以下、本発明の実施の形態に係る誘導加熱コイルおよび誘導加熱装置について、図面を参照して説明する。各実施の形態において、同一の構成には同一の符号を付して、説明を省略する。
実施の形態1.
<1.概要>
図1は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱装置100を示す斜視図である。誘導加熱装置100は、筐体1と、筐体1の上部に設けられたトッププレート2とを備える。筐体1とトッププレート2とが誘導加熱装置100の外郭を構成している。
本明細書では、説明の便宜上、鉛直方向上向きを正方向とするz軸を設け、z軸に直交する平面内に、互いに直交するx軸およびy軸を設ける。+x方向を右方向と呼び、-x方向を左方向と呼ぶ。また、+y方向を後方向と呼び、-y方向を前方向と呼ぶ。
トッププレート2は、ガラス、セラミックスまたは樹脂などの絶縁物を含む。トッププレート2の上に、誘導加熱装置100により誘導加熱される鍋やフライパンなどの被加熱物が載置される。
トッププレート2には、被加熱物を載置する位置の目安を示す載置位置表示3a、3b、3cが表示されている。誘導加熱装置100は、載置位置表示3a、3b、3cに載置された被加熱物を誘導加熱する。載置位置表示3a、3b、3cによって囲まれた部分をそれぞれ加熱口30a、30b、30cと呼ぶ。なお、加熱口を3口で図示したが、加熱口は必ずしも3口である必要はなく、1口、または複数口でもよい。
載置位置表示3a、3b、3cは、トッププレート2がガラスなどの透明な材質である場合、載置面であるトッププレート2の表面とは反対側の裏面に印刷などにより表示されていてよい。また、載置位置表示3a、3b、3cは、トッププレート2の裏面側に設けられた発光ダイオードなどの発光素子と導光部材などで構成され、被加熱物を載置する位置がトッププレート2の表面側から視認できるように構成されていてもよい。図1では、載置位置表示3a、3b、3cが被加熱物を載置する領域を示すように記しているが、載置位置表示3a、3b、3cは被加熱物を載置する位置の中心を示す点などで表示されていてもよい。
誘導加熱装置100は、筐体1の前面に、前方に引き出し可能な開閉扉を有するグリル部4を備えてもよい。グリル部4は、直方体状の内部空間を有する加熱庫を備える。グリル部4の加熱庫には、ヒータまたは加熱コイルなどの加熱手段が設けられている。グリル部4は、例えば、焼き魚を加熱するグリル調理を行う場合に使用される。なお、グリル部4は必ずしも必要ではなく、誘導加熱装置100は、グリル部4を備えなくてもよい。
誘導加熱装置100は、トッププレート2の表面の前方に操作部5aを備え、筐体1の前面に操作部5b、5cを備える。操作部5a、5b、5cは、加熱口30a、30b、30cによる被加熱物の加熱の開始、停止、もしくは加熱電力の調整、および、グリル部4による加熱の開始、停止、もしくは加熱電力の調整などに用いられる。操作部5a、5b、5cが設けられる位置は、図1に示す位置に限らず、使用者が誘導加熱装置100の操作を行い易い場所であればよい。
トッププレート2の表面の前方には、誘導加熱装置100の状態を表示する表示部6が設けられている。表示部6は、例えば、液晶ディスプレイや有機EL(Electroluminescence)ディスプレイなどのディスプレイ装置であってよい。表示部6には、誘導加熱装置100の動作状況に応じて様々な情報が表示される。例えば、表示部6には、各加熱口に入力される電力や電力の相対的な大きさが表示される。例えば、表示部6には、各加熱口に載置された被加熱物の底面の温度が表示されてもよい。表示部6を設ける位置は、トッププレート2の前方に限らず、使用者が視認しやすい位置であればよい。例えば、筐体1の前面に表示部6を設けてもよい。また、表示部6をタッチパネル付のディスプレイ装置で構成し、表示部6と操作部とを一体的に形成してもよい。
トッププレート2の表面の後方には、排気口7a、7b、7cが設けられている。排気口7a、7b、7cは、誘導加熱装置100内のグリル部4、電気回路(図示せず)、加熱コイル(図示せず)などで発生した熱や、グリル部4内での調理により発生した油煙などを外部に排出する。図1では、排気口7a、7b、7cがトッププレート2に設けられているが、筐体1に設けられてもよい。また、排気口の数は3口に限るものではなく、1口以上であればよい。なお、誘導加熱装置100は、グリル部4を有さない場合には、排気口を有しなくてもよく、例えば、筐体1の表面から放熱する構成であってもよい。
<2.誘導加熱コイル>
誘導加熱装置100の内部には、トッププレート2上に載置された鍋などの被加熱物を誘導加熱するための誘導加熱コイルと、誘導加熱コイルに電流を供給するための電気回路とが設けられている。
図2aは、実施の形態1における誘導加熱コイル31を示す平面図である。図2bは、図2aから外側加熱コイル34を省いた平面図である。図3は、図2aの誘導加熱コイル31をIII-III方向に見た模式的な断面図である。図3には、説明の便宜上、トッププレート2も示している。以下、図2aおよび図3を参照して誘導加熱コイル31の構成について説明する。
誘導加熱コイル31は、トッププレート2(図1参照)の下に設けられている。すなわち、誘導加熱コイル31は、図1に示した加熱口30a、30b、30cのそれぞれにz方向において対向して、トッププレート2の裏面側に設けられている。誘導加熱コイル31は、例えば、被覆された導線を渦巻状に巻回して形成してよい。誘導加熱コイル31を形成する導線は、銅などの導電率が高い金属からなる細線を被覆した被服細線を複数本撚って形成したリッツ線であってもよい。導線にリッツ線を用いると、20kHz~100kHzといった高周波における加熱コイルの電気抵抗の増大を抑制できる点で有利である。
1つの誘導加熱コイル31は、電気回路に電気的に接続(以下、単に「接続」という。)される端子を2つ有している。すなわち、1つの加熱コイルは両端を有する2端子回路部品である。また、必要に応じて、誘導加熱コイル31の被加熱物にz方向において対向する面とは反対側の面に対向させて、フェライトコアなどの磁性体が設けられてもよい。
誘導加熱コイル31は、平面視において加熱口30a、30b、30cの中央に配置される内側加熱コイル32と、内側加熱コイル32の前後に配置された前後周辺加熱コイル35と、内側加熱コイル32の左右に配置された左右周辺加熱コイル36と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の上側に配置された外側加熱コイル34とを備える。
図2aに示した例では、内側加熱コイル32は、平面視において円形に捲回された第1内側加熱コイル32aと、平面視において第1内側加熱コイル32aを取り囲むように円形に捲回された第2内側加熱コイル32bとを含む。
図2aに示した例では、前後周辺加熱コイル35は、前部加熱コイル35aと、後部加熱コイル35bとを含む。前部加熱コイル35aおよび後部加熱コイル35bは、第2内側加熱コイル32bに隣接して配置され、第2内側加熱コイル32b円形の外周部に沿う円弧形状の外周部を有する。左右周辺加熱コイル36は、右側加熱コイル36aと、左側加熱コイル36bとを含む。
右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bは、第2内側加熱コイル32bに隣接して配置され、第2内側加熱コイル32b円形の外周部に沿う円弧形状の外周部を有する。言い換えれば、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36は、平面視において内側加熱コイル32の形状に沿うように、楕円を折り曲げるように変形させた形状を有する。なお、誘導加熱コイル31を構成する各コイルは、矩形状、同心円状、および楕円状など、どのような形状の加熱コイルとしてもよい。また、各加熱コイルは、巻き線の巻数および巻き段数を調整することで、xyz軸方向にどのような幅を有してもよい。
図2aおよび図2bに示した例では、前部加熱コイル35a、後部加熱コイル35b、右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bは、全て同一の形状を有し、内側加熱コイル32の中心を中心として回転対称に配置されている。すなわち、前部加熱コイル35a、後部加熱コイル35b、右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bを内側加熱コイル32の中心を中心として90度回転させても、コイル全体の形状は変わらない。
外側加熱コイル34は、平面視において内側加熱コイル32と同心円状に捲回された円形コイルである。外側加熱コイル34は、右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bの上側に、右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bに対向配置されている。
なお、内側加熱コイル32、前後周辺加熱コイル35、左右周辺加熱コイル36、および外側加熱コイル34の、それぞれの配置は、上記に限定されない。例えば、各コイルは、左右側、前後側、または上下側方向に対して、配置に多少の幅を持たせることで配置に多少のずれがあってもよい。つまり、各コイルの配置は、図2aおよび図2bに示した例に、正確に一致しなくともよい。また、内側加熱コイルは必須の構成ではなく、周辺加熱コイルと外側加熱コイルのみの構成であってもよい。
図3では、外側加熱コイル34は、右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bと接触していない。このように、外側加熱コイル34は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36から間隙を設けて配置される。しかしながら、このような配置に限定されず、外側加熱コイル34は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36との絶縁を確保して配置されればよい。
例えば、外側加熱コイル34、前後周辺加熱コイル35または左右周辺加熱コイル36に耐電圧の高い導線が使用され、絶縁が十分に確保される場合は、外側加熱コイル34は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36と接触してもよい。また、例えば、外側加熱コイル34と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36と、の間に、カプトンテープ、マイカテープなどの絶縁テープ、絶縁紙、絶縁樹脂などの絶縁物が設けられてもよい。
誘導加熱コイル31を構成する内側加熱コイル32、前後周辺加熱コイル35、左右周辺加熱コイル36および外側加熱コイル34は、それぞれ個別の加熱コイルであってもよいし、これらの加熱コイルのうち、少なくとも2つの加熱コイルが接続されて、1つの加熱コイルを構成してもよい。リレーや半導体スイッチング素子などの開閉器を用いて、例えば調理目的に合わせて、複数の加熱コイルの接続を切り換えてもよい。
図4に示すように、本明細書では、平面視において誘導加熱コイル31の中心Oから第2内側加熱コイル32bの外周までにわたる領域を「第1領域」または「内側領域」と呼ぶ。また、平面視において、第2内側加熱コイル32bの内周から、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の内周までに挟まれた領域を「第2領域」、「中間領域」または「周辺領域」と呼ぶ。第2内側加熱コイル32bの直上の領域は、内側領域でもあり、かつ、周辺領域でもある。このように、内側領域と周辺領域とは、一部が重なっていてもよい。また、平面視において前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36のそれぞれの中心より外側の領域を「第3領域」または「外側領域」と呼ぶ。
誘導加熱コイル31の上方のトッププレート2上に被加熱物が載置された場合において、誘導加熱コイル31に電流が供給されると、内側加熱コイル32が、中心O付近の内側領域を加熱する。内側加熱コイル32と前後周辺加熱コイル35と左右周辺加熱コイル36とが、内側領域の外側の周辺領域を加熱する。前後周辺加熱コイル35と左右周辺加熱コイル36と外側加熱コイル34とが、周辺領域の更に外側の外側領域を加熱する。
誘導加熱コイル31を構成する各コイル間の干渉を抑制するために、強磁性体を誘導加熱コイル31の上側または下側に近接配置してもよい。図5は、強磁性体99の配置例を示す図である。図5には、誘導加熱コイル31の下側に近接配置された20個の強磁性体99が示されている。符号を省略するが、図5に示された20個の矩形は、それぞれ強磁性体99を表している。
<3.電気回路>
<3-1.全体>
図6は、実施の形態1における誘導加熱装置100の電気回路8の構成を示す図である。電気回路8は、図1に示した筐体1およびトッププレート2で囲われた誘導加熱装置100の内部に設けられている。電気回路8は、インバータ回路81、86と、インバータ回路81、86に電力を供給する電源供給部82と、チョークコイル83と、直流部84と、制御回路85とを備える。
<3-2.電源供給部等>
電源供給部82は、電源ヒューズ12と、入力コンデンサ13と、ダイオードブリッジ14とを備える。
入力コンデンサ13は、ダイオードブリッジ14の交流側端子(入力側端子)に並列に接続されている。ダイオードブリッジ14の交流側端子には、入力コンデンサ13と外部の交流電源9とが並列に接続される。入力コンデンサ13は、フィルタとして機能する。交流電源9は、商用電源である。電源ヒューズ12は、交流電源9と入力コンデンサ13との間に配置されている。電源ヒューズ12は、交流電源9から誘導加熱装置100に過電流が流入するのを防止する。ダイオードブリッジ14は、交流側端子に入力された交流電力を直流電力に整流する。整流された直流電力は、ダイオードブリッジ14の直流側端子(出力側端子)から出力される。
チョークコイル83の一方の端子は、ダイオードブリッジ14の直流側端子に接続されている。チョークコイル83の他方の端子には、直流部84が接続されている。直流部84は、チョークコイル83を介して、ダイオードブリッジ14と並列に接続されている。
直流部84は、例えば、コンデンサ、昇圧チョッパ、降圧チョッパもしくは昇降圧チョッパなどのDC/DCコンバータ、または力率改善コンバータである。直流部84がコンデンサである場合、チョークコイル83と直流部84とがフィルタを構成してよい。この場合、インバータ回路81、86には、交流電圧を全波整流した周期的に電圧値が変動する脈流の直流電圧が入力される。
直流部84がDC/DCコンバータである場合、直流部84は、並列に接続されているインバータ回路81およびインバータ回路86に入力される直流電圧の電圧値を変化させることができる。この場合、インバータ回路81、86には、電圧値がほぼ一定の直流電圧が入力される。
直流部84が力率改善コンバータである場合、直流部84は、交流電源9から入力される交流電力の力率を改善することができる。
直流部84とインバータ回路81、86との接続間に、電圧検出器や電流検出器が設けられてもよい。この場合、直流部84は、インバータ回路81、86に投入される電力値を算出してもよい。
<3-3.インバータ回路>
以下、インバータ回路81およびインバータ回路86の構成について説明する。まず、インバータ回路81の構成について説明する。
インバータ回路81は、第1のアーム回路21と、第2のアーム回路27と、第3のアーム回路(共通アーム回路)24とを備える。インバータ回路81の第1のアーム回路21と、第2のアーム回路27と、共通アーム回路24とは、互いに並列に接続されている。インバータ回路81の第1のアーム回路21と、第2のアーム回路27と、共通アーム回路24とは、直流部84とも並列に接続されている。
インバータ回路81の第1のアーム回路21は、直流部84の高電圧側に接続された第1のスイッチング素子21aと、直流部84の低電圧側に接続された第2のスイッチング素子21bとを備える。第1のスイッチング素子21aと第2のスイッチング素子21bとは、直列に接続されている。第1のスイッチング素子21aと第2のスイッチング素子21bとの接続点を出力端23と呼ぶ。
第1および第2のスイッチング素子21a、21bは、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やMOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect-Transistor)で構成される。あるいは、第1および第2のスイッチング素子21a、21bは、ディスクリートの半導体スイッチング素子であってもよい。このようなディスクリートの半導体スイッチング素子は、IPM(Intelligent Power Module)のように、複数の半導体素子を1つのパッケージ内に内蔵した電力用半導体モジュールであってもよい。
インバータ回路81の第1のアーム回路21は、第1のスイッチング素子21aに逆並列に接続されたダイオード22aと、第2のスイッチング素子21bに逆並列に接続されたダイオード22bとを更に備える。なお、第1および第2のスイッチング素子21a、21bがボディダイオードを有するMOSFETである場合、ダイオード22a、22bは必ずしも必要ではない。
第1のスイッチング素子21aのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号H1が入力される。ゲート信号H1に基づいて、第1のスイッチング素子21aのオンとオフとが制御される。同様に、第2のスイッチング素子21bのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号L1が入力され、第2のスイッチング素子21bのオンとオフとが制御される。
インバータ回路81の第2のアーム回路27は、第1のアーム回路21と同様の構成を有する。すなわち、第2のアーム回路27は、直流部84の高電圧側に接続された第1のスイッチング素子27aと、直流部84の低電圧側に接続された第2のスイッチング素子27bとを備える。第1のスイッチング素子27aと第2のスイッチング素子27bとは、出力端29を介して、直列に接続されている。第2のアーム回路27は、第1のスイッチング素子27aに逆並列に接続されたダイオード28aと、第2のスイッチング素子27bに逆並列に接続されたダイオード28bとを更に備える。第1のスイッチング素子27aのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号H7が入力され、第2のスイッチング素子27bのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号L7が入力される。
インバータ回路81の共通アーム回路24も、第1のアーム回路21および第2のアーム回路27と同様の構成を有する。すなわち、共通アーム回路24は、直流部84の高電圧側に接続された第1のスイッチング素子24aと、直流部84の低電圧側に接続された第2のスイッチング素子24bとを備える。第1のスイッチング素子24aと第2のスイッチング素子24bとは、出力端26を介して、直列に接続されている。共通アーム回路24は、第1のスイッチング素子24aに逆並列に接続されたダイオード25aと、第2のスイッチング素子24bに逆並列に接続されたダイオード25bとを更に備える。第1のスイッチング素子24aのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号H4が入力され、第2のスイッチング素子24bのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号L4が入力される。
なお、図6に示した例では、インバータ回路81は、3つのアーム回路を有し、そのうちの1つを共通アームとする構成を示したが、本実施の形態の電気回路8の構成はこれに限定されない。例えば、1つの加熱コイルに電力を供給するために、インバータ回路81をフルブリッジ回路またはハーフブリッジ回路で構成してもよい。さらに、インバータ回路81にアーム回路を設けず、1つのスイッチング素子でインバータ回路を構成してもよい。
インバータ回路81の第1のアーム回路21の出力端23と、共通アーム回路24の出力端26との間に、可変容量コンデンサ41と内側加熱コイル32とが直列に接続されている。可変容量コンデンサ41と内側加熱コイル32とは、共振回路を構成している。
インバータ回路81の共通アーム回路24の出力端26と、第2のアーム回路27の出力端29との間に、可変容量コンデンサ45と外側加熱コイル34とが直列に接続されている。可変容量コンデンサ45と外側加熱コイル34とは、共振回路を構成している。
このように、インバータ回路81の第1のアーム回路21と共通アーム回路24とが第1のフルブリッジ回路を構成し、第2のアーム回路27と共通アーム回路24とが第2のフルブリッジ回路を構成している。
共通アーム回路24には、第1のアーム回路21および第2のアーム回路27よりも大きな電流が流れる。そのため、共通アーム回路24を構成する第1のスイッチング素子24aおよび第2のスイッチング素子24bには、第1のアーム回路21および第2のアーム回路277よりもオン抵抗が小さいスイッチング素子を用いるのが好ましい。例えば、第1のアーム回路21の第1のスイッチング素子21aおよび第2のスイッチング素子21bをシリコン半導体で構成し、共通アーム回路24の第1のスイッチング素子24aおよび第2のスイッチング素子24bをワイドバンドギャップ半導体で構成してもよい。耐電圧を同じにする場合、ワイドバンドギャップ半導体で形成したスイッチング素子の方が、シリコン半導体で形成したスイッチング素子よりもオン抵抗を小さくすることができるためである。
同様に、第2のアーム回路27の第1のスイッチング素子27aおよび第2のスイッチング素子27bをシリコン半導体で構成し、共通アーム回路24の第1のスイッチング素子24aおよび第2のスイッチング素子24bをワイドバンドギャップ半導体で構成してもよい。
これにより、全てのアーム回路のスイッチング素子をワイドバンドギャップ半導体で構成する場合に比べて、インバータ回路81を低コストで実現できる。
図7は、可変容量コンデンサ41の構成を示す図である。可変容量コンデンサ41は、制御回路85からの制御信号によって静電容量を変更することができるコンデンサである。可変容量コンデンサ41は、コンデンサ41bおよび開閉器41cが直列に接続された部分と、コンデンサ41aと、を並列に接続した構成を有する。開閉器41cは、例えば、リレーおよび半導体スイッチング素子等の開閉器である。開閉器41cは、制御回路85からの制御信号により開閉状態を切り換える。
もっとも、可変容量コンデンサ41の構成は上記のものに限定されず、静電容量を変更することができるものであればよい。例えば、可変容量コンデンサ41は、コンデンサに開閉器を並列接続したものを別のコンデンサに直列接続した構成であってもよい。可変容量コンデンサ41に用いられるコンデンサおよび開閉器の数はこれらに限定されず、何個であってもよい。
可変容量コンデンサ45および後述の可変容量コンデンサ61、65も可変容量コンデンサ41と同様に、静電容量を変更することができる構成を有する。
次に、インバータ回路86の構成について説明する。インバータ回路86は、接続される加熱コイルを除き、インバータ回路81と同様の構成を有する。以下では、インバータ回路81と同様の構成については詳細な説明を省略する。
インバータ回路86は、互いに並列に接続された第1のアーム回路51と、第2のアーム回路57と、第3のアーム回路(共通アーム回路)54とを備える。
インバータ回路86の第1のアーム回路51は、直流部84の高電圧側に接続された第1のスイッチング素子51aと、直流部84の低電圧側に接続された第2のスイッチング素子51bとを備える。第1のスイッチング素子51aと第2のスイッチング素子51bとは、出力端53を介して、直列に接続されている。第1のアーム回路51は、第1のスイッチング素子51aに逆並列に接続されたダイオード52aと、第2のスイッチング素子51bに逆並列に接続されたダイオード52bとを更に備える。第1のスイッチング素子51aのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号H2が入力され、第2のスイッチング素子51bのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号L2が入力される。
インバータ回路86の第2のアーム回路57は、第1のアーム回路51と同様の構成を有する。すなわち、第2のアーム回路57は、直流部84の高電圧側に接続された第1のスイッチング素子57aと、直流部84の低電圧側に接続された第2のスイッチング素子57bとを備える。第1のスイッチング素子57aと第2のスイッチング素子57bとは、出力端59を介して、直列に接続されている。第2のアーム回路57は、第1のスイッチング素子57aに逆並列に接続されたダイオード58aと、第2のスイッチング素子57bに逆並列に接続されたダイオード58bとを更に備える。第1のスイッチング素子57aのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号H8が入力され、第2のスイッチング素子57bのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号L8が入力される。
インバータ回路86の共通アーム回路54も、第1のアーム回路51および第2のアーム回路57と同様の構成を有する。すなわち、共通アーム回路54は、直流部84の高電圧側に接続された第1のスイッチング素子54aと、直流部84の低電圧側に接続された第2のスイッチング素子54bとを備える。第1のスイッチング素子54aと第2のスイッチング素子54bとは、出力端56を介して、直列に接続されている。共通アーム回路54は、第1のスイッチング素子54aに逆並列に接続されたダイオード55aと、第2のスイッチング素子54bに逆並列に接続されたダイオード55bとを更に備える。第1のスイッチング素子54aのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号H5が入力され、第2のスイッチング素子54bのゲート端子には、制御回路85による制御に基づいて、ゲート信号L5が入力される。
インバータ回路86の第1のアーム回路51の出力端53と、共通アーム回路54の出力端56との間に、可変容量コンデンサ61と前後周辺加熱コイル35とが直列に接続されている。
インバータ回路86の共通アーム回路54の出力端56と、第2のアーム回路57の出力端59との間に、可変容量コンデンサ65と左右周辺加熱コイル36とが直列に接続されている。
なお、図6に示した例では、インバータ回路81、86が有するアーム回路の数は3つであったが、アーム回路の数はこれに限定されない。例えば、各インバータ回路は、4つ以上のアーム回路を有し、1つまたは複数のアーム回路を共通アーム回路とする構成であってもよい。
また、各アーム回路を構成する各スイッチング素子は、ディスクリートの半導体スイッチング素子で構成されてもよく、IPM(Intelligent Power Module)のように複数の半導体素子を1つのパッケージ内に内蔵した電力用半導体モジュールで構成されてもよい。例えば、各インバータ回路は、3つのアーム回路を内蔵した電力用半導体モジュールを備えてもよい。3つのアーム回路を内蔵した電力用半導体モジュールは、三相交流モータの駆動用インバータ装置に広く用いられているため、安価である。インバータ回路にこのような電力用半導体モジュールを用いることで、誘導加熱装置100を低コストで実現することができる。また、各アーム回路は、スイッチング素子にコンデンサと抵抗器とを含むスナバ回路を並列接続して、スイッチング素子に印加されるサージ電圧を抑制する構成であってもよい。
以上では、各加熱コイルのうちいくつかを接続したインバータ回路81、86の構成を説明したが、各加熱コイルは、全て接続されてもよいし、各加熱コイルに対して、それぞれ独立したインバータ回路が設けられてもよい。また、リレーなどを用いて、インバータ回路と複数の加熱コイルとの接続を適宜切り替えてもよい。これにより、少なくとも1つ以上のインバータ回路により、複数の加熱コイルに電流を供給することができる。
<3-4.負荷検知部>
以下、図示しない負荷検知部について説明する。負荷検知部は、内側加熱コイル32、外側加熱コイル34、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36に載置された被加熱物の材質を判別する回路である。
例えば、被加熱物が鉄などの磁性金属である場合と、アルミや銅などの非磁性体である場合とでは、各加熱コイルの両端で測定したインピーダンスは異なる。このインピーダンスの違いを利用して、各加熱コイルに載置された被加熱物の材質を判別する。インピーダンスの違いは、例えば抵抗またはインダクタンスの変化として測定される。
負荷検知部を設ける位置について説明する。例えば、内側加熱コイル32に直列に第1の負荷検知部を設け、外側加熱コイル34に直列に第2の負荷検知部を設け、前後周辺加熱コイル35に直列に第3の負荷検知部を設け、左右周辺加熱コイル36に直列に第4の負荷検知部を設けてもよい。
負荷検知部は、例えば、直流部84の電流と各加熱コイルと直列に設けた負荷検知部の電流との比を測定し、被加熱物による電流比の違いから、被加熱物の材質を判別してもよい。負荷検知部は、上記に記述していない他の公知の負荷検知技術を用いて、被加熱物の材質を検出してもよい。
負荷検知部は、内側加熱コイル32に接続された第1の負荷検知部の判別結果により被加熱物の中心付近の内側領域の材質を判別し、外側加熱コイル34に接続された第2の負荷検知部と、前後周辺加熱コイル35に接続された第3の負荷検知部と、左右周辺加熱コイル36に接続された第4の負荷検知部と、の判別結果により内側領域より外側の領域の被加熱物の材質を判別してもよい。
負荷検知部は、制御回路85と別体として設けられていてもよいが、制御回路85と一体的に設けられていてもよい。例えば、負荷検知部に電流検出器や電圧検出器のみが設けられ、検出した電流値や電圧値が制御回路85に入力され、制御回路85は、検出した電流値や電圧値を演算して被加熱物の材質を判別してもよい。すなわち、制御回路85は負荷検知部の機能を備えていてもよい。
電流検出器や電圧検出器がアーム回路の出力端と加熱コイルとの間に設けられ、負荷検知部として機能する制御回路85は、加熱コイルの電流値や電圧値に基づいて、被加熱物の材質を判別してもよい。
<3-5.制御回路>
図6に示した制御回路85は、誘導加熱装置100の動作全体を制御する。制御回路85は、アナログ回路やデジタル回路を有する集積回路を用いて構成されてもよい。また、制御回路85は、プログラムを実行することにより所定の機能を実現するCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、MCU(Micro Controller Unit)などの演算処理装置であってもよい。制御回路85は、必要に応じて各スイッチング素子を駆動するためのゲート駆動回路や保護回路を備えてもよい。
制御回路85は、スイッチング素子21a、21b、24a、24b、27a、27b、51a、51b、54a、54b、57aおよび57bのスイッチングを制御する。すなわち、制御回路85は、ゲート信号H1、H2、H4、H5、H7、H8、L1、L2、L4、L5、L7およびL8を出力する。図6では、各スイッチング素子のゲート端子と制御回路85とを結ぶ信号線を省略している。
また、制御回路85は、可変容量コンデンサ41、45、61および65の容量の変更を制御する。例えば、制御回路85は、図7に示した開閉器41cの開閉を制御する信号を出力する。図6では、各可変容量コンデンサと制御回路85とを結ぶ信号線を省略している。
また、制御回路85は、図示しない負荷検知部と接続され、負荷検知部からの信号を受信する。さらに、制御回路85は、操作部5および表示部6に接続されており、操作部5および表示部6との間で操作信号や表示信号などの信号の送受信を行う。操作部5は、図1に示した操作部5a、5b、5cを含む。
制御回路85は、負荷検知部からの信号を受信し、被加熱物の材質に適した加熱するために、各スイッチング素子を駆動するためのゲート信号を出力する。なお、制御回路85は、電流の大きさを変更する手段として、インバータをスイッチングする周波数を、共振回路の共振周波数に近付けたり、共振周波数から遠ざけたりする周波数制御を用いてもよい。周波数制御の代わりに、または周波数制御と併存して、制御回路85は、ゲート信号のオンデューティ幅を増減させるデューティ制御を用いて電流の大きさを制御してよい。
制御回路85は、例えば、各コイルに流れる電流が、同一の周波数、大きさおよび位相を有するように制御するが、本発明はこれに限定されず、周辺領域および外側領域の磁束を強めることができればよい。
各コイルに流れる電流を同一の周波数とする利点は、各コイルに流れる電流間の周波数の差に起因する干渉音(唸り)を抑制し、使用者に不快感を生じさせないことである。干渉音(唸り)を抑制するためには、各コイルに流れる電流を同一の周波数とする以外にも、例えばコイル間の電流の周波数差を可聴周波数の最大値より大きくすればよい。ヒトの可聴周波数の最大値は、約20kHzであることが知られている。
インバータ回路がフルブリッジ回路で構成されている場合、制御回路85は、インバータの出力電圧に対して、出力電流の位相差を増減させて制御する位相差制御を用いて電流の大きさを制御してよい。
直流部84がDC/DCコンバータである場合、制御回路85は、DC/DCコンバータに含まれるスイッチング素子のスイッチング制御を行ってもよい。
<4.動作>
本実施の形態の誘導加熱装置100により、外側領域を強く加熱することができる。
隣接する2つの加熱コイルに流れる電流の方向が同一方向になるように制御することによって、磁束を強めることができる。一方、隣接する2つの加熱コイルに流れる電流の方向が反対方向になるように制御することによって、磁束を弱めることができる。本実施の形態では、電流の方向を制御して磁束の強め合いを制御することで、外側領域を強く加熱することができる。
図8は、誘導加熱コイル31の動作の一例を示す模式図である。図8では、電流の方向を破線矢印で示している。図8では、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の最外周部分における電流の方向と、外側加熱コイル34の電流の方向とが同一となっている。すなわち、前後周辺加熱コイル35、左右周辺加熱コイル36および外側加熱コイル34には、平面視において、それぞれのコイルの中心の周りに反時計周り方向に電流が流れている。内側加熱コイル32には、平面視において時計周り方向に電流が流れている。各加熱コイルに流れる電流は交流電流であるため、各加熱コイルに流れる電流の向きは半周期後に逆向きになる。
なお、制御回路85は、各加熱コイル32、34、35および36に流れる電流の向きだけでなく、電流の大きさ、位相、および周波数も制御してもよい。
誘導加熱コイル31、および、誘導加熱コイル31の周辺に配置される金属には、各加熱コイル32、34、35および36の干渉により誘導される電流(誘導電流)が生じる。制御回路85は、各加熱コイル32、34、35および36に流れる電流の大きさを、誘導電流を打ち消すように零または零付近に制御してもよい。あるいは、スイッチング素子をオフすることなどの手段により、制御回路85は、各加熱コイル32、34、35および36への電流の供給を停止させ、停止させた加熱コイルに誘導電流を流れるようにしてもよい。
図9aは、図8に示したように電流を流した誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。ジュール損は、被加熱物が有する抵抗によって発生する。比較のため、図8の誘導加熱コイル31から外側加熱コイル34を省いた場合における被加熱物のジュール損分布を図9bに示す。図9aおよび図9bでは、色が明るく(白く)なる程ジュール損が大きいことを示している。
前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36だけでなく、図8に示したように外側加熱コイル34にも電流を流した場合(図9a)、外側加熱コイル34に電流を流さない場合(図9b)に比べて、外側領域をより強く加熱することができる。また、外側加熱コイル34に電流を流した場合、磁束を弱めないため、高効率かつ均一な加熱を実現することができる。
また、誘導加熱装置100により、上記以外の多様なジュール損分布を実現することができる。
図10は、誘導加熱コイル31の動作の他の例を示す模式図である。図10では、前後周辺加熱コイル35および外側加熱コイル34には、平面視において反時計周り方向に電流が流れている。内側加熱コイル32には、平面視において時計周り方向に電流が流れている。すなわち、図10は、図8において左右周辺加熱コイル36への電流の供給を停止させた状態を示している。
図11は、図10に示したように電流を流した誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。図10に示したように電流を流すことにより、周辺領域の前後部分(y軸に沿った部分)と、外側領域の前後部分と、を強く加熱することができる。
図10では、前後周辺加熱コイル35、内側加熱コイル32、および外側加熱コイル34に電流を流し、左右周辺加熱コイル36に電流を流さない例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、制御回路85(図6参照)は、左右周辺加熱コイル36、内側加熱コイル32、および外側加熱コイル34に電流を流し、前後周辺加熱コイル35に電流を流さないように制御を行ってもよい。
図12は、誘導加熱コイル31の動作の他の例を示す模式図である。図12では、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36には、平面視において反時計周り方向に電流が流れ、内側加熱コイル32には、時計周り方向に電流が流れている。すなわち、図12は、図8において外側加熱コイル34に流れていた電流を停止させた状態を示している。
図13は、図12に示したように電流を流した誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。図12に示したように電流を流すことにより、周辺領域を強く加熱する一方で、外側領域を加熱しないようにすることができる。外側領域のジュール損については、図9bと図13とを比較してわかるように、誘導加熱装置100が外側加熱コイル34を備えない場合(図9b)と同様の結果にはならず、より外側領域のジュール損を抑制することができる。これは、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36に流れる電流によって生じた磁束が外側加熱コイル34に鎖交し、これにより外側加熱コイル34に、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の外側領域における電流の向きと反対向きの誘導電流が流れ、外側領域に漏れ出る磁束をキャンセルするからである。
このように、誘導加熱装置100では、外側領域を加熱しない加熱(ぴったり加熱)を実現できる。また、誘導加熱装置100では、外側領域に漏れ出る磁束をキャンセルすることにより、周囲へのノイズの漏れを抑制できる。
図14は、実施の形態1における誘導加熱コイル31から外側加熱コイル34を省いた構成を有する加熱コイル37の平面図である。図14では、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36には、平面視において反時計周り方向に電流が流れ、内側加熱コイル32には、電流が流れていない。
図15は、図14に示したように電流を流した加熱コイル37上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。図15では、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の周辺に磁束が生じ、ジュール損が観測される。
図16は、誘導加熱コイル31の動作の他の例を示す模式図である。図16では、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36には、平面視において反時計周り方向に電流が流れ、内側加熱コイル32および外側加熱コイル34には、電流が流れていない。すなわち、図16は、図8と比較すると、図8において内側加熱コイル32および外側加熱コイル34に流れていた電流を停止させた状態を示している。また、図16の誘導加熱コイル31は、図14と比較すると、図14の加熱コイル37に外側加熱コイル34を加えた構成を有する。
図17は、図16に示したように電流を流した誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。図17を図15と比較すると、外側加熱コイル34を加えたことにより、外側領域を加熱することなく、周辺領域のみを加熱することができる。これは、図12および図13を参照して説明したのと同様に、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36に流れる電流によって生じた磁束が外側加熱コイル34に鎖交し、これにより外側加熱コイル34に、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の外側領域における電流の向きと反対向きの誘導電流が流れ、外側領域に漏れ出る磁束をキャンセルするからである。
図18は、誘導加熱コイル31の動作の他の例を示す模式図である。図18では、前後周辺加熱コイル35、左右周辺加熱コイル36および外側加熱コイル34には、平面視において反時計周り方向に電流が流れ、内側加熱コイル32には、電流が流れていない。すなわち、図18は、図8と比較すると、図8において内側加熱コイル32に流れていた電流を停止させた状態を示している。また、図18は、図16と比較すると、図16において電流が流れていなかった外側加熱コイル34に、平面視において反時計周り方向に電流が流した状態を示している。
図19a、19bおよび19cは、図18に示したように電流を流した誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。図19a、19bおよび19cの差異は、外側加熱コイル34に流れる電流の大きさである。例えば、図19aは、外側加熱コイル34に実効値I1を有する電流を流した場合のジュール損分布を示している。図19bは、外側加熱コイル34に実効値I2を有する電流を流した場合のジュール損分布を示している。図19cは、外側加熱コイル34に実効値I3を有する電流を流した場合のジュール損分布を示している。ここで、I1<I2<I3である。
図19aと図15とを比較してわかるように、図18のように外側加熱コイル34を配置しても、外側加熱コイル34を配置しない場合(図14)と同様のジュール損、すなわち加熱を実現することができる。
外側加熱コイル34に流す電流の量を増加させると、図19bに示すように、周辺領域と外側領域とを強く加熱することができる。外側加熱コイル34に流す電流の量を更に増加させると、図19cに示すように、周辺領域を加熱せず、外側領域のみを強く加熱する加熱態様を実現することができる。
図20は、誘導加熱コイル31の動作の他の例を示す模式図である。図20では、前後周辺加熱コイル35および外側加熱コイル34には、平面視において反時計周り方向に電流が流れ、内側加熱コイル32および左右周辺加熱コイル36には、電流が流れていない。すなわち、図18は、図8と比較すると、図8において内側加熱コイル32および左右周辺加熱コイル36に流れていた電流を停止させた状態を示している。
図21は、図20に示したように電流を流した誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。図20に示したように電流を流すことにより、内側領域を加熱せず、前後周辺加熱コイル35の上部である周辺領域および外側領域の前後方向のみを加熱することができる。また、外側加熱コイル34の存在により、特に外側領域の前後方向を強く加熱することができる。
図20では、前後周辺加熱コイル35および外側加熱コイル34に電流を流し、内側加熱コイル32および左右周辺加熱コイル36に電流を流さない例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、制御回路85(図6参照)は、前後周辺加熱コイル35および外側加熱コイル34に電流を流し、内側加熱コイル32および左右周辺加熱コイル36に電流を流さないように制御を行ってもよい。
また、例えば、制御回路85は、誘導加熱コイル31を構成する各コイルに、時分割で切り換えて電流を供給してもよい。また、制御回路85は、操作部5(図6参照)からの入力に応じて、誘導加熱コイル31を構成する各コイルの電流のON/OFFを切り換えてもよい。また、誘導加熱装置100が上記の動作例で示した様々な動作モードを内部の記憶装置等に格納しておき、ユーザが操作部5を用いて動作モードを選択してもよい。
なお、制御回路85は、上記では、強く加熱するために、隣接する加熱コイルに流れる電流の向きを、同一になるように制御する例を示したが、本発明の各加熱コイルにおいて、隣接する加熱コイルにより生じる磁束を弱めるように制御してもよい。つまり、隣接する加熱コイルに流れる電流を異なる方向になるように制御してもよい。
<5.効果等>
以上のような構成を有する誘導加熱装置100により、種々の態様の加熱および調理を実現することができる。
図22は、トッププレート2を介して誘導加熱コイル31上に被加熱物110が載置された場合において、誘導加熱コイル31とトッププレート2と被加熱物110とを、図3と同一の方向(図2aのIII-III方向)に見た模式的な断面図である。誘導加熱装置100は、外側加熱コイル34を備えることにより、図22のように被加熱物110が外側領域において湾曲部分(R部分)111を有する場合であっても、R部分111を強く加熱できる。
R部分111は、湾曲により、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36からz方向の距離が離れているため、外側加熱コイル34なしでは弱い磁束としか鎖交せず、十分な加熱ができない。本実施の形態に係る誘導加熱装置100では、外側領域を2種類のコイル(前後周辺加熱コイル35および外側加熱コイル34、または、左右周辺加熱コイル36および外側加熱コイル34)で加熱できる。
また、誘導加熱装置100は、誘導加熱コイル31を構成する各コイルに流す電流の大きさと方向を制御することによって、多様な発熱分布を実現できる。多様な発熱分布によって生じた熱勾配と、高温部で生じた沸騰泡とを利用することにより、被加熱物110の中の液体に対流を生じさせることができる。特に、誘導加熱装置100は、外側領域を強く加熱できるため、被加熱物110の外側から内側へ向けた強い対流を生じさせることができる。また、誘導加熱装置100は、加熱するコイルを選択できるため、対流の大小(対流の距離の長短)を制御することができる。
このように、誘導加熱装置100は、大きさおよび強弱につき多様な対流を生じさせることができるため、調理において具材への味の染み込みを向上させる効果、および、染み込み時間を短縮させる効果を実現できる。さらに、対流によって被加熱物110の中身を適切に掻き混ぜることができ、中身の焦付きや吹き零れを防止することができる。
誘導加熱装置100は、アルミニウムなどの非磁性体の底面に磁性体が貼り付けられたような異種材質からなる被加熱物を加熱する際にも利点を有する。図23は、このような被加熱物112がトッププレート2を介して誘導加熱コイル31上に載置された場合において、誘導加熱コイル31とトッププレート2と被加熱物112とを、図3と同一の方向(図2aのIII-III方向)に見た模式的な断面図である。
被加熱物112は、アルミニウムなどの非磁性体からなる本体114と、底面部に配置された磁性体113とを含む。従来技術の誘導加熱装置では、非磁性体からなる本体114を例えば低周波により加熱した場合、過電流や過電圧でスイッチング素子、加熱コイル、およびコンデンサを破壊してしまうおそれがある。そこで、従来技術の誘導加熱装置は、図示しない負荷検知部によって外側領域の上部にある被加熱物112の材質が非磁性体であると判断した場合、加熱コイルに流れる電流を制限する。一方、本発明の誘導加熱装置100は、従来技術の誘導加熱装置と比べて、外側加熱コイル34と、外側加熱コイル34に電流を流すためのインバータ回路を備える。つまり、外側領域を加熱するために複数のインバータ回路を備えるため、非磁性体の下にある、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36に供給する電流の大きさを弱めたとしても、追加した外側加熱コイル34および外側加熱コイル34に電流を供給するインバータ回路により、不足した電流を供給できるため、十分な加熱を行うことができる。
また、上記で非磁性体からなる本体114に対して、複数の加熱コイルおよび複数のインバータ回路を備えた例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、複数のインバータ回路を備えなくとも、外側加熱コイル34、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36を接続し、接続した加熱コイルに電流を供給できる一つのインバータで加熱してもよい。その結果、従来技術の誘導加熱装置と比べて、外側領域に、外側加熱コイル34、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36のように複数の加熱コイルを備えたことで、外側領域を集中して加熱できるため、従来技術の誘導加熱装置に対して本発明の誘導加熱装置100の方が、外側領域を強く加熱することができる。
実施の形態2.
以下、本発明の実施の形態2に係る誘導加熱装置について説明する。実施の形態1と比較すると、実施の形態2では、誘導加熱コイル31の下側に強磁性体が追加されている。
図24は、実施の形態2に係る誘導加熱装置の誘導加熱コイル31および強磁性体98、99の構成を示す平面図である。図24では、図5で説明したような誘導加熱コイル31および20個の強磁性体99に加えて、4個の強磁性体98が更に備えられている。
図25aは、強磁性体98の平面図である。図25bは、強磁性体98の正面図である。
図24に矢印で示した電流の方向を見てわかるように、強磁性体98の上部では、前後周辺加熱コイル35と左右周辺加熱コイル36との間の4箇所の領域において、その領域に隣接する前後周辺加熱コイル35に流れる電流の方向と、左右周辺加熱コイル36に流れる電流に流れる方向とが逆向きとなっている。したがって、前後周辺加熱コイル35と左右周辺加熱コイル36とに流れる電流は、この4箇所の領域の磁束を弱める影響を与える。そのため、図9aに示したように、この4箇所の領域と、これらの領域に近い外側加熱コイル34の直上付近のジュール損は小さくなっている。
そこで、実施の形態2では、この4箇所の領域に強磁性体98をそれぞれ配置し、これによって磁束を強める効果が得られる。
図26は、実施の形態2における誘導加熱コイル31上に載置された被加熱物のジュール損分布を示す図である。4箇所の領域に強磁性体98を配置したことにより、外側加熱コイル34の上部の全周にわたって、強い加熱を実現できる。これにより、特に4箇所の領域における加熱ムラを抑制することができる。
図24、25aおよび25bでは、強磁性体98の底面を矩形状で示したが、強磁性体98の形状はこれに限定されない。例えば、コスト低減のために、強磁性体98の形状を、外側が広く、内側が狭い台形状にしてもよい。また、図24では、強磁性体98の幅が強磁性体99の幅よりも大きいが、強磁性体99の幅以下であってもよい。また、強磁性体98の形状は、図24、25aおよび25bに示したL字形状に限定されず、平坦な形状であってもよい。
実施の形態3.
以下、本発明の実施の形態3に係る誘導加熱装置について説明する。図27は、実施の形態3における誘導加熱装置300の電気回路308の構成を示す図である。実施の形態1と比較すると、実施の形態3では、誘導加熱装置300は、入力コンデンサ13と並列に接続された零ボルト電圧検出手段360を更に備える。誘導加熱装置300のその他の構成については、実施の形態1および2と同じであるので説明を省略する。
実施の形態1および2で示したように、制御回路85は、インバータ回路81、86を制御する。具体的には、制御回路85は、誘導加熱コイル31の各コイルに電流を供給するように、または、各コイルに流れている電流を停止するように、インバータ回路81、86を制御する。実施の形態3では、制御回路85は、零ボルト電圧検出手段360を用いて交流電源9の交流電圧が零となるタイミングを検出し、このタイミングに基づいて、誘導加熱コイル31の各コイルに流れる電流を供給、または停止するように、制御する。
零ボルト電圧検出手段360は、交流電源9の交流電圧が零ボルト電圧となるタイミング(以下、「零クロスタイミング」と呼ぶ。)を検出する手段である。零ボルト電圧検出手段360は、例えば、抵抗器、ダイオード、および、フォトカプラなどで構成される。零クロスタイミングは、交流電圧の1周期当たり2回ある。零ボルト電圧検出手段360は、交流電圧の1周期当たり、少なくとも1回の零クロスタイミングを検出できればよい。言い換えれば、零ボルト電圧検出手段360は、交流電圧の1周期、または、半周期の零クロスタイミングのうち、少なくとも一方を検出できればよい。零ボルト電圧検出手段360は、制御回路85に、検出した零クロスタイミングを出力する。
実施の形態3に係る誘導加熱装置300では、直流部84は、小容量のコンデンサであってもよい。この場合、インバータ回路81、86が駆動されて動作していると、負荷となり、直流部84のコンデンサで貯められた電荷が消費される。したがって、直流部84に印可される電圧は降圧する。交流側端子に入力された交流電力は、ダイオードブリッジ14で十分に整流されず、インバータ回路81、86には、交流電源9の半周期のタイミングで、ほぼ零に近い電圧が印可される。したがって、零ボルト電圧検出手段360によって検出される零クロスタイミングと、インバータ回路81、86に入力される電圧がほぼ零に近い電圧になるタイミングとは、ほぼ同一となる。同様に、零ボルト電圧検出手段360によって検出される零クロスタイミングと同一タイミングで、インバータ回路81、86に入力される電圧がほぼ零に近い電圧になるため、各加熱コイルに流れる電流も零に近い値になる。
各コイルに流れる電流を停止する際に、各コイルに電流が流れているタイミングで電流の供給を停止すると、誘導加熱コイル31、誘導加熱コイル31周辺のフェライトコア、および、コイル上に配置された被加熱物などが振動または磁歪し、異音が発生する。なお、停止する場合の電流が小さいほど異音は小さくなるため、インバータ回路81、86に入力される電圧がほぼ零に近い電圧になるタイミングで(各コイルに流れる電流がほぼ零に近い電流になる場合に)、各コイルに流れる電流を停止することが好ましい。一方、各コイルに電流を供給する際に、インバータ回路81、86の入力電圧が零に近いタイミングからずれたタイミングで電流を供給すると、急に大きな電圧で各コイルに電流を供給し始めることになる。これにより、異音が発生する。
特に、電流の供給と停止を周期的に繰り返して使用する間欠動作をする場合には、上記のような異音が発生するタイミングで電流の供給と停止を行うと、異音が間欠の周期で聞こえる。そのため、使用者には強調された音が聞こえ、使用者に違和感、不快感等を生じさせるおそれがある。
本実施の形態では、制御回路85は、零ボルト電圧検出手段360によって検出される零クロスタイミングで、誘導加熱コイル31の各コイルに流れる電流の供給または停止を実行する。これにより、電流の供給または停止のタイミングで発生する異音を低減することができる。
同様に、制御回路85は、内側加熱コイル32、および、複数の周辺加熱コイルを、零ボルト電圧検出手段360によって検出される零クロスタイミングに基づいて、間欠動作させてもよい。これにより、内側加熱コイル32、および、複数の周辺加熱コイルにおいて発生する異音を低減することができる。
また、例えば、制御回路85は、内側加熱コイル32と外側加熱コイル34とを切り替えて交互に動作させる場合に、零クロスタイミングに基づいて、切替えのタイミングを制御してもよい。これにより、内側加熱コイル32と外側加熱コイル34とを交互に動作させる場合に、異音を小さくすることができる。同様に、制御回路85は、複数の周辺加熱コイルと外側加熱コイル34を切り替えて交互に動作させる場合に、零クロスタイミングに基づいて、切替えのタイミングを制御してもよい。同様に、制御回路85は、内側加熱コイル32と複数の周辺加熱コイルを切り替えて交互に動作させる場合に、零クロスタイミングに基づいて、切替えのタイミングを制御してもよい。以上のような制御を行うことにより、切替えのタイミングで発生し得る異音を低減することができる。
制御回路85は、交流電源9の交流電圧が零となるタイミングに基づいて、間欠動作を行い、異音を小さくするように動作させてもよい。さらに、誘導加熱コイル31の各コイルのうち、少なくとも2つのコイルをどのように組み合わせてもよく、少なくとも2つのコイルを切り替えて交互に動作させる場合に、交流電源9の交流電圧が零となるタイミングに基づいて、切替えのタイミングを制御してもよい。これにより、コイルで発生する異音を低減することができる。
また、各コイルに流れる電流が大きい場合に、コイルに流れる電流を停止すると、ターンオフ損失が増えるなど、スイッチング素子の損失も大きくなってしまうおそれがある。さらに、急に電流の供給を開始したり、電流が流れているタイミングで急に電流を停止したりすると、大きなノイズを発生させてしまうおそれがある。本実施の形態では、制御回路85は、零クロスタイミングに同期させて電流の供給の開始または停止を実行するため、スイッチング素子の損失を低減させ、または大きなノイズの発生を防止することができる。
以上のように、異音などデメリットの少ない加熱を実現させるために、本実施の形態に係る誘導加熱装置300は、零ボルト電圧検出手段360によって検出される、交流電源9の交流電圧が零となるタイミングに基づいて、誘導加熱コイル31の各加熱コイルに流れる電流を供給、または停止する。
なお、図27では、入力コンデンサ13と並列に接続された零ボルト電圧検出手段360を説明したが、本実施の形態はこれに限定されない。例えば、零ボルト電圧検出手段360は、交流電源9の交流電圧の零クロスタイミングを検出できるものであれば、どのような回路で構成されてもよい。
また、誘導加熱装置300は、零ボルト電圧検出手段360の代わりに、交流電源の電圧を検知する電圧検知回路(図示せず)を備えてもよい。この場合、制御回路85が、電圧検知回路によって検知された交流電源の電圧を取得し、取得した電圧に基づいて零クロスタイミングを決定してもよい。
以上のように、誘導加熱装置300は、誘導加熱コイル31に電力を供給するための交流電源9の電圧を検知する電圧検知回路を更に備える。制御回路85は、電圧検知回路によって検出された電圧に基づいて、電気回路308に、誘導加熱コイル31への電流の供給を開始させる動作、および、誘導加熱コイル31への電流の供給を停止させる動作、のうちの少なくとも一方を実行させる。
また、誘導加熱装置300は、交流電源9の電圧が零となるタイミングを検知する零ボルト電圧検出手段360を備えてもよい。制御回路85は、電気回路308を制御して、交流電源9の電圧が零となるタイミングで、誘導加熱コイル31への電流の供給を開始する。代わりに、またはこれと組み合わせて、制御回路85は、電気回路308を制御して、交流電源9の電圧が零となるタイミングで、誘導加熱コイル31への電流の供給を停止する。
これにより、誘導加熱装置300における異音の発生を低減することができる。
他の実施形態.
図28は、331で表される、加熱コイルの変形例を示す図である。図29は、332で表される、加熱コイルの他の変形例を示す図である。図28および図29に示したように、外側加熱コイル34は、外側領域を強く加熱するためには、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の内周側(内側加熱コイル32側)よりも外側に配置されればよい。
図30は、図29の加熱コイルをXXX-XXX方向に見た模式的な断面図である。図30で示したように、外側加熱コイル34は、内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36と、同一平面に配置されてもよい。
また、内側領域を強く加熱するために、外側加熱コイル34を前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の内周側に配置してもよい。また、周辺領域を強く加熱するために、外側加熱コイル34を内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の間に配置してもよい。
上記に示したように、外側加熱コイル34の配置は、内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の上側または下側または同一平面に配置してもよい。なお、外側加熱コイル34を配置は、被加熱物の強く加熱したい領域に応じて配置を選択することで、選択した領域を強く加熱できる効果がある。但し、外側加熱コイル34を同一平面に配置する、例えば、加熱コイル31の最も外周と、加熱コイル331の最も外周の径が同じで、同じ被加熱物を加熱する際には、各加熱コイルは、それぞれの加熱コイルの範囲しか加熱できないため、内側加熱コイル32および、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36で加熱できる割合が狭くなる虞がある。
以上のように、本発明に係る誘導加熱装置は、平面状に円形に捲回された内側加熱コイル32と、内側加熱コイルの周辺に隣接して配置され、内側加熱コイルの外周部に沿う円弧形状の外周部を有する前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の上側または下側に、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36と一部が重なるように平面状に円形に捲回された外側加熱コイル34とを備える。誘導加熱装置100は、内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36のそれぞれと、外側加熱コイル34と、に電流を供給する電気回路8と、電気回路8を制御する制御回路85とを更に備える。
外側加熱コイル34は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の外周部のうち内側加熱コイル32に隣接した部分より外側に、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の上側または下側に平面状に捲回されてもよい。
外側加熱コイル34は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の外周部のうち内側加熱コイルから最も離れた部分の上側または下側に平面状に捲回されてもよい。また、外側加熱コイル34は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36を、上側または下側にずらし、内側加熱コイル32の上側または下側の面と、Z軸上に面を一致させてもよい。
前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36は、円弧形状の外周部が内側加熱コイル32と同心円状に配置されてもよい。
前部加熱コイル35a、後部加熱コイル35b、右側加熱コイル36aおよび左側加熱コイル36bは、全て同一の形状を有し、内側加熱コイル32の中心を中心として回転対称に配置されてもよい。
外側加熱コイル34は、内側加熱コイル32と同心円となるように配置されてもよい。
電気回路8は、電流を生成するインバータ回路81、86を備えてもよい。
制御回路85は、内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36のそれぞれと、外側加熱コイル34とに、独立して電流を供給するように、インバータ回路81、86を制御することができる。
制御回路85は、内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36のそれぞれと、外側加熱コイル34と、に供給する電流の向きおよび大きさのうちの少なくとも1つを制御することができる。
制御回路85は、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36の外周部のうち内側加熱コイル32から最も離れた外周部分に流れる電流の向きと、外側加熱コイル34のうち当該外周部分に上下方向に対向する部分に流れる電流の向きと、が同一になるように制御することができる。
制御回路85は、内側加熱コイル32と、前後周辺加熱コイル35および左右周辺加熱コイル36のそれぞれと、外側加熱コイル34と、のうち少なくとも1つのコイルに流れる電流を停止するように制御することができる。
本発明に係る誘導加熱装置は、周辺加熱コイルと、これに隣接する他の周辺加熱コイルと、の間の領域に配置された強磁性体98を更に備えてもよい。
内側加熱コイル32、前後周辺加熱コイル35、左右周辺加熱コイル36および外側加熱コイル34のうちの少なくとも2つは、直列または並列に接続されてもよい。
内側加熱コイル32、前後周辺加熱コイル35、左右周辺加熱コイル36および外側加熱コイル34のうちの少なくとも2つは、同一のアーム回路に接続されてもよい。