3で記載した手法に従い、トリコデルマ・リーセイ QM9414−F株の培養開始から120時間目の培養液をセルラーゼとして用いて、セルロース含有バイオマスの糖化反応試験を行った。セルロース含有バイオマスとして、Arbocel(登録商標) B800または粉末バガスを用いた。
その結果、トリコデルマ・リーセイ QM9414−E株のセルラーゼを用いた場合の糖化液に含まれるグルコース濃度を1とした場合、トリコデルマ・リーセイ QM9414−F株のセルラーゼを用いた場合の糖化液のグルコース濃度の相対値は、Arbocel(登録商標) B800を糖化対象物とした場合は1.1、粉末バガスを糖化対象物とした場合の糖化反応においては1.2であった。
この結果より、トリコデルマ・リーセイ QM9414−E株が生産するセルラーゼは、親株が生産するセルラーゼよりも酵素活性に優れ、それによりセルロース含有バイオマスからのグルコースを製造する能力が優れることを確認した。
Claims (6)
- 配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドの機能が欠損または低下する変異を有する、トリコデルマ・リーセイの変異株。
- 前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるポリペプチドのfungal transcription factor regulatory middle homology regionドメイン内でのアミノ酸残基の欠失、置換または付加の変異である、請求項1に記載の変異株。
- 前記変異が、配列番号2で表されるアミノ酸配列のN末端側から677番目のセリン残基のセリン以外のアミノ酸残基への変異である、請求項1または2に記載の変異株。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、タンパク質の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の変異株を培養する工程を含む、セルラーゼの製造方法。
- 請求項5に記載のセルラーゼの製造方法によりセルラーゼを製造する工程および前記工程で得られたセルラーゼを用いてセルロース含有バイオマスを糖化する工程を含む、糖の製造方法。
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WO (1) | WO2020075787A1 (ja) |
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WO2019188980A1 (ja) | 2018-03-26 | 2019-10-03 | 東レ株式会社 | トリコデルマ・リーセイ変異株およびタンパク質の製造方法 |
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- 2019-10-10 JP JP2019567762A patent/JPWO2020075787A1/ja active Pending
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Publication number | Publication date |
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WO2020075787A1 (ja) | 2020-04-16 |
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