JP7239294B2 - アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法 - Google Patents

アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法に関する。より詳細には、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーから酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを効率よく製造する方法に関し、また、この酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを用いて、透明度の高いアニオン変性セルロースナノファイバー分散体を製造する方法に関する。
セルロース分子鎖にカルボキシル基やカルボキシメチル基などのアニオン性基を導入し、機械的に処理(解繊)すると、ナノスケールの繊維径を有するセルロースナノファイバーへと変換することができることが知られている。セルロースナノファイバーは、軽くて強度が高く、生分解性を有し、フィルムとした際の透明度が高いといった特徴があるため、様々な分野への応用が検討されている。
通常、アニオン変性セルロースナノファイバーは、導入されたアニオン性基がナトリウム塩などの塩を形成し、親水性が高い状態となっているため、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリ乳酸(PLA)などの疎水性の剛性高分子とは相溶性が低い。また、低極性の有機溶媒中での分散性が低い。この問題を解決する方法としては、金属塩型のアニオン性基(例えば、-COONa)を酸性にすることで、酸型(例えば、-COOH)に変換し、アニオン変性セルロースナノファイバーの親水性を下げる手法が考えられる。酸型に変換する手法として、本出願人は、鉱酸等の酸を添加する方法(特許文献1)と、陽イオン交換樹脂を用いて脱塩を行う方法(特許文献2)を開示した。
国際公開第2010/116795号 特開2018-100383号公報
親水性を低下させ、疎水性の高分子や有機溶媒との親和性を高めるために、金属塩型を酸型に変換するに際し、特許文献1の方法では、酸を添加した際にアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集が起こる。凝集したセルロースナノファイバーを再度機械的に粉砕することにより、分散体を得ることができるが、得られる分散体は透明度に劣る。一方、特許文献2の方法では、セルロースナノファイバーが高濃度でゲル状である場合には、陽イオン交換樹脂と充分に混合、接触させることや、接触後に樹脂とセルロースナノファイバーをと濾別することが難しく、効率のよい製造が難しい。
本発明は、透明度の高い分散体を形成することができる酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを効率よく製造することができる方法を提供することを目的とする。
本発明者らは鋭意検討を行った結果、金属塩型のアニオン変性セルロースを用意し、これに両親媒性高分子化合物を加えてから解繊して金属塩型のセルロースナノファイバーとし、得られたナノファイバーに酸を添加して酸型に変換することにより、透明度が高い分散体を形成することができる酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを効率よく製造することができることを見出した。本発明は、これらに限定されないが、以下を含む。
(1)金属塩型のアニオン変性セルロースと両親媒性高分子化合物とを含む混合物を準備する工程1、
工程1で得られた混合物を機械的に処理し、前記金属塩型のアニオン変性セルロースを金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーに変換して、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体を形成する工程2、及び
工程2で得られた金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体に酸と水溶性有機溶媒とを添加し、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを、酸型に変換する工程3、
を含む、酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを製造する方法。
(2)工程3の後に、濾過を行い、両親媒性高分子化合物を水溶性有機溶媒と共に除去して酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体を製造する工程4をさらに含む、(1)に記載の方法。
(3)工程4で得られた酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体に有機溶媒を添加し、混合物を形成する工程5、
工程5で得られた混合物に疎水化剤を添加する工程6、および
工程6で得られた疎水化剤を含有する混合物を機械的に処理し、前記有機溶媒を分散媒とするアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体を形成する工程7
をさらに含む、(1)または(2)に記載の方法。
(4)アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシル基を有するセルロースナノファイバーである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の方法。
本発明により、透明度の高い分散体を形成することができる酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを効率よく製造することができる。金属塩型のアニオン変性セルロースに両親媒性高分子化合物を添加してからセルロースの解繊を行うことにより、得られた金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバー中に両親媒性高分子化合物が含有されることになる。酸を添加する際にこの両親媒性高分子化合物が存在することにより、セルロースナノファイバーの凝集が抑制され、酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーから、高い透明度を有するアニオン変性セルロースナノファイバー分散体を得ることができるようになる。両親媒性高分子化合物は、水溶性有機溶媒中に溶解するため、低極性の分散媒中に分散させる前に溶媒添加及び吸引濾過等の洗浄操作を繰り返すことにより、セルロースナノファイバーから取り除くことができる。本発明では比較的高濃度の金属塩型アニオン変性セルロースセルロースナノファイバーから、透明度の高い分散体を形成することができる酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを製造することが可能であり、効率のよい製造が可能である。また、本発明では粘度の高い分散体を形成することができる酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを製造することができる。
本発明は、アニオン変性セルロースナノファイバーの製造方法に関する。より詳細には、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーから酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを製造する方法に関する。具体的には、金属塩型のアニオン変性セルロースと両親媒性高分子化合物とを含む混合物を準備し(工程1)、工程1の混合物を機械的に処理して、混合物中の金属塩型のアニオン変性セルロースを解繊して金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーに変換し、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体を形成し(工程2)、工程2で得られた分散体に酸と水溶性有機溶媒とを添加し、金属塩型を酸型に変換することを含む(工程3)。工程3の後に、両親媒性高分子化合物は、濾過により、水溶性有機溶媒と共に除去してもよい(工程4)。工程4で得られた酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体を有機溶媒に添加し(工程5)、さらに疎水化剤を添加し(工程6)、疎水化剤を含有する混合物を有機溶媒中で機械的に処理(解繊)して、有機溶媒に分散したアニオン変性セルロースナノファイバー分散体を形成してもよい(工程7)。
(1)工程1
工程1では、金属塩型のアニオン変性セルロースと両親媒性高分子化合物とを含む混合物を準備する。
(1-1)アニオン変性セルロース
アニオン変性セルロースとは、セルロースの分子鎖にアニオン性基を導入したものをいう。このうち、導入したアニオン性基の対イオンがナトリウムやカリウムなどの金属イオンであるものを、金属塩型のアニオン変性セルロースとよぶ。金属塩型のアニオン変性セルロースは、例えば、以下の方法により得ることができる。また、市販のものを用いてもよい。アニオン変性セルロースの種類としては、カルボキシル基を有するセルロースまたはカルボキシアルキル基を有するセルロースが好ましい。特に、N-オキシル化合物と酸化剤とを用いてセルロースを酸化することにより得られたカルボキシル化セルロース、またはカルボキシアルキル化セルロースは、アニオン性基が均一に導入されており、均一に解繊しやすく、透明度の高いセルロースナノファイバーが得られる点で好ましい。
アニオン変性セルロースとしては、水や水溶性有機溶媒に分散した際にも繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるものを用いる。繊維状の形状が維持されないもの(すなわち、溶解するもの)を用いると、ナノファイバーを得ることができない。分散した際に繊維状の形状の少なくとも一部が維持されるとは、アニオン変性セルロースの分散体を電子顕微鏡で観察すると、繊維状の物質を観察することができるものである。また、X線回折で測定した際にセルロースI型結晶のピークを観測することができるアニオン変性セルロースは好ましい。
アニオン変性セルロースにおけるセルロースの結晶化度は、結晶I型が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましい。結晶性を上記範囲に調整することにより、解繊により繊維を微細化した後も溶解することのない結晶性セルロース繊維を充分に得ることができる。セルロースの結晶性は、原料であるセルロースの結晶化度、及びアニオン変性の度合によって制御できる。アニオン変性セルロースの結晶化度の測定方法は、以下の通りである:
試料をガラスセルに乗せ、X線回折測定装置(LabX XRD-6000、株式会社島津製作所製)を用いて測定する。結晶化度の算出はSegal等の手法を用いて行い、X線回折図の2θ=10゜~30゜の回折強度をベースラインとして、2θ=22.6゜の002面の回折強度と2θ=18.5゜のアモルファス部分の回折強度から次式により算出する。
Xc=(I002c-Ia)/I002c×100
Xc:セルロースのI型の結晶化度(%)
I002c:2θ=22.6゜、002面の回折強度
Ia:2θ=18.5゜、アモルファス部分の回折強度。
アニオン変性セルロースのセルロースI型結晶の割合と、同アニオン変性セルロースをナノファイバーとしたときのセルロースI型結晶の割合は、通常同じである。
(1-1-1)セルロース
アニオン変性セルロースの原料となるセルロースの種類は、特に限定されない。セルロースは、一般に起源、製法等から、天然セルロース、再生セルロース、微細セルロース、非結晶領域を除いた微結晶セルロース等に分類される。本発明では、これらのセルロースのいずれも、原料として用いることができる。
天然セルロースとしては、晒パルプまたは未晒パルプ(晒木材パルプまたは未晒木材パルプ);リンター、精製リンター;酢酸菌等の微生物によって生産されるセルロース等が例示される。晒パルプ又は未晒パルプの原料は特に限定されず、例えば、木材、木綿、わら、竹、麻、ジュート、ケナフ等が挙げられる。また、晒パルプ又は未晒パルプの製造方法も特に限定されず、機械的方法、化学的方法、あるいはその中間で二つを組み合せた方法でもよい。製造方法により分類される晒パルプ又は未晒パルプとしては例えば、メカニカルパルプ(サーモメカニカルパルプ(TMP)、砕木パルプ)、ケミカルパルプ(針葉樹未漂白サルファイトパルプ(NUSP)、針葉樹漂白サルファイトパルプ(NBSP)等の亜硫酸パルプ、針葉樹未漂白クラフトパルプ(NUKP)、針葉樹漂白クラフトパルプ(NBKP)、広葉樹未漂白クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹漂白クラフトパルプ(LBKP)等のクラフトパルプ)等が挙げられる。さらに、製紙用パルプの他に溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとは、化学的に精製されたパルプであり、主として薬品に溶解して使用され、人造繊維、セロハンなどの主原料となる。
再生セルロースとしては、セルロースを銅アンモニア溶液、セルロースザンテート溶液、モルフォリン誘導体など何らかの溶媒に溶解し、改めて紡糸されたものが例示される。
微細セルロースとしては、上記天然セルロースや再生セルロースをはじめとする、セルロース系素材を、解重合処理(例えば、酸加水分解、アルカリ加水分解、酵素分解、爆砕処理、振動ボールミル処理等)して得られるものや、前記セルロース系素材を、機械的に処理して得られるものが例示される。
(1-1-2)アニオン変性
アニオン変性とはセルロースにアニオン性基を導入することをいい、具体的には酸化または置換反応によってセルロースのピラノース環にアニオン性基を導入することをいう。本発明において前記酸化反応とはピラノース環の水酸基を直接カルボキシル基に酸化する反応をいう。また、本発明において置換反応とは、当該酸化以外の置換反応によってピラノース環にアニオン性基を導入する反応をいう。
(1-1-2-1)カルボキシアルキル化
アニオン変性の一例として、カルボキシメチル基等のカルボキシアルキル基の導入を挙げることができる。本明細書においてカルボキシアルキル基とは、-RCOOH(酸型)および-RCOOM(金属塩型)をいう。ここでRはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基であり、Mは金属イオンである。
カルボキシアルキル化セルロースは公知の方法で得てもよく、また市販品を用いてもよい。セルロースの無水グルコース単位当たりのカルボキシアルキル置換度は0.40未満であることが好ましい。さらにアニオン性基がカルボキシメチル基である場合、カルボキシメチル置換度は0.40未満であることが好ましい。当該置換度が0.40以上であるとセルロースナノファイバーとしたときの分散性が低下する。またカルボキシアルキル置換度の下限値は0.01以上が好ましい。操業性を考慮すると当該置換度は0.02~0.35であることが特に好ましく、0.10~0.30であることが更に好ましい。なお、無水グルコース単位とは、セルロースを構成する個々の無水グルコース(グルコース残基)を意味し、カルボキシアルキル置換度とは、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基(-OH)のうちカルボキシアルキルエーテル基(-ORCOOHまたは-ORCOOM)で置換されているものの割合(1つのグルコース残基当たりのカルボキシアルキルエーテル基の数)を示す。
カルボキシアルキル化セルロースを製造する方法の一例として、以下の工程を含む方法が挙げられる。当該変性は置換反応による変性である。カルボキシメチル化セルロースを例にして説明する。
i)発底原料と溶媒、マーセル化剤を混合し、反応温度0℃~70℃、好ましくは10℃~60℃、かつ反応時間15分~8時間、好ましくは30分~7時間、マーセル化処理する工程、
ii)次いで、カルボキシメチル化剤をグルコース残基当たり0.05~10.0倍モル添加し、反応温度30℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、かつ反応時間30分~10時間、好ましくは1時間~4時間、エーテル化反応を行う工程。
発底原料としては前述のセルロース原料を使用できる。溶媒としては、3~20質量倍の水または低級アルコール、具体的には水、メタノール、エタノール、N-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、N-ブタノール、イソブタノール、第3級ブタノール等の単独、または2種以上の混合媒体を使用できる。低級アルコールを混合する場合、その混合割合は60質量%~95質量%が好ましい。マーセル化剤としては、発底原料の無水グルコース残基当たり0.5~20倍モルの水酸化アルカリ金属、具体的には水酸化ナトリウム、水酸化カリウムを使用することが好ましい。
前述のとおり、セルロースのグルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は0.40未満であり、0.01以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにカルボキシメチル置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、カルボキシメチル置換基を導入したセルロースはナノ解繊することができるようになる。なお、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換基が0.02より小さいと、ナノ解繊が十分にできない場合がある。カルボキシアルキル化セルロースにおけるカルボキシアルキル置換度と、同カルボキシアルキル化セルロースをナノファイバーとしたときのカルボキシアルキル置換度とは通常、同じである。
グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシメチル化セルロース(絶乾)約2.0gを精秤して、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。メタノール900mLに特級濃硝酸100mLを加えた液100mLを加え、3時間振とうして、カルボキシメチル化セルロース塩(CM化セルロース)を水素型CM化セルロースに変換する。水素型CM化セルロース(絶乾)を1.5g~2.0g精秤し、300mL容共栓付き三角フラスコに入れる。80質量%メタノール15mLで水素型CM化セルロースを湿潤し、0.1NのNaOHを100mL加え、室温で3時間振とうする。指示薬として、フェノールフタレインを用いて、0.1NのH2SO4で過剰のNaOHを逆滴定した。カルボキシメチル置換度(DS)を、次式によって算出する:
A=[(100×F’-(0.1NのHSO)(mL)×F)×0.1]/(水素型CM化セルロースの絶乾質量(g))
DS=0.162×A/(1-0.058×A)
A:水素型CM化セルロースの1gの中和に要する1NのNaOH量(mL)
F:0.1NのHSOのファクター
F’:0.1NのNaOHのファクター。
カルボキシメチル基以外のカルボキシアルキル基置換度の測定も、上記と同様の方法で行うことができる。
(1-1-2-2)カルボキシル化(酸化)
アニオン変性の一例として、カルボキシル化(カルボキシル基のセルロースへの導入、「酸化」とも呼ぶ。)を挙げることができる。本明細書においてカルボキシル基とは、-COOH(酸型)および-COOM(金属塩型)をいう(式中、Mは金属イオンである)。カルボキシル化セルロース(「酸化セルロース」とも呼ぶ)は、上記のセルロース原料を公知の方法でカルボキシル化(酸化)することにより得ることができる。特に限定されないが、カルボキシル基の量はアニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーの絶乾質量に対して、0.6mmol/g~3.0mmol/gが好ましく、1.0mmol/g~2.0mmol/gがさらに好ましい。
アニオン変性セルロースまたはアニオン変性セルロースナノファイバーのカルボキシル基量は、以下の方法で測定することができる:
カルボキシル化セルロースの0.5質量%スラリー(水分散液)60mlを調製し、0.1M塩酸水溶液を加えてpH2.5とした後、0.05Nの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHが11になるまで電気伝導度を測定し、電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(a)から、下式を用いて算出する:
カルボキシル基量〔mmol/gカルボキシル化セルロース〕=a〔ml〕×0.05/カルボキシル化セルロース質量〔g〕。
カルボキシル化(酸化)方法の一例として、セルロース原料を、N-オキシル化合物と、臭化物、ヨウ化物、およびこれらの混合物からなる群から選択される化合物との存在下で酸化剤を用いて水中で酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にアルデヒド基と、カルボキシル基(-COOH)またはカルボキシレート基(-COO)とを有するセルロース繊維を得ることができる。反応時のセルロースの濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。
N-オキシル化合物とは、ニトロキシラジカルを発生しうる化合物をいう。N-オキシル化合物としては、目的の酸化反応を促進する化合物であればいずれの化合物も使用できる。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシラジカル(TEMPO)およびその誘導体(例えば4-ヒドロキシTEMPO)が挙げられる。N-オキシル化合物の使用量は、原料となるセルロースを酸化できる触媒量であればよく、特に制限されない。例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.01mmol~10mmolが好ましく、0.01mmol~1mmolがより好ましく、0.05mmol~0.5mmolがさらに好ましい。また、反応系に対し0.1mmol/L~4mmol/L程度がよい。
臭化物とは臭素を含む化合物であり、その例には、水中で解離してイオン化可能な臭化アルカリ金属が含まれる。また、ヨウ化物とはヨウ素を含む化合物であり、その例には、ヨウ化アルカリ金属が含まれる。臭化物またはヨウ化物の使用量は、酸化反応を促進できる範囲で選択できる。臭化物およびヨウ化物の合計量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.1mmol~100mmolが好ましく、0.1mmol~10mmolがより好ましく、0.5mmol~5mmolがさらに好ましい。当該変性は酸化反応による変性である。
酸化剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ハロゲン、次亜ハロゲン酸、亜ハロゲン酸、過ハロゲン酸またはそれらの塩、ハロゲン酸化物、過酸化物などを使用できる。中でも、安価で環境負荷の少ない次亜塩素酸ナトリウムは好ましい。酸化剤の適切な使用量は、例えば、絶乾1gのセルロースに対して、0.5mmol~500mmolが好ましく、0.5mmol~50mmolがより好ましく、1mmol~25mmolがさらに好ましく、3mmol~10mmolが最も好ましい。また、例えば、N-オキシル化合物1molに対して1mol~40molが好ましい。
セルロースの酸化工程は、比較的温和な条件であっても反応を効率よく進行させられる。よって、反応温度は4℃~40℃が好ましく、また15℃~30℃程度の室温であってもよい。反応の進行に伴ってセルロース中にカルボキシル基が生成するため、反応液のpHの低下が認められる。酸化反応を効率よく進行させるためには、水酸化ナトリウム水溶液などのアルカリ性溶液を添加して、反応液のpHを8~12、好ましくは10~11程度に維持することが好ましい。反応媒体は、取扱い性の容易さや、副反応が生じにくいこと等から、水が好ましい。酸化反応における反応時間は、酸化の進行の程度に従って適宜設定することができ、通常は0.5時間~6時間、例えば、0.5時間~4時間程度である。
また、酸化反応は、2段階に分けて実施してもよい。例えば、1段目の反応終了後に濾別して得られた酸化セルロースを、再度、同一または異なる反応条件で酸化させることにより、1段目の反応で副生する食塩による反応阻害を受けることなく、効率よく酸化させることができる。
カルボキシル化(酸化)方法の別の例として、オゾンを含む気体とセルロース原料とを接触させることにより酸化する方法を挙げることができる。この酸化反応により、グルコピラノース環の少なくとも2位および6位の水酸基が酸化されると共に、セルロース鎖の分解が起こる。オゾンを含む気体中のオゾン濃度は、50g/m~250g/mであることが好ましく、50g/m~220g/mであることがより好ましい。セルロース原料に対するオゾン添加量は、セルロース原料の固形分を100質量部とした際に、0.1質量部~30質量部であることが好ましく、5質量部~30質量部であることがより好ましい。オゾン処理温度は、0℃~50℃であることが好ましく、20℃~50℃であることがより好ましい。オゾン処理時間は、特に限定されないが、1分~360分程度であり、30分~360分程度が好ましい。オゾン処理の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度に酸化および分解されることを防ぐことができ、酸化セルロースの収率が良好となる。オゾン処理を施した後に、酸化剤を用いて、追酸化処理を行ってもよい。追酸化処理に用いる酸化剤は、特に限定されないが、二酸化塩素、亜塩素酸ナトリウム等の塩素系化合物や、酸素、過酸化水素、過硫酸、過酢酸などが挙げられる。例えば、これらの酸化剤を水またはアルコール等の極性有機溶剤中に溶解して酸化剤溶液を作製し、溶液中にセルロース原料を浸漬させることにより追酸化処理を行うことができる。
酸化セルロースのカルボキシル基の量は、上記した酸化剤の添加量、反応時間等の反応条件をコントロールすることで調整することができる。酸化セルロースにおけるカルボキシル基量と同酸化セルロースをナノファイバーとしたときのカルボキシル基量は、通常、同じである。
(1-1-2-3)エステル化
アニオン変性の一例としてエステル化を挙げることができる。エステル化の方法としては、セルロース原料にリン酸系化合物の粉末や水溶液を混合する方法、セルロース原料のスラリーにリン酸系化合物の水溶液を添加する方法等が挙げられる。リン酸系化合物はリン酸、ポリリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ホスホン酸、ポリホスホン酸あるいはこれらのエステルが挙げられる。これらは塩の形態であってもよい。上記の中でも、低コストであり、扱いやすく、またパルプ繊維のセルロースにリン酸基を導入して、解繊効率の向上が図れるなどの理由からリン酸基を有する化合物が好ましい。リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カリウム、次亜リン酸ナトリウム、次亜リン酸カリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸アンモニウム等が挙げられる。これらの1種、あるいは2種以上を併用してセルロースにリン酸基を導入することができる。これらのうち、リン酸基導入の効率が高く、下記解繊工程で解繊しやすく、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。特にリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムが好ましい。また、反応を均一に進行できかつリン酸基導入の効率が高くなることから前記リン酸系化合物は水溶液として用いることが望ましい。リン酸系化合物の水溶液のpHは、リン酸基導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましいが、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3~7が好ましい。
リン酸エステル化セルロースの製造方法の例として、以下の方法を挙げることができる。固形分濃度0.1質量%~10質量%のセルロース系原料の懸濁液に、リン酸系化合物を撹拌しながら添加してセルロースにリン酸基を導入する。セルロース系原料を100質量部とした際に、リン酸系化合物の添加量はリン元素量として、0.2質量部~500質量部であることが好ましく、1質量部~400質量部であることがより好ましい。リン酸系化合物の割合が前記下限値以上であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。しかし、前記上限値を超えると収率向上の効果は頭打ちとなるので、コスト面から好ましくない。
リン酸系化合物に加えて、他の化合物の粉末や水溶液を混合してもよい。リン酸系化合物以外の他の化合物としては、特に限定されないが、塩基性を示す窒素含有化合物が好ましい。ここでの「塩基性」は、フェノールフタレイン指示薬の存在下で水溶液が桃色から赤色を呈すること、または水溶液のpHが7より大きいことと定義される。本発明で用いる塩基性を示す窒素含有化合物は、本発明の効果を奏する限り特に限定されないが、アミノ基を有する化合物が好ましい。例えば、尿素、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。中でも低コストで扱いやすい尿素が好ましい。他の化合物の添加量はセルロース原料の固形分100質量部に対して、2質量部~1000質量部が好ましく、100質量部~700質量部がより好ましい。反応温度は0℃~95℃が好ましく、30℃~90℃がより好ましい。反応時間は特に限定されないが、1分~600分程度であり、30分~480分がより好ましい。エステル化反応の条件がこれらの範囲内であると、セルロースが過度にエステル化されて溶解しやすくなることを防ぐことができ、リン酸エステル化セルロースの収率が良好となる。得られたリン酸エステル化セルロース懸濁液を脱水した後、セルロースの加水分解を抑える観点から、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。さらに、加熱処理の際に水が含まれている間は130℃以下、好ましくは110℃以下で加熱し、水を除いた後、100℃~170℃で加熱処理することが好ましい。
リン酸エステル化されたセルロースのグルコース単位当たりのリン酸基置換度は0.001以上0.40未満であることが好ましい。セルロースにリン酸基置換基を導入することで、セルロース同士が電気的に反発する。このため、リン酸基を導入したセルロースは容易にナノ解繊することができる。グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.001より小さいと、十分にナノ解繊することができない。一方、グルコース単位当たりのリン酸基置換度が0.40より大きいと、膨潤あるいは溶解するため、ナノファイバーとして得られなくなる場合がある。解繊を効率よく行なうために、上記で得たリン酸エステル化されたセルロース系原料は煮沸した後、冷水を用いて洗浄することが好ましい。これらのエステル化による変性は置換反応による変性である。エステル化セルロースにおける置換度と、同エステル化セルロースをナノファイバーとしたときの置換度は、通常、同じである。
(1-2)両親媒性高分子化合物
工程1では、上記の金属塩型のアニオン変性セルロースに両親媒性高分子化合物を添加して、混合物を形成する。両親媒性高分子化合物とは、1つの分子内に親水性基と疎水性基の両方を有し、分子量が200~20000程度の化合物をいう。両親媒性高分子化合物としては、水と下記の水溶性有機溶媒の両方に可溶なものが好ましい。具体的には、セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースアセテート、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルメチルセルロース、ニトロセルロース)、各種ポリマー(塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイソブチレン、PMMA樹脂、ポリカーボネート、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル)、ポリエチレングリコールとその誘導体、非イオン界面活性剤などを挙げることができるが、これらに限定されない。これらの中では、分子量が200~4000程度のポリエチレングリコールは、分散性が良好である点から好ましい。
両親媒性高分子化合物の添加量は、アニオン変性セルロースの質量に対して、1.0~15.0倍程度が好ましく、1.5~12.5倍程度がさらに好ましい。添加量が少なすぎると、アニオン変性セルロースをナノファイバーに変換して酸を添加した際の凝集を防ぐ効果が小さくなる。一方、量が多すぎても上記の効果が高まるわけではないので、適度な量とするのがコストの観点から好ましい。
(2)工程2
工程2では、工程1で得られた金属塩型のアニオン変性セルロースと両親媒性高分子化合物との混合物を機械的に処理して金属塩型のアニオン変性セルロースを解繊し、金属塩型のアニオン変性セルロースを、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーに変換して、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体を形成する。
(2-1)機械的処理(解繊)
機械的処理(アニオン変性セルロースの解繊)には、これらに限定されないが、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの強力なせん断力を印加できる装置を用いる。効率よく解繊するには、50MPa以上の圧力を印加し、かつ強力なせん断力を印加できる湿式の高圧または超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。前記圧力は、より好ましくは100MPa以上であり、さらに好ましくは140MPa以上である。高圧または超高圧ホモジナイザーとは、ポンプにより流体を加圧して高圧にし、流路に設けた非常に繊細な間隙より噴出させることにより、粒子間の衝突、圧力差による剪断力等の総合エネルギーによって乳化、分散、解細、粉砕、及び超微細化を行う装置である。高圧ホモジナイザーでの解繊および分散処理の前に、必要に応じて高速せん断ミキサーなどの公知の混合、攪拌、乳化、分散装置を用いて予備処理を施すこともできる。
解繊に際しては、アニオン変性セルロースの固形分濃度を0.01質量%~10質量%に調整することが解繊の効率の観点から好ましい。解繊時の分散媒は、水または有機溶媒、あるいはこれらの混合物を適宜選択できる。有機溶媒の種類は問わないが、例えばセルロース中の水酸基との親和性が高い極性溶媒が好ましく、メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン、エチレングリコールジメチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等を挙げることができる。上記分散媒は単独で用いても良いし、2種類以上を混合して用いてもよい。例えば、有機溶媒を2種類以上混合する形態、水と有機溶媒を含む形態、水のみの形態などを適宜選択することができる。水のみを分散媒として用いること(すなわち、水100%)は、取扱いの容易性から好ましい。水と有機溶媒とを混合する場合の混合割合は特に限定されず、使用する有機溶媒の種類に応じて適宜混合割合を調整すればよい。
(1-2)アニオン変性セルロースナノファイバー
上述の機械的処理(解繊)により、金属塩型のアニオン変性セルロースは、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーに変換される。
アニオン変性セルロースナノファイバーは、平均繊維径が3nm~500nm程度、好ましくは3nm~150nm程度、更に好ましくは3nm~20nm程度の繊維である。アスペクト比は30以上、好ましくは50以上、さらに好ましくは100以上である。アスペクト比の上限は限定されないが、500以下程度となる。
アニオン変性セルロースナノファイバーの平均繊維径および平均繊維長は、径が20nm未満の場合は原子間力顕微鏡(AFM)、20nm以上の場合は電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を用いて、ランダムに選んだ200本の繊維について解析し、平均を算出することにより、測定することができる。また、アスペクト比は下記の式により算出することができる:
アスペクト比=平均繊維長/平均繊維径。
金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーとは、アニオン変性の反応時に使用した薬品由来の金属(例えば、ナトリウム、カリウムなど)をアニオン性基の対イオンとして有するセルロースナノファイバーである。例えば、金属塩型のカルボキシル化セルロースナノファイバーは、カルボキシル基が-COOとなっており、金属塩型のカルボキシアルキル化セルロースナノファイバーでは、カルボキシルアルキル基が-RCOOとなっている(式中、Mはナトリウム、カリウム等の金属であり、Rはメチレン基、エチレン基等のアルキレン基である。)。
上述の方法により得られる金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーは、水及び/または極性溶媒を分散媒とした分散体の形態となっている。金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体における濃度は、後の工程3において酸との混合が可能な濃度であればよく、特に限定されないが、0.5~10.0質量%であることが好ましい。本発明では、例えば、1.5質量%以上、さらには2.5質量%以上のような高濃度のアニオン変性セルロースナノファイバー分散体であっても扱うことができる。高濃度のアニオン変性セルロースナノファイバー分散体を用いると、一度に処理することができるセルロースナノファイバーの量が増えるため、効率のよい処理ができるようになる。
(3)工程3
工程3では、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体に、酸と水溶性有機溶媒とを加えることにより、金属塩型における金属を水素に置換した形態である酸型(例えば、-COOH、-RCOOHなど)に変換する。
(3-1)酸
金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを酸型に変換するために、酸を加える。用いる酸の種類は特に限定されず、無機酸でも有機酸でも良い。無機酸としては、硫酸、塩酸、硝酸、亜硫酸、亜硝酸、リン酸などを挙げることができる。有機酸としては、酢酸、乳酸、蓚酸、クエン酸、蟻酸、アジピン酸、セバシン酸、ステアリン酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、フマル酸、グルコン酸などを挙げることができる。好適には、汎用的で入手しやすい塩酸または硫酸である。酸処理時のpHは、1~6の範囲が好ましく、2~5がより好ましい。酸の添加量は、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを酸型に変換できる量であればよく、特に限定されないが、例えば、強酸であれば、アニオン性基に対して1当量以上が好ましく、弱酸であれば10当量以上が好ましい。
(3-2)水溶性有機溶媒
工程3で酸を加えるのと同時に、または酸を加える前に、アニオン変性セルロースナノファイバーに水溶性有機溶媒を加える。水溶性有機溶媒とは、水と分離せずに任意に混合可能な有機溶媒をいう。水溶性有機溶媒の例としては、これらに限定されないが、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ブタノール、グリセリン、アセトン、メチルエチルケトン、1,4-ジオキサン、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、酢酸エチルなどを挙げることができ、これらを単独でまたは組み合せて使用してもよい。
水溶性有機溶媒の添加量は特に限定されず、後の工程においてアニオン変性セルロースナノファイバー分散体から脱液可能な量であればよいが、アニオン変性セルロースナノファイバーの分散体中の固形分濃度が0.5~2.0質量%程度となるような量が好ましい。
(4)工程4
工程3においてアニオン変性セルロースナノファイバーを金属塩型から酸型に変換した後、任意に、工程4において、濾過を行い、両親媒性高分子化合物を酸及び水溶性有機溶媒と共に除去してもよい。両親媒性高分子化合物は、水と水溶性有機溶媒の両方に溶解することから、酸を添加したセルロースナノファイバー分散体の濾過を行うことにより、酸と溶媒と両親媒性高分子化合物とをセルロースナノファイバーから濾別することができる。
濾過の方法は特に限定されず、フィルターを用いるなどの通常の方法で濾過を行なえばよいが、セルロースナノファイバー分散体は水等の溶媒を吸収して膨潤するため、自然濾過では時間がかかるので、吸引濾過等の圧力などで濾過を促進する方法を用いることが好ましい。濾過に用いるフィルターは特に限定されず、例えば、ろ布、ガラスフィルター、金属メッシュ、ろ紙等を用いることにより、酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを凝集体の形態で濾別することができる。
一度目の濾過を行った後、再び、水溶性有機溶媒を添加して、再度濾過を行うことにより、酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの洗浄を行ってもよい。水溶性有機溶媒と濾過による洗浄の回数は特に限定されず、例えば、1~5回、好ましくは2~3回程度行ってもよい。この洗浄を繰り返すことにより、酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体中に残存する両親媒性高分子化合物の除去を促進することができる。
工程4で得られるアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体は、酸型であり、通常、少量の水溶性有機溶媒を含有する(少量の水溶性有機溶媒により膨潤した)形態となっている。両親媒性高分子化合物の大半は、濾過により水溶性有機溶媒と共に除去されているが、セルロースナノファイバーへの物理的吸着などにより多少残存することも考えられる。工程4で得られるアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体中の両親媒性高分子化合物の残存量は、好ましくは、アニオン変性セルロースナノファイバーに対して30質量%以下であり、更に好ましくは、10質量%以下である。
得られた酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体は、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーに比べて、親水性が低くなっているため、疎水性の化合物との複合化などに用いることができる。また、さらに疎水性を高めるために、公知の疎水化剤と反応させてもよい。
また、以下に記載するように、有機溶媒(水溶性有機溶媒と、より低極性の有機溶媒の両方を含む)中に再度分散してもよい。
(5)工程5
工程4で得られた酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体に有機溶媒を添加して混合物を形成し(工程5)、疎水化剤と反応させて(工程6)、再度機械的に処理する(工程7)ことにより、有機溶媒を分散媒とするアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体を製造してもよい。
工程5では、上述の水溶性有機溶媒よりも低極性である(水と混合した際に分離するような)有機溶媒を用いる。アニオン変性セルロースナノファイバーが酸型となっていることにより、低極性の有機溶媒に対する親和性が高くなっている。
低極性の有機溶媒としては、これに限定されないが、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n-ヘキサン、n-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、フルオロトリクロロメタン、トリクロロトリフルオロメタン、ヘキサフルオロベンゼン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、メチルターシャリーブチルエーテルなどが挙げられる。これらの1種または2種以上を、最終的なアニオン変性セルロースナノファイバーの用途に応じて、適宜選択して使用することができる。
有機溶媒を添加して混合物を形成する際に使用する装置は特に限定されず、公知の撹拌手段や、上述のアニオン変性セルロースの解繊に用いる装置と同様のものを使用することができる。
有機溶媒を添加して混合物を形成する際には、有機溶媒の添加と濾過を数回(2~10回程度)繰り返す。これにより、元の水溶性有機溶媒から、所望の有機溶媒へと溶媒が置換される。
工程5で得られる混合物における最終的な有機溶媒の含有量は特に限定されないが、次の工程6での反応性を高める観点からは、混合物中のアニオン変性セルロースナノファイバーの固形分量が、0.1~10.0質量%程度となるような量で添加することが好ましい。
(6)工程6
工程5で得られた混合物に疎水化剤を添加し、アニオン変性セルロースナノファイバーに疎水化剤を結合させる。
疎水化剤としては、メチルアミン、エチルアミン、オレイルアミン、プロピルアミン、ドデシルアミン、ステアリルアミン、テトラデシルアミン、1-ヘキセニルアミン、1-ドデセニルアミン、9,12-オクタデカジエニルアミン(リノールアミン)、9,12,15-オクタデカトリエニルアミン、リノレイルアミン等の1級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン等の2級アミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の3級アミン、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩化メチルベンゼトニウム、塩化セチルピリジニウム、セトリモニウム、塩化ドファニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム等の4級アンモニウム、アニリン、ピリジン、ベンジルアミン等の芳香族アミン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のジアミン、HUNTSMAN社製のJEFFAMINE(登録商標) M600、JEFFAMINE(登録商標) M1000、JEFFAMINE(登録商標) M2005、JEFFAMINE(登録商標) M2070等のポリエーテルアミン、トリフェニルホスフィン、トリメチルホスフィン等のホスフィンなどが挙げられるが、これらに限定されない。これらの中では、溶剤中での分散性の観点から1級アミン、2級アミン、3級アミン、4級アンモニウム、ホスフィン、ポリエーテルアミンを用いることが好ましく、3級アミン、4級アンモニウム、ホスフィン、ポリエーテルアミンを用いることがより好ましい。
疎水化剤の添加量は、用いる疎水化剤の種類、アニオン変性セルロースナノファイバーにおけるアニオン変性の度合いなどに応じて、適宜決めればよい。例えば、アニオン性基の量(モル数)に対して、50~150%程度の量となるように添加すればよく、好ましくは70~130%、より好ましくは80~120%の量となるように添加すればよい。
(7)工程7
工程6で疎水化剤を添加し、撹拌するなどして充分に混合した後、工程7では、上述のアニオン変性セルロースの解繊に用いる装置と同様のものを使用して、有機溶媒中で機械的処理を行い、有機溶媒を分散媒とするアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体を形成する。
本発明により、有機溶媒に分散した際にも高い透明度を有するアニオン変性セルロースナノファイバーが得られる。透明度は、例えば、以下の方法で測定される:
所定の濃度のセルロースナノファイバー分散体を調製し、UV-VIS分光光度計 UV-1800(株式会社島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm 光の透過率を測定する。
本発明では、例えば、分散媒をトルエンとし、セルロースナノファイバーの固形分量(疎水化剤を含まない)を1.0質量%とした酸型アニオン変性セルロースナノファイバー分散体について、上記の方法で測定した透明度が80.0%以上となる分散体を製造することができる。
また、本発明により、有機溶媒に分散した際に高い粘度を有するアニオン変性セルロースナノファイバーが得られる。粘度は、例えば、以下の方法で測定される:
所定の濃度のセルロースナノファイバー分散体を調製し、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、回転数60rpmまたは6rpmで3分後の値を測定する。
本発明では、例えば、分散媒をトルエンとし、セルロースナノファイバーの固形分量(疎水化剤を含まない)を1.0質量%とした酸型アニオン変性セルロースナノファイバー分散体について、上記の方法で測定した60rpmにおけるB型粘度が、100mPa・s以上、好ましくは300mPa・s以上となる分散体を形成することができ、また、6rpmにおけるB型粘度が、500mPa・s以上、好ましくは1500mPa・s以上となる分散体を形成することができる。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
パルプを混ぜることができる撹拌機に、パルプ(NBKP、日本製紙株式会社製)を乾燥重量で200g、水酸化ナトリウムを乾燥重量で440g加え、パルプ固形濃度が15重量%になるように水を加えた。その後、30℃で30分撹拌した後に70℃まで昇温し、モノクロロ酢酸ナトリウムを585g(有効成分換算)添加した。1時間反応させた後に、反応物を取り出して中和、洗浄して、グルコース単位当たりのカルボキシメチル置換度0.24のカルボキシメチル化パルプを得た。
上記の工程で得られたカルボキシメチル化パルプを水で3.2質量%に調整した。このナトリウム塩型のカルボキシメチル化パルプに、カルボキシメチル化パルプの2倍の質量となるポリエチレングリコール(分子量:600)を添加し、ホモジナイザーを用いて混合した。得られた混合物を、水でカルボキシメチル化パルプの固形分量が3.0質量%になるように調整し、超高圧ホモジナイザー(20℃、150MPa)で3回解繊処理を行い、固形分3.0質量%の水を分散媒とするナトリウム塩型のカルボキシメチル化セルロースナノファイバー(以下、セルロースナノファイバーを「CNF」とも呼ぶ。)とポリエチレングリコールとを含有する分散体を作製した。
このカルボキシメチル化CNF(ナトリウム塩型)の分散体300gに、アセトン300gと、濃度10%の塩酸を9.5g添加し、ナトリウム塩型のカルボキシメチル化CNF(-CHCOONa)を、酸型に変換した(-CHCOOH)。
得られた酸型のカルボキシメチル化CNF凝集体とアセトンとポリエチレングリコールと塩酸の混合物を、ガラスフィルター(柴田科学社製、15G3)を用いて吸引濾過(アルバック機工社製 ダイアフラム型真空ポンプ、DCT-40)を行い、カルボキシメチル化CNFの凝集体を濾別した。ここに再度前記と同量のアセトンを加え、混合した後、再度吸引濾過を行った。このアセトンの添加と吸引濾過を3回繰り返した。ここまでに使用したアセトンの量を記録した。また、最初にアセトンを添加した時点から、最後の吸引濾過が終わるまでの時間を記録した。得られた酸型のカルボキシメチル化CNF1gに対する上記アセトンの量と、時間について、表1に示す。また、収率(用いた金属塩型のCNFのNaイオンを除いた質量に対する得られた酸型のCNFの質量の割合)を表1に示す。
得られた酸型のカルボキシメチル化CNF凝集体のアセトン混合液にトルエンを添加して混合し、上記と同様の方法でトルエン添加と吸引ろ過を3回繰り返した。得られた酸型のカルボキシメチル化CNFのトルエン混合液に、疎水化剤としてJEFFAMINE(登録商標) M2005(HUNTSMAN社製)をCNFのカルボキシメチル基に対して1当量となるよう添加し、ホモジナイザーを用いて8000rpm、10分混合撹拌した後、超高圧ホモジナイザーを用いて20℃で80MPaの圧力で1回、150MPaで3回処理(解繊)することにより、トルエンを分散媒とするカルボキシメチル化CNFの分散体を得た。得られた分散体の固形分量をトルエンを用いて3.7質量%(疎水化剤を含まないカルボキシメチル化CNFの固形分量は1.0質量%)に調整し、UV-VIS分光光度計 UV-1800(株式会社島津製作所製)を用い、光路長10mmの角型セルを用いて、660nm 光の透過率(「透明度」と呼ぶ)を測定した。結果を表2に示す。
また、得られた分散体(分散媒:トルエン、固形分量:3.7質量%)の25℃における粘度について、JIS-Z-8803の方法に準じて、B型粘度計(東機産業社製)を用いて、回転数60rpmまたは6rpmで測定した。結果を表2に示す。粘度の値は、3分後の値である。
<実施例2>
ポリエチレングリコールの添加量をCNFの質量の10倍の量とした以外は実施例1と同様にして、酸型のカルボキシメチル化CNF凝集体のアセトン混合液を得た。実施例1と同様に、使用したアセトンの量と、最初にアセトンを添加した時点から最後の吸引濾過が終わるまでの時間を記録した。結果を表1に示す。また、収率(用いた金属塩型のCNFのNaイオンを除いた質量に対する得られた酸型のCNFの質量の割合)を表1に示す。
次いで、実施例1と同様にして、固形分3.7質量%(疎水化剤を含まないカルボキシメチル化CNFの固形分量は1.0質量%)のトルエンを分散媒とするカルボキシメチル化CNF分散体を製造し、透明度及び粘度を測定した。結果を表2に示す。
<比較例1>
固形分を1.0質量%とし、ポリエチレングリコールを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、ナトリウム塩型のカルボキシメチル化CNFの分散体(分散媒:水)を用意した。ここに陽イオン交換樹脂(オルガノ社製「アンバージェット1024」)を添加し、20℃で0.3時間撹拌して接触させ、ナトリウム塩型のカルボキシメチル化CNF(-CHCOONa)を、酸型に変換した(-CHCOOH)。
得られた酸型のカルボキシメチル化CNFと陽イオン交換樹脂との混合物を、目開き30μmの金属メッシュフィルターを用いて吸引濾過(アルバック機工社製ダイアフラム型真空ポンプ、DCT-40)を行った。濾過液320gに対し400gのアセトンを加え、混合した後、遠心分離(3000rpm、10分間、装置:久保田製作所社製7800)を行った。その後、沈殿物に640gのアセトンを加え混合した後、再度、同じ条件で遠心分離を行った。次いで、再度300gの量のアセトンを加え、実施例1と同じ条件で吸引濾過を行った。このアセトンの添加と吸引濾過を3回繰り返した。ここまでに使用したアセトンの量を記録した。また、最初にアセトンを添加した時点から、最後の吸引濾過が終わるまでの時間を記録した。得られた酸型のカルボキシメチル化CNF1gに対する上記アセトンの量と、時間について、表1に示す。また、収率(用いた金属塩型のCNFのNaイオンを除いた質量に対する得られた酸型のCNFの質量の割合)を表1に示す。
また、得られた酸型のカルボキシメチル化CNF凝集体のアセトン混合液を用い、実施例1と同様にして、酸型のカルボキシメチル化CNF凝集体のトルエン混合液を作製し、次いで、実施例1と同様にして疎水化剤を添加して撹拌、解繊し、固形分量3.7質量%(疎水化剤を含まないカルボキシメチル化CNFの固形分量は1.0質量%)(分散媒:トルエン)のカルボキシメチル化CNF分散体を得た。この分散体について、実施例1と同様にして透明度及び粘度を測定した。結果を表2に示す。
<比較例2>
ポリエチレングリコールを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、酸型のカルボキシメチル化CNF凝集体のアセトン混合液を得た。実施例1と同様に、使用したアセトンの量と、最初にアセトンを添加した時点から最後の吸引濾過が終わるまでの時間を記録した。結果を表1に示す。また、収率(用いた金属塩型のCNFのNaイオンを除いた質量に対する得られた酸型のCNFの質量の割合)を表1に示す。
また、実施例1と同様にして、固形分3.7質量%(疎水化剤を含まないカルボキシメチル化CNFの固形分量は1.0質量%)のトルエンを分散媒とするカルボキシメチル化CNF分散体を製造し、透明度及び粘度を測定した。結果を表2に示す。
Figure 0007239294000001
Figure 0007239294000002
表1の結果より、金属塩型のアニオン変性セルロースにポリエチレングリコールを加えてから解繊を行った実施例1及び2では、陽イオン交換樹脂を用いた比較例1に比べて、CNF1gに対するアセトンの使用量を節約でき、また、操作にかかる時間も短期化することができることがわかる。また、実施例1及び2では、比較例1に比べて、収率も高いことがわかる。
実施例1及び2では初めに固形分3.0質量%の金属塩型のCNF分散体を用いたのに対し、比較例1では固形分1.0質量%の金属塩型のCNF分散体を用いた。これは、比較例1の方法では、CNF分散体が高濃度で高粘度(ゲル状)であると、陽イオン交換樹脂と充分に接触させることが困難であり、さらに陽イオン交換樹脂との濾別が困難であったため、実施例1よりも低い濃度を採用したものである。また、比較例1では、アセトンの添加と吸引濾過を3回繰り返す前に、アセトンの添加と遠心分離の操作を2回繰り返した。これは、固形分1.0質量%の酸型のCNF分散体にアセトンを添加しても、混合溶媒中のアセトン濃度が低く、CNFが容易に水分除去の可能レベルに凝集せず、吸引濾過に非常に多くの時間を要するため、先に遠心分離を行ったものである。比較例1において遠心分離を行わない場合、吸引濾過に2~3倍の時間を要すると考えられる。
比較例1ではアセトンの添加と遠心分離、及び、アセトンの添加と吸引濾過の操作が必要であったために、酸型のCNFが陽イオン交換樹脂と共に多少失われ、実施例1及び2よりも低い収率になったと考えられる。
以上の通り、表1より、本発明の方法(実施例1)では、比較例1及び2に比べて、高い濃度の金属塩型CNF分散体を用いて高い収率で酸型のCNFを製造できることがわかる。
また、表2の結果より、金属塩型のアニオン変性セルロースにポリエチレングリコールを加えてから解繊を行った実施例1及び2により得られたトルエン(低極性の有機溶媒)を分散媒とするカルボキシメチル化CNF分散体は、陽イオン交換樹脂を用いた比較例1と同等の透明度を有し、また、ポリエチレングリコールを用いなかった比較例2に比べて有意に高い透明度を有することがわかる。
また、実施例1及び2のトルエンを分散媒とするカルボキシメチル化CNF分散体は、比較例1及び2の分散体に比べて、有意に高い粘度を有することがわかる。実施例1及び2の分散体が、比較例1及び2の分散体に比べて有意に高い粘度を示す理由は明らかではないが、陽イオン交換樹脂法を用いた比較例1では超高圧ホモジナイザーによる解繊処理の際にCNFの切断が起こりやすく、CNFの繊維長が短くなったため粘度が低くなったと推測され、また、塩酸法を用いた比較例2では、酸型に変換する際にポリエチレングリコールが存在しないため、PEG-塩酸法を用いた実施例1及び2よりも酸型に変換する際のCNFの凝集が強く、有機溶媒(トルエン)中で機械的に処理する際に解繊しにくくなり、粘度が低くなったと推測される。


Claims (4)

  1. 金属塩型のアニオン変性セルロースと両親媒性高分子化合物とを含む混合物を準備する工程1、
    工程1で得られた混合物を機械的に処理し、前記金属塩型のアニオン変性セルロースを金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーに変換して、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体を形成する工程2、及び
    工程2で得られた金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを含有する分散体に酸と水溶性有機溶媒とを添加し、金属塩型のアニオン変性セルロースナノファイバーを、酸型に変換する工程3、
    を含み、
    前記金属塩型のアニオン変性セルロースは、セルロースの分子鎖にアニオン性基が導入されており、アニオン性基の対イオンとして金属イオンを有するセルロースであり、
    前記酸型は、前記金属塩型のアニオン変性セルロースにおけるアニオン性基の対イオンの金属イオンを水素に置換した形態であり、
    前記両親媒性高分子化合物は、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セルロースアセテート、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルメチルセルロース、ニトロセルロース、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ABS樹脂、ポリイソブチレン、PMMA樹脂、ポリカーボネート、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、ポリエチレングリコールとその誘導体、及び非イオン界面活性剤から選択される1以上である
    酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーを製造する方法。
  2. 工程3の後に、濾過を行い、両親媒性高分子化合物を水溶性有機溶媒と共に除去して酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体を製造する工程4をさらに含む、請求項1に記載の方法。
  3. 工程4で得られた酸型のアニオン変性セルロースナノファイバーの凝集体に有機溶媒を添加し、混合物を形成する工程5、
    工程5で得られた混合物に疎水化剤を添加する工程6、および
    工程6で得られた疎水化剤を含有する混合物を機械的に処理し、前記有機溶媒を分散媒とするアニオン変性セルロースナノファイバーの分散体を形成する工程7
    をさらに含む、請求項1または2に記載の方法。
  4. アニオン変性セルロースナノファイバーが、カルボキシアルキル基を有するセルロースナノファイバーまたはカルボキシル基を有するセルロースナノファイバーである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
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