以下、本発明にかかる実施の一形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において同一の符号を付した構成は、同一の構成であることを示し、適宜、その説明を省略する。また、本明細書において、総称する場合には添え字を省略した参照符号で示し、個別の構成を指す場合には添え字を付した参照符号で示す。
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態における格子の構成を示す斜視図である。図2は、第1実施形態における格子の製造工程を説明するための断面図である。
本実施形態の格子DGaは、図1および図2Cに示すように、基材11と、基材11の一方主面に形成された格子領域12aと、基材11の前記一方主面に対向する他方主面に形成された溝部13aとを備えている。
基材11は、所定の材料から形成された板状部材である。例えば、本実施形態では、格子DGaは、X線用に用いられることから、基材11は、X線を透過または吸収する特性を有する所定の材料から形成される。このように基材11は、格子DGaの使用用途に応じて適宜な材料で形成されてよい。そして、本実施形態では、微細加工技術が略確立されていることから、基材11は、X線を透過する特性を有するシリコン(Si)から形成されており、例えば、シリコンウェハである。
格子領域12aは、基材11の一方主面に形成され、互いに同じ形状の複数の部材を周期的に設けた領域である。格子領域12aは、図1に示すようにDxDyDzの直交座標系を設定した場合に、所定の厚さ(深さ)H(格子面DxDyに垂直なDz方向(格子面DxDyの法線方向)の長さ)を有して一方向(長尺方向)Dxに線状に延びる複数の金属部分121と、前記所定の厚さHを有して前記一方向Dxに線状に延びる複数のシリコン部分122とを備えている。すなわち、この金属部分121は、格子面DxDyにおいて前記一方向Dxに延びる長尺な線条形状となる板状または層状であって、前記格子面DxDyに直交するDxDz面に沿った板状または層状である。シリコン部分122は、格子面DxDyにおいて前記一方向Dxに延びる長尺な線条形状となる板状または層状であって、前記格子面DxDyに直交するDxDz面に沿った板状または層状である。
そして、これら複数の金属部分121と複数のシリコン部分122とは、前記格子面DxDyにおいて、前記一方向Dxに直交する方向(幅方向)Dyに交互に、前記幅方向Dyを法線とするDxDz面に平行に、配設される。このため、複数の金属部分121は、前記一方向Dxと直交する幅方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。言い換えれば、複数のシリコン部分122は、前記一方向Dxと直交する幅方向Dyに所定の間隔を空けてそれぞれ配設される。前記所定の間隔(ピッチ)Pは、本実施形態では、一定とされている。すなわち、複数の金属部分121(複数のシリコン部分122)は、前記幅方向Dyに等間隔Pでそれぞれ配設され、周期構造となっている。したがって、前記周期的に設けられた前記複数の部材は、金属部分121であると見てよく、あるいは、前記複数の部材は、シリコン部分122であると見てよく、さらに、あるいは、前記複数の部材は、シリコン部分122および金属部分121の組であると見てよい。
金属部分121は、シリコン部分122がX線を透過するように機能するために、X線に対し吸収または位相シフト等の作用を持つ金属で形成される。金属部分121の金属は、一態様として、X線を吸収するものが好適に選択され、例えば、原子量が比較的重い元素の金属や貴金属、より具体的には、例えば、金(Au)およびプラチナ(白金、Pt)等である。また、金属部分121は、例えば仕様に応じて充分にX線を吸収することができるように、適宜な厚さHとされている。この結果、金属部分121における幅Wに対する厚さHの比(アスペクト比=厚さ/幅)は、例えば、5以上の高アスペクト比とされている。金属部分121の幅Wは、前記幅方向Dyにおける金属部分121の長さであり、金属部分121の厚さHは、前記格子面DxDyの法線方向(深さ方向)Dzにおける金属部分121の長さである。
格子DGは、一態様として、X線に対する回折条件を満たすように、前記所定の間隔PをX線の波長に応じて適宜に設定することにより、回折格子として機能する。
なお、金属部分121は、金属に限定するものではなく、金属部分121とシリコン部分122が互いに異なる性質であって格子DGaの使用用途に応じた性質を有していれば、シリコン部分122と同様に、格子DGaの使用用途に応じて適宜な材料で形成されてよい。
溝部13aは、基材11の厚さを部分的に薄くするために、基材11の一方主面に対向する他方主面に形成された凹所である。溝部13aは、格子領域12aを形成した領域に対向する他方主面に形成される。溝部13aを基材11に形成することによって、基材11が部分的に肉薄となり、基材11を曲げ易くなる。したがって、溝部13aによって格子領域12aが湾曲し易くなる。そして、基材11が溝部13aで破断しない程度に曲げることによって、金属部分121の周期性やシリコン部分122の周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
溝部13aは、基材11、すなわち、格子領域12aの格子面の曲げ量に応じて、適宜な個数および適宜な大きさ(例えば幅wおよび深さh)で基材11に設けられる。図1に示す例では、3個の溝部13a−1〜13a−3が基材11に形成されている。この図1に示す例では、金属部分121およびシリコン部分122のそれぞれが、前記格子面DxDyにおいて前記一方向Dxに延びる長尺な線条形状となる板状または層状であり、前記一方向Dxに直交する幅方向Dyに周期性を有する周期構造であることから、溝部13aは、この線条形状の長尺な前記一方向Dxに沿って長尺に形成されたスリット状であり、そして、金属部分121およびシリコン部分122のそれぞれが、前記格子面DxDyの法線方向Dzに所定の深さHで、前記幅方向Dyに所定の幅Wで形成されていることから、溝部13aは、この法線方向Dzに所定の深さhで、この幅方向Dyに所定の幅wで形成されている。したがって、溝部13aは、図1に示す例では、前記格子面DxDyにおいて前記一方向Dxに延びる長尺な線条形状となる層状の凹所であって、前記格子面DxDyに直交するDxDz面に沿った層状の凹所である。
このような格子DGaは、例えば、次の各工程を経ることによって製造される。より具体的には、本実施形態の格子DGaを製造するために、まず、シリコンウェハ等のシリコンによって形成された基板である基材11が用意される(図2A)。
次に、互いに同じ形状の複数の部材を周期的に設けた格子領域12aが基材11の一方主面に形成される(図2B、格子領域形成工程)。前記複数の部材は、上述したように、本実施形態では、金属部分121およびシリコン部分122である。
このような格子領域12aは、例えば、国際公開WO2012/008118号公報、国際公開WO2012/008119号公報、国際公開WO2012/008120号公報、国際公開WO2012/086121号公報および特開2012−127685号公報等に開示された公知の手法を用いて製造することができる。一例を挙げると、このような格子は、例えば、第1シリコン層と前記第1シリコン層に付けられた前記第1シリコン層よりも高抵抗な第2シリコン層とを備える基板(本実施形態の基材11に対応する)における前記第2シリコン層の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、リソグラフィー法によって前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記第2シリコン層を前記第1シリコン層に少なくとも到達するまでエッチングしてスリット溝を形成するエッチング工程と、電鋳法によって、前記第1シリコン層に電圧を印加して前記スリット溝を金属で埋める電鋳工程とを実施することによって、製造される。また例えば、このような格子領域12aは、シリコン基板(本実施形態の基材11に対応する)の主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応する前記シリコン基板をエッチングして所定の深さの凹部を形成するエッチング工程と、熱酸化法によって、前記シリコン基板における前記凹部の内表面に絶縁層を形成する絶縁層形成工程と、前記凹部の底部に形成された前記絶縁層の部分を除去する除去工程と、電鋳法によって、前記シリコン基板に電圧を印加して前記凹部を金属で埋める電鋳工程とを実施することによって、製造される。
なお、前記エッチング工程における前記エッチング法は、シリコンの基材11を略垂直にエッチングすることができることから、ボッシュ(Bosch)プロセスであることが好ましい。このボッシュプロセスは、SF6プラズマがリッチな状態と、C4F8プラズマがリッチな状態とを交互に繰り返すことで、エッチングによって形成される凹所における側壁の保護と前記凹所における底面のエッチングとを交互に進行させるエッチング方法である。
次に、前記基材11の一方主面に対向する他方主面に溝部13aが形成される(図2C、溝部形成工程)。このような溝部13aは、例えば、基材11の途中まで切り込みを入れるように、ブレードでブレードダイシングを行うことによって形成される。また例えば、溝部13aは、格子領域12aと同様に、シリコンの基材11の他方主面上にレジスト層を形成するレジスト層形成工程と、前記レジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去するパターニング工程と、ドライエッチング法によって前記レジスト層を除去した部分に対応するシリコンの基材11をエッチングして所定の深さhであって所定の幅wである凹部を形成するエッチング工程とによって、形成される。
このような格子領域形成工程および溝部形成工程を実施することによって、図1に示す本実施形態における湾曲可能な格子DGaが製造される。
そして、このように製造された湾曲可能な格子DGaに対し、溝部形成工程の後に、さらに、格子面DxDyを所定の曲率半径を有する所定の曲面に沿わせるために、図2Dに示すように、格子領域12aの格子面DxDyを曲げる曲げ工程が実施されてもよい。この曲げ工程では、格子DGaの両端を支持して曲げてよい。この曲げ工程の実施によって、湾曲した格子が提供される。
本実施形態における格子DGaおよびその製造方法は、格子領域12aを形成した一方主面に対向する他方主面に溝部13aを備えるので、この溝部13aの部分で基材11の厚さが薄くなる。このため、格子DGaは、この基材11が肉薄となった溝部13aの部分で、曲がり易くなる。したがって、上記構成の格子DGaは、湾曲可能である。そして、上記構成の格子DGaは、湾曲可能であるので、前記複数の部材、本実施形態では金属部分121の周期性やシリコン部分122の周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
次に、別の実施形態について説明する。
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態における格子の構成を示す斜視図である。図4は、第2実施形態における格子の製造工程を説明するための断面図である。
第2実施形態における格子DGbは、第1実施形態における格子DGaにおいて、保持部材14をさらに備えている。すなわち、第2実施形態における格子DGbは、図3および図4Cに示すように、基材11と、基材11の一方主面に形成された格子領域12aと、基材11の一方主面に対向する他方主面に形成された溝部13aと、保持部材14とを備えている。これら第2実施形態の格子DGbにおける基材11、格子領域12aおよび溝部13aは、第1実施形態の格子DGaにおける基材11、格子領域12aおよび溝部13aと同様であるので、その説明を省略する。
保持部材14は、基材11が複数の基材片に分割された場合に前記分割の前後で前記複数の基材片における互いの配置関係(配置の位置関係、各基材片の各位置に対する相互の位置関係)を保持するために、溝部13aを形成した領域に対向する領域を含む基材11の一方主面上に係合させて配設された部材である。図3に示す例では、保持部材14は、格子領域12aの格子面全面上に付けて層状(シート状)に形成されている。より具体的には、例えば、保持部材14は、一方主面に粘着材が付いた樹脂材料製シートであり、格子領域12aの格子面全面上に前記粘着材によって貼着されている。
このような格子DGbは、例えば、次の各工程を経ることによって製造される。より具体的には、本実施形態の格子DGbを製造するために、第1実施形態の格子DGaと同様に、まず、基材11が用意され(図4A)、次に、格子領域12aが基材11の一方主面に形成される(図4B、格子領域形成工程)。
次に、溝部13aを形成した領域に対向する領域を含む基材11の一方主面上、本実施形態では、格子領域12aの格子面全面上に、保持部材14が前記粘着材によって貼着されて配設される(図4C、保持部材配設工程)。
そして、次に、第1実施形態の格子DGaと同様に、他方主面に溝部13aが形成される(図4D、溝部形成工程)。
このような格子領域形成工程、保持部材配設工程および溝部形成工程を実施することによって、図3に示す本実施形態における湾曲可能な格子DGbが製造される。
そして、このように製造された湾曲可能な格子DGbに対し、溝部形成工程の後に、さらに、格子面DxDyを所定の曲率半径を有する所定の曲面に沿わせるために、図4Eに示すように、格子領域12aの格子面DxDyを曲げる曲げ工程が実施されてもよい。なお、この曲げ工程は、基材11が破断するまで曲げられてもよい。
ここで、この曲げ工程の実施によって溝部13aに深さ方向Dzに生じたクラック(割れ目)CRには、曲げ工程の実施によって曲げられた格子DGbの曲げ状態を維持するために、例えば接着剤やパテ等の充填部材が詰められ、クラックCRが埋められてもよい。この充填部材は、格子DGbの使用用途に応じた基材11の性質と略同様の性質を持つ材料が好ましい。本実施形態では、格子DGbは、X線用であって、基材11は、シリコンから形成されているので、固化するとシリコンのX線透過率と略等しくなるSOG(spin on glass)であることが好ましい。
なお、上述では、保持部材14は、格子領域12aの格子面全面上に付けて形成されたが、溝部13aを形成した領域に対向する一方主面の領域部分ごとに複数形成されてもよい。また、保持部材14は、溝部13a上を少なくとも含む基材11の他方面上に配設されてもよく、あるいは、保持部材14は、溝部13aを形成した領域に対向する領域を含む基材11の一方主面上に、および、溝部13a上を少なくとも含む基材11の他方面上に配設されてもよい。
本実施形態の格子DGbおよびその製造方法は、保持部材配設工程によって配設された保持部材14を備えるので、仮に曲げ工程によって基材11が破断した場合でも、前記複数の部材における周期性、本実施形態では金属部分121の周期性やシリコン部分122の周期性を維持することができる。
なお、上述の実施形態では、格子領域形成工程、保持部材配設工程、溝部形成工程の順に各工程が実施されたが、例えば、格子領域形成工程、溝部形成工程、保持部材配設工程の順に各工程が実施されてよい。また、上述の実施形態では、格子領域形成工程、保持部材配設工程、溝部形成工程、曲げ工程の順に各工程が実施されたが、例えば、格子領域形成工程、溝部形成工程、曲げ工程、保持部材配設工程の順に各工程が実施されてよく、また例えば、格子領域形成工程、溝部形成工程、保持部材配設工程、曲げ工程の順に各工程が実施されてよい。
次に、別の実施形態について説明する。
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態における格子の構成を示す斜視図である。図6は、第3実施形態における格子の製造工程を説明するための断面図である。図7は、第3実施形態の変形形態おける格子の製造工程を説明するための断面図である。
第1および第2実施形態における格子DGa、DGbでは、図2Dや図4Eに示すように曲げ工程によって格子領域12aの格子面DxDyを湾曲させた場合に、溝部13aが形成された領域に対向する一方主面の領域に形成された格子DGa、DGb部分は、幅が狭くなって金属部分121の周期性やシリコン部分122の周期性が乱れる場合がある。このため、第3実施形態における格子DGcは、複数の金属部分121または複数のシリコン部分122のうち、溝部13aを形成した領域に対向する一方主面の領域に設けられた金属部分121またはシリコン部分122における周期方向の幅W2が、他の領域に設けられた金属部分121またはシリコン部分122の幅W1よりも広くなるように、形成されている。
このような第3実施形態における格子DGcは、例えば、図5および図6Dに示すように、基材11と、基材11の一方主面に形成された格子領域12bと、基材11の一方主面に対向する他方主面に形成された溝部13aとを備え、さらに、図5および図6Dに示す例では、格子領域12bの格子面全面上に、第2実施形態における格子DGbと同様に保持部材14を備えている。なお、第3実施形態における格子DGcは、第1実施形態における格子DGaと同様に保持部材14を備えなくてもよい。これら第3実施形態の格子DGcにおける基材11および溝部13aは、第1実施形態の格子DGaにおける基材11および溝部13aと同様であり、第3実施形態の格子DGcにおける保持部材14は、第2実施形態の格子DGbにおける保持部材14と同様であるので、その説明を省略する。
格子領域12bは、基材11の一方主面に形成され、互いに同じ形状の複数の部材を周期的に設けた領域であり、複数の金属部分121のうち、溝部13aを形成した領域に対向する一方主面の領域に設けられた金属部分121における周期方向の幅W2が、他の領域に設けられた金属部分121の幅W1よりも広くなるように、形成されている点を除き、第1実施形態の格子DGaにおける格子領域12aと同様である。すなわち、格子領域12bは、第1実施形態の格子DGaにおける格子領域12aと同様の金属部分121およびシリコン部分122と、この金属部分121の幅W1よりも広い幅W2で形成された金属部分123とを備え、この幅W2の金属部分123は、溝部13aを形成した領域に対向する一方主面の領域に設けられている。この幅W2の金属部分123は、幅Wが異なる点を除き、第1実施形態の格子DGaにおける格子領域12aにおける幅W1の金属部分121と同様であるので、その説明を省略する。
このような格子DGcは、例えば、次の各工程を経ることによって製造される。より具体的には、本実施形態の格子DGcを製造するために、図6に示すように、まず、基材11が用意され(図6A)、次に、格子領域12bが基材11の一方主面に形成される(図6B、格子領域形成工程)。この第3実施形態における格子領域形成工程は、例えば、第1実施形態の格子領域形成工程(図2B)で説明した上述のパターニング工程で、格子領域12aに代え格子領域12bを形成するように、リソグラフィー法によってレジスト層をパターニングして前記パターニングした部分の前記レジスト層を除去する点を除き、第1実施形態における格子DGaの製造方法と同様である。
そして、次に、第2実施形態の格子DGbの製造方法と同様に、保持部材配設工程が実施され(図6C)、溝部形成工程が実施される(図6D)。溝部形成工程では、例えば、両面マスクアライナによって位置合わせパターニングが行われ、エッチングが行われる。あるいは、溝部形成工程では、位置合わせマークによってブレードダイシングが行われてもよい。
このような格子領域形成工程、保持部材配設工程および溝部形成工程を実施することによって、図5に示す本実施形態における湾曲可能な格子DGcが製造される。
そして、このように製造された湾曲可能な格子DGcに対し、溝部形成工程の後に、さらに、格子面DxDyを所定の曲率半径を有する所定の曲面に沿わせるために、図6Eに示すように、格子領域12aの格子面DxDyを曲げる曲げ工程が実施されてもよい。なお、この曲げ工程は、基材11が破断するまで曲げられてもよい。ここで、この曲げ工程の実施によって溝部13aに深さ方向Dzに生じたクラック(割れ目)CRには、上述したように、充填部材が詰められてクラックCRが埋められてもよい。
本実施形態の格子DGcおよびその製造方法は、金属部分123の幅W2が他の金属部分121の幅W1よりも広いので、曲げ工程によって格子領域12bの格子面DxDyが湾曲された場合でも、金属部分121の周期性の乱れを小さく抑えることができる。
なお、上述の第3実施形態において、溝部13aを形成した領域に対向する一方主面の領域に設けられた金属部分124における格子面DxDyの法線方向の深さは、図7に示すように、他の金属部分121の深さよりも深くてもよい。すなわち、この第3実施形態の変形形態の格子DGdは、複数の金属部分121のうち、溝部13aを形成した領域に対向する一方主面の領域に設けられた金属部分124における格子面DxDyの法線方向の深さが、他の領域に設けられた金属部分121の深さよりも深くなるように、形成された格子領域12cを備えている。この格子DGdは、図7に示すように、図6に示す各工程と同様の各工程によって製造することができる。なお、格子領域形成工程(図7B)では、エッチング法において、パターン幅の縮小とともにエッチング速度が低下する現象である、いわゆるマイクロローディング効果によって、金属部分123は、その深さが他の金属部分121よりも深くなるように、形成される。
このような格子DGdおよびその製造方法は、金属部分124の深さが他の金属部分121の深さよりも深いので、仮に曲げ工程によって基材11が破断した場合でも、この部分で破断させることができ、破断箇所が予測可能である。そして、溝部13aの位置と、このより深くした金属部分124の位置とが、図7Dに示すように、少々ずれたとしても、この部分の基材11の厚さがより薄いので、図7Eに示すように、この部分で優先的に破断させることができる。したがって、このような格子DGdおよびその製造方法は、破断を考慮した上で格子DGdを設計することができ、設計通りの性能をより確実に実現することができる。
次に、別の実施形態について説明する。
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態における格子の構成を示す断面図である。第1ないし第3実施形態における格子DGa〜DGdは、曲げ工程が実施される場合に、格子面DxDyが凹面となるように、曲げられたが、図8Aに示すように、曲げ工程が実施される場合に、格子面DxDyが凸面となるように、曲げられてもよい。図8Aには、第2実施形態の格子DGbの例が示されている。
なお、このような格子面DxDyが凸面となるように曲げられる場合では、溝部13aに代え、図8Bに示すように、断面V字状の溝部13bが好ましい。このような断面V字状の溝部13bは、異方性エッチングや、断面が三角形のブレードを用いたダイシングによって形成することができる。この溝部13bを用いることによって、格子面DxDyが凸面となるように曲げた場合に、溝部13bにおけるテーパ状の側面同士を互いに当接することができ、略隙間が無くなる。
なお、上述の第1ないし第4実施形態の格子DG(DGa〜DGd)は、X線用の回折格子であったが、X線用に限らず、赤外線領域、可視光領域および紫外線領域等の他の波長の波に対する回折格子であってよい。
また、上述の第1ないし第4実施形態の格子DG(DGa〜DGd)では、互いに隣接するシリコン部分122の間には、金属部分121が形成されたが、空間部分(空隙部分、ギャップ部分)であってもよい。このような金属部分121に代え空間部分を用いた格子DGは、これらシリコン部分122と前記空間部分との屈折率の相違によって、前記所定の間隔Pを所定の波長(例えばX線の波長)に応じて適宜に設定することにより、回折格子、例えば位相型回折格子として機能する。ここで、シリコン部分122の屈折率は、シリコン(Si)の屈折率であり、前記空間部分は、所定の気体(例えば空気)の屈折率である。
また、上述の第1ないし第4実施形態の格子DG(DGa〜DGd)において、金属部分121、123、シリコン部分122および溝部13a、13bが延びる一方向Dxは、基材11の劈開方向に一致することが好ましい。例えば、基材11が(100)のシリコン基板の場合、[110]方向や[1−10]方向に劈開するので、前記一方向Dxは、[110]方向や[1−10]方向に一致することが好ましい。このような格子DGは、仮に曲げ工程によって基材11が破断したとしても、金属部分121、123、シリコン部分122や溝部13a、13bに沿って破断させることができ、破断方向が予測可能である。したがって、このような格子DGおよび格子DGの製造方法は、破断を考慮した上で格子DGを設計することができ、設計通りの性能をより確実に実現することができる。
また、上述の第1ないし第4実施形態の格子DG(DGa〜DGd)において、保持部材14の靱性は、基材11の靱性よりも高いことが好ましい。このような格子DGおよび格子DGの製造方法は、基材11が破断する前に保持部材14が破断することを防止することができ、仮に曲げ工程によって基材11が破断した場合でも金属部分121、123の周期性や、シリコン部分122の周期性を維持することができる点の信頼性が向上する。
また、上述の第1ないし第4実施形態の格子DG(DGa〜DGd)において、保持部材14のX線吸収率は、基材11のX線吸収率よりも小さいことが好ましい。このような格子DGおよび格子DGの製造方法は、格子DGがX線用に用いられる場合に保持部材14が格子に与える影響を低減することができる。
次に、一実施例について説明する。
(実施例)
図9は、格子の一実施例を説明するための図である。第1実施形態の格子DGaの一実施例として、図9に示すように、例えば、厚さ400μmの8インチシリコンウェハに、一片が110mmの正方形である格子領域が一方主面に形成された(図9A)。この格子領域は、周期5.3μmであって深さ100μmである金部分(=幅2.65μm)およびシリコン部分(=幅2.65μm)から成る吸収型格子である。次に、ブレードダイシング装置で、図9Bに示すように、格子領域の両側(格子領域の4辺のうちの互いに対向する一方の1組の両側)が切り落とされ、格子が切り出された。その後、この切り出した格子を格子領域が形成されていない他方主面から、同じくブレードダイシング装置で、深さ250μmの切り込みが入れられ、溝部が形成された(図9C)。結果、厚さ400μmのシリコンウェハに、深さ100μmの格子領域が形成されるとともに250μmの溝部が形成されることによって、溝部が形成されたシリコンウェハの肉厚は、50μmとなる。そして、これが、格子領域の、金部分、シリコン部分および溝部が延びる一方向Dx外側に残る円弧状の部分(前記切られなかった、格子領域の4辺のうちの互いに対向する他方の1組の両側の外側に残る円弧状の部分)を両サイドで保持されながら、半径1.4mの円弧に沿うよう曲げられた。
また、図示しないが、第2実施形態の格子DGbの一実施例として、例えば、厚さ400μmの8インチシリコンウェハに、一片が110mmの正方形である格子領域が一方主面に形成された。この格子領域は、周期4.3μmであって深さ18μmである空間部分(=幅2.15μm)およびシリコン部分(=幅2.15μm)から成る位相型格子である。次に、ブレードダイシング装置で、格子領域の両側が切り落とされ、格子が切り出された。次に、格子領域全面上に、保持部材として、厚さ90μmの粘着性PETフィルム(粘着性ポリエチレンテレフタレートフィルム)が貼着された。その後、この切り出した格子を格子領域が形成されていない他方主面から、同じくブレードダイシング装置で、深さ332μmの切り込みが入れられ、溝部が形成された(図9C)。結果、厚さ400μmのシリコンウェハに、深さ18μmの格子領域が形成されるとともに332μmの溝部が形成されることによって、溝部が形成されたシリコンウェハの肉厚は、50μmとなる。次に、半径50cmの曲面を持つ治具に押し当てられることによって、これが、溝部で破断された。ここで、金部分、シリコン部分および溝部が延びる一方向Dxは、シリコンウェハの劈開方向に一致することが好ましい。そして、これが、格子領域の、金部分、シリコン部分および溝部が延びる一方向Dx外側に残る円弧状の部分を両サイドで保持されながら、半径1.1mの円弧に沿うよう曲げられた。
また、図示しないが、第3実施形態の格子DGcの一実施例として、例えば、周期が2.5μmであって深さが18μmである、空間部分(=幅2.15μm)およびシリコン部分(=幅2.15μm)の格子領域である場合、つまり、空間部分の幅:シリコン部分の幅=1:1の格子領域である場合、これが、半径50cmの曲面に沿うように配置された場合、溝部に対応する部分のみ、周期を2.53μmにすると、溝部に対応する部分の周期は、ほぼ2.5μmになる。
(第5および第6実施形態;タルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計)
上記実施形態の格子DG(DGa〜DGd)および格子ユニットは、一適用例として、X線用のタルボ干渉計およびタルボ・ロー干渉計に好適に用いることができる。この格子DGおよび格子ユニットを用いたX線用タルボ干渉計およびX線用タルボ・ロー干渉計について説明する。
図10は、第5実施形態におけるX線用タルボ干渉計の構成を示す斜視図である。図11は、第6実施形態におけるX線用タルボ・ロー干渉計の構成を示す上面図である。
実施形態のX線用タルボ干渉計200Aは、図10に示すように、所定の波長のX線を放射するX線源201と、X線源201から照射されるX線を回折する位相型の第1回折格子202と、第1回折格子202により回折されたX線を回折することにより画像コントラストを形成する振幅型の第2回折格子203とを備え、第1および第2回折格子202、203がX線タルボ干渉計を構成する条件に設定される。そして、第2回折格子203により画像コントラストの生じたX線は、例えば、X線を検出するX線画像検出器205によって検出される。そして、このX線用タルボ干渉計200Aでは、第1回折格子202および第2回折格子203の少なくとも一方は、前記格子DGまたは格子ユニットである。この格子ユニットは、1つの格子面を形成するように配置された複数の格子(小格子、サブ格子、格子素)を備え、これら複数の格子のうちの少なくとも1つは、上述の第1ないし第4実施形態における格子DGの何れかである。
タルボ干渉計200Aを構成する前記条件は、次の式1および式2によって表される。式2は、第1回折格子202が位相型回折格子であることを前提としている。
l=λ/(a/(L+Z1+Z2)) ・・・(式1)
Z1=(m+1/2)×(d2/λ) ・・・(式2)
ここで、lは、可干渉距離であり、λは、X線の波長(通常は中心波長)であり、aは、回折格子の回折部材にほぼ直交する方向におけるX線源201の開口径であり、Lは、X線源201から第1回折格子202までの距離であり、Z1は、第1回折格子202から第2回折格子203までの距離であり、Z2は、第2回折格子203からX線画像検出器205までの距離であり、mは、整数であり、dは、回折部材の周期(回折格子の周期、格子定数、隣接する回折部材の中心間距離、前記ピッチP)である。
このような構成のX線用タルボ干渉計200Aでは、X線源201から第1回折格子202に向けてX線が照射される。この照射されたX線は、第1回折格子202でタルボ効果を生じ、タルボ像を形成する。このタルボ像が第2回折格子203で作用を受け、モアレ縞の画像コントラストを形成する。そして、この画像コントラストがX線画像検出器205で検出される。
タルボ効果とは、回折格子に光が入射されると、或る距離に前記回折格子と同じ像(前記回折格子の自己像)が形成されることをいい、この或る距離をタルボ距離Lといい、この自己像をタルボ像という。タルボ距離Lは、回折格子が位相型回折格子の場合では、上記式2に表されるZ1となる(L=Z1)。タルボ像は、Lの奇数倍(=(2m+1)L、mは、整数)では、反転像が現れ、Lの偶数倍(=2mL)では、正像が現れる。
ここで、X線源201と第1回折格子202との間に被検体Sが配置されると、前記モアレ縞は、被検体Sによって変調を受け、この変調量が被検体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。このため、モアレ縞を解析することによって被検体Sおよびその内部の構造が検出される。
このような図10に示す構成のタルボ干渉計200Aでは、X線源201は、単一の点光源(点波源)であり、このような単一の点光源は、単一のスリット(単スリット)を形成した単スリット板をさらに備えることで構成することができ、X線源201から放射されたX線は、前記単スリット板の前記単スリットを通過して被写体Sを介して第1回折格子202に向けて放射される。前記スリットは、一方向に延びる細長い矩形の開口である。
一方、タルボ・ロー干渉計200Bは、図11に示すように、X線源201と、マルチスリット板204と、第1回折格子202と、第2回折格子203とを備えて構成される。すなわち、タルボ・ロー干渉計200Bは、図10に示すタルボ干渉計200Aに加えて、X線源201のX線放射側に、複数のスリットを並列に形成したマルチスリット板204をさらに備えて構成される。
このマルチスリット板204は、上述した第1ないし第4実施形態における格子DGまたは前記格子ユニットであってよい。マルチスリット板204を、上述した第1ないし第4実施形態における格子DGまたは前記格子ユニットによって構成することによって、X線をスリット(前記複数のシリコン部分122)に略平行に透過させることができるので、各スリットを透過したX線の各強度を略均一にすることができるから、マルチスリット板204は、X線源201から放射されたX線を、より良好なマルチ光源とすることができる。
そして、タルボ・ロー干渉計200Bとすることによって、タルボ干渉計200Aよりも、被写体Sを介して第1回折格子202に向けて放射されるX線量が増加するので、より良好なモアレ縞が得られる。
このようなタルボ干渉計200Aやタルボ・ロー干渉計200Bに用いられる第1回折格子202、第2回折格子203およびマルチスリット板204の一例を挙げると、諸元は、次の通りである。なお、これらの例では、シリコン部分122と金属部分121とは、同幅に形成され、金属部分121は、金によって形成される。
一例として、X線源201またはマルチスリット板204から第1回折格子202までの距離R1が1.1mであって、X線源201またはマルチスリット板204から第2回折格子203までの距離R2が1.4mである場合では、第1回折格子202は、そのピッチPが4.5μmであり、そのシリコン部分122の厚さが18μmであり、第2回折格子203は、そのピッチPが5.3μmであり、その金属部分121の厚さが100μmであり(アスペクト比=100/2.65)、そして、マルチスリット板204は、そのピッチPが22.8μmであり、その金属部分121の厚さが100μmである。
(第7実施形態;X線撮像装置)
前記格子DGおよび前記格子ユニットは、種々の光学装置に利用することができるが、例えば、X線撮像装置に好適に用いることができる。特に、X線タルボ干渉計を用いたX線撮像装置は、X線を波として扱い、被写体を通過することによって生じるX線の位相シフトを検出することによって、被写体の透過画像を得る位相コントラスト法の一つであり、被写体によるX線吸収の大小をコントラストとした画像を得る吸収コントラスト法に較べて、約1000倍の感度改善が見込まれ、それによってX線照射量が例えば1/100〜1/1000に軽減可能となるという利点がある。本実施形態では、前記格子DGを含む格子ユニットを用いたX線タルボ干渉計を備えたX線撮像装置について説明する。
図12は、第7実施形態におけるX線撮像装置の構成を示す説明図である。図12において、X線撮像装置300は、X線撮像部301と、第2回折格子302と、第1回折格子303と、X線源304とを備え、さらに、本実施形態では、X線源304に電源を供給するX線電源部305と、X線撮像部301の撮像動作を制御するカメラ制御部306と、本X線撮像装置300の全体動作を制御する処理部307と、X線電源部305の給電動作を制御することによってX線源304におけるX線の放射動作を制御するX線制御部308とを備えて構成される。
X線源304は、X線電源部305から給電されることによって、X線を放射し、第1回折格子303へ向けてX線を照射する装置である。X線源304は、例えば、X線電源部305から供給された高電圧が陰極と陽極との間に印加され、陰極のフィラメントから放出された電子が陽極に衝突することによってX線を放射する装置である。
第1回折格子303は、X線源304から放射されたX線によってタルボ効果を生じる透過型の回折格子である。第1回折格子303は、例えば、上述した実施形態の格子ユニットDGである。第1回折格子303は、タルボ効果を生じる条件を満たすように構成されており、X線源304から放射されたX線の波長よりも充分に粗い格子、例えば、格子定数(回折格子の周期)dが当該X線の波長の約20倍以上である位相型回折格子である。なお、第1回折格子303は、振幅型回折格子であってもよい。
第2回折格子302は、第1回折格子303から略タルボ距離L離れた位置に配置され、第1回折格子303によって回折されたX線を回折する透過型の振幅型回折格子である。この第2回折格子302も、第1回折格子303と同様に、例えば、上述した実施形態の格子DGまたは格子ユニットである。
第1回折格子303において、第1回折格子303を構成する1または複数の格子DGは、受光面の中心を通る法線が点光源としてのX線源304の放射源を通るように、X線源304の前記放射源を通る仮想線を中心軸とした仮想的な円筒面に沿って配列されることが好ましく、また、第2回折格子302において、第2回折格子302を構成する1または複数の格子DGは、受光面の中心を通る法線が点光源としてのX線源304の放射源を通るように、X線源304の前記放射源を通る仮想線を中心軸とした仮想的な円筒面に沿って配列されることが好ましい。これら第1および第2回折格子303、302のそれぞれは、その曲率半径が1m程度に設定される。
そして、これら第1および第2回折格子303、302は、上述の式1および式2によって表されるタルボ干渉計を構成する条件に設定されている。
X線撮像部301は、第2回折格子302によって回折されたX線の像を撮像する装置である。X線撮像部301は、例えば、X線のエネルギーを吸収して蛍光を発するシンチレータを含む薄膜層が受光面上に形成された二次元イメージセンサを備えるフラットパネルディテクタ(FPD)や、入射フォトンを光電面で電子に変換し、この電子をマイクロチャネルプレートで倍増し、この倍増された電子群を蛍光体に衝突させて発光させるイメージインテンシファイア部と、イメージインテンシファイア部の出力光を撮像する二次元イメージセンサとを備えるイメージインテンシファイアカメラなどである。
処理部307は、X線撮像装置300の各部を制御することによってX線撮像装置300全体の動作を制御する装置であり、例えば、マイクロプロセッサおよびその周辺回路を備えて構成され、機能的に、画像処理部371およびシステム制御部372を備えている。
システム制御部372は、X線制御部308との間で制御信号を送受信することによってX線電源部305を介してX線源304におけるX線の放射動作を制御すると共に、カメラ制御部306との間で制御信号を送受信することによってX線撮像部301の撮像動作を制御する。システム制御部372の制御によって、X線が被写体Sに向けて照射され、これによって生じた像がX線撮像部301によって撮像され、画像信号がカメラ制御部306を介して処理部307に入力される。
画像処理部371は、X線撮像部301によって生成された画像信号を処理し、被写体Sの画像を生成する。
次に、本実施形態のX線撮像装置の動作について説明する。被写体Sが例えばX線源304を内部(背面)に備える撮影台に載置されることによって、被写体SがX線源304と第1回折格子303との間に配置され、X線撮像装置300のユーザ(オペレータ)によって図略の操作部から被写体Sの撮像が指示されると、処理部307のシステム制御部372は、被写体Sに向けてXを照射すべくX線制御部308に制御信号を出力する。この制御信号によってX線制御部308は、X線電源部305にX線源304へ給電させ、X線源304は、X線を放射して被写体Sに向けてX線を照射する。
照射されたX線は、被写体Sを介して第1回折格子303を通過し、第1回折格子303によって回折され、タルボ距離L(=Z1)離れた位置に第1回折格子303の自己像であるタルボ像Tが形成される。
この形成されたX線のタルボ像Tは、第2回折格子302によって回折され、モアレを生じてモアレ縞の像が形成される。このモアレ縞の像は、システム制御部372によって例えば露光時間などが制御されたX線撮像部301によって撮像される。
X線撮像部301は、モアレ縞の像の画像信号をカメラ制御部306を介して処理部307へ出力する。この画像信号は、処理部307の画像処理部371によって処理される。
ここで、被写体SがX線源304と第1回折格子303との間に配置されているので、被写体Sを通過したX線には、被写体Sを通過しないX線に対し位相がずれる。このため、第1回折格子303に入射したX線には、その波面に歪みが含まれ、タルボ像Tには、それに応じた変形が生じている。このため、タルボ像Tと第2回折格子302との重ね合わせによって生じた像のモアレ縞は、被写体Sによって変調を受けており、この変調量が被写体Sによる屈折効果によってX線が曲げられた角度に比例する。したがって、モアレ縞を解析することによって被写体Sおよびその内部の構造を検出することができる。また、被写体Sを複数の角度から撮像することによってX線位相CT(computed tomography)により被写体Sの断層画像が形成可能である。
そして、本実施形態の第1および第2回折格子303、302では、上述した実施形態における湾曲可能な格子DGを含むので、複数の格子を曲面に沿って配置することができ、格子の両端部(互いに隣接する格子の隣接部分)の領域で生じる上述したいわゆるケラレを低減することができる。したがって、このようなX線撮像装置300は、前記ケラレによって生じるノイズを低減することができ、より鮮明なX線撮像画像を得ることができる。そして、このようなX線撮像装置は、湾曲可能な格子DGを含むので、金属部分121およびシリコン部分122における周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
なお、上述のX線撮像装置300は、X線源304、第1回折格子303および第2回折格子302によってタルボ干渉計を構成したが、X線源304のX線放射側にマルチスリットとしての上述した実施形態における格子DGまたは格子ユニットをさらに配置することで、タルボ・ロー干渉計を構成してもよい。このマルチスリットとしての格子DGは、その曲率半径が2〜3cm程度に設定される。このようなタルボ・ロー干渉計とすることで、単スリットの場合よりも被写体Sに照射されるX線量を増加することができ、より良好なモアレ縞が得られ、より高精度な被写体Sの画像が得られる。
また、上述のX線撮像装置300では、X線源304と第1回折格子303との間に被写体Sが配置されたが、第1回折格子303と第2回折格子302との間に被写体Sが配置されてもよい。
また、上述のX線撮像装置300では、X線の像がX線撮像部301で撮像され、画像の電子データが得られたが、X線フィルムによって撮像されてもよい。
本明細書は、上記のように様々な態様の技術を開示しているが、そのうち主な技術を以下に纏める。
一態様にかかる回折格子は、基材と、前記基材の一方主面に形成された、互いに同じ形状の複数の部材を周期的に設けた格子領域と、前記基材の一方主面に対向する他方主面に形成された溝部とを備え、前記複数の部材のそれぞれは、前記一方主面において、一方向に延びる長尺な線条形状であり、前記溝部は、前記一方向に沿って長尺である。
このような回折格子は、格子領域を形成した一方主面に対向する他方主面に溝部を備えるので、この溝部の部分で基材の厚さが薄くなる。このため、このような回折格子は、溝部の部分で前記一方向と直交する周期方向に曲がり易くなり、溝部の部分で曲げることができる。そして、このような回折格子は、湾曲可能であるので、前記複数の部材における周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
他の一態様では、上述の回折格子において、前記格子領域上を少なくとも含む前記基材の一方主面上、または前記溝部上を少なくとも含む前記基材の他方主面上に、前記基材が複数の基材片に分割された場合に前記分割の前後で前記複数の基材片における互いの配置関係を保持するための保持部材をさらに備える。
このような回折格子は、前記保持部材を備えるので、仮に曲げ工程によって基材が破断した場合でも、前記複数の部材における周期性を維持することができる。
他の一態様では、これら上述の回折格子において、前記複数の部材のうち、前記溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた部材における前記一方向に直交する周期方向の幅は、前記複数の部材のうちの他の部材の幅よりも広い。
このような回折格子は、溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた部材における前記一方向に直交する周期方向の幅が他の部材の幅よりも広いので、格子領域の格子面が湾曲された場合でも、前記複数の部材における周期性の乱れを小さく抑えることができる。
他の一態様では、上述の回折格子において、前記複数の部材のうち、前記溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた前記部材における前記格子面の法線方向の深さは、前記複数の部材のうちの他の部材の深さよりも深い。
このような回折格子は、溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた前記部材における前記格子面の法線方向の深さが他の部材の深さよりも深いので、仮に曲げによって基材が破断した場合でも、この部分で破断させることができ、破断箇所が予測可能である。したがって、このような回折格子は、破断を考慮した上で格子を設計することができ、設計通りの性能をより確実に実現することができる。
他の一態様では、これら上述の回折格子において、前記一方向は、前記基材の劈開方向に一致している。
このような回折格子は、溝部が、基材の劈開方向に一致するように形成されているので、仮に曲げによって基材が破断したとしても、前記複数の部材や溝部に沿って破断させることができ、破断方向が予測可能である。したがって、このような回折格子は、破断を考慮した上で格子を設計することができ、設計通りの性能をより確実に実現することができる。
他の一態様では、これら上述の回折格子において、前記保持部材の靱性は、前記基材の靱性よりも高いこと。
このような回折格子は、保持部材の靱性が基材の靱性よりも高いので、基材が破断する前に保持部材が破断することを防止することができ、仮に曲げによって基材が破断した場合でも前記複数の部材における周期性を維持することができる点の信頼性が向上する。
他の一態様では、これら上述の回折格子において、前記保持部材のX線吸収率は、前記基材のX線吸収率よりも小さい。
このような回折格子は、保持部材のX線吸収率が基材のX線吸収率よりも小さいので、格子がX線用に用いられる場合に保持部材が格子に与える影響を低減することができる。
一態様にかかる回折格子の製造方法は、互いに同じ形状の複数の部材を周期的に設けた格子領域を基材の一方主面に形成する格子領域形成工程と、前記基材の一方主面に対向する他方主面に溝部を形成する溝部形成工程とを備え、前記複数の部材のそれぞれは、前記一方主面において、一方向に延びる長尺な線条形状であり、前記溝部は、前記一方向に沿って長尺である。そして、他の一態様では、上述の回折格子の製造方法において、好ましくは、前記基材は、シリコンウェハである。
このような回折格子の製造方法では、格子は、格子領域を形成した一方主面に対向する他方主面に溝部を備えるので、この溝部の部分で基材の厚さが薄くなる。このため、格子は、溝部の部分で、前記一方向と直交する周期方向に曲がり易くなる。したがって、このような製造方法は、湾曲可能な格子を製造することができる。そして、このような製造方法によって製造された回折格子は、湾曲可能であるので、前記複数の部材における周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
また、他の一態様では、上述の回折格子の製造方法は、前記格子領域を曲げる曲げ工程をさらに備える。このような回折格子の製造方法は、湾曲した格子を提供することができる。
また、他の一態様では、これら上述の回折格子の製造方法は、前記溝部を形成した領域に対向する領域を含む前記基材の一方主面上、または、前記溝部上を少なくとも含む前記基材の他方面上に、前記基材が複数の基材片に分割された場合に前記分割の前後で前記複数の基材片における互いの配置関係を保持するための保持部材を配設する保持部材配設工程をさらに備える。そして、他の一態様では、上述の回折格子の製造方法において、前記曲げ工程を含む場合には、前記曲げ工程は、前記基材が破断するまで曲げられてもよい。
このような製造方法では、格子領域形成工程、保持部材配設工程、溝部形成工程の順に各工程が実施されてよく、あるいは、格子領域形成工程、溝部形成工程、保持部材配設工程の順に各工程が実施されてよく、あるいは、格子領域形成工程、溝部形成工程、曲げ工程、保持部材配設工程の順に各工程が実施されてよく、あるいは、格子領域形成工程、溝部形成工程、保持部材配設工程、曲げ工程の順に各工程が実施されてよく、あるいは、格子領域形成工程、保持部材配設工程、溝部形成工程、曲げ工程の順に各工程が実施されてよい。
このような回折格子の製造方法は、格子が保持部材配設工程によって配設された保持部材を備えるので、仮に曲げ工程によって基材が破断した場合でも、前記複数の部材における周期性を維持することができる。
また、他の一態様では、これら上述の回折格子の製造方法において、前記複数の部材のうち、前記溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた部材における前記一方向に直交する周期方向の幅は、前記複数の部材のうちの他の部材の幅よりも広い。
そして、このような回折格子の製造方法は、溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた部材における前記一方向に直交する周期方向の幅が他の部材の幅よりも広いので、曲げ工程によって格子領域の格子面が湾曲された場合でも、前記複数の部材における周期性の乱れを小さく抑えることができる。
また、他の一態様では、上述の回折格子の製造方法において、前記複数の部材のうち、前記溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた前記部材における前記格子面の法線方向の深さは、前記複数の部材のうちの他の部材の深さよりも深い。
このような回折格子の製造方法は、溝部を形成した領域に対向する前記一方主面の領域に設けられた前記部材における前記格子面の法線方向の深さが他の部材の深さよりも深いので、仮に曲げ工程によって基材が破断した場合でも、この部分で破断させることができ、破断箇所が予測可能である。したがって、このような回折格子の製造方法は、破断を考慮した上で格子を設計することができ、設計通りの性能をより確実に実現することができる。
また、他の一態様では、これら上述の回折格子の製造方法において、前記一方向は、前記基材の劈開方向に一致している。
このような回折格子の製造方法は、溝部が、基材の劈開方向に一致するように形成されているので、仮に曲げ工程によって基材が破断したとしても、前記複数の部材や溝部に沿って破断させることができ、破断方向が予測可能である。したがって、このような回折格子の製造方法は、破断を考慮した上で格子を設計することができ、設計通りの性能をより確実に実現することができる。
また、他の一態様では、これら上述の回折格子の製造方法において、前記保持部材の靱性は、前記基材の靱性よりも高い。
このような回折格子の製造方法は、保持部材の靱性が基材の靱性よりも高いので、基材が破断する前に保持部材が破断することを防止することができ、仮に曲げ工程によって基材が破断した場合でも前記複数の部材における周期性を維持することができる点の信頼性が向上する。
また、他の一態様では、これら上述の回折格子の製造方法において、前記保持部材のX線吸収率は、前記基材のX線吸収率よりも小さい。
このような回折格子の製造方法は、保持部材のX線吸収率が基材のX線吸収率よりも小さいので、格子がX線用に用いられる場合に保持部材が格子に与える影響を低減することができる。
他の一態様にかかる格子ユニットは、1つの格子面を形成するように配置された複数の格子を備えた格子ユニットであって、前記複数の格子のうちの少なくとも1つとは、これら上述のいずれかの回折格子である。
この構成によれば、前記回折格子を含む格子ユニットが提供される。そして、このような格子ユニットは、湾曲可能な回折格子を含むので、複数の格子を曲面に沿って配置することができ、格子の両端部(互いに隣接する格子の隣接部分)の領域で生じる上述したいわゆるケラレを低減することができる。さらに、このような格子ユニットは、湾曲可能な回折格子を含むので、前記複数の部材における周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
他の一態様にかかるX線撮像装置は、X線を放射するX線源と、前記X線源から放射されたX線が照射されるタルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計と、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計によるX線の像を撮像するX線撮像素子とを備え、前記タルボ干渉計またはタルボ・ロー干渉計は、これら上述のいずれかの回折格子、および、上述の格子ユニットのうちの少なくとも1つを含む。
この構成によれば、前記回折格子を含むX線撮像装置が提供される。このようなX線撮像装置は、湾曲可能な回折格子を含むので、複数の格子を曲面に沿って配置することができ、格子の両端部(互いに隣接する格子の隣接部分)の領域で生じる上述したいわゆるケラレを低減することができる。したがって、このようなX線撮像装置は、前記ケラレによって生じるノイズを低減することができ、より鮮明なX線撮像画像を得ることができる。そして、このようなX線撮像装置は、湾曲可能な回折格子を含むので、前記複数の部材における周期性が維持され、前記ケラレの発生を防止するために上述のように小格子の大きさを小さくする必要がないので従来の小格子の大きさを小さくすることによって生じる上述したデメリットを生じない。
この出願は、2012年9月3日に出願された日本国特許出願特願2012−193163を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
本発明を表現するために、上述において図面を参照しながら実施形態を通して本発明を適切且つ十分に説明したが、当業者であれば上述の実施形態を変更および/または改良することは容易に為し得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。