JPH11181518A - 軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品 - Google Patents

軟窒化用鋼材の製造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品

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JPH11181518A
JPH11181518A JP35134197A JP35134197A JPH11181518A JP H11181518 A JPH11181518 A JP H11181518A JP 35134197 A JP35134197 A JP 35134197A JP 35134197 A JP35134197 A JP 35134197A JP H11181518 A JPH11181518 A JP H11181518A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】優れた耐疲労特性、耐摩耗性を呈するる軟窒化
部品と、その素材となる被削性に優れた軟窒化用鋼材の
製造方法を提供する。 【解決手段】C:0.15〜0.45%、Si:0.05〜0.5%、M
n:0.2〜2.5%、S:0.002〜0.2%、Cu:0.5〜1.5%、N
i:0.25〜0.75%で1.8≦Cu/Ni≦2.2、Cr:0.5〜2%、
V:0.05〜0.5%、Ti:0.04〜1.0%、Al:0.01〜0.3%、
N ≦0.008%、Mo:0〜0.3%、W:0〜0.5%、Pb:0〜0.3
5%、Ca:0〜0.01%、残部は Feと不純物からなる化学
組成で、鋼中のTi炭硫化物の最大直径が10μm以下、そ
の量が清浄度で0.05%以上である鋼を、熱間加工後に球
状化焼鈍して硬度をHv≦ 180とし、次いで冷間加工して
硬度をHv≧ 250する被削性に優れた軟窒化用鋼材の製造
方法。素材が上記の方法で製造された軟窒化用鋼材
であり、軟窒化後の表面硬度がHv≧ 600、有効硬化深さ
が0.1mm以上である軟窒化部品。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、軟窒化用鋼材の製
造方法及びその鋼材を用いた軟窒化部品に関し、より詳
しくは耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性や耐スポ
ーリング性に優れた軟窒化部品と、その軟窒化部品の素
材となる被削性に優れた軟窒化用鋼材の製造方法に関す
る。(なお、繰り返し面圧の負荷により、材料表面が剥
離する疲労現象のうち、剥離が比較的小さいものを「ピ
ッチング」、剥離が比較的大きなものを「スポーリン
グ」と呼ぶことが多いので、本明細書においてもこれに
ならった。)
【0002】
【従来の技術】自動車や産業機械に使用される多くの部
品、例えば歯車や軸受などには、一般に大きな疲労強度
や耐摩耗性が要求される。そのため前記部品は、所謂
「表面硬化処理」を施して製造されてきた。
【0003】表面硬化処理としては一般に、浸炭焼入
れ、高周波焼入れ、炎焼入れ、窒化や軟窒化などの処理
が知られている。このうち、浸炭焼入れ、高周波焼入れ
や炎焼入れといったオーステナイト状態の高温域から急
冷(焼入れ)して表面を硬化させる処理では、部品に大
きな焼入れ歪が生じてしまう。更に、場合によっては焼
入れした部品に焼割れが生ずることもある。
【0004】このため、所要部品に対して特に低歪であ
ることが要求される場合には、窒化や軟窒化処理が施さ
れている。
【0005】しかし、一般の窒化処理は、アンモニアの
気流中で500〜550℃に20〜100時間加熱後徐
冷する所謂「ガス窒化」処理であるため生産性が低くコ
ストが嵩む。このため、窒化温度が550℃前後の液体
窒化法が開発されているが、この方法の場合にも窒化に
は12時間程度を要するので、必ずしも量産部品を低コ
ストで効率よく製造するのに適した方法とは言えない。
イオン窒化法によれば短時間で窒化が可能ではあるが、
温度測定が困難なことや、陰極となる被処理部品の配置
や形状、質量などによって温度や窒化層が不安定になっ
たりするので、この方法もやはり量産部品の製造に適し
ているとは言い難い。
【0006】一方、軟窒化処理は、570℃程度の温度
のシアン系化合物の塩浴、又はRXガス(RXガスは吸
熱型変成ガスの商標)にアンモニアを添加したガス中に
保持することにより、鋼材表面からN(窒素)とO(酸
素)を鋼中に侵入させて表層部を硬化させる方法で、短
時間処理が可能である。このうち前者のシアン系化合物
の塩浴を用いる方法は、廃液の処理にコストが嵩むた
め、後者のガスを用いる「ガス軟窒化法」が、低歪が要
求される量産品に適した表面硬化処理方法として重用さ
れている。
【0007】従来、軟窒化用鋼としては、例えば、JIS
G 4105に規定されているクロムモリブデン鋼鋼材(SC
M435など)やJIS G 4202のアルミニウムクロムモリ
ブデン鋼鋼材(SACM645)が多く使用されてき
た。
【0008】しかし、SCM435を初めとするJIS
に規定されたクロムモリブデン鋼鋼材を素材鋼とした部
品の場合、軟窒化処理後の表面からビッカース硬度(H
v)500の位置までの距離(以下、「有効硬化深さ」
という)は0.05mm程度と小さい。更に、表面から
0.025mmの位置におけるマイクロビッカース硬度
(以下、「表面硬度」という)もHv600以上になら
ない場合が多い。このため、疲労強度や耐摩耗性の点で
充分に満足できるものではなかった。
【0009】一方、上記の欠点を改良するためにSAC
M645には窒化特性向上元素であるAl及びCrが多
量に添加されている。しかし、SACM645を素材鋼
とした場合も、軟窒化処理によって表面硬度はHvで8
00〜1100と非常に高くなるものの、有効硬化深さ
は0.08mm程度と小さい。したがって、表面部から
芯部(以下、軟窒化処理後の表面硬化されていない部分
を「芯部」という)への硬度勾配が急激になりすぎる。
そのため、高負荷の下で運転される歯車や軸受などで
は、表面硬化部と芯部の境界付近から剥離現象が起きや
すく、耐ピッチング性あるいは耐スポ−リング性が劣っ
ていた。更に、SACM645は溶製、鋳造、熱間加工
が比較的困難であるし、冷間加工性が悪く複雑な形状の
部品にはプレス成形が難しいという問題もあった。
【0010】特開昭58−71357号公報には、JI
S規格鋼の問題点を解決した「軟窒化用鋼」が開示され
ている。この公報で提案された鋼を素材鋼として用いれ
ば、確かに疲労強度、耐摩耗性に優れると共に耐ピッチ
ング性、耐スポーリング性にも優れた軟窒化部品を得る
ことは可能である。しかし、Siなどの強化に有効な元
素の含有量を低減して冷間加工性を向上させた鋼である
ため、軟窒化によって表面部は硬化するものの、逆に芯
部は軟窒化時の加熱で軟化するので、軟窒化後に芯部硬
度が低くなりすぎて疲労特性が劣化する場合もあった。
【0011】更に、JIS規格鋼であるSCM435な
どのクロムモリブデン鋼やアルミニウムクロムモリブデ
ン鋼のSACM645及び上記の特開昭58−7135
7号公報で提案された鋼の場合には被削性が劣るため、
これを熱間鍛造や冷間鍛造した後に所望の軟窒化部品の
形状に成形するための切削加工のコストが嵩んでしま
う。このため、切削加工を容易にし、低コスト化を図る
ために被削性に優れた軟窒化用鋼材に対する要求がます
ます大きくなっている。
【0012】従来、被削性を高めるために、鋼にPb、
Te、Bi、Ca及びSなどの快削元素を単独あるいは
複合添加することが行われてきた。しかし、前記したJ
IS規格鋼や特開昭58−71357号公報で提案され
た鋼に、単に上記の快削元素を添加しただけの場合に
は、所望の機械的性質、なかでも疲労強度を確保できな
いことが多い。
【0013】鉄と鋼(vol.57(1971年)S4
84)には、脱酸調整快削鋼にTiを添加すれば被削性
が高まる場合のあることが報告されている。しかし、T
iの多量の添加はTiNが多量に生成されることもあっ
て工具摩耗を増大させ、被削性の点からは好ましくない
ことも述べられている。例えば、C:0.45%、S
i:0.29%、Mn:0.78%、P:0.017
%、S:0.041%、Al:0.006%、N:0.
0087%、Ti:0.228%、O:0.004%及
びCa:0.001%を含有する鋼では却ってドリル寿
命が低下して被削性が劣っている。このように、鋼に単
にTiを添加するだけでは被削性は向上するものではな
い。
【0014】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記現状に
鑑みなされたもので、被削性と冷間加工性に優れた鋼を
素材とし、冷間加工後に軟窒化処理するだけで優れた疲
労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性や耐スポーリング性
を呈する軟窒化部品を提供することを課題とする。更
に、本発明は、上記軟窒化部品の素材となる被削性に優
れた軟窒化用鋼材の製造方法を提供することも課題とす
る。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の要旨は、下記
(1)に示す軟窒化用鋼材の製造方法及び(2)に示す
その鋼材を用いた軟窒化部品にある。
【0016】(1)重量%で、C:0.15〜0.45
%、Si:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.5
%、S:0.002〜0.2%、Cu:0.5〜1.5
%、Ni:0.25〜0.75%で、且つ1.8≦Cu
(%)/Ni(%)≦2.2、Cr:0.5〜2%、
V:0.05〜0.5%、Ti:0.04〜1.0%、
Al:0.01〜0.3%、N:0.008%以下、M
o:0〜0.3%、W:0〜0.5%、Pb:0〜0.
35%、Ca:0〜0.01%、残部はFe及び不可避
不純物からなる化学組成で、鋼中のTi炭硫化物の最大
直径が10μm以下で、且つ、その量が清浄度で0.0
5%以上である鋼を、熱間加工後に球状化焼鈍して硬度
をHv180以下とし、次いで冷間加工して硬度をHv
250以上にすることを特徴とする被削性に優れた軟窒
化用鋼材の製造方法。
【0017】(2)素材が上記(1)に記載の方法で製
造された軟窒化用鋼材であり、軟窒化後の表面硬度がH
v600以上、且つ、有効硬化深さが0.1mm以上で
あることを特徴とする軟窒化部品。
【0018】なお、本発明でいう「Ti炭硫化物」には
単なるTi硫化物をも含むものとする。又、「(Tiの
炭硫化物の)最大直径」とは「個々のTiの炭硫化物に
おける最も長い径」のことを指す。Ti炭硫化物の清浄
度は、光学顕微鏡の倍率を400倍として、JIS G 0555
に規定された「鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方法」に
よって60視野測定した値をいう。
【0019】以下において、上記(1)、(2)に記載
のものをそれぞれ(1)の発明、(2)の発明という。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明者らは、軟窒化部品の素材
となる鋼材の化学組成、並びに各製造工程における適正
なミクロ組織や機械的性質に関して調査・研究を行っ
た。その結果、次の知見を得るに到った。
【0021】(a)軟窒化部品の耐疲労特性や耐ピッチ
ング性を向上させるには、いずれも表面硬度と有効硬化
深さを大きくすれば良い。又、耐摩耗性を向上させるに
は、表面硬度を大きくすれば良い。一方、耐スポーリン
グ性を向上させるには、有効硬化深さを大きくすれば良
い。
【0022】(b)軟窒化処理を施し、表面硬度をHv
600以上、有効硬化深さを0.1mm以上とすれば、
軟窒化部品の耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及
び耐スポーリング性を著しく高めることができる。
【0023】(c)軟窒化後の芯部硬度がHv250以
上であれば、例えば、自動車のミッションギアのように
高い負荷が加わる部品においても、部品内部を起点とし
て曲げ疲労が生ずることはない。
【0024】(d)鋼材を球状化焼鈍して硬度をHv1
80以下に低下させれば、冷間加工性が向上して金型寿
命を大幅に改善できる。
【0025】(e)適正量のCuとNiとを含有する鋼
材を球状化焼鈍して硬度をHv180以下にし、冷間鍛
造による加工硬化で硬度をHv250以上に上昇させれ
ば、次に軟窒化処理を施しても、軟窒化時の加熱で軟化
して芯部硬度が低下することはない。すなわち、芯部硬
度を軟窒化前の値に維持、あるいは更に高めることがで
きる。このため、軟窒化部品にはHv250以上の高い
芯部硬度が安定して確保できるので、耐疲労特性、なか
でも耐曲げ疲労特性が大きく向上する。
【0026】なお、特に断らない限り、軟窒化する前の
状態(例えば球状化焼鈍後、冷間加工後)の硬度とは、
軟窒化後の芯部に相当する部分(例えば「中心部」)の
硬度のことをいう。
【0027】(f)上記の(a)〜(e)から、優れた
冷間加工性を有する鋼を素材鋼とし、これに冷間加工を
施して加工硬化により充分な硬度を確保し、次に軟窒化
して硬く深い窒化層を形成させるが、この軟窒化のため
の加熱で前記の加工硬化による硬度(すなわち芯部硬
度)を維持あるいは更に上昇できれば、軟窒化部品に大
きな耐疲労特性、耐摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポ
ーリング性を付与できる。
【0028】(g)鋼に適正量のTiを添加し、鋼中の
介在物制御として硫化物をTi炭硫化物に変え、上記T
i炭硫化物を微細に分散させれば、鋼材の被削性が飛躍
的に向上する。そこで、更に研究を続けた結果、下記の
事項を見いだした。
【0029】(h)Sとのバランスを考慮して鋼にTi
を積極的に添加して行くと、鋼中にTi炭硫化物が形成
される。
【0030】(i)鋼中に上記のTi炭硫化物が生成す
ると、MnSの生成量が減少する。
【0031】(j)鋼中のS含有量が同じ場合には、T
i炭硫化物はMnSよりも大きな被削性改善効果を有す
る。これは、Ti炭硫化物の融点がMnSのそれよりも
低いため、切削加工時に工具のすくい面での潤滑作用が
大きくなることに基づく。
【0032】(k)Ti炭硫化物の効果を充分発揮させ
るためには、N含有量を低く制限することが重要であ
る。これは、N含有量が多いとTiNとしてTiが固定
されてしまい、Ti炭硫化物の生成が抑制されてしまう
ためである。
【0033】(l)製鋼時に生成したTi炭硫化物は、
通常の熱間加工のための加熱温度及び焼準における通常
の加熱温度では基地に固溶しない。したがって、オース
テナイト領域において所謂「ピン止め作用」が発揮され
るので、オーステナイト粒の粗大化防止に有効である。
勿論、Ti炭硫化物は軟窒化処理の加熱温度でも基地に
固溶しない。
【0034】(m)Ti炭硫化物によって被削性を高め
るとともに大きな強度、特に、大きな疲労強度を確保す
るためには、Ti炭硫化物のサイズと、その清浄度で表
される量(以下、単に「清浄度」という)を適正化して
おくことが重要である。
【0035】本発明は、上記の知見に基づいて完成され
たものである。
【0036】以下、本発明の各要件について詳しく説明
する。なお、成分含有量の「%」は「重量%」を意味す
る。
【0037】(A)素材鋼の化学組成 C:0.15〜0.45% Cは、SとともにTiと結合してTiの炭硫化物を形成
し、被削性を高める作用を有する。更に、Cは、静的強
度を確保するのにも有効な元素である。しかし、その含
有量が0.15%未満では所望の静的強度(冷間加工後
に軟窒化処理した後の芯部硬度、すなわち最終製品であ
る軟窒化部品の芯部硬度としてHv250以上)が確保
できない。一方、0.45%を超えると芯部の延性、靭
性の低下をきたすとともに、冷間加工性を劣化させてし
まう。更に、軟窒化後の表面硬度及び硬化深さが却って
減少するようになる。したがって、Cの含有量を0.1
5〜0.45%とした。
【0038】Si:0.05〜0.5% Siは、鋼の焼入れ性を高めるとともに静的強度を向上
させる作用を有する。しかし、その含有量が0.05%
未満では、前記した所望の静的強度が確保できない。一
方、0.5%を超えると靭性の劣化を招いて、冷間加工
性に悪影響を及ぼす。したがって、Siの含有量を0.
05〜0.5%とした。
【0039】Mn:0.2〜2.5% Mnは、焼入れ性の向上と芯部強度の確保に有効な元素
である。しかし、その含有量が0.2%未満では添加効
果に乏しく、一方、2.5%を超えて含有させると偏析
を生じて冷間加工性の劣化をもたらす。したがって、M
nの含有量を0.2〜2.5%とした。なお、Mnの含
有量は0.5〜1.5%とすることが好ましい。
【0040】S :0.002〜0.2% SはCとともにTiと結合してTiの炭硫化物を形成
し、被削性を高める作用を有する。しかし、その含有量
が0.002%未満では所望の効果が得られない。
【0041】従来、快削鋼にSを添加する目的は、Mn
Sを形成させて被削性を改善させることにあった。しか
し、本発明者らの検討によると、上記のMnSの被削性
向上作用は、切削時の切り屑と工具表面との潤滑性を高
める機能に基づくことが判明した。しかもMnSは巨大
化し、鋼材本体の地疵を大きくし、欠陥となる場合があ
る。本発明におけるSの被削性改善作用は、適正量のC
とTiとの複合添加によってTi炭硫化物を形成させる
ことで初めて得られる。このためには、上記したように
0.002%以上のSの含有量が必要である。一方、S
を0.2%を超えて含有させても被削性に与える効果に
変化はないが、鋼中に粗大なMnSが再び生じるように
なり、地疵等の問題が生じる。更に、熱間での加工性が
著しく劣化し熱間での塑性加工が困難になるし、靭性が
低下することもある。したがって、Sの含有量を0.0
02〜0.2%とした。Sの好ましい含有量は0.00
4〜0.1%である。
【0042】Cu:0.5〜1.5% Cuは、本発明において重要な元素であって、軟窒化処
理時に微細に析出して鋼を硬化させる作用を有する。こ
のため被処理鋼材は、軟窒化のための加熱で軟化するこ
とがなく軟窒化前の硬度を維持でき、場合によっては逆
に硬化する。前記のCuの効果は、特に、球状化焼鈍し
て硬度をHv180以下にし、冷間鍛造による加工効果
で硬度をHv250以上に上昇させた鋼材において大き
く発揮される。しかし、その含有量が0.5%未満では
充分な量が微細析出しないので添加効果に乏しい。一
方、1.5%を超えて含有させると前記の効果が飽和す
るばかりか熱間加工性の劣化をもたらす。したがって、
Cu含有量を0.5〜1.5%とした。
【0043】Ni:0.25〜0.75% Niは、上記のCuを基地に完全に固溶させて、軟窒化
処理に際しCuの析出硬化作用を充分発揮させる効果を
有する。この作用は後述するCu(%)/Ni(%)の
比が1.8〜2.2の場合に顕著である。しかし、Ni
の含有量が0.25%未満では添加効果に乏しく、0.
75%を超えて含有させても前記の効果は飽和する。こ
のため、Niの含有量を0.25〜0.75%とした。
【0044】Cu(%)/Ni(%):1.8〜2.2 Cu(%)/Ni(%)の値が1.8〜2.2の場合
に、適正量のCuとNiの複合添加によりCuが基地に
完全に固溶して、軟窒化処理に際し析出硬化するCuの
作用の発現が顕著となる。したがって、Cu(%)/N
i(%)の値を1.8〜2.2とした。なお、Cu
(%)/Ni(%)の値は1.9〜2.1とすることが
好ましい。
【0045】Cr:0.5〜2% Crは、軟窒化時に鋼材表面から侵入してくるNと結合
して、表面硬度を高めるとともに硬化深さを大きくする
のに極めて有効な元素である。しかし、その含有量が
0.5%未満では上記の作用が期待できない。一方、C
rを2%を超えて含有させると、軟窒化によって表面硬
度が高くなりすぎるために、表面から芯部にかけての硬
度勾配が急激なものとなってしまい、却って耐スポーリ
ング性や耐ピッチング性が劣化してしまう。したがっ
て、Crの含有量を0.5〜2%とした。
【0046】V:0.05〜0.5% Vは、軟窒化処理時に鋼材表面から侵入してくるN及び
Cと結合して微細なバナジウム炭窒化物として析出する
ことにより、表面硬度を高め、更に、硬化深さを大きく
する作用を有する。V添加鋼においては上記のCr添加
の場合に比べて、表面硬度の上昇割合が小さいのに対し
て硬化深さの増大割合は極めて大きく、且つ前記炭窒化
物が析出して芯部硬度を高めるため、硬化深さの大き
い、表面から芯部への硬度勾配が緩やかな硬化曲線が得
られる。しかし、V含有量が0.05%未満では添加効
果に乏しく、一方、0.5%を超えて含有させても前記
の効果が飽和してコストが嵩むばかりか、却って脆化現
象の発現をきたすようになる。したがって、V含有量を
0.05〜0.5%とした。なお、V含有量は0.1〜
0.3%とすることが好ましい。
【0047】Ti:0.04〜1.0% Tiは、本発明において介在物を制御するための重要な
合金元素である。その含有量が0.04%未満ではSを
充分Ti炭硫化物に変えることができないので、被削性
を高めることができない。一方、1.0%を超えて含有
させても、被削性改善効果が飽和してコストが嵩むばか
りか、靭性及び熱間加工性が著しく劣化してしまう。し
たがって、Ti含有量を0.04〜1.0%とした。な
お、良好な被削性と靭性を安定して得るためには、Ti
の含有量を0.06〜0.8%とすることが好ましい。
【0048】Al:0.01〜0.3% Alは、鋼の脱酸の安定化及び均質化を図る作用があ
る。更に、侵入Nと結合して表面硬度を高める効果を有
する。しかし、その含有量が0.01%未満では上記の
作用が期待できない。一方、0.3%を超えると硬化深
さを小さくしてしまう。したがって、Alの含有量を
0.01〜0.3%とした。なお、Al含有量は0.0
1〜0.15とすることが好ましい。
【0049】N:0.008%以下 本発明においてはNの含有量を低く制御することが極め
て重要である。すなわち、NはTiとの親和力が大きい
ために容易にTiと結合してTiNを生成し、Tiを固
定してしまうので、Nを多量に含有する場合には前記し
たTiの炭硫化物の被削性向上効果が充分に発揮できな
いこととなる。更に、粗大なTiNは靭性及び被削性を
低下させてしまう。したがって、N含有量を0.008
%以下とした。なお、Ti炭硫化物の効果を高めるため
にN含有量の上限は0.006%とすることが好まし
い。
【0050】Mo:0〜0.3% Moは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の焼入れ性
を高めるとともに軟窒化時の芯部の軟化抵抗を高める作
用を有する。この効果を確実に得るには、Moは0.0
2%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その
含有量が0.3%を超えると前記効果が飽和し、コスト
が嵩むばかりである。したがって、Moの含有量を0〜
0.3%とした。
【0051】W:0〜0.5% Wは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の焼入れ性を
高めるとともに軟窒化時の芯部の軟化抵抗を高める作用
を有する。この効果を確実に得るには、Wは0.05%
以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有
量が0.5%を超えると前記効果が飽和し、コストが嵩
むばかりである。したがって、Wの含有量を0〜0.5
%とした。
【0052】Pb:0〜0.35% Pbは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の被削性を
一段と高める作用を有する。この効果を確実に得るに
は、Pbは0.03%以上の含有量とすることが好まし
い。しかし、Pbを0.35%を超えて含有させると熱
間加工性が劣化して熱間圧延や熱間鍛造などの熱間加工
時に割れの発生を招くことが多くなる。したがって、P
bの含有量を0〜0.35%とした。
【0053】Ca:0〜0.01% Caは添加しなくても良い。添加すれば、鋼の被削性を
一段と高める作用を有する。この効果を確実に得るに
は、Caは0.001%以上の含有量とすることが好ま
しい。一方、Caを0.01%を超えて含有させるには
特殊な溶製技術や設備を要してコストが嵩む。したがっ
て、Caの含有量を0〜0.01%とした。
【0054】(B)Ti炭硫化物のサイズと清浄度 上記の化学組成を有する鋼の被削性をTi炭硫化物によ
って高めるとともに大きな強度をも確保するためには、
Ti炭硫化物のサイズと清浄度を適正化しておくことが
重要である。
【0055】Ti炭硫化物の最大粒径が10μmを超え
ると疲労強度が低下してしまう。なお、Ti炭硫化物の
最大直径は7μm以下とすることが好ましい。このTi
炭硫化物の最大直径が小さすぎると被削性向上効果が小
さくなってしまうので、Ti炭硫化物の最大直径の下限
値は0.5μm程度とすることが好ましい。
【0056】最大直径が10μm以下のTi炭硫化物の
量が清浄度で0.05%未満の場合には、Ti炭硫化物
による被削性向上効果が発揮できない。前記の清浄度は
0.08%以上とすることが好ましい。上記のTi炭硫
化物の清浄度の値が大きすぎると疲労強度が低下する場
合があるので、上記のTi炭硫化物の清浄度の上限値は
2.0%程度とすることが好ましい。
【0057】Ti炭硫化物のサイズと清浄度を前記の値
とするためには、Tiの酸化物が過剰に生成することを
防ぐことが重要である。このための製鋼法としては、例
えば、Si及びAlで充分脱酸し、最後にTiを添加す
る方法がある。
【0058】なお、Ti炭硫化物は、鋼材から採取した
試験片を鏡面研磨し、その研磨面を被検面として倍率4
00倍以上で光学顕微鏡観察すれば、色と形状から容易
に他の介在物と識別できる。すなわち、前記の条件で光
学顕微鏡観察すれば、Ti炭硫化物の「色」は極めて薄
い灰色で、「形状」はJISのB系介在物に相当する粒
状(球状)として認められる。Ti炭硫化物の詳細判定
は前記の被検面をEDX(エネルギ−分散型X線分析装
置)などの分析機能を備えた顕微鏡で観察することによ
って行うこともできる。
【0059】前記のTi炭硫化物の清浄度は、既に述べ
たように、光学顕微鏡の倍率を400倍として、JIS G
0555に規定された「鋼の非金属介在物の顕微鏡試験方
法」によって60視野測定した値をいう。
【0060】(C)球状化焼鈍 球状化焼鈍は前記(A)に示した化学組成と、上記
(B)に示したTi炭硫化物のサイズと清浄度をもつ鋼
材を、熱間加工(例えば熱間圧延や熱間鍛造など)した
後に、その硬度を低下させて冷間加工性を高めるととも
に、それによって金型寿命を大幅に改善し、最終製品で
ある所要の軟窒化部品の製造コストを低く抑えるのに必
須の処理である。
【0061】球状化焼鈍後の硬度がHvで180を超え
ると、金型の寿命が大幅に低下してしまうため、最終製
品である所望の軟窒化部品の製造コストが著しく高くな
る。したがって、球状化焼鈍後の硬度はHv180以下
としなければならない。なお、球状化焼鈍の硬度の下限
値については、特に制限する必要はない。
【0062】この球状化焼鈍は、通常の方法で行えば良
い。
【0063】(D)冷間加工 球状化焼鈍して硬度をHv180以下に調整した上記
(C)の鋼材を、次に冷間加工して所望の軟窒化部品の
粗形状に仕上げ、更に切削加工して所望の軟窒化部品の
形状に仕上げる。勿論、精密冷間加工して切削加工せず
に所望の軟窒化部品の形状に仕上げても良いし、球状化
焼鈍後に冷間加工の前あるいは前後で切削加工を行って
所望の軟窒化部品の形状に仕上げても良い。
【0064】なお、(1)の発明にかかわる「軟窒化用
鋼材」とは、前記冷間加工と切削加工(あるいは精密冷
間加工)によって所望形状に成形されたもののことで、
軟窒化される前のものをいう。
【0065】上記の冷間加工は、例えば、冷間鍛造、冷
間転造や冷間引き抜きなど、通常の方法で行えば良い
が、加工した部品の硬度をHv250以上にする必要が
ある。なぜならば、硬度をHv180以下に調整された
上記(C)の鋼材は、冷間での加工を受けて硬度がHv
250以上に上昇すれば、これに軟窒化処理を施しても
芯部硬度は低下せず軟窒化前の硬度が維持でき、あるい
は軟窒化前の硬度を高めることさえできるからである。
【0066】軟窒化後の芯部硬度がHv250以上であ
れば、既に述べたように、例えば、自動車のミッション
ギアのように高い負荷が加わる部品においても、部品内
部を起点として曲げ疲労を生ずることはない。
【0067】上記(C)に示した球状化焼鈍して硬度を
Hv180以下に調整した鋼材を冷間加工して、硬度を
Hv250以上とするには、減面率で20%以上の加工
が加わるように寸法調整しておけば良い。
【0068】なお、冷間加工後の硬度の上限値は特に制
限する必要はない。すなわち、設備上加えることが可能
な最高の減面率で加工して、極めて大きな硬度となって
も良い。
【0069】これまでに述べた製造方法によって、
(1)の発明に係る「軟窒化用鋼材」が得られる。この
鋼材は、次に述べる軟窒化処理を施されて、(2)の発
明に係る軟窒化部品となる。
【0070】(E)軟窒化 上記(D)の冷間加工を行って、あるいは、冷間加工と
その前又は/及びその後で切削加工を行って所要形状に
成形した部品(軟窒化用鋼材)には、この後更に、軟窒
化処理が施される。この軟窒化の方法は何ら制限しなく
ても良く、通常の方法で行えば良い。軟窒化処理を施
し、表面硬度をHv600以上、有効硬化深さを0.1
mm以上とすれば、軟窒化部品の耐疲労特性、耐摩耗
性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性を著しく高め
ることができるのである。
【0071】上記(D)に示した冷間加工、あるいは、
冷間加工とその前又は/及びその後で切削加工を施され
た部品(軟窒化用鋼材)を軟窒化して表面硬度をHv6
00以上、有効硬化深さを0.1mm以上とするには、
例えば、当該部品を570℃程度の温度の、RXガスに
アンモニアを添加したガス中に3〜9時間保持し、その
後油中に冷却すれば良い。
【0072】なお、軟窒化後の表面硬度及び有効硬化深
さの上限値は特に制限しなくても良い。しかし、軟窒化
後の表面硬度については、Hv900程度を上限とする
ことが好ましい。
【0073】(2)の発明に係る軟窒化部品は、素材鋼
である前記(A)の化学組成と(B)に示すTi炭硫化
物のサイズと清浄度をもつ鋼を、例えば、通常の方法に
よって溶製した後、熱間で圧延又は鍛造し、必要に応じ
て焼準を施し、(C)に示した球状化焼鈍を行い、次い
で(D)に示した冷間加工によって、あるいは、(D)
に示した冷間加工とその前又は/及びその後の切削加工
によって、所望の部品形状に成形してから、軟窒化処理
し、この後更に必要に応じて研削や研磨を施して製造さ
れる。
【0074】ここで、本発明が対象とする化学組成を有
する素材鋼においては、熱間加工後に焼準して、少なく
とも表層から0.5mmを超える深さまでの領域の組織
をベイナイトを含む組織(ベイナイト単相組織、あるい
はベイナイト、並びに、フェライト、パーライト及びマ
ルテンサイトの1種以上の混合組織)とすれば、球状化
焼鈍後の炭化物(主としてセメンタイト)の球状化率が
向上する。したがって、球状化焼鈍で冷間加工前の硬度
を大きく低下させることができる。冷間加工前の鋼の硬
度を下げることは、冷間加工性の向上につながり、金型
寿命が延びて金型コストの削減が図れる。更に、球状化
焼鈍時間を短縮することができて、生産性の向上と製造
コストの低減が図れる。このため、(1)の発明の軟窒
化用鋼材の製造方法においては、熱間加工後に焼準して
から球状化焼鈍することが好ましい。
【0075】
【実施例】表1、表2に示す化学組成を有する鋼を通常
の方法によって180kg真空溶製した。なお、鋼18
を除いて、Ti酸化物の生成を防ぐために、Si及びA
lで充分脱酸し種々の元素を添加した最後にTiを添加
して、Ti炭硫化物のサイズと清浄度を調整するように
した。鋼18についてはSi及びAlで脱酸する際に同
時にTiを添加した。
【0076】表1における鋼1〜9は化学組成が本発明
で規定する範囲内にある本発明例の鋼、表2における鋼
10〜20は成分のいずれかが本発明で規定する含有量
の範囲から外れた比較例の鋼である。比較例の鋼のうち
鋼19及び20はそれぞれJIS規格のSCM435及
びSACM645に相当する鋼にTiを添加したもので
ある。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】次いで、これらの鋼を通常の方法によって
鋼片にした後、1250℃に加熱してから、1250〜
950℃の温度で熱間鍛造して、直径30mm及び38
mmの丸棒とした。この後、C含有量に応じて870〜
925℃で焼準し、次いで図1に示すヒートパターンで
球状化焼鈍した。
【0080】なお、鋼3及び9については、比較のため
に、熱間鍛造のままで、すなわち熱間鍛造後に焼準を行
わないで球状化焼鈍したものも準備した。
【0081】(実施例1)上記のようにして得られた直
径が30mmの丸棒を用いて、下記の各種調査を行っ
た。
【0082】すなわち、熱間鍛造のままの丸棒から、JI
S G 0555の図1に則って試験片を採取し、鏡面研磨した
幅が15mmで高さが20mmの被検面を、倍率が40
0倍の光学顕微鏡で60視野観察して、Ti炭硫化物を
他の介在物と区分しながらその清浄度を測定した。Ti
炭硫化物の最大直径も、倍率が400倍の光学顕微鏡で
60視野観察して調査した。
【0083】焼準のままの丸棒からは、直径が30mm
で厚さが20mmの試験片を切り出し、ナイタルで腐食
して倍率400倍の光学顕微鏡による組織観察を行っ
た。
【0084】球状化焼鈍後の各丸棒からは、直径が30
mmで厚さが20mmの硬度試験片と直径が10mmで
長さが15mmの冷間加工用試験片を作製した。
【0085】上記の硬度試験片を用いて、マイクロビッ
カース硬度計により中央部のHv硬度測定を行った。
【0086】又、上記の冷間加工用試験片を用いて、5
00t高速プレス機による通常の方法で冷間(室温)拘
束型据え込み試験を行い、限界据え込み率を測定した。
なお、各条件ごとに3回の据え込み試験を行い、3個の
試験片のすべてに割れが発生しない最大加工率(減面
率)を限界据え込み率として評価した。
【0087】一方、前記のようにして得られた球状化焼
鈍後の直径30mmの各丸棒を、直径25mmにピーリ
ング加工し、この後、通常の方法によって冷間(室温)
で直径20.9mm(減面率30.1%)までドロ−ベ
ンチを用いて引き抜き加工した。次いで、RXガスにア
ンモニアガスを1:1の割合で添加した温度が570℃
のガス中で6時間保持して軟窒化処理を施し、その後油
中へ冷却した。
【0088】引き抜きままの丸棒からは、直径が20.
9mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイク
ロビッカ−ス硬度計を用いて中央部の硬度測定を行っ
た。又、軟窒化処理した丸棒からも、直径が20.9m
mで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビ
ッカ−ス硬度計により表面硬度(表面から0.025m
mの位置におけるHv硬度)、有効硬化深さ(表面から
Hv500の位置までの距離)及び中央部硬度の測定を
行った。
【0089】被削性評価のため、ドリル穿孔試験も実施
した。すなわち、既に述べた球状化焼鈍後の直径30m
mの丸棒及び引き抜き加工後の直径20.9mmの丸棒
を25mmの長さに輪切りにしたものを用いて、R/2
部(Rは丸棒の半径)についてその長さ方向に貫通孔を
あけ、刃先摩損により穿孔不能となったときの貫通孔の
個数を数え、被削性の評価を行った。穿孔条件は、JI
S高速度工具鋼SKH51のφ5mmストレ−トシャン
クドリルを使用し、水溶性の潤滑剤を用いて、送り0.
15mm/rev、回転数980rpmで行った。
【0090】表3に各種の試験結果をまとめて示す。
【0091】
【表3】
【0092】表3から、化学組成及び最大直径が10μ
m以下のTi炭硫化物の清浄度が本発明で規定する範囲
内にある本発明例の鋼1〜9を素材とするものは、球状
化焼鈍後の硬度はいずれもHvで180を下回るもの
で、限界据え込み率は80%を超えているし、被削性も
良好である。そして、減面率30.1%の冷間加工(引
き抜き加工)によって、容易にHv250を超える硬度
が得られているし、冷間引き抜き後の被削性も良好であ
る。更に、軟窒化後にはHv600を超える表面硬度
と、0.1mmを超える有効硬化深さが得られており、
しかも軟窒化のための570℃での6時間の熱処理を受
けても、中央部硬度(芯部硬度)は軟窒化前のレベルに
維持されているか、あるいは軟窒化前の硬度より高くな
っている。
【0093】これに対して比較例の鋼を素材とする場合
には、(イ)球状化焼鈍後の硬度がHv180を超え
る、(ロ)冷間加工後の硬度が低いために軟窒化後の芯
部硬度も低い、(ハ)冷間加工後の硬度はHv250を
超えるものの軟窒化後の芯部硬度はHv250を下回
る、(ニ)軟窒化後の表面硬度がHv600を下回る、
(ホ)軟窒化後の有効硬化深さが0.1mmを下回る、
(ヘ)ドリル穿孔試験における貫通孔個数が100を大
きく下回り被削性に劣る、のいずれか1つ以上に該当す
る。このため、冷間鍛造時の金型寿命が短くて金型コス
トが嵩むし、所望の軟窒化部品の形状に成形するための
切削加工のコストも嵩むので、所望の軟窒化部品の製造
コストは極めて高いものとなってしまう。あるいは、製
造コストは低くても軟窒化部品の耐疲労特性、耐摩耗
性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性は劣ったもの
となってしまう。
【0094】(実施例2)前記のようにして得られた直
径が38mmの丸棒を用いて、下記の各種調査を行っ
た。
【0095】すなわち、実施例1の場合と同様に、熱間
鍛造のままの丸棒から、JIS G 0555の図1に則って試験
片を採取し、鏡面研磨した幅が15mmで高さが20m
mの被検面を、倍率が400倍の光学顕微鏡で60視野
観察して、Ti炭硫化物を他の介在物と区分しながらそ
の清浄度を測定した。Ti炭硫化物の最大直径も、倍率
が400倍の光学顕微鏡で60視野観察して調査した。
【0096】球状化焼鈍後の各丸棒からは、直径が38
mmで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、これを用
いて、マイクロビッカース硬度計により中央部のHv硬
度測定を行った。
【0097】更に、球状化焼鈍後の直径38mmの各丸
棒を、直径36mmにピーリング加工し、この後、通常
の方法によって冷間(室温)で直径30mm(減面率3
0.6%)までドロ−ベンチを用いて引き抜き加工し
た。この後、図2に示す転動疲労試験片(小ロ−ラー)
と環状半円溝付きの小野式回転曲げ疲労試験片(JIS Z2
274のD=10mm、d=8mm、ρ=t=1mm、D0
=12mmの試験片)を作製した。
【0098】次いで、前記の各試験片を、RXガスにア
ンモニアガスを1:1の割合で添加した温度が570℃
のガス中で6時間保持して軟窒化処理を施し、その後油
中へ冷却した。なお、直径30mm×長さ100mmの
冷間引き抜きままのものに対しても、同時に上記の処理
を施した。
【0099】引き抜きままの丸棒からは、直径が30m
mで厚さが20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビ
ッカース硬度計を用いて中央部の硬度測定を行った。
又、軟窒化処理した丸棒からも、直径が30mmで厚さ
が20mmの硬度試験片を作製し、マイクロビッカース
硬度計により表面硬度(表面から0.025mmの位置
におけるHv硬度)、有効硬化深さ(表面からHv50
0の位置までの距離)及び中央部硬度の測定を行った。
【0100】一方、軟窒化処理した小野式回転曲げ疲労
試験片と転動疲労試験片を用いて、疲労特性を調査し
た。
【0101】すなわち、常温(室温)、大気中、回転数
3000rpmの条件で小野式回転曲げ疲労試験を行
い、曲げ疲労強度(疲労限)を求めた。
【0102】又、回転数1000rpm、潤滑油の温度
80℃、すべり率40%の条件でロ−ラーピッチング試
験機を用いて、面疲労強度を求めた。なお、相手材とな
る大ローラーには、JISのSUJ2を用いて硬度をロ
ックウェルC硬度(HRC)で61に調整し、外径13
0mm、内径45mm、厚さ18mmに加工したものを
使用した。そして、前記の試験条件で107 回の回転が
可能な面圧を「面疲労強度」として評価した。
【0103】表4に各種の試験結果をまとめて示す。
【0104】
【表4】
【0105】表4から、化学組成及び最大直径が10μ
m以下のTi炭硫化物の清浄度が本発明で規定する範囲
内にある本発明例の鋼1〜9を素材とするものは、前記
の実施例1におけると同様に、球状化焼鈍後の硬度はい
ずれもHvで180を下回っている。そして、減面率で
30.6%の冷間加工(引き抜き加工)によって、容易
にHv250を超える硬度が得られている。更に、軟窒
化後にはHv600を超える表面硬度と、0.1mmを
超える有効硬化深さが得られており、しかも軟窒化のた
めの570℃での6時間の熱処理を受けても、中央部硬
度(芯部硬度)は軟窒化前のレベルに維持されている
か、あるいは軟窒化前の硬度より高くなっている。
【0106】更に、曲げ疲労強度は55kgf/mm2
以上の値を有し、面疲労強度も245kgf/mm2
超える値が得られている。
【0107】これに対して比較例の鋼を素材とする場合
には、(イ)球状化焼鈍後の硬度がHv180を超え
る、(ロ)冷間加工後の硬度が低いために軟窒化後の芯
部硬度も低い、(ハ)冷間加工後の硬度はHv250を
超えるものの軟窒化後の芯部硬度はHv250を下回
る、(ニ)軟窒化後の表面硬度がHv600を下回る、
(ホ)軟窒化後の有効硬化深さが0.1mmを下回る、
のいずれか1つ以上に該当する。更に、曲げ疲労強度も
高々46kgf/mm2 で、本発明例の鋼材を素材とす
る場合と比較して明らかに劣っている。
【0108】
【発明の効果】本発明の軟窒化部品は、耐疲労特性、耐
摩耗性、耐ピッチング性及び耐スポーリング性に優れる
ことから、自動車用や産業機械用の歯車など大きな疲労
強度や耐摩耗性が要求される部品として利用することが
できる。なお、Hv250以上の高い芯部硬度が安定し
て確保できるので、特に大きな曲げ疲労強度が要求され
る部品にも用いることができる。この軟窒化部品の素材
となる被削性に優れた軟窒化用鋼材は、本発明の方法に
よって比較的容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例における球状化焼鈍のヒートパターンを
示す図である。
【図2】実施例で用いた転動疲労試験片の形状を示す図
である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.6 識別記号 FI C23C 8/32 C23C 8/32

Claims (2)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%で、C:0.15〜0.45%、S
    i:0.05〜0.5%、Mn:0.2〜2.5%、
    S:0.002〜0.2%、Cu:0.5〜1.5%、
    Ni:0.25〜0.75%で、且つ1.8≦Cu
    (%)/Ni(%)≦2.2、Cr:0.5〜2%、
    V:0.05〜0.5%、Ti:0.04〜1.0%、
    Al:0.01〜0.3%、N:0.008%以下、M
    o:0〜0.3%、W:0〜0.5%、Pb:0〜0.
    35%、Ca:0〜0.01%、残部はFe及び不可避
    不純物からなる化学組成で、鋼中のTi炭硫化物の最大
    直径が10μm以下で、且つ、その量が清浄度で0.0
    5%以上である鋼を、熱間加工後に球状化焼鈍して硬度
    をHv180以下とし、次いで冷間加工して硬度をHv
    250以上にすることを特徴とする被削性に優れた軟窒
    化用鋼材の製造方法。
  2. 【請求項2】素材が請求項1に記載の方法で製造された
    軟窒化用鋼材であり、軟窒化後の表面硬度がHv600
    以上、且つ、有効硬化深さが0.1mm以上であること
    を特徴とする軟窒化部品。
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