JP7434991B2 - 銅合金棒線材、電子・電気機器用部品、端子およびコイルばね - Google Patents
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Description
最近では、電子機器や電気機器の小型化に伴い、高強度な銅または銅合金が求められている。また、自動車のエンジンルーム等の高温環境下で使用されるコネクタ等においては、耐応力緩和特性も求められている。このような要求特性を満足する銅合金として、例えば特許文献1に開示されたベリリウム銅が挙げられる。
コイルばねのようなばね材においては、ばねの圧縮時に発生するせん断応力による応力緩和が問題とされている。そこで、特許文献3に開示されているように、ばね材を構成する線材の耐熱へたり性、すなわち耐応力緩和特性の評価として残留せん断ひずみ測定試験が実施されており、残留せん断ひずみが小さい、すなわち、せん断応力に対する耐応力緩和特性に優れた線材が求められている。
上述のベリリウム銅合金は、CuとBeからなる微細な金属間化合物を分散させることで、せん断応力に対する耐応力緩和特性に優れているために、上述の用途に使用されてきたと考えられる。
このCu-Mg合金では、Mgの含有量が1.3重量%以上の場合、溶体化処理と、析出処理を行うことで、CuとMgからなる金属間化合物を析出させることができる。さらに、導電率を下げにくく、強度・耐応力緩和特性を向上させるMgの固溶の効果も加わるため、これらのCu-Mg合金においては、比較的高い導電率と強度を有することが可能となるのである。
また、非特許文献1に記載されたCu-Mg系合金では、母相中に多くの粗大なCuとMgを主成分とする金属間化合物が分散されていることから、複雑な加工や伸線などにおいては割れが発生しやすい問題があった。
そして、ビッカース硬さが180HV以上であり、さらに、ねじり試験において、負荷応力を150MPaとし、150℃で24時間熱処理した後の応力緩和率が40%以下とされているので、強度および耐応力緩和特性に特に優れている。よって、ベリリウム銅の代替として使用することが可能となる。
また、Agを上述の範囲で含有することで、粒界の析出サイトにAgが存在することになり、CuとMgを含むCu-Mg系金属間化合物の析出が抑制され、銅合金棒線材の加工性を確保することができる。
この場合、導電率が30%IACS以上とされているので、導電性が確保されており、大電流を流した場合であっても発熱を抑えることができ、電子・電気機器用部品の素材として特に適している。また、導電率が55%IACS以下とされているので、CuとMgを含むCu-Mg系金属間化合物の析出が抑制されており、銅合金棒線材の加工性を確保することができる。
この場合、線径が上述の範囲内に設定されているので、コネクタなどの電子・電気機器部品の素材として特に適している。
この構成の電子・電気機器用部品は、上述の銅合金棒線材を用いて製造されているので、小型化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
この構成の端子は、上述の銅合金棒線材を用いて製造されているので、小型化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
この構成のコイルばねは、上述の銅合金棒線材を用いて製造されているので、小型化した場合であっても優れた特性を発揮することができる。
本実施形態である銅合金棒線材は、コネクタ等の端子やコイルばね等の電子・電気用部品の素材として使用されるものである。
そして、本実施形態である銅合金棒線材は、ビッカース硬さが180HV以上とされている。
また、本実施形態である銅合金棒線材は、ねじり試験において、負荷応力を150MPaとし、150℃で24時間熱処理した後の応力緩和率が40%以下とされている。
また、本実施形態である銅合金棒線材においては、線径が0.1mm以上3.0mm以下の範囲内であることが好ましい。
Mgは、銅合金の母相中に固溶することで、導電率を大きく低下させることなく、強度、耐応力緩和特性を向上させることが可能となる。
ここで、Mgの含有量が1.3質量%未満の場合には、十分な固溶強化が得られず、十分な強度および耐応力緩和特性が得られないおそれがある。一方、Mgの含有量が2.8質量%を超える場合には、CuとMgの金属間化合物が発生しやすいために、強度および耐応力緩和特性が向上するものの加工性が損なわれるおそれがある。
以上のことから、本実施形態では、Mgの含有量を1.3質量%以上2.8質量%以下の範囲内に設定している。
なお、強度および耐応力緩和特性を確実に向上させるためには、Mgの含有量の下限を1.4質量%以上とすることが好ましい。また、加工性をさらに確保するためには、Mgの含有量の上限を2.3質量%以下とすることが好ましい。
Agは20℃程度の室温では固溶限が狭く、Cuの母相にほとんど固溶することができない。このため、高温でAgをCuの母相に固溶させて急冷し、例えば150℃以上、350℃以下の温間加工を加えることで、母相に固溶しているAgの一部が、加工によって導入された転位や粒界に偏析することとなる。この結果、転位や粒界での原子の拡散が抑制されるため、転位や粒界を析出サイトとしたCuとMgを含むCu-Mg系金属間化合物が発生しにくくなり、析出は主として粒内で生じる。その結果、加工性に優れるとともに導電率を向上させることができる。
ここで、Agの含有量が5質量ppm未満の場合には、その作用効果を十分に奏功せしめることができなくなる可能性がある。一方、Agの含有量が20質量ppmを超える場合には、さらなる効果は認められず、製造コストが増加する。
以上のことから、本実施形態では、Agの含有量を5質量ppm以上20質量ppm以下の範囲内に設定している。
なお、加工性および導電性をさらに向上させるためには、Agの含有量の下限を6質量ppm以上とすることが好ましい。また、製造コストをさらに抑制するためには、Agの含有量の上限を18質量ppm以下とすることが好ましい。
本実施形態である銅合金棒線材においては、ビッカース硬さを180Hv以上とすることにより、十分な強度を確保することができ、コネクタなどの電子・電気機器部品の素材として特に適している。
なお、本実施形態である銅合金棒線材のビッカース硬さは190Hv以上であることが好ましく、200Hv以上であることがより好ましい。
本実施形態である銅合金棒線材においては、ねじり試験において、負荷応力を150MPaとし、150℃で24時間熱処理した後の応力緩和率が40%以下とすることにより、高温環境下で使用した場合であっても永久変形を小さく抑えることができる。よって、大電流による発熱が大きい場合やエンジンルーム等の高温環境下で使用される電子・電気機器用の素材として適用することができる。
なお、本実施形態である銅合金棒線材のねじり試験において、負荷応力を150MPaとし、150℃で24時間熱処理した後の応力緩和率は25%以下とすることが好ましい。
本実施形態である銅合金棒線材において、導電率が30%IACS以上である場合には、大電流を流しても発熱量が大きくならず、電子・電気機器用部品の素材として特に適している。一方、導電率が55%IACS以下である場合には、CuとMgを含むCu-Mg系金属間化合物の析出が抑制されており、銅合金棒線材の加工性を確保することができる。
なお、本実施形態である銅合金棒線材の導電率の下限は、33%IACS以上であることが好ましく、35%IACS以上であることがさらに好ましい。一方、導電率の上限は、54%IACS以下であることが好ましく、52%IACS以下であることがさらに好ましい。
本実施形態である銅合金棒線材において、その線径は、用途に応じて適宜設定されるものであるが、0.1mm以上3.0mm以下の範囲内とすることが好ましい。
線径が0.1mm以上である場合には、十分な剛性を確保することができ、電子・電気機器用部品の素材として良好に使用することが可能となる。一方、線径が3.0mm以下である場合には、加工性を確保することができ、曲げ加工等によって良好に電子・電気機器用部品等を成形することが可能となる。
なお、本実施形態である銅合金棒線材の線径の下限は0.15mm以上とすることが好ましく、0.2mm以上とすることがさらに好ましい。一方、線径の上限は2.5mm以下とすることが好ましく、2.0mm以下とすることがさらに好ましい。
まず、銅原料を溶解して得られた銅溶湯に、前述の元素を添加して成分調整を行い、銅合金溶湯を製出する。なお、各種元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、上述の元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。また、本合金のリサイクル材およびスクラップ材を用いてもよい。
ここで、銅溶湯は、純度が99.99mass%以上とされたいわゆる4NCu、あるいは99.999mass%以上とされたいわゆる5NCuとすることが好ましい。
また、MgおよびAgの原料としては、純度99.9mass%以上のものを使用することが好ましい。なお、原料としてCu-Mg母合金およびCu-Ag母合金を用いてもよい。
そして、成分調製された銅合金溶湯を鋳型に注湯して銅合金鋳塊を得る。
次に、得られた銅合金鋳塊の均質化のために加熱処理を行う。銅合金鋳塊の内部には、凝固の過程においてMgが偏析で濃縮することにより発生したCuとMgを主成分とする金属間化合物等が存在することになる。そこで、これらの偏析および金属間化合物等を消失または低減させるために、銅合金鋳塊を400℃以上900℃以下にまで加熱する加熱処理を行うことで、銅合金鋳塊内において、Mgを均質に拡散させたり、Mgを母相中に固溶させたりするのである。なお、この均質化工程は、非酸化性または還元性雰囲気中で実施することが好ましい。
次に、均質化工程S02後の銅素材に対して、所定の線径になるように加工を行う。この粗加工工程S03においては、150℃以上300℃以下の温間加工を1回以上実施する。温間加工を1回とする場合は粗加工工程の最終工程で実施する。また、温間加工に代わって、1加工工程あたりの加工率を上げることによる加工発熱を利用してもよい。その場合は、1パスあたりの減面率を20%以上とすることが好ましい。
なお、粗加工工程S03における加工方法については、特に限定はないが、引抜、押出、溝圧延などを適用すればよい。
次に、粗加工工程S03後の銅素材に対して、再結晶を目的とした熱処理を行う。
ここで、中間熱処理工程S04における熱処理温度は400℃以上800℃以下の範囲内とする。熱処理温度を400℃以上とすることで、十分に軟化させることができ、その後の加工性を確保することができる。一方、熱処理温度を800℃以下とすることで、Mgが局所的に偏析していた場合でも液相の発生を抑制でき、加工性を確保することができる。
また、中間熱処理工程S04における熱処理温度を400℃以上550℃未満の範囲内とした場合には、CuとMgを主成分とするCu-Mg系金属間化合物が主として粒内に析出することで、最終特性での導電率を高くすることができる。
次に、中間熱処理工程S04後の銅素材に対して、最終の線径になるように、冷間加工を行う。なお、仕上加工工程S05における加工方法については、特に限定はないが、引抜、押出、溝圧延などを適用すればよい。
次に、仕上加工工程S05で得られた銅合金棒線材に対して、耐応力緩和特性の向上および低温焼鈍硬化のために、仕上熱処理を実施する。この仕上熱処理を行うことで、仕上加工工程S05で銅合金棒線材内に蓄積された転位が再配列されて安定化し、転位が動きにくくなり、高温環境下で使用された際に応力緩和し難く、ねじり試験時の応力緩和率を低減することができる。
熱処理温度をT(K)、熱処理時間をt(時間)とした際に、以下の式で定義される熱処理パラメータPが9800以上11300以下の範囲内となるように設定する。なお、上述の熱処理パラメータPは10100以上11000以下の範囲内とすることがさらに好ましい。
P=T×(20+Log(t))
熱処理パラメータPが9800未満である場合は、転位の再配列が不十分であるため、応力緩和が起きやすいおそれがある。一方、熱処理パラメータPが11300を超える場合は、転位の消滅により所望の強度が得られないおそれがある。
なお、線材の長手方向の特性ばらつきを軽減するためには、熱処理時間は10分以上が望ましく、100分以上がさらに望ましい。一方で、生産性の観点からは、熱処理時間は10秒未満であることが望ましい。
さらに、仕上加工工程S05、仕上熱処理工程S06を繰り返し実施してもよい。
そして、ビッカース硬さが180HV以上であり、さらに、ねじり試験において、負荷応力を150MPaとし、150℃で24時間熱処理した後の応力緩和率が40%以下とされているので、強度および耐応力緩和特性に特に優れている。よって、ベリリウム銅の代替として使用することが可能となる。
また、Agを上述の範囲で含有することで、粒界の析出サイトにAgが存在することになり、CuとMgを含むCu-Mg系金属間化合物の析出が抑制され、銅合金棒線材の加工性を確保することができる。
また、本実施形態の銅合金棒線材において、導電率が55%IACS以下とされている場合には、CuとMgを含むCu-Mg系金属間化合物の析出が抑制されており、このCu-Mg系金属間化合物を起因とした割れ等の発生を抑制でき、銅合金棒線材の加工性を確保することができる。
また、本実施形態の銅合金棒線材において、線径が3.0mm以下である場合には、加工性を確保することができ、曲げ加工等によって良好に電子・電気機器用部品等を成形することが可能となる。
例えば、上述の実施形態では、銅合金棒線材の製造方法の一例について説明したが、銅合金棒線材の製造方法は、実施形態に記載したものに限定されることはなく、既存の製造方法を適宜選択して製造してもよい。
純度99.99mass%以上の無酸素銅からなる銅原料を準備し、これをカーボンるつぼに装入し、真空溶解炉(真空度10-2Pa以下)で溶解し、銅溶湯を得た。得られた銅溶湯内に、MgおよびAgを添加して表1に示す成分組成となるように調製し、5分間保持した後、銅合金溶湯をカーボン製の鋳型に注湯して銅合金鋳塊を得た。なお、添加元素であるMgおよびAgの原料は純度99.9mass%以上のものを使用した。
均質化処理後の鋳塊断面が25mm角となるように切断し、溝圧延を行って棒状に加工し、さらに線径が2.6mmとなるまで伸線する粗加工を実施した。
次に、粗加工後の銅素材に対して、電気炉を用いて、表1に記載の熱処理条件で中間熱処理を実施した。
そして、仕上加工後の銅素材に対して、オイルバスまたはソルトバスを用いて表1に記載の条件で仕上熱処理工程を実施した。なお、表1におけるPは、実施形態の欄に記載した熱処理パラメータである。
そして、以下の項目について評価を実施した。
最終線径の銅合金棒線材から試験片を採取し、銅合金棒線材の長手断面を耐水研磨紙、ダイヤモンド砥粒を用いて機械研磨を行った後、JISZ 2244に規定された方法にて、銅合金棒線材の断面中心部のビッカース硬さを測定した。
ビッカース硬度を測定する試験片は線材の長手方向から100mm間隔で20点採取し、その平均値を硬度とした。また硬度のばらつきに関しては20点の測定値の最大値と最小値の内、平均値との差が大きい方が、平均値を100%としたときの平均値との差が5%以下の場合を「〇」、5%を超えたものを「△」とした。
ばね材の残留せん断ひずみ測定試験と同様に、ねじり試験により銅合金棒線材の耐応力緩和特性を評価した。特開2018-119174に記載の残留せん断ひずみ測定試験の方法と同様にねじり角度変化量を測定することで、応力緩和率を測定した。すなわち、最終線径の銅合金棒線材から試験片を採取し、後述の治具間距離以上の長さの銅合金棒線材を用意し、プレスあるいは削り出しなどで加工することで、銅合金棒線材の一端に直線状の加工部を設けた。加工部と反対側を治具で固定して固定端とし、加工部側を治具で固定し回転させることで、銅合金棒線材をねじった。表2に示す治具間距離およびねじり角度は、次式を用いて最大せん断応力が150MPaとなるように設定した。
最大せん断応力(MPa)=横弾性係数(MPa)×線径(mm)÷2×ねじり角度(rad)÷治具間距離(mm)
150℃の温度で24時間保持後に負荷を除荷した状態で加工部の角度変化を測定してねじり角度を求めた。ねじり角度の測定方法を図2に示した。応力緩和率は次式を用いて算出した。
応力緩和率(%)=θ1/θ0×100
ただし、
θ0:初期ねじり角度
θ1:150℃の温度で24時間保持後に負荷を除荷した状態のねじり角度
最終径の銅合金棒線材から試験片を採取し、四端子法によって導電率を測定した。
粗加工工程または仕上加工工程において、工程が終了した後の銅合金棒線材1メートルの表面を目視観察した。
割れが1個以下のものは、加工性が良好であり、「〇」と表記した。
割れが2個以上20個以下のものは、加工性が許容レベルであり、「△」と表記した。
割れが20個を超えた場合、あるいは破断した場合は、加工性が悪いものであり、「×」と表記した。
比較例2は、Mgの含有量が本発明の範囲よりも多かったため、粗加工工程で多数の割れが発生し、その後の加工、評価ができなかった。
比較例3は、Agの含有量が本発明の範囲よりも少なかったため、仕上加工工程で多数の割れが発生し、その後の加工、評価ができなかった。
比較例4は、仕上熱処理が不十分なため、応力緩和率が51%となり、耐応力緩和特性に優れなかった。
Claims (6)
- Mgを1.3質量%以上2.8質量%以下の範囲内、Agを5質量ppm以上20質量ppm以下の範囲内で含み、残部が銅及び不純物からなる組成とされ、
ビッカース硬度が180Hv以上であり、
さらに、ねじり試験において、負荷応力を150MPaとし、150℃で24時間熱処理した後の応力緩和率が40%以下であることを特徴とする銅合金棒線材。 - 導電率が30%IACS以上55%IACS以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の銅合金棒線材。
- 線径が0.1mm以上3.0mm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅合金棒線材。
- 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された銅合金棒線材からなることを特徴とする電子・電気機器用部品。
- 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された銅合金棒線材からなることを特徴とする端子。
- 請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された銅合金棒線材からなることを特徴とするコイルばね。
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