JP7166974B2 - 内燃機関のクランク軸用の半割スラスト軸受 - Google Patents
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Description
より詳細には、半割スラスト軸受は、シリンダブロック及び軸受キャップの側面に設けられた受け座(座面)に嵌合され使用されるが、受け座の内径は、半割スラスト軸受の外径よりも若干大きく形成されているので、半割スラスト軸受は周方向に僅かに移動可能である。一方、一対の半割スラスト軸受を円環形状に組み合わせて使用する場合(例えば特許文献1の図10参照)、クランク軸からの軸線方向力がスラスト軸受の摺動面に入力する瞬間、クランク軸のスラストカラー面は、一対の半割スラスト軸受の両方の摺動面と同時に接触するのではなく、先に一方の半割スラスト軸受の摺動面と接触しがちである。このため、一方の半割スラスト軸受がスラストカラー面の回転とともに僅かに周方向に移動し、一方の半割スラスト軸受のクランク軸の回転方向の前方側の周方向端面が、他方の半割スラスト軸受のクランク軸の回転方向の後方側の周方向端面と衝突し、それら半割スラスト軸受の周方向端面付近に衝撃的な負荷が加わる。クランク軸と変速機とが接続されるたびに繰り返し加わるこの衝撃的な負荷の影響で、スラストリリーフと隣接する摺動面の軸受合金層に疲労(割れや鋼裏金層からの剥離)が起き易い。
裏金層は、スラストリリーフ表面の少なくとも一部を構成するように第1の表面から周方向端面に向かって傾斜して延びる露出傾斜面と、周方向端面を構成する裏金端面とをさらに有し、
MoS2、WS2、黒鉛、及びh-BNのうちの少なくとも1種以上からなる複数の固体潤滑部材が、周方向端面の、スラストリリーフ表面側から第1の軸線方向長さT1までの範囲である散在領域上に散在するように配置され、
第1の軸線方向長さT1は、周方向端面の軸線方向長さTEの25~50%である、半割スラスト軸受が提供される。
このため、スラストリリーフに隣接する摺動面の領域の軸受合金層には衝撃負荷が伝播し難く、したがってこの領域の軸受合金層に疲労が生じ難い。
まず、図1~3を用いて本発明の実施例1に係る軸受装置1の全体構成を説明する。図1~3に示すように、シリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4には、両側面間を貫通する円形孔である軸受孔(保持孔)5が形成されており、側面における軸受孔5の周縁には円環状凹部である受座6、6が形成されている。軸受孔5には、クランク軸のジャーナル部11を回転自在に支承する半割軸受7、7が円筒状に組み合わされて嵌合される。受座6、6には、クランク軸のスラストカラー12を介して軸線方向力f(図3参照)を受ける半割スラスト軸受8、8が円環状に組み合わされて嵌合される。
次に、図2~6を用いて実施例1の半割スラスト軸受8の構成について説明する。本実施例の半割スラスト軸受8は、Fe合金製の裏金層84に薄い軸受合金層85を接着したバイメタルを用いて、半円環形状の平板に形成される。なお、裏金層84のFe合金として、鋼やステンレス鋼等を用いることができる。また軸受合金層85として、Cu軸受合金やAl軸受合金等を用いることができる。軸受合金層85は、Fe合金製の裏金層84に対し硬さが低く(軟らかく)、したがって外力を受けた場合に弾性変形量が多い。
半割スラスト軸受8は、周方向中央領域に軸受合金層85から構成される摺動面81(軸受面)と、周方向両端面83、83に隣接する領域にスラストリリーフ82、82とを有し、スラストリリーフ82は、平坦なスラストリリーフ表面(平面)82sを有している。摺動面81には、潤滑油の保油性を高めるために、両側のスラストリリーフ82、82の間に2つの油溝81a、81aが形成されている。
乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合、半割スラスト軸受8の周方向端面83からのスラストリリーフ長さL1は、3~25mmになされる。
スラストリリーフ82の軸線方向の深さRD1は、0.1~1mmになされることができる。
周方向端面83は軸線方向長さTEを有し、また周方向端面83の、スラストリリーフ表面82S側から第1の軸線方向長さT1までの範囲である散在領域87上には、複数の固体潤滑部材88が散在するように設けられる。なお、この第1の軸線方向長さT1は、周方向端面83の軸線方向長さTEの25%~50%の長さであることが好ましい。
図7Aは、周方向端面83の散在領域87を横から見た、すなわちスラストリリーフ表面82s側(図5のZI矢視方向)から見た拡大図であり、図7Bは、散在領域87をその正面からみた部分拡大図である。図7A及び7Bに示すように、散在領域87には、複数の固体潤滑部材88が散在するように設けられ、したがって本実施例において、散在領域87には、裏金層84(裏金端面84e)が露出した部分と固体潤滑部材88とが混在していることが理解される。固体潤滑部材88は、MoS2、WS2、黒鉛、及びh-BNのうちの少なくとも1種以上からなり、また散在領域87における固体潤滑部材88全体の面積率は1~10%である。
なお、本実施例において、周方向端面83のうち散在領域87以外の領域には固体潤滑部材88は実質的に設けられていない(すなわち、散在領域87以外の領域における固体潤滑部材88全体の面積率は0.02%以下である)。
この固体潤滑部材88の厚さTLが0.1nm未満であると、衝撃負荷を受けた際に周方向端面83に加わる衝撃負荷を緩和する作用が不十分であり、しかし厚さTLが10nmを超えると、衝撃負荷を受けた際に固体潤滑部材88に割れが発生したり、周方向端面83からせん断され易くなる場合がある。
上述したようにクランク軸からの軸線方向力fが半割スラスト軸受8の摺動面81に入力するのとほぼ同時に、一方の半割スラスト軸受8の周方向端面83と他方の半割スラスト軸受8の周方向端面83とが衝突し、それにより、それら半割スラスト軸受8の周方向端面83付近に衝撃的な負荷が加わる。なお、本実施例の構成とは異なり、図1に示すシリンダブロック2の下部に軸受キャップ3を取り付けて構成された軸受ハウジング4のうちシリンダブロック2の側面にだけ軸受孔5の周縁の円環状凹部である受座6が形成され、したがって軸受ハウジング4の一方の側面にただ1つの半割スラスト軸受が配置される場合には、半割スラスト軸受8の周方向端面83は、軸受キャップ3の端面(分割面)と衝突し、それにより半割スラスト軸受8の周方向端面83付近に衝撃的な負荷が加わる。
これに対して、本発明とは異なり周方向端面83全面を固体潤滑部材88で覆った場合、上述した周囲拘束作用がないため、固体潤滑部材88の変形が大きく、固体潤滑部材88に割れが発生し、周方向端面83から容易にせん断される。
あるいは、予め固体潤滑部材88の粒子が周方向端面83(裏金端面84e)と面一になるように埋収されていると、内燃機関を運転する際の熱で半割スラスト軸受8の裏金層2が固体潤滑部材88よりも多く熱膨張するため、裏金端面84eに対して固体潤滑部材88の表面が窪んだ状態となり、本発明と同じ作用が得られない。
図5は、半割スラスト軸受8の周方向端部83近傍を径方向内側(図4のYI矢視方向)から見た側面図である。
乗用車用等の小型内燃機関のクランク軸(ジャーナル部の直径が30~100mm程度)に使用する場合、摺動面81が形成される領域において、半割スラスト軸受8の厚さTは1.5~3.5mmであり、裏金層84の厚さTBは1.1~3.2mmであり、軸受合金層85の厚さTAは0.1mm~0.7mmである。摺動面81が形成される領域において、裏金層84の厚さTBおよび軸受合金層85の厚さTAは、一定とすることが好ましい。
また図5に示すように、スラストリリーフ82が形成された領域において、裏金層84の厚さは、周方向中央側から周方向端面83に向かって小さくなっている。
軸受合金は、従来から既知のCu軸受合金やAl軸受合金を用いることができる。例えば、Cu軸受合金は、Sn、P、Ni、Zn、Fe、Ag、Bi、Pbから選ばれる1種以上の成分を含むCu合金であればよい。Al軸受合金は、Si、Sn、Cu、Fe、Cr、Mg、Mn、Zr、Ti、Vから選ばれる1種以上の成分を含むAl合金であればよい。なお、Cu軸受合金およびAl軸受合金は、上記に示す以外の成分を含むようにすることもできる。
裏金層は、0.03~0.35質量%の炭素を含有するFe合金を用いることができる。さらに、裏金層の組成は、0.03~0.35質量%のC、0.4質量%以下のSi、1質量%以下のMn、0.04質量%以下のP、0.05質量%以下のSを含み、残部がFe及び不可避不純物であることが好ましい。
なお、裏金層の組成は、上記組成に限定されないで他のFe合金であってもよい。
半割スラスト軸受8の周方向端面83の散在領域87における固体潤滑部材88の面積率は、EPMA(電子線マイクロアナライザー)を用い、倍率5000倍で散在領域87の複数箇所(例えば3箇所以上)について成分の定量分析を行うことで確認できる。定量分析における検出元素として、固体潤滑部材を構成する元素(例えばMoS2の場合は、Mo元素、S元素)及び裏金層に含まれる成分元素(例えば鋼の場合は、Fe元素、C元素、Si元素等)を選択し、これら元素の特性X線強度をZAF補正計算法により質量濃度に変換した後、体積濃度に変換する。各測定箇所での固体潤滑部材を構成する元素の合計の体積濃度が、固体潤滑部材の体積濃度であり、各測定箇所でのこの体積濃度の値を算術平均して固体潤滑部材88の面積割合が確認できる。なお、裏金層が固体潤滑部材と同じ元素を含む組成である場合には、上記固体潤滑部材の元素の体積濃度の値から、裏金層に含まれる固体潤滑部材と同じ元素の体積濃度分を除いた値が、固体潤滑部材88の面積割合となる。この定量分析は、倍率は5000倍に限定されないで、例えば5000倍を超える倍率で行なってもよい。
なお、後述する半割スラスト軸受8の周方向端面83の散在領域87内に、さらに、軸受合金からなる被覆端面86eを設ける場合の固体潤滑部材88の面積率も同様の方法で測定することができる。
固体潤滑部材の被覆方法として、一般的な投射法等を用いて、周方向端面83(裏金端面84e)の散在領域87を固体潤滑部材88で被覆することが可能である。固体潤滑部材88の固体潤滑剤粒子を室温もしくは固体潤滑剤が分解しない温度に加熱した状態で圧縮気体の力により周方向端面83に衝突させ被覆する一般的な投射法を用いて、固体潤滑剤の粒子径、投射速度、投射時間、圧縮気体圧力等の条件の調整により、半割スラスト軸受8の周方向端面83の散在領域87に露出する裏金端面84eに、または散在領域87に露出する裏金端面84eおよび被覆端面86eに、固体潤滑剤を散在するように被覆させることができる。
図8に示すように、実施例1の半割スラスト軸受とは異なり、実施例2の裏金層84は、スラストリリーフ表面82sの一部を構成するように第1の表面84aから傾斜して延びる露出傾斜面84i、及び周方向端面83の一部を構成する裏金端面84eに加えて、露出傾斜面84iと裏金端面84eの間に形成される遷移面84tを有している。
さらに、半割スラスト軸受8’は、裏金層84の遷移面84tを覆うように設けられた被覆部材86を有する。この被覆部材86は、裏金層84の露出傾斜面84iと同一平面内に延びる被覆傾斜面86iであって、それによりスラストリリーフ表面82sの一部を構成する被覆傾斜面86iと、裏金層84の裏金端面84eと同一平面内に延びる被覆端面86eであって、それにより半割スラスト軸受8の周方向端面83の一部を構成する軸受合金端面86eとを有する。被覆部材86は、軸受合金層85と同じ軸受合金から形成される。
図9に示すように、実施例2の半割スラスト軸受8’は、周方向端面83の散在領域87内に軸受合金端面86eと裏金端面84eの一部とが配置されるように構成される。遷移面84t及び被覆部材86は、周方向端面83の径方向の全長に亘って設けられている。
実施例2の他の構成は実施例1の半割スラスト軸受8の構成と同じである。
なお、半割スラスト軸受8’の周方向端面83は、例えば裏金端面84eの遷移面84tに隣接する側が被覆端面86eとともに平坦(面一)に構成され、しかし裏金端面84eの第2表面84bに隣接する側がその平坦面よりも窪んでいるように形成されていてもよい。
交点P1からP3までの距離である被覆材86の被覆端面86eの軸線方向長さT2は、0.1~0.5mmであることが好ましく、特に散在領域87の軸線方向長さT1の40~90%である(T2=T1×0.4~0.9)ことが好ましい。
また交点P1からP2までの距離である被覆部材86の被覆傾斜面86iに沿った長さ(厚さ)A1は0.05~0.3mmであることが好ましい。
本実施例では、実施例1と同じ効果に加えて、周方向端面83の散在領域87のスラストリリーフ82に隣接する側には、裏金層84よりも弾性変形が起き易い軸受合金層85と同じ軸受合金製の被覆部材86が形成され、この被覆部材86が衝撃負荷を受けて弾性変形するので、軸受合金層85に隣接する裏金層84の領域に加わる負荷が緩和される。一方、周方向端面83の背面側(スラストリリーフ表面82sから離間した側)では、被覆部材86と比較して弾性変形が起き難い裏金層84の裏金端面84eが露出しているので、衝撃負荷は、主に裏金層83の、スラストリリーフ表面82sから離間した領域に加わることになる。さらに、スラストリリーフ表面82sには、被覆部材86に隣接して裏金層84の露出傾斜面84iが形成されており、したがって被覆部材86と、軸受合金傾斜面85i(すなわち軸受合金層85)とが離間している。このためスラストリリーフ82に隣接する摺動面81の領域における軸受合金層84は衝撃負荷が伝播し難く、それゆえ疲労が生じ難い。
あるいは背面リリーフ90は、摺動面81と平行な平面を有するように構成することもできる。
なお、図12に示すように背面リリーフ90のリリーフ長さL2は、上述したスラストリリーフ82のスラストリリーフ長さL1より大きいが、これに限定されるものではなく、スラストリリーフ長さL1と同じであってもよく、あるいはスラストリリーフ長さL1よりも小さくてもよい。
RD1 周方向端面におけるスラストリリーフ深さ
1 軸受装置
4 軸受ハウジング
7 半割軸受
8 半割スラスト軸受
11 ジャーナル部
12 スラストカラー
71 潤滑油溝
72 貫通孔
73 クラッシュリリーフ
81 摺動面
82 スラストリリーフ
82s スラストリリーフ表面
83 周方向端面
84 裏金層
84a 第1の表面
84b 第2の表面
84e 裏金端面
84i 露出傾斜面
84t 遷移面
85 軸受合金層
86 被覆部材
86e 被覆端面
86i 被覆傾斜面
87 散在領域
88 固体潤滑部材
90 背面リリーフ
Claims (6)
- 内燃機関のクランク軸の軸線方向力を受けるための半円環形状の半割スラスト軸受であって、第1の表面及び前記第1の表面の反対側の第2の表面を画成するFe合金製の裏金層と、前記裏金層の前記第1の表面上に設けられた軸受合金層とを有し、前記軸受合金層は、前記裏金層と反対側に前記半割スラスト軸受の摺動面を画成し、前記半割スラスト軸受の周方向両端面に隣接して2つのスラストリリーフが形成され、各スラストリリーフは、前記摺動面から前記周方向端面に向かって前記半割スラスト軸受の壁厚が薄くなるように形成されたスラストリリーフ表面を有する、半割スラスト軸受において、
前記裏金層は、前記スラストリリーフ表面の少なくとも一部を構成するように前記第1の表面から前記周方向端面に向かって傾斜して延びる露出傾斜面と、前記周方向端面を構成する裏金端面とをさらに有し、
MoS2、WS2、黒鉛、及びh-BNのうちの少なくとも1種以上からなる複数の固体潤滑部材が、前記周方向端面の、前記スラストリリーフ表面側から第1の軸線方向長さ(T1)までの範囲である散在領域上に散在するように配置され、
前記第1の軸線方向長さ(T1)は、前記周方向端面の軸線方向長さ(TE)の25~50%である、半割スラスト軸受。 - 前記散在領域における前記固体潤滑部材の面積率(AR1)が1~10%である、請求項1に記載の半割スラスト軸受。
- 前記半割スラスト軸受の前記周方向端面が前記裏金端面のみからなる、請求項1又は2に記載の半割スラスト軸受。
- 前記裏金層は、前記裏金端面及び前記露出傾斜面の間に形成される遷移面をさらに有し、前記遷移面は、前記軸受合金層と同じ軸受合金からなる被覆部材によって覆われ、前記被覆部材は、前記周方向端面の少なくとも一部を構成する被覆端面と、前記スラストリリーフ表面の少なくとも一部を構成する被覆傾斜面とを有し、それにより前記散在領域は、前記被覆端面と前記裏金端面とから構成される、請求項1又は2に記載の半割スラスト軸受。
- 前記被覆端面が、前記周方向端面において前記スラストリリーフ表面側から第2の軸線方向長さ(T2)までの範囲に延び、前記第2の軸線方向長さ(T2)は、前記散在領域の前記第1の軸線方向長さ(T1)の40~90%である、請求項4に記載の半割スラスト軸受。
- 前記周方向端面からの前記固体潤滑部材の厚さが0.1~10nmである、請求項1から5までのいずれか一項に記載の半割スラスト軸受。
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