以下、本発明の可変容量形ポンプの一実施形態を図面に基づき説明する。
[第1の実施形態]
(可変容量形ポンプの構成)
図1は、第1の実施形態の可変容量形ポンプの分解斜視図、図2は、第1の実施形態の可変容量形ポンプの縦断面図である。図3は、図2の線A-Aに沿って切断した可変容量形ポンプの断面図である。なお、図3では、バルブボディ31においてスプール弁32が上端部31b側に変位した状態を示している。
可変容量形ポンプは、内燃機関の摺動部の潤滑やバルブタイミング制御装置を駆動するためのオイル(潤滑油)を供給するベーンポンプとして構成されている。可変容量形ポンプは、ハウジング本体1と、カバー部材2と、駆動軸3と、ロータ4と、7つのベーン5と、カムリング6と、第1コイルばね7と、一対のリング部材8,8と、第1、第2シール手段9,10と、電磁弁11と、を備えている。
ハウジング本体1は、金属材料、例えばアルミニウム合金材料によって一体に形成されており、一端側が開口し、かつ内部に概ね円柱状に窪んだポンプ収容部12を有するように有底筒状に形成されている。ハウジング本体1は、ポンプ収容部12の底面12aの中央位置に、駆動軸3の一端を回転可能に支持する第1軸受孔1aを有している。ハウジング本体1には、ポンプ収容部12の開口縁に、カバー部材2の取り付けに供する環状に連続した平坦な取付面1bが形成されている。この取付面1bには、固定手段である図示せぬねじ部材がねじ留めされる6つのねじ穴1cがそれぞれ形成されている。
カバー部材2は、ハウジング本体1と同様に金属材料、例えばアルミニウム合金材料によって形成されており、ハウジング本体1の開口を閉塞する。カバー部材2は、平板状をなしており、ハウジング本体1の外形に対応した外形を有している。カバー部材2には、ハウジング本体1の第1軸受孔1aに対応した位置に、駆動軸3の他端を回転可能に支持する第2軸受孔2aが形成されている。さらに、カバー部材2の外周縁部には、ハウジング本体1の6つのねじ穴1cに対応した位置に、各ねじ部材が挿入される6つの固定手段貫通孔2bがそれぞれ形成されている。
上記ハウジング本体1およびカバー部材2によって、ポンプ収容部12を仕切るポンプハウジングが構成されている。
駆動軸3は、ポンプ収容部12の中心部を貫通して上記ポンプハウジングに回転可能に支持されており、図示せぬクランクシャフトにより回転駆動される。駆動軸3は、クランクシャフトから伝達される回転力によって、ロータ4を後述のポンプ構成体15の回転方向Q、つまり図3中の時計回りの方向へ回転させる。図2に示すように、駆動軸3は、ハウジング本体1の第1軸受孔1aと、カバー部材2の第2軸受孔2aとによる両持ち構造で回転可能に支持されている。なお、本実施形態では、駆動軸3は、両持ち構造で支持されているが、ハウジング本体1に形成された第1軸受孔1aのみによって片持ち構造で支持されても良い。この場合には、カバー部材2の第2軸受孔2aを形成する必要はない。
ロータ4は、円筒状をなしており、ポンプ収容部12内においてカムリング6の内側に回転可能に収容される。ロータ4は、駆動軸3の外周に結合され、駆動軸3と一体回転する。ロータ4には、該ロータ4の内部中心側から径方向外側へ放射状に延びる7つのスリット4aが開口形成されている。さらに、ロータ4の両側面には、駆動軸3を中心に円形に窪んだ円形凹部4bが開口形成されている。この円形凹部4bには、リング部材8が摺動可能に配置される。また、各スリット4aの内側基端部には、後述の吐出ポート27に吐出された吐出油を導入する断面円形の背圧室4cがそれぞれ形成されている。背圧室4cは、円形凹部4bに開口している。すなわち、背圧室4cには、ポンプ収容部12の底面12aに形成された図示せぬ油導入溝と、円形凹部4bとを介して、吐出ポート27からのオイルが流入する。これにより、ロータ4のスリット4a内に出没可能に収容された各ベーン5が、ロータ4の回転に伴う遠心力と背圧室4cの油圧とによって外方へ押し出される。
ベーン5は、金属により薄い板状に形成されており、ロータ4のスリット4aに出没可能に収容される。ベーン5がスリット4a内に収容された状態では、ベーン5とスリット4aとの間に多少の隙間が形成される。ベーン5は、先端面がカムリング6の内周面に摺動可能に接触する。これにより、ロータ4とカムリング6の間に複数のポンプ室14が画定される。また、ベーン5が突出する際、基端部の内端面がリング部材8の外周面に摺動可能に接触する。これにより、機関回転数が低く、上記遠心力や背圧室4cの油圧が小さいときでも、ベーン5がカムリング6の内周面に摺動可能に接触して各ポンプ室14が液密に画定されるようになっている。
なお、駆動軸3、ロータ4および各ベーン5がポンプ構成体15を構成している。
ここで、以下の説明の便宜上、第1コイルばね7の中心軸線Cとカムリング6のアーム部6bの当接部6cとの交点P1と、ポンプ構成体15の回転軸線O1とを通る基準線を「第1基準線L1」と定義し、ポンプ構成体15の回転軸線O1を通ると共に第1基準線L1と直行する基準線を「第2基準線L2」と定義する。さらに、第1基準線L1よりも、後述する吐出ポート27から吐出されるオイルの流量が増加する増加方向にある側(図3において第1基準線L1よりも上側)を「増加側」としたときに、増加側かつ第2基準線L2よりもポンプ構成体15の回転方向Qにある領域を「第1領域S1」とし、増加側かつ第2基準線L2よりもポンプ構成体15の回転方向Qとは逆方向にある領域を「第2領域S2」と定義する。
カムリング6は、本発明の調整リングに相当し、焼結金属によって概ね円筒状に一体に形成されている。カムリング6の外周部の所定位置には、後述する支持溝12bと協働してピボットピン16を支持する概ね円弧溝形状のピボット溝6aが、駆動軸3の軸方向に沿って切り欠かれている。カムリング6は、ハウジング本体1のポンプ収容部12内に、ピボットピン16を中心に揺動可能となるように支持されている。また、ピボット溝6aに対しカムリング6の中心を挟んで反対側の位置では、所定のセット荷重W1が付与された付勢部材である第1コイルばね7に連係するアーム部6bが、カムリング6の外周面からカムリング6の径方向に突出してばね収容室17内に延びている。すなわち、アーム部6bの第1コイルばね7と対向する当接部6cが第1コイルばね7の先端部に常時当接することによって、アーム部6bと第1コイルばね7とが連係する。また、カムリング6は、カバー部材2の内側面2cと対向する第1側面6dと、ポンプ収容部12の底面(内側面)12aと対向する第2側面6eと、を有している。第1側面6dと内側面2cとの間、および第2側面6eと底面12aとの間には、それぞれオイルが通過可能な微小隙間(サイドクリアランス)18,19が形成される。
カムリング6の第1側面6dには、第1、第2領域S1,S2において、図3に破線の矢印Dで示すように吐出ポート27からのオイルが該吐出ポート27に面した特定のポンプ室14aを介して導かれる第1溝部20が開口形成されている。ここで、「特定のポンプ室14a」とは、吐出ポート27に臨む任意の一または複数のポンプ室である。具体的には、ポンプ室14aは、吐出ポート27および後述する第1円弧溝凹部6fを介して第1溝部20にオイルを導くことが可能である一または複数のポンプ室である。第1溝部20は、第1側面6dに対して矩形に窪んだ溝であり、ポンプ構成体15の回転軸線O1に対する径方向において、吸入ポート26とオーバーラップする領域から吐出ポート27に面した特定のポンプ室14aへと連続している。つまり、図3に示すように、第1溝部20は、カムリング6の径方向幅のほぼ中央位置において、後述の第2シール保持溝6iの付近から、ポンプ構成体15の回転方向Qにおける後述の制御油室21の終端部21a付近までカムリング6の周方向に沿って延び、吐出ポート27に面した1つのポンプ室14aに開口している。換言すれば、第1溝部20は、第2シール保持溝6iの付近から、制御油室21と並行するように制御油室21の終端部21a付近まで延び、吐出ポート27の始端27a付近でポンプ室14aに開口している。ここで、図2に示すように、オイルが第1溝部20内に導かれた状態では、オイル(図2にドットによるハッチングで示す)は、第1溝部20の底部と内側面2cの間に充填され、第1溝部20の開口面を越えて盛り上がり、カバー部材2の内側面2cに密着するかたちで第1溝部20内に保持されている。第1溝部20はカムリング6の径方向幅の中央よりも外周側に配置されている。また、第1溝部20は、第1溝部20とカムリング6の外周側の隔壁の幅W1よりも第1溝部20とカムリング6の内周側の隔壁の幅W2の方が大きくなるように配置されている。さらに、第1溝部20は、カムリング6の径方向幅の1/2以下の溝幅を有し、長手方向にほぼ一定の溝幅で延びている。
また、カムリング6の第1側面6dの内縁部には、第1溝部20と連通する円弧状の第1円弧溝凹部6fが切り欠き形成されている。第1円弧溝凹部6fは、取付面1bと直行する方向から見て吐出ポート27と隣接する領域に、吐出ポート27と概ねオーバーラップするように設けられ、カムリング6の内周に沿って延びている。第1円弧溝凹部6fは、カムリング6の第1側面6dに対して矩形に窪む第1連通凹溝6gを介して後述の低圧室28と連通している。すなわち、第1連通凹溝6gは、第1円弧溝凹部6fとカムリング6の外周側とを連通するように、第1円弧溝凹部6fの外周壁からカムリング6の外周側に向かって貫通形成されることで、第1連通凹溝6gと低圧室28とを連通している。
第1コイルばね7は、ピボットピン16と対向する位置に設けられたばね収容室17内に収容されている。ばね収容室17内では、所定のセット荷重W1により圧縮された第1コイルばね7が、ばね収容室17の一端壁とアーム部6bの当接部6cとに弾性的に当接している。なお、ばね収容室17とポンプ収容部12との間には、カムリング6の偏心方向の移動範囲を規制するストッパ面1kが設けられている。これにより、ポンプの非作動時には、第1コイルばね7のばね力によってアーム部6bの付け根部6kがストッパ面1kに押し付けられた状態となり、カムリング6は、ロータ4の回転中心に対するカムリング6の偏心量が最大となる位置に保持されるようになっている。
リング部材8は、ロータ4の外径よりも小さな外径を有しており、ロータ4に設けられた円形凹部4b内に摺動可能に配置され、前述のように、ベーン5の突出を補助する。
第1、第2シール手段9,10は、カムリング6に装着され、該カムリング6とハウジング本体1との間を仕切る。これにより、第1、第2領域S1,S2においてカムリング6の外周面とハウジング本体1の内周面との間に、制御油室21が液密に画定される。
第1シール手段9は、第1領域S1においてカムリング6に装着されている。第1シール手段9は、低摩擦特性を有するフッ素系樹脂材により駆動軸3の軸方向に沿って細長い板状に形成された第1シール部材22と、ゴムにより駆動軸3の軸方向に沿って細長い円柱状に形成された第1弾性部材23と、を備えている。第1弾性部材23は、弾性力によって後述の第1シール接触面12cに対して第1シール部材22を押し付ける。
同様に、第2シール手段10は、第2領域S2においてカムリング6のアーム部6bに装着されている。第2シール手段10は、低摩擦特性を有するフッ素系樹脂材により駆動軸3の軸方向に沿って細長い板状に形成された第2シール部材24と、ゴムにより駆動軸3の軸方向に沿って細長い円柱状に形成された第2弾性部材25と、を備えている。第2弾性部材25は、弾性力によって後述の第2シール接触面12dに対して第2シール部材24を押し付ける。
また、ポンプ収容部12の内周壁の所定位置には、円柱状のピボットピン(ピボット部)16を介してカムリング6を揺動可能に支持する凹円弧状の支持溝12bが形成されている。ピボットピン16を支持する支持溝12bは、ポンプ構成体15の回転方向Qにおいて、後述する低圧室28に隣接するように設けられている。
ポンプ収容部12の内周壁には、第1領域S1において、第1シール接触面12cが形成されている。この第1シール接触面12cに、カムリング6の外周部に設けられた第1シール部材22が摺動可能に接触する。第1シール接触面12cは、図3に示すように、ピボットピン16の中心O2から所定の半径R1によって構成された円弧面となっている。半径R1は、カムリング6の偏心揺動範囲において第1シール部材22が常時摺動可能に接触することができる周方向長さに設定されている。
同様に、ポンプ収容部12の内周壁には、第2領域S2において、第2シール接触面12dが形成されている。この第2シール接触面12dに、カムリング6のアーム部6bの先端部に設けられた第2シール部材24が摺動可能に接触する。第2シール接触面12dは、図3に示すように、ピボットピン16の中心O2から半径R1よりも大きい所定の半径R2によって構成された面となっている。半径R2は、カムリング6の偏心揺動範囲において第2シール部材24が常時摺動可能に接触することができる周方向長さに設定されている。
一方、カムリング6の外周部には、図3に示すように、第1シール接触面12cと対向する位置に、第1シール面を有する第1シール保持部6vが突出している。ここで、第1シール面は、ピボットピン16の中心O2からこれに対応する第1シール接触面12cを構成する半径R1よりも僅かに小さい所定の半径によって構成されている。第1シール面と第1シール接触面12cとの間には、微小なクリアランスが形成されている。また、第1シール保持部6vの第1シール面に、断面U字状の第1シール保持溝6hが、カムリング6の軸方向に沿って形成されている。第1シール保持溝6h内に、カムリング6の偏心揺動時に第1シール接触面12cに接触する第1シール手段9が保持されている。
同様に、カムリング6のアーム部6bの先端部には、第2シール接触面12dと対向する位置に、第2シール面を有している。ここで、第2シール面は、ピボットピン16の中心O2からこれに対応する第2シール接触面12dを構成する半径R2よりも僅かに小さい所定の半径によって構成されている。第2シール面と第2シール接触面12dとの間には、微小なクリアランスが形成されている。また、アーム部6bの第2シール面に、断面U字状の第2シール保持溝6iが、カムリング6の軸方向に沿って形成されている。第2シール保持溝6i内に、カムリング6の偏心揺動時に第2シール接触面12dに接触する第2シール手段10が保持されている。
制御油室21は、ポンプ構成体15の回転軸線O1に対する径方向(ポンプ構成体15の径方向)において後述の吸入ポート26とオーバーラップし、かつ後述の吐出ポート27とオーバーラップしない位置に設けられている。制御油室21には、電磁弁11と、ハウジング本体1の取付面1bに形成された連通溝1dとを介してポンプ吐出圧が導入される。制御油室21は、オイルの吐出量が減少する方向へカムリング6が移動したときに容積が増大するように構成されている。
カムリング6の外周面のうち制御油室21と隣接する面は、制御油室21に導入されたポンプ吐出圧を受ける受圧面6jとなっている。そして、ポンプ吐出圧が受圧面6jに作用することで、受圧面6jに作用する油圧に基づく付勢力と第1コイルばね7による付勢力とのバランスによってカムリング6の偏心量が制御される。
従って、可変容量形ポンプでは、第1コイルばね7のセット荷重W1に対し制御油室21の油圧に基づく付勢力が小さいときは、カムリング6は、図3に示すように最も偏心した状態となる。一方、ポンプ吐出圧の上昇に伴い制御油室21の油圧に基づく付勢力が第1コイルばね7のセット荷重W1を上回ったときは、そのポンプ吐出圧に応じてカムリング6が同心方向に移動するようになっている。
また、ポンプ収容部12の底面12aには、図3に示すように、駆動軸3の外周域に、円弧凹状の吸入部である吸入ポート26(図3に実線および破線で示されている)と、同じく円弧凹状の吐出部である吐出ポート27(図3に実線および破線で示されている)とが、駆動軸3を挟んで対向するように切り欠かれている。
吸入ポート26は、底面12aにおいて、支持溝12bと径方向反対側に位置しており、ポンプ構成体15のポンプ作用に伴ってポンプ室14の内部容積が増大する領域(吸入領域)に開口している。吸入ポート26には、その周方向の中間位置に、後述するばね収容室17側へ膨出するように、図示せぬ導入部が吸入ポート26と一体に形成されている。吸入ポート26の所定位置には、ハウジング本体1の底壁を貫通して外部に開口する図示せぬ吸入孔が設けられている。これにより、図示せぬ内燃機関のオイルパンに貯留された潤滑油が、ポンプ構成体15のポンプ作用に伴って発生する負圧に基づき吸入孔および吸入ポート26を介して吸入領域の各ポンプ室14に吸入される。
一方、吐出ポート27は、回転軸線O1を挟んで吸入ポート26の反対側となるピボットピン16側に位置しており、ポンプ構成体15のポンプ作用に伴ってポンプ室14の内部容積が減少する領域(吐出領域)に開口している。吐出ポート27の始端部付近には、ハウジング本体1の底壁を貫通して外部に開口する図示せぬ吐出孔が設けられている。これにより、上記ポンプ作用に基づいて加圧され吐出ポート27へと吐出されたオイルが、吐出孔からメインオイルギャラリ(M/G)を通って内燃機関の各摺動部やバルブタイミング装置等へと供給される。
また、ハウジング本体1の取付面1bのうち支持溝12bと連通溝1dとの間の領域には、シール手段の機能を有するピボットピン16と第1シール手段9とによってシールされ、取付面1bに対して窪む低圧室28が形成されている。この低圧室28は、ポンプ構成体15の回転軸線O1に対する径方向において、ポンプ収容部12とカムリング6との間で、かつ吐出ポート27とオーバーラップする位置に設けられている。低圧室28の底面28aは、ポンプ収容部12の底面12aよりも低い位置(図3の紙面に対して奥側の位置)に設けられている。低圧室28の外壁には、ハウジング本体1の外部にある低圧部と繋がる図示せぬドレン孔が貫通形成されている。ここで、低圧部は、吐出ポート27から吐出されるオイルの油圧(ポンプ吐出圧)以下の圧力を有しており、本実施形態では、大気圧となる図示せぬオイルパンである。また、低圧部と連通する低圧室28には、吐出ポート27と低圧室28との圧力差によって、カムリング6とハウジング本体1(ポンプ収容部12)との間の微小隙間19や、カムリング6とカバー部材2との間の微小隙間18を介して、低圧室28よりも高圧の吐出ポート27からのオイルが流入する(図3の破線の矢印Y参照)。低圧室28へ流入したオイルは、ドレン孔を通じて図示せぬオイルパンへ排出される。
また、低圧室28と対向するカムリング6の外周面は、低圧室28の油圧を受ける受圧面6tとなっている。
電磁弁11は、本発明の制御バルブに相当し、制御油室21へのオイルの給排を電気的に制御して、カムリング6の偏心量を制御することによってメインギャラリ圧Pを調圧するものである。電磁弁11は、後述するスプール弁32の移動方向における軸方向位置に応じてオイルの給排に供する弁部29と、通電によってスプール弁32の軸方向位置を制御するソレノイド部30とを備えている。
弁部29は、概ね円筒状をなすバルブボディ31と、該バルブボディ31内に摺動可能に配置されたスプール弁32と、バルブボディ31の内周部に固定されたストッパ33と、このストッパ33に当接するリテーナ34と、該リテーナ34とスプール弁32との間に所定のセット荷重W2が付与された状態で配置された第2コイルばね35と、を備えている。
バルブボディ31は、スプール弁32を摺動可能に収容する弁体収容部60を有し、該弁体収容部60は、大径部31cと、該大径部31cよりも小さい内径を有する小径部31dと、を備えている。バルブボディ31は、その周壁の下端部31a寄りの位置にて大径部31cの外周に設けられ、ハウジング本体1の連通溝1dを介して制御油室21と連通する給排ポート36と、上記周壁のうち給排ポート36よりも上端部31b側にて上端部31bの外周側に設けられ、メインオイルギャラリ(M/G)と連通する接続ポート37と、が径方向に貫通形成されている。
スプール弁32は、大径部31c内に摺動可能に配置される円柱状の第1ランド部32aと、小径部31d内に摺動可能に配置される円柱状の第2ランド部32bと、第1ランド部32aと第2ランド部32bとを接続する円柱状の連結部32cと、該連結部32c軸方向反対側に第2ランド部32bと一体に形成された円柱状の軸部32dと、を有している。
第1ランド部32aは、大径部31cの内径よりも僅かに小さい外径を有している。第1ランド部32aの上端部31b側の軸方向端面は、メインオイルギャラリ(M/G)からのメインギャラリ圧Pを受ける環状の第1受圧面32eとなっている。また、第1ランド部32aの下端部31a側の軸方向端面には、第2コイルばね35の一端部を収容する円形の凹溝部32gが形成されている。
第2ランド部32bは、小径部31dの内径よりも僅かに小さい外径を有している。第2ランド部32bの下端部31a側の軸方向端面は、メインオイルギャラリ(M/G)からのメインギャラリ圧Pを受ける環状の第2受圧面32fとなっている。第2受圧面32fの受圧面積は、第1受圧面32eの受圧面積よりも小さく設定されている。
連結部32cは、第1、第2ランド部32a,32bの外径よりも小さい外径を有している。弁体収容部60と連結部32c、第1ランド部32aおよび第2ランド部32bとの間には、円環状に連続する環状通路38が形成されている。この環状通路38には、スプール弁32の軸方向位置に関わらず接続ポート37が最大開口の状態で常時連通している。環状通路38には、メインオイルギャラリからのメインギャラリ圧Pが供給される。この環状通路38のメインギャラリ圧Pを、第1ランド部32aの第1受圧面32eと第2ランド部32bの第2受圧面32fとの受圧面積の差に乗算することにより、下端部31a側へスプール弁32を付勢する油圧力Fpが算出される。
軸部32dは、軸方向一端が第2ランド部32bと一体化されており、軸方向他端が後述のプッシュロッド40と当接可能となっている。
ストッパ33は、円環状をなしており、弁体収容部60の下端部31a寄りの位置に固定されている。ストッパ33は、その中央位置に低圧部である図示せぬオイルパンと連通する円形のドレン穴33aを有している。このドレン穴33aは、スプール弁32の軸方向位置に応じて、制御油室21と、連通溝1dと、大径部31cと、リテーナ34の後述の穴部34aとを介して通流したオイルをオイルパンへ排出するようになっている。
リテーナ34は、有底筒状をなしており、底部がストッパ33の上端部31b側の端面に当接するように大径部31c内に配置されている。リテーナ34の底部には、その中央位置に、大径部31cとストッパ33のドレン穴33aとを連通する円形の穴部34aが貫通形成されている。
第2コイルばね35は、大径部31cにおいてリテーナ34の底部と第1ランド部32aに設けられた凹溝部32gの底壁との間に弾装されており、スプール弁32をソレノイド部30側へ常時付勢している。
ソレノイド部30は、ケーシング39の内部に図示せぬ電磁コイル、固定鉄心や可動鉄心等が収容されていると共に、上記可動鉄心の先端部に円柱状のプッシュロッド40が結合されている。このプッシュロッド40の先端部は、軸部32dの軸方向他端に当接可能となっている。また、ソレノイド部30は、上記電磁コイルに図外の電子コントローラからパルス電圧が印加されると、そのパルス電圧の電圧値に応じた推力が上記可動鉄心に作用する。そして、スプール弁32を、スプール弁32に掛かる油圧力Fpおよびプッシュロッド40を介して伝達される可動鉄心の推力(プッシュロッド40の押圧力Fr)の合力Fp+Frと第2コイルばね35のばね力Fsとの相対差に基づき進退移動させるようになっている。
上記電子コントローラは、いわゆるPWM(パルス幅変調)方式を用いたもので、電磁コイルに印加するパルス電圧のパルス幅を変調させる、すなわちデューティ比Dを変化させることによって電磁コイルに印加するパルス電圧の電圧値を無段階に制御するようになっている。また、電子コントローラは、機関の油温や水温、機関回転数や負荷等から機関運転状態を検出して、特に機関始動時等の機関が低回転状態にある場合には、電磁コイルに対する通電を遮断する一方、機関回転数Nが所定値以上になると、メインギャラリ圧Pを調圧するために電磁コイルへ通電を行うようになっている。
図4は、バルブボディ31においてスプール弁32が下端部31a側に変位した状態を示す、可変容量形ポンプの断面図である。図5は、本実施形態の可変容量形ポンプの機関回転数Nとメインギャラリ圧Pとの相関関係を示す特性図である。
以下に、電磁弁11の作動と、該作動に伴うカムリング6の作動について説明する。
まず、電磁弁11の電磁コイルに通電がされない場合、つまりデューティ比Dが0%の場合には、スプール弁32は、該スプール弁32に掛かる油圧力Fpと、第2コイルばね35のばね力Fsとに基づいて、バルブボディ31内で軸方向に移動する。より詳細には、油圧力Fpがばね力Fsよりも大きい場合には、スプール弁32は、バルブボディ31の下端部31a側へ移動し、一方、ばね力Fsが油圧力Fpよりも大きい場合には、スプール弁32は、バルブボディ31の上端部31b側へ移動する。
機関回転数Nが所定機関回転数N2以下であるときには、メインギャラリ圧Pが所定値P2以下となっている。ここで、所定値P2は、機関高回転時のクランクシャフトの軸受部の潤滑に要する機関要求油圧を示している。また、メインギャラリ圧Pと比例関係にある油圧力Fpは、所定値以下となっており、スプール弁32は、ソレノイド部30寄りの位置(図3に示すスプール弁32の位置)にある。このとき、給排ポート36と環状通路38との連通が第1ランド部32aの外周面によって遮断され、給排ポート36と大径部31cとが連通する。これにより、制御油室21からのオイルが、連通溝1d、給排ポート36、大径部31c、穴部34aおよびドレン穴33aを介してオイルパンに排出される。そして、制御油室21が減圧され、第1コイルばね7のばね力が制御油室21の油圧に抗してカムリング6をストッパ面1kに押し付けるようになる。このため、カムリング6は、最も偏心した位置(図3に示すカムリング6の位置)にあり、偏心量が最大となる。よって、図5に示すように、機関回転数Nが所定機関回転数N2以下のときに、メインギャラリ圧Pは、最大容量で機関回転数Nに応じて変化する。
また、機関回転数Nが所定機関回転数N2よりも大きい場合に、メインギャラリ圧Pが所定値P2を超えようとすると、油圧力Fpが所定値よりも大きくなり、スプール弁32がソレノイド部30から下端部31a側へ所定の距離だけ離間した位置(図4に示すスプール弁32の位置)に移動する。なお、この移動時には、デューティ比Dが0%であるため、プッシュロッド40は最も後退した位置にあり、スプール弁32の軸部32dの軸方向他端から離間している。また、給排ポート36が環状通路38と連通しており、メインオイルギャラリ(M/G)からのオイルが、環状通路38、給排ポート36および連通溝1dを介して制御油室21に供給される。これにより、制御油室21の油圧が高圧となり、この油圧が第1コイルばね7のばね力に抗してカムリング6を第1コイルばね7側(図4の反時計回りの方向)へ付勢する。そして、カムリング6は、ストッパ面1kから離間した位置に移動し、偏心量が小さくなる。これに伴い、可変容量形ポンプの吐出量が減少し、メインギャラリ圧Pが所定値P2へ向かって低下する。また、メインギャラリ圧Pが所定値P2以下に低下しようとすると、制御油室21の油圧が再び低圧となり、カムリング6がストッパ面1k側の位置に移動し、容量が増加する。
このように、メインギャラリ圧Pが所定値P2よりも小さいときには、スプール弁32がソレノイド部30寄りの位置にあり、制御油室21とオイルパンとを連通させる一方、メインギャラリ圧Pが所定値P2を超えようとすると、スプール弁32がソレノイド部30から離間した位置にあり、制御油室21とメインオイルギャラリとを連通させる。これにより、メインギャラリ圧Pは、所定値P2および該所定値P2近傍の範囲(制御油圧Pt2)に維持される。
また、電磁弁11の電磁コイルに通電がされた場合、つまりデューティ比DがX(0<X<100)%の場合には、スプール弁32は、該スプール弁32に掛かる油圧力Fpとプッシュロッド40の押圧力Frとの合力Fp+Frと、第2コイルばね35のばね力Fsとに基づいて、バルブボディ31内で軸方向に移動する。より詳細には、合力Fp+Frがばね力Fsよりも大きい場合には、スプール弁32は、バルブボディ31の下端部31a側へ移動する一方、ばね力Frが合力Fp+Frよりも大きい場合には、スプール弁32は、バルブボディ31の上端部31b側へ移動する。バルブボディ31の下端部31a側への移動の際には、押圧力Frが油圧力Fpをアシストするので、メインギャラリ圧Pは所定値P2より低い所定の圧力Pxでもってスプール弁32を移動させる。これに伴い、スプール弁32により制御される制御油圧も、制御油圧Pt2より低い所定の制御油圧Ptxとなる。また、デューティ比Dが最大値、つまり100%である場合には、スプール弁32により制御される制御油圧Pt1が、最低の油圧であるP1またはP1近傍の範囲に維持される。
なお、機関始動時等の機関が低回転状態にある場合、つまり機関回転数NがN1よりも低い場合には、電磁コイルに対する通電が遮断され、デューティ比Dが0%となっている。
[第1の実施形態の効果]
まず、第1の実施形態では、制御油室21内のオイルが連通溝1d、給排ポート36、大径部31c、穴部34aおよびドレン穴33aを介してオイルパンに排出された後には、図3に破線の矢印Eで示すように、空気が、オイルパンからドレン穴33a、穴部34a、大径部31c、給排ポート36および連通溝1dを介して制御油室21に混入する。そして、制御油室21内に混入した空気は、大気圧と吸入ポート26の負圧との圧力差によって、図3に矢印Fで示すように、微小隙間18(図2参照)を介して吸入ポート26へ流入しようとする。仮に空気が吸入ポート26へ流入した場合には、吸入ポート26と制御油室21との間の圧力のバランスが不安定になり、カムリング6が意図しない位置に移動し、内燃機関への所望なオイルの供給が抑制される虞があった。
しかし、上記のように、第1の実施形態では、カムリング6の第1側面6dに、吐出ポート27に面したポンプ室14aに開口し、かつ吸入ポート26に面したポンプ室14bに開口していない第1溝部20が開口形成されている。このため、吐出ポート27およびポンプ室14aを介して第1溝部20内に高圧のオイルが導かれて、図2にドットのハッチングで示すように第1溝部20と内側面2cの間に充填され、このオイルが第1溝部20とカバー部材2の内側面2cに密着する。
これにより、カムリング6の第1側面6dとカバー部材2の内側面2cとの間の微小隙間18が、第1溝部20に充填されたオイルによって塞がれ、制御油室21内の空気が微小隙間18を介して吸入ポート26側へ流入することが抑制される。他方、第1溝部20に充填されたオイルにより、カムリング6が底面12a側に付勢され、第2側面6eが底面12aに密着する。これにより、第2側面6eと底面12aとの間の隙間が塞がれ、この隙間を通じて空気が吸入ポート26に流れることが抑制される。従って、吸入ポート26と制御油室21との間の圧力のバランスが安定化し、内燃機関に所望のオイルを供給することができる。
さらに、吸入ポート26への空気の流入を抑制することで吸入ポート26の下流側への種々の部品へ空気が流入し難くなる。よって、上記種々の部品の故障や、内燃機関の音振を抑制することができる。
また、電磁弁11を介した制御油室21への空気の混入量を減少させるために、容積が小さい小型の制御油室21を設けることが考えられるが、このような小型の制御油室21は、制御油室21のオイルによるカムリング6の制御性を悪化させてしまう虞がある。
しかし、本実施形態のようにカムリング6の第1側面6dに第1溝部20を形成することで、カムリング6の上記制御性の悪化を伴うことなく、カムリング6を作動することができる。
また、第1の実施形態では、第1溝部20は、ポンプ構成体15の回転軸線O1に対する径方向において吸入ポート26とオーバーラップする領域から吐出ポート27に面する特定のポンプ室14aへと連続している。
このため、吸入ポート26側から吐出ポート27側への比較的広い領域で、第1溝部20に充填されたオイルによって微小隙間18が塞がれる。よって、制御油室21から吸入ポート26へ流入しようとするオイルを効率良く抑制し、内燃機関に所望のオイルを供給することができる。
さらに、第1の実施形態では、ハウジング本体1は、ポンプ構成体15の回転軸線O1に対する径方向において、ポンプ収容部12とカムリング6との間に吐出ポート27とオーバーラップするように設けられ、かつオイルパンと連通する低圧室28を備えている。また、吐出ポート27に面したポンプ室14aは、カムリング6の第1側面6dに形成された第1連通凹溝6gを介して低圧室28と連通している。
このため、吐出ポート27からのオイルが、ポンプ室14aおよび第1連通凹溝6gを介して低圧室28へ流入する。これにより、吐出ポート27に面したポンプ室14aからのオイルが第1溝部20を横切って制御油室21へ過剰に漏れることが抑制される。従って、制御油室21内へ過剰に漏れたオイルによるカムリング6の意図しない移動を抑制し、内燃機関へのオイルの供給を安定化させることができる。
また、第1の実施形態では、第1溝部20を有するカムリング6が焼結材料で形成されている。
このように焼結材料でカムリング6を形成すると、焼結の完了後に既に第1溝部20が形成されているので、焼結材料ではない金属製のカムリングに切削加工を用いて溝部を形成する場合に比べて、カムリング6の製造を少ない工程数で容易に行うことができる。これにより、ポンプの製造コストの低減化が図れる。
[第2の実施形態]
図6は、第2の実施形態の可変容量形ポンプの断面図である。
第2の実施形態では、第1の実施形態の第1、第2弾性部材23,25が廃止されている。そして、この廃止に伴い、第1円弧溝凹部6fと第1シール保持溝6hの底部とを連通する連通凹部6mが設けられ、さらに、第1溝部20が第2シール保持溝6iの底部と連通している。
連通凹部6mは、第1円弧溝凹部6fの外縁のうち第1溝部20寄りの位置から第1シール保持溝6hの底部へ向かって直線状に延びている。これにより、第1シール保持溝6hには、吐出ポート27に面したポンプ室14aと、第1円弧溝凹部6fと、連通凹部6mとを介して、吐出ポート27からの高圧のオイルが導入される。第1シール保持溝6hに導入されたオイルは、第1シール部材22の背面に作用し、第1シール部材22を第1シール接触面12cに押し付ける。
また、第2シール保持溝6iには、吐出ポート27に面したポンプ室14aと、第1円弧溝凹部6fと、第1溝部20とを介して、吐出ポート27からの高圧のオイルが導入される。第2シール保持溝6iに導入されたオイルは、第2シール部材24の背面に作用し、第2シール部材24を第2シール接触面12dに押し付ける。
[第2の実施形態の効果]
第2の実施形態では、吐出ポート27に面したポンプ室14aは、カムリング6の第1側面6dに形成された連通凹部6mを介して第1シール保持溝6hと連通している。
これにより、ポンプ室14aから連通凹部6mを介して第1シール保持溝6hへ導入されたオイルが、第1シール部材22に作用する。従って、第1の実施形態のように第1シール部材22を付勢する第1弾性部材23を設ける必要がないので、ポンプの構造が簡素化され、可変容量形ポンプの製造コストを削減することができる。
また、第2の実施形態では、第1溝部20は、第2シール保持溝6iの底部と連通している。
これにより、ポンプ室14aから第1溝部20を介して第2シール保持溝6iに導入されたオイルが、第2シール部材24に作用する。従って、第1の実施形態のように第2シール部材24を付勢する第2弾性部材25を設ける必要がないので、ポンプの構造が簡素化され、可変容量形ポンプの製造コストを削減することができる。
[第3の実施形態]
図7は、第2側面6e側から見た第3の実施形態のカムリング6の斜視図である。図8は、第3の実施形態の可変容量形ポンプの縦断面図である。
第3の実施形態では、カムリング6の第1側面6dに形成された第1溝部20に加えて、第2側面6eに、第1溝部20と同様の形状を有し、かつ吐出ポート27からのオイルが導かれる第2溝部41が形成されている。第2溝部41は、カムリング6の厚み方向において第1溝部20とオーバーラップする位置に設けられている。第2溝部41は、第1の実施形態と同様に、第2シール保持溝6iの付近から、ポンプ構成体15の回転方向Qにおける制御油室21の終端部21a(図3および図4参照)付近までカムリング6の周方向に沿って延び、吐出ポート27に面したポンプ室14aに開口している。そして、第1溝部20と同様に、第2溝部41内にも図示省略したオイルが充填されることにより、第2側面6eと底面12aとの間の微小隙間19が塞がれる。
また、第2側面6eには、第1連通凹溝6gと同様の形状を有し、吐出ポート27に面した1つのポンプ室14aと低圧室28とを連通する第2連通凹溝6nが形成されている。第2連通凹溝6nは、カムリング6の厚み方向において第1連通凹溝6gとオーバーラップする位置に設けられている。
さらに、第2側面6eの内縁には、第1円弧溝凹部6fと同様の形状を有し、第2連通凹溝6nと連通する第2円弧溝凹部6оが形成されている。第2円弧溝凹部6оは、カムリング6の厚み方向において第1円弧溝凹部6fとオーバーラップする位置に設けられている。
[第3の実施形態の効果]
第3の実施形態では、第1溝部20が第1側面6dに形成されており、一方、第2溝部41が第2側面6eに形成されている。
このため、第1溝部20内に保持されたオイル(図8にドットによるハッチングで示す)が、制御油室21から微小隙間18を介して吸入ポート26へ向かう空気を遮断し、さらに、第2溝部41内に保持されたオイル(図8にドットによるハッチングで示す)が、制御油室21から微小隙間19を介して吸入ポート26へ向かう空気を遮断する。即ち、カムリング6の両側面6d,6eにおいて、制御油室21から吸入ポート26への空気の侵入が効率的に遮断され、第1溝部20のみを設ける場合と比べて吸入ポート26への空気の侵入をより効果的に抑制できる。よって、カムリング6の移動を抑制し、内燃機関に所望のオイルを供給することができる。
[第4の実施形態]
図9は、第4の実施形態の可変容量形ポンプの断面図である。
第4の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、第1溝部20の低圧室28側の端部が、吐出ポート27に面したポンプ室14aに開口しておらず、カムリング6の周方向に沿ってピボットピン16付近まで延びている。このため、ポンプ構成体15の径方向において、第1溝部20のピボットピン16寄りの領域20aは、吐出ポート27の始端27a寄りの領域27bとオーバーラップしている。これにより、第1溝部20の領域20aには、吐出ポート27に面したポンプ室14aから、高圧のオイルが第1側面6dとカバー部材2の内側面2cとの間の微小隙間18(図2参照)を介して導かれる。
[第4の実施形態の効果]
第4の実施形態では、第1溝部20は、吐出ポート27に面したポンプ室14aに開口せず、かつ吸入ポート26に面したポンプ室14bに開口していない。さらに、第1溝部20の領域20aは、ポンプ構成体15の回転軸線O1に対する径方向において、吐出ポート27の領域27bとオーバーラップしている。
このような第1溝部20の構成によっても、第1の実施形態と同様に第1溝部20内にオイルが保持され、制御油室21から吸入ポート26への空気の侵入が抑制される。よって、内燃機関に所望のオイルを供給することができる。
[第5の実施形態]
図10は、第5の実施形態の可変容量形ポンプの断面図である。
第5の実施形態では、第3の実施形態の第1、第2溝部20,41が廃止され、カバー部材2の内側面2cおよびポンプ収容部12の底面12aに、第1、第2溝部20,41と同様の形状を有する第3溝部2dおよび第4溝部2eが開口形成されている。
第3溝部2dは、カバー部材2の内側面2cのうちカムリング6の第1側面6dと対向する部位に、内側面2cに対し矩形に窪むように形成されている。オイルが第3溝部2d内に充填された状態では、オイルが、図10にドットによるハッチングで示すように第3溝部2dの開口面を越えて盛り上がり、第1側面6dに密着する。
第4溝部2eは、ポンプ収容部12の底面12aのうちカムリング6を挟んで第3溝部2dと対向する位置に開口形成されている。詳細な図示省略するが、オイルが第4溝部2e内に充填された状態でも、オイルが第4溝部2eの開口面を越えて盛り上がり、カムリング6の第2側面6eに密着する。
なお、本実施形態では、第3溝部2dおよび第4溝部2eがカバー部材2の内側面2cおよびポンプ収容部12の底面12aに形成されているが、内側面2cまたは底面12aのいずれかに溝部を形成するようにしても良い。
[第5の実施形態の効果]
第5の実施形態では、第3溝部2dがカバー部材2の内側面2cに形成され、さらに、第4溝部2eがポンプ収容部12の底面12aに形成されている。
このため、このような第3、第4溝部2d,2eに充填されたオイルによっても、制御油室21から吸入ポート26への空気の侵入が抑制される。よって、内燃機関に所望のオイルを供給することができる。
[第6の実施形態]
図11は、第6の実施形態の可変容量形ポンプの断面図である。
第6の実施形態の可変容量形ポンプは、第1~第5の実施形態の可変容量形ポンプとは異なり、トロコイド形式の可変容量形ポンプとして構成されている。
可変容量形ポンプは、ハウジング本体1と、駆動軸3と、インナーロータ42と、アウターロータ43と、カムリング6と、第1コイルばね7と、シール部材44,45と、を備えている。
ハウジング本体1は、金属材料、例えばアルミニウム合金材料によって有底筒状に形成されており、ハウジング本体1の周壁の内側に、駆動軸3等を収容するポンプ収容部12が設けられている。ハウジング本体1には、ポンプ収容部12の開口の外周側に、図示せぬカバー部材を取り付ける面となる環状に連続した平坦な取付面1bが形成されている。この取付面1bには、図示せぬねじ部材がねじ留めされる6つのねじ穴1cがそれぞれ形成されている。
上記ハウジング本体1およびカバー部材によって、ポンプ収容部12を仕切るポンプハウジングが構成されている。
また、ポンプ収容部12の底面12aには、図11に示すように、駆動軸3の周囲に、吸入部である吸入ポート26(図11に実線および破線で示されている)と、吐出部である吐出ポート27(図11に実線および破線で示されている)とが、駆動軸3を挟んで対向するように切り欠かれている。
駆動軸3は、ポンプ収容部12のほぼ中心部を貫通して上記ポンプハウジングに回転可能に支持されており、図示せぬ内燃機関から伝達される回転力により回転駆動される。駆動軸3は、内燃機関から伝達される回転力によって、インナーロータ42を駆動軸3の回転方向R、つまり図11中の時計回りの方向へ回転させる。
インナーロータ42は、概ね円筒状をなしており、その中心部が、駆動軸3に結合されている。インナーロータ42の外周には、複数(本実施形態では11個)の外歯42aが設けられている。
アウターロータ43は、インナーロータ42よりも外径が大きい概ね円筒状に形成されている。また、アウターロータ43の回転中心は、インナーロータ42の回転中心に対して偏心している。アウターロータ43の内周には、インナーロータ42の外歯42aの数よりも1つ多い複数(本実施形態では12個)の内歯43aが設けられている。図11に示すように、アウターロータ43がインナーロータ42に対して偏心した状態で、アウターロータ43の12個の内歯43aのうち周方向に連続した数個(本実施形態では5個)の内歯43aが、インナーロータ42の周方向に連続した数個(本実施形態では5個)の外歯42aに噛み合うようになっている。
アウターロータ43とインナーロータ42との間には、オイルが充填される複数のポンプ室14が画定されている。吸入ポート26は、インナーロータ42の回転に伴ってポンプ室14の内部容積が増加する領域(吸入領域)に開口している。一方、吐出ポート27は、インナーロータ42に伴ってポンプ室14の内部容積が減少する領域(吐出領域)に開口している。
なお、駆動軸3、インナーロータ42およびアウターロータ43がポンプ構成体15を構成している。
カムリング(調整リング)6は、焼結金属によって概ね円筒状に一体に形成されている。カムリング6は、アウターロータ43の外径にほぼ対応した内周面46を有しており、該内周面46によってアウターロータ43の外周面43bを保持している。カムリング6の側面の所定の2箇所には、各規定方向に延びる長孔47,48が駆動軸3の軸方向に沿って貫通形成されている。長孔47,48には、ポンプ収容部12の底面12aによって支持される第1、第2ピボットピン49,50が貫通している。カムリング6は、第1、第2ピボットピン49,50にガイドされながら長孔47,48の長手方向に沿って移動可能となっている。
また、カムリング6の外周面から、第1コイルばね7に連係するアーム部6bが、カムリング6の径方向外側へ突出している。アーム部6bの第1コイルばね7と対向する当接部6cが第1コイルばね7の先端部に常時当接することによって、アーム部6bと第1コイルばね7とが連係する。
アーム部6bの先端部には、シール部材45を保持する第3シール溝52が、駆動軸3の軸方向に沿って形成されている。第3シール溝52には、アーム部6bとポンプ収容部12の内周面とをシールするシール部材45が配置されている。シール部材45は、カムリング6の外周面に設けられた後述のシール部材44と協働して、カムリング6とハウジング本体1との間を仕切る。これにより、カムリング6の外周面とハウジング本体1の内周面との間に、制御油室21が液密に画定される。制御油室21の底面には、穴部34aが貫通形成されており、この穴部34aを介して、オイルが図外の電磁弁(制御バルブ)から供給および排出可能となっている。また、オイルが電磁弁を介して排出された後には、大気圧となるオイルパンと連通する電磁弁を介して、空気が制御油室21内に流入可能となっている。
また、カムリング6の外周部は、長孔48付近の位置に、シール部材44を保持する第4シール溝54が、駆動軸3の軸方向に沿って形成されている。シール部材44は、第3シール溝52内に保持されたシール部材45と協働して、制御油室21を封止する。
また、カムリング6の第1側面6dには、図11に破線の矢印Gで示すように吐出ポート27からのオイルが第1側面6dと図示せぬカバー部材との間の微小隙間を介して導かれる第5溝部55が開口形成されている。第5溝部55は、制御油室21と吸入ポート26との間の位置に設けられており、シール部材44と第1ピボットピン50との間の位置からシール部材45付近にかけて連続している。
第1コイルばね7は、所定のセット荷重が付与されており、ハウジング本体1に設けられた平坦部56とアーム部6bの当接部6cとに弾性的に当接している。
以上のような構成から、本実施形態に係る可変容量形ポンプは、オイルが電磁弁によって制御油室21に供給され、制御油室21の油圧が高くなると、制御油室21の油圧が第1コイルばね7のばね力に抗してカムリング6のアーム部6bを図11の時計回りの方向に移動させる。一方、制御油室21内のオイルが電磁弁によって排出され、制御油室21の油圧が低くなると、第1コイルばね7のばね力が、制御油室21の油圧に抗してカムリング6のアーム部6bを図11の反時計回りの方向に移動させる。
[第6の実施形態の効果]
第6の実施形態では、ポンプ構成体15は、外周に複数の外歯42aが設けられたインナーロータ42と、該インナーロータ42よりも外周側に配置されて内周に複数の外歯42aと噛み合う複数の内歯43aが設けられたアウターロータ43と、を備えたトロコイドポンプである。また、このトロコイドポンプは、カムリング6の第1側面6dに、吐出ポート27からのオイルが導かれる第5溝部55が形成されている。
このため、本実施形態のトロコイドポンプのカムリング6の第5溝部55によっても、制御油室21から吸入ポート26への空気の侵入が抑制される。よって、内燃機関に所望のオイルを供給することができる。
なお、上記の実施形態では、カムリング6の第1、第2側面6d,6eまたはポンプハウジングの両内側面(カバー部材2の内側面2cおよびポンプ収容部12の底面12a)に溝部20,41または溝部2d,2eを形成する例を開示したが、カムリング6の第1、第2側面6d,6eの両側面に溝部20,41を形成すると共に、ポンプハウジングの両内側面に溝部2d,2eを形成するようにしても良い。
以上説明した実施形態に基づく可変容量形ポンプとしては、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
可変容量形ポンプは、その一態様として、ポンプ収容部と、該ポンプ収容部に開口した吸入部および吐出部を有したポンプハウジングと、前記ポンプ収容部内に移動可能に設けられた調整リングと、前記調整リング内に設けられたポンプ構成体であって、回転駆動されることによって前記吸入部から吸入されたオイルを前記吐出部から吐出すると共に、前記調整リングが移動すると前記吐出部から吐出されるオイルの流量が変化する前記ポンプ構成体と、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において、前記ポンプ収容部と前記調整リングとの間に前記吸入部とオーバーラップするように設けられ、制御圧が導入されると前記吐出部から吐出されるオイルの流量が減少する方向へ、前記調整リングを付勢する制御油室と、前記吐出部から吐出されるオイルの油圧よりも低い低圧部と連通し、前記制御油室内のオイルの圧力を制御する制御バルブと、前記調整リングの両側面のうち一方の側面、または前記調整リングの両側面と対向する前記ポンプハウジングの両内側面のうち一方の内側面に形成された溝部であって、前記吐出部に面したポンプ室に開口し、かつ前記吸入部に面したポンプ室に開口していない前記溝部と、を備える。
前記可変容量形ポンプの好ましい態様において、前記溝部は、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において前記吸入部とオーバーラップする領域から前記吐出部へと連続している。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記溝部は、前記ポンプ構成体の回転方向における前記制御油室の終端部まで延び、前記吐出部に面したポンプ室に開口している。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記低圧部は、大気圧である。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において、前記ポンプ収容部と前記調整リングとの間に前記吐出部とオーバーラップするように設けられ、かつ前記低圧部と連通する低圧室を備える。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記溝部は、前記調整リングの一方の側面に形成され、前記吐出部は、前記調整リングの一方の側面に形成された連通凹溝を介して前記低圧室と連通している。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記溝部は、前記調整リングの一方の側面に形成され、前記調整リングは、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において、前記吐出部とオーバーラップする位置に、前記制御油室を封止する第1シール部材が保持される第1シール保持溝を有し、前記吐出部は、前記調整リングの一方の側面に形成された連通凹部を介して前記第1シール保持溝と連通している。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記調整リングは、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において、前記吸入部とオーバーラップする位置に、前記第1シール部材と共同して前記制御油室を封止する第2シール部材が保持される第2シール保持溝を有し、前記溝部は、前記第2シール保持溝と連通している。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記吐出部は、前記調整リングの一方の側面に形成された連通凹溝を介して前記低圧室と連通している。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記溝部は、前記調整リングの一方の側面に形成され、前記調整リングは、焼結材料で形成されている。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記溝部は、前記調整リングの両側面に形成されている。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記ポンプ構成体は、ロータと、該ロータに設けられた複数のスリットから前記調整リングの内周面に摺接する複数のベーンと、を備えたベーンポンプであり、前記ベーンポンプは、前記調整リングの揺動によりオイルの流量を変化させる。
別の好ましい態様では、前記可変容量形ポンプの態様のいずれかにおいて、前記ポンプ構成体は、外周に複数の外歯が設けられたインナーロータと、該インナーロータよりも外周側に配置されて内周に前記複数の外歯と噛み合う複数の内歯が設けられたアウターロータと、を備えたトロコイドポンプである。
また、以上説明した実施形態に基づく他の可変容量形ポンプとしては、例えば以下に述べる態様のものが考えられる。
可変容量形ポンプは、その一態様として、ポンプ収容部と、該ポンプ収容部に開口した吸入部および吐出部を有したポンプハウジングと、前記ポンプ収容部内に移動可能に設けられた調整リングと、前記調整リング内に設けられたポンプ構成体であって、回転駆動されることによって前記吸入部から吸入されたオイルを前記吐出部から吐出すると共に、前記調整リングが移動すると前記吐出部から吐出されるオイルの流量が変化する前記ポンプ構成体と、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において、前記ポンプ収容部と前記調整リングとの間に前記吸入部とオーバーラップするように設けられ、制御圧が導入されると前記吐出部から吐出されるオイルの流量が減少する方向へ、前記調整リングを付勢する制御油室と、前記吐出部から吐出されるオイルの油圧よりも低い低圧部と連通し、前記制御油室内のオイルの圧力を制御する制御バルブと、前記調整リングの両側面のうち一方の側面、または前記調整リングの両側面と対向する前記ポンプハウジングの両内側面のうち一方の内側面に形成された溝部であって、前記吐出部に面したポンプ室に開口せず、かつ前記吸入部に面したポンプ室に開口していない前記溝部と、を備える。
前記可変容量形ポンプの好ましい態様において、前記溝部は、前記ポンプ構成体の回転軸線に対する径方向において、前記吐出部とオーバーラップする。