JP7394380B2 - 軟質ポリウレタンフォーム、自動車用シートパッド、及び軟質ポリウレタンフォームの製造方法 - Google Patents

軟質ポリウレタンフォーム、自動車用シートパッド、及び軟質ポリウレタンフォームの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、軟質ポリウレタンフォーム、自動車用シートパッド、及び軟質ポリウレタンフォームの製造方法に関する。
軟質ポリウレタンフォームは、優れたクッション性を有することから、自動車等のシートパッドに多く使用されている。
一方、特に自動車部材においては、燃費の向上及び車内空間の確保のため、軽量化及び薄肉化のニーズが近年高まっている。このことは、シートパッドに対しても例外ではなく、シートパッドの軽量化の更なる向上が要求されている。
ここで、部材を軽量化する技術においては、部材材料の高硬度化が重要な課題となる。この点に関し、軟質ポリウレタンフォームにおいては、これまで、スチレン/アクリロニトリル共重合体を配合することにより、高硬度化を達成していた(特許文献1)。
特開2008-024773号公報
しかしながら、軟質ポリウレタンフォームを高硬度化するためにスチレン/アクリロニトリル共重合体を配合すると、応力緩和が悪化する(応力緩和値が大きくなる)、という問題があった。
又、高硬度化された部材材料を使用すれば、部材の薄肉化が可能となり、その軽量化が図れるのではあるが、ここでも従来のスチレン/アクリロニトリル共重合体を配合した軟質ポリウレタンフォームは、薄肉化すると動的特性が悪化する(反発弾性率が大きいとぐらつき感がでやすくなる)という問題もあった。
シートパッドの材料として使用される軟質ポリウレタンフォームの前記応力緩和は運転時のアイポイントの低下を防ぐ観点及び、該シートパッドの座り心地(底つき感等)において重要であるが、薄肉化・軽量化との両立という点において、改良の余地があった。
そこで、本発明は、自動車部材を軽量化するために求められる、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する軟質ポリウレタンフォームを提供することを目的とする。
又、本発明は、本発明の軟質ポリウレタンフォームをセルの粗大化を抑制しつつ製造することが可能な、本発明の軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供することを目的とする。
更に又、本発明は、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する自動車用シートパッドを提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、少なくとも1種のポリオール成分と、少なくとも1種のイソシアネート成分と、長さが0.1~5 mmである構造タンパク質繊維とを含む、軟質ポリウレタンフォームであって、前記イソシアネート成分として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、前記イソシアネート成分の総量中80質量%以上含み、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)はモノメリックMDIを50質量%以上含み、且つ前記モノメリックMDIは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)を50質量%以上含むことを特徴とする、軟質ポリウレタンフォームが、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する軟質ポリウレタンフォームであることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項1]
少なくとも1種のポリオール成分と、
少なくとも1種のイソシアネート成分と、
長さが0.1~5 mmである構造タンパク質繊維とを含む、
軟質ポリウレタンフォームであって、
前記イソシアネート成分として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、前記イソシアネート成分の総量中80質量%以上含み、
前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)はモノメリックMDIを50質量%以上含み、且つ前記モノメリックMDIは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)を50質量%以上含むことを特徴とする、
軟質ポリウレタンフォーム、
である。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する軟質ポリウレタンフォームである。
又、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項2]
前記構造タンパク質繊維の長さが0.5~2 mmである、項1に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
であることが好ましい。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、より高い硬度を有し、粘度上昇が抑制され、均一に分散するより高品質の軟質ポリウレタンフォームである。
更に、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項3]
前記構造タンパク質繊維の繊維径が1~50 μmである、項1又は2に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
であることが好ましい。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、加工性がより良好であり、軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の分散性が高まり、硬度がより向上した軟質ポリウレタンフォームである。
又更に、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項4]
前記構造タンパク質繊維の繊維径が1~20 μmである、項1から3の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
であることが好ましい。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、加工性が更により良好であり、軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の分散性が高まり、硬度が更により向上した軟質ポリウレタンフォームである。
加えて、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項5]
前記構造タンパク質繊維を構成する構造タンパク質が、改変フィブロインである、項1から4の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
であることが好ましい。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、耐熱性・耐水性により優れた軟質ポリウレタンフォームである。
又加えて、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項6]
前記ポリオール成分がポリマーポリオールを1~30質量%含む、項1から5の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
であることが好ましい。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、適度な硬度を有するフォームである。
更に加えて、本発明の軟質ポリウレタンフォームは、
[項7]
前記構造タンパク質繊維が、鉱物油、動植物油、及び合成油から選択される少なくとも1種の油剤でコーティングされている、項1から6の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム、
であることが好ましい。
かかる軟質ポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の分散性が高まり、硬度がより向上した軟質ポリウレタンフォームである。
又更に加えて、本発明の自動車用シートパッドは、
[項8]
項1~7の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォームを備える、ことを特徴とする、自動車用シートパッド、
である。
かかる自動車用シートパッドは、軽量であるとともに、座り心地に優れる自動車用シートパッドである。
又更に加えて、本発明の軟質ポリウレタンフォームの製造方法は、
[項9]
モールド成形により項1~7の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォームを得る工程を含む、ことを特徴とする、軟質ポリウレタンフォームの製造方法、
である。
かかる軟質ポリウレタンフォームの製造方法は、セルの粗大化を抑制することで空気や水分を通し難くした、本発明の軟質ポリウレタンフォームを製造することができる。
本発明によれば、自動車部材を軽量化するために求められる、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する軟質ポリウレタンフォームを提供することができる。
又、本発明は、本発明の軟質ポリウレタンフォームをセルの粗大化を抑制しつつ製造することが可能な、本発明の軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供することができる。
更に又、本発明は、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する自動車用シートパッドを提供することができる。
作用の詳細は明らかではないが、スチレン・アクリロニトリル共重合体はいわばフィラーとしてポリウレタンフォームの硬度を発現しているが、タンパク質はポリウレタンフォーム原料と反応する官能基を多数有していることで、応力緩和を維持し、反発弾性も維持していると考えられる。
クモ類フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。 構造タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。
以下に、本発明の実施形態について具体的に説明する。これらの記載は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
本明細書及び特許請求の範囲にて、範囲を「A~B」として記載する場合、特に別段の記載が無い限り、前記範囲は、その境界であるA及びBを含む。
<軟質ポリウレタンフォーム>
本発明の軟質ポリウレタンフォームに係る「軟質ポリウレタンフォーム」とは、連続気泡を有し、荷重に対する復元性を有するポリウレタンフォームを指すものとし、断熱材などとして用いられるいわゆる「硬質ポリウレタンフォーム」とは区別される。
<ポリオール成分>
本発明の一実施形態の軟質ポリウレタンフォーム(以下、「本実施形態の軟質ポリウレタンフォーム」と称することがある)は、少なくとも1種のポリオール成分を含むことを特徴とする。
前記ポリオール成分は、ポリウレタンフォームの原材料として汎用されてきているものである。本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるポリオール成分は、特に限定されるものではないが、例えば、2価~6価等の多価アルコール、ポリオキシアルキレンポリオール(ポリエーテルポリオール)、ポリエステルポリオール、ポリマーポリオール等である。中でも、前記ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール及びポリエステルポリオールの少なくともいずれかを用いることが好ましく、ポリエーテルポリオールを少なくとも用いることがより好ましい。ポリオールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるポリオール成分は、ポリマーポリオールを含むことが好ましい。ここで、ポリマーポリオールとは、ポリオール中にポリスチレンやポリアクリルニトリルを分散させたものを言う。
前記ポリオール成分がポリマーポリオールを含むと、シートパッド(特に座面に配置されるクッションパッド)に必要な硬度を得ることができるからである。又、適度な粘度が得られ、ポリオールとイソシアネートの混ざり性を良化させる効果をもつため、ポリウレタンフォーム中の性能ばらつきが小さいシートパッドを得やすくなるからでもある。
又、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるポリオール成分は、前記ポリマーポリオールを1~30質量%含むことが好ましい。
前記ポリオール成分が前記ポリマーポリオールを1質量%以上で含むと、シートパッド(特に座面に配置されるクッションパッド)に必要な硬度を得ることができるからである。又、前記ポリマーポリオールを30質量%以下で含む場合、圧縮耐久性を良好に維持することができるからである。
又、ポリオールとしては、ポリエーテルポリオール及びポリマーポリオールを併用することが望ましい。ポリエーテルポリオールとしては、エチレンオキシド(以下「EO」と記載することがある。)及びプロピレンオキシド(以下「PO」と記載することがある。)の開環重合により得られ、EO及びPOに由来する繰り返し単位のモル比が10/90~25/75(EO/PO)であり、かつ数平均分子量が4,000~12,000であるポリエーテルポリオールが好ましい。又、ポリエーテルポリオールの数平均分子量は、4,700~8,000であることがより好ましい。このポリエーテルポリオールは、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
又、耐久性の観点から、ポリエーテルポリオールの平均官能基数は3~5が好ましい。ポリマーポリオールに含まれるポリオール成分は、数平均分子量が2,500~8,500であることが好ましい。ポリマーポリオールに含まれるポリオール成分の数平均分子量が低いと、軟質ポリウレタンフォームの応力緩和性に悪影響を及ぼす虞があり、又、数平均分子量が高すぎると、粘度が高くなり、撹拌分散性及び作業性に悪影響を及ぼす虞がある。
ポリマーポリオールは、上述のようにスチレン及び/又はアクリロニトリル共重合体を含むことから、微量のスチレンモノマー等を含む場合があり、臭気の原因や車内空間の有害揮発物質の一因となる場合がある。
なお、上記の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC法)によりポリスチレン換算値として算出した値である。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるポリオール成分は、任意選択的に架橋剤を含むことがある。前記架橋剤としては、ポリウレタンフォームの製造において汎用のものを用いることができ、例えば、低分子量の多価アルコール(例えば、EOやPOの単独の開環重合により得られた数平均分子量が1000以下のポリエーテルポリオール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、グリセリン等)が挙げられる。前記架橋剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
架橋剤の総使用量としては、ポリオール成分100質量部に対して、0.5~10質量部であることが好ましい。架橋剤の総使用量がポリオール成分100質量部に対して0.5質量部以上であれば、架橋剤の効果が十分に得られ、一方、10質量部以下であれば、独立気泡性が適度であり、成形性が確保できるとともに、フォームダウンの発生を抑制することができるからである。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるポリオール成分の含有量は、特に限定されるものではないが、55質量%以上、75質量%以下であることが好ましい。より好ましくは65質量%以上、70質量%以下である。ポリオール成分を55質量%以上含有すれば、適度な樹脂硬化性(キュア性)が得られるという利点があるからである。又、ポリオール成分を75質量%以下含有すれば、撹拌不良等の製造不具合が生じにくいという利点があるからである。
<イソシアネート成分>
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、少なくとも1種のイソシアネート成分を含むことを特徴とする。
前記イソシアネート成分も、ポリウレタンフォームの原材料として汎用されてきているものである。本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるイソシアネート成分は、特に限定されるものではないが、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、トリフェニルジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、メチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、オルトトルイジンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、及びこれらの誘導体等が挙げられる。イソシアネート成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に、イソシアネート成分としては、得られるポリウレタンフォームの密度の観点から、トリレンジイソシアネート及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)の少なくともいずれかを用いることが好ましく、トリレンジイソシアネート及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を併用することがより好ましい。
又、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記イソシアネート成分として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、前記イソシアネート成分の総量中80質量%以上含むことを特徴とする。
ここで、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)とは、モノメリックMDI及びポリメリックMDIのことをいう。そして、前記モノメリックMDIとは、1分子中にベンゼン環及びイソシアネート基を各2個有するイソシアネート化合物のことであり、2核体ともいう。前記モノメリックMDIの具体例は、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)である。
なお、前記4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)は、以下の一般式を有する化合物である。
前記2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)は、以下の一般式を有する化合物である。
前記2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)は、以下の一般式を有する化合物である。
前記ポリメリックMDIは、以下の一般式を有する化合物である。
式中、pは自然数である。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記イソシアネート成分として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、前記イソシアネート成分の総量中80質量%以上含むことにより、シートパッド(特に座面に使用されるクッションパッド)においてはぐらつき感を低減できる。
同様の観点から、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)は、前記イソシアネート成分の総量中90質量%以上含むことが好ましく、95質量%以上含むことが好ましく、99質量%以上含むことが好ましく、100質量%含むことが更に好ましい。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれるイソシアネート成分の含有量は、特に限定されるものではないが、ポリオール成分に由来する活性水素含有基とイソシアネート成分に由来するイソシアネート基のモル比によって好ましい範囲が決定され、(NCO基/活性水素含有基)の当量比×100(インデックス)が70~135であることが好ましく、80~120がより好ましく、90~110が更に好ましい。
更に又、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)がモノメリックMDIを50質量%以上含み、且つ前記モノメリックMDIが4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)を50質量%以上含むことを特徴とする。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)がモノメリックMDIを50質量%以上含むことにより、シートパッドとして好ましい硬度を発現しやすいというメリットがある。
又、シートパッドではトリレンジイソシアネート(TDI)又はMDIが好適に用いられているが、MDIを50質量%以上含む場合は、TDIを50質量%より多く含む場合と比べて、ポリオール組成物とイソシアネートの反応挙動が大きく異なる。即ち、樹脂化反応と泡化反応のバランスが異なることにより、ウレタンフォームのセル構造も異なり、MDIを50質量%以上含むことは、特にクッションパッドとして使用した際にはぐらつき感を低減させる効果があると考えられる。
ぐらつき感を低減させる効果の観点から、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、特に限定されるものではないが、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)がモノメリックMDIを55質量%以上含むことが好ましく、60質量%以上含むことがより好ましく、65質量%以上含むことが更により好ましく、68質量%以上含むことが最も好ましい。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記モノメリックMDIが4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)を50質量%以上含むことにより、シートパッド(クッションパッド及びバックパッド)にした際に表面状態をソフトな質感にすることができ、ぐらつき感も低減できる。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、特に限定されるものではないが、前記モノメリックMDIが4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)を55質量%以上含むことが好ましく、58質量%以上含むことがより好ましい。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)が、前記モノメリックMDI以外のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)であるポリメリックMDIを含む場合がある。
又、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、前記モノメリックMDIが、前記4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)以外のモノメリックMDIを含む場合がある。
<構造タンパク質繊維>
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、長さが0.1~5 mmである構造タンパク質繊維を含むことを特徴とする。上述の所定長さの構造タンパク質繊維を軟質ポリウレタンフォームに含ませることで、当該構造タンパク質繊維が補強材としての機能を発揮して、硬度を向上させることができる。又、上述の所定長さの構造タンパク質繊維を軟質ポリウレタンフォームに用いることで、軟質ポリウレタンフォームの製造直後(例えば、モールド成形後の脱型時)における硬度の向上ももたらし、取り出し時に軟質ポリウレタンフォームに手跡が残るなどといった、製造上及び加工上の不具合を減少させることができる。加えて、上述の所定長さの構造タンパク質繊維を軟質ポリウレタンフォームに配合することで、スチレン/アクリロニトリル共重合体を配合する従来の技術とは異なり、高硬度のまま応力緩和を低減することができ、及び薄肉化をしても動的特性を維持/低減することができる。なお、かかる応力緩和の低減及び動的特性の維持/低減は、定かではないが、構造タンパク質繊維がポリウレタンフォームの原料と反応する官能基を多数有していることに起因しているものと考えられる。
更に、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームによれば、スチレン/アクリロニトリル共重合体を用いる必要がないため、従来技術に比べて、車室内におけるスチレン等のVOCの低減を図ることができるという利点を享受することもできる。
本明細書において「構造タンパク質繊維」は、構造タンパク質を紡糸したものを指すものとする。以下、「改変フィブロイン繊維」などの定義も同様である。
本実施形態で用いる構造タンパク質繊維は、長さが0.1~5 mmであることを要する。構造タンパク質繊維の長さが0.1 mm未満であると、硬度を向上させる効果を十分に得ることができない。また、構造タンパク質繊維の長さが5 mmを超えると、当該構造タンパク質繊維を均一に分散させることが困難となり、高品質の軟質ポリウレタンフォームを得ることができない。
また、本実施形態で用いる構造タンパク質繊維の長さは、軟質ポリウレタンフォームの硬度をより向上させる観点から、0.5 mm以上であることが好ましく、1 mm以上であることがより好ましい。また、本実施形態で用いる構造タンパク質繊維の長さは、粘度上昇を抑制し、均一に分散させて高品質の軟質ポリウレタンフォームを得る観点から、4 mm以下であることが好ましく、2 mm以下であることがより好ましい。
上述併せた観点から、本実施形態で用いる構造タンパク質繊維の長さは、0.5~2 mmであることが好ましい。
本実施形態で用いる構造タンパク質繊維の繊維径は、1~50 μmであることが好ましい。構造タンパク質繊維の繊維径が1 μm以上であれば、加工性が良好となる。また、繊維径が小さすぎると、ポリオール成分等と混ぜた際に増粘し、イソシアネート成分と混ぜた場合に混ざりにくくなり、成形性の悪化をもたらす虞がある。しかし、繊維径が1 μm以上であれば、そのような事態をより確実に回避することができる。また、構造タンパク質繊維の繊維径が50 μm以下であれば、軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の分散性が高まり、硬度をより向上させることができる。
同様の観点から、構造タンパク質繊維の繊維径は、1~40 μmであることがより好ましく、1~30 μm であることが更により好ましく、1~20 μmであることが最も好ましい。
更に同様の観点から、構造タンパク質繊維の繊維径は、5 μm以上であることがより好ましく、7 μm以上であることが更に好ましく、9 μm以上であることが一層好ましく、11 μm以上であることが特に好ましい。また、構造タンパク質繊維の繊維径は、17 μm以下であることがより好ましく、15 μm以下であることが最も好ましい。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の含有量としては、特に制限されず、例えば、0.5~5質量%とすることができる。但し、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の含有量は、硬度をより向上させる観点から、1 質量%以上であることが好ましい。また、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維の含有量は、応力緩和をより低減する観点から、3 質量%未満であることが好ましく、2 質量%以下であることがより好ましい。
本実施形態で用いる構造タンパク質繊維は、鉱物油、動植物油脂及び合成油から選択される少なくとも1種の油剤でコーティングされていることが好ましい。これにより、構造タンパク質繊維が軟質ポリウレタンフォーム中により均一に分散することができ、軟質ポリウレタンフォームの硬度をより向上させることができる。また、均一分散性をより高める観点から、上記油剤は、鉱物油を含むことがより好ましい。
上記油剤は、別の観点から、炭化水素類などの水不溶性油剤、イオン活性剤(イオン系油剤)及び非イオン活性剤(ノニオン系油剤)などの水可溶性油剤であってもよい。
なお、上述した油剤のコーティングは、例えば、後述する構造タンパク質繊維の製造方法の一例で示すように、構造タンパク質繊維の製造の過程で行ってもよい。
<<構造タンパク質>>
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質は、生体構造を形成するタンパク質又はそれに由来するタンパク質を指す。本実施形態に係る構造タンパク質は、天然由来の構造タンパク質を精製したものであってもよく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したものであってもよく、合成により製造されたものであってもよい。すなわち、構造タンパク質は、天然由来の構造タンパク質であってもよく、改変タンパク質、即ち、天然由来の構造タンパク質のアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列の一部(例えば、当該アミノ酸配列の10%以下)を改変したタンパク質であってもよい。
天然由来の構造タンパク質としては、例えば、フィブロイン、コラーゲン、レシリン、エラスチン及びケラチン等を挙げることができる。
フィブロイン(天然由来のフィブロイン)は、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含む構造タンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫が産生するフィブロイン、クモ類が産生するフィブロイン(クモ糸フィブロイン)等が挙げられる。本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質は、クモ糸フィブロインであってもよい。
昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、スズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクフィブロインが挙げられる。
クモ類が産生するフィブロイン(クモ糸フィブロイン)としては、例えば、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)等が挙げられる。
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampullate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
また、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおいては、構造タンパク質繊維を構成する構造タンパク質として、人為的に製造したタンパク質(「改変タンパク質」)を用いることができる。改変タンパク質としては、改変フィブロイン、改変コラーゲン、改変レシリン、改変エラスチン、改変ケラチン等が挙げられる。
特に、耐熱性・耐水性などの観点から、構造タンパク質繊維を構成する構造タンパク質は、改変フィブロインであることが好ましい。
前記構造タンパク質は、該構造タンパク質を構成するアミノ酸の種類や配列、及び化学的修飾の違い等によって、疎水性の構造タンパク質(以下、疎水性タンパク質と称する)と親水性の構造タンパク質(以下、親水性タンパク質と称する)の2つに分類される。
ここで、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける疎水性タンパク質とは、タンパク質を構成する全てのアミノ酸残基の後記する疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0超であるタンパク質のことをいう。なお、疎水性指標は後記する表1に示したとおりである。又、親水性タンパク質とは、平均HIが0以下であるタンパク質のことをいう。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維は、疎水性タンパク質を紡糸した繊維であることが好ましい。疎水性タンパク質を紡糸した繊維は、水との接触による繊維強度の低下がより抑制され、又高温多湿条件下での吸湿による繊維劣化もより抑制されるからである。
<<<疎水性タンパク質>>>
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームに含まれる疎水性タンパク質は、分子デザインが施されたものであることがあるが、特に限定されるものではなく、遺伝子組換え技術により微生物等で製造したタンパク質であってもよく、合成により製造されたタンパク質であってもよい。
疎水性タンパク質は、例えば、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であってもよい。本実施形態の疎水性タンパク質は、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、アミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
なお、本明細書において「ドメイン配列」とは、結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。
ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16であってもよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。
REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。
mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。
複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
疎水性タンパク質は、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のクモ類フィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
疎水性タンパク質は、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
疎水性タンパク質の具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に対してグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変タンパク質が挙げられる。
前記改変タンパク質は、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
改変タンパク質が、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、クモ類フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
図1は、クモ類フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。図1を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、図1に示したクモ類フィブロインのドメイン配列(「[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(図1中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、図1のフィブロインの場合21/150=14.0%となる。
改変タンパク質は、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロインにおいて、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
前記改変タンパク質は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標(HI)の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標(HI)は表1に示すとおりである。
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
改変タンパク質は、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。
式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むクモ類フィブロイン等のタンパク質において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(図1の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
改変タンパク質は、そのドメイン配列が、天然由来のクモ類フィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
改変タンパク質は、例えば、クローニングした天然由来のクモ類フィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のクモ類フィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
改変タンパク質のより具体的な例として、(6-i)配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。
配列番号1で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)は、天然由来のフィブロインであるNephila clavipes(GenBankアクセッション番号:P46804.1、GI:1174415)の塩基配列及びアミノ酸配列に基づき、(A)nモチーフ中のアラニン残基が連続するアミノ酸配列をアラニン残基が連続する数を5つにする等の生産性を向上させるためのアミノ酸の改変を行ったものである。一方、Met-PRT410は、グルタミン残基(Q)の改変は行っていないため、グルタミン残基含有率は、天然由来のフィブロインのグルタミン残基含有率と同程度である。
配列番号5で示されるアミノ酸配列(M_PRT888)は、Met-PRT410(配列番号1)中のQQを全てVLに置換したものである。
配列番号6で示されるアミノ酸配列(M_PRT965)は、Met-PRT410(配列番号1)中のQQを全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。
配列番号7で示されるアミノ酸配列(M_PRT889)は、Met-PRT410(配列番号1)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号8で示されるアミノ酸配列(M_PRT916)は、Met-PRT410(配列番号1)中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。
配列番号9で示されるアミノ酸配列(M_PRT918)は、Met-PRT410(配列番号1)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号10で示されるアミノ酸配列(M_PRT699)は、M_PRT525(配列番号12)中のQQを全てVLに置換したものである。なお、配列番号12で示されるアミノ酸配列(M_PRT525)は、Met-PRT410(配列番号1)に対し、アラニン残基が連続する領域(A5)に2つのアラニン残基を挿入し、Met-PRT410の分子量とほぼ同じになるよう、C末端側のドメイン配列2つを欠失させ、かつグルタミン残基(Q)13箇所をセリン残基(S)又はプロリン残基(P)に置換したものである。
配列番号11で示されるアミノ酸配列(M_PRT698)は、M_PRT525(配列番号12)中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
配列番号21で示されるアミノ酸配列(Met-PRT966)は、配列番号2で示されるアミノ酸配列(C末端に配列番号20で示されるアミノ酸配列が付加される前のアミノ酸配列)中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
なお、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11及び配列番号21で示されるアミノ酸配列は、表2に示す通り、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である。
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
改変タンパク質は、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変タンパク質の単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
タグ配列を含む改変タンパク質のより具体的な例として、(6-iii)配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列を含む、改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19若しくは配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19及び配列番号22で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号5、配列番号6、配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号10、配列番号11及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号3で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19及び配列番号22で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19又は配列番号22で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号13、配列番号14、配列番号15、配列番号16、配列番号17、配列番号18、配列番号19又は配列番号22で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
改変タンパク質は、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
そして、疎水性タンパク質は、構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、その総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以上である、クモ糸タンパク質等のタンパク質であることが好ましい。この場合、得られる繊維がより切れ難くなる。なお、疎水性指標(HI)は、表1に示したとおりである。
疎水性タンパク質は、例えば、当該疎水性タンパク質をコードする核酸配列と、当該核酸配列に作動可能に連結された1又は複数の調節配列とを有する発現ベクターで形質転換された宿主により、当該核酸を発現させることで生産することができる。
疎水性タンパク質をコードする核酸の製造方法は、特に制限されない。例えば、天然のクモ糸タンパク質をコードする遺伝子を利用して、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等で増幅しクローニングする方法、又は、化学的に合成する方法によって、当該核酸を製造することができる。核酸の化学的な合成方法も特に制限されず、例えば、NCBIのウェブデータベースなどより入手したクモ糸タンパク質のアミノ酸配列情報をもとに、AKTA oligopilot plus 10/100(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)等で自動合成したオリゴヌクレオチドをPCR等で連結する方法によって遺伝子を化学的に合成することができる。この際に、疎水性タンパク質の精製及び/又は確認を容易にするため、N末端に開始コドン及びHis10タグからなるアミノ酸配列を付加したアミノ酸配列からなる疎水性タンパク質をコードする核酸を合成してもよい。
調節配列は、宿主における組換えタンパク質の発現を制御する配列(例えば、プロモーター、エンハンサー、リボソーム結合配列、転写終結配列等)であり、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。プロモーターとして、宿主細胞中で機能し、目的とする疎水性タンパク質を発現誘導可能な誘導性プロモーターを用いてもよい。誘導性プロモーターは、誘導物質(発現誘導剤)の存在、リプレッサー分子の非存在、又は温度、浸透圧若しくはpH値の上昇若しくは低下等の物理的要因により、転写を制御できるプロモーターである。
発現ベクターの種類は、プラスミドベクター、ウイルスベクター、コスミドベクター、フォスミドベクター、人工染色体ベクター等、宿主の種類に応じて適宜選択することができる。発現ベクターとしては、宿主細胞において自立複製が可能、又は宿主の染色体中への組込みが可能で、クモ糸タンパク質をコードする核酸を転写できる位置にプロモーターを含有しているものが好適に用いられる。
宿主としては、原核生物、並びに酵母、糸状真菌、昆虫細胞、動物細胞及び植物細胞等の真核生物のいずれも好適に用いることができる。
細菌等の原核生物を宿主として用いる場合、発現ベクターは、原核生物中で自立複製が可能であると同時に、プロモーター、リボソーム結合配列、疎水性タンパク質をコードする核酸、及び転写終結配列を含むベクターであることが好ましい。プロモーターを制御する遺伝子が含まれていてもよい。
原核生物としては、エシェリヒア属、ブレビバチルス属、セラチア属、バチルス属、ミクロバクテリウム属、ブレビバクテリウム属、コリネバクテリウム属及びシュードモナス属等に属する微生物を挙げることができる。エシェリヒア属に属する微生物として、例えば、エシェリヒア・コリ等を挙げることができる。ブレビバチルス属に属する微生物として、例えば、ブレビバチルス・アグリ等を挙げることができる。セラチア属に属する微生物として、例えば、セラチア・リクエファシエンス等を挙げることができる。バチルス属に属する微生物として、例えば、バチルス・サチラス等を挙げることができる。ミクロバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ミクロバクテリウム・アンモニアフィラム等を挙げることができる。ブレビバクテリウム属に属する微生物として、例えば、ブレビバクテリウム・ディバリカタム等を挙げることができる。コリネバクテリウム属に属する微生物として、例えば、コリネバクテリウム・アンモニアゲネス等を挙げることができる。シュードモナス(Pseudomonas)属に属する微生物として、例えば、シュードモナス・プチダ等を挙げることができる。
原核生物を宿主とする場合、疎水性タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、pBTrp2(ベーリンガーマンハイム社製)、pGEX(Pharmacia社製)、pUC18、pBluescriptII、pSupex、pET22b、pCold、pUB110、pNCO2(特開2002-238569号公報)等を挙げることができる。
真核生物の宿主としては、例えば、酵母及び糸状真菌(カビ等)を挙げることができる。酵母としては、例えば、サッカロマイセス属、ピキア属、シゾサッカロマイセス属等に属する酵母を挙げることができる。糸状真菌としては、例えば、アスペルギルス属、ペニシリウム属、トリコデルマ(Trichoderma)属等に属する糸状真菌を挙げることができる。
真核生物を宿主とする場合、疎水性タンパク質をコードする核酸を導入するベクターとしては、例えば、Yep13(ATCC37115)、Yep24(ATCC37051)等を挙げることができる。上記宿主細胞への発現ベクターの導入方法としては、上記宿主細胞へDNAを導入する方法であればいずれも用いることができる。例えば、カルシウムイオンを用いる方法〔Proc。 Natl. Acad. Sci. USA,69,2110(1972)〕、エレクトロポレーション法、スフェロプラスト法、プロトプラスト法、酢酸リチウム法、コンピテント法等を挙げることができる。
発現ベクターで形質転換された宿主による核酸の発現方法としては、直接発現のほか、モレキュラー・クローニング第2版に記載されている方法等に準じて、分泌生産、融合タンパク質発現等を行うことができる。
疎水性タンパク質は、例えば、形質転換された宿主を培養培地中で培養し、培養培地中に疎水性タンパク質を生成蓄積させ、該培養培地から採取することにより製造することができる。形質転換された宿主を培養培地中で培養する方法は、宿主の培養に通常用いられる方法に従って行うことができる。
宿主が、大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物である場合、培養培地として、該宿主が資化し得る炭素源、窒素源及び無機塩類等を含有し、該宿主の培養を効率的に行える培地であれば天然培地、合成培地のいずれを用いてもよい。
炭素源としては、該宿主が資化し得るものであればよく、例えば、グルコース、フラクトース、スクロース、及びこれらを含有する糖蜜、デンプン及びデンプン加水分解物等の炭水化物、酢酸及びプロピオン酸等の有機酸、並びにエタノール及びプロパノール等のアルコール類を用いることができる。
窒素源としては、例えば、アンモニア、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、酢酸アンモニウム及びリン酸アンモニウム等の無機酸又は有機酸のアンモニウム塩、その他の含窒素化合物、並びにペプトン、肉エキス、酵母エキス、コーンスチープリカー、カゼイン加水分解物、大豆粕及び大豆粕加水分解物、各種発酵菌体及びその消化物を用いることができる。
無機塩類としては、例えば、リン酸第一カリウム、リン酸第二カリウム、リン酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸マンガン、硫酸銅及び炭酸カルシウムを用いることができる。
大腸菌等の原核生物又は酵母等の真核生物の培養は、例えば、振盪培養又は深部通気攪拌培養等の好気的条件下で行うことができる。培養温度は、例えば、15~40℃である。培養時間は、通常16時間~7日間である。培養中の培養培地のpHは3.0~9.0に保持することが好ましい。培養培地のpHの調整は、無機酸、有機酸、アルカリ溶液、尿素、炭酸カルシウム及びアンモニア等を用いて行うことができる。
また、培養中必要に応じて、アンピシリン及びテトラサイクリン等の抗生物質を培養培地に添加してもよい。プロモーターとして誘導性のプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときには、必要に応じてインデューサーを培地に添加してもよい。例えば、lacプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド等を、trpプロモーターを用いた発現ベクターで形質転換した微生物を培養するときにはインドールアクリル酸等を培地に添加してもよい。
形質転換された宿主により生産された疎水性タンパク質は、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法で単離及び精製することができる。例えば、疎水性タンパク質が、細胞内に溶解状態で発現した場合には、培養終了後、宿主細胞を遠心分離により回収し、水系緩衝液にけん濁した後、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモゲナイザー及びダイノミル等により宿主細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。該無細胞抽出液を遠心分離することにより得られる上清から、タンパク質の単離精製に通常用いられている方法、すなわち、溶媒抽出法、硫安等による塩析法、脱塩法、有機溶媒による沈殿法、ジエチルアミノエチル(DEAE)-セファロース、DIAION HPA-75(三菱化成社製)等のレジンを用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S-Sepharose FF(Pharmacia社製)等のレジンを用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等のレジンを用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の方法を単独又は組み合わせて使用し、精製標品を得ることができる。
上記クロマトグラフィーとしては、フェニル-トヨパール(東ソー)、DEAE-トヨパール(東ソー)、セファデックスG-150(ファルマシアバイオテク)を用いたカラムクロマトグラフィーが好ましく用いられる。
また、疎水性タンパク質が細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に宿主細胞を回収後、破砕し、遠心分離を行うことにより、沈殿画分として疎水性タンパク質の不溶体を回収する。回収した疎水性タンパク質の不溶体は蛋白質変性剤で可溶化することができる。該操作の後、上記と同様の単離精製法により疎水性タンパク質の精製標品を得ることができる。
疎水性タンパク質が細胞外に分泌された場合には、培養上清から疎水性タンパク質を回収することができる。すなわち、培養物を遠心分離等の手法により処理することにより培養上清を取得し、該培養上清から、上記と同様の単離精製法を用いることにより、精製標品を得ることができる。
<構造タンパク質繊維の製造方法>
本実施形態に係る構造タンパク質繊維は、上述した構造タンパク質を紡糸したものであり、上述した構造タンパク質を成分として含む。
本実施形態に係る構造タンパク質繊維は、公知の紡糸方法によって製造することができる。すなわち、例えば、まず、上述した方法に準じて製造した構造タンパク質をジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、又はヘキサフルオロイソプロノール(HFIP)等の溶媒に、溶解促進剤としての無機塩と共に添加し、溶解してドープ液を作製する。次いで、このドープ液を用いて、湿式紡糸、乾式紡糸、乾湿式紡糸又は溶融紡糸等の公知の紡糸方法により紡糸して、目的とする構造タンパク質繊維を得ることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸又は乾湿式紡糸を挙げることができる。
図2は、構造タンパク質繊維を製造するための紡糸装置の一例を概略的に示す説明図である。図2に示す紡糸装置10は、乾湿式紡糸用の紡糸装置の一例であり、押出し装置1と、未延伸糸製造装置2と、湿熱延伸装置3と、乾燥装置4とを有している。
紡糸装置10を使用した紡糸方法を説明する。まず、貯槽7に貯蔵されたドープ液6が、ギヤポンプ8により口金9から押し出される。ラボスケールにおいては、ドープ液をシリンダーに充填し、シリンジポンプを用いてノズルから押し出してもよい。次いで、押し出されたドープ液6は、エアギャップ19を経て、凝固液槽20の凝固液11内に供給され、溶媒が除去されて、構造タンパク質が凝固し、繊維状凝固体が形成される。次いで、繊維状凝固体が、延伸浴槽21内の温水12中に供給されて、延伸される。延伸倍率は供給ニップローラ13と引き取りニップローラ14との速度比によって決まる。その後、延伸された繊維状凝固体が、乾燥装置4に供給され、糸道22内で乾燥されて、構造タンパク質繊維36が、巻糸体5として得られる。18a~18gは糸ガイドである。
凝固液11としては、脱溶媒できる溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液11は、適宜水を含んでいてもよい。凝固液11の温度は、0~30℃であることが好ましい。口金9として、直径0.1~0.6 mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、押出し速度は1ホール当たり、0.2~6.0 ml/時間が好ましく、1.4~4.0 ml/時間であることがより好ましい。凝固した構造タンパク質が凝固液11中を通過する距離(実質的には、糸ガイド18aから糸ガイド18bまでの距離)は、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500 mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20 m/分であってよく、1~3 m/分であることが好ましい。凝固液11中での滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液11中で延伸(前延伸)をしてもよい。凝固液槽20は多段設けてもよく、また延伸は必要に応じて、各段、又は特定の段で行ってもよい。
なお、構造タンパク質繊維を得る際に実施される延伸は、例えば、上記した凝固液槽20内で行う前延伸、及び延伸浴槽21内で行う湿熱延伸の他、乾熱延伸も採用される。
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
湿熱延伸及び乾熱延伸はそれぞれ単独で行ってもよく、またこれらを多段で、又は組み合わせて行ってもよい。すなわち、一段目延伸を湿熱延伸で行い、二段目延伸を乾熱延伸で行う、又は一段目延伸を湿熱延伸行い、二段目延伸を湿熱延伸行い、更に三段目延伸を乾熱延伸で行う等、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
最終的な延伸倍率は、その下限値が、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、好ましくは、1倍超、2倍以上、3倍以上、4倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上のうちのいずれかであり、上限値が、好ましくは40倍以下、30倍以下、20倍以下、15倍以下、14倍以下、13倍以下、12倍以下、11倍以下、10倍以下である。構造タンパク質繊維が2倍以上の延伸倍率で紡糸された繊維であると、構造タンパク質繊維を水に接触させて湿潤状態にした際の収縮率は、より高くなる。
<疎水性タンパク質繊維の製造方法>
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維は、上述した疎水性タンパク質を含むタンパク質繊維が好ましく、疎水性タンパク質を紡糸して製造することができる。本実施形態の軟質ポリウレタンフォームにおける構造タンパク質繊維は、上述した特定の分子デザインが施された疎水性タンパク質を含むため、水に浸漬させる等により水を含ませた場合の繊維強度の低下が有意に抑制されている。そのゆえ、第一実施形態の繊維は、ゴム材料との複合化、特には水系成分との接触を要する操作を行ったとしても、切れ難い。
紡糸方法としては、疎水性タンパク質を紡糸できる方法であれば特に制限されず、例えば、乾式紡糸、溶融紡糸、湿式紡糸等を挙げることができる。好ましい紡糸方法としては、湿式紡糸を挙げることができる。また、いずれの方法においても、疎水性タンパク質を溶媒に溶解させた紡糸原液(ドープ液)を用いることができる。
以下、主に湿式紡糸を例に挙げて説明する。
湿式紡糸では、まず、紡糸原液を、紡糸口金(ノズル)から凝固液(凝固液槽)の中に押出して、凝固液中で疎水性タンパク質を固めることにより糸の形状の未延伸糸を得ることができる。
紡糸原液における疎水性タンパク質の含有量は、1質量%以上、2質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、40質量%以下、35質量%以下、30質量%以下、又は25質量%以下であってよい。
紡糸原液に使用する溶媒としては、疎水性タンパク質を溶解又は分散させることができるものであれば、特に制限されない。具体的に、溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、ヘキサフルオロ-2-プロパノール(HFIP)、へキサフルオロアセトン(HFA)、ギ酸等の有機溶媒であってよい。また、溶媒は、水に、後述する溶解促進剤を添加したものであってもよい。溶媒は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
特に、溶媒としては、ジメチルスルホキシド、ギ酸、及び、これらに溶解促進剤を添加したものからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
紡糸原液は、溶解促進剤を更に含有してもよい。溶解促進剤により、紡糸原液の調製がより容易になる。
溶解促進剤は、例えば、以下に示すルイス酸とルイス塩基とからなる無機塩であってよい。ルイス塩基としては、例えば、オキソ酸イオン(硝酸イオン、過塩素酸イオン等)、金属オキソ酸イオン(過マンガン酸イオン等)、ハロゲン化物イオン、チオシアン酸イオン、シアン酸イオン等が挙げられる。ルイス酸としては、例えば、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン等の金属イオン、アンモニウムイオン等の多原子イオン、錯イオン等が挙げられる。無機塩としては、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、硝酸リチウム、過塩素酸リチウム、及びチオシアン酸リチウム等のリチウム塩、塩化カルシウム、臭化カルシウム、ヨウ化カルシウム、硝酸カルシウム、過塩素酸カルシウム、及びチオシアン酸カルシウム等のカルシウム塩、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄、硝酸鉄、過塩素酸鉄、及びチオシアン酸鉄等の鉄塩、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硝酸アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、及びチオシアン酸アルミニウム等のアルミニウム塩、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硝酸カリウム、過塩素酸カリウム、及びチオシアン酸カリウム等のカリウム塩、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硝酸ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びチオシアン酸ナトリウム等のナトリウム塩、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛、及びチオシアン酸亜鉛等の亜鉛塩、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、硝酸マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、及びチオシアン酸マグネシウム等のマグネシウム塩、塩化バリウム、臭化バリウム、ヨウ化バリウム、硝酸バリウム、過塩素酸バリウム、及びチオシアン酸バリウム等のバリウム塩、並びに塩化ストロンチウム、臭化ストロンチウム、ヨウ化ストロンチウム、硝酸ストロンチウム、過塩素酸ストロンチウム、及びチオシアン酸ストロンチウム等のストロンチウム塩が挙げられる。これらの無機塩は、ギ酸に対する疎水性タンパク質の溶解促進剤として用いられる。紡糸原液が溶解促進剤(上記の無機塩)を含有することにより、疎水性タンパク質が紡糸原液中に高い濃度で溶解可能となる。これにより、タンパク質繊維の生産効率がより一層向上し、かつタンパク質繊維の高品質化と応力等の物性の向上等が期待される。無機塩は、塩化リチウム及び塩化カルシウムからなる群より選択される少なくとも1種であってよい。溶解促進剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
紡糸原液における溶解促進剤の含有量は、0.1質量%以上、1質量%以上、4質量%以上、7質量%以上、10質量%以上、又は15質量%以上であってよく、20質量%以下、16質量%以下、12質量%以下、又は9質量%以下であってよい。
紡糸原液は、必要に応じて、各種の添加剤を更に含有してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、レベリング剤、架橋剤、結晶核剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、着色剤、フィラー、合成樹脂等が挙げられる。添加剤の合計含有量は、紡糸原液中のタンパク質全量100質量部に対して、50質量部以下であってよい。
また、紡糸原液は、本発明による効果を損なわない範囲で、更にアルコールを含有してもよい。
紡糸原液の粘度は、紡糸方法に応じて適宜設定すればよく、例えば、35℃において100~15,000 cP(センチポイズ)とすることができる。紡糸原液の粘度は、例えば、京都電子工業社製の商品名“EMS粘度計”を使用して測定することができる。
凝固液としては、脱溶媒できる溶液であればよく、例えば、メタノール、エタノール及び2-プロパノール等の炭素数1~5の低級アルコール、並びにアセトン等を挙げることができる。凝固液には、適宜水を加えてもよい。凝固液の温度は、0~30℃であることが好ましい。紡糸口金として、直径0.1~0.6 mmのノズルを有するシリンジポンプを使用する場合、1ホール当たりの押し出し速度は、0.2~6.0 ml/時間であることが好ましく、1.4~4.0 ml/時間であることがより好ましい。凝固液槽の長さは、脱溶媒が効率的に行える長さがあればよく、例えば、200~500 mmである。未延伸糸の引き取り速度は、例えば、1~20 m/分であってよく、1~3 m/分であることが好ましい。滞留時間は、例えば、0.01~3分であってよく、0.05~0.15分であることが好ましい。また、凝固液中で延伸(前延伸)をし、前延伸糸を得てもよい。低級アルコールの蒸発を抑えるため、凝固液を低温に維持し、未延伸糸の状態で引き取ってもよい。凝固液槽は多段設けてもよく、また、必要に応じ、各段又は特定の段で延伸を行ってもよい。
次いで、得られた未延伸糸(又は前延伸糸)を延伸し、延伸糸(タンパク質繊維)とすることができる。延伸方法としては、湿熱延伸、乾熱延伸等を挙げることができる。
湿熱延伸は、温水中、温水に有機溶剤等を加えた溶液中、又はスチーム加熱中で行うことができる。温度としては、例えば、50~90℃であってよく、75~85℃が好ましい。湿熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、1~10倍延伸することができ、2~8倍延伸することが好ましい。
乾熱延伸は、電気管状炉、乾熱板等を使用して行うことができる。温度としては、例えば、140℃~270℃であってよく、160℃~230℃が好ましい。乾熱延伸では、未延伸糸(又は前延伸糸)を、例えば、0.5~8倍延伸することができ、1~4倍延伸することが好ましい。
湿熱延伸及び乾熱延伸は、それぞれ単独で行ってもよく、或いは、これらを多段で又は組み合わせて行ってもよい。例えば、一段目延伸を湿熱延伸とし、二段目延伸を乾熱延伸として延伸を行ってもよく、一段目延伸を湿熱延伸とし、二段目延伸を湿熱延伸とし、更に三段目延伸を乾熱延伸として延伸を行ってもよい。即ち、延伸は、湿熱延伸及び乾熱延伸を適宜組み合わせて行うことができる。
延伸後の最終的な延伸倍率は、未延伸糸(又は前延伸糸)に対して、例えば、5~20倍であり、6~11倍であることが好ましい。
なお、延伸後の繊維を第一実施形態の繊維とすることもできるが、延伸後に更に、得られたタンパク質繊維内のポリペプチド分子間で化学的に架橋させて、第一実施形態の繊維としてもよい。架橋させることができる官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、チオール基及びヒドロキシ基等が挙げられる。例えば、ポリペプチドに含まれるリジン側鎖のアミノ基は、グルタミン酸又はアスパラギン酸側鎖のカルボキシル基と脱水縮合によりアミド結合で架橋することができる。架橋は、真空加熱下で脱水縮合反応を行なうことにより行ってもよいし、カルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行ってもよい。
ポリペプチド分子間の架橋は、カルボジイミド、グルタルアルデヒド等の架橋剤を用いて行ってもよく、トランスグルタミナーゼ等の酵素を用いて行ってもよい。カルボジイミドは、一般式R1N=C=NR2(但し、R1及びR2は、それぞれ独立して、炭素数1~6のアルキル基、シクロアルキル基を含む有機基を示す。)で示される化合物である。カルボジイミドの具体例として、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-シクロヘキシル-3-(2-モルホリノエチル)カルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)等が挙げられる。これらの中でも、カルボジイミドとしては、ポリペプチド分子間のアミド結合形成能が高く、架橋反応し易いことから、EDC及びDICが好ましい。
架橋処理は、タンパク質繊維に架橋剤を付与し、真空加熱乾燥により行うことが好ましい。架橋剤は、その純品をタンパク質繊維に付与してもよいし、炭素数1~5の低級アルコール及び緩衝液等で0.005~10質量%の濃度に希釈したものをタンパク質繊維に付与してもよい。架橋処理は、温度20~45℃で3~42時間行うのが好ましい。架橋処理により、タンパク質繊維に更に高い応力(強度)を付与することができる。
上記のように、タンパク質を溶解したドープ液を用いて紡糸することで、β-シート結晶が配向するため、得られる繊維は、繊維引張で液晶紡糸した高強度繊維に近い初期剛性を有する。更に、得られる繊維は、繊維軸方向の圧縮歪入力に対して強い傾向があり、繊維軸方向に沿って割れが生じる破壊面が発生し難いという特徴がある。これは、タンパク質が繊維軸方向に配向したβ-シート結晶の間で相互に作用する、或いは、タンパク質が高次構造を有するためと考えられる。
<軟質ポリウレタンフォームの製造>
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、例えば、上述したポリオール成分、上述したイソシアネート成分、上述した所定の長さの構造タンパク質繊維と、触媒、及び発泡剤と、任意に架橋剤、整泡剤及び/又は架橋剤とを用いて調製される発泡原液から、製造することができる。なお、発泡原液混合物を調製した後に、構造タンパク質繊維を添加してもよいし、ポリオール成分に構造タンパク質繊維を添加してから、発泡原液を調製してもよい。
上記発泡原液は、上述した材料のうち、イソシアネート成分以外のものを配合し、構造タンパク質繊維が十分に分散した混合物を得、その後、得られた混合物にイソシアネート成分を混合して調製されることが好ましい。
また、上記混合物は、発泡剤と触媒とをなるべく接触させないという観点から、ポリオール成分に触媒を配合し、次いで、任意に整泡剤及び架橋剤等を配合し、最後に、発泡剤を配合して調製しても良い。
更に、構造タンパク質繊維は、分散性向上の観点から、添加前に常法に従ってほぐしておくことが好ましい。
混合するポリオール成分、イソシアネート成分、構造タンパク質繊維の構成や含有量については、それぞれ、上述した<ポリオール成分>、<イソシアネート成分>、<構造タンパク質繊維>の中で説明した内容と同様である。
触媒としては、ポリウレタンフォームの製造において汎用のものを用いることができ、例えば、TEDA〔1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン〕、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、トリメチルアミノエチルピペラジン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N-メチルモルホリン、N-エチルモルホリン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ビス(ジメチルアミノアルキル)ピペラジン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルベンジルアミン、ビス(N,N-ジエチルアミノエチル)アジペート、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ブタンジアミン、N,N-ジメチル-β-フェニルエチルアミン、1,2-ジメチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール等の3級アミンや、ジブチル錫ジラウレート、オレイン酸第1スズ、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛等の有機金属化合物などが挙げられる。又、低分子量のアミンポリオール(例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン等又はポリアミン、例えば、エチレンジアミン、キシリレンジアミン、メチレンビスオルソクロルアニリン等)も挙げられる。上述の中でも分子内にアミン基を含む触媒を選択することが好ましい。触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
なお、触媒の使用量としては、ポリオール成分100質量部に対して、通常0.1~5質量部であり、より好ましくは0.2~1質量部である。
発泡剤としては、水が好ましく用いられる。水は、イソシアネート成分と反応して二酸化炭素ガスを発生させることから、発泡剤として作用する。なお、水以外にも、ポリウレタンフォームの製造に通常用いられる発泡剤、例えば、水素原子含有ハロゲン化炭化水素、液化炭酸ガス、低沸点の炭化水素などを用いることもできる。
なお、発泡剤の使用量としては、ポリオール成分100質量部に対して、好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは2~7質量部である。発泡剤の使用量がポリオール成分100質量部に対して0.1質量部以上であれば、十分な発泡効果が得られる。
整泡剤としては、ポリウレタンフォームの製造において汎用のものを用いることができ、例えば、各種シロキサン-ポリエーテルブロック共重合体等のシリコーン系整泡剤を用いることができる。整泡剤の市販品としては、例えば、東レ・ダウコーニング社製「SZ1325」、EVONIK製「B8742LF2」等が挙げられる。
整泡剤の使用量としては、ポリオール成分100質量部に対して、通常0.5~5質量部であり、より好ましくは0.5~3質量部である。整泡剤の使用量がポリオール成分100質量部に対して0.5質量部以上であれば、ポリオール成分とイソシアネート成分の攪拌性が低下せず、所望のポリウレタンフォームが得られ、5質量部以下であればコスト上好ましい。
そして、本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、モールド成形により得ることができる。より具体的に、本実施形態のポリウレタンフォームは、特に限定されることなく、上述した発泡原液をモールド内のキャビティに注入し、温度50~70℃、キュア時間5~7分で常法に従ってモールド成形(発泡成形)することにより、得ることができる。その際、時限圧力解放(TPR:Timed Pressure Release)を併用してもよい。TPRは、モールド内の圧力を低下させ、気泡の連通化を図る操作である。より具体的には、発泡原液をモールド内のキャビティに注入した後、ゲルタイム(ポリオール成分とイソシアネート成分とが混合され、増粘が生じてゲル強度が出始める時間)より20~50秒経過した後に、モールド内の圧力を0.15~0.25 MPa低下させる操作である。
成形後のポリウレタンフォームには、ローラ等を用いてクラッシング処理を施すことができる。クラッシング処理は、フォームの形状の安定化及び収縮の抑制を目的として、発泡成形時に生じた気泡のセル膜を破り、気泡の連通化を図る処理である。
<<軟質ポリウレタンフォームの製造方法>>
本発明の一実施形態の軟質ポリウレタンフォームの製造方法(以下、「本実施形態の製造方法」と称することがある)は、上述した軟質ポリウレタンフォームを、モールド成形により得る工程を含むことを特徴とする。本実施形態の製造方法では、モールド成形を行うことにより、セルの粗大化を抑制しつつ、上述したポリウレタンフォームを製造することができる。モールド成形については、既述した通りである。また、本実施形態の製造方法では、モールド成形によりポリウレタンフォームを得ること以外、特に制限されず、発泡原液の調製、クラッシング処理等の任意の操作を適宜実施することができる。
なお、ポリウレタンフォームの製造方法としては、モールドを用いることなく、例えばベルトコンベア等の上で、大気圧下で発泡及び硬化させる方法も挙げられる。しかしながら、かかる方法では、構造タンパク質繊維が発泡成形に悪影響を及ぼし、得られるポリウレタンフォーム内のセルが粗大化し得る(例えば、セル径が5 mm以上となる)ため、セルの細密性のコントロールをすることが困難となる。
本実施形態の軟質ポリウレタンフォームは、例えば、各種吸音材、制振材、シーリング材、防音フローリング材、まくら、マットレス、ベッドパッド、掛け及び敷き布団等の部材に使用することができる。その際には、上述した部材を、スラブ成型と呼ばれる製法を用いて製造してもよい。
<自動車用シートパッド>
本発明の一実施形態の自動車用シートパッド(以下、「本実施形態の自動車用シートパッド」と称することがある)は、上述した軟質ポリウレタンフォームを備える。本実施形態の自動車用シートパッドは、軽量であるとともに、座り心地に優れる自動車用シートパッドである。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、これらの実施例は、本発明の例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。
<比較例及び実施例における構造タンパク質(改変フィブロインである疎水性タンパク質)繊維の製造>
〔(1)発現ベクターの作製〕
設計した配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質(改変フィブロインである疎水性タンパク質)をコードする核酸をそれぞれ合成した。当該核酸には、5’末端にNdeIサイト、終止コドン下流にEcoRIサイトを付加した。これら5種類の核酸をクローニングベクター(pUC118)にクローニングした。その後、同核酸をNdeI及びEcoRIで制限酵素処理して切り出した後、タンパク質発現ベクターpET-22b(+)に組換えて発現ベクターを得た。
〔(2)タンパク質の発現〕
配列番号17で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする核酸を含むpET22b(+)発現ベクターで、大腸菌BLR(DE3)を形質転換した。当該形質転換大腸菌を、アンピシリンを含む2 mLのLB培地で15時間培養した。当該培養液をアンピシリンを含む100 mLのシード培養用培地(表4)にOD600が0.005となるように添加した。培養液温度を30℃に保ち、OD600が5になるまでフラスコ培養を行い(約15時間)、シード培養液を得た。
当該シード培養液を500 mLの生産培地(表5)を添加したジャーファーメンターにOD600が0.05となるように添加して形質転換大腸菌を植菌した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにした。
生産培地中のグルコースが完全に消費された直後に、フィード液(グルコース455 g/1 L、Yeast Extract 120 g/1 L)を1 mL/分の速度で添加した。培養液温度を37℃に保ち、pH6.9で一定に制御して培養した。また培養液中の溶存酸素濃度を、溶存酸素飽和濃度の20%に維持するようにし、20時間培養を行った。その後、1 Mのイソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)を培養液に対して終濃度1 mMになるよう添加し、目的のタンパク質を発現誘導させた。IPTG添加後20時間経過した時点で、培養液を遠心分離し、菌体を回収した。IPTG添加前とIPTG添加後の培養液から調製した菌体を用いてSDS-PAGEを行い、IPTG添加に依存した目的とするタンパク質サイズのバンドの出現により、目的とするタンパク質の発現を確認した。
〔(3)タンパク質の精製〕
IPTGを添加してから2時間後に回収した菌体を20 mM Tris-HCl buffer(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の菌体を約1 mMのPMSFを含む20 mMTris-HCl緩衝液(pH7.4)に懸濁させ、高圧ホモジナイザー(GEA Niro Soavi社)で細胞を破砕した。破砕した細胞を遠心分離し、沈殿物を得た。得られた沈殿物を、高純度になるまで20 mMTris-HCl緩衝液(pH7.4)で洗浄した。洗浄後の沈殿物を100 mg/mLの濃度になるように8 M グアニジン緩衝液(8 Mグアニジン塩酸塩、10 mMリン酸二水素ナトリウム、20 mMNaCl、1mM Tris-HCl、pH7.0)で懸濁し、60℃で30分間、スターラーで撹拌し、溶解させた。溶解後、透析チューブ(三光純薬株式会社製のセルロースチューブ36/32)を用いて水で透析を行った。透析後に得られた白色の凝集タンパク質を遠心分離により回収し、凍結乾燥機で水分を除き、凍結乾燥粉末を回収した。
得られた凍結乾燥粉末における目的タンパク質の精製度は、粉末のポリアクリルアミドゲル電気泳動の結果をTotallab(nonlinear dynamics ltd.)を用いて画像解析することにより確認した。その結果、精製度は約85%であった。
〔(4)紡糸液(ドープ液)の調製〕
4質量%になるように塩化リチウムを溶解したDMSOを溶媒として用い、上記で調製したPRT918(配列番号17)のタンパク質の凍結乾燥粉末を、濃度24質量%となるように、溶媒に添加した。90℃のアルミブロックヒーターで1時間溶解させた後、不溶物と泡を取り除き、紡糸液(ドープ液)とした。
〔(5)紡糸〕
紡糸液をリザーブタンクに充填し、0.1又は0.2 mm径のモノホールノズルからギアポンプを用い100質量%メタノール凝固浴槽中へ吐出させた。吐出量は0.01~0.08 mL/分に調整した。凝固後、100質量%メタノール洗浄浴槽で洗浄及び延伸を行った。洗浄及び延伸後、乾熱板を用いて乾燥させ、得られた原糸(構造タンパク質繊維)を巻き取った。
構造タンパク質繊維の繊維長は、構造タンパク質繊維を繊維カット機を用いて所望の長さに切断することによって調整し、又、繊維径は、紡糸ノズルの穴径、紡糸の際の延伸倍率を調節する等により調整した。
構造タンパク質繊維のコーティングは、鉱物油を含む油剤を用いて行った。
<比較例及び実施例の軟質ポリウレタンフォームの製造>
比較例1、実施例1~6については、
ポリオール成分である
ポリエーテルポリオール(ダウケミカル社製、「CP6001」)を89質量部、
ポリマーポリオール(三洋化成工業(株)製、「KC863」)を10質量部、
架橋剤(「EL555」)1質量部、並びに
触媒(エアプロダクツ社製、「33LV」)を0.6質量部、
シリコーン系整泡剤(モメンティブ製、「L3627」)0.8質量部、及び
発泡剤(水)3質量部
を配合した。そしてこれに、
表6に示される長さ及び繊維径の構造タンパク質繊維を表6に示される質量%(後記ポリオール組成物、に対する含有率)になる量、
を添加して混合し、ポリオール組成物を調製した。
このポリオール組成物に、
イソシアネート成分をインデックスが95になる量、
で配合し、発泡原液を調製した。なお、配合したイソシアネート成分の詳細は表6に示す。
比較例3、4、実施例7、8については、ポリマーポリオールの量を表6に示す含有率になるように配合し、変量分はポリエーテルポリオール量で調整した点以外は、上記比較例1、実施例1~6と同様に調製した。
比較例2、5については、
ポリオール成分としての
ポリエーテルポリオール(三洋化成工業株式会社製、「サンニックスKC741」(PPG))50質量部、
ポリマーポリオール(三洋化成工業株式会社製、「サンニックスKC855」(POP))50質量部、並びに
触媒(東ソー株式会社製、「TEDA-L33」を含む)0.7質量部
に対し、
表6に示される長さ及び繊維径の構造タンパク質繊維を表6に示される質量%(後記ポリオール組成物、に対する含有率)になる量を添加して混合し、
整泡剤(EVONIK製、「B8742LF2」)0.5質量部、及び
発泡剤(水)2.4質量部
を配合して、ポリオール組成物を調製した。
このポリオール組成物に、
イソシアネート成分としてのトリレンジイソシアネート(TDI)(三井化学株式会社製、「コスモネートT-80」)、及びジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)(東ソー株式会社製、「MR-200HR」)の混合物(TDIの質量部:MDIの質量部=80:20)をインデックスが98.5となる量、
で配合し、発泡原液を調製した。
上記調製した各発泡原液を用い、モールド内にて発泡・硬化させた後、脱型して、比較例及び実施例の軟質ポリウレタンフォームを得た。得られた軟質ポリウレタンフォームについて、以下の評価・測定試験を行った。
<比較例及び実施例の軟質ポリウレタンフォームの物性測定試験>
<<OA密度>>
使用したモールドのキャビティの容量と、得られた軟質ポリウレタンフォームの重量とから、軟質ポリウレタンフォームの密度(OA密度)(kg/m3)を求めた。
一般に、軟質ポリウレタンフォームのOA密度を高くすることで、該軟質ポリウレタンフォームを、より高い硬度とすることができる。ただし、OA密度を高くすることは重量の増加に繋がる。特に車輛用部品においては、車輌の低燃費化の観点で部品の重量を増加させないことが望ましい。従って、本願においては、本物性測定試験で、軟質ポリウレタンフォームの組成と25%硬度の関係を検討する際には、OA密度を同程度に揃えた条件で比較検討することが好ましい。
<<25%硬度>>
インストロン型圧縮試験機を用いて、23℃、相対湿度50%の環境にて軟質ポリウレタンフォームを25%圧縮するのに要する荷重(単位:N)を25%硬度として測定した。25%硬度の数値が大きい軟質ポリウレタンフォームは、該指標において高硬度である。
<<応力緩和率>>
直径200 mmの円形の加圧板で、50 mm/分の速度で軟質ポリウレタンフォームの初期厚みの75%の距離を圧縮した。その後、加圧板を除き、1分間放置した。再び同じ速度にて加圧板で圧縮し、荷重が196 N(20 kgf)となった時点で加圧板を停止させ、5分間放置した後の荷重を測定した。そして、下記式により、応力緩和率(%)を算出した。
応力緩和率(%)=100×[加圧板停止時の荷重(196 N)-5分間放置後の荷重]/加圧板停止時の荷重(196 N)
<<反発弾性率>>
コア部の反発弾性率に関しては、得られた軟質ポリウレタンフォームの中心部から縦横
100 mm×厚み50 mmの寸法にて切り出したサンプルを用いて、JIS K6400-3に準拠し、予備圧縮後放置時間を1分、鋼球の落下高さを460 mmとして、評価した。
<比較例及び実施例の軟質ポリウレタンフォームの物性測定試験の結果>
<<物性測定試験の結果の説明>>
ア)比較例1~5、実施例1~8について、OA密度を測定したところ、その値は62.2~64.4 kg/m3の範囲にあった。この結果は、比較例1~5、実施例1~8の何れのサンプルについても、以下の25%硬度、応力緩和率、反発弾性率の測定を、同程度のOA密度である軟質ポリウレタンフォームで行ったことを示す。
イ)軟質ポリウレタンフォームは、従来から知られている通り、含有するポリマーポリオール量を増やすことで、25%硬度値が大きくなるように高硬度化することができた(比較例3:比較例1:比較例4)。ここで、同じポリマーポリオール量を含有する条件で、更に25%硬度値が大きくなるように高硬度化できるかを検討するために、構造タンパク質繊維を含まない比較例1,3,4と構造タンパク質繊維を含む実施例1-6、7、8とを比較した。その結果、構造タンパク質繊維を含む実施例では25%硬度値が大きくなるように高硬度化されることが示された(比較例1 v.s. 実施例1~6、比較例3 v.s. 実施例7、比較例4 v.s. 実施例8)。又、イソシアネート成分を変更しても、構造タンパク質繊維を含むことによる高硬度化が観察された(比較例2 v.s. 比較例5)。
更に、構造タンパク質繊維を含む実施例では、構造タンパク質繊維を含まないがより多くのポリマーポリオール量を含有する比較例と比べて、25%硬度値が大きくなるように高硬度化できることも示された(比較例1 v.s. 実施例7、比較例4 v.s. 実施例6)。
以上より、構造タンパク質繊維を含む実施例は、構造タンパク質繊維を含まない比較例よりも高い硬度を有しているので、シートパッドとして用いる際には薄肉化をすることができる、ことが示唆される。
ウ)ポリマーポリオール量を増やすことで25%硬度値が大きくなるように高硬度化した軟質ポリウレタンフォームは、応力緩和率値が増加した(比較例3:比較例1:比較例4)。この応力緩和率値が増加するということは、該軟質ポリウレタンフォームによるシートパッドに長時間座っていると、座位が沈んでいき、底つき感を感じたり、アイポイントがずれるという問題を生じさせる。
しかし、構造タンパク質繊維を含まない比較例と比較して、同じポリマーポリオール量を含有する条件で、25%硬度値が大きくなるように高硬度化させた構造タンパク質繊維を含む実施例では、同程度の応力緩和率値が維持された(比較例1 v.s. 実施例1~6、比較例3 v.s. 実施例7、比較例4 v.s. 実施例8)
この結果より、構造タンパク質繊維を含む実施例は、これを薄肉化してシートパッドとして用いた場合、構造タンパク質繊維を含まない比較例よりも、長時間の着座時における底つき感及びアイポイントのずれを防止する効果が高い、ことが示唆される。
エ)本発明のイソシアネート成分の特徴を有さない、即ち、イソシアネート成分中のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)含有率が80質量%未満で、前記MDI中のモノメリックMDI含有率が50質量%未満である比較例2は、比較例1と同程度の25%硬度値であるが、ポリオール成分中のポリマーポリオール含有率がより高く、反発弾性率値もより大きかった(比較例1 v.s. 比較例2)。比較例2に構造タンパク質繊維を含有させた比較例5では、前述の通り、より25%硬度値が大きくなり高硬度化されたが(比較例2 v.s. 比較例5)、反発弾性率値は比較例1よりも高いままであった(比較例1 v.s. 比較例5)。このことは、比較例2、5の軟質ポリウレタンフォームを薄肉化したシートパッドは、ぐらつき感を感じやすいという問題を生じさせる。
一方、本発明のイソシアネート成分の特徴を有する、即ち、イソシアネート成分中のジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)含有率が80質量%以上で、前記MDI中のモノメリックMDI含有率が50質量%以上で、且つ前記モノメリックMDI中の4,4’-MDI含有率が50質量%以上である比較例1、3,4は、本発明の別の特徴である構造タンパク質繊維繊維を含有させることで、前述の通り25%硬度値が大きくなるように高硬度化したときにおいても、適度な反発弾性率値に維持することができた(比較例1 v.s. 実施例1~6、比較例3 v.s. 実施例7、比較例4 v.s. 実施例8)。
更に、本発明のイソシアネート成分の特徴を有さない比較例5の反発弾性率値と比較して、比較例5と同じ条件の構造タンパク質繊維を含有する実施例2、或いは比較例5と同程度の25%硬度値及び応力緩和値を有する実施例4では、それぞれ、より適度な反発弾性率値を兼ね備えた(比較例5 v.s. 実施例2、4)。
以上より、本発明のイソシアネート成分の特徴を有する実施例は、これを薄肉化してシートパッドとして用いた場合、本発明のイソシアネート成分の特徴を有さない比較例よりも、ぐらつき感を抑制することができる、ことが示唆される。
本発明によれば、自動車部材を軽量化するために求められる、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する軟質ポリウレタンフォームを提供することができる。
又、本発明は、本発明の軟質ポリウレタンフォームをセルの粗大化を抑制しつつ製造することが可能な、本発明の軟質ポリウレタンフォームの製造方法を提供することができる。
更に又、本発明は、(1)高い硬度を有し且つ応力緩和が維持/低減される性質、並びに(2)薄肉化をしても底つき感やぐらつき感を感じにくい性質、を有する自動車用シートパッドを提供することができる。
1 押出し装置
2 未延伸糸製造装置
3 湿熱延伸装置
4 乾燥装置
5 巻糸体
6 ドープ液
7 貯槽
8 ギヤポンプ
9 口金
10 紡糸装置
11 凝固液
12 温水
13 供給ニップローラ
14 引き取りニップローラ
18a~18g 糸ガイド
19 エアギャップ
20 凝固液槽
21 延伸浴槽
22 糸道
36 構造タンパク質繊維

Claims (9)

  1. 少なくとも1種のポリオール成分と、
    少なくとも1種のイソシアネート成分と、
    長さが0.1~5 mmである構造タンパク質繊維とを含む、
    軟質ポリウレタンフォームであって、
    前記イソシアネート成分として、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)を、前記イソシアネート成分の総量中80質量%以上含み、
    前記ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)はモノメリックMDIを50質量%以上含み、且つ前記モノメリックMDIは4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)を50質量%以上含むことを特徴とする、
    軟質ポリウレタンフォーム。
  2. 前記構造タンパク質繊維の長さが0.5~2 mmである、請求項1に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
  3. 前記構造タンパク質繊維の繊維径が1~50 μmである、請求項1又は2に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
  4. 前記構造タンパク質繊維の繊維径が1~20 μmである、請求項1から3の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
  5. 前記構造タンパク質繊維を構成する構造タンパク質が、改変フィブロインである、請求項1から4の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
  6. 前記ポリオール成分がポリマーポリオールを1~30質量%含む、請求項1から5の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
  7. 前記構造タンパク質繊維が、鉱物油、動植物油、及び合成油から選択される少なくとも1種の油剤でコーティングされている、請求項1から6の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォーム。
  8. 請求項1から7の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォームを備える、ことを特徴とする、自動車用シートパッド。
  9. モールド成形により請求項1から7の何れか一項に記載の軟質ポリウレタンフォームを得る工程を含む、ことを特徴とする、軟質ポリウレタンフォームの製造方法。
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