JP7311067B1 - 鋼板および部材、ならびに、それらの製造方法 - Google Patents

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Abstract

TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現した鋼板を、提供する。所定の成分組成とし、マルテンサイトおよびベイナイトを主体とする複合組織とし、マルテンサイトおよびベイナイトの粒内に存在する炭化物を5%以上25%以下とし、かつ、炭化物の分散間隔について式(1)を満足させる。

Description

本発明は、鋼板および部材、ならびに、それらの製造方法に関する。
近年、自動車の車体軽量化ニーズの更なる高まりから、車体骨格部品への高強度鋼板の適用が進みつつある。
このような高強度鋼板として、例えば、特許文献1には、
「質量%で、
C:0.15~0.30%、
Si:1.0~3.0%、
Mn:0.1~5.0%、
P:0.1%以下(0%を含む)、
S:0.010%以下(0%を含む)、
N:0.01%以下、
Al:0.001~0.10%、
を含み、残部が鉄および不可避的不純物からなる成分組成を有し、
マルテンサイトが面積率で95%以上含有される一方、残留オーステナイト、フェライトが、面積率の合計で5%未満(0%を含む)であり、
更に炭化物の平均サイズが円相当径で60nm以下であるとともに、円相当径で25nm以上の炭化物の数密度が1mmあたり0個である
ことを特徴とする、降伏強度が1180MPa以上、引張強度が1470MPa以上の曲げ性に優れた高強度冷延鋼板。」
が開示されている。
特許文献2には、
「質量%で、
C:0.15~0.35%、
Si:0.5~3.0%、
Mn:0.5~1.5%、
Al:0.001~0.10%
をそれぞれ含み、
残部が鉄および不可避的不純物からなり、
前記不可避的不純物のうち、P、S、Nが、
P:0.1%以下、
S:0.01%以下、
N:0.01%以下
にそれぞれ制限される成分組成を有し、
全組織に対する面積率で、
マルテンサイト:90%以上、
残留オーステナイト:0.5%以上
からなる組織を有し、
局所のMn濃度が、鋼板全体のMn含有量の1.2倍以上となる領域が、面積率で1%以上存在し、
引張強度が1470MPa以上、降伏比が0.75以上で、かつ全伸びが10%以上である
ことを特徴とする、降伏比と加工性に優れた超高強度鋼板。」
が開示されている。
特許第6017341号 特開2016-148098号公報
ところで、車体骨格部品への高強度鋼板の適用に際し、従来は、鋼板を加熱してプレスする、いわゆる熱間プレス成形での高強度鋼板の適用が精力的に検討されてきた。しかしながら、最近では、コストや生産性の観点から、改めて冷間プレス成形(以下、冷間プレスともいう)での高強度鋼板の適用が検討されつつある。
高強度鋼板、特に、引張強さ(以下、TSともいう):1310MPa以上の鋼板の組織設計においては、(フェライトやパーライトなど比較して高い強度が得られやすい)マルテンサイトやベイナイトを主体とする組織とすることが有効であると考えられる。しかしながら、マルテンサイトやベイナイトを主体とする組織を有する高強度鋼板は、フェライトやパーライト等の軟質な組織を含有する複合組織鋼板よりも、延性が乏しい。
また、張出し成形等により比較的複雑な形状の部品を成形するには、曲げ性のような局部延性だけでなく、均一変形時の延性も必要である。しかし、上記の高強度鋼板では、均一変形時の延性も乏しい。そのため、マルテンサイトやベイナイトを主体とする組織を有する高強度鋼板の冷間プレスへの適用は、曲げ成形主体で成形されるドアビームやバンパー等、比較的単純形状の部品に留まっているのが現状である。
実際、特許文献1および2に開示の高強度鋼板は、いずれも十分な成形性を有しているとは言えず、複雑形状の部品への冷間プレスへの適用は進んでいないのが現状である。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであって、TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現した鋼板を、その有利な製造方法とともに、提供することを目的とする。
また、本発明は、上記の鋼板を素材とする部材、および、その製造方法を提供することを目的とする。
さて、発明者らは、上記の目的を達成すべく、鋭意検討を重ねたところ、以下の知見を得た。
i)マルテンサイトやベイナイトを主体とする組織を有する鋼板は、一般的に、引張強さに対する降伏強さの比である降伏比が高いため、加工硬化指数であるn値が低位である。発明者らが実際のプレス成形試験において成形性(プレス成形性)と鋼板特性の関係を調査した結果、n値が低い鋼板ほど局所的にひずみが集中しやすくなり、引張試験で評価される伸びが同等であっても、成形性が劣位であることを見出した。
ii)n値を向上させる手法に関して、従来のDP鋼等においては、硬質相の硬さや分率の制御指針がある程度明らかになっている。しかし、マルテンサイトやベイナイトを主体とする組織を有する鋼板の加工硬化特性についてはこれまで着目されていなかった。発明者らは、この点について鋭意検討した。特に、発明者らは、マルテンサイトやベイナイトを主体とする組織を有する鋼板の加工硬化特性を向上させる手法として、粒内の転位運動を阻害する炭化物の形態や分散状態を制御することに着目して、検討を重ねた。
iii)その結果、発明者らは、炭化物の分散間隔を所定の範囲内に制御することによって、成形性が向上するのではないかと考えた。実際、炭化物の分散間隔が狭い、つまり炭化物が微細であるほど、加工硬化特性が向上し、成形性も良好な結果となった。しかしながら、炭化物が過度に微細な場合、転位の運動も過度に抑制されて塑性変形が生じにくくなり、成形性が劣化した。
iv)ここで、炭化物の分散間隔を定量化する方法としては、個数密度等が挙げられる。発明者らは、炭化物の個数密度と成形性との相関性を検討したが、これらの相関性は低かった。この理由は必ずしも明らかではないが、発明者らは、転位の運動に加えて炭化物のサイズによる効果もあり、個数密度ではこの点が十分に反映されていないためと考えている。また、発明者らは、炭化物の平均サイズと面積率から計算される炭化物の分散間隔(以下、計算分散間隔ともいう)と成形性との相関性についても検討した。しかし、これらの相関性も低かった。これは、実際の組織では、炭化物のサイズが不均一なために、計算分散間隔が実際の炭化物の分散間隔よりも過少になるためと、発明者らは考えている。さらに、炭化物の平均サイズから計算される炭化物の分散間隔と成形性との相関性も十分ではなかった。
v)そこで、発明者らは、成形性の向上には、炭化物の分散間隔だけでなく、炭化物の不均一性も寄与しているのではないかと考え、さらに検討を重ねた。その結果、
・次式(1)の中央値により、実際の組織での炭化物の不均一性を加味しつつ、炭化物の分散間隔が評価できること、
・次式(1)の中央値と成形性との相関性が高いこと、および、
・次式(1)の中央値を20~80nmの範囲に制御することによって、TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現することが可能となること、
を知見した。
Figure 0007311067000001
ここで、
π:円周率、
f:前記炭化物の面積率[%]、
:前記炭化物の円相当径の平均値[nm]、
:前記炭化物の円相当径の2乗の平均値[nm]、および、
:前記炭化物の円相当径の3乗の平均値[nm]、
である。
vi)また、上記の組織を得る、特に上掲式(1)の中央値を20~80nmの範囲に制御するには、製造条件、特に、焼戻し工程を2区間に分け、それぞれの区間において、滞留時間と中間温度から算出される焼戻しパラメーターを個別かつ適切に制御することが重要である。なお、発明者らは、各区間の滞留時間と中間温度から算出される焼戻しパラメーターを個別かつ適切に制御することで焼戻し条件が途中で変化し、これによって、炭化物の不均一性が生じるものと考えている。
本発明は、上記の知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.質量%で、
C:0.12%以上0.40%以下、
Si:1.50%以下、
Mn:0.20%以上3.50%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
sol.Al:1.00%以下および
N:0.010%以下
であり、残部がFeおよび不可避的不純物である、成分組成を有し、
マルテンサイトおよびベイナイトの合計の面積率が95%以上100%以下であり、
前記マルテンサイトおよび前記ベイナイトの粒内に存在する炭化物の面積率が5%以上25%以下であり、
KAM値(Kernel Average Misorientation値)が1°以下である領域の面積率が70%以上であり、かつ、
前記炭化物の分散間隔について次式(1)を満足し、
引張強さが1310MPa以上である、鋼板。
Figure 0007311067000002
ここで、
π:円周率、
f:前記炭化物の面積率[%]、
:前記炭化物の円相当径の平均値[nm]、
:前記炭化物の円相当径の2乗の平均値[nm]、および、
:前記炭化物の円相当径の3乗の平均値[nm]、
である。
2.前記成分組成が、さらに、質量%で、以下のA群およびB群のうちの少なくとも一方を含有する、前記1に記載の鋼板。
(A群)
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
Cr:1.00%以下、
Zr:0.100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Ti:0.100%以下、
Nb:0.100%以下、
B:0.0100%以下、
V:0.200%以下、
W:0.200%以下、
Sb:0.100%以下、
Sn:0.100%以下および
Mg:0.0100%以下
のうちから選択される一種または二種以上
(B群)
Se、As、Pb、Bi、Zn、Cs、Rb、Co、La、Tl、Nd、Y、In、Be、Hf、Tc、Ta、O、La、CeおよびPrうちから選択される一種または二種以上:合計で0.02%以下
3.表面にめっき層を有する、前記1または2に記載の鋼板。
4.前記1~3のいずれかに記載の鋼板を用いてなる、部材。
5.前記1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブに圧延を施して鋼板とする、圧延工程と、
前記鋼板を、焼鈍温度:A点以上、および、焼鈍時間:30秒以上として焼鈍する、焼鈍工程と、
ついで、前記鋼板を、前記焼鈍温度~第2冷却開始温度の温度域での平均冷却速度:10℃/秒以下として冷却する、第1冷却工程と、
前記鋼板を、前記第2冷却開始温度:680℃以上、前記第2冷却開始温度~50℃の温度域での平均冷却速度:30℃/秒以上として、50℃以下の冷却停止温度まで冷却する、第2冷却工程と、
前記鋼板を、次式(2)、(3)および(4)満足する条件で焼戻す、焼戻し工程と、
前記鋼板に、伸び率:0.1%以上0.4%以下として加工を施す、形状矯正工程と、
を有する、鋼板の製造方法。
λ1≦5000・・・(2)
λ2≧3100・・・(3)
λ2≦0.88×λ1+400・・・(4)
ここで、
λ1:焼戻し工程の第1区間の焼戻しパラメーター、および
λ2:焼戻し工程の第2区間の焼戻しパラメーター、
であり、それぞれ次式(5)および(6)式により定義される。
λ1=T1×(logt1+20)・・・(5)
λ2=T2×(logt2+20)・・・(6)
また、
t1:焼戻し工程の第1区間の滞留時間[s]、
T1:焼戻し工程の第1区間の中間温度[℃]、
t2:焼戻し工程の第2区間の滞留時間[s]、および
T2:焼戻し工程の第2区間の中間温度[℃]、
である。
焼戻し工程の第1区間および第2区間とは、焼戻し工程において100℃以上の温度域にある時間域を2等分し、前半を焼戻し工程の第1区間、後半を焼戻し工程の第2区間としたものである。
6.前記焼戻し工程後でかつ、前記形状矯正工程の前に、前記鋼板にめっき処理を行う、めっき処理工程を、さらに有する、前記5に記載の鋼板の製造方法。
7.前記1~3のいずれかに記載の鋼板に、成形加工および接合加工の少なくとも一方を施して部材とする、工程を有する、部材の製造方法。
本発明によれば、TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現した鋼板が得られる。また、本発明の鋼板は、上記の特性により、より複雑な形状を有する部品に対しても冷間プレスでの適用が可能となるので、コストや生産性の点でより有利に、部品強度の向上および軽量化に貢献することができる。特に、本発明の鋼板は、自動車や家電製品等に冷間プレスを経て供される冷間プレス用鋼板として、好適である。
90度V曲げによる曲げ稜線と直交する鋼板の板厚断面のSEM写真の一例である。
本発明を、以下の実施形態に基づき説明する。
[1]鋼板
まず、本発明の一実施形態に従う鋼板の成分組成について説明する。なお、成分組成における単位はいずれも「質量%」であるが、以下、特に断らない限り、単に「%」で示す。
C:0.12%以上0.40%以下
Cはマルテンサイトやベイナイトの強度を上昇させ、TS:1310MPa以上の強度を確保する観点から含有させる。C含有量が0.12%未満では、所定の強度を安定して得ることが困難となる。したがって、C含有量は0.12%以上とする。TS:1470MPa以上を得る観点からは、C含有量は0.18%以上が好ましい。TS:1700MPa以上を得る観点からは、C含有量は、より好ましくは0.24%以上である。一方、C含有量が0.40%を超えると、強度が高くなり過ぎて優れた成形性を確保することが困難となる。したがって、C含有量は0.40%以下とする。C含有量は、好ましくは0.36%以下、より好ましくは0.32%以下である。
Si:1.50%以下
Siは、固溶強化による強化元素として添加することができる。Si含有量の下限は特に限定されず、0%であってもよい。ただし、上記効果を得る観点から、Si含有量は0.02%以上が好ましい。Si含有量は、より好ましくは0.10%以上である。一方、Siの含有量が1.50%を超えると、その効果が飽和する。また、熱間圧延時の変形抵抗が増加するため望ましくない。したがって、Si含有量は1.50%以下とする。Si含有量は、好ましくは1.20%以下、より好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.80%以下である。
Mn:0.20%以上3.50%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、マルテンサイトを確保するために含有させる。ここで、Mn含有量は、工業的に安定してマルテンサイトを確保する観点から、0.20%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.80%以上である。一方、Mnを過剰に含有させると、粗大なMnSやMn偏析の形成を通じて成形性を劣化させるおそれがある。そのため、Mn含有量は3.50%以下とする。Mn含有量は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.50%以下、さらに好ましくは2.00%以下である。
P:0.050%以下
Pは、鋼を強化する元素であるが、その含有量が多いと、スポット溶接性が劣化する。また、Pの偏析により、成形性が劣化する。そのため、P含有量は0.050%以下とする。上記の観点から、P含有量は、好ましくは0.020%以下である。なお、P含有量の下限は特に限定されない。ただし、P含有量を0.002%未満に低減するには多大なコストを要する。そのため、コストの観点からは、P含有量は0.002%以上が好ましい。
S:0.0100%以下
Sは、粗大なMnSの形成を通じて成形性を劣化させる。そのため、S含有量は0.0100%以下とする。上記の観点から、S含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0020%以下である。なお、S含有量の下限は特に限定されない。ただし、S含有量を0.0002%未満に低減するには多大なコストを要する。そのため、コストの観点からは、S含有量は0.0002%以上が好ましい。
sol.Al:1.00%以下
Alは、十分な脱酸を行い、鋼中介在物を低減するために含有させることができる。sol.Al含有量の下限は特に限定されず0%であってもよい。ただし、安定して脱酸を行う観点からは、sol.Al含有量は0.005%以上が好ましく、0.01%以上がより好ましい。一方、sol.Al含有量が1.00%を超えると、Al系の粗大介在物が多量に生成し、成形性が劣化する。したがって、sol.Al含有量は1.00%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.80%以下、より好ましくは0.50%以下である。
N:0.010%以下
Nは、粗大な窒化物を形成し、成形性を劣化させる。したがって、Nは0.010%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0080%以下である。N含有量の下限は特に限定されず0%であってもよい。ただし、工業的に実施する観点からは、N含有量は0.0005%以上が好ましい。
以上、本発明の一実施形態に従う鋼板の基本成分について説明したが、本発明の一実施形態に従う鋼板は、上記基本成分を含有し、上記基本成分以外の残部はFe(鉄)および不可避的不純物を含む成分組成を有する。ここで、本発明の一実施形態に従う鋼板は、上記基本成分を含有し、残部はFeおよび不可避的不純物からなる成分組成を有することが好ましい。本発明の一実施形態に従う鋼板には、上記基本成分に加え、以下に示す任意添加成分のうちから選択される一種または二種以上を含有させてもよい。なお、以下に示す任意添加成分は、以下に示す上限値以下で含有していれば、本発明の効果が得られるため、下限値は特に設けなくてもよい。また、以下に示す各任意添加成分が後述する好適な下限値未満で含有される場合、当該成分は不可避的不純物として含まれるものとすることもできる。
Cu:1.00%以下、
Ni:1.00%以下、
Mo:0.50%以下、
Cr:1.00%以下、
Zr:0.100%以下、
Ca:0.0100%以下、
Ti:0.100%以下、
Nb:0.100%以下、
B:0.0100%以下、
V:0.200%以下、
W:0.200%以下、
Sb:0.100%以下、
Sn:0.100%以下および
Mg:0.0100%以下
Cu:1.00%以下
Cuは、耐食性を向上させる元素である。また、Cuは、腐食生成物により鋼板表面を被覆して鋼板への水素侵入を抑制し、耐遅れ破壊特性を向上させる効果も有する。上記の観点から、Cu含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.01%以上である。特に、耐遅れ破壊特性の向上の観点からは、Cu含有量は0.05%以上がさらに好ましい。しかしながら、Cu含有量が多くなりすぎると表面欠陥の原因となる。したがって、Cuを含有させる場合、その含有量は1.00%以下が好ましい。
Ni:1.00%以下
Niも、耐食性を向上させる元素である。上記の観点から、Ni含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.01%以上である。しかしながら、Ni含有量が多くなりすぎると、加熱炉内でのスケール生成が不均一になり、表面欠陥の原因になる。また、コスト増にもなる。したがって、Niを含有させる場合、その含有量は1.00%以下が好ましい。
Mo:0.50%以下
Moは、鋼の焼入れ性を向上させ、所定の強度を安定的に確保する効果を得る目的で含有させることができる。上記の効果を得る観点から、Mo含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上、さらに好ましくは0.005%以上である。しかしながら、Mo含有量が0.50%を超えると、化成処理性の劣化を招く。したがって、Moを含有させる場合、その含有量は0.50%以下が好ましい。
Cr:1.00%以下
Crは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を得る目的で含有させることができる。上記の効果を得る観点から、Cr含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上である。しかしながら、Cr含有量が1.00%を超えると、化成処理性の劣化を招く。したがって、Crを含有させる場合、その含有量は1.00%以下が好ましい。なお、化成処理性の劣化を防止する観点からは、Cr含有量は0.20%以下がより好ましい。
Zr:0.100%以下
Zrは、旧γ粒径の微細化やそれによるマルテンサイトの内部構造の微細化を通じて高強度化に寄与する。このような観点から、Zr含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上である。しかしながら、Zrを過剰に含有させると、Zr系の粗大な析出物が増加し、耐遅れ破壊特性の劣化を招く。したがって、Zrを含有させる場合、その含有量は0.100%以下が好ましい。
Ca:0.0100%以下
Caは、SをCaSとして固定し、耐遅れ破壊特性を改善する効果を有する。このような効果を得る観点から、Ca含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.0001%以上である。しかしながら、Caを過剰に含有させると、表面品質が劣化する。したがって、Caを含有させる場合、その含有量は0.0100%以下が好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0050%以下である。
Ti:0.100%以下
Tiは、BNの形成に先んじてTiNを形成する。これにより、固溶Bが確保され、焼入れ性の安定化効果が得られる。このような効果を得る観点から、Ti含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.002%以上である。一方、Tiを過剰に含有させると、粗大なTiNやTiC等の介在物が多量に生成し、耐遅れ破壊特性を劣化させる。したがって、Ti含有量は0.100%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.055%以下である。
Nb:0.100%以下
Nbは、旧γ粒径の微細化やそれによるマルテンサイトの内部構造の微細化を通じて高強度化に寄与する。このような観点から、Nb含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.002%以上である。しかしながら、Nbを過剰に含有させると、Nb系の粗大な析出物が増加し、耐遅れ破壊特性の劣化を招く。したがって、Nbを含有させる場合、その含有量は0.100%以下が好ましい。
B:0.0100%以下
Bは、鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、少ないMn含有量でもマルテンサイトの生成量を増加させる利点を有する。このような効果を得る観点から、B含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.0002%以上、さらに好ましく0.0005%以上とする。一方、B含有量が0.0100%を超えると、その効果が飽和する。したがって、B含有量は0.0100%以下とする。
V:0.200%以下
Vは、鋼の焼入れ性を向上させる効果、および、マルテンサイトの微細化による高強度化の効果を得る目的で含有させることができる。このような効果を得る観点から、V含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上である。しかしながら、V含有量が0.200%を超えると、鋳造性の劣化を招く。したがって、Vを含有させる場合、その含有量は0.200%以下が好ましい。
W:0.200%以下
Wは、微細なW系炭化物・炭窒化物の形成を通じて、高強度化に寄与する。このような観点から、W含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上である。しかしながら、Wを過剰に含有させると、熱間圧延工程のスラブ加熱時に未固溶で残存する粗大な析出物が増加し、耐遅れ破壊特性の劣化を招く。したがって、Wを含有させる場合、その含有量は0.200%以下が好ましい。
Sb:0.100%以下
Sbは、鋼板の表層での酸化や窒化を抑制し、これにより、CやBの低減を抑制する。CやBの低減が抑制されることによって、鋼板の表層でのフェライト生成が抑制され、高強度化に寄与する。このような観点から、Sb含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上である。しかしながら、Sb含有量が0.100%を超えると、鋳造性が劣化する。また、旧γ粒界にSbが偏析して耐遅れ破壊特性の劣化を招く。したがって、Sbを含有させる場合、その含有量は0.100%以下が好ましい。
Sn:0.100%以下
Snは、鋼板の表層での酸化や窒化を抑制し、これにより、CやBの低減を抑制する。CやBの低減が抑制されることによって、鋼板の表層でのフェライト生成が抑制され、高強度化、さらには耐遅れ破壊特性の改善に寄与する。このような観点から、Sn含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.001%以上である。しかしながら、Sn含有量が0.100%を超えると、鋳造性が劣化する。また、旧γ粒界にSnが偏析して耐遅れ破壊特性の劣化を招く。したがって、Snを含有させる場合、その含有量は0.100%以下が好ましい。
Mg:0.0100%以下
Mgは、MgOとしてOを固定し、耐遅れ破壊特性を改善する。このような観点から、Mg含有量は好ましくは0%超え、より好ましくは0.0001%以上である。しかしながら、Mgを過剰に含有させると、表面品質や耐遅れ破壊特性の劣化を招く。したがって、Mgを含有させる場合、その含有量は0.0100%以下が好ましい。
なお、上記以外の元素としては、例えば、Se、As、Pb、Bi、Zn、Cs、Rb、Co、La、Tl、Nd、Y、In、Be、Hf、Tc、Ta、O、La、CeおよびPr等が挙げられ、これらの元素のうちから選択される一種または二種以上の合計の含有量は0.02%以下であれば許容できる。これらの元素の含有量はいずれも0%であってよいことは言うまでもない。
上記以外の元素は、Feおよび不可避的不純物である。
つぎに、本発明の一実施形態に従う鋼板の組織について説明する。
本発明の一実施形態に従う鋼板の組織は、
マルテンサイトおよびベイナイトの合計の面積率が95%以上100%以下であり、
前記マルテンサイトおよび前記ベイナイトの粒内に存在する炭化物の面積率が5%以上25%以下であり、
KAM値(Kernel Average Misorientation値)が1°以下である領域の面積率が70%以上であり、かつ、
前記炭化物の分散間隔について上掲式(1)を満足する、組織である。
以下、それぞれの限定理由について説明する。なお、面積率は、組織全体に対する面積率である。
マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率:95%以上100%以下
所定の強度を得るために、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を95%以上とする。マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が95%未満になると、残部組織であるフェライト、残留オーステナイトおよびパーライトが増加し、所定の強度を得ることが難しくなる。なお、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が95%未満の組織構成で所定の強度を確保する方法としては、例えば、焼戻し温度の低温化やC量を増加させる方法がある。しかしながら、焼戻し温度の低温化の場合、靭性が低下して成形性が劣化する。また、C量を増加させる方法では、溶接性を劣化させるおそれがある。したがって、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率は95%以上とする。なお、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。
残部の面積率:5%以下
マルテンサイトおよびベイナイト以外の残部を構成する組織は、強度を低下させるおそれがある。そのため、残部の面積率は5%以下とする。残部の面積率の下限は特に限定されず、残部の面積率は0%であってもよい。なお、マルテンサイトおよびベイナイト以外の残部を構成する組織としては、フェライト、残留オーステナイトおよびパーライトが挙げられる。
ここで、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率は、以下のように測定する。
すなわち、鋼板のL断面(圧延方向に平行な垂直断面)を研磨後、ナイタールで腐食し、鋼板のL断面を、鋼板の板厚1/4位置においてSEMにより2000倍の倍率にて4視野観察する。ついで、撮影した組織写真を画像解析する。マルテンサイトおよびベイナイトはいずれも、灰色のコントラストを呈した領域である。マルテンサイトおよびベイナイトには、内部に炭化物や窒化物、硫化物、酸化物などの介在物が含まれる場合があるが、これらの介在物が占める領域は、マルテンサイトおよびベイナイトの面積に含めるものとする。また、上記の灰色のコントラストを呈した領域には、残留オーステナイトが含まれる場合があるため、後述する方法により、上記の灰色のコントラストを呈した領域の面積率から残留オーステナイトの面積率を減じて、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を算出する。
なお、マルテンサイトおよびベイナイトは、製造過程において焼戻しが生じた、いわゆる焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイトを主体として構成される。ここで、焼戻しマルテンサイトおよび焼戻しベイナイトには、連続冷却中に自己焼戻しを生じたマルテンサイトおよびベイナイトも含まれる。また、マルテンサイトの一部には、焼戻しが生じていない、いわゆるフレッシュマルテンサイトが面積率で5%以下含まれる場合がある(後述する実施例の発明例においても、(内部に炭化物が認められない)フレッシュマルテンサイトの面積率はいずれも、5%以下であった)。焼戻しマルテンサイトでは、通常、内部に白いコントラストの炭化物を含む。一方、フレッシュマルテンサイトでは、内部に炭化物が認められない。
また、残部組織のうち、フェライトは、黒色のコントラストを呈した領域である。パーライトは、フェライトと板状で白いコントラストのセメンタイトとが層状になった組織である。
なお、マルテンサイトとベイナイトとは、基本的には、上記したSEMによる組織写真のコントラスト差から判別可能である。しかし、両者の判別が困難な場合には、内部に含まれる炭化物の位置やバリアントを、SEMにより10000倍の倍率にて観察することにより、判別することが可能である。すなわち、ベイナイトでは、ラス状組織の界面またはラス内に炭化物が生成している。また、ベイニティックフェライトとセメンタイトとの結晶方位関係が1種類であるので、生成した炭化物は一方向に伸びている。一方、マルテンサイトを主に構成する焼戻しマルテンサイトでは、ラス内に炭化物が生成している。また、ラスと炭化物との結晶方位関係が2種類以上あるため、生成した炭化物は複数方向に伸びている。よって、内部に含まれる炭化物の位置やバリアントを、SEMにより10000倍の倍率にて観察することにより、焼戻しマルテンサイトとベイナイトとを判別することが可能である。
ついで、上記の灰色のコントラストを呈した領域の4視野分の合計の面積を算出し、当該合計面積を4視野分の観察領域の全面積で除して100を乗じた値を求める。ついで、求めた値から後述する方法により測定した残留オーステナイトの面積率を減じ、その値を、マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率とする。ただし、灰色のコントラストを呈した領域のうち、面積が1μm未満の島状領域は除外してマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を算出する。
ここで、残留オーステナイトの面積率は、以下のように測定する。
すなわち、鋼板をその表面から200μmまでの深さまでシュウ酸により化学研磨する。ついで、化学研磨した面を観察面として、X線回折法により観察する。入射X線にはMoKα線を使用し、bcc鉄の(200)、(211)および(220)各面の回折強度に対するfcc鉄(オーステナイト)の(200)、(220)および(311)各面の回折強度の比を求める。ついで、各面の回折強度の比から、残留オーステナイトの体積率を算出する。そして、残留オーステナイトが三次元的に均質であるとみなして、残留オーステナイトの体積率を、残留オーステナイトの面積率とする。
また、残部の面積率は、100%から上記のようにして求めたマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率を減じることにより求める。
[残部の面積率(%)]=100-[マルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率(%)]
マルテンサイトおよびベイナイトの粒内に存在する炭化物の面積率:5%以上25%以下
マルテンサイトおよびベイナイトの粒内に存在する炭化物(以下、単に炭化物ともいう)は、鋼板の変形時に転位の運動を阻害して加工硬化特性を向上させる。炭化物の面積率が5%未満の場合、上記の効果が十分でなく優れた成形性が得られない。一方、炭化物の面積率が25%超えの場合、所定の強度を確保することが困難になる。したがって、炭化物の面積率は5%以上25%以下とする。炭化物の面積率は、好ましくは10%以上である。炭化物の面積率は、好ましくは20%以下である。
KAM値が1°以下である領域の面積率:70%以上
KAM値は、後方散乱電子回折(EBSD)による、ある測定点(ピクセル)とその隣接する全ての測定点(ピクセル)との間の方位差の平均値である。そして、KAM値が高いほど、鋼板に内在するひずみ量が大きいことを示す。自動車部品への成形時に寸法精度を確保する観点から、板形状は良好であることが求められる。そのため、焼戻し工程の後に形状矯正工程を行う場合がある。形状矯正工程では、圧延や曲げ加工により鋼板にひずみを付与する。しかし、付与するひずみ量が過大になると、鋼板の延性が損なわれ、優れた成形性が得られない。つまり、良好な成形性を確保するためには、KAM値を低くする必要がある。ここで、KAM値が1°以下である領域の面積率が70%以上の場合には、優れた成形性が得られていた。そのため、KAM値が1°以下である領域の面積率は70%以上とする。KAM値が1°以下である領域の面積率は、より好ましくは80%以上である。KAM値が1°以下である領域の面積率の上限は特に限定されず、100%であってもよい。KAM値が1°以下である領域の面積率は、より好ましくは95%以下である。なお、KAM値の制御には、後述する形状矯正工程の条件を適正に制御することが重要である。
ここで、KAM値が1°以下である領域の面積率は、以下のように測定する。
すなわち、鋼板のL断面(圧延方向に平行な垂直断面)を研磨後、コロイダルシリカにて仕上げ研磨する。ついで、鋼板のL断面の板厚1/4位置において100μm×100μmの領域を後方散乱電子回折(EBSD)にて解析する。ステップサイズは0.1μmとする。ついで、TSLソリューションズ製の解析ソフトOIM Analysis Ver.7を用いて、各測定点のKAM値を求める。そして、KAM値が1°以下である測定点(ピクセル)の合計の面積を解析領域の全面積(100μm×100μm)で除し、100を乗じた値を、KAM値が1°以下である領域の面積率とする。
炭化物の分散間隔:次式(1)を満足する。
上述したように、実際の組織での炭化物の不均一性を加味した炭化物の分散間隔は、次式(1)の中央値により表すことができる。そして、次式(1)を満足させる、つまり、次式(1)の中央値で表される炭化物の分散間隔(以下、単に分散間隔ともいう)を20~80nmの範囲に制御することによって、TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現できる。ここで、分散間隔が20nm未満の場合、鋼板の変形時に転位の運動が過剰に阻害され、優れた成形性が得られない。一方、分散間隔が80nmを超えると、所定の強度を確保することが困難となる。そのため、分散間隔は20~80nmとする。分散間隔は、好ましくは30nm以上である。また、分散間隔は、好ましくは70nm以下である。
Figure 0007311067000003
ここで、
π:円周率、
f:前記炭化物の面積率[%]、
:前記炭化物の円相当径の平均値(各炭化物の円相当径の算術平均値)[nm]、
:前記炭化物の円相当径の2乗の平均値(各炭化物の円相当径の2乗の算術平均値)[nm]、および、
:前記炭化物の円相当径の3乗の平均値(各炭化物の円相当径の3乗の算術平均値)[nm]、
である。
また、炭化物の面積率の測定、および、分散間隔の算出は、以下のようにして行う。
すなわち、鋼板のL断面(圧延方向に平行な垂直断面)を研磨後、ナイタールで腐食する。ついで、鋼板のL断面を、鋼板の板厚1/4位置においてSEMにより観察し、インレンズSE像を取得する。なお、インレンズSE像では、物質表面の仕事関数、局所的な帯電による表面ポテンシャルの変化の影響を受け、物質の違いに敏感な像が得られるため、地鉄と炭化物との境界が明瞭に確認できる。また、加速電圧:1kV、ワーキングディスタンス:4mm、倍率:15000倍とする。得られたインレンズSE像をImageJにより画像解析し、炭化物と地鉄に2値化する。ついで、粒子解析機能により、炭化物の合計の面積率を算出し、その値を炭化物の面積率fとする。また、各炭化物の円相当径を算出し、各炭化物の円相当径を基に、d、dおよびdを算出する。そして、これらの値から、上掲式(1)の中央値を算出し、炭化物の分散間隔とする。
ここで、各炭化物の円相当径は、次式により算出する。
[各炭化物の円相当径(nm)]=(4×[各炭化物の面積(nm)]÷π)1/2
なお、炭化物の面積率およびd、dおよびdの算出では、円相当径が5nm未満の炭化物は除外する。
また、マルテンサイトの領域には旧γ粒界、パケット境界およびブロック境界が内在し、これらの粒界および境界上に炭化物がフィルム状に析出する場合があるが、これらの炭化物は、マルテンサイトの粒内に存在する炭化物には含めない。
つぎに、本発明の一実施形態に従う鋼板の機械特性について、説明する。
引張強さ(TS):1310MPa以上
本発明の一実施形態に従う鋼板は、TS:1310MPa以上でも、成形性に優れる点を特徴の一つとするものである。したがって、TSは1310MPa以上とする。TSは、好ましくは1470MPa以上、より好ましくは1700MPa以上である。TSの上限については特に限定されないが、例えば、TSは2500MPa以下が好適であり得る。なお、TSは、JIS Z 2241に準拠する引張試験により測定する。詳細は後述する実施例に記載するとおりである。
また、本発明の一実施形態に従う鋼板は、その表面(片面または両面)にめっき層を有していてもよい。めっき層の種類は特に限定されず、例えば、亜鉛めっき層や亜鉛以外の金属のめっき層が挙げられる。また、めっき層は、亜鉛等の主となる成分以外の成分を含んでもよい。亜鉛めっき層としては、例えば、溶融亜鉛めっき層や合金化溶融亜鉛めっき層、電気亜鉛めっき層が挙げられる。
なお、本発明の一実施形態に従う鋼板の板厚は特に限定されないが、好ましくは0.5mm以上3.0mm以下である。また、本発明の一実施形態に従う鋼板は、熱延鋼板であっても、冷延鋼板であってもよい。
[2]部材
つぎに、本発明の一実施形態に従う部材について、説明する。
本発明の一実施形態に従う部材は、上記の鋼板を用いてなる(素材とする)部材である。例えば、素材である鋼板に、成形加工および接合加工の少なくとも一方、好適には、冷間プレスを施して部材とする。
ここで、上記の鋼板は、TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現している。また、上記の鋼板は、上記の特性により、より複雑な形状を有する部品に対しても冷間プレスでの適用が可能となるので、コストや生産性の点でより有利に、部品強度の向上および軽量化に貢献することができる。そのため、本発明の一実施形態に従う部材は、自動車や家電製品等に使用される部材に適用して特に好適である。
[3]鋼板の製造方法
つぎに、本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法について、説明する。
本発明の一実施形態に従う鋼板の製造方法は、
上記の成分組成を有する鋼スラブに圧延を施して鋼板とする、圧延工程と、
前記鋼板を、焼鈍温度:A点以上、および、焼鈍時間:30秒以上として焼鈍する、焼鈍工程と、
ついで、前記鋼板を、前記焼鈍温度~第2冷却開始温度の温度域での平均冷却速度:10℃/秒以下として冷却する、第1冷却工程と、
前記鋼板を、前記第2冷却開始温度:680℃以上、前記第2冷却開始温度~50℃の温度域での平均冷却速度:30℃/秒以上として、50℃以下の冷却停止温度まで冷却する、第2冷却工程と、
前記鋼板を、上掲式(2)、(3)および(4)満足する条件で焼戻す、焼戻し工程と、
前記鋼板に、伸び率:0.1%以上0.4%以下として加工を施す、形状矯正工程と、
を有する、というものである。
なお、上記の各温度は、特に説明がない限り、鋼スラブおよび鋼板の表面温度を意味する。
[圧延工程]
まず、鋼スラブに圧延、例えば、熱間圧延、または、熱間圧延および冷間圧延を施して鋼板とする。鋼スラブの準備方法(製造条件)、熱間圧延条件および冷間圧延条件は特に限定されず、常法に従い行えばよい。なお、熱間圧延後の熱延鋼板に、任意に酸洗を施してもよい。酸洗条件についても特に限定されず、常法に従えばよい。また、冷間圧延後の冷延鋼板に、任意に酸洗を施してもよい。酸洗条件についても特に限定されず、常法に従えばよい。
[焼鈍工程]
ついで、上記のようにして得られた鋼板(熱延鋼板または冷延鋼板)を、焼鈍温度:A点以上、および、焼鈍時間:30秒以上として焼鈍する。
焼鈍温度:A点以上
最終製品の鋼板の組織において、上記のようなマルテンサイトおよびベイナイトを主体とする組織を得るためには、焼鈍温度をA点以上とすることが必要である。
すなわち、焼鈍温度がA点未満になると、焼鈍時に十分なオーステナイトが生成しない。その結果、最終製品において所定のマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が得られず、ひいては、TS:1310MPa以上が得られない。そのため、焼鈍温度はA点以上とする。なお、焼鈍温度の上限は特に限定されないが、焼鈍温度が一定以上になると、オーステナイト粒径が粗大になり靱性が劣化するおそれがある。そのため、焼鈍温度は1000℃以下が好ましい。
なお、焼鈍温度は、焼鈍工程での最高到達温度であり、焼鈍における保持中の温度はA点以上であれば、一定であっても、変動してもよい。また、A点は次式により求める。
点(℃)=910-203×[C%]0.5+44.7×[Si%]+
31.5×[Mo%]-30×[Mn%]-11×[Cr%]+700×[P%]+
400×[Al%]+400×[Ti%]
焼鈍時間:30秒以上
焼鈍時間が30秒未満になると、焼鈍時に十分なオーステナイトが生成しない。その結果、最終製品において所定のマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が得られず、ひいては、TS:1310MPa以上が得られない。そのため、焼鈍時間は30秒以上とする。なお、焼鈍時間の上限は特に限定されないが、焼鈍時間が一定以上になると、オーステナイト粒径が粗大になり靱性が劣化するおそれがある。したがって、焼鈍時間は900秒以下が好ましい。
なお、焼鈍時間とは、A点以上の温度域での保持時間(滞留時間)である。
[第1冷却工程]
ついで、上記のようにして焼鈍を施した鋼板を、焼鈍温度~(後述する)第2冷却開始温度の温度域での平均冷却速度:10℃/秒以下として、冷却する。
焼鈍温度~第2冷却開始温度の温度域での平均冷却速度:10℃/秒以下
焼鈍温度~第2冷却開始温度の温度域での平均冷却速度(以下、第1冷却速度ともいう)が10℃/秒を超えると、2次冷却開始前の鋼板に温度ばらつきが生じ、第2冷却工程後の板形状が平坦でなくなるおそれがある。板形状が平坦でない場合、例えば、自動車部品への成形時に寸法精度の確保が困難になる等の問題が生じる。そのため、第1冷却速度は10℃/秒以下とする。第1冷却速度は、好ましくは8℃/秒以下である。なお、第1冷却速度の下限は特に限定されないが、第1冷却速度は1℃/秒以上が好ましい。
[第2冷却工程]
ついで、鋼板を、第2冷却開始温度:680℃以上、第2冷却開始温度~50℃の温度域での平均冷却速度:30℃/秒以上として、50℃以下の冷却停止温度まで冷却する。
第2冷却開始温度:680℃以上
第2冷却開始温度が680℃未満の場合、残留γやパーライトが過剰に生成し、最終製品において所定のマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が得られないおそれがある。また、冷却中にマルテンサイトやベイナイトの焼戻しが生じ、炭化物が過度に粗大化するおそれもある。そのため、第2冷却開始温度:680℃以上とする。第2冷却開始温度の上限は特に限定されないが、例えば、第2冷却開始温度は910℃以下が好ましい。また、第2冷却開始温度は、焼鈍温度-50℃以下が好ましい。
第2冷却開始温度~50℃の温度域での平均冷却速度:30℃/秒以上
第2冷却開始温度~50℃の温度域での平均冷却速度(以下、第2冷却速度ともいう)が30℃/秒未満の場合、残留γやパーライトが過剰に生成し、最終製品において所定のマルテンサイトおよびベイナイトの合計面積率が得られないおそれがある。また、冷却中にマルテンサイトやベイナイトの焼戻しが生じ、炭化物が過度に粗大化するおそれもある。そのため、第2冷却速度は30℃/秒以上とする。第2冷却速度は、好ましくは50℃/秒以上、より好ましくは100℃/秒以上である。なお、第2冷却速度の上限は特に限定されないが、第2冷却速度は2000℃/秒以下が好ましい。
冷却停止温度:50℃以下
炭化物の粗大化を抑制する観点から、冷却停止温度は50℃以下とする。なお、冷却停止温度の下限は特に限定されないが、冷却停止温度は5℃以上が好ましい。
[焼戻し工程]
ついで、鋼板を、次式(2)、(3)および(4)を同時に満足する条件で焼戻す。
λ1≦5000 ・・・(2)
λ1が過大になると、炭化物の面積率が過大となり、所定の強度を得ることが困難となる。そのため、λ1は5000以下とする。λ1は、より好ましくは4700以下である。λ1の下限については特に限定されないが、例えば、λ1は3500以上が好ましい。
λ2≧3100 ・・・(3)
λ2が過小になると、炭化物が過度に微細になり成形性が劣化する。そのため、λ2は3100以上とする。
λ2≦0.88×λ1+400・・・(4)
また、λ1との関係で上掲式(4)を満足するようにλ2を制御することにより、炭化物のサイズに不均一性が生じる。これにより、炭化物の分散間隔について上掲式(1)を満足させて、TS:1310MPa以上の強度と優れた成形性とを同時に得ることが可能となる。そのため、λ1との関係で上掲式(4)を満足するようにλ2を制御する。
なお、上掲式(2)~(4)において、
λ1:焼戻し工程の第1区間の焼戻しパラメーター、および
λ2:焼戻し工程の第2区間の焼戻しパラメーター、
であり、それぞれ次式(5)および(6)式により定義される。
λ1=T1×(logt1+20)・・・(5)
λ2=T2×(logt2+20)・・・(6)
また、
t1:焼戻し工程の第1区間の滞留時間[s]、
T1:焼戻し工程の第1区間の中間温度[℃]、
t2:焼戻し工程の第2区間の滞留時間[s]、および、
T2:焼戻し工程の第2区間の中間温度[℃]、
である。なお、上掲式(5)および(6)中のlogは、常用対数(底=10)を表すものである。
焼戻し工程の第1区間および第2区間とは、焼戻し工程において100℃以上の温度域にある時間域を2等分し、前半を焼戻し工程の第1区間、後半を焼戻し工程の第2区間としたものである。
また、T1およびT2は、第1区間および第2区間の中間時点の温度を測定し、その測定値をそれぞれT1およびT2とする。
なお、t1およびt2は特に限定されず、例えば、それぞれ200~700秒とすることが好ましい。また、T1およびT2も特に限定されず、例えば、T1は150~220℃、T2は150~200℃とすることが好ましい。
[形状矯正工程]
ついで、得られた鋼板に、プレス成形の形状精度を安定化させる観点から、板形状を平坦化する加工(形状矯正)を施す。当該加工は、例えば、スキンパス圧延(調質圧延)やレベラー加工などで実施可能であり、適正な伸び率に制御できれば方法は問わない。ここで、良好な板形状を得るには伸び率を0.1%以上にする必要がある。一方、伸び率が0.4%を超えると、鋼板の成形性が劣化する。そのため、伸び率の上限は0.4%とする。伸び率の上限は、好ましくは0.3%以下である。なお、伸び率は、次式(7)により計算する。
伸び率(%)={(V0-Vi)/Vi}×100 ・・・(7)
ここで、
V0:形状矯正装置の出側通板速度(m/秒)、
Vi:形状矯正装置の入側通板速度(m/秒)
である。
[めっき処理工程]
また、得られた鋼板に、めっき処理を施してもよい。めっき処理を施すことにより、表面にめっき層を有する鋼板が得られる。めっき処理方法は特に限定されず、例えば、溶融めっきや電気めっきが挙げられる。また、溶融めっき後に合金化を施すめっき処理でもよい。また、めっきの種類も特に限定されず、例えば、亜鉛めっきや亜鉛以外の金属のめっきが挙げられる。めっき処理の条件は特に限定されず、常法に従えばよい。なお、めっき浴は、亜鉛等の主となる成分以外の成分を含んでもよい。また、めっき処理工程は、前記焼戻し工程後でかつ、前記形状矯正工程の前に、行うことが好ましい。
なお、上記の焼鈍工程以降の各工程は、任意に、連続焼鈍により行っても、バッチ焼鈍により行ってもよいが、生産性の観点からは、連続焼鈍により行うことが好ましい。
上記以外の条件については特に限定されず、常法に従えばよい。
[4]部材の製造方法
つぎに、本発明の一実施形態に従う部材の製造方法について、説明する。
本発明の一実施形態に従う部材の製造方法は、上記の鋼板(例えば、上記の鋼板の製造方法により製造された鋼板)に、成形加工および接合加工の少なくとも一方を施して部材とする工程、好適には、冷間プレスを施して部材とする工程を有する。
ここで、成形加工方法は、特に限定されず、例えば、プレス加工等の一般的な加工方法を用いることができる。また、接合加工方法も、特に限定されず、例えば、スポット溶接、レーザー溶接、アーク溶接等の一般的な溶接や、リベット接合、かしめ接合等を用いることができる。なお、成形条件および接合条件については特に限定されず、常法に従えばよい。冷間プレス条件についても特に限定されず、常法に従えばよい。
表1に示す成分組成(残部はFe及び不可避的不純物)を有する鋼を溶製し、鋼スラブに鋳造した。得られた鋼スラブを、仕上げ圧延温度:840~950℃、巻取温度:400~700℃の条件で熱間圧延し、熱延鋼板を得た。ついで、得られた熱延鋼板を、酸洗後、冷間圧延し、冷延鋼板を得た。得られた冷延鋼板に、表2に示す条件で連続焼鈍による熱処理(焼鈍工程、第1冷却工程、第2冷却工程および焼戻し工程)を施した。なお、第2冷却工程における冷却停止温度はいずれも室温(25℃)とした。ついで、一部の冷延鋼板(No.18の冷延鋼板)にめっき処理(電気亜鉛めっき処理)を施し、冷延鋼板の表面にめっき層を設けた。ついで、冷延鋼板またはめっき鋼板に、表2に示す条件で調質圧延による形状矯正を施し、最終製品となる鋼板(板厚:1.2mm)を得た。なお、No.27の焼鈍時間は、No.27の焼鈍温度での保持時間である。また、明記した以外の条件は、常法に従った。
かくして得られた鋼板を用いて、上述した要領により、鋼板の組織の同定、ならびに、マルテンサイトおよびベイナイトの粒内に存在する炭化物の面積率の測定を行った。また、上述した要領により、炭化物の分散間隔(上掲式(1)の中央値)を求めた。結果を表3に示す。
また、JIS Z 2241およびJIS Z 2253に準拠して引張試験を行い、TSおよびn値を測定した。すなわち、鋼板から、長手方向が鋼板の圧延方向に対して直角となるようにJIS5号試験片を採取した。採取した試験片を用いて、クロスヘッド速度:10mm/minの条件で引張試験を行い、TSおよびn値を測定した。結果を表3に併記する。なお、TSの評価基準は以下のとおりである。
・TS
合格:1310MPa以上
不合格:1310MPa未満
また、n値は、ひずみ量が1%から3%の範囲を対象として算出した。
また、成形性の評価は、上記で算出したn値による評価と、90度V曲げ試験による評価とで行った。一般に、曲げ試験では、曲げ成形後の鋼板表面を観察して亀裂の有無から曲げ性の優劣を評価する。しかし、ここでは、ひずみの分散性を評価した。すなわち、曲げ成形時には、下死点に到達する前に曲げポンチと鋼板との間に隙間が生じ、鋼板の曲げ頂点部が曲げポンチの先端よりも小さい曲率半径で曲げ成形される。この現象は、実際のプレス成形においてもしばしば生じる現象であり、ひずみ分散性が低い鋼板ほど顕著に生じる。ひずみ分散性が低い鋼板を所定の形状にプレス成形すると、局部的にひずみが集中してしまい、割れに至る。ここでは、鋼板の圧延直角方向が長手方向となるように30mm×100mmの試験片を切り出し、90度V曲げを行った。ついで、曲げ稜線と直交する鋼板の板厚断面を研磨後、当該断面をSEMにて観察し、鋼板の曲げ頂点部の曲率半径rを次式(8)により求めた。
r={(w/2)+h}/2h・・・(8)
ここで、wおよびhは、図1に示す距離であり、wは一定(2mm)となるようにした。なお、図1は、90度V曲げによる曲げ稜線と直交する鋼板の板厚断面のSEM写真の一例である。そして、rを曲げポンチの曲率半径Rで除した値であるr/Rを求め、このr/Rを成形性の指標とした。ここで、Rは4.0mmで実施した。
なお、本実施例ではいずれも板厚:1.2mmの鋼板を用いたが、板厚:1.2mm以外の板厚の鋼板を評価する場合には、曲げ成形後のスプリングバック量が変化するため計測される鋼板の曲げ頂点部の曲率半径の値を補正する必要がある。例えば、板厚が薄い場合、鋼板の剛性が小さくなるためスプリングバック量が大きくなり、鋼板の曲げ頂点部の曲率半径の値が大きくなる。そのため、板厚:1.2mm以外の板厚の鋼板を評価する場合には、次式(9)のようにrを計算する。
r=rt+2.2×(t-1.2)・・・(9)
ここで、t:評価対象とする鋼板の板厚、rt:板厚tの鋼板で評価した曲げ頂点部の曲率半径である。
なお、90度V曲げは、成形速度:30mm/min、成形荷重:10tonで行った。本実施例において、成形性を上記のように評価した理由は、成形性の優劣をより定量的に解析するためである。また、実際に部品をプレス成形する試験では、割れの有無でしか成形性の優劣を判断できないからである。また、r/Rは、基本的にはひずみ分散性の指標であるが、介在物や偏析が過剰な場合、曲げ頂点部でネッキングや割れを生じるため、r/Rの値は低位となる。そのため、介在物や偏析等の影響を含めた評価が可能であり、実際の成形性の優劣とも相関する。
そして、n値が0.13以上かつr/Rの値が0.60以上の鋼板を成形性に優れる(表3中の成形性の判定の欄が「合格」)と判定し、n値が0.13未満またはr/Rの値が0.60未満の鋼板を成形性が十分ではない(表3中の成形性の判定の欄が「不合格」)と判定した。結果を表3に併記する。
また、自動車部品への成形時に寸法精度を確保する観点から、板形状が良好であることが求められる。そのため、鋼板を、1000mm幅、500mm長さに切り出し、切り出した鋼板を定盤上に水平に設置して、定盤上での最高点の位置での高さ(定盤表面からの距離)を測定した。そして、その測定値から当該鋼板の板厚を減じた値を、最大反り高さと定義し、板形状の指標とした。そして、最大反り高さが20mm以下の鋼板を板形状が良好である(表3中の板形状の欄が「合格」)と判定し、最大反り高さが20mm超えの鋼板を板形状が良好ではない(表3中の板形状の欄が「不合格」)と判定した。結果を表3に併記する。
Figure 0007311067000004
Figure 0007311067000005
Figure 0007311067000006
表3に示したように、発明例ではいずれも、引張強さ(TS)および成形性の両方が合格であった。また、板形状も良好であった。また、発明例の鋼板を用いて、冷間プレスを含む種々の成形加工を施して得た種々の形状の部材および接合加工を施して得た種々の形状の部材ではいずれも、割れの発生なく目標とする形状を有し、また、十分な引張強さ(TS)を有していた。
一方、比較例では、引張強さ(TS)および成形性の少なくとも1つが十分ではなかった。
本発明によれば、TS:1310MPa以上の強度と、優れた成形性とを同時に実現した鋼板が得られる。また、本発明の鋼板は、上記の特性により、より複雑な形状を有する部品に対しても冷間プレスでの適用が可能となるので、コストや生産性の点でより有利に、部品強度の向上および軽量化に貢献することができる。

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C:0.12%以上0.40%以下、
    Si:1.50%以下、
    Mn:0.20%以上3.50%以下、
    P:0.050%以下、
    S:0.0100%以下、
    sol.Al:1.00%以下および
    N:0.010%以下
    であり、残部がFeおよび不可避的不純物である、成分組成を有し、
    マルテンサイトおよびベイナイトの合計の面積率が95%以上100%以下であり、
    前記マルテンサイトおよび前記ベイナイトの粒内に存在する炭化物の面積率が5%以上25%以下であり、
    KAM値(Kernel Average Misorientation値)が1°以下である領域の面積率が70%以上であり、かつ、
    前記炭化物の分散間隔について次式(1)を満足し、
    引張強さが1310MPa以上である、鋼板。
    ここで、
    π:円周率、
    f:前記炭化物の面積率[%]、
    :前記炭化物の円相当径の平均値[nm]、
    :前記炭化物の円相当径の2乗の平均値[nm]、および、
    :前記炭化物の円相当径の3乗の平均値[nm]、
    である。
  2. 前記成分組成が、さらに、質量%で、以下のA群およびB群のうちの少なくとも一方を含有する、請求項1に記載の鋼板。
    (A群)
    Cu:1.00%以下、
    Ni:1.00%以下、
    Mo:0.50%以下、
    Cr:1.00%以下、
    Zr:0.100%以下、
    Ca:0.0100%以下、
    Ti:0.100%以下、
    Nb:0.100%以下、
    B:0.0100%以下、
    V:0.200%以下、
    W:0.200%以下、
    Sb:0.100%以下、
    Sn:0.100%以下および
    Mg:0.0100%以下
    のうちから選択される一種または二種以上
    (B群)
    Se、As、Pb、Bi、Zn、Cs、Rb、Co、La、Tl、Nd、Y、In、Be、Hf、Tc、Ta、O、La、CeおよびPrうちから選択される一種または二種以上:合計で0.02%以下
  3. 表面にめっき層を有する、請求項1に記載の鋼板。
  4. 表面にめっき層を有する、請求項2に記載の鋼板。
  5. 請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板を用いてなる、部材。
  6. 鋼板の製造方法であって、
    前記鋼板は、
    マルテンサイトおよびベイナイトの合計の面積率が95%以上100%以下であり、
    前記マルテンサイトおよび前記ベイナイトの粒内に存在する炭化物の面積率が5%以上25%以下であり、
    KAM値(Kernel Average Misorientation値)が1°以下である領域の面積率が70%以上であり、かつ、
    前記炭化物の分散間隔について次式(1)を満足し、
    引張強さが1310MPa以上であり、
    前記鋼板の製造方法は、
    請求項1または2に記載の成分組成を有する鋼スラブに圧延を施して鋼板とする、圧延工程と、
    前記鋼板を、焼鈍温度:A点以上、および、焼鈍時間:30秒以上として焼鈍する、焼鈍工程と、
    ついで、前記鋼板を、前記焼鈍温度~第2冷却開始温度の温度域での平均冷却速度:10℃/秒以下として冷却する、第1冷却工程と、
    前記鋼板を、前記第2冷却開始温度:680℃以上、前記第2冷却開始温度~50℃の温度域での平均冷却速度:30℃/秒以上として、50℃以下の冷却停止温度まで冷却する、第2冷却工程と、
    前記鋼板を、次式(2)、(3)および(4)満足する条件で焼戻す、焼戻し工程と、
    前記鋼板に、伸び率:0.1%以上0.4%以下として加工を施す、形状矯正工程と、
    を有する、鋼板の製造方法。
    ここで、
    π:円周率、
    f:前記炭化物の面積率[%]、
    :前記炭化物の円相当径の平均値[nm]、
    :前記炭化物の円相当径の2乗の平均値[nm ]、および、
    :前記炭化物の円相当径の3乗の平均値[nm ]、
    である。
    λ1≦5000・・・(2)
    λ2≧3100・・・(3)
    λ2≦0.88×λ1+400・・・(4)
    ここで、
    λ1:焼戻し工程の第1区間の焼戻しパラメーター、および
    λ2:焼戻し工程の第2区間の焼戻しパラメーター、
    であり、それぞれ次式(5)および(6)式により定義される。
    λ1=T1×(logt1+20)・・・(5)
    λ2=T2×(logt2+20)・・・(6)
    また、
    t1:焼戻し工程の第1区間の滞留時間[s]、
    T1:焼戻し工程の第1区間の中間温度[℃]、
    t2:焼戻し工程の第2区間の滞留時間[s]、および
    T2:焼戻し工程の第2区間の中間温度[℃]、
    である。
    焼戻し工程の第1区間および第2区間とは、焼戻し工程において100℃以上の温度域にある時間域を2等分し、前半を焼戻し工程の第1区間、後半を焼戻し工程の第2区間としたものである。
  7. 前記焼戻し工程後でかつ、前記形状矯正工程の前に、前記鋼板にめっき処理を行う、めっき処理工程を、さらに有する、請求項6に記載の鋼板の製造方法。
  8. 請求項1~4のいずれか一項に記載の鋼板に、成形加工および接合加工の少なくとも一方を施して部材とする、工程を有する、部材の製造方法。
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