JPH0583543U - リップ型シール - Google Patents

Abstract

(57)【要約】 【目的】 密封空間Ａの圧力によるリップ部材１２０の
内径側への抜けを防止して耐熱性及び耐フレオン性を向
上させ、シール性を長期間維持する。 【構成】 リップ部材１２０が、ＰＴＦＥ製本体１２１
と、この本体１２１の内径部１２１ａの内周面を含む背
面に被着された合成ゴム製薄膜１２２とからなり、アウ
ターケース１００の内径フランジ１０３とインナーケー
ス１１０の内径フランジ１１２の互いの対向部のうちの
一方に、前記リップ部材１２０側に突出した円周状に延
びる打ち出し部１０４を形成してなる構成とする。

Description

【考案の詳細な説明】

【０００１】

【産業上の利用分野】

本考案は、リップ型シールであって、とくに冷凍機の冷媒であるフレオンを密 封対象とするものに関する。

【０００２】

【従来の技術】

従来から、例えばカークーラーのコンプレッサに使用される軸封装置として、 図２に示すようなリップ型シールがある。このリップ型シールは、ハウジング６ の軸孔に形成された取付部６ａにＯリング７を介して密嵌固定される金属ケース １の内周に、密封空間Ａ側にあって外径の基部が金属リング３で補強されたニト リルゴム（ＮＢＲ）からなるゴム材製リップ部材２と、反密封空間（大気）Ｂ側 の耐熱性を有するＰＴＦＥ製リップ部材４と、このＰＴＦＥ製リップ部材４をそ の反密封空間Ｂ側から支承する金属製バックアップリング５が、それぞれの外径 部を互いに密着した状態で保持され、各リップ部材２，４の内径部２ａ，４ａ， がシャフト８の外周面と気密摺接し、密封空間Ａ内の冷媒および冷凍機油が反密 封空間Ｂすなわち大気中へ漏れるのを阻止するものである。

【０００３】

【考案が解決しようとする課題】

上記リップ型シールにおいて、通常運転時の密封空間Ａの圧力は１kg／cm² 〜 ４kg／cm² 程度であり、いわゆる斜板式を代表とする比較的運転条件の緩いコン プレッサに使用されることが多かった。しかしながら、近年のクーラー用コンプ レッサは、小型化・高速化によって、密封空間Ａ（圧縮室）の温度が高くなる傾 向にあり、また、新たに開発された可変容量式のコンプレッサについては、密封 空間Ａ（圧縮室）の圧力が増大するため、それに伴って密封空間Ａ側のゴム材製 リップ部材２とシャフト８の摺動による発熱量も増大する傾向にある。すなわち ゴム材製リップ部材２を介してＰＴＦＥ製リップ部材４が密封空間Ａの高圧力を 受けると、このＰＴＦＥ製リップ部材４は、内径側へ大きく屈曲変形するととも に図中矢印Ｆで示すような内径側への抜け出しが起こるので、ゴム材製リップ部 材２の内径部２ａが図中破線で示すようにひしゃげてシャフト８との摺動面積が 増大し、摩擦熱が異常に上昇することになるのである。

【０００４】 ところが、上記従来のリップ型シールによると、ゴム材製リップ部材２の材料 であるニトリルゴムは耐油性及び耐摩耗性を重視したものであるため、高圧によ る高発熱条件ではゴム弾性が劣化し、クラックや異常摩耗による漏れの発生が散 見されていた。

【０００５】 そこで、耐熱性の向上を図る場合、ゴム材製リップ部材２の材料としてはフッ 素ゴムを用いることが望ましいが、フッ素ゴムは密封空間Ａ内の冷媒であるフレ オンの浸透性が高いため、ゴム内部に多量のフレオンが浸透しやすく、フレオン が浸透した状態で雰囲気温度が上昇すると、ゴム雰囲気中のフレオンの飽和蒸気 圧が高くなり、ゴム材製リップ部材２に発泡による亀裂が生じてしまうため、実 際はフッ素ゴムを使用することができなかった。しかも、密封空間Ａの高圧力に よるＰＴＦＥ製リップ部材４の内径側への抜け出しに伴ってゴム材製リップ部材 ２の内径部２ａの摺動負荷が増大するといった、摩擦発熱量の異常上昇の問題も 依然として残っていた。

【０００６】 本考案のリップ型シールは、このような点に鑑みてなされたもので、その目的 とするところは、密封空間の圧力によるリップ部材の内径側への抜けを防止して 耐熱性及び耐フレオン性を向上させ、シール性を長期間維持することにある。

【０００７】

【課題を解決するための手段】

上記課題を解決するため、本考案は、アウターケースの内径フランジ部と、こ のアウターケースの外径筒状部の内周に嵌着されたインナーケースの内径フラン ジとの対向隙間に、シャフトの外周面に摺接する内径部が密封空間側へ屈曲して 延びるリップ部材の外径部を挟着したリップ型シールにおいて、リップ部材が、 ＰＴＦＥ製本体と、この本体の内径部の内周面を含む背面に被着された合成ゴム 製薄膜とからなり、前記両内径フランジの互いの対向部のうちの一方に、前記リ ップ部材側に突出した円周状に延びる打ち出し部を形成してなる構成としたもの である。

【０００８】

【作用】

上記構成によると、密封空間と接するリップ部材のＰＴＦＥ製本体はフレオン の浸透性が低いものである一方、本体の内径部の内周面における合成ゴム製薄膜 は、その弾性によってシャフトの外周面に確実に密接するもので、本体の先端内 径から露出した端面が僅かに密封空間に接するのみであるため、密封空間内のフ レオンの浸透が抑えられる。また、リップ部材のＰＴＦＥ製本体はエラストマー よりも剛性が高く、しかも、リップ部材の外径部を挟着しているアウターケース の内径フランジ部とインナーケースの内径フランジのうちの一方に、リップ部材 側へ突出した打ち出し部が形成され、この打ち出し部が、リップ部材の外径部に 食い込むように圧着してリップ部材を完全に動かない状態に固定するので、密封 空間が高圧になってもリップ部材が内径側へ抜け出すように移動することがなく 、シャフトに対するリップ部材内径部の合成ゴム製薄膜からなる摺動面の負荷が 高くならない。

【０００９】

【実施例】

図１は、クーラー用コンプレッサの軸封装置として用いられる本考案リップ型 シールの一実施例を示すもので、１００は断面Ｌ字形の金属製アウターケース、 １１０は同じく断面Ｌ字形の金属製インナーケース、１２０は内径部１２０ａが 密封空間Ａ側へ屈曲して延びるリップ部材である。インナーケース１１０の外径 筒状部１１１はアウターケース１００の外径筒状部１０１の内周に嵌着され、カ シメ部１０２によって固定されている。アウターケース１００とインナーケース １１０の内径フランジ１０３，１１２は軸方向に互いに対向しており、両内径フ ランジ１０３，１１２間に前記リップ部材１２０の外径部１２０ｂが挟着されて いる。

【００１０】 リップ部材１２０は、合成ゴム等エラストマーよりも剛性が高くかつフレオン が殆ど浸透しないＰＴＦＥ製本体１２１と、このＰＴＦＥ製本体１２１の内径部 １２１ａの内周面を含む背面全体に接着剤をもって被着されたフッ素ゴム製薄膜 １２２とで構成されている。具体的には、例えばＰＴＦＥ製本体１２１の肉厚が 1.0mm程度であるのに対し、フッ素ゴム製薄膜１２２の肉厚は 0.1mm〜0.5mm と してある。

【００１１】 リップ部材１２０の外径部１２０ｂの背面に圧接するアウターケース１００の 内径フランジ１０３には、インナーケース１１０の内径フランジ１１２と対向し て、リップ部材１２０側に突出した円周状に延びる打ち出し部１０４が形成され ている。この打ち出し部１０４は、リップ部材１２０の外径部１２０ｂにおける フッ素ゴム製薄膜１２２を部分的に大きく圧縮して食い込んでいる。

【００１２】 上記構成のリップ型シールは、ハウジング１０の軸孔に段付き形成された取付 部にＯリング２０を介して密嵌され、スナップリング３０で固定されるとともに 、リップ部材１２０の内径部１２０ａの内周面、すなわちフッ素ゴム薄膜１２２ の内径部１２２ａがシャフト４０の外周面と気密摺接することによって、密封空 間Ａ内の冷媒および冷凍機油が反密封空間Ｂの大気中へ漏れるのを阻止するもの である。なお、ハウジング１０とアウターケース１００の間を密封しているＯリ ング２０は、運動部のような摩擦熱の発生がないので、それほど高い耐熱性を要 求する必要がなく、したがって、耐熱性は低いがフレオンの浸透性が小さいニト リルゴムが使用されている。

【００１３】 ＰＴＦＥ製本体１２１は耐熱性が高く、フレオンの浸透もないが、フッ素ゴム 製薄膜１２２は、その内径部１２２ａの先端面１２２ｂがＰＴＦＥ製本体１２１ の先端内径から密封空間Ａに露出しているので、この先端面１２２ｂから密封空 間Ａ内のフレオンが浸透する。しかしながら、本実施例の構成によると、フッ素 ゴム製薄膜１２２の肉厚すなわち密封空間Ａへの露出幅は0.1mm 〜0.5mm のきわ めて小さいものであるため、フレオンの浸透量は微量に抑えられる。また、薄肉 であることから、浸透したフレオンが高温時あるいは低圧時に気化しても、この 気化したフレオンがゴム表面から容易に放出され、ゴム雰囲気中での発泡現象が 起こらない。したがって、フレオンが浸透しやすいフッ素ゴムを用いたにも拘ら ず、フレオンの多量の浸透及びそれによる発泡現象を防止することができる。

【００１４】 ＰＴＦＥ製本体１２１はフッ素ゴム製薄膜１２２に比較してヤング率が高いた め、密封空間Ａの圧力による縮径変形量が小さい。このため、密封空間Ａが高圧 であっても、リップ部材１２０のフッ素ゴム製薄膜１２２の内径部１２２ａとシ ャフト４０の外周面の接触幅の増大及びこれに伴う摺動発熱量の増大が抑制され る。また、前記本体１２１は、逆にヤング率が高いが故にシャフト４０に対する 初期の締め付け力すなわち緊迫力が大きくなってしまうため、このような緊迫力 による摺動負荷を緩和する目的で、少なくとも本体１２１の内径部１２１ａを厚 さ 1.0mm程度の薄肉構造としているものである。なお、この肉厚は、使用条件例 えば密封空間Ａの圧力等を考慮して適宜に設定すれば良い。

【００１５】 アウターケース１００の内径フランジ１０３は、リップ部材１２０の外径部１ ２０ｂを反密封空間Ｂ側からバックアップして、密封空間Ａの圧力によるリップ 部材１２０の変形を規制する機能を有するとともに、フッ素ゴム製薄膜１２２の 外径部１２２ｃに圧接してアウターケース１００とリップ部材１２０の間の気密 性を保持しており、しかも、アウターケース１００の内径フランジ１０３に形成 された打ち出し部１０４が、リップ部材１２０の外径部１２０ｂにおいて背面の フッ素ゴム製薄膜１２２に食い込むように圧着し、リップ部材１２０の外径部１ ２０ｂをインナーケース１１０の内径フランジ１１２との間で強固に挟着してい る。このため、アウターケース１００とリップ部材１２０間の気密性がきわめて 良好であるほか、密封空間Ａの圧力によってリップ部材１２０が内径側へ抜け出 すように移動することがなく、この点でも、リップ部材１２０のフッ素ゴム製薄 膜１２２の内径部１２２ａとシャフト４０の外周面の接触幅の増大及びこれに伴 う摺動発熱量の増大が抑制される。

【００１６】 なお、本考案は、図示の一実施例の構造に限定されるものではなく、例えばフ ッ素ゴム製薄膜１２２は、ＰＴＦＥ製本体１２１の内径部１２１ａの内周面にの み被着した構造としても良い。また、打ち出し部１０４に代えて、インナースリ ーブ１１０の内径フランジ１１２にアウターケース１００の内径フランジ１０３ と対向する打ち出し部を形成しても良い。

【００１７】

【考案の効果】

以上、本考案によると、第一に、リップ部材に密封対象であるフレオンが浸透 しにくくなった。また、リップ部材の外径部を挟着しているアウターケースの内 径フランジとインナーケースの内径フランジのうちの一方に形成した打ち出し部 が、リップ部材の外径部に食い込むように圧着してリップ部材を完全に動かない 状態に固定するので、密封空間が高圧になってもリップ部材が内径側へ抜け出す ように移動することがなく、シャフトに対するリップ部材内径部の合成ゴム製薄 膜からなる摺動面の負荷が高くならないので、摺動発熱が抑制され、リップ部材 の耐熱性を向上させることができる。また、このため、リップ部材内周面の合成 ゴム製薄膜に浸透したフレオンの急激な気化や、これに伴う発泡現象を防止する ことができる。

【図面の簡単な説明】

【図１】本考案の一実施例を示す半裁断面図である。

【図２】従来構造の一例を示す半裁断面図である。

【符号の説明】

１００ アウターケース １０３，１１２ 内径フランジ １０４ 打ち出し部 １１０ インナーケース １２０ リップ部材 １２１ ＰＴＦＥ製本体 １２２ フッ素ゴム製薄膜（合成ゴム製薄膜） Ａ 密封空間 Ｂ 反密封空間

Claims (1)

【実用新案登録請求の範囲】
1. 【請求項１】 アウターケースの内径フランジ部と、こ
   のアウターケースの外径筒状部の内周に嵌着されたイン
   ナーケースの内径フランジとの対向隙間に、シャフトの
   外周面に摺接する内径部が密封空間側へ屈曲して延びる
   リップ部材の外径部を挟着したリップ型シールにおい
   て、リップ部材が、ＰＴＦＥ製本体と、このＰＴＦＥ製
   本体の内径部の内周面を含む背面に被着された合成ゴム
   製薄膜とからなり、前記両内径フランジの互いの対向部
   のうちの一方に、前記リップ部材側に突出した円周状に
   延びる打ち出し部を形成してなることを特徴とするリッ
   プ型シール。