JP7308480B2 - 燃焼機関の実時間性能予測方法及び実時間性能予測プログラム - Google Patents
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Description
したがって、常にすべての運転点で推進システムの最適動作を追求する方向において、状態の推定及び実際の効率の追跡は非常に重要である。この点で、運用中に共存する推進システムの仮想モデル(デジタルツイン)を構築して、運用の予測と洞察を提供することは、実現可能な解決策の1つである。デジタルツインは推進システムの現在の状態をモデル化するために使用される物理学ベースのモデルの組織的な修正版である。デジタルツインの重要な要件は、すべての運転条件下で、ほぼリアルタイムに性能が物理的な対応物に確実に一致するようにし、推進プラント固有の特性を正確に反映するモデルであることである。
ディーゼルエンジンは、燃料の化学エネルギーを機械エネルギーに効率的に変換するため、船舶推進システムにとってなくてはならないものであり続けているため、デジタルツインの中核部分と見なされており、ディーゼルエンジンのモデリングは最も重要である。
ディーゼルエンジンのモデリングは、コンピュータシミュレーションの開発以来長年にわたって発展してきており、その複雑さの程度に応じて、伝達関数モデル、準定常平均値モデル、及び充填-空化現象論モデルなど、さまざまなモデルタイプを区別することができる。特定のモデルの選択は、前述のデジタルツインの要件(リアルタイムの実行時間とエンジンの作業プロセスについての洞察)によって決まる。推進システムの分野においては、サイクル平均値(CMV)エンジンモデリングアプローチは、単純さと詳細さとの間の妥協において、エンジン定常性能及び過渡応答の評価に広く使用されている。サイクル平均値(CMV)モデルで採用されている主な仮定は、エンジンはスロットルで直列に接続されたボリュームと見なされ、コンプレッサーによって押し出された空気と排気ガスはエンジンの動作周期に関係なく連続的に流れているとみなすことである。この点において、サイクル平均値(CMV)エンジンモデルは、エンジンの極めて重要な要素である燃焼挙動の予測を欠いており、その結果として、エンジンの効率と同様に、正味燃料消費率(bsfc)に対する異なる設定の影響は、無視される。この欠点を克服するために多くの試みがなされている。例えば、経験的マップ又は人工ニューラルネットワーク(ANN)を利用して燃焼サイクルを模擬するような、古典的なサイクル平均値(CMV)モデルへの様々な拡張が導入されている(非特許文献1-3)。
一方、燃焼関連パラメータは、シリンダープロセスをいくつかの離散的な段階に分割し、温度、圧力と仕事の平均値を使用して代数関数のみを利用して計算する、Seiligerサイクルアプローチで推定することもできる(非特許文献4)。このアプローチは、非特許文献5で小型タンカーの完全な推進システムを構築するために使用され、非特許文献6では、排気ガス再循環システムと可変ノズル面積過給機タービンを備えたエンジンの制御指向モデルを開発するために使用された。非特許文献7では、サイクル平均値(CMV)モデル化手法に対するさらなる改良が提案され、そこでは現象論的燃焼モデルがエンジンサイクルの閉部分(特にEVC(排気弁閉成タイミング:exhaust valve close timing, deg)からEVO(排気弁開成タイミング:exhaust valve open timing, deg)まで)を表すために使用され、サイクル平均値(CMV)モデルは空気及び排気ガスのシミュレーションに使用され、他のエンジン部品の計算に使用された。サイクルモデルは各時間ステップで呼び出される必要があるクランク角分解保存則と現象論的燃焼モデルで構成されているが、微分形式で表され、それらの解はリアルタイム実行制約を満たさない。
また、特許文献2には、実際のエンジンの吸気通路に、上流側から下流側へ順次、エアフローセンサ、スロットル弁、排気ターボ式過給機、インタークーラ、電動式過給機、吸気圧力センサが配設され、エンジン制御系として、吸気状態について影響を与える実際の機器類の特性と同一の特性を有するように設定された仮想機器類を複数種組み合わせて構成された同定モデルが設定されるエンジンの制御装置が開示されている。
また、特許文献3には、4サイクル多気筒ガスエンジンの各気筒のサイクルを吸気行程、圧縮行程、膨張行程、及び排気行程に区分して、サイクルタイム毎の1気筒当りの性能を計算するシリンダモデルを用い、4サイクル多気筒ガスエンジンの全気筒について、各気筒の行程順序に対応させて、シフト関数を用いてサイクルタイム分ずらして同時に各気筒分のエンジン性能を計算し、これを統合して4サイクル多気筒ガスエンジンのエンジン性能を計算する4サイクル多気筒ガスエンジンのシミュレーション方法が開示されている。
特許文献3には、システム全体のサイクルタイムを決め、各シリンダ(気筒)の行程をシフト関数によりサイクルタイム分ずらして同時に各気筒分のエンジン性能を計算することが記載されているが、当該サイクルタイムはクランク軸の半回転に相当するものであり、精度が制御に使えるほど十分とはいえない。
また、エンジンの性能を精度よく予測するプログラムは実用されているが、いずれも計算時間が長く、実時間(オンライン)では使用できない。
そこで本発明は、精度が制御に使えるほど十分高く、しかも計算時間が短くリアルタイムで使用可能な燃焼機関の実時間性能予測方法及び実時間性能予測プログラムを提供することを目的とする。
請求項1に記載の本発明によれば、掃排気状態の予測と燃焼挙動による予測とを合理的に統合して、制御に使用できるほどの十分高い精度と計算時間をもって燃焼機関の性能予測を実時間で行うことができる。また、掃気と排気を連続した流れとして、気筒の1サイクル当たりの平均値に基づいた掃気量及び排気量を導出するため、複数ある気筒に対してサイクル平均値(CMV)モデルを用いても誤差を少なくすることができる。
請求項2に記載の本発明によれば、掃気レシーバと排気レシーバの圧力を複数の気筒に対して同一の圧力をもって扱うことができる。
請求項3に記載の本発明によれば、排気弁の閉成から開成までという区間に限定することで、実際に気筒内での燃焼に関連した計算に限定ができ、気筒の初期状態が明確となり、微分方程式ではなく差分法を用いて燃焼に伴う物理量の変化を計算することができるため、迅速に解を求めクランク角度毎に現象モデルによる燃焼状態の計算を行うことができる。
請求項4に記載の本発明によれば、現象モデルによる燃焼状態の計算を燃焼の熱発生パターンを近似して迅速に行うことができる。
請求項5に記載の本発明によれば、微分方程式を解く場合等と比較して現象モデルによる燃焼状態の計算を迅速に行うことができる。
請求項6に記載の本発明によれば、微分方程式を解いたり近似解を求めるのではなく差分法で二次方程式化することで、現象モデルによる燃焼状態の予測を迅速に行うことができる。
請求項7に記載の本発明によれば、現象モデルによる燃焼状態の計算を排気弁の閉成から開成までの間で迅速に完了することができる。
請求項8に記載の本発明によれば、燃焼機関の性能評価に必要なこれらのパラメータに関連した性能予測やモデルの改善を行うことができる。
請求項9に記載の本発明によれば、得られたパラメータを有効に活用することができる。
請求項10に記載の本発明によれば、掃排気状態の予測と燃焼挙動による予測とを合理的に統合して、制御に使用できるほどの十分高い精度と計算時間をもって性能予測を実時間で行うことができる。また、掃気と排気を連続した流れとして、気筒の1サイクル当たりの平均値に基づいた掃気量及び排気量を導出するため、複数ある気筒に対してサイクル平均値(CMV)モデルを用いても誤差を少なくすることができる。
請求項11に記載の本発明によれば、掃排気状態と燃焼状態の予測に必要な燃焼機関の回転数、トルク、燃料投入量、掃気圧、排気圧、排気温度、又は排ガス温度を考慮した性能予測を行うことができる。
請求項12に記載の本発明によれば、実時間性能予測の精度を向上させることができる。
請求項13に記載の本発明によれば、実時間性能予測の精度を向上させることができる。
請求項14に記載の本発明によれば、クランク角度毎に現象モデルによる燃焼状態の計算を燃焼の熱発生パターンを近似して行うことができる。
請求項15に記載の本発明によれば、微分方程式を解いたり近似解を求めるのではなく差分法で二次方程式化することで、現象モデル計算ステップにおける燃焼状態の計算を迅速に行なうことができる。
請求項16に記載の本発明によれば、これらのパラメータに関連した性能予測やモデルの改善を行うことができる。
仮想プラント(サイクル平均値(CMV)モデル、現象モデル)2は実プラント(燃焼機関)1をモデル化したものであり、仮想プラント2を用いて実時間性能予測を行う。また、予測した結果の信号を変換するアナログ信号インターフェース3、燃焼機関の制御等を行うマイクロコントローラ4.及び燃焼機関の状態予測結果や状態判断結果を表示するモニタを備えたコンピュータ5の間ではデータ交換が行われる。
船舶10に設置されている指令器11からの指令に基づきガバナー12が燃料ラックを制御して過給機13を備えた燃焼機関(エンジン)14へ燃料を供給する。燃焼機関14にはシャフト15を介してプロペラ16が接続されている。
船体ダイナミクスは下式(1)で表される。
エンジントルクQeはブレーキ平均有効圧力Pb(Qe∝Pb)に比例し、これはエンジンシリンダ内の燃料燃焼の結果である。
従来、詳細に応じて、発生トルクに関してエンジン性能をシミュレートする2つの主な方法がある。一つは排気系をモデル化したサイクル平均値(CMV:Cycle-Mean Value Engine)モデルを使用するものであり、もう一つは燃焼機関14の気筒の燃焼挙動モデルをモデル化した現象モデルを使用するものである。現象モデル(Phenomenological Model)としては、充填-空化モデル(Filling-Emptying Model)が挙げられる。
サイクル平均値(CMV)モデルによる予測は、時間領域における連続微分方程式の結果を高速で得られるが、燃焼機関14の性能に関する限られた情報である。
また、現象モデルによる予測は、燃焼機関14の性能に関する豊富な情報が得られるが、計算が遅いためクランクシャフト角度領域における連続微分方程式の計算結果を迅速に得られない。
そこで、本実施形態では、燃焼機関14の掃気系、排気系をモデル化したサイクル平均値(CMV)モデルによる掃排気状態の予測と、燃焼機関14の気筒の燃焼挙動をモデル化した現象モデルによる燃焼状態の予測とを統合して用いる。
図4には、空気圧縮機17、空気冷却器18、掃気レシーバ19、気筒(シリンダ)20、排気レシーバ21、燃料ポンプ22、タービン23、コンピュータ5を示している。また、図5では、空気圧縮機17、掃気レシーバ19、気筒20、排気レシーバ21、タービン23を示している。
まず、初期条件として燃焼機関14等に関する定数やパラメータを入力する(S1:初期条件入力ステップ)。初期条件としては、燃焼機関14の回転数、トルク、燃料投入量、掃気圧、排気圧、排気温度、又は排ガス温度のうちの少なくとも1つを含むことが好ましい。これにより、掃排気状態と燃焼状態の予測に必要な燃焼機関14の回転数、トルク、燃料投入量、掃気圧、排気圧、排気温度、又は排ガス温度を考慮した性能予測を行うことができる。なお、初期条件として入力するパラメータには、実船モニタリングにより取得した実データを用いることもできる。
また、使用するサイクル平均値(CMV)モデルと、現象モデルを設定する(S2:モデル設定ステップ)。
現象モデル計算ステップS4の後、排気弁が開成か否かを判断する(S5:排気弁開成確認ステップ)。
排気弁開成確認ステップS5において排気弁が開成でないと判断した場合は、i=i+1として現象モデル計算ステップS4に戻る。現象モデル計算ステップS4において、サイクルごとに燃焼状態の計算を繰り返すことで、実時間性能予測の精度を向上させることができる。
排気弁開成確認ステップS5において排気弁が開成であると判断した場合は、現象モデル計算ステップS4における計算結果を出力する(S6:現象モデル計算結果出力ステップ)。
更新、出力するパラメータとしては、燃焼機関14への掃気系、排気系の各部の圧力、温度、流量、気筒からの排気エネルギー、気筒20の気筒内圧力、気筒内温度、及び燃焼機関14のトルク、回転数、ガバナー状態、燃料消費量、負荷の少なくとも1つを含むものであることが好ましい。これにより、これらのパラメータに関連した性能予測やモデルの改善を行うことができる。なお、図6では更新、出力するパラメータとして、コンプレッサーパワーWc、空気圧Ps、排気温度Texh、排気レシーバ21内の排ガス質量Mexh、燃焼機関14の回転速度neを例示している。
終了判断ステップS8において終了時刻Tendに達していないと判断した場合は、j=j+1としてサイクル平均値(CMV)モデル計算ステップS3に戻る。サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップS3において、サイクルごとに掃排気状態の計算を繰り返すことで、モデルが実際の燃焼機関14に益々近似し、実時間性能予測の精度を向上させることができる。
終了判断ステップS8において終了時刻Tendに達したと判断した場合は、サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップS3と現象モデル計算ステップS4の計算結果から導出される燃焼機関14の性能に関連したパラメータを出力し(S9:出力ステップ)、実時間性能予測を終了する。
また、サイクル平均値(CMV)モデルは過給機を含み、燃焼機関14を通過する掃気と排気を連続した流れとして、気筒20の1サイクル当たりの平均値に基づいた掃気量及び排気量を導出することで、掃気と排気を連続した流れとして、気筒20の1サイクル当たりの平均値に基づいた掃気量及び排気量を導出するため、複数ある気筒20に対してサイクル平均値(CMV)モデルを用いても誤差を少なくすることができる。
また、サイクル平均値(CMV)モデルは、掃気系の気筒20の直前の掃気レシーバ19における掃気圧力と、排気系の気筒20の直後の排気レシーバ21における排気圧力とを、掃気量及び排気量と燃焼挙動に伴う熱バランスから導出することで、掃気レシーバ19と排気レシーバ21の圧力を複数の気筒20に対して同一の圧力をもって扱うことができる。また、掃気系と排気系は気体の系であり、爆発等の急激な圧力変化がないところ、サイクル平均値(CMV)を用いても複数の気筒20に対して圧力を同一に扱うことができる。このことは、現象モデルの条件として排気弁の閉成時と開成時に各気筒20に作用する掃気圧と排気圧を同一に扱うことができ、計算が単純化できる。
また、現象モデルは、気筒20の排気弁の閉成から排気弁の開成までのクランク角度毎に気筒20における燃料の燃焼に伴う物理量の変化を計算することで、排気弁の閉成から開成までという区間に限定して実際に気筒20内での燃焼に関連した計算に限定ができ、気筒20の初期状態が明確となり、微分方程式ではなく差分法を用いて燃焼に伴う物理量の変化を計算することができるため、迅速に解を求めクランク角度毎に現象モデルによる燃焼状態の計算を行うことができる。
また、クランク角度毎の燃焼に伴う物理量の変化として、燃焼に伴う温度上昇の変化を用い、温度上昇の計算に当たっては、燃焼の熱発生パターンを近似するウィーベ(Wiebe) 関数を用いることで、現象モデルによる燃焼状態の計算を燃焼の熱発生パターンを近似して迅速に行うことができる。
また、クランク角度毎の温度上昇の計算は、クランク角度毎の温度上昇の差分を求める計算とすることで、微分方程式を解く場合等と比較して現象モデルによる燃焼状態の計算を迅速に行うことができる。
また、クランク角度毎の物理量の変化の計算は、気筒20の排気弁の閉成から排気弁の開成までの間において導出することで、現象モデルによる燃焼状態の計算を排気弁の閉成から開成までの間で迅速に完了することができる。
また、燃焼機関14の性能に関連したパラメータは、燃焼機関14への掃気系、排気系の各部の圧力、温度、流量、気筒からの排気エネルギー、気筒20の気筒内圧力、気筒内温度、及び燃焼機関14のトルク、回転数、ガバナー状態、燃料消費量、負荷の少なくとも1つを含むものであることで、燃焼機関の性能評価に必要なこれらのパラメータに関連した性能予測やモデルの改善を行うことができる。
また、導出された燃焼機関の性能に関連したパラメータに基づいて、燃焼機関14の状態表示、燃焼機関14の状態判断、燃焼機関14の制御の少なくとも1つを行うことで、得られたパラメータを有効に活用することができる。
1.モデルの構成
[1.1 推進プラントのシステム解析]
システム分析の方法(非特許文献8:Koz’minykh A.V. Fundamentals of ship propulsion plant system analysis. (in Russian). Odessa National Maritime Academy; 2000.)に従って、検討中のシステムは階層的にいくつかの下位レベルの部位に分解される。次に、設計情報等と物理変数を決定して、各部の相互接続を確立する。さらに、すべての部位は、入出力関係に関して一般的かつ再構成可能な数学モデルによって記述される有限数の構成要素に分解される。分解の深さは、必要な詳細レベルと与えられる情報量によって異なる。
このように、従来の推進プラントは、下式(4)に従って、軸の回転運動を介して連動するプロペラとエンジン(燃焼機関)という2つの主要な部位で構成されていると見なされる。
エンジントルクθeは、1サイクルの間にシリンダ内に発生した正味平均有効圧力(BMEP)Pbの結果であり下式(5)で表される。
船舶推進シミュレーションに関しては、一般に、トルクに関するプロペラ性能のシミュレーションは準定常的アプローチが採用されている。これはプロペラへの水の流入速度の変動部分も考慮した、プロペラ単独特性のマップの形でのトルク特性の表現に基づいている(非特許文献9:Taskar B., Yum K.K., Pedersen E., Steen S. Dynamics of a Marine Propulsion System With a Diesel Engine and a Propeller Subject to Waves. In: Proceedings of the ASME 2015 34th International Conference on Ocean, Offshore and Arctic Engineering. (OMAE 2015, Newfoundland, Canada).)。本実施形態ではプロペラの詳細な考察は対象外であるので、下式(6)のようにエンジン最大連続定格(MCR)点を通る単純なプロペラ二乗則を代わりに使い、次のように考察する。
商船の大多数は、原動機として低速2ストローク舶用ディーゼルエンジンを利用している。エンジンモデルの目的は発生する正味平均有効圧力(BMEP)に関するエンジンの外部特性を表すことであり、それは一般に回転速度、空気質量流量、燃料質量流量などのエンジン状態の関数である(非特許文献10:Xiros N. Robust control of diesel ship propulsion. Springer; 2002.)。必要な状態は、後述するようにサイクル平均値(CMV)モデルにおいて生成される。
サイクル平均値(CMV)モデルで使用される仮定は、集中定数モデルを形成する有限数の制御体積及び抵抗要素にエンジンを分解することができるということである。図4に示すこれらの構成要素は、シリンダ18、掃気レシーバ19、排気レシーバ21、空気冷却器18、過給機の空気圧縮機17及タービン23である。
エンジンの状態を記述するのに必要な基本方程式は、上述の構成要素に適用される熱力学的法則から得ることができる。したがって、掃気レシーバ19内の空気圧は、次の式(7)の形式で質量流量のバランスから求められる。
次の式(9)に従って、空気圧縮機17を出る空気の温度Tcは、コンプレッサーの等エントロピー効率の定義を使用して評価される(非特許文献11:Slobodyanyuk L.I., Polyakov V.I. Ship’s steam and gas turbines principles of operation. (in Russian). Shipbuilding, Leningrad; 1983.)。
掃気レシーバ19と同様に、排気レシーバ21内のガス状態は、次の式(11)のように質量とエネルギーのバランスと理想ガスの法則を使用して計算される。
古典的なアプローチ(非特許文献10、非特許文献12:Theotokatos G. On the cycle mean value modelling of a large two-stroke marine diesel engine. Proc. IMechE, vol. 224 Part M: J. Engineering for the Maritime Environment, p.193-205, 2010.)では、排気ガスのエネルギー率は燃焼による掃気のエネルギー率の増分と考えられ、次の式(13)のように与えられた。
式(7)及び式(8)で必要とされる圧縮機の空気質量流量Gcは、下式(16)のように空気圧縮に必要な等エントロピー仕事の方程式から計算することができる。
FMEP計算では、ChenとFlynnの摩擦相関(非特許文献17:Chen S.K., Flynn P. Development of a compression ignition research engine. SAE Paper No. 650733; 1965.)が選択され、実験的測定値と一致する摩擦損失が得られるように倍率が使用された。
[2.1 クローズドサイクルの説明]
全エンジンサイクルは、ガス交換(新規空気導入及び燃焼ガス排出)、圧縮、燃焼及び膨張のようないくつかの段階からなる。本実施形態による燃焼機関の実時間性能予測では、サイクルのガス交換部分を特徴付けるパラメータは、(前述のように)1サイクルにわたって平均化された連続変数としてモデル化される。サイクルの残りのパラメータは、定常開放系に適用されるゼロ次元熱力学的アプローチを考慮して計算される(非特許文献7)。このような場合、質量とエネルギーに関する保存則のみが、作動媒体の状態が空間的に均質であり時間と共に変化する理想気体であると仮定して考慮される。
燃料燃焼による熱の流れdQfは次の式(26)の通りである。
これらのパラメータC,mとφzは燃焼速度の形状を特徴付けるものであり、これはエンジンのあらゆる動作点に適合させるべきである。しかしながら、実際的な考察のために、エンジン運転条件との上述のパラメータの様々な相関関係が導入されており(非特許文献4、非特許文献18:Medica V., Simulation of turbocharged diesel engine driving electrical generator under dynamic working conditions [dissertation]. Rijeka, Croatia: University of Rijeka; 1988.、非特許文献19)、それらの相関関係における定数が較正パラメータとして考慮されている。さらに、解離過程の損失及び不完全な燃料燃焼を考慮に入れるために、燃焼効率ηcが式(26)に導入される。
式(28)で導入された補正係数CTは、燃料噴射がTDCの後に行われる場合には負であり得る遅延期間中の温度勾配を説明する。
シリンダ内のガスの膨張又は圧縮によってピストンに伝達される仕事は、次の式(29)ように評価される。
下式(30)のように2つの有限状態間の内部エネルギーの変化を考慮して、式(24)の熱力学の第1法則を積分形式で書き換えることから検討を始める。
ここで、式(32)と式(33)で定義された熱容量を使って、下式(37)のように遷移の両端での内部エネルギーを定義する。
14 燃焼機関
19 掃気レシーバ
20 気筒
21 排気レシーバ
S1 初期条件入力ステップ
S2 モデル設定ステップ
S3 サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップ
S4 現象モデル計算ステップ
S9 出力ステップ
Claims (16)
- 初期条件に基づき、燃焼機関の掃気系、排気系をモデル化した過給機を含んだサイクル平均値(CMV)モデルによる掃排気状態の予測と、前記燃焼機関の複数の気筒の燃焼挙動をモデル化した現象モデルによる燃焼状態の予測とを統合して用い、前記燃焼機関の性能に関連したパラメータを実時間で予測して導出するにあたり、前記燃焼機関を通過する掃気と排気を連続した流れとして、前記気筒の1サイクル当たりの平均値に基づいた掃気量及び排気量を導出するとともに、前記掃気量、前記排気量、及び前記燃焼挙動に伴う熱バランスから掃気圧力と排気圧力とを導出し、複数の前記気筒に対して圧力を同一に扱うことを特徴とする燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 前記サイクル平均値(CMV)モデルは、前記掃気系の前記気筒の直前の掃気レシーバにおける前記掃気圧力と、前記排気系の前記気筒の直後の排気レシーバにおける前記排気圧力とを、前記掃気量及び前記排気量と前記燃焼挙動に伴う熱バランスから導出することを特徴とする請求項1に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 前記現象モデルは、前記気筒の排気弁の閉成から前記排気弁の開成までのクランク角度毎に前記気筒における燃料の燃焼に伴う物理量の変化を計算するものであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 前記クランク角度毎の前記燃焼に伴う前記物理量の変化として、前記燃焼に伴う温度上昇の変化を用い、前記温度上昇の前記計算に当たっては、前記燃焼の熱発生パターンを近似するウィーベ(Wiebe) 関数を用いることを特徴とする請求項3に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 前記クランク角度毎の前記温度上昇の前記計算は、前記クランク角度毎の前記温度上昇の差分を求める計算であることを特徴とする請求項4に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 前記クランク角度毎の前記物理量の変化の前記計算は、前記気筒の前記排気弁の閉成から前記排気弁の開成までの間において導出することを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 前記燃焼機関の性能に関連した前記パラメータは、前記燃焼機関への前記掃気系、前記排気系の各部の圧力、温度、流量、前記気筒からの排気エネルギー、前記気筒の気筒内圧力、気筒内温度、及び前記燃焼機関のトルク、回転数、ガバナー状態、燃料消費量、負荷の少なくとも1つを含むものであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- 導出された前記燃焼機関の性能に関連した前記パラメータに基づいて、前記燃焼機関の状態表示、前記燃焼機関の状態判断、前記燃焼機関の制御の少なくとも1つを行うことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の燃焼機関の実時間性能予測方法。
- コンピュータに、
燃焼機関の掃気系、排気系をモデル化した過給機を含んだサイクル平均値(CMV)モデル、及び前記燃焼機関の複数の気筒の燃焼挙動をモデル化した現象モデルを設定するモデル設定ステップと、
初期条件を入力する初期条件入力ステップと、
入力された前記初期条件に基づいて前記サイクル平均値(CMV)モデルで掃排気状態の計算を行うサイクル平均値(CMV)モデル計算ステップと、
前記初期条件及び前記サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップの計算結果に基づいて前記現象モデルで燃焼状態の計算を行う現象モデル計算ステップと、
前記サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップと前記現象モデル計算ステップの計算結果から導出される前記燃焼機関の性能に関連したパラメータを出力する出力ステップと
を実行させるにあたり、前記サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップで、前記燃焼機関を通過する掃気と排気を連続した流れとして、前記気筒の1サイクル当たりの平均値に基づいた掃気量及び排気量を導出するとともに、前記掃気量、前記排気量、及び前記燃焼挙動に伴う熱バランスから掃気圧力と排気圧力とを導出して、複数の前記気筒に対して圧力を同一に扱うことを特徴とする燃焼機関の実時間性能予測プログラム。 - 前記初期条件入力ステップで入力する前記初期条件として、前記燃焼機関の回転数、トルク、燃料投入量 、掃気圧、掃気温度、及び排ガス温度のうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項10に記載の燃焼機関の実時間性能予測プログラム。
- 前記サイクル平均値(CMV)モデル計算ステップにおいて、サイクルごとに前記掃排気状態の計算を繰り返すことを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の燃焼機関の実時間性能予測プログラム。
- 前記現象モデル計算ステップにおいて、サイクルごとに前記燃焼状態の計算を繰り返すことを特徴とする請求項10から請求項12のいずれか1項に記載の燃焼機関の実時間性能予測プログラム。
- 前記現象モデル計算ステップにおける前記燃焼状態の計算は、前記気筒の前記燃焼挙動を前記気筒の排気弁の閉成から前記排気弁の開成までの前記気筒のクランク角度毎に、燃焼に伴う熱発生パターンを近似するウィーベ(Wiebe) 関数を用いて行なうことを特徴とする請求項10から請求項13のいずれか1項に記載の燃焼機関の実時間性能予測プログラム。
- 前記出力ステップにおける出力は、前記パラメータとして前記燃焼機関への前記掃気系、前記排気系の各部の圧力、温度、流量、前記気筒からの排気エネルギー、前記気筒の気筒内圧力、気筒内温度、及び前記燃焼機関のトルク、回転数、ガバナー状態、燃料消費量、負荷の少なくとも1つを含むものであることを特徴とする請求項10から請求項15のいずれか1項に記載の燃焼機関の実時間性能予測プログラム。
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