JPH08136556A - スピン偏極走査型トンネル装置および金属界面の評価方法 - Google Patents

スピン偏極走査型トンネル装置および金属界面の評価方法

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JPH08136556A
JPH08136556A JP17170895A JP17170895A JPH08136556A JP H08136556 A JPH08136556 A JP H08136556A JP 17170895 A JP17170895 A JP 17170895A JP 17170895 A JP17170895 A JP 17170895A JP H08136556 A JPH08136556 A JP H08136556A
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probe
sample
spin
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metal
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JP17170895A
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English (en)
Inventor
Miyoko Watanabe
美代子 渡辺
Koichi Mizushima
公一 水島
Teruyuki Konno
晃之 金野
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Toshiba Corp
Original Assignee
Toshiba Corp
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Abstract

(57)【要約】 【目的】 試料表面や異種界面の様々なスピン配列を、
試料のスピン状態を変化させることなく、安定にかつ高
分解能で測定もしくは加工することを可能にしたスピン
偏極走査型トンネル装置を提供する。 【構成】 試料12とその表面と対向配置される探針1
1との間の間隙長および/またはトンネル電流を一定に
保持し、探針11と試料12とを試料表面に沿う方向に
相対的に移動させ、探針11で試料12の表面上を走査
させるスピン偏極走査型トンネル装置において、探針1
1として先端直径が10nm以上の強磁性体、反強磁性体ま
たは半導体からなる探針、あるいは反強磁性体からな
り、かつ先端面が略同一方向に揃ったスピンを有する結
晶面により構成された探針を用いる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面測定、表面処理、
表面加工等に用いられるスピン偏極走査型トンネル装置
と、半導体/金属界面や金属/金属界面を評価する金属
界面の評価方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、固体表面の 1つ 1つの原子を観察
するための装置として、走査型トンネル顕微鏡(以下、
STMと略称する)が用いられている。このSTMは、
先端の尖った導電性の探針で導電性試料の表面上を走査
し、そのときに試料と探針との間に流れるトンネル電流
を測定することによって、試料表面の構造を原子レベル
で測定するものである。
【0003】また、STMの探針として強磁性体を用い
ることによって、試料表面のスピン配列を測定すること
ができ、これはスピン偏極STMと呼ばれている。探針
先端のスピン配列が試料のスピンの向きと同じであると
きに流れるトンネル電流は、スピン偏極がないときの 2
倍になり、互いのスピンの向きが完全に逆であるときの
トンネル電流は 0になることが知られている。従って、
試料表面に同一の原子が配列していて、そのスピンが同
一でない場合においても、トンネル電流の大きさを測定
することによって、試料表面の原子配列だけでなく、ス
ピン配列を測定することができる。また、探針として直
接遷移型の半導体を用い、この探針に円偏光を照射する
ことによっても、探針先端からスピン配列が揃った電子
だけを供給することができる。この場合も、強磁性体探
針を用いた場合と同様に、試料表面のスピンに応じたト
ンネル電流を得ることができる。
【0004】上述したスピン偏極STMは、試料表面の
スピン構造の測定のみに限らず、種々応用することがで
きる。例えば、試料表面のスピン構造を測定した後に、
試料表面の所望位置上に探針を移動させ、探針と試料間
にパルス電圧を印加するか、あるいは機械的に接触させ
ることによって、探針直下のスピン構造を変化させるこ
とも可能である。つまり、スピン加工装置にも応用でき
る。さらには、探針と試料間に気体分子や液体分子が存
在する場合には、印加電圧による電界によりその分子を
試料に吸着させたり、脱離させることができ、これによ
って所望のスピン構造を得ることもできる。すなわち、
表面処理装置としても使用することができる。
【0005】ところで、STMにおいては測定中に分解
能が変化しやすいという問題がある。その原因は、通常
のSTMでは探針先端の原子の安定性にあるとされてお
り、先端原子をいかに安定に保つかが一つの課題とされ
ている。スピン偏極STMでは、探針先端のスピンの安
定性が重要となるが、スピンは原子よりはるかに不安定
であり、安定な探針を得るためには原子の安定性よりは
るかに厳しい条件が必要とされる。さらに、探針のスピ
ン偏極率は、可及的に大きな値が望まれるが、今までの
報告では最高値でも約 30%と低い値しか得られていな
い。このように、従来のスピン偏極STMでは、探針先
端のスピンが不安定であることやスピン偏極率が小さい
こと等に起因して、信頼性の高いスピン偏極STM測定
を行うことができないという問題があった。しかも従来
の室温あるいは高温動作では、スピン偏極STM測定が
不安定になるという問題もあった。
【0006】また、従来のスピン偏極STMでは、探針
が発生する磁界が大きいために、試料表面のスピンが変
化してしまい、測定されるべき試料のスピン状態と異な
った状態で測定されてしまうという問題があった。さら
に、測定される試料表面のスピンの向きは、必ずしも表
面に垂直であるとは限らず、表面に平行であることもあ
る。特に、磁気ディスクを構成する薄膜磁性体の表面ス
ピンは、表面に平行であることが知られている。しか
し、従来のスピン偏極STMでは、表面に垂直なスピン
だけが検出され、垂直からずれた角度のスピンを測定す
ることはできないという問題があった。
【0007】一方他のSTMの応用技術として、最近、
弾道電子放射顕微鏡(Ballistic Electron Emission Mic
roscopy :以下、BEEMと略称する)が開発されてい
る。この技術は、半導体上に金属層を形成した試料と探
針とを対向させて配置し、試料と探針との間に電圧を印
加することによりトンネル電流を試料表面の金属層(ベ
ース層と呼ばれる)に注入し、この金属層を電子がバリ
スティックに通過した後、半導体/金属界面を通って半
導体(コレクタ層と呼ばれる)に注入された電子を測定
することによって、半導体/金属界面の電子状態、具体
的にはショットキー障壁の高さと電子の透過確率をミク
ロに測定するものである。
【0008】従来のヘテロ接合界面の電子状態を測定す
る手段としては、I−V法やC−V法等が知られている
が、これらの空間分解能はmmオーダーであった。BEE
Mの空間分解能は約 5nmであり、界面の状態を実空間で
ミクロに測定、観察することができる唯一の手段である
ため、最近注目を集めている。
【0009】しかし上述した従来のBEEMでは、異種
界面の障壁の高さや電子の透過確率を調べることは可能
であっても、界面のスピンに関する情報を得ることはで
きず、さらにベース層およびコレクタ層共に金属を用い
て金属/金属界面を測定する場合、コレクタ層側からベ
ース層への電子の流れが生じ、事実上測定は不可能にな
るという問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】上述したように、従来
のスピン偏極STM装置においては、探針先端のスピン
が不安定であると共に、スピン偏極率が小さいため、安
定にかつ高い分解能でスピン配列を測定もしくは加工す
ることができないという問題や、探針が発生する磁界に
より試料表面のスピン状態が変化してしまう問題があっ
た。また、室温あるいは高温ではスピン偏極STM測定
が不安定になるというような問題や、さらに表面に垂直
なスピンだけしか測定できないというような問題があっ
た。しかもこれらはスピン状態の測定のみに限らず、表
面加工や表面処理等においても同様に問題となる事項で
ある。
【0011】このようなことから、試料表面や異種界面
の様々なスピン配列を、試料のスピン状態を変化させる
ことなく、安定にかつ高分解能で測定もしくは加工する
ことを可能にしたスピン偏極走査型トンネル装置の出現
が強く望まれている。
【0012】また、従来のBEEMを利用した界面評価
方法においては、金属/金属界面の情報やスピンに関す
る情報を得ることができないという問題があった。本発
明は、上述した問題を解決するためになされたもので、
試料表面や異種界面の様々なスピン配列を安定にかつ高
分解能で測定もしくは加工することを可能にしたスピン
偏極走査型トンネル装置、さらには試料のスピン状態を
変化させることなく、試料表面や異種界面の様々なスピ
ン配列を高分解能で測定もしくは加工することを可能に
したスピン偏極走査型トンネル装置を提供することを目
的としている。また、本発明の他の目的は、半導体/金
属界面や金属/金属界面のスピン状態等を安定にかつ高
分解能で評価することを可能にした金属界面の評価方法
を提供することを目的としている。
【0013】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため
になされた本願第1の発明は、試料の表面と対向配置さ
れる探針と、前記探針と試料との間の間隙長およびトン
ネル電流の少なくとも一方を一定に保持する手段と、前
記探針と試料とを前記試料の表面に沿う方向に相対的に
移動させて前記探針で前記試料の表面上を走査させる走
査手段とを具備するスピン偏極走査型トンネル装置であ
って、前記探針は強磁性体、反強磁性体および半導体の
少なくとも1種からなり、かつ前記探針の先端直径が10
nm以上であることを特徴としている。また本願第2の発
明は、試料の表面と対向配置される探針と、前記探針と
試料との間の間隙長およびトンネル電流の少なくとも一
方を一定に保持する手段と、前記探針と試料とを前記試
料の表面に沿う方向に相対的に移動させて前記探針で前
記試料の表面上を走査させる走査手段とを具備するスピ
ン偏極走査型トンネル装置であって、前記探針は反強磁
性体からなり、かつ前記探針の先端面は略同一方向に揃
ったスピンを有する結晶面により構成されていることを
特徴としている。
【0014】本願第3の発明は、半導体上に少なくとも
2層の金属層を積層した試料と探針とを対向させ、前記
試料と探針との間に電圧を印加し、前記半導体に流れ込
む電流を測定することにより、前記 2層の金属層間の界
面を評価することを特徴とする金属界面の評価方法であ
り、本願第4の発明はこの金属界面の評価方法におい
て、前記探針がスピン偏極されていることを特徴として
いる。さらに本願第5の発明は、半導体上に少なくとも
1層の金属層を積層した試料と探針とを対向させ、前記
試料と探針との間に電圧を印加し、前記半導体に流れ込
む電流を測定することにより、前記半導体と金属層との
界面および前記半導体上に積層された 2層以上の金属層
間の界面の少なくとも1つを評価する金属界面の評価方
法であって、前記試料の表面層となる金属層が強磁性体
金属からなり、前記界面のスピン状態を評価することを
特徴としている。
【0015】なお、本願第1及び第2の発明のスピン偏
極走査型トンネル装置では、前記探針と試料との相対位
置を調整する回転機構等が、探針および試料の少なくと
も一方に対し付設されていてもよい。さらに前記探針
は、探針先端の原子およびスピンの熱的安定化の観点か
ら、冷却装置と接続されていることが望まれる。
【0016】また、本願第3、第4及び第5の発明の金
属界面の評価方法においては、一般的には前記探針で前
記試料の表面上を走査させ、金属界面の状態の空間的変
化が測定される。ここでの探針は、好ましくは先端直径
を10nm以上とするか、あるいは先端面を複数の原子を含
む単一の結晶面により構成する。一方、半導体上に積層
される金属層の合計厚さは、電子の非弾性散乱長以下で
ある20nm以下、さらには10nm以下とすることが好まし
い。
【0017】
【作用】非磁性探針を用いて試料表面の構造を測定する
通常のSTMにおいては、探針先端が鋭く尖っている必
要があり、原子分解能を得るためには、原子 1個で先端
が尖っていなければならない。しかし、スピン偏極ST
Mの場合、探針先端が鋭く尖っていると先端のスピンが
不安定になり、スピン偏極STMの探針として有効に働
かない。つまり、スピン偏極STMでは、通常のSTM
とは異なる探針先端形状が必要となる。
【0018】そこで、本願第1の発明のスピン偏極走査
型トンネル装置においては、強磁性体、反強磁性体また
は半導体からなる探針の先端直径を十分大きくし、具体
的には探針の先端直径を10nm以上として、探針先端のス
ピンを安定化していると共に、十分高いスピン偏極率を
得ている。その結果、スピン偏極STM等において、安
定でかつ高い分解能を得ることができる。さらに、探針
の先端径の大きさによって、探針先端のスピン配列を変
化させることができるため、これによりスピン配列を制
御することができる。
【0019】本願第2の発明のスピン偏極走査型トンネ
ル装置では、探針を反強磁性体で作製すると共に、探針
の先端面を略同一方向に揃ったスピンを有する結晶面に
より構成している。試料表面や界面のスピンを変化させ
ずに測定するためには、試料と磁気的な相互作用の小さ
い探針が必要である。そこで、探針材料に反強磁性体を
用いることによって、探針から発生する磁界が弱くなる
ため、試料との磁気的な相互作用のない探針を得ること
ができる。また、反強磁性体からなる探針の先端面を略
同一方向に揃ったスピンを有する結晶面により構成する
ことによって、探針先端のスピン偏極率を向上させるこ
とができる。従って、安定でかつ高い分解能を得ること
ができる。探針材料として用いる反強磁性体としては、
Cr、Mnまたはこれらの少なくとも 1種を含む合金が例示
される。
【0020】さらに、上述したスピン偏極走査型トンネ
ル装置においては、試料と探針の相対的な角度を調整す
ることが可能な回転機構等を、探針および試料の少なく
とも一方に付設すれば、試料と探針との角度を変化させ
てスピン偏極率を測定することが可能となる。その結
果、試料のスピン構造を最も高感度に測定することが可
能な相対位置を設定することができ、かつ試料のスピン
方向によらずに、スピン偏極率を測定することもでき
る。
【0021】また本発明のスピン偏極走査型トンネル装
置においては、探針を冷却装置と接続することで、探針
先端の原子およびスピンの動きを鈍くすることができ、
ひいては、探針先端の原子およびスピンを熱的に安定化
することができる。従って、スピン偏極STM測定等を
より一層安定して行うことが可能となる。
【0022】本願第3の発明の金属界面の評価方法で
は、半導体/金属界面および金属/金属界面の両方を反
映した電流(コレクタ電流またはBEEM電流と呼ばれ
る)が半導体に流れ込み、このコレクタ電流を容易に測
定することができる。ここで、コレクタ層として用いる
半導体と金属層との間に生じるショットキー障壁のため
に、コレクタ層からベース層への電子の流れは十分に抑
えられる。従って、半導体上に 1層の金属層、あるいは
所望の金属/金属界面を含まない 2層以上の金属層を積
層したときのコレクタ電流を別途測定しておけば、半導
体上に所望の金属/金属界面を含む 2層以上の金属層を
積層した試料について測定されるコレクタ電流と比較す
ることで、所望の金属/金属界面の状態を評価すること
が可能となる。そして、本願第4の発明の金属界面の評
価方法は、特にスピン偏極された探針を用いることによ
って、金属/金属界面のスピン状態を評価するものであ
る。このとき、 2層以上の金属層のうちいずれかが磁性
金属薄膜であることが好ましい。こうした本発明の金属
界面の評価方法では、BEEMで半導体/金属界面を評
価する場合と同様、ナノメートルオーダーの高い分解能
を得ることができる。
【0023】また、上述した金属界面の評価方法におい
て、金属/金属界面の特性を測定するためには、電子が
金属ヘテロ界面を通過し、さらに金属/半導体界面を通
過する確率を大きくする必要がある。ここで、金属層の
合計厚さが厚過ぎると、半導体まで到達する電子は大幅
に減少し、実用的な測定が困難となる。これに対して
は、少なくとも 2層の金属層の合計厚さを20nm以下とす
れば、金属/金属界面および金属/半導体界面を通過し
た電子を実用的に測定することが可能となる。なお、最
表面の金属層の厚さは数nm以下であることが望ましい。
【0024】本願第5の発明の金属界面の評価方法で
は、試料の金属層のうち、表面層となる金属層を強磁性
体金属により構成している。このような試料に探針から
トンネル電流を注入すると、表面の強磁性体金属層にお
いてはスピンの向きにより状態密度に差があるため、こ
の層を通過する電子は強磁性体の磁気方向に従ってスピ
ン偏極が生じる。この場合、通常のスピン偏極STMの
ように、探針先端のスピン状態を制御する必要はなく、
導電性を有する材料であれば種々の材料を探針として使
用することができる。従って、スピン状態を制御した探
針を用いることなく、スピン偏極STMと同様の測定等
を行うことができる。
【0025】すなわち、強磁性体金属層を通過する電流
量を一定にすることにより、コレクタ電流は電子がコレ
クタ層に到達する過程に存在する界面におけるスピン偏
極状態を敏感に反映することになる。このとき、コレク
タ層として用いる半導体と金属層との間に生じるショッ
トキー障壁のために、コレクタ層からベース層への電子
の流れは十分に抑えられる。従って、コレクタ電流を測
定することによって、界面におけるスピン偏極準位を観
察、評価することができる。しかも、分解能はナノメー
トルオーダーであり、従来にない高い分解能で半導体/
金属界面や金属/金属界面のスピン偏極特性を測定する
ことが可能となる。
【0026】また、本発明の金属界面の評価方法では、
2層以上の金属層のうちいずれかを好ましくは磁性金属
薄膜としたうえで、試料に磁場を印加したときのコレク
タ電流を測定してもよい。これにより、試料のスピン状
態の変化に応じて、金属/金属界面または金属/半導体
界面での電子の透過確率を求めることができる、なお、
本発明の金属界面の評価方法においては、分解能や界面
測定の安定性を高めるために、探針先端の原子やスピン
の安定化およびスピン偏極率の向上を図ることが好まし
い。このためには、上述した本願第1及び第2の発明の
スピン偏極走査型トンネル装置における技術、すなわち
探針先端の大径化や反強磁性体からなる探針、さらには
試料と探針の相対的な角度調整や探針の冷却等を適用す
ることができる。具体的に、探針先端のスピンを安定化
させるためには、例えば先端面を複数の原子を含む単一
の結晶面により構成するか、あるいは探針の先端直径を
10nm以上とすることが望ましい。さらに、探針を強磁性
体により構成することにより、探針から真空中をトンネ
ルして試料界面に到達する電子の数を多くすることがで
きる。ただし、試料の磁化状態が不安定な場合には、反
強磁性体からなる探針を用いることが好ましい。
【0027】ここで探針先端の大径化については、もと
もとBEEMの空間分解能は、通常のSTMで試料表面
の構造を測定する場合と異なり、金属層を通過する際電
子の試料面内方向への広がりが生じるため、探針の先端
径を細くしても 5nmが限界である。従って、探針先端を
多少大径化しても測定分解能を低下させることはない。
しかも微小径の探針を用いたBEEMでは、電子はその
多くが表面の金属層内までしか流れず、下層の半導体層
まで到達するのは僅か数% 程度に過ぎない。このため、
BEEMとしての信号が小さく、その結果感度が低いと
いう傾向があるものの、単にトンネル電流を大きくした
のでは、局所的に高電場が生じ、試料表面を変化させる
おそれがある。これに対し、先端面を複数の原子を含む
単一の結晶面により構成した探針や先端直径10nm以上の
探針は、小さい電流密度で大きなトンネル電流を流すこ
とができる点でも有効である。
【0028】
【実施例】以下、本発明の実施例について図面を参照し
ながら説明する。 実施例1 図1は、本発明のスピン偏極走査型トンネル装置を適用
した一実施例のスピン偏極STMの概略構成を示す図で
ある。同図において、1は 3つの真空室を有する超高真
空装置であり、 3つの真空室のうち、10はスピン偏極
STM室、20は試料準備室、30は探針先端の加工評
価を行う電界イオン顕微鏡(以下、FIMと略称する)
室である。これら 3つの真空室間は、ゲートバルブ2、
3を介して接続されている。
【0029】スピン偏極STM室10には、探針11と
試料12とが対向して配置されている。探針11は、例
えばサファイアからなる探針ホルダ13に保持されてい
ると共に、液体Heが貯蔵された冷却装置14により、例
えば 10K程度に冷却可能とされている。探針ホルダ13
は、図示を省略したピエゾ素子に固定され、測定位置で
3次元駆動可能とされていると共に、図示を省略したス
テッピングモータにより粗動可能とされており、これら
により探針11を試料12に十分近づけて探針11で試
料12の表面上を走査させることができる。
【0030】探針11と試料12間には、バイアス電源
15により所定の電圧を印加することができ、また探針
11と試料12間に流れるトンネル電流は電流計16に
より計測される。探針11と試料12との間の間隙長、
または電流計16により計測されるトンネル電流は、例
えば図示を省略したサーボ回路等により一定に保持され
る。
【0031】試料準備室20には、探針11や試料12
を超高真空装置1に導入するためのゲートバルブ4が設
置されていると共に、図示を省略したが、試料12に加
熱、スパッタ、蒸着等による前処理を施す装置が設置さ
れている。また、FIM室30にはアルミニウム製探針
ホルダ31と、タンデム型のチャンネルプレート(スク
リーン)32とが対向配置されており、またFIM室3
0に搬送された探針11に例えば 1kV以上の高電圧を印
加する高電圧電源33が配置されている。これらからな
るFIMにより、FIM室30は探針11先端の原子配
置等の加工や評価を行うことが可能なように構成されて
いる。FIM室30を設置することにより、探針11と
試料12のスピンの方向を揃えることができ、よってF
IM室30は分解能の向上に寄与するものである。
【0032】この実施例においては、探針11として先
端表面を (100)面としたCr探針(反強磁性探針)を用い
ると共に、試料12として表面を (100)面としたCr単結
晶試料を用いた。Cr単結晶試料12は、まず試料準備室
20にてArイオンスパッタと1173Kの熱処理を 1週間に
亘って繰り返し、表面汚染層を除去した後、スピン偏極
STM室10に導入した。このときのスピン偏極STM
室10の真空度は 8×10-9Paであった。
【0033】また、Cr探針11としては、直径 0.3mmの
軸の先端に垂直方向に (100)面が表出した単結晶ワイヤ
を設けたものを探針ホルダ13に挿入した状態で、10%H
Cl溶液を用いてdc10mVの印加電圧で電解研磨して探針状
にしたものを使用した。
【0034】上記Cr探針11を、まず試料準備室20を
通ってFIM室30に導入し、FIMで電圧を 9kV印加
して表面汚染層を除去し、bcc(100)面を確認した後、探
針11先端の原子を 1個残した段階で電界を下げて、先
端原子 1個の探針11に加工した。その後、Cr探針11
を試料準備室20を経由してスピン偏極STM室10に
導入し、スピン偏極STM測定を行った。このときの条
件は、バイアス電圧を試料12に -0.1V印加し、トンネ
ル電流は 1nAの定電流モードとした。また、Cr単結晶試
料12へのバイアス電圧を +0.1Vとした場合も測定した
が、全く同じ結果が得られた。スピン偏極STM測定で
は、Cr単結晶試料12の (100)面のステップが観察され
た。その結果(STM像)を図2に模式的に示す。そし
て、 2種類のステップ高さの違いからCr探針11のスピ
ン偏極率を求めた。
【0035】次に、Cr探針11を再びFIM室30に戻
して約 9kVの高電圧を印加し、Cr探針11の先端表面の
1層だけを電界蒸発させた後、スピン偏極STM室10
に再度搬送してスピン偏極STM測定を行った。このよ
うに、表面 1層を順次蒸発させながら、スピン偏極率を
測定した。表面 5層を蒸発させたところで、Cr探針11
を試料準備室20を経由して大気中に取り出し、10分以
内に透過型電子顕微鏡の試料としてセットし、Cr探針1
1の先端形状を観察した。このときの観察結果の 1例を
図3に模式的に示す。この例では先端の直径は約20nmで
あった。なお、本発明で言う探針11の先端直径とは、
探針先端径を円で近似させた場合の直径を指すものであ
る。
【0036】次いで、Cr探針11を再び試料準備室20
を経由してFIM室30に搬送し、FIMで電圧を10kV
印加して表面汚染層を除去し、bcc(100)面を確認した
後、Cr探針11の先端原子を 1個残した段階で電界を下
げて、先端原子 1個のCr探針11に加工した。その後、
Cr探針11を試料準備室20を経由してスピン偏極ST
M室10に導入し、上述した測定と同じ条件でスピン偏
極STM測定を行い、表面 5層までを 1層ずつスピン偏
極STM観察すると共に、透過型電子顕微鏡で先端径を
測定する上記のプロセスを繰り返し行った。以上のこと
を、FIMの電圧を 1kVずつ増加させて12kVになるまで
繰り返した。その結果をCr探針11の先端直径とスピン
偏極率との関係として図4に示す。 1つの先端径で 5層
測定したために 5点の測定点がある。
【0037】それぞれ 5点の測定点で 3点と 2点が正負
のスピン偏極値に分かれ、また絶対値はほぼ同じ値にな
っているのが分かる。これは、 Cr(100)探針11の先端
表面が 1層蒸発するたびに、スピンの向きが逆になるた
めと考えられる。Cr探針11の先端直径が10nm未満では
スピン偏極率は 10%以下であるのに対し、先端直径が10
nm以上のCr探針11ではスピン偏極率が 30%を超えてい
る。また、先端直径が20nm以上ではスピン偏極率が 60%
を超え、さらに高い分解能のスピン偏極率としては 88%
が得られた。この結果から、反強磁性体であるCr探針1
1で先端直径を10nm以上にすれば、安定に高い分解能が
得られることが分かる。
【0038】以上の測定結果は、全てCr探針11を室温
状態として得られたものである。次いで、液体Heによる
冷却装置14を用いて、Cr探針11を冷却しつつスピン
偏極STM測定を行い、その結果からスピン偏極率を求
めたところ、 95%という高い値が得られた。これは、Cr
探針11先端の原子とスピンが熱的に安定になり、高い
偏極率が得られたものと考えられる。
【0039】上記実施例は、反強磁性体であるCrからな
る探針11を用いた例であるが、Mn等の他の反強磁性体
やNi、Fe、Co、 CrO2 等の強磁性体を用いた探針におい
ても、その先端直径を10nm以上とすることにより、安定
に高い分解能を得ることができた。さらに、GaAs、AlGa
As、 InGaP、 InGaAlP、InSb、 PbS、 GaAsP、 InP等の
直接遷移型半導体からなる探針を用い、偏光照射により
スピン偏極された電子を注入する場合においても、先端
直径を10nm以上とすることは有効であった。ただし、試
料との磁気的な相互作用を考慮する必要がある場合に
は、反強磁性体からなる探針を用いることが好ましい。
また、より大きな信号が必要な場合には、強磁性体から
なる探針が有効である。 実施例2 図5は、本発明のスピン偏極走査型トンネル装置を適用
した他の実施例のスピン偏極STMの概略構成を示す図
である。なお、図1に示す装置と同一部分については同
一符号を付して説明を省略する。図5に示すスピン偏極
STMにおいては、ステンレス製探針ホルダ13に回転
導入器17が接続されており、試料12に対して探針1
1を 2つの方向(試料表面に水平な 2方向)に回転可能
とされている。また、FIM室30に設置された探針ホ
ルダ31は、冷凍器34に接続されている。
【0040】この実施例においては、探針11として先
端表面を (100)面としたCr探針(反強磁性探針)を用い
ると共に、試料12として Si(111)基板上にCrを抵抗加
熱で10nm蒸着したものを用いた。
【0041】ここでCr蒸着膜試料12は以下のようにし
て準備した。まず Si(111)基板を試料準備室20で723K
×10時間+ 1473K× 5秒の条件で熱処理した。次いで、
スピン偏極STM室10に搬送し、室温でSTM観察し
て 7×7 構造を確認した後、再び試料準備室20に戻し
た。そこで、Crの多結晶を抵抗加熱で蒸発させ、Si基板
上に10nm蒸着してCr蒸着膜試料12とした。
【0042】また、Cr探針11としては、直径 0.3mmの
軸の先端に垂直方向に (100)面が表出した単結晶ワイヤ
を設けたものを探針ホルダ13に挿入した状態で、50%H
Cl溶液と50%HNO3 溶液との混合液を用いて ac5mVの印加
電圧で電解研磨して探針状にしたものと、40%HCl溶液に
ac10mVを印加して電解研磨して探針状にしたものとを使
用した。
【0043】これらのCr探針11を、まず試料準備室2
0を経由してFIM室30に導入し、約 10Kに冷却した
状態でFIMで 7kVの電圧を印加して表面汚染層を除去
してbcc(100)面を確認した後、Cr探針11先端の原子を
1個残した段階で電界を下げて、先端原子 1個の探針1
1に加工した。その後、探針11が室温に戻るのを待っ
て、試料準備室20を経由してスピン偏極STM室10
に導入し、スピン偏極STM測定を行った。このときの
条件は、トンネル電流は 2nAで、定高さモードと定電流
モードの両方とした。また、試料へのバイアス電圧を -
0.2Vから +0.2Vの間で変化させたが、いずれのバイアス
でも安定に測定できた。バイアス電圧が-0.05Vで、トン
ネル電流が 2nAでの典型的なSTM像を図6に示す。
【0044】この表面は、後に測定されたX線回折から
多結晶であることが判明したが、表面はCr (110)面であ
ることが分かった。またここでの測定では、Cr (110)面
のステップだけでなく、原子像も観測された。さらには
原子の 2種類の高さが観察されたことから、スピン像を
観測したものと推測された。このときのSTM像の平坦
部分の 1走査ラインを図7に示した。
【0045】以上の測定を探針11を回転させながら繰
り返した。 1方向に回転させた時の回転角と図7の 2種
類のピークの差とをプロットしたのが図8である。回転
角が10度の点でピークの差は最大となり、またこの点か
らずれるとピークの差は小さくなっていることが分か
る。この結果から、回転角が10度のところで、Cr探針1
1の先端スピンと試料12のスピンの向きが同じになっ
たものと考えられる。またこのことは、最初のアプロー
チの時点でCr探針11の先端スピンと試料12表面スピ
ンとは10度ずれていたことも示している。さらに、この
最大ピークの大きさから求めたスピン偏極率は 75%であ
った。また、このときに用いたCr探針11を試料準備室
20を経由して大気中に取り出し、10分以内に透過型電
子顕微鏡の試料としてセットし、先端形状を観察したと
ころ、先端直径は約20nmであった。一方、先端直径が 5
nmのCr探針を用いて、上記と同様の測定を行った場合に
は、図7に示した 2種類のピークは全く観測されなかっ
た。このことは、薄膜表面のスピンの向きと同じスピン
の向きを持つ探針11を得るためには先端径を大きくす
る必要があることを示している。
【0046】上記実施例は、反強磁性体であるCrからな
る探針11を用いた例であるが、Mn等の他の反強磁性体
やNi、Fe、Co、 CrO2 等の強磁性体を用いた探針におい
ても、その先端直径を10nm以上とすることにより、安定
に高い分解能を得ることができた。さらに、GaAs、AlGa
As、 InGaP、 InGaAlP、InSb、 PbS、 GaAsP、 InP等の
直接遷移型半導体からなる探針を用い、偏光照射により
スピン偏極された電子を注入する場合においても、先端
直径を10nm以上とすることは有効であった。ただし、試
料との磁気的な相互作用を考慮する必要がある場合に
は、反強磁性体からなる探針を用いることが好ましい。
また、より大きな信号が必要な場合には、強磁性体から
なる探針が有効である。
【0047】なお、上述した実施例では、探針11と試
料12間の角度を変化させる回転機構を探針側に設置し
た例について説明したが、回転機構は探針側および試料
側のどちらに設けてもよい。また本実施例では回転導入
器を用いたが、これに代わる回転機構でも構わない。
【0048】さらに、上述した実施例においては、冷却
機構としてスピン偏極STM室10では液体Heを用いた
冷却装置14、FIM室30では冷凍器34を用いた
が、これらが逆であっても、あるいは他の冷却機構であ
ってもよいし、どちらか 1つの冷却機構の設置でもよ
い。また、上述した 2つの実施例では超高真空での動作
を示したが、大気中、ガス中および溶液中で動作させて
も構わない。STMの測定条件も正負どちらかのバイア
ス値でも構わないし、トンネル電流の値がいくつであっ
てもよい。かつ、ここではバイアス印加が試料側、トン
ネル電流測定が探針側で行われているが、これが逆であ
ってもよい。 実施例3 図9は、本発明の金属界面の評価方法を実施するために
用いた界面評価装置の一例を示す概略構成図である。同
図において、70は測定室、18はコレクタ電流を計測
するための電流計である。なお、図1に示す装置と同一
部分については同一符号を付して説明を省略する。
【0049】この実施例においては、探針11として先
端表面を (110)面とした W探針を用いると共に、試料1
2として Si(100)基板5上にAu層6、Ag層7を順次積層
したものを用いた。
【0050】まず、直径 0.3mmの多結晶 WワイヤをNaOH
水溶液を用いた電解研磨により針状に加工して探針11
とした。次いでこれを探針ホルダ13に固定して、超高
真空装置1のFIM室30内に導入し、FIMで観察し
たところ (110)面が観察されたので、探針11の先端原
子を電界蒸発させることによって、先端に直径約 1nmの
(110)原子面のテラスを形成した。この後、探針11を
真空度 1×10-8Paの試料準備室20を通って超高真空中
を搬送し、真空度 9×10-9Paの測定室70の測定位置に
固定した。
【0051】次に、試料12を以下のようにして準備し
た。まず、厚さ0.35mm、抵抗率約 100Ωcmの n型Si基板
5をフッ酸に浸漬することにより表面の酸化膜を除去す
ると共に、裏面にAuSbを蒸着し、473Kでアニールしてオ
ーム性接触を形成した。これを 3mm× 5mmの大きさに切
断し、再度フッ酸で処理した後、直ちに銀ペースト8を
広く塗った試料台9上に固定し、銀ペースト8部分から
電極をとって超高真空装置1の試料準備室20に導入し
た。このSi基板5上に、Auを 4nm電子ビーム蒸着で積層
し、先端にInを付けた直径 0.1mmのAuワイヤをAu層6の
表面に押しつけて電極をとった。
【0052】この試料を測定室70に搬送し、探針11
を近付けてBEEM測定を行った。すなわち、探針11
にバイアス電源15から負電圧を印加してトンネル電流
を 5nA流し、電流計16に現れるトンネル電流を一定に
保つように、探針11と試料12間の距離を調整しなが
ら電圧を変化させ、電流計18に流れるコレクタ電流を
測定した。従来のBEEMにおいては、流すことのでき
るトンネル電流は 1nA前後にとどまっており、それと比
較してこの実施例では非常に大きなトンネル電流を流す
ことが可能となったのは、探針11先端をテラス状に加
工したことによる効果である。なおこのとき、電圧を -
0.1Vから -1.8Vまで変化させる間、探針11は試料表面
に平行な方向には動かさないようにした。これを 1サイ
クルとし、試料表面の 1点に対して 3サイクル測定した
後、次の測定点に探針11を移動させ、同様の操作を行
うという手順を繰り返した。
【0053】さらに、探針11への印加電圧を -1.5Vと
し、電流計16に現れるトンネル電流を 5nAに固定し、
試料表面の20nm×20nmの領域を 2次元的に走査した。こ
のときの探針11の位置と電流計18で測定されるコレ
クタ電流値を同時にモニターすることによって、通常の
STMの定電流モードによる試料表面の像(STM像)
と、コレクタ電流の変化による像(コレクタ像)を同時
に得た。得られた像のうち、コレクタ像では 1pA以上の
空間変化が認められず、Au/Si界面の状態が均一である
ことが分かった。
【0054】次に、探針11を一旦遠ざけて、試料12
を試料準備室20まで搬送し、試料表面に厚さ 3nmのAg
層7を積層した後、再び測定室70に搬送し、探針11
を近づけて、まずAg層7の積層前に行ったのと同様の測
定を行った。図10にAg層7を積層する前後の測定結果
を示す。図10中、破線63はAg層7を積層する前、実
線64はAg層7を積層した後のコレクタ電流と電圧との
関係である。両測定結果共に、探針11への印加電圧が
-0.8V付近から電流が流れはじめており、この値はSi基
板5とAu層6の界面に生じたショットキー障壁の高さを
表している。また、電流値は印加電圧の増加に従って大
きくなっていくが、Ag層7を積層した後の電流値の方が
小さくなっている。これは、Ag/Au界面の影響であり、
ここからAg/Au界面における電子の透過確率を求めるこ
とも可能である。
【0055】さらに、探針11への印加電圧を -1.5Vと
し、電流計16に現れるトンネル電流を 5nAに固定し、
Ag層7積層後の試料12の表面を 2次元的に走査した。
このときの探針11の位置と電流計18で測定される電
流値を同時にモニターすることによって、STM像とコ
レクタ像を同時に得た。図11と図12は得られた像を
模式的に示す図であり、図11がSTM像、図12が同
時に得られたコレクタ像である。
【0056】ここでは、ナノメートルオーダーの分解能
で像が得られており、かつ図12では図11に現れてい
ない段差が認められる。この段差の両側でコレクタ電流
は約4pA異なり、これはAg/Au界面の状態の違いを反映
したものと考えられる。
【0057】なお、上記実施例では W探針を用いた例に
ついて説明したが、それ以外にPt、Ag、Al等の金属単体
やPtIrをはじめとする合金等、導電性を有するものであ
れば何でもよく、先端面も (110)面に何ら限定されな
い。さらに先端形状を上述のように加工しない場合で
も、得られる電流値は小さくなるが測定は可能である。
探針と試料表面の間に与える電圧についても、探針側を
負電圧にするだけでなく、正電圧にした場合についても
測定を行うことができる。探針の粗動機構はステッピン
グモータだけでなく、インチワームやラウス等の粗動機
構としての機能を持つものであればよい。このとき粗動
および微動共に、探針だけでなく試料側を動かすことで
実現することも可能である。
【0058】試料については、上述の実施例では基板と
してn型Si基板を用いたが、GaAs、AlGaAs、InSb等の種
々の半導体が使用可能であり、複数の半導体層を有する
ものであっても差支えない。また、上記実施例では超高
真空中での測定を示したが、大気中、ガス中、溶液中で
あってもよいし、室温下でなく冷却下や加熱下で測定を
行ってもよく、このとき測定中に温度条件を変化させて
も構わない。さらに探針で試料表面上を 2次元的に走査
させる際、測定点ごと電圧を変化させてコレクタ電流を
測定すれば、各点でのコレクタ電流と電圧との関係やコ
レクタ像の電圧依存性についての測定結果を得ることも
できる。 実施例4 図13は、本発明の金属界面の評価方法を実施するため
に用いた界面評価装置の他の例を示す概略構成図であ
る。同図において、19は試料に所定の方向の磁場を適
宜印加するために設けられた電磁石である。なお、図1
に示す装置と同一部分については同一符号を付して説明
を省略する。
【0059】この実施例においては、探針11として先
端表面を (110)面とした W探針を用いると共に、試料1
2として Si(100)基板5上にAu層21、Co層22、Ag層
23Co層24を順次積層したものを用いた。
【0060】まず、直径 0.3mmの多結晶 Wワイヤを KOH
水溶液を用いた電解研磨により針状に加工して探針11
とした。次いでこれを探針ホルダ13に固定して、超高
真空装置1のFIM室30内に導入し、FIMで観察し
たところ (110)面が観察されたので、探針11の先端原
子を電界蒸発させることによって、先端に直径約 1nmの
(110)原子面のテラスを形成した。この後、探針11を
真空度 1×10-8Paの試料準備室20を通って超高真空中
を搬送し、真空度 9×10-9Paの測定室70の測定位置に
固定した。
【0061】次に、試料12を以下のようにして準備し
た。まず、厚さ0.35mm、抵抗率約50Ωcmの n型Si基板5
をフッ酸に浸漬することにより表面の酸化膜を除去する
と共に、裏面にAuSbを蒸着し、473Kでアニールしてオー
ム性接触を形成した。これを3mm× 5mmの大きさに切断
し、再度フッ酸で処理した後、直ちに銀ペースト8を広
く塗った試料台9上に固定し、銀ペースト8部分から電
極をとって超高真空装置1の試料準備室20に導入し
た。このSi基板5上に、Auを 2nm、Coを 2nm、Agを 3n
m、Coを 2nm順次電子ビーム蒸着で積層し、先端にInを
付けた直径 0.1mmのAuワイヤをCo層24の表面に押しつ
けて電極をとった。
【0062】この試料を超高真空を保ったまま測定室7
0に搬送し、探針11を近付けてBEEM測定を行っ
た。すなわち、探針11にバイアス電源15から負電圧
を印加してトンネル電流を 5nA流し、電流計16に現れ
るトンネル電流を一定に保つように、探針11と試料1
2間の距離を調整しながら電圧を変化させ、電流計18
に流れるコレクタ電流を測定した。従来のBEEMにお
いては、流すことのできるトンネル電流は 1nA前後にと
どまっており、それと比較してこの実施例では非常に大
きなトンネル電流を流すことが可能となったのは、探針
11先端をテラス状に加工したことによる効果である。
なおここで、電圧を -0.1Vから -1.8Vまで変化させる
間、探針11は試料表面に平行な方向には動かさないよ
うにした。さらにこのような測定に続き、電磁石19に
電流を流し試料表面と平行な方向に約150ガウスの磁場
を印加したうえで同様の測定を行った後、磁場の印加を
停止して次の測定点に探針11を移動させ、同様の操作
を行うという手順を繰り返した。
【0063】図14に試料12への磁場の印加前後の測
定結果を示す。図14中、破線63は磁場を印加する
前、実線64は磁場を印加した後のコレクタ電流と電圧
との関係である。ここでは、試料12に磁場を印加した
後の電流値が大きくなっており、これより2つのCo層2
2、24における電子のスピンの向きが、磁場印加前に
は互いに略反平行、磁場印加後は互いに略平行であるこ
とが分かる。
【0064】さらに、試料12に磁場を印加しない場
合、約50ガウスの磁場を印加した場合、約 150ガウスの
磁場を印加した場合のそれぞれについて、探針11への
印加電圧を -1.5Vとし、電流計16に現れるトンネル電
流を 5nAに固定し、試料表面の20nm×20nmの領域を 2次
元的に走査した。このときの探針11の位置と電流計1
8で測定されるコレクタ電流値を同時にモニターするこ
とによって、通常のSTMの定電流モードによる試料表
面の像(STM像)と、コレクタ電流の変化による像
(コレクタ像)を同時に得た。図15、図16、図17
および図18は得られた像を模式的に示す図であり、図
15がSTM像、図16、図17および図18が同時に
得られたコレクタ像である。なお図16、図17および
図18は、それぞれ試料12に磁場を印加しない場合、
約50ガウスの磁場を印加した場合、約150ガウスの磁場
を印加した場合のコレクタ像であり、全てナノメートル
オーダーの分解能で像が得られている。
【0065】ここでSTM像については、いずれの場合
でも図15に示されるような全く同様の結果となった。
一方、各コレクタ像では試料における界面の状態の違い
を反映して、STM像には現れていない段差が認められ
る。さらに図17では、図16及び図18には現れてい
ない段差も認められ、これより2つのCo層22、24に
おける電子のスピンの向きの磁場応答性が、段差の両側
で異なることが分かる。
【0066】なお、上記実施例では W探針を用いた例に
ついて説明したが、それ以外にPt、Ag、Al等の金属単体
やPtIrをはじめとする合金等、導電性を有するものであ
れば何でもよく、先端面も (110)面に何ら限定されな
い。さらに先端形状を上述のように加工しない場合で
も、得られる電流値は小さくなるが測定は可能である。
探針と試料表面の間に与える電圧についても、探針側を
負電圧にするだけでなく、正電圧にした場合についても
測定を行うことができる。探針の粗動機構はステッピン
グモータだけでなく、インチワームやラウス等の粗動機
構としての機能を持つものであればよい。このとき粗動
および微動共に、探針だけでなく試料側を動かすことで
実現することも可能である。一方、試料への磁場の印加
に当っては、電磁石以外の手段が使用されてもよいし、
磁場を印加する方向も試料表面と平行な方向に何ら限定
されない。また電磁石に流す電流の向きを反転させる
か、あるいは回転機構等を付設することで、試料に印加
される磁場の向きを変えて測定を行うことも可能であ
り、さらには、磁場の大きさを例えば連続的に変化させ
ながら測定を行うこともできる。
【0067】試料については、上述の実施例では基板と
してn型Si基板を用いたが、GaAs、AlGaAs、InSb等の種
々の半導体が使用可能であり、複数の半導体層を有する
ものであっても差支えない。また、上記実施例では超高
真空中での測定を示したが、大気中、ガス中、溶液中で
あってもよいし、室温下でなく冷却下や加熱下で測定を
行ってもよく、このとき測定中に温度条件を変化させて
も構わない。さらに探針で試料表面上を 2次元的に走査
させる際、測定点ごと電圧を変化させてコレクタ電流を
測定すれば、各点でのコレクタ電流と電圧との関係やコ
レクタ像の電圧依存性についての測定結果を得ることも
できる。 実施例5 図19は、本発明のスピン偏極走査型トンネル装置を適
用した一実施例のスピン偏極界面磁性測定装置41の概
略構成を示す図である。なお、図1に示す装置と同一部
分については同一符号を付して説明を省略する。
【0068】図19に示すスピン偏極界面磁性測定装置
41においては、半導体上に 2層の金属層を合計厚さが
20nm以下となるように積層形成した試料42が用いられ
ている。また、探針11と試料42間に所定の電圧を印
加するバイアス電源15および探針11と試料42間に
流れるトンネル電流を計測する電流計16とは別に、探
針11から試料42の半導体に流れ込む電流を計測する
電流計43が設けられている。なお、他の構成について
は、図1に示したスピン偏極STMと同一構成とされて
いる。この実施例においては、探針11として先端表面
を (100)面としたCr探針(反強磁性探針)を用いると共
に、試料42として厚さ 0.2mmのSi(111)基板上に厚さ
1nmのCr層と厚さ 1nmのFe層を順にMBE法で成長させ
たものを用いた。
【0069】上述したようなスピン偏極界面磁性測定装
置41を用いて、以下のようにして金属/金属界面のス
ピン状態を評価した。まず、Fe/Cr/Siの積層膜試料42
は、MBE装置から取出した後、 2時間以内に試料準備
室20に導入して、試料準備室20においてArイオンス
パッタと873Kの熱処理を 5時間に亘って繰り返して表面
汚染層を除去し、スピン偏極STM室10に導入した。
このときのスピン偏極STM室10の真空度は 8×10-9
Paであった。
【0070】また、Cr探針11としては、直径 0.3mmの
軸の先端に垂直方向に (100)面が現れたCr単結晶ワイヤ
が設けられたものを探針ホルダ13に挿入した状態で、
10%HCl溶液を用いてdc10mVの印加電圧で電解研磨して探
針状にしたものを使用した。
【0071】上記Cr探針11を、まず試料準備室20を
経由してFIM室30に導入し、FIMで電圧を 9kV印
加して表面汚染層を除去し、bcc(100)面を確認した後、
Cr探針11先端の原子を 1個残した段階で電界を下げ
て、先端原子 1個のCr探針11に加工した。その後、こ
のCr探針11を試料準備室20を経由してスピン偏極S
TM室10に導入し、スピン偏極BEEM測定を行っ
た。このときの条件は、バイアス電圧を積層膜試料42
に1.5V印加し、トンネル電流は 0.5nAで定電流モードと
し、積層膜試料42のSi基板からの電流を電流計43で
信号として計測した。
【0072】このスピン偏極BEEM測定では、 100nm
× 100nmの表面を観察した。その結果を図20に示す。
電流計16で計測された電流の値は 0.5nAであったが、
電流計43で計測された電流の平均値は40pAであった。
図20はその電流計43で計測された電流値を信号とし
て表したものである。
【0073】次に、積層膜試料42をスピン偏極STM
室10の超高真空状態に配置した儘の状態で、多結晶の
Reから作製した探針11を用いて同様の測定を行った。
まず、FIM室30でRe探針先端の結晶面が(112(バ
ー)0)であることを確認し、先端に原子 1個を残した状
態で、スピン偏極STM室10に導入して、スピン偏極
BEEM測定を行った。このときの条件は上述したCr探
針11を用いたときと同一とし、積層膜試料42に1.5V
のバイアス電圧を印加し、トンネル電流は 0.5nAで定電
流モードであった。この際のBEEM像を図21に示
す。図20で観察されたパターンは全く観察されていな
い。
【0074】さらに、他の試料として Cr/Si試料を用い
て同様な測定を行った。試料の作製法はFe/Cr/Si試料と
同様とし、Crの厚さは 2nmとした。試料の処理もFe/Cr/
Si試料と同一条件で行った。Fe/Cr/Si試料測定で用いた
Cr探針を用いて、スピン偏極BEEM測定を行った。こ
のとき条件はバイアス電圧を試料に1.5v印加し、トンネ
ル電流は 0.5nAで定電流モードとし、 Cr/Si試料のSi層
からの電流を信号として計測した。 100nm× 100nmの表
面を観察し、その結果を図22に示す。
【0075】図22にも図20で見られたパターンが観
察されていないことから、図20のパターンは Fe/Cr界
面(金属/金属界面)のスピン配列を反映しているもの
と考えられる。なお、上述したCr探針11によるFe/Cr/
Siの積層膜試料42の測定後に、Cr探針11を試料準備
室20を経由して大気中に取出し、10分以内に透過型電
子顕微鏡の試料としてセットして、Cr探針11の先端形
状を観察した。その際の一例を図23に模式的に示す。
この例では、Cr探針11の先端直径は約30nmであった。
【0076】以上の測定結果は、全て探針11を室温の
状態として得られたものである。以上の測定の後、液体
Heによる冷却装置14を用いて、Cr探針11を冷却して
スピン偏極BEEM測定を行ったところ、図20に示し
た像と類似した像がより明瞭に観測された。また、探針
11に回転機構を設け、探針11と試料42表面の角度
を変化させながらスピン偏極BEEM測定を行ったとこ
ろ、その角度によって図20に示した像のコントラスト
が変化した。
【0077】また参考例として、 2層の金属層の合計厚
さが20nmを超える積層膜試料を用いる以外は、同一条件
でスピン偏極BEEM測定を行ったところ、BEEM電
流は測定限界の 5pA以下で、全く測定できなかった。さ
らに、先端が十分細かい、具体的には先端直径が10nm未
満のCr探針を用いたときにも、BEEM電流は 5pA以下
であり、全く測定できなかった。
【0078】なお、上記実施例は反強磁性体であるCrか
らなる探針11を用いた例であるが、Mn等の他の反強磁
性体やNi、Fe、Co、 CrO2 等の強磁性体を用いた探針に
おいても、その先端直径を10nm以上とすることにより、
金属/金属界面のスピン状態を測定することができる。
さらに、GaAs、AlGaAs、 InGaP、 InGaAlP、InSb、 Pb
S、 GaAsP、 InP等の直接遷移型半導体からなる探針を
用い、偏光照射によりスピン偏極された電子を注入する
場合においても同様である。ただし、試料との相互作用
を考慮すると、反強磁性体からなる探針を用いることが
好ましい。また、より大きな信号が必要な場合には、強
磁性体からなる探針が有効である。試料に関しては、金
属層が 3層以上の多層膜であってもよく、磁性を示す材
料であれば特に限定されるものではない。さらに、単体
では磁性を示さない材料でも、多層膜にすることによっ
て磁性を示す材料を試料として用いることも可能であ
る。さらに、前述した実施例1、2と同様に、測定条件
等は種々に変更することができる。 実施例6 図24に、この実施例における金属/金属界面の測定評
価状態を模式的に示す。まず、直径 0.3mmの多結晶 Wワ
イヤをNaOH水溶液を用いた電解研磨により針状に加工し
て探針51とした。これを探針ホルダ52に固定して、
真空度 1×10-8Paの超高真空チャンバ内に導入し、FI
Mで観察したところ (110)面が観察されたので、探針5
1の先端原子を電界蒸発させることによって、先端に直
径約 2nmの (110)原子面のテラスを形成した。この後、
超高真空中を搬送して、探針51を測定位置に固定し
た。探針ホルダ52は、測定位置において図示を省略し
た 3次元駆動可能なピエゾ素子に固定されており、さら
にステッピングモータにより粗動可能とされている。
【0079】試料53としては、 n型Si基板54上にCr
層55、Au層56およびNi層57の順に積層したものを
使用した。この試料53は、まず厚さ 0.4mmの n型Si基
板54をフッ酸に浸漬することにより表面の酸化膜を除
去すると共に、裏面にAuSbを蒸着し、473Kでアニールし
てオーム性接触を形成した。これを 3mm× 5mmの大きさ
に切断し、再度フッ酸で処理した後、直ちに銀ペースト
58を広く塗った試料台59上に固定し、銀ペースト5
8部分から電極をとって超高真空チャンバに導入した。
このSi基板54上に、Cr、Auをそれぞれ 2nm、 3nm順に
電子ビーム蒸着で積層し、先端にInを付けた直径 0.2mm
のAuワイヤをAu層56の表面に押しつけて電極をとっ
た。
【0080】この試料を超高真空を保ったまま測定室に
搬送し、探針51を近づけて測定を行った。すなわち、
探針51にバイアス電源60から負電圧を印加してトン
ネル電流を 3nA流し、電流計61に現れるトンネル電流
を一定に保つように、探針51と試料間の距離を調整し
ながら電圧を変化させ、電流計62に流れるコレクタ電
流を測定した。なおこのとき、電圧を変化させる間、探
針51は試料表面に平行な方向には動かさないようにし
た。これを 1サイクルとし、試料表面の 1点に対して 3
サイクル測定した後、次の測定点に探針51を移動さ
せ、同様の操作を行うという手順を繰り返した。
【0081】次に、探針51を一旦遠ざけて、上記試料
を電子ビーム蒸着の位置まで搬送し、試料表面に厚さ 2
nmのNi層57を積層した後、再び測定室に搬送し、探針
51を近づけて、まずNi層57の積層前に行ったのと同
様の測定を行った。図25にNi層57を積層する前後の
測定結果を示す。図25中、破線63はNi層57を積層
する前、実線64はNi層57を積層した後のコレクタ電
流と電圧との関係である。両測定結果共に、探針51へ
の印加電圧が -0.6V付近から電流が流れはじめており、
この値はSi基板54とCr層55の界面に生じたショット
キー障壁の高さを表している。また、電流値は印加電圧
の増加に従って大きくなっていくが、Ni層57を積層し
た後の電流値の方が小さくなっている。これは、試料表
面にNi層57が存在することによって、注入されたトン
ネル電流にスピン偏極が生じたための結果であるといえ
る。
【0082】さらに、探針51への印加電圧を -1.5Vと
し、電流計61に現れるトンネル電流を20nAに固定し、
Ni層57積層後の試料53の表面を 2次元的に走査し
た。従来のBEEMにおいては、流すことのできるトン
ネル電流は 1nA前後にとどまっており、それと比較して
この実施例では非常に大きなトンネル電流を流すことが
可能となったのは、探針51先端をテラス状に加工した
ことによる効果である。このときの探針51の位置と電
流計62で測定される電流値を同時にモニターすること
によって、通常のSTMの定電流モードによる試料表面
の像(STM像)と、コレクタ電流の変化による像(コ
レクタ像)を同時に得た。図26と図27は得られた像
を模式的に示す図であり、図26がSTM像、図27が
同時に得られたコレクタ像である。図27の斜線部分
は、他の部分よりも相対的にコレクタ電流値が小さいこ
とを表している。
【0083】図26から試料53の表面形状が平坦で、
かつスピン偏極率も一定であることが分かる。図27で
は図26に現れていない段差が認められる。前述したよ
うに、強磁性体であるNi層57に注入した電子はスピン
偏極しており、Au層56を通過してCr層55に入ると
き、界面のスピンが注入電子と同じ方向に偏極している
場合では、逆方向に偏極している場所よりも多くの電流
が流れるので、図17に見られる段差はその違いを反映
しているといえる。
【0084】なお、上記実施例では W探針を用いた例に
ついて説明したが、それ以外にPt、Ag、Al等の金属単体
やPtIrをはじめとする合金等、導電性を有するものであ
れば何でもよく、先端形状を上述のように加工しない場
合でも、得られる電流値は小さくなるが測定は可能であ
る。探針と試料表面の間に与える電圧についても、探針
側を負電圧にするだけでなく、正電圧にした場合につい
ても測定を行うことができる。探針の粗動機構はステッ
ピングモータだけでなく、インチワームやラウス等の粗
動機構としての機能を持つものであればよい。さらに、
粗動および微動共に、探針だけでなく試料側を動かすこ
とで実現することも可能である。
【0085】また試料については、上述の実施例では 3
層構造の金属層を用いたが、単層膜でも 2層以上の多層
膜でも、表面層が強磁性体金属からなるものであればよ
い。表面層に用いる材料も、Ni、Fe、Co、 CrO2 等の強
磁性体はもちろんのこと、 V等の単体では強磁性を示さ
ないが、金属表面に吸着させたり、多層膜にすることに
より強磁性を示す材料のように、最表層が強磁性を示し
かつ導電性を有するものであれば全て使用できる。基板
として用いる半導体もSiに限らず、GaAs、AlGaAs、InSb
等の種々の半導体が使用可能である。上記実施例では超
高真空中での測定を示したが、大気中、ガス中、溶液中
であってもよい。
【0086】さらに、本発明のスピン偏極走査型トンネ
ル装置は、測定、処理、加工に際し、試料と探針との間
の間隙長を一定に保持して探針で試料表面を走査するも
の全般に広く適用することができ、種々変形して実施す
ることが可能である。このようなものとしては例えば、
探針をスピン偏極させたSTM、原子間力顕微鏡(AF
M)、BEEM、容量顕微鏡、表面処理装置、表面に微
細加工を施す装置等が挙げられる。
【0087】
【発明の効果】以上詳述したように、本願第1の発明の
スピン偏極走査型トンネル装置によれば、探針先端のス
ピンの安定化を図ることができ、ひいては試料表面や界
面のスピン配列を安定にかつ高分解能で測定もしくは加
工することが可能となる。また、本願第2の発明のスピ
ン偏極走査型トンネル装置によれば、探針と試料との相
互作用を小さくしていると共に、探針先端を同じ向きの
スピンを有する結晶面で構成して、スピン偏極率を向上
させているため、高感度な測定もしくは加工を試料のス
ピン状態を変化させることなく実施することが可能とな
る。
【0088】さらに、本願第3の発明の金属界面の評価
方法によれば、金属/金属界面に関する情報を高い分解
能で得ることが可能となり、特に本願第4の発明におい
ては、金属/金属界面のスピン状態を高い分解能で評価
することができる。一方、本願第5の発明の金属界面の
評価方法によれば、金属/半導体界面や金属/金属界面
のスピン状態や電気特性を高い分解能で測定、評価する
ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施例によるスピン偏極STMの
要部概略構成を示す図である。
【図2】 図1に示すスピン偏極STMによる測定結果
の一例のSTM像を模式的に示す図である。
【図3】 図1に示すスピン偏極STMに用いたCr探針
先端をTEMで観察した結果の一例を模式的に示す図で
ある。
【図4】 図1に示すスピン偏極STMを用いた測定結
果をCr探針の先端直径とスピン偏極率との関係として示
す図である。
【図5】 本発明の他の実施例によるスピン偏極STM
の要部概略構成を示す図である。
【図6】 図5に示すスピン偏極STMを用いた測定結
果の一例のSTM像を模式的に示す図である。
【図7】 図6に示す測定結果の平坦な部分の 1走査線
を示す図である。
【図8】 探針/試料間の角度を変化させたときの図7
に示す 2つのピークの差と角度との関係をプロットした
図である。
【図9】 本発明の一実施例による界面評価装置の概略
構成図である。
【図10】 試料表面の金属層の有無による印加電圧と
コレクタ電流との関係を示す図である。
【図11】 図9に示す界面評価装置による測定結果の
STM像を模式的に示す図である。
【図12】 図11と同時に測定されたコレクタ像を模
式的に示す図である。
【図13】 本発明の他の実施例による界面評価装置の
概略構成図である。
【図14】 試料への磁場印加の有無による印加電圧と
コレクタ電流との関係を示す図である。
【図15】 図13に示す界面評価装置による測定結果
のSTM像を模式的に示す図である。
【図16】 図15と同時に測定されたコレクタ像を模
式的に示す図である。
【図17】 約50ガウスの磁場を印加して測定されたコ
レクタ像を模式的に示す図である。
【図18】 約 150ガウスの磁場を印加して測定された
コレクタ像を模式的に示す図である。
【図19】 本発明の一実施例によるスピン偏極界面磁
性測定装置の要部概略構成を示す図である。
【図20】 図19に示すスピン偏極界面磁性測定装置
によりFe/Cr/Si試料をCr探針を用いて測定した結果の一
例のBEEM像を模式的に示す図である。
【図21】 図19に示すスピン偏極界面磁性測定装置
によりFe/Cr/Si試料をRe探針を用いて測定した結果の一
例のBEEM像を模式的に示す図である。
【図22】 図19に示すスピン偏極界面磁性測定装置
により Cr/Si試料をCr探針を用いて測定した結果の一例
のBEEM像を模式的に示す図である。
【図23】 図19に示すスピン偏極界面磁性測定装置
に用いたCr探針先端をTEMで観察した結果の一例を模
式的に示す図である。
【図24】 本発明の一実施例による金属界面の評価に
用いた装置の要部概略構成を示す図である。
【図25】 試料表面の強磁性金属層の有無による印加
電圧とコレクタ電流との関係を示す図である。
【図26】 本発明の一実施例における試料表面のST
M像を模式的に示す図である。
【図27】 図26と同時に測定されたコレクタ像を模
式的に示す図である。
【符号の説明】
1……超高真空装置、5,54……n型Si基板,6,2
1……Au層、7……Ag層、22,24……Co層、10…
…スピン偏極STM室、11,51……探針、12,4
2,53……試料、14……冷却装置、15,60……
バイアス電源、16,18,43,61,62……電流
計、17……回転導入器、19……電磁石、20……試
料準備室、30……FIM室、57……Ni層、70……
測定室。

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 試料の表面と対向配置される探針と、前
    記探針と試料との間の間隙長およびトンネル電流の少な
    くとも一方を一定に保持する手段と、前記探針と試料と
    を前記試料の表面に沿う方向に相対的に移動させて前記
    探針で前記試料の表面上を走査させる走査手段とを具備
    するスピン偏極走査型トンネル装置であって、 前記探針は強磁性体、反強磁性体および半導体の少なく
    とも1種からなり、かつ前記探針の先端直径が10nm以上
    であることを特徴とするスピン偏極走査型トンネル装
    置。
  2. 【請求項2】 試料の表面と対向配置される探針と、前
    記探針と試料との間の間隙長およびトンネル電流の少な
    くとも一方を一定に保持する手段と、前記探針と試料と
    を前記試料の表面に沿う方向に相対的に移動させて前記
    探針で前記試料の表面上を走査させる走査手段とを具備
    するスピン偏極走査型トンネル装置であって、 前記探針は反強磁性体からなり、かつ前記探針の先端面
    は略同一方向に揃ったスピンを有する結晶面により構成
    されていることを特徴とするスピン偏極走査型トンネル
    装置。
  3. 【請求項3】 半導体上に少なくとも 2層の金属層を積
    層した試料と探針とを対向させ、前記試料と探針との間
    に電圧を印加し、前記半導体に流れ込む電流を測定する
    ことにより、前記 2層の金属層間の界面を評価すること
    を特徴とする金属界面の評価方法。
  4. 【請求項4】 前記探針がスピン偏極されていることを
    特徴とする請求項3記載の金属界面の評価方法。
  5. 【請求項5】 半導体上に少なくとも 1層の金属層を積
    層した試料と探針とを対向させ、前記試料と探針との間
    に電圧を印加し、前記半導体に流れ込む電流を測定する
    ことにより、前記半導体と金属層との界面および前記半
    導体上に積層された 2層以上の金属層間の界面の少なく
    とも1つを評価する金属界面の評価方法であって、 前記試料の表面層となる金属層が強磁性体金属からな
    り、前記界面のスピン状態を評価することを特徴とする
    金属界面の評価方法。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JPH11183488A (ja) * 1997-12-25 1999-07-09 Japan Science & Technology Corp Beem測定装置
JP2003149118A (ja) * 2001-11-14 2003-05-21 Seiko Instruments Inc 走査型プローブ顕微鏡
US8553517B2 (en) 2002-10-14 2013-10-08 Samsung Electronics Co., Ltd. Magnetic medium using spin-polarized electrons and apparatus and method of recording data on the magnetic medium

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