本発明者らが本発明を完成させるに至った経緯を概説すれば、本発明者らは、EVI1による抗がん剤耐性の機序をさらに詳細に検討した。その結果、驚くべきことに、以下の事実を見出した:
(1)GPR56遺伝子が、EVI1高発現AMLの細胞・組織において特異的に高発現しており、その検出はフローサイトメトリーによって可能であること(後述する実施例1−1〜1−3);
(2)RNA干渉(RNAi)法を用いてGPR56の発現を抑制(ノックダウン)することが可能であること(後述する実施例2);
(3)GPR56の発現を抑制することで、EVI1を高発現している癌(AML)細胞の細胞接着能が低下することから、GPR56がEVI1高発現癌細胞において細胞接着能を亢進させる原因分子であると考えられること(後述する実施例3);
(4)GPR56の発現を抑制することで、EVI1を高発現している癌(AML)細胞の細胞増殖能も低下し、これはGPR56がEVI1高発現癌(AML)細胞の抗アポトーシス機能に関与しているためであると考えられること(後述する実施例4−1および4−2);
(5)GPR56の発現を抑制することで、EVI1を高発現している癌(AML)細胞の薬剤(抗癌剤)に対する耐性を減弱させることができること(後述する実施例5);並びに、
(6)GPR56タンパク質に特異的に結合する抗体(抗GPR56抗体)はEVI1を高発現している癌(AML)細胞に対して抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を示すことから、当該抗体は抗体医薬への利用が期待されること(後述する実施例6)。
なお、ヒトGPR56を構成するタンパク質(GPR56タンパク質)は、2082bp(終止コドン含む)からなるCDS(配列番号:1、RefSeq Accession No.AF106858.1で登録されている「Homo sapiens G-protein-coupled receptor (GPR56) mRNA, complete cds」の第163〜2244番目のヌクレオチドに対応)によりコードされており、693アミノ酸(RefSeq Accession No.NP_005673.3、配列番号:2)からなっている。
上述したいくつかの知見に基づき、本発明者らは、本発明を完成させるに至ったものである。以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は下記の形態のみに限定されることはない。
本発明において用いられるタンパク質(「本発明のタンパク質」とも称する)は、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質である。本発明のタンパク質は、ヒトや他の温血動物(例えば、モルモット、ラット、マウス、ニワトリ、ウサギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、サルなど)の細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵臓β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくは癌細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆のう、骨髄、副腎、皮膚、筋肉(例、平滑筋、骨格筋)、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、白色脂肪組織、褐色脂肪組織)など]等から単離・精製されるタンパク質であってもよい。また、化学合成もしくは無細胞翻訳系で生化学的に合成されたタンパク質であってもよいし、あるいは上記アミノ酸配列をコードする塩基配列を有する核酸を導入された形質転換体から産生される組換えタンパク質であってもよい。
配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列としては、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、いっそう好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性(ホモロジー;homology)を有するアミノ酸配列などが挙げられる。ここで「相同性」とは、当該技術分野において公知の数学的アルゴリズムを用いて2つのアミノ酸配列をアラインさせた場合の、最適なアラインメント(好ましくは、該アルゴリズムは最適なアラインメントのために配列の一方もしくは両方へのギャップの導入を考慮し得るものである)における、オーバーラップする全アミノ酸残基に対する同一アミノ酸および類似アミノ酸残基の割合(%)を意味する。「類似アミノ酸」とは物理化学的性質において類似したアミノ酸を意味し、例えば、芳香族アミノ酸(Phe、Trp、Tyr)、脂肪族アミノ酸(Ala、Leu、Ile、Val)、極性アミノ酸(Gln、Asn)、塩基性アミノ酸(Lys、Arg、His)、酸性アミノ酸(Glu、Asp)、水酸基を有するアミノ酸(Ser、Thr)、側鎖の小さいアミノ酸(Gly、Ala、Ser、Thr、Met)などの同じグループに分類されるアミノ酸が挙げられる。このような類似アミノ酸による置換はタンパク質の表現型に変化をもたらさない(すなわち、保存的アミノ酸置換である)ことが予測される。保存的アミノ酸置換の具体例は当該技術分野で周知であり、種々の文献に記載されている(例えば、Bowieら,Science,247:1306−1310(1990)を参照)。
本明細書におけるアミノ酸配列の相同性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;マトリクス=BLOSUM62;フィルタリング=OFF)にて計算することができる。アミノ酸配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、例えば、Karlinら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,90:5873−5877(1993)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはNBLASTおよびXBLASTプログラム(version2.0)に組み込まれている(Altschulら,Nucleic Acids Res.,25:3389−3402(1997))]、Needlemanら,J.Mol.Biol.,48:444−453(1970)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のGAPプログラムに組み込まれている]、MyersおよびMiller,CABIOS,4:11−17(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはCGC配列アラインメントソフトウェアパッケージの一部であるALIGNプログラム(version2.0)に組み込まれている]、Pearsonら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85:2444−2448(1988)に記載のアルゴリズム[該アルゴリズムはGCGソフトウェアパッケージ中のFASTAプログラムに組み込まれている]等が挙げられ、それらも同様に好ましく用いられ得る。
より好ましくは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列とは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、いっそう好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の同一性(アイデンティティ(identity))を有するアミノ酸配列である。
本発明で用いられるタンパク質は、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を含有し、かつ配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質である。
実質的に同質の活性としては、例えば、リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用などが挙げられる。ここで「実質的に同質」とは、それらの性質が定性的に(例、生理学的に、または薬理学的に)同質であることを示す。したがって、本発明のタンパク質の活性が同等であることが好ましいが、これらの活性の程度(例、約0.01〜約100倍、好ましくは約0.1〜約10倍、より好ましくは0.5〜2倍)や、タンパク質の分子量などの量的要素は異なっていてもよい。
リガンド結合活性やシグナル情報伝達作用などの活性の測定は、それ自体公知の方法に準じて行なうことができる。例えば、後述する本発明で用いられるタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法において用いられる方法等に従って行なうことができる。
また、本発明で用いられるタンパク質としては、例えば、(i)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1個または2個以上(例えば、1〜50個程度、好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が欠失したアミノ酸配列、(ii)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1個または2個以上(例えば、1〜50個程度、好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が付加したアミノ酸配列、(iii)配列番号:2で表されるアミノ酸配列に1個または2個以上(例えば、1〜50個程度、好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が挿入されたアミノ酸配列、(iv)配列番号:2で表されるアミノ酸配列中の1個または2個以上(例えば、1〜50個程度、好ましくは1〜30個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されたアミノ酸配列、または(v)それらを組み合わせたアミノ酸配列を含有するタンパク質などのいわゆるムテインも含まれる。
上記のようにアミノ酸配列が挿入、欠失または置換されている場合、その挿入、欠失または置換の位置は、特に限定されない。
本発明で用いられるタンパク質の好ましい例としては、例えば、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有するヒトGPR56あるいは他の哺乳動物におけるそのホモログなどが挙げられる。
本明細書において、タンパク質およびペプチドは、ペプチド標記の慣例に従って左端がN末端(アミノ末端)、右端がC末端(カルボキシル末端)で記載される。配列番号:2で表わされるアミノ酸配列を含有するタンパク質を初めとする、本発明で用いられるタンパク質は、C末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO−)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)のいずれであってもよい。
ここで、C末端がエステル(−COOR)である場合におけるRとしては、例えば、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチルなどのC1−6アルキル基、シクロペンチル、シクロヘキシルなどのC3−8シクロアルキル基、フェニル、α−ナフチルなどのC6−12アリール基、ベンジル、フェネチルなどのフェニル−C1−2アルキル基もしくはα−ナフチルメチルなどのα−ナフチル−C1−2アルキル基などのC7−14アラルキル基、ピバロイルオキシメチル基などが用いられる。
本発明で用いられるタンパク質がC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明で用いられるタンパク質に含まれる。この場合のエステルとしては、例えば上記したC末端のエステルなどが用いられる。
さらに、本発明で用いられるタンパク質には、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1−6アルカノイルなどのC1−6アシル基など)で保護されているもの、生体内で切断されて生成するN末端のグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基(例えば−OH、−SH、アミノ基、イミダゾール基、インドール基、グアニジノ基など)が適当な保護基(例えば、ホルミル基、アセチル基などのC1−6アルカノイル基などのC1−6アシル基など)で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖タンパク質などの複合タンパク質なども含まれる。
本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドとしては、前記した本発明で用いられるタンパク質の部分アミノ酸配列を有するペプチドであり、かつ該タンパク質と実質的に同質の活性を有する限り、いずれのものであってもよい。ここで「実質的に同質の活性」とは上記と同義である。また、「実質的に同質の活性」の測定は、前記した本発明で用いられるタンパク質の場合と同様に行うことができる。
例えば、本発明で用いられるタンパク質の構成アミノ酸配列のうち少なくとも20個以上、好ましくは50個以上、さらに好ましくは70個以上、より好ましくは100個以上、最も好ましくは150個以上のアミノ酸配列を有するペプチドなどが用いられる。
また、本発明で用いられる部分ペプチドは、そのアミノ酸配列中の1個または2個以上(好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が欠失し、または、そのアミノ酸配列に1個または2個以上(好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が付加し、または、そのアミノ酸配列に1個または2個以上(好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が挿入され、または、そのアミノ酸配列中の1個または2個以上(好ましくは1〜20個程度、より好ましくは1〜10個程度、さらに好ましくは数(1〜5、4、3もしくは2)個)のアミノ酸が他のアミノ酸で置換されていてもよい。
また、本発明で用いられる部分ペプチドはC末端がカルボキシル基(−COOH)、カルボキシレート(−COO−)、アミド(−CONH2)またはエステル(−COOR)のいずれであってもよい。ここで、C末端がエステル(−COOR)である場合におけるRとしては、本発明で用いられるタンパク質について前記したと同様のものが挙げられる。本発明の部分ペプチドがC末端以外にカルボキシル基(またはカルボキシレート)を有している場合、カルボキシル基がアミド化またはエステル化されているものも本発明の部分ペプチドに含まれる。この場合のエステルとしては、例えば、C末端のエステルと同様のものなどが用いられる。
さらに、本発明で用いられる部分ペプチドには、前記した本発明で用いられるタンパク質と同様に、N末端のアミノ酸残基(例、メチオニン残基)のアミノ基が保護基で保護されているもの、N末端側が生体内で切断されて生成したグルタミン残基がピログルタミン酸化したもの、分子内のアミノ酸の側鎖上の置換基が適当な保護基で保護されているもの、あるいは糖鎖が結合したいわゆる糖ペプチドなどの複合ペプチドなども含まれる。
本発明で用いられる部分ペプチドは抗体作製のための抗原としても用いることができる。
本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドは遊離体であってもよいし、塩であってもよい(以下、特に断らない限り同様である)。かような塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸、有機酸)や塩基(例、アルカリ金属塩)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸)との塩、あるいは有機酸(例、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸)との塩などが用いられる。
本発明で用いられるタンパク質は、前述したヒトや他の温血動物の細胞または組織から、それ自体公知のタンパク質の精製方法を用いて精製することにより、製造されうる。具体的には、例えば、哺乳動物の組織または細胞を界面活性剤の存在下でホモジナイズし、得られる組織の粗抽出物画分を逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー等に付すことにより、本発明で用いられるタンパク質が調製されうる。
本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドは、公知のペプチド合成法に従って製造することもできる。
ペプチドの合成法としては、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。すなわち、本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドを構成しうる部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合させ、生成物が保護基を有する場合は保護基を脱離することにより目的のタンパク質(ペプチド)を製造することができる。公知の縮合方法や保護基の脱離としては、例えば、以下の(i)〜(v)に記載された方法が挙げられる。
(i)M.BodanszkyおよびM.A.Ondetti、ペプチド・シンセシス(Peptide Synthesis),Interscience Publishers,New York(1966年)
(ii)SchroederおよびLuebke、ザ・ペプチド(The Peptide),Academic Press,New York(1965年)
(iii)泉屋信夫他、ペプチド合成の基礎と実験、丸善(株)(1975年)
(iv)矢島治明および榊原俊平、生化学実験講座1、タンパク質の化学IV、205、(1977年)
(v)矢島治明監修、続医薬品の開発、第14巻、ペプチド合成、広川書店
このようにして得られたタンパク質(ペプチド)は、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出・蒸留・カラムクロマトグラフィー・液体クロマトグラフィー・再結晶などが挙げられる。
上記方法で得られるタンパク質(ペプチド)が遊離体である場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にタンパク質(ペプチド)が塩で得られた場合は、公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチド、あるいはそのアミド体の合成には、通常市販のタンパク質合成用樹脂を用いることができる。そのような樹脂としては、例えば、クロロメチル樹脂、ヒドロキシメチル樹脂、ベンズヒドリルアミン樹脂、アミノメチル樹脂、4−ベンジルオキシベンジルアルコール樹脂、4−メチルベンズヒドリルアミン樹脂、PAM樹脂、4−ヒドロキシメチルメチルフェニルアセトアミドメチル樹脂、ポリアクリルアミド樹脂、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−ヒドロキシメチル)フェノキシ樹脂、4−(2’,4’−ジメトキシフェニル−Fmocアミノエチル)フェノキシ樹脂などが挙げられる。このような樹脂を用い、α−アミノ基と側鎖官能基を適当に保護したアミノ酸を、目的とするタンパク質の配列通りに、それ自体公知の各種縮合方法に従い、樹脂上で縮合させる。反応の最後に樹脂からタンパク質または部分ペプチドを切り出すと同時に各種保護基を除去し、さらに高希釈溶液中で分子内ジスルフィド結合形成反応を実施し、目的のタンパク質もしくは部分ペプチドまたはそれらのアミド体を取得する。
上記した保護アミノ酸の縮合に関しては、タンパク質合成に使用できる各種活性化試薬を用いることができるが、特に、カルボジイミド類がよい。カルボジイミド類としては、DCC、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロリル)カルボジイミドなどが用いられる。これらによる活性化にはラセミ化抑制添加剤(例えば、HOBt,HOOBt)とともに保護アミノ酸を直接樹脂に添加するかまたは、対称酸無水物またはHOBtエステルあるいはHOOBtエステルとしてあらかじめ保護アミノ酸の活性化を行った後に樹脂に添加することができる。
保護アミノ酸の活性化や樹脂との縮合に用いられる溶媒としては、タンパク質縮合反応に使用されうることが知られている溶媒から適宜選択されうる。例えば、N,N−ジメチルホルムアミド,N,N−ジメチルアセトアミド,N−メチルピロリドンなどの酸アミド類、塩化メチレン,クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、トリフルオロエタノールなどのアルコール類、ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド類、ピリジン,ジオキサン,テトラヒドロフランなどのエーテル類、アセトニトリル,プロピオニトリルなどのニトリル類、酢酸メチル,酢酸エチルなどのエステル類あるいはこれらの適当な混合物などが用いられる。反応温度はタンパク質結合形成反応に使用されうることが知られている範囲から適宜選択され、通常約−20〜約50℃の範囲である。活性化されたアミノ酸誘導体は通常1.5〜4倍過剰で用いられる。ニンヒドリン反応を用いたテストの結果、縮合が不十分な場合には保護基の脱離を行うことなく縮合反応を繰り返すことにより十分な縮合を行うことができる。反応を繰り返しても十分な縮合が得られないときには、無水酢酸またはアセチルイミダゾールを用いて未反応アミノ酸をアセチル化することによって、後の反応に影響を与えないようにすることができる。
原料の反応に関与すべきでない官能基の保護ならびに保護基、およびその保護基の脱離、反応に関与する官能基の活性化などは公知の基または公知の手段から適宜選択されうる。
原料のアミノ基の保護基としては、例えば、Z、Boc、t−ペンチルオキシカルボニル、イソボルニルオキシカルボニル、4−メトキシベンジルオキシカルボニル、Cl−Z、Br−Z、アダマンチルオキシカルボニル、トリフルオロアセチル、フタロイル、ホルミル、2−ニトロフェニルスルフェニル、ジフェニルホスフィノチオイル、Fmocなどが用いられる。
カルボキシル基は、例えば、アルキルエステル化(例えば、メチル、エチル、プロピル、ブチル、t−ブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、2−アダマンチルなどの直鎖状、分枝状もしくは環状アルキルエステル化)、アラルキルエステル化(例えば、ベンジルエステル、4−ニトロベンジルエステル、4−メトキシベンジルエステル、4−クロロベンジルエステル、ベンズヒドリルエステル化)、フェナシルエステル化、ベンジルオキシカルボニルヒドラジド化、t−ブトキシカルボニルヒドラジド化、トリチルヒドラジド化などによって保護することができる。
セリンの水酸基は、例えば、エステル化またはエーテル化によって保護することができる。このエステル化に適する基としては、例えば、アセチル基などの低級(C1−6)アルカノイル基、ベンゾイル基などのアロイル基、ベンジルオキシカルボニル基、エトキシカルボニル基などの炭酸から誘導される基などが用いられる。また、エーテル化に適する基としては、例えば、ベンジル基、テトラヒドロピラニル基、t−ブチル基などである。
チロシンのフェノール性水酸基の保護基としては、例えば、Bzl、Cl2−Bzl、2−ニトロベンジル、Br−Z、t−ブチルなどが用いられる。
ヒスチジンのイミダゾールの保護基としては、例えば、Tos、4−メトキシ−2,3,6−トリメチルベンゼンスルホニル、DNP、ベンジルオキシメチル、Bum、Boc、Trt、Fmocなどが用いられる。
保護基の除去(脱離)方法としては、例えば、Pd−黒あるいはPd−炭素などの触媒の存在下での水素気流中での接触還元や、また、無水フッ化水素、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸あるいはこれらの混合液などによる酸処理や、ジイソプロピルエチルアミン、トリエチルアミン、ピペリジン、ピペラジンなどによる塩基処理、また液体アンモニア中ナトリウムによる還元なども用いられる。上記酸処理による脱離反応は、一般に約−20℃〜約40℃の温度で行われるが、酸処理においては、例えば、アニソール、フェノール、チオアニソール、メタクレゾール、パラクレゾール、ジメチルスルフィド、1,4−ブタンジチオール、1,2−エタンジチオールなどのようなカチオン捕捉剤の添加が有効である。また、ヒスチジンのイミダゾール保護基として用いられる2,4−ジニトロフェニル基はチオフェノール処理により除去され、トリプトファンのインドール保護基として用いられるホルミル基は上記の1,2−エタンジチオール、1,4−ブタンジチオールなどの存在下の酸処理による脱保護以外に、希水酸化ナトリウム溶液、希アンモニアなどによるアルカリ処理によっても除去される。
原料のカルボキシル基の活性化されたものとしては、例えば、対応する酸無水物、アジド、活性エステル〔アルコール(例えば、ペンタクロロフェノール、2,4,5−トリクロロフェノール、2,4−ジニトロフェノール、シアノメチルアルコール、パラニトロフェノール、HONB、N−ヒドロキシスクシミド、N−ヒドロキシフタルイミド、HOBt)とのエステル〕などが用いられる。原料のアミノ基の活性化されたものとしては、例えば、対応するリン酸アミドが用いられる。
タンパク質または部分ペプチドのアミド体を得る別の方法としては、例えば、まず、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基をアミド化して保護した後、アミノ基側にペプチド(タンパク質)鎖を所望の鎖長まで延ばした後、該ペプチド鎖のN末端のα−アミノ基の保護基のみを除いたタンパク質または部分ペプチドとC末端のカルボキシル基の保護基のみを除去したタンパク質または部分ペプチドとを製造し、これらのタンパク質またはペプチドを上記したような混合溶媒中で縮合させる。縮合反応の詳細については上記と同様である。縮合により得られた保護タンパク質またはペプチドを精製した後、上記方法によりすべての保護基を除去し、所望の粗タンパク質またはペプチドを得ることができる。この粗タンパク質またはペプチドは既知の各種精製手段を駆使して精製し、主要画分を凍結乾燥することで所望のタンパク質またはペプチドのアミド体を得ることができる。
タンパク質またはペプチドのエステル体を得るには、例えば、カルボキシ末端アミノ酸のα−カルボキシル基を所望のアルコール類と縮合しアミノ酸エステルとした後、タンパク質またはペプチドのアミド体と同様にして、所望のタンパク質またはペプチドのエステル体を得ることができる。
本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドは、本発明で用いられるタンパク質を適当なペプチダーゼで切断することによって製造することができる。
さらに、本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドは、それをコードするポリヌクレオチドを含有する形質転換体を培養し、得られる培養物から該タンパク質または該部分ペプチドを分離精製することによって製造することもできる。本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドはDNAであってもRNAであってもよく、あるいはDNA/RNAキメラであってもよい。好ましくはDNAが挙げられる。また、該ポリヌクレオチドは二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。二本鎖の場合は、二本鎖DNA、二本鎖RNAまたはDNA:RNAのハイブリッドでもよい。一本鎖の場合は、センス鎖(すなわち、コード鎖)であっても、アンチセンス鎖(すなわち、非コード鎖)であってもよい。
本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドをコードするポリヌクレオチドとしては、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、哺乳動物(例えば、ヒト、ウシ、サル、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、モルモット、ラット、マウス、ウサギ、ハムスターなど)のあらゆる細胞[例えば、肝細胞、脾細胞、神経細胞、グリア細胞、膵β細胞、骨髄細胞、メサンギウム細胞、ランゲルハンス細胞、表皮細胞、上皮細胞、杯細胞、内皮細胞、平滑筋細胞、線維芽細胞、線維細胞、筋細胞、脂肪細胞、免疫細胞(例、マクロファージ、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、巨核球、滑膜細胞、軟骨細胞、骨細胞、骨芽細胞、破骨細胞、乳腺細胞もしくは間質細胞、またはこれら細胞の前駆細胞、幹細胞もしくはガン細胞など]もしくはそれらの細胞が存在するあらゆる組織[例えば、脳、脳の各部位(例、嗅球、扁桃核、大脳基底球、海馬、視床、視床下部、大脳皮質、延髄、小脳)、脊髄、下垂体、胃、膵臓、腎臓、肝臓、生殖腺、甲状腺、胆嚢、骨髄、副腎、皮膚、肺、消化管(例、大腸、小腸)、血管、心臓、胸腺、脾臓、顎下腺、末梢血、前立腺、睾丸、卵巣、胎盤、子宮、骨、関節、脂肪組織(例、褐色脂肪組織、白色脂肪組織)、骨格筋など]由来のcDNA、合成DNAなどが挙げられる。本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNA画分および全RNAもしくはmRNA画分をそれぞれ鋳型として用い、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)(以下、「PCR法」とも称する)および逆転写酵素(Reverse Transcriptase)を用いたRT−PCR法によって直接増幅することもできる。あるいは、本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドをコードするゲノムDNAおよびcDNAは、上記した細胞・組織より調製したゲノムDNAおよび全RNAもしくはmRNAの断片を適当なベクター中に挿入して調製されるゲノムDNAライブラリーおよびcDNAライブラリーから、コロニーもしくはプラークハイブリダイゼーション法またはPCR法などにより、それぞれクローニングすることもできる。ライブラリーに使用するベクターは、バクテリオファージ、プラスミド、コスミド、ファージミドなどいずれであってもよい。
本発明で用いられるタンパク質をコードするDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列を含有するDNAとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、配列番号:2で表されるアミノ酸配列を含有するタンパク質と実質的に同質の活性を有するタンパク質をコードするDNAであればよい。
配列番号:1で表される塩基配列とハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズできるDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列と約50%以上、好ましくは約60%以上、より好ましくは約70%以上、いっそう好ましくは約80%以上、特に好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性(ホモロジー(homology))を有する塩基配列を含有するDNAなどが用いられる。
本明細書における塩基配列の相同性は、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
ハイブリダイゼーションは、それ自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning 2nd ed.(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。より好ましくは、ハイストリンジェントな条件に従って行なうことができる。
ハイストリンジェントな条件とは、例えば、ナトリウム濃度が約19〜約40mM、好ましくは約19〜約20mMで、温度が約50〜約70℃、好ましくは約60〜約65℃の条件を意味する。特に、ナトリウム塩濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が好ましい。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
本発明で用いられるタンパク質をコードするDNAは、好ましくは、配列番号:1で表される塩基配列を含有するDNA(Refseq Accession No.AF106858.1で登録されている「Homo sapiens G-protein-coupled receptor (GPR56) mRNA, complete cds」の第163〜2244番目のヌクレオチドに対応)あるいは他の哺乳動物におけるそのホモログなどが挙げられる。
本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドをコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA)としては、前述した本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドをコードする塩基配列を含有するものであればいかなるものであってもよい。また、ゲノムDNA、ゲノムDNAライブラリー、前記した細胞・組織由来のcDNA、前記した細胞・組織由来のcDNAライブラリー、合成DNAのいずれであってもよい。
本発明で用いられるタンパク質の部分ペプチドをコードするDNAとしては、例えば、配列番号:1で表される塩基配列の部分塩基配列、または配列番号:1で表される塩基配列を含有するポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含有し、かつ本発明で用いられるタンパク質と実質的に同質の活性を有するペプチドをコードするDNAなどが用いられる。配列番号:1で表される塩基配列とハイブリダイズできるDNAとは、前記と同義である。また、ハイブリダイゼーションの方法およびハイストリンジェントな条件としては、前記と同様のものが用いられる。
本発明で用いられるタンパク質およびその部分ペプチド(以下、これらをコードするDNAのクローニングおよび発現の説明においては、これらを単に「本発明のタンパク質」とも称する場合がある)をコードするDNAのクローニングの手段としては、本発明のタンパク質をコードする塩基配列の一部分を有する合成DNAプライマーを用いてPCR法によって増幅するか、または適当なベクターに組み込んだDNAを本発明のタンパク質の一部あるいは全部の領域をコードするDNA断片もしくは合成DNAを用いて標識したものとのハイブリダイゼーションによって選別することができる。ハイブリダイゼーションの方法は、例えば、Molecular Cloning 2nd ed.(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法などに従って行なうことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、添付の使用説明書に記載の方法に従って行なうことができる。
DNAの塩基配列の変換は、PCR、公知のキット、例えば、MutanTM−super Express Km(宝酒造(株))、MutanTM−K(宝酒造(株))等を用いて、ODA−LA PCR法、Gapped duplex法、Kunkel法等のそれ自体公知の方法あるいはそれらに準じる方法に従って行なうことができる。
クローン化されたタンパク質をコードするDNAは目的によりそのまま、または所望により制限酵素で消化したり、リンカーを付加したりして使用することができる。該DNAはその5’末端側に翻訳開始コドンとしてのATGを有し、また3’末端側には翻訳終止コドンとしてのTAA、TGAまたはTAGを有していてもよい。これらの翻訳開始コドンや翻訳終止コドンは、適当な合成DNAアダプターを用いて付加することもできる。
本発明のタンパク質の発現ベクターは、例えば、本発明のタンパク質をコードするDNAから目的とするDNA断片を切り出し、該DNA断片を適当な発現ベクター中のプロモーターの下流に連結することにより製造することができる。
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド(例、pBR322,pBR325,pUC12,pUC13)、枯草菌由来のプラスミド(例、pUB110,pTP5,pC194)、酵母由来プラスミド(例、pSH19,pSH15)、λファージなどのバクテリオファージ、レトロウイルス,ワクシニアウイルス,バキュロウイルスなどの動物ウイルスなどの他、pA1−11、pXT1、pRc/CMV、pRc/RSV、pcDNAI/Neoなどが用いられる。
本発明で用いられるプロモーターとしては、遺伝子の発現に用いる宿主に対応して適切なプロモーターであればいかなるものでもよい。例えば、動物細胞を宿主として用いる場合は、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMVプロモーター、HSV−TKプロモーターなどが挙げられる。
これらのうち、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SRαプロモーターなどを用いるのが好ましい。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、trpプロモーター、lacプロモーター、recAプロモーター、λPLプロモーター、lppプロモーター、T7プロモーターなどが、宿主がバチルス属菌である場合は、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーターなどが、宿主が酵母である場合は、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーターなどが好ましい。宿主が昆虫細胞である場合は、ポリヘドリンプロモーター、P10プロモーターなどが好ましい。
発現ベクターには、以上の他に、所望によりエンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、SV40複製オリジン(以下、「SV40ori」とも称する)などを含有しているものを用いることができる。選択マーカーとしては、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素(以下、「dhfr」とも称する)遺伝子〔メソトレキセート(MTX)耐性〕、アンピシリン耐性遺伝子(以下、「Ampr」とも称する)、ネオマイシン耐性遺伝子(以下、「Neor」とも称する、G418耐性)等が挙げられる。特に、dhfr遺伝子欠損チャイニーズハムスター細胞を用いてdhfr遺伝子を選択マーカーとして使用する場合、目的遺伝子をチミジンを含まない培地によっても選択できる。
また、必要に応じて、宿主に合ったシグナル配列を、本発明のタンパク質のN末端側に付加する。宿主がエシェリヒア属菌である場合は、PhoA・シグナル配列、OmpA・シグナル配列などが、宿主がバチルス属菌である場合は、α−アミラーゼ・シグナル配列、サブチリシン・シグナル配列などが、宿主が酵母である場合は、MFα・シグナル配列、SUC2・シグナル配列などが、宿主が動物細胞である場合には、インシュリン・シグナル配列、α−インターフェロン・シグナル配列、抗体分子・シグナル配列などがそれぞれ利用できる。
このようにして構築された本発明のタンパク質をコードするDNAを含有するベクターを用いて、形質転換体を製造することができる。宿主としては、例えば、エシェリヒア属菌、バチルス属菌、酵母、昆虫細胞、昆虫、動物細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌の具体例としては、例えば、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli)K12・DH1〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,60,160(1968)〕,JM103〔Nucleic Acids Research,9,309(1981)〕,JA221〔Journal of Molecular Biology,120,517(1978)〕,HB101〔Journal of Molecular Biology,41,459(1969)〕,C600〔Genetics,39,440(1954)〕などが用いられる。
バチルス属菌としては、例えば、バチルス・サブチルス(Bacillus subtilis)MI114〔Gene,24,255(1983)〕,207−21〔Journal of Biochemistry,95,87(1984)〕などが用いられる。
酵母としては、例えば、サッカロマイセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)AH22,AH22R−,NA87−11A,DKD−5D,20B−12、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)NCYC1913,NCYC2036、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)KM71などが用いられる。
昆虫細胞としては、例えば、ウイルスがAcNPVの場合は、夜盗蛾の幼虫由来株化細胞(Spodoptera frugiperda cell;Sf細胞)、Trichoplusia niの中腸由来のMG1細胞、Trichoplusia niの卵由来のHigh FiveTM細胞、Mamestra brassicae由来の細胞またはEstigmena acrea由来の細胞などが用いられる。ウイルスがBmNPVの場合は、蚕由来株化細胞(Bombyx mori N細胞;BmN細胞)などが用いられる。該Sf細胞としては、例えば、Sf9細胞(ATCC CRL1711)、Sf21細胞〔以上、Vaughn,J.L.et al.,In Vivo,13,213−217(1977)〕などが用いられる。
昆虫としては、例えば、カイコの幼虫などが用いられる〔Maeda et al.,Nature,315巻,592(1985)〕。
動物細胞としては、例えば、サル細胞COS−1,COS−3,COS−7,Vero,チャイニーズハムスター卵巣細胞(以下、「CHO細胞」とも称する),dhfr遺伝子欠損CHO細胞(以下、CHO(dhfr−)細胞とも称する),マウスL細胞,マウスAtT−20,マウスミエローマ細胞,マウスATDC5細胞,ラットGH3,ヒトFL細胞,ヒト293細胞、ヒトHeLa細胞などが用いられる。
エシェリヒア属菌を形質転換するには、例えば、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,69,2110(1972)やGene,17,107(1982)などに記載の方法に従って行なうことができる。
バチルス属菌を形質転換するには、例えば、Mol.Gen.Genet.,168,111(1979)などに記載の方法に従って行なうことができる。
酵母を形質転換するには、例えば、Meth.Enzymol.,194,182−187(1991)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,75,1929(1978)などに記載の方法に従って行なうことができる。
昆虫細胞または昆虫を形質転換するには、例えば、Bio/Technology,6,47−55(1988)などに記載の方法に従って行なうことができる。
動物細胞を形質転換するには、例えば、細胞工学別冊8 新細胞工学実験プロトコール,263−267(1995)(秀潤社発行)、Virology,52,456(1973)に記載の方法に従って行なうことができる。
このようにして、タンパク質をコードするDNAを含有する発現ベクターで形質転換された形質転換体を得ることができる。
宿主がエシェリヒア属菌、バチルス属菌である形質転換体を培養する際、培養に使用される培地としては液体培地が適当であり、その中には該形質転換体の生育に必要な炭素源、窒素源、無機物その他が含有せしめられる。炭素源としては、例えば、グルコース、デキストリン、可溶性澱粉、ショ糖など、窒素源としては、例えば、アンモニウム塩類、硝酸塩類、コーンスチープ・リカー、ペプトン、カゼイン、肉エキス、大豆粕、バレイショ抽出液などの無機または有機物質、無機物としては、例えば、塩化カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、塩化マグネシウムなどが挙げられる。また、酵母エキス、ビタミン類、成長促進因子などを添加してもよい。培地のpHは約5〜約8が望ましい。
エシェリヒア属菌を培養する際の培地としては、例えば、グルコース、カザミノ酸を含むM9培地〔Miller,Journal of Experiments in Molecular Genetics,431−433,Cold Spring Harbor Laboratory,New York 1972〕が好ましい。ここに必要によりプロモーターを効率よく働かせるために、例えば、3β−インドリルアクリル酸のような薬剤を加えることができる。
宿主がエシェリヒア属菌の場合、培養は通常約15〜約43℃で約3〜約24時間行い、必要により、通気や撹拌を加えることもできる。
宿主がバチルス属菌の場合、培養は通常約30〜約40℃で約6〜約24時間行い、必要により通気や撹拌を加えることもできる。
宿主が酵母である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、バークホールダー(Burkholder)最小培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,77,4505(1980)〕や0.5%カザミノ酸を含有するSD培地〔Proc.Natl.Acad.Sci.USA,81,5330(1984)〕が挙げられる。培地のpHは約5〜約8に調整するのが好ましい。培養は通常約20〜約35℃で約24〜約72時間行い、必要に応じて通気や撹拌を加える。
宿主が昆虫細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、Grace’s Insect Medium(Nature,195,788(1962))に非働化した10%ウシ血清等の添加物を適宜加えたものなどが用いられる。培地のpHは約6.2〜約6.4に調整するのが好ましい。培養は通常約27℃で約3〜約5日間行い、必要に応じて通気(例えば、5%CO2)や撹拌を加える。
宿主が動物細胞である形質転換体を培養する際、培地としては、例えば、約5〜約20%の胎仔牛血清を含むMEM培地〔Science,122,501(1952)〕,DMEM培地〔Virology,8,396(1959)〕,RPMI1640培地〔J.Am.Med.Assoc.,199,519(1967)〕,199培地〔Proc.Soc.Biol.Med.,73,1(1950)〕などが用いられる。pHは約6〜約8であるのが好ましい。培養は通常約30〜約40℃で約15〜約60時間行ない、必要に応じて通気や撹拌を加える。
以上のようにして、形質転換体の細胞内、細胞膜または細胞外に本発明のタンパク質を生成させることができる。
上記培養物からの本発明のタンパク質の分離精製は、例えば、下記の方法により行なうことができる。
本発明のタンパク質を培養菌体あるいは細胞から抽出するに際しては、培養後、公知の方法で菌体あるいは細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、超音波、リゾチームおよび/または凍結融解などによって菌体あるいは細胞を破壊したのち、遠心分離やろ過によりタンパク質の粗抽出液を得る方法などが適宜用いられる。緩衝液の中に尿素や塩酸グアニジンなどのタンパク質変性剤や、トリトンX−100TMなどの界面活性剤が含まれていてもよい。培養液中にタンパク質が分泌される場合には、培養終了後、それ自体公知の方法で菌体あるいは細胞と上清とを分離し、上清を集める。
このようにして得られた培養上清、あるいは抽出液中に含まれる本発明のタンパク質の精製は、それ自体公知の分離・精製法を適切に組み合わせて行うことができる。これらの公知の分離、精製法としては、塩析や溶媒沈澱法などの溶解度を利用する方法、透析法、限外ろ過法、ゲルろ過法、およびSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動法などの主として分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィーなどの荷電の差を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィーなどの特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィーなどの疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動法などの等電点の差を利用する方法などが用いられる。
このようにして得られる本発明のタンパク質が遊離体で得られた場合には、それ自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって塩に変換することができ、逆に塩で得られた場合にはそれ自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により、遊離体または他の塩に変換することができる。
なお、組換え体が産生するタンパク質を、精製前または精製後に適当なタンパク質修飾酵素を作用させることにより、任意に修飾を加えたり、ポリペプチドを部分的に除去することもできる。タンパク質修飾酵素としては、例えば、トリプシン、キモトリプシン、アルギニルエンドペプチダーゼ、プロテインキナーゼ、グリコシダーゼなどが用いられる。
このようにして生成する本発明のタンパク質の存在は、特異抗体を用いたエンザイムイムノアッセイやウエスタンブロッティングなどにより測定することができる。
さらに、本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドは、それをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞タンパク質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。あるいは、さらにRNAポリメラーゼを含む無細胞転写/翻訳系を用いて、カルモジュリンまたはその部分ペプチドをコードするDNAを鋳型としても合成することができる。無細胞タンパク質(転写/)翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には大腸菌抽出液はPratt J.M.ら,“Transcription and Tranlation”,Hames B.D.およびHigginsS.J.編,IRL Press,Oxford 179−209(1984)に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system(Promega社製)やRTS 500 Rapid Tranlation System(Roche社製)等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System(Promega社製)等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製)等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B.ら,Nature,179,160−161(1957)あるいはErickson A.H.ら,Meth.Enzymol.,96,38−50(1996)等に記載の方法を用いることができる。
タンパク質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法(Pratt,J.M.ら(1984)前述)や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム(Spirin A.S.ら,Science,242,1162−1164(1988))、透析法(木川ら,第21回日本分子生物学会,WID6)、あるいは重層法(PROTEIOSTMWheat germ cell−free protein synthesis core kit取扱説明書:TOYOBO社製)等が挙げられる。さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000−333673)等を用いることができる。
本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドに対する抗体(以下、「本発明の抗体」とも称する)は、本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチドを認識しうる抗体であれば、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体のいずれであってもよい。抗体のアイソタイプは特に限定されないが、好ましくはIgG、IgMまたはIgAであり、特に好ましくはIgGである。
また、本発明の抗体は、標的抗原を特異的に認識し結合するための相補性決定領域(CDR)を少なくとも有するものであれば特に制限はなく、完全抗体分子の他、例えばFab、Fab’、F(ab’)2等のフラグメント、scFv、scFv−Fc、ミニボディー、ダイアボディー等の遺伝子工学的に作製されたコンジュゲート分子、あるいはポリエチレングリコール(PEG)等のタンパク質安定化作用を有する分子等で修飾されたそれらの誘導体などであってもよい。
本発明で用いられるタンパク質またはその部分ペプチド(以下、抗体の説明においては、これらを単に「本発明のタンパク質」とも称する)に対する抗体は、それ自体公知の抗体または抗血清の製造法に従って製造することができる。
以下に、本発明の抗体の免疫原調製法、および当該抗体の製造法について説明する。
(1)抗原の調製
本発明の抗体を調製するために使用される抗原としては、上記した本発明のタンパク質またはその部分ペプチド、あるいはそれと同一の抗原決定基を1種あるいは2種以上有する(合成)ペプチドなど、いずれのものも使用されうる(以下、これらを単に「本発明の抗原」とも称する)。
本発明のタンパク質またはその部分ペプチドは、上記した通り、例えば、(a)ヒト、サル、ラット、マウス、ニワトリなどの温血動物の組織または細胞から公知の方法あるいはそれに準ずる方法を用いて調製、(b)ペプチド・シンセサイザー等を使用する公知のペプチド合成方法で化学的に合成、(c)本発明のタンパク質またはその部分ペプチドをコードするDNAを含有する形質転換体を培養、あるいは(d)本発明のタンパク質またはその部分ペプチドをコードする核酸を鋳型として無細胞転写/翻訳系を用いて生化学的に合成することによって製造される。
(a)温血動物の組織または細胞から本発明のタンパク質を調製する場合、その組織または細胞をホモジナイズした後、粗分画物(例えば、膜画分、可溶性画分)をそのまま抗原として用いることもできる。あるいは酸、界面活性剤またはアルコールなどで抽出を行い、得られる抽出液を、塩析、透析、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーを組み合わせることにより精製単離することもできる。得られた本発明のタンパク質をそのまま免疫原とすることもできるし、ペプチダーゼ等を用いた限定分解により部分ペプチドを調製してそれを免疫原とすることもできる。
(b)化学的に本発明の抗原を調製する場合、該合成ペプチドとしては、例えば上述の(a)の方法を用いて天然材料より精製した本発明のタンパク質と同一の構造を有するもの、具体的には、該タンパク質のアミノ酸配列において3個以上、好ましくは6個以上のアミノ酸からなる任意の箇所のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を1種あるいは2種以上含有するペプチドなどが用いられる。
(c)DNAを含有する形質転換体を用いて本発明の抗原を製造する場合、該DNAは、公知のクローニング方法〔例えば、Molecular Cloning 2nd ed.(J.Sambrook et al.,Cold Spring Harbor Lab.Press,1989)に記載の方法など〕に従って作製することができる。該クローニング方法としては、(1)本発明のタンパク質をコードする遺伝子配列に基づきデザインしたDNAプローブを用い、cDNAライブラリーからハイブリダイゼーション法により該抗原をコードするDNAを単離するか、(2)本発明のタンパク質をコードする遺伝子配列に基づきデザインしたDNAプライマーを用い、cDNAを鋳型としてPCR法により該抗原をコードするDNAを調製し、該DNAを宿主に適合する発現ベクターに挿入する方法などが挙げられる。該発現ベクターで宿主を形質転換して得られる形質転換体を適当な培地中で培養することにより、所望の抗原を得ることができる。
(d)無細胞転写/翻訳系を利用する場合、上記(c)と同様の方法により調製した抗原をコードするDNAを挿入した発現ベクター(例えば、該DNAがT7、SP6プロモーター等の制御下におかれた発現ベクターなど)を鋳型とし、該プロモーターに適合するRNAポリメラーゼおよび基質(NTPs)を含む転写反応液を用いてmRNAを合成した後、該mRNAを鋳型として公知の無細胞翻訳系(例えば、大腸菌、ウサギ網状赤血球、コムギ胚芽等の抽出液)を用いて翻訳反応を行なわせる方法などが挙げられる。塩濃度等を適当に調整することにより、転写反応と翻訳反応とを同一反応液中で一括して行なうこともできる。
免疫原としては、本発明のタンパク質の完全な分子やその部分アミノ酸配列を有するペプチドを用いることができる。部分アミノ酸配列としては、例えば3個以上の連続するアミノ酸残基からなるもの、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上、いっそう好ましくは6個以上の連続するアミノ酸残基からなるものが挙げられる。あるいは、該アミノ酸配列としては、例えば20個以下の連続するアミノ酸残基からなるもの、好ましくは18個以下、より好ましくは15個以下、いっそう好ましくは12個以下の連続するアミノ酸残基からなるものが挙げられる。これらのアミノ酸残基の一部(例えば、1個〜数個)は置換可能な基(例えば、Cys残基、水酸基等)によって置換されていてもよい。免疫原として用いられるペプチドは、このような部分アミノ酸配列を1個〜数個含むアミノ酸配列を有する。
あるいは、本発明のタンパク質を発現する温血動物細胞自体を、本発明の抗原として直接用いることもできる。温血動物細胞としては、上記(a)項で述べたような天然の細胞、上記(c)項で述べたような方法で形質転換した細胞などを用いることができる。形質転換に用いる宿主としては、ヒト、サル、ラット、マウス、ハムスター、ニワトリなどから採取した細胞であれば何れのものでも良く、HEK293、COS7、CHO−K1、NIH3T3、Balb3T3、FM3A、L929、SP2/0、P3U1、B16、またはP388などが好ましく用いられる。本発明のタンパク質を発現する天然の温血動物細胞または形質転換した温血動物細胞は、組織培養に用いられる培地(例えば、RPMI1640)または緩衝液(例えば、ハンクス緩衝塩類溶液(Hanks’ Balanced Salt Slution;HBSS))に懸濁された状態で免疫動物に注射することができる。免疫方法としては、抗体産生を促すことのできる方法であればいずれの方法でもよく、静脈内注射、腹腔内注射、筋肉内注射または皮下注射などが好ましく用いられる。
本発明の抗原は、免疫原性を有していれば不溶化したものを直接免疫することもできるが、分子内に1個〜数個の抗原決定基しか有しない低分子量(例えば、分子量約3,000以下)の抗原(すなわち、本発明のタンパク質の部分ペプチド)を用いる場合には、これらの抗原は通常、免疫原性の低いハプテン分子であるため、適当な担体(キャリアー)に結合または吸着させた複合体として免疫することができる。担体としては天然または合成の高分子を用いることができる。天然高分子としては、例えばウシ、ウサギ、ヒトなどの哺乳動物の血清アルブミンや例えばウシ、ウサギなどの哺乳動物のサイログロブリン、例えばニワトリのオボアルブミン、例えばウシ、ウサギ、ヒト、ヒツジなどの哺乳動物のヘモグロビン、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)などが用いられる。合成高分子としては、例えばポリアミノ酸類、ポリスチレン類、ポリアクリル類、ポリビニル類、ポリプロピレン類などの重合物または共重合物などの各種ラテックスなどが挙げられる。
該キャリアーとハプテンとの混合比は、担体に結合あるいは吸着させた抗原に対する抗体が効率よく産生されれば、どのようなものをどのような比率で結合あるいは吸着させてもよく、通常ハプテンに対する抗体の作製にあたり常用されている上記の天然もしくは合成の高分子キャリアーを、重量比でハプテン1に対し0.1〜100の割合で結合あるいは吸着させたものを使用することができる。
また、ハプテンとキャリアーのカップリングには、種々の縮合剤を用いることができる。例えば、チロシン、ヒスチジン、トリプトファンを架橋するビスジアゾ化ベンジジンなどのジアゾニウム化合物、アミノ基同士を架橋するグルタルアルデビトなどのジアルデヒド化合物、トルエン−2,4−ジイソシアネートなどのジイソシアネート化合物、チオール基同士を架橋するN,N’−o−フェニレンジマレイミドなどのジマレイミド化合物、アミノ基とチオール基を架橋するマレイミド活性エステル化合物、アミノ基とカルボキシル基とを架橋するカルボジイミド化合物などが好都合に用いられる。また、アミノ基どうしを架橋する際にも、一方のアミノ基にジチオピリジル基を有する活性エステル試薬(例えば、3−(2−ピリジルジチオ)プロピオン酸N−スクシンイミジル(SPDP)など)を反応させた後還元することによりチオール基を導入し、他方のアミノ基にマレイミド活性エステル試薬によりマレイミド基を導入後、両者を反応させることもできる。
(2)モノクローナル抗体の作製
(a)モノクローナル抗体産生細胞の作製
本発明の抗原は、温血動物に対して、例えば腹腔内注入、静脈注入、皮下注射、皮内注射などの投与方法によって、抗体産生が可能な部位にそれ自体単独で、あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は通常1〜6週毎に1回ずつ、計2〜10回程度行なわれる。用いられる温血動物としては、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ハムスター、ヒツジ、ヤギ、ロバ、ニワトリが挙げられる。抗Ig抗体産生の問題を回避するためには、投与対象と同一種の哺乳動物を用いることが好ましいが、モノクローナル抗体作製には一般にマウスおよびラットが好ましく用いられる。
ヒトに対する人為的免疫感作は倫理的に困難であることから、本発明の抗体がヒトを投与対象とする場合には、(i)後述する方法に従って作製されるヒト抗体産生動物(例えば、マウス)を免疫してヒト抗体を得る、(ii)後述する方法に従ってキメラ抗体、ヒト化抗体もしくは完全ヒト抗体を作製する、あるいは(iii)体外免疫法とウイルスによる細胞不死化、ヒト−ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマ作製技術、ファージディスプレイ法等とを組み合わせてヒト抗体を得ることが好ましい。なお、体外免疫法は、通常の免疫では抗体産生が抑制される抗原に対する抗原を取得できる可能性があることや、ng〜μgオーダーの抗原量で抗体を得ることが可能であること、免疫が数日間で終了することなどから、不安定で大量調製の困難な抗原に対する抗体を得る方法として、非ヒト動物由来の抗体を調製する場合にも好ましく用いられうる。
体外免疫法に用いられる動物細胞としては、ヒトおよび上記した温血動物(好ましくはマウス、ラット)の末梢血、脾臓、リンパ節などから単離されるリンパ球、好ましくはBリンパ球等が挙げられる。例えば、マウス細胞やラット細胞の場合、4〜12週齢程度の動物から脾臓を摘出・脾細胞を分離し、適当な培地(例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、ハムF12培地等)で洗浄した後、抗原を含む胎仔ウシ血清(FCS;5〜20%程度)添加培地に浮遊させて4〜10日間程度CO2インキュベーターなどを用いて培養する。抗原濃度としては、例えば0.05〜5μgが挙げられるがこれに限定されない。同一系統の動物(1〜2週齢程度が好ましい)の胸腺細胞培養上清を常法に従って調製し、培地に添加することが好ましい。
ヒト細胞の体外免疫では、胸腺細胞培養上清を得ることは困難であるため、IL−2、IL−4、IL−5、IL−6等数種のサイトカインおよび必要に応じてアジュバント物質(例えば、ムラミルジペプチド等)を抗原とともに培地に添加して免疫感作を行なうことが好ましい。
モノクローナル抗体の作製に際しては、抗原を免疫された温血動物(例えば、マウス、ラット)もしくは動物細胞(例えば、ヒト、マウス、ラット)から抗体価の上昇が認められた個体もしくは細胞集団を選択し、最終免疫の2〜5日後に脾臓またはリンパ節を採取もしくは体外免疫後4〜10日間培養した後に細胞を回収して抗体産生細胞を単離し、これと骨髄腫細胞とを融合させることにより抗体産生ハイブリドーマを調製することができる。血清中の抗体価の測定は、例えば標識化抗原と抗血清とを反応させた後、抗体に結合した標識剤の活性を測定することにより行なうことができる。
骨髄腫細胞は多量の抗体を分泌するハイブリドーマを産生しうるものであれば特に制限はないが、自身は抗体を産生もしくは分泌しないものが好ましく、また、細胞融合効率が高いものがより好ましい。また、ハイブリドーマの選択を容易にするために、HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)感受性の株を用いることが好ましい。例えばマウス骨髄腫細胞としてはNS−1、P3U1、SP2/0、AP−1等が、ラット骨髄腫細胞としてはR210.RCY3、Y3−Ag1.2.3等が、ヒト骨髄腫細胞としてはSKO−007、GM1500−6TG−2、LICR−LON−HMy2、UC729−6等が挙げられる。
融合操作は既知の方法、例えばケーラーとミルスタインの方法[Nature,256,495(1975)]に従って実施することができる。融合促進剤としては、ポリエチレングリコール(PEG)やセンダイウィルスなどが挙げられるが、好ましくはPEGなどが用いられる。PEGの分子量は特に制限はないが、低毒性でかつ粘性が比較的低いPEG1000〜PEG6000が好ましい。PEG濃度としては例えば10〜80%程度、好ましくは30〜50%程度が例示される。PEGの希釈用溶液としては無血清培地(例えば、RPMI1640)、5〜20%程度の血清を含む完全培地、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、トリス緩衝液等の各種緩衝液を用いることができる。所望によりDMSO(例えば、10〜20%程度)を添加することもできる。融合液のpHとしては、例えば4〜10程度、好ましくは6〜8程度が挙げられる。
抗体産生細胞(脾細胞)数と骨髄細胞数との好ましい比率は、通常1:1〜20:1程度であり、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常1〜10分間インキュベート(例えば、CO2インキュベート)することにより効率よく細胞融合を実施できる。
抗体産生細胞株はまた、リンパ球を形質転換しうるウイルスに抗体産生細胞を感染させて該細胞を不死化することによっても得ることができる。そのようなウイルスとしては、例えばエプスタイン−バー(EB)ウイルス等が挙げられる。大多数の人は伝染性単核球症の無症状感染としてこのウイルスに感染した経験があるので免疫を有しているが、通常のEBウイルスを用いた場合にはウイルス粒子も産生されるので、適切な精製を行なうべきである。ウイルス混入の可能性のないEBシステムとして、Bリンパ球を不死化する能力を保持するがウイルス粒子の複製能力を欠損した組換えEBウイルス(例えば、潜伏感染状態から溶解感染状態への移行のスイッチ遺伝子における欠損など)を用いることもまた好ましい。
マーモセット由来のB95−8細胞はEBウイルスを分泌しているので、その培養上清を用いれば容易にBリンパ球を形質転換することができる。この細胞を例えば血清およびペニシリン/ストレプトマイシン(P/S)添加培地(例えば、RPMI1640)もしくは細胞増殖因子を添加した無血清培地で培養した後、濾過もしくは遠心分離等により培養上清を分離し、これに抗体産生Bリンパ球を適当な濃度(例えば、約107細胞/mL)で浮遊させて、通常20〜40℃、好ましくは30〜37℃で通常0.5〜2時間程度インキュベートすることにより抗体産生B細胞株を得ることができる。ヒトの抗体産生細胞が混合リンパ球として提供される場合、大部分の人はEBウイルス感染細胞に対して傷害性を示すTリンパ球を有しているので、形質転換の頻度を高めるためには、例えばヒツジ赤血球等とEロゼットを形成させることによってTリンパ球を予め除去しておくことが好ましい。また、可溶性抗原を結合したヒツジ赤血球を抗体産生Bリンパ球と混合し、パーコール等の密度勾配を用いてロゼットを分離することにより標的抗原に特異的なリンパ球を選別することができる。さらに、大過剰の抗原を添加することにより抗原特異的なBリンパ球はキャップされて表面にIgGを提示しなくなるので、抗IgG抗体を結合したヒツジ赤血球と混合すると抗原非特異的なBリンパ球のみがロゼットを形成する。従って、この混合物からパーコール等の密度勾配を用いてロゼット非形成層を採取することにより、抗原特異的Bリンパ球を選別することができる。
形質転換によって無限増殖能を獲得したヒト抗体分泌細胞は、抗体分泌能を安定に持続させるためにマウスもしくはヒトの骨髄腫細胞と戻し融合させることができる。骨髄腫細胞としては上記と同様のものが用いられうる。
ハイブリドーマのスクリーニング、育種は通常HAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)を添加して、5〜20%FCSを含む動物細胞用培地(例えば、RPMI1640)もしくは細胞増殖因子を添加した無血清培地で行われる。ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンの濃度としては、例えばそれぞれ約0.1mM、約0.4μMおよび約0.016mM等が挙げられる。ヒト−マウスハイブリドーマの選択にはウワバイン耐性を用いることができる。ヒト細胞株はマウス細胞株に比べてウワバインに対する感受性が高いため、10−7〜10−3M程度で培地に添加することにより未融合のヒト細胞を排除することができる。
ハイブリドーマの選択にはフィーダー細胞やある種の細胞培養上清を用いることが好ましい。フィーダー細胞としては、ハイブリドーマの出現を助けて自身は死滅するように生存期間が限られた異系の細胞種、ハイブリドーマの出現に有用な増殖因子を大量に産生しうる細胞を放射線照射等して増殖力を低減させたものなどが用いられる。例えば、マウスのフィーダー細胞としては、脾細胞、マクロファージ、血液、胸腺細胞等が挙げられ、ヒトのフィーダー細胞としては、末梢血単核細胞等が挙げられる。細胞培養上清としては、例えば上記の各種細胞の初代培養上清や種々の株化細胞の培養上清が挙げられる。
また、ハイブリドーマは、抗原を蛍光標識して融合細胞と反応させた後、蛍光活性化セルソータ(FACS)を用いて抗原と結合する細胞を分離することによっても選択することができる。この場合、標的抗原に対する抗体を産生するハイブリドーマを直接選択することができるため、クローニングの労力を大いに軽減することが可能である。
標的抗原に対するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマのクローニングには、種々の方法が用いられうる。
アミノプテリンは多くの細胞機能を阻害するため、できるだけ早く培地から除去することが好ましい。マウスやラットの場合、ほとんどの骨髄腫細胞は10〜14日以内に死滅するため、融合2週間後からはアミノプテリンを除去することができる。ただし、ヒトハイブリドーマについては通常融合後4〜6週間程度はアミノプテリン添加培地で維持される。ヒポキサンチン、チミジンはアミノプテリン除去後1週間以上後に除去するのが望ましい。すなわち、マウス細胞の場合、例えば融合7〜10日後にヒポキサンチンおよびチミジン(HT)添加完全培地(例えば、10%FCS添加RPMI1640)の添加または交換を行なう。融合後8〜14日程度で目視可能なクローンが出現する。クローンの直径が1mm程度になれば培養上清中の抗体量の測定が可能となる。
抗体量の測定は、例えば標的抗原またはその誘導体あるいはその部分ペプチド(抗原決定基として用いた部分アミノ酸配列を含む)を直接あるいは担体とともに吸着させた固相(例えば、マイクロプレート)にハイブリドーマ培養上清を添加し、次に放射性物質(例えば、125I、131I、3H、14C)、酵素(例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、ペルオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素)、蛍光物質(例えば、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネート)、発光物質(例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニン)などで標識した抗免疫グロブリン(IgG)抗体(もとの抗体産生細胞が由来する動物と同一種の動物由来のIgGに対する抗体が用いられる)またはプロテインAを加え、固相に結合した標的抗原(抗原決定基)に対する抗体を検出する方法、抗IgG抗体またはプロテインAを吸着させた固相にハイブリドーマ培養上清を添加し、上記と同様の標識剤で標識した標的抗原またはその誘導体あるいはその部分ペプチドを加え、固相に結合した標的抗原(抗原決定基)に対する抗体を検出する方法などによって行なうことができる。
クローニング方法としては限界希釈法が通常用いられるが、軟寒天を用いたクローニングやFACSを用いたクローニング(上述)も可能である。限界希釈法によるクローニングは、例えば以下の手順で行なうことができるが、これに限定されない。
上記のようにして抗体量を測定して陽性ウェルを選択する。適当なフィーダー細胞を選択して96ウェルプレートに添加しておく。抗体陽性ウェルから細胞を吸い出し、完全培地(例えば、10%FCSおよびP/S添加RMPI1640)中に30細胞/mLの密度となるように浮遊させ、フィーダー細胞を添加したウェルプレートに0.1mL(3細胞/ウェル)加え、残りの細胞懸濁液を10細胞/mLに希釈して別のウェルに同様にまき(1細胞/ウェル)、さらに残りの細胞懸濁液を3細胞/mLに希釈して別のウェルにまく(0.3細胞/ウェル)。目視可能なクローンが出現するまで2〜3週間程度培養し、抗体量を測定・陽性ウェルを選択し、再度クローニングする。ヒト細胞の場合はクローニングが比較的困難であるため、10細胞/ウェルのプレートも調製しておく。通常2回のサブクローニングでモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得ることができるが、その安定性を確認するためにさらに数ヶ月間定期的に再クローニングを行うことが望ましい。
ハイブリドーマはインビトロまたはインビボで培養することができる。インビトロでの培養法としては、上記のようにして得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを、細胞密度を例えば105〜106細胞/mL程度に保ちながら、また、FCS濃度を徐々に減らしながら、ウェルプレートから徐々にスケールアップしていく方法が挙げられる。
インビボでの培養法としては、例えば、腹腔内にミネラルオイルを注入して形質細胞腫(MOPC)を誘導したマウス(ハイブリドーマの親株と組織適合性のマウス)に、5〜10日後に106〜107細胞程度のハイブリドーマを腹腔内注射し、2〜5週間後に麻酔下で腹水を採取する方法が挙げられる。
(b)モノクローナル抗体の精製
モノクローナル抗体の分離精製は、それ自体公知の方法、例えば、免疫グロブリンの分離精製法[例:塩析法、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換体(例えば、DEAE、QEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、抗原結合固相あるいはプロテインAあるいはプロテインGなどの活性吸着剤により抗体のみを採取し、結合を解離させて抗体を得る特異的精製法など]に従って行なうことができる。
以上のようにして、ハイブリドーマを温血動物の生体内又は生体外で培養し、その体液または培養物から抗体を採取することによって、モノクローナル抗体を製造することができる。
本発明の抗体を癌の予防・治療に利用する場合、該抗体は抗腫瘍活性を持つものでなければならないため、得られたモノクローナル抗体の抗腫瘍活性の程度について調べる必要がある。抗腫瘍活性は、抗体の存在下および非存在下における癌細胞の増殖、細胞接着、アポトーシス誘導などを比較することにより測定することができる。
好ましい実施形態において、本発明の抗体はヒトを投与対象とする医薬品として使用される。このため、本発明の抗体(好ましくはモノクローナル抗体)はヒトに投与した場合に抗原性を示す危険性が低減された抗体(具体的には、完全ヒト抗体、ヒト化抗体、マウス−ヒトキメラ抗体など)であり、特に好ましくは完全ヒト抗体である。ヒト化抗体およびキメラ抗体は、後述する方法に従って遺伝子工学的に作製することができる。また、完全ヒト抗体は、上記したヒト−ヒト(もしくはマウス)ハイブリドーマより製造することも可能ではあるが、大量の抗体を安定にかつ低コストで提供するためには、後述するヒト抗体産生動物(例えば、マウス)またはファージディスプレイ法を用いて製造することが望ましい。
(i)キメラ抗体の作製
本明細書において「キメラ抗体」とは、H鎖およびL鎖の可変領域(VHおよびVL)の配列がある哺乳動物種に由来し、定常領域(CHおよびCL)の配列が他の哺乳動物種に由来する抗体を意味する。可変領域の配列は、例えばマウス等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種由来であることが好ましく、定常領域の配列は投与対象となる哺乳動物種由来であることが好ましい。
キメラ抗体の作製法としては、例えば米国特許第6,331,415号明細書に記載の方法あるいはそれを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、まず、上述のようにして得られるモノクローナル抗体産生ハイブリドーマ(例えば、マウス−マウスハイブリドーマ)から、常法に従ってmRNAもしくは全RNAを調製し、cDNAを合成する。次いで、該cDNAを鋳型として、適当なプライマー(例えば、センスプライマーとしてVHおよびVLの各N末端配列をコードする塩基配列を含むオリゴDNA、アンチセンスプライマーとしてCHおよびCLのN末端配列をコードする塩基配列とハイブリダイズするオリゴDNA(例えばBio/Technology,9:88−89,1991参照))を用い、常法に従ってPCRでVHおよびVLをコードするDNAを増幅・精製する。同様の方法により、他の哺乳動物(例えば、ヒト)のリンパ球等より調製したRNAからRT−PCR法によりCHおよびCLをコードするDNAを増幅・精製する。常法を用いてVHとCH、VLとCLをそれぞれ連結し、得られたキメラH鎖DNAおよびキメラL鎖DNAを、それぞれ適当な発現ベクター(例えば、CHO細胞、COS細胞、マウス骨髄腫細胞等で転写活性を有するプロモーター(例えば、CMVプロモーター、SV40プロモーター等)を含むベクターなど)に挿入する。両鎖をコードするDNAは別個のベクターに挿入してもよいし、1個のベクターにタンデムに挿入してもよい。得られたキメラH鎖およびキメラL鎖発現ベクターで宿主細胞を形質転換する。宿主細胞としては、動物細胞、例えば上記したマウス骨髄腫細胞の他、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、サル由来のCOS−7細胞、Vero細胞、ラット由来のGHS細胞などが挙げられる。形質転換には、動物細胞に適用可能ないかなる方法を用いてもよいが、好ましくはエレクトロポレーション法などが挙げられる。宿主細胞に適した培地中で一定期間培養後、培養上清を回収して上記と同様の方法で精製することにより、キメラモノクローナル抗体を単離することができる。あるいは、宿主細胞としてウシ、ヤギ、ニワトリ等のトランスジェニック技術が確立し、かつ家畜(家禽)として大量繁殖のノウハウが蓄積されている動物の生殖系列細胞を用い、常法によってトランスジェニック動物を作製することにより、得られる動物の乳汁もしくは卵から容易にかつ大量にキメラモノクローナル抗体を得ることもできる。さらに、トウモロコシ、イネ、コムギ、ダイズ、タバコなどのトランスジェニック技術が確立し、かつ主要作物として大量に栽培されている植物細胞を宿主細胞として、プロトプラストへのマイクロインジェクションやエレクトロポレーション、無傷細胞へのパーティクルガン法やTiベクター法などを用いてトランスジェニック植物を作製し、得られる種子や葉などから大量にキメラモノクローナル抗体を得ることも可能である。
得られたキメラモノクローナル抗体をパパインで分解すればFabが、ペプシンで分解すればF(ab’)2がそれぞれ得られる。
また、マウスVHおよびVLをコードするDNAを適当なリンカー、例えば1〜40アミノ酸、好ましくは3〜30アミノ酸、より好ましくは5〜20アミノ酸からなるペプチド(例:[Ser−(Gly)m]nもしくは[(Gly)m−Ser]n(mは0〜10の整数、nは1〜5の整数)等)をコードするDNAを介して連結することによりscFvとすることができ、さらにCH3をコードするDNAを適当なリンカーを介して連結することによりminibodyモノマーとしたり、CH全長をコードするDNAを適当なリンカーを介して連結することによりscFv−Fcとすることもできる。このような遺伝子工学的に修飾(共役)された抗体分子をコードするDNAは、適当なプロモーターの制御下におくことにより大腸菌や酵母などの微生物で発現させることができ、大量に抗体分子を生産することができる。
マウスVHおよびVLをコードするDNAを1つのプロモーターの下流にタンデムに挿入して大腸菌に導入すると、モノシストロニックな遺伝子発現によりFvと呼ばれる二量体を形成する。また、分子モデリングを用いてVHおよびVLのFR中の適当なアミノ酸をCysに置換すると、両鎖の分子間ジスルフィド結合によりdsFvと呼ばれる二量体が形成される。
(ii)ヒト化抗体
本明細書において「ヒト化抗体」とは、可変領域に存在する相補性決定領域(CDR)以外のすべての領域(すなわち、定常領域および可変領域中のフレームワーク領域(FR))の配列がヒト由来であり、CDRの配列のみが他の哺乳動物種由来である抗体を意味する。他の哺乳動物種としては、例えばマウス等の容易にハイブリドーマを作製することができる動物種が好ましい。
ヒト化抗体の作製法としては、例えば米国特許第5,225,539号、第5,585,089号、第5,693,761号および第5,693,762号に記載される方法あるいはそれらを一部改変した方法などが挙げられる。具体的には、上記キメラ抗体の場合と同様にして、ヒト以外の哺乳動物種(例えば、マウス)由来のVHおよびVLをコードするDNAを単離した後、常法により自動DNAシークエンサー(例えば、Applied Biosystems社製等)を用いてシークエンスを行い、得られる塩基配列もしくはそこから推定されるアミノ酸配列を公知の抗体配列データベース[例えば、Kabat database(Kabatら,「Sequences of Proteins of Immunological Interest」,US Department of Health and Human Services,Public Health Service,NIH編,第5版,1991参照)等]を用いて解析し、両鎖のCDRおよびFRを決定する。決定されたFR配列に類似したFR配列を有するヒト抗体のL鎖およびH鎖をコードする塩基配列[例:ヒトκ型L鎖サブグループIおよびヒトH鎖サブグループIIもしくはIII(Kabatら,1991(上述)を参照)]のCDRコード領域を、決定された異種CDRをコードする塩基配列で置換した塩基配列を設計し、該塩基配列を20〜40塩基程度のフラグメントに区分し、さらに該塩基配列に相補的な配列を、前記フラグメントと交互にオーバーラップするように20〜40塩基程度のフラグメントに区分する。各フラグメントをDNAシンセサイザーを用いて合成し、常法に従ってこれらをハイブリダイズさせ、ライゲーションすることにより、ヒト由来のFRと他の哺乳動物種由来のCDRを有するVHおよびVLをコードするDNAを構築することができる。より迅速かつ効率的に他の哺乳動物種由来CDRをヒト由来VHおよびVLに移植するには、PCRによる部位特異的変異誘発を用いることが好ましい。そのような方法としては、例えば特開平5−227970号公報に記載の逐次CDR移植法等が挙げられる。このようにして得られるVHおよびVLをコードするDNAを、上記キメラ抗体の場合と同様の方法でヒト由来のCHおよびCLをコードするDNAとそれぞれ連結して適当な宿主細胞に導入することにより、ヒト化抗体を産生する細胞あるいはトランスジェニック動植物を得ることができる。
ヒト化抗体もキメラ抗体と同様に遺伝子工学的手法を用いてscFv、scFv−Fc、minibody、dsFv、Fvなどに改変することができ、適当なプロモーターを用いることで大腸菌や酵母などの微生物でも生産させることができる。
ヒト化抗体作製技術は、例えばハイブリドーマの作製技術が確立していない他の動物種に好ましく投与しうるモノクローナル抗体を作製するのにも応用することができる。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜(家禽)として広く繁殖されている動物やイヌやネコなどのペット動物などが対象として挙げられる。
(iii)ヒト抗体産生動物を用いた完全ヒト抗体の作製
内因性免疫グロブリン(Ig)遺伝子をノックアウト(KO)した非ヒト温血動物に機能的なヒトIg遺伝子を導入し、これを抗原で免疫すれば、該動物由来の抗体の代わりにヒト抗体が産生される。従って、マウス等のようにハイブリドーマ作製技術が確立している動物を用いれば、従来のマウスモノクローナル抗体の作製と同様の方法によって完全ヒトモノクローナル抗体を取得することが可能となる。まず、ヒトIgのH鎖およびL鎖のミニ遺伝子を通常のトランスジェニック(Tg)技術を用いて導入したマウスと、内因性マウスIg遺伝子を通常のKO技術を用いて不活性化したマウスとを交配して得られたヒト抗体産生マウス(Immunol.Today,17,391−397(1996)を参照)を用いて作製されたヒトモノクローナル抗体のいくつかは既に臨床段階にあり、現在までのところ抗ヒトIgヒト抗体(HAHA)の産生は報告されていない。
その後、Abgenix社[商品名:XenoMouse(Nat.Genet.,15,146−156(1997);米国特許第5,939,598号等を参照)]やMedarex社[商品名:Hu−Mab Mouse(Nat.Biotechnol.,14,845−851(1996);米国特許第5,545,806号等を参照)]が酵母人工染色体(YAC)ベクターを用いてより大きなヒトIg遺伝子を導入したTgマウスを作製し、よりレパートリーに富んだヒト抗体を産生し得るようになった。しかしながら、ヒトIg遺伝子は、例えばH鎖の場合、約80種のV断片、約30種のD断片および6種のJ断片が様々に組み合わされたVDJエクソンが抗原結合部位をコードすることによりその多様性を実現しているため、その全長はH鎖が約1.5Mb(14番染色体)、κL鎖が約2Mb(2番染色体)、λL鎖が約1Mb(22番染色体)に達する。ヒトにおけるのと同様の多様な抗体レパートリーを他の動物種で再現するためには、各Ig遺伝子の全長を導入することが望ましいが、従来の遺伝子導入ベクター(プラスミド、コスミド、BAC、YAC等)に挿入可能なDNAは通常数kb〜数百kbであり、クローニングしたDNAを受精卵に注入する従来のトランスジェニック動物作製技術では全長の導入は困難であった。
Tomizukaら(Nat.Genet.,16,133−143(1997))は、Ig遺伝子を担持するヒト染色体の自然断片(hCF)をマウスに導入して(染色体導入(TC)マウス)、完全長ヒトIg遺伝子を有するマウスを作製した。すなわち、まず、H鎖遺伝子を含む14番染色体およびκL鎖遺伝子を含む2番染色体を例えば薬剤耐性マーカー等で標識したヒト染色体を有するヒト−マウスハイブリッド細胞を48時間程度紡錘糸形成阻害剤(例えば、コルセミド)で処理して、1本〜数本の染色体もしくはその断片が核膜に被包されたミクロセルを調製し、微小核融合法によりマウスES細胞に染色体を導入する。薬剤を含む培地を用いてヒトIg遺伝子を有する染色体もしくはその断片を保持するハイブリッドES細胞を選択し、通常のKOマウス作製の場合と同様の方法によりマウス胚へ顕微注入する。得られるキメラマウスからコートカラーを指標にする等して生殖系列キメラを選択し、ヒト14番染色体断片を伝達するTCマウス系統(TC(hCF14))およびヒト2番染色体断片を伝達するTCマウス系統(TC(hCF2))を樹立する。常法により内因性H鎖遺伝子およびκL鎖遺伝子をKOされたマウス(KO(IgH)およびKO(Igκ))を作製し、これら4系統の交配を繰り返すことにより、4種の遺伝子改変をすべて有するマウス系統(ダブルTC/KO)を樹立することができる。
上記のようにして作製されるダブルTC/KOマウスに、通常のマウスモノクローナル抗体を作製する場合と同様の方法を適用すれば、抗原特異的ヒトモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを作製することができる。しかしながら、κL鎖遺伝子を含むhCF2がマウス細胞内で不安定なため、ハイブリドーマ取得効率は通常のマウスの場合に比べて低いという欠点がある。
一方、前記Hu−Mab MouseはκL鎖遺伝子の約50%を含むが、可変領域クラスターが倍加した構造を有するため完全長を含む場合と同等のκ鎖の多様性を示し(他方、H鎖遺伝子は約10%しか含まないのでH鎖の多様性は低く、抗原に対する応答性が不十分である)、かつYACベクター(Igκ−YAC)によりマウス染色体中に挿入されているので、マウス細胞内で安定に保持される。この利点を生かし、TC(hCF14)マウスとHu−Mab Mouseとを交配してhCF14とIgκ−YACとを安定に保持するマウス(商品名:KMマウス)を作製することにより、通常のマウスと同等のハイブリドーマ取得効率および抗体の抗原親和性を得ることができる。
さらに、より完全にヒトにおける多様な抗体レパートリーを再現するために、λL鎖遺伝子をさらに導入したヒト抗体産生動物を作製することもできる。かかる動物は、上記と同様の方法でλL鎖遺伝子を担持するヒト22番染色体もしくはその断片を導入したTCマウス(TC(hCF22))を作製し、これと上記ダブルTC/KOマウスやKMマウスとを交配することにより得ることもできるし、あるいは、例えばH鎖遺伝子座とλL鎖遺伝子座とを含むヒト人工染色体(HAC)を構築してマウス細胞に導入することにより得ることもできる(Nat.Biotechnol.,18,1086−1090(2000))。
本発明の抗体を医薬品として利用する場合はモノクローナル抗体であることが好ましいが、ポリクローナル抗体であってもよい。本発明の抗体がポリクローナル抗体である場合には、ハイブリドーマの利用を要しないので、ハイブリドーマ作製技術は確立されていないがトランスジェニック技術は確立されている動物種、好ましくはウシ等の有蹄動物を用いて、上記と同様の方法によりヒト抗体産生動物を作製すれば、より大量のヒト抗体を安価に製造することも可能である(例えば、Nat.Biotechnol.,20,889−894(2002)を参照)。得られるヒトポリクローナル抗体は、ヒト抗体産生動物の血液、腹水、乳汁、卵など、好ましくは乳汁、卵を採取し、上記と同様の精製技術を組み合わせることによって精製することができる。
(iv)ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを用いた完全ヒト抗体の作製
完全ヒト抗体を作製するもう1つのアプローチは、ファージディスプレイを用いる方法である。この方法はPCRによる変異がCDR以外に導入される場合があり、そのため臨床段階で少数のHAHA産生の報告例があるが、その一方で宿主動物に由来する異種間ウイルス感染の危険性がない点や抗体の特異性が無限である(禁止クローンや糖鎖などに対する抗体も容易に作製可能)等の利点を有している。
ファージディスプレイヒト抗体ライブラリーの作製方法としては、例えば、以下のものが挙げられるが、これに限定されない。
用いられるファージは特に限定されないが、通常繊維状ファージ(Ffバクテリオファージ)が好ましく用いられる。ファージ表面に外来タンパク質を提示する方法としては、g3p、g6p〜g9pのコートタンパク質のいずれかとの融合タンパク質として該コートタンパク質上で発現・提示させる方法が挙げられるが、よく用いられるのはg3pもしくはg8pのN末端側に融合させる方法である。ファージディスプレイベクターとしては、1)ファージゲノムのコートタンパク質遺伝子に外来遺伝子を融合した形で導入して、ファージ表面上に提示されるコートタンパク質をすべて外来タンパク質との融合タンパク質として提示させるものの他、2)融合タンパク質をコードする遺伝子を野生型コートタンパク質遺伝子とは別に挿入して、融合タンパク質と野生型コートタンパク質とを同時に発現させるものや、3)融合タンパク質をコードする遺伝子を有するファージミドベクターを持つ大腸菌に野生型コートタンパク質遺伝子を有するヘルパーファージを感染させて融合タンパク質と野生型コートタンパク質とを同時に発現するファージ粒子を産生させるものなどが挙げられるが、1)の場合は大きな外来タンパク質を融合させると感染能力が失われるため、抗体ライブラリーの作製のためには2)または3)のタイプが用いられる。
具体的なベクターとしては、Holtら(Curr.Opin.Biotechnol.,11,45−449(2000))に記載されるものが例示される。例えば、pCES1(J.Biol.Chem.,274,18218−18230(1999)を参照)は、1つのラクトースプロモーターの制御下にg3pのシグナルペプチドの下流にκL鎖定常領域をコードするDNAとg3pシグナルペプチドの下流にCH3をコードするDNA、His−tag、c−myc tag、アンバー終止コドン(TAG)を介してg3pコード配列とが配置されたFab発現型ファージミドベクターである。アンバー変異を有する大腸菌に導入するとg3pコートタンパク質上にFabを提示するが、アンバー変異を持たないHB2151株などで発現させると可溶性Fab抗体を産生する。また、scFv発現型ファージミドベクターとしては、例えばpHEN1(J.Mol.Biol.,222,581−597(1991))等が用いられる。
一方、ヘルパーファージとしては、例えばM13−K07、VCSM13等が挙げられる。
また、別のファージディスプレイベクターとして、抗体遺伝子の3’末端とコートタンパク質遺伝子の5’末端にそれぞれシステインをコードするコドンを含む配列を連結し、両遺伝子を同時に別個に(融合タンパク質としてではなく)発現させて、導入されたシステイン残基同士によるS−S結合を介してファージ表面のコートタンパク質上に抗体を提示しうるようにデザインされたもの(Morphosys社のCysDisplayTM技術)等も挙げられる。
ヒト抗体ライブラリーの種類としては、ナイーブ/非免疫(non−immunized)ライブラリー、合成ライブラリー、免疫ライブラリー等が挙げられる。
ナイーブ/非免疫ライブラリーは、正常なヒトが保有するVHおよびVL遺伝子をRT−PCR法により取得し、それらをランダムに上記のファージディスプレイベクターにクローニングして得られるライブラリーである。通常、正常人の末梢血、骨髄、扁桃腺などのリンパ球由来のmRNA等が鋳型として用いられる。疾病履歴などのV遺伝子のバイアスをなくすため、抗原感作によるクラススイッチが起こっていないIgM由来のmRNAのみを増幅したものを特にナイーブライブラリーと呼んでいる。代表的なものとしては、CAT社のライブラリー(J.Mol.Biol.,222,581−597(1991);Nat.Biotechnol.,14,309−314(19969を参照)、MRC社のライブラリー(Annu.Rev.Immunol.,12,433−455(1994)を参照)、Dyax社のライブラリー(J.Biol.Chem.,1999(上述);Proc.Natl.Acad.Sci.USA,14,7969−7974(2000)を参照)等が挙げられる。
合成ライブラリーは、ヒトB細胞内の機能的な特定の抗体遺伝子を選び、V遺伝子断片の、例えばCDR3等の抗原結合領域の部分を適当な長さのランダムなアミノ酸配列をコードするDNAで置換し、ライブラリー化したものである。最初から機能的なscFvやFabを産生するVHおよびVL遺伝子の組み合わせでライブライリーを構築できるので、抗体の発現効率や安定性に優れているとされる。代表的なものとしては、Morphosys社のHuCALライブラリー(J.Mol.Biol.,296,57−86(2000)を参照)、BioInvent社のライブラリー(Nat.Biotechnol.,18,852(2000)を参照)、Crucell社のライブラリー(Proc.Natl.Acad.Sci.USA,92,3938(1995);J.Immunol.Methods,272,219−233(2003)を参照)等が挙げられる。
免疫(immunized)ライブラリーは、癌、自己免疫疾患、感染症等の患者やワクチン接種を受けた者など、標的抗原に対する血中抗体価が上昇したヒトから採取したリンパ球、あるいは上記体外免疫法により標的抗原を人為的に免疫したヒトリンパ球等から、上記ナイーブ/非免疫ライブラリーの場合と同様にしてmRNAを調製し、RT−PCR法によってVHおよびVL遺伝子を増幅し、ライブラリー化したものである。最初から目的の抗体遺伝子がライブラリー中に含まれるので、比較的小さなサイズのライブラリーからでも目的の抗体を得ることができる。
ライブラリーの多様性は大きいほどよいが、現実的には、以下のパンニング操作で取り扱えるファージ数(1011〜1013ファージ)と通常のパンニングでクローンの単離および増幅に必要なファージ数(100〜1,000ファージ/クローン)を考慮すれば、108〜1011クローン程度が適当であり、約108クローンのライブラリーで通常10−9オーダーのKd値を有する抗体をスクリーニングすることができる。
標的抗原に対する抗体をファージディスプレイ法で選別する工程をパンニングという。具体的には、例えば、抗原を固定化した担体とファージライブラリーとを接触させ、非結合ファージを洗浄除去した後、結合したファージを担体から溶出させ、大腸菌に感染させて該ファージを増殖させる、という一連の操作を3〜5回程度繰り返すことにより抗原特異的な抗体を提示するファージを濃縮する。抗原を固定化する担体としては、通常の抗原抗体反応やアフィニティークロマトグラフィーで用いられる各種担体、例えばアガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス、金属などからなるマイクロプレート、チューブ、メンブレン、カラム、ビーズなど、さらには表面プラズモン共鳴(SPR)のセンサーチップなどが挙げられる。抗原の固定化には物理的吸着を用いてもよく、また、通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化、固定化するのに用いられる化学結合を用いる方法でもよい。例えばビオチン−(ストレプト)アビジン系等が好ましく用いられる。標的抗原である内因性リガンドがペプチドなどの小分子である場合には、抗原決定基として用いた部分が担体との結合により被覆されないように特に注意する必要がある。非結合ファージの洗浄には、BSA溶液などのブロッキング液(1−2回)、Tween等の界面活性剤を含むPBS(3−5回)などを順次用いることができる。クエン酸緩衝液(pH5)などの使用が好ましいとの報告もある。特異的ファージの溶出には、通常酸(例えば、0.1M塩酸など)が用いられるが、特異的プロテアーゼによる切断(例えば、抗体遺伝子とコートタンパク質遺伝子との連結部にトリプシン切断部位をコードする遺伝子配列を導入することができる。この場合、溶出するファージ表面には野生型コートタンパク質が提示されるので、コートタンパク質のすべてが融合タンパク質として発現しても大腸菌への感染・増殖が可能となる)や可溶性抗原による競合的溶出、あるいはS−S結合の還元(例えば、前記したCysDisplayTMでは、パンニングの後、適当な還元剤を用いて抗体とコートタンパク質とを解離させることにより抗原特異的ファージを回収することができる)による溶出も可能である。酸で溶出した場合は、トリスなどで中和した後で溶出ファージを大腸菌に感染させ、培養後、常法によりファージを回収する。
パンニングにより抗原特異的抗体を提示するファージが濃縮されると、これらを大腸菌に感染させた後プレート上に播種してクローニングを行なう。再度ファージを回収し、上述の抗体価測定法(例えば、ELISA、RIA、FIA等)やFACSあるいはSPRを利用した測定により抗原結合活性を確認する。
選択された抗原特異的抗体を提示するファージクローンからの抗体の単離・精製は、例えば、ファージディスプレイベクターとして抗体遺伝子とコートタンパク質遺伝子の連結部にアンバー終止コドンが導入されたベクターを用いる場合には、該ファージをアンバー変異を持たない大腸菌(例えば、HB2151株)に感染させると、可溶性抗体分子が産生されペリプラズムもしくは培地中に分泌されるので、細胞壁をリゾチームなどで溶解して細胞外画分を回収し、上記と同様の精製技術を用いて行うことができる。His−tagやc−myc tagを導入しておけば、IMACや抗c−myc抗体カラムなどを用いて容易に精製することができる。また、パンニングの際に特異的プロテアーゼによる切断を利用する場合には、該プロテアーゼを作用させると抗体分子がファージ表面から分離されるので、同様の精製操作を実施することにより目的の抗体を精製することができる。
ヒト抗体産生動物およびファージディスプレイヒト抗体ライブラリーを用いた完全ヒト抗体作製技術は、他の動物種のモノクローナル抗体を作製するのにも応用することができる。例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ニワトリなどの家畜(家禽)として広く繁殖されている動物やイヌやネコなどのペット動物などが対象として挙げられる。非ヒト動物においては標的抗原の人為的免疫に対する倫理的問題が少ないので、免疫ライブラリーの利用がより有効である。
(3)ポリクローナル抗体の作製
本発明のポリクローナル抗体は、それ自体公知の方法あるいはそれに準じる方法に従って製造することができる。例えば、免疫抗原(タンパク質もしくはペプチド抗原)自体、あるいはそれとキャリアータンパク質との複合体をつくり、上記のモノクローナル抗体の製造法と同様に温血動物に免疫を行い、該免疫動物から本発明のタンパク質に対する抗体含有物を採取して、抗体の分離精製を行なうことにより製造することができる。
温血動物を免疫するために用いられる免疫抗原とキャリアータンパク質との複合体に関し、キャリアータンパク質の種類およびキャリアータンパク質とハプテンとの混合比は、キャリアータンパク質に架橋させて免疫したハプテンに対して抗体が効率良くできれば、どのようなものをどのような比率で架橋させてもよいが、例えば、ウシ血清アルブミンやウシサイログロブリン、ヘモシアニン等を重量比でハプテン1に対し、約0.1〜約20、好ましくは約1〜約5の割合でカップリングさせる方法が用いられる。
また、ハプテンとキャリアータンパク質のカップリングには、種々の縮合剤を用いることができるが、グルタルアルデヒドやカルボジイミド、マレイミド活性エステル、チオール基、ジチオビリジル基を含有する活性エステル試薬等が用いられる。
縮合生成物は、温血動物に対して、抗体産生が可能な部位にそれ自体として、あるいは担体、希釈剤とともに投与される。投与に際して抗体産生能を高めるため、完全フロイントアジュバントや不完全フロイントアジュバントを投与してもよい。投与は、通常約1〜約6週毎に1回ずつ、計約2〜約10回程度行なわれる。
ポリクローナル抗体は、上記の方法で免疫された温血動物の血液、腹水など、好ましくは血液から採取することができる。
抗血清中のポリクローナル抗体価の測定は、上記の抗血清中の抗体価の測定と同様にして測定できる。ポリクローナル抗体の分離精製は、上記のモノクローナル抗体の分離精製と同様の免疫グロブリンの分離精製法に従って行なうことができる。
目的のポリヌクレオチドの標的領域と相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、すなわち、目的のポリヌクレオチドとハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドは、該目的ポリヌクレオチドに対して「アンチセンス」であるということができる。
本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA(以下、アンチセンスポリヌクレオチドの説明においては、本発明のタンパク質をコードするDNAを「本発明のDNA」とも称する))の塩基配列に、相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するアンチセンスポリヌクレオチドとしては、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチド(例えば、DNA)の塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を含有し、該ポリヌクレオチドの発現を抑制しうる作用を有するものであれば、いずれのアンチセンスポリヌクレオチドであってもよい。
本発明のDNAに実質的に相補的な塩基配列とは、例えば、本発明のDNAに相補的な塩基配列(すなわち、本発明のDNAの相補鎖)の塩基配列と、オーバーラップする領域に関して、約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性(ホモロジー(homology))を有する塩基配列である。ここで「相同性」とは、前記した本発明のDNAの場合と同義である。特に、本発明のDNAの相補鎖の全塩基配列のうち、(a)翻訳阻害を指向したアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、本発明のタンパク質のN末端部位をコードする部分の塩基配列(例えば、開始コドン付近の塩基配列など)の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドが、(b)RNaseHによるRNA分解を指向するアンチセンスポリヌクレオチドの場合は、イントロンを含む本発明のDNAの全塩基配列の相補鎖と約70%以上、好ましくは約80%以上、より好ましくは約90%以上、最も好ましくは約95%以上の相同性を有するアンチセンスポリヌクレオチドがそれぞれ好適である。
具体的には、配列番号:1で表わされる塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列、またはその一部を含むアンチセンスポリヌクレオチド、好ましくは、例えば、配列番号:1で表わされる塩基配列に相補的な塩基配列またはその一部を含むアンチセンスポリヌクレオチドなどが挙げられる。
本発明のDNAの塩基配列に相補的もしくは実質的に相補的な塩基配列またはその一部を有するアンチセンスポリヌクレオチド(以下、「本発明のアンチセンスポリヌクレオチド」とも称する)は、クローン化した、あるいは決定された本発明のタンパク質をコードするDNAの塩基配列情報に基づいて、設計・合成されうる。かかるアンチセンスポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質をコードする遺伝子(以下、単に「本発明の遺伝子」とも称する)の複製または発現を阻害することができる。すなわち、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、本発明の遺伝子から転写されるRNA(mRNAまたは初期転写産物)とハイブリダイズすることができ、mRNAの合成(プロセシング)または機能(タンパク質への翻訳)を阻害することができるか、あるいは本発明の遺伝子に関連するRNAとの相互作用を介して本発明の遺伝子の発現を調節・制御することができる。本発明の遺伝子に関連するRNAの選択された配列に相補的なポリヌクレオチド、および本発明の遺伝子に関連するRNAと特異的にハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドは、生体内および生体外で本発明の遺伝子の発現を調節・制御するのに有用であり、また病気などの治療または診断に有用である。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドの標的領域は、アンチセンスポリヌクレオチドがハイブリダイズすることにより、結果として本発明のタンパク質への翻訳が阻害されるものであればその長さに特に制限はなく、該タンパク質をコードするmRNAの全配列であっても部分配列であってもよく、短いもので約10塩基程度、長いものでmRNAまたは初期転写産物の全配列が挙げられる。合成の容易さや抗原性の問題を考慮すれば、約10〜約40塩基、特に約15〜約30塩基からなるオリゴヌクレオチドが好ましいが、これに限定されない。具体的には、本発明の遺伝子の5’端ヘアピンループ、5’末端6−ベースペア・リピート、5’末端非翻訳領域、翻訳開始コドン、タンパク質コード領域、ORF翻訳終止コドン、3’末端非翻訳領域、3’末端パリンドローム領域または3’末端ヘアピンループなどが、アンチセンスポリヌクレオチドの好ましい標的領域として選択されうるが、本発明の遺伝子内のいかなる領域も対象として選択されうる。例えば、該遺伝子のイントロン部分を標的領域とすることもできる。
さらに、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、本発明のタンパク質のmRNAもしくは初期転写産物とハイブリダイズしてタンパク質への翻訳を阻害するだけでなく、二本鎖DNAである本発明の遺伝子と結合して三重鎖(トリプレックス)を形成し、RNAの転写を阻害しうるものであってもよい。あるいはDNA:RNAハイブリッドを形成してRNaseHによる分解を誘導するものであってもよい。
ヌクレアーゼなどの加水分解酵素による分解を防ぐために、アンチセンスポリヌクレオチドを構成する各ヌクレオチドのリン酸残基(ホスフェート)は、例えば、ホスホロチオエート、メチルホスホネート、ホスホロジチオネートなどの化学修飾リン酸残基に置換されていてもよい。また、各ヌクレオチドの糖(デオキシリボース)は、2’−O−メチル化などの化学修飾糖構造に置換されていてもよいし、塩基部分(ピリミジン、プリン)も化学修飾を受けたものであってもよく、配列番号:1、配列番号:3、もしくは配列番号:5で表わされる塩基配列を有するDNAにハイブリダイズするものであればいずれのものでもよい。
アンチセンスポリヌクレオチドは、2−デオキシ−D−リボースを含有しているポリヌクレオチド、D−リボースを含有しているポリヌクレオチド、プリンまたはピリミジン塩基のN−グリコシドであるその他のタイプのポリヌクレオチド、非ヌクレオチド骨格を有するその他のポリマー(例えば、市販のタンパク質核酸および合成配列特異的な核酸ポリマー)または特殊な結合を含有するその他のポリマー(但し、該ポリマーはDNAやRNA中に見出されるような塩基のペアリングや塩基の付着を許容する配置をもつヌクレオチドを含有する)などが挙げられる。それらは、2本鎖DNA、1本鎖DNA、2本鎖RNA、1本鎖RNA、DNA:RNAハイブリッドであってもよく、さらに非修飾ポリヌクレオチド(または非修飾オリゴヌクレオチド)、公知の修飾の付加されたもの、例えば当該分野で知られた標識のあるもの、キャップの付いたもの、メチル化されたもの、1個以上の天然のヌクレオチドを類縁物で置換したもの、分子内ヌクレオチド修飾のされたもの、例えば非荷電結合(例えば、メチルホスホネート、ホスホトリエステル、ホスホルアミデート、カルバメートなど)を持つもの、電荷を有する結合または硫黄含有結合(例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエートなど)を持つもの、例えばタンパク質(例えば、ヌクレアーゼ、ヌクレアーゼ・インヒビター、トキシン、抗体、シグナルペプチド、ポリ−L−リジンなど)や糖(例えば、モノサッカライドなど)などの側鎖基を有しているもの、インターカレント化合物(例えば、アクリジン、ソラレンなど)を持つもの、キレート化合物(例えば、金属、放射活性をもつ金属、ホウ素、酸化性の金属など)を含有するもの、アルキル化剤を含有するもの、修飾された結合を持つもの(例えば、αアノマー型の核酸など)であってもよい。ここで「ヌクレオシド」、「ヌクレオチド」および「核酸」とは、プリンおよびピリミジン塩基を含有するのみでなく、修飾されたその他の複素環型塩基をもつようなものを含んでいてもよい。このような修飾物は、メチル化されたプリンおよびピリミジン、アシル化されたプリンおよびピリミジン、あるいはその他の複素環を含むものであってもよい。修飾されたヌクレオシドおよび修飾されたヌクレオチドはまた糖部分が修飾されていてよく、例えば、1個以上の水酸基が、ハロゲンや脂肪族基などで置換されていたり、またはエーテル、アミンなどの官能基に変換されたりしていてもよい。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、RNA、DNAまたは修飾された核酸(RNA、DNA)である。修飾された核酸の具体例としては、核酸の硫黄誘導体、チオホスフェート誘導体、ポリヌクレオシドアミドやオリゴヌクレオシドアミドの分解に抵抗性のものなどが挙げられる。本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、例えば、以下のように設計されうる。すなわち、細胞内でのアンチセンスポリヌクレオチドをより安定なものにする、アンチセンスポリヌクレオチドの細胞透過性をより高める、目標とするセンス鎖に対する親和性をより大きなものにする、また、もし毒性があるような場合はアンチセンスポリヌクレオチドの毒性をより小さなものにする。このような修飾は、例えばPharm Tech Japan,8,247頁または395頁(1992)、Antisense Research and Applications,CRC Press(1993)などで数多く報告されている。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、変化を加えられたり、修飾された糖、塩基、結合を含有していてもよく、リポゾーム、ミクロスフェアのような特殊な形態で供与されたり、遺伝子治療により適用されたり、付加された形態で与えられることができる。かような付加形態で用いられるものとしては、リン酸基骨格の電荷を中和するように働くポリリジンのようなポリカチオン体、細胞膜との相互作用を高めたり、核酸の取込みを増大させたりするような脂質(例えば、リン脂質、コレステロールなど)などの疎水性のものが挙げられる。付加するのに好ましい脂質としては、コレステロールやその誘導体(例えば、コレステリルクロロホルメート、コール酸など)が挙げられる。こうしたものは、核酸の3’末端または5’末端に付着させることができ、塩基、糖、分子内ヌクレオシド結合を介して付着させることができる。その他の基としては、核酸の3’末端または5’末端に特異的に配置されたキャップ用の基で、エキソヌクレアーゼ、RNaseなどのヌクレアーゼによる分解を阻止するためのものが挙げられる。こうしたキャップ用の基としては、ポリエチレングリコール、テトラエチレングリコールなどのグリコールをはじめとした当該分野で知られた水酸基の保護基が挙げられるが、これに限定されない。
本発明のタンパク質をコードするmRNAもしくは初期転写産物を、コード領域の内部(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)で特異的に切断し得るリボザイムもまた、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドに包含されうる。「リボザイム」とは核酸を切断する酵素活性を有するRNAを意味するが、最近では当該酵素活性部位の塩基配列を有するオリゴDNAも同様に核酸切断活性を有することが明らかになっているため、本明細書では配列特異的な核酸切断活性を有する限り、DNAもまた、「リボザイム」の概念に包含されうる。リボザイムとして最も汎用性の高いものとしては、ウイロイドやウイルソイド等の感染性RNAに見られるセルフスプライシングRNAがあり、ハンマーヘッド型やヘアピン型等が知られている。ハンマーへッド型は約40塩基程度で酵素活性を発揮し、ハンマーヘッド構造をとる部分に隣接する両端の数塩基ずつ(合わせて約10塩基程度)をmRNAの所望の切断部位と相補的な配列にすることにより、標的mRNAのみを特異的に切断することが可能である。このタイプのリボザイムは、RNAのみを基質とするので、ゲノムDNAを攻撃することがないというさらなる利点を有する。本発明のタンパク質のmRNAが自身で二本鎖構造をとる場合には、RNAへリカーゼと特異的に結合しうるウイルス核酸由来のRNAモチーフを連結したハイブリッドリボザイムを用いることにより、標的配列を一本鎖にすることができる[Proc.Natl.Acad.Sci.USA,98(10),5572−5577(2001)]。さらに、リボザイムを、それをコードするDNAを含む発現ベクターの形態で使用する場合には、転写産物の細胞質への移行を促進するために、tRNAを改変した配列をさらに連結したハイブリッドリボザイムとすることもできる[Nucleic Acids Res.,29(13),2780−2788(2001)]。
本明細書においては、本発明のタンパク質のmRNAもしくは初期転写産物のコード領域内の部分配列(初期転写産物の場合はイントロン部分を含む)に相補的なオリゴRNAとその相補鎖とからなる二本鎖RNA、いわゆるsiRNAもまた、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドに包含されるものとして定義される。短い二本鎖RNAを細胞内に導入するとそのRNAに相補的なmRNAが分解される、いわゆるRNA干渉(RNAi)と呼ばれる現象は、以前から線虫、昆虫、植物等で知られていたが、この現象が動物細胞でも広く起こることが確認されて以来[Nature,411(6836),494−498(2001)]、リボザイムの代替技術として汎用されている。siRNAは標的となるmRNAの塩基配列情報に基づいて、市販のソフトウェア(例えば、RNAi Designer;Invitrogen)を用いて適宜設計することができる。
本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドおよびリボザイムは、本発明の遺伝子のcDNA配列もしくはゲノムDNA配列に基づいてmRNAもしくは初期転写産物の標的配列を決定し、市販のDNA/RNA自動合成機(アプライド・バイオシステムズ社、ベックマン社等)を用いて、これに相補的な配列を合成することにより調製することができる。siRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖をDNA/RNA自動合成機でそれぞれ合成し、適当なアニーリング緩衝液中、約90〜約95℃で約1分程度変性させた後、約30〜約70℃で約1〜約8時間アニーリングさせることにより調製することができる。また、相補的なオリゴヌクレオチド鎖を交互にオーバーラップするように合成して、これらをアニーリングさせた後リガーゼを用いてライゲーションすることにより、より長い二本鎖ポリヌクレオチドを調製することもできる。あるいは、siRNAは、センス鎖およびアンチセンス鎖を適当な長さ(例えば約3〜約10塩基)のリンカーを介して連結したRNA(shRNA)として合成し、導入する動物細胞内の酵素ダイサー(dicer)などによってプロセシングされるように設計することもできる。さらには、センス鎖およびアンチセンス鎖をコードするDNAがそれぞれ別個のU6やH1などのPol III系プロモーターの制御下におかれた発現ベクター、あるいは上記センス鎖とアンチセンス鎖とをリンカーを介して連結したRNA鎖をコードするDNAがPol III系プロモーターの制御下におかれた発現ベクターとして調製し、動物細胞内で発現させ、siRNAを形成させてもよい。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドの阻害活性は、本発明の遺伝子を導入した形質転換体、生体内や生体外の本発明の遺伝子発現系、または生体内や生体外の本発明のタンパク質翻訳系を用いて調べることができる。
以下に、本発明のタンパク質またはその部分ペプチド(以下、単に「本発明のタンパク質」とも称する)、本発明のタンパク質またはその部分ペプチドをコードするDNA(以下、単に「本発明のDNA」とも称する)、上述の本発明の抗体、上述の本発明のアンチセンスポリヌクレオチドの用途を説明する。
本発明のタンパク質は、癌組織で発現が増加するので、疾患マーカーとして利用することができる。すなわち、癌組織における早期診断、症状の重症度の判定、疾患進行の予測のためのマーカーとして有用である。
本発明のタンパク質(GPR56)について、その発現および/または活性を阻害することにより、癌細胞の細胞接着が阻害される。このため、本発明のアンチセンスポリヌクレオチド、本発明の抗体、あるいは上記タンパク質の発現および/または活性を阻害する物質(例えば、低分子化合物)を含有する医薬は、癌細胞の細胞接着阻害剤、従って、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等)など)の予防・治療剤(好ましくは、造血器腫瘍の予防・治療剤、より好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)の予防・治療剤)として用いられうる。また、他の実施形態として、上記医薬は、当該医薬以外の抗癌剤と併用された際に、癌細胞の前記抗癌剤に対する感受性を向上させるための剤(薬剤感受性向上剤)としても用いられうる。なお、本明細書において「癌細胞」とは、将来的に癌化するように方向づけられている細胞をも含む概念として用いられる。
後述する実施例に記載のように、本発明者らがGPR56遺伝子・タンパク質の発現を正常骨髄由来の細胞とヒト白血病由来の細胞とで比較したところ、これらの遺伝子・タンパク質は正常骨髄由来の細胞には発現せず、白血病細胞(特に、EVI1高発現AML細胞)のみに高度に発現していることが確認された。従って、本発明は、副作用の低減効果も得られるという観点からも好ましい。このことは、以下の本発明の抗体や本発明のアンチセンスポリヌクレオチドに関する形態についても同様である。
本発明の抗体(中和抗体)は、本発明のタンパク質の活性を中和することができる。このため、本発明の抗体(中和抗体)は、癌細胞の細胞接着阻害剤、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍など)の予防・治療剤(好ましくは、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等)など)の予防・治療剤(好ましくは、造血器腫瘍の予防・治療剤、より好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)の予防・治療剤)として用いられうる。また、他の実施形態として、本発明の抗体(中和抗体)は、当該抗体以外の抗癌剤と併用された際に、癌細胞の前記抗癌剤に対する感受性を向上させるための剤(薬剤感受性向上剤)としても用いられうる。なお、本発明において「中和」とは、抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)、補体依存性細胞傷害活性(CDC活性)、癌細胞の増殖シグナルの阻害(狭義の中和活性)、アポトーシスの誘導など(これらに限定されない)を包括した概念として定義される。
特に、後述する実施例6で示されるように、本発明の抗体は、EVI1を高発現している癌(AML)細胞に対して抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)を示すものである。したがって、本発明の抗体は、細胞増殖抑制剤としても用いられうる。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質あるいはその部分ペプチドに対する抗体を含有する、細胞増殖抑制剤が提供される。同様に、本発明によれば、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質あるいはその部分ペプチドに対する抗体を投与することを含む、細胞に障害を引き起こす方法もまた、提供される。
本発明の抗体を含有する上記疾患の予防・治療剤、細胞接着阻害剤、薬剤感受性向上剤、細胞増殖抑制剤は低毒性であり、そのまま液剤として、または適当な剤型の医薬組成物として、ヒトまたは哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的(例えば、血管内投与、皮下投与、筋肉内投与など)に投与することができる。
本発明の抗体は、それ自体を投与してもよいし、または適当な医薬組成物として投与してもよい。投与に用いられる医薬組成物としては、本発明の抗体およびその塩と薬理学的に許容されうる担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものであってもよい。このような医薬組成物は、経口または非経口投与に適する剤形として提供される。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤等が用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤等の剤形を包含してもよい。このような注射剤は、公知の方法に従って調製できる。注射剤の調製方法としては、例えば、上記本発明の抗体またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性液、または油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製できる。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例えば、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕等と併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油等が用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール等を併用してもよい。調製された注射液は、適当なアンプルに充填されることが好ましい。直腸投与に用いられる坐剤は、上記抗体またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製されてもよい。
経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤等が挙げられる。このような組成物は公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有していてもよい。錠剤用の担体、賦形剤としては、例えば、乳糖、でんぷん、ショ糖、ステアリン酸マグネシウムが用いられる。
上記の非経口用または経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。このような投薬単位の剤形としては、例えば、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤が挙げられる。抗体の含有量としては、投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mgの上記抗体が含有されていることが好ましい。
本発明の抗体を含有する上記製剤の投与量は、投与対象、対象疾患、症状、投与経路などによっても異なるが、例えば、成人の乳癌の治療・予防のために使用する場合には、本発明の抗体を1回量として、通常0.01〜20mg/kg体重程度、好ましくは0.1〜10mg/kg体重程度、さらに好ましくは0.1〜5mg/kg体重程度を、1日1〜5回程度、好ましくは1日1〜3回程度、静脈注射により投与するのが好都合である。他の非経口投与および経口投与の場合もこれに準ずる量を投与することができる。症状が特に重い場合には、その症状に応じて増量してもよい。
本発明の抗体は、それ自体または適当な医薬組成物として投与することができる。上記投与に用いられる医薬組成物は、上記抗体またはその塩と薬理学的に許容されうる担体、希釈剤もしくは賦形剤とを含むものである。かかる組成物は、経口または非経口投与(例えば、血管内注射、皮下注射など)に適する剤形として提供される。
なお前記した各組成物は、上記抗体との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
さらに、本発明の抗体は、他の薬剤、例えばアルキル化剤(例えば、サイクロフォスファミド、イフォスファミド等)、代謝拮抗剤(例えば、メトトレキサート、5−フルオロウラシル等)、抗癌性抗生物質(例えば、マイトマイシン、アドリアマイシン等)、植物由来抗癌剤(例えば、ビンクリスチン、ビンデシン、タキソール等)、シスプラチン、カルボプラチン、エトポキシド、イリノテカンなどと併用してもよい。本発明の抗体および上記薬剤は、同時または異なった時間に、患者に投与すればよい。かような形態において、本発明の抗体は、癌細胞の上記薬剤に対する感受性を向上させるための剤(薬剤感受性向上剤)として機能しうる。ただし、かような機能が発揮される形態のみに本発明の技術的範囲が限定されるわけではない。
(4)アンチセンスポリヌクレオチドを含有する医薬
本発明の遺伝子の転写産物に相補的に結合し、該遺伝子の発現を抑制することができる本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは低毒性であり、生体内における本発明のタンパク質または本発明の遺伝子の機能や作用を抑制し、癌細胞の細胞接着を阻害することができる。このため、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、癌細胞の細胞接着阻害剤、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等)など)の予防・治療剤(好ましくは、造血器腫瘍の予防・治療剤、より好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)の予防・治療剤)として使用することができる。また、他の実施形態として、本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、当該アンチセンスポリヌクレオチド以外の抗癌剤と併用された際に、癌細胞の前記抗癌剤に対する感受性を向上させるための剤(薬剤感受性向上剤)としても用いられうる。
本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを上記の予防・治療剤、細胞接着阻害剤、薬剤感受性向上剤などとして使用する場合には、それ自体公知の方法に従って製剤化し、投与することができる。
また、例えば、前記のアンチセンスポリヌクレオチドを単独あるいはレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノウイルスアソシエーテッドウイルスベクターなどの適当なベクターに挿入した後、常套手段に従って、ヒトまたは哺乳動物(例えば、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して経口的または非経口的に投与することができる。該アンチセンスポリヌクレオチドは、そのままで、あるいは摂取促進のために補助剤などの生理学的に認められる担体とともに製剤化し、遺伝子銃やハイドロゲルカテーテルのようなカテーテルによって投与できる。あるいは、エアロゾル化して吸入剤として気管内に局所投与することもできる。
さらに、体内動態の改良、半減期の長期化、細胞内取り込み効率の改善を目的に、前記のアンチセンスポリヌクレオチドを単独またはリポゾームなどの担体とともに製剤(注射剤)化し、静脈、皮下等に投与してもよい。
該アンチセンスポリヌクレオチドの投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路などにより差異はあるが、例えば、乳癌の治療の目的で本発明のアンチセンスポリヌクレオチドを投与する場合、一般的に成人(体重60kg)においては、一日につき該アンチセンスポリヌクレオチドを約0.1〜約100mg投与する。
本発明のタンパク質をコードする塩基配列またはその一部を含むポリヌクレオチド(「本発明のセンスポリヌクレオチド」とも称する)および本発明のアンチセンスポリヌクレオチドは、組織や細胞における本発明の遺伝子の発現状況を調べるための検査用ヌクレオチドプローブ(もしくはプライマー)として使用することもできる。
(5)疾病に対する医薬候補化合物のスクリーニング
本発明のタンパク質は、癌組織で発現が亢進しており、GPR56タンパク質の発現および/または活性を阻害すると、癌細胞の細胞接着が阻害されうる。従って、GPR56タンパク質の発現および/または活性を阻害する化合物またはその塩は、癌細胞の細胞接着阻害剤、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等)など)の予防・治療剤(好ましくは、造血器腫瘍の予防・治療剤、より好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)の予防・治療剤)として用いられうる。
従って、本発明のタンパク質(GPR56)は、該タンパク質の発現および/または活性を阻害する化合物またはその塩のスクリーニングのための試薬として有用である。
すなわち、本発明の他の形態によれば、本発明のタンパク質を用いる、該タンパク質の発現および/または活性を阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法が提供される。
本発明のタンパク質の活性を阻害する化合物またはその塩をスクリーニングする場合、該スクリーニング方法は、
(a−1)単離された本発明のタンパク質の活性を、被験物質の存在下と非存在下とで比較する方法と、
(a−2)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞を被験物質の存在下および非存在下で培養し、両条件下における本発明のタンパク質の活性を比較する方法とに大別される。
上記(a−1)のスクリーニング方法において用いられる本発明のタンパク質は、上記した本発明のタンパク質またはその部分ペプチドの製造方法を用いて、単離・精製することができる。
上記(a−2)のスクリーニング方法において用いられる本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞としては、それを生来発現しているヒトもしくは他の温血動物細胞またはそれを含む生体試料(例えば、血液、組織、臓器等)であれば特に制限はないが、例えば、ヒト乳癌細胞株MCF7、T47D等が挙げられる。非ヒト動物由来の血液、組織、臓器等の場合は、それらを生体から単離して培養してもよいし、あるいは生体に被験物質を投与し、一定時間経過後にそれら生体試料を単離してもよい。
また、本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞としては、上記の遺伝子工学的手法により作製された各種の形質転換体が例示される。宿主としては、例えば、COS7細胞、CHO細胞、HEK293細胞などの動物細胞が好ましく用いられる。
被験物質としては、例えばタンパク質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液などが挙げられ、これらの物質は新規なものであってもよいし、公知のものであってもよい。
上記(a−1)のスクリーニング方法における本発明のタンパク質の活性の測定は、例えば、(i)本発明のタンパク質、または(ii)本発明のタンパク質および被験物質を、本発明のタンパク質により細胞接着が活性化される温血動物細胞と接触させ、該細胞における細胞接着の程度を測定することによって行なうことができる。また、上記(a−2)のスクリーニング方法における本発明のタンパク質の活性の測定は、該本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞における細胞接着を測定することによって行うことができる。
細胞接着の程度を指標とする場合には、細胞を適当な培地または緩衝液に懸濁し、被験物質を添加し(あるいは添加せずに)、さらに酸化ストレス(例えば、H2O2添加)等の刺激を加えて、通常約20〜40℃、好ましくは約30〜37℃で約6〜72時間インキュベートした後、アポトーシス(細胞死)誘導率を測定する。
細胞接着は、例えば、被験物質の存在下/非存在下における細胞数を検出することにより調べることができる。具体的には、例えば、PBS洗浄後における残存細胞数を測定することにより、細胞接着の程度を比較することが可能となる。
例えば、上記(a−1)のスクリーニング方法において、被験物質の存在下における本発明のタンパク質の活性が、被験物質の非存在下における活性に比べて、約20%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは約50%以上阻害された場合に、該被験物質を、本発明のタンパク質の活性阻害物質として選択することができる。
上述のように、本発明のタンパク質(GPR56タンパク質)の発現を阻害する物質は、癌細胞の細胞接着阻害、従って癌の予防・治療に有効である。
すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞における該タンパク質の発現を、被験物質の存在下と非存在下で比較する、癌細胞の細胞接着阻害物質、癌の予防・治療物質のスクリーニング方法が提供される。
本発明のタンパク質の発現量は、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドとハイストリンジェントな条件下でハイブリダイズしうるポリヌクレオチド(すなわち、上述した本発明のタンパク質をコードする塩基配列またはその一部を含有するポリヌクレオチド(本発明のセンスポリヌクレオチド)、あるいは本発明のアンチセンスポリヌクレオチド)を用いてそのmRNAを検出することにより、転写レベルで測定することもできる。あるいは、該発現量は、上述した本発明の抗体を用いて本発明のタンパク質を検出することにより、翻訳レベルで測定することもできる。
従って、より具体的には、本発明によれば、
(b)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞を被験物質の存在下および非存在下で培養し、両条件下における本発明のタンパク質をコードするmRNAの量を、本発明のセンスもしくはアンチセンスポリヌクレオチドを用いて測定・比較する、癌細胞の細胞接着阻害物質、癌の予防・治療物質のスクリーニング方法、および
(c)本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞を被験物質の存在下および非存在下で培養し、両条件下における本発明のタンパク質の量を、本発明の抗体を用いて測定・比較する、癌細胞の細胞接着阻害物質、癌の予防・治療物質のスクリーニング方法が提供される。
上記(b)および(c)のスクリーニング方法において、本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞としては、上記(a−2)のスクリーニング方法において用いられるのと同様のものが好ましく用いられる。
例えば、本発明のタンパク質のmRNA量またはタンパク質量の測定は、具体的には以下のようにして行うことができる。
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ネコ、イヌ、サル、トリなど)に対して、薬剤(例えば、TNF−α、IL−1、Fas、抗癌剤など)あるいは物理化学的ストレス(例えば、UV、活性酸素、虚血など)などを与え、一定時間経過した後に、血液、あるいは特定の臓器(例えば、脳、肝臓、腎臓など)、あるいは臓器から単離した組織または細胞を得る。
得られた細胞に含まれる本発明のタンパク質のmRNAは、例えば、通常の方法により細胞等からmRNAを抽出し、例えば、RT−PCR法などの手法を用いることにより定量することができ、あるいはそれ自体公知のノーザンブロット解析により定量することもできる。一方、本発明のタンパク質量は、ウェスタンブロット解析や以下に詳述する各種イムノアッセイ法を用いて定量することができる。
(ii)本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドを導入した形質転換体を上記の方法に従って作製し、該形質転換体に含まれる本発明のタンパク質またはそれをコードするmRNAを、上記(i)と同様にして定量、解析することができる。
本発明のタンパク質の発現量を変化させる物質のスクリーニングは、
(i)正常あるいは疾患モデル非ヒト温血動物に対して、薬剤あるいは物理化学的ストレスなどを与える一定時間前(30分前〜24時間前、好ましくは30分前〜12時間前、より好ましくは1時間前〜6時間前)もしくは一定時間後(30分後〜3日後、好ましくは1時間後〜2日後、より好ましくは1時間後〜24時間後)、または薬剤あるいは物理化学的ストレスと同時に被験物質を投与し、投与から一定時間が経過した後(30分後〜3日後、好ましくは1時間後〜2日後、より好ましくは1時間後〜24時間後)、該動物から単離した細胞に含まれる本発明のタンパク質をコードするmRNA量、または本発明のタンパク質の量を定量、解析することにより、あるいは
(ii)形質転換体を常法に従って培養する際に被験物質を培地中に添加し、一定時間培養後(1日後〜7日後、好ましくは1日後〜3日後、より好ましくは2日後〜3日後)、該形質転換体に含まれる本発明のタンパク質のmRNA量または本発明のタンパク質の量を定量、解析することにより行なうことができる。
被験物質としては、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物などが挙げられ、これらのは新規な物質であってもよいし、公知の物質であってもよい。
上記(c)のスクリーニング方法における本発明のタンパク質の量の測定は、具体的には、例えば、
(i)本発明の抗体と、試料液および標識化された本発明のタンパク質とを競合的に反応させ、該抗体に結合した標識化された本発明のタンパク質を検出することにより試料液中の本発明のタンパク質を定量する方法や、
(ii)試料液と、担体上に不溶化した本発明の抗体および標識化された別の本発明の抗体とを、同時あるいは連続的に反応させた後、不溶化担体上の標識剤の量(活性)を測定することにより、試料液中の本発明のタンパク質を定量する方法等が挙げられる。
上記(ii)の定量法においては、2種の抗体は本発明のタンパク質の異なる部分を認識するものであることが望ましい。例えば、一方の抗体が本発明のタンパク質のN末端部を認識する抗体であれば、他方の抗体として本発明のタンパク質のC末端部と反応するものを用いることができる。
標識物質を用いる測定法に用いられる標識剤としては、例えば、放射性同位元素、酵素、蛍光物質、発光物質などが用いられる。放射性同位元素としては、例えば、〔125I〕、〔131I〕、〔3H〕、〔14C〕などが用いられる。上記酵素としては、安定で比活性の大きなものが好ましく、例えば、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、アルカリフォスファターゼ、パーオキシダーゼ、リンゴ酸脱水素酵素などが用いられる。蛍光物質としては、例えば、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネートなどが用いられる。発光物質としては、例えば、ルミノール、ルミノール誘導体、ルシフェリン、ルシゲニンなどが用いられる。さらに、抗体あるいは抗原と標識剤との結合にビオチン−(ストレプト)アビジン系を用いることもできる。
試料液としては、本発明のタンパク質が細胞内に局在する場合は、細胞を適当な緩衝液に懸濁した後、超音波処理または凍結融解などによって細胞を破壊して得られる細胞破砕液が、本発明のタンパク質が細胞外に分泌される場合には、細胞培養上清がそれぞれ用いられる。必要に応じて、破砕液や培養上清から本発明のタンパク質を分離・精製した後に定量を行なってもよい。また、標識剤の検出が可能である限り、無傷細胞を試料として用いてもよい。
本発明の抗体を用いる本発明のタンパク質の定量法は、特に制限されず、試料液中の抗原量に対応した、抗体、抗原もしくは抗体−抗原複合体の量を化学的または物理的手段により検出し、これを既知量の抗原を含む標準液を用いて作製した標準曲線より算出する測定法であれば、いずれの測定法を用いてもよい。例えば、ネフロメトリー、競合法、イムノメトリック法およびサンドイッチ法が好適に用いられる。感度、特異性の点で、例えば、後述するサンドイッチ法を用いるのが好ましい。
抗原あるいは抗体の不溶化にあたっては、物理吸着を用いてもよく、また通常タンパク質あるいは酵素等を不溶化・固定化するのに用いられる化学結合を用いてもよい。担体としては、アガロース、デキストラン、セルロースなどの不溶性多糖類、ポリスチレン、ポリアクリルアミド、シリコン等の合成樹脂、あるいはガラス等があげられる。
サンドイッチ法においては不溶化した本発明の抗体に試料液を反応させ(1次反応)、さらに標識化した別の本発明の抗体を反応させ(2次反応)た後、不溶化担体上の標識剤の量もしくは活性を測定することにより、試料液中の本発明のタンパク質を定量することができる。1次反応と2次反応は逆の順序で行っても、また、同時に行ってもよいし、時間をずらして行ってもよい。標識化剤および不溶化の方法は前記のそれらに準じることができる。また、サンドイッチ法による免疫測定法において、固相化抗体あるいは標識化抗体に用いられる抗体は必ずしも1種類である必要はなく、測定感度を向上させる等の目的で2種類以上の抗体の混合物を用いてもよい。
本発明の抗体は、サンドイッチ法以外の測定システ厶、例えば、競合法、イムノメトリック法あるいはネフロメトリーなどにも用いることができる。
競合法では、試料液中の本発明のタンパク質と標識した本発明のタンパク質とを抗体に対して競合的に反応させた後、未反応の標識抗原(F)と、抗体と結合した標識抗原(B)とを分離し(B/F分離)、B,Fいずれかの標識量を測定することにより、試料液中の本発明のタンパク質を定量する。本反応法には、抗体として可溶性抗体を用い、ポリエチレングリコールや前記抗体(1次抗体)に対する2次抗体などを用いてB/F分離を行う液相法、および、1次抗体として固相化抗体を用いるか(直接法)、あるいは1次抗体は可溶性のものを用い、2次抗体として固相化抗体を用いる(間接法)固相化法とが用いられる。
イムノメトリック法では、試料液中の本発明のタンパク質と固相化した本発明のタンパク質とを一定量の標識化抗体に対して競合反応させた後、固相と液相を分離するか、あるいは試料液中の本発明のタンパク質と過剰量の標識化抗体とを反応させ、次に固相化した本発明のタンパク質を加えて未反応の標識化抗体を固相に結合させた後、固相と液相を分離する。次に、いずれかの相の標識量を測定し試料液中の抗原量を定量する。
また、ネフロメトリーでは、ゲル内あるいは溶液中で抗原抗体反応の結果生じた不溶性の沈降物の量を測定する。試料液中の本発明のタンパク質の量がわずかであり、少量の沈降物しか得られない場合にもレーザーの散乱を利用するレーザーネフロメトリーなどが好適に用いられる。
これら個々の免疫学的測定法を本発明の定量方法に適用するにあたっては、特別の条件、操作等の設定は必要とされない。それぞれの方法における通常の条件、操作法に当業者の通常の技術的配慮を加えて本発明のタンパク質の測定系を構築すればよい。これらの一般的な技術手段の詳細については、総説、成書などを参照することができる。
例えば、入江 寛編「ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和49年発行)、入江 寛編「続ラジオイムノアッセイ」(講談社、昭和54年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(医学書院、昭和53年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第2版)(医学書院、昭和57年発行)、石川栄治ら編「酵素免疫測定法」(第3版)(医学書院、昭和62年発行)、「Methods in ENZYMOLOGY」Vol.70(Immunochemical Techniques(Part A))、同書Vol.73(Immunochemical Techniques(Part B))、同書Vol.74(Immunochemical Techniques(Part C))、同書Vol.84(Immunochemical Techniques(Part D:Selected Immunoassays))、同書Vol.92(Immunochemical Techniques(Part E:Monoclonal Antibodies and General Immunoassay Methods))、同書Vol.121(Immunochemical Techniques(Part I:Hybridoma Technology and Monoclonal Antibodies))(以上、アカデミックプレス社発行)などを参照することができる。
なお、本発明のタンパク質(GPR56)は、細胞表面に存在していることから、上述したスクリーニング方法において本発明のタンパク質を検出する手段として、フローサイトメトリー法を用いることができる。フローサイトメトリー法を用いて細胞(表面)に存在する本発明のタンパク質を検出・定量することで、より簡便で、かつより迅速に、検出・定量が可能であるという利点を有する。なお、フローサイトメトリー法の原理や、細胞・細胞粒子の部分集団を識別して定量する方法におけるその利点などは、今日では当該技術に精通する者にはよく知られており、医療現場における種々の用途に利用されている。本発明においてもフローサイトメトリー法の具体的な手法等の詳細については特に制限はなく、従来公知の知見を適宜参照することで、当業者であれば実施することが可能である。なお、フローサイトメトリー法を用いると、複数の計測対象を同時に計測することが可能であるという利点もある。
以上のようにして、本発明の抗体を用いることによって、細胞における本発明のタンパク質の生産量を感度よく定量することができる。
例えば、上記(b)および(c)のスクリーニング法において、被験物質の存在下における本発明のタンパク質(GPR56)の発現量(mRNA量またはタンパク質量)が、被験物質の非存在下における場合に比べて、約20%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上阻害された場合、該被験物質を、本発明のタンパク質の発現阻害物質として選択することができる。
本発明のスクリーニング用キットは、本発明のタンパク質またはその部分ペプチド(以下、単に「本発明のタンパク質」とも称する)を含有する。本発明のタンパク質は上述のいずれかの方法を用いて、単離・精製されたものであってもよいし、あるいは上述のように、それを産生する細胞(温血動物細胞)の形態で提供されてもよい。
本発明のスクリーニング用キットは、本発明のタンパク質を産生する細胞における該タンパク質の発現量を測定するために、上述の本発明の抗体、あるいは本発明のセンスもしくはアンチセンスポリヌクレオチドをさらに含有することもできる。
該スクリーニング用キットは、上記に加えて、任意で、反応緩衝液、ブロッキング液、洗浄用緩衝液、標識試薬、標識検出試薬などを含むことができる。
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる、本発明のタンパク質の発現および/または活性阻害物質(遊離体であっても塩の形態であってもよい)は、癌細胞の細胞接着阻害剤、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(例えば、急性骨髄性白血病、急性前骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病等)など)の予防・治療剤(好ましくは、造血器腫瘍の予防・治療剤、より好ましくは、急性骨髄性白血病(AML)の予防・治療剤)として、低毒性で安全な医薬として有用である。
本発明のスクリーニング方法またはスクリーニング用キットを用いて得られる化合物またはその塩を上述の予防・治療剤として使用する場合、常套手段に従って製剤化することができる。
例えば、経口投与のための組成物としては、固体または液体の剤形、具体的には錠剤(糖衣錠、フィルムコーティング錠を含む)、丸剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤(ソフトカプセル剤を含む)、シロップ剤、乳剤、懸濁剤などが挙げられる。かかる組成物は自体公知の方法によって製造され、製剤分野において通常用いられる担体、希釈剤もしくは賦形剤を含有するものである。例えば、錠剤用の担体、賦形剤としては、乳糖、でんぷん、ショ糖、ステアリン酸マグネシウムなどが用いられる。
非経口投与のための組成物としては、例えば、注射剤、坐剤などが用いられ、注射剤は静脈注射剤、皮下注射剤、皮内注射剤、筋肉注射剤、点滴注射剤、関節内注射剤などの剤形を包含する。かかる注射剤は、自体公知の方法に従って、例えば、上記化合物またはその塩を通常注射剤に用いられる無菌の水性もしくは油性液に溶解、懸濁または乳化することによって調製する。注射用の水性液としては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液などが用いられ、適当な溶解補助剤、例えば、アルコール(例えば、エタノール)、ポリアルコール(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール)、非イオン界面活性剤〔例えば、ポリソルベート80、HCO−50(polyoxyethylene(50mol)adduct of hydrogenated castor oil)〕などと併用してもよい。油性液としては、例えば、ゴマ油、大豆油などが用いられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールなどを併用してもよい。調製された注射液は、通常、適当なアンプルに充填される。直腸投与に用いられる坐剤は、上記化合物またはその塩を通常の坐薬用基剤に混合することによって調製される。
上記の経口用または非経口用医薬組成物は、活性成分の投与量に適合するような投薬単位の剤形に調製されることが好都合である。かかる投薬単位の剤形としては、錠剤、丸剤、カプセル剤、注射剤(アンプル)、坐剤などが例示され、それぞれの投薬単位剤形当たり通常5〜500mg、とりわけ注射剤では5〜100mg、その他の剤形では10〜250mgの上記化合物が含有されていることが好ましい。
なお、上述した各組成物は、上記化合物との配合により好ましくない相互作用を生じない限り他の活性成分を含有してもよい。
このようにして得られる製剤は安全で低毒性であるので、例えば、ヒトまたは温血動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、トリ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジーなど)に対して経口的にまたは非経口的に投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、その作用、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、乳癌の治療の目的で本発明のタンパク質の発現および/または活性阻害物質を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)においては、一日につき該化合物またはその塩を約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該阻害物質の1回投与量は、投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、乳癌の治療の目的で本発明のタンパク質の発現および/または活性阻害物質を注射剤の形で通常成人(体重60kgとして)に投与する場合、一日につき該化合物またはその塩を約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mgを癌病変部に注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
(6)癌の検査方法および検査用キット
本発明の抗体は、本発明のタンパク質を特異的に認識する(本発明のタンパク質に特異的に結合する)ことができる。このため、当該抗体は、被験液中の本発明のタンパク質の定量などに使用されうる。従って、上述の本発明の抗体を用いる本発明のタンパク質の発現阻害物質のスクリーニング方法において、本発明のタンパク質を産生する能力を有する細胞の代わりに、被験温血動物から採取した生体試料(例、血液、血漿、尿、生検など)を用いてイムノアッセイを実施することにより、該動物体内における本発明のタンパク質の発現の程度を調べることができ、ひいては癌の検査に用いることができる。イムノアッセイの結果、該試料中の本発明のタンパク質の増加が検出された場合は、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(特に、AML)など)を発症しているか、あるいは将来発症する可能性が高いと診断することができる。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、以下の工程:
(a)被験者から試料を採取する工程;および、
(b)採取された試料に含まれる、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその部分ペプチドを検出する工程を含む、癌の検査方法が提供される。
同様に、前記した本発明のセンスもしくはアンチセンスポリヌクレオチドは、プローブもしくはプライマーとして使用することにより、ヒトまたは他の温血動物(例えば、ラット、マウス、ハムスター、ウサギ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サル、チンパンジー、トリなど)における本発明のタンパク質をコードするDNAまたはmRNAの異常(遺伝子異常)を検出することができる。このため、当該ポリヌクレオチドは、例えば、該DNAの増幅やmRNAの発現過多などの遺伝子診断剤、特に癌の検査用試薬として有用である。すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、以下の工程:
(a)被験者から試料を採取する工程;および、
(b)採取された試料に含まれる、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを検出する工程、
を含む、癌の検査方法もまた、提供される。なお、本発明のタンパク質をコードするポリヌクレオチドもしくは対応するアンチセンスポリヌクレオチドは、プローブもしくはプライマーとして必要な長さ(例えば、約15塩基以上)を有する限り特に制限されない。
本発明のセンスもしくはアンチセンスポリヌクレオチドを用いる上記の遺伝子診断は、例えば、それ自体公知のノーザンハイブリダイゼーション法、定量的RT−PCR法、PCR−SSCP法、アレル特異的PCR法、PCR−SSOP法、DGGE法、RNaseプロテクション法、PCR−RFLP法などにより実施されうる。
例えば、被験温血動物の細胞から抽出したRNA画分についてのノーザンハイブリダイゼーション法や定量的RT−PCR法による診断の結果、本発明のタンパク質の発現増加が検出された場合、癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(特に、AML)など)を発症しているか、あるいは将来発症する可能性が高いと診断することができる。
上述した癌の検査方法に用いられうる検査用キットとして、本発明の他の形態によれば、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一もしくは実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその部分ペプチドに対する抗体、あるいは、配列番号:2で表されるアミノ酸配列と同一または実質的に同一のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするポリヌクレオチドを検出するためのプライマーまたはプローブを含む検査用キットもまた、提供される。
(7)本発明のタンパク質を含有する医薬
本発明のタンパク質は癌細胞において過剰に発現していることから、癌患者の免疫系を活性化するために本発明のタンパク質を癌ワクチンとして用いることもできる。
例えば、強力な抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)を本発明のタンパク質の存在下で培養し、該タンパク質を貪食させた後に、再び患者の体内に戻す、いわゆる養子免疫療法などが好ましく適用されうる。体内に戻された樹状細胞は癌抗原特異的な細胞障害性T細胞を誘導、活性化することにより癌細胞を死滅させることが可能である。
また、本発明のタンパク質は、例えば癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(特に、AML)など)の予防または治療のためのワクチン製剤として、安全に、哺乳動物(例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、ウサギ、ブタ)に投与することもできる。
該ワクチン製剤は、通常、本発明のタンパク質および生理学的に許容されうる担体を含有する。担体としては例えば、水、食塩水(生理食塩水を含む)、緩衝液(例、リン酸緩衝液)、アルコール(例、エタノール)などの液体の担体があげられる。
ワクチン製剤は、通常のワクチン製剤の製造方法に従って調製することができる。
通常、本発明のタンパク質は、生理学的に許容されうる担体に溶解または懸濁される。また、本発明のタンパク質と生理学的に許容されうる担体とを別々に調製し、用時それらを混合して用いてもよい。
ワクチン製剤には、本発明のタンパク質および生理学的に許容されうる担体に加え、アジュバント(例えば、水酸化アルミニウムゲル、血清アルブミンなど)、防腐剤(例えば、チメロサールなど)、無痛化剤(例えば、ブドウ糖、ベンジルアルコールなど)などを配合させてもよい。また、本発明のタンパク質に対する抗体産生を促進させるために、例えばサイトカイン(例えば、インターロイキン−2などのインターロイキン類、インターフェロン−γなどのインターフェロン類など)をさらに配合させてもよい。
ワクチン製剤として用いる際、本発明のタンパク質は活性体として用いてもよいが、抗原性を高めるために該タンパク質を変性させてもよい。本発明のタンパク質の変性は、通常、加熱処理、タンパク質変性剤(例えば、ホルマリン、塩酸グアニジン、尿素)による処理により行われる。
得られたワクチン製剤は低毒性であり、通常注射剤として、例えば皮下、皮内、筋肉内に投与してもよく、また癌細胞塊またはその近傍に局所的に投与してもよい。
本発明のタンパク質の投与量は、例えば対象疾患、投与対象、投与経路などによって異なるが、例えば本発明のタンパク質を癌に罹患した成人(体重60kg)に皮下的に注射剤として投与する場合、1回当たり通常0.1〜300mg程度、好ましくは100〜300mg程度である。ワクチン製剤の投与回数は1回でもよいが、抗体産生量を高めるために、約2週間〜約6ヶ月の間隔をあけて、該ワクチン製剤を2〜4回投与することもできる。
(8)DNA転移動物
本発明は、外来性の本発明のタンパク質をコードするDNA(以下、「本発明の外来性DNA」とも称する)またはその変異DNA(「本発明の外来性変異DNA」とも称する)を有する非ヒト哺乳動物を提供する。
すなわち、本発明のさらに他の形態によれば、
(1)本発明の外来性DNAまたはその変異DNAを有する非ヒト哺乳動物、
(2)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(1)記載の動物、
(3)ゲッ歯動物がマウスまたはラットである第(2)記載の動物、および
(4)本発明の外来性DNAまたはその変異DNAを含有し、哺乳動物において発現しうる組換えベクターが提供される。
本発明の外来性DNAまたはその変異DNAを有する非ヒト哺乳動物(以下、「本発明のDNA転移動物」とも称する)は、未受精卵、受精卵、***およびその始原細胞を含む胚芽細胞などに対して、好ましくは、非ヒト哺乳動物の発生における胚発生の段階(さらに好ましくは、単細胞または受精卵細胞の段階でかつ一般に8細胞期以前)に、リン酸カルシウム法、電気パルス法、リポフェクション法、凝集法、マイクロインジェクション法、パーティクルガン法、DEAE−デキストラン法などにより目的とするDNAを転移することによって作出することができる。また、該DNA転移方法により、体細胞、生体の臓器、組織細胞などに目的とする本発明の外来性DNAを転移し、細胞培養、組織培養などに利用することもでき、さらに、これら細胞を上述の胚芽細胞とそれ自体公知の細胞融合法により融合させることにより本発明のDNA転移動物を作出することもできる。
非ヒト哺乳動物としては、例えば、ウシ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、マウス、ラットなどが用いられる。なかでも、病態動物モデル系の作製の面から個体発生および生物サイクルが比較的短く、また、繁殖が容易なゲッ歯動物、とりわけマウス(例えば、純系として、C57BL/6系統、DBA2系統など、交雑系として、B6C3F1系統、BDF1系統、B6D2F1系統、BALB/c系統、ICR系統など)またはラット(例えば、Wistar,SDなど)などが好ましい。
哺乳動物において発現しうる組換えベクターにおける「哺乳動物」としては、上記の非ヒト哺乳動物の他にヒトなどが挙げられる。
本発明の外来性DNAとは、非ヒト哺乳動物が本来有している本発明のDNAではなく、いったん哺乳動物から単離・抽出された本発明のDNAをいう。
本発明の変異DNAとしては、元の本発明のDNAの塩基配列に変異(例えば、突然変異など)が生じたもの、具体的には、塩基の付加、欠損、他の塩基への置換などが生じたDNAなどが用いられ、また、異常DNAも含まれる。
該異常DNAとしては、異常な本発明のタンパク質を発現させるDNAを意味し、例えば、正常な本発明のタンパク質の機能を抑制するタンパク質を発現させるDNAなどが用いられる。
本発明の外来性DNAは、対象とする動物と同種あるいは異種のどちらの哺乳動物由来のものであってもよい。本発明のDNAを対象動物に転移させるにあたっては、該DNAを動物細胞で発現させうるプロモーターの下流に結合したDNAコンストラクトとして用いるのが一般に有利である。例えば、本発明のヒトDNAを転移させる場合、これと相同性が高い本発明のDNAを有する各種哺乳動物(例えば、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来のDNAを発現させうる各種プロモーターの下流に、本発明のヒトDNAを結合したDNAコンストラクト(例えば、ベクターなど)を対象哺乳動物の受精卵、例えば、マウス受精卵へマイクロインジェクションすることによって本発明のDNAを高発現するDNA転移哺乳動物を作出することができる。
本発明のタンパク質の発現ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来のプラスミド、λファージなどのバクテリオファージ、モロニー白血病ウイルスなどのレトロウイルス、ワクシニアウイルスまたはバキュロウイルスなどの動物ウイルスなどが用いられる。なかでも、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミドまたは酵母由来のプラスミドなどが好ましく用いられる。
上記のDNA発現調節を行うプロモーターとしては、例えば、(i)ウイルス(例、シミアンウイルス、サイトメガロウイルス、モロニー白血病ウイルス、JCウイルス、乳癌ウイルス、ポリオウイルスなど)に由来するDNAのプロモーター、(ii)各種哺乳動物(ヒト、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来のプロモーター、例えば、アルブミン、インスリンII、ウロプラキンII、エラスターゼ、エリスロポエチン、エンドセリン、筋クレアチンキナーゼ、グリア線維性酸性タンパク質、グルタチオンS−トランスフェラーゼ、血小板由来成長因子β、ケラチンK1、K10およびK14、コラーゲンI型およびII型、サイクリックAMP依存タンパク質キナーゼβIサブユニット、ジストロフィン、酒石酸抵抗性アルカリフォスファターゼ、心房ナトリウム利尿性因子、内皮レセプターチロシンキナーゼ(一般に「Tie2」と略される)、ナトリウムカリウムアデノシン3リン酸化酵素(Na,K−ATPase)、ニューロフィラメント軽鎖、メタロチオネインIおよびIIA、メタロプロティナーゼ1組織インヒビター、MHCクラスI抗原(H−2L)、H−ras、レニン、ドーパミンβ−水酸化酵素、甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)、ペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)、βアクチン、αおよびβミオシン重鎖、ミオシン軽鎖1および2、ミエリン基礎タンパク質、チログロブリン、Thy−1、免疫グロブリン、H鎖可変部(VNP)、血清アミロイドPコンポーネント、ミオグロビン、トロポニンC、平滑筋αアクチン、プレプロエンケファリンA、バソプレシンなどのプロモーターなどが用いられる。なかでも、全身で高発現することが可能なサイトメガロウイルスプロモーター、ヒトペプチド鎖延長因子1α(EF−1α)のプロモーター、ヒトおよびニワトリβアクチンプロモーターなどが好適である。
上記ベクターは、DNA転移哺乳動物において目的とするmRNAの転写を終結する配列(一般に「ターミネーター」と称される)を有していることが好ましく、例えば、ウイルス由来および各種哺乳動物由来の各DNAの配列を用いることができ、好ましくは、シミアンウイルスのSV40ターミネターなどが用いられる。
その他、目的とする外来性DNAをさらに高発現させる目的で各DNAのスプライシングシグナル、エンハンサー領域、真核DNAのイントロンの一部などをプロモーター領域の5’上流、プロモーター領域と翻訳領域間あるいは翻訳領域の3’下流に連結することも目的により可能である。
正常な本発明のタンパク質の翻訳領域は、ヒトまたは各種哺乳動物(例えば、ウサギ、イヌ、ネコ、モルモット、ハムスター、ラット、マウスなど)由来の肝臓、腎臓、甲状腺細胞、線維芽細胞由来DNAおよび市販の各種ゲノムDNAライブラリーよりゲノムDNAの全てあるいは一部として、または肝臓、腎臓、甲状腺細胞、線維芽細胞由来RNAより公知の方法により調製された相補DNAを原料として取得することが出来る。また、外来性の異常DNAは、上記の細胞または組織より得られた正常なタンパク質の翻訳領域を点突然変異誘発法により変異した翻訳領域を作製することができる。
該翻訳領域は転移動物において発現しうるDNAコンストラクトとして、前記のプロモーターの下流および所望により転写終結部位の上流に連結させる通常のDNA工学的手法により作製することができる。
受精卵細胞段階における本発明の外来性DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞のすべてに存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において、本発明の外来性DNAが存在することは、作出動物の後代がすべて、その胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを保持することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞および体細胞のすべてに本発明の外来性DNAを有する。
本発明の外来性正常DNAを転移させた非ヒト哺乳動物は、交配により外来性DNAを安定に保持することを確認して、該DNA保有動物として通常の飼育環境で継代飼育することができる。
受精卵細胞段階における本発明の外来性DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに過剰に存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において本発明の外来性DNAが過剰に存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを過剰に有することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫はその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の外来性DNAを過剰に有する。
導入DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該DNAを過剰に有するように繁殖継代することができる。
本発明の正常DNAを有する非ヒト哺乳動物は、本発明の正常DNAが高発現させられており、内在性の正常DNAの機能を促進することにより最終的に本発明のタンパク質の機能亢進症を発症することがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の正常DNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能亢進症や、本発明のタンパク質が関連する疾患の病態機序の解明およびこれらの疾患の治療方法の検討を行なうことが可能である。
また、本発明の外来性正常DNAを転移させた哺乳動物は、遊離した本発明のタンパク質の増加症状を有することから、本発明のタンパク質に関連する疾患に対する予防・治療剤、例えば癌(例、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(特に、AML)など)の予防・治療剤のスクリーニング試験にも利用可能である。
一方、本発明の外来性異常DNAを有する非ヒト哺乳動物は、交配により外来性DNAを安定に保持することを確認して該DNA保有動物として通常の飼育環境で継代飼育することができる。さらに、目的とする外来DNAを前述のプラスミドに組み込んで原料として用いることができる。プロモーターとのDNAコンストラクトは、通常のDNA工学的手法によって作製することができる。受精卵細胞段階における本発明の異常DNAの転移は、対象哺乳動物の胚芽細胞および体細胞の全てに存在するように確保される。DNA転移後の作出動物の胚芽細胞において本発明の異常DNAが存在することは、作出動物の子孫が全てその胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の異常DNAを有することを意味する。本発明の外来性DNAを受け継いだこの種の動物の子孫は、その胚芽細胞および体細胞の全てに本発明の異常DNAを有する。導入DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得し、この雌雄の動物を交配することによりすべての子孫が該DNAを有するように繁殖継代することができる。
本発明の異常DNAを有する非ヒト哺乳動物は、本発明の異常DNAが高発現させられており、内在性の正常DNAの機能を阻害することにより最終的に本発明のタンパク質の機能不活性型不応症となることがあり、その病態モデル動物として利用することができる。例えば、本発明の異常DNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症の病態機序の解明およびこの疾患の治療方法の検討を行なうことが可能である。
また、具体的な利用可能性としては、本発明の異常DNA高発現動物は、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症における本発明の異常タンパク質による正常タンパク質の機能阻害(dominant negative作用)を解明するモデルとなる。
また、本発明の外来異常DNAを転移させた哺乳動物は、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症に対する予防・治療剤、例えば癌(例えば、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(特に、AML)など)の予防・治療剤のスクリーニング試験にも利用可能である。
また、上記2種類の本発明のDNA転移動物のその他の利用可能性として、例えば、
(i)組織培養のための細胞源としての使用、
(ii)本発明のDNA転移動物の組織中DNAもしくはRNAを直接分析するか、またはDNAにより発現されたペプチド組織を分析することによる、本発明のタンパク質により特異的に発現あるいは活性化するペプチドとの関連性についての解析、
(iii)DNAを有する組織の細胞を標準組織培養技術により培養し、これらを使用して、一般に培養困難な組織からの細胞の機能の研究、
(iv)上記(iii)記載の細胞を用いることによる細胞の機能を高めるような薬剤のスクリーニング、および
(v)本発明の変異タンパク質の単離精製およびその抗体作製などが考えられる。
さらに、本発明のDNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症などを含む、本発明のタンパク質に関連する疾患の臨床症状を調べることができ、また、本発明のタンパク質に関連する疾患モデルの各臓器におけるより詳細な病理学的所見が得られ、新しい治療方法の開発、さらには、該疾患による二次的疾患の研究および治療に貢献することができる。
また、本発明のDNA転移動物から各臓器を取り出し、細切後、トリプシンなどのタンパク質分解酵素により、遊離したDNA転移細胞の取得、その培養またはその培養細胞の系統化を行うことが可能である。さらに、本発明のタンパク質産生細胞の特定化、細胞接着などとの関連性、またはそれらにおけるシグナル伝達機構を調べ、それらの異常を調べることなどができ、本発明のタンパク質およびその作用解明のための有効な研究材料となる。
さらに、本発明のDNA転移動物を用いて、本発明のタンパク質の機能不活性型不応症を含む、本発明のタンパク質に関連する疾患の治療薬の開発を行うために、上述の検査法および定量法などを用いて、有効で迅速な該疾患治療薬のスクリーニング法を提供することが可能となる。また、本発明のDNA転移動物または本発明の外来性DNA発現ベクターを用いて、本発明のタンパク質が関連する疾患のDNA治療法を検討、開発することが可能である。
(9)ノックアウト動物
本発明は、本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞および本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物を提供する。
すなわち、本発明によれば、
(1)本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞、
(2)該DNAがレポーター遺伝子(例、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子)を導入することにより不活性化された第(1)項記載の胚幹細胞、
(3)ネオマイシン耐性である第(1)項記載の胚幹細胞、
(4)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(1)項記載の胚幹細胞、
(5)ゲッ歯動物がマウスである第(4)項記載の胚幹細胞、
(6)本発明のDNAが不活性化された該DNA発現不全非ヒト哺乳動物、
(7)該DNAがレポーター遺伝子(例、大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子)を導入することにより不活性化され、該レポーター遺伝子が本発明のDNAに対するプロモーターの制御下で発現しうる第(6)項記載の非ヒト哺乳動物、
(8)非ヒト哺乳動物がゲッ歯動物である第(6)項記載の非ヒト哺乳動物、
(9)ゲッ歯動物がマウスである第(8)項記載の非ヒト哺乳動物、および
(10)第(7)項記載の動物に、試験化合物を投与し、レポーター遺伝子の発現を検出する、本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法が提供される。
本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞とは、該非ヒト哺乳動物が有する本発明のDNAに人為的に変異を加えることにより、DNAの発現能を抑制するか、もしくは該DNAがコードしている本発明本発明のタンパク質の活性を実質的に喪失させることにより、DNAが実質的に本発明のタンパク質の発現能を有さない(以下、「本発明のノックアウトDNA」とも称する)非ヒト哺乳動物の胚性幹細胞(以下、「ES細胞」とも称する)をいう。
非ヒト哺乳動物としては、前記と同様のものが用いられる。
本発明のDNAに人為的に変異を加える方法としては、例えば、遺伝子工学的手法により該DNA配列の一部または全部の削除、他DNAを挿入または置換させることによって行なうことができる。これらの変異により、例えば、コドンの読み取り枠をずらしたり、プロモーターあるいはエキソンの機能を破壊したりすることにより本発明のノックアウトDNAを作製すればよい。
本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞(以下、「本発明のDNA不活性化ES細胞」または「本発明のノックアウトES細胞」とも称する)の具体例としては、例えば、目的とする非ヒト哺乳動物が有する本発明のDNAを単離し、そのエキソン部分にネオマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子を代表とする薬剤耐性遺伝子、あるいはlacZ(β−ガラクトシダーゼ遺伝子)、cat(クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子)を代表とするレポーター遺伝子等を挿入することによりエキソンの機能を破壊するか、あるいはエキソン間のイントロン部分に遺伝子の転写を終結させるDNA配列(例えば、polyA付加シグナルなど)を挿入し、完全なmRNAを合成できなくすることによって、結果的に遺伝子を破壊するように構築したDNA配列を有するDNA鎖(以下、「ターゲティングベクター」とも称する)を、例えば相同組換え法により該動物の染色体に導入し、得られたES細胞について本発明のDNA上あるいはその近傍のDNA配列をプローブとしたサザンハイブリダイゼーション解析あるいはターゲッティングベクター上のDNA配列とターゲティングベクター作製に使用した本発明のDNA以外の近傍領域のDNA配列をプライマーとしたPCR法により解析し、本発明のノックアウトES細胞を選別することにより得ることができる。
また、相同組換え法等により本発明のDNAを不活化させる元のES細胞としては、例えば、前述のような既に樹立されたものを用いてもよく、また公知のEvansとKaufmaの方法に準じて新しく樹立したものでもよい。例えば、現在一般的に使用されているマウスのES細胞の場合、免疫学的背景がはっきりしていないため、これに代わる純系で免疫学的に遺伝的背景が明らかなES細胞を取得するなどの目的で例えば、C57BL/6マウスやC57BL/6の採卵数の少なさをDBA/2との交雑により改善したBDF1マウス(C57BL/6とDBA/2とのF1)を用いて樹立したものなども良好に用いうる。BDF1マウスは、採卵数が多く、かつ、卵が丈夫であるという利点に加えて、C57BL/6マウスを背景に持つので、これを用いて得られたES細胞は病態モデルマウスを作出したとき、C57BL/6マウスとバッククロスすることでその遺伝的背景をC57BL/6マウスに代えることが可能である点で有利に用いられうる。
また、ES細胞を樹立する場合、一般には受精後3.5日目の胚盤胞を使用するが、これ以外に8細胞期胚を採卵し胚盤胞まで培養して用いることにより効率よく多数の初期胚を取得することができる。
また、雌雄いずれのES細胞を用いてもよいが、通常雄のES細胞の方が生殖系列キメラを作出するのに都合が良い。また、煩雑な培養の手間を削減するためにもできるだけ早く雌雄の判別を行うことが望ましい。
ES細胞の雌雄の判定方法としては、例えば、PCR法によりY染色体上の性決定領域の遺伝子を増幅、検出する方法が、その1例としてあげることができる。この方法を使用すれば、従来、核型分析をするのに約106個の細胞数を要していたのに対して、1コロニー程度のES細胞数(約50個)で済むので、培養初期におけるES細胞の第一次セレクションを雌雄の判別で行うことが可能であり、早期に雄細胞の選定を可能にしたことにより培養初期の手間は大幅に削減できる。
また、第二次セレクションとしては、例えば、G−バンディング法による染色体数の確認等により行うことができる。得られるES細胞の染色体数は正常数の100%が望ましいが、樹立の際の物理的操作等の関係上困難な場合は、ES細胞の遺伝子をノックアウトした後、正常細胞(例えば、マウスでは染色体数が2n=40である細胞)に再びクローニングすることが望ましい。
このようにして得られた胚幹細胞株は、通常その増殖性は大変良いが、個体発生できる能力を失いやすいので、注意深く継代培養することが必要である。例えば、STO線維芽細胞のような適当なフィーダー細胞上でLIF(1〜10000U/ml)存在下に炭酸ガス培養器内(好ましくは、5%炭酸ガス、95%空気または5%酸素、5%炭酸ガス、90%空気)で約37℃で培養するなどの方法で培養し、継代時には、例えば、トリプシン/EDTA溶液(通常0.001〜0.5%トリプシン/0.1〜5mM EDTA、好ましくは約0.1%トリプシン/1mM EDTA)処理により単細胞化し、新たに用意したフィーダー細胞上に播種する方法などがとられる。このような継代は、通常1〜3日毎に行うが、この際に細胞の観察を行い、形態的に異常な細胞が見受けられた場合はその培養細胞は放棄することが望まれる。
ES細胞は、適当な条件により、高密度に至るまで単層培養するか、または細胞集塊を形成するまで浮遊培養することにより、頭頂筋、内臓筋、心筋などの種々のタイプの細胞に分化させることが可能であり〔M.J.Evans及びM.H.Kaufman,Nature、第292巻、154頁、1981年;G.R.Martin、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.第78巻、7634頁、1981年;T.C.Doetschmanら、ジャーナル・オブ・エンブリオロジー・アンド・エクスペリメンタル・モルフォロジー、第87巻、27頁、1985年〕、本発明のES細胞を分化させて得られる本発明のDNA発現不全細胞は、インビトロにおける本発明のタンパク質の細胞生物学的検討において有用である。
本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、該動物のmRNA量を公知の方法により測定して間接的にその発現量を比較することにより、正常動物と区別することが可能である。
該非ヒト哺乳動物としては、前記と同様のものが用いられる。
本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、例えば、前述のようにして作製したターゲティングベクターをマウス胚幹細胞またはマウス卵細胞に導入し、導入によりターゲティングベクターの本発明のDNAが不活性化されたDNA配列が遺伝子相同組換えにより、マウス胚幹細胞またはマウス卵細胞の染色体上の本発明のDNAと入れ換わる相同組換えをさせることにより、本発明のDNAをノックアウトさせることができる。
本発明のDNAがノックアウトされた細胞は、本発明のDNA上またはその近傍のDNA配列をプローブとしたサザンハイブリダイゼーション解析またはターゲティングベクター上のDNA配列と、ターゲティングベクターに使用したマウス由来の本発明のDNA以外の近傍領域のDNA配列とをプライマーとしたPCR法による解析で判定することができる。非ヒト哺乳動物胚幹細胞を用いた場合は、遺伝子相同組換えにより、本発明のDNAが不活性化された細胞株をクローニングし、その細胞を適当な時期、例えば、8細胞期の非ヒト哺乳動物胚または胚盤胞に注入し、作製したキメラ胚を偽妊娠させた該非ヒト哺乳動物の子宮に移植する。作出された動物は正常な本発明のDNA座をもつ細胞と人為的に変異した本発明のDNA座をもつ細胞との両者から構成されるキメラ動物である。
該キメラ動物の生殖細胞の一部が変異した本発明のDNA座をもつ場合、このようなキメラ個体と正常個体を交配することにより得られた個体群より、全ての組織が人為的に変異を加えた本発明のDNA座をもつ細胞で構成された個体を、例えば、コートカラーの判定等により選別することにより得られる。このようにして得られた個体は、通常、本発明のタンパク質のヘテロ発現不全個体であり、本発明のタンパク質のへテロ発現不全個体同士を交配し、それらの産仔から本発明のタンパク質のホモ発現不全個体を得ることができる。
卵細胞を使用する場合は、例えば、卵細胞核内にマイクロインジェクション法でDNA溶液を注入することによりターゲティングベクターを染色体内に導入したトランスジェニック非ヒト哺乳動物を得ることができ、これらのトランスジェニック非ヒト哺乳動物に比べて、遺伝子相同組換えにより本発明のDNA座に変異のあるものを選択することにより得られる。
このようにして本発明のDNAがノックアウトされている個体は、交配により得られた動物個体も該DNAがノックアウトされていることを確認して通常の飼育環境で飼育継代を行うことができる。
さらに、生殖系列の取得および保持についても常法に従えばよい。すなわち、該不活化DNAの保有する雌雄の動物を交配することにより、該不活化DNAを相同染色体の両方に持つホモザイゴート動物を取得しうる。得られたホモザイゴート動物は、母親動物に対して、正常個体1、ホモザイゴート複数になるような状態で飼育することにより効率的に得ることができる。ヘテロザイゴート動物の雌雄を交配することにより、該不活化DNAを有するホモザイゴートおよびヘテロザイゴート動物を繁殖継代する。
本発明のDNAが不活性化された非ヒト哺乳動物胚幹細胞は、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物を作出する上で、非常に有用である。
また、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、本発明のタンパク質により誘導され得る種々の生物活性を欠失するため、本発明のタンパク質の生物活性の不活性化を原因とする疾病のモデルとなりうるため、これらの疾病の原因究明及び治療法の検討に有用である。
(10a)本発明のDNAの欠損や損傷などに起因する疾病に対して治療・予防効果を有する化合物のスクリーニング方法
本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、本発明のDNAの欠損や損傷などに起因する疾病に対して治療・予防効果を有する化合物のスクリーニングに用いることができる。
すなわち、本発明によれば、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物に試験化合物を投与し、該動物の変化を観察・測定する、本発明のDNAの欠損や損傷などに起因する疾病(例えば、癌など)に対して治療・予防効果を有する化合物またはその塩のスクリーニング方法が提供される。
該スクリーニング方法において用いられる本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物としては、前記と同様のものが挙げられる。
試験化合物としては、例えば、ペプチド、タンパク質、非ペプチド性化合物、合成化合物、発酵生産物、細胞抽出液、植物抽出液、動物組織抽出液、血漿などがあげられ、これらは新規な化合物であってもよいし、公知の化合物であってもよい。
具体的には、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物を、試験化合物で処理し、無処理の対照動物と比較し、該動物の各器官、組織、疾病の症状などの変化を指標として試験化合物の治療・予防効果を試験することができる。
試験動物を試験化合物で処理する方法としては、例えば、経口投与、静脈注射などが用いられ、試験動物の症状、試験化合物の性質などにあわせて適宜選択することができる。また、試験化合物の投与量は、投与方法、試験化合物の性質などにあわせて適宜選択することができる。
例えば癌(例、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍など)に対して治療・予防効果を有する化合物をスクリーニングする場合、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物に試験化合物を投与し、試験化合物非投与群と癌の発症の程度の違いや癌の治癒度合いの違いを上記組織で経時的に観察する。
該スクリーニング方法において、試験動物に試験化合物を投与した場合、該試験動物の上記疾患症状が約10%以上、好ましくは約30%以上、より好ましくは約50%以上改善した場合、該試験化合物を上記の疾患に対して治療・予防効果を有する化合物として選択することができる。
該スクリーニング方法を用いて得られる化合物は、上記した試験化合物から選ばれた化合物であり、本発明のタンパク質の欠損や損傷などによって引き起こされる疾患に対して治療・予防効果を有するので、該疾患に対する安全で低毒性な予防・治療剤などの医薬として使用することができる。さらに、上記スクリーニングで得られた化合物から誘導される化合物も同様に用いることができる。
該スクリーニング方法で得られた化合物は塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例えば、無機酸、有機酸など)や塩基(例えば、アルカリ金属など)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
該スクリーニング方法で得られた化合物またはその塩を含有する医薬は、前記した本発明のタンパク質を含有する医薬と同様にして製造することができる。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、ヒトまたは哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、対象疾患、投与対象、投与ルートなどにより差異はあるが、例えば、該化合物を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)の乳癌患者においては、一日につき該化合物を約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、該化合物を注射剤の形で通常成人(体重60kgとして)の乳癌患者に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mgを静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
(10b)本発明のDNAに対するプロモーターの活性を促進または阻害する化合物のスクリーニング方法
本発明によれば、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物に、試験化合物を投与し、レポーター遺伝子の発現を検出する、本発明のDNAに対するプロモーターの活性を促進または阻害する化合物またはその塩のスクリーニング方法が提供される。
上記スクリーニング方法において、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物としては、前記した本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物の中でも、本発明のDNAがレポーター遺伝子を導入することにより不活性化され、該レポーター遺伝子が本発明のDNAに対するプロモーターの制御下で発現しうるものが用いられる。
試験化合物としては、前記と同様のものがあげられる。
レポーター遺伝子としては、前記と同様のものが用いられ、β−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)、可溶性アルカリフォスファターゼ遺伝子またはルシフェラーゼ遺伝子などが好適である。
本発明のDNAをレポーター遺伝子で置換された本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物では、レポーター遺伝子が本発明のDNAに対するプロモーターの支配下に存在するので、レポーター遺伝子がコードする物質の発現をトレースすることにより、プロモーターの活性を検出することができる。
例えば、本発明のタンパク質をコードするDNA領域の一部を大腸菌由来のβ−ガラクトシダーゼ遺伝子(lacZ)で置換している場合、本来、本発明のタンパク質の発現する組織で、本発明のタンパク質の代わりにβ−ガラクトシダーゼが発現する。従って、例えば、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−ガラクトピラノシド(X−gal)のようなβ−ガラクトシダーゼの基質となる試薬を用いて染色することにより、簡便に本発明のタンパク質の動物生体内における発現状態を観察することができる。具体的には、本発明のタンパク質欠損マウスまたはその組織切片をグルタルアルデヒドなどで固定し、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)で洗浄後、X−galを含む染色液で、室温または37℃付近で、約30分ないし1時間反応させた後、組織標本を1mM EDTA/PBS溶液で洗浄することによって、β−ガラクトシダーゼ反応を停止させ、呈色を観察すればよい。また、常法に従い、lacZをコードするmRNAを検出してもよい。
上記スクリーニング方法を用いて得られる化合物またはその塩は、上記した試験化合物から選ばれた化合物であり、本発明のDNAに対するプロモーター活性を促進または阻害する化合物である。
該スクリーニング方法で得られた化合物は塩を形成していてもよく、該化合物の塩としては、生理学的に許容される酸(例、無機酸など)や塩基(例、アルカリ金属など)などとの塩が用いられ、とりわけ生理学的に許容される酸付加塩が好ましい。このような塩としては、例えば、無機酸(例えば、塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸など)との塩、あるいは有機酸(例えば、酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、蓚酸、安息香酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸など)との塩などが用いられる。
本発明のDNAに対するプロモーター活性を阻害する化合物またはその塩は、本発明のタンパク質の発現を阻害したり、該タンパク質の機能を阻害したりすることができるので、例えば癌(例、大腸癌、乳癌、肺癌、前立腺癌、食道癌、胃癌、肝臓癌、胆道癌、脾臓癌、腎癌、膀胱癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、甲状腺癌、膵臓癌、脳腫瘍、造血器腫瘍(特に、AML)など)の予防・治療剤として有用である。
さらに、上記スクリーニングで得られた化合物から誘導される化合物も同様に用いることができる。
該スクリーニング方法で得られた化合物またはその塩を含有する医薬は、前記した本発明のタンパク質またはその塩を含有する医薬と同様にして製造することができる。
このようにして得られる製剤は、安全で低毒性であるので、例えば、ヒトまたは哺乳動物(例えば、ラット、マウス、モルモット、ウサギ、ヒツジ、ブタ、ウシ、ウマ、ネコ、イヌ、サルなど)に対して投与することができる。
該化合物またはその塩の投与量は、対象疾患、投与対象、投与経路などにより差異はあるが、例えば、本発明のDNAに対するプロモーター活性を阻害する化合物を経口投与する場合、一般的に成人(体重60kgとして)の乳癌患者においては、一日につき該化合物を約0.1〜約100mg、好ましくは約1.0〜約50mg、より好ましくは約1.0〜約20mg投与する。非経口的に投与する場合は、該化合物の1回投与量は投与対象、対象疾患などによっても異なるが、例えば、本発明のDNAに対するプロモーター活性を阻害する化合物を注射剤の形で通常成人(体重60kgとして)の乳癌患者に投与する場合、一日につき該化合物を約0.01〜約30mg、好ましくは約0.1〜約20mg、より好ましくは約0.1〜約10mgを静脈注射により投与するのが好都合である。他の動物の場合も、体重60kg当たりに換算した量を投与することができる。
このように、本発明のDNA発現不全非ヒト哺乳動物は、本発明のDNAに対するプロモーターの活性を促進または阻害する化合物またはその塩をスクリーニングする上で極めて有用であり、本発明のDNA発現不全に起因する各種疾患の原因究明または予防・治療剤の開発に大きく貢献することができる。
また、本発明のタンパク質のプロモーター領域を含有するDNAを用いて、その下流に種々のタンパク質をコードする遺伝子を連結し、これを動物の卵細胞に注入していわゆるトランスジェニック動物(遺伝子移入動物)を作製すれば、特異的にそのタンパク質を合成させ、その生体での作用を検討することも可能となる。さらに上記プロモーター部分に適当なレポーター遺伝子を結合させ、これが発現するような細胞株を樹立すれば、本発明のタンパク質そのものの体内での産生能力を特異的に促進もしくは抑制する作用を持つ低分子化合物の探索系として使用できる。
本明細書において、塩基やアミノ酸などを略号で表示する場合、IUPAC−IUB Commission on Biochemical Nomenclatureによる略号あるいは当該分野における慣用略号に基づくものである。また、アミノ酸に関し光学異性体がありうる場合は、特に明示しなければL体を示すものとする。
以下、実施例および参考例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらに限定されない。
なお、以下の例で用いられる細胞株のうち、U937、K562、KG−1、HEL、HL60、THP−1、HNT34、293T、MC3T3については、独立行政法人理化学研究所の細胞バンクより購入した。また、MOLM1については、株式会社林原生物化学研究所より購入した。さらに、UCSD/AML1については、カリフォルニア大学サンディエゴ校(UCSD)より供与されたものであり、K051、K052については、日本医科大学より供与されたものであり、Kasumi−3については、広島大学より供与されたものであり、NHについては、筑波大学より供与されたものであり、FKH−1、OIH−1については、武蔵野赤十字病院より供与されたものである。これらのうち、U937、K562、HEL、HL60、THP−1、HNT34、MOLM1、Kasumi−3については、10%ウシ胎児血清(FBS)(ニチレイ株式会社製)が添加されたRPMI1640(189−02025;和光純薬工業株式会社製)にて培養を行なった。また、MC3T3については、10%ウシ胎児血清(FBS)(ニチレイ株式会社製)が添加されたαMEM(12561;インビトロジェン)にて培養を行なった。さらに、293Tについては、10%ウシ胎児血清(FBS)(ニチレイ株式会社製)が添加されたDMEM(044−29765;和光純薬工業株式会社製)にて培養を行なった。
また、以下の例で用いられるすべてのベクターは、理化学研究所バイオリソースセンターより提供されたものである。
実施例1−1:DNAマイクロアレイ法による、EVI1高発現AMLにおけるGPR56の特異的発現の確認
以下の手法によって、DNAマイクロアレイ法を用いた遺伝子発現解析により、EVI1高発現AMLにおいてGPR56遺伝子が特異的に高発現していることを確認した。
細胞株の検体としては、4種のEVI1高発現AML細胞株(HNT34、MOLM1、UCSD/AML1、Kasumi−3)、および、8種のEVI1低発現AML細胞株(HEL、HL60、THP−1、K051、K052、NH、FKH−1、OIH−1)を用いた。また、ヒト患者の検体としては、白血病(AML)患者細胞検体(EVI1高発現AML 12検体、EVI1低発現AML 10検体)を用いた。
具体的には、TRIzol Reagent(インビトロジェン)を用いて、細胞株からRNA分画を採取し、各5mg RNAからT7−(dT)24プライマーにより逆転写酵素を用いてcDNAを調製した。また、TRIzol Reagent(インビトロジェン)1mLおよびクロロホルム200μLをAML患者細胞検体に添加し、15000rpmにて15分間遠心分離した。次に上層を別のチューブに移し、2−プロパノール 500μLを添加して、15000rpmにて10分間遠心分離し、80%エタノールを用いて洗浄した。得られたRNA 1μgをTakara RNA PCR kit(タカラ社製)を用いてcDNAを調製した。
上記で調製したcDNAを鋳型としてAmbion社転写キットによりビオチン化cRNAを合成し、プローブとした。また、DNAマイクロアレイとしては、Affymetrix社Human Genome U133 Plus 2.0 Arrayアレイを使用した。このDNAマイクロアレイとプローブとを反応させ、反応後のDNAマイクロアレイをGeneArray Scannerにより解読し、Microarray Suite 5.0ソフトにより解析した。その後、互いのグループを統計処理した。
結果を図1Aおよび図1Bに示す。図1Aは、上述した計12種のAML細胞株についての結果を示すグラフであり、図1Bは、上述した計22検体のAML患者細胞検体についての結果を示すグラフである。図1Aおよび図1Bに示す結果から、細胞株およびAML患者細胞検体のいずれを用いた検討においても、EVI1高発現AMLにおいてはGPR56遺伝子が特異的に高発現していることがわかった。
実施例1−2:リアルタイムPCR法による、EVI1高発現AMLにおけるGPR56の特異的発現の確認
以下の手法によって、リアルタイムPCR法を用いた遺伝子発現解析により、EVI1高発現AMLにおいてGPR56遺伝子が特異的に高発現していることを確認した。
実施例1−1に記載の手法によって細胞株・患者検体から得られたcDNAを鋳型として、下記の表1に示すGPR56特異的プライマーを用いてリアルタイムPCRを行った。なお、補正遺伝子としてはβ−アクチンを用いた。また、細胞株の試料として、EVI1低発現AML細胞株をさらに2種(U937、KG1)追加して実験を行った。さらに、ヒト検体を用いた実験では、コントロールとして正常な骨髄細胞検体を2検体用い、AML患者細胞検体については、EVI1低発現のものを7検体、EVI1高発現のものを8検体、それぞれ用いた。試薬としてはPower SYBER Green PCR Master Mix (Applied Biosystems社製)を用い、PCR装置としてはABI PRISM 7000(Applied Biosystems社製)を用いた。リアルタイムPCR装置におけるDNA合成の条件としては、「94℃5分間1サイクル」→「94℃30秒間および60℃1分間40サイクル」の条件とした。
結果を図2Aおよび図2Bに示す。図2Aは、細胞株についての結果を示すグラフであり、図2Bは、ヒト由来細胞検体についての結果を示すグラフである。図2Aおよび図2Bに示す結果から、リアルタイムPCR法を用いた検討においても、細胞株およびヒト由来細胞検体の双方で、EVI1高発現AMLにおいてはGPR56遺伝子が特異的に高発現していることがわかった。
以上の結果から、GPR56はEVI1高発現AMLに特異的に高発現しており、GPR56を標的として白血病(特に、EVI1高発現AML)の診断に利用可能であることが考えられた。
実施例1−3:フローサイトメトリーによるGPR56の検出
フローサイトメータを用いてGPR56を同定することを試み、EVI1高発現AMLの新たな腫瘍マーカーとしての可能性を検討した。
具体的には、以下の手法により、EVI1高発現AML細胞株であるUCSD/AML1細胞株の細胞表面に存在するGPR56タンパク質の有無を、フローサイトメータであるFACScan(Becton Dickinson社製)を用いたフローサイトメトリーにより検出した。まず、ビオチン化したマウス抗ヒトGPR56抗体(奈良先端技術大学院大学より提供)を4℃にて15分間、細胞株と反応させたのち、細胞を洗浄する。そして、二次抗体としてPE標識された抗ストレプトアビジン抗体(Becton Dickinson社製)を4℃にて15分間反応させ細胞を洗浄したのち、蛍光強度をFACScanで測定した。なお、ネガティブコントロールとしては、EVI1低発現AML細胞株であるU937細胞株を用い、ポジティブコントロールとしては、このU937細胞株にGPR56遺伝子をトランスフェクションした細胞株を用いた。
結果を図3に示す。図3に示すように、EVI1高発現AMLであるUCSD/AML1細胞株では細胞表面にGPR56タンパク質の発現が認められた。このことから、EVI1高発現AML細胞の表面に発現しているGPR56タンパク質は、これに対する特異的抗体により検出可能であることが確認された。
以上、実施例1−1〜1−3に示す結果から、GPR56遺伝子/タンパク質はEVI1高発現白血病の新たな診断マーカーとなりうることが示された。
実施例2:GPR56遺伝子のshRNA導入によるEVI1高発現AMLにおけるGPR56遺伝子の発現抑制
(GPR56発現抑制AML細胞の樹立)
EVI1高発現AML由来であるUCSD/AML1細胞株およびHNT34細胞株に対して、GPR56遺伝子のmRNAを切断する活性を有するショートヘアピンRNA(shRNA)であるshGPR56をトランスフェクションすることにより、GPR56発現抑制細胞株(以下、それぞれ「UCSD/AML1(shGPR56)」および「HNT34(shGPR56)」とも称する)を樹立した。
具体的には、まず、下記の表2に記載のGPR56に対するshRNAオリゴマーをエントリベクターpENTR4−H1に挿入し、組換え体をレンチウイルスベクターCS−RfA−CGおよびGateway LR clonase(インビトロジェン)に混合し、K12由来大腸菌に導入して、レンチウイルス組換え体DNA(shGPR56レンチウイルスベクター)を得た。
上記で得られたshGPR56レンチウイルスベクター20μgを、packaging plasmid(pCAG−HIVgp)10μgおよびRev発現ベクター(pCMV−VSV−G−RSV−Rev)10μgとともにリン酸カルシウム法により293T細胞株に導入し、レンチウイルスを作製した。得られたレンチウイルスを105個のUCSD/AML1細胞およびNHT−34細胞にそれぞれ感染させて、AML1(shGPR56)およびHNT−34(shGPR56)を樹立した。なお、コントロール細胞として、下記の表3に記載のコントロール配列を有するオリゴマー(コントロールオリゴマー)を用いて同様の手法により作製したshコントロール(sh cont)をやはり同様の手法によりトランスフェクションした細胞株(AML1(sh cont)およびHNT−34(sh cont))を樹立した。
(GPR56発現抑制の確認)
上記で樹立した細胞株を安定に培養したものに、SDS還元バッファー(125mM Tris HCl、20% グリセロール、、4% SDS、10% 2−メルカプトエタノール、0.04% ブロモフェノールブルー)を加えて細胞を完全に溶解させ、24G注射針を装着したシリンジで5回以上のポンピング操作を実施してゲノムDNAを物理的に断片化させることで試料粘度を低下させた細胞溶解溶液を調製した。この試料を95℃にて5分間加熱処理した後、ウエスタンブロット解析を行った。具体的には、細胞抽出液をSDS−PAGE処理した後、PVDF膜にトランスファーし、一次抗体としてマウス抗ヒトGPR56抗体(奈良先端技術大学院大学より提供)を1000倍希釈して用い、二次抗体としてホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)標識した抗マウス抗体(DAKO社製)を1000倍希釈して用いた。さらに、Lumi−Light PLUS Western Blotting Substrate(Roche社製)を使用した化学発光法によって、LAS−3000(富士フイルム株式会社製)により検出した。
結果を図4に示す。図4に示すように、AML1(shGPR56)では、AML1(sh cont)と比較して、GPR56の発現が抑制されたことがわかる。なお、図4に示す「未処理」とのレーンは、shRNAを導入していないUCSD/AML1細胞株(親株)を用いて同様の実験を行ったものである。
実施例3:GPR56遺伝子のshRNA投与によるUCSD/AML1細胞株の細胞接着能の低下
上記で樹立したAML1(shGPR56)およびAML1(sh cont)について、細胞接着アッセイにより、その細胞接着能を評価した。具体的には、96穴プレートの各ウェルに、RPMI1640で40倍に希釈したヒトフィブロネクチン(Becton Dickinson社製)、または、growth factor reduced matrigeI(Becton Dickinson社製)を90μLずつ加え、37℃にて6時間インキュベートした後、PBSにて洗浄を行った。また、骨芽細胞由来MC3T3細胞株については、1×104個/100μLの細胞を各ウェルに添加し、37℃にて12時間以上培養した。この各ウェルに、上記で樹立したAML1(shGPR56)またはAML1(sh cont)のいずれかを1×104個/100μLずつ加えた。そして、37℃にて2時間インキュベートした後、PBSで3回洗浄を行った。その後、各ウェルにRPMI1640/10%FBSを90μL、Cell counting KIT 8(同仁科学研究所製)を10μL加え、37℃にて2時間インキュベートした後、分光光度計を用いて波長450nmで測定を行った。
結果を図5に示す。図5に示すように、AMLI(shGPR56)の細胞接着能(総細胞数に対する接着細胞数の比)は、UCSD/AML1親株およびAML1(sh cont)と比較して約20〜30%低下していることがわかる。このことから、本発明者らは、GPR56遺伝子がAML細胞における細胞接着能の亢進に関与しているのではないかとの仮説を設定した。
実施例4−1:GPR56遺伝子のshRNA投与によるUCSD/AML1およびHNT34細胞株の細胞増殖能への影響
上記で樹立したAML1(shGPR56)およびAML1(sh cont)、並びに、HNT34(shGPR56)およびHNT34(sh cont)について、細胞増殖アッセイによりその細胞増殖能を評価した。具体的には、24穴プレートの各ウェルに、RPMI1640/10% FBSで希釈した細胞を1×104個/mLずつ加えた。そして、37℃にて適当な時間インキュベートした後、トリパンブルーを用いて生細胞数を計測した。
結果を図6Aおよび図6Bに示す。図6Aは、UCSD/AML1細胞株における結果を示し、図6Bは、HNT34細胞株における結果を示す。図6Aおよび図6Bに示すように、コントロール細胞株であるAML1(sh cont)およびHNT34(sh cont)と比較して、GPR56発現抑制細胞株(AML1(shGPR56)およびHNT34(sh cont))のそれぞれでは細胞増殖能が抑制されていた。
実施例4−2:フローサイトメトリーを用いたGPR56発現抑制細胞株におけるアポトーシスの検出
フローサイトメトリーを用いたアポトーシスの検出は、例えばアポトーシスを起こした細胞の構成物に特異的に結合する物質で細胞を処理し、フローサイトメトリーにより当該物質を結合した細胞を測定することにより行うことができる。本実施例において具体的には、アポトーシスの初期段階を示す指標としてPE標識アネキシン−V(MBL社製)を用い、GPR56発現抑制細胞株におけるアポトーシスの検出を試みた。また、死細胞を検出する核染色剤としては、7−ADD(Becton Dickinson社製)を用いた。アネキシン−Vの結合量を測定するためのフローサイトメトリーは、フローサイトメータであるFACScan(Becton Dickinson社製)を使用して常法に従って行った。
結果を図7に示す。図7に示すように、AML1(sh GPR)ではAML1(sh cont)と比較してアネキシン−Vの結合量が高く、アポトーシスが誘導されていることがわかる。このことから、GPR56はEVI1高発現AML細胞における抗アポトーシス機能に関与していると考えられた。このことは、上述した実施例4−1においてみられた、GPR56発現抑制細胞株では細胞増殖能が抑制されるという実験結果とも整合する。
実施例5:GPR56の発現抑制がEVI1高発現AML細胞株の薬剤耐性に及ぼす影響
まず、UCSD/AML1細胞株が骨芽細胞に接着した状態で抗癌剤耐性を示すことを確認した。具体的には、骨芽細胞由来であるMC3T3を12ウェルに固定したものにUCSD/AML1細胞5×105を添加し、接着させた。一方、コントロールとしては、浮遊状態のUCSD/AML1細胞を用いた。ここにそれぞれ抗がん剤であるVP−16(エトポシド)またはDXR(ドキソルビシン)を各濃度添加し、24時間後の生細胞数をトリパンブルーで計測した。
結果を図8Aおよび図8Bに示す。図8Aは、浮遊状態の細胞を用いた結果を示し、図8Bは、接着状態の細胞を用いた結果を示す。図8Aおよび図8Bに「AML1」として示す結果の対比から明らかなように、接着状態では浮遊状態と比較して、抗癌剤の濃度が同じ場合におけるUCSD/AML1細胞株の生存率は有意に向上することがわかる。
続いて、UCSD/AML1細胞株に代えて、上記で樹立したAML1(shGPR56)細胞およびAMLI(sh cont)細胞をそれぞれ用い、同様の手法により抗癌剤耐性を検討した。
結果を図8Aおよび図8Bに重ねて示す。図8Aおよび図8Bに示すように、AML1(sh cont)では骨芽細胞の存在により抗癌剤耐性が獲得されるのに対し、AML1(shGPR56)ではこの骨芽細胞存在下での接着状態でも抗癌剤耐性を獲得できなかった。これは、UCSD/AML1の抗癌剤耐性の獲得における重要な機序である細胞接着能が、shGPR56によって阻害されたことによるものと考えられる。この結果から、GPR56の機能を阻害することにより、EVI1による抗癌剤耐性を解除し、抗がん剤の効果を高めることができると考えられる。
実施例6:抗GPR56抗体のADCC活性
96ウェルU底プレートに、標的細胞であるUCSD/AML1 1×104個、マウス抗ヒトGPR56抗体(奈良先端技術大学院大学より提供)(0〜10μg/mL)、および抗cp−3抗体を加え、4℃にて30分間反応させた。その後、エフェクター細胞(ヒト末梢リンパ球):標的細胞を50:1の割合で加え、37℃にてインキュベーターで4時間培養した。培養上清100μL中のLDHをCytotoxicity detection kit(Roche社製)を用いて測定した。
結果を図9に示す。図9に示すように、GPR56タンパク質に対する抗体を投与した場合には、10〜20%の抗体依存性細胞傷害活性(ADCC活性)が認められた。このことから、抗GPR56抗体は、難治性AMLを予防・治療剤としての抗体医薬への利用が期待される。