本発明の一実施の形態に係る車両用トランスファ装置は、駆動源から主駆動輪に動力を伝達する二輪駆動と、駆動源から主駆動輪および副駆動輪に動力を伝達する四輪駆動に切換え可能な車両用トランスファ装置であって、車両の前後方向に延び、駆動源から動力が伝達される入力軸と、外周部に第1の外周スプラインが形成され、入力軸と一体で回転する第1の動力伝達部材と、外周部に第2の外周スプラインが形成され、第1の動力伝達部材と同軸上に設けられた第2の動力伝達部材と、第1の内周スプラインを有して第1の動力伝達部材と第2の動力伝達部材の軸方向に移動自在に設けられ、二輪駆動時には第1の内周スプラインが第2の外周スプラインのみに嵌合することにより、第1の動力伝達部材から第2の動力伝達部材への動力の伝達を遮断し、四輪駆動時には第1の内周スプラインが第1の外周スプラインと第2の外周スプラインに嵌合することにより、第1の動力伝達部材から第2の動力伝達部材に動力を伝達するシフトスリーブと、入力軸と相対回転自在に設けられ、副駆動輪に動力を伝達する出力部材と、第2の動力伝達部材と出力部材の間に設けられ、第2の動力伝達部材と一体で回転するダンパ部材とを備え、出力部材の外周面に、第3の外周スプラインが形成されており、第2の動力伝達部材の内周面に、第3の外周スプラインに嵌合し、第2の動力伝達部材と出力部材の相対回転を第1の所定角度に規制する第2の内周スプラインが形成されており、ダンパ部材の内周面に、第3の外周スプラインに嵌合し、ダンパ部材と出力部材の相対回転を第1の所定角度よりも小さい第2の所定角度に規制する第3の内周スプラインが形成されており、ダンパ部材は、弾性体と、弾性体の内周面に設けられ、第3の内周スプラインが形成された第1の内周面および出力部材の外周面に非嵌合状態で対向する第2の内周面を有する筒状の内周部材とを含んで構成されており、第3の内周スプラインは、弾性体に対して入力軸の軸方向に離れている。
これにより、本発明の一実施の形態に係る車両用トランスファ装置は、トランスファ装置の径方向の寸法が増大することを防止しつつ、ダンパ部材の弾性体の径方向の厚みを増大でき、ダンパ部材の耐久性が低下することを防止できる。
以下、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置について、図面を用いて説明する。
図1から図8は、本発明の一実施例に係る車両用トランスファ装置を示す図である。図1から図8において、上下前後左右方向は、車両用トランスファ装置を備えた車両の進行する方向を前、後退する方向を後とした場合に、車両の幅方向が左右方向、車両の高さ方向が上下方向である。
まず、構成を説明する。
図1に示すように、車両1は、エンジン2と、動力伝達機構10と、左右の前輪8L、8Rと、左右の後輪9L、9Rとを含んで構成されている。本実施例の前輪8L、8Rは、本発明の主駆動輪を構成し、後輪9L、9Rは、本発明の副駆動輪を構成する。
車両1は、車両前部に配置したエンジン2から出力された動力によって左右の前輪8L、8Rおよび左右の後輪9L、9Rを駆動する。
エンジン2は、例えば、図示しないピストンが気筒を2往復する間に吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行う4サイクルエンジンであって、車両1の前後軸に対して横置き配置されている。
ピストンは、図示しないコネクティングロッドおよびクランク軸と連結されており、エンジン2の動力がクランク軸から動力伝達機構10のトランスミッション3に出力される。本実施例のエンジン2、本発明の駆動源を構成する。
動力伝達機構10は、トランスミッション3と、フロントディファレンシャル4と、車両用トランスファ装置(以下、トランスファ装置という)5と、左右のフロントドライブ軸6L、6Rと、左右のリヤドライブ軸7L、7Rと、プロペラ軸11と、リヤディファレンシャル12とを含んで構成されている。
トランスミッション3は、変速機構31と、インプット軸32と、カウンタ軸33と、ファイナルドライブギヤ34と、リバース軸35と、これらの構成要素を収容する変速機ケース36とを含んで構成されている。
変速機構31は、インプット軸32に設けられた複数の入力ギヤと、カウンタ軸33に設けられた入力ギヤに噛み合う複数のカウンタギヤと、リバース軸35に設けられたリバースギヤとによって構成されている。
インプット軸32、カウンタ軸33およびリバース軸35は、変速機ケース36に回転自在に支持されている。
変速機構31は、インプット軸32に入力されたエンジン2の動力を入力ギヤおよびカウンタギヤを介して変速し、カウンタ軸33のファイナルドライブギヤ34を介してフロントディファレンシャル4に出力する。
フロントディファレンシャル4は、ファイナルドライブギヤ34に噛み合うファイナルドリブンギヤ37と、外周部にファイナルドリブンギヤ37が取付けられ、ファイナルドリブンギヤ37と一体で回転するデフケース38を有する。
フロントディファレンシャル4は、デフケース38に固定されるピニオン軸40と、 ピニオン軸40に回転自在に支持される一対のピニオンギヤ39A、39Bと、ピニオンギヤ39A、39Bに噛み合い、ピニオンギヤ39A、39Bから伝達される動力を左右のフロントドライブ軸6L、6Rを介して前輪8L、8Rに分配する一対のサイドギヤ40A、40Bとを有する。
フロントドライブ軸6Lは、サイドギヤ40Aに連結されおり、サイドギヤ40Aと一体で回転する。サイドギヤ40Bにはインタミ軸41(図2参照)が連結されており、インタミ軸41は、サイドギヤ40Bと一体で回転する。
フロントドライブ軸6Rは、インタミ軸41に連結されており、フロントドライブ軸6Rは、インタミ軸41と一体で回転する。
図2から図4に示すように、トランスファ装置5は、トランスファケース45および切換機構ケース46を備えている。切換機構ケース46は、ボルト47によってトランスファケース45に取付けられており、トランスファケース45は、ボルト48によって変速機ケース36に取付けられている。
図6に示すように、インタミ軸41は、トランスファケース45に挿通されて車幅方向に延びている。
トランスファケース45には中空形状のリダクションドライブ軸51が収容されており、リダクションドライブ軸51は、玉軸受52A、52Bを介してトランスファケース45に回転自在に支持されている。
リダクションドライブ軸51の内部にはインタミ軸41が挿通されており、インタミ軸41は、玉軸受52Cを介してトランスファケース45に回転自在に支持されている。
リダクションドライブ軸51の左端部にはデフケース38の外周部がスプライン嵌合される嵌合部51Aが設けられており、リダクションドライブ軸51は、デフケース38と一体で回転する。
リダクションドライブ軸51の軸方向の中央部にはリダクションドライブギヤ51Bが設けられており、リダクションドライブギヤ51Bは、リダクションドライブ軸51と一体で回転する。
トランスファケース45にはリダクションドリブン軸53とベベルギヤ54が収容されている。リダクションドリブン軸53は、円錐ころ軸受55A、55Bによってトランスファケース45に回転自在に支持されている。
リダクションドリブン軸53にはリダクションドリブンギヤ53Aが設けられており、リダクションドリブンギヤ53Aは、リダクションドリブン軸53と一体で回転する。
リダクションドリブンギヤ53Aは、リダクションドライブギヤ51Bに噛み合っており、リダクションドリブンギヤ53Aにはリダクションドライブギヤ51Bから動力が伝達される。
ベベルギヤ54は、リダクションドリブン軸53にスプライン嵌合されており、リダクションドリブン軸53と一体で回転する。
トランスファケース45にはトランスファピニオン軸56が収容されており、トランスファピニオン軸56は、スラスト玉軸受57を介してトランスファケース45に回転自在に支持されている。
トランスファピニオン軸56は、リダクションドリブン軸53の軸方向と直交しており、車両1の前後方向に延びている。トランスファピニオン軸56の前端部にトランスファピニオンギヤ56Aが設けられており、トランスファピニオンギヤ56Aは、ベベルギヤ54に噛み合っている。本実施例のトランスファピニオン軸56は、本発明の入力軸を構成する。
図5に示すように、スラスト玉軸受57に対してトランスファピニオンギヤ56Aと反対側にはドッグ58が設けられている。ドッグ58は、トランスファピニオン軸56の外周面にスプライン嵌合されており、トランスファピニオン軸56と一体で回転する。
ドッグ58の外周面には外周スプライン58aが形成されている。トランスファピニオン軸56の外周部にはハブ59が設けられている。ハブ59は、トランスファピニオン軸56の軸方向で前後方向の隙間を介してドッグ58に対向しており、ドッグ58と同軸上に設けられている。
図7に示すように、ハブ59は、筒状の大径部59Aと、大径部よりも小径の筒状の小径部59Bとを有する。小径部59Bの外周部には外周スプライン59aが形成されており、小径部59Bの内周部には内周スプライン59bが形成されている。
図6に示すように、ドッグ58とハブ59の外周部にはシフトスリーブ60(図2参照)が設けられている。シフトスリーブ60の内周面には内周スプライン60aが形成されており、内周スプライン60aは、ハブ59の外周スプライン59aと常時、噛み合っている。
図2に示すように、シフトスリーブ60は、シフトフォーク61に取付けられている。シフトフォーク61は、シフト軸62に取付けられており、シフト軸62は、軸方向に移動自在となるようにトランスファケース45に摺動自在に設けられている。
トランスファケース45の上部には電動アクチュエータ63が設けられている(図5参照)。電動アクチュエータ63は、例えば、電動モータから構成されている。電動アクチュエータ63は、先端部にピニオンギヤ63aを有するモータ軸63Aを備えている。シフト軸62の軸方向にはラック歯62aが形成されており(図8参照)、ラック歯62aにはピニオンギヤ63aが噛み合っている。
電動アクチュエータ63によってピニオンギヤ63aが回転されると、シフト軸62は、軸方向に進退自在となっており、シフトスリーブ60は、トランスファピニオン軸56の軸方向に移動自在となっている。
図5に示すように、トランスファピニオン軸56の外周部には中空形状の出力部材64が設けられている。図7に示すように、出力部材64は、小径の円筒部65と、円筒部65の後端から径方向外方に突出する筒状のフランジ部66とを有する。換言すれば、円筒部65は、フランジ部66から出力部材64の軸方向に向かってフランジ部66から離れる方向に延びている。
出力部材64の内周部、ドッグ58の内周部およびハブ59の内周部にはトランスファピニオン軸56が挿通されている。ここで、トランスファピニオン軸56、ドッグ58、ハブ59および出力部材64は、軸方向が平行となるように設置されている。
円筒部65の外周面には外周スプライン65aが形成されており、外周スプライン65aは、ハブ59の内周スプライン59bに嵌合している。
出力部材64とトランスファピニオン軸56の間には一対の玉軸受67A、67Bが設けられている。出力部材64は、玉軸受67A、67Bを介してトランスファピニオン軸56に回転自在に支持されており、トランスファピニオン軸56と相対回転する。
出力部材64の外周スプライン65aとハブ59の内周スプライン59bは、周方向に隙間が形成されており、ハブ59と出力部材64の相対回転は、外周スプライン65aとハブ59の内周スプライン59bの周方向の隙間によって第1の所定角度θ1に規制される。
ドッグ58、ハブ59、出力部材64は、切換機構ケース46に収容されており、シフト軸62は、トランスファケース45から切換機構ケース46に突出している。
図1に示すように、出力部材64にはプロペラ軸11の前端部が連結されており、プロペラ軸11は、出力部材64と一体で回転する。プロペラ軸11の途中にはビスカスカップリング81が設けられている。
プロペラ軸11の後端部にリヤディファレンシャル12が設けられており、リヤディファレンシャル12は、プロペラ軸11から伝達された動力をリヤドライブ軸7L、7Rを介して後輪9L、9Rに分配する。
電動アクチュエータ63によってシフトスリーブ60がトランスファピニオンギヤ56Aから離れる方向に移動されると、図6に示すように、シフトスリーブ60の内周スプライン60aは、ハブ59の外周スプライン59aのみに嵌合される。
このとき、ドッグ58からハブ59への動力の伝達が遮断され、エンジン2の動力は、プロペラ軸11に伝達されない。
具体的には、フロントディファレンシャル4によって分配される一方の動力は、フロントドライブ軸6Lから前輪8Lに伝達され、フロントディファレンシャル4によって分配される他方の動力は、インタミ軸41からフロントドライブ軸6Rを介して前輪8Rに伝達される。
また、デフケース38からリダクションドライブ軸51に伝達される動力は、リダクションドライブギヤ51Bからリダクションドリブンギヤ53A、リダクションドリブン軸53、ベベルギヤ54、トランスファピニオンギヤ56A、トランスファピニオン軸56を介してドッグ58に伝達される。
シフトスリーブ60の内周スプライン60aがハブ59の外周スプライン59aのみに嵌合された状態では、ドッグ58からハブ59への動力の伝達が遮断され、エンジン2の動力が、プロペラ軸11に伝達されない。この状態では、ハブ59から出力部材64を介してプロペラ軸11に動力が伝達されないので、車両1は、二輪駆動で走行する。
一方、電動アクチュエータ63によってシフトスリーブ60がトランスファピニオンギヤ56A側に移動されると、シフトスリーブ60の内周スプライン60aは、ドッグ58の外周スプライン58aおよびハブ59の外周スプライン59aに嵌合される(図5参照)。
このとき、エンジン2の動力が、ドッグ58からハブ59、出力部材64、プロペラ軸11、リヤディファレンシャル12、リヤドライブ軸7L、7Rを介して後輪9L、9Rに伝達される。これにより、車両1は、四輪駆動で走行する。
本実施例のドッグ58、ハブ59およびシフトスリーブ60は、二輪駆動と四輪駆動の切換えを行う切換機構を構成している。
図6において、ハブ59と出力部材64の間にはエンジン2の回転変動やトルク変動を吸収するダンパ部材68が設置されており、ダンパ部材68は、軸方向のハブ59の後端部に設置されている。
本実施例のトランスファ装置5は、ドッグ58がエンジン2に連絡されており、ハブ59は、ダンパ部材68を介して後輪9L、9Rに連絡されている。換言すれば、ダンパ部材68は、ドッグ58よりもエンジン2の動力伝達経路上において下流側に設置されている。
図7に示すように、ダンパ部材68は、アウタリング68Aと、インナリング68Bと、アウタリング68Aとインナリング68Bの間に設けられ、アウタリング68Aとインナリング68Bに圧着されたゴム等の弾性体68Cとから構成されている。
図5、図8に示すように、インナリング68Bは、弾性体68Cの内周部とトランスファピニオン軸56の軸方向に重なる内周面68rを有する環状部68Rと、環状部68Rに対して弾性体68Cの前端から前方に突出する環状突部68Tとを有する。
環状部68Rの内周面68rは、出力部材64の外周面と非嵌合状態で出力部材64の外周面に対向しており、環状部68Rの内周面68rと出力部材64の外周面との間にはオイルが流通可能な微小な隙間が形成されている。
環状突部68Tの内周面68tには内周スプライン68sが形成されており、内周スプライン68sは、弾性体68Cに対してトランスファピニオン軸56の軸方向前方に離れている。
本実施例のインナリング68Bは、本発明の内周部材を構成している。環状突部68Tの内周面68tは、本発明の第1の内周面を構成し、環状部68Rの内周面68rは、本発明の第2の内周面を構成する。
アウタリング68Aは、ハブ59の大径部59Aの内周面に圧入されており、ダンパ部材68は、ハブ59と一体で回転する。
ダンパ部材68の内周スプライン68sは、出力部材64の外周スプライン65aに嵌合されている。ダンパ部材68の内周スプライン68sと出力部材64の外周スプライン65aは、周方向に隙間が形成されている。
この隙間は、出力部材64の外周スプライン65aとハブ59の内周スプライン59bの周方向の隙間よりも小さく形成されている。
これにより、ダンパ部材68と出力部材64の相対回転は、出力部材64の外周スプライン65aとダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sの周方向の隙間によって第1の所定角度θ1よりも小さい第2の所定角度θ2に規制される。
ダンパ部材68のインナリング68Bの内周面と出力部材64の円筒部65の間には微小な隙間が形成されており、オイルが通過可能となっている。
ハブ59と出力部材64との間であって、ハブ59と出力部材64の前端部には円筒部材69が設置されており、円筒部材69は、ダンパ部材68よりも前側に位置している。
円筒部材69は、出力部材64と相対回転自在に設置されており、出力部材64に対してハブ59の偏心を防止している。円筒部材69は、トランスファピニオン軸56の軸方向でハブ59の内周スプライン59bと重なっている。
本実施例のドッグ58は、本発明の第1の動力伝達部材を構成し、ハブ59は、本発明の第2の動力伝達部材を構成する。ドッグ58の外周スプライン58aは、本発明の第1の外周スプラインを構成し、ハブ59の外周スプライン59aは、本発明の第2の外周スプラインを構成する。
出力部材64の外周スプライン65aは、本発明の第3の外周スプラインを構成し、シフトスリーブ60の内周スプライン60aは、本発明の第1の内周スプラインを構成する。ハブ59の内周スプライン59bは、本発明の第2の内周スプラインを構成し、ダンパ部材68の内周スプライン68sは、本発明の第3の内周スプラインを構成する。
トランスファピニオン軸56の軸方向の中央部にはナット70が締結されている。ナット70は、ドッグ58の後端部に当接しており、トランスファピニオンギヤ56Aは、スラスト玉軸受57のインナレース57Aの前端部に当接している。
トランスファピニオン軸56は、ナット70とトランスファピニオンギヤ56Aがスラスト玉軸受57およびドッグ58を挟持することにより、軸方向に位置決めされてトランスファケース45に取付けられ、ドッグ58と一体で回転する。
トランスファピニオン軸56の軸方向中央部にトランスファピニオン軸56の周方向に延びる段部56aが形成されており、段部56aには玉軸受67Bのインナレース67cの前端部が当接している。
出力部材64の円筒部65とフランジ部66の連絡部には出力部材64の周方向に延びる段部64aが形成されており、段部64aは、ダンパ部材68の後端部とトランスファピニオン軸56の軸方向で重なる位置に設けられている。段部64aにはダンパ部材68の後端部が当接している。
また、ハブ59とダンパ部材68とを相対回転させるために、ハブ59の大径部59Aと小径部59Bの連絡部とダンパ部材68との間に軸方向の隙間が形成されている。
出力部材64の円筒部65には出力部材64の周方向に延びる段部65bが形成されており、段部65bには玉軸受67Aのアウタレース67bの前端部(軸受の軸方向一端部)が当接している。出力部材64のフランジ部66の内周面にはサークリップ74が設けられており、サークリップ74は、玉軸受67Aのアウタレース67bの後端部(軸受の軸方向他端部)に当接している。
すなわち、玉軸受67Aは、アウタレース67bがトランスファピニオン軸56の軸方向で段部65bとサークリップ74に挟持されることにより、トランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされ、トランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっている。
なお、出力部材64において、玉軸受67Aのアウタレース67bの後端部(軸受の軸方向他端部)に段部65bを形成し、玉軸受67Aのアウタレース67bの前端部(軸受の軸方向一端部)にサークリップ74を設けてもよい。
トランスファピニオン軸56の後端部にナット71が締結されている。ナット71と玉軸受67Aのインナレース67aの間にはスペーサ72が介装されており、玉軸受67Aのインナレース67aと玉軸受67Bのインナレース67cの間にはスペーサ73が介装されている。
玉軸受67Bのインナレース67cの前端部は、段部56aに当接しており、玉軸受67Bのインナレース67cの後端部は、スペーサ73に当接している。
このため、トランスファピニオン軸56の後端部にナット71が締結されると、トランスファピニオン軸56の軸方向において玉軸受67A、67Bがスペーサ72、73を介して段部56aとナット71に挟持される。
これにより、出力部材64がトランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされ、トランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となる。
ダンパ部材68のインナリング68Bの後端部は、出力部材64の段部64aに当接しており、ダンパ部材68のインナリング68Bの前端部は、ハブ59の大径部59Aと小径部59Bの連絡部に当接している。
出力部材64の前端部の外周面にはサークリップ77が設けられており、サークリップ77には円筒部材69の前端部が当接している。円筒部材69の後端部は、ハブ59の内周スプライン59bに当接している。本実施例のサークリップ77は、本発明のクリップ部材を構成する。
これにより、トランスファピニオン軸56の軸方向で円筒部材69とハブ59とダンパ部材68とがサークリップ77と段部64aとに挟持されることにより、ダンパ部材68は、出力部材64に対してトランスファピニオン軸56の軸方向に位置決めされてトランスファピニオン軸56の軸方向に移動不能となっている。
図8に示すように、出力部材64の外周面には出力部材64の周方向に延びる段部64bが形成されており、段部64bは、段部64aよりも前側に位置している。段部64bは、出力部材64の軸方向でサークリップ77と段部64aの間に位置しており、サークリップ77と段部64aは、出力部材64の軸方向で段部64bと離れた位置に設置されている。
段部64aにはダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sの後端部が当接している。
これにより、段部64bとサークリップ77によって、円筒部材69とハブ59の内周スプライン59bとダンパ部材68の内周スプライン68sが出力部材64の軸方向に位置決めされている。本実施例の段部64bは、本発明の段部を構成する。
ハブ59の外周部にはリング部材78が設けられている。リング部材78は、出力部材64のフランジ部66の内周部に圧入されており、出力部材64と一体で回転する。
リング部材78の外周部にはオイルシール75が設けられており、オイルシール75は、トランスファピニオン軸56の軸方向、すなわち、出力部材64の軸方向でダンパ部材68に重なっている。換言すれば、オイルシール75は、トランスファピニオン軸56の軸方向と直交する方向でダンパ部材68と並んで設置されている。
本実施例の玉軸受67Aは、出力部材64のフランジ部66側に位置しており、玉軸受67Bは、円筒部65の突出方向先端部(前端部)側に位置している。オイルシール75は、トランスファピニオン軸56の軸方向で玉軸受67Aの後端部と玉軸受67Bの前端部の間に設置されており、トランスファピニオン軸56の軸方向で玉軸受67Aに重なっている。
具体的には、図5に示すように、オイルシール75は、玉軸受67Aの後端部と玉軸受67Bの前端部とをトランスファピニオン軸56の軸方向で結んだ範囲L内に設置されている。
玉軸受67Bの後側に位置する玉軸受67Aは、玉軸受67Bよりも径方向に大径に形成されている。すなわち、玉軸受67Aの径方向の寸法は、玉軸受67Bの径方向の寸法よりも大きく構成されている。
オイルシール75の内周面は、リング部材78に密着しており、オイルシール75の外周面は、切換機構ケース46に密着している。このため、オイルシール75によって切換機構ケース46と出力部材64のフランジ部66との間の開口が閉塞され、切換機構ケース46の内部がオイルシール75によって密閉される。したがって、切換機構ケース46の内部からオイルが漏出することを防止できる。
オイルシール75の内径は、ハブ59、ダンパ部材68、円筒部材69およびリング部材78の外径よりも大径に形成されている。ダンパ部材68は、トランスファピニオン軸56の軸方向でオイルシール75、リング部材78およびハブ59の大径部59Aに重なっている。
スペーサ72の外周部にはオイルシール79が設けられている。オイルシール79の内周面は、スペーサ72に密着しており、オイルシール79の外周面は、出力部材64のフランジ部66に密着している。
これにより、切換機構ケース46の内部がオイルシール79によって密閉され、出力部材64とスペーサ72の間から切換機構ケース46の内部からオイルが漏出することを防止できる。
トランスファピニオン軸56の内部には潤滑用のオイルが流れるオイル通路56Bが形成されている。オイル通路56Bの前端部は開口しており、オイル通路56Bの後端部は、開口端から玉軸受67Aまで延びている。
トランスファピニオン軸56には放射孔56Cが形成されており、放射孔56Cは、オイル通路56Bから放射方向(径方向)に延び、延びる方向の端部が開口している。
オイル通路56Bの開口端にはベベルギヤ54によって掻き上げられたオイルが導入され、オイル通路56Bを流れるオイルは、トランスファピニオン軸56の回転による遠心力によって放射孔56Cから外方に吐出される。
ここで、図5にトランスファケース45に貯留されるオイルO1の油面と切換機構ケース46に貯留されるオイルO2の油面を示す。
スペーサ73には貫通孔73aが形成されており、放射孔56Cから外方に吐出されるオイルは、スペーサ73の貫通孔73aを通って玉軸受67Aと玉軸受67Bの間の空間に導入される。これにより、玉軸受67Aと玉軸受67Bがオイルによって潤滑される。
出力部材64の円筒部65には貫通孔65cが形成されており、玉軸受67Aと玉軸受67Bの間の空間に導入されるオイルは、貫通孔65cから吐出され、ダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sと出力部材64の外周スプライン65aを潤滑する。
出力部材64とフランジ部66とリング部材78の間の空間にはオイル溜まり76が形成されている。具体的には、リング部材78は、オイル溜まり76の外周部に設けられており、出力部材64とフランジ部66の空間を外方から囲むことで、オイル溜まり76内にオイルが一時的に貯留される。
内周スプライン68sと外周スプライン65aを潤滑したオイルは、出力部材64の円筒部65とダンパ部材68のインナリング68Bの間の隙間を通ってダンパ部材68と出力部材64のフランジ部66の間のオイル溜まり76に一時的に貯留される。
一方、貫通孔65cから吐出されたオイルは、ハブ59の内周スプライン59bと出力部材64の外周スプライン65aを潤滑した後、出力部材64と円筒部材69の間の隙間を通過し、ドッグ58とハブ59の間の隙間を通って径方向外方に吐出される。
ドッグ58とハブ59の間の隙間から径方向外方に吐出されたオイルは、ドッグ58の外周スプライン58aおよびハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aとを潤滑する。
また、オイル溜まり76に多くのオイルを貯留できるので、ダンパ部材68のインナリング68Bと出力部材64の嵌合面、ハブ59の内周スプライン59bと出力部材64の外周スプライン65a、円筒部材69と出力部材64の嵌合面の潤滑性能を向上できる。
次に、作用を説明する。
車両1の二輪駆動時にはシフトスリーブ60の内周スプライン60aがハブ59の外周スプライン59aのみに噛み合っている(図6参照)。
二輪駆動から四輪駆動に切換えるには、電動アクチュエータ63によってシフト軸62が軸方向前方に駆動するようにシフト軸62を駆動し、シフトスリーブ60を前側に移動させる。
ドッグ58とハブ59が同期されると、シフトスリーブ60の内周スプライン60aがドッグ58の外周スプライン58aに噛み合い、ドッグ58とハブ59がシフトスリーブ60を介して連結される。
このとき、エンジン2の動力がトランスミッション3およびフロントディファレンシャル4のデフケース38を介してリダクションドライブ軸51に伝達された後、リダクションドライブギヤ51B、リダクションドリブンギヤ53A、リダクションドリブン軸53、ベベルギヤ54、トランスファピニオン軸56、ドッグ58を介してハブ59に伝達される。
エンジン2の動力は、ハブ59から出力部材64、プロペラ軸11、リヤディファレンシャル12に伝達された後、リヤディファレンシャル12によってリヤドライブ軸7L、7Rに分配された後、後輪9L、9Rに伝達される。図8において、四輪駆動時のトランスファ装置5における動力伝達経路82、83を矢印で示す。
一方、ハブ59の内周スプライン59bと出力部材64の外周スプライン65aによってハブ59と出力部材64の相対回転を第1の所定角度θ1に規制し、出力部材64の外周スプライン65aとダンパ部材68のインナリング68Bの内周スプライン68sによって出力部材64とダンパ部材68の相対回転を第1の所定角度θ1よりも小さい第2の所定角度θ2に規制している。
これにより、四輪駆動時にエンジン2の回転変動やトルク変動がハブ59に入力され、ハブ59と出力部材64が相対回転した場合に、ダンパ部材68の弾性体68Cが弾性変形することにより、エンジン2の回転変動やトルク変動を吸収できる。
このとき、ハブ59からダンパ部材68を介して出力部材64に動力が伝達される。図8において、ダンパ部材68を通して動力が伝達される動力伝達経路83を破線の矢印で示す。
次に、本実施例のトランスファ装置5の効果を説明する。
本実施例のトランスファ装置5によれば、ハブ59と出力部材64の間に、ハブ59と一体で回転するダンパ部材68が設けられており、出力部材64の外周面に、外周スプライン65aが形成されている。
ダンパ部材68は、弾性体68Cと、弾性体68Cの内周面に設けられ、内周スプライン68sが形成された内周面68tおよび出力部材64の外周面に非嵌合状態で対向する内周面68rを有する筒状のインナリング68Bとを含んで構成されており、内周スプライン68sは、弾性体68Cに対してトランスファピニオン軸56の軸方向前方に離れている。
これにより、弾性体68Cの径方向内方に内周スプライン68sが位置することを防止して、弾性体68Cの径方向の寸法を内周スプライン68sの分だけ増大できる。
このため、切換機構ケース46の径方向の寸法が増大することを防止しつつ、弾性体68Cの径方向の厚みを増大でき、ダンパ部材68の耐久性が低下することを防止できる。
また、インナリング68Bは、出力部材64の外周面に非嵌合状態で対向する内周面68rを有するので、インナリング68Bによってダンパ部材68の芯出しを行うことができ、ハブ59が径方向に偏心することを防止できる。
これにより、ダンパ部材68の振れ回りを防止でき、ダンパ部材68によってエンジン2のトルク変動や回転変動をより効果的に吸収できる。
この結果、ドッグ58の外周スプライン58aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aや、ハブ59の外周スプライン59aとシフトスリーブ60の内周スプライン60aの接触時の衝撃を効果的に緩和でき、接触するスプライン同士の歯打ち音が発生することを防止できる。
また、本実施例のトランスファ装置5によれば、トランスファピニオン軸56の径方向でハブ59と出力部材64との間に、出力部材64と相対回転自在な円筒部材69が設置されている。
ダンパ部材68は、ハブ59の後端部に設置されており、円筒部材69は、ダンパ部材68より前側に位置するようにハブ59の前端部に設置されている。
これにより、ダンパ部材68と円筒部材69によって出力部材64に対するハブ59の芯出しを行うことができる。
このため、ダンパ部材68が径方向に偏心することをより効果的に防止できることに加えて、ハブ59が径方向に偏心することを防止できる。この結果、ダンパ部材68の振れ回りをより効果的に防止でき、ダンパ部材68によってエンジン2のトルク変動や回転変動をより効果的に吸収できる。
また、本実施例のトランスファ装置5によれば、出力部材64は、出力部材64の外周面において周方向に延びる段部64bと、段部64bから出力部材64の軸方向に離れた出力部材64の外周部に設けられたサークリップ77とを有する。
これに加えて、段部64bとサークリップ77によって、円筒部材69とハブ59の内周スプライン59bとダンパ部材68の内周スプライン68sが出力部材64の軸方向に位置決めされている。
これにより、ダンパ部材68を介さずにハブ59の内周スプライン59bを出力部材64の外周スプライン65aを嵌合できる。このため、ダンパ部材68が劣化した場合であっても、四輪駆動時にハブ59から出力部材64にエンジン2の動力を安定して伝達できる。
ここで、トランスファピニオン軸56を支持するスラスト玉軸受57は、トランスファピニオン軸56の前部に位置しており、スラスト玉軸受57は、トランスファピニオン軸56の後部から前方に離れている。また、出力部材64は、トランスファピニオン軸56の後部に設置されている。
このため、トランスファピニオン軸56で発生するラジアル荷重は、トランスファピニオン軸56の後部に行く程、大きくなる。
本実施例のトランスファ装置5は、内周スプライン68sが弾性体68Cに対してトランスファピニオン軸56の軸方向前方に離れており、弾性体68Cの径方向の寸法を内周スプライン68sの分だけ増大できる。
これにより、玉軸受67Bの後方であって、ダンパ部材68と軸方向で重なる玉軸受67Aの径方向の寸法を玉軸受67Bの径方向の寸法よりも大きくできる。このため、トランスファピニオン軸56の後部に作用するラジアル荷重に対してトランスファピニオン軸56と出力部材64の支持剛性を確保できる。
この結果、トランスファピニオ56や出力部材64が径方向に偏心することを防止でき、四輪駆動時にトランスファ装置5から後輪9L、9Rに動力を円滑に伝達できる。
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。