JPWO2009041612A1 - 陰極 - Google Patents

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Abstract

室温より高い温度や酸化雰囲気でも負の電子親和力を維持できる陰極とする。電子放出表面がダイヤモンドから成り、該ダイヤモンド表面を、混酸による沸騰洗浄処理又は大気中アニール又は酸素プラズマによる処理により酸化処理し、該酸化処理された表面を、真空中又は不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理して形成された、表面の酸素被覆率が0.2〜0.5MLである負の電子親和力表面を備える陰極の製造方法。

Description

本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面に、酸化処理と熱処理を別々にあるいは同時に施すことによって、安定化させた負の電子親和力を付与した該ダイヤモンド表面を持つ陰極および該陰極の製造方法である。
各用途において最適な材料・構造を用いて様々な陰極が開発されている。その場合、真空障壁(仕事関数あるいは電子親和力)χ、陰極温度Tc、および陰極前面での電界強度Ecが制限要素であるが、これら制限を破るものとして期待されるのが、真空障壁を負にする考え方である。すでにGaAsなどでは、薄膜成長時の不純物高濃度ドーピングによる表面近傍の下向きのエネルギーバンド湾曲を利用した擬似的な負の電子親和力状態を得たパルス動作の光励起電子銃が試作されているが、劣化の問題が残されている。
これに対し、半導体であるダイヤモンドの表面を水素終端することによって、負の電子親和力が実現できることが明らかになっている。他の物性、つまり高硬度、熱伝導性、化学的安定性においても、共有結合であり単元素材料であるダイヤモンドは、最も有望であるとされている。また、イオン性の高いワイドバンドギャップ半導体である窒化ホウ素(BN)や窒化アルミニウム(AlN)において、水素終端ダイヤモンドと同じ表面双極子の極性を生じる面においても負の電子親和力が得られると期待されている(特許文献1、非特許文献1、非特許文献2参照)。これらを負の電子親和力表面を持つ材料のn形半導体に自由電子を注入できれば、伝導帯の自由電子にとって真空障壁が負の状態が得られ、容易に電子放出が得られると考えられていた。
特許文献1あるいは非特許文献1あるいは非特許文献2で述べているように、ダイヤモンドやイオン性の高いワイドバンドギャップ半導体の表面を水素化することによって、電子親和力が低下し、負の電子親和力が得られる場合もあることはよく知られている。特にダイヤモンドの場合、水素と炭素の結合エネルギーは大きく、超高真空では800〜900℃の高温での熱処理でようやく結合を切り離すことができる。(非特許文献3参照)
しかし、これら材料の水素終端表面は、酸化雰囲気ではその安定性が低い熱処理温度でも失われてしまうことが報告されている。たとえば、ダイヤモンドの水素終端表面は、大気中での200℃から400℃の熱処理でほぼ消滅することが報告されている。(非特許文献4参照)
したがって、高い電子放出効率を利用できる負の電子親和力を利用した陰極を応用した装置が実用的な使用時間に耐えるには、室温より高い温度や酸化雰囲気でも負の電子親和力を維持できる陰極が必要不可欠であるが、これに関する知的財産情報は公開されていない。
つまり、一般に酸化した後のダイヤモンドの表面は負の電子親和力を失っており、負の電子親和力を利用する陰極には応用できないと考えられている。その結果、水素終端表面は実用上信頼性が低いと判断される材料となっていた。学術的には、水素化したダイヤモンド表面に特有の表面伝導層が、酸化したダイヤモンド(111)表面に存在するという新しい報告があるが、負の電子親和力表面および陰極に関する報告は無い。(非特許文献5参照)
特開2002−352694号公報 D. Takeuchi, et al., Appl. Phys. Lett. 86 (2005) 152103 S. Sque, et al., Phys. Rev. B 73 (2006) 085313 D. Takeuchi et al.: Diamond Relat. Mater. 15 (2006) 698 B. F. Mantel et al: Diamond Relat. Mater 9 (2000) 1032 S.−G. Ri et al: Diamond Relat. Mater. 16, 831 (2007)
本発明は、上記に鑑み提案されたものであり、安定化した負の電子親和力を持つダイヤモンド表面を用いた陰極を提供する。陰極の製造方法の中で、ダイヤモンド表面の酸化プロセスと同時にあるいは後で熱処理して、電子放出にエネルギー的制限の無い負の電子親和力に安定性を持たせた表面を持つ、高効率陰極を提供することを目的とする。
本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面が表面伝導層を持ち、かつ該表面の酸素被覆率が0.2〜0.5MLであり、かつ負の電子親和力を持つ陰極である。
また、本発明は、段落0009のダイヤモンドが単結晶である陰極である。
また、本発明は、段落0010のダイヤモンド単結晶表面が(111)面、又は(100)面、又は(110)面のいずれか一つである陰極である。
また、本発明は、段落0009のダイヤモンドが多結晶である陰極である。
また、本発明は、段落0012のダイヤモンド多結晶表面が(111)面、又は(100)面、又は(110)面のいずれか一つに配向している陰極である。
また、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程と、酸化処理された該ダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備える陰極の製造方法である。
また、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を大気中で200℃より高く900℃以下の熱処理で酸化処理する工程と、酸化処理された該ダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備える陰極の製造方法である。
また、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を酸素プラズマ中で酸化処理する工程と、酸化処理された該ダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備える陰極の製造方法である。
また、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程と、酸化処理された該ダイヤモンド表面を不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備える陰極の製造方法である。
また、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を大気中で200℃より高く900℃以下の熱処理で酸化処理する工程と、酸化処理された該ダイヤモンド表面を不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備える陰極の製造方法である。
また、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を酸素プラズマ中で酸化処理する工程と、酸化処理された該ダイヤモンド表面を不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備える陰極の製造方法である。
また、本発明は、前記段落0009から段落0019のダイヤモンドが、pn接合を、又はpin接合を、又は金属ダイヤモンド接合を、又は単層を形成している陰極又は該陰極の製造方法である。
本発明は、負の電子親和力に耐久性のあるダイヤモンド表面を用いた陰極を提供する。ダイヤモンド表面の酸化プロセスと同時にあるいは後で熱処理して、電子放出にエネルギー的制限の無い負の電子親和力に耐久性を持たせた表面を持つ、高効率陰極を提供することを目的とする。
従来、負の電子親和力をダイヤモンド表面に付加する場合、水素終端構造を形成する必要があり、それにはマイクロ波水素プラズマ処理か、あるいは800℃程度の温度で原子状水素をダイヤモンド表面に照射することによって得られるが、該水素終端構造を陰極の製造方法全体を通じて保持する必要があった。
これは、陰極の製造方法を大きく制限する要因であった。また、水素終端の製造方法中の安定性については未知であり、製造方法の不確定性を増大する要因であった。
これに対し、一旦ダイヤモンド表面を酸化した場合、負の電子親和力の保持に制限されず、陰極のための加工や電極形成などの製造方法を自由に導入することが可能となった。そして、負の電子親和力を陰極の製造方法において、熱処理のみによって付与することで、負の電子親和力を製造方法で失うことなく最大限に生かすことが可能となった。
さらに、製造後も負の電子親和力が損なわれやすい環境の影響を受けても、ある範囲内であれば、適当な熱処理によって再生が可能となる。つまり、耐久性を有した負の電子親和力を利用した陰極となっている。
本発明により、加熱、および高電界印加を必要としない室温で初速度分布が0.025eV程度の安定した電子の連続又はパルス放出を可能とする自由電子および自由励起子を応用したあらゆる陰極に応用できる。
また、本発明は、光陰極(フォトカソード)に応用できる。
また、本発明は、高エネルギー電子線を熱エネルギー程度の電子線に変換する陰極(エネルギー変換器)に応用できる。
また、段落0026又は段落0027又は段落0028を応用した負イオン生成器(負イオン源)又は電荷中和器(ニュートライザ又はニュートラライザ)に応用できる。
また、本発明は、熱に強い性質から巨大な電力系統スイッチ・バスの超小型化などのパワーエレクトロニクスへ応用できる。
また、本発明は、電子放出を真空以外の溶液・ガス雰囲気中にも可能なため微小領域(マイクロチャネル)化学反応制御、等へ応用できる。
また本発明は、従来得られなかった理想的な面陰極に応用できる。
電子親和力発現の原理となる双極子による表面電気二重層モデルの概念図。 負の電子親和力表面を実証する、全光電子放出率分光の測定結果。 図2のバンドギャップ相当の光励起エネルギー付近を拡大して示した図。 ダイヤモンド中の自由励起子を介してダイヤモンドの負の電子親和力表面で起こる電子放出のエネルギー模式図。 実施例1に係る陰極の断面概略図。 実施例1に係る陰極の製造方法。電子放出表面6は、負の電子親和力を備えるダイヤモンドpn接合を覆う表面であるが、該表面は、pn接合を持つ本素子の表面全体あるいは表面の一部でよい。 実施例1の陰極製造方法で、表面を酸化処理した場合のX線光電子分光スペクトルのC1sレベルを示した図。 図7の表面が正の電子親和力であることを示す全光電子放出率分光スペクトルの図。 実施例1の陰極製造方法で、表面を酸化処理し、続いて表面を真空中で加熱処理した該表面が負の電子親和力を備えることを示す全光電子放出率分光スペクトルの図。 実施例2の陰極製造方法で、アルゴン不活性ガス中で熱処理した場合に負の電子親和力が得られていえることを示す全光電子放出率分光スペクトルの図。 図10の表面で、真空中熱処理した場合のX線光電子分光スペクトルのC1sレベルを示した図。 各工程で、陰極表面が持つ表面伝導層のホール測定結果を示す図。混酸による沸騰洗浄処理がWO、その後の熱処理がWO−AN、大気中熱処理がAO、その後、有機溶媒で洗浄して窒素雰囲気中で熱処理したのがAO−有機洗浄―AN、大気中熱処理後にそのまま窒素雰囲気中で熱処理したのがAO−ANであり、それぞれシート抵抗、シートキャリア濃度、移動度を示す。 本発明で安定化した負の電子親和力と表面伝導層を持つ酸化表面(点線枠内)と、水素終端、酸素終端、および部分的に水素終端した表面との比較概念図。 図12の左下、水素終端表面を熱処理することで表面に欠陥による準位が生成されることを示す全光電子放出率分光スペクトルの図。 実施例3の陰極製造方法で、大気中アニール酸化処理後に真空中で熱処理した場合に負の電子親和力が得られていえることを示す全光電子放出率分光スペクトルの図。 実施例4に係る陰極の断面概略図。 実施例4に係る陰極の製造方法。電子放出表面5は、負の電子親和力を備えるダイヤモンドpn接合を覆う表面であるが、該表面は、pn接合を持つ本素子の表面全体あるいは表面の一部でよい。 実施例4の陰極製造方法で、真空中熱処理した場合の表面が負の電子親和力であることを示す全光電子放出率分光スペクトルの図。 実施例1から4の熱処理温度に対し、それぞれの範囲外に当たる温度での熱処理の全光電子放出率分光法の結果を比較例1として示す。 実施例4の陰極製造方法で、表面を酸化処理した場合のX線光電子分光スペクトルのC1sレベルを示した図。 実施例4の陰極製造方法で、真空中熱処理した場合のX線光電子分光スペクトルのC1sレベルを示した図。
符号の説明
1 ダイヤモンド基板
2 第一導電形CVDダイヤエピタキシャル膜
3 第二導電形CVDダイヤエピタキシャル膜
4 第一電極
5 第二電極
6 電子放出表面
11 第一導電形ダイヤモンド基板
12 第二導電形CVDダイヤエピタキシャル膜
13 第一電極
14 第二電極
15 電子放出表面
以下に、この発明の実施の形態について、詳細に説明する。
まず、負の電子親和力の構造について説明する。電磁気学から一般に、電子親和力は図1に示すように、表面の電気二重層の形成によって生じると考えられており、表面側に正電荷が生じる図1右側の双極子の配列構造に負の電子親和力は由来すると考えられている。このような構造は、実際にはダイヤモンドの水素終端表面において安定であると考えられており、水素終端したダイヤモンドの特異な物性として認知されている。内部の自由電子はこの双極子からなる電気二重層の作るエネルギー利得(外部へのポテンシャルドロップ)によって容易に外部に放出されると考えられる。一方、ダイヤモンドの酸素終端表面や炭素が表面に現れる清浄表面又は再構成表面では、逆の図1左側の状態となっており、正の電子親和力が生じて、容易に外部に放出されないと考えられる。そして、図1左側が一般的な材料の表面構造となっている。
水素終端ダイヤモンド表面に紫外線を照射した場合の、光電子放出に関する量子効率(相対値)をとったものが図2である。図2は、水素終端IIa形アンドープダイヤモンド(001)単結晶表面の特性を表す。
図2では、室温でのダイヤモンドのバンドギャップ5.47eVに対し、1eV以上低い4.4eV付近から急激に光電子放出率が立ち上がるのがわかる。さらに、5.27eVから2桁以上立ち上がる。
図3に、この図2のバンドギャップ励起付近の詳細図を示す。四つの立ち上がりが確認できる。すなわち、低い励起光エネルギーから、5.26eV、5.315eV、5.485eV、5.54eVである。最大値と最小値、中央の二値、それぞれの平均は5.40eVであり、丁度ダイヤモンド中の自由励起子の基底状態と一致する。また、両組み合わせに対するエネルギー差はそれぞれ0.14eVと0.085eVで、これらは丁度、それぞれダイヤモンド中のTOフォノン、およびTAフォノンの、ダイヤモンド伝導帯底の運動量空間位置(X点方向0.76)における値と一致する。すなわち、ここで得られている放出された光電子は、光吸収の際に自由励起子生成を伴っていることを意味する。
上記の内容を矛盾なく説明できる、水素終端表面付近のエネルギーバンド構造が図4である。特徴は、真空準位が結晶内部の伝導帯底の下にある負の電子親和力表面となっていることと、ダイヤモンド表面に固有の表面非占有準位が水素終端構造によってダイヤモンドのエネルギーギャップ中に下がってきていることである(非特許文献1、2参照)。段落0034で述べた4.4eVからの光吸収は、結晶内部の価電子帯頂上と同じエネルギー位置の表面占有準位頂上から、前期の表面非占有準位への励起によって起こる。さらに、信号は真空中に電子が放出されて初めて検出されうるわけであるから、4.4eVは、価電子帯頂上と真空準位とのエネルギー差に相当する。ダイヤモンドのバンドギャップが5.47eVであるから、約1.1eVの負の電子親和力が形成できていることがこれで証明される。そして、この負の電子親和力表面に自由励起子が来ることによって、実際に電子放出が得られている。
段落0035で述べた電子放出原理は、外部からの紫外光ではなく、結晶内部で自由励起子を生成する、あるいは自由励起子の励起エネルギー相当の紫外光が発生し、負の電子親和力表面に到達することによっても起こりうることは自明である。さらに、自由励起子の励起エネルギー未満の紫外光でも、4.4eV以上のエネルギーを有していれば電子放出が起こることも自明である。すなわち、結晶内部の欠陥や不純物に自由励起子が束縛され、発光する場合でも、その光エネルギーが4.4eV以上であれば陰極動作可能となる。
さて、水素終端表面の特徴として、表面伝導層の存在が挙げられる。これは、水素終端表面のみで発現せず、表面へのある吸着物の関与が必要であることが知られている。水素終端表面が負の電子親和力を持つことと関連させたモデルが提唱されている。しかし、非特許文献5により、酸化した表面でもこの表面伝導層が存在することが明らかになった。
現在、その発現機構については不明な点も多いが、本発明の実施例ではその存在についての結果も合わせて示し、本発明の特徴として関与していることを明らかにする。なお、表面伝導層の存在は抵抗値のみで決定されるものではない。半導体結晶本来の電気特性としての電荷密度が一桁以上増加し、かつ電荷の移動度が減少し、かつ大気中の吸着物によってこれら一連の現象が発現する場合に、表面伝導層が存在すると定義できる。
図4は、ダイヤモンド中の自由励起子を介してダイヤモンドの負の電子親和力表面で起こる電子放出のエネルギー模式図である。
縦軸はエネルギーレベルE(eV)、横軸は結晶内部から真空に向けての空間位置を表す。自由励起子あるいはそれに相当するエネルギーを持った光が、結晶外部あるいは内部からダイヤモンドの負の電子親和力表面に到達すると、負の電子親和力表面固有の4.4eVのエネルギーギャップを超えたエネルギーを持つ電子状態間で自由励起子あるいは相当するエネルギーを持つ光の吸収が起こり、価電子帯に相当する表面占有準位から伝導帯に相当する表面非占有準位に電子が励起され、これが真空準位以上であるので外部に放出される原理を説明している。
図4に示す原理図より、ダイヤモンドから成る電子放出表面が負の電子親和力を持つ陰極では、該ダイヤモンドの伝導帯に自由電子を形成する、あるいは該ダイヤモンド内部に自由励起子を形成することができれば、陰極として動作する。
したがって、該ダイヤモンドが、pn接合を、又はpin接合を、又は金属ダイヤモンド接合を、又は単層を形成している陰極でよい。該ダイヤモンドへの電流注入、あるいは光照射、あるいは電子線照射により、該ダイヤモンド内部に自由電子あるいは自由励起子を形成することができ、陰極として動作する。
また、段落0038のpn接合、又はpin接合、又は金属ダイヤモンド接合の該ダイヤモンドは、絶縁基板上に形成されたもの、あるいは伝導度のあるダイヤモンド単層を用いて形成されたものである。
上記の実施の形態を踏まえつつ、以下に本発明の実施例を示し、さらに詳細に説明する。
図5は本発明の第1実施例に係る陰極の断面概略図を示す。実施例1の陰極は基板1、第一導電形CVDダイヤエピタキシャル膜2、第二導電形CVDダイヤエピタキシャル膜3、第一電極4、第二電極5、電子放出表面6で構成されている。負の電子親和力を備える電子放出表面から白抜き矢印のように電子放出電流が得られる。
図6に図5の陰極の製造方法を示す。高温高圧法で合成され市販されているIb(111)基板を用意した。大きさは、2mm×2mmで厚さ0.5mmである。この基板上に、第一導電形としてn形のCVDダイヤエピタキシャル膜を、第二導電形としてp形のCVDダイヤエピタキシャル膜を用いた。n形の合成条件は、水素ガスに対するメタンガスの流量比0.05%、ドーピングガスとしてフォスフィンをメタンガスに対する流量比1%、全ガス流量400sccmで、圧力75Torr、マイクロ波750W、基板温度900℃でマイクロ波プラズマCVD合成により合成した。また、p形の合成条件は、水素ガスに対するメタンガスの流量比0.15%、ドーピングガスとしてジボランをメタンガスに対する流量比10ppm、全ガス流量400sccm、圧力50Torr、マイクロ波1200W、基板温度920〜1050℃でマイクロ波プラズマCVD合成により合成した。成長直後は水素終端表面を有し、負の電子親和力を持つ。その後、フォトリソグラフィーにより金マスクを蒸着し、CFHガスによりICPプラズマでエッチングする。該エッチングプロセス後に洗浄を兼ねて混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理を行う。つまり硝酸と硫酸を1:3の比とする混酸中で、230℃で1時間煮沸させる。該酸化処理は、ダイヤモンドpn接合を覆う表面に行うが、pn接合を持つ該陰極の表面全体あるいは表面の一部でよい。さらにフォトリソグラフィーを行い、第一電極4および第二電極5をEB蒸着した。電極はチタンを用い、白金をキャップ層とした。最後に、酸化処理された表面を真空中で400℃で加熱処理し、負の電子親和力表面6を形成した。
図6に従って製造方法を説明する。
1.ダイヤモンドIb(111)基板1上に第一導電型CVDダイヤエピタキシャル膜2を成長し、さらに第二導電型CVD膜3をエピタキシャル成長させる(図6A)。
2.膜3と膜2に段差を有するようにプラズマ加工する(図6B)。
3.全体に沸騰洗浄処理で酸化処理する。
4.膜2上に第一電極4を蒸着し、膜3上に第二電極5を蒸着する(図6C)。
5.膜3を真空中で熱処理し、電子放出表面6を形成する(図6D)。
混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理した場合の表面状態を示す、X線光電子分光スペクトルの結果が図7に示されている。図7は、ダイヤモンド(111)表面のWO(混酸による沸騰洗浄処理)における、C1sコアレベル(炭素sp3結合エネルギー)のスペクトルである。縦軸はNormalized intensity(炭素sp3結合エネルギーピーク強度により規格化)[arb.units(任意単位)]、横軸はC1s core level shift(炭素sp3結合エネルギー状態からの結合エネルギーの変化)[eV(エレクトロンボルト)]を表す。
図7において、「a」は−1.0(eV)[surface reconstruction(表面再構成によるエネルギー変化)]、「b」は+1.4(eV)[C−OH or C−O−C(水酸基との結合またはエーテル結合によるエネルギー変化)]、「c」は+2.9(eV)[C=O(カルボニル基との結合によるエネルギー変化)]となる。
炭素原子(C)のsp3電子に相当するエネルギー位置を0eVとした場合、+1.4eVと+2.9eVにピークが観測されている。それぞれ、C−OHまたはC−O−C結合、およびC=O結合の炭素原子のK殻電子の状態に相当すると考えられている。学術的にダイヤモンド(111)表面の酸素終端構造については未解決なままであるが、酸素(O)の量はほぼ0.66分子層(0.66ML)に相当し試料表面は酸化された。また、再構成した炭素量は0.22分子層(0.22ML)であり、0.88MLが水素以外の終端状態に変化した。全反射赤外吸収フーリエ変換赤外分光(ATR−FTIR)スペクトルからもC−H結合は観測されず、水素終端はほぼ除去されたと言える。
図8は、図7と同じ表面の光電子放出率の分光スペクトルである。図8は、ダイヤモンド(111)表面をCVD処理し、熱混酸処理した後の特性を表す。「Eg=5.47eV」はバンドギャップ、「矢印d」は(正の)電子親和力χ=0.5eV、特性曲線「e」は、Y〜(hν−6.0)3.5を意味する。
横軸がPhoton Energy(励起光エネルギー)(eV)、縦軸がTotal Photoelectron Yield(全光電子放出率の測定値を対数でとったもの)(rel.units(相対値))で、6.2〜6.3eV付近に光電子が放出されるエネルギー閾値が存在することがわかる。これまでの知見から、これは価電子帯からの励起であることがわかる(非特許文献1、2、3)。したがって、バンドギャップエネルギー5.47eVを考慮すると、0.5±0.1eVの電子親和力が得られていることがわかる。誤差はフィッティングとフォノンエネルギーを考慮している。つまり、電子親和力は正である。
次に、真空中で加熱処理した後の表面に対する光電子放出率の分光スペクトルを図9に示す。図9は、ダイヤモンド(111)表面をCVD処理し、真空中、600°Cで熱処理した後の特性を表す。「Eg=5.47eV」はバンドギャップ、「矢印f」は負の電子親和力χ<0eVを意味する。
処理温度は600℃で処理時間は30分である。横軸が励起光エネルギー、縦軸が全光電子放出率の測定値を対数でとったもので、バンドギャップエネルギー5.47eVより低い励起光エネルギーに光電子が放出されるエネルギー閾値が存在することがわかる。
また、バンドギャップエネルギー付近で、スペクトルに幾つか立ち上がる閾値が存在しており、光電子放出率が二桁以上大きくなっていることがわかる。図2〜4で示したように、これは負の電子親和力の状態であることがわかる。
実施例1と同様のプロセスを行うが、真空中熱処理ではなく、不活性ガス中で200℃より高く加熱処理した後の、光電子放出率の分光スペクトルを図10に示す。
図10は、ダイヤモンド(111)表面をCVD処理し、熱混酸処理した後、Ar雰囲気中で420°CでRTA処理した後の特性を表す。「矢印g」は負の電子親和力χ<0eVを意味する。
不活性ガスとしてアルゴン(Ar)を使用し、5sccmの流量で圧力は200Pa、処理温度は420℃で30分である。横軸が励起光エネルギー、縦軸が全光電子放出率の測定値を対数でとったもので、バンドギャップエネルギー5.47eVより低い励起光エネルギーに光電子が放出されるエネルギー閾値が存在することがわかる。また、バンドギャップエネルギー付近で、スペクトルに幾つか立ち上がる閾値が存在しており、光電子放出率が二桁以上大きくなっていることがわかる。図2〜4で示したように、これは負の電子親和力の状態であることがわかる。
段落0045の表面のX線光電子分光スペクトルの結果を図11に示す。図11は、ダイヤモンド(111)表面のWO−AN(混酸による沸騰洗浄処理後の熱処理)における、C1sコアレベルシフトのスペクトルである。図11において、「h」は−1.0(eV)[surface reconstruction]、「j」は+1.4(eV)[C−OH or C−O−C]、「k」は+2.9(eV)[C=O]となる。
図7と同様に、炭素原子(C)のsp3電子に相当するエネルギー位置を0eVとした場合、+1.4eVと+2.9eVにピークが観測されている。それぞれ、C−OHまたはC−O−C結合、およびC=O結合の炭素原子のK殻電子の状態に相当すると考えられている。酸素(O)の量はほぼ0.26分子層(0.26ML)に相当し、図7の0.66MLが半分以下程度に減少している。また、再構成した炭素量は0.09分子層(0.09ML)であり、0.35MLが水素以外の終端状態として存在している。
一方、混酸による沸騰洗浄処理(WO)とその後の熱処理(WO−AN)との間で図5の電子放出表面6のシート抵抗、シートキャリア濃度、移動度の変化を本実施例2のp形ダイヤエピタキシャル膜と同じ合成法で得られた試料表面のホール測定から測定した結果を図12に示す。図12Aは各工程におけるシート抵抗の変化を示す。縦軸はシート抵抗、横軸は工程を表す。
横軸のWO(混酸による沸騰洗浄処理)、
WO−AN(混酸による沸騰洗浄処理後の熱処理)、
AO(1st)(大気中熱処理)、
AO−有機洗浄−AN(大気中熱処理後に、有機溶媒で洗浄してから、窒素雰囲気中で熱処理)、
AO(2nd)(AO−有機洗浄−AN処理後の二回目の大気中熱処理)、
AO−AN(大気中熱処理後にそのまま窒素雰囲気中で熱処理)、を表す。
図12Bは各工程におけるシートキャリア濃度の変化を示す。縦軸はシートキャリア濃度を表す。図12Cは各工程における移動度の変化を示す。縦軸は移動度を表す。
図12より、請求項1の表面伝導層を兼ね備えた、負の電子親和力を持つ表面が、WO−ANによって得られたことがわかる。
つまり、段落0041又は段落0045に記載の製造方法により、請求項1の電子放出面がダイヤモンドから成る陰極で、該表面が表面伝導層を持ち、かつ該表面の酸素被覆率が0.2〜0.5MLであり、かつ負の電子親和力を持つ陰極が得られた。
以上から本発明により得られた表面について図13のようにまとめられる。図13中、「SC」は表面伝導度、「NEA」は負の電子親和力を意味する。
図13左が水素終端表面、および熱処理によって水素が部分的に脱離した表面に対応し、図13右は酸化により得られた表面と熱処理によって得られた表面を示す。図13の左下と右上で、水素(H)および酸素(O)いずれも終端していない部分は、表面欠陥の存在を示している。
図14に水素終端を熱処理した場合に現れる表面欠陥準位に対応した全光電子放出率分光スペクトルの一例を示す。
図14はIIa(001)(IIa型は真性半導体程度の高純度ダイヤモンド結晶を表し、(001)は結晶面方位を表す)の特性を示し、図14(A)は超高真空中、600°Cで1時間のアニールを行った特性、図14(B)は超高真空中、670°Cで1時間のアニールを行った特性、図14(C)は超高真空中、830°Cで1時間のアニールを行った特性、を表す。
図4に示す原理図に対応した、負の電子親和力による価電子帯からの電子放出に対応する4.4eV付近からの立ち上がりエネルギー位置より低いエネルギー領域に、新たに図4に示す原理図に対応したバンドギャップ中のエネルギー位置に対応するスペクトルが現れており、バンドギャップ中に欠陥による準位が新たに導入されていることがわかる。また、図13の右上に対応する表面の欠陥については、これまでの電極との界面で得られるショットキー接合特性の詳細な研究から公知の事実となっている(非特許文献5)。
つまり本発明の電子放出表面は図13右下の点線で囲まれた状態を特徴とする表面である。水素終端表面は、表面伝導層が高い伝導度(SC:大)で存在し、負の電子親和力(NEA)を有する。それを熱処理すると、SCは小さくなり、NEAも劣化する。一方、本請求項に記載のある酸化処理で得られる表面は右上であり、SCは小さくかつNEAではない。
しかし本請求項に記載の熱処理によって、SCおよびNEAとも回復する。つまり、熱処理によって酸素終端は部分的に残っているが、残りの部分は水素終端が回復していると言える。つまり水素終端表面は熱処理等によってNEAは不安定であるが、酸素終端表面を熱処理して得られる安定な表面でNEAを発現できることが、本発明の原理であるといえる。なお、部分的水素終端表面である図12左下の状態からNEAを回復するには、酸化処理しても右上の状態にとどまるだけであるので、有効ではない。水素プラズマ処理等で再水素化処理という完全初期化プロセスで左上にすれば、NEAが回復することは自明である。
実施例1と同様のプロセスを行うが、ダイヤモンド(111)表面をCVD処理し、酸化処理として、混酸による沸騰洗浄処理(WO)ではなく、大気中で420℃で30分の加熱酸化処理(AO)を行い、真空中で600℃、30分の熱処理した後の、光電子放出率の分光スペクトルを図15に示す。「矢印f」は負の電子親和力χ<0eVを意味する。横軸が励起光エネルギー、縦軸が全光電子放出率の測定値を対数でとったもので、バンドギャップエネルギー5.47eVより低い励起光エネルギーに光電子が放出されるエネルギー閾値が存在することがわかる。また、バンドギャップエネルギー付近で、スペクトルに幾つか立ち上がる閾値が存在しており、光電子放出率が二桁以上大きくなっていることがわかる。図2〜4で示したように、これは負の電子親和力の状態であることがわかる。なお、不活性ガス中の熱処理によっても表面伝導層の電気特性は図12のAO−ANとなり、WO−AN同様となる。つまり、請求項1を満たす陰極が形成された。
図16は実施例4に係る陰極の断面概略図を示す。実施例4の陰極は第一導電形基板11、第二導電形CVDダイヤエピタキシャル膜12、第一電極13、第二電極14、電子放出表面15で構成されている。負の電子親和力を備える電子放出表面から白抜き矢印のように電子放出電流が得られる。
図17に図16の陰極の製造方法を示す。本実施例で得られる陰極の高温高圧法で合成されるp形IIb(100)基板を用意した。大きさは、2.5mm×2.5mmで厚さ0.5mmである。この基板上に、メタンガスと水素ガスの流量比1%とした。全ガス流量400sccmで、圧力75Torr、マイクロ波750W、基板温度900℃でマイクロ波プラズマCVD合成により、n形CVD(100)ダイヤモンド薄膜を作製した。成長直後は水素終端表面を有し、負の電子親和力を持つ。これを硝酸と硫酸を1:3の比とする混酸中で、230℃で1時間煮沸させる。
図17に従って製造方法を説明する。
1.第一導電型ダイヤモンド(001)基板11上に第二導電型CVDダイヤエピタキシャル膜12を成長させる(図17A)。
2.全体に沸騰洗浄処理で酸化処理する。
3.膜12上に第一電極13を蒸着し、膜1上に第二電極14を蒸着する(図17B)。
4.真空中で熱処理し、電子放出表面15を形成する(図17C)。
p形であるがこの表面と同じCVD(001)ダイヤモンド薄膜の光電子放出率の分光スペクトルでは、7.5 eV付近まで明瞭な光電子放出は観測されなかった。バンドギャップエネルギー5.47eVを考慮すると、2.0eV以上の電子親和力が得られていることがわかる。つまり、電子親和力は正である。
次に、段落0054の表面を真空中で熱処理した後の光電子放出率の分光スペクトルを図18に示す。図18は、ダイヤモンド(001)表面をCVD処理し、熱混酸処理した後、真空中で800°Cで熱処理した後の特性を表す。「矢印n」は負の電子親和力χ<0eVを意味する。
真空度は10−7Pa台で、処理温度は800℃、処理時間30分である。横軸が励起光エネルギー、縦軸が全光電子放出率の測定値を対数でとったもので、バンドギャップエネルギー5.47eVより低い励起光エネルギーに光電子が放出されるエネルギー閾値が存在することがわかる。また、バンドギャップエネルギー付近で、スペクトルに立ち上がる閾値が存在しており、光電子放出率が5倍程度大きくなっていることがわかる。図2〜4で示したように、これは負の電子親和力の状態であることがわかる。
つまり、段落0052に記載の製造方法により、請求項1の電子放出面がダイヤモンドから成る陰極で、該表面が表面伝導層を持ち、かつ負の電子親和力を持つ陰極が得られた。なお、酸素の被覆率については比較例2で述べる。
比較例1
実施例1から4の熱処理温度に対し、それぞれの範囲外に当たる温度での熱処理の全光電子放出率分光法の結果を比較例1として図19に示す。図19は、ダイヤモンド(111)表面をCVD処理し、混酸煮沸処理した後、真空中で30分熱処理した後の特性を表す。
図19中、混酸による沸騰洗浄処理後が黒四角、200℃での真空中熱処理後が実線、600℃での処理後が白三角、900℃での処理後が白丸である。明らかに、600℃での処理後以外は負の電子親和力が得られていない。ただし900℃の結果ではバンドギャップ付近からまだ光電子放出率スペクトルの成分が残っていることを踏まえて、この比較例から、熱処理温度範囲は200℃より高く、900℃以下であることがわかる。
比較例2
実施例4の段落0054の酸化処理後のX線光電子分光スペクトルの結果が図20に示されている。
図20は、ダイヤモンド(001)表面のWOにおける、C1sコアレベルシフトのスペクトルである。
図20において、「p」は−1.1(eV)、「q」は+1.3(eV)[C−OH or C−O−C]、「r」は+2.6(eV)[C=O]となる。
炭素原子(C)のsp3電子に相当するエネルギー位置を0eVとした場合、の+1.3eVと+2.6eVにピークが観測されている。それぞれ、C−OHまたはC−O−C結合、およびC=O結合の炭素原子のK殻電子の状態に相当すると考えられている。表面は、水素終端表面の2x1再構成から1x1再構成している。酸素(O)の量はほぼ0.55分子層(0.55ML)に相当し試料表面は酸化された。また、再構成した炭素量は0.17分子層(0.17ML)であり、0.72MLが水素以外の終端状態に変化した。全反射赤外吸収フーリエ変換赤外分光(ATR−FTIR)スペクトルからもC−H結合は観測されず、水素終端はほぼ除去されたと言える。
実施例4の段落0054の酸化処理の次に不活性ガス中で加熱処理した後の、ダイヤモンド(001)表面のWO−ANにおける、C1sコアレベルシフトのスペクトルを図21に示す。
図21において、「s」は−1.1(eV)、「t」は+1.3(eV)[C−OH or C−O−C]、「u」は+2.6(eV)[C=O]となる。
不活性ガスとしてアルゴン(Ar)を使用し、5sccmの流量で圧力は200Pa、処理温度は420℃で30分である。図7、9、20と同様に、炭素原子(C)のsp3電子に相当するエネルギー位置を0eVとした場合、+1.4eVと+2.9eVにピークが観測されている。それぞれ、C−OHまたはC−O−C結合、およびC=O結合の炭素原子のK殻電子の状態に相当すると考えられている。酸素(O)の量はほぼ0.51分子層(0.51ML)に相当し、図20の0.55MLとほぼ同程度である。また、再構成した炭素量は0.25分子層(0.25ML)であり、0.76MLが水素以外の終端状態として存在している。
この表面の光電子放出率の分光スペクトルでは、7.5 eV付近まで明瞭な光電子放出は観測されなかった。バンドギャップエネルギー5.47eVを考慮すると、2.0eV以上の電子親和力が得られていることがわかる。つまり、電子親和力は正である。
この比較例2ならびに実施例4から、電子放出表面がダイヤモンドであるが、酸素被覆率が0.5MLより大きい場合は、負の電子親和力が現れないことがわかる。したがって、本発明が与える負の電子親和力と表面伝導層を兼ね備える電子放出表面がダイヤモンドである陰極の表面は、酸素被覆率が0.2〜0.5MLであることがわかる。なお、実施例4の通り、製造方法に記載の熱処理温度の範囲でより高い処理温度で熱処理を行うことにより、必ず請求項1の陰極が形成できる。
以上の様に、本発明は、電子放出表面がダイヤモンドから成り、該ダイヤモンド表面を、混酸による沸騰洗浄処理又は大気中アニール又は酸素プラズマによる処理により酸化処理する工程と、該酸化処理された表面を、真空中又は不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理し負の電子親和力表面を形成する工程とを備える陰極、および該陰極の製造方法である。この材料物性を最大限引き出し、あらゆる電子応用(化学・生化学を含む)および電子ビーム応用への展開が可能であり、白色照明、殺菌・浄水、電子ビーム応用分析・電力スイッチング素子・高輝度電子銃・高輝度X線装置、マイクロ流路内局所化学反応用カソード等の各種情報センシング、環境技術、医療、等の幅広い分野への応用が可能となる。

Claims (12)

  1. 電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面が表面伝導層を持ち、かつ該表面の酸素被覆率が0.2〜0.5MLであり、かつ負の電子親和力を持つことを特徴とする陰極。
  2. 前記ダイヤモンドが単結晶であることを特徴とする請求項1記載の陰極。
  3. 前記ダイヤモンド単結晶表面が(111)面、又は(100)面、又は(110)面のいずれか一つであることを特徴とする請求項2記載の陰極。
  4. 前記ダイヤモンドが多結晶であることを特徴とする請求項1記載の陰極。
  5. 前記ダイヤモンド多結晶表面が(111)面、又は(100)面、又は(110)面のいずれか一つに配向していることを特徴とする請求項4記載の陰極。
  6. 前記ダイヤモンドが、pn接合、pin接合、金属ダイヤモンド接合、および単層のうちのいずれか1つを形成し、前記ダイヤモンドから成る電子放出表面が負の電子親和力を持ち、該ダイヤモンド内部に自由電子あるいは自由励起子を形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項記載の陰極。
  7. 電子放出表面がダイヤモンドから成っており、該ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程と、前記酸化処理されたダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程とを備えたことを特徴とする陰極の製造方法。
  8. 前記酸化処理する工程を、ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程の代わりに、前記ダイヤモンド表面を大気中で200℃より高く900℃以下の熱処理で酸化処理する工程としたことを特徴とする請求項6記載の陰極の製造方法。
  9. 前記酸化処理する工程を、ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程の代わりに、前記ダイヤモンド表面を酸素プラズマ中で酸化処理する工程としたことを特徴とする請求項6記載の陰極の製造方法。
  10. 前記熱処理する工程を、酸化処理されたダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程の代わりに、前記酸化処理されたダイヤモンド表面を不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程と
    したことを特徴とする請求項6記載の陰極の製造方法。
  11. 前記酸化処理する工程を、ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程の代わりに、前記ダイヤモンド表面を大気中で200℃より高く900℃以下の熱処理で酸化処理する工程とし、
    前記熱処理する工程を、酸化処理されたダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程の代わりに、前記酸化処理されたダイヤモンド表面を不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程としたことを
    特徴とする請求項6記載の陰極の製造方法。
  12. 前記酸化処理する工程を、ダイヤモンド表面を混酸による沸騰洗浄処理で酸化処理する工程の代わりに、前記ダイヤモンド表面を酸素プラズマ中で酸化処理する工程とし、
    前記熱処理する工程を、酸化処理されたダイヤモンド表面を真空中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程の代わりに、前記酸化処理されたダイヤモンド表面を不活性ガス中で200℃より高く900℃以下で熱処理する工程としたことを
    特徴とする請求項6記載の陰極の製造方法。
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