JP7217937B2 - 針状ハイドロキシアパタイト粒子とその製造方法 - Google Patents

針状ハイドロキシアパタイト粒子とその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、針状ハイドロキシアパタイト粒子とその製造方法に関する。
ハイドロキシアパタイト(HAp:Hydroxyapatite)は、一般的に化学式Ca10(PO(OH)で表される塩基性リン酸カルシウムであり、天然には骨や歯の主成分として、また鉱石として存在し、高い生体親和性を示すことが知られている。また、HApが有するタンパク質吸着性やイオン交換能を利用して、クロマトグラフィー用の充填剤やイオン交換材などに用いることが研究されている。
例えば、特許文献1では、針状乃至六角柱状のHAp凝集体を焼結することによってHAp多孔体を作製し、液体クロマトグラフィー用吸着材として使用することが提案されている。
HApの製造方法としては、一般的には、湿式合成法、水熱合成法、乾式合成法などが知られている。例えば、特許文献2では、カルシウム化合物、リン化合物、特定の金属化合物、およびフッ素化合物を原料とし、特定の条件下で水熱合成することで、針状化したHApを効率的に合成することが提案されている。
特開平10-259012号公報 特開2002-274822号公報
近年、バイオマテリアルをはじめとする様々な分野においてHApの活用が研究されており、その用途に応じたHApの形態制御のニーズが益々高まっている。例えば、クロマトグラフィー用吸着材としては板状や粒状のものが好ましく、骨充填剤や薬物キャリアとしては球状のものが好ましく用いられている。
また、HApは六方晶系に属し、a面(100)、b面(010)には正に帯電したカルシウムイオンが、c面(001)には負に帯電したリン酸イオンが表面に多く存在することが知られている。このため、負電荷を有するタンパク質等の有機物や陰イオンは優先的にa面、b面に吸着し、一方、正電荷を有するものはc面に吸着する。
一般に、溶液中に存在する物質を捕捉、分離、回収する方法として、多孔質体による膜ろ過が利用されている。膜ろ過とは、連続した組織の間にある孔を利用して分離操作を行うものである。膜ろ過で使用される多孔質体(多孔質膜ともいう。)は、対象物質の大きさとろ過の駆動力によって、MF(精密ろ過)膜、UF(限外ろ過)膜、イオン交換膜、RO(逆浸透)膜などに分類される。一般に、MF膜の孔径は0.01μmから10μm程度で、この孔径より大きい物質は捕捉され固液分離が行われる。MF膜の孔径より小さい溶解高分子、ウイルス、細菌、酵母、コロイド、微粒子等のナノサイズの物質(ナノ粒子)の分離精製・濃縮には、より微細な細孔を有するUF膜(孔径0.001μm~0.01μm)(例えば、中空糸型UF膜)が用いられる。しかし、一般にUF膜は高分子で作製されるため熱に弱く、熱水の処理には不適である。セラミックスフィルターは高温水のろ過に適しており、加熱処理による膜の再生も容易であることから、フィルター材料への応用が期待されるが、溶液中からナノ粒子を高速かつ高効率で捕捉するのは困難であるという課題があった。
そこで、本発明者らは、上記のナノ粒子(コロイド粒子)が、溶液中ではその表面が正または負に帯電した状態で懸濁していることに着目し、繊維長と繊維径の比が大きい針状のハイドロキシアパタイト粒子を鳥の巣状に成形した多孔質膜を用いることによって多孔質膜を正に帯電させ、溶液中で負に帯電したナノ粒子を選択的に高速かつ高効率で捕捉することを着想した。しかしながら、検討を進める中で、上記のような従来の製造方法では、針状化したHAp粒子を効率的かつ精度良く得ることが難しく、依然として改善の余地があるという課題を認識するに至った。また、これまでに提案された針状HApの製造方法では、原料が特定の物質に限定されるなど汎用性に乏しく、工業的量産性や実用化の面でも課題があった。
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、膜ろ過用途に好適な、微細な針状ハイドロキシアパタイト粒子を効率的かつ精度良く得ることができる、工業的量産化に適した、新規な針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法と針状ハイドロキシアパタイト粒子を提供することを課題としている。
本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法は、カルシウム化合物錯体の溶液にリン化合物溶液を添加してハイドロキシアパタイトの前駆体溶液を調製し、酸を添加した後、水熱処理する。
この針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法の好ましい態様では、pH6.0以下の条件下で水熱処理する。
また、好ましい態様では、24時間以上96時間以下の範囲で水熱処理する。
また、好ましい態様では、前記カルシウム化合物錯体がカルボン酸のカルシウム塩とポリオールとの錯体であり、前記酸がカルボン酸である。
また、好ましい態様では、前記カルボン酸のカルシウム塩が酢酸カルシウムであり、前記ポリオールがグリコールであり、前記カルボン酸が酢酸である。
また、好ましい態様では、pH3.0以上3.5以下の条件下で水熱処理する。
本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子は、上記の方法によって製造される。
本発明の多孔質膜は、上記の針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結してなる。
本発明の多孔質膜の製造方法は、上記の方法によって製造された針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結する。
本発明の多孔質膜の製造方法は、カルシウム化合物錯体の溶液にリン化合物溶液を添加してハイドロキシアパタイトの前駆体溶液を調製し、酸を添加した後、水熱処理する工程、および前記水熱処理によって得られた針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結する工程を含む。
本発明によれば、膜ろ過用途に好適な、微細な針状ハイドロキシアパタイト粒子を効率的かつ精度良く得ることができる、工業的量産化に適した、新規な針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法と針状ハイドロキシアパタイト粒子が提供される。
また、本発明によれば、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結してなる多孔質膜が提供される。当該多孔質膜は、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法によって製造された針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結することによって得ることができるため、当該多孔質膜の製造方法もまた、膜ろ過用途に好適な多孔質膜の工業的量産化に適している。
(a)実施例1のHAp粒子、市販のHAp粉末、およびJCPDS-ICDD:84-1998のXRDチャート。(b)実施例1のHAp粒子のSEM画像。(c)市販のHAp粉末のSEM画像。 実施例1のHAp粒子のEDX分析結果。 (a)実施例1のHAp粒子、実施例2のHAp粒子、およびJCPDS-ICDD:84-1998のXRDチャート。(b)実施例2のHAp粒子のSEM画像。 実施例3、比較例1、3、5、6のHAp粒子のSEM画像。 実施例3のHAp粒子のEDX分析結果。 実施例3のHAp粒子のTEM画像。 実施例5のHAp膜の、(a)外観写真、(b)断面のSEM画像、(c)表面のSEM画像。 実施例6の金ナノ粒子の捕捉分離試験に関する分析結果。(a)UV-visスペクトル、(b)分離液の外観写真、(c)試験後のろ紙またはHAp膜の上面部の写真。 実施例8の金ナノ粒子の捕捉分離試験に関する分析結果。(a)UV-visスペクトル、(b)(a)のUV-visスペクトルの縦横比を変更した図。 本発明のHAp粒子の生成機構について、反応溶液のpHと自由エネルギー(ΔG)との関係を示すグラフ。
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、具体的な形態は以下の実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における設計の変更等があっても本発明に含まれる。
本発明の一実施形態に係る針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法は、カルシウム化合物錯体の溶液にリン化合物溶液を添加してハイドロキシアパタイトの前駆体溶液を調製し、酸を添加した後、水熱処理する。
本発明におけるカルシウム化合物は、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子のカルシウム源として用いる物質である。カルシウム化合物は、水溶性カルシウム化合物であることが好ましい。水溶性カルシウム化合物としては、例えば、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、ギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウムが挙げられる。中でも、酢酸カルシウムを用いることが好ましい。カルシウム化合物は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
好ましい実施形態では、カルシウム化合物の溶液にヒドロキシ基(水酸基、アルコール性水酸基が好ましい)を持つ化合物を添加し、カルシウム化合物錯体を形成させる。ヒドロキシ基を持つ化合物としては、例えば、ポリオールが挙げられ、具体的には、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等のグリコールや、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン等のグリセリンが挙げられるが、これらに限定されない。
また、別の実施形態では、エチレンジアミン四酢酸カルシウム錯体、シクロヘキサンジアミン四酢酸カルシウム錯体、グリコールエーテルジアミン四酢酸カルシウム錯体、ジエチレントリアミン五酢酸カルシウム錯体などのカルシウム錯体化合物を水等の溶媒に溶解させて、カルシウム化合物錯体の溶液としてもよい。
本発明におけるリン化合物は、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子のリン源として用いる物質である。リン化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸と、それらのアンモニウムまたはナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、銅、アルミニウムなどの金属との塩類や、リン酸エステル化合物、次亜リン酸エステル化合物が挙げられる。具体的には、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウムが挙げられるが、これらに限定されない。リン化合物は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。リン化合物は、水等の溶媒に溶解させてリン化合物溶液とする。
好ましい実施形態では、カルシウム化合物錯体の溶液に、リン化合物溶液をゆっくりと滴下する。これにより、微細かつ均一性の高いハイドロキシアパタイトの前駆体の結晶が得られるので、後述する酸の添加および水熱処理によって生成される針状ハイドロキシアパタイト粒子の均一性を高めることができる。
本発明における酸は、カルシウム化合物錯体の溶液にリン化合物溶液を添加することによって得られるハイドロキシアパタイトの前駆体の分散溶液(反応溶液)のpHを調整し、当該ハイドロキシアパタイトの前駆体の結晶成長の方向を制御するために用いる物質である。酸としては、例えば、カルボン酸、スルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。カルボン酸としては、例えば、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸等の飽和カルボン酸;オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等の不飽和カルボン酸;シュウ酸、マロン酸、コハク酸等のジカルボン酸が挙げられるが、これらに限定されない。スルホン酸としては、例えば、メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸が挙げられるが、これらに限定されない。本発明において、酸は、カルシウム化合物、リン化合物の種類に応じて選択することが好ましく考慮される。例えば、カルシウム化合物としてギ酸カルシウム、酢酸カルシウム、プロピオン酸カルシウム等のカルボン酸塩(すなわち、カルボン酸のカルシウム塩)を用いる場合には、酸としてカルボン酸を用いることが好ましい。具体的には、例えば、カルシウム化合物が酢酸カルシウムの場合、カルボン酸は酢酸を用いることが好ましい。酸は、一種類を単独で用いてもよく、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。
本発明における水熱処理の条件としては、従来の水熱合成法で用いられる条件を適用することができる。水熱処理の温度条件としては、例えば、120℃以上、150℃以上、180℃以上が挙げられるが、これらに限定されない。水熱処理の圧力条件としては、常圧下ではなく、加圧条件下であれば特に限定されない。水熱処理の方法は特に限定されないが、例えば、原料の溶液をオートクレーブなどの反応容器に入れ、窒素などの不活性ガスで置換した後、密閉状態で上記の温度条件下および加圧条件下で行うことができる。
水熱処理の時間は、使用する原料の種類や量などに応じて反応を完結させる観点から適宜調節することができるが、1時間以上が好ましく、2時間以上がより好ましい。また、微細な針状ハイドロキシアパタイト粒子をより確実に得る観点から、12時間以上が好ましく、24時間以上がより好ましく、48時間以上がさらに好ましく、72時間以上がさらにより好ましい。一方、96時間を超えると、針状ハイドロキシアパタイト粒子の成長はほぼ完結し、また、製造効率の観点からも望ましくないため、水熱処理の時間は、96時間以下とする。
このようにして製造される本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子は、平均繊維長Lと平均繊維径Dの比である平均アスペクト比(L/D)が10以上であり、好ましくは15以上であり、より好ましくは20以上である。本明細書において、平均アスペクト比は、得られたHAp粒子を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、100個の粒子を任意に選択し、各粒子の繊維長Lおよび繊維径Dを求め、それらの算術平均により、小数第1位を四捨五入して求められる値を意味する。なお、繊維長とは、粒子の長軸の長さ、粒子径とは、粒子の短軸の長さ(幅)を意味する。
本発明によって製造される針状ハイドロキシアパタイト粒子は、後述する実施例において具体的に示されるように、膜ろ過用途に好適な、特に、溶液中で負に帯電したナノ粒子を高速かつ効率的に捕捉分離するための多孔質膜としての使用に適している。
本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子と従来の針状化したハイドロキシアパタイト粒子との相違点のひとつは、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子は結晶化度が高く、膜ろ過用の分離膜を作製した際にナノ粒子の高速かつ高効率での捕捉に適した気孔率と通液性とを兼ね備えていることにあるが、その違いに係る構造または特性を文言により一概に特定することは極めて困難であると考えられる。粒子の結晶化度の差については、原理的には、例えばXRD測定の結果を用いた解析を行うことによって可能であると考えられるが、実際には、統計上有意となるだけのデータを取得し、それらの測定結果における数値的特徴等、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子と従来技術の針状化したハイドロキシアパタイト粒子とを区別し得る有意な指標とその値を見出さなければならない。すなわち、そのような指標とその値を見出し、もって本発明の特徴を物の構造または特性により直接特定することは、およそ実際的ではないと考えられる。
ここで、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子(以下、単に「HAp粒子」ともいう。)の生成機構について、ギブスの自由エネルギーとの関係から熱力学的に考察する。
本発明におけるHAp粒子の成長に関するドライビングフォース(駆動力)は、過飽和溶液と平衡状態の溶液との間で異なる自由エネルギー(ΔG)を有すると考えられ、以下の式(1)で表される:
Figure 0007217937000001
上記式中、Rは気体定数、Tは絶対温度、IPは生成物のイオン活量、Sは過飽和度、nはHApの化学式におけるイオンの数(すなわち、n=9)である。
上記式(1)からも明らかなように、本発明におけるHAp粒子の成長のドライビングフォースに関するΔGは、温度とpHの関数として以下の式(2)のとおり導かれる:
Figure 0007217937000002
一方、HAp形成に係る実際の反応過程では、反応溶液のpHに応じてCa2+およびPO 2-のイオン化や解離が生じたり、反応溶液中でHApの核生成が段階的に生じたりすることが知られており、これらの様々な要因が複雑に関係するため、HApの生成過程におけるイオンの正確な濃度を理解するのは困難である。
そのため、本発明では、反応溶液のpHと生成されるHAp粒子の形態との関係を理解する目的で、HAp粒子成長のドライビングフォースを、反応溶液の温度とpHのみを考慮することとして取り扱い、相関関係を見積もった。
その結果、図10に示すように、反応溶液のpHが高まるにつれて、HAp粒子成長のドライビングフォースとしてのギブスの自由エネルギー(ΔG)の絶対値が増大する傾向が見られた。
このことから、反応溶液のpHが高い場合(例えば、後述する比較例1~5のように6.0を上回る場合)には、より高いドライビングフォースによって、HAp粒子の核がa軸、b軸およびc軸の三次元方向への連続的な成長が促される一方、反応溶液のpHが低い場合(例えば、後述する実施例1~3のように6.0以下の場合)には、ドライビングフォースが小さくなり、c軸方向への一次元的な成長が優先して起こることが示唆される。そして、このことは後述する実施例および比較例の結果、特に、XRD測定やSEM観察の結果から、具体的に確認された。
また、反応溶液のpHの違いによってHAp粒子の核に対するドライビングフォースが異なるということは、後述する実施例および比較例で作製したHAp粒子が、反応溶液のpHに違いによって様々な形態および粒径分布を示していることとを首尾よく説明することができる。
例えば、カルシウム化合物としてカルボン酸のカルシウム塩(例えば、酢酸カルシウム)を用い、酸としてカルボン酸(例えば、酢酸)を用いた場合、pH6.0以下の酸性の溶液中において、カルボン酸は、ハイドロキシアパタイトの前駆体の、正に帯電したカルシウムイオンが存在するa面、b面(カルシウムサイト)に吸着することにより、a軸、b軸方向への粒子成長を抑制し(いわゆるキャップ効果)、c軸方向に沿った一次元的な粒子成長を促進させることで、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子が生成されると考えられる。
これらの知見は、本発明者らにより見出されたものであり、HApの機能性材料としての応用、また、用途に応じた形態制御や設計指針を与える、極めて意義深いものである。
本発明において、水熱処理前の反応溶液(すなわち、ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に酸を添加した後の溶液)のpHの上限値は、6.0以下が好ましく、5.0以下がより好ましく、4.0以下がさらに好ましく、3.5以下がさらにより好ましい。また、当該反応溶液のpHの下限値は特に限定されないが、1.5以上が好ましく、2.0以上がより好ましく、3.0以上がさらに好ましい。最も好ましくは、当該反応溶液のpHは、3.0以上3.5以下の範囲内である。
なお、後述する実施例および比較例では、ドライビングフォース(ΔG)について、ΔG2Dの値として-6.59kJ/mol(c軸に沿った一次元的な成長が優先するための実験的な臨界値)、およびΔG3Dの値として-20.69kJ/mol(a軸、b軸、c軸に沿った三次元的な成長が進行する実験的な臨界値)を設定し、実施例ではその絶対値がこれらの値を下回るように、比較例ではその絶対値がこれらの値を上回るように、pHの条件を設定した。
一例として、水熱処理の温度が180℃の場合、ドライビングフォース(ΔG)のΔG2Dの絶対値が-6.59よりも小さくなるようなpHの値は、約3.66以下であると見積もられた。
このように、本発明では、水熱処理の条件のひとつとして、反応溶液のpHを指標として用いることができるが、pH条件は、水熱処理の温度条件等、他の1もしくは複数の条件との関係によって好ましいpHの値の範囲が変化し得ることに留意されたい。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例、比較例において記載した各種測定、評価は、以下の分析機器を用いて行った。
<XRD>
X線回折装置(リガク社製、RINT 2200)
CuKα線 40kV 40mA
走査速度 2θ=4°/min
<FT-IR>
フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光社製、FT/IR-4200)
KBr錠剤法
<比表面積>
BET(Brunauer-Emmett-Teller)法による比表面積測定
全自動比表面積測定装置(マウンテック社製、Macsorb(登録商標)HM model-1201)
窒素ガス吸着法 77K
<SEM>
電界放出形走査電子顕微鏡(日立製、FE-SEM、model S-4800)
<TEM>
透過型電子顕微鏡(JEOL社製、JEM-ARM200F)
加速電圧:200kV
<EDX>
エネルギー分散型X線分析装置(EDAX社製、model Apollo XL)
<ゼータ電位>
ゼータ電位測定装置(Malvern Instrument社、model Zetasizer Nano Z)
<pH>
(1)
pHメーター(Horiba社製、model ss973)
pH電極(Horiba社製、model 6261)
(2)
pHメーター(TOA electronics社製、model HM-14P)
<UV-visスペクトル>
分光光度計(日本分光社製、V-570)
<針状ハイドロキシアパタイト粒子の作製>
<実施例1>
酢酸カルシウム一水和物((CHCOO)Ca・HO、ナカライテスク社製)の水溶液に、1mol/Lのエチレングリコール(C、ナカライテスク社製)溶液を10mL添加して、カルシウム化合物錯体の溶液(Ca2+濃度:0.5mol/L)を調製した。
このカルシウム化合物錯体の溶液を室温で撹拌しながら、CaとPのモル比がCa/P=1.67となるように、20mLのリン酸水素二アンモニウム((NHHPO、ナカライテスク社製)水溶液(P5+濃度:0.3mol/L)をゆっくりと滴下した。このとき、ハイドロキシアパタイトの前駆体として微細な白色のリン酸水素カルシウム(CaHPO)の生成が確認された。なお、このときの反応溶液のpHは、通常、6.0~7.0の範囲である。
次いで、このハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に酢酸(C、ナカライテスク社製)を約25mL添加した。これにより、前駆体溶液のpHは約3.2になった。
この前駆体溶液をオートクレーブに入れ、180℃で96時間、水熱処理を行った。なお、この水熱処理によるHApの形成は、以下の反応式で表すことができる。
10CaHPO + 2HO → Ca10(PO(OH) + 4HPO
水熱処理の後、白色の生成物を蒸留水で4回洗浄し、60℃で12時間乾燥させて最終生成物(針状ハイドロキシアパタイト粒子)を得た(収量:約3g)。
得られた最終生成物のXRD測定およびSEM観察の結果を図1に示す。
図1(a)は、上から順に、実施例1の針状ハイドロキシアパタイト粒子、市販のHAp粉末(太平化学産業社製、HAP-200)、およびJCPDS-ICDD:84-1998のXRDチャートである。
図1(b)は、実施例1の針状ハイドロキシアパタイト粒子のSEM画像である。
図1(c)は、市販のHAp粉末のSEM画像である。
図1(a)のXRDチャートより、実施例1で得られた最終生成物がHApであることが同定され、また、HAp以外の明らかな不純物の混入を示すピークは確認されなかった。
なお、FT-IR分析の結果からも、実施例1で得られた最終生成物がHApであることが確認された。
また、EDX分析による元素マッピングの結果、図2に示すように、実施例1のHAp粒子において、HApの主たる組成元素であるCa、P、Oの存在が確認された。元素マッピングから得られたCaとPの比は、Ca/P=1.57at%であり、HApの理論組成におけるCa/P=1.67at%とほぼ一致した。
図1(a)のXRDチャートにおいて、市販のHAp粉末では、(121)面、(112)面に対応するピーク強度が強く、実施例1の針状ハイドロキシアパタイト粒子では、33.5°付近の(300)面のピーク強度が非常に強く、c軸方向への一次元的な成長が確認された。
また、SEM画像を比較すると、市販のHAp粉末(図1(c))は先端が六角形の棒状の粒子形状を有しているのに対して、実施例1のHAp粒子(図1(b))は、繊維長と繊維径のアスペクト比の大きい、微細な針状の粒子形状であることがわかる。
従って、本発明の製造方法により、a軸、b軸方向への成長が効果的に抑制され、c軸に沿った一次元方向への成長が促進されることによって、平均繊維長と平均繊維径のアスペクト比が10以上の、針状ハイドロキシアパタイト粒子が高精度かつ効率よく製造されることが確認された。
また、図1(a)のXRDチャートにおける(112)面のピークと(300)面のピークから、X=1-(V112/300 / I300)の計算式を用いて結晶化度を計算した結果、市販のHAp粉末の結晶化度は約94%であったのに対して、実施例1のHAp粒子は約99%であり、市販のHAp粉末よりも高い値が得られた。
なお、上記式中の「V112/300」は、XRDチャートにおいて(112)面のピークと(300)面のピークの間に形成される谷(valley)の高さであり、「I300」は、(300)面のピーク強度である。
<実施例2>
水熱処理の時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、HAp粒子を作製した。
<実施例3>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に添加する酢酸の量を変えて前駆体溶液のpHを3.46とし、水熱処理の時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、HAp粒子を作製した。
<実施例4>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に添加する酢酸の量を変えて前駆体溶液のpHを4.59としたこと以外は実施例2と同様にして、HAp粒子を作製した。
<比較例1>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に酢酸を添加せず、水熱処理の時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、HAp粒子を作製した。水熱処理前の前駆体溶液のpHは、6.02であった。
<比較例2>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に15%アンモニア水溶液を添加して前駆体溶液のpHを7.55とし、水熱処理の時間を24時間としたこと以外は実施例1と同様にして、HAp粒子を作製した。
<比較例3>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に15%アンモニア水溶液を添加して前駆体溶液のpHを8.90としたこと以外は比較例2と同様にして、HAp粒子を作製した。
<比較例4>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に15%アンモニア水溶液を添加して前駆体溶液のpHを10.02としたこと以外は比較例2と同様にして、HAp粒子を作製した。
<比較例5>
ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に15%アンモニア水溶液を添加して前駆体溶液のpHを11.45としたこと以外は比較例2と同様にして、HAp粒子を作製した。
<比較例6>
従来のゾル・ゲル法を用い、反応溶液のpH8.92、アニーリング温度180℃の条件でHAp粒子を作製した。
実施例2のHAp粒子のXRD測定およびSEM観察の結果を図3に示す。
図3(a)は、上から順に、実施例1のHAp粒子、実施例2のHAp粒子、およびJCPDS-ICDD:84-1998のXRDチャートである。
図3(b)は、実施例2のHAp粒子のSEM画像である。
図3(a)に示すように、実施例2のHAp粒子のXRDチャートにおいて、実施例1のHAp粒子と同様に(300)面のピーク強度が最も大きく、c軸方向への一次元的な成長が確認された。
また、図3(b)のSEM画像より、実施例2のHAp粒子は、繊維長と繊維径のアスペクト比の大きい、微細な針状の粒子形状であることがわかる。
図4(a)~(e)は、それぞれ、実施例3、比較例1、3、5、6のHAp粒子のSEM画像である。
図4(a)に示すように、実施例3のHAp粒子は、繊維長と繊維径のアスペクト比の大きい、微細な針状の粒子形状であるのに対して、比較例1、3、5のHAp粒子(図4(b)~(d))は、棒状の粒子形状を有していることがわかる。また、比較例6のHAp粒子(図4(e))は、個々の粒子の輪郭が判然とせず、粗雑な形状を有している。
EDX分析による元素マッピングの結果、図5に示すように、実施例3のHAp粒子において、HApの主たる組成元素であるCa、P、Oの存在が確認された。元素マッピングから得られたCaとPの比は、HApの理論組成におけるCa/P=1.67at%とほぼ一致していた。なお、比較例5のHAp粒子についても、EDX分析による元素マッピングにより、Ca、P、Oの存在が確認された。
図6は、実施例3のHAp粒子のTEM画像である。
図6(a)に示すように、HAp粒子が、分岐した針状の微細構造を有することが確認された。また、図6(b)のHRTEM画像より、(100)面の面間距離が0.810nmであることが確認された。図6(c)の制限視野電子回折(SAED)スポットは、それぞれHApの(101)面、(111)面、(201)面と同定された。
実施例3、4、および比較例1~5のHAp粒子についてXRD測定を行った結果、水熱処理前のハイドロキシアパタイトの前駆体溶液のpH条件が高くなるにつれて、XRDチャートにおいて(300)面のピーク強度が小さくなり、(002)面のピーク強度が大きくなる傾向が見られた。また、比較例1~5のXRDチャートでは、(300)面以外のピークが最大のピーク強度を示した。これらの結果より、水熱処理前の前駆体溶液のpHが6.0を上回ると、c軸方向に加えてa軸、b軸方向への成長が進行するため、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子を得る観点からは好ましくないことが示唆された。
なお、比較例6のHAp粒子のXRDチャートでは、(002)面、(121)面、(112)面に対応すると思われるピークが得られたが、HAp以外の不純物の混入等によるベースラインのノイズが多数見られた。
また、XRD測定の結果より、実施例3、4、および比較例1~5のHAp粒子の格子定数、単位胞、面間距離を計算したところ、報告されているHAp粉末(JCPDS-ICDD:84-1998)の値とほぼ一致することが確認された。
実施例1と同様の計算式を用いて実施例3、4のHAp粒子の結晶化度を計算した結果、実施例3のHAp粒子は約97%、実施例4のHAp粒子は約96%であり、いずれも市販のHAp粉末よりも高い値が得られた。なお、ゾル・ゲル法で作製した比較例6のHApについては、XRDチャートにおけるピークの同定が困難であったため、結晶化度を計算することができなかった。
また、実施例3、4、および比較例1~5のHAp粒子についてFT-IR分析を行った結果、いずれもほぼ同様のスペクトルが得られ、市販のHAp粒子と比較しても目立った相違点は見られなかった。
実施例3および比較例5のHAp粒子(各0.5g)を、それぞれ50mLの2-プロパノール(IPA、CHCH(OH)CH)に分散させてHApのコロイド状懸濁液を調製した。
懸濁液の安定性を高めるために、これらの懸濁液に、5mLの硝酸マグネシウム六水和物(Mg(NO・6HO、関東化学社製)溶液を0.001mol/Lの濃度で滴下した。
各々の懸濁液について、ゼータ電位とpH(上記(2)のpHメーターを使用)を分析した結果、実施例3のHAp粒子の懸濁液では、ゼータ電位が25.9mV、pHが4.10であり、比較例5のHAp粒子の懸濁液では、ゼータ電位が18.6mV、pHが4.85であった。なお比較例1~4のHAp粒子を用いた場合にも、比較例5と同様の傾向が見られた。このことから、実施例3のHAp粒子は、比較例1~5のHAp粒子よりも比表面積が大きく、粒子形状が異なっていることが示唆され、上述した図4のSEM画像の結果とも一致する。
また、比表面積が大きいことにより、実施例3のHAp粒子は、懸濁液に添加した硝酸マグネシウムに由来するMg2+イオンをより多く粒子表面で吸着することで帯電し、その結果、コロイド溶液の安定性が向上すると考えられる。
なお、本発明者らは、実施例3のHAp粒子を分散させた上記のコロイド溶液を用いて、電気泳動堆積(EPD)法により、チタンなどの金属材料の表面にnmオーダーからμmオーダーの厚さでHApのコーティング膜を形成することができることを確認している。
<多孔質膜の作製>
<実施例5>
50mLの2-プロパノール(IPA、CHCH(OH)CH)に、実施例1で得た針状ハイドロキシアパタイト粒子(約0.2g)を加え、超音波分散機で約15分間十分に分散させた。
この懸濁液を、ろ紙(アドバンテック社製、グレード4A)を備えた容器に注ぎ、容器に接続した真空ポンプで吸引ろ過することによって、ろ紙上に直径約4cmの膜を得た。
得られた膜を室温で乾燥させた後、ろ紙から剥離して、白色の自立性の膜(HAp膜)を得た。
このHAp膜を1000℃で2時間焼結させた。
焼結後のHAp膜のXRD測定結果から、原料のHAp粒子と同様のXRDチャートが得られた。
図7は、本実施例で作製したHAp膜について、外観を示す写真(a)、断面のSEM画像(b)、および表面のSEM画像(c)である。
図7(a)に示されるように、本実施例で得られたHAp膜はペーパー状(paper-like)の外観を有し、図5(c)のSEM画像から、鳥の巣のような微細構造を有する膜であることがわかる。このHAp膜の膜厚は約400μmであり(図5(b))、アルキメデス法により測定した見かけの気孔率は約27%であった。
<多孔質膜を用いたナノ粒子の捕捉試験>
<実施例6>
実施例5の白色のHAp膜(比表面積:9.91m/g)を用いて、以下の手順でナノ粒子の捕捉分離試験を行った。
HAp膜を配置した吸引ろ過用の漏斗に金ナノ粒子(粒径3nm、田中貴金属社製)の分散液(濃度:0.01wt%、溶媒:エタノール)20mLを注ぎ、0.02MPaの圧力条件下で吸引ろ過を行い、分離液を回収した。
また、比較のために、市販のろ紙(アドバンテック社製、グレード4A)、および市販のHAp粉末(太平化学産業社製、HAP-200)を用いて実施例5と同様の条件で作製したHAp膜(比表面積:7.79m/g、以下「市販のHApの膜」ともいう。)を用いて、上記と同様の条件で、金ナノ粒子の捕捉分離試験を行った。
吸引ろ過前の金ナノ粒子の分散液と、回収した分離液のUV-visスペクトル分析を行い、560nm付近の吸収ピーク強度から、金ナノ粒子の分離効率を解析した。
図8(a)は、UV-visスペクトル分析の結果、図8(b)は分離液の外観写真、図8(c)は試験後のろ紙またはHAp膜の上面部の写真である。
図8(a)のUV-visスペクトルより、市販のろ紙(2)および市販のHApの膜(3)を用いた場合には、金ナノ粒子の分離効率はそれぞれ約5%および約60%であったのに対して、本発明のHAp粒子を用いて作製した膜(5)は、約91%と非常に高い分離効率であったことが確認された。また、図8(b)において、本発明のHAp膜を用いて得られた分離液(5)の外観が、吸引ろ過前の金ナノ粒子の分散液(1)、市販のろ紙および市販のHApの膜を用いた場合の分離液((2)および(3))と比較して、肉眼で明瞭に判別し得る程度に透明度が高いこと、さらに、図8(c)において、試験後の本発明のHAp膜の上面(5)が非常に濃い灰色であり、市販のろ紙および市販のHApの膜の上面((2)および(3))よりも暗い色であることからも、本発明のHAp膜が非常に高い分離効率で金ナノ粒子を捕捉分離したことが分かる。
また、本実施例で用いた分離条件では、本発明のHAp膜により金ナノ粒子の分離速度は、約0.63kg/m・s・kPa(すなわち、0.02MPaで約4500L/m)と見積もられ、高速でのナノ粒子の分離が可能であることが確認された。
また、本発明のHAp粒子を用いて作製した膜は、試験前後で外観に変化は見られなかった。これは、上述したように、HAp膜が、針状のハイドロキシアパタイト粒子が集合して鳥の巣を模したような形状を有していることにより、自立膜としての一定の強度と分離膜としての気孔性を兼ね備えた膜であることを示している。
なお、図8(a)~(c)では、焼結処理を行わずに作製したHAp膜(4)を用いた金ナノ粒子の捕捉分離試験結果も示した。図8(a)のUV-visスペクトルの結果から、焼結処理を行わなかったHAp膜(4)では、約75%の分離効率が得られ、市販のHApの膜よりも高い値が得られた。また、分離液の外観は淡いピンク色であり、焼結処理を行ったHAp膜(5)に近い透明度を有しており(図8(b)の(4))、試験後のHAp膜の上面は、市販のHApの膜よりも有意に濃い灰色であった(図8(c)の(4))。なお、焼結処理を行わなかったHAp膜の見かけの気孔率は約52%であった。
本発明のHAp膜に関し、焼結処理の有無によって金ナノ粒子の分離効率が異なった理由としては、焼結処理を行うことによって、焼結処理を行わなかった場合と比べて針状ハイドロキシアパタイト粒子の配向がより制御され、ナノ粒子の捕捉分離により適した気孔性を有する膜が形成されたと考えられる。
なお、金ナノ粒子の捕捉分離試験後の本発明のHAp膜をSEM観察した結果、鳥の巣状に集合した針状ハイドロキシアパタイト粒子に金ナノ粒子が捕捉されている様子が確認された。
また、EDX分析による元素マッピングにより、Auの存在が確認された。
実施例5のHAp膜の作製に用いたHAp粒子を溶媒(エタノール)に懸濁させた懸濁液のゼータ電位とpH(上記(1)のpHメーターを使用)の関係を分析した結果、等電点(IEP)は約9.6と見積もられた。このことは、分離対象物質を含む溶液のpHが9.6よりも低い場合には、針状のHAp粒子の長さ方向に沿ったa、b面が正に帯電していることを示している。従って、このことからも、本発明のHAp膜が、負に帯電した金ナノ粒子を、正に帯電したa、b面上で効率的かつ効果的に捕捉することがわかる。
これらの結果は、本発明の針状ハイドロキシアパタイト粒子を用いて作製したHAp膜が、表面タンパク質の構成によって表面に負電荷を有するウイルスなどのナノ粒子を捕捉分離するための分離膜としてバイオ医薬分野において利用可能であること、また、その他の種々の用途への応用が可能であることを示している。
<酸化チタン(TiO)をコーティングしたHAp膜の作製>
<実施例7>
10mLのチタン(IV)テトラブトキシド、9.25mLのジエチルアミン、0.55mLのHO、および200mLのエタノールを混合して、チタニア前駆体溶液を調製した。
このチタニア前駆体溶液(30mL)に、実施例1で得た針状ハイドロキシアパタイト粒子(約0.3g)を加え、超音波分散機で十分に分散させた。
この懸濁液を、ろ紙(アドバンテック社製、グレード4A)を備えた容器に注ぎ、容器に接続した真空ポンプで吸引ろ過することによって、ろ紙上に直径約4cmの膜を得た。
得られた膜を室温で乾燥させた後、ろ紙から剥離して、酸化チタン(TiO)でコーティングされた白色の自立性の膜(HAp膜)を得た。
得られたHAp膜のXRD測定およびFT-IR測定の結果から、HApがTiOでコーティングされていることが確認された。
また、SEM観察の結果から、本実施例で作製したHAp膜は、実施例5のHAp膜と同様に、ペーパー状(paper-like)の外観を有し、鳥の巣のような微細構造を有する膜であることが確認された。HAp膜の膜厚は約210μmであり、HAp粒子表面のTiOのコーティングの厚さは約5nmであった。
EDX分析による元素マッピングの結果、Tiが検出されたことからも、本実施例で作製したHAp膜がTiOでコーティングされていることが確認された。
<TiOコーティングを有する多孔質膜を用いたナノ粒子の捕捉試験>
<実施例8>
実施例7の白色のHAp膜を用い、ナノ粒子として金ナノ粒子(粒径5nm、BBInternational社製)を用いたこと以外は実施例6と同様の手順で、ナノ粒子の捕捉分離試験を行った。
図9(a)は、UV-visスペクトル分析の結果であり、図9(b)は、図9(a)のUV-visスペクトルについて、450nm~650nmの範囲のスペクトルのプロフィールがより明確となるように縦横比を変更した図である。
図9(a)および図9(b)に示されるように、吸引ろ過前の金ナノ粒子の分散液(1)において確認された535nmのピークが、回収した分離液(2)ではほとんど確認されず、ピーク強度がほぼゼロになったことから、約100%の分離効率で金ナノ粒子がHAp膜に捕捉されたことが確認された。
試験後のHAp膜について、EDX分析による元素マッピングを行った結果、HAp膜およびHAp膜を構成するHApの単一粒子それぞれにおいて、補足された金ナノ粒子に起因するAuの存在が確認された。
また、実施例7のHAp膜の作製に用いたHAp粒子を溶媒(エタノール)に懸濁させた懸濁液のゼータ電位とpH(上記(1)のpHメーターを使用)の関係を分析した結果、pH8.5でのゼータ電位は21mVであり、本実施例で使用した金ナノ粒子の分散液は、pH8.45でのゼータ電位が-38.6mVであった。
<種々の焼結温度条件で作製した多孔質膜に関する分析>
<実施例9>
実施例5に記載した多孔質膜の作製条件について、HAp膜の焼結温度を500℃、800℃、1000℃(実施例5)、1300℃として、HAp膜を作製した。
焼結温度を1000℃とした実施例5のHAp膜、および上記のHAp膜のXRD測定の結果、焼結温度が500℃から1300℃と高くなるほど、(300)面のピーク強度がより強くなる傾向が見られた。
また、ロットゲーリング法を用いて配向性を評価した結果、焼結温度が500℃から1300℃の条件では、HAp膜を作製する際の焼結温度が高いほど、(hk0)面のロットゲーリングファクターが高くなる傾向が見られた。
そこで、HAp粒子の作製における水熱処理前の反応溶液のpHとロットゲーリングファクターとの関係を調べるため、(hk0)面および(00L)面のロットゲーリングファクター(それぞれ、f(hk0)、f(00L)と表記する。)を解析した結果、反応溶液のpHが3.20、3.46および4.59の場合(実施例1、2および3)には、f(00L)よりもf(hk0)が高い値を示すのに対して、pHが6.02以上の場合(比較例1~5)には、f(hk0)よりもf(00L)が高い値を示した。
このことは、水熱処理前の反応溶液のpHの値が、HAp粒子の成長方向をc軸方向が優位となるように制御するための指標のひとつとなること、また、反応溶液のpHが6.0以下となるように酸を添加することにより、a軸、b軸方向への成長が抑制され、c軸方向に成長が促進された針状HAp粒子が得られることを示している。
本発明によれば、膜ろ過用途に好適な、微細な針状ハイドロキシアパタイト粒子を効率的かつ精度良く得ることができ、工業的量産化に適した製造方法として期待される。より具体的には、本発明の方法によって製造される針状ハイドロキシアパタイト粒子は、非毒性であり、高い物理的・化学的安定性を有し、かつ生体適合性に優れるため、これを焼結して得られる多孔質膜は、例えば、バイオ医薬分野における限外濾過膜として、負に帯電したウイルス粒子等を、正に帯電した多孔質膜表面で高速かつ効率的に捕捉分離することが可能である。

Claims (9)

  1. カルシウム化合物錯体の溶液にリン化合物溶液を添加して、ハイドロキシアパタイトの前駆体を生成させ、ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液として、ハイドロキシアパタイトの前駆体の分散溶液を調製する工程であって、前記カルシウム化合物錯体は、カルボン酸のカルシウム塩とポリオールとの錯体であり、リン化合物は、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、アンモニウムとの塩類、または、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、銅およびアルミニウムからなる群より選択される金属との塩類である、工程、
    前記ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に酸を添加し、pHを6.0以下に調整する工程であって、前記酸は、カルボン酸である、工程、および
    前記pHが6.0以下に調整された前駆体溶液を水熱処理する工程
    を含む、針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法。
  2. 24時間以上96時間以下の範囲で水熱処理する、請求項に記載の針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法。
  3. 120℃以上かつ加圧条件下で水熱処理する、請求項1または2に記載の針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法。
  4. 前記カルボン酸のカルシウム塩が酢酸カルシウムであり、前記ポリオールがグリコールであり、前記カルボン酸が酢酸である、請求項1から3のいずれか一項に記載の針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法。
  5. 前記ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に酢酸を添加し、pH3.0以上3.5以下に調整する、請求項に記載の針状ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法。
  6. 請求項1からのいずれか一項に記載の方法によって製造される針状ハイドロキシアパタイト粒子。
  7. 請求項に記載の針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結してなる多孔質膜。
  8. 請求項1からのいずれか一項に記載の方法によって製造された針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結する、多孔質膜の製造方法。
  9. カルシウム化合物錯体の溶液にリン化合物溶液を添加して、ハイドロキシアパタイトの前駆体を生成させ、ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液として、ハイドロキシアパタイトの前駆体の分散溶液を調製する工程であって、前記カルシウム化合物錯体は、カルボン酸のカルシウム塩とポリオールとの錯体であり、リン化合物は、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、アンモニウムとの塩類、または、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸と、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、銅およびアルミニウムからなる群より選択される金属との塩類である、工程、
    前記ハイドロキシアパタイトの前駆体溶液に酸を添加し、pHを6.0以下に調整する工程であって、前記酸は、カルボン酸である、工程、
    前記pHが6.0以下に調整された前駆体溶液を水熱処理する工程、および
    前記水熱処理によって得られた針状ハイドロキシアパタイト粒子を焼結する工程
    を含む、多孔質膜の製造方法。
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