本発明は、インターロイキン11受容体α(IL-11Rα)に対して特異性を有する抗体に関する。本開示は、線維化の重要なメディエーターとしてのIL-11/IL-11Rシグナル伝達の特定、ならびに抗IL-11Rα抗体の産生および機能分析について述べる。また、前記抗体の治療用途および診断用途についても述べる。
IL-11およびIL-11/IL-11R媒介性シグナル伝達
本発明の抗体および断片は、インターロイキン11受容体α(IL-11Rα)に結合する。
脂肪細胞化抑制因子としても知られているインターロイキン11(IL-11)は多形質発現性サイトカインであり、IL-6、IL-11、IL-27、IL-31、オンコスタチンM(OSM)、白血病抑制因子(LIF)、カルジオトロフィン-1(CT-1)、カルジオトロフィン様サイトカイン(CLC)、毛様体神経栄養因子(CNTF)およびneuropoetin(NP-1)を含むIL-6サイトカインファミリーのメンバーである。
IL-11は、自体を細胞から効率的に分泌させる古典的シグナルペプチドが付加された状態で転写される。ヒトIL-11の前駆体は199個のアミノ酸からなるポリペプチドであり、成熟型のIL-11は178個のアミノ酸残基からなるタンパク質をコードする(Garbers and Scheller. , Biol. Chem. 2013; 394(9):1145-1161)。ヒトIL-11のアミノ酸配列はUniProtアクセッション番号P20809(P20809.1 GI:124294)から入手可能である。組換えヒトIL-11(オプレルベキン)も市販されている。他の生物種由来のIL-11のいくつか、たとえば、マウス、ラット、ブタ、ウシ、硬骨魚の数種、霊長類などのIL-11もクローニングされており、その配列が決定されている。
本明細書において、「IL-11」は、あらゆる生物種由来のIL-11を指し、あらゆる生物種に由来するIL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを包含する。同様に、本明細書において、「IL-11Rα」は、あらゆる生物種由来のIL-11Rαを指し、あらゆる生物種に由来するIL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを包含する。
IL-11は、普遍的に発現されるβ受容体である糖タンパク質130(gp130;糖タンパク質130、IL-6ST、IL-6-βまたはCD130としても知られている)が形成するホモダイマーを介してシグナルを伝達する。gp130は膜貫通タンパク質であり、IL-6受容体ファミリーと会合することによってI型サイトカイン受容体を形成する受容体サブユニットの1つである。特異性は個々のIL-11α受容体(IL-11Rα)によって発揮される。IL-11α受容体はシグナル伝達に直接関与はしないものの、α受容体にサイトカインが結合すると、β受容体と会合して最終的な複合体を形成する。IL-11は下流のシグナル伝達経路を活性化し、このシグナル伝達経路は、主として、マイトジェン活性化プロテインキナーゼ(MAPK)カスケードおよびヤヌスキナーゼ/シグナル伝達兼転写活性化因子(Jak/STAT)経路から構成される(GarbersおよびScheller,上掲)。
ヒトIL-11Rαは422個のアミノ酸からなるポリペプチド(Genbankアクセッション番号:NP_001136256.1、GI:218505839;UniProt Q14626)であり、マウスIL-11Rαと約85%のヌクレオチド配列同一性およびアミノ酸配列同一性を有する(Du and Williams., Blood Vol, 89, No,11, June 1, 1997)。IL-11Rαは、細胞内ドメインが異なる2種のアイソフォームが存在することが報告されている(DuおよびWilliams,上掲)。いくつかの実施形態において、本明細書において使用されるIL-11Rαは、IL-11Rαアイソフォーム1であってもよく、IL-11Rαアイソフォーム2であってもよい。
IL-11受容体α鎖(IL-11Rα)は、IL-6受容体α鎖(IL-6Rα)と構造および機能の面で多くの類似点がある。IL-11RαとIL-6Rαの細胞外ドメインは24%のアミノ酸同一性を有し、特徴的なTrp-Ser-X-Trp-Ser(WSXWS)保存モチーフを含む。IL-11RαとIL-6αの短い細胞内ドメイン(34アミノ酸長)には、JAK/STATシグナル伝達経路の活性化に必要とされるBox1領域およびBox2領域が含まれていない。
IL-11Rαはそのリガンドに低い親和性(Kd=約10nmol/L)で結合し、それ自体単独では、生体シグナルを伝達することはできない。高い親和性(Kd=約400~800pmol/L)で結合してシグナルを伝達できる受容体の形成には、IL-11Rαとgp130の共発現が必要とされる(Curtis et al (Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12; Hilton et al., EMBO J 13:4765, 1994; Nandurkar et al., Oncogene 12:585, 1996)。細胞表面のIL-11RαにIL-11が結合すると、上述したように、ヘテロ二量体化、チロシンのリン酸化、gp130およびMAPKの活性化、ならびに/またはJak/STATのシグナル伝達が誘導される。
マウスIL-11の受容体結合部位はマッピングされており、3つの部位(部位I、部位IIおよび部位III)が特定されている。部位II領域の置換および部位III領域の置換によって、gp130への結合性が低下する。部位IIIの変異体は検出可能なアゴニスト活性を示さず、IL-11Rαに対してアンタゴニスト活性を示す(Cytokine Inhibitors Chapter 8;Gennaro Ciliberto,Rocco Savino共編、Marcel Dekker, Inc. 2001)。
さらに、通常、可溶性IL-11RαはIL-11と結合して生物学的に活性な可溶性複合体を形成することができることから(Pflanz et al., 1999 FEBS Lett, 450, 117-122)、IL-6と同様に、細胞表面のgp130に結合していないIL-11は、可溶性IL-11Rαに結合する場合があると考えられる(GarbersおよびScheller,上掲)。Curtisら(Blood 1997 Dec 1; 90 (11):4403-12)は、可溶性マウスIL-11受容体α鎖(sIL-11Rα)を発現させて、gp130発現細胞におけるシグナル伝達を試験したことを報告している。この研究では、gp130は存在するが、膜貫通型IL-11Rが存在しない条件下において、M1白血病細胞のIL-11依存性分化とBa/F3細胞の増殖とがsIL-11Rによって誘導されたことが示されており、さらにsIL-11Rを介した初期の細胞内事象(gp130、STAT3およびSHP2のリン酸化を伴う)が、膜貫通型IL-11Rを介したシグナル伝達と類似していることが報告されている。
本明細書において「IL-11/IL-11Rのシグナル伝達」は、IL-11および/またはIL-11Rαを介したシグナル伝達、IL-11の断片および/またはIL-11Rαの断片を介したシグナル伝達、ならびにIL-11、IL-11Rαおよび/またはこれらの断片を含むポリペプチド複合体を介したシグナル伝達を指す。IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、IL-11および/またはIL-11Rαがgp130に結合することによって、gp130を介したシグナル伝達が活性化されることを含む。
可溶性IL-11Rαに結合したIL-11による膜結合型gp130を介したシグナル伝達の活性化は、近年実証されている(Lokau et al., 2016 Cell Reports 14, 1761-1773)。このいわゆるIL-11のトランスシグナリングは、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達において非常に重要な役割を果たしている可能性がある。さらに、IL-11Rαの発現は比較的小さなサブセットの細胞に限定されるものの、gp130は幅広い種類の細胞で発現されるため、IL-11のトランスシグナリングは、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達の最も一般的な形態である可能性さえある。
本明細書において、「IL-11のトランスシグナリング」は、IL-11Rαと結合したIL-11がgp130に結合することによって惹起されるシグナル伝達を指す。IL-11は、非共有結合型複合体としてIL-11Rαに結合すると考えられる。gp130は、膜に結合しており、細胞によって発現され、IL-11:IL-11Rα複合体がgp130に結合することによってシグナル伝達が起こる。いくつかの実施形態において、IL-11Rαは、可溶性IL-11Rαであってもよい。いくつかの実施形態において、前記可溶性IL-11Rαは、(たとえば膜貫通ドメインを欠く)IL-11Rαの可溶性(分泌型)アイソフォームである。いくつかの実施形態において、前記可溶性IL-11Rαは、細胞膜結合型IL-11Rαの細胞外ドメインがタンパク質分解されることによって遊離した産物である。いくつかの実施形態において、IL-11Rαは、細胞膜結合型であってもよく、gp130を介したシグナル伝達は、細胞膜結合型IL-11Rαと結合したIL-11がgp130に結合することによって惹起される。
本明細書において、IL-11受容体(IL-11R)は、IL-11と結合することによってgp130発現細胞のシグナル伝達を誘導できるポリペプチドを指す。IL-11受容体は、任意の生物種に由来するものであってもよく、任意の生物種から得られたIL-11受容体のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログを含む。好ましい実施形態において、前記生物種はヒト(ホモ・サピエンス)である。いくつかの実施形態において、IL-11受容体はIL-11Rαであってもよい。IL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、特定の生物種(たとえばヒト)に由来するIL-11Rαのアミノ酸配列と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。IL-11Rαのアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、(好ましくは同じ生物種由来の)IL-11と結合して、IL-11Rαおよびgp130を発現する細胞のシグナル伝達を刺激する能力(たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)またはKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような能力)を持つことを特徴としてもよい。IL-11受容体の断片の長さは、どのような長さ(アミノ酸長)であってもよいが、成熟型IL-11Rαの長さの少なくとも25%であってもよく、最長で成熟型IL-11Rαの長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であってもよい。IL-11受容体の断片の長さは、最短で10アミノ酸長であってもよく、最長で15アミノ酸長、20アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長、200アミノ酸長、250アミノ酸長、300アミノ酸長、400アミノ酸長または415アミノ酸長であってもよい。
いくつかの実施形態において、IL-11Rαは、IL-11Rαの細胞外ドメインを含んでいてもよく、IL-11Rαの細胞外ドメインからなっていてもよく、IL-11Rαの細胞外ドメインは、UniProt Q14626のアミノ酸配列の24~370番目のアミノ酸に相当する。いくつかの実施形態において、IL-11Rαは、特定の生物種に由来するIL-11Rαの細胞外ドメインのアミノ酸配列と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。
いくつかの実施形態において、IL-11は、哺乳動物のIL-11(たとえばカニクイザル、ヒトおよび/またはげっ歯類(たとえばラットおよび/またはマウス)のIL-11)である。IL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、特定の生物種(たとえばヒト)に由来するIL-11前駆体または成熟型IL-11のアミノ酸配列と少なくとも70%のアミノ酸配列同一性、好ましくは80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%または100%のアミノ酸配列同一性を有することを特徴としてもよい。IL-11のアイソフォーム、断片、バリアントまたはホモログは、(好ましくは同じ生物種由来の)IL-11Rαと結合して、IL-11Rαおよびgp130を発現する細胞のシグナル伝達を刺激する能力(たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)またはKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような能力)を持つことを特徴としてもよい。IL-11断片の長さは、どのような長さ(アミノ酸長)であってもよいが、成熟型IL-11の長さの少なくとも25%であってもよく、最長で成熟型IL-11の長さの50%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%であってもよい。IL-11断片の長さは、最短で10アミノ酸長であってもよく、最長で15アミノ酸長、20アミノ酸長、25アミノ酸長、30アミノ酸長、40アミノ酸長、50アミノ酸長、100アミノ酸長、110アミノ酸長、120アミノ酸長、130アミノ酸長、140アミノ酸長、150アミノ酸長、160アミノ酸長、170アミノ酸長、180アミノ酸長、190アミノ酸長または195アミノ酸長であってもよい。
IL-11は、主にトロンボポエチン成長因子として機能することが提唱されており、これを根拠に血小板数を増加させるための治療薬として組換えIL-11(Neumega(オプレルベキン))が使用されている。TGFβ1は、線維芽細胞においてIL-11の発現を誘導することが示されている(Elias et al., 1994 J. Immunol. 152, 2421-2429)。
線維化におけるIL-11/IL-11Rシグナル伝達の役割は明らかになっていない。過去の研究の大部分では、心臓(Obana et al., 2010 Circulation 121, 684-691; Obana et al., 2012 Heart and Circulatory Physiology 303, H569-77)および腎臓(Ham et al., 2013 Anesthesiology 119, 1389-1401; Stangou et al., 2011 J. Nephrol. 24, 106-111)においてIL-11/IL-11Rシグナル伝達の抗線維化機能が示唆されている。Kurahara et al., J. Smooth Muscle Res. 2016; 52: 78-92では、抗線維化サイトカインとしてIL-11が報告されており、IL-11/IL-11Rシグナル伝達がαSMAの発現を抑制することが示唆されている。
また、IL-11は、いくつかの組織および慢性炎症性疾患において抗炎症性因子として機能することが示唆されている(Trepicchio and Dorner, 1998 Expert Opin Investig Drugs 7, 1501-1504; Zhu et al., 2015 PLoS ONE 10, e0126296)。これらの研究では、TGFβ1に応答したIL-11の分泌が観察されており、これは防御機構であることが示唆されている。
一方、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、肺疾患の病態に関与している可能性が示唆されている。結核モデルにおいて抗体または組換え変異IL-11によりIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制したところ、インビボにおいて正のフィードバックループが認められ、肺組織の病的変化が減少し(Kapina et al., 2011 PLoS ONE 6, e21878; Shepelkova et al., 2016 Journal of Infectious Diseases 214, jiw176)、マウス気道における線維化とIL-11の発現との関連性が示された(Tang et al., 1996 The Journal of Clinical Investigation 98, 2845-2853)。IL-11RA-/-マウスにおいて肺組織におけるIL-13の線維化促進機能を検討したところ、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達がIL-13の線維化促進メカニズムに関与していることが示された(Chen et al., 2005 J. Immunol. 174, 2305-2313)。
さらに、IL-11は、重症の喘息患者の気道において増加していることが見出されており(Minshall et al., 2000 Respiratory Research 14, 1-14)、IPF患者の肺では過剰発現されており(Lindahl et al., 2013 Respiratory Research 14, 1-14)、アトピー性皮膚炎患者の皮膚病変部においても増加している(Toda et al., 2003 J Allergy Clin Immun 111, 875-881)。これらの関連性が、疾患プロセスに対する反応としてのIL-11遺伝子/タンパク質の発現の増加によるものであるのかどうか、またはIL-11が疾患プロセスのエフェクターであるのかどうかは、明らかになっていない。
抗体および抗原結合断片
本発明の抗体および抗原結合断片は、IL-11Rα(インターロイキン11受容体α)に結合する。いくつかの実施形態において、前記抗体および抗原結合断片は、ヒトIL-11Rαに結合する。いくつかの実施形態において、前記抗体および抗原結合断片は、ヒト以外の霊長類のIL-11Rαに結合する。いくつかの実施形態において、前記抗体および抗原結合断片は、マウスIL-11Rαに結合する。
本明細書において「抗体」は、その断片および誘導体、または合成抗体もしくは合成抗体断片を包含する。本明細書において、抗体は、関連性のある標的分子(すなわち、抗体が特異性を示す抗原)に特異的に結合することができるポリペプチドである。本発明の抗体は、単離された形態で提供してもよい。
近年のモノクローナル抗体技術に関する手法では、大部分の抗原に対して抗体を作製することができる。抗原結合部分は、抗体の一部(たとえばFab断片)であってもよく、合成抗体断片(たとえば一本鎖Fv断片[ScFv])であってもよい。選択された抗原に好適なモノクローナル抗体は、公知の技術によって作製してもよく、このような公知技術としては、たとえば、“Monoclonal Antibodies: A manual of techniques”, H Zola (CRC Press, 1988)に記載されているものや、“Monoclonal Hybridoma Antibodies: Techniques and Applications ”, J G R Hurrell (CRC Press, 1982)に記載されているものが挙げられる。キメラ抗体は、Neubergerら(1988, 8th International Biotechnology Symposium Part 2, 792-799)によって報告されている。
モノクローナル抗体(mAb)は、本発明の方法において有用であり、抗原上の単一のエピトープを特異的な標的とする均質な抗体集団を指す。
Fab断片やFab2断片などの、抗体の抗原結合断片を、遺伝子組換え抗体および遺伝子組換え抗体断片として使用/提供してもよい。抗体の重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインは、抗原の認識に関与することがわかっている。このことは、初期のプロテアーゼ消化実験によって最初に見出され、げっ歯類の抗体を「ヒト化」した実験においても確認されている。げっ歯類由来の可変ドメインをヒト由来の定常ドメインに融合させて、げっ歯類由来の親抗体の抗原特異性を保持した抗体を作製することができる(Morrison et al (1984) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 81, 6851-6855)。
いくつかの実施形態において、前記抗体または抗体断片は、全長ヒト抗体または抗体断片である。全長ヒト抗体または抗体断片は、1つ以上のヒト核酸配列によりコードされる。全長ヒト抗体または抗体断片は、非ヒトアミノ酸配列を含んでいない。
全長ヒト抗体の作製において最も一般的に採用される技術には2種類あり、そのうちの1つは、(i)ファージディスプレイライブラリーにおいてヒト抗体遺伝子を発現させるファージディスプレイ法であり、もう一つは、(ii)ヒト抗体遺伝子を発現するように遺伝子組換えされたトランスジェニックマウスにおける抗体の産生である(Park and Smolen Advances in Protein Chemistry (2001) 56: 369-421に報告されている)。簡潔に説明すると、ヒト抗体遺伝子のファージディスプレイ技術では、VH鎖をコードする遺伝子およびVL鎖をコードする遺伝子を、PCR増幅および「ナイーブ」ヒトリンパ球からのクローニングにより作製してライブラリーに組み込み、これらの遺伝子を、ジスルフィド結合で連結されたFab断片または一本鎖Fv(scFV)断片として発現させることができる。Fabをコードする遺伝子またはscFVをコードする遺伝子を、繊維状バクテリオファージの表面コートタンパク質に融合させ、次いで、抗原を使用してライブラリーをスクリーニングすることによって、目的の標的に結合することができるFabまたはscFVを特定することができる。Fab断片またはscFV断片の親和性を高めるため、分子進化操作または親和性成熟操作を行うことができる。トランスジェニックマウス技術では、相同組換えにより内因性マウスIg遺伝子座をヒトホモログで置換したマウスを抗原で免疫し、慣用のハイブリドーマ技術によりモノクローナル抗体を作製することによって、全長ヒトモノクローナル抗体が得られる。
本発明の抗体または抗体断片は、ヒトナイーブ抗体遺伝子ライブラリーを使用したファージディスプレイ法によって作製してもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、マウス抗体またはマウス抗体断片である。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、マウスまたはヒトのキメラ抗体または抗体断片(たとえばマウス可変ドメインとヒト定常領域を含む抗体または抗原結合断片)である。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、ヒト化抗体または抗体断片(たとえばマウスCDRとヒトのフレームワーク領域および定常領域とを含む抗体または抗原結合断片)である。
マウスまたはヒトのキメラ抗体または抗原結合断片は、たとえばHuman Monoclonal Antibodies: Methods and Protocols, Michael Steinitz (Editor), Methods in Molecular Biology 1060, Springer Protocols, Humana Press (2014)の第8章、特に第8章の第3節に記載されているように、キメラ化プロセスによりマウスモノクローナル抗体から作製することができる。
ヒト化抗体または抗原結合断片は、たとえばHuman Monoclonal Antibodies: Methods and Protocols, Michael Steinitz (Editor), Methods in Molecular Biology 1060, Springer Protocols, Humana Press (2014)の第7章、特に第7章の第3.1節「Antibody Humanization」に記載されているように、キメラ化プロセスによりマウス抗体から作製することができる。
抗原特異性は、可変ドメインによって付与され、定常ドメインとは無関係であることは、いずれも1つ以上の可変ドメインを含む抗体断片を細菌において発現させた実験の結果から知られている。このような抗体断片分子としては、Fab様分子(Better et al (1988) Science 240, 1041);Fv分子(Skerra et al (1988) Science 240, 1038);VHとVLのパートナードメインが柔軟なオリゴペプチドで連結された一本鎖Fv(ScFv)分子(Bird et al (1988) Science 242, 423; Huston et al (1988) Proc. Natl. Acad. Sd. USA 85, 5879);および単離されたVドメインを含む単一ドメイン抗体(dAb)(Ward et al (1989) Nature 341, 544)が挙げられる。特異的結合部位を保持する抗体断片の合成において使用される技術の総説は、Winter & Milstein (1991) Nature 349, 293-299に記載されている。
「scFv分子」は、VHとVLのパートナードメインが、たとえば柔軟なオリゴペプチドなどを介して共有結合された分子を意味する。
Fab抗体断片、Fv抗体断片、scFv抗体断片およびdAb抗体断片はいずれも、大腸菌において発現させて分泌させることが可能であることから、容易に大量生産することができる。
全長抗体およびF(ab’)2断片は「二価」である。「二価」は、全長抗体およびF(ab’)2断片が、2つの抗原結合部位を有していることを意味する。これに対して、Fab断片、Fv断片、scFv断片およびdAb断片は、1つの抗原結合部位しか持たないため、一価である。
本発明は、IL-11Rαに結合することができる抗体または抗原結合断片を提供する。いくつかの実施形態において、前記抗体または抗原結合断片は単離されたものであってもよい。
本発明の抗原結合断片は、抗原に結合可能である限り、ポリペプチドのどのような断片であってもよい。
いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、少なくとも3つの軽鎖CDR(すなわち、LC-CDR1、LC-CDR2およびLC-CDR3;本明細書においてLC-CDR1~3とも呼ぶ)と3つの重鎖CDR(すなわち、HC-CDR1、HC-CDR2およびHC-CDR3;本明細書においてHC-CDR1~3とも呼ぶ)を含み、これらのCDRが一緒になって抗体または抗原結合断片の抗原結合領域を定義する。いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、抗体または抗原結合断片の軽鎖可変ドメインと重鎖可変ドメインを含んでいてもよい。いくつかの実施形態において、抗原結合断片は、抗体または抗原結合断片の軽鎖ポリペプチドと重鎖ポリペプチドを含んでいてもよい。
また、本発明は、本発明による1つ以上の抗原結合断片またはポリペプチドを含む、IL-11Rαに結合することができるキメラ抗原受容体(CAR)を提供する。キメラ抗原受容体(CAR)は、抗原結合機能およびT細胞活性化機能の両方を提供する組換え受容体である。CARの構造および遺伝子操作については、たとえばDotti et al., Immunol Rev (2014) 257(1)において総説されている(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)。本発明の抗原結合断片は、本明細書においてキメラ抗原受容体(CAR)の抗原結合ドメインとして提供される。いくつかの実施形態において、CARは、本明細書に記載の抗体、抗原結合断片またはポリペプチドの実施形態のいずれかによるVLドメインおよびVHドメインを含む。CARは、T細胞の能力、特異性および安全性をさらに向上させるために、共刺激リガンド、キメラ共刺激受容体またはサイトカインと組み合わせてもよい(Sadelain et al., The basic principles of chimeric antigen receptor (CAR) design. Cancer Discov. 2013 April; 3(4): 388-398. doi:10.1158/2159-8290.CD-12-0548、この文献は参照によって具体的な記載が本明細書に援用される)。さらに、本発明のCARを含む細胞も提供する。本発明のCARは、T細胞を作製するために使用してもよい。遺伝子操作によるT細胞へCARの導入は、形質導入および増殖を目的としてインビトロ培養中に行ってもよく、たとえば、養子T細胞療法のためのT細胞の増殖培養中に行ってもよい。
また、本発明は、本発明の抗体または抗原結合断片を含む二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片を提供する。これらの二重特異性抗体または二重特異性抗原結合断片は、(i)本発明の抗体または抗原結合断片、および(ii)IL-11Rα以外の標的に特異的な抗体または抗原結合断片を含んでいてもよい。
二重特異性抗体または二重特異性断片は好適な任意の形態で提供されてもよく、たとえば、Kontermann MAbs 2012, 4(2): 182-197(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載されているような形態であってもよい。たとえば、二重特異性抗体または二重特異性抗原結合断片は、二重特異性抗体複合体(たとえばIgG2、F(ab’)2またはCovX-Body)、二重特異性IgGまたはIgG様分子(たとえばIgG、scFv4-Ig、IgG-scFv、scFv-IgG、DVD-Ig、IgG-sVD、sVD-IgG、2 in 1-IgG、mAb2、または軽鎖(LC)が共通化されたTandemab)、非対称性の二重特異性IgGまたはIgG様分子(たとえばkih IgG、軽鎖(LC)が共通化されたkih IgG、CrossMab、kih IgG-scFab、mAb-Fv、電荷対を有するIgG、またはSEED-body)、小さな二重特異性抗体分子(たとえばDiabody(Db)、dsDb、DART、scDb、tandAb、tandem scFv(taFv)、tandem dAb/VHH、triple body、triple head、Fab-scFvまたはF(ab’)2-scFv2)、二重特異性Fc-CH3融合タンパク質(たとえばtaFv-Fc、Di-diabody、scDb-CH3、scFv-Fc-scFv、HCAb-VHH、scFv-kih-FcまたはscFv-kih-CH3)、二重特異性融合タンパク質(たとえばscFv2-アルブミン、scDb-アルブミン、taFv-毒素、DNL-Fab3、DNL-Fab4-IgG、DNL-Fab4-IgG-cytokine2)のいずれであってもよい。具体的には、Kontermann MAbs 2012, 4(2): 182-19の図2を参照されたい。
二重特異性抗体の製造方法としては、たとえばSegal and Bast, 2001. Production of Bispecific Antibodies. Current Protocols in Immunology. 14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16(この文献は参照によってその全体が本明細書に援用される)に記載されているように、たとえば還元可能なジスルフィド結合または還元不能なチオエーテル結合を介して、抗体または抗体断片を化学的に架橋する方法が挙げられる。たとえば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)-プロピオナート(SPDP)を使用して、たとえばヒンジ領域のSH-基を介してFab断片を化学的に架橋することなどによって、ジスルフィド結合で連結された二重特異性F(ab)2ヘテロ二量体を作製することができる。別の製造方法としては、たとえばD. M. and Bast, B. J. 2001. Production of Bispecific Antibodies. Current Protocols in Immunology. 14:IV:2.13:2.13.1-2.13.16に記載されているように、抗体を産生するハイブリドーマを、たとえばポリエチレングリコールで融合させて、二重特異性抗体を分泌することができるクアドローマ細胞を作製する方法が挙げられる。また、二重特異性抗体および二重特異性抗原結合断片は、たとえばAntibody Engineering: Methods and Protocols, Second Edition (Humana Press, 2012)の第40章:Production of Bispecific Antibodies: Diabodies and Tandem scFv (Hornig and Farber-Schwarz)、またはFrench, How to make bispecific antibodies, Methods Mol. Med. 2000; 40:333-339(これら文献に記載の内容は参照によって本明細書に援用される)に記載されているように、たとえば前記抗原結合分子のポリペプチドをコードする核酸構築物などから発現させることによる組換え法によって作製することができる。
抗体は、非修飾の親抗体と比較して抗原に対する親和性が向上された修飾抗体を作製するための親和性成熟法によって作製してもよい。親和性成熟抗体は、当技術分野で公知の手法によって作製してもよく、親和性成熟抗体を作製するための手法は、たとえば、Marks et al.,Rio/Technology 10:779-783 (1992); Barbas et al. Proc Nat. Acad. Sci. USA 91:3809-3813 (1994); Schier et al. Gene 169:147-155 (1995); Yelton et al. J. Immunol. 155:1994-2004 (1995); Jackson et al., J. Immunol. 154(7):331 0-15 9 (1995);およびHawkins et al, J. Mol. Biol. 226:889-896 (1992)に記載されている。
本発明は、抗体鎖のシャッフリング、たとえば軽鎖シャッフリングおよび/または重鎖シャッフリングなどをさらに行うことによって得られた本明細書に記載の抗体を提供する。抗体親和性を向上させるための抗体鎖のシャッフリングは、Marks, Antibody Affinity Maturation by Chain Shuffling, Antibody Engineering Methods and Protocols, Humana Press (2004) Vol. 248, pp327-343(その全体が参照によって本明細書に援用される)に詳細に述べられており、特に軽鎖シャッフリングについては、この文献の第3.1節および第3.2節に詳細に述べられている。軽鎖シャッフリングでは、抗体の重鎖可変領域を、軽鎖可変領域パートナーのレパートリーと組み合わせて、目的の標的タンパク質に対して高い親和性を有する新たなVLとVHの組み合わせを特定する。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのVHドメインのCDRおよび/もしくはVLドメインのCDR(すなわち、CDR1~3)またはそのバリアントを含む。いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのHC-CDR1~3またはそのバリアントを含む。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのLC-CDR1~3またはそのバリアントを含む。
本開示の抗体クローンのHC-CDR1~3およびLC-CDR1~3は、Retter et al., Nucl. Acids Res. (2005) 33 (suppl 1): D671-D674(参照によってその全体が本明細書に援用される)の記載に従って、VBASE2により定義される。
本明細書において、CDRのバリアントは、該CDRのアミノ酸配列中に、たとえば1個、2個または3個の置換を含んでいてもよい。本明細書において、VLドメインまたはVHドメインのバリアントは、該ドメインのアミノ酸配列中にたとえば1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個または10個の置換を含んでいてもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのHC-CDR1~3またはそのバリアントと、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのLC-CDR1~3またはそのバリアントとを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのVHドメインのCDRおよび/もしくはVLドメインのCDRまたはそのバリアントを含む。いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのVHドメインおよび/もしくはVLドメインまたはそのバリアントを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、BSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択されるクローンのVHドメインのCDRおよび/またはVLドメインのCDRまたはそのバリアントを含み;該クローンは、たとえば、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-2C1、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-5E5およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-2C1およびBSO-9A7から選択される。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、BSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択されるクローンのVHドメインおよび/またはVLドメインまたはそのバリアントを含み;該クローンは、たとえば、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-2C1、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-5E5およびBSO-13B10から選択され;たとえば、BSO-2C1およびBSO-9A7から選択される。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのVHドメインのHC-CDR1~3またはそのバリアントを含む。いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、クローンのVHドメインまたはそのバリアントを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、本明細書に記載のIL-11Rα結合抗体クローンのVLドメインのLC-CDR1~3またはそのバリアントを含む。いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、クローンのVLドメインまたはそのバリアントを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、BSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択されるIL-11Rα結合抗体クローンのVHドメインのHC-CDR1~3またはVHドメインを含み;該クローンは、たとえば、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-2C1、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-5E5およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-2C1およびBSO-9A7から選択される。いくつかの実施形態において、前記抗体または抗体断片は、軽鎖シャッフリングにより得られたVLドメインを含む。
いくつかの態様において、本発明の抗体または抗体断片は、BSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択されるIL-11Rα結合抗体クローンのVLドメインのLC-CDR1~3またはVLドメインを含み;該クローンは、たとえば、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-2C1、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-5E5およびBSO-13B10から選択され;またはBSO-2C1およびBSO-9A7から選択される。いくつかの実施形態において、前記抗体または抗体断片は、重鎖シャッフリングにより得られたVHドメインを含む。
抗ヒトIL-11Rα結合抗体クローンであるBSO-1E3_1、BSO-1E3_2、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10のVLドメインのアミノ酸配列は、(Retter et al.、Nucl. Acids Res. (2005) 33 (suppl 1): D671-D674の記載に従って)VBASE2を使用して決定され、このVLドメインのアミノ酸配列を図16に示し、そのLC-CDR1~3のアミノ酸配列も図16に示す。VBASE2を使用して配列決定された、これらの抗ヒトIL-11Rα結合抗体クローンのVHドメインのアミノ酸配列を図17に示し、そのHC-CDR1~3のアミノ酸配列も図17に示す。
本発明の抗体は、本明細書に記載のVLのアミノ酸配列および/またはVHのアミノ酸配列の1つ以上と高い配列同一性(%)を有するアミノ酸配列を含むVL鎖および/またはVH鎖を含んでいてもよい。たとえば、本発明の抗体は、配列番号1~9のいずれか1つで示されるVL鎖のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVL鎖を有し、かつIL-11Rαに結合する抗体を含む。また、本発明の抗体は、配列番号10~18のいずれか1つで示されるVH鎖のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むVH鎖を有し、かつIL-11Rαに結合する抗体を含む。
本発明の抗体は、本明細書に記載のVLの核酸配列および/もしくはVHの核酸配列のいずれか1つ以上と高い配列同一性(%)を有する核酸配列によってコードされるVL鎖および/もしくはVH鎖、またはコドンの縮重により同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列によってコードされるVL鎖および/もしくはVH鎖を含んでいてもよい。たとえば、本発明の抗体は、配列番号80~88のいずれか1つで示されるVL鎖の核酸配列と少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされるVL鎖、またはコドンの縮重により配列番号80~88のいずれか1つと同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列によってコードされるVL鎖を有し、かつIL-11Rαに結合する抗体を含む。また、本発明の抗体は、配列番号89~97のいずれか1つで示されるVH鎖の核酸配列と少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは、少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%の配列同一性を有する核酸配列によってコードされるVH鎖、またはコドンの縮重により配列番号89~97のいずれか1つと同一のアミノ酸配列をコードする核酸配列によってコードされるVH鎖を有し、かつIL-11Rαに結合する抗体を含む。
また、本明細書で開示される軽鎖CDRおよび重鎖CDRは、様々な異なるフレームワーク領域と連結させるのに特に有用である場合がある。したがって、LC-CDR1~3を有する軽鎖および/またはHC-CDR1~3を有する重鎖は、別のフレームワーク領域を有していてもよい。好適なフレームワーク領域は当技術分野においてよく知られており、たとえば、M. Lefranc & G. Le:franc (2001) "The Immunoglobulin FactsBook", Academic Press(参照によって本明細書に援用される)に記載されている。
本発明の抗体は、検出できるように標識されていてもよく、あるいは少なくとも検出可能であってもよい。たとえば、放射性原子、色素分子、蛍光分子、またはその他の任意の方法で容易に検出することができる分子で本発明の抗体を標識してもよい。検出可能分子として好適なものとして、蛍光タンパク質、ルシフェラーゼ、酵素基質、放射性標識および結合部分が挙げられる。標識は、前記抗体または抗体断片に連結することによって行ってもよい。抗原結合分子は、検出可能な標識で直接標識してもよく、間接的に標識してもよい。いくつかの実施形態において、前記標識は、放射性ヌクレオチド、陽電子放出核種(たとえば陽電子放射断層撮影(PET)用の陽電子放出核種)、MRI造影剤および蛍光標識から選択してもよい。
本発明の抗体および抗原結合断片は、薬物部分、たとえば細胞傷害性小分子と結合されていてもよい。このような結合は、抗原分子を発現する細胞を標的として殺傷する場合に有用である。
また、本発明は、単離された重鎖可変領域ポリペプチドおよび単離された軽鎖可変領域ポリペプチドを提供する。
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗IL-11Rα抗体クローンのいずれか1つのHC-CDR1~3を含む、単離された重鎖可変領域ポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、単離された重鎖可変領域ポリペプチドであって、本明細書に記載の抗IL-11Rα抗体クローンのいずれか1つの重鎖可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む重鎖可変領域ポリペプチドを提供する。
いくつかの態様において、本明細書に記載の抗IL-11Rα抗体クローンのいずれか1つのLC-CDR1~3を含む、単離された軽鎖可変領域ポリペプチドを提供する。いくつかの態様において、単離された軽鎖可変領域ポリペプチドであって、本明細書に記載の抗IL-11Rα抗体クローンのいずれか1つの軽鎖可変領域のアミノ酸配列と少なくとも70%の配列同一性、より好ましくは少なくとも75%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または少なくとも100%の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む軽鎖可変領域ポリペプチドを提供する。
抗体および抗体断片の機能特性
本発明の抗IL-11Rα抗体およびその断片は、特定の機能特性を参照することによって特徴を分析してもよい。特に、本発明の抗IL-11Rα抗体または抗原結合断片は、以下の特性のいずれか1つ以上を有していてもよい。
a)IL-11Rα(たとえばヒトIL-11Rαおよび/またはマウスIL-11Rα)に対する特異的結合
b)たとえばELISAなどにより測定される、EC50=1000ng/ml未満の結合親和性でのIL-11Rα(たとえばヒトIL-11Rα)に対する結合
c)IL-11RαとIL-11の間の相互作用の抑制
d)IL-11Rαとgp130の間の相互作用の抑制
e)IL-11Rα:gp130受容体複合体とIL-11の間の相互作用の抑制
f)IL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用の抑制
g)IL-11/IL-11Rシグナル伝達の抑制
h)IL-11Rα:gp130受容体複合体に対するIL-11の結合を介したシグナル伝達の抑制
i)gp130に対するIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達(すなわち、IL-11のトランスシグナリング)の抑制
j)線維芽細胞の増殖の抑制
k)線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成の抑制
l)IL-11/IL-11Rシグナル伝達を介した病的プロセスの抑制
m)線維化の抑制
n)たとえば線維化促進因子により刺激を与えた後などの線維芽細胞における、コラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン、IL-6、IL-11、αSMA、TIMP1、MMP2のいずれか1つ以上の遺伝子発現またはタンパク質発現の抑制
o)線維芽細胞における細胞外マトリックスの産生の抑制
p)がん細胞の増殖および/または生存の抑制
q)腫瘍増殖の抑制
本明細書において「抑制」は、コントロール条件と比較して減少、低下または低減されていることを指す。たとえば、抗体または抗体断片によるプロセスの抑制は、抗体または抗体断片の非存在下、かつ/または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下におけるプロセスの範囲または程度の減少、低下または低減を指す。
本明細書において「抑制」は、中和または拮抗を指してもよい。すなわち、機能またはプロセス(たとえばIL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体を介した相互作用、シグナル伝達またはその他の活性)を抑制することができるIL-11Rα結合抗体または抗体断片は、関連する機能またはプロセスに対する「中和」抗体もしくは抗体断片または「アンタゴニスト」抗体もしくは抗体断片と呼んでもよい。たとえば、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができる抗体または抗体断片を、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を中和することができる抗体もしくは抗体断片と呼んでもよく、またはIL-11/IL-11Rのシグナル伝達のアンタゴニストと呼んでもよい。
当業者であれば、特定のアッセイにおいて適切なコントロール条件を特定することができる。たとえば、コントロール抗体または抗体断片は、アッセイにおいて評価される特性に関与する役割を持たないことが知られている標的タンパク質に対する抗体または抗体断片であってもよい。コントロール抗体または抗体断片は、分析される抗IL-11Rα抗体または抗体断片と同じアイソタイプのものであってもよく、たとえば同じ定常領域を有していてもよい。
標的分子に特異的に結合する抗体または抗体断片は、その他の非標的分子に対する結合よりも高い親和性および/または長い持続期間で標的に結合することが好ましい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-6受容体ファミリーの1つ以上のメンバーに対する結合よりも高い親和性でIL-11Rαに結合してもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-6Rα、白血病抑制因子受容体(LIFR)、オンコスタチンM受容体(OSMR)および毛様体神経栄養因子受容体α(CNTFRα)のいずれか1つ以上に対する結合よりも高い親和性でIL-11Rαに結合してもよい。
いくつかの実施形態において、たとえばELISA、SPR、バイオレイヤー干渉法(BLI)、マイクロスケール熱泳動(MST)またはラジオイムノアッセイ(RIA)で測定した場合、非標的に対する抗体の結合の程度は、標的に対する抗体の結合の程度の約10%未満である。あるいは、結合特異性は、結合親和性として評価してもよく、この場合、本発明の抗IL-11Rα抗体または抗体断片は、非標的分子に対するKDと比較して少なくとも0.1のオーダー(すなわち0.1×10n(nは桁数を表す整数))のKDでIL-11Rαに結合する。前記オーダーは、少なくとも0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.5、2.0のいずれであってもよい。
標的に対する抗体または抗原結合断片の結合親和性は、その解離定数(KD)で表されることが多い。結合親和性は、当技術分野で公知の方法により測定することができ、このような方法として、たとえば、ELISA、表面プラズモン共鳴(SPR;たとえばHearty et al., Methods Mol Biol (2012) 907:411-442;またはRich et al., Anal Biochem. 2008 Feb 1; 373(1):112-20を参照されたい)、バイオレイヤー干渉法(たとえばLad et al., (2015) J Biomol Screen 20(4): 498-507;またはConcepcion et al., Comb Chem High Throughput Screen. 2009 Sep; 12(8):791-800を参照されたい)、マイクロスケール熱泳動(MST)分析(たとえばJerabek-Willemsen et al., Assay Drug Dev Technol. 2011 Aug; 9(4): 342-353を参照されたい)、または抗体のFab形態および抗原分子を使用して実施される放射標識抗原結合アッセイ(RIA)などが挙げられる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、5μM以下のKD、好ましくは1μM以下のKD、500nM以下のKD、100nM以下のKD、75nM以下のKD、50nM以下のKD、40nM以下のKD、30nM以下のKD、20nM以下のKD、15nM以下のKD、12.5nM以下のKD、10nM以下のKD、9nM以下のKD、8nM以下のKD、7nM以下のKD、6nM以下のKD、5nM以下のKD、4nM以下のKD、3nM以下のKD、2nM以下のKD、1nM以下のKDまたは500pM以下のKDでIL-11Rαに結合する。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、(たとえばELISAにより測定される)EC50が1000ng/ml以下、好ましくはEC50が900ng/ml以下、800ng/ml以下、700ng/ml以下、600ng/ml以下、500ng/ml以下、400ng/ml以下、300ng/ml以下、200ng/ml以下、100ng/ml以下、90ng/ml以下、80ng/ml以下、70ng/ml以下、60ng/ml以下、50ng/ml以下、40ng/ml以下、30ng/ml以下、20ng/ml以下、15ng/ml以下、10ng/ml以下、7.5ng/ml以下、5ng/ml以下、2.5ng/ml以下または1ng/ml以下の結合親和性でIL-11Rαに結合する。
抗体または抗体断片のIL-11Rαに対する結合親和性は、ELISAアッセイによりインビトロで分析してもよい。好適なアッセイは当技術分野においてよく知られており、たとえばAntibody Engineering, vol. 1 (2nd Edn), Springer Protocols, Springer (2010), Part V, pp657-665の記載に従って当業者により実施することができる。たとえば、抗体または抗体断片のIL-11Rαに対する結合親和性は、本明細書の実験例に記載されている方法に従って分析してもよい。
抗体または抗体断片が2種のタンパク質間の相互作用を抑制する能力は、たとえば該抗体または抗体断片の存在下において、または該抗体または抗体断片を相互作用パートナーの一方または両方とインキュベートした後において、相互作用を分析することにより測定することができる。特定の抗体または抗体断片が2つの相互作用パートナー間の相互作用を抑制可能であるかどうかを決定することができる好適なアッセイとしては、競合ELISAアッセイが挙げられる。
特定の相互作用(たとえばIL-11RαとIL-11の間の相互作用、IL-11Rαとgp130の間の相互作用、IL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用、またはIL-11:IL-11Rαとgp130の間の相互作用)を抑制することができる抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)相互作用の程度と比較して、該抗体または抗体断片の存在下において、または該抗体または抗体断片を相互作用パートナーの一方または両方とインキュベートした後において相互作用パートナー間の相互作用の程度が低下/減少していることから特定される。好適な分析は、たとえば、組換え相互作用パートナーまたは相互作用パートナーを発現する細胞を使用してインビトロで実施することができる。相互作用パートナーを発現する細胞は、内因性に該相互作用パートナーを発現してもよく、細胞に導入された核酸から該相互作用パートナーを発現してもよい。このようなアッセイを行う目的で、相互作用パートナーの一方または両方および/または抗体もしくは抗体断片を、相互作用の検出および/または相互作用の程度の測定のための検出可能な物質で標識してもよく、またはこのような標識とともに使用してもよい。
また、抗体または抗体断片が2つの結合パートナー間の相互作用を抑制する能力は、このような相互作用の下流の機能の帰結(たとえば受容体のシグナル伝達)を分析することによって特定することができる。たとえば、IL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用またはIL-11:IL-11Rαとgp130の間の相互作用の下流の機能の帰結としては、線維芽細胞の増殖、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成、またはコラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン、IL-6、IL-11、αSMA、TIMP1、MMP2のいずれか1種以上の遺伝子もしくはタンパク質の発現を挙げることができる。
本発明において線維芽細胞は、どのような組織から得られたものであってもよく、肝臓、肺、腎臓、心臓、血管、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管(たとえば大腸または小腸)、脳および骨髄から得られた組織が挙げられる。特定の実施形態において、抗体または抗体断片を分析するための線維芽細胞は、心臓線維芽細胞(たとえば心房線維芽細胞)、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞、腎線維芽細胞、肝線維芽細胞のいずれであってもよい。線維芽細胞は、COL1A、ACTA2、プロリル-4-ヒドロキシラーゼ、MAS516およびFSP1のいずれか1種以上の遺伝子もしくはタンパク質の発現を特徴としてもよい。
遺伝子発現は、当業者に公知の様々な手段によって測定することができ、たとえば定量リアルタイムPCR(qRT-PCR)またはリポーターを使用した方法よりmRNAレベルを測定することによって測定することができる。同様に、タンパク質の発現は、当技術分野で公知の様々な方法によって測定することができ、たとえば抗体を使用した方法、たとえばウエスタンブロット、免疫組織化学的分析、免疫細胞化学的分析、フローサイトメトリー、ELISA、ELISPOTまたはリポーターを使用した方法によって測定することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、1種以上の線維化マーカータンパク質の発現、たとえばコラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン、IL-6、IL-11、αSMA、TIMP1、MMP2のいずれか1種以上のタンパク質の発現を抑制してもよい。
抗体または抗体断片がIL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用を抑制する能力は、たとえば、TGFβ1で線維芽細胞を刺激し、該抗体または抗体断片の存在下において該細胞をインキュベートし、所定の時間が経過した後にαSMA陽性の表現型を有する細胞の割合を分析することによって分析することができる。このような例において、IL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用の抑制は、前記抗体または抗体断片の非存在下において(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下において)または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下において細胞をTGFβ1で処理した陽性コントロール条件と比較して、αSMA陽性の表現型を有する細胞の割合が低下していることから特定することができる。
このようなアッセイは、抗体または抗体断片の、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達に対する抑制能について分析する場合にも適している。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11RαとIL-11の間の相互作用の程度の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11RαとIL-11の間の相互作用を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11RαとIL-11の間の相互作用の程度の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11RαとIL-11の間の相互作用を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11Rαとgp130の間の相互作用の程度の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11Rαとgp130の間の相互作用を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11Rαとgp130の間の相互作用の程度の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11Rαとgp130の間の相互作用を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用の程度の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用の程度の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11Rα:gp130とIL-11の間の相互作用を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用の程度の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下におけるIL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用の程度の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用を抑制することができる。
IL-11/IL-11Rのシグナル伝達の抑制は、たとえばCurtis et al. Blood, 1997, 90(11)およびKarpovich et al. Mol. Hum. Reprod. 2003 9(2): 75-80に記載されているような、3H-チミジン取り込みアッセイ、および/またはBa/F3細胞増殖アッセイを使用して分析することができる。Ba/F3細胞は、IL-11Rαとgp130を共発現する。
本明細書において、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達および/またはIL-11/IL-11Rシグナル伝達媒介性プロセスは、IL-11またはIL-11Rαの断片を介したシグナル伝達、およびIL-11、IL-11Rαまたはその断片を含むポリペプチド複合体を介したシグナル伝達を含む。IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、ヒトIL-11もしくはIL-11Rαおよび/またはマウスIL-11もしくはIL-11Rαを介したシグナル伝達であってもよい。IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、IL-11またはIL-11含有複合体が結合する受容体にIL-11またはIL-11含有複合体が結合することによって発生するものであってもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体および抗体断片は、IL-11、IL-11Rα、IL-11含有複合体またはIL-11Rα含有複合体の生物学的活性を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11またはgp130への結合に重要な領域においてIL-11Rαに結合し、その結果、IL-11またはgp130への結合および/またはIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を妨害する。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11Rαおよび/またはgp130を含む受容体(たとえばIL-11Rα:gp130)を介したシグナル伝達により活性化される1つ以上のシグナル伝達経路に対するアンタゴニストである。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11Rαおよび/またはgp130を含む1つ以上の免疫受容体複合体(たとえばIL-11Rα:gp130)を介したシグナル伝達を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルの100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)IL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルの1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、IL-11Rα:gp130受容体へのIL-11の結合を介したシグナル伝達であってもよい。このようなシグナル伝達は、たとえばIL-11Rαとgp130を発現する細胞をIL-11で処理するか、またはIL-11Rαとgp130を発現する細胞においてIL-11の産生を刺激することにより分析することができる。
抗体または抗体断片によるIL-11/IL-11Rシグナル伝達の抑制のIC50は、たとえば、IL-11Rαおよびgp130を発現するBa/F3細胞を、ヒトIL-11およびIL-11Rα結合性薬剤の存在下で培養し、DNAへの3H-チミジンの取り込みを測定することによって求めてもよい。
いくつかの実施形態において、このようなアッセイにおける本発明の抗体または抗体断片のIC50値は、10μg/ml以下であってもよく、好ましくは、5μg/ml以下、4μg/ml以下、3.5μg/ml以下、3μg/ml以下、2μg/ml以下、1μg/ml以下、0.9μg/ml以下、0.8μg/ml以下、0.7μg/ml以下、0.6μg/ml以下または0.5μg/ml以下である。
いくつかの実施形態において、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達であってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11:IL-11Rα複合体は可溶性であってもよく、たとえばIL-11Rαの細胞外ドメインとIL-11の複合体であってもよく、可溶性IL-11Rαアイソフォーム/断片とIL-11の複合体であってもよい。いくつかの実施形態において、可溶性IL-11Rαは、IL-11Rαの可溶性(分泌型)アイソフォームであるか、または細胞膜結合型IL-11Rαの細胞外ドメインがタンパク質分解されることによって遊離した産物である。
いくつかの実施形態において、IL-11:IL-11Rα複合体は、細胞膜結合型の複合体、たとえば細胞膜結合型IL-11RαとIL-11からなる細胞膜結合型複合体であってもよい。gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達は、gp130を発現する細胞をIL-11:IL-11Rα複合体で処理することによって、たとえばペプチドリンカーによりIL-11Rαの細胞外ドメインに連結されたIL-11を含む組換え融合タンパク質(たとえば本明細書に記載のhyper IL-11)で処理することによって分析することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、gp130へのIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達を抑制することができ、IL-11Rα:gp130受容体へのIL-11の結合を介したシグナル伝達を抑制することもできる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、線維芽細胞の増殖を抑制することができる。線維芽細胞の増殖は、特定の時間にわたって細胞***を分析することによって測定することができる。線維芽細胞の特定の集団における細胞***は、たとえばFulcher and Wong, Immunol Cell Biol (1999) 77(6): 559-564(参照によってその全体が本明細書に援用される)の記載に従って、たとえば、3H-チミジン取り込みのインビトロ分析またはCFSE希釈アッセイにより分析することができる。増殖している細胞(たとえば増殖している線維芽細胞)は、たとえばBuck et al., Biotechniques. 2008 Jun; 44(7):927-9およびSali and Mitchison, PNAS USA 2008 Feb 19; 105(7): 2415-2420(いずれもその全体が参照によって本明細書に援用される)の記載に従って、適切なアッセイによる5-エチニル-2’-デオキシウリジン(EdU)の取り込みを分析することによって特定してもよい。
本開示において線維芽細胞は、どのような組織から得られたものであってもよく、肝臓、肺、腎臓、心臓、血管、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管(たとえば大腸または小腸)、脳および骨髄から得られた組織が挙げられる。特定の実施形態において、抗体または抗体断片を分析するための線維芽細胞は、心臓線維芽細胞(たとえば心房線維芽細胞)、皮膚線維芽細胞、肺線維芽細胞、腎線維芽細胞、肝線維芽細胞のいずれであってもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維芽細胞の増殖量の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで線維芽細胞の増殖を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維芽細胞の増殖量の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで線維芽細胞の増殖を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、たとえば線維化促進因子(たとえばTGFβ1)で刺激した後などの、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を介した病的プロセスを抑制することができる。IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を介した病的プロセスは線維化を含み、インビトロまたはインビボにおいて評価することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、線維化を抑制することができる。線維化は、特定の1つの組織またはいくつかの組織において発生する可能性があり、たとえば肝臓、肺、腎臓、心臓、血管、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管(たとえば大腸または小腸)、脳または骨髄において発生しうる。線維化は、当業者に公知の手段によって測定してもよく、たとえば、特定の1つの組織または複数の組織において1種以上の筋線維芽細胞マーカーの遺伝子もしくはタンパク質の発現および/または1種以上の線維化マーカーの遺伝子もしくはタンパク質の発現を分析することによって測定してもよい。
筋線維芽細胞マーカーとしては、αSMAの増加、ビメンチンの増加、palladinの増加、コフィリンの増加およびデスミンの増加のうちの1つ以上が挙げられる。また、線維化マーカーとしては、コラーゲン量の増加、フィブロネクチン量の増加、ペリオスチン量の増加、IL-6量の増加、IL-11量の増加、αSMA量の増加、TIMP1量の増加、MMP2量の増加、細胞外マトリックス成分の増加、筋線維芽細胞の数/割合の増加および臓器重量の増加が挙げられる。
線維化の抑制は、インビトロまたはインビボにおいて測定することができる。たとえば、抗体または抗体断片が特定の組織において線維化を抑制できるかどうかは、該組織に由来する線維芽細胞を線維化促進刺激で処理し、次いで線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成(または、たとえばその他の何らかの線維化マーカー)が前記抗体によって低減できるかどうかを分析することによって、インビトロで分析することができる。抗体または抗体断片が線維化を抑制できるかどうかは、たとえば、対象(たとえば線維化促進刺激に曝露された対象)に該抗体または抗体断片を投与し、1種以上の線維化マーカーについて組織を分析することによって、インビボで分析することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維化の程度の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで線維化を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維化の程度の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで線維化を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、たとえば線維芽細胞を線維化促進因子に曝露した後などの線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成を抑制することができる。線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成は、筋線維芽細胞マーカーを分析することによって調べることができる。本開示による線維化促進因子は、たとえばTGFβ1、IL-11、IL-13、PDGF、ET-1、オンコスタチンM(OSM)またはANG2(AngII)であってもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、たとえば線維化促進因子で刺激した後などの線維芽細胞または線維芽細胞由来細胞(たとえば筋線維芽細胞)において、コラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン、IL-6、IL-11、αSMA、TIMP1、MMP2のいずれか1種以上の遺伝子発現またはタンパク質発現を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、たとえば線維化促進因子で刺激した後などの線維芽細胞または線維芽細胞由来細胞(たとえば筋線維芽細胞)において、1種以上の細胞外マトリックス成分の遺伝子発現またはタンパク質発現を抑制することができる。
本明細書における実験例では、TGFβ1で線維芽細胞を刺激した後、Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用してαSMAタンパク質の発現量を測定することによって、線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成を分析する。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成数の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成数の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、たとえば線維化促進因子(たとえばTGFβ1)で刺激した後などの線維芽細胞において、コラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン、IL-6、IL-11、αSMA、TIMP1、MMP2のいずれか1種以上の遺伝子発現またはタンパク質発現を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)遺伝子発現量またはタンパク質発現量の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで遺伝子発現またはタンパク質発現を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)遺伝子発現量またはタンパク質発現量の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで遺伝子発現またはタンパク質発現を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、たとえば線維化促進因子(たとえばTGFβ1)で刺激した後などの線維芽細胞において、細胞外マトリックスの産生を抑制することができる。細胞外マトリックスの産生は、たとえば、細胞外マトリックス成分の量を測定することによって評価することができる。本発明において細胞外マトリックス成分としては、たとえば、プロテオグリカン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸、ヒアルロン酸、コラーゲン、ペリオスチン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、エラスチン、フィブロネクチン、ラミニン、ニドゲン、ゼラチンおよびアグリカンが挙げられる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生量の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生量の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、がん細胞の増殖および/または生存を抑制することができる。当業者であれば、たとえば、がん細胞に対する本発明の抗体または抗体断片の効果を分析することによって、該抗体または抗体断片ががん細胞の増殖および/または生存を抑制することができるかどうかを判断することができる。たとえば、細胞の増殖は、本明細書に記載されているように、たとえば3H-チミジン取り込みアッセイまたはCFSE希釈アッセイによって測定することができる。細胞の生存は、本発明の抗体または抗体断片で処理した細胞において細胞生存マーカーまたは細胞死マーカーを測定することによって分析することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)がん細胞の増殖量および/または生存量の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまでがん細胞の増殖および/または生存を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)がん細胞の増殖量および/または生存量の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまでがん細胞の増殖および/または生存を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)腫瘍増殖量の100%未満、たとえば99%以下、95%以下、90%以下、85%以下、75%以下、70%以下、65%以下、60%以下、55%以下、50%以下、45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、25%以下、20%以下、15%以下、10%以下、5%以下または1%以下にまで腫瘍増殖を抑制することができる。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、該抗体または抗体断片の非存在下における(または適切なコントロール抗体または抗体断片の存在下における)腫瘍増殖量の1倍未満、たとえば0.99倍以下、0.95倍以下、0.9倍以下、0.85倍以下、0.8倍以下、0.85倍以下、0.75倍以下、0.7倍以下、0.65倍以下、0.6倍以下、0.55倍以下、0.5倍以下、0.45倍以下、0.4倍以下、0.35倍以下、0.3倍以下、0.25倍以下、0.2倍以下、0.15倍以下または0.1倍以下にまで腫瘍増殖を抑制することができる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、先行技術による抗IL-11Rα抗体または抗体断片と比べて1つ以上の特性が向上している。いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することが可能な、先行技術による抗体と比較して1つ以上の特性が向上している。いくつかの実施形態において、先行技術による該抗体は、マウス抗ヒトIL-11モノクローナル抗体クローン#22626(カタログNo.MAB218(R&Dシステムズ、米国ミネソタ州))のCDRならびに/またはVL配列およびVH配列であってもよく、これらを含んでいてもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11Rαに結合することが可能な、先行技術による抗体または抗原結合断片と比較して、以下の特性のいずれか1つ以上を示す。
(i)IL-6Rα、LIFR、OSMRおよびCNTFRαのいずれか1つ以上と比べて、より高い特異性でIL-11Rαに結合する(すなわち、IL-11Rα以外のIL-6サイトカイン受容体ファミリータンパク質に対して交差反応性が低くなっている)。
(ii)より高い親和性でIL-11Rα(たとえばヒトIL-11Rαおよび/またはマウスIL-11Rα)に結合する(たとえばELISAによる測定において低いEC50を有する)。
(iii)IL-11RαとIL-11の間の相互作用をより強力に抑制する。
(iv)IL-11Rαとgp130の間の相互作用をより強力に抑制する。
(v)IL-11Rα:gp130受容体複合体とIL-11の間の相互作用をより強力に抑制する。
(vi)IL-11:IL-11Rα複合体とgp130の間の相互作用をより強力に抑制する。
(vii)IL-11/IL-11Rのシグナル伝達をより強力に抑制する。
(viii)IL-11Rα:gp130受容体複合体に対するIL-11の結合を介したシグナル伝達をより強力に抑制する。
(ix)gp130に対するIL-11:IL-11Rα複合体の結合を介したシグナル伝達(すなわち、IL-11のトランスシグナリング)をより強力に抑制する。
(x)線維芽細胞の増殖をより強力に抑制する。
(xi)線維芽細胞からの筋線維芽細胞の形成をより強力に抑制する。
(xii)IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を介した病的プロセスをより強力に抑制する。
(xiii)線維化をより強力に抑制する。
(xiv)たとえば線維化促進因子により刺激を与えた後などの線維芽細胞においてコラーゲン、フィブロネクチン、ペリオスチン、IL-6、IL-11、αSMA、TIMP1、MMP2のいずれか1種以上の遺伝子発現またはタンパク質発現をより強力に抑制する。
(xv)線維芽細胞による細胞外マトリックスの産生をより強力に抑制する。
(xvi)がん細胞の増殖および/または生存をより強力に抑制する。
(xvii)腫瘍の増殖をより強力に抑制する。
いくつかの実施形態において、本明細書中の「より高い特異性」または「より高い親和性」または「より強力に抑制」とは、同等なアッセイにおいて、先行技術による抗体または抗原結合断片が示す特異性または親和性または抑制の程度の1倍を超える特異性、親和性または抑制であり、たとえば1.01倍以上、1.02倍以上、1.03倍以上、1.04倍以上、1.05倍以上、1.06倍以上、1.07倍以上、1.08倍以上、1.09倍以上、1.1倍以上、1.2倍以上、1.3倍以上、1.4倍以上、1.5倍以上、1.6倍以上、1.7倍以上、1.8倍以上、1.9倍以上、2倍以上、2.1倍以上、2.2倍以上、2.3倍以上、2.4倍以上、2.5倍以上、2.6倍以上、2.7倍以上、2.8倍以上、2.9倍以上、3倍以上、3.5倍以上、4倍以上、4.5倍以上、5倍以上、6倍以上、7倍以上、8倍以上、9倍以上、10倍以上、15倍以上、20倍以上、25倍以上、30倍以上、35倍以上、40倍以上、45倍以上、50倍以上、60倍以上、70倍以上、80倍以上、90倍以上、100倍以上、200倍以上、300倍以上、400倍以上、500倍以上、600倍以上、700倍以上、800倍以上、900倍以上または1000倍以上の特異性、親和性または抑制である。
治療用途
本発明の抗体および抗原結合断片ならびにこれらを含む組成物は、医療処置を行う方法、疾患/障害を予防する方法、または疾患/障害の症状を緩和する方法において使用するために提供してもよい。また、本発明の抗体または抗体断片は、治療を必要とする疾患/状態を有する対象、および/または疾患/障害を発症するリスクまたは疾患/障害に罹患するリスクのある対象に投与してもよい。
本発明による線維化の治療、予防または緩和は、IL-11および/またはIL-11Rαのアップレギュレーションに伴う線維化に対して行ってもよく、たとえば疾患/障害を発症した細胞もしくは組織、または疾患/障害を発症する恐れのある細胞または組織におけるIL-11のアップレギュレーションに伴う線維化に対して行ってもよく、または細胞外のIL-11および/もしくはIL-11Rαのアップレギュレーションに伴う線維化に対して行ってもよい。いくつかの実施形態において、対象におけるIL-11またはIL-11Rの発現は、局所的にアップレギュレートされていてもよく、全身性にアップレギュレートされていてもよい。
疾患/障害の治療または緩和は、該疾患/障害の進行を予防したり(たとえば病態の悪化を予防したり)、発症率を低下させたりするのに効果的であってもよい。いくつかの実施形態において、治療または緩和によって、疾患/障害が改善されてもよく、たとえば疾患/障害の症状が軽減されてもよく、疾患/障害の重症度/活動性に関するその他の相関物が低減されてもよい。
疾患/障害の予防とは、病態の悪化の予防または疾患/障害の発症の予防を指してもよく、たとえば疾患/障害が初期段階から進行して後期段階の慢性疾患/障害へと移行することを予防することを指してもよい。
本発明の抗体または抗体断片は、IL-11RαおよびIL-11Rα含有分子/複合体(たとえばIL-11:IL-11Rα複合体)に結合して、これらの生物学的活性を抑制できることが好ましい。したがって、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11および/またはIL-11Rαが病態に関与する疾患および障害の治療または予防において使用される。すなわち、本発明の抗体または抗体断片は、IL-11/IL-11Rシグナル伝達と関連した疾患および障害の治療または予防に使用される。
いくつかの実施形態において、前記疾患/障害は、たとえばコントロール(すなわち非病変)状態と比べて、IL-11、IL-11Rαおよび/またはgp130の遺伝子またはタンパク質の発現の増加を伴うものであってもよい。いくつかの実施形態において、前記疾患/障害は、コントロール状態と比べて、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルの上昇を伴うものであってもよい。いくつかの実施形態において、前記疾患/障害は、コントロール状態と比べて、ERK経路および/またはSTAT3経路を介したシグナル伝達のレベルの上昇を伴うものであってもよい。いくつかの実施形態において、IL-11、IL-11Rαおよび/もしくはgp130の発現/活性の増加ならびに/またはIL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルの上昇は、前記疾患/障害のエフェクター細胞(たとえば、がんの場合ではがん細胞)において観察されてもよい。いくつかの実施形態において、IL-11、IL-11Rαおよび/もしくはgp130の発現/活性の増加ならびに/またはIL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルの上昇は、エフェクター細胞以外の細胞において観察されてもよい。
ERKを介したシグナル伝達は、たとえば、Assay Guidance Manual: Phospho-ERK Assays, Kim E. Garbison, Beverly A. Heinz, Mary E. Lajiness, Jeffrey R. Weidner, and G. Sitta Sittampalam, Eli Lilly & Company, Sittampalam GS, Coussens NP, Nelson H, et al., editors Bethesda (MD): Eli Lilly & Company and the National Center for Advancing Translational Sciences; 2004に記載されたアッセイなどの、ERKのリン酸化を分析するアッセイを使用して測定することができる。STAT3を介したシグナル伝達は、たとえば、Phospho-STAT3 (Tyr705) Cellular Assay Kit(Cisbio Assays)などの、STAT3のリン酸化を分析するアッセイを使用して測定することができる。
いくつかの実施形態において、前記治療は、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達の低減が治療効果を発揮する疾患/障害に対する治療である。いくつかの実施形態において、前記治療は、過剰なERKシグナル伝達および/または過剰なSTAT3シグナル伝達と関連した疾患/障害に対する治療である。いくつかの実施形態において、前記治療は、線維芽細胞の過剰な増殖もしくは過剰な活性化と関連した疾患/障害に対する治療であるか、または過剰量の筋線維芽細胞と関連した疾患/障害に対する治療である。
いくつかの実施形態において、前記治療は、筋線維芽細胞またはαSMA陽性線維芽細胞の数または割合を低減することによって疾患/障害を予防または治療することを目的としてもよい。
いくつかの実施形態において、前記疾患/障害は、線維化、線維化状態、または線維化を特徴とする疾患/障害であってもよい。本明細書において「線維化」は、細胞外マトリックス成分(たとえばコラーゲン)の過剰沈着によって引き起こされた過剰な線維性結合組織の形成を指す。線維性結合組織は、コラーゲン含量が高い細胞外マトリックス(ECM)を含むことを特徴とする。コラーゲンは、鎖状コラーゲンまたは線維状コラーゲンとして産生されてもよく、不規則に並んでいてもよく、整列していてもよい。線維性結合組織のECMにはグリコサミノグリカンがさらに含まれていてもよい。
本明細書において「過剰な線維性結合組織」とは、特定の部位(たとえば、特定の組織もしくは臓器、または特定の組織もしくは臓器の一部)における結合組織の量が、線維化が見られない状態(たとえば疾患を有さない正常な状態)の同じ部位に存在する結合組織の量よりも多いことを指す。本明細書において「細胞外マトリックス成分の過剰沈着」とは、1種以上の細胞外マトリックス成分の沈着量が、線維化が見られない状態(たとえば疾患を有さない正常な状態)の沈着量よりも多いことを指す。
線維化の細胞機構および分子機構は、Wynn, J. Pathol. (2008) 214(2): 199-210およびWynn and Ramalingam, Nature Medicine (2012) 18:1028-1040(これらの文献は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる)で報告されている。線維化の要因となる主な細胞は筋線維芽細胞であり、この細胞は、コラーゲンに富んだ細胞外マトリックスを産生する。
組織損傷が発生すると、損傷を受けた細胞および白血球はこれに応答して、TGFβ、IL-13、PDGFなどの線維化促進因子を産生する。これらの線維化促進因子は、線維芽細胞を活性化させてαSMAを発現する筋線維芽細胞へと分化させ、筋線維芽細胞を損傷部位に動員する。筋線維芽細胞は大量の細胞外マトリックスを産生し、創傷の拘縮および閉鎖を補助する重要なメディエーターとして機能する。しかしながら、持続感染が起こった状態あるいは慢性炎症を発症した場合にも、過剰に活性化された筋線維芽細胞が動員されることがあり、これによって、細胞外マトリックス成分が過剰に産生され、この結果、線維性結合組織が過剰に形成されることがある。
いくつかの実施形態において、線維化は病的状態によって引き起こされたものであってもよく、たとえば、TGFβ1などの線維化促進因子が産生される状態、感染症または病態によって引き起こされたものであってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、物理的損傷/刺激、化学的損傷/刺激または環境的損傷/刺激によって引き起こされたものであってもよい。物理的損傷/刺激は、外科手術(たとえば医原的要因)によって引き起こされたものであってもよい。化学的損傷/刺激としては、薬物によって誘導された線維化、たとえば薬物の長期投与などによって誘導された線維化が挙げられ、このような薬物として、ブレオマイシン、シクロホスファミド、アミオダロン、プロカインアミド、ペニシラミン、金、ニトロフラントインが挙げられる(Daba et al., Saudi Med J 2004 Jun; 25(6): 700-6)。環境的損傷/刺激としては、石綿繊維またはシリカへの暴露が挙げられる。
線維化は様々な生体組織で起こりうる。たとえば、線維化は、肺、肝臓(たとえば肝硬変)、腎臓、心臓、血管、眼、皮膚、膵臓、腸管(たとえば大腸または小腸)、脳および骨髄で起こることがある。さらに、多臓器で同時に線維化が起こることがある。
本発明の実施形態において、線維化は、消化器系臓器(たとえば肝臓、小腸、大腸、膵臓など)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、呼吸器系臓器(たとえば肺)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、循環器系臓器(たとえば心臓または血管)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は皮膚の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、神経系臓器(たとえば脳)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、泌尿系臓器(たとえば腎臓)の線維化であってもよい。いくつかの実施形態において、線維化は、筋骨格系臓器(たとえば筋組織)の線維化であってもよい。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、線維化は、心臓線維症、心筋線維症、肝線維症または腎線維症である。いくつかの実施形態において、心臓線維症および心筋線維症は、心筋組織の機能不全もしくは心臓の電気的特性の異常、または心臓壁もしくは心臓弁の肥厚に伴うものである。いくつかの実施形態において、線維化は、心房線維症および/または心室線維症である。心房線維症または心室線維症を治療または予防することによって、心房細動、心室細動または心筋梗塞を発症するリスクまたはこれらの疾患の発症を低減することができる。
好ましい実施形態のいくつかにおいて、肝線維症は慢性肝疾患または肝硬変に伴うものである。好ましい実施形態のいくつかにおいて、腎線維症は慢性腎疾患に伴うものである。
本発明に係る線維化を特徴とする疾患/障害としては、肺線維症、嚢胞性線維症、特発性肺線維症、進行性塊状線維症、強皮症、閉塞性細気管支炎、ヘルマンスキー・パドラック症候群、石綿肺、珪肺症、慢性肺高血圧症、AIDS関連肺高血圧症、サルコイドーシス、間質性肺腫瘍、喘息などの呼吸器疾患;慢性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変(PBC)、住血吸虫性肝疾患、肝硬変;肥大型心筋症、拡張型心筋症(DCM)、心房線維症、心房細動、心室線維症、心室細動、心筋線維症、ブルガダ症候群、心筋炎、心内膜心筋線維症、心筋梗塞、血管線維症、高血圧性心疾患、不整脈源性右室心筋症(ARVC)、尿細管間質性・糸球体線維症、アテローム性動脈硬化症、拡張蛇行静脈、脳梗塞などの心血管疾患;グリオーシスやアルツハイマー病などの神経学的疾患;デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)やベッカー型筋ジストロフィー(BMD)などの筋ジストロフィー;クローン病、顕微鏡的大腸炎、原発性硬化性胆管炎(PSC)などの消化器疾患;強皮症、腎性全身性線維症、皮膚ケロイドなどの皮膚疾患;関節線維症;デュピュイトラン拘縮;縦隔線維症;後腹膜線維症;骨髄線維症;ペイロニー病;癒着性関節包炎;腎疾患(たとえば、腎線維症、腎炎症候群、アルポート症候群、HIV関連腎症、多嚢胞腎、ファブリー病、糖尿病性腎症、慢性糸球体腎炎、ループス腎炎);進行性全身性硬化症(PSS);慢性移植片対宿主病;グレーブス眼症、網膜前線維症(たとえば糖尿病性網膜症(DR))、緑内障、網膜下線維症(たとえば、黄斑変性関連線維症(たとえば滲出型加齢黄斑変性症(AMD)に関連した線維症))、黄斑浮腫、ドルーゼン形成、術後線維症(たとえば白内障手術後の後嚢線維症、または緑内障治療のための線維柱帯切除術後の濾過胞線維症)、結膜線維症、結膜下線維症などの、眼疾患/眼障害およびこれらに伴うプロセス;関節炎;前腫瘍性線維症および腫瘍性線維症;ならびに化学物質または外部からの刺激(たとえば、がん化学療法、農薬、放射線/がん放射線療法)によって誘導された線維化が挙げられるが、これらに限定されない。
上に挙げた疾患/病態の多くは相互に関連していることがわかる。たとえば、心筋梗塞を発症した後に心室線維症が起こることがあり、さらに心室線維症は、DCM、HCMおよび心筋炎とも関連している。
特定の実施形態において、前記疾患/障害は、肺線維症、心房細動、心室細動、肥大型心筋症(HCM)、拡張型心筋症(DCM)、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、肝硬変、慢性腎疾患、強皮症、全身性硬化症、ケロイド、嚢胞性線維症、クローン病、術後線維症および網膜線維症(たとえば滲出型加齢黄斑変性(AMD)に関連した線維症)のいずれか1種であってもよい。
線維化は、直接的または間接的に疾患/障害を誘導することがあり、かつ/または疾患/障害の発症に対する感受性を増加させることもある。たとえば、肝細胞がん(HCC)の80%超は、肝線維症または肝硬変から発症することから(Affo et al. 2016, Annu Rev Pathol.)、肝臓の前がん状態(PME)における肝線維症の重要な役割が示唆されている。
したがって、本発明の抗体または抗体断片は、線維化に関連した疾患/障害、および/または線維化が危険因子である疾患/障害を治療および予防するための方法において使用される。いくつかの実施形態において、線維化に関連した前記疾患/障害または線維化が危険因子である前記疾患/障害は、がん、たとえば肝臓がん(たとえば肝細胞がん)である。
また、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、その他の疾患/障害の病態にも関与しており、したがって、本発明の抗IL-11Rα抗体および抗体断片は、これらの疾患/障害の症状の治療、予防および/または緩和を行う方法においても使用される。
IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、様々ながんの発生および進行に関与していることが示唆されている。過去の研究では、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達が、STAT3の過剰な活性化を介して、慢性胃炎の促進や、慢性胃炎に伴う胃がん、大腸がん、肝細胞がんおよび乳がんにおける腫瘍形成の促進に重要な役割を果たしていること(Ernst M, et al. J Clin Invest. (2008);118:1727-1738)、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達が、JAK-STAT細胞内シグナル伝達経路を惹起することによって腫瘍形成を促進している可能性があること、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達が、PI3K-AKT-mTORC1経路を介したシグナル伝達によって転移を促進している可能性があること(Xu et al., Cancer Letters (2016) 373(2): 156-163)が示唆されている。IL-11は、STAT3を介して、生存、増殖、浸潤、血管新生および転移を促進しており、IL-11/GP130/JAK/STAT3シグナル伝達軸は、消化器腫瘍の進行に対して律速因子として機能している可能性があり、IL-11の発現上昇は、乳がん患者の予後不良と関連している(Johnstone et al., Cytokine & Growth Reviews (2015) 26(5): 489-498)。また、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、乳がん幹細胞の動態および腫瘍不均一性に影響を及ぼすことが示されている(Johnstone et al., Cytokine & Growth Reviews (2015) 26(5): 489-498)。近年、IL-11のシグナル伝達は、肺腺癌の化学療法抵抗性に関与することが示唆されており、がん関連線維芽細胞は、IL-11をアップレギュレートし、IL-11/IL-11R/STAT3抗アポトーシスシグナル伝達経路の活性化を介して肺がん細胞に化学療法抵抗性を付与することが見出された(Tao et al. 2016, Sci Rep. 6;6:38408)。IL-11のシグナル伝達は、前がん環境(PME)および腫瘍微小環境(TME)において、線維芽細胞から筋線維芽細胞への転換を促進し、線維芽細胞における細胞外マトリックスの産生を促進していると考えられている。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、がんを治療/予防する方法において使用するために提供される。いくつかの実施形態において、前記がんは、直接的または間接的に炎症および/または線維化を誘導するがんであってもよい。
がんは、望ましくない細胞増殖(もしくは望ましくない細胞増殖によって発症する疾患)、新生物または腫瘍であってもよく、あるいは望ましくない細胞増殖、新生物もしくは腫瘍のリスクの上昇または望ましくない細胞増殖、新生物もしくは腫瘍の素因であってもよい。がんは良性でも悪性でもよく、原発性でも二次性(転移性)でもよい。新生物または腫瘍は、細胞のどのような異常成長または異常増殖であってもよく、どのような組織でも発生しうる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、がんを治療/予防する方法において使用するために提供され、該がんとしては、たとえば、上皮細胞がん、乳がん、消化器がん(たとえば食道がん、胃がん、膵臓がん、肝臓がん、胆嚢がん、結腸直腸がん、肛門がん、消化管カルチノイド腫瘍)、および肺がん(たとえば非小細胞肺がん(NSCLC)または小細胞肺がん(SCLC))が挙げられる。いくつかの実施形態において、前記がんは、急性炎症および/または慢性炎症を危険因子とするがんである。
いくつかの実施形態において、前記がんは、IL-11、IL-11Rαおよび/またはgp130の遺伝子またはタンパク質の発現の増加を伴うものであってもよい。たとえば、前記がんの細胞は、同等な非がん性細胞と比較して、IL-11、IL-11Rαおよび/またはgp130の発現が増加している場合があるか、またはその他の細胞(たとえば非がん細胞)によるIL-11、IL-11Rおよび/またはgp130の発現が、がんの非存在下の(たとえば健常なコントロール対象の)同等な細胞における発現量と比較して増加している場合がある。いくつかの実施形態において、前記がんの細胞は、同等な非がん性細胞と比較してERK経路および/またはSTAT3経路を介したシグナル伝達のレベルが上昇していると判断される場合がある。
いくつかの実施形態において、前記がんは、IL-11、IL-11Rαおよび/またはgp130における変異に伴うものであってもよい。いくつかの実施形態において、このような変異によって、遺伝子もしくはタンパク質の発現量が、このような変異の非存在下で観察される発現量と比較して増加することがあり、またはIL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルが、このような変異の非存在下で観察されるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達のレベルと比較して上昇することがある。
また、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、炎症を特徴とする疾患/障害にも関与していることが示唆されている。IL-11を関節内注射すると、関節の炎症が誘導されることが示されており(Wong et al., Cytokine (2005) 29:72-76)、また、IL-11は、IL-13媒介性組織炎症部位において炎症を誘発することが示されている(Chen et al., J Immunol (2005) 174:2305-2313)。また、IL-11の発現は、アトピー性皮膚炎の慢性皮膚病変において顕著に増加していることが観察されており、気管支炎に関与していることが知られている(Toda et al., J Allergy Clin Immunol (2003) 111:875-881)。IL-11/IL-11Rのシグナル伝達は、炎症性腸疾患(IBD)および喘息に関与している(Putoczki and Ernst, J Leuko Biol (2010) 88(6)1109-1117)。さらに、IL-11は、多発性硬化症の危険因子として特定されており、clinically isolated syndrome(CIS)を呈する患者の脳脊髄液中のIL-11はコントロール対象よりも高く、再発寛解型多発性硬化症を有する患者では再燃中の血清中IL-11量が増加しており、さらに、IL-11は、CD4+T細胞からTH17表現型への分化を促進していると見られ、TH17細胞は、多発性硬化症の病因において重要な役割を果たす細胞である(Zhang et al., Oncotarget (2015) 6(32): 32297-32298)。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、炎症を特徴とする疾患/障害を治療または予防する方法において使用するために提供される。いくつかの実施形態において、炎症を特徴とする疾患または障害は、直接的または間接的にがんおよび/または線維化を誘導する疾患/障害であってもよい。炎症を特徴とする疾患としては、たとえば、アレルギー性の喘息および気管支炎、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎およびアレルギー性眼疾患などのアレルギー性炎症;ならびに多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、関節リウマチ、慢性活動性肝炎、1型糖尿病、セリアック病、グレーブス病、ぶどう膜炎、天疱瘡、乾癬、クローン病、潰瘍性大腸炎、炎症性腸疾患、貧血および自己免疫甲状腺炎などの自己免疫疾患が挙げられる。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体または抗体断片は、感染症に関連した疾患/障害、特に感染症が直接的または間接的に線維化、がんまたは炎症を誘導する疾患/障害を治療または予防する方法において使用するために提供される。感染症に関連した疾患は、関連性のある感染因子による感染症により発症または増悪する疾患であってもよく、関連性のある感染因子が危険因子である疾患であってもよい。
感染症は、どのような感染症や感染性疾患であってもよく、たとえば細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症、寄生虫感染症のいずれであってもよい。特定の実施形態において、前記疾患/障害は、ウイルス感染症に伴うものであってもよい。いくつかの実施形態において、慢性/持続性感染症、たとえば炎症、がんおよび/または線維化を伴う慢性/持続性感染症を治療することが特に望ましい場合がある。
前記感染症は、慢性感染症、持続性感染症、潜伏性感染症、遅発性感染症のいずれであってよく、細菌感染症、ウイルス感染症、真菌感染症または寄生虫感染症に起因するものであってもよい。したがって、治療は、細菌感染性、ウイルス感染性または真菌感染性を有する患者に対して治療を行ってもよい。細菌感染症としては、ヘリコバクター・ピロリによる感染症および結核菌による肺の感染症が挙げられる。ウイルス感染症としては、EBV感染症、HPV感染症、HIV感染症、B型肝炎またはC型肝炎が挙げられる。
前記治療は、IL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の生物学的活性を抑制することによる前記疾患/障害の改善、治療または予防を含んでいてもよい。このような方法は、本発明の抗体または抗体断片または組成物を投与して、IL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体に結合させ、該IL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の生物学的活性を抑制することを含んでいてもよい。本明細書において、「中和する」とは、IL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の生物学的活性を抑制することを指してもよい。
治療方法は、がん治療薬による処置(たとえば化学療法)、放射線療法または外科手術などの、がんを治療するための慣用的治療法と組み合わせて、生物学的アジュバント(たとえばインターロイキン、サイトカイン、カルメットとゲランの桿菌(BCG)、モノホスホリルリピドAなど)を共投与することを任意で含んでいてもよい。治療方法は、がん細胞の増殖を阻止または阻害する免疫系を活性化することによって作用を発揮するワクチンとして、本発明の組成物を投与することを含んでいてもよい。また、医療処置を行う方法は、自己細胞および/もしくは異種細胞または不死化細胞株を用いた方法を含む、インビボ免疫療法、エクスビボ免疫療法および養子免疫療法を含んでいてもよい。
前記治療は、IL-11/IL-11R媒介性シグナル伝達の過剰な活発化またはIL-11/IL-11R媒介性シグナル伝達の増加に伴う疾患/障害の予防を目的としたものであってもよい。したがって、前記抗体、抗原結合断片およびポリペプチドを使用して、医薬組成物または医薬品を製剤化してもよく、病態の発生に対して対象に予防的処置を行ってもよい。予防的処置は、前記病態の症状が発症する前に行ってもよく、かつ/または疾患または障害のリスクが大きいと考えられる対象に対して行ってもよい。
治療は、ワクチンとの併用療法を含んでいてもよく、本発明の抗体、抗原結合断片もしくは組成物とワクチンを同時に投与することによる治療、別々に投与することによる治療、もしくは連続して投与することによる治療、または本発明の抗体、抗原結合断片もしくは組成物とワクチンの併用投与を含んでいてもよい。
抗体、抗原結合断片またはポリペプチドの投与は、個体がベネフィットを得るのに十分な量である「治療有効量」で行うことが好ましい。実際の投与量、投与速度および投与後の時間推移は、処置を受けている疾患の特性および重症度に左右される。治療の処方(たとえば用量の決定など)は、一般医および他の分野の医師の責任で行われ、通常、治療の対象となる疾患、個々の患者の状態、送達部位、投与方法、および医師によく知られているその他の要因を考慮に入れて行われる。上述した技術およびプロトコルの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 20th Edition, 2000, pub. Lippincott, Williams & Wilkinsに記載されている。
薬学的に有用な組成物および医薬品の製剤化
本発明の抗体および抗原結合断片は、臨床用の医薬組成物または医薬品として製剤化してもよく、薬学的に許容される担体、希釈剤、賦形剤またはアジュバントを含んでいてもよい。
前記組成物は、局所投与経路用、非経口投与経路用、全身投与経路用、腔内投与経路用、静脈内投与経路用、動脈内投与経路用、筋肉内投与経路用、髄腔内投与経路用、眼内投与経路用、結膜内投与経路用、腫瘍内投与経路用、皮下投与経路用、経口投与経路用または経皮投与経路(注射または注入を含んでいてもよい)に製剤化してもよい。好適な製剤は、本発明の抗体または抗体断片を滅菌溶媒中または等張溶媒中に含んでいてもよい。医薬品および医薬組成物は、液体(ゲルを含む)の形態で製剤化してもよい。液体製剤は、ヒトまたは動物の生体の選択された領域への注射またはカテーテルを介した投与用に製剤化してもよい。
また、本発明によれば、薬学的に有用な組成物を製造する方法が提供され、該製造方法は、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片を単離する工程;および/または本明細書に記載の単離された抗体または抗原結合断片を、薬学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤または希釈剤と混合する工程から選択される1つ以上の工程を含んでいてもよい。
たとえば、本発明のさらなる態様は、医療処置を行う方法において使用するための医薬品または医薬組成物を製剤化または製造する方法であって、本明細書に記載の抗体または抗原結合断片を薬学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤または希釈剤と混合することによって医薬組成物または医薬品を製剤化することを含む方法に関する。
検出方法
本明細書に記載の抗体または抗原結合断片は、IL-11Rαに該抗体または抗原結合断片を結合させることを含む方法において使用してもよい。このような方法は、抗体または抗原結合断片とIL-11Rαとが結合した複合体を検出することを含んでいてもよい。したがって、一実施形態において、IL-11Rαを含む試料またはIL-11Rαを含むと疑われる試料を、本発明に記載の抗体または抗原結合断片と接触させること、および前記抗体または前記抗原結合断片とIL-11Rαの複合体の形成を検出することを含む方法が提供される。
サンドイッチアッセイ(たとえばELISA)などのイムノアッセイを含む好適な方法のフォーマットは当技術分野においてよく知られている。このような方法は、前記抗体/抗原結合断片もしくはIL-11Rα、またはこれらの両方を検出可能な標識(たとえば蛍光標識、ルミネセンス標識または放射性標識)で標識することを含んでいてもよい。IL-11Rαの発現は、たとえば生検により得られた組織試料などを免疫組織化学(IHC)分析することによって測定してもよい。いくつかの実施形態において、前記標識は、放射性ヌクレオチド、陽電子放出核種(たとえば陽電子放射断層撮影(PET)用の陽電子放出核種)、MRI造影剤および蛍光標識から選択してもよい。
IL-11を介したプロセスのインビトロまたはインビボにおける分析は、陽電子放射断層撮影(PET)、磁気共鳴イメージング(MRI)または、たとえば適切な標識種の検出による蛍光イメージングによる分析を含んでいてもよい。
このような方法は、IL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の検出および/または定量が必要な、疾患または状態の診断方法の基礎をなすものであってもよい。また、このような方法は、対象由来の試料に対してインビトロで実施してもよく、または対象由来の試料を処理した後にインビトロで実施してもよい。試料が採取された対象は、インビトロでの診断方法が実施されるまで待機しておく必要はなく、したがって、これらの方法はヒトまたは動物の生体上で実施する必要のない方法であってもよい。
前記方法は、対象由来の試料中に存在するIL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の量を測定することを含んでいてもよい。前記方法は、診断を確定するまでの過程の一部として、測定された量を基準値または参考値と比較することをさらに含んでいてもよい。本明細書に記載の方法を別の診断検査と併用してもよく、これによって、診断または予後の精度を高めたり、本明細書に記載の試験方法を使用して得られた結果を確認したりすることができる。
対象由来の試料中に存在するIL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の量は、抗IL-11Rα抗体または抗体断片、たとえば本発明の抗IL-11Rα抗体もしくは抗体断片または組成物による治療に対して対象が応答性を示すかどうかの指標であってもよい。IL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体が試料中に高レベルで存在することに基づいて、本明細書に記載の抗IL-11Rα抗体もしくは抗体断片または組成物による治療を行う対象を選択してもよい。したがって、本発明の抗体は、抗IL-11Rα療法による治療を行う対象を選択するために使用してもよい。
試料中におけるIL-11RαまたはIL-11Rα含有複合体の検出は、対象における感染性疾患、自己免疫疾患もしくはがん病態の診断、感染性疾患、自己免疫疾患もしくはがん病態に対する素因の診断、または感染性疾患、自己免疫疾患もしくはがん病態の予後の決定(予後判定)を目的として使用してもよい。このような診断または予後は、既存の(以前に診断された)感染性疾患/障害、炎症性疾患/障害もしくは自己免疫疾患/障害またはがん病態に関するものであってもよい。
試料は、どのような組織または体液から得られたものであってもよい。試料は、一定量の血液;フィブリン塊および血液細胞を除去することによって得られる血液の液体成分を含んでいてもよい、個体の血液から得られた一定量の血清;組織試料もしくは生検試料;胸膜液;脳脊髄液(CSF);または個体から単離された細胞を含んでいてもよく、これらに由来するものであってもよい。いくつかの実施形態において、前記試料は、前記疾患/障害に罹患した1つの組織または複数の組織(たとえば、前記疾患の症状が現れている1つの組織もしくは複数の組織、または前記疾患/障害の病因に関与する1つの組織もしくは複数の組織)から得られたものであってもよく、これらの組織に由来するものであってもよい。
本発明の方法は、インビトロで実施することが好ましい場合がある。「インビトロ」は、培養中の細胞を使用した実験を包含し、「インビボ」は、インタクトな多細胞生物を使用した実験および/または処置を包含する。
併用療法
本発明の抗体、抗原結合断片および組成物は、単独で投与してもよく、別の治療と組み合わせて投与してもよい。このような併用投与は、治療対象の前記疾患/障害に応じて同時投与により行ってもよく、連続投与により行ってもよい。本発明の抗体もしくは抗体断片または組成物が投与されるその他の治療は、前記疾患/障害の治療または予防を目的としたものであってもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体もしくは抗体断片または組成物が投与されるその他の治療は、たとえば感染症、炎症および/またはがんの治療または予防を目的としたものであってもよい。
「同時投与」は、前記抗体、抗原結合断片またはポリペプチドと治療剤とを一緒に投与することを指し、たとえば、両方の薬剤を含有する医薬組成物(複合製剤)として投与すること、または、たとえば同じ動脈、静脈またはその他の血管などを介して、任意で同一投与経路によって、一方の薬剤を投与した直後にもう一方の薬剤を投与することを指してもよい。
「連続投与」は、前記抗体、抗原結合断片もしくはポリペプチドおよび治療剤のいずれか1つを投与した後、所定の時間間隔を置いてもう一方の薬剤を別に投与することを指す。2種の薬剤を同一経路で投与することは必要とされないが、いくつかの実施形態においては、2種の薬剤を同一経路で投与することが必要とされる。前記時間間隔は、どのような時間間隔であってもよい。
いくつかの実施形態において、本発明の抗体、抗原結合断片または組成物を用いた治療は、感染症を治療または予防するための薬剤(たとえば抗生物質、抗ウイルス剤、抗真菌剤または抗寄生虫剤)を併用してもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体、抗原結合断片または組成物を用いた治療は、炎症を治療または予防するための薬剤(たとえば非ステロイド系抗炎症剤(NSAID))を併用してもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体、抗原結合断片または組成物を用いた治療は、放射線療法(すなわち、電離放射線、たとえばX線またはγ線による治療)および/またはがんを治療または予防するための薬剤(たとえば化学療法剤)を併用してもよい。いくつかの実施形態において、本発明の抗体、抗原結合断片または組成物は、免疫療法と組み合わせた治療の一部として投与してもよい。
治療は、2種以上の薬物の投与を含んでいてもよい。薬物は、治療対象の状態に応じて、単独で投与してもよく、または別の治療と組み合わせて、同時にまたは連続して投与してもよい。
投与経路
本発明の態様による抗体、抗原結合断片、医薬品および医薬組成物は、様々な投与経路で投与できるように製剤化してもよく、投与経路としては、非経口投与、静脈注射または静脈注入、動脈注射または動脈注入、眼内注射または眼内注入、結膜内注射または結膜内注入、筋肉内注射または筋肉内注入、皮下注射または皮下注入、皮内注射または皮内注入、腫瘍内注射または腫瘍内注入、および経口投与が挙げられるが、これらに限定されない。抗体、抗原結合断片、ポリペプチドおよびその他の治療剤は、液体形態または固体形態に製剤化してもよい。液体製剤は、ヒトまたは動物の生体の選択された領域への注射または注入による投与用に製剤化してもよい。
キット
本発明の態様のいくつかにおいて、複数の部品からなるキットを提供する。いくつかの実施形態において、該キットは、所定の量の本発明の抗体、断片または組成物を含む少なくとも1個の容器を有していてもよい。前記キットは、医薬品または医薬組成物の形態で前記抗体または抗体断片を提供してもよく、適用疾患または適用障害を治療するための、対象への投与に関する使用説明書を添付して提供してもよい。前記抗体、断片または組成物は、腫瘍または血液への注射または注入に適するように製剤化されていてもよい。
いくつかの実施形態において、前記キットは、所定の量の別の治療剤(たとえば抗感染症剤または化学療法剤)を含む少なくとも1個の容器をさらに含んでいてもよい。このような実施形態において、前記キットは、第2の医薬品または医薬組成物を含んでいてもよく、特定の疾患または状態に対して併用療法が実施できるように、これらの2種の医薬品または医薬組成物を同時にまたは別々に投与してもよい。前記治療剤も、腫瘍または血液への注射または注入に適するように製剤化されていてもよい。
対象
治療を受ける対象は、動物であってもよく、ヒトであってもよい。対象は哺乳動物であることが好ましく、ヒトであることがより好ましい。対象は非ヒト哺乳動物であってもよいが、ヒトであることがより好ましい。対象は雄性であってもよく、雌性であってもよい。対象は患者であってもよい。対象は、治療を必要とする疾患または状態を有すると診断されたものであってもよく、このような疾患または状態を有している疑いがあるものであってもよい。
いくつかの実施形態において、前記対象は、疾患または障害を発症したり、疾患または障害に罹患したりするリスクを有している対象であってもよい。
タンパク質の発現
細胞における本発明のタンパク質(たとえば前記抗体または抗体断片)の作製に適した分子生物学的技術は、当技術分野においてよく知られており、たとえばSambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, New York: Cold Spring Harbor Press, 1989に記載された技術が挙げられる。
前記ポリペプチドは、ヌクレオチド配列から発現させてもよい。該ヌクレオチド配列は、細胞中に存在するベクターに含まれていてもよく、細胞のゲノムに組み込まれていてもよい。
本明細書において「ベクター」は、外因性遺伝物質を細胞中に移入させる媒体として使用されるオリゴヌクレオチド分子(DNAまたはRNA)である。該ベクターは、細胞において遺伝物質を発現させるための発現ベクターであってもよい。このようなベクターは、発現される遺伝子配列をコードするヌクレオチド配列に作動可能に結合されたプロモーター配列を含んでいてもよい。また、ベクターは、終止コドンおよび発現エンハンサーを含んでいてもよい。当技術分野で公知の適切なベクター、プロモーター、エンハンサーおよび終止コドンを使用して、本発明のベクターからポリペプチドを発現させてもよい。好適なベクターとしては、プラスミド、バイナリーベクター、ウイルスベクターおよび人工染色体(たとえば酵母人工染色体)が挙げられる。
本明細書において「作動可能に連結する」とは、選択されたヌクレオチド配列の発現が調節ヌクレオチド配列(たとえばプロモーターおよび/またはエンハンサー)の影響下または制御下に置かれるように、該選択されたヌクレオチド配列と該調節配列とが共有結合で連結されている状態(これにより発現カセットが形成される)を包含してもよい。したがって、調節配列が、選択されたヌクレオチド配列の転写を誘導することができる場合、該調節配列は、該選択されたヌクレオチド配列に作動可能に連結されている。適切な場合、得られた転写物は次いで所望のタンパク質またはポリペプチドに翻訳されてもよい。
ポリペプチドの発現に適した細胞であれば、どのような細胞であっても本発明のポリペプチドの作製に使用してもよい。該細胞は、原核生物細胞であってもよく、真核生物細胞であってもよい。好適な原核生物細胞として、大腸菌が挙げられる。真核生物細胞としては、酵母細胞、植物細胞、昆虫細胞または哺乳動物細胞(たとえばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞)が挙げられる。原核生物細胞の中には真核生物細胞と同じように翻訳後修飾を行えないものもあるため、前記細胞が原核生物細胞ではない場合もある。さらに、真核生物細胞では非常に高い発現量を得ることが可能であり、適切なタグを用いて真核生物細胞からタンパク質をより容易に精製することができる。また、培地中へのタンパク質の分泌を促進する特定のプラスミドを使用してもよい。
目的のポリペプチドを作製する方法は、該ポリペプチドを発現するように改変された細胞の培養または発酵を含んでいてもよい。この培養または発酵は、栄養素、空気/酸素および/または成長因子を適切に供給したバイオリアクターにおいて行ってもよい。細胞から培養培地/発酵ブロスを分取し、培養培地/発酵ブロス中のタンパク質を抽出し、個々のタンパク質を分離して、分泌されたポリペプチドを単離することによって、分泌されたタンパク質を回収することができる。培養技術、発酵技術および分離技術は、当業者によく知られている。
バイオリアクターは、内部で細胞を培養してもよい1個以上の容器を含む。バイオリアクターへと反応物を連続的に流入させ、かつバイオリアクターから培養細胞を連続的に還流させることによって、バイオリアクターにおける培養を連続的に行ってもよい。別法として、バッチ方式で培養を行ってもよい。培養細胞に対して最適な条件を提供できるように、容器内におけるpH、酸素、流入および流出の流速ならびに攪拌などの環境条件をバイオリアクターにおいて監視し、制御する。
目的のポリペプチドを発現する細胞を培養した後、該ポリペプチドを単離することが好ましい。当技術分野において公知の、細胞培養からポリペプチドを分離する適切な方法であれば、どのような方法を使用してもよい。培養物から目的のポリペプチドを単離するためには、まず目的のポリペプチドを含有する培地から培養細胞を分離することが必要とされる場合がある。目的のポリペプチドが細胞から分泌される場合、分泌されたポリペプチドを含む培養培地から前記細胞を遠心分離により分離してもよい。目的のポリペプチドが細胞内に集積している場合、遠心分離を行う前に、たとえば超音波処理、急速凍結融解または浸透圧溶解を用いて細胞を破壊する必要がある。遠心分離によって、培養細胞または培養細胞残渣を含有するペレット、および培養培地と目的のポリペプチドを含有する上清が得られる。
次いで、その他のタンパク質や非タンパク質成分を含有している可能性のある上清または培養培地から目的のポリペプチドを単離することが望ましい場合がある。上清または培養培地からポリペプチド成分を分離する一般的な手法は、沈殿による方法である。様々な濃度の沈殿剤(硫酸アンモニウムなど)を使用して、異なる溶解度を有する様々なポリペプチド/タンパク質を沈殿させる。たとえば、低濃度の沈殿剤を使用すると、水溶性タンパク質が抽出される。したがって、濃度を徐々に上げて沈殿剤を添加することによって、溶解度が異なるタンパク質を区別してもよい。次いで、透析することによって、分離されたタンパク質から硫酸アンモニウムを除去してもよい。
種々のポリペプチド/タンパク質を区別する他の方法も当技術分野において知られており、たとえばイオン交換クロマトグラフィーやサイズ排除クロマトグラフィーが挙げられる。これら方法は、沈殿に代わる方法として使用してもよく、あるいは沈殿を行った後に実施してもよい。
目的のポリペプチドが培養物から単離された後、タンパク質の濃縮が必要とされる場合もある。目的のタンパク質を濃縮するための様々な方法が当技術分野において知られており、たとえば限外濾過や凍結乾燥が挙げられる。
配列同一性
アミノ酸配列同一性(%)またはヌクレオチド配列同一性(%)を決定するためのアラインメントは、当業者に知られている様々な方法で行うことができ、たとえば、ClustalW 1.82ソフトウェア、T-coffeeソフトウェアまたはMegalign(DNASTAR)ソフトウェアなどの一般公開されているコンピュータソフトウェアを使用して行うことができる。このようなソフトウェアを使用する場合、たとえばギャップペナルティや伸長ペナルティなどにおいてデフォルトパラメータを使用することが好ましい。ClustalW1.82のデフォルトパラメータは、タンパク質ギャップオープンペナルティ=10.0、タンパク質ギャップ伸長ペナルティ=0.2、タンパク質マトリックス=Gonnet、タンパク質/DNA ENDGAP=-1、タンパク質/DNA GAPDIST=4である。
本発明は、本明細書に記載の態様や好ましい特徴の組み合わせを包含し、そのような組み合わせが明らかに許容できない場合や明らかに回避すべき場合は除かれる。
本明細書において使用された節の見出しは、本発明を系統立てて述べることのみを目的として設けられており、本明細書に記載の主題を制限するものであると解釈すべきではない。
本発明の態様および実施形態を、添付の図面を参照しながら一例として以下に述べる。さらなる態様および実施形態は、当業者であれば容易に理解できるであろう。本明細書において引用された文献はいずれも、本明細書の一部を構成するものとして援用される。
後述の請求項を包含する本明細書を通して、特に記載がない限り、「含む(comprise)」という用語、ならびにこの変化形である「含む(comprises)」および「含んでいる(comprising)」という用語は、記載の構成要素もしくは工程または構成要素群もしくは工程群を包含すると理解されるが、記載されているもの以外の構成要素もしくは工程または構成要素群もしくは工程群を除外するものではない。
本明細書および添付の請求項において使用されているように、単数形の「a」、「an」および「the」は、明確な記載がない限り、複数のものを含むことに留意されたい。本明細書において数値範囲は、「おおよその(about)」特定の値、および/または「おおよその」特定の値から「おおよその」別の特定の値までの範囲として示される。このような範囲が記載されている場合、別の一実施形態は、概数ではない前記特定の値、および/または概数ではない前記特定の値から前記別の特定の値までの範囲を含む。同様に、「約(about)」という先行詞を使用することによって、特定の値がおおよその値として記載されている場合、概数ではない前記特定の値によって別の一実施形態を構成することができると理解される。
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の原理を示す実施形態および実験を説明する。
以下の実施例において、本発明者らは、様々な組織での線維化におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達の役割を特定し、抗ヒトIL-11Rα抗体の作製、ならびにこの抗体のインビトロおよびインビボにおける機能分析を報告する。
実施例1:線維化におけるIL-11/IL-11Rシグナル伝達の役割
1.1 IL-11は線維化においてアップレギュレートされる
線維芽細胞から活性化筋線維芽細胞への転換を担う分子過程を解明するため、National Heart Centre Singaporeにおいて心臓バイパス手術を受けた200人を超える患者から心房組織を得た。得られた細胞をインビトロで培養し、低継代細胞(継代数:4代未満)を得て、TGFβ1で24時間刺激するか、あるいは刺激を与えなかった。次いで、これらのうち、160人の患者に由来し、この一般的な線維化促進刺激因子TGFβ1で刺激した線維芽細胞あるいは刺激しなかった線維芽細胞を高速RNAシーケンシング(RNA-seq)解析で分析した。平均リード数は1試料あたり約70Mリードであった(ペアエンド:100bp;図1)。
心房線維芽細胞培養が純粋な培養物であったかどうかを確認するため、RNA-seqのデータセットを利用して、心房から得た細胞の内皮細胞マーカー遺伝子、心筋細胞マーカー遺伝子および線維芽細胞マーカー遺伝子の発現を分析した(Hsu et al., 2012 Circulation Cardiovasc Genetics 5, 327-335)。
図2A~図2Eに示した結果から、心房線維芽細胞培養が純粋培養であったことが確認できた。
元の組織(ヒト心房組織試料、n=8)および刺激していない初代線維芽細胞培養をRNA-seq解析することによって遺伝子発現を評価した。内皮細胞マーカーであるPECAM1(図2A)と、心筋細胞マーカーであるMYH6(図2B)およびTNNT2(図2C)は、線維芽細胞培養試料において全く検出されないか、非常に低い発現しか検出されなかった。線維芽細胞マーカーであるCOL1A2(図2D)およびACTA2(図2E)は、元の心房組織よりも発現が高かった。
次に、RNA-seqデータを分析して、TGFβ1刺激によって発現が上昇または低下した遺伝子を特定し、GTExプロジェクトから得た35人以上の組織に由来する大きなRNA-seqデータセットに特定した情報を組み込んだ(The GTEx Consortium, 2015 Science 348, 648-660)。これによって、線維芽細胞から筋線維芽細胞への転換に特異的な遺伝子発現シグネチャーの特定が可能となった。
結果を図3A~図3Eに示す。線維芽細胞において発現された10000個以上の遺伝子のうち、TGFβ1刺激に応答してIL-11遺伝子が最も強くアップレギュレートされ、160人の患者において平均で10倍を超えるIL-11のアップレギュレーションが確認された(図3B)。
TGFβ1で刺激した線維芽細胞の細胞培養上清をELISAで分析することによって、IL-11発現のアップレギュレーションが確認された(図3C)。健常者の他の組織におけるIL-11の発現量と比較したところ、IL-11発現のアップレギュレーションは活性化線維芽細胞に高い特異性を示すことが認められた(図3D)。また、qPCR分析を行ったところ、IL-11 RNAの発現のfold change値に差があることも確認された(図3E)。
次に、線維芽細胞をインビトロで培養し、様々な公知の線維化促進因子(ET-1、ANGII、PDGF、OSMおよびIL-13)およびヒト組換えIL-11で刺激した。IL-11による刺激に応答して産生されるIL-11のアップレギュレーションの分析に際して、ELISAは細胞から分泌された天然のIL-11のみを検出することができ、刺激に使用した組換えIL-11は検出できないことが確認された(図4B)。
結果を図4Aに示す。いずれの刺激因子も、線維芽細胞からのIL-11の分泌を有意に誘導することがわかった。IL-11は線維芽細胞においてオートクリンループを形成して作用し、この結果、IL-11タンパク質の発現は、72時間後には100倍にもアップレギュレートされることが示された(図4D)。
興味深いことに、IL-11のこのオートクリンループは、オートクリン的なIL-6の産生とよく似ている。IL-6は、IL-11と同じサイトカインファミリーに属し、いずれもgp130受容体を介してシグナルを伝達する(Garbers and Scheller, 2013 Biol Chem 394, 1145-1161)。このような機構で作用することから、IL-6は、肺がん細胞および乳がん細胞の生存持続および増殖に寄与していることが示唆されている(Grivennikov and Karin, 2008 Cancer Cell 13, 7-9)。
IL-11による刺激に応答したIL-11 RNA量の増加は検出されなかった(図4D)。したがって、RNAレベルでもタンパク質レベルでもIL-11の発現を増加させるTGFβ1とは異なり、IL-11は、転写後レベルにおいてのみIL-11の発現をアップレギュレートすると見られる。
1.2 IL-11は心組織の線維化において線維化促進作用を発揮する
オートクリン作用によるIL-11の産生が線維化促進性であるのか、それとも線維化抑制性であるのかを調査するため、組換えIL-11とともに線維芽細胞をインビトロで培養し、筋線維芽細胞(αSMA陽性細胞)画分と細胞外マトリックスの産生とを分析した。
Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用した高速かつ自動化された方法で、αSMA、コラーゲンおよびペリオスチンの発現を測定した。これと同時に、MMP2、TIMP1、IL-6などの線維化マーカータンパク質の分泌をELISAアッセイで分析し、シリウスレッドを使用した細胞培養上清の比色定量分析によってコラーゲンの量を確認した。
簡潔に説明すると、3人のドナーから得た心房線維芽細胞にTGFβ1(5ng/ml)またはIL-11(5ng/ml)で刺激を与えるか、あるいは刺激を与えずに、それぞれ2連のウェルで24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、細胞を染色し、α-SMA含量を分析して筋線維芽細胞画分の量を推定し、コラーゲン量およびペリオスチン量からECMの産生量を推定した。蛍光は1ウェルあたり7視野で測定した。また、1人のドナーあたり2連のウェルでインキュベートした上清をシリウスレッドで染色してコラーゲン含量を評価した。測定シグナルは、刺激しなかったコントロール群に対して正規化した。線維化マーカーであるIL-6、TIMP1およびMMP2の分泌はELISAで分析した。
結果を図5A~図5Fに示す。TGFβ1は線維芽細胞を活性化し、ECMの産生を増加させた(図5A)。予想外にも、科学論文で過去に報告されているような心臓組織におけるIL-11の抗線維化作用とは異なり、組換えIL-11は線維芽細胞培養において筋線維芽細胞画分の増加を誘導し、さらに、TGFβ1と同程度に細胞外マトリックスタンパク質であるコラーゲンとペリオスチンの産生を促進した(図5A)。また、IL-11サイトカインおよびTGFβ1サイトカインはいずれも、線維化促進マーカーであるIL-6、TIMP1およびMMP2の分泌を有意に増加させ(図5B~5E)、これらのサイトカインによる効果は同程度であった。
本発明者らは、心臓組織においてIL-11が線維化促進作用を発揮するという本発明の知見と、抗線維化作用を発揮するという過去の報告との間の不一致は、過去の研究ではげっ歯類に対してヒトIL-11が使用されていたことに関連している可能性があると仮定した(Obana et al., 2010, 2012; Stangou et al., 2011; Trepicchio and Dorner, 1998)。
この仮説を評価するため、ヒトIL-11およびマウスIL-11をそれぞれ段階希釈し、これを使用したヒト心房線維芽細胞の活性化を測定した(図5F)。マウス細胞に対してヒトIL-11を使用したところ、低濃度では線維芽細胞の活性化は観察されなかったことから、IL-11の機能に関する過去の報告における知見は、IL-11の非特異的反応を観察したことに一部起因することが示唆された。
1.3 IL-11/IL-11Rシグナル伝達は様々な組織の線維化において線維化促進作用を発揮する
IL-11/IL-11Rシグナル伝達の線維化促進作用が心房線維芽細胞に特異的なものであったのかどうかを試験するため、前記と同様にして、様々な組織(心臓、肺、皮膚、腎臓および肝臓)から得たヒト線維芽細胞をインビトロで培養し、ヒトIL-11で刺激し、線維芽細胞の活性化およびECMの産生を分析した。分析した各組織から得た線維芽細胞のいずれにおいても、刺激していない培養と比べて、線維芽細胞の活性化の亢進およびECMの産生の増加が観察された。
1.3.1 肝臓の線維化
IL-11のシグナル伝達が肝臓の線維化において重要な役割を果たしているのかどうかを試験するため、96ウェルプレートのウェル中でヒト初代肝線維芽細胞(Cell Biologics、カタログNo.:H-6019)を培養して低継代細胞を得て、刺激を与えずにインキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml、24時間)もしくはIL-11(5ng/ml、24時間)で刺激を与えてインキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml)とIL-11中和抗体(2μg/ml)とともにインキュベートするか、またはTGFβ1(5ng/ml)とアイソタイプコントロール抗体とともにインキュベートした。Operettaプラットフォームを使用して、線維芽細胞の活性化(αSMA陽性細胞)、細胞増殖(EdU陽性細胞)およびECMの産生(ペリオスチンおよびコラーゲン)を分析した。
初代ヒト肝線維芽細胞を使用したこれらの実験の結果を図29A~図29Dに示す。IL-11は肝線維芽細胞を活性化することが判明し、肝線維芽細胞においてTGFβ1が線維化促進作用を発揮するためには、IL-11のシグナル伝達が必要であることがわかった。線維芽細胞の活性化および増殖はいずれも抗IL-11中和抗体によって抑制された。
1.3.2 皮膚の線維化
IL-11のシグナル伝達が皮膚の線維化において重要な役割を果たしているのかどうかを試験するため、96ウェルプレートのウェル中で初代マウス皮膚線維芽細胞を培養して低継代細胞を得て、刺激を与えずに24時間インキュベートするか、TGFβ1(5ng/ml、24時間)で刺激を与えて24時間インキュベートするか、またはTGFβ1(5ng/ml)とIL-11中和抗体(2μg/ml)とともに24時間インキュベートした。その後、Operettaプラットフォームを使用して線維芽細胞の活性化(αSMA陽性細胞)を分析した。
結果を図30に示す。TGFβ1を介した皮膚線維芽細胞の活性化は、抗IL-11中和抗体によって抑制された。
1.3.3 様々な臓器における線維化
次に、IL-11がインビボにおいて組織全般の線維化を誘導しうるかどうかを試験するため、マウス組換えIL-11(100μg/kg、週3日、28日間)をマウスに注射した。
結果を図6に示す。AngII(血圧上昇および心肥大を引き起こすサイトカイン)の注射と比較して、IL-11は、体重を基準とした心臓の相対重量だけでなく、腎臓、肺および肝臓の相対重量を増加させた(図6B)。これらの組織中のコラーゲン含量をヒドロキシプロリン定量アッセイで評価したところ、コラーゲンの産生のアップレギュレーションが確認され、臓器の重量の増加は線維化が原因である可能性が高いことが示された(図6C)。実験に供したマウスの心臓、腎臓、肺および肝臓の各組織から単離したRNAをqPCRで分析したところ、線維化マーカー遺伝子であるACTA2(=αSMA)、Col1a1、Col3a1、Fn1、Mmp2およびTimp1の発現も検出された。
実施例2:IL-11/IL-11Rの拮抗作用の治療有効性
2.1 IL-11/IL-11Rを中和するアンタゴニストを使用した線維化反応の抑制
次に、TGFβ1が線維芽細胞に対して線維化促進作用を発揮した際に、IL-11分泌のオートクリンループが必要とされたのかどうかを調査した。
市販の中和抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo.MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)を使用してIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制した。この中和抗体の存在下または非存在下において線維芽細胞をTGFβ1で処理し、線維芽細胞の活性化、増殖細胞の割合、ECMの産生および線維化反応マーカーを測定した。
簡潔に説明すると、3人のドナーから得た心房線維芽細胞を、TGFβ1(5ng/ml)とともに24時間インキュベートするか、または抗IL-11中和抗体もしくはアイソタイプコントロール抗体の存在下においてTGFβ1とともに24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、αSMAの細胞染色により筋線維芽細胞画分を測定し、細胞によるEdUの取り込みの分析により増殖細胞の割合を測定し、ペリオスチンの測定によりECMの産生を測定した。Operettaプラットフォームを使用し、ドナー1人あたり2つのウェルを用いて14視野の蛍光を測定した。さらに、線維化マーカーであるIL-6、TIMP1およびMMP2の分泌をELISAで分析した。蛍光強度は、刺激しなかったコントロール群に対して正規化した。
結果を図7A~図7Fに示す。IL-11を抑制することによって、TGFβ1誘導性の線維化が緩和されることが判明し、TGFβ1の線維化促進作用にIL-11/IL-11Rのシグナル伝達が必須であることが示された。また、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することによって、TGFβ1の表現型がタンパク質レベルで「回復する」ことがわかった。
コラーゲンの産生も分析した。3人のドナーから得た心臓線維芽細胞を、TGFβ1(5ng/ml)のみ、またはTGFβ1と抗IL-11中和抗体の組み合わせとともに24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、Operettaアッセイを使用して細胞中のコラーゲンを染色し、前記と同様にして蛍光を定量した。細胞培養上清中のコラーゲンの分泌量をシリウスレッド染色で評価した。
結果を図8Aおよび図8Bに示す。図に示した結果から、中和抗体を使用してIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制したことによる抗線維化作用が確認された。
次に、心房線維芽細胞を使用し、前述のTGFβ1誘導性筋線維芽細胞転換アッセイを使用して、その他のいくつかのIL-11/IL-11Rアンタゴニストの線維化抑制能についてインビトロで分析した。
簡潔に説明すると、(i)抗IL-11中和抗体、(ii)IL-11RA-gp130融合タンパク質、(iii)抗IL-11Rα中和抗体、(iv)IL-11を標的とするsiRNAによる処理または(v)IL-11RAを標的とするsiRNAによる処理の存在下/非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)で24時間刺激するか、または刺激を与えずに、ヒト心房線維芽細胞をインビトロで培養した。前記と同様にしてαSMAの含量を評価することによって、活性化線維芽細胞(筋線維芽細胞)の割合を分析した。
結果を図9に示す。IL-11/IL-11Rシグナル伝達を標的とするこれらのアンタゴニストは、いずれもTGFβ1媒介性線維化促進反応を阻害できることがわかった。
実施例3:IL-11/IL-11Rのシグナル伝達による線維化促進作用のインビボでの確認
3.1 IL-11RA遺伝子ノックアウトマウスから得た細胞を使用したインビトロ研究
マウスをすべて同じケージに収容して飼育し、食餌および水を自由に摂取させた。IL-11Rαの機能性アレルを欠損したマウス(IL-11RA1 KOマウス)は、C57Bl/6を遺伝的背景としていた。マウスは9~11週齢であり、体重に有意差はなかった。
IL-11/IL-11Rのシグナル伝達の抑制による抗線維化作用をさらに確認するため、IL-11RA遺伝子ノックアウトマウスから初代線維芽細胞を単離し、IL-11RA+/+(すなわち野生型)マウス、IL-11RA+/-(すなわちヘテロノックアウト)マウスまたはIL-11RA-/-(すなわちホモノックアウト)マウスから採取した初代線維芽細胞とともに、TGFβ1、IL-11またはAngIIの存在下でインキュベートした。線維芽細胞の活性化と増殖、およびECMの産生を分析した。
IL-11RA+/+マウス、IL-11RA+/-マウスおよびIL-11RA-/-マウスから得た線維芽細胞を、TGFβ1、IL-11またはAngII(5ng/ml)の存在下で24時間インキュベートした。インキュベーション終了後、細胞を染色してαSMA含量から筋線維芽細胞画分の量を推定し、細胞中のEdUを染色して増殖細胞画分を特定し、細胞中のコラーゲンおよびペリオスチンを染色してECMの産生を測定した。蛍光はOperettaプラットフォームを使用して測定した。
結果を図10A~図10Dに示す。IL-11RA-/-マウスは線維化促進刺激に応答性がないことがわかった。これらの結果から、AngII誘導性線維化においてもIL-11/IL-11Rのシグナル伝達が必要であることが示唆された。
次に、他の線維化促進性サイトカインでも同様の結果が得られるかどうかをさらに調査した。簡潔に説明すると、様々な線維化促進因子(ANG2、ET-1またはPDGF)の存在下/非存在下、および抗IL-11中和抗体またはpan抗TGFβ抗体の存在下/非存在下において、線維芽細胞をインビトロで培養した。24時間後、前記と同様にOperettaシステムを使用して分析することによって細胞のコラーゲン産生を測定し、また、前記と同様にしてαSMAの発現を分析することによって筋線維芽細胞の形成を測定した。
結果を図11A~図11Bに示す。様々な線維化促進刺激の下流の線維化にIL-11/IL-11Rのシグナル伝達が必要であることが判明し、IL-11/IL-11Rのシグナル伝達が、様々な線維化促進因子によって誘導される線維化の中心的なメディエーターであることが特定された。
さらなる実験では、肺線維芽細胞の遊走を分析するためのインビトロスクラッチアッセイを使用して、肺線維化におけるIL-11のシグナル伝達の役割を調査した。線維芽細胞は、線維化促進刺激に応答して活性化され、生体中の線維化組織のニッチに遊走する。細胞遊走速度は、細胞間相互作用および細胞-マトリックス相互作用の尺度となり、また、インビボ創傷治癒モデルとしても使用できる(Liang et al., 2007; Nat Protoc. 2(2):329-33)。
野生型(WT)およびIL-11RA(-/-)ホモノックアウトマウスの肺組織から線維芽細胞を得て、均一な単一細胞層を形成するまでプラスチック表面で培養し、低継代細胞を得た。次に、細胞層にスクラッチを形成し、刺激の非存在下、またはTGFβ1もしくはIL-11による刺激の存在下において、スクラッチ周囲の細胞遊走を観察した。スクラッチを形成した直後およびその24時間後の2つの時間点で撮影した写真を使用して、遊走細胞で覆われた面積を測定し、WT由来線維芽細胞とKO由来線維芽細胞との間で遊走速度を比較した。細胞の遊走(24時間後に遊走細胞によって覆われたスクラッチの面積)を、刺激を与えなかったWT細胞の遊走速度に対して正規化した。
結果を図31に示す。WTマウスから得た肺線維芽細胞は、TGFβ1またはIL-11の存在下において遊走速度が速く、これらのサイトカインがいずれも、肺線維芽細胞において線維化促進作用を発揮することが示された。KOマウスから得たIL-11シグナル伝達欠損細胞は、WT細胞よりも遊走速度が遅かった。また、IL-11シグナル伝達欠損細胞は、TGFβ1の存在下でも遊走速度が遅かった。このスクラッチアッセイの結果から、IL-11シグナル伝達欠損肺線維芽細胞は、ベースライン、TGFβ1の存在下、IL-11の存在下のいずれにおいても、細胞遊走速度が遅いことがわかった。したがって、IL-11のシグナル伝達の抑制は、肺において抗線維化作用を発揮する。
3.2 心臓の線維化
線維症に対するIL-11抑制の治療有効性をインビボで調査した。AngIIで処置することによって線維化を誘導した心線維化マウスモデルを使用して、IL-11RA-/-マウスが心線維化から保護されるかどうかを調査した。
簡潔に説明すると、野生型(WT)IL-11RA(+/+)マウスおよびノックアウト(KO)IL-11RA(-/-)マウスにポンプを埋植し、AngII(2mg/kg/日)で28日間処置した。実験終了時に、ヒドロキシプロリンを用いた比色定量アッセイキットを使用して、マウス心房中のコラーゲン含量を評価し、線維化マーカーであるCol1A2、α-SMA(ACTA2)およびフィブロネクチン(Fn1)のRNA発現量をqPCRで分析した。
結果を図12A~図12Dに示す。IL-11RA-/-マウスはAngIIの線維化促進作用から保護されることがわかった。
3.3 腎臓の線維化
溶媒(0.3M NaHCO3)に溶解した葉酸(180mg/kg)を野生型(WT)IL-11RA(+/+)マウスおよびノックアウト(KO)IL-11RA(-/-)マウスに腹腔内注射することによって、腎線維化マウスモデルを樹立した。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。
注射の28日後に腎臓を摘出し、重量を測定した後、一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定してマッソン・トリクローム染色およびシリウス染色を行い、残りは急速凍結して、コラーゲンアッセイとRNAおよびタンパク質の測定に使用した。
急速凍結した腎臓をTrizol試薬(インビトロジェン)およびキアゲン社のTissueLyzer法で処理した後、RNeasyカラム(キアゲン)精製を行うことによってトータルRNAを抽出した。メーカーの説明書に従ってiScriptTM cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製した。StepOnePlusTM(アプライドバイオシステムズ)を使用したTaqMan(アプライドバイオシステムズ)法またはfast SYBR green(キアゲン)法によって、三連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を40サイクルで実施した。発現データはGAPDH mRNAの発現量に対して正規化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出した。さらに、急速凍結した腎臓を、50mg/mlの濃度で6M HCl中で熱することによって酸加水分解した(95℃、20時間)。メーカーの説明書に従って、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、加水分解産物中の総コラーゲン量を定量した。
分析結果を図15に示す。葉酸塩によって誘導される腎線維化は、IL-11媒介性シグナル伝達に依存していることが示された。また、IL-11RA+/+マウスにおいて、腎組織中のコラーゲン含量の有意な増加が観察されたことから、腎線維化を発症していることが示された。IL-11RA-/-マウスでは、コラーゲン含量の有意な増加は認められなかった。毒性傷害誘導後のIL-11シグナル伝達欠損マウスは、野生型マウスと比較して、腎臓中のコラーゲン沈着が有意に少なかった。
3.4 肺の線維化
IL-11RA-/-ノックアウトマウスを使用した別のインビボモデルにおいて、肺、皮膚および眼の線維化の重要なメディエーターとしてのIL-11の役割を確認する。実験の概要を図13A~図13Cに示す。
肺の線維化を分析するため、0日目に、IL-11RA-/-マウスおよびIL-11RA+/+マウスにブレオマイシンを気管内投与して肺の線維化反応(肺線維症)を誘導する。21日後までには肺の線維化を発症する。肺の線維化が発症した後、マウスを屠殺し、IL-11シグナル伝達を有するマウスとIL-11シグナル伝達を欠損したマウスの間で線維化マーカーの差異を分析する。IL-11RA-/-マウスは、IL-11RA+/+マウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、肺組織での線維化反応が低下していることがわかる。
3.5 皮膚の線維化
皮膚の線維化を分析するため、0日目に、IL-11RA-/-マウスおよびIL-11RA+/+マウスにブレオマイシンを皮下投与して皮膚の線維化反応を誘導する。28日後までには皮膚の線維化を発症する。皮膚の線維化が発症した後、マウスを屠殺し、IL-11シグナル伝達を有するマウスとIL-11シグナル伝達を欠損したマウスの間で線維化マーカーの差異を分析する。IL-11RA-/-マウスは、IL-11RA+/+マウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、皮膚組織での線維化反応が低下していることがわかる。
3.6 眼の線維化
眼の線維化を分析するため、0日目に、IL-11RA-/-マウスおよびIL-11RA+/+マウスに線維柱帯切除術(濾過手術)を行い、眼の創傷治癒反応を誘導した。緑内障濾過手術マウスモデルは、眼の創傷治癒反応の評価に有効なモデルであることが示されており(Khaw et al. 2001, Curr Opin Ophthalmol 12, 143-148; Seet et al. 2011, Mol. Med. 17, 557-567)、インビボにおける線維化調節因子の有効性の実証に成功を収めている(Mead et al. 2003, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 44, 3394-3401; Wong et al. 2003 Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 44, 1097-1103; Wong et al. 2005, Invest. Ophthalmol. Vis. Sci. 46, 2018-2022)。
簡潔に説明すると、結膜を切開して結膜下の強膜を露出し、30ゲージの針を使用して強膜を切開して前房に切り込みを入れた。形成した瘻孔から房水を結膜内および結膜下に排出した。次に、10-0号(メトリックサイズ:0.2)Ethilon強膜用ナイロン製黒色モノフィラメント縫合糸を使用して、切開した結膜を結紮し、縁部を縫合した。上記操作の最後にFucithalmic軟膏を浸透させた。この外科手術は、ケタミン/キシラジン混合物0.1mlの腹腔内注射による麻酔下で行い、さらに、1%キシロカインを眼1個あたり1滴局所投与した。感染を防ぐため、術後にFucithalmic軟膏を浸透させた。70%プロピルアルコールで滅菌した外科用鋏、外科用鉗子および滅菌針を使用して手術を行った。
縫合した結膜内に貯留した房水を、結膜濾過胞として観察した。術後7日目に、分析を行うためマウスを安楽死させた。定性的免疫組織学的分析を行うため、マウスから眼を摘出し、薄片した。ピクロシリウスレッド/偏光法(Szendroi et al. 1984, Acta Morphol Hung 32, 47-55)を用いて、コラーゲン線維の成熟を評価した。成熟コラーゲンは橙色~赤色で示され、新たに形成された未成熟なコラーゲンは黄色/緑色で示された。
実験の結果を図28Aおよび図28Bに示す。IL-11RA-/-マウスは、IL-11RA+/+マウスと比較して、眼組織における線維化反応が低下していることがわかった。
3.7 その他の組織
線維化に対するIL-11RAノックアウトの効果を、肝臓や腸管などの他の組織の線維化マウスモデルにおいても分析し、さらに、多臓器線維症(すなわち全身性線維症)に関連するモデルでも分析する。線維化反応を測定し、IL-11RA-/-マウスとIL-11RA+/+マウスの間で結果を比較する。IL-11RA-/-マウスは、IL-11RA+/+マウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、線維化反応が低下していることがわかる。
実施例4:IL-11媒介性線維化誘導の分子メカニズムの分析
IL-11の古典的作用機序は、STAT3を介した転写(Zhu et al., 2015 PLoS ONE 10, e0126296)とERKの活性化とによってRNAの発現が制御されることによると考えられている。
IL-11で刺激を与えるとSTAT3の活性化が観察される。しかしながら、TGFβ1とともに線維芽細胞をインキュベートすると、TGFβ1に応答してIL-11が分泌されるにもかかわらず、古典的SMAD経路とERK経路の活性化のみが観察され、STAT3の活性化は観察されない。TGFβ1のシグナル伝達とIL-11のシグナル伝達の唯一の共通点は、ERKの活性化である。
TGFβ1シグナル伝達とIL-6シグナル伝達の間のクロストークは過去に報告されており、IL-6によるSTAT3の活性化をTGFβ1が遮断することが報告されている(Walia et al., 2003 FASEB J. 17, 2130-2132)。IL-6とIL-11は密接に関連していることから、IL-11媒介性シグナル伝達でも、よく似たクロストークが観察されると考えられる。
本発明者らは、RNA-seq解析を利用して、IL-11に応答した線維化マーカータンパク質の発現上昇がRNA量の制御によるものであるのかどうかを調査した。RNA量の制御が、IL-11に応答した線維化マーカータンパク質の発現上昇に寄与するメカニズムであるのであれば、IL-11媒介性線維化促進プロセスを担うシグナル伝達経路はSTAT3であることが示唆される。刺激の非存在下、またはTGFβ1刺激、IL-11刺激もしくはTGFβ1とIL-11とによる刺激の存在下において線維芽細胞を24時間インキュベートした。
結果を図14Aに示す。TGFβ1は、RNAレベルでコラーゲン、ACTA2(αSMA)および他の線維化マーカーの発現を誘導した。しかしながら、IL-11は、これらの遺伝子の発現を調節せず、別の複数の遺伝子を調節した。
遺伝子オントロジー解析では、線維芽細胞で見られる線維化促進作用は、IL-11によってRNAの発現が制御されることにより誘導されることが示唆されている。TGFβ1とIL-11のそれぞれがRNAレベルで制御する遺伝子は、ほぼ完全に異なっている。
TGFβ1はIL-11の分泌を増加させるが、TGFβ1とIL-11の両方が存在する場合、IL-11の標的遺伝子は制御を受けない。このことから、TGFβ1はIL-11をアップレギュレートすると同時に、STAT3を介してIL-11誘導性の古典的RNA発現制御を遮断することが示唆され、この相互作用は、TGFβ1経路とIL-6経路の相互作用として知られているものとよく似ている(Walia et al., 2003 FASEB J. 17, 2130-2132)。
さらに、IL-11RA-/-マウスから得た線維芽細胞におけるRNA発現の変化をIL-11RA+/+マウスと比較することによって、TGFβ1によって誘導されたRNA発現量の差が、IL-11のシグナル伝達に依存しているかどうかを分析した。IL-11RAノックアウト細胞をTGFβ1で刺激した場合であっても、TGFβ1の調節によるRNA発現が観察され、IL-11のシグナル伝達が存在しなくても(IL-11RA-/-線維芽細胞においても)、αSMA RNA量やコラーゲン RNA量などがアップレギュレートされた。IL-11の線維化促進作用と、IL-11の抑制による抗線維化作用をインビトロで調査すると、線維化マーカーの発現低下はタンパク質レベルでのみ観察され、qPCRで測定される転写レベルでは見られなかった。
非古典的経路(たとえばERKシグナル伝達)の活性化は、TGFβ1が線維化促進作用を発揮する際に極めて重要な役割を果たしていることが知られている(Guo and Wang, 2008 Cell Res 19, 71-88)。非古典的経路は、公知のあらゆる線維化促進性サイトカインのシグナル伝達にとって重要であると見られ、IL-11は線維化に必須の転写後調節因子であると考えられる。
実施例5:抗ヒトIL-11Rα抗体
ヒトIL-11Rαタンパク質を標的とするマウスモノクローナル抗体を以下のようにして作製した。
ヒトIL-11Rαのアミノ酸配列をコードするcDNAを発現プラスミド(Aldevron GmbH、ドイツ、フライブルク)にクローニングした。
ハンドヘルドタイプの装置を使用したパーティクルガン法(「遺伝子銃法」)によって、DNAをコーティングした金粒子を皮内投与することによりマウスの免疫化を行った。複数回の免疫処置を行った後、マウスから血清試料を採取し、ヒトIL-11Rα発現プラスミドを一過性にトランスフェクトしたHEK細胞に対するフローサイトメトリーで試験した(一過性にトランスフェクトしたHEK細胞におけるヒトIL-11Rαの細胞表面発現は、該IL-11Rαタンパク質のN末端に付加したタグを認識する抗タグ抗体で確認した)。
マウスから抗体産生細胞を単離し、標準的な手順に従ってマウスミエローマ細胞(Ag8)と融合させた。
フローサイトメトリーを使用して、IL-11Rα発現HEK細胞に対する結合能をスクリーニングすることによって、IL-11Rαに特異的な抗体を産生するハイブリドーマを特定した。
RNA保護剤(RNAlater、カタログNo.AM7020、サーモフィッシャーサイエンティフィック)を使用して、陽性ハイブリドーマ細胞の細胞ペレットを調製し、さらに処理して、抗体の可変ドメインの配列分析を行った。
配列分析は、メーカーの説明書に従って、BigDye(登録商標) Terminator v3.1 Cycle Sequencing kit(ライフテクノロジーズ(登録商標))を使用して行った。データはすべて、3730xl DNAアナライザシステムおよびUnified Data Collectionソフトウェア(ライフテクノロジーズ)を使用して収集した。配列アセンブリングは、CodonCode Aligner(CodonCode Corporation)を使用して行った。ミックスベースコールは、最も存在比の高いベースコールを自動的にアサインすることによって割り当てた。存在比は、ベースコールの頻度および各ベースコールのクオリティ値から求めた。
合計で17種のマウス抗ヒトIL-11Rαモノクローナル抗体クローン、すなわち、BSO-1E3、BSO-2C1、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11、BSO-13B10、BSW-1D3、BSW-1F6、BSW-4G5、BSW-6H3、BSW-7E9、BSW-7G8、BSW-7H8およびBSW-8B7が得られた(図23)。
VBASE2ソフトウェア(http://www.vbase2.org/;Retter et al., Nucl. Acids Res. (2005) 33 (suppl 1): D671-D674)を使用して分析することによって、抗体クローンBSO-1E3、BSO-2E5、BSO-4G3、BSO-5E5、BSO-7G9、BSO-9A7、BSO-10D11およびBSO-13B10のVLドメイン配列およびVHドメイン配列、ならびにLC-CDR1~3およびHC-CDR1~3の配列を決定し、図16および図17に示した。
BSO-1E3では、2種のVH配列および2種のVL配列(BSO-1E3_1およびBSO-1E3_2)が得られた。
実施例6:抗ヒトIL-11Rα抗体の機能分析
6.1 ヒトIL-11/IL-11R媒介性シグナル伝達に対する抑制能
前記抗IL-11Rα抗体のヒトIL-11/IL-11R媒介性シグナル伝達に対する中和能について調べるため、前記抗IL-11Rα抗体の存在下または非存在下において、TGFβ1(5ng/ml)を加えた96ウェルプレートの各ウェル中でヒト心房線維芽細胞を24時間培養した。TGFβ1による線維化促進刺激は、IL-11の発現を促進することによって、休止期の線維芽細胞を活性化αSMA陽性線維芽細胞に転換することができる。また、IL-11を中和することによって、TGFβ1の誘導による活性化αSMA陽性線維芽細胞への転換を阻害できることが過去に報告されている。
TGFβ1で刺激した線維芽細胞培養に抗IL-11Rα抗体(2μg/ml)を加え、24時間培養後、αSMA陽性線維芽細胞の割合(%)を測定した。αSMA陽性線維芽細胞の割合(%)を、TGFβ1による刺激を与えなかった線維芽細胞培養において観察されたαSMA陽性線維芽細胞の割合(%)に対して正規化した。
αSMAの発現は、Operettaハイコンテンツイメージングシステムを使用した高速かつ自動化された方法で分析した。
結果を図24および図27に示す。抗IL-11Rα抗体の非存在下においてTGFβ1で刺激して24時間培養した細胞では、αSMA陽性の活性化線維芽細胞の数が1.58倍となった。
また、市販のマウス抗IL-11モノクローナル抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo.MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)をコントロールとして使用した。この抗体は、活性化線維芽細胞の割合(%)を、非刺激下(すなわちTGFβ1刺激の非存在下)で培養した場合の0.89倍に低減できることがわかった。
前記抗IL-11Rα抗体はいずれも、ヒト線維芽細胞におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制できることが判明し、そのうちのいくつか、すなわち、BSO-1E3、BSO-5E5およびBSO-13B10は、市販のマウス抗IL-11モノクローナル抗体よりも強力にIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができた。
6.2 マウスIL-11媒介性シグナル伝達に対する抑制能
さらに、ヒト心房線維芽細胞の代わりにマウス心房線維芽細胞を使用したこと以外は第6.1節に記載した操作と同様にして、前記抗IL-11Rα抗体のマウスIL-11媒介性シグナル伝達に対する抑制能を評価した。
結果を図25および図27に示す。抗IL-11Rα抗体の非存在下においてTGFβ1で刺激して24時間培養した細胞では、αSMA陽性の活性化線維芽細胞の数が2.24倍となった。
また、市販のマウス抗IL-11モノクローナル抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo.MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)をコントロールとして使用した。この抗体は、活性化線維芽細胞の割合(%)を、非刺激下(すなわちTGFβ1刺激の非存在下)で培養した場合の1.44倍に低減できることがわかった。
前記抗IL-11Rα抗体はいずれも、マウス線維芽細胞におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制できることが判明し、そのうちのいくつか、すなわち、BSO-1E3、BSO-2C1、BSO-5E5、BSO-9A7およびBSO-13B10は、市販のマウス抗IL-11モノクローナル抗体よりも強力にIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を抑制することができた。
6.3 IL-11Rαと複合体を形成したIL-11を介したIL-11トランスシグナリングに対する抑制能
IL-6と可溶性IL-6Rαの複合体は、IL-6受容体を欠くがgp130を発現する細胞を活性化することができる。これは、トランスシグナリングと呼ばれており、IL-6のシグナル伝達系にとって重要であると認識されている(Hunter and Jones, 2015 Nature Immunology 16, 448-457)。
近年、IL-11と可溶性IL-11RAの複合体によるトランスシグナリングも、IL-11の生物学的作用にとって重要であることが示唆されている(Lokau et al., Cell Reports (2016) 14, 1761-1773)。IL-11とIL-11Rαからなる組換え融合タンパク質(Pflanz et al., Febs Lett (1999) 450: 117-122において報告されている)を用いて、IL-11:IL-11Rα複合体により媒介されるトランスシグナリングに対する抑制能について抗IL-11抗体をスクリーニングした。
重要なことに、古典的IL-11媒介性シグナル伝達およびIL-11:IL-11Rα複合体媒介性IL-11トランスシグナリングの両方を抑制可能な抗体は、あらゆる既知のIL-11/IL-11Rシグナル伝達系を抑制することができる。
IL-11:IL-11Rα融合タンパク質(以下、hyper IL-11と呼ぶ)は、IL-11に結合したIL-11受容体α(IL-11Rα)の細胞外ドメインから構成される。
hyper IL-11は、組換えIL-11タンパク質よりもさらに強力なヒト線維芽細胞の活性化因子であることがわかった。簡潔に説明すると、2つの別々の実験において、刺激の非存在下(ベースライン)、または様々な量のhyper IL-11(0.008ng/ml、0.04ng/ml、0.2ng/ml、1ng/mlもしくは5ng/ml)もしくは5ng/mlの市販組換えヒトIL-11の存在下において、ヒト線維芽細胞を培養し、本明細書で述べるようにαSMA陽性細胞の割合(%)を測定することによって線維芽細胞の活性化を分析した。結果を図32Aおよび図32Bに示す。hyper IL-11は、用量依存的に線維芽細胞を活性化し、この結果からhyper IL-11がIL-11よりも強力な活性化因子であることがわかった。
IL-11:IL-11Rα融合タンパク質は以下のようにして調製した。
・IL-11:IL-11Rα融合タンパク質をコードするDNA(すなわち、配列番号98)をpTT5ベクターにクローニングし、無血清FreeStyleTM 293 Expression Medium(サーモフィッシャーサイエンティフィック)中で培養した293-6E細胞にトランスフェクトした。
・オービタルシェーカー(VWR Scientific)を使用し、三角フラスコ(コーニング社)中において5%CO2、37℃で細胞を維持培養した。
・細胞培養上清を6日目に回収し、精製に使用した。
・細胞培養上清を、アフィニティー精製カラムにローディングした。
・適切なバッファーで洗浄および溶出した後、溶出画分をプールし、最終処方バッファーにバッファーを交換した。
・精製したIL-11:IL-11Rα融合タンパク質を、SDS-PAGEおよびウエスタンブロットにより分析して、分子量および純度を確認した。
IL-11:IL-11Rα融合タンパク質をコードするDNA(配列番号98)を以下に示す。
GAATTCCCGCCGCCACCATGGGCTGGTCCTGCATCATCCTGTTTCTGGTGGCCACAGCCACCGGCGTGCACTCTCCACAGGCTTGGGGACCTCCAGGCGTGCAGTATGGCCAGCCTGGCAGATCCGTGAAGCTGTGCTGTCCTGGCGTGACAGCTGGCGACCCTGTGTCCTGGTTCAGAGATGGCGAGCCCAAGCTGCTGCAGGGCCCAGATTCTGGACTGGGCCACGAACTGGTGCTGGCCCAGGCCGATTCTACCGACGAGGGCACCTACATCTGCCAGACCCTGGATGGCGCCCTGGGCGGAACAGTGACACTGCAGCTGGGCTACCCTCCCGCCAGACCTGTGGTGTCTTGTCAGGCCGCCGACTACGAGAACTTCAGCTGCACATGGTCCCCCAGCCAGATCAGCGGCCTGCCCACCAGATACCTGACCAGCTACCGGAAGAAAACCGTGCTGGGCGCCGACAGCCAGAGAAGAAGCCCTTCTACAGGCCCCTGGCCCTGCCCTCAGGATCCTCTGGGAGCTGCCAGATGTGTGGTGCACGGCGCCGAGTTCTGGTCCCAGTACCGGATCAACGTGACCGAAGTGAACCCCCTGGGCGCCTCCACAAGACTGCTGGATGTGTCCCTGCAGAGCATCCTGCGGCCCGATCCTCCACAGGGCCTGAGAGTGGAAAGCGTGCCCGGCTACCCCAGAAGGCTGAGAGCCAGCTGGACATACCCCGCCTCTTGGCCTTGCCAGCCCCACTTCCTGCTGAAGTTTCGGCTGCAGTACCGGCCAGCCCAGCACCCTGCTTGGAGCACAGTGGAACCTGCCGGCCTGGAAGAAGTGATCACAGACGCCGTGGCCGGACTGCCTCATGCTGTGCGGGTGTCCGCCAGAGACTTTCTGGATGCCGGCACCTGGTCTACCTGGTCCCCAGAAGCCTGGGGCACACCTTCTACTGGCGGACCTGCTGGACAGTCTGGCGGAGGCGGAGGAAGTGGCGGAGGATCAGGGGGAGGATCTGTGCCTGGACCTCCTCCAGGACCCCCTAGAGTGTCCCCAGATCCTAGGGCCGAGCTGGACTCTACCGTGCTGCTGACCAGATCCCTGCTGGCCGACACAAGGCAGCTGGCTGCCCAGCTGAGAGACAAGTTCCCCGCCGACGGCGACCACAACCTGGATAGCCTGCCTACCCTGGCCATGTCTGCTGGCGCACTGGGGGCTCTGCAGCTGCCTGGGGTGCTGACTAGACTGAGAGCCGACCTGCTGAGCTACCTGCGGCATGTGCAGTGGCTGAGAAGGGCTGGCGGCAGCAGCCTGAAAACCCTGGAACCTGAGCTGGGCACACTGCAGGCCAGACTGGACAGACTGCTGCGCAGACTGCAGCTGCTGATGAGCAGACTGGCTCTGCCCCAGCCTCCTCCTGACCCTCCTGCTCCTCCACTGGCTCCTCCAAGCTCTGCTTGGGGCGGAATTAGAGCCGCCCACGCCATTCTGGGAGGCCTGCACCTGACACTGGATTGGGCAGTGCGGGGCCTGCTGCTGCTGAAAACCAGACTGCACCACCACCATCACCACTGATAAGCTT
IL-11:IL-11Rα融合タンパク質のアミノ酸配列(配列番号99)を以下に示す。
MGWSCIILFLVATATGVHSPQAWGPPGVQYGQPGRSVKLCCPGVTAGDPVSWFRDGEPKLLQGPDSGLGHELVLAQADSTDEGTYICQTLDGALGGTVTLQLGYPPARPVVSCQAADYENFSCTWSPSQISGLPTRYLTSYRKKTVLGADSQRRSPSTGPWPCPQDPLGAARCVVHGAEFWSQYRINVTEVNPLGASTRLLDVSLQSILRPDPPQGLRVESVPGYPRRLRASWTYPASWPCQPHFLLKFRLQYRPAQHPAWSTVEPAGLEEVITDAVAGLPHAVRVSARDFLDAGTWSTWSPEAWGTPSTGGPAGQSGGGGGSGGGSGGGSVPGPPPGPPRVSPDPRAELDSTVLLTRSLLADTRQLAAQLRDKFPADGDHNLDSLPTLAMSAGALGALQLPGVLTRLRADLLSYLRHVQWLRRAGGSSLKTLEPELGTLQARLDRLLRRLQLLMSRLALPQPPPDPPAPPLAPPSSAWGGIRAAHAILGGLHLTLDWAVRGLLLLKTRLHHHHHH
インビトロにて培養した線維芽細胞をhyper IL-11で刺激し、ELISAで測定したところ、IL-11タンパク質の発現がアップレギュレートされたことが示された(図33)。興味深いことに、hyper IL-11による刺激に応答したIL-11 RNA量の増加は検出されなかった。RNAレベルでもタンパク質レベルでもIL-11の発現を増加させるTGFβ1とは異なり、hyper IL-11は、転写後のタンパク質レベルでのみIL-11の発現をアップレギュレートすると見られる。
さらに、前記マウス抗IL-11Rα抗体のhyper IL-11媒介性シグナル伝達に対する抑制能について調べた。
抗IL-11Rα抗体(2μg/ml)またはアイソタイプコントロール抗体の存在下において、ヒト心房線維芽細胞をhyper IL-11(0.2ng/ml)とともに24時間インキュベートした。インキュベーション後、細胞培養上清中のMMP2を分析した。hyper IL-11で刺激すると、刺激を与えなかった培養と比べてMMP2の分泌が増加する。
実験の結果を図26および図27に示す。前記抗IL-11Rα抗体は、hyper IL-11媒介性シグナル伝達(すなわち、IL-11のトランスシグナリング)に対する中和能を有することが判明し、そのうちのいくつか、すなわち、BSO-1E3 (RA1)、BSO-2E5 (RA3)、BSO-5E5 (RA5)、BSO-9A7 (RA7)、BSO-13B10 (RA9)およびBSW-1F6 (RA11)は、市販のマウス抗IL-11モノクローナル抗体(マウスモノクローナルIgG2A;クローン#22626;カタログNo.MAB218;R&Dシステムズ、米国ミネソタ州)よりも強力にトランスシグナリングを抑制できることが判明した。
クローンBSO-1E3 (RA1)、BSO-5E5 (RA5)、BSO-9A7 (RA7)およびBSO-13B10 (RA9)は、ヒトIL-11/IL-11Rシグナル伝達およびマウスIL-11/IL-11Rシグナル伝達の両方に対して良好な抑制能を示し、かつIL-11のトランスシグナリングに対しても良好な抑制能を示すことから、さらなる開発に向けて有望な候補であることが特定された(図27のハイライト部分)。
6.4 IL-11Rαに対する結合能のスクリーニング
抗ヒトIL-11Rα抗体を産生する複数の前記マウスハイブリドーマをサブクローニングし、サブクローニングしたハイブリドーマから得た細胞培養上清を“mix-and-measure”iQueアッセイで分析し、(i)ヒトIL-11Rαに対する結合能、および(ii)IL-11Rα以外の抗原に対する交差反応を調べた。
簡潔に説明すると、(細胞表面にIL-11Rαを発現していない)標識コントロール細胞または(FLAGタグ付加ヒトIL-11Rαをコードするプラスミドを一過性にトランスフェクトした)細胞表面にヒトIL-11Rαを発現する非標識標的細胞を、細胞培養上清(マウス抗IL-11Rα抗体を含む)および検出用二次抗体(蛍光標識抗マウスIgG抗体)と混合した。
次に、前記HTFCスクリーニングシステム(iQue)を使用して2種の標識(すなわち前記細胞標識および二次抗体上の標識)を検出することによって細胞を分析した。非標識IL-11Rα発現細胞に結合した二次抗体を検出することによって、マウス抗IL-11Rα抗体のIL-11Rαに対する結合能が示された。また、標識コントロール細胞に結合した二次抗体を検出することによって、IL-11Rα以外の標的に対するマウス抗IL-11Rα抗体の交差反応性が示された。
ポジティブコントロール条件として、標識細胞および非標識細胞を、一次抗体としてのマウス抗FLAGタグ抗体とインキュベートした。
結果を図34Aおよび図34Bに示す。サブクローニングしたハイブリドーマの大部分は、ヒトIL-11Rαに対して結合能を示す抗体を発現し、これらの抗体は高い特異性でヒトIL-11Rαを認識した。また、サブクローニングしたBSO-1E3により産生された抗体は、ヒトIL-11Rαに結合しないことがわかった。
BSO-2C1抗体およびBSO-9A7抗体は、前記タグに対する抗タグ抗体を使用した陽性コントロールにおけるシグナルよりもIL-11Rαに対する結合において強いシグナルを示したことから、これらの抗体は非常に高い親和性でIL-11Rαに結合することが示された。
6.5 ヒトIL-11Rαに対する抗体親和性の分析
前記抗ヒトIL-11Rα抗体の、ヒトIL-11Rαに対する結合親和性をELISAアッセイで分析する。
組換えヒトIL-11RαはGenscript社から入手し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)標識抗ヒトIgG(Fc特異的)抗体はシグマ社から入手する。コーニング社製の96ウェルELISAプレートはシグマ社から入手する。Pierce社製の3,3’,5,5’-テトラメチルベンジジン(TMB)ELISA基質キットはライフテクノロジーズ社から入手する(0.4g/mL TMB溶液、0.02%過酸化水素のクエン酸バッファー溶液)。ウシ血清アルブミンおよび硫酸はシグマ社から入手する。洗浄バッファーとして、0.05%Tween-20を含むリン酸緩衝生理食塩水(PBS-T)を使用する。精製IgGコントロールは、ライフテクノロジーズ社から購入する。テカン社のInfinite 200 PRO NanoQuantを使用して吸光度を測定する。
Hornbeck et al., (2015) Curr Protoc Immunol 110, 2.1.1-23に記載されている「criss-cross」段階希釈分析法によって、コーティング用抗原、一次抗体および二次抗体の最適濃度を決定した。
過去の報告(Unverdorben et al., (2016) MAbs 8, 120-128.)に従って間接ELISAを実施することによって、50%有効濃度(EC50)における前記マウス抗IL-11Rα抗体の結合親和性を評価する。具体的には、1μg/mLの組換えヒトIL-11RαをELISAプレートに4℃で一晩かけてコーティングし、未結合部位を2%BSAのPBS溶液でブロッキングする。前記抗体を1%BSAのPBS溶液で希釈して滴定し、800ng/mL、200ng/mL、50ng/mL、12.5ng/mL、3.125ng/mL、0.78ng/mL、0.195ng/mLおよび0.049ng/mLの作用濃度として、二連で室温にて2時間インキュベートする。抗原と抗体の結合は、15.625ng/mLのHRP標識抗マウスIgG抗体で検出する。この検出抗体とともに2時間インキュベーションした後、TMB基質100μlを加えて15分間反応させ、2M H2SO4 100μlで発色反応を停止させる。補正のための参照波長を570nmとして、450nmで吸光度を測定する。データのカーブフィッティングは、GraphPad Prismソフトウェアを使用して実施し、抗体濃度を対数変換した後、非線形回帰分析を行って非対称型(5パラメータ)ロジスティック用量反応曲線を得て各EC50値を求める。
6.6 様々な組織におけるヒトIL-11/IL-11Rシグナル伝達に対する抑制能
ヒト心房線維芽細胞の代わりに、肝臓、肺、腎臓、眼、皮膚、膵臓、脾臓、腸管、脳および骨髄から得たヒト線維芽細胞を実験に使用すること以外は第6.1節および第6.3節と実質的に同様にして、様々な組織から得られた線維芽細胞におけるIL-11/IL-11Rのシグナル伝達およびトランスシグナリングに対する中和能について前記抗体を評価する。
抗IL-11Rα抗体の存在下で24時間培養後のαSMA陽性線維芽細胞の割合が、該抗体の非存在下での培養と比較して相対的に低下していることが観察された場合に、該抗IL-11Rα抗体が、様々な組織から得られた線維芽細胞においてIL-11/IL-11Rのシグナル伝達を中和できることが実証される。
実施例7:マウス抗ヒトIL-11抗体のキメラ形態およびヒト化形態
実施例5のマウス抗ヒトIL-11Rαモノクローナル抗体のマウス/ヒトキメラ形態およびヒト化形態を、標準的な方法に従って作製する。
7.1 マウス/ヒトキメラ抗体
Human Monoclonal Antibodies: Methods and Protocols, Michael Steinitz (Editor), Methods in Molecular Biology 1060, Springer Protocols, Humana Press (2014)の第8章の記載に従って、マウス抗ヒトIL-11Rαモノクローナル抗体からマウス/ヒトキメラ抗体を作製する。
簡潔に説明すると、マウス抗ヒトIL-11Rα抗体を産生するハイブリドーマのVHおよびVLをコードするDNA配列を決定し、ヒト免疫グロブリンの定常領域をコードするDNA配列と組み合わせて、マウス/ヒトキメラ抗体配列を作製し、この配列からキメラマウス/ヒト抗体を哺乳動物細胞において発現させる。
7.2 ヒト化抗体
Human Monoclonal Antibodies: Methods and Protocols, Michael Steinitz (Editor), Methods in Molecular Biology 1060, Springer Protocols, Humana Press (2014)の第7章、特に、第7章の第3.1節「Antibody Humanization」の記載に従って、マウス抗ヒトIL-11Rαモノクローナル抗体からヒト化抗体を作製する。
簡潔に説明すると、マウス抗ヒトIL-11Rα抗体を産生するハイブリドーマのVHおよびVLをコードするDNA配列を決定し、ヒト抗体可変領域のフレームワーク領域および免疫グロブリン定常領域をコードするDNA配列に挿入してヒト化抗体配列を作製し、哺乳動物細胞において、この配列からヒト化抗体を発現させる。
実施例8:抗IL-11Rα抗体のさらなる生化学分析
さらに、前記抗体の生化学的分析を行う。
BIAcoreバイオレイヤー干渉法(BLI)およびマイクロスケール熱泳動(MST)分析により、前記抗体を分析し、ヒトIL-11Rαに対する結合親和性を測定する。
Rich et al., Anal Biochem. 2008 Feb 1; 373(1):112-20の記載に従って、BIAcoreシステムを使用した表面プラズモン共鳴(SPR)分析により抗体親和性を測定する。
Concepcion et al., Comb Chem High Throughput Screen. 2009 Sep; 12(8):791-800の記載に従って、バイオレイヤー干渉法により抗体親和性を分析する。
Jerabek-Willemsen et al., Assay Drug Dev Technol. 2011 Aug; 9(4): 342-353の記載に従って、マイクロスケール熱泳動により抗体親和性を分析する。
Iacob et al., J Pharm Sci. 2013 Dec; 102(12): 4315-4329の記載に従って、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)により抗体の凝集を分析する。
Haverick et al., MAbs. 2014 Jul-Aug;6(4):852-8の記載に従って、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)により抗体の疎水性を分析する。
Menzen and Friess, J Pharm Sci. 2013 Feb;102(2):415-28の記載に従って、示差走査型蛍光定量法(DSF)により抗体の融解温度を分析する。
実施例9:抗IL-11Rα抗体を用いたインビボにおける線維化の抑制
様々な組織のインビボ線維化マウスモデルにおいて、前記抗ヒトIL-11Rα抗体の治療的有用性が示される。実験に使用するマウスは、野生型(すなわちIL-11RA+/+)マウスである。
9.1 心臓の線維化
マウスにポンプを埋植し、AngII(2mg/kg/日)で28日間処置を行う。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。実験終了時に、ヒドロキシプロリンを用いた比色定量アッセイキットを使用して、マウス心房中のコラーゲン含量を評価し、線維化マーカーであるCol1A2、αSMA(ACTA2)およびフィブロネクチン(Fn1)のRNA発現量をqPCRで分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、心臓組織での線維化反応が低下していることがわかる。
9.2 腎臓の線維化
溶媒(0.3M NaHCO3)に溶解した葉酸(180mg/kg)を腹腔内注射することによって線維化を誘導した腎線維化マウスモデルを樹立する。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。28日目に腎臓を摘出し、重量を測定した後、一部は10%中性緩衝ホルマリンで固定してマッソン・トリクローム染色およびシリウス染色を行い、残りは急速凍結して、コラーゲンアッセイとRNAおよびタンパク質の測定に使用する。
急速凍結した腎臓をTrizol試薬(インビトロジェン)およびキアゲン社のTissueLyzer法で処理した後、RNeasyカラム(キアゲン)精製を行うことによってトータルRNAを抽出する。メーカーの説明書に従ってiScriptTM cDNA synthesis kitを使用し、各反応につきトータルRNAを1μg用いてcDNAを調製する。StepOnePlusTM(アプライドバイオシステムズ)を使用したTaqMan(アプライドバイオシステムズ)法またはfast SYBR green(キアゲン)法によって、三連の試料に対して定量RT-PCR遺伝子発現解析を40サイクルで実施する。発現データはGAPDH mRNAの発現量に対して正規化し、2-ΔΔCt法を使用してfold changeを算出する。さらに、急速凍結した腎臓を、50mg/mlの濃度で、6M HCl中で熱することによって酸加水分解する(95℃、20時間)。メーカーの説明書に従って、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、加水分解産物中の総コラーゲン量を定量する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、腎組織での線維化反応が低下していることがわかる。
9.3 肺の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを気管内投与して処置し、肺の線維化反応(肺線維症)を誘導する。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、肺組織での線維化反応が低下していることがわかる。
9.4 皮膚の線維化
0日目に、マウスにブレオマイシンを皮下投与して処置し、皮膚の線維化反応を誘導する。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与する。21日目にマウスを屠殺し、線維化マーカーの発現差を分析する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、皮膚組織での線維化反応が低下していることがわかる。
9.5 眼の線維化
前記実施例3.6の記載に従って、マウスに線維柱帯切除術を行い、眼の創傷治癒反応を誘導する。
抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体を静脈内注射によって様々なマウス群に投与し、眼組織の線維化を観察する。
抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、眼組織での線維化反応が低下していることがわかる。
9.6 その他の組織
線維化に対する抗IL-11Rα中和抗体の治療効果を、肝臓、腎臓、腸管などの他の組織の線維化マウスモデルにおいても分析し、さらに、多臓器線維症(すなわち全身性線維症)に関連するモデルでも分析する。
線維化反応を測定し、抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスとコントロール抗体で処置したマウスとで線維化反応を比較する。抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、コントロール抗体で処置したマウスと比較して、線維化マーカーの発現が低下していることから、線維化反応が低下していることがわかる。
実施例10:抗IL-11Rα抗体を用いたインビボでのがんの治療
抗IL-11Rα中和抗体のがんに対する治療効果を、がんマウスモデルで分析する。
乳がん、肺がんおよび消化器系がんのマウスモデルを樹立し、抗IL-11Rα中和抗体またはコントロール抗体の投与によりマウスを処置し、がんの発症/進行をモニタリングする。
コントロール抗体で処置したマウスと比較して、がんの症状の低減および/または生存の延長が示されることから、抗IL-11Rα中和抗体の抗がん効果が認められる。
実施例11:抗IL-11Rα抗体を用いたAMDの治療
滲出型加齢黄斑変性(AMD)における抗IL-11Rα中和抗体の治療効果を調べる。
滲出型AMDを有する対象に抗IL-11Rα中和抗体を投与する。いくつかの治療条件では、抗IL-11Rα抗体による治療に加えて、VEGFアンタゴニスト療法(たとえば、ラニビズマブ、ベバシズマブ、ペガプタニブ、ブロルシズマブまたはアフリベルセプト)もしくはPDGFアンタゴニスト療法(たとえばpegpleranib)を対象に投与するか、またはレーザー凝固療法で対象を処置する。
抗IL-11Rα抗体で処置した対象では、抗IL-11Rα抗体で処置しなかった対象と比較して、滲出型AMDの病態の軽減および/または滲出型AMDの症状の改善が観察される。
実施例12:抗IL-11Rα抗体を用いた腎線維化の抑制
溶媒(0.3M NaHCO3)中に溶解した葉酸(180mg/kg-1)を、体重がほぼ同じ10~12週齢の同腹マウスに腹腔内(i.p.)注射して腎線維化を誘導した。コントロールマウスには溶媒のみを投与した。
葉酸による処置の1日後に、抗IL-11Rα抗体クローンBSO-9A7を20mg/kgの用量で投与し、その後は週に3回投与した。注射の28日後にマウスを安楽死させた。
メーカーの説明書に従って、尿素アッセイキット(ab83362、Abcam)を用いてマウスの血漿中尿素レベルを定量し、クレアチニンアッセイキット(ab65340、Abcam)を用いてマウスの血漿中クレアチニンレベルを定量した。また、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、腎臓中の総コラーゲン量を定量した。比色定量法はいずれもメーカーの説明書に準じて行った。
組織をパラフィン包埋し、腎臓を3μmの厚さで薄切した。パラフィン切片は、10%中性緩衝ホルマリン(シグマ アルドリッチ)で組織を室温で24時間固定し、脱水し、パラフィンに包埋して作製した。凍結切片は、切り出した直後の臓器を、ティシュー・テックOptimal Cutting Temperatureコンパウンド(VWR International)で包埋して作製した。次いで、液体窒素で冷却したイソペンタンを入れた金属製ビーカーにクリオモルドを入れて凍結し、切片を-80℃で保存した。メーカーの説明書に従って、マッソン・トリクローム染色キット(HT15、シグマ アルドリッチ)により総コラーゲンを染色した。切片を撮影し、ImageJソフトウェア(バージョン1.49)を使用して、青色で染色された線維化領域を半定量的に測定した。免疫組織化学分析を行うため、抗ACTA2抗体(ab5694、Abcam)とともに組織切片をインキュベートした。ImmPACT DABペルオキシダーゼ基質(ベクターラボラトリーズ)を色素原とするImmPRESS HRP抗ウサギIgGポリマー検出キット(ベクターラボラトリーズ)を用いて、一次抗体染色を可視化した。次いで、切片をマイヤーヘマトキシリン(メルク)で対比染色した。
図35Aおよび図35Bでは、抗IL-11Rα抗体で処置したマウスにおいてコラーゲン染色が顕著に低減したことが示されており、抗IL-11Rα抗体による処置が腎線維化を抑制したことが示されている。
図36は、抗IL-11Rα抗体による処置によって尿中アルブミン/クレアチン比が顕著に低減したことが示されており、抗IL-11Rα抗体で処置したマウスにおいて腎損傷の程度が低減したことが示されている。
別の実験において、片側尿管結紮(UUO)により急性腎損傷マウスモデルを誘導した。簡潔に説明すると、マウスの一方の尿管に偽手術または尿管閉塞術を行った。IgGまたは抗IL-11Rα抗体クローンBSO-9A7をマウスに投与し(手術日の-1日目、1日目、3日目、5日目:20mg/kg)、損傷を受けた腎臓(「UUO」)または反対側の損傷を受けていない腎臓(Con)を手術の7日後に摘出した。
実験条件を盲検化して、尿円柱、尿細管萎縮または尿細管拡張の組織分析により尿管損傷の半定量的評価を実施した(尿管損傷スコア:0:なし;1:極小;2:軽度;3:中程度;4:重度)。
図37Aおよび図37Bは、抗IL-11Rα抗体による処置によって、急性腎損傷マウスモデルにおいて尿管損傷が低減されたことを示す。
実施例13:IL-11および肝臓の線維化
健常な肝臓および病変を起こした肝臓におけるIL-11タンパク質の発現を、条件を一致させたヒト肝臓試料におけるウエスタンブロットにより確認した。条件を一致させた凍結肝臓試料をウエスタンブロッティング用に調製し、ヒトIL-11抗体モノクローナルマウスIgG2Aクローン#22626(カタログNo.MAB218、R&Dシステムズ)を使用してIL-11量を測定した。フィルムの写真を撮影した。
結果を図38に示す。正常な健常肝臓と比べて、ほとんどの病変組織においてIL-11の発現量の増加が検出された。
IL-11発現が病態に伴って変化したかどうかを判断するため、ヒトIL-11 DuoSet 15プレートキット(カタログNo.DY218、R&Dシステムズ)を使用したELISAにより、Precision Cut Liver Slices(PCLS)から得た培地を分析した。
ヒトPCLS試料を切り出し、切り出した組織を培地プレート中で24時間静置して順化させた後、培地による処理を行ってインキュベートした。培地のみ(コントロール)、LPS添加培地、線維化促進刺激を誘導するTGFβ1を併用した培地、または線維化促進刺激を誘導するTGFβ1とTGFβ1の阻害剤であるALK5を併用した培地で試料を処理した。
結果を図39に示す。線維化促進刺激によってIL-11タンパク質発現のアップレギュレーションが誘導された。また、阻害剤であるALK5によって、TGFβ1受容体のシグナル伝達が抑制され、IL-11タンパク質の発現がコントロールと同程度までダウンレギュレートされることが見出された。
実施例14:抗IL-11Rα抗体を用いた心線維化の抑制
心線維化マウスモデルにおいて、抗IL-11Rα抗体処置の抗線維化効果を分析した。
簡潔に説明すると、過去の報告に従って(Tarnavski, O. et al. Mouse cardiac surgery: comprehensive techniques for the generation of mouse models of human diseases and their application for genomic studies. Physiol. Genomics 16, 349-360 (2004))、横行大動脈縮窄術(TAC)を雄性マウスにおいて実施した。週齢を一致させたマウスにおいて、TACを行わない偽手術を実施した。経胸壁断層ドプラ心エコー法を用いて、TACの有効性を示す(40mmHgを超える)圧力勾配の増加を確認した。
組織学的評価および分子的評価を行うため、TACの2週間後にマウスを安楽死させた。抗IL-11Rα抗体クローンBSO-9A7またはコントロールIgG抗体を、20mg/kgの用量で週に3回、腹腔内投与した。2週間後に心臓を摘出し、メーカーの説明書に従ってマッソン・トリクローム染色キット(HT15、シグマ アルドリッチ)を用いて線維化範囲を評価した。また、Quickzymeトータルコラーゲン定量アッセイキット(Quickzyme Biosciences)を使用した比色定量法によってヒドロキシプロリンを検出することにより、心臓中の総コラーゲン量を定量した。
分析結果を図40Aおよび図40Bに示す。抗IL-11Rα中和抗体で処置したマウスは、IgGコントロール抗体で処置したマウスと比べて心臓中のコラーゲン量が減少し(図40A)、IgGコントロール抗体で処置したマウスと比べて、心外膜領域、心内膜領域および血管周囲領域において線維化の程度が低下した(図40B)ことが見出された。