JPH08271602A - りん31核磁気共鳴信号の選択観測法およびこれを利用する方法 - Google Patents

りん31核磁気共鳴信号の選択観測法およびこれを利用する方法

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JPH08271602A
JPH08271602A JP7113795A JP7113795A JPH08271602A JP H08271602 A JPH08271602 A JP H08271602A JP 7113795 A JP7113795 A JP 7113795A JP 7113795 A JP7113795 A JP 7113795A JP H08271602 A JPH08271602 A JP H08271602A
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oxygen
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phosphate
nuclear magnetic
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Mitsuru Tamura
充 田村
Yoshinori Harada
義則 原田
Norio Shimizu
範夫 清水
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Hitachi Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 化学構造の異なる複数のりん酸化合物の混合
試料を測定対象とし、酸素17との分極異動を経由するり
ん31核磁気共鳴信号を観測し、経由しない信号を消去す
ることにより、酸素17標識りん酸化合物に由来するりん
31核磁気共鳴信号スペクトルを選択観測する。 【構成】 酸素17、りん31を同時に励起可能な2重共鳴
NMR検出器をNMR分光計に接続し、酸素17との分極
移動を経由するりん31核磁気共鳴信号を観測可能なパル
ス系列を用いて、酸素17標識りん酸化合物のりん31核磁
気共鳴信号を観測し、酸素17標識のないりん31に由来す
る信号を消去する。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、りん31核磁気共鳴(N
MR)信号の観測法に関する。
【0002】
【従来の技術】りん31(原子番号15、質量数31)は天然
存在比100%の、NMR現象を観測可能な核種である。
【0003】りん酸基は、図2に示すように、りんと二
重結合をもつ酸素原子1個と、単結合をもつ酸素原子3
個から構成され、単結合の酸素原子はさらに、R1
2、R3で示した他の原子団と結合している。例えば、
1、R2、R3がいずれも水素原子の場合はりん酸、
1、R2、R3がいずれもフェニル基の場合はりん酸ト
リフェニルとなる。また、図14に示すように、複数個
のりん酸基が脱水縮合した、ポリりん酸の構造をもつ化
合物も存在する。例えば、図14にRで示した原子団に
アデノシンを含み、2個、3個のりん酸基が直鎖状に結
合したりん酸化合物は、それぞれ、アデノシン2りん酸
(ADP)、アデノシン3りん酸(ATP)と呼ばれ
る。また、ポリりん酸中のりん酸基は、Rに近い方か
ら、アルファ位、ベータ位、ガンマ位と区別して呼ばれ
る。
【0004】酸素17(原子番号8、質量数17)は天然存
在比0.037%の、NMR現象を観測可能な、酸素の安定
同位体である。酸素の同位体の天然存在比は、酸素16が
99.759%、酸素18が0.204%であることが、例えば化学
大事典(共立出版、1963)により知られている。酸素1
6、酸素18はともにNMR現象を示さない。
【0005】酸素17標識りん酸化合物は、特願平6-2390
9により提案され、また図3に示す構造式のように、4
個の酸素原子がりん原子と結合した化学構造をもち、こ
れらの酸素原子の少なくとも1個が、天然存在比よりも
高い割合で酸素17標識されている化合物を指す。
【0006】分極移動(Polarization Transfer)は、
異核種スピンスピン結合の存在する結合スピン系を観測
対象とするNMRにおいて、非観測核を過渡的に磁気的
に励起することにより、観測核のエネルギー準位の占有
率が変化する現象である。分極移動を利用したパルス系
列の例は、エー ピー ティー(APT)、エス イー
エム ユー ティー(SEMUT)、アイ エヌ イ
ー ピー ティー(INEPT)、ディー イー ピー
ティー(DEPT)などが挙げられることが、文献
アール アール エルンスト、ジ− ボ−デンハウゼ
ン、エ− ボ−ガン、プリンシプルズ オブ ニュ−ク
レア マグネチック レゾナンス インワン アンド
ツー ディメンジョンズ、オックスフォ−ド サイエン
ス パブリケーション(1987)により知られている。
【0007】エイチ エム キュー シー(HMQC、
Heteronuclear Multiple Quantum Coherence、異核種多
量子コヒーレンス)は、文献 エイ バックス、アール
エイチ グリフィー、ビー エル ホーキンス,ジャ
ーナル オブ マグネティック レゾナンス,55,301-
315 (1983)に記載の、分極移動を利用したパルス系列で
ある。
【0008】図5に、窒素15を照射し、水素を観測する
HMQCパルス系列のタイミング図を示す。図で42、
43は待ち時間、44は検出期間、45は非観測核第1
パルス、46は非観測核第2パルス、47は展開期間で
ある。文献記載のパルス系列は、水素と窒素15の化学シ
フト相関2次元NMRスペクトル観測を目的としている
ので、パルス系列中に展開期間47、検出期間44の、
2つの独立した時間領域が存在する。展開期間47に対
応する窒素15化学シフト軸に対して直交四極子検波とな
るよう、該文献では、窒素15チャネル第1パルス45、
受信器位相とも90度単位の位相サイクリングを実施す
る。該文献には、位相サイクリングの選択により、ゼロ
量子コヒーレンス、2量子コヒーレンスのいずれを観測
するかを選択できること、また、位相サイクリングは窒
素15との結合のない水素の信号を消去することが示され
ている。
【0009】ディー イー ピー ティー(DEPT、
Distortionless Enhancement by Polarization Transfe
r、分極移動を用いた歪みのない増強)は、文献 ディ
ーエム ドッドレル、ディー ティー ペグ、エム ア
ール ベンドール,ジャーナル オブ マグネティック
レゾナンス,48,323-324 (1982)に記載の、分極移動
を利用したパルス系列である。図6に、水素を照射し、
炭素13を観測するDEPTパルス系列のタイミング図を
示す。図で、52、53、55は待ち時間、54は検出
期間、57は非観測核第3パルスである。文献記載のパ
ルス系列は、炭素13スペクトルの多重度、すなわち炭素
13原子に結合した水素原子の個数を区別することを目的
とし、該文献では、図6における水素チャネル第3パル
ス57と、検出期間54における炭素13受信機位相とも
180度単位の位相サイクリングを実施する。この位相サ
イクリングにより、カルボニル炭素など、水素が結合し
ない4級炭素の信号は消去される。
【0010】HMQC、DEPTとも、異核種スピンス
ピン結合の存在する核スピン由来の信号が観測され、結
合のない孤立スピン由来の信号は消去される。
【0011】HMQCパルス系列を用いた場合の、分極
移動を経由するりん31の信号強度の最大値は次式で表さ
れる。
【0012】
【数1】
【0013】ここに、M(PT)は分極移動を経由する
りん31核の信号強度、M(FID)はりん31第1パルス
励起の直後からりん31の共鳴信号を取り込んだ場合の信
号強度、ηは分極移動の増強因子、fは観測パルス系列
の待ち時間と試料の酸素17−りん31スピンスピン結合定
数を有する周期関数、dは横緩和による信号強度の減衰
である。
【0014】増強因子ηは、分極移動を経由する信号強
度の限界に対応しており、次式で表される。
【0015】
【数2】
【0016】ここに、γ(17O)、γ(31P)は酸素1
7、りん31の磁気回転比、N(17O)、N(31P)は結
合スピン系の酸素17、りん31の原子数、I、Sはりん3
1、酸素17の核スピン量子数である。数2の右辺の符号
は、酸素17の磁気回転比が負、りん31の磁気回転比が正
であることから、負となる。すなわち、分極移動を経由
するりん31の信号の位相は、経由しない信号を基準とし
て、反転する。
【0017】簡便のため、酸素17−りん31結合スピン系
のエネルギー準位12個のうち、酸素17の中心遷移が関
与する4個のエネルギー準位のみに注目すると、周期関
数fは次式で表される。
【0018】
【数3】
【0019】ここに、πは円周率、Jは酸素17−りん31
スピンスピン結合定数、τはHMQCパルス系列中の待
ち時間である。
【0020】横緩和による信号強度の減衰は次式で表さ
れる。
【0021】
【数4】
【0022】ここに、T2はりん31の横緩和時間であ
る。
【0023】観測条件は、例えば、図4の32、33で
示す待ち時間τを次式のように設定する。
【0024】
【数5】
【0025】このとき、(数3)で表される周期関数の
符号は正であり、(数1)の信号強度の符号は負とな
る。また、(数5)の条件の場合、(数3)の値は最大
値となるが、観測される信号には、(数4)で表される
横緩和による信号の減衰が含まれる。横緩和時間T
2と、待ち時間τがほぼ等しい場合は、緩和による信号
減衰を防ぐため、例えば、図4の32、33で示す待ち
時間τを次式のように設定する。
【0026】
【数6】
【0027】数6は便宜的な観測条件であって、待ち時
間τの最適値は横緩和時間T2に影響される。
【0028】2重共鳴NMRプローブは、文献 ブイ
アール クロス、アール ケー ヘスター、ジェー エ
ス ワウ、レビュー オブ サイエンティフィック イ
ンスツルメンツ、p1486 (1976)などにより知られる、共
鳴周波数の異なる2核を同時に励起可能なNMRプロー
ブである。
【0029】りん31核磁気共鳴信号による、微生物培養
における細胞内りん酸代謝の追跡は、例えば、文献 エ
− ジェ− ミ−ハン、シ− ジェ− エスキ−、エ−
ピ− コレツキ−、エム エム ドマク、バイオテク
ノロジ アンド バイオエンジニアリング、Vol.40, p1
359 (1992)により知られている。また、生体内りん酸化
合物のりん31核磁気共鳴信号化学シフトは、例えば、文
献 ジェー アールヴァン ワザ−、アール ディッチ
フィールド、ホスフォラス コンパウンズアンド ゼア
31P ケミカル シフツ、シー ティ− バート
編、ホスフォラス NMR イン バイオロジ、CRC
プレス(1987)により知られている。これらの文献には、
生体内のりん酸化合物、例えば、クレアチンりん酸、り
ん酸モノエステル、りん酸ジエステル、無機りん酸、ニ
コチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、AT
Pアルファ位りん酸基、同ベータ位りん酸基、同ガンマ
位りん酸基、ADPアルファ位りん酸基、同ベータ位り
ん酸基などをりん31核磁気共鳴信号スペクトルとして観
測できることが示されている。
【0030】ATPは、例えば、文献 ビー アルバー
ツ、ディー ブラグ、ジェー ルイス、エム ラフ、
ケー ロバーツ、ジェー アール ワトソン、モレキュ
ラバイオロジ オブ ザ セル、ガーランド パブリシ
ング インク(1983)に示されているように、ADPと無
機りん酸に加水分解する際に、1モルあたり11から13kc
al(キロカロリ)の化学エネルギーを反応系に放出し、
この化学エネルギーによって、神経細胞や筋細胞などに
おいて生体反応が進行することが知られている。
【0031】
【発明が解決しようとする課題】従来のりん31核磁気共
鳴信号観測法では、励起されたりん31核のNMR信号を
非選択的に観測している。すなわち、測定試料に含まれ
るりん酸化合物の化学構造と、信号観測との間には特に
関係がなく、化学構造の異なるりん酸化合物が存在する
混合試料では、それぞれの化学種に由来するりん31核磁
気共鳴信号の重ね合わせが観測される。
【0032】このため、異なる化学構造を有するにも関
わらず、共鳴周波数差がスペクトル線幅程度かまたはそ
れ以下に接近している複数のりん酸化合物が試料中に存
在すると、スペクトルが重複し、解析が困難となる。
【0033】この問題は、生体膜を構成するりん脂質の
広幅りん31核磁気共鳴信号観測や、細胞など磁化率が不
均一な空間に存在する生体内のりん酸化合物を測定対象
とする場合に、特に解析の障害となる。例えば、生体内
のりん酸モノエステル、りん酸ジエステル、無機りん酸
は、りん31核磁気共鳴信号スペクトルの一部が重複し、
NAD、ATPアルファ位りん酸基、ADPアルファ位
りん酸基はスペクトルの一部が重複し、ATPベータ位
りん酸基、ADPベータ位りん酸基はスペクトルの一部
が重複する。
【0034】また、りん酸ジエステル、りん酸モノエス
テルには、脂肪酸鎖の構造の異なる複数の化学種が存在
する。
【0035】すなわち、ATP、ADP、NAD由来の
りん31核磁気共鳴信号スペクトルを分離測定したり、り
ん酸ジエステル、りん酸モノエステルを含むりん脂質
を、従来のりん31核磁気共鳴信号スペクトルから特定す
ることは極めて困難と言える。
【0036】本発明は上記の点に鑑みてなされたもので
あり、生体組織、微生物細胞、動植物細胞などの生体な
ど、複数の化合物が混在した混合物試料において、特定
のりん酸化合物のりん31核磁気共鳴信号を選択的に観測
することを課題としている。
【0037】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、本発明のりん31核磁気共鳴信号選択観測法は、天然
存在比よりも高い割合で酸素17標識したりん酸基を含有
する化合物を用意し、これを含む複数の化合物が混合し
た試料を測定対象とし、酸素17とりん31を同時に励起可
能なプローブおよび分光計を用いて、酸素17標識りん酸
基に由来するりん31核磁気共鳴信号を観測する。
【0038】
【作用】本発明の、りん31核磁気共鳴信号の選択観測法
においては、酸素17照射パルスとりん31受信器の位相サ
イクリングにより、酸素17とスピンスピン結合を有する
りん31に由来するりん31核磁気共鳴信号を観測し、酸素
17とのスピンスピン結合のないりん31に由来するりん31
核磁気共鳴信号を消去する。
【0039】
【実施例】
(観測装置および試料の構成)図1は、本発明にかかる
りん31核磁気共鳴信号選択観測法の測定対象である混合
試料、NMRプローブ、NMR分光計、磁石の関係を示
す構成図である。
【0040】磁石1、1’はNMR装置付属の磁石であ
り、例えば磁場中心の磁束密度が11.7T(テスラ)の超
伝導磁石が用いられる。この磁束密度におけるりん31の
共鳴周波数は約202MHz(メガヘルツ)、酸素17の共鳴周
波数は約67.8MHzである。
【0041】試料2は、酸素17標識りん酸基を含むりん
酸化合物(化合物Aとする)と、天然存在比の酸素17を
含むりん酸化合物(化合物Bとする)の両者をガラス管
などで支持し、酸素17照射コイル10、りん31照射およ
び観測コイル11によって、化合物A、化合物Bとも磁
気的に励起されるよう配置したものである。
【0042】プローブ15は、試料中の酸素17とりん31
を同時に励起可能な2重共鳴NMRプローブであり、試
料2、酸素17照射コイル10、りん31照射および観測コ
イル11を内蔵している。このプローブ15は、試料2
が磁石1、1’の磁場中心に位置するよう設置される。
酸素17照射コイル10はNMR分光計8の酸素17照射回
路5と接続される。りん31照射および検出コイル11
は、切り替え器19に接続され、この切り替え器19
は、NMR分光計8のりん照射回路6および受信器7と
接続される。
【0043】切り替え器19は、試料2を磁気的に励起
する際は、りん31照射回路6とりん31照射および検出コ
イル11とを接続し、受信器7を切り離す。試料2から
のりん31核磁気共鳴信号を受信する際は、りん31照射お
よび検出コイル11と受信器7とを接続し、りん31照射
回路6を切り離す。
【0044】NMRプローブ15には、酸素17、りん31
の照射機能に加え、水素−りん31スピンスピン結合を消
去するための水素核照射、磁場ロックを実施するための
重水素核照射の機能が付属してもよい。酸素17照射コイ
ル10と、りん31照射および観測コイル11は、図1の
ように独立していてもよく、また単一のコイルに2重共
鳴回路を接続して酸素17、りん31の単一コイル2重共鳴
プローブとしても構わない。それぞれのコイルに接続さ
れる共振回路の形式は問わない。
【0045】化合物Aと化合物Bは、それぞれが含有す
るりん酸基のりん31核が磁気的に励起されればよく、両
者がお互いに接触するよう混合されていてもよいし、接
触しないよう隔離されていてもよい。試料の支持体は一
端を封じたガラス管などを任意に用いることができる。
また、微生物の培養液など、混合りん酸化合物を含有す
る溶液を、プローブ15の外部に設置された容器に用意
し、シリコンチューブ等で磁場中心の試料2の位置に導
入して測定してもよい。
【0046】(酸素17との分極移動を経由するりん31核
磁気共鳴信号の観測)1次元HMQCパルス系列を用
い、酸素17との分極移動を経由するりん31核磁気共鳴信
号を観測した例を、図4で説明する。図4は、図5に示
した文献記載のHMQCパルス系列の展開期間47を固
定された待ち時間に変更し、検出期間のみをフーリエ変
換の入力の時間領域として扱うパルス系列であり、図6
に示した文献記載のDEPTパルス系列と同じく180度
単位の位相サイクリングを実施する。
【0047】1回目の観測では、りん31チャネル第1パ
ルス29、第2パルス30の高周波位相を一致させ、ま
た、酸素17チャネル第1パルス35、第2パルス36の
高周波位相を一致させる。検出期間34において、りん
31の信号を取り込む。2回目の観測では、酸素17チャネ
ル第1パルス35または第2パルス36のいずれかの高
周波位相を180度反転し、かつ、受信機7の位相を180度
反転し、検出期間34において、りん31の信号を取り込
む。1回目と2回目の信号を加算する。
【0048】酸素17が結合しないりん31に由来する信号
は、受信器の位相が反転したことにより、1回目と2回
目とでは観測されるりん31共鳴信号の位相も反転してお
り、加算により相殺される。しかし、酸素17が結合した
りん31に由来する信号は、2回目の観測において酸素17
の高周波位相が反転していることにより、分極移動を経
由するりん31の共鳴信号も位相反転し、さらに受信器の
位相が反転していることにより、1回目と同位相で信号
が観測されるので、加算により強度が増す。このように
して、酸素17が結合したりん31のNMR信号を観測し、
結合のないりん31の信号を消去できる。
【0049】図7、図8に、測定例として、25.7原子%
酸素17標識したりん酸を試料として256回積算した、酸
素17−りん31HMQCスペクトルを示す。酸素17照射パ
ルス幅は、図7では1μs(マイクロ秒)、図8では100
μsである。なお、同一積算回数におけるHMQCスペ
クトル強度は、観測装置により異なるが、この測定例の
観測装置では、酸素17照射パルス幅を220μsとした場
合に強度最大である。図7では、図8の条件と比較して
磁気的に励起された酸素17が少ないために、スペクトル
が観測されないが、図8ではスペクトルが観測される。
すなわち、図7で観測されず、図8で観測されるスペク
トルは、酸素17の過渡的な磁気的な励起が信号強度に反
映されており、酸素17との分極移動を経由するりん31核
磁気共鳴信号スペクトルである。また、図7がノイズレ
ベル以上のスペクトルを含まないことは、酸素17との結
合のないりん酸に由来するりん31核磁気共鳴信号が位相
サイクリングにより消去されていることを示す。
【0050】図7、図8の例では、180度単位の位相サ
イクリングを実施するHMQCパルス系列を用いたが、
DEPTパルス系列を用いて観測してもよい。
【0051】(混合試料における選択観測)図9に、酸
素17標識りん酸、無標識ピロりん酸の混合試料を示す。
外径5mm(ミリメートル)のガラス管63に無機りん酸
と、ガラス細管に封入したピロりん酸を入れ、ふっ素ゴ
ムキャップ60で封じてある。この混合試料を、酸素17
−りん31HMQCパルス系列を用いて観測したスペクト
ルを図10、図11に示す。
【0052】図10は、HMQCパルス系列において、
酸素17第2パルスのみ位相反転させ、受信機位相を一定
に保持した場合のスペクトルであり、図11は、酸素17
第2パルスと受信機位相との180度単位の位相サイクリ
ングを実施した場合のスペクトルである。
【0053】図10では、りん31核磁気共鳴信号化学シ
フト値0ppmにりん酸が、−13ppmにピロりん酸が観測
されるが、図11では、りん酸の反転したスペクトルの
みが観測され、ピロりん酸のスペクトルは消去される。
【0054】図11において、りん酸のスペクトルが反
転しているのは、従来技術で述べた(数2)の増強因子
の符号が負であることによる。
【0055】(選択観測パルス系列)本発明の選択観測
法において用いるパルス系列は、HMQCパルス系列、
DEPTパルス系列に限定されるものではなく、酸素17
との分極移動を経由するりん31の信号を観測可能であれ
ば何でもよい。
【0056】本発明の選択観測法は、りん31核磁気共鳴
信号観測法の検出期間における信号選択であり、1次元
化学シフト以外の測定に応用できる。例えば、2次元N
MR、3次元NMRなど多次元NMR観測法の検出期間
に適用できる。すなわち、多次元NMRパルス系列の検
出期間を本発明の選択観測法で置き換えることにより、
混合試料を観測対象として酸素17標識りん酸化合物を選
択観測する多次元NMR観測パルス系列を作成してもよ
い。同様に、緩和測定パルス系列の検出期間を本発明の
選択観測法で置き換えることにより、混合試料を観測対
象として酸素17標識りん酸化合物を選択観測する緩和測
定パルス系列を作成してもよい。また、同様に、拡散定
数測定のパルス系列の検出期間を本発明の選択観測法で
置き換えることにより、混合試料を観測対象として酸素
17標識りん酸化合物の拡散定数を選択観測するパルス系
列を作成してもよい。
【0057】本発明の選択観測法に用いるパルス系列
は、検出期間において、無標識りん酸化合物由来のりん
31核磁気共鳴信号を消去し、酸素17標識りん酸化合物由
来のりん31核磁気共鳴信号が検出可能であるパルス系列
をすべて包含する。
【0058】(生体のりん酸代謝系の観測)図12、図
13を用いて、ATP合成を伴う生体のりん酸代謝系を
対象とする、本発明の選択観測法の応用を示す。
【0059】図12は、細胞外から投与された酸素17標
識りん酸70が、細胞内に取り込まれ、りん酸代謝経路
を通じて、ADP72と結合してATP73が合成され
ることを示す説明図である。これらのりん酸化合物は、
本発明の選択観測法を用いることにより、図13に模式
的に示すように、細胞外りん酸70はスペクトル80と
して、細胞内りん酸71はスペクトル81として、AT
P73のガンマ位りん酸基はスペクトル82として、分
光学的に識別しうる。
【0060】従来法では、細胞内外のりん酸化合物が全
て観測されるため、りん酸代謝の過程を特に反映しない
スペクトル83が得られる。
【0061】同様に、図15、図16を用いて、ATP
分解を伴う生体のりん酸代謝系を対象とする、本発明の
選択観測法の応用を示す。
【0062】図15は、細胞外から投与された酸素17標
識ATP90が、細胞内に取り込まれ、りん酸代謝経路
を通じて、酸素17標識りん酸92とADP93に分解さ
れることを示す説明図である。これらのりん酸化合物
は、本発明の選択観測法を用いることにより、図16に
模式的に示すように、細胞外ATP90のガンマ位酸素
17標識りん酸基はスペクトル100として、細胞内AT
P91のガンマ位酸素17標識りん酸基はスペクトル10
1として、酸素17標識りん酸92はスペクトル102と
して、分光学的に識別しうる。
【0063】従来法では、細胞内外のりん酸化合物が全
て観測されるため、りん酸代謝の過程を特に反映しない
スペクトル103が得られる。
【0064】(培養条件制御、イメージングへの応用)
生体、生体組織、微生物培養液などのりん酸代謝系に、
酸素17標識りん酸など、酸素17標識りん酸化合物を投与
し、本発明の選択観測法で酸素17標識りん酸化合物のり
ん31核磁気共鳴信号を観測し、信号強度の経時変化を追
跡することにより、生体のりん酸代謝測定法に応用でき
る。また、信号強度の経時変化が細胞によるりん酸の代
謝状況を反映していることから、細胞の増殖や物質代謝
を推定できる。そこで、信号強度の経時変化をもとに、
栄養物や酸素などの培養液への供給量を制御することに
より、微生物細胞や動植物細胞などの培養条件を効率よ
く制御することが可能になる。
【0065】りん31−MRIの検出期間に本発明の選択
観測法を適用し、酸素17標識りん酸化合物を含有する試
薬を被験者に投与して、標識りん酸由来のりん31−MR
I信号、またはりん31−MRSI信号を選択観測し、生
体のりん酸代謝イメージングが可能である。
【0066】
【発明の効果】上記詳述したごとく、本発明のりん31核
磁気共鳴信号選択観測法を用いれば、酸素17との分極移
動を経由するりん31核磁気共鳴信号を観測し、分極移動
を経由しない信号を消去できるので、化学構造の異なる
複数のりん酸化合物を含む混合試料に含まれる、酸素17
標識りん酸化合物のりん31核磁気共鳴信号スペクトルを
選択観測できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかるりん31核磁気共鳴信号選択観測
法の、測定対象である混合試料、NMRプローブ、NM
R分光計、磁石の関係を示す構成図。
【図2】本発明にかかるりん酸化合物を示す構造式。
【図3】本発明にかかる酸素17標識りん酸化合物を示す
構造式。
【図4】本発明にかかる選択観測法に用いるHMQCパ
ルス系列を説明するタイミングの例を示す図。
【図5】文献記載の窒素15−水素2次元化学シフト相関
HMQCパルス系列を説明するタイミングの例を示す
図。
【図6】文献記載の炭素13DEPTパルス系列を説明す
るタイミングの例を示す図。
【図7】本発明の選択観測法による酸素17標識りん酸の
スペクトル(酸素17パルス幅1μs)の例を示す図。
【図8】本発明の選択観測法による酸素17標識りん酸の
スペクトル(酸素17パルス幅100μsの例を示す図)。
【図9】りん31核磁気共鳴信号検出空間に配置される標
識りん酸、無標識ピロりん酸をともに含む試料管の例を
示す図。
【図10】本発明の選択観測法による、標識りん酸、無
標識ピロりん酸混合試料のスペクトル(受信機位相サイ
クリングなし)の例を示す図。
【図11】本発明の選択観測法による、標識りん酸、無
標識ピロりん酸混合試料のスペクトル(受信機位相サイ
クリングあり)の例を示す図。
【図12】細胞外から投与された酸素17標識無機りん酸
が、細胞内に取り込まれ、りん酸代謝経路を通じてAD
Pと結合してATPが合成されることを示す説明図。
【図13】本発明の選択観測法によるATP合成反応を
含むりん酸代謝系の選択観測と、従来法による観測の説
明図。
【図14】本発明にかかる酸素17標識ポリりん酸化合物
を示す構造式。
【図15】細胞外から投与された酸素17標識ATPが、
細胞内に取り込まれ、りん酸代謝経路を通じてADPと
酸素17標識りん酸に分解されることを示す説明図。
【図16】本発明の選択観測法による、ATP分解反応
を含むりん酸代謝系の選択観測と、従来法による観測の
説明図。
【符号の説明】
1,1'…磁石、2…試料、5…酸素17照射回路、6…
りん31照射回路、7…受信器、8…NMR分光計、10
…酸素17照射コイル、11…りん31照射および検出コイ
ル、15…プローブ、19…切り替え器、29…りん31
第1パルス、30…りん31第2パルス、32、33、4
2、43、52、53、55…待ち時間、34、44、
54…検出期間、35…酸素17第1パルス、36…酸素
17第2パルス、45…非観測核第1パルス、46…非観
測核第2パルス、47…展開期間、57…非観測核第3
パルス、60…ゴムキャップ、61…無標識ピロりん酸
封入ガラス細管、62…酸素17標識りん酸水溶液、63
…ガラス管、、70…細胞外りん酸、71…細胞内りん
酸、72…ADP、73…ATP、75、95…細胞、
80…細胞外りん酸のりん31選択観測NMRスペクトル
の例、81…細胞内りん酸のりん31選択観測NMRスペ
クトルの例、82…ATPガンマ位りん酸のりん31選択
観測NMRスペクトルの例、83、103…従来法で観
測した生体のりん31核磁気共鳴信号スペクトルの例、9
0…細胞外ATP、91…細胞内ATP、92…りん
酸、93…ADP、100…細胞外ATPガンマ位りん
酸基のりん31選択観測NMRスペクトルの例、101…
細胞内ATPガンマ位りん酸基のりん31選択観測NMR
スペクトルの例、102…りん酸のりん31選択観測NM
Rスペクトルの例。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】りん31の核磁気共鳴信号観測において、り
    ん酸基の酸素原子の少なくとも1個を天然存在比より高
    い比率で酸素17標識した酸素17標識りん酸化合物と、天
    然存在比の酸素17を有するりん酸化合物とを含む物を測
    定試料とし、酸素17、りん31のスピンスピン結合に基づ
    く分極移動を経由するりん31核磁気共鳴信号を観測可能
    なパルス系列を用いて、酸素17標識しないりん酸化合物
    に由来するりん31核磁気共鳴信号を消去し、酸素17標識
    されたりん酸基含有化合物に由来するりん31核磁気共鳴
    信号を観測することを特徴とするりん31核磁気共鳴信号
    の選択観測法。
  2. 【請求項2】経時的にりん酸を代謝する生体に対し、酸
    素17標識りん酸化合物を投与して、標識りん酸基に由来
    するりん31核磁気共鳴信号を観測する請求項1記載のり
    ん31核磁気共鳴信号の選択観測法を利用した生体のりん
    酸代謝測定法。
  3. 【請求項3】請求項2記載のりん酸代謝観測法を用い
    て、一定時間に消費される酸素17標識りん酸化合物の量
    をもとに微生物細胞、動植物細胞などの代謝速度を計算
    し、該細胞に供給すべき栄養物の供給速度を制御するこ
    とを特徴とする細胞培養制御法。
  4. 【請求項4】磁気共鳴イメージングあるいは磁気共鳴分
    光法を用いて、酸素17標識りん酸基に由来するりん31核
    磁気共鳴信号を観測する請求項2記載のりん酸代謝観測
    法を利用した生体のりん酸代謝イメージング法。
  5. 【請求項5】りん酸基の酸素原子の少なくとも1個を天
    然存在比より高い比率で酸素17標識した酸素17標識りん
    酸化合物と、天然存在比の酸素17を有するりん酸化合物
    とを含む測定試料を収納する容器、酸素17を磁気的に励
    起するための照射コイル、りん31を磁気的に励起するた
    めの照射コイルおよび観測コイル、それぞれの照射コイ
    ルに所定の周波数の電圧を付与するための照射回路、観
    測コイルを介して得られる試料の核磁気共鳴信号を検出
    するとともに、検出された核磁気共鳴信号に所定の処理
    を施し酸素17標識されたりん酸基含有化合物に由来する
    りん31核磁気共鳴信号を観測する受信器、前記試料およ
    びコイルに所定の磁場を与える手段よりなることを特徴
    とするりん31核磁気共鳴信号の選択観測装置。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP2004508858A (ja) * 2000-09-12 2004-03-25 アメルシャム ヘルス アクスイェ セルスカプ 磁気共鳴映像剤が分極された核スピンを用いる試料の磁気共鳴研究の方法
JP2013148424A (ja) * 2012-01-18 2013-08-01 Nippon Steel & Sumitomo Metal フルオロアパタイトを存在形態とするフッ素の定量方法
JP2015509584A (ja) * 2012-02-10 2015-03-30 ザ・チルドレンズ・メデイカル・センター・コーポレーシヨン Nmrベースの代謝産物スクリーニングプラットフォーム

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