JPH09308681A - 骨伝導性を有する金属材料およびその製造法 - Google Patents

骨伝導性を有する金属材料およびその製造法

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JPH09308681A
JPH09308681A JP8151645A JP15164596A JPH09308681A JP H09308681 A JPH09308681 A JP H09308681A JP 8151645 A JP8151645 A JP 8151645A JP 15164596 A JP15164596 A JP 15164596A JP H09308681 A JPH09308681 A JP H09308681A
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metal material
oxide
osteoconductivity
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Megumi Ameyama
恵 飴山
Kenzo Asaoka
憲三 浅岡
Takao Hanawa
隆夫 塙
Koichi Murakami
晃一 村上
Hidemi Ukai
英實 鵜飼
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IHI Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 ハイドロキシアパタイト(HAP)の析出速
度を向上できる骨伝導性を有する金属材料およびその製
造法を提供すること。 【解決手段】 生体用の基材金属2の表面に表面処理層
3として、カルシウムの全てを酸化物あるいは水酸化物
として存在させるとともに、基材金属元素の酸化物を存
在させ、かつこれらの少なくとも一部がアモルファス構
造または結晶粒径が100nm以下の結晶構造(ここで
は、ナノ結晶構造と称する。)とするようにする。これ
により、金属状態のカルシウムによる生体への不適合性
を無くし、しかも通常の結晶構造を持たないようにして
骨伝導性に優れた金属材料を得る。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は人工歯根、人工関
節などの生体内に埋入される生体用の金属材料およびそ
の製造法に関し、骨伝導性などの向上を企図したもので
ある。
【0002】
【従来の技術】人工歯根、人工関節などの生体内に埋入
される生体用の金属材料に要求される特性の一つに、生
体、特に骨細胞と界面を有する金属材料の骨伝導性の向
上があり、材料の表面に生体由来のハイドロキシアパタ
イト(HAP)という物質を生成することが必要とさ
れ、ハイドロキシアパタイト(HAP)の析出速度を効
率良く上昇させることが求められている。
【0003】このためアルカリやアルカリ土類金属イオ
ンを含有する溶液に浸漬した後、熱処理する方法やカル
シウムをイオン注入する方法などによって表面にカルシ
ウムを存在させることが提案されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】このようなハイドロキ
シアパタイト(HAP)の析出速度の効率向上について
研究を進めたところ、基材金属材料の表面に存在するカ
ルシウムの状態やその結晶構造などによって骨伝導性に
大きな影響を及ぼすことが分かった。
【0005】この発明は、上記研究結果に基づきハイド
ロキシアパタイト(HAP)の析出速度を向上すること
ができる骨伝導性を有する金属材料およびその製造法を
提供しようとするものである。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
この発明の請求項1記載の骨伝導性を有する金属材料
は、生体用の基材金属材料の表面に、カルシウムを酸化
物あるいは水酸化物として存在させるとともに、前記基
材金属元素の酸化物を存在させ、これらの少なくとも一
部がアモルファス構造または結晶粒径が100nm以下の
結晶構造の表面処理層を備えてなることを特徴とするも
のである。
【0007】この発明によれば、生体用の基材金属表面
に表面処理層として、カルシウムの全てを酸化物あるい
は水酸化物として存在させるとともに、基材金属元素の
酸化物を存在させ、かつこれらの少なくとも一部がアモ
ルファス構造または結晶粒径が100nm以下の結晶構造
(ここでは、ナノ結晶構造と称する。)とするようにし
ており、金属状態のカルシウムによる生体への不適合性
を無くし、しかも通常の結晶構造を持たないようにして
骨伝導性に優れた金属材料を得ることができるようにし
ている。
【0008】また、この発明の請求項2記載の骨伝導性
を有する金属材料の製造法は、生体用の基材金属材料の
表面にイオン注入法でカルシウムを注入した後、酸素を
含むガス中で600℃以下の温度で暴露して表面処理層
の金属元素の一部または全部を酸化させカルシウムを酸
化物あるいは水酸化物として存在させるとともに、前記
基材金属元素の酸化物を存在させ、これらの少なくとも
一部がアモルファス構造または結晶粒径が100nm以下
の結晶構造の表面処理層となるようにしたことを特徴と
するものである。
【0009】この発明によれば、生体用の基材金属材料
の表面にイオン注入法でカルシウムを注入した後、酸素
を含むガス中で600℃以下の温度で暴露して表面処理
層の金属元素の一部または全部を酸化させるようにして
おり、生体用の基材金属材料の表面の表面処理層を、酸
化物あるいは水酸化物状態のカルシウムと基材金属元素
の酸化物とで構成し、これらの少なくとも一部がアモル
ファス構造または結晶粒径が100nm以下の結晶構造に
でき、生体への適合性が高く、しかも骨伝導性の優れた
金属材料を造ることができるようになる。
【0010】さらに、この発明の請求項3記載の骨伝導
性を有する金属材料の製造法は、請求項2記載の構成の
前記イオン注入法に替え、イオンミキシング法でカルシ
ウム原子を照射するようにしたことを特徴とするもので
ある。
【0011】この発明によれば、イオン注入法に替えて
イオンミキシング法でカルシウム原子を照射したのち、
酸化処理を行うようにしており、この場合にも同様に生
体への適合性を高め、しかも骨伝導性に優れた金属材料
を造ることができるようになる。
【0012】また、この発明の請求項4記載の骨伝導性
を有する金属材料の製造法は、請求項3の構成に加え、
前記イオンミキシング法で酸素イオンを用いてカルシウ
ム原子を照射するようにしたことを特徴とするものであ
る。
【0013】この発明によれば、イオンミキシング法で
カルシウム原子を照射する場合に酸素イオンを用い、こ
ののち酸化処理を行うようにしており、表面処理層の酸
化物の生成を一層促すようにし、同様に生体への適合性
を高め、しかも骨伝導性に優れた金属材料を造ることが
できるようになる。
【0014】さらに、この発明の請求項5記載の骨伝導
性を有する金属材料の製造法は、生体用の基材金属材料
の表面にイオンミキシング法で酸素イオンを用いてカル
シウム原子を照射しカルシウムを酸化物あるいは水酸化
物として存在させるとともに、前記基材金属元素の酸化
物を存在させ、これらの少なくとも一部がアモルファス
構造または結晶粒径が100nm以下の結晶構造の表面処
理層となるようにしたことを特徴とするものである。
【0015】この発明によれば、基材金属材料の表面処
理層をイオンミキシング法により酸素イオンを用いてカ
ルシウム原子を照射するだけで得るようにしており、酸
化物生成の後処理を必要とせず、一層簡単に生体への適
合性を高め、しかも骨伝導性に優れた金属材料を造るこ
とができるようになる。
【0016】ここで、生体用の基材金属材料とは、チタ
ンやチタン合金、あるいはコバルト−クロム−モリブデ
ン合金などの金属材料、アルミナなどのセラミックス材
料などが用いられ、チタンは工業用純チタンを意味し、
チタン合金の合金元素としてはCa 、P、O、Fe 、A
l 、V、Sn 、Pd などをあげることができる。
【0017】また、骨伝導性とは、生体親和性、骨形成
能、細胞誘導性などをいうが、通常、骨伝導性に優れた
材料では、細胞外液組成に近いHank's 溶液浸漬中にハ
イドロキシアパタイト(HAP)が材料表面に迅速に析
出することが知られていることから、ハイドロキシアパ
タイト(HAP)の析出速度で評価した。
【0018】さらに、表面処理層は、カルシウムは全て
が酸化物あるいは水酸化物の状態で存在し、基材金属元
素は一部または全部が酸化物の状態で存在するものであ
り、しかもこれらの一部または全部がアモルファス構造
またはナノ結晶構造となっている層をいい、表面処理層
の状態は透過型電子顕微鏡組織やX線光電子分光分析な
どにより、結晶質、アモルファス構造、結晶粒径が10
0nm以下の結晶構造(ナノ結晶構造)であるか否かや酸
化物状態か否かを判定することができる。
【0019】
【発明の実施の形態】以下、この発明の骨伝導性を有す
る金属材料及びその製造法について、具体的に説明す
る。
【0020】この骨伝導性を有する金属材料1は、図1
にその断面構造を示すように、従来から生体用金属とし
て使用されている純チタン(工業用の純チタン)や生体
用のチタン合金などの基材金属材料2の表面に表面処理
層3としてカルシウムを酸化物あるいは水酸化物の状態
として存在させるとともに、基材金属元素を主体とする
酸化物を存在させ、かつこれらがアモルファス構造また
は結晶粒径が100nm以下の結晶構造状態(以下、ナノ
結晶構造と称する。)で存在するものである。
【0021】すなわち、表面処理層3では、カルシウム
は全てが酸化物あるいは水酸化物であり、表面処理層3
の基材金属元素は少なくとも一部が酸化物となってお
り、かつこれらのカルシウム酸化物あるいはカルシウム
水酸化物および基材金属元素主体の酸化物がアモルファ
ス構造で結晶構造を持たない状態であるか、あるいは結
晶構造を持つ場合でも結晶粒径が100nm以下の微少な
結晶構造となっている。
【0022】このような表面処理層3を備えた骨伝導性
を有する金属材料1では、生体由来のハイドロキシアパ
タイト(HAP)の析出速度を効率良く上昇することが
でき、生体適合性にも優れることが分かった。
【0023】このような骨伝導性を有する金属材料1の
具体的な製造法としては、図2に示す幾つかの方法が用
いられる。
【0024】まず、基材金属材料2の表面にカルシウム
を存在させる必要があることから、基材金属2の表面に
カルシウムをイオン注入法やイオンミキシング法で注入
し、例えば表面から30nm程度のカルシウム含有の表面
層を生成する。
【0025】この場合、イオン注入法では、カルシウム
イオンにエネルギを与えて照射することでカルシウム含
有の表面層を作成し、イオンミキシング法では、カルシ
ウム原子を他のイオン、例えば不活性ガスのイオンなど
の照射により基材金属元素と混合することでカルシウム
含有の表面層を作成する。
【0026】こうして基材金属材料1の表面にカルシウ
ム含有の表面層を作成後、酸素を含むガス中で、600
℃以下の温度で暴露してカルシウムおよび基材金属元素
を酸化する酸化処理を行う。また、室温近傍(100℃
以下)の大気に暴露した場合、カルシウムは主に空気中
の水分と水和反応をおこし、カルシウム水酸化物とな
る。
【0027】これらの処理では、カルシウムの全てを酸
化あるいは水和させてカルシウム酸化物あるいは水酸化
物の状態にするとともに、基材金属元素の一部あるいは
全部を酸化させる。
【0028】なお、イオンミキシング法で用いる他のイ
オンとして酸素イオンを用いる場合には、酸素イオンの
照射によりカルシウムが成膜されると同時に酸化が起こ
り、基材金属材料の酸化も起こることから、この酸化処
理を省略するようにしても良いが、少なくとも全てのカ
ルシウムが酸化物として存在するようにしなければなら
ない。
【0029】こうして得た基材金属材料2の表面には、
全てのカルシウムが酸化物あるいは水酸化物として存在
し、基材金属元素の一部ないし全部が酸化物として存在
し、しかもこれらがアモルファス構造あるいはナノ結晶
構造の表面処理層3が形成される。
【0030】このような製造法によって造られるいずれ
の骨伝導性を有する金属材料も生体由来のハイドロキシ
アパタイト(HAP)の析出速度を効率良く上昇するこ
とができ、生体適合性にも優れることが分かった。
【0031】次に、表面処理層3として必要な表面構造
であるアモルファス構造あるいはナノ結晶構造につい
て、結晶質の場合と比較して行った実験について詳細に
説明する。生体用の基材金属材料として純チタンを用
い、20KeV にてカルシウムイオンを注入(イオン注入
法)した後、酸化処理として大気中に暴露して試料を得
て、これをCa-Ti20 とした。
【0032】また、生体用の基材金属材料として純チタ
ンを用い、その表面にカルシウム薄膜を500nm 成膜後、
20KeV にてアルゴンイオンを注入(イオンミキシング
法)した後、酸化処理として大気中に暴露して試料を得
て、これをIM-Ti20 とした。
【0033】さらに、比較のため、上記イオン注入法で
得た試料Ca-Ti20 をさらに酸化処理として700℃のア
ルゴンガス中で熱処理した試料を得て、これをCa-Ti20H
T とした。
【0034】こうして得た3つの試料Ca-Ti20 、IM-Ti2
0 、Ca-Ti20HT の表面近傍の構造を調べるため、高分解
能透過型電子顕微鏡を用いて組織を観察し、その結果を
図3に示した。
【0035】これらの高分解能透過型電子顕微鏡組織か
ら明らかなように、試料Ca-Ti20 およびIM-Ti20 の2つ
では、表面から30nm程度まで明確な結晶構造を持たな
いアモルファス構造あるいは結晶粒径が10nm程度のナ
ノ結晶構造を有していることが分かる。
【0036】一方、試料Ca-Ti20HT では、表面の僅か数
nmのみアモルファス構造であるが、他は全て結晶質とな
っていることが分かる。
【0037】次に、これら3つの試料Ca-Ti20 、IM-Ti2
0 、Ca-Ti20HT の表面近傍の深さ方向の元素分布を調べ
るためオージェ電子分光分析器で分析し、その結果を図
4に示した。
【0038】3つの試料Ca-Ti20 、IM-Ti20 、Ca-Ti20H
T のいずれも表面より30nm程度の深さまでカルシウム
が存在しており、2つの試料Ca-Ti20 、IM-Ti20 では、
カルシウムの存在する領域とアモルファス構造あるいは
10nm程度のナノ結晶構造を有する領域が一致してい
る。
【0039】さらに、3つの試料Ca-Ti20 、IM-Ti20 、
Ca-Ti20HT についてX線光電子分光分析を行い、Caの
p2p電子の結合エネルギスペクトルを示したものが図
5である。
【0040】3つの試料Ca-Ti20 、IM-Ti20 、Ca-Ti20H
T のいずれにおいてもカルシウムは酸化物状態にあるこ
とが分かる。
【0041】このような表面処理層の構造が、アモルフ
ァス構造の試料Ca-Ti20 、ナノ結晶構造の試料IM-Ti20
、結晶質の試料Ca-Ti20HT の3つの試料の骨伝導性に
ついて調べるため、有機物を含まないHank's 溶液に3
0日間浸漬し、その表面生成物の解析を行った。なお、
浸漬試験では、Hank's 溶液の温度を37℃、pHは7.
2 〜7.6 に保った。
【0042】ここで用いたHank's 溶液は、その組成
(mol/l)が表1に示すような電解質水溶液であ
り、細胞外液組成に近いものであり、このようなHank'
s 溶液への浸漬試験を行うと、骨伝導性に優れた材料で
は、ハイドロキシアパタイト(HAP)が試料表面に迅
速に析出することが知られている。
【0043】
【表1】
【0044】また、浸漬試験では、比較のため無処理の
純チタン板もHank's 溶液に浸漬した。
【0045】このようなHank's 溶液への浸漬試験の結
果、試料の表面に生成したハイドロキシアパタイト(H
AP)に由来するリンの量をX線光電子分光分析を行
い、その結果を表2に示したが、リンの量が多いほど析
出ハイドロキシアパタイト(HAP)が多い。
【0046】
【表2】
【0047】これら4つの試料のうち、2つの試料Ca-T
i20 および試料IM-Ti20 に比べて残りの2つの試料Ca-T
i20HT および純チタンの表面のリンの量は少ないことが
分かる。
【0048】すなわち、これらの2群の試料間の違い
は、主に表面構造にあり、一群のリンの析出の多い2つ
の試料Ca-Ti20 および試料IM-Ti20 は前者がアモルファ
ス構造であり、後者がナノ結晶構造であるのに対し、他
の一群のリンの析出の少ない試料Ca-Ti20HT および純チ
タンはいずれも結晶質である。
【0049】したがって、基材金属材料2の表面の表面
処理層3がアモルファス構造またはナノ結晶構造を有す
る材料の方が結晶構造を有する材料に比べて骨伝導性が
高いことが分かった。
【0050】次に、表面処理層3として必要な全てのカ
ルシウムが酸化物として存在することについて、金属状
態の場合と比較して行った実験について詳細に説明す
る。生体用の基材金属材料として純チタンを用い、20
0KeV にてカルシウムイオンを注入(イオン注入法)し
た後、酸化処理として室温で大気中に1時間暴露して試
料を作り、これを薄膜X線回折を行い、その回折チャー
トを図6示した。
【0051】この薄膜X線回折チャートから明らかなよ
うに、この試料では、基材金属材料のチタンと、注入カ
ルシウムの酸化物のピークのほかに金属カルシウムの明
確なピークが認められる。
【0052】一方、生体用の基材金属材料として純チタ
ンを用い、50KeV にてカルシウムイオンを注入(イオ
ン注入法)した後、酸化処理として室温で大気中に1時
間暴露して試料を作り、これを薄膜X線回折を行った結
果、その回折チャートからは基材金属材料のチタンと、
注入カルシウムの酸化物のピークは観察されたが、金属
カルシウムの明確なピークが観察されなかった。
【0053】このような基材金属材料2の表面の表面処
理層3に金属カルシウムが存在する試料と、金属カルシ
ウムが存在しない試料を用意し、前述と同様に、Hank'
s 溶液への30日間の浸漬試験を行い、試料の表面生成
物のX線光電子分光分析による解析を行った。
【0054】その結果、いずれの試料においてもハイド
ロキシアパタイト(HAP)析出に由来するリンの量は
純チタンに比べて多いが、金属カルシウムが存在する試
料(200KeV注入材)では、浸漬試験開始直後に表面より
発泡し表面の凹凸が非常に激しく荒れた状態となった。
【0055】これは金属状態のカルシウムが水溶液中の
水と激しく反応したためであり、生体材料としてふさわ
しくない現象と考えられる。
【0056】そこで、この金属カルシウムが存在する試
料(200KeV注入材)を室温から700℃までの種々の温
度にて、純アルゴン、10%酸素−アルゴン、大気のそ
れぞれの雰囲気中に1時間暴露する処理をしたのち薄膜
X線回折による化合物の同定を行い、その結果を表3に
示す。
【0057】
【表3】
【0058】同表から明らかなように、室温に暴露した
試料および純アルゴン中に暴露した試料では、金属カル
シウムに由来するピークが依然として明瞭に認められる
が、他の試料では、温度が600℃や700℃で、しか
も酸素が存在する10%酸素−アルゴン雰囲気や大気中
に暴露した試料では、金属カルシウムに由来するピーク
は認められなかった。
【0059】次に、こうして表面処理の温度および雰囲
気を変えて得た9つの異なる試料について、前述と同様
に、Hank's 溶液への30日間の浸漬試験を行い、試料
の表面生成物のX線光電子分光分析による解析および走
査型電子顕微鏡による観察を行い、その結果を表4に示
す。
【0060】
【表4】
【0061】同表から明らかなように、室温に暴露した
試料および純アルゴン中に暴露した5つの試料では、金
属カルシウムに由来するピークが明瞭に認められた結
果、浸漬試験開始直後に表面より発泡し表面の凹凸が非
常に激しく荒れた状態となり、生体材料としてふさわし
くないと考えられる。
【0062】これに対し、他の4つの試料である温度が
600℃や700℃で、しかも酸素が存在する10%酸
素−アルゴン雰囲気や大気中に暴露した試料では、金属
カルシウムに由来するピークは認められないことから表
面状態は平滑になるが、処理温度が700℃の2つの試
料では、ハイドロキシアパタイト(HAP)析出に由来
するリンの量は純チタンと同程度であり、骨伝導性の向
上を認めることができない。
【0063】しかしながら、処理温度が600℃の2つ
の試料では、ハイドロキシアパタイト(HAP)析出に
由来するリンの量は純チタンに比べて多く、骨伝導性の
向上を明確に認めることができることが分かる。
【0064】以上の結果から、イオン注入法やイオンミ
キシング法によるカルシウムイオン注入の処理後の酸化
処理としては、注入エネルギが200KeV未満では、酸素を
含有するガス中に600℃以下の温度にて暴露し、表面
処理層3のカルシウムを全て酸化物状態にするととも
に、基材金属元素の一部または全部を酸化させることが
有効であることが分かった。
【0065】次に、この骨伝導性を有する金属材料の製
造法の一つであるカルシウムの注入をイオンミキシング
法により酸素イオンを用いて行った実験について詳細に
説明する。
【0066】まず、生体用の基材金属材料として純チタ
ンを用い、その表面にカルシウム薄膜を約500nm厚さ
に蒸着して成膜した後、25KeV の注入エネルギで酸素
イオンを注入して試料を得た。
【0067】この試料を高分解能透過型電子顕微鏡を用
いて観察したところ、表面層はいずれもアモルファスを
主体とする構造であり、さらに、X線光電子分光分析を
行い、Caのp2p電子の結合エネルギスペクトルを示
したものが図7であり、カルシウムは酸化物の状態にあ
ることが分かる。
【0068】この試料の骨伝導性を調べるため、上記と
同様に、Hank's 溶液への30日間の浸漬試験を行い、
試料の表面生成物のX線光電子分光分析による解析を行
い、その結果を表5に示す。
【0069】
【表5】
【0070】同表から明らかなように、この試料でもハ
イドロキシアパタイト(HAP)析出に由来するリンの
量は純チタンに比べて多く、骨伝導性の向上を明確に認
めることができることが分かる。
【0071】したがって、イオンミキシング法で酸素イ
オンを用いてカルシウムを注入して得られる金属材料
は、カルシウム注入後の酸化処理を行うこと無く、基材
金属材料の表面層の全てのカルシウムを酸化物の状態と
して存在させ、基材金属元素主体の酸化物を存在させ、
しかもその構造をアモルファス構造とすることができ、
骨伝導性に優れた金属材料を得ることができる。
【0072】また、イオンミキシング法で酸素イオンを
用いてカルシウムを注入する場合でも、注入後にイオン
注入法や他のイオンを用いるイオンミキシング法と同様
に酸化処理を行うようにしても良く、基材金属材料元素
の酸化を促進することができる。
【0073】
【発明の効果】以上、実施の形態とともに具体的に説明
したように、この発明の請求項1記載の骨伝導性を有す
る金属材料によれば、生体用の基材金属表面に表面処理
層として、カルシウムの全てを酸化物あるいは水酸化物
として存在させるとともに、基材金属元素の酸化物を存
在させ、かつこれらの少なくとも一部がアモルファス構
造または結晶粒径が100nm以下の結晶構造とするよう
にしたので、金属状態のカルシウムによる生体への不適
合性を無くし、しかも通常の結晶構造を持たないように
して骨伝導性に優れた金属材料を得ることができる。
【0074】また、この発明の請求項2記載の骨伝導性
を有する金属材料の製造法によれば、生体用の基材金属
材料の表面にイオン注入法でカルシウムを注入した後、
酸素を含むガス中で600℃以下の温度で暴露して表面
処理層の金属元素の一部または全部を酸化あるいは水酸
化物としたので、生体用の基材金属材料の表面の表面処
理層を、酸化物あるいは水酸化物状態のカルシウムと基
材金属元素の酸化物とで構成し、これらの少なくとも一
部がアモルファス構造または結晶粒径が100nm以下の
結晶構造にでき、生体への適合性が高く、しかも骨伝導
性の優れた金属材料を造ることができる。
【0075】さらに、この発明の請求項3記載の骨伝導
性を有する金属材料の製造法によれば、イオン注入法に
替えてイオンミキシング法でカルシウム原子を照射した
のち、酸化処理を行うようにしたので、この場合にも同
様に生体への適合性を高め、しかも骨伝導性に優れた金
属材料を造ることができる。
【0076】また、この発明の請求項4記載の骨伝導性
を有する金属材料の製造法によれば、イオンミキシング
法でカルシウム原子を照射する場合に酸素イオンを用
い、こののち酸化処理を行うようにしたので、表面処理
層の酸化物の生成を一層促すようにし、同様に生体への
適合性を高め、しかも骨伝導性に優れた金属材料を造る
ことができる。
【0077】さらに、この発明の請求項5記載の骨伝導
性を有する金属材料の製造法によれば、基材金属材料の
表面処理層をイオンミキシング法により酸素イオンを用
いてカルシウム原子を照射するだけで得るようにしたの
で、酸化物生成の後処理を必要とせず、一層簡単に生体
への適合性を高め、しかも骨伝導性に優れた金属材料を
造ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の骨伝導性を有する金属材料の一実施
の形態にかかる表面近傍の断面構造図である。
【図2】この発明の骨伝導性を有する金属材料の製造法
の一実施の形態にかかる概略工程図である。
【図3】この発明の骨伝導性を有する金属材料の一実施
の形態にかかる各試料最表面の高分解能透過型電子顕微
鏡写真である。
【図4】この発明の骨伝導性を有する金属材料の一実施
の形態にかかる各試料の表面からのCa ,Ti ,Oのオ
ージェ電子分光分析による各元素の濃度を示すグラフで
ある。
【図5】この発明の骨伝導性を有する金属材料の一実施
の形態にかかる各試料のX線光電子分光分析によるカル
シウムp2p 電子結合エネルギスペクトルである。
【図6】この発明の骨伝導性を有する金属材料の一実施
の形態にかかるカルシウムイオンを200KeVで注入したチ
タンを室温まで冷却後大気中に1時間暴露した試料の薄
膜X線回折結果を示すグラフである。
【図7】この発明の骨伝導性を有する金属材料の一実施
の形態にかかるカルシウムイオンを酸素イオンを用いて
イオンミキシング法で注入した試料のX線光電子分光分
析によるカルシウムp2p 電子結合エネルギスペクトルで
ある。
【符号の説明】
1 骨伝導性を有する金属材料 2 基材金属材料 3 表面処理層(表面層)
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 村上 晃一 東京都江東区豊洲三丁目1番15号 石川島 播磨重工業株式会社技術研究所内 (72)発明者 鵜飼 英實 東京都江東区豊洲三丁目1番15号 石川島 播磨重工業株式会社技術研究所内

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 生体用の基材金属材料の表面に、カルシ
    ウムを酸化物あるいは水酸化物として存在させるととも
    に、前記基材金属元素の酸化物を存在させ、これらの少
    なくとも一部がアモルファス構造または結晶粒径が10
    0nm以下の結晶構造の表面処理層を備えてなることを特
    徴とする骨伝導性を有する金属材料。
  2. 【請求項2】 生体用の基材金属材料の表面にイオン注
    入法でカルシウムを注入した後、酸素を含むガス中で6
    00℃以下の温度で暴露して表面処理層の金属元素の一
    部または全部を酸化させカルシウムを酸化物あるいは水
    酸化物として存在させるとともに、前記基材金属元素の
    酸化物を存在させ、これらの少なくとも一部がアモルフ
    ァス構造または結晶粒径が100nm以下の結晶構造の表
    面処理層となるようにしたことを特徴とする骨伝導性を
    有する金属材料の製造法。
  3. 【請求項3】 前記イオン注入法に替えイオンミキシン
    グ法でカルシウム原子を照射するようにしたことを特徴
    とする請求項2記載の骨伝導性を有する金属材料の製造
    法。
  4. 【請求項4】 前記イオンミキシング法で酸素イオンを
    用いてカルシウム原子を照射するようにしたことを特徴
    とする請求項3記載の骨伝導性を有する金属材料の製造
    法。
  5. 【請求項5】 生体用の基材金属材料の表面にイオンミ
    キシング法で酸素イオンを用いてカルシウム原子を照射
    しカルシウムを酸化物あるいは水酸化物として存在させ
    るとともに、前記基材金属元素の酸化物を存在させ、こ
    れらの少なくとも一部がアモルファス構造または結晶粒
    径が100nm以下の結晶構造の表面処理層となるように
    したことを特徴とする骨伝導性を有する金属材料の製造
    法。
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