JP7178091B2 - 運動訓練装置およびその作動方法 - Google Patents
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Description
(a)個体が発生する以上の力を外力として発生させるもの
(b)個体が発生する力を打ち消すように外力を加えるもの
(c)ある一定以上の努力を個体にさせながら必要最小限の力を支援するもの
しかし、いずれの場合も筋電図で検出可能な筋活動や筋張力など筋肉を支配している神経細胞に活動のあることが前提であり、所望の動作を行おうとする意志はあるものの、どのタイミングでどの筋肉あるいはそれを支配している神経細胞を活動させれば良いのかということがわからないような新規動作獲得訓練やリハビリテーションにおける重度の動作獲得訓練において効果を期待できるものではなかった。
そこで、神経シナプス伝達の効率の変化に関してこれまでに知られている時間依存的可塑性に関する知見(非特許文献2~6)を利用して、被訓練者の身体に外力を加えることによって主働筋の筋張力が足りないことを示す求心性神経の活動を誘発し、それによって主働筋の筋力を増強するための神経細胞活動と被訓練者の意思を反映する神経細胞活動をタイミングよく引き起こすことによって神経シナプスの伝達効率を高めるようにする方法を着想した。
シナプス伝達効率の変化については、時間依存的な可塑性があることがこれまでに報告されている(非特許文献3~6)。今、神経細胞aが神経細胞bにシナプスを介して接続していたとする。神経細胞aが活動した後で神経細胞bが活動すると神経細胞aから神経細胞bへのシナプス伝達効率が高くなる。もしも、神経細胞aが興奮性神経細胞であったならば、神経細胞bは神経細胞aの活動によって活動しやすくなり、逆に神経細胞aが抑制性神経細胞であったならば神経細胞bは神経細胞aの活動によって活動しにくくなる。また、これら神経細胞aと神経細胞bの間のシナプス伝達効率の変化は、複数の神経細胞aのような神経細胞からなる神経細胞群Aと複数の神経細胞bのような神経細胞からなる神経細胞群Bの間の伝達効率の変化においても成り立つと考えられる(非特許文献7)。したがって、神経細胞群Aとして興奮性神経細胞群を活動させ、神経細胞群Bとして主働筋の筋張力の増加に寄与する神経細胞群をタイミングよく活動させることができれば、神経細胞群Aと神経細胞群Bの間に好ましい神経伝達効率の変化をひきおこすことができ、神経細胞群Aを活動させることによって主働筋の筋張力を増大させることが可能であると考えられる。
そのためには、神経細胞群Aと神経細胞群Bを選択的に活動させることが可能でなければならない。意志を反映した神経活動を伝達しようとする神経細胞群Aは興奮性神経細胞からなる群であり、それは主働筋を収縮させようとすることによって活動させることができる。一方、神経細胞群Bは、神経細胞群Aからの入力が脳損傷によって弱まってしまっているためにそのままでは活動させることは困難である。しかし、神経細胞群Bは、主働筋の筋張力の増加に貢献する神経細胞の集団であり、運動制御において主働筋の筋張力が足りないことを示す末梢からの求心性神経活動が生じれば、神経細胞群Bの活動を増大させて主働筋の筋力を増大させようとするフィードバック経路からの入力も受けている。したがって、主働筋が収縮する際の筋力が足りないことを示す求心性神経活動を引き起こすことで神経細胞群Bを活動させられると考えられる。
また、神経細胞群Aと神経細胞群Bをタイミング良く活動させることが可能でなければならない。神経細胞aと神経細胞bのシナプス伝達効率について、神経細胞aが興奮性神経細胞であった場合には、神経細胞aの活動と神経細胞bの活動が数十ミリ秒くらいの時間差で順番に引き起こされた場合にシナプス伝達効率が高まることから(非特許文献3~6)、これを神経細胞aのような細胞からなる神経細胞群Aと神経細胞bのような細胞からなる神経細胞群Bに当てはめて考えれば、数十ミリ秒くらいの時間精度で神経細胞群Aと神経細胞群Bを順に活動させられれば良い。
したがって、運動企図を伝える神経細胞群Aと主働筋の収縮が不十分である場合に動員されるような神経細胞群Bとを数十ミリ秒くらいの時間差で順番に活動させることによって神経細胞間の可塑性を引き起こし、被訓練者の意思が伝達されて主働筋に至るまでの経路における神経信号の伝達効率を高めることができる。上記では、神経細胞群Aと神経細胞群Bを脳損傷を例に説明してきたが、新しい動作を訓練しようとする際に運動企図を表現している神経細胞群Aとその動作に利用される筋肉を支配する神経細胞群Bとの間にも適用可能である。
本発明は上記知見より完成されたものであり、具体的には以下の態様を含む。
本発明の一態様は、
〔1〕被訓練者における所定の動作の運動訓練装置であって、
前記所定の動作に関する動作意思に伴う神経細胞群の活動を惹起するための動作指示手段と
前記所定の動作に関する主働筋または協働筋の求心性神経細胞群を刺激する刺激付与手段と
前記動作指示手段における神経細胞群の活動を惹起するタイミング、および、前記刺激付与手段における刺激のタイミングを制御する制御手段と
を含み、前記動作指示手段が前記被訓練者に対して動作指示を提示した時点から一定時間以内のタイミングであって、前記動作意思に伴う神経細胞群と前記主働筋の収縮に関与する神経細胞群との神経伝達効率が向上するタイミングにおいて、前記刺激付与手段が前記求心性神経細胞への刺激を付与する、運動訓練装置に関する。
ここで、本発明の運動訓練装置は一実施の形態において、
〔2〕上記〔1〕に記載の運動訓練装置であって、前記刺激付与手段が随意運動における筋力の不足を示唆する感覚を惹起させることを特徴とする。
また、本発明の運動訓練装置は一実施の形態において、
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の運動訓練装置であって、前記所定の動作が、関節の屈曲、伸展、または、それらが順に組み合わされた動作であることを特徴とする。
また、本発明の運動訓練装置は一実施の形態において、
〔4〕上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の運動訓練装置であって、前記動作指示手段が視覚情報、聴覚情報、触覚情報の提示により前記神経細胞の活動を惹起するための手段であることを特徴とする。
また、本発明の運動訓練装置は一実施の形態において、
〔5〕上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の運動訓練装置であって、前記一定時間以内が50ミリ秒~600ミリ秒の範囲内であることを特徴とする。
また、本発明の運動訓練装置は一実施の形態において、
〔6〕上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の運動訓練装置であって、前記所定の動作に関する主働筋または協働筋が複数あり、前記複数の主働筋または協働筋の求心性神経細胞を刺激する1つまたは複数の前記刺激付与手段を含むことを特徴とする。
また、本発明の運動訓練装置は一実施の形態において、
〔7〕被訓練者における所定の動作の運動訓練装置であって、
前記所定の動作に関する動作意思に伴う神経細胞の活動を検出するための活動検出手段と
前記所定の動作に関する主働筋または協働筋の求心性神経細胞を刺激する刺激付与手段と
前記活動検出手段における神経細胞の活動を検出したタイミングから前記刺激付与手段における刺激のタイミングを制御する制御手段と
を含み、前記活動検出手段が活動を検出した時点から一定時間以内のタイミングであって、前記動作意思に伴う神経細胞群と前記主働筋の収縮に関与する神経細胞群との神経伝達効率が向上するタイミングにおいて、前記刺激付与手段が前記求心性神経細胞への刺激を付与することを特徴とする。
〔8〕上記〔7〕に記載の運動訓練装置であって、前記一定時間以内が0ミリ秒~500ミリ秒の範囲内であることを特徴とする。
また、本発明は別の態様において、
〔9〕被訓練者における所定の動作の運動訓練装置の制御方法であって、
前記所定の動作に関する動作意思に伴う神経細胞の活動を惹起するための動作指示手段と前記動作指示手段に対する指示のタイミングを制御する制御手段とにより、前記被訓練者に対して前記所定の動作の指示をするステップと
前記制御手段からの指示により前記所定の動作に関する主働筋または協働筋の求心性神経細胞への刺激を付与する刺激付与手段により、前記ステップにおける前記動作指示手段の指示のタイミングから一定時間以内のタイミングであって、前記動作意思に伴う神経細胞群と前記主働筋の収縮に関与する神経細胞群との神経伝達効率が向上するタイミングにおいて前記求心性神経細胞への刺激を付与するステップと
を含む、運動訓練装置の制御方法に関する。
また、本発明は別の態様において、
〔10〕被訓練者における所定の動作の運動訓練装置の制御方法であって、
前記所定の動作に関する動作意思に伴う神経細胞の活動を検出するための活動検出手段により前記神経細胞の活動を検出するステップと
前記所定の動作に関する主働筋または協働筋の求心性神経細胞への刺激を付与する刺激付与手段と前記活動検出手段からの信号を受けて前記刺激付与手段へ刺激のタイミングを指示する制御手段とにより、前記ステップにおける前記活動の検出のタイミングから一定時間以内のタイミングであって、前記動作意思に伴う神経細胞群と前記主働筋の収縮に関与する神経細胞群との神経伝達効率が向上するタイミングにおいて前記求心性神経細胞への刺激を付与するステップと
を含む、運動訓練装置の制御方法に関する。
また、従来の訓練装置では被訓練者が少なからず目的の動作を引き起こせる、あるいは、どの筋肉をどのように動かせば良いのか理解できる状況を前提とするが(言い換えれば、随意的に主働筋を収縮できるような神経細胞活動を前提とするが)、本発明に係る運動訓練装置によれば、筋肉の活動を引き起こせない被訓練者に対してもリハビリテーションの効果を奏することが期待できる。
また、非特許文献7には、神経活動計測技術と電気刺激の手法を利用して神経可塑性を促そうとする従来技術が報告されているが、当該文献に記載の手法は侵襲的な外科手術を要する。一方、本発明に係る運動訓練装置によれば侵襲的な外科手術を要しない。
なお、被訓練者はヒトであることが好ましいが、馬、牛、ラット、マウス、猫、犬、などの家畜、愛玩動物などを対象とすることもできる。
主働筋または協働筋の求心性神経細胞への刺激の付与は、主働筋の求心性神経細胞または協働筋の求心性神経細胞のいずれかに付与してもよいし、同時に両方の求心性神経細胞に付与しても良い。また、所定の動作に対して、複数の主働筋または協働筋が関与する場合には、それらの複数の主働筋または協働筋の求心性神経細胞に対して刺激を付与することもできる。
また、好ましい一実施の形態において、刺激付与手段は被訓練者の体外より刺激を付与するものである。体外より刺激を付与する形態とすることで、被訓練者に対する侵襲的な外科手術等を不要とできる点において好ましい。
刺激を付与する期間は、一瞬あるいは短時間の刺激が好ましい。持続的な刺激や長時間にわたる刺激では神経細胞同士の活動の時間的前後関係が曖昧になり好ましくないと考えられる。以下に限定されないが、刺激を付与する期間は、例えば1~100ミリ秒の範囲とすることができる。
本発明に係る運動訓練装置が活動検出手段を採用する場合、当該活動検出手段により検出された神経細胞の活動開始のタイミングは制御手段へと電気信号により送られる。例えば、本発明に係る運動訓練装置が活動検出手段を備え、かつ、刺激付与手段としてアクチュエータを備えた固定器具が採用される場合、以下の形態に制限されないが、制御手段は当該活動検出手段からの信号を受け取る動作タイミング推定部と、当該アクチュエータの作動を制御するアクチュエータ駆動部、および、当該動作タイミング推定部で受け取った信号に基づいてアクチュエータ駆動部の作動タイミングを制御する制御部とを備えることができる。動作タイミング推定部では、活動検出手段で検出される神経細胞の活動情報が目的の動作を企図する神経細胞の活動であるか否かを判断し、目的の動作を企図する神経細胞の活動であると判断した際に制御部へ信号を送信するプログラムなどを含むことができる。
動作またはその意志を生じたタイミングに合わせて主働筋を伸張させることで、所望の動作を引き起こすための訓練となりうる。このことを実証するために2通りの動物実験を実施した。まず、健常ラットに対して選択反応時間タスクを実施し、その学習過程がタスク遂行中に好ましい応答動作における主働筋を伸張させることによって促進されることを実証した。次に片側脳損傷ラットを用いて同様の実験を行い、片側大脳皮質前肢感覚運動野損傷ラットでもタスク学習の促進効果が現れることを実証した。以下順に説明する。
ラットに実施させるべきタスクとして左右前肢による選択反応時間タスクを用いた(H. Kaneko, H. Tamura, T. Kawashima, and S. S. Suzuki, "A choice reaction-time task in the rat: a new model using air-puff stimuli and lever-release responses," Behav Brain Res, vol. 174, pp. 151-9, Nov 1 2006.)。ラットは各試行開始時に左右2本のレバーの上に両前肢を載せた姿勢をとる(図1)。左右両前肢でレバーを押下して待っていると左右前肢のどちらか一方に空圧刺激(air-puff)が与えられ、この刺激に対して正解側(試験区により正解側は異なる。また、正反応側ともいう)のレバーから前肢を放した場合に砂糖水を報酬として与えられる。このタスクでは、各試行開始時の姿勢を一定にさせることによって、安定した前肢への空圧刺激が可能であり、前肢をレバーから持ち上げる動作を応答動作とすることで反応時間を精度良く計測できる。また、前肢をレバーから持ち上げる応答動作は上腕二頭筋を主働筋とするものであると考えることができる。さらに、レバーの取り付けられている全面パネルの裏側にアクチュエータを配置してレバーの後部を押下げることにより(図2)、レバー及びその上に載っているラットの前肢をタスク中に持ち上げることが可能となっている。
正解側のアクチュエータを駆動させる場合とは、失敗してしまった動作を繰り返す際に、正しい動作を訓練者が体を支えるなどして教えるような状況に似ている。しかし、正解側のアクチュエータを駆動させた場合には、応答動作の主働筋である上腕二頭筋が伸張されるのではなく、その拮抗筋の上腕三頭筋が伸張させられることになる。逆に、不正解側のアクチュエータを駆動させた場合には、応答動作の主働筋である上腕二頭筋が伸張される。後者が本特許技術において効果のあると予想される場合である。
その結果、不正解側のアクチュエータを駆動させた場合に学習の促進されることが分かった。図3は逆転学習の4日目及び5日目におけるエラー率と反応時間の分布を実験条件別に示したものである。図中、中央がレバーをアクチュエータで駆動しない場合を示しており、それよりも右上に正解側のアクチュエータを駆動させた条件、左下に不正解側のアクチュエータを駆動させた条件の結果が分布することが一般化線形モデルを用いた統計解析でわかった。反応時間が短いほど報酬量が多くなるような設定で訓練しているので、学習は、エラー率の低下と反応時間の短縮の両方によって現れる。したがって、左下に分布している不正解側のアクチュエータを駆動させる条件で学習が促進された。このことは、応答時刻付近で主働筋である上腕二頭筋を伸張させることによって逆転学習が促進された結果である。
同様の実験を右側大脳皮質前肢感覚運動野をPhotothrombosis法(非特許文献8)によって損傷したラットに対しても行わせた。但し、アクチュエータの駆動は空圧刺激後220msとした。脳損傷部位は訓練期間IIが終了した後に作成し、その処置の後にタスクの成績が脳損傷前の状態に戻った後(エラー率が15%未満)に逆転学習を行わせ、訓練期間III及び訓練期間IVのデータを収集した。対照群として健常ラットのデータと比較した。
その結果、脳損傷ラットにおいても不正解側のアクチュエータを駆動させる条件で学習が促進された。図4は、逆転学習の4日目及び5日目のエラー率を示したものである。反復測定分散分析の結果、主効果として不正解側のアクチュエータを駆動させる条件でエラー率が低いこと、交互作用として、正解側レバー駆動の際に健側と麻痺側の間でアクチュエータを駆動することの影響の異なっていることが分かった。以上により、不正解側のアクチュエータを駆動させる条件において逆転学習が促進されるということが分かった。
この結果は次のように解釈されると考えている。まず、不正解側のアクチュエータが駆動されると、それによってラットの体幹が背側に移動し、正解側の前肢がレバーから離れる。その際、正解側前肢の前腕の自重によって上腕二頭筋が伸張されるような感覚が引き起こされ、その感覚は上腕二頭筋の筋力が足りないことを示唆するような信号であるために、上腕二頭筋の筋力を増すように中枢側の神経細胞群を刺激できる。すなわち、不正解側のアクチュエータを駆動させる条件では、応答時刻付近で正解側の上腕二頭筋を伸張させることになり、その上腕二頭筋の収縮力を増加させるのに貢献する神経細胞群を賦活化する効果を生じる。このような正解側の上腕二頭筋の筋収縮力の増加に貢献する神経細胞群と応答動作を引き起こそうとする随意的な運動意図を表現する神経細胞群との活動が引き続いて生じることにより、両者の神経伝達効率が高まって逆転学習が促進されたと考えられる。
前述の2つの実施例は実験動物を用いたものであるが、動作を行おうとした際に主働筋を伸張させることによる介入のメカニズムが働きうることを裏付けるものである。また、逆転学習の初期においては、ラットは逆転前のようにタスクを遂行しようとしており、逆転学習の最初から正解側の前肢をレバーから離そうとしているわけではない。したがって、どのような動作をすればよいのか、あるいはどの筋肉を動かせば良いのかわからない状態である新規動作獲得過程と同様の状況を模した場合にもその効果が現れたと考えている。
以上の結果をヒトへ応用する装置として、加齢によって指先の力が入りにくくなったり、脳梗塞後の麻痺のために動かせなくなったりした指を訓練するため、主働筋を動作のタイミングに合わせて伸張させる装置が本特許技術を利用した一実施の形態として提供される。図5は脳梗塞後の麻痺手における摘み動作を対象としたものの例を示す。人差し指と親指の摘み動作を訓練する際に人差し指を伸展させることによって訓練効果を得ようとするものである。当該訓練装置は、以下のメカニズムにより摘み動作の訓練を行うものであり、当該装置における主働筋は人差し指を屈曲させる筋肉であり、母指は摘み動作の際に人差し指に対抗する支持部と考えて説明する。まず、制御装置1内の制御部2により制御される動作タイミング表示装置駆動部3から表示器4へ信号が伝えられ、表示器4に摘み動作のタイミングが表示される。表示器4の指示に従い、被訓練者の動作意思に伴う神経活動が発生(図5中A)し、指示指(人差し指)を屈曲させるための主働筋を収縮させるようとして神経細胞群が活動する(図5中B)。しかしながら、十分に強い神経活動ではないために主働筋(人差し指を屈曲させる筋肉)では弱い筋活動、弱い収縮しか起こらない。そこで、動作意思に伴う神経活動が発生(図5中A)した直後に、制御部2により制御されるアクチュエータ駆動部5により筋伸張手段6に備えられているアクチュエータを制御して主働筋を伸張(図5中C)させる。これにより、主働筋の張力が足りないことを示すような求心性神経活動を発生させ(図5中D)、それによって主働筋の筋力不足の際に動員される神経細胞群の活動を誘発する(図5中E)。以上のようにして、図5中Aの神経活動に遅れて図5中Dの神経活動を引き起こすことによって、図5中Aと図5中Eの神経細胞群間の神経伝達を高めて、訓練後に図5中Aの活動によって図5中Eのような神経活動を随意的に引き起こせるようにするものである。このような主働筋の筋活動(図5中F)を増大させようとする装置が本特許技術に基づく装置の一実施の形態である。なお、図5中Aの神経活動の発生のタイミングと図5中Eの神経活動を惹起するタイミングとは、制御部2により制御される動作タイミング表示装置駆動部3およびアクチュエータ駆動部5により制御することができる。
また図5右欄のグラフは、上記訓練装置において活動するA~Eの神経および筋の活動強度およびその時間軸を示す。図5のグラフに示すように、まず、Aの神経活動が惹起され、それによって指示指(人差し指)を屈曲させようとするBの神経細胞群の活動が生じる。しかし、Bの神経細胞活動から惹起されるFの主働筋の活動は低いものである。そこで、Aの神経細胞群の活動が生じ、その直後に主働筋の筋力不足の際に動員される神経細胞群Eの活動が生じようにDの求心性神経細胞群を主働筋を伸張して刺激することにより賦活化する。このように、Aの神経活動の直後にEの神経活動を誘発することによって、Aの神経細胞群とEの神経細胞群との結びつきが強まり、次第に活動強度の上昇することが期待される。
また、実施例3では、人差し指の摘まむという動作を妨害するように主働筋を伸張させる必要があるが、それをトレムナー反射と呼ばれる反射の経路を利用して回避しようとしたものが図6に示す装置である。トレムナー反射とは、主働筋と協働して働くような筋肉(協働筋)を伸張することによって主働筋に筋活動が生じるという反射である。その過程では、協働筋を伸張することによって協働筋内部の筋紡錘内求心性神経の活動が引き起こされ、これが実施例3(図5)で示した主働筋の伸張と同様にして脊髄や高次中枢に信号が伝達され、協働筋だけでなく、主働筋の収縮に関係する神経細胞群(図6中E)を興奮させることができる。実施例3では、主働筋を伸張させるために人差し指を伸展させなければならないが、トレムナー反射の経路を利用すれば、中指を伸張させることでも人差し指の主働筋を支配する神経細胞の活動を誘発できると期待できる。その際、主働筋を伸張させる必要がないので人差し指で摘まむという主働筋の動きを妨げることがない。
図6に示す本発明の訓練装置に係る一実施の形態は、以下のように作動する。当該装置における主働筋は人差し指を屈曲させる筋肉であり、その機能を補うように働く中指を屈曲させる筋肉を協働筋と考え、母指は摘み動作の際に人差し指に対抗する支持部と考えて説明する。まず、制御装置内の制御部2により制御される動作タイミング表示装置駆動部3から表示器4へ信号が伝えられ、表示器4に摘み動作の指示が表示される。表示器4の指示に従い、被訓練者の動作意思に伴う神経活動が発生(図6中A)し、指示指(人差し指)を屈曲させるための主働筋を収縮させるようとして神経細胞群が活動する(図6中B)。しかしながら、十分に強い神経活動ではないために主働筋(人差し指を屈曲させる筋肉)では弱い筋活動、弱い収縮しか起こらない。ここで、動作意思に伴う神経活動が発生(図6中A)した直後に、制御部2により制御されるアクチュエータ駆動部5により筋伸張手段6に備えられているアクチュエータを制御して協働筋(中指を屈曲させる筋肉)を伸張(図6中C)させる。これにより、協働筋の張力が足りないことを示すような求心性神経活動を発生させ(図5中D)、それによって協働筋の筋力不足の際に動員される神経細胞群と伴に主働筋の筋力不足の際に動員される神経細胞群の活動を誘発する(図6中E)。以上のようにして、図6中Aの神経活動に遅れて図6中Eの主働筋の収縮に関する神経活動を引き起こすことによって、図6中Aと図6中Eの神経細胞群間の神経伝達を高めて、訓練後に図6中Aの活動によって図6中Eのような神経活動を随意的に引き起こせるようにするものである。このように協働筋の伸張を利用して主働筋の筋活動(図6中F)を増大させようとする装置が本特許技術に基づく装置の一実施の形態である。なお、図6中Aの神経活動の発生のタイミングと図6中Eの神経活動を惹起するタイミングとは、実施例3と同様に、制御部2により制御される動作タイミング表示装置駆動部3およびアクチュエータ駆動部5により制御することができる。
主働筋あるいはそれに関連する筋肉を伸張させる以外の手法により、主働筋などの筋紡錘内求心性神経をタイミングよく刺激することができれば同様の効果が期待される。一実施の形態として、振動刺激を筋腹に与えて主働筋の筋紡錘内求心性神経を刺激する装置が提供される(図7)。健康診断などで膝下の腱を軽くたたくことで脊髄反射(膝蓋腱反射)の状態をテストされた経験は誰にでもあるが、腱を機械的にたたくことで大腿筋の筋紡錘内の求心性神経が活動して大腿筋を支配する運動神経を興奮させ、それによって大腿筋が収縮して膝が伸展するというものである。このような筋紡錘内の求心性神経への刺激は筋腹に機械的な振動刺激を与えることでも引き起こすことができる。実施例5では、動作意思に伴う神経活動が発生(図7中A)した直後、指示指の屈曲運動に関する主働筋にタイミングよく機械的な刺激(図7中D)を加えて主働筋の収縮に関係する神経細胞(図7中E)を興奮させ、実施例3と同様の効果を得ようとするものである。
図7に示す本発明の訓練装置に係る一実施の形態は、以下のように作動する。まず、制御装置内の制御部2により制御される動作タイミング表示装置駆動部3から表示器4へ信号が伝えられ、表示器4に摘み動作の指示が表示される。表示器4の指示に従い、被訓練者の動作意思に伴う神経活動が発生(図7中A)し、指示指(人差し指および親指)を屈曲させるための主働筋を収縮させるようとして神経細胞が活動する(図7中B)。しかしながら、十分に強い神経活動ではないために主働筋(人差し指)では弱い筋活動、弱い収縮しか起こらない。ここで、動作意思に伴う神経活動が発生(図7中A)した直後に、制御部2により制御されるアクチュエータ駆動部5により振動器7を制御して筋腹に機械的な振動刺激を与える(図7中D)。これにより、主働筋の張力が足りないことを示すような求心性神経活動を発生させ(図7中D)、それによって主働筋の筋力不足の際に動員される神経細胞の活動を誘発する(図7中E)。以上のようにして、図7中Aの神経活動に遅れて図7中Eの主働筋の収縮に関する神経活動を引き起こすことによって、図7中Aと図7中Eの神経細胞群間の神経伝達を高めて、訓練後に図7中Aの活動によって図7中Eのような神経活動を随意的に引き起こせるようにするものである。このように振動刺激による求心性神経細胞の活動誘発を利用して主働筋の筋活動(図7中F)を増大させようとする装置が本特許技術に基づく装置の一実施の形態である。なお、図7中Aの神経活動の発生のタイミングと図7中Eの神経活動を惹起するタイミングとは、実施例3と同様に、制御部2により制御される動作タイミング表示装置駆動部3およびアクチュエータ駆動部5により制御することができる。
上記実施例3~5に記載の装置は、動作意思に伴う神経活動を人工的に発生させることが困難であるために摘み動作を行わせるタスクを被訓練者に課す場合の実施例であった。本実施例では、脳活動を計測することで動作意思のタイミングを検出し、タスクを課すことなしに訓練可能な装置の一実施の形態について説明する(図8)。本実施例では、実施例3に対して動作意思のタイミングを検出する技術を組み込んでいる。
図8に示す本発明の訓練装置に係る一実施の形態は、以下のように作動する。まず、被訓練者の頭部に装着された脳活動センサ8により、被訓練者の随意運動企図に関与する神経細胞の活動を検出する。このとき、被訓練者の動作意思に伴う神経活動が発生(図8中A)し、指示指(人差し指および親指)を屈曲させるための主働筋を収縮させるようとして神経細胞が活動する(図8中B)。しかしながら、十分に強い神経活動ではないために主働筋(人差し指)では弱い筋活動、弱い収縮しか起こらない。脳活動センサ8により検出された神経細胞の活動情報は、制御手段1内の動作タイミング推定部3’へと送られる。動作タイミング推定部3’は当該神経細胞の活動情報をさらに制御手段1内の制御部2に送る。制御部2は、好ましいタイミングにおいてアクチュエータ駆動部5を制御して作動させ主働筋を伸張(図8中C)させる。これにより、主働筋の張力が足りないことを示すような求心性神経活動を発生させ(図8中D)、それによって主働筋の筋力不足の際に動員される神経細胞の活動を誘発する(図8中E)。以上のようにして、図8中Aの神経活動に遅れて図8中Eの主働筋の収縮に関する神経活動を引き起こし、図8中Aと図8中Eの神経細胞群間の神経伝達を高めて、訓練後に図8中Aの活動によって図8中Eのような神経活動を随意的に引き起こせるようにするものである。このように被訓練者の随意運動企図に関与する神経細胞の活動のタイミングを検出することにより求心性神経細胞の活動誘発のタイミングを図り、主働筋の筋活動(図8中F)を増大させようとする装置が本特許技術に基づく装置の一実施の形態である。なお、図8中Aの神経活動の発生のタイミングと図8中Eの神経活動を惹起するタイミングとは、実施例3と同様に、制御部2およびアクチュエータ駆動部5により制御することができる。
2 制御部
3 動作タイミング表示装置駆動部
3’ 動作タイミング推定部
4 表示器
5 アクチュエータ駆動部
6 固定器具
7 振動器
8 脳活動センサ
Claims (6)
- 被訓練者における所定の動作の運動訓練装置であって、
前記所定の動作に関する動作意思に伴う神経細胞群の活動を惹起するための動作指示手段と
前記所定の動作に関する主働筋または協働筋の求心性神経細胞群を刺激し、前記主働筋を支配している神経細胞群の活動を誘発するための刺激付与手段であって、前記刺激が主働筋または協働筋における伸長の刺激、振動刺激、または、電気刺激であり、前記主働筋の収縮に関与する神経細胞をより活性化させるための刺激付与手段と
前記動作指示手段における神経細胞群の活動を惹起するタイミング、および、前記刺激付与手段における刺激のタイミングを制御する制御手段と
を含み、前記動作指示手段が前記被訓練者に対して動作指示を提示した時点から50ミリ秒~600ミリ秒の範囲内のタイミングにおいて、前記刺激付与手段が前記求心性神経細胞への刺激を付与する、運動訓練装置。 - 請求項1に記載の運動訓練装置であって、
前記刺激付与手段は被訓練者が所定の動作に関する主働筋を収縮させていてもいなくても前記主働筋を支配している神経細胞群の活動を誘発するものである、運動訓練装置。 - 請求項1または2に記載の運動訓練装置であって、前記所定の動作が、関節の屈曲、伸展、または、それらが順に組み合わされた動作である、運動訓練装置。
- 請求項1~3のいずれか一項に記載の運動訓練装置であって、前記動作指示手段が視覚情報、聴覚情報、または、触覚情報の提示により前記神経細胞の活動を惹起するための手段である、運動訓練装置。
- 請求項1~4のいずれか一項に記載の運動訓練装置であって、前記所定の動作に関する主働筋または協働筋が複数あり、前記複数の主働筋または協働筋の求心性神経細胞を刺激する1つまたは複数の前記刺激付与手段を含む、運動訓練装置。
- 被訓練者における所定の動作の運動訓練装置であって、
前記所定の動作に関する動作意思に伴う神経細胞の活動を検出するための活動検出手段と
前記所定の動作に関する主働筋または協働筋の求心性神経細胞を刺激する刺激付与手段であって、前記刺激が主働筋または協働筋における伸長の刺激、振動刺激、または、電気刺激であり、前記主働筋の収縮に関与する神経細胞をより活性化させるための刺激付与手段と
前記活動検出手段における神経細胞の活動を検出したタイミングから前記刺激付与手段における刺激のタイミングを制御する制御手段と
を含み、前記活動検出手段が活動を検出した時点から0~500ミリ秒の範囲内のタイミングにおいて、前記刺激付与手段が前記求心性神経細胞への刺激を付与する、運動訓練装置。
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