JP7317331B2 - 三次元培養法、三次元培養構造体、および三次元培養構造体の製造方法 - Google Patents

三次元培養法、三次元培養構造体、および三次元培養構造体の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、三次元細胞培養法(以下、「三次元培養法」という。)、三次元培養に用いられる構造体(容器を含む)、および三次元培養構造体の製造方法に関する。
近年、創薬や再生医療に欠かせない技術として、三次元細胞培養法(以下、「三次元培養法」という。)が注目されている(例えば、特許文献1~4、非特許文献1~3)。
三次元培養法は、in vitroで、細胞を三次元的に相互作用させながら、培養する方法であり、in vivoにおける細胞の性質を良く反映したスフェロイドを得ることができる。このように、三次元培養法によって得られたスフェロイドは、二次元培養法によって得られた細胞よりも、培養された細胞が由来する生体組織の性質や機能を、生体に近い態様で発現し得る。本明細書において、スフェロイドが有するこのような性質を「組織再現性」といい、細胞内の遺伝子発現により生成されたタンパク質が生体に近い形で生理的に機能するほど、組織再現性が高いという。
三次元培養法として、微細な凹凸構造を有する表面を利用する培養法が、例えば、特許文献1~3および非特許文献1に記載されている。これらに記載の培養法は、底面に微細な凹凸構造を有する容器に、細胞と培地(ここでは、培養液、液体培地のことをいう。)とを含む細胞懸濁液を注ぎ、細胞の一部が液体中で容器の底面に接着した状態で培養される。以下、本明細書において、特許文献1~3および非特許文献1等に記載の培養方法を「微接着三次元培養法」という。
また、液滴内で細胞を培養するハンギングドロップ法が、例えば、特許文献4、非特許文献2、3に記載されている。
特開2005-168494号公報 国際公開第2007/097120号 国際公開第2017/126589号 国際公開第2007/114351号 特許第4265729号公報 特開2009-166502号公報 国際公開第2011/125486号 国際公開第2013/183576号 国際公開第2015/163018号 特開2010-226975号公報
Yoshii Y, Furukawa T, Aoyama H, Adachi N,Zhang MR, Wakizaka H, Fujibayashi Y, Saga T,"Regorafenib as a potential adjuvantchemotherapy agent in disseminated small colon cancer: Drug selection outcome of anovel screening system using nanoimprinting 3-dimensional culture with HCT116-RFP cells", Int. J. Oncol., 2016 Apr;48(4):1477-84. Singla DK and Sobel BE, Biochem Biophys Res Commun. 2005 335(3):637-42 Foty, R., "A Simple Hanging Drop Cell Culture Protocol for Generation of 3D Spheroids". JoVE., 51, 2720 (2011).
しかしながら、本発明者の検討によると、上記の従来の三次元培養法は、作業性または量産性に改善の余地が残されている。また、組織再現性をさらに向上させたスフェロイドを得ることができる三次元培養法の開発が望まれている。
底面の微細な凹凸構造を利用する微接着三次元培養法においては、底面の微細な凹凸構造は、細胞の足場として作用する。底面の凹凸構造と細胞との相互作用が、細胞間の相互作用よりも強いと、細胞が厚さ方向に十分に増殖できず、面内方向の増殖が支配的となり、その結果、三次元的な組織構造を十分に再現できないことがある。また、微接着三次元培養法においては、細胞が面内方向にランダムに遊走する間に細胞同士の接触と接着を繰り返し、細胞***を伴いながらスフェロイドを形成するので、スフェロイドを構成する細胞の数にばらつきが大きく、スフェロイドの形状やサイズの再現性が低いという問題もある。
ハンギングドロップ法は、液滴中で培養を行うので、細胞数の制御が容易であり、スフェロイドの形状やサイズの再現性が高いという利点を有している。しかしながら、液滴中に細胞の足場となる表面がないので、足場依存性の高い細胞種においては生存性を維持できないことがある。また、ハンギングドロップ法は、液滴を付着させた表面を下に向ける(重力方向に向ける)ので、作業性が低いという問題もある。
また、上記のいずれかの三次元培養法によって得られるスフェロイドの組織再現性は、二次元培養法(平面培養法)によって得られたスフェロイドの組織再現性よりも高いものの、一層の向上が求められている。
そこで、本発明の実施形態は、従来の三次元培養法よりも、作業性または量産性に優れた、および/または、組織再現性の高いスフェロイドを得ることができる三次元培養法を提供することを目的とする。また、本発明の他の実施形態は、そのような三次元培養法に好適に用いられる三次元培養構造体および/または三次元培養構造体の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の実施形態によると、以下の項目に記載の解決手段が提供される。
[項目1]
細胞と培地とを含む細胞懸濁液を用意する工程と、
複数の第1凹部を有するポーラスアルミナ層から形成された固体表面を用意する工程と、
前記固体表面上に、前記細胞懸濁液の液滴を付着させる工程と、
前記液滴に作用する重力の方向が前記固体表面に向かう状態で、前記細胞を前記液滴中で培養する工程と
を包含する、三次元培養法。
[項目2]
前記ポーラスアルミナ層の表面は、前記複数の第1凹部と、隣接する前記複数の第1凹部の側面が交わることにより形成された第1稜線と、それぞれが前記複数の第1凹部のいずれかの中に形成された複数のミクロな凹部とを有する、項目1に記載の三次元培養法。
[項目3]
前記ポーラスアルミナ層を形成する工程は、
透明基材上のアルミニウム膜を部分的に陽極酸化することによって、予備ポーラスアルミナ層を形成する工程(a)と、
前記工程(a)の後に、前記予備ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、前記予備ポーラスアルミナ層を実質的に完全に除去する工程(b)と、
前記工程(b)の後に、前記アルミニウム膜のうち陽極酸化されずに残ったアルミニウム残存層を陽極酸化する工程(c)と
を包含し、
前記アルミニウム残存層の表面は、複数の第2凹部と、隣接する前記複数の第2凹部の側面が交わることにより形成された第2稜線とを有し、
前記複数の第1凹部は、前記複数の第2凹部が反映されたものであり、前記第1稜線は、前記第2稜線が反映されたものであり、
前記工程(c)は、前記アルミニウム残存層を陽極酸化することによって、前記複数のミクロな凹部を形成する工程を包含する、項目2に記載の三次元培養法。
[項目4]
前記工程(c)で行われる陽極酸化工程は、前記工程(a)で行われる陽極酸化工程と同じ電解液を用いて行われる、項目3に記載の三次元培養法。
[項目5]
前記ポーラスアルミナ層を形成する工程は、
前記工程(c)の後に、前記ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、前記複数のミクロな凹部を拡大させる工程(d)をさらに包含する、項目3または4に記載の三次元培養法。
[項目6]
前記工程(d)で用いられるエッチング液は、前記工程(b)で用いられるエッチング液と同じである、項目5に記載の三次元培養法。
[項目7]
前記工程(c)は、前記残ったアルミニウム膜を実質的に完全に陽極酸化する工程を包含する、項目3から6のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目8]
波長550nmにおける前記ポーラスアルミナ層の透過率は、40%以上である、項目1から7のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目9]
前記固体表面は、フッ素系離型剤で離型処理されている、項目1から8のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目10]
前記フッ素系離型剤は、パーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物を含む、項目9に記載の三次元培養法。
[項目11]
前記フッ素系離型剤は、パーフルオロアルキル基(-(CF-基、pは0以上2以下の整数)を有するフッ素化合物を含む、項目9に記載の三次元培養法。
[項目12]
前記固体表面の水に対する接触角が108°以上128°以下である、項目1から11のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目13]
前記固体表面のヘキサデカンに対する接触角が57°以上85°以下である、項目1から12のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目14]
項目1から13のいずれかに記載の三次元培養法に用いられる固体表面を有する、三次元培養構造体。
[項目15]
前記固体表面を有する三次元培養構造体を用意し、項目1から13のいずれかに記載の三次元培養法を用いて培養されたスフェロイドを前記固体表面に有する三次元培養構造体を製造する方法。
本発明の他の実施形態によると、以下の項目に記載の解決手段も提供される。
[項目16]
細胞と培地とを含む細胞懸濁液を用意する工程と、高さが10nm以上1mm以下の複数の凸部を有する固体表面を用意する工程と、前記固体表面上に、前記細胞懸濁液の液滴を付着させる工程と、前記液滴に作用する重力の方向が前記固体表面に向かう状態で、前記細胞を前記液滴中で培養する工程とを包含する、三次元培養法。
[項目17]
前記固体表面の法線方向から見たとき、前記複数の凸部の2次元的な大きさは10nm以上500nm以下の範囲内にある、項目16に記載の三次元培養法。
[項目18]
前記複数の凸部の高さは、10nm以上500nm以下である、項目16または17に記載の三次元培養法。
[項目19]
前記複数の凸部の隣接間距離は、10nm以上1000nm以下である、項目16から18のいずれかに記載の三次元培養法。前記複数の凸部の隣接間距離は、500nm以下であってもよい。
[項目20]
前記複数の凸部は略円錐形の先端部分を有する、項目16から19のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目21]
前記固体表面の前記細胞懸濁液に対する接触角が17°以上である、項目16から20のいずれかに記載の三次元培養法。なお、少なくとも着滴から10秒後において前記固体表面の前記細胞懸濁液に対する接触角が17°以上であればよい。
[項目22]
前記固体表面の前記細胞懸濁液に対する接触角が90°以上である、項目16から21のいずれかに記載の三次元培養法。なお、少なくとも着滴から10秒後において前記固体表面の前記細胞懸濁液に対する接触角が90°以上であればよい。
[項目23]
前記固体表面の前記細胞懸濁液に対する滑落角は45°以上である、項目16から22のいずれかに記載の三次元培養法。滑落角は着滴から20秒後の値で評価すればよい。
[項目24]
前記固体表面は、合成高分子から形成されている、項目16から23のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目25]
前記液滴の体積は10μL以上50μL以下である、項目16から24のいずれかに記載の三次元培養法。
適当な形状の液滴の形成および操作性等の観点から、上記の範囲が好ましい。
[項目26]
前記液滴に含まれる前記細胞の播種密度は10細胞/mL以上10細胞/mL以下である、項目16から25のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目27]
前記液滴の高さは1mm以上である、項目16から26のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目28]
前記細胞を前記液滴中で培養している間に、前記液滴に前記培地を付与する工程をさらに包含する、項目16から27のいずれかに記載の三次元培養法。
[項目29]
前記培地を付与する前に、前記液滴から前記培地の一部を吸い取る工程をさらに包含する、項目28に記載の三次元培養法。
[項目30]
項目16から29のいずれかに記載の三次元培養法に用いられる固体表面を有する、三次元培養構造体。
三次元培養構造体は、容器の一部として提供される。
[項目31]
前記固体表面を有する三次元培養構造体を用意し、項目16から29のいずれかに記載の三次元培養法を用いて培養されたスフェロイドを前記固体表面に有する三次元培養構造体を製造する方法。
項目16から29のいずれかに記載の三次元培養法を用いて培養されたスフェロイドは三次元培養構造体(例えば容器)とともに提供され得る。
本発明の実施形態によると、従来の三次元培養法よりも、作業性または量産性に優れた、および/または、組織再現性の高いスフェロイドを得ることができる三次元培養法が提供される。また、本発明の他の実施形態によると、そのような三次元培養法に好適に用いられる三次元培養構造体が提供される。本発明のさらに他の実施形態によると、従来よりも組織再現性の高いスフェロイドを表面に有する三次元培養構造体(例えば容器)が提供される。
本発明の実施形態による三次元培養法における培養状態を模式的に示す図である。 本発明の実施形態による三次元培養法に用いられるモスアイ構造を表面に有する合成高分子膜34Aの模式的な断面図である。 本発明の実施形態による三次元培養法に用いられるモスアイ構造を表面に有する合成高分子膜34Bの模式的な断面図である。 ヒト肝がん由来細胞株HepG2をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)である。 ドロップ培養法で得られたHepG2のスフェロイドを電子顕微鏡の上面像(左)と、側面像(右)である。 ドロップ培養中の肝がん細胞株HepG2の細胞生存数を求めた結果を示すグラフである。 ドロップ培養法で得られた肝がん細胞HepG2スフェロイドのCYP活性を評価した結果を示すグラフである。 ヒト胎児腎臓上皮細胞HEK293をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)である。 マウス脂肪前駆細胞3T3-L1をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)である。 マウス間葉系幹細胞C3H10t1/2をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)である。 マウス筋芽細胞C2C12をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)である。 ドロップ培養法で得られたスフェロイド(レベル1)の光学顕微鏡像である。 ドロップ培養法で得られたスフェロイド(レベル2)の光学顕微鏡像である。 ドロップ培養法で得られたスフェロイド(レベル3)の光学顕微鏡像である。 ドロップ培養法で得られたスフェロイド(レベル4)の光学顕微鏡像である。 ドロップ培養法で得られたスフェロイド(レベル5)の光学顕微鏡像である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な断面図である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な断面図である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な断面図である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な断面図である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な断面図である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な平面図である。 ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明するための模式的な平面図である。 試料サンプルNo.101のSEM像である。 試料サンプルNo.102のSEM像である。 試料サンプルNo.103のSEM像である。 試料サンプルNo.104のSEM像である。 試料サンプルNo.105のSEM像である。 ドロップ培養法で得られたスフェロイドの光学顕微鏡像(左上:試料サンプルNo.101、右上:試料サンプルNo.102、左下:試料サンプルNo.103、右下:試料サンプルNo.104)である。
以下、本発明の実施形態による三次元培養法、三次元培養構造体、および三次元培養構造体の製造方法を説明する。
本発明の実施形態による三次元培養法は、図1に模式的に示す様に、固体表面10S上に、細胞12Cと培地14Mとを含む細胞懸濁液の液滴16Dを付着させ、液滴16Dに作用する重力の方向が固体表面10Sに向かう状態で、細胞12Cを液滴16D中で培養する方法である。この三次元培養法(以下、「ドロップ培養法」という。)では、液滴16D中で細胞12Cを培養するので、ハンギングドロップ法と同様に、細胞数の制御が容易であり、スフェロイドの形状やサイズの再現性が高いという利点が得られる。さらに、液滴16Dに作用する重力の方向が固体表面10Sに向かう状態で培養が行われるので、固体表面10Sが足場として作用するので、足場依存性の高い細胞種であっても、比較的高い生存性を維持できる。また、液滴16Dを付着させた表面10Sを下に向ける(重力方向に向ける)必要がないので、ハンギングドロップ法よりも作業性が高い。固体表面10Sは足場として作用し得る複数の凸部10Spを有する。
液滴16Dは、固体表面10Sと接触する部分以外は雰囲気ガス(例えば空気)と接触しており、閉じられた培養空間を形成する。なお、図1では、液滴16Dの底面が凸部10Spの先端に接触し、液滴16Dは凸部10Spの先端よりも上側にのみ存在しているように図示しているが、液滴16Dの底部の一部が隣接する凸部10Spの間に浸入していてもよい。液滴16Dの体積は、例えば10μL以上50μL以下である。
安定した液滴16Dを形成し、かつ、効率よく細胞を培養できる固体表面10Sは、後に実験結果を示す様に、高さが10nm以上1mm以下の複数の凸部10Spを有する固体表面である。高さが10nm以上1mm以下の複数の凸部を有する固体表面を利用することによって、三次元培養できることは、例えば特許文献1(特許第4507845号として登録)にも記載されている。しかしながら、上述した様に、底面の微細な凹凸構造を利用する微接着三次元培養法では、三次元的な組織構造を十分に再現できない、あるいは、スフェロイドの形状やサイズの再現性が低いという問題がある。
ドロップ培養法では、液滴16D中の細胞を培養するので、微接着三次元培養法の上記の欠点を解消することができる。細胞12Cは、三次元的に閉ざされた液滴16Dの中で、重力の作用を受けて、固体表面10Sと接触する底面上に堆積するように集まる。したがって、固体表面10Sの複数の凸部10Spと相互作用する細胞が一定量存在するとともに、その上に細胞同士間だけで相互作用する細胞が存在する。その結果、微接着三次元培養とは異なり、厚さ方向にも適度に増殖し、三次元的な組織構造の再現性が高いスフェロイドが得られると考えられる。
以下では、モスアイ構造を有する固体表面10Sを用いた実験例を示して、本発明の実施形態による三次元培養法(ドロップ培養法)を説明する。本出願人の内の一方が、反射防止膜または殺菌性を有する合成高分子膜として開発してきた、モスアイ構造を有する固体表面は、ドロップ培養法に好適に用いられる。参考のために、特許文献5~8(反射防止膜)、特許文献9(殺菌性を有する合成高分子膜)の開示内容を本明細書に援用する。
特許文献5~9に記載されているように、陽極酸化ポーラスアルミナ層を利用すると、高い量産性で、モスアイ構造を表面に有する合成高分子膜(例えば、光硬化性樹脂を硬化させることによって形成された光硬化樹脂膜や、熱硬化性樹脂を硬化させることによって形成された熱硬化樹脂膜等)を製造することができる。以下に示す実験例は、上述の方法で形成されたモスアイ構造を表面に有する光硬化樹脂膜を用いた例であり、上記の項目2~9に記載の特徴を備えている。ただし、特許文献1に記載されているように、複数の凸部の大きさ、高さや、隣接凸部間の距離(規則的に配列されている場合はピッチ)は、これらに限られないと考えられる。なお、モスアイ構造を形成する材料は、有機材料、無機材料のいずれであってもよい。
図2Aおよび図2Bを参照して、ドロップ培養法に用いられるモスアイ構造を表面に有する合成高分子膜34Aおよび34Bの構造を説明する。合成高分子膜34Aおよび34Bは、本発明の実施形態による三次元培養構造の例である。
図2Aおよび図2Bは、合成高分子膜34Aおよび34Bの模式的な断面図をそれぞれ示す。ここで例示する合成高分子膜34Aおよび34Bは、いずれもベースフィルム42Aおよび42B上にそれぞれ形成されているが、もちろんこれに限られない。合成高分子膜34Aおよび34Bは、任意の物体の表面に直接形成され得る。
図2Aに示すフィルム50Aは、ベースフィルム42Aと、ベースフィルム42A上に形成された合成高分子膜34Aとを有している。合成高分子膜34Aは、表面に複数の凸部34Apを有しており、複数の凸部34Apは、モスアイ構造を構成している。合成高分子膜34Aの法線方向から見たとき、凸部34Apの2次元的な大きさDは10nm以上500nm以下の範囲内にある。ここで、凸部34Apの「2次元的な大きさ」とは、表面の法線から見たときの凸部34Apの面積円相当径を指す。例えば、凸部34Apが円錐形の場合、凸部34Apの2次元的な大きさは、円錐の底面の直径に相当する。また、凸部34Apの典型的な隣接間距離Dintは10nm以上1000nm以下である。図2Aに例示するように、凸部34Apが密に配列されており、隣接する凸部34Ap間に間隙が存在しない(例えば、円錐の底面が部分的に重なる)場合には、凸部34Apの2次元的な大きさDは隣接間距離Dintと等しい。凸部34Apの典型的な高さDは、10nm以上500nm以下である。合成高分子膜34Aの厚さtに特に制限はなく、凸部34Apの高さDより大きければよい。
図2Aに示した合成高分子膜34Aは、特許文献5~8に記載されている反射防止膜と同様のモスアイ構造を有している。反射防止機能を発現させるためには、表面に平坦な部分がなく、凸部34Apが密に配列されていることが好ましい。また、凸部34Apは、空気側からベースフィルム42A側に向かって、断面積(入射光線に直交する面に平行な断面、例えばベースフィルム42Aの面に平行な断面)が増加する形状、例えば、円錐形であることが好ましい。また、光の干渉を抑制するために、凸部34Apを規則性がないように、好ましくはランダムに、配列することが好ましい。しかしながら、合成高分子膜34Aをドロップ培養に用いる場合には、これらの特徴は必要ではない。例えば、凸部34Apは密に配列される必要はなく、また、規則的に配列されてもよい。D、Dint、Dの上限値および下限値も、可視光の反射を防止する必要がないので、可視光の波長範囲を超えてもよい。
図2Bに示すフィルム50Bは、ベースフィルム42Bと、ベースフィルム42B上に形成された合成高分子膜34Bとを有している。合成高分子膜34Bは、表面に複数の凸部34Bpを有しており、複数の凸部34Bpは、モスアイ構造を構成している。フィルム50Bは、合成高分子膜34Bが有する凸部34Bpの構造が、フィルム50Aの合成高分子膜34Aが有する凸部34Apの構造と異なっている。フィルム50Aと共通の特徴については説明を省略することがある。
合成高分子膜34Bの法線方向から見たとき、凸部34Bpの2次元的な大きさDは10nm以上500nm以下の範囲内にある。また、凸部34Bpの典型的な隣接間距離Dintは10nm以上1000nm以下であり、かつ、D<Dintである。すなわち、合成高分子膜34Bでは、隣接する凸部34Bpの間に平坦部が存在する。凸部34Bpは、空気側に円錐形の部分を有する円柱状であり、凸部34Bpの典型的な高さDは、10nm以上500nm以下である。また、凸部34Bpは、規則的に配列されていてもよいし、不規則に配列されていてもよい。凸部34Bpが規則的に配列されている場合、Dintは配列の周期をも表すことになる。このことは、当然ながら、合成高分子膜34Aについても同じである。
なお、本明細書において、「モスアイ構造」は、図2Aに示した合成高分子膜34Aの凸部34Apの様に、断面積(膜面に平行な断面)が増加する形状の凸部で構成される、優れた反射防止機能を有するナノ表面構造だけなく、図2Bに示した合成高分子膜34Bの凸部34Bpの様に、断面積(膜面に平行な断面)が一定の部分を有する凸部で構成されるナノ表面構造を包含する。凸部の先端は、円錐形である必要は必ずしもない。
実施例で例示した固体表面が有する複数の凸部は、略円錐形の先端部を有するが、複数の凸部の形状はこれに限られない。ただし、型を用いて複数の凸部を形成する場合には、離型性の観点から、凸部の先端ほど細い(型の凹部の底に近いほど細い)形状が好ましい。先端が尖っている必要はない。また、凸部の高さ(型の凹部の深さ)が500nmを超えると、離型性が低下する、あるいは、型の製造に時間がかかるなどの不利益がある。
合成高分子膜34Aおよび34Bの表面は、必要に応じて、処理されていてもよい。例えば、表面張力(ドロップの接触角)を調整するために、撥水撥油剤や表面処理剤を付与してもよい。撥水撥油剤や表面処理剤の種類によっては、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に薄い高分子膜が形成される。また、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面をプラズマなどを用いて改質してもよい。例えば、プラズマ処理によって、合成高分子膜34Aおよび34Bの表面に親油性を付与することができる。
図2Aおよび図2Bに例示したようなモスアイ構造を表面に形成するための型(以下、「モスアイ用型」という。)は、モスアイ構造を反転させた、反転されたモスアイ構造を有する。反転されたモスアイ構造を有する陽極酸化ポーラスアルミナ層をそのまま型として利用すると、モスアイ構造を安価に製造することができる。特に、円筒状のモスアイ用型を用いると、ロール・ツー・ロール方式によりモスアイ構造を効率良く製造することができる。このようなモスアイ用型は、特許文献5~8に記載されている方法で製造することができる。
なお、モスアイ用型の製造方法は、上記の方法に限定されない。例えば、干渉露光リソグラフィーや電子線リソグラフィーなどの各種リソグラフィー法、または、グラッシーカーボン基板に酸素イオンビームを照射して構造を形成する方法など、公知のナノ構造を形成する方法を用いることができる。
固体表面と細胞との相互作用(あるいは、固体表面の足場としての作用)がスフェロイド形成に与える影響については、細胞種によっても異なるので、今後の研究を待たないとわからない点も多いが、少なくともこれまでの実験結果から、上記の項目2~9に記載の特徴を有する固体表面がドロップ培養法に好適に用いられる。
後に示す実験例では、特願2018-041073号(出願日2018年3月7日)およびこれに基づく米国出願16/293,903に記載の合成高分子膜を用いた。参考のために、上記特許出願の開示内容のすべてを本明細書に援用する。なお、上記特許出願に記載されている合成高分子膜は、表面に付着した液滴のpHが変化しないという特徴を有している。具体的には、合成高分子膜の表面に200μLの水を滴下後、5分後の水溶液のpHが6.5以上7.5以下であり得る。光硬化性樹脂を用いて作製された合成高分子膜は、重合開始剤に起因して生成される酸が、表面に付着した水に溶出されることがある。これを防止するためには、重合開始剤として、例えば、エタノン,1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾール-3-イル]-,1-(O-アセチルオキシム)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、および1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンからなる群から選択される1以上の重合開始剤を用いればよい。具体的には、IRGACURE OXE02(BASF社)、Omnirad 127(IGM Resins社)、Omnirad 2959(IGM Resins社)を例示することができる。
固体表面に付着した液滴のpHの変化が大き過ぎると、細胞の成長速度が低下する、あるいは、スフェロイドの形態が一定しない、スフェロイドの組織再現性が低下するなどのおそれがある。このような観点からも上記特許出願に記載の合成高分子膜は好適に用いられる。
図3Aに、ヒト肝がん由来細胞株HepG2をドロップ培養した結果(左)と、平面培養した結果(右)の倒立型位相差顕微鏡を用いて観察した像を示す。また、図3Bに、ドロップ培養法で得られたHepG2のスフェロイドを電子顕微鏡で観察した像を示す。図3Bの左は上面像であり、図3Bの右は側面像である。
ドロップ培養は、以下の方法で行った。
まず、ヒト肝がん由来細胞株HepG2細胞を、一般的な培養条件であるダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM)に最終濃度10%ウシ胎児血清(FBS)を添加した培地(細胞培養液)を用いて、温度37℃、二酸化炭素濃度5%、相対湿度95%の大気条件で、接着細胞培養用シャーレ(例えば、住友ベークライト株式会社製MS-11600)で維持培養を行った。
次に、この維持培養を行っていたHepG2細胞を、一般的な細胞剥離液であるトリプシン溶液を用いて培養皿より剥離し、細胞が浮遊した状態における細胞密度を全自動細胞計測機(セルカウンター)で計測し、上記培地に1×10細胞/mLになるように、細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液25μLを計量し、モスアイ構造を表面に有する光硬化樹脂膜の表面に液滴を形成するように付着させた。液滴は、35mmφディッシュ上に貼られたナノ突起フィルム上であれば、6~9個が最適であった。この液滴(25μL)を上記と同じ大気条件(温度37℃、二酸化炭素濃度5%、相対湿度95%)で3日間培養した。液滴はこの大気条件においても、また培地中の浸透圧を調整するために培養液をその半量または全量を交換しても、その形状を維持していた。
図3Aの左に示したように、モスアイ構造を有する表面上でドロップ培養を行うと、概ね円形の外周を持ち、且つ、立体的なスフェロイドが形成された。立体的なスフェロイドが形成されていることは、図3Bの電子顕微鏡像からも確認できる。
一方、図3Aの右は、一般的な平面培養による結果を示している。図3Aの右には、スフェロイドの形成は認められなかった。なお、一般的な平面培養は、ここでは、以下のようにして行った。
一般的な細胞接着表面コート(親水性コート等)を施した培養用シャーレ(例えば、住友ベークライト株式会社製MS-3096又はMS-11350など、試験のための容量に合わせて選択する)に調製された細胞懸濁液を適量(96穴プレートでは100μL、35mmディッシュでは2mL)播種し、細胞が平面状に生育出来るよう培養を行った。
図3Cにドロップ培養中の肝がん細胞株HepG2の細胞生存数を求めた結果を示す。ここでは、同一細胞株の生細胞が同量持つエネルギーであることが知られているアデノシン三リン酸(ATP)を測定することで定量した。図3C中の3Dがドロップ培養法、2Dは、一般的な平面培養法の結果を示す。
図3Cから分かるように、ドロップ培養法による細胞生存数は、平面培養法による細胞生存数に対し、ほぼ同程度ある。従来の三次元培養法(例えば特許文献1)では、細胞生存数は、平面培養法よりも減少し、平面培養法による細胞生存数の70%~80%が得られれば、高効率に細胞が生存していると言われている。細胞生存数は、細胞密度にも依存するが、典型的な1×10細胞/mLという播種密度においては、ドロップ培養法においては平面培養法とほぼ同等の細胞生存率が得られることが分かった。
図3Dに、ドロップ培養法で得られた肝がん細胞HepG2スフェロイドの組織再現性(または「遺伝子発現性」)を評価した結果を示す。図3D中の3Dがドロップ培養法、2Dは、一般的な平面培養法の結果を示す。
HepG2細胞においては、平面培養では肝細胞の機能はほとんど維持しないが、三次元培養を行うことで極性に従った細胞の配位が可能となり、特徴的な肝機能の1つである薬剤代謝酵素チトクロームP450の活性(以下、「CYP活性」と略すことがある。)を回復させることが知られており、培養されたスフェロイドの組織再現性を評価する指標の1つとして用いられている。そこで、以下のようにして、P450活性を測定することによって、ドロップ培養法で得られた肝細胞スフェロイドの組織再現性を評価した。
ドロップ培養法で得られたスフェロイドを用いて、P450-GloTMLuciferin-IPAキット(プロメガ社製)を用い、インストラクションに従って細胞中の酵素活性を測定した。このとき、比較対象として、HepG2細胞を液滴と同細胞数になるように平面培養を行い、同じ方法でP450活性の測定を行った。平面培養とドロップ培養においては、その細胞生育速度が異なることが予想されたため、細胞当たりの酵素活性の補正値を算出する必要がある。そのため、P450酵素活性の測定時と同条件で、ドロップ培養または平面培養を行った際の生細胞数を測定するため、ATPの定量を、Cell Titer Gloキット(プロメガ社製)を用いて行い、インストラクションに従ってRLU値を測定した。平面培養あるいはドロップ培養を行った際のP450酵素活性をATP値で除し、平面培養の細胞あたり酵素活性値を1とした際のドロップ培養中のHepG2細胞の相対P450酵素活性値を求めグラフにしたものを図3Dに示した。
図3Dから分かるように、ドロップ培養法で形成したHepG2スフェロイドでは、CYP活性が3日間の培養で約10倍に上昇しており、形成されたスフェロイドが高い組織再現性を有していると考えられる。
上記のことから、固体表面上に液滴(ドロップ)を形成して培養を行うことによって、高い組織再現性を有するスフェロイドを形成できることがわかった。
図4A、図4B、図4C、図4Dに、種々の細胞をドロップ培養した結果(左)を平面培養した結果(右)と併せ示す。図4Aは、ヒト胎児腎臓上皮細胞HEK293をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)を示し、図4Bは、マウス脂肪前駆細胞3T3-L1をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)を示し、図4Cは、マウス間葉系幹細胞C3H10t1/2をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)を示し、図4Dは、マウス筋芽細胞C2C12をドロップ培養した結果の光学顕微鏡像(左)と、平面培養した結果の光学顕微鏡像(右)を示す。
図4A、図4B、図4C、図4Dの結果から理解されるように、ドロップ培養法によると、スフェロイドの形成が確認されたのに対し、平面培養では、いずれもスフェロイドは形成されなかった。このことから理解されるように、ドロップ培養法は、幅広い細胞種の培養に好適に用いられる。
次に、ドロップ培養法に好適に用いられる固体表面を検討した結果を説明する。
[合成高分子膜]
(実験例1)
組成の異なる紫外線硬化性樹脂を用いて、図2Aに示したフィルム50Aと同様の構造を有する試料フィルムを作製した。各試料フィルムの合成高分子膜34Aを形成する紫外線硬化性樹脂に使用した原材料を表1に示し、紫外線硬化性樹脂A、BおよびCの組成を表2に示す。樹脂A、BおよびCは、それぞれ、フッ素系の撥水撥油剤(撥水添加剤)を混合した。
また、モスアイ構造を表面に形成する型は、上記特許文献5~8、上記特願2018-041073号に記載の方法で作製したポーラスアルミナ層を用いた。平坦な「型」としては、厚さが0.7mmの無アルカリガラス(CORNING社製 EAGLE XG)を用いた。
また、合成高分子膜34Aを形成する際に、各型に表3に示す離型処理を行った。フッ素系離型剤UD509(ダイキン工業株式会社製、OPTOOL UD509、変性パーフルオロポリエーテル)の濃度を変えた3種類の処理を行った。
型および合成高分子膜の表面(ドロップ培養法における固体表面)を特徴付けるパラメータとして、接触角を測定した。表3に型の表面の接触角を示す。固体表面の細胞懸濁液に対する接触角は、固体表面と細胞とが接触する面積(「液滴の底面積」ともいう。)および液滴の形状に影響を与える。細胞種にも依存するが、接触角によって、得られるスフェロイドの形状等が変わる。細胞種に応じて接触角を調整することが好ましい。
接触角(静的接触角)の測定は、一般的な、θ/2法(half-angle Method:(θ/2=arctan(h/r)、θ:接触角、r:液滴の半径、h:液滴の高さ))で行った。純水を用いた接触角の測定には、1μLおよびドロップ培養法に用いられる液滴の体積を考慮し、10μLから70μLの液滴を用いた。培地を用いた接触角の測定には、ドロップ培養法に用いられる液滴の体積を考慮し、10μLから70μLの液滴を用いた。接触角は、時間に依存して変化する。したがって、液滴を付着させてから1秒後と、10秒後の接触角を測定した。固体表面を特徴付けるための接触角は、液滴が固体表面に付着してから10秒後の静的接触角をいうことにする。なお、「着滴せず」は接触角が140°以上であることを意味する。また、滑落角の測定には、接触角の測定と同様に、10μLから70μLの液滴を用いた。滑落角とは、液滴が付着した表面を水平方向から傾斜させ、液滴が下方に滑り始めた傾斜角をいう。
培地としては、D-MEM(Low Glucose 1.0g/L Glucose)/10%FBSを用いた。なお、培地の種類、濃度による接触角および滑落角への影響はばらつきの範囲内であった。また、培地に細胞を加えることによる接触角への影響もばらつきの範囲内であった。
表4に実験に用いた合成高分子膜(比較例1~12、実施例1~12)の作製に用いた型(離型処理の種類)および樹脂組成と、各合成高分子膜の表面の水に対する接触角を測定した結果を示す。接触角は、1μLの純水を用いて測定した。液滴を表面に付着させてから1秒後および10秒後の接触角と、10秒後の接触角から1秒後の接触角を引いた差(Δ)を測定した結果を示す。
表4から分かるように、多少のばらつきはあるものの、濃度の高い離型処理剤で処理した型を用いて作製した合成高分子膜程、撥水性が高い。また、平坦な表面とモスアイ構造を有する表面(以下、モスアイ表面という。)とを比較すると、モスアイ表面の方が接触角が大きく、撥水性が高い(ロータス効果)。実施例1、2、3のモスアイ表面は、接触角を測定する際に針先に形成された液滴をモスアイ表面に接触させても、液滴がモスアイ表面に付着せず、針先に残ったため、接触角を測定できなかった。接触角が概ね140°を超えると、このように液滴が、対象の表面に付着しないという現象が起こった。
また、接触角の時間変化(Δ)を見ると、実施例10、11を除き、いずれも接触角の時間変化は小さく、安定している。実施例10、11の接触角の時間変化が大きかった理由については、離型剤の濃度が低く、モスアイ表面に撥水撥油剤が均一かつ十分に引き寄せられなかったためと考えられる。硬化性樹脂に含まれる撥水撥油剤は、型の離型処理によってモスアイ表面に引き寄せられるからである。
表5、表7、表9、表11に、液滴量(液滴の体積)を変えて、水に対する接触角と、培地に対する接触角とを測定した結果を示す。表5(比較例1-1~12-1、実施例1-1~12-1)は10μLの液滴を用いた結果を示し、表7(比較例1-2~12-2、実施例1-2~12-2)は30μLの液滴を用いた結果を示し、表9(比較例1-3~12-3、実施例1-3~12-3)は50μLの液滴を用いた結果を示し、表11(比較例1-4~12-4、実施例1-4~12-4)は70μLの液滴を用いた結果を示している。
接触角は、水および培地のいずれについても、モスアイ表面の方が平坦な表面よりも大きく、撥水性が高い。液滴の体積が大きくなるにつれて、重力の影響を受けて、液滴の形状が扁平になり、接触角が小さくなる傾向が、水および培地について認められる。また、ばらつきはあるものの、濃度の高い離型処理剤で処理した型を用いて作製した合成高分子膜程、撥水性が高い傾向が認められる。
滑落角も、液滴の体積が大きくなるにつれて、重力の影響を受けて、小さくなる傾向が、水および培地について認められる。滑落角は、モスアイ表面の方が平坦な表面よりも大きく、モスアイ表面が有する微細な凸部の作用によると考えられる。すなわち、モスアイ表面は、高い撥水性を有しつつ、高い滑落角を維持できることが分かる。
それぞれの合成高分子膜の表面を用いて三次元培養を行った結果を表6(比較例1-1~12-1、実施例1-1~12-1)、表8(比較例1-2~12-2、実施例1-2~12-2)、表10(比較例1-3~12-3、実施例1-3~12-3)、表12(比較例1-4~12-4、実施例1-4~12-4)に示す。
スフェロイド化の評価は、光学顕微鏡による形態の観察によった。スフェロイド化のレベルを5段階で評価し、レベルの数字が大きい方がスフェロイド化の状態が良い状態(高密度集積)であると判定した。光学顕微鏡による形態観察結果の例を図5A(レベル1)、図5B(レベル2)、図5C(レベル3)、図5D(レベル4)、図5E(レベル5)に示す。表6、8、10および12においては、レベル3以上のスフェロイドが形成されたものを○(良)、レベル2または1のスフェロイドが得られたものを△(可)とし、スフェロイドが認められなかったものを×(不可)とした。図5Aは実施例10-4、図5Bの左は実施例10-3、中央は実施例11-4、右は実施例10-1、図5Cの左は実施例9-2、右は実施例8-4、図5Dは実施例6-2、図5Eの左は実施例3-2、右は実施例1-1のスフェロイドの光学顕微鏡像と、培地の接触角(10秒後)および、接触角の変化(▼はマイナスを示す)を示している。
培地交換の作業性は、接触角で評価した。接触角が110°以上を◎(優)、90°以上110°未満を○(良)、90°未満を△(可)とした。ただし、液滴の高さが1mmを下回ると、培地交換の作業性が低下するので、×(不可)とした。ドロップ培養法は、生存性が高いので、細胞種によっては培養期間が長い(数日を超える)場合もある。そうすると、液滴中の培地が蒸発によって減少する。また、液滴中の老廃物が増加する。そのため、液滴に培地を付与する工程や、さらに、培地を付与する前に液滴から培地の一部を吸い取る工程を行うことが好ましい。このような培地を交換する操作をディスペンサ―を用いて効率よく行うためには、液滴の高さは1mm以上であることが好ましい。θ/2法で求められる接触角は、液滴の形状を円の一部と仮定して求められる(θ/2=arctan(h/r)、θ:接触角、r:液滴の半径、h:液滴の高さ)。この関係から、例えば、液滴の体積が70μLのとき、接触角が17°のとき、高さhが1mmとなる(50μLのときは20°、30μLのときは26°、10μLのときは44°で、それぞれ高さhが1mmとなる)。したがって、10秒後の培地の接触角が14.5°と17°未満の実施例10-4だけを×と判定した。
ハンドリング性は、作業中に液滴が固体表面に安定に保持され易さを滑落角で評価した。固体表面上の液滴は、固体表面が傾斜する、あるいは、振動すると、移動する(滑るまたは転がる)ことがある。これを防止するためには、培養中に、固体表面を傾斜させない、あるいは、振動させない状態を維持する必要が生じるので、作業性が低下する。例えば、固体表面の培地に対する滑落角を45°以上とすることによって、液滴を固体表面上に比較的安定に保持することができる。ハンドリング性は、滑落角が90°以上を◎(優)、45°以上90°未満を○(良)、10°以上45°未満を△(可)、10°未満を×(不可)とした。
表6、8、10、12におけるスフェロイド化の評価結果をみると、平坦な表面を用いた比較例では、いずれもスフェロイドの形成が認められなかったのに対し、モスアイ表面を用いた、すべての実施例でスフェロイドの形成が認められたことがわかる。また、実施例においては、図5A~図5Eからも分かるように、接触角が大きいほど、良い状態のスフェロイドが得られる傾向が認められる。これは、接触角が大きいほど、液滴の形状が球に近く、液滴の底面で細胞が高密度に集積させるためと考えられる。接触角は、少なくとも17°以上であることが好ましく、90°以上であることがさらに好ましい。接触角は着滴から10秒後の値が上記の条件を満足すればよい。
また、実施例11-4(図5B中央)および実施例10-1(図5B右)と、実施例8-4(図5C右)とを比較すると分かるように、接触角の差Δが小さい方が、良い状態のスフェロイドが得られる傾向が認められる。これは、着滴後10秒間での接触角変化量が小さいほど、培養期間中の液滴の形状が維持されやすく(扁平になり難く)、その結果、液滴の形状による細胞の集積効果が、より多く得られたと考えられる。
液滴の形成および操作性等の観点から、液滴の体積は10μL以上50μL以下であることが好ましい(表6、8、10参照、特に実施例1~6)。
液滴に含まれる細胞の播種密度は、例えば、10細胞/mL以上10細胞/mL以下である。液滴に含まれる細胞の数を正確に制御できる点がドロップ培養法の利点の1つである。細胞の数は、典型的に上記の範囲であるが、細胞種や液滴の体積等に応じて、適宜調整され得る。
上述したように、ハンドリング性の観点から、液滴の滑落角は45°以上であることが好ましく、90°以上であることがさらに好ましい。滑落角は着滴から20秒後の値で評価すればよい。
Figure 0007317331000001
Figure 0007317331000002
Figure 0007317331000003
Figure 0007317331000004
Figure 0007317331000005
Figure 0007317331000006
Figure 0007317331000007
Figure 0007317331000008
Figure 0007317331000009
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Figure 0007317331000011
Figure 0007317331000012
[陽極酸化ポーラスアルミナ層]
上述した実験例1ではモスアイ構造を表面に有する光硬化樹脂膜を用いたが、以下では、固体表面の異なる例として、複数の凹部を表面に有する陽極酸化ポーラスアルミナ層を用いた例を示す。
図6A~図6E、図7Aおよび図7Bを参照しながら、ドロップ培養法に用いられるポーラスアルミナ層の構造および形成方法を説明する。なお、図6A~図6E、図7Aおよび図7Bでは、簡単のために、ポーラスアルミナ層が有する凹部が高い規則性を有する(周期性を有する)配列を形成している例を図示しているが、このような例に限られない。後に示す試料サンプルのSEM像(図8A~図8E)からも分かるように、ここでは、ポーラスアルミナ層64が有する凹部64p1およびミクロな凹部64p2は不規則に配列されている(周期性を有しない)。ポーラスアルミナ層が有する凹部(細孔)は特定の条件下では高い規則性を有する(周期性を有する)配列を形成し、条件によってはある程度規則性の乱れた配列、あるいは不規則(周期性を有しない)な配列を形成することが知られている。ポーラスアルミナ層をドロップ培養法に用いる場合、凹部の配置が規則性を有するか否かに起因した有意な差(細胞培養の結果の差)は認められていない。
まず、図6Aに示すように、透明基板(透明基材)62と、透明基板62の上に形成されたアルミニウム膜68とを用意する。
透明基板62は、例えば、ガラス基板、プラスチック基板等であり、可視光透過率が90%以上であればよい。透明基板62の厚さは、例えば0.03mm以上1mm以下である。
アルミニウム膜68は、例えば、特許文献7に記載されているように、純度が99.99mass%以上のアルミニウムで形成された膜(以下、「高純度アルミニウム膜」ということがある。)である。アルミニウム膜68は、例えば、真空蒸着法またはスパッタ法を用いて形成される。アルミニウム膜68の厚さは、例えば100nm以上1μm以下である。
また、アルミニウム膜68として、高純度アルミニウム膜に代えて、特許文献8に記載されている、アルミニウム合金膜を用いてもよい。特許文献8に記載のアルミニウム合金膜は、アルミニウムと、アルミニウム以外の金属元素と、窒素とを含む。本明細書において、「アルミニウム膜」は、高純度アルミニウム膜だけでなく、特許文献8に記載のアルミニウム合金膜を含むものとする。
上記アルミニウム合金膜を用いると、反射率が80%以上の鏡面を得ることができる。アルミニウム合金膜を構成する結晶粒の、アルミニウム合金膜の法線方向から見たときの平均粒径は、例えば、100nm以下であり、アルミニウム合金膜の最大表面粗さRmaxは60nm以下である。アルミニウム合金膜に含まれる窒素の含有率は、例えば、0.5mass%以上5.7mass%以下である。アルミニウム合金膜に含まれるアルミニウム以外の金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値は0.64V以下であり、アルミニウム合金膜中の金属元素の含有率は、1.0mass%以上1.9mass%以下であることが好ましい。金属元素は、例えば、TiまたはNdである。但し、金属元素はこれに限られず、金属元素の標準電極電位とアルミニウムの標準電極電位との差の絶対値が0.64V以下である他の金属元素(例えば、Mn、Mg、Zr、VおよびPb)であってもよい。さらに、金属元素は、Mo、NbまたはHfであってもよい。アルミニウム合金膜は、これらの金属元素を2種類以上含んでもよい。アルミニウム合金膜は、例えば、DCマグネトロンスパッタ法で形成される。アルミニウム合金膜の厚さは100nm以上1μm以下の範囲にあることが好ましい。
次に、図6Bに示すように、アルミニウム膜68を部分的に陽極酸化することによって、予備ポーラスアルミナ層69を形成する。ここでは、アルミニウム膜68のうち、アルミニウム膜68の表面68sを含む一部のみを陽極酸化する。すなわち、予備ポーラスアルミナ層69は、アルミニウム膜68のうち陽極酸化されずに残ったアルミニウム残存層68rの上に形成される。予備ポーラスアルミナ層69は、凹部(細孔)69pを有するポーラス層69aと、バリア層69b(凹部(細孔)69pの底部)とを有している。ポーラス層69aの厚さは、凹部69pの深さDdpに相当する。
次に、予備ポーラスアルミナ層69をエッチング液に接触させることによって、図6Cに示すように、予備ポーラスアルミナ層69を実質的に完全に除去する。アルミニウム残存層68rの表面は、予備ポーラスアルミナ層69のバリア層69bの底部の形状を反映している。アルミニウム残存層68rの表面は、複数の凹部68pと、隣接する凹部68pの側面が交わることにより形成された、稜線68dとを有する。
図7Aの平面図を参照して、予備ポーラスアルミナ層69およびアルミニウム残存層68rの形状を説明する。表面の法線方向から見たとき、凹部69pの中心63oは例えば正三角格子状に配置されている。凹部69pは平面図では中心63oを中心とした円として示される。ここでは凹部69pは円筒形であり、断面がU字状の底部を有する。アルミニウム残存層68rの凹部68pを示す、中心63oを中心とした円は、隣接する円が互いに重なり合い、隣接する凹部68pの間に稜線68dが形成される。稜線68dは、凹部68pを上から見たときの円に内接する正六角形の辺であり、正六角形の角には、尖状突起68cが形成されている。稜線68dを横から見ると、2つの尖状突起68cの間に局所的な凹部を形成しており、この凹部を鞍部ということもある。凹部68pの2次元的な大きさD68pは、凹部68pの隣接間距離D0にほぼ等しく(D68p=D0)、凹部69pの2次元的な大きさD69pは、凹部69pの隣接間距離D0よりも小さい(D69p<D0)。凹部の2次元的な大きさは、表面の法線方向から見たときの凹部の面積円相当径を指す。凹部69pの隣接間距離D0は、バリア層69bの厚さtcのほぼ2倍に相当し、陽極酸化時の電圧にほぼ比例することが知られている。凹部68pの隣接間距離D0、凹部69pの隣接間距離D0および凹部68pの2次元的な大きさD68pは、例えば10nm以上1000nm以下であり、凹部69pの2次元的な大きさD69pは、例えば5nm以上500nm以下である。凹部69pの深さDdpは、例えば50nm以上1000nm以下である。
次に、図6Dに示すように、透明基板62上のアルミニウム残存層68rを陽極酸化することによって、複数の凹部(細孔)64p2を有するポーラスアルミナ層64を形成する。ここでは、アルミニウム残存層68rを実質的に完全に陽極酸化する。ドロップ培養において、細胞を観察するためにポーラスアルミナ層の可視光透過率は高いことが好ましいためである。
図7Bの平面図をあわせて参照して、ポーラスアルミナ層64の形状を説明する。ポーラスアルミナ層64の表面は、アルミニウム残存層68rの表面形状を反映している。ポーラスアルミナ層64の表面は、複数の凹部64p1と、隣接する凹部64p1の側面が交わることにより形成された稜線64dとを有する。凹部64p1および稜線64dは、それぞれ、アルミニウム残存層68rの表面の凹部68pおよび稜線68dが反映されたものである。稜線64dは、凹部64p1を上から見たときの円に内接する正六角形の辺であり、正六角形の角には、尖状突起64cが形成されている。稜線64dを横から見ると、2つの尖状突起64cの間に局所的な凹部を形成しており、この凹部を鞍部ということもある。ポーラスアルミナ層64の表面は、それぞれが、複数の凹部64p1のいずれかの中に形成された複数のミクロな凹部64p2をさらに有する。凹部64p1およびミクロな凹部64p2の隣接間距離(中心間距離またはピッチ)はいずれもD0であり、凹部64p1の2次元的な大きさDp1は、凹部64p1の隣接間距離D0にほぼ等しく(Dp1=D0)、ミクロな凹部64p2の2次元的な大きさDp2は、ミクロな凹部64p2の隣接間距離D0よりも小さい(Dp2<D0)。
ポーラスアルミナ層64は、例えば、酸性の電解液中でアルミニウム残存層68rの表面を陽極酸化することによって形成される。ポーラスアルミナ層64を形成する工程で用いられる電解液は、例えば、蓚酸、酒石酸、燐酸、硫酸、クロム酸、クエン酸およびリンゴ酸からなる群から選択される酸を含む水溶液である。図6Bに示す陽極酸化工程(1回目の陽極酸化工程)と、図6Dに示す陽極酸化工程(2回目の陽極酸化工程)とは、例えば同じ電解液(同じ種類、同じ濃度、同じ温度の電解液)を用いて行うことができる。
次に、図6Eに示すように、ポーラスアルミナ層64をアルミナのエッチャントに接触させることによって所定の量だけエッチングすることによりミクロな凹部64p2の開口を拡大する。すなわち、ミクロな凹部64p2の2次元的な大きさDp2を増大させる。このとき、稜線64dおよび尖状突起64cの形状も変化する(例えば図6Eに示すようにより尖る)。エッチング液の種類・濃度、およびエッチング時間を調整することによって、エッチング量(すなわち、ミクロな凹部64p2の2次元的な大きさおよび深さ)を制御することができる。エッチング液としては、例えば10mass%の燐酸や、蟻酸、酢酸、クエン酸などの有機酸や硫酸の水溶液やクロム酸燐酸混合水溶液を用いることができる。1回目のエッチング工程(予備ポーラスアルミナ層69を除去する工程)と、2回目のエッチング工程(ミクロな凹部64p2の開口を拡大する工程)とは、例えば同じエッチング液(同じ種類、同じ濃度、同じ温度のエッチング液)を用いて行うことができる。2回目のエッチング工程によって、稜線64dおよび尖状突起64cの断面形状をより先鋭にする(尖らせる)ことによって、表面積が拡大され、ポーラスアルミナ層64の表面の撥水性が向上され得る。なお、2回目のエッチング工程は省略可能である。
このようにして、ドロップ培養法に用いられる固体表面を有するポーラスアルミナ層64が形成される。
図6Eに示すポーラスアルミナ層64において、凹部64p1の隣接間距離D0、ミクロな凹部64p2の隣接間距離D0および凹部64p1の2次元的な大きさDp1は、例えば10nm以上1000nm以下であり、ミクロな凹部64p2の2次元的な大きさDp2は、例えば5nm以上500nm以下である。ポーラスアルミナ層64は、ポーラス層64a(厚さts)と、バリア層(ミクロな凹部64p2の底部)64b(厚さtb)とを有している。ポーラス層64aは、アルミニウム残存層68rの表面が有する凹部68pが反映された凹部64p1と、アルミニウム残存層68rを陽極酸化することによって形成されるミクロな凹部(細孔)64p2とを有する。ポーラス層64aの厚さtsは、凹部64p1の深さDd1およびミクロな凹部64p2の深さDd2の和に相当する。凹部64p1の深さDd1は、例えば5nm以上500nm以下であり、ミクロな凹部64p2の深さDd2は、例えば50nm以上1000nm以下である。ポーラス層64aの厚さtsは、例えば55nm以上1500nm以下である。なお、陽極酸化工程において形成される陽極酸化皮膜は元のアルミニウムよりも体積が大きいことがあるので、ポーラスアルミナ層64の厚さは、元のアルミニウム層の厚さ(例えば1000nm)よりも大きくなることがある。
アルミニウム残存層68rの陽極酸化およびエッチングを交互に複数回ずつ行ってもよい。陽極酸化工程およびエッチング工程のどちらで終わってもよい。ポーラスアルミナ層を型として用いて反射防止膜を形成する場合は、陽極酸化工程で終わることが好ましい。すなわち、凹部の底部を点にできるので、先端が尖った凸部を形成することができる型が得られるためである。しかしながら、ポーラスアルミナ層をドロップ培養法に用いる場合は、凹部の底部の形状は細胞培養に影響しないので、陽極酸化工程で終わる必要がない。
ポーラスアルミナ層の表面を用いてドロップ培養法を行う前に、ポーラスアルミナ層の表面を滅菌処理することが好ましい。滅菌処理は、ポーラスアルミナ層の表面形状を変形させない処理、すなわち、ポーラスアルミナ層の凹部を封孔しない処理であればよく、例えばUV滅菌、酸化エチレンガス(ethylene oxide gas:EOG)滅菌、γ線滅菌を行うことができる。
なお、ポーラスアルミナ層を用いた細胞培養は知られているが(例えば特許文献10)、本発明の実施形態によるドロップ培養法を行うためには、ポーラスアルミナ層の表面の形状や化学的性質をドロップ培養に好適なように調整する必要がある。例えば、ポーラスアルミナ層の表面が適度な撥水性を有するように、ポーラスアルミナ層の表面に離型処理を行ってもよい。離型処理によって、後に示すように、ポーラスアルミナ層の表面の化学的性質(例えば接触角)を調整することができる。また、離型剤に限られず、表面処理剤をポーラスアルミナ層の表面に付与することによって、ポーラスアルミナ層の表面の化学的性質を調整することができる。
本発明者は、ドロップ培養法によって得られるスフェロイドの組織再現性に寄与する要因の一つとして、細胞の固体表面への接着の程度(強さ)があることを見出した。本発明者の検討によると、細胞種にも依存するが、細胞(細胞の仮足)の固体表面への接着が弱すぎると、得られたスフェロイドの組織再現性が低い傾向が見られた。以下で実験例を示すように、上記のポーラスアルミナ層をドロップ培養法に用いる場合は、ポーラスアルミナ層の離型処理に用いる離型剤の種類やポーラスアルミナ層の表面の撥水性によって、細胞の固体表面への接着性が変化することが認められた。
(実験例2)
ドロップ培養法の固体表面として用いられるポーラスアルミナ層の表面について、細胞が適度な接着性を有するポーラスアルミナ層を検討した結果を説明する。
図6A~図6E、図7Aおよび図7Bを参照しながら説明した方法を用いて、図6Eと同様の構造を有する試料サンプルNo.101~105を作製した。試料サンプルNo.101~105のそれぞれは、ガラス基板62と、ガラス基板62上に形成されたポーラスアルミナ層64とを有する。表13に示すように、試料サンプルNo.101~104は、離型処理に用いた離型剤の種類においてのみ互いに異なり、試料サンプルNo.105は、試料サンプルNo.101~104とは異なる条件でポーラスアルミナ層64を形成した。各試料サンプルを作製するために、ガラス基板(AGC株式会社製、製品名:AN100、無アルカリガラス、厚さ0.7mm)62上にスパッタ法で形成されたアルミニウム膜68(厚さ:1000nm)を用いた。アルミニウム膜は、スパッタ装置(キヤノンアネルバ株式会社製、製品名:C-3500)を用いてガラス基板上に成膜した。株式会社アルバック製のアルミニウムターゲット(純度99.999%)を用いて、電圧500V電流400Aで、非加熱で間欠的に堆積することによってアルミニウム膜を得た。間欠的に堆積するとは、具体的には、ある厚さまで堆積した段階で中断し、ある時間が経過した後に、堆積を再開するという工程を繰り返して、所望の厚さ(例えば1μm)のアルミニウム膜を得ることをいう。非加熱で間欠的に成膜を行うことによって、ガラス基板の表面温度が不必要に上昇することを抑制し、その結果、アルミニウム膜の表面のグレイン(結晶粒)のサイズのばらつきを抑えることができる。
ガラス基板62上にアルミニウム膜68を形成した後の、各試料サンプルの製造工程(すなわち、陽極酸化工程、エッチング工程および離型処理工程)の条件を表13に示す。表13中、1回目の陽極酸化工程は、図6Bに示した予備ポーラスアルミナ層69を形成する工程であり、1回目のエッチング工程は、図6Cに示した、予備ポーラスアルミナ層69を実質的に完全に除去する工程であり、2回目の陽極酸化工程は、アルミニウム残存層68rを陽極酸化することによって、図6Dに示したポーラスアルミナ層64を形成する工程であり、2回目のエッチング工程は、図6Eに示した、ポーラスアルミナ層64をエッチャントに接触させる工程である。各試料サンプルのポーラスアルミナ層64は、アルミニウム残存層68rに対して陽極酸化およびエッチングを1回ずつ行うことによって得た。
表13の「電極間距離」は、陽極酸化工程における、陰極と試料サンプル(陽極)との間の距離を示す。表13の「導線接続」は、試料サンプル(陽極)と陽極酸化処理電源との接続方法であり、アルミニウム膜の表面(すなわち、1回目の陽極酸化工程ではアルミニウム膜68の表面68s、2回目の陽極酸化工程ではアルミニウム残存層68rの表面)と導線との接続の方法を示す。「導線半田付け」とは、陽極酸化処理電源に接続された導線をアルミニウム膜の表面に半田付けにより接続する方法であり、「アルミホイル+クリップ」とは、アルミニウム膜の表面の一部にアルミホイルをクリップで挟んで面接触させ、アルミホイルと陽極酸化処理電源とを接続する方法である。
Figure 0007317331000013
離型剤として、以下のフルオロアルキルシラン(FAS)を用いた。FAS3(3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン)、FAS9(ノナフルオロヘキシルトリメトキシシラン)、FAS13(トリデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロオクチルトリメトキシシラン)およびFAS17(ヘプタデカフルオロ-1,1,2,2-テトラヒドロデシルトリメトキシシラン)を用いた。フルオロアルキルシランは、パーフルオロアルキル基(-(CF-基)を有する。FAS3、FAS9、FAS13およびFAS17の化学式は、CF-(CF-(CHSi(OCHで表される。ここで、FAS3、FAS9、FAS13およびFAS17において、それぞれ、p=0、p=3、p=5およびp=7である。
離型処理は、化学気相蒸着により行った。テフロン(登録商標)製の密閉容器の中に、フルオロアルキルシラン(離型剤)を入れたビーカーとポーラスアルミナ層64を有する試料サンプルとを入れて密閉し、密閉した容器を電気炉中で加熱し、150℃で1時間保持した。このようにして、フルオロアルキルシランを蒸発させ、試料サンプル上(すなわちポーラスアルミナ層64の表面上)にフルオロアルキルシランを化学気相蒸着させた。
離型剤の撥水性を調べるために、平坦な表面上に各離型剤を付与し、離型剤が付与された表面の撥水性および撥油性を調べた。結果を表14に示す。平坦な表面として、表13に示した試料サンプルNo.101~104の陽極酸化[1回目]までの処理条件と同一の処理を行うことによって得たポーラスアルミナ層の表面を用いた。すなわち、ここで用いたポーラスアルミナ層は、図6Bに示した予備ポーラスアルミナ層69と同様の構造を有する。予備ポーラスアルミナ層69の表面は複数の凹部69pを有するが、複数の凹部69pの2次元的な大きさD69pは、凹部69pの隣接間距離D0よりも小さく(D69p=約10nm、D0=約200nm)、かつ、予備ポーラスアルミナ層69の表面は、凹部69pと凹部69pの間に平坦部を有する。このように、予備ポーラスアルミナ層69の表面は、ポーラスアルミナ層64の表面よりも平坦性が高く、接触角の測定においてはほぼ平坦な表面とみなすことができる。接触角の測定は、一般的な、θ/2法(half-angle Method:(θ/2=arctan(h/r)、θ:接触角、r:液滴の半径、h:液滴の高さ))で行った。接触角の測定に用いた純水およびヘキサデカンの液量は1μLとした。また、滑落角の測定には、純水20μLの液滴を用いた。滑落角とは、液滴が付着した表面を水平方向から傾斜させ、液滴が下方に滑り始めた傾斜角をいう。
表14から分かるように、離型剤が付与された平坦な表面の水に対する接触角およびヘキサデカンに対する接触角は、ともに、FAS17が最も大きく、FAS13、FAS9、FAS3の順に小さくなる。すなわち、離型剤FAS3が付与された表面の撥水性および撥油性が最も低く、離型剤FAS17が付与された表面の撥水性および撥油性が最も高い。
Figure 0007317331000014
図8A~図8Eは、試料サンプルNo.101~105(離型処理後)のSEM像をそれぞれ示す。図8A~図8Eのそれぞれについて、左上および右上は、ポーラスアルミナ層の表面SEM像(50000倍)であり、左上は表面の法線方向から観察した表面SEM像であり、右上は表面の法線方向から45°傾いた角度から観察した表面SEM像である。左下および右下は、それぞれの試料サンプルの断面SEM像であり、右下は断面に垂直な方向から観察した断面SEM像(30000倍)であり、左下は断面に垂直な方向から45°傾いた角度から観察した断面SEM像(20000倍)である。
表15に、各試料サンプルのポーラスアルミナ層64の表面構造をSEM像から求めた結果を示す。面積あたりのミクロな凹部64p2の数は、表面SEM像を用いて画像処理によりカウントした。ミクロな凹部64p2の平均ピッチは孔数から算出した。ポーラス層64aの厚さtsは、断面SEM像から求めた。なお、ポーラスアルミナ層64の厚さは、元のアルミニウム層の厚さの1.5倍程度にまで膨張し得るので、ポーラス層64aの厚さtsがアルミニウム層の厚さ(ここでは1000nm)よりも大きい場合がある。
表15には、各試料サンプルのポーラスアルミナ層64の表面(ドロップ培養法における固体表面)を特徴付けるパラメータとして、実験例1と同様の方法で接触角および滑落角を測定した結果もあわせて示す。ここでは、純水またはヘキサデカンを用いた接触角の測定には、それぞれの1μLの液滴を用い、滑落角の測定には20μLの純水の液滴を用い、滑落角は着滴から60秒後の値で評価した。接触角は、表14に示した平坦な表面の評価結果と同様の傾向が見られ、離型剤FAS3が付与された表面の撥水性および撥油性が最も低く、離型剤FAS17が付与された表面の撥水性および撥油性が最も高かった。
表15には、各試料サンプルのポーラスアルミナ層64の波長550nmにおける透過率を測定した結果も示す。紫外可視近赤外分光光度計V7100(日本分光株式会社製)を用いて波長550nmの透過率を測定した。波長550nmにおけるポーラスアルミナ層64の透過率は、試料サンプルNo.101~104ではいずれも50%程度だった。表14に示したように、試料サンプルNo.101~104は、同じ陽極酸化工程およびエッチング工程を用いて作製されたものである。ポーラスアルミナ層の透過率は離型剤の種類によってほとんど変化しないことが分かる。波長550nmにおけるポーラスアルミナ層の透過率は、例えば40%以上であることが好ましい。
Figure 0007317331000015
表16および図9に、試料サンプルNo.101~104の表面を用いたドロップ培養法によって細胞を培養した結果を示す。図9は、ドロップ培養法で得られたスフェロイドの光学顕微鏡像(左上:試料サンプルNo.101、右上:試料サンプルNo.102、左下:試料サンプルNo.103、右下:試料サンプルNo.104)である。
ドロップ培養法は、実験例1と同様の条件(HepG2細胞、1×10細胞/mL、培地の液滴の体積25μL)で行った。
表16の「スフェロイド大きさ」は、スフェロイド(細胞集塊)を上から見たときの面積円相当径のうち最も大きいものを、+/++/+++の3段階で評価した。+:面積円相当径が70μm未満、++:面積円相当径が70μm以上200μm未満、+++:面積円相当径が200μm以上とした。
表16の「スフェロイド高さ」は、スフェロイド(細胞集塊)の高さを、上から見たときの黒さ(色の濃さ)の程度によって評価した。上から見たときに黒いほど(色が濃いほど)、高さは大きいと評価した。+/++/+++の3段階で評価した。
表16の「スフェロイド均一性」は、スフェロイド(細胞集塊)の、上から見たときの面積のばらつきを、+/++/+++の3段階で評価した。
表16の「孤立細胞数量」は、孤立細胞の数を、+/++/+++の3段階で評価した。ここで、複数の細胞が集まって(結合して)構成されるスフェロイド(細胞集塊)に対し、細胞同士が集まらず(結合せず)、ばらばらに存在している細胞を孤立細胞と定義した。+:孤立細胞数100個以上、++:孤立細胞数30個以上100個未満、+++:孤立細胞数30個未満とした。図9の左上および右上の光学顕微鏡像中に、スフェロイド(細胞集塊)の例を実線丸印で示し、孤立細胞の例を点線丸印で示している。
表16の「仮足成長」は、スフェロイド(細胞集塊)から延びる繊維状の仮足の長さを+/++/+++の3段階で評価した。×は、仮足が観察されなかったことを示す。
表16の「固体表面の細胞に対する接着性」は、細胞の固体表面への接着の程度(強さ)を、以下のように評価した結果である。培地交換時毎(24時間毎)に意図的に培養容器に振動を加えた(培養容器を揺らした)。3日間培養した後、細胞の培養容器に対する接着の程度および細胞の仮足の有無を目視で観察した。固体表面(培養容器)への細胞の接着の程度を以下の基準で評価し、固体表面が有する細胞に対する接着性の程度として表した。
×:仮足は観察されず、かつ、培養容器に振動を与えた状態を観察した際、細胞の移動が見られた。すなわち、振動による培地(液滴)の揺れによって細胞が固体表面から離れて移動した。
△:一部仮足は観察されるが、培養容器に振動を与えた状態を観察した際、細胞の移動が見られた。
〇:仮足は観察されるが、培養容器に振動を与えた状態を観察した際、細胞の移動が見られた。ただし、強制的に振動を与えず、容器を軽く動かしただけでは細胞は移動しなかった。
◎:仮足は観察され、かつ、培養容器に振動を与えた状態を観察した際、細胞の移動が見られなかった。
離型剤FAS3を用いた試料サンプルNo.101においては、細胞の仮足が成長していることが認められ、かつ、細胞の仮足が固体表面に対して適度な強さで接着されていることが認められた。これに対して、離型剤FAS9、FAS13およびFAS17がそれぞれ用いられた試料サンプルNo.102~104においては、細胞仮足が成長しておらず、かつ、細胞の仮足が固体表面に対して適度な強さで接着されていなかった。試料サンプルNo.102~104の表面の撥水性が高すぎることに起因して、細胞の固体表面に対する接着性が弱いと考えられる。試料サンプルNo.101で得られたスフェロイドの大きさの均一性は、試料サンプルNo.102~104に比べて高かった。スフェロイドの大きさの均一性の観点からは、フッ素系離型剤として、例えば、パーフルオロアルキル基(-(CF-基、pは0以上2以下の整数)を有するフッ素化合物を含むフッ素系離型剤を用いることが好ましいことが分かる。このようなフッ素系離型剤を用いることによって、固体表面が適度な撥水性および撥油性を有することができる。固体表面の水に対する接触角は、例えば108°以上128°以下である。固体表面のヘキサデカンに対する接触角は、例えば57°以上85°以下である。
試料サンプルNo.102~104では、得られたスフェロイドの大きさの均一性は試料サンプルNo.101よりも低いものの、より大きいスフェロイドが得られる傾向にあった。なお、用途によっては均一な大きさのスフェロイドが得られることが好ましい場合もあるし、スフェロイドが大きいほど好ましい場合(例えば非接着型細胞(造血細胞))もある。スフェロイドの用途によって、ドロップ培養法に用いられる固体表面を選択し、固体表面の化学的性質(例えば接触角)を調整すればよい。
Figure 0007317331000016
上述したように、本発明の実施形態によると、従来の三次元培養法よりも、作業性または量産性に優れた、および/または、組織再現性の高いスフェロイドを得ることができる三次元培養法が提供される。
実施例で例示したモスアイ構造を有する表面を備える合成高分子膜の様に、高さが10nm以上1mm以下の複数の凸部を有する固体表面を備える三次元培養構造体は、ドロップ培養法に好適に用いられる。そのような三次元培養構造体は、例えば、シャーレの内側底面に、上記の合成高分子膜を貼り付けることによって得られる。すなわち、三次元培養構造体は、例えばシャーレ等の容器として提供され得る。
また、そのような三次元培養構造(例えば容器)を用いてドロップ培養を行うことによって、従来よりも組織再現性の高いスフェロイドを表面に有する三次元培養構造(例えば容器)を製造することができる。このようなスフェロイドを表面に有する三次元培養構造は、創薬や再生医療の研究開発に好適に用いられる。
本発明の実施形態による三次元細胞培養法は、創薬や再生医療等に広く用いられ得る。
10S 固体表面
10Sp 凸部
12C 細胞
14M 培地
16D 液滴

Claims (16)

  1. 細胞と培地とを含む細胞懸濁液を用意する工程と、
    複数の第1凹部を有するポーラスアルミナ層の表面を含む固体表面を用意する工程と、
    前記ポーラスアルミナ層の前記表面上に、前記細胞懸濁液の液滴を付着させる工程と、
    前記液滴に作用する重力の方向が前記ポーラスアルミナ層の前記表面に向かう状態で、前記細胞を前記液滴中で培養する工程と
    を包含する、三次元培養法。
  2. 前記ポーラスアルミナ層の前記表面は、前記複数の第1凹部と、隣接する前記複数の第1凹部の側面が交わることにより形成された第1稜線と、それぞれが前記複数の第1凹部のいずれかの中に形成された複数のミクロな凹部とを有する、請求項1に記載の三次元培養法。
  3. 前記ポーラスアルミナ層を形成する工程は、
    透明基材上のアルミニウム膜を部分的に陽極酸化することによって、予備ポーラスアルミナ層を形成する工程(a)と、
    前記工程(a)の後に、前記予備ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、前記予備ポーラスアルミナ層を実質的に完全に除去する工程(b)と、
    前記工程(b)の後に、前記アルミニウム膜のうち陽極酸化されずに残ったアルミニウム残存層を陽極酸化する工程(c)と
    を包含し、
    前記アルミニウム残存層の表面は、複数の第2凹部と、隣接する前記複数の第2凹部の側面が交わることにより形成された第2稜線とを有し、
    前記複数の第1凹部は、前記複数の第2凹部が反映されたものであり、前記第1稜線は、前記第2稜線が反映されたものであり、
    前記工程(c)は、前記アルミニウム残存層を陽極酸化することによって、前記複数のミクロな凹部を形成する工程を包含する、請求項2に記載の三次元培養法。
  4. 前記工程(c)で行われる陽極酸化工程は、前記工程(a)で行われる陽極酸化工程と同じ電解液を用いて行われる、請求項3に記載の三次元培養法。
  5. 前記ポーラスアルミナ層を形成する工程は、
    前記工程(c)の後に、前記ポーラスアルミナ層をエッチング液に接触させることによって、前記複数のミクロな凹部を拡大させる工程(d)をさらに包含する、請求項3または4に記載の三次元培養法。
  6. 前記工程(d)で用いられるエッチング液は、前記工程(b)で用いられるエッチング液と同じである、請求項5に記載の三次元培養法。
  7. 前記工程(c)は、前記残ったアルミニウム膜を実質的に完全に陽極酸化する工程を包含する、請求項3から6のいずれかに記載の三次元培養法。
  8. 波長550nmにおける前記ポーラスアルミナ層の透過率は、40%以上である、請求項1から7のいずれかに記載の三次元培養法。
  9. 前記ポーラスアルミナ層の前記表面は、フッ素系離型剤で離型処理されている、請求項1から8のいずれかに記載の三次元培養法。
  10. 前記フッ素系離型剤は、パーフルオロアルキル基を有するフッ素化合物を含む、請求項9に記載の三次元培養法。
  11. 前記フッ素系離型剤は、パーフルオロアルキル基(-(CF-基、pは0以上2以下の整数)を有するフッ素化合物を含む、請求項9に記載の三次元培養法。
  12. 前記ポーラスアルミナ層の前記表面の水に対する接触角が108°以上127°未満である、請求項1から11のいずれかに記載の三次元培養法。
  13. 前記ポーラスアルミナ層の前記表面のヘキサデカンに対する接触角が57°以上85°以下である、請求項1から12のいずれかに記載の三次元培養法。
  14. 前記細胞を前記液滴中で培養している間、前記細胞は、前記ポーラスアルミナ層の前記表面に接着されている、請求項1から13のいずれかに記載の三次元培養法。
  15. 請求項1から14のいずれかに記載の三次元培養法に用いられる固体表面を有する、三次元培養構造体。
  16. 前記固体表面を有する三次元培養構造体を用意し、請求項1から14のいずれかに記載の三次元培養法を用いて培養されたスフェロイドを前記固体表面に有する三次元培養構造体を製造する方法。
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