以下、図面を参照しながら、解析装置及び超音波診断装置の実施形態について詳細に説明する。
1.超音波診断装置
図1は、実施形態に係る超音波診断装置の構成を示す概略図である。
図1は、実施形態に係る超音波診断装置10を示す。また、図1は、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とを示す。なお、超音波診断装置10に、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40とのうちの少なくとも1個を加えた装置を超音波診断装置と称する場合もある。以下の説明では、超音波診断装置10の外部に、超音波プローブ20と、入力インターフェース30と、ディスプレイ40との全てが備えられる場合について説明する。
超音波診断装置10は、送受信回路11と、Bモード処理回路12と、ドプラ処理回路13と、画像生成回路14と、画像メモリ15と、表示制御回路16と、ネットワークインターフェース17と、処理回路18と、メインメモリ19とを備える。回路11~14は、特定用途向け集積回路(ASIC:Application Specific Integrated Circuit)等によって構成されるものである。しかしながら、その場合に限定されるものではなく、回路11~14の機能の全部又は一部は、処理回路18がプログラムを実行することで実現されるものであってもよい。
送受信回路11は、送信回路(図示省略)と受信回路111(図2に図示)とを有する。送受信回路11は、処理回路18による制御の下、超音波の送受信における送信指向性と受信指向性とを制御する。なお、送受信回路11が超音波診断装置10に設けられる場合について説明するが、送受信回路11は、超音波プローブ20に設けられてもよいし、超音波診断装置10及び超音波プローブ20の両方に設けられてもよい。なお、送受信回路11は、送受信部の一例である。
送信回路は、パルス発生回路と、送信遅延回路と、パルサ回路等とを有し、超音波振動子に駆動信号を供給する。パルス発生回路は、所定のレート周波数で、送信超音波を形成するためのレートパルスを繰り返し発生する。送信遅延回路は、超音波プローブ20の超音波振動子から発生される超音波をビーム状に集束して送信指向性を決定するために必要な圧電振動子ごとの遅延時間を、パルス発生回路が発生する各レートパルスに対し与える。また、パルサ回路は、レートパルスに基づくタイミングで、超音波振動子に駆動パルスを印加する。送信遅延回路は、各レートパルスに対し与える遅延時間を変化させることで、圧電振動子面から送信される超音波ビームの送信方向を任意に調整する。
受信回路111は、超音波振動子が受信した受信信号を受け、この受信信号に対して各種処理を行ってエコーデータを生成する。なお、受信回路111の構成については、図2を用いて後述する。
Bモード処理回路12は、処理回路18による制御の下、受信回路からエコーデータを受信し、対数増幅と、包絡線検波処理等を行って、信号強度が輝度の明るさで表現されるデータ(2次元又は3次元データ)を生成する。このデータは、一般に、Bモードデータと呼ばれる。なお、Bモード処理回路12は、Bモード処理部の一例である。
なお、Bモード処理回路12は、フィルタ処理により、検波周波数を変化させることで、映像化する周波数帯域を変えることができる。Bモード処理回路12のフィルタ処理機能を用いることにより、コントラストハーモニックイメージング(CHI:Contrast Harmonic Imaging)や、ティッシュハーモニックイメージング(THI:Tissue Harmonic Imaging)等のハーモニックイメージングを実行可能である。
すなわち、Bモード処理回路12は、造影剤が注入された被検体の反射波データから、造影剤(微小気泡、バブル)を反射源とするハーモニック成分の反射波データ(高調波データ又は分周波データ)と、被検体内の組織を反射源とする基本波成分の反射波データ(基本波データ)とを分離することができる。Bモード処理回路12は、また、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)から、造影画像データを生成するためのBモードデータを生成することができ、また、基本波成分の反射波データ(受信信号)から、基本波(ファンダメンタル)画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
また、Bモード処理回路12のフィルタ処理機能を用いることによるTHIにおいて、被検体の反射波データから、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)である高調波データ又は分周波データを分離することができる。そして、Bモード処理回路12は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)から、ノイズ成分を除去した組織画像データを生成するためのBモードデータを生成することができる。
さらに、CHIやTHIのハーモニックイメージングを行なう際、Bモード処理回路12は、上述したフィルタ処理を用いた方法とは異なる方法により、ハーモニック成分を抽出することができる。ハーモニックイメージングでは、振幅変調(AM:Amplitude Modulation)法や位相変調(PM:Phase Modulation)法、AM法及びPM法を組み合わせたAMPM法と呼ばれる映像法が行なわれる。AM法、PM法及びAMPM法では、同一の走査線に対して振幅や位相が異なる超音波送信を複数回行なう。
これにより、送受信回路11は、各走査線で複数の反射波データ(受信信号)を生成し出力する。そして、Bモード処理回路12は、各走査線の複数の反射波データ(受信信号)を、変調法に応じた加減算処理することで、ハーモニック成分を抽出する。そして、Bモード処理回路12は、ハーモニック成分の反射波データ(受信信号)に対して包絡線検波処理等を行なって、Bモードデータを生成する。
例えば、PM法が行なわれる場合、送受信回路11は、処理回路18が設定したスキャンシーケンスにより、例えば(-1,1)のように、位相極性を反転させた同一振幅の超音波を、各走査線で2回送信させる。そして、送受信回路11は、「-1」の送信による受信信号と、「1」の送信による受信信号とを生成し、Bモード処理回路12は、これら2つの受信信号を加算する。これにより、基本波成分が除去され、2次高調波成分が主に残存した信号が生成される。そして、Bモード処理回路12は、この信号に対して包絡線検波処理等を行なって、THIのBモードデータやCHIのBモードデータを生成する。
又は、例えば、THIでは、受信信号に含まれる2次高調波成分と差音成分とを用いて映像化を行なう方法が実用化されている。差音成分を用いた映像化法では、例えば、中心周波数が「f1」の第1基本波と、中心周波数が「f1」より大きい「f2」の第2基本波とを合成した合成波形の送信超音波を、超音波プローブ20から送信させる。この合成波形は、2次高調波成分と同一の極性を持つ差音成分が発生するように、互いの位相が調整された第1基本波の波形と第2基本波の波形とを合成した波形である。送受信回路11は、合成波形の送信超音波を、位相を反転させながら、例えば、2回送信させる。かかる場合、例えば、Bモード処理回路12は、2つの受信信号を加算することで、基本波成分が除去され、差音成分及び2次高調波成分が主に残存したハーモニック成分を抽出した後、包絡線検波処理等を行なう。
ドプラ処理回路13は、処理回路18による制御の下、受信回路からのエコーデータから速度情報を周波数解析し、平均速度、分散、パワー等の移動体の移動情報を多点について抽出したデータ(2次元又は3次元データ)を生成する。このデータは、一般に、ドプラデータと呼ばれる。ここで、移動体とは、例えば、血流や、心壁等の組織、造影剤である。なお、ドプラ処理回路13は、ドプラ処理部の一例である。
画像生成回路14は、処理回路18による制御の下、超音波プローブ20が受信した受信信号に基づいて、所定の輝度レンジで表現された超音波画像を画像データとして生成する。例えば、画像生成回路14は、超音波画像として、Bモード処理回路12によって生成された2次元のBモードデータから反射波の強度を輝度にて表したBモード画像を生成する。また、画像生成回路14は、超音波画像として、ドプラ処理回路13によって生成された2次元のドプラデータから移動態情報を表す平均速度画像、分散画像、パワー画像、又は、これらの組み合わせ画像としてのカラードプラ画像を生成する。なお、画像生成回路14は、画像生成部の一例である。
ここで、画像生成回路14は、一般的には、超音波走査の走査線信号列を、テレビ等に代表されるビデオフォーマットの走査線信号列に変換(スキャンコンバート)し、表示用の超音波画像データを生成する。具体的には、画像生成回路14は、超音波プローブ20による超音波の走査形態に応じて座標変換を行なうことで、表示用の超音波画像データを生成する。また、画像生成回路14は、スキャンコンバート以外に、種々の画像処理として、例えば、スキャンコンバート後の複数の画像フレームを用いて、輝度の平均値画像を再生成する画像処理(平滑化処理)や、画像内で微分フィルタを用いる画像処理(エッジ強調処理)等を行なう。また、画像生成回路14は、超音波画像データに、種々のパラメータの文字情報、目盛り、ボディーマーク等を合成する。
すなわち、Bモードデータ及びドプラデータは、スキャンコンバート処理前の超音波画像データであり、画像生成回路14が生成するデータは、スキャンコンバート処理後の表示用の超音波画像データである。なお、Bモードデータ及びドプラデータは、生データ(Raw Data)とも呼ばれる。画像生成回路14は、スキャンコンバート処理前の2次元超音波画像データから、表示用の2次元超音波画像データを生成する。
更に、画像生成回路14は、Bモード処理回路12によって生成された3次元のBモードデータに対して座標変換を行なうことで、3次元Bモード画像データを生成する。また、画像生成回路14は、ドプラ処理回路13によって生成された3次元のドプラデータに対して座標変換を行なうことで、3次元ドプラ画像データを生成する。画像生成回路14は、「3次元のBモード画像データや3次元ドプラ画像データ」を「3次元超音波画像データ(ボリュームデータ)」として生成する。
さらに、画像生成回路14は、ボリュームデータをディスプレイ40にて表示するための各種の2次元画像データを生成するために、ボリュームデータに対してレンダリング処理を行なう。画像生成回路14は、レンダリング処理として、例えば、断面再構成法(MPR:Multi Planer Reconstruction)を行なってボリュームデータからMPR画像データを生成する処理を行う。また、画像生成回路14は、レンダリング処理として、例えば、3次元の情報を反映した2次元画像データを生成するボリュームレンダリング(VR:Volume Rendering)処理を行う。
画像メモリ15は、1フレーム当たり2軸方向に複数のメモリセルを備え、それを複数フレーム分備えたメモリである2次元メモリを含む。画像メモリ15としての2次元メモリは、処理回路18の制御による制御の下、画像生成回路14によって生成された1フレーム、又は、複数フレームに係る超音波画像を2次元画像データとして記憶する。なお、画像メモリ15は、記憶部の一例である。
画像生成回路14は、処理回路18による制御の下、画像メモリ15としての2次元メモリに配列された超音波画像に対し、必要に応じて補間処理を行う3次元再構成を行うことで、画像メモリ15としての3次元メモリ内に超音波画像をボリュームデータとして生成する。補間処理方法としては、公知の技術が用いられる。
画像メモリ15は、3軸方向(X軸、Y軸、及びZ軸方向)に複数のメモリセルを備えたメモリである3次元メモリを含む場合もある。画像メモリ15としての3次元メモリは、処理回路18の制御による制御の下、画像生成回路14によって生成された超音波画像をボリュームデータとして記憶する。
表示制御回路16は、GPU(Graphics Processing Unit)とVRAM(Video RAM)等を含む。表示制御回路16は、処理回路18の制御による制御の下、処理回路18から表示要求のあった超音波画像(例えば、ライブ画像)の信号強度を調整した上で、ディスプレイ40に表示させる。信号強度は、後述する調整量算出回路59から指示される。なお、表示制御回路16は、表示制御部の一例である。
ネットワークインターフェース17は、ネットワークの形態に応じた種々の情報通信用プロトコルを実装する。ネットワークインターフェース17は、この各種プロトコルに従って、超音波診断装置10と、外部の医用画像管理装置60及び医用画像処理装置70等の他の機器とを接続する。この接続には、電子ネットワークを介した電気的な接続等を適用することができる。ここで、電子ネットワークとは、電気通信技術を利用した情報通信網全般を意味し、無線/有線の病院基幹のLAN(Local Area Network)やインターネット網のほか、電話通信回線網、光ファイバ通信ネットワーク、ケーブル通信ネットワーク及び衛星通信ネットワーク等を含む。
また、ネットワークインターフェース17は、非接触無線通信用の種々のプロトコルを実装してもよい。この場合、超音波診断装置10は、例えば超音波プローブ20と、ネットワークを介さず直接にデータ送受信することができる。なお、ネットワークインターフェース17は、ネットワーク接続部の一例である。
処理回路18は、専用又は汎用のCPU(central processing unit)、MPU(micro processor unit)、又はGPU(Graphics Processing Unit)等のプロセッサの他、ASIC、プログラマブル論理デバイス等を意味する。プログラマブル論理デバイスとしては、例えば、単純プログラマブル論理デバイス(SPLD:simple programmable logic device)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:complex programmable logic device)、及び、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:field programmable gate array)等が挙げられる。
また、処理回路18は、単一の回路によって構成されてもよいし、複数の独立した回路要素の組み合わせによって構成されてもよい。後者の場合、メインメモリ19は回路要素ごとに個別に設けられてもよいし、単一のメインメモリ19が複数の回路要素の機能に対応するプログラムを記憶するものであってもよい。なお、処理回路18は、処理部の一例である。
メインメモリ19は、RAM(random access memory)、フラッシュメモリ(flash memory)等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等によって構成される。メインメモリ19は、USB(universal serial bus)メモリ及びDVD(digital video disk)等の可搬型メディアによって構成されてもよい。メインメモリ19は、処理回路18において用いられる各種処理プログラム(アプリケーションプログラムの他、OS(operating system)等も含まれる)や、プログラムの実行に必要なデータを記憶する。また、OSに、操作者に対するディスプレイ40への情報の表示にグラフィックを多用し、基礎的な操作を入力インターフェース30によって行うことができるGUI(graphical user interface)を含めることもできる。なお、メインメモリ19は、記憶部の一例である。
超音波プローブ20は、前面部に複数個の微小な振動子(圧電素子)を備え、スキャン対象を含む領域、例えば管腔体を含む領域に対して超音波の送受波を行う。各振動子は電気音響変換素子であり、送信時には電気パルスを超音波パルスに変換し、また、受信時には反射波を電気信号(受信信号)に変換する機能を有する。超音波プローブ20は小型、軽量に構成されており、ケーブル(又は無線通信)を介して超音波診断装置10に接続される。
超音波プローブ20は、スキャン方式の違いにより、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型等の種類に分けられる。また、超音波プローブ20は、アレイ配列次元の違いにより、アジマス方向に1次元(1D)的に複数個の振動子が配列された1Dアレイプローブと、アジマス方向かつエレベーション方向に2次元(2D)的に複数個の振動子が配列された2Dアレイプローブとの種類に分けられる。なお、1Dアレイプローブは、エレベーション方向に少数の振動子が配列されたプローブを含む。
ここで、3Dスキャン、つまり、ボリュームスキャンが実行される場合、超音波プローブ20として、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型等のスキャン方式を備えた2Dアレイプローブが利用される。又は、ボリュームスキャンが実行される場合、超音波プローブ20として、リニア型、コンベックス型、及びセクタ型等のスキャン方式を備え、エレベーション方向に機械的に揺動する機構を備えた1Dプローブが利用される。後者のプローブは、メカ4Dプローブとも呼ばれる。
入力インターフェース30は、操作者によって操作が可能な入力デバイスと、入力デバイスからの信号を入力する入力回路とを含む。入力デバイスは、トラックボール、スイッチ、マウス、キーボード、操作面に触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力デバイス、及び音声入力デバイス等によって実現される。操作者により入力デバイスが操作されると、入力回路はその操作に応じた信号を生成して処理回路18に出力する。
また、入力インターフェース30は、後述する受信フィルタの周波数特性を調整するための調整スイッチを更に含むことができる。なお、入力インターフェース30は、入力部の一例である。
ディスプレイ40は、例えば液晶ディスプレイやOLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等の一般的な表示出力装置により構成される。ディスプレイ40は、処理回路18の制御に従って各種情報を表示する。なお、ディスプレイ40は、表示部の一例である。
また、図1は、超音波診断装置10の外部機器である医用画像管理装置60及び医用画像処理装置70を示す。医用画像管理装置60は、例えば、DICOM(Digital Imaging and Communications in Medicine)サーバであり、ネットワークNを介してデータ送受信可能に超音波診断装置10等の機器に接続される。医用画像管理装置60は、超音波診断装置10によって生成された超音波画像等の医用画像をDICOMファイルとして管理する。
医用画像処理装置70は、ネットワークNを介してデータ送受信可能に超音波診断装置10や医用画像管理装置60等の機器に接続される。医用画像処理装置70としては、例えば、超音波診断装置10によって生成された超音波画像に対して各種画像処理を施すワークステーションや、タブレット端末等の携帯型情報処理端末等が挙げられる。なお、医用画像処理装置70はオフラインの装置であって、超音波診断装置10によって生成された超音波画像を可搬型の記憶媒体を介して読み出し可能な装置であってもよい。
続いて、送受信回路11に設けられる受信回路の構成及び機能の概念について、図2を用いて説明する。
図2は、送受信回路11に設けられる受信回路の構成を示すブロック図である。
図2は、送受信回路11に設けられる受信回路111を示す。受信回路111は、アンプ51と、A/D(Analog to Digital)変換回路52と、直交検波回路53と、遅延制御回路54と、加算回路55と、フィルタ処理回路56と、主成分分析回路57と、信号加工回路58と、調整量算出回路59とを備える。
アンプ51は、処理回路18による制御の下、超音波プローブ20からの受信信号をチャンネル毎に増幅してゲイン補正処理を行う機能を有する。アンプ51は、ゲインを制御することで、超音波画像の画質を良化することができる。
A/D変換回路52は、処理回路18による制御の下、アンプ51の出力である、ゲイン補正された受信信号をチャンネル毎にA/D変換する機能を有する。
直交検波回路53は、受信信号であるRF信号を直交検波してI信号及びQ信号からなるIQ信号にチャンネル毎に変換する機能を有する。
遅延制御回路54は、処理回路18による制御の下、A/D変換回路52の出力であるIQ信号に受信指向性を決定に必要な遅延時間をチャンネル毎に与える機能を有する。遅延制御回路54は、IQ信号に与える受信遅延カーブを制御することで、超音波画像の画質を良化することができる。
加算回路55は、遅延制御回路54の出力であるIQ信号に、チャンネル毎に位相回転及び重み付け制御(アポダイゼーション)を行い、得られたIQ信号の加算処理を行ってIQ信号のビームデータを生成する機能を有する。加算回路55の加算処理により、受信信号の受信指向性に応じた方向からの反射成分が強調される。
フィルタ処理回路56は、処理回路18による制御の下、加算回路55の出力であるIQ信号に、任意の複素受信フィルタを適用する機能と、複素受信フィルタが適用された後のIQ信号をBモード処理回路12や、ドプラ処理回路13に出力する機能とを有する。なお、フィルタ処理回路56は、フィルタ処理部の一例である。
主成分分析回路57は、処理回路18による制御の下、超音波の受信信号の主成分分析を行う機能を有する。主成分分析回路57は、超音波の受信信号の固有値展開又は特異値分解を行う。なお、主成分分析回路57は、主成分分析部の一例である。
信号加工回路58は、処理回路18による制御の下、主成分分析回路57による主成分分析の結果を用いて受信信号から映像化成分を抽出する機能を有する。信号加工回路58は、主成分分析結果に基づいて、超音波画像から消したい組織(クラッタ)を特定して、その組織のドプラ周波数(固有次)に応じてフィルタ特性を変化させることができるので、受信信号に含まれる組織成分を抑圧し血流成分を抽出することができる。
図3は、主成分分析を行う場合のクラッタアーチファクトを説明するための図である。具体的には、図3(A)は、映像化する固有次数が固定である場合、かつ、被検体に拍動がない場合の固有値分布の模式図を示す。映像化する固有次は、分布の左側の濃い部分である。図3(B)は、映像化する固有次数が固定である場合、かつ、被検体に拍動がある場合の固有値分布の模式図を示す。映像化する固有次は、分布の左側の濃い部分である。図3(C)は、図3(A)の場合であって、フィルタ処理後の画像の一例を示す図である。図3(D)は、図3(B)の場合であって、フィルタ処理後の画像の一例を示す図である。
図3(B)に示すように固有次数が固定、かつ、被検体に拍動あり場合、図3(D)に示すように、血管以外の組織(クラッタ源)が大きく動くフレームで、クラッタアーチファクトが発生する(例えば、白色の太線内)。これはクラッタ源の変位量と受信信号の振幅的・位相的変動量に相関があることに由来し、クラッタ源の動きが小さいフレームでアーチファクトが発生しないよう映像化する固有次を調整し固定すると、クラッタ源が大きく動くフレームではアーチファクトが発生し得る。このようなアーチファクトを抑制するために、映像化する固有次を適応的に変更することが有効となる。
図4は、主成分分析を行う場合のクラッタアーチファクトを説明するための図である。具体的には、図4(A)は、映像化する固有次数が変動する場合、かつ、被検体に拍動がない場合の固有値分布の模式図を示す。映像化する固有次は、分布の左側の濃い部分である。図4(B)は、映像化する固有次数が変動する場合、かつ、被検体に拍動がある場合の固有値分布の模式図を示す。映像化する固有次は、分布の左側の濃い部分である。図4(C)は、図4(A)の場合であって、フィルタ処理後の画像の一例を示す図である。図4(D)は、図4(B)の場合であって、フィルタ処理後の画像の一例を示す図である。
図4(A)に示すように固有次数が変動値、かつ、被検体に拍動がない場合、図4(C)に示すように、図3(C)と比較して、画像にあまり変化は見られない。
一方で、図4(B)に示すように固有次数が変動値、かつ、被検体に拍動あり場合、図4(D)に示すように、図3(D)と比較して、クラッタアーチファクトが抑制される(例えば、白色の太線内)。しかし、例え映像化する固有次数を適応的に変動させたとしても、拍動の影響を抑えきれない。これは、血流信号と拍動性クラッタ信号が同一の固有次に存在していることに起因する。例えば、抑圧したいクラッタがエイリアシングすると、どの固有次を映像化してもクラッタが発生する。また、固有値分解に用いる信号の統計的情報量が不十分である場合においても、血流信号と拍動性クラッタ信号を固有次において精確に分離できず、同一の固有次に存在させてしまう。このようなアーチファクトはリアルタイムな観察の上では拍動とともに明滅(フラッシュ)し、血流信号の視認性を低下させるため、実用上の重大な課題と言える。
図5は、主成分分析を行う場合のクラッタアーチファクトを説明するための図である。具体的には、図5(A)は、映像化する固有次数が変動する場合、かつ、被検体に拍動がない場合であって、フィルタ処理後の画像の一例を示す図である。図5(B)は、映像化する固有次数が変動する場合、かつ、被検体に拍動がある場合であって、フィルタ処理後の画像の一例を示す図である。
図5(A)に示すように、映像化する固有次数を適切に変動させると、拍動の影響による明滅の領域はほとんど存在しない。一方で、図5(B)に示すように、例え映像化する固有次数を適切に変動させたとしても、拍動の影響による明滅の領域が存在する(例えば、白色の太線内)。
そこで、図2に示すように、送受信回路11に設けられる受信回路111は、調整量算出回路59を有する。これにより、超音波診断装置10は、クラッタアーチファクトを抑制するように、映像化信号強度を適応的に決定する。
調整量算出回路59は、処理回路18による制御の下、主成分分析回路57による主成分分析で得られた情報に基づいて、映像化する信号の信号強度の調整量を算出する機能を有する。調整量算出回路59は、信号強度の調整量を表示制御回路16に出力する。なお、調整量算出回路59は、調整量算出部の一例である。
続いて、超音波診断装置10の動作について説明する。
図6は、超音波診断装置10の動作をフローチャートとして示す図である。図6において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
超音波診断装置10の処理回路18は、送受信回路11等を制御して、超音波プローブ20を用いた超音波スキャンを開始させる(ステップST1)。
主成分分析回路57は、加算回路55の出力である1フレーム分のIQ信号を取得する(ステップST2)。主成分分析回路57は、ステップST2によって取得されたIQ信号の固有値展開を行う(ステップST3)。なお、主成分分析として、固有値展開、特異値分解のいずれを行ってもよい。
信号加工回路58は、ステップST3によって得られた各固有次の寄与率を算出する(ステップST4)。信号加工回路58は、ステップST4によって算出された各固有次の寄与率に基づいて、各固有次までの積算寄与率を算出する(ステップST5)。信号加工回路58は、ステップST5によって固有次ごとに算出された積算寄与率と閾値とを比較して、閾値を初めて超える場合の固有次を求め、固有次数を決定する(ステップST6)。なお、閾値は、予め設定されているものとする。
フィルタ処理回路56は、ステップST6によって決定された固有次数に基づいてフィルタ処理を行い(ステップST7)、処理後の信号をBモード処理回路12又はドプラ処理回路13に出力する。一方、調整量算出回路59は、ステップST6によって決定された固有次数に基づいて信号強度の調整量(ゲイン)を算出し(ステップST8)、信号強度の調整量を表示制御回路16に出力する。例えば、調整量算出回路59は、次の式(1)を用いて信号強度の調整量を求める。
信号強度の調整量=基準値×映像化する固有次数/正規化値 …(1)
表示制御回路16は、調整量算出回路59によって算出された信号強度の調整量に従って信号強度を調整した上で、超音波画像をディスプレイ40に表示させる(ステップST9)。
図7は、主成分分析を行い、信号強度を調整する場合のクラッタアーチファクトを説明するための図である。図7(A)は、図5(A)に対して信号強度の調整を行った場合の画像の一例を示す図である。図7(B)は、図5(B)に対して信号強度の調整を行った場合の画像の一例を示す図である。
図7(A)に示すように、拍動がない被検体の場合には、図5(A)と比較しても画像にほぼ変化はない。一方で、図7(B)に示すように、拍動がある被検体の場合には、図5(B)と比較して画像の明度(明るさ)が抑えられ、明滅の領域を大幅に抑制することができる(例えば、白色の太線内)。
図6の説明に戻って、主成分分析回路57は、次のフレームの受信信号がないか否かを判断する(ステップST10)。ステップST10の判断にてYES、つまり、次のフレームの受信信号がないと判断される場合、超音波診断装置10は、動作を終了する。一方で、ステップST10の判断にてNO、つまり、次のフレームの受信信号があると判断される場合、主成分分析回路57は、加算回路55の出力である次の1フレーム分のIQ信号を取得する(ステップST2)。
なお、図6において、フレームごとに信号強度の調整量を求めるものとして説明したが、その場合に限定されるものではない。例えば、最初のフレームについてのみ信号強度の調整量を求め、以降のフレームの全てについて当該調整量を用いるものとしてもよいし、一定間隔のフレームについてのみ信号強度の調整量を求め、最近のフレームで求められた調整を用いるものとしてもよい。
超音波診断装置10によると、拍動がある被検体の場合であっても適切に信号強度の調整を行うことで、拍動性のクラッタアーチファクトが視覚的に低減された超音波画像を提供することができる。これにより、医者等の操作者による超音波画像上の血流の視認性が向上する。
2.第1変形例
信号強度の調整量の算出方法は、前述したものに限定されるものではない。拍動の影響が大きい領域からの信号は時間方向の位相ばらつきが大きい、かつ、受信信号はクラッタ成分が支配的と仮定し、当該領域の信号強度の調整量を算出するものであってもよい。
図8は、超音波診断装置10の第1変形例の動作をフローチャートとして示す図である。図8において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
なお、図8において、図6と同一ステップには同一符号を付して説明を省略する。
調整量算出回路59は、時間方向の複素コヒーレンシーを算出し、当該複素コヒーレンシーに基づいて信号強度の調整量を算出し(ステップST18)、信号強度の調整量を表示制御回路16に出力する。例えば、調整量算出回路59は、次の式(2)を用いて信号強度の調整量を求める。例えば、時間方向の複素コヒーレンシーが比較的大きい場合には血管壁等のクラッタ成分と仮定することができ、時間方向の複素コヒーレンシーが比較的小さい場合には、血流成分と仮定することができる。
信号強度の調整量=時間方向の複素相関関数振幅の逆数 …(2)
図9は、主成分分析を行う場合のクラッタアーチファクトを説明するための図である。具体的には、図9(A)は、映像化する固有次数が変動する場合、かつ、被検体に拍動がない場合であって、フィルタ処理後の画像(信号強度の調整なし)の一例を示す図である。図9(B)は、映像化する固有次数が変動する場合、かつ、被検体に拍動がある場合であって、フィルタ処理後の画像(信号強度の調整なし)の一例を示す図である。図9(C)は、図9(A)に対して信号強度の調整を行った場合の画像の一例を示す図である。図9(D)は、図9(B)に対して信号強度の調整を行った場合の画像の一例を示す図である。
図9(C)に示すように、拍動がない被検体の場合には、図9(A)と比較しても画像にほぼ変化はない。一方で、図9(D)に示すように、拍動がある被検体の場合には、図9(B)と比較して画像の明度(明るさ)が抑えられ、明滅の領域を大幅に抑制することができる。
超音波診断装置10の第1変形例によると、上述した効果と同等な効果が得られる。
3.第2変形例
信号強度の調整量の算出方法は、上述したものに限定されるものではない。拍動の影響が大きい心位相に対応するフレームであることを心電図信号、又は、心音図信号等の生体信号から判定し、映像化固有次の決定と信号強度を調整量の算出とを行ってもよい。
図10は、超音波診断装置10の第2変形例の動作をフローチャートとして示す図である。図10において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
なお、図10において、図6と同一ステップには同一符号を付して説明を省略する。
調整量算出回路59は、心電図、心音図等の生体信号に基づいて、拍動の影響が大きい心位相に対応するフレームであるか否かを判断する(ステップST21)。ステップST21の判断にてYES、つまり、当該フレームが、拍動の影響が大きい心位相に対応するフレームであると判断される場合、ステップST8に進む。
一方で、ステップST21の判断にてNO、つまり、当該フレームが、拍動の影響が大きい心位相に対応するフレームでないと判断される場合、表示制御回路16は、信号強度を調整せずに超音波画像をディスプレイ40に表示させ(ステップST22)、ステップST10に進む。
なお、超音波診断装置10の第2変形例の技術思想を、超音波診断装置10の第2変形例に適用することもできる。
超音波診断装置10の第2変形例によると、上述した効果と同等な効果が得られると共に、明滅が発生しそうな超音波画像にだけ選択的に信号強度の調整を行うことができる。
4.第3変形例
前述した実施形態や変形例において信号強度の調整量が過大になると、熱雑音、量子化雑音といったノイズ成分が映像化される場合も有り得る。そこで、超音波診断装置10の第3変形例は、信号強度の調整によるノイズ成分(ホワイトノイズ)の映像化を防ぐものである。
図11は、超音波診断装置10の第3変形例の動作をフローチャートとして示す図である。図11において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
なお、図11において、図6と同一ステップには同一符号を付して説明を省略する。
調整量算出回路59は、ステップST8によって算出された調整量が閾値以下であるか否かを判断する(ステップST31)。ステップST31の判断にてYES、つまり、調整量が閾値以下であると判断される場合、ステップST9に進む。
一方で、ステップST31の判断にてNO、つまり、調整量が閾値より大きいと判断される場合、表示制御回路16は、信号強度の調整量の閾値に従って信号強度を調整した上で、超音波画像をディスプレイ40に表示させ(ステップST32)、ステップST10に進む。
なお、超音波診断装置10の第3変形例の技術思想を、超音波診断装置10の第2変形例又は第3変形例に適用することもできる。
超音波診断装置10の第3変形例によると、上述した効果と同等な効果が得られると共に、信号強度の過度な調整を抑止することができる。
5.第4変形例
前述した調整量算出によって血流の信号強度が増減する可能性がある。信号強度が増減が生体の作用によるものか、前述した調整量算出の作用によるものか分からず、操作者が混乱することも考えられる。そこで、超音波診断装置10の第4変形例は、ユーザビリティの向上のため、操作者に血流信号の強度を増減させている旨を報知するものである。
図12は、超音波診断装置10の第4変形例の動作をフローチャートとして示す図である。図12において、「ST」に数字を付した符号はフローチャートの各ステップを示す。
なお、図12において、図6と同一ステップには同一符号を付して説明を省略する。
調整量算出回路59は、ステップST8によって算出された調整量が閾値以下であるか否かを判断する(ステップST41)。ステップST41の判断にてYES、つまり、調整量が閾値以下であると判断される場合、ステップST9に進む。
一方で、ステップST41の判断にてNO、つまり、調整量が閾値より大きいと判断される場合、表示制御回路16は、信号強度が大きく変更されている旨の報知し(ステップST42)、ステップST9に進む。例えば、表示制御回路16は、ステップST42において、信号強度が大きく変更されている旨をディスプレイ40に表示させる。図13は、信号強度が大きく変更されている旨の表示例を示す図である。
なお、超音波診断装置10の第4変形例の技術思想を、超音波診断装置10の第2変形例~第4変形例に適用することもできる。
超音波診断装置10の第4変形例によると、上述した効果と同等な効果が得られると共に、ユーザビリティを向上させることができる。
6.解析装置
前述した信号強度の算出や適用は、超音波診断装置10以外の解析装置、例えば、医用画像処理装置によっても実施可能である。
図14は、実施形態に係る医用画像処理装置の構成を示す概略図である。
図14は、実施形態に係る医用画像処理装置70を示す。医用画像処理装置70は、医用画像管理装置(画像サーバ)や、ワークステーションや、読影端末等であり、ネットワークを介して接続された医用画像システム上に設けられる。なお、医用画像処理装置70は、オフラインの装置であってもよい。
医用画像処理装置70は、処理回路71と、メモリ72と、入力インターフェース73と、表示制御回路74と、ディスプレイ75と、ネットワークインターフェース76とを備える。処理回路71と、メモリ72と、入力インターフェース73と、表示制御回路74と、ディスプレイ75と、ネットワークインターフェース76とは、図1に示す処理回路18と、メインメモリ19と、入力インターフェース30と、表示制御回路16と、ディスプレイ40と、ネットワークインターフェース17とそれぞれ同等の構成を有するものであるので、説明を省略する。
続いて、医用画像処理装置70の機能について説明する。
図15は、医用画像処理装置70の機能を示すブロック図である。
処理回路71は、メモリ72に記憶されたプログラムを実行することで、取得機能711と、主成分分析機能712と、信号加工機能713と、調整量算出機能714とを実現する。なお、機能711~714の全部又は一部は、医用画像処理装置70のプログラムの実行により実現される場合に限定されるものではなく、医用画像処理装置70にASIC等の回路として備えられる場合であってもよい。
取得機能711は、ネットワークインターフェース76を介して医用画像管理装置60又は超音波診断装置10から、超音波画像データと、加算回路55の出力である受信信号とを取得する機能を含む。なお、取得機能711は、画像取得部の一例である。
主成分分析機能712と、信号加工機能713と、調整量算出機能714とは、図2に示す主成分分析回路57と、信号加工回路58と、調整量算出回路59の機能とそれぞれ同等の機能を有するので、説明を省略する。なお、主成分分析機能712は、主成分分析部の一例であり、信号加工機能713は信号加工部の一例であり、調整量算出機能714は、調整量算出部の一例である。調整量算出機能714は、表示制御回路74を制御して、調整量算出機能714によって算出された信号強度の調整量に従って信号強度を調整した上で、取得機能711によって取得された超音波画像をディスプレイ75に表示させる。
医用画像処理装置70等の解析装置によると、拍動がある被検体の場合であっても適切に信号強度の調整を行うことで、拍動性のクラッタアーチファクトが視覚的に低減された超音波画像を提供することができる。これにより、医者等の操作者による超音波画像上の血流の視認性が向上する。また、前述の変形例に示した効果と同等な効果もある。
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、血流の視認性の高い超音波画像を提供することができる。
なお、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。