JP7185243B2 - iPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法及びiPS細胞の分化効率予測方法 - Google Patents
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Description
本発明は、未分化状態のiPS細胞(人工多能性幹細胞)の分化効率を非侵襲的に予測する方法に関し、特にiPS細胞の軟骨細胞等への分化効率を予測する方法に関する。
iPS細胞から軟骨細胞への分化経路としては、図20に示すように、iPS細胞から神経堤細胞(NC細胞)を経て軟骨細胞に分化する経路が知られている。ヒトから作製した複数のiPS細胞株の中から軟骨細胞への分化効率が高いものを見つけ出すための手段としては、従来、各iPS細胞株を軟骨細胞へと分化誘導した上で、各細胞における軟骨関連遺伝子の発現量を測定したり(図20中の網掛けの矢印)、分化誘導後の各細胞に免疫組織化学染色を施すことによって軟骨関連タンパク質の発現量を測定したりする方法があった。
しかし、こうした方法では、作製したiPS細胞を、一度、軟骨細胞に分化させてみる必要があるため、分化効率を調べるのに長期間を要するという問題があった。
そこで、上記に代わる手段として、iPS細胞をNC細胞へ分化誘導した後に、各細胞におけるNC細胞の細胞表面マーカータンパク質であるCD271の発現量を調べる方法が知られている(図20中の白矢印)。前記NC細胞への分化誘導後の細胞を蛍光抗体で染色して蛍光フローサイトメトリーによる定量分析を行うと、前記分化誘導後の細胞は、CD271の発現量が少ない細胞集団 (CD271low+ NC細胞)と発現量が多い集団(CD271high+ NC細胞)とに分かれる (図21)。これらの細胞をそれぞれ更に軟骨細胞へと分化誘導すると、CD271high+ NC細胞集団から分化誘導した細胞はCD271low+ NC細胞から分化させたものと比較して、軟骨関連遺伝子の発現量が多いことが分かっている(非特許文献1、2)。したがって、iPS細胞からNC細胞への分化誘導を行った後に各細胞におけるCD271の発現量を測定して、CD271high+ NC細胞の割合が多いiPS細胞株を選定することにより、結果的に、軟骨への分化効率の高いiPS細胞を選別することができる。
Umeda K. et al., Stem Cell Reports. 2015 Apr 14;4(4), p.712-26
Fukuta M. et al., PLOS ONE. 2014 9 (12)
上記のようにNC細胞への分化誘導後におけるマーカータンパク質CD271の発現量を調べる方法によれば、軟骨細胞への分化誘導後に軟骨関連遺伝子(又は軟骨関連タンパク質)の発現量を調べる方法に比べて、分化効率を調べるのに要する期間を大幅に短縮することができる。しかし、この場合でも、iPS細胞からNC細胞の分化誘導には、少なくとも8日程度が必要であるため、更なる期間短縮が求められていた。
本発明は、上記の点に鑑みて成されたものであり、その目的とするところは、iPS細胞の軟骨細胞(又はNC細胞)への分化効率(以下単に「分化効率」とよぶことがある)を短時間で予測することのできる方法を提供することにある。
上記課題を解決するためになされた本発明に係るiPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法は、
軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率が既知である複数のiPS細胞クローンからそれぞれ培養上清を採取し、各培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、該定量した結果を多変量解析することによって、前記複数の代謝物の定量値からiPS細胞の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測する数式である予測モデルを構築することを特徴としている。
軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率が既知である複数のiPS細胞クローンからそれぞれ培養上清を採取し、各培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、該定量した結果を多変量解析することによって、前記複数の代謝物の定量値からiPS細胞の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測する数式である予測モデルを構築することを特徴としている。
また、上記課題を解決するためになされた本発明に係るiPS細胞の分化効率予測方法は、
単一のiPS細胞クローンから成る被検細胞群から培養上清を採取し、該培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、得られた前記複数の代謝物の定量値を、上記の方法で構築された前記予測モデルに当てはめることによって、該被検細胞群の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測することを特徴とする。
単一のiPS細胞クローンから成る被検細胞群から培養上清を採取し、該培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、得られた前記複数の代謝物の定量値を、上記の方法で構築された前記予測モデルに当てはめることによって、該被検細胞群の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測することを特徴とする。
上記本発明に係るiPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法及びiPS細胞の分化効率予測方法は、前記複数の代謝物が、2-アミノエタノール、2-デオキシグルコース、2-ヒドロキシイソカプロン酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、4-アミノ酪酸、アセト酢酸、カダベリン、ジヒドロキシアセトン、フルクトース、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリシン、イソブチリルグリシン、リシン、リキソース、リンゴ酸、メサコン酸、メチルこはく酸、メバロン酸ラクトン、モノステアリン、プロリン、プシコース、コハク酸、タガトース、トレイトール、及びトレオニンを含むことが望ましい。
上記本発明に係るiPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法及びiPS細胞の分化効率予測方法は、前記複数の代謝物が、更に、2'-デオキシウリジン、2-ヒドロキシ-3-メチル吉草酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ケトアジピン酸、3-アミノプロパン酸、3-ヒドロキシドデカン二酸、アロース、アスパラギン、シトルリン、ガラクトース、グルカル酸、グルコサミン、グルコース、マレイン酸、マンデル酸、ソルビトール、ソルボース、スクロース、チミン、及びキシリトールから選ばれる少なくとも1種の代謝物を含むものであってもよい。
本発明は更に、軟骨への分化効率の高い神経堤細胞を取得する方法を提供する。
すなわち、本発明に係る軟骨への分化効率の高い神経堤細胞の取得方法は、それぞれが単一のiPS細胞クローンから成る1つ又は複数の被検細胞群に対して上記本発明の方法による分化効率の予測を行い、その結果、分化効率が高いと予測された1つ又は複数の被検細胞群を神経堤細胞へと分化誘導した後、該分化誘導を受けた前記被検細胞群に対してCD271タンパク質に対する抗体を用いたセルソーティングを行うことによって該タンパク質の発現量が予め定めた閾値よりも高い細胞を分取することを特徴としている。
上記本発明に係るiPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法及びiPS細胞の分化効率予測方法によれば、未分化状態のiPS細胞の培養上清に含まれる代謝物に基づいて該iPS細胞の軟骨細胞又はNC細胞への分化効率を予測することが可能となる。したがって、iPS細胞を従来のように軟骨細胞やNC細胞まで分化誘導する必要がないため、分化効率を知るのに要する時間や手間を低減することができる。
本発明に係るiPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法は、
軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率が既知である複数のiPS細胞クローンからそれぞれ培養上清を採取し、各培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、該定量した結果を多変量解析することによって、前記複数の代謝物の定量値からiPS細胞の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測する数式である予測モデルを構築するものである。
軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率が既知である複数のiPS細胞クローンからそれぞれ培養上清を採取し、各培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、該定量した結果を多変量解析することによって、前記複数の代謝物の定量値からiPS細胞の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測する数式である予測モデルを構築するものである。
また、本発明に係るiPS細胞の分化効率予測方法は、
単一のiPS細胞クローンから成る被検細胞群から培養上清を採取し、該培養上清に含まれる前記複数の代謝物を定量し、得られた前記複数の代謝物の定量値を、上記の方法で構築された前記予測モデルに当てはめることによって、該被検細胞群の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測するものである。
単一のiPS細胞クローンから成る被検細胞群から培養上清を採取し、該培養上清に含まれる前記複数の代謝物を定量し、得られた前記複数の代謝物の定量値を、上記の方法で構築された前記予測モデルに当てはめることによって、該被検細胞群の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測するものである。
なお、前記培養上清に含まれる複数の代謝物を定量する方法としては、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)、液体クロマトグラフ質量分析装置(LC-MS)、又はキャピラリー電気泳動質量分析計(CE-MS)を用いた定量分析を好適に利用することができる。また、こうした質量分析による定量分析の他、例えば、培養上清に所定の前処理を施した試料を溶離液とともに液体クロマトグラフィ(LC)装置のカラムに流し、カラムにより分離されて溶出する成分を、紫外可視分光検出器や赤外分光検出器等の検出器で検出した結果から、試料中に含まれる前記複数の代謝物を定量するようにしてもよい。
本発明の一実施形態によるiPS細胞の分化効率予測モデルの作成手順について、図1を参照しつつ説明する。まず、参照細胞群として、予め軟骨細胞又はNC細胞への分化効率が高いことが分かっている複数のiPS細胞株CH1、CH2、…CHnと、前記分化効率が低いことが分かっている複数のiPS細胞株CL1、CL2、…CLm(n、mは2以上の整数、以下同じ)を用意し、未分化状態の各参照細胞群から培養上清SH1、SH2、…SHn及びSL1、SL2、…SLmを採取する。これらの培養上清SH1、SH2、…SHn及びSL1、SL2、…SLm、に対して、GC-MSによる定量分析を行うことにより、各参照細胞群CH1、CH2、…CHn及びCL1、CL2、…CLmについての代謝物プロファイルPH1、PH2、…PHn及びPL1、PL2、…PLmを取得する。ここで、代謝物プロファイルは、少なくとも前記培養上清に含まれる複数の代謝物の識別子とその定量値を含んでいる。ここで、代謝物の「識別子」とは各化合物に固有の名称、番号、又は記号であり、典型的には化合物名であるが、その他、マススペクトル上における該化合物のピークのm/z(質量電荷比)などであってもよい。また、「定量値」とは、培養上清中における各代謝物の存在量を示す値であり、例えば、GC-MSの検出器による該化合物の検出信号の強度や、該強度から算出された、前記培養上清中における当該化合物の濃度等とすることができる。その後、分化効率が高い参照細胞群CH1、CH2、…CHnについて取得された代謝物プロファイルPH1、PH2、…PHnと、分化効率が低い参照細胞群について取得された代謝物プロファイルPL1、PL2、…PLmとを多変量解析によって比較解析することによって予測モデルを構築する。
例えば、各代謝物プロファイルに代謝物A、B、C…のデータが含まれているものとし、各代謝物の存在量の測定値を[A]、[B]、[C]…とすると、分化効率が高いiPS細胞と分化効率が低いiPS細胞を識別するための予測モデルは以下のようになる。
予測スコア=i+a[A]+b[B]+c[C]…
ここで、例えば、前記予測スコアが所定の閾値T以上である場合に分化効率が高いと判定できるように、前記数式の定数項i及び係数a、b、c…を決定することによって、本発明における分化効率予測モデルを構築することができる。
予測スコア=i+a[A]+b[B]+c[C]…
ここで、例えば、前記予測スコアが所定の閾値T以上である場合に分化効率が高いと判定できるように、前記数式の定数項i及び係数a、b、c…を決定することによって、本発明における分化効率予測モデルを構築することができる。
なお、前記予測モデルの構築に使用する多変量解析の手法としては、OPLS(Orthogonal Partial Least Square)を好適に用いることができるが、このほか、PLS(Partial Least Squares regression )やPCA(Principal Component Analysis)等の解析法を用いることもできる。
次に、本発明の一実施形態によるiPS細胞の分化効率予測方法の実施手順について、図2のフローチャートを参照しつつ説明する。まず、未分化状態で培養されている分化効率未知のiPS細胞クローン(被検細胞群)から培養上清を採取し(ステップS11)、該培養上清についてGC-MSによる定量分析を行うことにより代謝物プロファイルを取得する(ステップS12)。その後、前記代謝物プロファイルを、予め作成された予測モデルに適用し(ステップS13)、その結果求められた予測スコアが、予め定められた閾値以上であるか否かを判定する(ステップS14)。予測スコアが閾値以上であった場合(ステップS14でYes)は、前記被検細胞群は分化効率が高いと判定し(ステップS15)、予測スコアが閾値よりも小さかった場合(ステップS14でNo)は、前記被検細胞は分化効率が低いと判定する(ステップS16)。
なお、予測モデルの構築及び被検細胞の分化効率の予測に用いられる前記複数の代謝物は、少なくとも、2-アミノエタノール、2-デオキシグルコース、2-ヒドロキシイソカプロン酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、4-アミノ酪酸、アセト酢酸、カダベリン、ジヒドロキシアセトン、フルクトース、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリシン、イソブチリルグリシン、リシン、リキソース、リンゴ酸、メサコン酸、メチルこはく酸、メバロン酸ラクトン、モノステアリン、プロリン、プシコース、コハク酸、タガトース、トレイトール、及びトレオニンを含むものであることが望ましい。
また、予測モデルの構築及び被検細胞の分化効率の予測に用いられる前記複数の代謝物は、更に、2'-デオキシウリジン、2-ヒドロキシ-3-メチル吉草酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ケトアジピン酸、3-アミノプロパン酸、3-ヒドロキシドデカン二酸、アロース、アスパラギン、シトルリン、ガラクトース、グルカル酸、グルコサミン、グルコース、マレイン酸、マンデル酸、ソルビトール、ソルボース、スクロース、チミン、及びキシリトールから選ばれる少なくとも1種の代謝物を含むものであってもよい。
本発明に係るiPS細胞の分化効率予測方法は、例えば、多数のiPS細胞クローンの中から軟骨細胞又はNC細胞への分化効率が高いクローンを選出するような場合に好適に利用することができる。なお、分化効率が高いiPS細胞クローンであっても、培養を続けるうちにエイジングによって分化効率が落ちることがある。そこで、本発明に係る分化効率の予測方法は、1つのiPS細胞クローンを長期間に亘って利用するにあたり、各時点における該クローンの品質評価(分化効率が低下していないかの確認)に用いることもできる。
また、非特許文献1、2に記載のように、NC細胞の細胞表面マーカータンパク質CD271の発現量が高いNC細胞集団から分化させた軟骨細胞は、CD271の発現量が低いNC細胞集団から分化させたものと比較して、軟骨関連遺伝子の発現量が高いことが分かっている。そこで、上記の分化効率予測方法によって分化効率が高いと予測されたiPS細胞クローンをNC細胞に分化誘導し、該分化誘導された細胞の中からCD271の発現量が高い細胞を分取することにすれば、軟骨細胞への分化効率の高いNC細胞を高効率に取得することができる。
具体的には、まず、図3に示すように、それぞれが単一のiPS細胞クローンから成る複数の被検細胞群CU1、CU2…CUk(kは2以上の整数。以下同じ。)について、それぞれ培養上清SU1、SU2…SUkを採取してGC-MSで定量分析することにより代謝物プロファイルPU1、PU2…PUkを作成し、該代謝物プロファイルPU1、PU2…PUkを、予め作成した予測モデルに適用することによって分化効率の予測を行う。その結果、分化効率が高いと予測された1つ又は複数の被検細胞群(例えばCU2)をNC細胞に分化誘導し(図4)、該分化誘導を受けた被検細胞群CU2を細胞表面マーカータンパク質CD271に対する蛍光抗体で染色した後、蛍光フローサイトメトリーを利用したセルソーター10によってCD271の発現量が高い(すなわちCD271の発現量が予め定めた閾値以上である)NC細胞を分取する。
セルソーター10では、上記蛍光抗体で染色された被検細胞が、シース液の流れ(シース流20)に乗ってノズル11から吐出される。このとき、レーザ光源12から出射されたレーザ光がシース流20に照射され、該レーザ光の照射によって各細胞が発する蛍光が検出器13で検出される。検出器13からの検出信号は制御/データ処理部14に送られ、検出された蛍光の強度に基づいて細胞表面に存在する抗原の量(すなわちCD271の発現量)が求められる。また、ノズル11内に設けられた振動子15がノズル11を超音波振動させることによってシース流20を途中(レーザ光の照射位置よりも下方)から液滴に変化させる。更に、ノズル11の下方に設けられた電荷付与部16が、目的の細胞(すなわちCD271の発現量が予め定めた閾値よりも高い細胞)を含むシース液が液滴を形成しようとする寸前に、該シース液に電荷を付与する。これにより目的の細胞を内包した荷電液滴21が生成され、この荷電液滴21は電荷付与部16の下方に設けられた偏向用電極板17に引き寄せられて回収容器18に捕集される。なお、ここでは液滴を帯電させることによって目的細胞の分取を行う方式のセルソーターを例に挙げて説明を行ったが、そのほか、いかなる方式のセルソーターを用いてもよい。
本実施例では、予測モデルを構築するための参照細胞群として、14種類のヒトiPS細胞株、201B2, 201B7, 414C2, 451F3, 409B2, TIG118-4f1, 604A1, 606A1, 610B1, 665A1, 703A1, 1503-4f1, TIG107-4f1, 及びTIG120-4f1を使用した。
[既知手法による分化効率の判定]
まず、iPS/ES細胞用培地(リプロセル社製)を使用してフィーダー細胞上で培養した各参照細胞群のiPS細胞を、マトリゲル(マトリゲル グロースファクター リデュースト、コーニング社製)でコートした培養皿に再播種(継代比率1:5)し、フィーダーフリー用培地(mTeSR1, ベリタス社製)で1週間培養した。その後、NC分化用培地で6日間培養することによって、神経堤細胞への分化誘導を行った。なお、NC分化用培地の組成は、10uM SB431542, 450uM 1-Thioglycerol, 170uM Ascorbic acid-2 phosphate, 20ug/mL Insulin, 100ug/mL Human holo-Transferrin, 2mM Glutamax-I, 37% Iscove's Modified Dulbecco's Medium (IMDM) 2% CD lipid concentrate, 9.4% Chemical defined medium (CDM) base(いずれも終濃度)であり、前記CDM baseは、Bovine serum albumin 5gをHam's F12 Nutrient Mixture液中に溶解し、その溶液にIMDM 127mL, ペニシリン・ストレプトマイシン溶液 3mLを添加することによって調製した。分化誘導後の各参照細胞群をNC細胞の細胞表面マーカータンパク質であるCD271の蛍光抗体で染色し、蛍光フローサイトメトリーによってCD271の発現量が多い細胞(CD271high+ NC細胞)の割合を求め、これを各参照細胞群の分化効率とした。なお、前記蛍光フローサイトメトリーでは、前記蛍光抗体に由来する蛍光の強度が所定の閾値以上であったものを「CD271high+ NC細胞」として計数した(このような閾値は、蛍光抗体のみの標準サンプルを測定して決定してもよく、対象サンプル中における蛍光強度をヒストグラムにしたときの分布に基づいて決定してもよい。その他、閾値の決定方式は「CD271high+ NC細胞」が特定できる程度に設定される限りにおいて、限定されるものではない。)。その結果、図5に示すように、上記参照細胞群は、分化効率が高い細胞群(CD271high+ NC細胞の割合が20%以上である細胞群)7株と分化効率が低い細胞群(CD271high+ NC細胞の割合が20%未満である細胞群)7株に分かれることが確認された。更に、これら分化効率が高い細胞群と分化効率が低い細胞群の分化効率を、t-検定により比較解析すると、統計学的有意(p<0.001)に分化効率の差が見られることが確認できた(図6)。
まず、iPS/ES細胞用培地(リプロセル社製)を使用してフィーダー細胞上で培養した各参照細胞群のiPS細胞を、マトリゲル(マトリゲル グロースファクター リデュースト、コーニング社製)でコートした培養皿に再播種(継代比率1:5)し、フィーダーフリー用培地(mTeSR1, ベリタス社製)で1週間培養した。その後、NC分化用培地で6日間培養することによって、神経堤細胞への分化誘導を行った。なお、NC分化用培地の組成は、10uM SB431542, 450uM 1-Thioglycerol, 170uM Ascorbic acid-2 phosphate, 20ug/mL Insulin, 100ug/mL Human holo-Transferrin, 2mM Glutamax-I, 37% Iscove's Modified Dulbecco's Medium (IMDM) 2% CD lipid concentrate, 9.4% Chemical defined medium (CDM) base(いずれも終濃度)であり、前記CDM baseは、Bovine serum albumin 5gをHam's F12 Nutrient Mixture液中に溶解し、その溶液にIMDM 127mL, ペニシリン・ストレプトマイシン溶液 3mLを添加することによって調製した。分化誘導後の各参照細胞群をNC細胞の細胞表面マーカータンパク質であるCD271の蛍光抗体で染色し、蛍光フローサイトメトリーによってCD271の発現量が多い細胞(CD271high+ NC細胞)の割合を求め、これを各参照細胞群の分化効率とした。なお、前記蛍光フローサイトメトリーでは、前記蛍光抗体に由来する蛍光の強度が所定の閾値以上であったものを「CD271high+ NC細胞」として計数した(このような閾値は、蛍光抗体のみの標準サンプルを測定して決定してもよく、対象サンプル中における蛍光強度をヒストグラムにしたときの分布に基づいて決定してもよい。その他、閾値の決定方式は「CD271high+ NC細胞」が特定できる程度に設定される限りにおいて、限定されるものではない。)。その結果、図5に示すように、上記参照細胞群は、分化効率が高い細胞群(CD271high+ NC細胞の割合が20%以上である細胞群)7株と分化効率が低い細胞群(CD271high+ NC細胞の割合が20%未満である細胞群)7株に分かれることが確認された。更に、これら分化効率が高い細胞群と分化効率が低い細胞群の分化効率を、t-検定により比較解析すると、統計学的有意(p<0.001)に分化効率の差が見られることが確認できた(図6)。
[代謝物プロファイルの取得]
次に、各参照細胞群を未分化状態で培養している培地から培養上清を回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)による分析によって培地中の各代謝物を定量することにより代謝物プロファイルを取得した。具体的な手順を以下に説明する。
次に、各参照細胞群を未分化状態で培養している培地から培養上清を回収し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)による分析によって培地中の各代謝物を定量することにより代謝物プロファイルを取得した。具体的な手順を以下に説明する。
まず、フィーダー細胞上で培養しているiPS細胞をマトリゲル(マトリゲル グロースファクター リデュースト、コーニング社製)でコートした培養皿に再播種(継代比率1:5)し、フィーダーフリー用培地(mTeSR1, ベリタス社製)を用いて1週間培養した。1週間後に培地を回収し、3,000×gで5分間遠心分離後、その上清を培地代謝物サンプルとして回収した。
また、培地除去後の細胞をPBS(Phosphate buffered saline)溶液で洗浄し、パパイン溶液1mLを添加後、セルスクレイパーを用いて細胞懸濁液を回収した。前記細胞懸濁液を、60℃で終夜静置した後、15,000×gで5分間遠心分離し、その上清をDNA定量サンプルとして回収した。
前記培地代謝物サンプル溶液200uLに対して氷冷したメタノール800uL、リビトール溶液(7.2nmol/uL)1uLを添加し、-20℃で30分間静置した。その後、10,000×gで5分間遠心分離して上清を回収した後、遠心濃縮機を用いてサンプル溶液を乾固させた。乾固させたサンプルに無水ピリジン80uLと MSTFA(N-Methyl-N-TMS-Trifluoroacetamide)溶液40uLを添加し、再溶解後、30℃で30分間静置した。反応後、サンプル溶液1uLをGC-MSにインジェクションし、各代謝物のプロファイルを取得した。
一方、ピコグリーン試薬 (ThermoFisher Scientific社製)を用いて上述のDNA定量サンプル中のDNAを定量し、前記GC-MSによる分析で取得された各代謝物のプロファイルを、リビトールの内部標準MSピーク強度と総DNA量で割ることによってデータのノーマライゼーションを行った。
[モデル構築に使用する代謝物候補の選定]
分化効率が高い細胞群と分化効率が低い細胞群とで、取得した代謝物プロファイルを比較した結果、47種類の代謝物について1.5倍以上の量変動が確認された(図7)。他方、29種類の代謝物については統計学的有意(t-検定による有意差検定でp<0.05)に量変動が見られた(図8)。なお、図7及び図8中の代謝物名に含まれる「-nTMS」、「-nTMS(m)」、「-meto-nTMS」、「-meto-nTMS(m)」、又は「「-oxime-nTMS」」(n及びmは自然数)は、GC-MSによる分析時に添加されたGC用試薬に起因するものであり、例えば、図8中の「Tagatose-meto-5TMS(1)」、「Tagatose-5TMS(2)」、及び「Tagatose-5TMS(3)」はいずれも培地中の同一の代謝物(Tagatose)に由来するものである。
分化効率が高い細胞群と分化効率が低い細胞群とで、取得した代謝物プロファイルを比較した結果、47種類の代謝物について1.5倍以上の量変動が確認された(図7)。他方、29種類の代謝物については統計学的有意(t-検定による有意差検定でp<0.05)に量変動が見られた(図8)。なお、図7及び図8中の代謝物名に含まれる「-nTMS」、「-nTMS(m)」、「-meto-nTMS」、「-meto-nTMS(m)」、又は「「-oxime-nTMS」」(n及びmは自然数)は、GC-MSによる分析時に添加されたGC用試薬に起因するものであり、例えば、図8中の「Tagatose-meto-5TMS(1)」、「Tagatose-5TMS(2)」、及び「Tagatose-5TMS(3)」はいずれも培地中の同一の代謝物(Tagatose)に由来するものである。
[代謝物プロファイルの検討]
Umetrics社製多変量解析ソフトウェアSIMCA13を使用し、OPLS法による、上記47種類の代謝物に関する代謝物プロファイル(以下「第1の代謝物プロファイル」とよぶ)、及び上記29種類の代謝物に関する代謝物プロファイル(以下「第2の代謝物プロファイル」とよぶ)に対する多変量解析を行った。その結果、図9及び図10に示すようなスコアプロットが得られた。これらの図から明らかなように、いずれのスコアプロットでも、分化効率が高い細胞群(Good Clones)を示す白丸と、分化効率が低い細胞群(Poor Clones)を示す灰色の丸とが異なる分布を示しており、第1の代謝物プロファイル及び第2の代謝物プロファイルのいずれを用いても、分化効率が高い細胞群と分化効率が低い細胞群とを識別するためのモデル(予測モデル)を構築できることが示唆された。
Umetrics社製多変量解析ソフトウェアSIMCA13を使用し、OPLS法による、上記47種類の代謝物に関する代謝物プロファイル(以下「第1の代謝物プロファイル」とよぶ)、及び上記29種類の代謝物に関する代謝物プロファイル(以下「第2の代謝物プロファイル」とよぶ)に対する多変量解析を行った。その結果、図9及び図10に示すようなスコアプロットが得られた。これらの図から明らかなように、いずれのスコアプロットでも、分化効率が高い細胞群(Good Clones)を示す白丸と、分化効率が低い細胞群(Poor Clones)を示す灰色の丸とが異なる分布を示しており、第1の代謝物プロファイル及び第2の代謝物プロファイルのいずれを用いても、分化効率が高い細胞群と分化効率が低い細胞群とを識別するためのモデル(予測モデル)を構築できることが示唆された。
[予測モデルの構築]
SIMCA13上で、前記第1の代謝物プロファイルを用いた予測モデルの構築を指示することにより、以下の式(1)で示す予測モデル(以下「第1予測モデル」とよぶ)が得られた。
定数(0.845284)+((各代謝物についての係数(図11参照)×(各代謝物の測定値))の積算値 …(1)
同様に、SIMCA13上で、前記第2の代謝物プロファイルを用いた予測モデルの構築を指示することにより、以下の式(2)で示す予測モデル(以下「第2予測モデル」とよぶ)が得られた。
定数(0.630201)+((各代謝物についての係数(図12参照)×(各代謝物の測定値))の積算値 …(2)
SIMCA13上で、前記第1の代謝物プロファイルを用いた予測モデルの構築を指示することにより、以下の式(1)で示す予測モデル(以下「第1予測モデル」とよぶ)が得られた。
定数(0.845284)+((各代謝物についての係数(図11参照)×(各代謝物の測定値))の積算値 …(1)
同様に、SIMCA13上で、前記第2の代謝物プロファイルを用いた予測モデルの構築を指示することにより、以下の式(2)で示す予測モデル(以下「第2予測モデル」とよぶ)が得られた。
定数(0.630201)+((各代謝物についての係数(図12参照)×(各代謝物の測定値))の積算値 …(2)
[予測モデルの統計学的検証]
上記第1予測モデルについてR2値及びQ2値を求めた結果を図13に、上記第2予測モデルについてR2値及びQ2値を求めた結果を図14に示す。R2値は、モデル構築に使用したデータへのモデルの適合度を示す指標であり、この値が1に近いほど該モデルの適合度は高いといえる。Q2値は、未知データへのモデルの適合性(予測性)を示す指標であり、この値が0.5以上であればモデルの予測性は高いといえる。図13及び図14に示す通り、第1予測モデル及び第2予測モデルのR2値とQ2値は、いずれも高い値であることが確認された。
上記第1予測モデルについてR2値及びQ2値を求めた結果を図13に、上記第2予測モデルについてR2値及びQ2値を求めた結果を図14に示す。R2値は、モデル構築に使用したデータへのモデルの適合度を示す指標であり、この値が1に近いほど該モデルの適合度は高いといえる。Q2値は、未知データへのモデルの適合性(予測性)を示す指標であり、この値が0.5以上であればモデルの予測性は高いといえる。図13及び図14に示す通り、第1予測モデル及び第2予測モデルのR2値とQ2値は、いずれも高い値であることが確認された。
更に、並べ替え検定(Permutation test)によって第1予測モデル及び第2予測モデルを検定した結果を図15及び図16に示す。これらの図において縦軸はR2値又はQ2値を示している。また、横軸はデータ入れ替えの頻度を表しており、横軸の値が小さいほどデータの入れ替え頻度が大きいことを示している。これらの図から明らかなように、どちらのモデルにおいてもQ2直線のy切片が負であったことから、これらの予測モデルは、モデル構築に使用したデータのみにオーバーフィットしたものではないことが確認された。
[予測モデルを用いた分化効率の予測]
次に、上記の第1の予測モデル及び第2の予測モデルを別のiPS細胞株に適用することによって、各予測モデルを検証した。
次に、上記の第1の予測モデル及び第2の予測モデルを別のiPS細胞株に適用することによって、各予測モデルを検証した。
まず、検証用細胞群として、上記予測モデルの構築に使用したものとは異なる10種類のヒトiPS細胞株、201B6、253G4、404C2、454E2、585A1、585B1、604A3、604B1、606A1、及び610A2を用意し、各検証用細胞群に対して上記同様にCD271タンパク質に対する抗体を用いた蛍光フローサイトメトリーによる解析を行った。その結果、上記検証用細胞群は、分化効率が高い細胞群(6株)と分化効率が低い細胞群(4株)に分かれることを確認した(図17)。これらの検証用細胞群を未分化のiPS細胞の状態で培養している培地からそれぞれ上記と同様にして培養上清を回収し、GC-MS分析によって各培養上清中の代謝物プロファイルを取得した。以上で得られた各代謝物プロファイルに含まれる複数の代謝物の測定値のうち、図7に記載の47種類の代謝物の測定値を第1の予測モデルに適用(すなわち上記の(1)に代入)して得られた予測スコアの分布を図18に示す。また、図8に記載の29種類の代謝物の測定値を第2の予測モデルに適用(すなわち上記の式(2)に代入)して得られた予測スコアの分布を図19に示す。これらの図から明らかなように、どちらの予測モデルを用いた場合でも、分化効率が高い細胞株での予測スコアの中央値が、分化効率が低い株での予測スコアの中央値と比較して高いことが確認された。このことから、これらの予測モデルによって実際のiPS細胞の分化効率を予測可能であることが確認された。
10…セルソーター
11…ノズル
12…レーザ光源
13…検出器
14…制御/データ処理部
15…振動子
16…電荷付与部
17…偏向用電極板
18…回収容器
20…シース流
21…荷電液滴
11…ノズル
12…レーザ光源
13…検出器
14…制御/データ処理部
15…振動子
16…電荷付与部
17…偏向用電極板
18…回収容器
20…シース流
21…荷電液滴
Claims (5)
- 軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率が既知である複数のiPS細胞クローンからそれぞれ培養上清を採取し、各培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、該定量した結果を多変量解析することによって、前記複数の代謝物の定量値からiPS細胞の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測する数式である予測モデルを構築することを特徴とするiPS細胞の分化効率予測モデルの構築方法。
- 単一のiPS細胞クローンから成る被検細胞群から培養上清を採取し、該培養上清に含まれる複数の代謝物を定量し、得られた前記複数の代謝物の定量値を、請求項1に記載の方法で構築された前記予測モデルに当てはめることによって、該被検細胞群の軟骨細胞又は神経堤細胞への分化効率を予測することを特徴とするiPS細胞の分化効率予測方法。
- 前記複数の代謝物が、2-アミノエタノール、2-デオキシグルコース、2-ヒドロキシイソカプロン酸、2-ヒドロキシイソ吉草酸、2-メチル-3-ヒドロキシ酪酸、4-アミノ酪酸、アセト酢酸、カダベリン、ジヒドロキシアセトン、フルクトース、ガラクツロン酸、グルコン酸、グルタミン酸、グリシン、イソブチリルグリシン、リシン、リキソース、リンゴ酸、メサコン酸、メチルこはく酸、メバロン酸ラクトン、モノステアリン、プロリン、プシコース、コハク酸、タガトース、トレイトール、及びトレオニンを含むことを特徴とする請求項2に記載のiPS細胞の分化効率予測方法。
- 前記複数の代謝物が、更に、2'-デオキシウリジン、2-ヒドロキシ-3-メチル吉草酸、2-ヒドロキシ酪酸、2-ケトアジピン酸、3-アミノプロパン酸、3-ヒドロキシドデカン二酸、アロース、アスパラギン、シトルリン、ガラクトース、グルカル酸、グルコサミン、グルコース、マレイン酸、マンデル酸、ソルビトール、ソルボース、スクロース、チミン、及びキシリトールから選ばれる少なくとも1種の代謝物を含むことを特徴とする請求項3に記載のiPS細胞の分化効率予測方法。
- それぞれが単一のiPS細胞クローンから成る1つ又は複数の被検細胞群に対して請求項2に記載の方法による分化効率の予測を行い、その結果、分化効率が高いと予測された1つ又は複数の被検細胞群を神経堤細胞へと分化誘導した後、該分化誘導を受けた前記被検細胞群に対してCD271タンパク質に対する抗体を用いたセルソーティングを行うことによって該タンパク質の発現量が予め定めた閾値よりも高い細胞を分取することを特徴とする軟骨への分化効率の高い神経堤細胞の取得方法。
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FOLMES, Clifford DL et al., Metabolome and metaboproteome remodeling in nuclear reprogramming, Cell Cycle, 2013, Vol. 12, No. 15, pp. 2355-2365 |
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