JPH09286012A - 酸化物磁性材料の湿式成形方法 - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【課題】 フェライト等の磁性粉末材料の湿式成形方法
において、スラリーの逆流に起因する欠陥の防止対策を
行うと成形体終了時の成形体に生じる亀裂の発生率が高
くなる問題を解消し、歩留りよく安定した湿式成形方
法。 【解決手段】 成形体を取り出す以前かつ成形体の圧搾
がほぼ終了している成形過程における加圧保持工程にお
いてスラリー供給管内のバルブを開とすることにより、
スラリー導入孔内のスラリー圧力を低減させ、原料スラ
リーの湿式成形に際し生じる導入孔口近傍のスラリー逆
流に起因する欠陥を抑制すると共に成形体に生じる亀裂
の発生も同時に抑制する。

Description

【発明の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】この発明は、フェライト等の磁性
粉末材料をスラリー化させ、脱水、圧搾して所定の形状
に成形する湿式成形方法の改良に係り、加圧保持工程中
に、スラリー供給管内のバルブを開にしスラリー導入孔
のスラリー圧を低減させて、スラリーの逆流に起因する
欠陥の防止対策に伴い、亀裂の発生率が高くなる傾向を
防止した酸化物磁性材料の湿式成形方法に関する。

【０００２】

【従来の技術】Ｓｒフェライト磁石のような酸化物磁性
材料を成形する方法として、Ｓｒフェライトの微粉末を
水のような分散媒に分散させた原料スラリーを金型内に
注入充填して、更に脱水し、必要に応じ磁場を印加しな
がら、圧縮成形する湿式成形方法が多用されている。

【０００３】湿式成形方法に使用される成形装置の構成
例を、図１に基づいて説明すると、ダイス１の成形空間
内に下パンチ２がパッキンを介して嵌挿されるが、ここ
では下パンチ２が基盤上に固定され、ダイス１が下部油
圧シリンダ３にて上下動可能に構成してあり、ダイス１
上面には上部油圧シリンダ４にて上下動する上パンチ５
が濾過布６を介して当接して、ダイス１内に上下パンチ
２，５にて閉空間となる成形キャビティ７が形成されて
いる。また、成形キャビティ７のダイス１外周部には磁
場コイル８が周設され、上パンチ５下面には濾過布６に
接した排水孔が設けられ、パンチ内の排水室９に入った
水分は排水管を通して導出される。

【０００４】また、ダイス１には成形キャビティ７に連
通するスラリー導入孔１０が設けられ、スラリー容器１
１からのスラリー供給管１２が接続され、スラリー供給
管１２に設けた２つのバルブ１３，１４間にスラリー圧
送装置１５が設けられ、バルブ１３，１４の開閉操作と
スラリー圧送装置１５の作動により、原料スラリーは成
形キャビティ７へ圧送されるように構成されている。

【０００５】従来の上記成形装置による成形方法を説明
すると、まず、スラリー容器１１側のバルブ１３を閉じ
かつダイス１側のバルブ１４を開き、スラリー圧送装置
１５を作動させて、所定量の原料スラリーをスラリー導
入孔１０から磁場コイル８を介して磁場を加えた成形キ
ャビティ７内に圧入する。次いで、バルブ１４を閉じて
上パンチ５とダイス１とを下降させながら、磁場中で圧
縮成形を行い、所定形状まで脱水・圧搾し、所定の荷重
にて加圧保持して成形し、その後、ダイス１と上パンチ
９を離反移動させて下パンチ２上の成形体を取り出す。

【０００６】

【発明が解決しようとする課題】このような成形過程に
おけるダイス１と上パンチ５が同時に下降して圧縮成形
が行われる工程の初期段階では、ダイス１および上パン
チ５の下降速度を早めて原料スラリーを成形キャビティ
７からスラリー導入孔口を経てスラリー導入孔１０側に
強制的に逆流させることにより、この部分のスラリー圧
力を高めておき、後期段階においては、上記より遅い速
度でダイス１及び上パンチ５を下降させる方法が取られ
ていた。

【０００７】これは、原料スラリーの脱水性が十分でな
いために成形後期において上記下降速度を早めると、成
形キャビティ７内のスラリー圧が上昇し、脱水・圧搾進
行中のスラリーが導入孔口を経てスラリー導入孔１０に
逆流し、この逆流現象に起因する欠陥が成形体に発生す
るのを防ぐために行われている操作である。

【０００８】また、このようなスラリーの逆流に起因す
る欠陥の防止のために、キャビティ内のスラリーが導入
孔口を経て逆流する前に導入孔口が閉塞する装置が提案
（特公昭５５−１０３６４号）されている。また、バル
ブ１４を閉じていてもスラリー圧送装置１５の圧送用ピ
ストンを圧送前に戻すことにより、キャビティ７内のス
ラリーが微量に逆流するため、スラリー圧送装置１５の
圧送用ピストンを圧送前に戻すタイミングを規定し、欠
陥の発生を抑制する成形方法が提案（特開平６−３１８
５２７号）されている。

【０００９】また、酸化物磁性材料の成形においては、
前記したスラリー導入孔口へのスラリーの逆流に起因す
る欠陥以外に成形体に亀裂が生ずる欠陥もある。このよ
うな欠陥に対しては、特定条件のフェルトからなる濾布
材を用いて成形体の成形圧抜きの際に成形体に作用する
圧力の急激な圧力変動を抑制することにより、亀裂を抑
制する方法が提案（特開平７−７０６０５号）されてい
る。

【００１０】しかしながら、スラリーの逆流に起因する
欠陥の防止対策を行うと、防止対策を取る以前に比較
し、成形終了時の成形体に生じる亀裂の発生率が高くな
る傾向があった。また、成形に使用するスラリーの構成
粒子の平均粒径が小さくなるほど同様の亀裂の発生率が
大きくなる傾向が認められた。さらに、この亀裂の発生
に対しては、前記濾布材を適用しても顕著な改善が認め
られないという問題があった。

【００１１】この発明は、公知の種々組成からなるフェ
ライト等の磁性粉末材料の湿式成形方法において、スラ
リーの逆流に起因する欠陥の防止対策を行うと成形体終
了時の成形体に生じる亀裂の発生率が高くなる問題を解
消し、歩留りよく安定した湿式成形が可能になる磁性粉
末材料の湿式成形方法の提供を目的としている。

【００１２】

【課題を解決するための手段】上記亀裂の発生を防止す
るため、まず、発明者らは、亀裂の発生機構について検
討した結果、導入孔口よりのスラリー逆流に起因する欠
陥の抑制対策をとった際に生じる亀裂は、成形体の成形
圧抜き過程の際に圧縮された成形体が弾性回復等により
急激に膨らむことに起因するのではなく、成形終了によ
り上パンチ５を経て成形体にかかっていた成形圧が除か
れることにより、スラリー導入孔１０内に封じ込められ
ていたスラリー圧力でスラリーもしくはスラリー中の水
がダイス１と下パンチ３の間の隙間を通じて成形体下面
を押上げ、かつ成形体の側面が成形体とダイス１との摩
擦力により拘束されていることにより、成形体に曲げモ
ーメントが生じ亀裂が生じていることを知見した。

【００１３】そこで発明者らは、成形体に生ずるこの亀
裂の防止のために、成形体を取り出す以前にスラリー導
入孔１０内のスラリー圧を抜く処理を試みたが、このス
ラリー圧抜きを行うタイミングが速すぎると、既に成形
体が圧搾工程に入っていても、スラリー圧抜きによるス
ラリー導入孔１０内の圧力変動が大きいため、成形体の
導入孔口近傍に急激な圧力変動に起因すると考えられる
欠陥が生じることがあった。

【００１４】さらに発明者らは、このスラリー圧抜きの
適切なタイミングについて種々検討した結果、上下パン
チ及びダイスにて形成されるキャビティ内に原料スラリ
ーを圧入して、該パンチ及びダイスの相対的移動によ
り、脱水、圧縮成形を行う酸化物磁性材料の湿式成形方
法において、成形体を取り出す以前で成形体の圧搾が終
了している成形過程における加圧保持工程中に、スラリ
ー供給管内のバルブを開にしてスラリー供給管内のスラ
リー圧を低減させるスラリー導入孔内のスラリー圧を低
減させることにより、導入孔口近傍のスラリーの逆流に
起因する欠陥と成形体に生じる亀裂とを同時に効果的に
抑制することが可能であることを知見し、この発明を完
成した。

【００１５】また、発明者らは、かかる亀裂は成形終了
時のスラリー導入孔におけるダイス近傍のスラリー圧力
が高いほど生じ易いこと、また、このダイス近傍点のス
ラリー圧力は、原料スラリーを構成する酸化物磁性材料
粒子の平均粒径が小さいほど高くなることを知見し、上
述のこの発明による成形方法は、平均粒径が０．９μｍ
以下の酸化物磁性材料に対して、特に亀裂防止効果が高
いことを知見した。

【００１６】

【発明の実施の形態】この発明による湿式成形方法は、
成形体を取り出す以前かつ成形体の圧搾がほぼ終了して
いる成形過程における加圧保持工程においてスラリー供
給管内のバルブを開とすることにより、スラリー導入孔
内のスラリー圧力を低減させる点に特徴があり、従来、
成形終了時に上パンチによる成形体の加圧がなくなった
際に、スラリー導入孔内に封じ込められていた高圧のス
ラリーがダイスと下パンチとの隙間を通じ、ダイスとの
摩擦により側面を拘束されている成形体を押し上げるこ
とにより生じていた成形体の亀裂等の欠陥の発生が著し
く低減する。

【００１７】また、このスラリー導入孔内のスラリー圧
力の低減が、成形過程における加圧保持工程において実
施されるため、スラリー導入孔内のスラリー圧力低減に
よるスラリー導入孔内のスラリー圧力の急激な変動に起
因する成形体、特に導入孔口近傍における欠陥が誘発さ
れることがなく、成形体に生じる亀裂等の欠陥を抑制で
きる。

【００１８】この発明による湿式成形方法は、通常の湿
式成形においても適用可能であるが、特に、成形時にス
ラリー導入孔内のスラリー圧力が高くなり、成形時の亀
裂等の欠陥の発生率が高くなる、スラリー導入孔口近傍
のスラリー逆流に起因する欠陥の抑制対策のために成形
初期に意図的にスラリーの逆流を生じさせて、スラリー
導入孔のスラリー圧力を高める成形方法を用いた場合に
有効であり、また、高性能の酸化物磁石を作製するため
に、原料スラリーを構成する酸化物磁性材料の平均粒子
径を小さくし、成形時の脱水性が低下して成形過程に生
じるスラリー圧力が高くなる、高性能酸化物磁性材料の
製造等においては、この発明の成形方法による顕著な効
果が期待できる。

【００１９】すなわち、原料スラリーの平均粒子径の微
小化に伴う本成形方法による効果について、検討した結
果、平均粒子径が０．９μｍを越えると、特に成形時の
スラリー圧の上昇を招く処理を行わない成形において
は、前記した亀裂の発生率は特に大きくなく、この発明
による方法の顕著な効果は認められないが、酸化物磁性
材料の平均粒子径が０．９μｍ以下、さらに高性能を目
指す０．６μｍ以下においては、成形時のスラリー圧力
が高くなり、この発明による成形方法を用いないと亀裂
等の欠陥の発生率が高くなる。

【００２０】

【実施例】図１に示す成形装置を使用し、ＳｒＯ・６Ｆ
ｅ₂Ｏ₃なる組成を有し、表１に示す平均粒子径のＳｒフ
ェライト粉末を水中に分散させた固形成分濃度６５％の
スラリーを磁場中にて４００ｋｇ／ｃｍ²の圧力で圧縮
成形し、表１に示す条件にてスラリー供給管内のバルブ
を開にするスラリー導入孔内のスラリー圧低減処理を行
い、弓型状の成形体を各条件ごとに１００個づつ作製
し、亀裂の有無および導入孔口近傍の欠陥の有無につい
て目視観察した。

【００２１】なお、この成形の際には導入孔口近傍の欠
陥の抑制のため、成形初期の１０秒間は０．５ｍｍ／ｓ
の成形速度、その後の成形後期には０．１ｍｍ／ｓの成
形速度で成形を行った。また、成形の終了は成形が進行
し、成形圧が上昇して所定設定圧に達してから、１０秒
間の加圧保持期間を経た時点で終了とし成形圧を取り除
いた。各成形方法の結果、表２に示すようにこの発明の
実施例ではひびや亀裂等の欠陥が認められないが、比較
例においては、亀裂の発生および／または導入孔口近傍
の欠陥が認められた。

【００２２】

【表１】

【００２３】

【表２】

【００２４】

【発明の効果】この発明による湿式成形方法は、所要の
加圧保持工程中に、スラリー供給管内のバルブを開にし
スラリー導入孔内のスラリー圧を低減させて、原料スラ
リーの湿式成形に際し生じる導入孔口近傍のスラリー逆
流に起因する欠陥を抑制すると共に成形体に生じる亀裂
の発生も同時に抑制することが可能となる。

【図面の簡単な説明】

【図１】従来の湿式成形装置の縦断面説明図である。

【符号の説明】

１ ダイス ２ 下パンチ ３ 下部油圧シリンダ ４ 上部油圧シリンダ ５ 上パンチ ６ 濾過布 ７ 成形キャビティ ８ 磁場コイル ９ 排水室 １０ スラリー導入孔 １１ スラリー容器 １２ スラリー供給管 １３，１４ バルブ １５ スラリー圧送装置

Claims (2)

【特許請求の範囲】
1. 【請求項１】 上下パンチ及びダイスにて形成されるキ
   ャビティ内に原料スラリーを圧入して、該パンチ及びダ
   イスの相対的移動により、脱水、圧縮成形を行う酸化物
   磁性材料の湿式成形方法において、成形体を取り出す以
   前で成形体の圧搾が終了している成形過程における加圧
   保持工程中に、スラリー供給管内のバルブを開にしてス
   ラリー導入孔のスラリー圧を低減させる酸化物磁性材料
   の湿式成形方法。
2. 【請求項２】 請求項１において、原料スラリーを構成
   する酸化物磁性材料粒子の平均粒径が０．９μｍ以下で
   ある酸化物磁性材料の湿式成形方法。