本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
===地絡点標定システム===
図1は、本実施形態に係る地絡点標定システムを示すブロック図である。尚、図1では、地絡点の標定に係る説明を分かり易くするために、地絡点は、直線状の配電線における直近の2台の計測端末で挟まれた位置に存在することとする。
地絡点標定システム100は、配電線200に地絡事故が発生した場合に、配電線200のどの位置に地絡事故が発生したのかを標定するシステムである。
地絡点標定システム100は、地絡点を標定するための手段として、複数の電流センサ310、複数の電圧センサ320、複数の計測端末400、地絡点標定装置500を含んで構成されている。
複数の電流センサ310は、それぞれ、例えば支柱600に設置されている。電流センサ310は、配電線200に地絡事故が発生した場合に、支柱600の設置場所における配電線200の零相電流を検出する。複数の電圧センサ320は、複数の電流センサ310のそれぞれに隣り合うように、例えば支柱600に設置されている。電圧センサ320は、配電線200に地絡事故が発生した場合に、支柱600の設置場所における配電線200の零相電圧を検出する。尚、支柱600に隣り合って設置される一対の電流センサ310及び電圧センサ320は、外部要因(風雨、紫外線等)から保護するために、例えば支柱600に設置される開閉器800用の収容箱800A内に密閉状態で収容されることとする。
複数の計測端末400は、それぞれ、例えば支柱600に設置され、無線通信を介して地絡点標定装置500と接続されている。そして、計測端末400は、電流センサ310から得られる零相電流を示す情報及び電圧センサ320から得られる零相電圧を示す情報を、GPS衛星700から得られる現在時刻を示す情報に対応付けて、地絡点標定装置500に送信する。尚、計測端末400は、有線の通信線を介して地絡点標定装置500と接続されていてもよい。
地絡点標定装置500は、地絡点を標定することができるように、無線通信を介して複数の計測端末400を統括的に管理する装置であって、例えば電力会社等の建物内に設置されている。地絡点標定装置500は、地絡点を挟む2台の計測端末400の組合せのうち、設置間距離が最短となる2台の計測端末400(例えば計測端末400A,400B)から得られる零相電流及び零相電圧を示す情報と現在時刻を示す情報とに基づいて、所定の演算を行うことによって地絡点を標定する。
特に、本実施形態における地絡点標定装置500は、直線状の配電線200Aのみを含む配電線200と、直線状の配電線200A及び樹枝状の配電線200Bを含む配電線200と、の双方に地絡事故が発生した場合に、地絡点を精度よく標定することが可能な装置である。
===地絡点標定方法===
ここで、地絡点(故障点)を挟む2台の計測端末400A,400Bを用いて地絡点を標定する方法の一例を説明する。地絡点標定装置500は、計測端末400A,400B間の配電線200上の距離、サージ伝搬速度、及び、地絡点から計測端末400Aまでのサージ到達時刻と地絡点から計測端末400Bまでのサージ到達時刻との差に基づき、地絡点から計測端末400A又は計測端末400Bまでの配電線200上の距離を算出する。
具体的に、地絡点標定装置500は、地絡点から計測端末400Aまでの距離xを標定値として算出する場合に、以下の式(1)に基づく演算を行う。
である。このように、地絡点標定装置500は、地絡点から計測端末400A(又は計測端末400B)までの距離xを求めることにより、地絡点を標定する。尚、地絡点の具体的な標定手法については例えば特許文献1に開示されているため、その説明を省略する。
<直線状の配電線に設置した3台の計測端末を用いた地絡点の標定>
図1に示す例において、地絡点標定装置500による地絡点の標定は、地絡点を挟んで設置された直近の2台の計測端末400A、400Bの出力を用いて行う。式(1)において、サージ伝搬速度vは、固定値であるが、式(1)で用いるサージ伝搬速度Vの値と、実際のサージ伝搬速度Vとの間に誤差が大きくなるほど、式(1)に基づいて算出される距離xと実際の地絡点との誤差も大きくなる。
これに対し、地絡点標定装置500は、地絡点を挟んで設置される計測端末400A、400Bの組合せの他に、地絡点を挟んでいるが直近ではない2台の計測端末の組合せの出力を用いて標定を行うことができる。以下、その具体例を挙げながら説明する。
図2(A)は、直線状の配電線に沿って、地絡点を挟むように、3台の計測端末が設置されていることを示す模式図である。
図2(A)において、2台の計測端末400A,400Bは、図1と同様に、地絡点を挟む直近の位置に設置されている。3台目の計測端末400Cは、計測端末400Aの地絡点とは反対側の所定位置に設置されている。この場合、地絡点を挟む2台の計測端末の組合せは、計測端末400A,400Bと計測端末400C,400Bの2通りとなる。
このように、2台の計測端末からなる複数の組合せを用いて地絡点を標定する場合、地絡点標定装置500は、式(1)で算出される距離xのばらつき(標定値のばらつき)が最小となるようなサージ伝搬速度vを算出する。
具体的には、以下の式(2)で示す標準偏差σを評価関数とし、この標準偏差σを最小とする条件dσ/dv=0を満たすサージ伝搬速度vを、以下の式(3)に従って算出する。
である。
例えば、図2(A)に示す例において、2台の計測端末の組合せの数n=2である。また、図2(A)に示す例において、地絡点は、計測端末400Aと計測端末400Bとの間、及び、計測端末400Cと計測端末400Bとの間に位置する。このとき、サージ伝搬速度vは、以下の式(3-1)のように表される。
地絡点標定装置500は、2台の計測端末からなる2通りの組合せ(計測端末400A,400B、及び、計測端末400C,400B)を用いて式(3)に基づく演算を行い、サージ伝搬速度vを算出する。
尚、一般に、地絡点が標定することが可能とされるサージ伝搬速度vの範囲は、50(m/μs)≦v≦300(m/μs)である。そこで、式(3)に基づく演算により導出されたサージ伝搬速度Vの値が、上記の範囲から逸脱する値である場合に、地絡点標定装置500は、地絡点を標定するための値として採用せずに、地絡点の標定が不能であると判断する。
導出されたサージ伝搬速度Vの値が上記の範囲内であった場合、地絡点標定装置500は、式(1)に基づく演算を行い、2つの距離xiを導出する。具体的に、地絡点標定装置500は、導出したサージ伝搬速度vを式(1)に代入し、2つの組合せの各々について、式(1)に基づく演算を行うことにより、2つの距離xiを導出する。
<直線状の配電線に設置した4台の計測端末を用いた地絡点の標定>
図2(B)は、直線状の配電線に沿って、地絡点を挟むように、4台の計測端末が設置されていることを示す模式図である。図2(B)において、2台の計測端末400A,400Bは、図1と同様に、地絡点を挟む直近の位置に設置されている。3台目の計測端末400Cは、計測端末400Aの地絡点とは反対側の所定位置に設置されている。4台目の計測端末400Dは、計測端末400Bの地絡点とは反対側の所定位置に設置されている。この場合、地絡点を挟む2台の計測端末の組合せは、計測端末400A,400B、計測端末400C,400B、計測端末400C,400D、及び、計測端末400A,400Dの4通りとなる。この場合においても、地絡点標定装置500は、3台の計測端末を用いる場合と同様に、式(1)~(4)を用いることで、地絡点を標定することができる。
<分岐を含む配電線に設置した3台の計測端末を用いた地絡点の標定>
図3(A)(B)は、T字分岐を含む配電線に対して、3台の計測端末が設置されていることを示す模式図である。なお、図3(A)に示す例において、地絡点は、分岐点を中
心とする半径r1の円で示される第一圏域R1よりも外側であって、配電線200A上における計測端末400Aの付近に存在するものとし、図3(B)に示す例において、地絡点は、第一圏域R1の内側であって、配電線200A上における分岐点の付近(計測端末400A寄り)に存在することとする。
図3(A)(B)において、計測端末400A(第1計測端末)は、配電線200Aの第1位置にある支柱600に設置されている。計測端末400B(第2計測端末)は、計測端末400Aから所定距離離れた配電線200Aの第2位置にある支柱600に設置されている。計測端末400Cは、配電線200Aの第1位置と第2位置との間から分岐する配電線200Bの第3位置にある支柱600に設置されている。
図3(A)(B)に示す例において、配電線200は、直線状の配電線200A(幹線)と、この配電線200A上における、任意の位置から樹枝状(T字状)に分岐する配電線200B(分岐線)と、を含んで形成される。
なお、地絡点を挟む2つの計測端末400の組合せは,3通り(計測端末400A,400B、計測端末400A,400C、及び、計測端末400B,400C)である。以下、地絡点を挟む2つの計測端末400の3通りの組合せのことを、単に「3つの組合せ」と言う場合がある。また、計測端末400A,400Bの組合せを用いて導出された距離をx1、計測端末400A,400Cの組合せを用いて導出された距離をx2、計測端末400B,400Cの組合せを用いて導出された距離をx3とする。
ここで、図3(A)(B)に示す例において、地絡点(故障点)は、計測端末400Aと計測端末400Bとの間、及び、計測端末400Aと計測端末400Cとの間に存在するが、計測端末400Bと計測端末400Cとの間には存在しない。なお、地絡点を挟まない2つの計測端末400B,400Cを用いて地絡点を標定した場合、地絡点標定装置500は、分岐点の位置を標定する。従って、地絡点標定装置500は、上記した式(1)に基づく演算により導出される3つの距離x1~x3のうち、2つの距離x1,x2は、実際の地絡点を標定結果として出力するのに対し、残り1つの距離x3は、分岐点を標定結果として出力する。
そこで、地絡点標定装置500は、地絡点が第一圏域R1の内側に存在するか否か、即ち、地絡点が分岐点から所定の範囲内(例えば、分岐点から半径100m圏内)に存在するか否かの判別を行う。そして、地絡点標定装置500は、地絡点が第一圏域R1の内側にある場合とそうでない場合とで、地絡点の標定手法を変える。これにより、地絡点標定装置500は、分岐点を挟んで設置された3台の計測端末400を用いた地絡点の標定において、その標定結果の精度を高めることができる。
具体例を挙げて説明する。最初に、図3(A)に示すような、地絡点の位置が、第一圏域R1よりも外側であって、3つの計測端末400のうち何れか1つの計測端末400(図3(A)に示す例では計測端末400A)の近傍に存在する場合を例に挙げて説明する。
この場合、適正なサージ伝搬速度Vの値を用いて式(1)に基づく演算を行うと、3つの組合せのうち、2つの組合せ(計測端末400A,400B、及び、計測端末400A,400C)を用いて導出される距離x1,x2は、実際の地絡点に近似した位置を示す。これに対し、残り1つの組合せ(計測端末400B及び400C)を用いて導出される距離x3は、分岐点に近似した位置を示す。その結果、図3(C)に示すように、2つの距離x1,x2は、第一圏域R1よりも外側であって、互いに近似した位置を示す。一方、残り1つの距離x3は、第一圏域R1の内側を示す。
このように、地絡点標定装置500は、導出された3つの距離xiのうち1つの距離xiが第一圏域R1の内側に存在し、且つ、他の2つの距離xiが第一圏域R1よりも外側に存在する場合、その3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」に該当すると判別する。即ち,第1パターンは、地絡点の配置パターンのうち、分岐点付近に地絡点が存在しない配置パターンを指す。
次に、図3(B)に示すような、地絡点が第一圏域R1の内側に存在する場合を例に挙げて説明する。
この場合においても、適正なサージ伝搬速度Vの値を用いて式(1)に基づく演算を行うと、3つの組合せのうち、2つの組合せ(計測端末400A,400B、及び、計測端末400A,400C)を用いて導出される距離x1,x2は、実際の地絡点に近似した位置を示す。しかしながら、地絡点が第一圏域R1の内側にある場合、2つの距離x1,x2は、結果的に、分岐点付近を示す。その結果、3つの距離x1~x3の全てが、分岐点に近似した位置を示すことになり,図3(D)に示すように、3つの距離x1~x3の全てが第一圏域R1の内側を示す。
このように、地絡点標定装置500は、導出された3つの距離xiの全てが第一圏域R1の内側に位置する場合に、その3つの距離xiの配置パターンが「第2パターン」に該当すると判別する。即ち、第2パターンは,地絡点の配置パターンのうち、分岐点付近に地絡点が存在する配置パターンを指す。
<標定結果の出力例>
続いて、標定結果の出力例について説明する。図3(D)に示すように、3つの距離xiの配置パターンが「第2パターン」に該当する場合、3つの距離xiのうちどれが分岐点を標定しているかの判定が困難となる場合がある。つまり、3つの組合せのうち地絡点を挟まない1つの組合せの特定が困難となる場合がある。そこで、本実施形態において、地絡点標定装置500は、第一圏域R1の内側に地絡点が存在すること、即ち、分岐点から所定の範囲内(例えば分岐点から半径100m圏内)に地絡点が存在することを、標定結果として出力する。
これに対し、地絡点標定装置500は、3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」に該当する場合、「第2パターン」と比べて、3つの距離xiのうちどれが分岐点を標定しているかの判定を容易に行うことができる。つまり、3つの組合せのうち実際の地絡点を標定する2つの組合せを特定することができる。例えば、図3(A)に示す例において、地絡点標定装置500は、第一圏域R1よりも外側を示す2つの距離xiが、実際の地絡点を示し、第一圏域R1の内側を示す1つの距離xiが、分岐点を示すものであることを容易に把握できる。そして、地絡点標定装置500は、第一圏域R1よりも外側を示す2つの距離xiを導出した2つの組合せ(図3(A)に示す例では、計測端末400A,400B、及び、計測端末400A,400C)が、実際の地絡点を標定する2つの組合せであることを特定できる。
<分岐を含む配電線に設置された4台の計測端末を用いた地絡点の標定>
図4(A)(B)は、十字分岐を含む配電線に対して、4台の計測端末が設置されていることを示す模式図である。なお、図4(A)に示す例において、地絡点は、第一圏域R1よりも外側であって配電線200A上における計測端末400Aの付近に存在し、図4(B)において、地絡点は、第一圏域R1の内側であって配電線200A上における分岐点の付近(計測端末400A寄り)に存在する。
図4(A)(B)に示すように、計測端末400A(第1計測端末)は、配電線200Aの第1位置にある支柱600に設置されている。計測端末400B(第2計測端末)は、計測端末400Aから所定距離離れた配電線200Aの第2位置にある支柱600に設置されている。計測端末400Cは、配電線200Aの第1位置と第2位置との間から一方向(図4(A)(B)における下方向)へ分岐する配電線200Bの第3位置にある支柱600に設置されている。計測端末400Dは、配電線200Aの第1位置と第2位置との間から他方向(図4(A)(B)における上方向)へ分岐する配電線200Cの第4位置にある支柱600に設置されている。
なお、以下において、地絡点を挟む2つの計測端末400の組合せは,6通り(計測端末400A,400B、計測端末400A,400C、計測端末400A,400D、計測端末400B,400C、計測端末400B,400D、及び、計測端末400C,400D)である。以下、地絡点を挟む2つの計測端末400の6通りの組合せのことを、単に「6つの組合せ」と言う場合がある。
図4(A)(B)に示す例において、地絡点は、計測端末400Aと計測端末400Bとの間、計測端末400Aと計測端末400Cとの間、及び、計測端末400Aと計測端末400Dとの間に存在する。これに対し、計測端末400Bと計測端末400Cとの間、計測端末400Bと計測端末400Dとの間、及び、計測端末400Cと計測端末400Dとの間には、地絡点が存在しない。
この場合、地絡点を挟む3つの組合せ(計測端末400A,400B、計測端末400A,400C、及び、計測端末400A,400D)を用いて式(1)に基づく演算を行うと、地絡点標定装置500は、実際の地絡点を標定する。これに対し、地絡点を挟まない3つの組合せ(計測端末400B,400C、計測端末400B,400D、及び、計測端末400C,400D)を用いて式(1)に基づく演算を行うと、地絡点標定装置500は、分岐点の位置を標定する。
そこで、地絡点標定装置500は、分岐を含む配電線200に設置された4台の計測端末400を用いた地絡点の標定においても、3台の計測端末400を用いた地絡点の標定を行う場合と同様に、第一圏域R1の内側に存在するか否かの判別を行う。そして、地絡点標定装置500は、地絡点が第一圏域R1の内側にある場合とそうでない場合とで、地絡点の標定手法を変える。これにより、地絡点標定装置500は、分岐点を挟んで設置された4台の計測端末400を用いた地絡点の標定においても、その標定結果の精度を高めることができる。
具体例を挙げて説明する。最初に、図4(A)に示すような、地絡点の位置が、第一圏域R1よりも外側であって、4つの計測端末400のうち何れか1つの計測端末400(図4(A)に示す例では計測端末400A)の近傍に存在する場合を例に挙げて説明する。
ここで,計測端末400 A,400Bの組合せを用いて導出された距離をx1,計測端末400A,400Cの組合せを用いて導出された距離をx2,計測端末400A,400Dの組合せを用いて導出された距離をx3、計測端末400B,400Cの組合せを用いて導出された距離をx4,計測端末400B,400Dの組合せを用いて導出された距離をx5,計測端末400C,400Dの組合せを用いて導出された距離をx6とする。
適正なサージ伝搬速度Vの値を用いて式(1)に基づく演算を行うと、6つの組合せのうち、3つの組合せ(計測端末400A,400B、計測端末400A,400C、及び、計測端末400A,400D)を用いて導出される距離x1~x3は、実際の地絡点に近似した位置を示す。これに対し、残り3つの組合せ(計測端末400B,400C、計測端末400B,400D、及び、計測端末400C,400D)を用いて導出される距離x4~x6は、分岐点に近似した位置を示す。その結果、図4(C)に示すように、3つの距離x1~x3は、第一圏域R1よりも外側であって、互いに近似した位置を示す。一方、残り3つの距離x4~x6は、第一圏域R1の内側を示す。
このように、地絡点標定装置500は、導出された6つの距離xiのうち3つの距離xiが第一圏域R1よりも外側に存在し、且つ、他の3つの距離xiが第一圏域R1の内側に存在する場合であって互いに近似した位置に存在する場合に、その6つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」に該当すると判別する。
次に、図4(B)に示すような、地絡点が第一圏域R1の内側に存在する場合を例に挙げて説明する。この場合においても、適正なサージ伝搬速度Vの値を用いて式(1)に基づく演算を行うと、6つの組合せのうち、3つの組合せ(計測端末400A,400B、計測端末400A,400C、及び、計測端末400A,400D)を用いて導出される距離x1~x3は、実際の地絡点に近似した位置を示す。しかしながら、地絡点が第一圏域R1の内側にある場合、3つの距離x1~x3は、結果的に、分岐点付近を示す。その結果、6つの距離離x1~x6の全てが、分岐点に近似した位置を示すことになり,図4(D)に示すように、6つの距離x1~x6の全てが第一圏域R1の内側を示す。
このように、地絡点標定装置500は、導出された6つの距離xiの全てが分岐点から所定の範囲内に位置する場合に、その6つの距離xiの配置パターンが「第2パターン」に該当すると判別する。なお、パターン判別後における標定結果の出力方法は、分岐を含む配電線に設置した3台の計測端末を用いる場合と同様である。
<地絡点標定装置の概略構成>
図5は、本実施形態に係る地絡点標定システムに用いられる地絡点標定装置の機能を示すブロック図である。尚、地絡点標定装置500は、マイクロコンピュータを含んで構成され、地絡点標定装置500の機能は、マイクロコンピュータがプログラムに従ってソフトウエア処理を実行することによって実現されることとする。
図5に示すように、地絡点標定装置500は、パターン判別部510と、標定部520とを主に備える。パターン判別部510は、分岐を挟んで配電線200上に設置された3台以上の計測端末400を用いて地絡点を標定する場合において、分岐点を中心とする第一圏域R1の内側に地絡点が存在するか否かの判別を行う。標定部520は、パターン判別部510の判別結果に基づいて地絡点を標定する。具体的に、標定部520は、パターン判別部510の判別結果に応じて地絡点の標定手法を変える。以下、パターン判別部510及び標定部520の構成について、具体的に説明する。
<パターン判別部の構成>
最初に、図6を参照して、パターン判別部510の構成について説明する。図6は、パターン判別部510のブロック図である。図6に示すように、パターン判別部510は、第一演算部511と、第一診断部512とを主に備える。
第一演算部511は、式(1)を基づく演算を行い、距離xiを導出する。具体的に、第一演算部511は、複数の計測端末400から得られる情報を用いて式(1)に基づく演算を行う。例えば,分岐を挟んで設置された3つの計測端末400を用いて地絡点を標定する場合に、第一演算部511は、3つの組合せの各々について演算を行い、3つの距離xiを算出する。
第一診断部512は、第一演算部511による演算結果に基づき、複数の距離xiの配置パターンを診断する。例えば、分岐を挟んで設置された3つの計測端末400を用いて地絡点を標定する場合に、第一診断部512は、3つの距離xiの配置パターンが、「第1パターン」又は「第2パターン」の何れかに該当するか否かの診断を行う。
パターン判別部510は、さらに,初期値記憶部513と、速度生成部514と、速度設定部515とを備える。初期値記憶部513は、第一演算部511が式(1)に基づく演算を最初に行う場合に、サージ伝搬速度Vに代入する速度値である初期値defVを記憶する。なお、初期値記憶部513に記憶する初期値defVは、地絡点標定システム100の利用者が任意で設定することができる。
速度生成部514は、初期値defVとは異なる速度値をサージ伝搬速度Vに代入して式(1)に基づく演算を改めて行う場合に、そのサージ伝搬速度Vに代入する速度値を生成する。
速度設定部515は、式(1)に基づく演算を行う際に、サージ伝搬速度Vに代入する速度値を設定する。具体的に、速度設定値515は、第一演算部511が式(1)に基づく演算を最初に行う際に、初期値記憶部513に記憶された初期値defVを、式(1)におけるサージ伝搬速度Vに代入する速度値に設定する。一方、速度設定部515は、初期値defVを用いて式(1)に基づく演算を行った後、式(1)に基づく演算を再度行う場合に、速度生成部514が生成した速度値を、式(1)におけるサージ伝搬速度Vに代入する速度値に設定する。
その後、例えば、地絡点標定装置500が分岐を挟んで設置された3つの計測端末400を用いて地絡点を標定する場合に、第一演算部511は、速度設定部515が設定した速度値をサージ伝搬速度Vに代入して式(1)に基づく演算を行い、3つの距離xiを導出する。その後、第一診断部512は、3つの距離xiの配置パターンが、第1パターン及び第2パターンの何れかに該当するか否かを診断する。
その結果、第一診断部512が3つの距離xiの配置パターンを第1パターン及び第2パターンの何れかに判別できた場合に、標定部520は、パターン判別部510によって判別された配置パターンに応じた手法で地絡点を標定し、その標定結果を出力する。
ここで、速度設定部515は、地絡点の配置パターンを判別するにあたって第一演算部511が式(1)に基づく演算を行う際に、式(1)に代入するサージ伝搬速度Vの値として、初期値記憶部513に記憶された初期値defVを用いる。この点に関して,初期値defVは、該当する配電線200において過去に生じた地絡事故時のサージ伝搬速度を参考に設定する。つまり、初期値として初期値記憶部513に記憶される値は、過去の実績に基づく予測値であって、実際のサージ伝搬速度と同等である可能性の高い速度値となる。そのため、パターン判別部510が式(1)に基づく演算を最初に行う際に、上記のように設定された初期値defVをサージ伝搬速度Vに代入することにより、その最初の演算において地絡点の配置パターンを判別できる可能性を高めることができる。
これに加え、地絡点標定システム100の利用者は、サージ伝搬速度Vとしての信憑性が高い速度値を用いて式(1)に基づく演算を行った結果、該当する配置パターンを判別できた場合に、その後に標定部520が出力する標定結果を容易に信頼できる。
即ち、仮に、地絡点の配置パターンを判別できたときに用いたサージ伝搬速度Vの値が、利用者の経験や実績に基づいて予測されるサージ伝搬速度Vの範囲から大きく逸脱していた場合に、利用者は、標定部520が出力する標定結果をすんなりと受け入れ難く感じることがある。つまり、利用者は、地絡点標定装置500を用いて標定値を導出する過程で何らかの手違いがあったのではないか等の不安を抱く。その結果,地絡点標定装置500を用いて導出し直す,或いは、他の手法で標定を行い、地絡点標定装置500の標定結果を検証する等の追加確認作業を行いたいと利用者が考えるおそれがある。
これに対し、パターン判別部510は、サージ伝搬速度Vとして信憑性の高い速度値を初期値記憶部513に記憶し、その初期値を用いて距離を導出し、パターン判別を行う。よって、利用者は、標定部520が出力する標定結果をすんなりと受け入れることができ、即座に地絡事故の対応へ移行することができる。
その一方、初期値defVが適正なサージ伝搬速度Vでない(初期値defVが実際のサージ伝搬速度Vと異なる)場合、第一診断部512は、複数の距離xiの配置パターンが第1パターン及び第2パターンの何れに該当するかの判別を行うことができない。
よってこの場合、速度設定部515は、速度値生成部514が生成した速度値を式(1)におけるサージ伝搬速度Vに代入し、第一演算部511は、サージ伝搬速度Vに新たに代入された速度値を用いて、式(1)に基づく演算を行う。そして、第一診断部512は、新たなサージ伝搬速度Vを用いた式(1)に基づく演算で導出された複数の距離xiの配置パターンの判別を試みる。このとき、パターン判別部510は、速度値生成部514が生成した複数の速度値を用いて第一演算部511による演算を行い、導出された複数の距離xiについて、第一診断部512による診断を行う。
パターン判別部510は、さらに、速度条件記憶部516と、速度条件判定部517と、診断結果記憶部518と、第二診断部519とを備える。速度条件記憶部516は、標定可能なサージ伝搬速度Vの範囲を、サージ伝搬速度Vの条件として記憶する。本実施形態において、サージ伝搬速度Vの条件は、50m/μs≦v≦300m/μsとする。速度条件判定部517は、速度値生成部514が生成した速度値が、速度条件記憶部516に記憶されたサージ伝搬速度Vの条件(速度条件)に適合するか否かを判定する。そして、第一演算部511は、サージ伝搬速度Vに代入する速度値がサージ伝搬速度Vの条件に適合する場合に、式(1)に基づく演算を行い、距離xiを導出する。
診断結果記憶部518は、第一診断部512による診断結果を、サージ伝搬速度Vに関連づけて記憶する。具体的に、診断結果記憶部518は、第一診断部512による複数の距離xiの配置パターンの診断結果を、当該複数の距離xiを第一演算部511が導出した際に用いたサージ伝搬速度Vの値に紐づけて記憶する。
第二診断部519は、診断結果記憶部518に記憶された診断結果に基づいて地絡点の配置パターンを診断する。具体的に、第一演算部511は、速度条件記憶部516に記憶された速度範囲に含まれる複数の速度値を用いて、第一演算部511による演算を行い、その都度、第一診断部512は、導出された複数の距離xiの配置パターンを診断する。その第一診断部512の診断結果は、診断結果記憶部518に記憶され、第二診断部519は、記憶された診断結果の中から、複数の距離xiの配置パターンを判別できたときに行った式(1)に基づく演算で用いたサージ伝搬速度Vを抽出する。 以下、第二診断部512による診断手法について、具体例を挙げながら説明する。
図7は、分岐を挟んで設置された3つの計測端末400を用いて地絡点を標定する場合において、診断結果記憶部518に記憶された3つの距離xiの配置パターンの診断結果の一例を示す図である。
図7に示す例において、第一演算部511は、サージ伝搬速度Vに代入する速度値を一定値(例えば1m/μs)ずつ速度値生成部514で順次変更しながら、式(1)に基づく演算を行い、その都度、第一診断部512は、導出された3つの距離xiの配置パターンを診断する。そして,パターン判別部510は、第一診断部512の診断結果を、サージ伝搬速度Vに紐づけて診断結果記憶部518に記憶していく。
第一演算部511による演算および第一診断部512による診断が一通り終わると、第二診断部519は、診断結果記憶部518に記憶された診断結果の中から、3つの距離xiの配置パターンを判別できたときの式(1)に基づく演算で用いたサージ伝搬速度Vを抽出する。
その結果、3つの距離xiの配置パターンを判別できたサージ伝搬速度Vが1つのみであれば、第二診断部519は、その配置パターンを第二診断部519による診断結果に決定する。これに対し、3つの距離xiの配置パターンを判別できたサージ伝搬速度Vが複数存在する場合、第二診断部519は、初期値記憶部513に記憶された初期値defVとの差が最も小さいサージ伝搬速度Vに関連付けられた配置パターンを、第二診断部519による診断結果(地絡点の配置パターン)に決定する。
例えば、図7(A)に示す例において、第一診断部512は、サージ伝搬速度Vに(defV-5)m/μsを代入して得られた3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」に該当すると診断した。また、図7(A)に示す例において、第一診断部512は、サージ伝搬速度Vに(defV+5)m/μsを代入して得られた3つの距離xiの配置パターンが「第2パターン」に該当すると診断した。つまりこの場合、診断結果記憶部518に記憶された診断結果には、3つの距離xiの配置パターンを判別可能であったサージ伝搬速度Vが2つ存在する。
この例に関して、2つのサージ伝搬速度(defV-5),(defV+5)は、初期値defVとの差が同じである。この場合、第二診断部519は、「第1パターン」及び「第2パターン」の何れを選択することも可能である。なお、後述するように、「第1パターン」と診断された場合には、「第2パターン」と診断された場合と比べて、標定部520による標定結果として出力される地絡点の位置がより限定される。この点において、図7(A)に示す例では、第二診断部519による診断結果として「第1パターン」を選択することが望ましい。
また、図7(B)に示す例において、第一診断部512は、サージ伝搬速度Vに(defV-5)m/μsを代入して得られた3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」に該当すると診断した。また、図7(B)に示す例において、第一診断部512は、サージ伝搬速度Vに(defV+4)m/μsを代入して得られた3つの距離xiの配置パターンが「第2パターン」に該当すると診断した。つまり、診断結果記憶部518に記憶された診断結果には、3つの距離xiの配置パターンを判別可能であったサージ伝搬速度Vが2つ存在する。
この場合、一方のサージ伝搬速度(defV+4)は、他方のサージ伝搬速度(defV-5)と比べて、初期値defVとの差が小さい。よって、第二診断部519は、一方のサージ伝搬速度(defV+4)に紐づけられた「第2パターン」を選択する。
このように、第二診断部159は、診断結果記憶部518に記憶された診断結果において、3つの距離xiの配置パターンを判別可能であったサージ伝搬速度Vが複数存在する場合に、初期値defVとの差が小さいサージ伝搬速度Vに紐づけられた配置パターンを、第二診断部519による診断結果(地絡点の配置パターン)に決定する。つまり、第二診断部519は、信頼度の高い初期値defVに近似した速度値をサージ伝搬速度Vとして用いたときに第一演算部511が導出した3つの距離xiの配置パターンの診断結果を、他の診断結果に優先する。
その結果、パターン判別部510が3つの距離xiの配置パターンの判別に用いたサージ伝搬速度Vは、初期値defVに近似した速度値となる可能性が高くなる。よって、地絡点標定システム100の利用者は、サージ伝搬速度Vとしての信憑性が高い予測値である初期値に近似した速度値を用いて式(1)に基づく演算を行った結果として配置パターンが判別できた場合に、その後に標定部520が出力する標定結果を容易に信頼できる。従って、利用者は、標定部520が出力する標定結果をすんなりと受け入れることができ、即座に地絡事故の対応(例えば、巡視作業など)へ移行することができる。
<標定部の構成>
次に、図8を参照して、標定部520の構成について説明する。図8は、標定部520のブロック図である。図8に示すように、標定部520は、第一演算部521と、第二演算部522と、速度条件記憶部523と、速度条件判定部524と、第三演算部525と、標定結果出力部526とを備える。
第一演算部521は、パターン判別部510に設けられた第一演算部511と同様の構成を有するものであり、式(1)に基づく演算を行う。第二演算部522は、3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」であった場合に、上記した式(3)に基づく演算を行い、その後に第一演算部521が式(1)に基づく演算を行う際に代入するサージ伝搬速度Vを導出する。
例えば、分岐を挟んで設置された3つの計測端末400を用いて地絡点を標定する場合に、第二演算部522は、3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」であれば、3つの距離xiの中から、実際の地絡点に近似する位置を示す2つの距離xi(第一圏域R1よりも外側に存在する2つの距離xi)を抽出する。そして、第二演算部522は、抽出した2つの距離xiを導出した際に用いた2つの組合せ(図3(A)に示す例では、計測端末400Aと400Bとの組合せ、及び、計測端末400Aと400Cとの組合せ)を用いて式(3)に基づく演算を行い、サージ伝搬速度Vを導出する。
このように、3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」であれば、標定部520は、実際の地絡点に近似する位置を示す2つの距離xiを特定することができる。そして、標定部520は、地絡点を挟んで配置される2台の計測端末400の2つの組合せを特定できる。その結果、標定部520は、それら2つの組合せを用いて、式(3)に基づく演算を行うことにより、サージ伝搬速度Vを導出できる。よって、地絡点標定装置500は、地絡点の距離xiの配置パターンが「第1パターン」である場合に、サージ伝搬速度Vを精度よく求めることができる。
速度条件記憶部523は、パターン判別部510に設けられた速度条件記憶部516と同様の構成を有するものであり、第二演算部522による演算で導出されたサージ伝搬速度Vの条件を記憶する。本実施形態において、サージ伝搬速度Vの条件は、50m/μs≦v≦300m/μsとする。なお,標定部520における速度条件記憶部523に記憶される速度条件は、パターン判別部510における速度条件記憶部516に記憶される速度条件と同一であってもよく、異なっていてもよい。
速度条件判定部524は、パターン判別部510に設けられた速度条件演算部517と同様の構成を有するものであり、第二演算部522による演算で導出されたサージ伝搬速度Vの値が、速度条件記憶部523に記憶されたサージ伝搬速度Vの条件に適合するか否かを判定する。
そして、サージ伝搬速度Vが速度条件記憶部523に記憶された速度条件に適合すると速度条件判定部524が判定した場合に、標定部520は、引き続き、導出されたサージ伝搬速度Vを用いて、第三演算部525による演算を行う。一方、サージ伝搬速度Vが速度条件に適合しないと速度条件判定部524が判定した場合に、標定部520は、標定値x(_)の導出が不能であると判断する。
標定結果出力部526は、標定部520による標定結果を、地絡点標定システム100の利用者が把握可能な態様で出力する。標定結果出力部526は、パターン判別部510において地絡点の配置パターンが「第1パターン」であると判別された場合に、第三演算部525による演算結果を出力する。また、標定結果出力部526は、パターン判別部510において地絡点の配置パターンが「第2パターン」であると判別された場合に、「分岐点から所定範囲内(例えば分岐点から半径100m圏内)」に地絡点が存在する旨の出力を行う。これらに対し、標定結果出力部526は、地絡点の配置パターンが「第1パターン」及び「第2パターン」の何れにも該当しなかった場合に、「地絡点の標定が不能」である旨の出力を行う。なお、標定結果出力部526は、地絡点の配置パターンが「第1パターン」又は「第2パターン」に該当すると判別した際に、その判別に用いたサージ伝搬速度Vを併せて出力してもよい。
<地絡点標定工程>
次に、図9を参照して、地絡点標定装置100により実行される地絡点標定工程について説明する。図9は、地絡点標定工程を示すフローチャートである。なおここでは、図3に示す例であって、T字分岐を含む配電線200に設置した3台の計測端末400を用いた地絡点の標定を行う場合を例に挙げて説明する。
図9に示すように、地絡点標定装置500は、地絡点標定工程の中で行う最初の処理として、パターン判別工程(S100)を実行する。このパターン判別工程(S100)は、パターン判別部510により実行される処理であり、地絡点の配置パターンの判別を行う。なお、パターン判別工程(S100)については、図10から図13を用いて詳述する。
地絡点標定装置500は、パターン判別工程(S100)の終了後、標定工程(S200)を実行する。標定工程(S200)は、標定部520により実行される処理であり、パターン判別工程(S100)による判別結果に基づいて、地絡点の標定を行い、その標定結果を出力する。なお、標定工程(S200)については、図14を用いて詳述する。
<パターン判別工程>
次に、図10を参照して、パターン判別工程(S100)について説明する。図10は、地絡点標定工程の中で実行されるパターン判別工程(S100)を示すフローチャートである。図10に示すように、パターン判別部510は、パターン判別工程(S100)の中で実行される最初の処理として、第一判別工程(S110)を実行する。第一判別工程(S110)は、初期値記憶部513に記憶された初期値defVをサージ伝搬速度Vに用いて、地絡点の配置パターンを判別する工程である。なお、第一判別工程(S110)については、図11を参照しながら詳述する。
S110の処理の終了後、パターン判別部510は、第一判別工程(S110)において、地絡点の配置パターンが判別できたか否かについての判定を行う(S120)。具体的に、S120の処理において、3つの距離xiの配置パターンが「第1パターン」及び「第2パターン」の何れかに該当するか否かの判別を行う。
その結果、地絡点の配置パターンを判別できなかった場合(S120:No)、パターン判別部510は、第二判別工程(S130)を実行する。第二判別工程(S130)は、初期値defV以外の速度値をサージ伝搬速度Vに代入しながら、3つの距離xiの配置パターンを判別する工程である。なお、第二判別工程(S130)については、図12及び図13を参照しながら詳述する。
<第一判別工程>
次に、図11を参照して、パターン判別部510の中で実行される第一判別工程(S110)について説明する。図11は、第一判別工程(S110)を示すフローチャートである。
図11に示すように、第一判別工程(S110)において実行される最初の処理として、速度設定部515は、式(1)におけるサージ伝搬速度Vの値に、初期値記憶部513に記憶された初期値defVを代入する(S111)。次に、第一演算部511は、分岐点を挟む3つの組合せ(計測端末400A及び計測端末400B、計測端末400A及び計測端末400C、計測端末400B及び計測端末400C)の各々について、式(1)に基づく演算を行い、3つの距離xi(x1~x3)を導出する(S112)。その後、第一診断部512は、第一演算部511により導出された3つの距離xiの配置パターンに基づいて3つの距離xiの配置パターンを診断し(S113)、パターン判別部510は、本処理を終了する。
<第二判別工程>
次に、図12を参照して、パターン判別部510の中で実行される第二判別工程(S130)について説明する。図12は、第二判別工程(S130)を示すフローチャートである。
図12に示すように、第二判別工程(S130)において実行される最初の処理として、速度値生成部514は、速度条件記憶部517に記憶された速度条件の最小値minVを速度値として生成する。そして、速度設定部515は、式(1)におけるサージ伝搬速度Vの値に、最小値minV(本実施形態では50m/μs)を設定する(S131)。
次に、第一演算部511は、式(1)に基づく演算を行い、3つの距離xi(x1~x3)を導出する(S132)。具体的に、速度設定部515は、速度値生成部514が生成した速度値を、式(1)におけるサージ伝搬速度Vに代入する。続いて、第一演算部511は、分岐点を挟む3つの組合せ(計測端末400A及び計測端末400B、計測端末400A及び計測端末400C、計測端末400B及び計測端末400C)の各々について、式(1)に基づく演算を行う。次に、第一診断部512は、第一演算部511により導出された3つの距離xiの配置パターンを診断し(S133)、その診断結果を診断結果記憶部518に記憶する(S134)。即ち、第一診断部512は、3つの距離xiの配置パターンが第1パターン及び第2パターンの何れかに該当するか否かを判別し、何れかの配置パターンに該当した場合、その配置パターンを診断結果記憶部518に記憶する。
S134の処理後、速度値生成部514は、速度設定部515に設定されたサージ伝搬速度Vの値に1を加算した速度値を新たに生成する(S135)。次に、速度条件判定部517は、サージ伝搬速度Vの値が、速度条件記憶部518に記憶された速度条件の最大値maxVよりも大きい値であるか否かを判定する(S136)。その結果、サージ伝搬速度Vの値が最大値maxV以下であれば(S136:No)、パターン判別部510は、S132の処理に戻る。即ち、速度設定部515は、速度値生成部514が生成した速度値を式(1)におけるサージ伝搬速度Vに代入し、第一演算部511は、式(1)に基づく演算を行う。一方、サージ伝搬速度Vの値が最大値maxVを超えた場合(S136:Yes)、パターン判別部510は、図13に示すパターン決定処理を実行する(S137)。
<パターン決定処理>
次に、図13を参照して、第二判別工程(S130)の中で実行されるパターン決定処理(S137)について説明する。図13は、パターン決定処理(S137)を示すフローチャートである。パターン決定処理(S137)は、診断結果記憶部518に記憶された診断結果に基づき,地絡点の配置パターンを決定する処理である。
図13に示すように、パターン決定処理(S137)の中で実行される最初の処理として、第二診断部519は、診断結果記憶部518に記憶された診断結果の中に、3つの距離xiの配置パターンが判別可能とされたサージ伝搬速度Vが複数存在したかを判定する(S138)。
その結果、3つの距離xiの配置パターンが判別可能とされたサージ伝搬速度Vが複数存在する場合(S138:Yes)、第二診断部519は、サージ伝搬速度Vの値が初期値defに最も近いものに紐づけられた配置パターンを、地絡点の配置パターンに決定する(S139)。
これに対し、3つの距離xiの配置パターンが判別可能とされたサージ伝搬速度Vが複数存在しない場合(S138:No)、続いて、第二診断部519は、診断結果記憶部518に記憶された診断結果の中に、3つの距離xiの配置パターンが判別可能とされたサージ伝搬速度Vが1つだけ存在したかを判定する(S140)。
その結果、地絡点の配置パターンが判別可能とされたサージ伝搬速度Vが1つだけ存在した場合(S140:Yes)、第二診断部519は、そのサージ伝搬速度Vの値に紐づけられた配置パターンを、地絡点の配置パターンに決定する(S141)。一方、地絡点の配置パターンが判別可能とされたサージ伝搬速度Vが1つも存在しなかった場合(S140:No)、第二診断部519は、地絡点の配置パターンの判別が不能であると判断し、そのまま本処理を終了する。
なお、本実施形態において、速度設定部515が、S131の処理でサージ伝搬速度Vに最小値minVを設定し、速度値生成部514は、S135の処理で速度設定部515に設定されたサージ伝搬速度Vの値に1を加算する場合を例に挙げて説明した。しかしながら、これに限られるものではない。
例えば、速度設定部515は、S131の処理でサージ伝搬速度Vに最大値maxVを設定し、速度値生成部514は、S135の処理で速度設定部515に設定されたサージ伝搬速度Vの値から1を減算してもよい。この場合、パターン判別部510は、S136の処理において、サージ伝搬速度Vの値が最小値min未満であるか否かを判定する。そして、パターン判別部510は、サージ伝搬速度Vの値が最小値min未満となった場合にS137の処理へ移行し、サージ伝搬速度Vの値が最小値min以上であれば、S132の処理へ戻る。
また、速度設定部515は、S131の処理において、初期値defVに近似した値(例えば、初期値defV±1)をサージ伝搬速度Vに設定し、速度値生成部514は、S135の処理で速度設定部515に設定するサージ伝搬速度Vの値を、初期値defVの差が徐々に大きくなるような値に設定することも可能である。この場合、パターン判別部510は、S133の処理で3つの距離xiの配置パターンを判別でき次第、その配置パターンを地絡点の配置パターンに決定すればよい。つまりこの場合,配置パターンを判別できたときに用いたサージ伝搬速度Vの値は、必然的に、初期値defVに最も近似した速度値となる。よってこの場合、第二判別工程(S130)は、S137の処理を省略することができる。
<標定工程>
次に、図14を参照して、標定部520により実行される標定工程(S200)について説明する。図14は、標定工程(S200)を示すフローチャートである。
図14に示すように、標定工程(S2)の中で行う最初の処理として、標定部520は、パターン判別工程(S100)における判別結果に基づき、地絡点の配置パターン(3つの距離xiの配置パターン)が「第1パターン」に該当するか否かを判定する(S201)。
その結果、地絡点の配置パターンが「第1パターン」に該当する場合(S201:Yes)、第二演算部522は、地絡点を挟んで配置される2台の計測端末400の組合せを用いて、式(3)に基づく演算を行い、パターン伝搬速度Vを導出する(S202)。次に、速度条件判定部524は、S202の処理で導出されたサージ伝搬速度Vが、速度条件記憶部523に記憶された速度条件(minV≦V≦maxV)に適合するか否かを判定する(S203)。
一方、S201の処理において、地絡点の配置パターンが「第1パターン」に該当しないと判断された場合(S201:Yes)、標定部520は、続いて、地絡点の配置パターンが「第2パターン」に該当するか否かを判定する(S207)。
その結果、地絡点の配置パターンが「第2パターン」に該当する場合(S207:Yes)、標定結果出力部526は、「分岐点から○○圏内に地絡点が存在する」旨の標定結果を出力し(S208)、本処理を終了する。
一方、S203の処理において、式(3)に基づく演算で導出されたサージ伝搬速度Vが速度条件に適合しない場合(S203:No)、或いは、地絡点の配置パターンが「第1パターン」及び「第2パターン」のいずれにも該当しない場合(S207:No)、標定結果出力部526は、「地絡点の配置パターンの判別ができず、地絡点の標定が不能」である旨の標定結果を出力し(S209)、本処理を終了する。
このようにして、地絡点標定装置500は、地絡点が第一圏域R1の内側に存在するか否かの判別を行う。そして,地絡点標定装置500は、地絡点が第一圏域R1の内側に存在する場合とそうでない場合とで、地絡点の標定手法を変える。これにより、地絡点標定装置500は、地絡点の標定をより精度よく行うことができる。
なお、図9から図14では、T字分岐を含む配電線に設置した3台の計測端末を用いて地絡点の標定を行う場合を例に挙げて説明したが、十字分岐を含む配電線に設置した4台の計測端末を用いて地絡点の標定を行う場合も同様である。
<標定工程における変形例>
ここで、図15及び図16を参照して、標定工程(S200)の変形例を説明する。上記した標定工程(S200)では、S207の処理で第2パターンに該当すると判定された場合に、標定結果出力部526が、「分岐点から○○圏内に地絡点が存在する」旨の標定結果を出力する(S208)場合について説明した。これに対し、以下に示す変形例では、配置パターンを判別できたときのサージ伝搬速度Vを用いて導出した3つの距離xiに基づき、地絡点が存在する範囲を更に限定する。なお、上記した構成と同一の構成には同一の符号を付し,その説明を省略する。
図15に示すように、変形例における標定部530は、上記実施形態で説明した標定部520の構成に加え、第四演算部537をさらに備える。第四演算部537は、複数の距離xiの配置パターンが「第2パターン」である場合に、地絡点が存在する範囲を限定するための演算を行う。そして、標定部530は、第四演算部537による演算結果を、標定結果として、利用者が把握可能な態様で提示する。
図16は、分岐を挟んで設置された3つの計測端末400を用いて地絡点を標定する場合において、3つの距離xiの配置パターンが「第2パターン」に該当すると判断されたときに、地絡点が存在する範囲を示す第二圏域R2を導出する過程を説明するための模式図である。
第四演算部537は、3つの距離xi(x1~x3)の中で、分岐点から最も離れた位置に存在する距離xi(図16に示す例ではx1)を抽出する。続いて、第四演算部537は、分岐点を中心とする円であって、分岐点から最も離れた位置に存在する距離xiと分岐点との距離r2を半径とする第二圏域R2を形成する。その結果、3つの距離xiは、第二圏域R2の線上または第二圏域R2の内側に含まれる、そして、標定部530は、第四演算部537が形成した第二圏域R2に含まれる配電線200A、200B上に地絡点が存在するとの標定を行う。標定結果出力部526は、第四演算部537による標定結果に基づき、「分岐点から『半径r2』圏内に地絡点が存在する」旨の標定結果を出力する。
このように、本変形例において、標定部530は、地絡点の配置パターンが「第2パターン」である場合において、地絡点が存在する範囲をより限定することができる。よって、地絡点標定システム100の利用者は、地絡点の特定に要する時間の短縮を図ることができる。
なお、本変形例に関して、3つの距離xiが一直線上に並ぶ場合がある。この場合、標定部530は、「一直線上に並んだ3つの距離のうち両端に位置する2つの距離を結ぶ線分上に地絡点が存在する」旨の標定結果を出力することも可能である。またこの場合において、標定部530は、3つの距離xiを、そのまま地絡点が存在する可能性の高い位置として出力することも可能である。つまり、3つの距離xiのうち2つの距離xiは,地絡点に近似した位置を示すものであることから、地絡点標定システム100の利用者は、出力された3つの距離xiを把握することにより、地絡点が存在する位置を絞りこむことができる。
===まとめ===
以上説明したように、本実施形態に係る地絡点標定システム100は、分岐を含む配電線200上において分岐点を挟んで設置された複数の計測端末400と、複数の計測端末400と通信可能に接続される地絡点標定装置500と、を含んで構成されている。複数の計測端末400は、配電線200に地絡事故が発生したとき、配電線200の電流及び電圧を検出するセンサ310、320から出力される零相電流及び零相電圧を示す情報を、現在時刻を示す情報に対応付けた情報を、地絡点標定装置500に送信する。地絡点標定装置500は、分岐点を挟んで設置された3台以上の計測端末400のうち何れか2台の計測端末400の組合せから送信される前記情報と、サージ伝搬速度とに基づいて、配電線200の地絡点を標定する。そして、地絡点標定装置500は、地絡点が配電線200の分岐点を中心とする所定の圏域R1の内側に存在するか否かの判別を行う判別部510と、前記情報、サージ伝搬速度、及び、判別部510の判別結果に基づいて地絡点を標定する標定部520と、を備え、標定部520は、地絡点が所定の圏域R1よりも内側に存在すると判別された場合に、想定される全ての計測端末400の組合せを用いて地絡点を標定する。上述したような本実施形態の構成によって、T字分岐や十字分岐等の分岐点を含む配電線200からなる配電系統に地絡事故が発生したときの地絡点を精度よく標定することが可能となる。
又、標定部520は、地絡点を精度よく標定するために、全ての計測端末400の組合せのうち、地絡点を挟んだ位置に設置された複数の計測端末400の組合せを用いて地絡点を標定する。
又、判別部510は、標定部520が地絡点を精度よく標定するために、3台以上の計測端末400のうち何れか2台の計測端末400からなる複数の組合せから送信される前記情報とサージ伝搬速度とに基づいて、複数の組合せの各々について所定の計測端末400からの距離を導出する第一演算部511と、複数の組合せから送信される前記情報とサージ伝搬速度とに基づいて導出した複数の距離に基づき、地絡点が所定の圏域R1の内側に存在するか否かの診断を行う第一診断部512と、を備えている。
又、地絡点標定装置500が分岐点を挟んで設置された3台の計測端末400(400A~400C)を用いて地絡点を標定する場合において、第一演算部511は、3台の計測端末400のうち何れか2台の計測端末400からなる3つの組合せから送信される前記情報とサージ伝搬速度とに基づいて3つの距離を導出し、第一診断部512は、3つの距離の全てが圏域R1の内側に存在する場合に、地絡点が圏域R1の内側に存在すると判別する。そして、標定部520は、3つの距離の全てが圏域R1の内側に存在する場合に、地絡点が圏域R1の内側に存在すると標定する。
又、地絡点標定装置500が分岐点を挟んで設置された4台の計測端末400(400A~400D)を用いて地絡点を標定する場合において、第一演算部511は、4台の計測端末400のうち何れか2台の計測端末400からなる6つの組合せから送信される前記情報とサージ伝搬速度とに基づいて、6つの距離を導出し、第一診断部512は、6つの距離の全てが圏域R1の内側に存在する場合に、地絡点が圏域R1よりも内側に存在すると判別する。そして、標定部520は、6つの距離の全てが圏域R1の内側に存在する場合に、地絡点が圏域R1の内側に存在すると標定する。
尚、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。