本開示の詳細な説明
本開示の以下の説明は、単に本開示の様々な態様を説明することを意図している。そのため、議論される特定の改良は本開示の範囲を限定するものと解されてはならない。本開示の範囲から離れることなく様々な均等、変更、および改良を行ってもよいことは当業者に明らかであり、そのような同等の態様は本発明に包含されることが理解される。刊行物、特許および特許出願を含む本明細書において引用されている全ての参照文献は、参照によりそれらの全体が本明細書に組み入れられる。
定義
以上の概要および以下の詳細な説明の両方は例示的および説明的なものに過ぎず、特許請求の範囲の発明を限定するものではないことが理解されるべきである。本出願において、単数形の使用は、そうでないことが具体的に記載されていない限り、複数形を包含する。本出願において、「または」の使用は、そうでないことが記載されていない限り、「および/または」を意味する。さらには、「含む」(including)の他に、「含む」(includes)および「含まれる」(included)などの他の形態の用語の使用は、限定的なものではない。また、「構成要素」または「成分」などの用語は、そうでないことが具体的に記載されていない限り、1つのユニットを含む構成要素および成分ならびに1つより多くのサブユニットを含む構成要素および成分の両方を包含する。また、「部分」(portion)という用語の使用は、部分(moiety)の一部または部分(moiety)全体を含むことができる。
量、時間的期間などの測定可能な値を指すときに本明細書において使用される「約」という用語は、特定された値から±10%までのバリエーションを包含することを、意図している。別のことが示されていない限り、本明細書および特許請求の範囲において使用される成分の量、分子量などの特性、反応条件などを表す全ての数は、全ての場合に「約」という用語により修飾されているものと理解されるべきである。したがって、そうでないことが示されていない限り、以下の明細書および添付の特許請求の範囲に記載されている数値的パラメーターは、開示される主題により得ようとする所望の特性に応じて変化し得るおおよそのものである。少なくとも、そして特許請求の範囲への均等論の適用を制限しようとするものではなく、各数値パラメーターは、少なくとも、報告された有効数字の数に照らしておよび通常の丸めの技術を適用することにより解されるべきである。発明の広範な範囲を記載する数値範囲およびパラメーターはおおよそのものであるが、特定の例に記載されている数値は可能な限り精密に報告されている。しかしながら、任意の数値は、それらの各々の試験測定に見られる標準偏差の結果として必然的にもたらされるいくらかの誤差を本質的に含有する。
「抗体」という用語は、任意のアイソタイプのインタクトな免疫グロブリン、または標的抗原への特異的結合についてインタクトな抗体と競合できるその断片を指し、例えば、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト抗体、および二重特異性抗体を含む。「抗体」は、抗原結合タンパク質の一種である。インタクトな抗体は、一般に、少なくとも2つの全長重鎖および2つの全長軽鎖を含むが、いくつかの例では、重鎖のみを含むことができるラクダ科動物において天然に存在する抗体など、より少ない鎖を含むことができる。抗体は、単一の供給源のみに由来してもよいし、または「キメラ」であってもよい、すなわち、以下にさらに記載されているように、抗体の異なる部分が2つの異なる抗体に由来してもよい。抗原結合タンパク質、抗体、または結合断片は、ハイブリドーマにおいて、組換えDNA技術により、またはインタクトな抗体の酵素もしくは化学分解により製造することができる。別のことが示されていない限り、「抗体」という用語は、2つの全長重鎖および2つの全長軽鎖を含む抗体に加えて、その誘導体、バリアント、断片、およびムテインを含み、これらの例は以下に記載されている。さらには、明示的に除外されていない限り、抗体は、それぞれ、モノクローナル抗体、二重特異性抗体、ミニボディ、ドメイン抗体、合成抗体(本明細書において「抗体模倣物」と称されることがある)、キメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、抗体融合物(本明細書において「抗体コンジュゲート」と称されることがある)、およびこれらの断片を含む。いくつかの態様では、当該用語はまた、ペプチボディを包含する。
天然の抗体構造単位は、典型的には、四量体を含む。それぞれのそのような四量体は、典型的には、ポリペプチド鎖の2つの同一ペアから構成され、各ペアは1つの全長「軽」鎖(ある特定の態様では、約25kDa)および1つの全長「重」鎖(ある特定の態様では、約50~70kDa)を有する。各鎖のアミノ末端部分は、典型的には、約100~110個またはそれより多くのアミノ酸からなる可変領域を含み、これは典型的に抗原認識に関与する。各鎖のカルボキシ末端部分は、典型的には、エフェクター機能に関与できる定常領域を画定する。ヒト軽鎖は、典型的には、κおよびλ軽鎖として分類される。重鎖は、典型的には、μ、δ、γ、α、またはεとして分類され、それぞれ、IgM、IgD、IgG、IgA、およびIgEとして抗体のアイソタイプを画定する。IgGは、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4を含むがこれらに限定されないいくつかのサブクラスを有する。IgMは、IgM1およびIgM2を含むがこれらに限定されないサブクラスを有する。IgAは同様に、IgA1およびIgA2を含むがこれらに限定されないサブクラスにさらに分割される。全長軽鎖および重鎖内で、可変領域と定常領域は、典型的には約12個またはそれより多くのアミノ酸からなる「J」領域により連結され、重鎖は、約10個のさらなるアミノ酸からなる「D」領域も含む。例えば、Fundamental Immunology, Ch.7(Paul, W., ed., 2nd ed.Raven Press, N.Y.(1989))を参照されたい(参照によりその全体が全ての目的のために組み入れられる)。各軽鎖/重鎖ペアの可変領域は、典型的には、抗原結合部位を形成する。
「可変領域」または「可変ドメイン」という用語は、典型的には、重鎖におけるアミノ末端のおおよそ120~130アミノ酸および軽鎖におけるアミノ末端の約100~110アミノ酸を含む、抗体の軽鎖および/または重鎖の一部分を指す。ある特定の態様では、異なる抗体の可変領域は、同じ種の抗体の間でさえもアミノ酸配列が大幅に異なる。抗体の可変領域は、典型的には、特定の抗体のその標的についての特異性を決定する。
可変領域は、典型的には、比較的保存されたフレームワーク領域(FR)が、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの超可変領域により連結された、同じ一般構造を呈する。各ペアの2つの鎖のCDRは、典型的には、フレームワーク領域により位置合わせされ、特定のエピトープへの結合を可能とすることができる。軽鎖および重鎖可変領域の両方は、N末端からC末端に向かって、典型的には、FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、およびFR4のドメインを含む。各ドメインへのアミノ酸の割当ては、典型的には、Kabat Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institutes of Health, Bethesda, Md.(1987 and 1991))、Chothia&Lesk, J.Mol.Biol, 196:901-917(1987)またはChothia et al, Nature, 342:878-883(1989)の定義にしたがって為される。
ある特定の態様では、抗体重鎖は、抗体軽鎖の非存在下で抗原に結合する。ある特定の態様では、抗体軽鎖は、抗体重鎖の非存在下で抗原に結合する。ある特定の態様では、抗体の結合領域は、抗体軽鎖の非存在下で抗原に結合する。ある特定の態様では、抗体の結合領域は、抗体重鎖の非存在下で抗原に結合する。ある特定の態様では、個々の可変領域は、他の可変領域の非存在下で抗原に特異的に結合する。
ある特定の態様では、CDRの確定的記述および抗体の結合部位を構成する残基の同定は、抗体の構造の解明および/または抗体-リガンド複合体の構造の解明により達成される。ある特定の態様では、それは、当業者に公知の様々な技術のいずれか、例えばX線結晶構造解析法により達成することができる。ある特定の態様では、様々な解析方法を用いてCDR領域を同定するかまたは概ね決定することができる。そのような方法の例としては、Kabatの定義、Chothiaの定義、AbMの定義、およびcontactの定義が挙げられるがこれらに限定されない。
Kabatの定義は、抗体における残基をナンバリングするための標準であり、典型的にはCDR領域を同定するために使用される。例えば、Johnson&Wu, Nucleic Acids Res., 28:214-8(2000)を参照されたい。Chothiaの定義はKabatの定義と類似するが、Chothiaの定義は、ある特定の構造的ループ領域の位置を考慮に入れる。例えば、Chothia et al, J.Mol.Biol, 196:901-17(1986); Chothia et al., Nature, 342:877-83(1989)を参照されたい。AbMの定義は、抗体構造をモデル化するOxford Molecular Groupにより製造された統合された一連のコンピュータープログラムを使用する。例えば、Martin et al, Proc Natl Acad Sci(USA), 86:9268-9272(1989); 「AbM(商標), A Computer Program for Modeling Variable Regions of Antibodies,」Oxford, UK; Oxford Molecular, Ltd.を参照されたい。AbMの定義は、Samudrala et al,「Ab Initio Protein Structure Prediction Using a Combined Hierarchical Approach,」in PROTEINS, Structure, Function and Genetics Suppl, 3:194-198(1999)に記載されているように、ナレッジデータベースとアブイニシオ法との組合せを使用して一次配列から抗体の三次構造をモデル化する。contactの定義は、利用可能な複合体結晶構造の解析に基づく。例えば、MacCallum et al, J.Mol.Biol, 5:732-45(1996)を参照されたい。
慣習により、重鎖におけるCDR領域は典型的にはH1、H2、およびH3と称され、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に順次ナンバリングされる。軽鎖におけるCDR領域は典型的にはL1、L2、およびL3と称され、アミノ末端からカルボキシ末端の方向に順次ナンバリングされる。
「軽鎖」という用語は、全長軽鎖、および結合特異性を付与するのに充分な可変領域配列を有するその断片を含む。全長軽鎖は、可変領域ドメインVLと、定常領域ドメインCLとを含む。軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ末端にある。軽鎖は、κ鎖およびλ鎖を含む。
「重鎖」という用語は、全長重鎖、および結合特異性を付与するのに充分な可変領域配列を有するその断片を含む。全長重鎖は、可変領域ドメインVHと、3つの定常領域ドメインCH1、CH2、およびCH3とを含む。VHドメインはポリペプチドのアミノ末端にあり、CHドメインはカルボキシル末端にあり、CH3がポリペプチドのカルボキシ末端に最も近い。重鎖は、IgG(IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブタイプを含む)、IgA(IgA1およびIgA2サブタイプを含む)、IgM、およびIgEを含むいずれのアイソタイプであってもよい。
二重特異性抗体または二機能性抗体は、典型的には、2つの異なる重鎖/軽鎖ペアおよび2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。二重特異性抗体は、ハイブリドーマの融合またはFab'断片の連結が挙げられるがこれらに限定されない様々な方法により製造されることができる。例えば、Songsivilai et al, Clin.Exp.Immunol, 79:315-321(1990); Kostelny et al, J.Immunol, 148:1547-1553(1992)を参照されたい。
「抗原」という用語は、適応免疫応答を誘導できる物質を指す。具体的には、抗原は、適応免疫応答の受容体の標的として働く物質である。典型的には、抗原は、それ自体では身体中の免疫応答を誘導できない抗原特異的受容体に結合する分子である。抗原は、通常、タンパク質および多糖であり、頻度はより低いが脂質のこともある。好適な抗原としては、細菌(外膜、カプセル、細胞壁、鞭毛、線毛(fimbrai)、および毒素)、ウイルス、ならびに他の微生物の一部分が非限定的に挙げられる。抗原としては、腫瘍抗原、例えば、腫瘍における変異により生成される抗原も挙げられる。本明細書において使用される場合、抗原としては、免疫原およびハプテンも挙げられる
本明細書において使用される「抗原結合断片」という用語は、抗原に特異的に結合できるタンパク質の一部分を指す。ある特定の態様では、抗原結合断片は、抗原に結合するがインタクトな天然抗体構造を含まない1つもしくは複数のCDRを含む抗体または任意の他の抗体断片に由来する。抗原結合断片の例としては、ダイアボディ、Fab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、ジスルフィド安定化Fv断片(dsFv)、(dsFv)2、二重特異性dsFv(dsFv-dsFv')、ジスルフィド安定化ダイアボディ(dsダイアボディ)、一本鎖抗体分子(scFv)、scFv二量体(二価ダイアボディ)、多重特異性抗体、単一ドメイン抗体(sdAb)、ラクダ科動物抗体またはナノボディ、ドメイン抗体、および二価ドメイン抗体が非限定的に挙げられる。ある特定の態様では、抗原結合断片は、親抗体が結合するのと同じ抗原に結合することができる。ある特定の態様では、抗原結合断片は、1つまたは複数の異なるヒト抗体に由来するフレームワーク領域にグラフトされた、特定のヒト抗体に由来する1つまたは複数のCDRを含んでもよい。
「Fab断片」は、1つの軽鎖ならびに1つの重鎖のCH1および可変領域を含む。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。
「Fab'断片」は、1つの軽鎖ならびにVHドメインおよびCH1ドメインを含有し、かつCH1ドメインとCH2ドメインとの間の領域も含有する1つの重鎖の部分を含み、それにより2つのFab'断片の2つの重鎖の間に鎖間ジスルフィド結合を形成してF(ab')2分子を形成することができる。
「F(ab')2断片」は、2つの軽鎖ならびにVHおよびCH1ドメインを含有し、かつCH1ドメインとCH2ドメインとの間の定常領域の部分も含有する2つの重鎖を含有し、それにより鎖間ジスルフィド結合が2つの重鎖の間に形成されている。F(ab')2断片は、したがって、2つの重鎖間のジスルフィド結合により一緒に保持された2つのFab'断片から構成される。
「Fc」領域は、抗体のCH1およびCH2ドメインを含む2つの重鎖断片を含む。2つの重鎖断片は、2つ以上のジスルフィド結合およびCH3ドメインの疎水性相互作用により一緒に保持される。
「Fv領域」は、重鎖および軽鎖の両方の可変領域を含むが、定常領域を欠いている。
「一本鎖抗体」は、重鎖および軽鎖可変領域がフレキシブルリンカーにより接続されて単一のポリペプチド鎖を形成し、それが抗原結合領域を形成する、Fv分子である。一本鎖抗体は、国際特許出願公開WO88/01649および米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号にて詳細に議論されており、これらの開示は参照により組み入れられる。
「ドメイン抗体」は、重鎖の可変領域または軽鎖の可変領域のみを含有する免疫学的に機能的な免疫グロブリン断片である。いくつかの例では、2つ以上のVH領域がペプチドリンカーにより共有結合的に連結されて、二価ドメイン抗体を作出する。二価ドメイン抗体の2つのVH領域は、同じまたは異なる抗原を標的とすることができる。
「二価抗原結合タンパク質」または「二価抗体」は、2つの抗原結合部位を含む。いくつかの例では、2つの結合部位は同じ抗原特異性を有する。二価抗原結合タンパク質および二価抗体は二重特異性であることができる。以下を参照されたい。「多重特異性」または「多機能性」抗体以外の二価抗体は、ある特定の態様では、典型的には、同一の結合部位のそれぞれを有するものと理解される。
「多重特異性抗原結合タンパク質」または「多重特異性抗体」は、1つより多くの抗原またはエピトープを標的とするものである。
「二重特異性(bispecific)」、「二重特異性(dual-specific)」または「二機能性」の抗原結合タンパク質または抗体は、それぞれが2つの異なる抗原結合部位を有するハイブリッド抗原結合タンパク質または抗体である。二重特異性抗原結合タンパク質および抗体は、多重特異性抗原結合タンパク質抗体の一種であり、ハイブリドーマの融合またはFab'断片の連結が挙げられるがこれらに限定されない様々な方法により製造されることができる。例えば、Songsivilai and Lachmann, 1990, Clin.Exp.Immunol.79:315-321; Kostelny et al, 1992, J.Immunol.148:1547-1553を参照されたい。二重特異性抗原結合タンパク質または抗体の2つの結合部位は、同じまたは異なるタンパク質標的上に存在できる2つの異なるエピトープに結合する。
「結合親和性」は、一般に、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との非共有結合性相互作用の総計の強度を指す。別のことが示されていない限り、本明細書において使用される場合、「結合親和性」は、結合ペアのメンバー(例えば、抗体および抗原)間の1:1の相互作用を反映した内在性の結合親和性を指す。分子XのそのパートナーYについての親和性は、一般に、解離定数(Kd)により表すことができる。親和性は、本明細書に記載されている方法などの、当技術分野において公知の一般的な方法により測定することができる。低親和性抗体は、一般に、抗原にゆっくり結合し、かつ容易に解離する傾向がある一方、高親和性抗体は、一般に、より速く抗原に結合し、かつより長く結合したままとなる傾向がある。結合親和性を測定する様々な方法が当技術分野において公知であり、それらのいずれも本発明の目的のために使用することができる。結合親和性を測定するための特定の説明的および例示的な態様は以下に記載されている。
特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド上のエピトープに「特異的に結合する」または「特異的な」抗体は、あらゆる他のポリペプチドまたはポリペプチドエピトープに実質的に結合することなく、その特定のポリペプチドまたは特定のポリペプチド上のエピトープに結合する抗体である。例えば、本発明のLAIR1特異的抗体はLAIR1に特異的である。いくつかの態様では、LAIR1に結合する抗体は、≦100nM、≦10nM、≦1nM、≦0.1nM、≦0.01nM、または≦0.001nM(例えば10-8M以下、例えば10-8M~10-13M、例えば10-9M~10-13M)の解離定数(Kd)を有する。本明細書において使用されるKdは、会合速度に対する解離速度の比(kOff/kon)を指し、例えばBiacoreなどの機器を使用して、表面プラズモン共鳴法を使用して決定することができる。
同じエピトープについて競合する抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合断片)の文脈において使用される場合の「競合する」という用語は、試験されている抗原結合タンパク質(例えば、抗体またはその抗原結合断片)が共通の抗原(例えば、LAIR1またはその断片)への参照抗原結合タンパク質(例えば、リガンドまたは参照抗体)の特異的結合を防止または阻害する(例えば、低減させる)アッセイにより決定される抗原結合タンパク質間の競合を意味する。ある抗原結合タンパク質が別の抗原結合タンパク質と競合するかどうかを決定するために多種類の競合結合アッセイを使用することができ、例えば、固相直接または間接ラジオイムノアッセイ(RIA)、固相直接または間接酵素免疫測定法(EIA)、サンドイッチ競合アッセイ(例えば、Stahli et al., 1983, Methods in Enzymology 9:242-253を参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Kirkland et al., 1986, J.Immunol.137:3614-3619を参照)固相直接標識アッセイ、固相直接標識サンドイッチアッセイ(例えば、Harlow and Lane, 1988, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Pressを参照);1~125個の標識を使用する固相直接標識RIA(例えば、Morel et al, 1988, Molec.Immunol.25:7-15を参照);固相直接ビオチン-アビジンEIA(例えば、Cheung, et al, 1990, Virology 176:546-552を参照);および直接標識RIA(Moldenhauer et al, 1990, Scand.J.Immunol.32:77-82)がある。典型的には、そのようなアッセイは、これらの非標識試験抗原結合タンパク質と標識参照抗原結合タンパク質のいずれかを有する、固体表面または細胞に結合した精製抗原の使用を伴う。競合阻害は、試験抗原結合タンパク質の存在下で固体表面または細胞に結合した標識の量を決定することにより測定される。通常、試験抗原結合タンパク質は過剰に存在する。競合アッセイにより同定される抗原結合タンパク質(競合抗原結合タンパク質)としては、参照抗原結合タンパク質と同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質および立体障害が起こるように参照抗原結合タンパク質が結合するエピトープの充分に近位にある隣接するエピトープに結合する抗原結合タンパク質が挙げられる。競合結合を決定する方法に関する追加の詳細は、本明細書において実施例にて提供される。通常、競合抗原結合タンパク質が過剰に存在する場合、それは共通の抗原への参照抗原結合タンパク質の特異的結合を少なくとも40~45%、45~50%、50~55%、55~60%、60~65%、65~70%、70~75%、または75%以上阻害する(例えば、低減させる)。いくつかの例では、結合は、少なくとも80~85%、85~90%、90~95%、95~97%、または97%以上阻害される。
本明細書において使用される「エピトープ」という用語は、抗体が結合する抗原上の原子またはアミノ酸の特定の群を指す。エピトープは、リニアエピトープまたはコンホメーショナルエピトープのいずれであってもよい。リニアエピトープは、抗原のアミノ酸の連続的な配列により形成され、それらの一次構造に基づいて抗体と相互作用する。他方、コンホメーショナルエピトープは、抗原のアミノ酸配列の不連続部分から構成され、抗原の3D構造に基づいて抗体と相互作用する。一般に、エピトープは約5または6アミノ酸の長さである。2つの抗体は、抗原について競合結合を呈する場合、抗原内の同じエピトープに結合し得る。
「宿主細胞」という用語は、核酸配列で形質転換され、または形質転換されることができ、それにより対象となる遺伝子を発現する、細胞を意味する。当該用語は、対象となる遺伝子が存在する限り、形態または遺伝的構成が元の親細胞と同一であるか否かによらず、親細胞の子孫を含む。
「同一性」という用語は、配列をアライメントして比較することにより決定される、2つ以上のポリペプチド分子または2つ以上の核酸分子の配列間の関係性を指す。「同一性パーセント」は、比較されている分子におけるアミノ酸間またはヌクレオチド間の同一の残基のパーセントを意味し、比較されている分子のうちの最小のもののサイズに基づいて算出される。これらの算出のために、アライメント中のギャップ(それがある場合)は、好ましくは、特定の数学モデルまたはコンピュータープログラム(すなわち、「アルゴリズム」)により対処される。アライメントされた核酸またはポリペプチドの同一性を算出するために使用できる方法としては、Computational Molecular Biology,(Lesk, A.M., ed.), 1988, New York:Oxford University Press; Biocomputing Informatics and Genome Projects,(Smith, D.W., ed.), 1993, New York:Academic Press; Computer Analysis of Sequence Data, Part I,(Griffin, A.M., and Griffin, H.G, eds.), 1994, New Jersey:Humana Press; von Heinje, G, 1987, Sequence Analysis in Molecular Biology, New York:Academic Press; Sequence Analysis Primer, (Gribskov, M.and Devereux, J., eds.), 1991, New York:M.Stockton Press; and Carillo et al, 1988, SIAM J.Applied Math.48:1073に記載されている方法が挙げられる。
同一性パーセントの算出において、比較される配列は、典型的には、配列間の最大のマッチを与えるようにアライメントされる。同一性パーセントを決定するために使用できるコンピュータープログラムの一例は、GAPを含むGCGプログラムパッケージである(Devereux et al, 1984, Nucl.Acid Res.12:387; Genetics Computer Group, University of Wisconsin, Madison, Wis.)。コンピューターアルゴリズムGAPは、配列同一性パーセントを決定すべき2つのポリペプチドまたはポリヌクレオチドをアライメントするために使用される。配列は、それらの各々のアミノ酸またはヌクレオチドの最適なマッチのためにアライメントされる(アルゴリズムにより決定される、「マッチしたスパン」)。ギャップ開始ペナルティ(平均対角の3倍として算出され、「平均対角」は使用されている比較マトリックスの対角の平均であり、「対角」は、特定の比較マトリックスにより各完璧なアミノ酸マッチに割り当てられるスコアまたは数である)およびギャップ伸張ペナルティ(通常、ギャップ開始ペナルティの1/10倍)の他に、比較マトリックス、例えばPAM 250またはBLOSUM 62がアルゴリズムと組み合わせて使用される。ある特定の態様では、標準比較マトリックス(PAM 250比較マトリックスについてDayhoff et al, 1978, Atlas of Protein Sequence and Structure 5:345-352; BLOSUM 62比較マトリックスについてHenikoff et al., 1992, Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.89:10915-10919を参照)もアルゴリズムにより使用される。
GAPプログラムを使用するポリペプチドまたはヌクレオチド配列の同一性パーセントの決定に用いることができるパラメーターの例は、Needleman et al, 1970, J.Mol.Biol.48:443-453に見出すことができる。
2つのアミノ酸配列をアライメントするためのある特定のアライメントスキームは、2つの配列の短い領域のみのマッチングをもたらすことがあり、この小さいアライメントされた領域は、2つの全長配列間に有意な関係性がない場合であっても非常に高い配列同一性を有することがある。したがって、選択されたアライメント方法(GAPプログラム)は、標的ポリペプチドの少なくとも50または他の数の連続するアミノ酸にわたるアライメントをもたらすよう、そのように所望される場合に調整することができる。
本明細書において使用される場合、「単離された」生物学的成分(核酸、ペプチドまたは細胞など)は、その成分が天然に存在する生物の他の生物学的成分または細胞、すなわち、他の染色体および染色体外DNAおよびRNA、細胞およびタンパク質から離れるように実質的に分離され、製造され、または精製されている。「単離された」核酸、ペプチドおよびタンパク質としては、したがって、標準的な精製方法により精製された核酸およびタンパク質が挙げられる。該用語はまた、宿主細胞中での組換え発現により調製された核酸、ペプチドおよびタンパク質の他に、化学合成された核酸を包含する。
「オリゴヌクレオチド」という用語は、200またはそれより少ないヌクレオチドを含むポリヌクレオチドを意味する。いくつかの態様では、オリゴヌクレオチドは10~60塩基の長さである。他の態様では、オリゴヌクレオチドは、12、13、14、15、16、17、18、19、または20~40ヌクレオチドの長さである。オリゴヌクレオチドは、一本鎖であってもよく、または例えば変異体遺伝子の構築において使用するために二本鎖であってもよい。オリゴヌクレオチドは、センスまたはアンチセンスオリゴヌクレオチドであってもよい。オリゴヌクレオチドは標識を含んでもよく、標識としては、検出アッセイのための放射性標識、蛍光標識、ハプテンまたは抗原標識が挙げられる。オリゴヌクレオチドは、例えば、PCRプライマー、クローニングプライマーまたはハイブリダイゼーションプローブとして使用することができる。
「機能的に連結される」という用語は、そのように記載された成分がそれらの通常の機能を行うように構成された構成要素の並びを指す。したがって、ポリペプチドに機能的に連結された所与のシグナルペプチドは、細胞からのポリペプチドの分泌を指示する。プロモーターの場合、コーディング配列に機能的に連結されたプロモーターは、コーディング配列の発現を指示する。プロモーターまたは他の制御エレメントは、それらがその発現を指示するように機能する限り、コーディング配列と連続する必要はない。例えば、プロモーター配列とコーディング配列との間に介在性の翻訳されないが転写される配列が存在してもよく、プロモーター配列はそれでもなお、コーディング配列に「機能的に連結され」ていると考えることができる。
「ポリヌクレオチド」または「核酸」という用語は、一本鎖および二本鎖の両方のヌクレオチドポリマーを含む。ポリヌクレオチドを構成するヌクレオチドは、リボヌクレオチドもしくはデオキシリボヌクレオシドまたはいずれかの種類のヌクレオチドの修飾形態であってもよい。前記修飾としては、塩基修飾、例えばブロモウリジンおよびイノシン誘導体、リボース修飾、例えば2’,3’-ジデオキシリボース、およびヌクレオチド間連結修飾、例えば、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、ホスホロセレノエート、ホスホロジセレノエート、ホスホロアニロチオエート、ホスホロアニラデートおよびホスホロアミデートが挙げられる。
「ポリペプチド」または「タンパク質」という用語は、天然タンパク質、すなわち、天然に存在する非組換え細胞により産生されるタンパク質のアミノ酸配列を有する高分子を意味し、またはそれは遺伝子操作されたもしくは組換え細胞により産生され、かつ天然タンパク質のアミノ酸配列を有する分子、または天然配列の1つもしくは複数のアミノ酸の欠失、付加、および/もしくは置換を有する分子を含む。該用語はまた、1つまたは複数のアミノ酸が、対応する天然に存在するアミノ酸およびポリマーの化学的なアナログである、アミノ酸ポリマーを含む。「ポリペプチド」および「タンパク質」という用語は、具体的には、LAIR1抗原結合タンパク質、抗体、または抗原結合タンパク質の1つもしくは複数のアミノ酸の欠失、付加、および/もしくは置換を有する配列を包含する。「ポリペプチド断片」という用語は、全長天然タンパク質と比較してアミノ末端の欠失、カルボキシル末端の欠失、および/または内部の欠失を有するポリペプチドを指す。そのような断片はまた、天然タンパク質と比較して改変されたアミノ酸を含有することができる。ある特定の態様では、断片は約5~500アミノ酸の長さである。例えば、断片は、少なくとも5、6、8、10、14、20、50、70、100、110、150、200、250、300、350、400、または450アミノ酸の長さであってもよい。有用なポリペプチド断片としては、結合ドメインなどの、抗体の免疫学的に機能的な断片が挙げられる。LAIR1結合抗体の場合、有用な断片としては、CDR領域、重鎖および/または軽鎖の可変ドメイン、2つのCDRを含む抗体鎖またはその可変領域のみの部分などが挙げられるがこれらに限定されない。
本発明において有用な薬学的に許容される担体は従来のものである。Remington’s Pharmaceutical Sciences, by E.W.Martin, Mack Publishing Co., Easton, PA, 15th Edition(1975)には、本明細書において開示される融合タンパク質の薬学的送達のために好適な組成物および配合物が記載されている。一般に、担体の性質は、用いられる特定の投与方式に依存する。例えば、非経口配合物は、通常、薬学的および生理学的に許容される液体、例えば、水、生理食塩水、平衡塩溶液、水性デキストロースまたはグリセロールなどをビヒクルとして含む注射液を含む。固体組成物(例えば、粉末、丸剤、錠剤、またはカプセル形態)について、従来の非毒性固体担体は、例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプンまたはステアリン酸マグネシウムを含むことができる。生物学的に中性の担体に加えて、投与される薬学的組成物は、微量の非毒性助剤物質、例えば、湿潤剤または乳化剤、防腐剤、およびpH緩衝剤など、例えば酢酸ナトリウムまたはソルビタンモノラウレートを含有することができる。
本明細書において使用される場合、「対象」という用語は、ヒトまたは任意の非ヒト動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマまたは霊長類動物)を指す。ヒトには、出生前および出生後の形態が含まれる。多くの態様では、対象は人間である。対象は患者であってもよく、患者は、疾患の診断または治療のために医療提供者に現れたヒトを指す。「対象」という用語は、「個体」または「患者」と交換可能に本明細書において使用される。対象は、疾患または障害に罹患しているまたは感受性であり得るが、疾患または障害の症状を示していてもよいし、示していなくてもよい。
本明細書において使用される場合、「有効量」または「治療有効量」は、任意の障害または疾患の症状および/または基礎となる原因を予防する、治療する、低減する、および/または改善するために充分な剤の量、または細胞に対して所望の効果を生じさせるために充分な剤の量を意味する。一態様では、「治療有効量」は、疾患の症状を低減するまたは取り除くために充分な量である。別の態様では、治療有効量は、疾患それ自体を克服するために充分な量である。
本明細書において使用される病態を「治療すること」またはその「治療」には、病態を予防もしくは軽減すること、病態の発症もしくはその発症速度を遅くすること、病態を発症するリスクを低減させること、病態に関連する症状の発症を予防するもしくは遅延させること、病態に関連する症状を低減するもしくは終了させること、病態の完全もしくは部分的な退縮をもたらすこと、病態を治癒すること、またはこれらのいくつかの組合せが含まれる。
本明細書において使用される場合、「ベクター」は、宿主細胞中に導入され、それにより形質転換された宿主細胞を生じさせる核酸分子を指す。ベクターは、宿主細胞中でその複製を可能とする核酸配列、例えば複製起点を含んでもよい。ベクターはまた、当技術分野において公知の1つまたは複数の治療遺伝子および/または選択マーカー遺伝子および他の遺伝因子を含んでもよい。ベクターは、細胞に形質導入し、細胞を形質転換させまたは細胞に感染し、それにより細胞にとって天然のもの以外の核酸および/またはタンパク質を細胞に発現させることができる。ベクターは、細胞内に核酸が入ることの達成を補助する材料、例えば、ウイルス粒子、リポソーム、タンパク質コーティングなどを含んでもよい。
抗LAIR1抗体
白血球関連免疫グロブリン様受容体1は、ヒトにおいてLAIR1遺伝子によりコードされるタンパク質である。LAIR1はCD305(分化クラスター305)とも称されてきた。LAIR1は、1つの細胞外Ig様ドメインおよび2つの細胞内ITIMを含有するI型膜貫通糖タンパク質である。LILRBをコードする遺伝子と同様、lair1は、ヒト染色体19q13.4上の白血球受容体複合体(LRC)に局在化している。LAIR1はコラーゲンに結合し、そのITIMがSHP-1およびSHP-2をリクルートする。LAIR1は、T細胞、B細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、マクロファージ、および樹状細胞の他に、ヒトCD34+細胞などの造血前駆細胞において発現される。LAIR1はAML幹細胞ならびに分化型AMLおよびALL細胞上で発現され、その阻害はAML-SC活性および白血病の発症をブロックすることを本発明者らは発見した。
一局面では、本開示は、LAIR1に結合しているときにLAIR1の活性をモジュレ―トするモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を提供する。本明細書に記載されているモノクローナル抗体を標準的な方法を使用して調製した後、スクリーニング、特徴付け、および機能評価を行った。ある特定の態様では、可変領域をシークエンシングした後、ヒト発現ベクターにサブクローニングしてキメラ抗体遺伝子を製造し、その後にそれを発現させて精製した。これらのキメラ抗体を抗原結合、シグナル伝達のブロック、異種移植実験において試験した。
A.一般的方法
LAIR1に結合するモノクローナル抗体はいくつかの用途を有することが理解されるであろう。用途としては、がんの検出および診断において使用するための診断キットの製造の他に、がん療法が挙げられる。これらの文脈において、そのような抗体を診断または治療剤と連結してもよく、それらを捕捉剤または競合アッセイにおける競合物として使用してもよく、または追加の剤をそれに結合させることなくそれらを個々に使用してもよい。抗体は、以下にさらに議論されるように、変異しまたは改変されてもよい。抗体を調製するためおよび特徴付けるための方法は当技術分野において周知である(例えば、Antibodies:A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988; U.S.Patent 4,196,265を参照)。
モノクローナル抗体(MAb)を生成する方法は、一般に、ポリクローナル抗体を調製する方法と同じ道筋に沿って始まる。これらの両方の方法の最初の工程は適切な宿主の免疫化である。当技術分野において周知の通り、免疫化のための所与の組成物は、その免疫原性が様々であり得る。したがって、多くの場合、宿主免疫系を増強することが必要であり、これはペプチドまたはポリペプチド免疫原をキャリアに連結させることにより達成され得る。例示的かつ好ましいキャリアは、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)およびウシ血清アルブミン(BSA)である。オボアルブミン、マウス血清アルブミン、またはウサギ血清アルブミンなどの他のアルブミンもまたキャリアとして使用することができる。キャリアタンパク質にポリペプチドをコンジュゲートさせるための手段は当技術分野において周知であり、グルタルアルデヒド、m-マレイミドベンゾイル-N-ヒドロキシスクシンイミドエステル、カルボジイミド、およびビスジアゾ化ベンジジンが挙げられる。これも当技術分野において周知の通り、アジュバントとして公知の免疫応答の非特異的刺激因子の使用により特定の免疫原組成物の免疫原性を増進させることができる。例示的かつ好ましいアジュバントとしては、完全フロイントアジュバント(殺傷した結核菌(Mycobacterium tuberculosis)を含有する免疫応答の非特異的刺激因子)、不完全フロイントアジュバント、および水酸化アルミニウムアジュバントが挙げられる。
ポリクローナル抗体の製造において使用される免疫原組成物の量は、免疫原の性質の他に、免疫化のために使用される動物に応じて異なる。免疫原を投与するために様々な経路を使用することができる(皮下、筋肉内、皮内、静脈内、および腹腔内)。ポリクローナル抗体の産生は、免疫化後の様々な時点に免疫化動物の血液をサンプリングすることによりモニタリングすることができる。第2のブースター注射を与えてもよい。増強および滴定の処理は、好適な力価が達成されるまで繰り返される。所望のレベルの免疫原性が得られた場合、免疫化された動物を出血させて血清を単離および貯蔵することができ、かつ/または動物を使用してMAbを生成することができる。
免疫化後に、抗体を産生する潜在能力を有する体細胞、具体的にはBリンパ球(B細胞)が、MAb生成プロトコールにおいて使用するために選択される。これらの細胞は、生検を行った脾臓もしくはリンパ節、または循環血液から得ることができる。次に、免疫化動物からの抗体産生Bリンパ球を不死骨髄腫細胞、一般に、免疫化された動物と同じ種の細胞またはヒトもしくはヒト/マウスキメラ細胞と融合させる。ハイブリドーマ製造融合手順において使用するために適した骨髄腫細胞株は、好ましくは、非抗体産生性であり、高い融合効率を有し、かつ所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖をサポートするある特定の選択培地中で増殖できなくさせる酵素欠損を有する。当業者に公知のように、数多くの骨髄腫細胞のいずれも使用することができる(Goding, pp.65-66, 1986; Campbell, pp.75-83, 1984)。
抗体産生脾臓またはリンパ節細胞と骨髄腫細胞とのハイブリッドを生成する方法は、通常、体細胞を骨髄腫細胞と2:1の割合で混合することを含むが、割合は、細胞膜の融合を促進する1つまたは複数の(化学的または電気的)剤の存在下でそれぞれ約20:1~約1:1で変化し得る。センダイウイルス(Sendai virus)を使用する融合方法がKohler and Milstein(1975; 1976)に記載されており、ポリエチレングリコール(PEG)、例えば37%(v/v)のPEGを使用する融合方法がGefter et al.(1977)に記載されている。電気的に誘導される融合方法の使用も適切である(Goding, pp.71-74, 1986)。融合手順は、通常、約1×10-6~1×10-8の低い頻度で生存可能なハイブリッドを生じさせる。しかしながら、生存可能な融合されたハイブリッドは、選択培地中での培養により親の非融合細胞(特に、通常無期限に***し続ける非融合骨髄腫細胞)から分化するため、これは問題とならない。選択培地は、一般に、組織培養培地中でのヌクレオチドのデノボ合成をブロックする剤を含有する培地である。例示的かつ好ましい剤は、アミノプテリン、メトトレキサート、およびアザセリンである。アミノプテリンおよびメトトレキサートはプリンおよびピリミジンの両方のデノボ合成をブロックする一方、アザセリンはプリンの合成のみをブロックする。アミノプテリンまたはメトトレキサートが使用される場合、ヌクレオチドの供給源としてヒポキサンチンおよびチミジンが培地に添加される(HAT培地)。アザセリンが使用される場合、培地にヒポキサンチンが添加される。B細胞供給源がエプスタインバーウイルス(EBV)形質転換ヒトB細胞株である場合、骨髄腫に融合されなかったEBV形質転換株を取り除くためにウアバインが加えられる。
好ましい選択培地は、HATまたはウアバインを含むHATである。ヌクレオチドサルベージ経路を作動することができる細胞のみがHAT培地中で生存することができる。骨髄腫細胞は、サルベージ経路の鍵となる酵素、例えばヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)を欠損し、生存することができない。B細胞はこの経路を作動することができるが、培養物中で限られた寿命を有し、一般に約2週間以内に死亡する。したがって、選択培地中で生存できる細胞のみが骨髄腫およびB細胞から形成されるハイブリッドである。今回の場合のように、融合のために使用されるB細胞の供給源がEBV形質転換B細胞の株である場合、EBV形質転換B細胞は薬物殺傷に感受性であるのでウアバインもハイブリッドの薬物選択のために使用される一方、使用される骨髄腫パートナーはウアバイン抵抗性であるように選択される。
培養によりハイブリドーマの集団が提供され、そこから特定のハイブリドーマが選択される。典型的には、ハイブリドーマの選択は、マイクロタイタープレート中での単一クローンの希釈により細胞を培養した後、所望の反応性について個々のクローンの上清(約2~3週後)を試験することにより行われる。アッセイは、ラジオイムノアッセイ、酵素イムノアッセイ、細胞傷害性アッセイ、プラークアッセイドット免疫結合アッセイなど、感度が高く、簡便かつ迅速なものであるべきである。次に、選択されたハイブリドーマを連続希釈し、または単一細胞をフローサイトメトリー選別により選別し、クローニングして個々の抗体産生細胞株とした後、クローンを無期限に繁殖させてmAbを提供することができる。細胞株は、2つの基本的な方法でMAbの製造のために活用することができる。ハイブリドーマの試料を動物(例えば、マウス)に(多くの場合、腹膜腔に)注射することができる。任意で、注射の前に炭化水素、特にプリスタン(テトラメチルペンダデカン)などの油で動物をプライミングする。ヒトハイブリドーマがこの方法で使用される場合、腫瘍拒絶を予防するために、SCIDマウスなどの免疫不全マウスに注射することが最適である。注射された動物は、融合した細胞ハイブリッドにより産生される特定のモノクローナル抗体を分泌する腫瘍を発生させる。次に、血清または腹水液などの動物の体液を採取して、高濃度でMAbを提供することができる。個々の細胞株をインビトロで培養することもでき、MAbが天然に培養培地中に分泌され、そこからMAbを高濃度で容易に得ることができる。あるいは、ヒトハイブリドーマ細胞株をインビトロで使用して細胞上清中に免疫グロブリンを産生させることができる。高純度のヒトモノクローナル免疫グロブリンを回収する能力を最適化するために、無血清培地中の増殖に細胞株を適合させることができる。
いずれかの手段により産生されたMAbを、必要であれば、濾過、遠心分離および様々なクロマトグラフィー法、例えばFPLCまたはアフィニティークロマトグラフィーを使用してさらに精製してもよい。本開示のモノクローナル抗体の断片は、酵素、例えばペプシンまたはパパインでの消化を含む方法により、および/または化学還元によるジスルフィド結合の分解により、精製されたモノクローナル抗体から得ることができる。あるいは、本開示に包含されるモノクローナル抗体断片は、自動ペプチド合成装置を使用して合成することができる。
分子クローニングアプローチを使用してモノクローナル抗体を生成してもよいことも企図されている。このために、RNAをハイブリドーマ株から単離し、抗体遺伝子をRT-PCRにより得、免疫グロブリン発現ベクターにクローニングすることができる。あるいは、コンビナトリアル免疫グロブリンファージミドライブラリーを細胞株から単離されたRNAから調製し、適切な抗体を発現するファージミドをウイルス抗原を使用するパニングにより選択する。従来のハイブリドーマ技術に対するこのアプローチの利点は、単一ラウンドで約104倍多くの抗体を製造およびスクリーニングできること、およびH鎖とL鎖の組合せにより新たな特異性が生成され、それが適切な抗体を発見する可能性をさらに増加させることである。
それぞれが参照することにより本明細書に組み入れられ、本開示において有用な抗体の製造を教示する、他の米国特許としては、コンビナトリアルアプローチを使用するキメラ抗体の製造を記載する米国特許第5,565,332号; 組換え免疫グロブリン調製物を記載する米国特許第4,816,567号; および抗体-治療剤コンジュゲートを記載する米国特許第4,867,973号が挙げられる。
B.本開示の抗体
1.LAIR1に対する抗体
本開示による抗体またはその抗原結合断片は、第1の例では、それらの結合特異性、この場合はLAIR1についての結合特異性により定義することができる。当業者は、当業者に周知の技術を使用して所与の抗体の結合特異性/親和性を評価することにより、そのような抗体が本願の請求項の範囲内に入るかどうかを決定することができる。
一局面では、LAIR1に特異的に結合する抗体および抗原結合断片が提供される。いくつかの態様では、LAIR1に結合しているときに、そのような抗体はLAIR1の活性化をモジュレ―トする。ある特定の態様では、抗体または抗原結合断片は、LAIR1に結合しているときにLAIR1を活性化させる。ある特定の態様では、抗体または抗原結合断片は、LAIR1に結合しているときにLAIR1の活性化を抑制する。ある特定の態様では、抗体または抗原結合断片は、LAIR1に結合しているときに、コラーゲンIとLAIR1との相互作用に特異的に干渉し、それを特異的にブロックしまたは低減させることができる。ある特定の態様では、本明細書において提供される抗体または抗原結合断片は、LAIR1のコラーゲン媒介性の活性を阻害することができる。ある特定の態様では、本明細書において提供される抗体または抗原結合断片は、LAIR1のコラーゲン媒介性の活性を増進させることができる。ある特定の態様では、本明細書において提供される抗体または抗原結合断片は、ヒトLAIR1(配列番号: 533)に特異的または選択的に結合する。
ある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、プラズモン共鳴結合アッセイにより測定される約10-6M以下(例えば、10-6M、10-8M、10-9M、10-10M、10-11M、10-12M、10-13M)の結合親和性でLAIR1に特異的に結合することができる。結合親和性はKD値により表すことができ、KD値は、抗原と抗原結合分子との結合が平衡に達した時の会合速度に対する解離速度の比(koff/kon)として算出される。抗原-結合親和性(例えば、KD)は、当技術分野において公知の好適な方法を使用して適切に決定することができ、該方法としては、例えば、Biacoreなどの機器を使用するプラズモン共鳴結合アッセイが挙げられる(例えば、Murphy, M.et al, Current protocols in protein science, Chapter 19, unit 19.14, 2006を参照)。
ある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、ELISAにより測定される0.001μg/ml~1μg/ml(例えば、0.001μg/ml~0.5μg/ml、0.001μg/ml~0.2μg/ml、0.001μg/ml~0.1μg/ml、0.01μg/ml~0.2μg/ml、0.01μg/ml~0.1μg/ml、0.01μg/ml~0.05μg/ml、0.01μg/ml~0.03μg/ml、または0.001μg/ml~0.01μg/ml)のEC50(すなわち、50%結合濃度)、またはFACSにより測定される0.01μg/ml~1μg/ml(例えば、0.01μg/ml~0.5μg/ml、0.01μg/ml~0.2μg/ml、0.05μg/ml~1μg/ml、0.05μg/ml~0.5μg/ml、または0.05μg/ml~0.2μg/ml)のEC50でLAIR1に結合することができる。LAIR1への抗体の結合は、当技術分野において公知の方法、例えば、ELISA、FACS、表面プラズモン共鳴、GSTプルダウン、エピトープタグ、免疫沈降、ファーウエスタン、蛍光共鳴エネルギー移動、時間分解蛍光イムノアッセイ(TR-FIA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素イムノアッセイ、ラテックス凝集、ウエスタンブロット、および免疫組織化学または他の結合アッセイにより測定することができる。説明的な例では、固定化されたLAIR1またはLAIR1を発現する細胞に試験抗体(すなわち、第1の抗体)を結合させ、未結合の抗体を洗浄除去した後、結合した第1の抗体に結合し、したがってその検出を可能とすることができる標識二次抗体を導入する。検出は、固定化されたLAIR1が使用される場合はマイクロプレートリーダーを用いて、またはLAIR1を発現する細胞が使用される場合はFACS分析を使用することにより、実行することができる。
いくつかの態様では、抗体または抗原結合断片は、LAIR1へのコラーゲンの結合のブロックについて1μΜ未満、1000nM~100nM、100nM~10nM、10nM~1nM、1000pM~500pM、500pM~200pM、200pM未満、200pM~150pM、200pM~100pM、100pM~10pM、10pM~1pMのIC50を有する。
いくつかの態様では、本明細書において提供される抗体または抗原結合断片は、表1に示される重鎖および軽鎖可変領域配列からのクローンペアのCDRを有する。そのような抗体は、本明細書に記載されている方法を使用して実施例セクションにおいて下記に議論されるクローンにより製造されてもよい。ある特定の態様では、各CDRは、CDRのKabatの定義、Chothiaの定義、Kabatの定義とChothiaの定義との組合せ、AbMの定義、またはcontactの定義にしたがって定義される。ある特定の態様では、抗体または抗原結合断片は、表2からのクローンペアの重鎖および軽鎖CDR配列により特徴付けられる。
ある特定の態様では、抗体は、追加の「フレームワーク」領域を含むそれらの可変配列により定義されてもよい。抗体は、表1からのクローンペアの重鎖および軽鎖アミノ酸配列により特徴付けられる。さらには、抗体配列は、特にCDRの外側の領域において、これらの配列から変更されてもよい。例えば、アミノ酸は、所与のパーセンテージ、例えば、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%または99%の相同性で上記のものから変更されてもよく、またはアミノ酸は、保存的置換(下記に議論される)を許容することにより上記のものから変更されてもよい。以上のそれぞれは表1のアミノ酸配列に適用される。別の態様では、本開示の抗体誘導体は、最大で0、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはそれより多くの保存的または非保存的アミノ酸置換を有するが、それでもなお所望の結合および機能的特性を呈するVLおよびVHドメインを含む。
本開示の抗体はIgGとして生成されたが、定常領域を改変してそれらの機能を変化させることが有用なことがある。抗体の定常領域は、典型的には、宿主組織または因子への抗体の結合を媒介し、該因子としては、免疫系の様々な細胞(例えば、エフェクター細胞)および古典的補体システムの第1の成分(Clq)が挙げられる。したがって、「抗体」という用語は、IgA型、IgG型、IgE型、IgD型、IgM型(およびこれらのサブタイプ)のインタクトな免疫グロブリンを含み、免疫グロブリンの軽鎖はκ型またはλ型であってもよい。軽鎖および重鎖内で、可変領域および定常領域は、約12またはそれより多くのアミノ酸の35の「J」領域により連結され、重鎖はまた、約10個のさらなるアミノ酸の「D」領域を含む。一般に、Fundamental Immunology Ch.7(Paul, W., ed., 2nd ed.Raven Press, N.Y.(1989)を参照されたい。
本開示は、本明細書において開示される抗体をコードする核酸にハイブリダイズする核酸をさらに含む。一般に、核酸は、本明細書において開示される抗体をコードする核酸、そしてまたLAIR1に特異的に結合する能力を維持する抗体をコードする核酸に中または高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズする。一本鎖形態の第1の核酸分子が温度および溶液イオン強度の適切な条件下で第2の核酸分子にアニールできる時に、第1の核酸分子は第2の核酸分子に「ハイブリダイズ可能」である(前記のSambrook et al.を参照)。温度およびイオン強度の条件は、ハイブリダイゼーションの「ストリンジェンシー」を決定する。典型的な中ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、40%のホルムアミド、5×または6×のSSCおよび0.1%のSDS、42℃である。高ストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件は、50%のホルムアミド、5×または6×のSSC(0.15MのNaClおよび0.015Mのクエン酸Na)、42℃、または任意でより高い温度(例えば、57℃、59℃、60℃、62℃、63℃、65℃または68℃)である。ハイブリダイゼーションは2つの核酸が相補的配列を含有することを必要とするが、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーに応じて、塩基間のミスマッチが可能である。核酸にハイブリダイズするための適切なストリンジェンシーは、核酸の長さおよび相補性の程度、当技術分野において周知の変数に依存する。2つのヌクレオチド配列間の類似性または相同性の程度が大きくなればなるほど、核酸がハイブリダイズし得るストリンジェンシーはより高くなる。100ヌクレオチドより大きい長さのハイブリッドについて、融解温度を算出するための式が導出されている(前記のSambrook et al.を参照)。より短い核酸、例えばオリゴヌクレオチドとのハイブリダイゼーションについて、ミスマッチの位置がより重要となり、オリゴヌクレオチドの長さがその特異性を決定する(前記のSambrook et al.を参照)。
2.例示的なエピトープ
別の局面では、本開示は、抗LAIR1抗体が結合するエピトープを提供する。
いくつかの態様では、本明細書に記載されている抗体が結合するエピトープは有用である。ある特定の態様では、本明細書において提供されるエピトープは、LAIR1に結合する抗体または抗原結合タンパク質を単離するために利用することができる。ある特定の態様では、本明細書において提供されるエピトープは、LAIR1に結合する抗体または抗原結合タンパク質を生成するために利用することができる。ある特定の態様では、エピトープまたは本明細書において提供されるエピトープを含む配列は、LAIR1に結合する抗体または抗原結合タンパク質を生成するために免疫原として利用することができる。ある特定の態様では、本明細書に記載されているエピトープまたは本明細書に記載されているエピトープを含む配列は、LAIR1の生物学的活性に干渉するために利用することができる。
いくつかの態様では、エピトープのいずれかに結合する抗体またはその抗原結合断片は特に有用である。いくつかの態様では、本明細書において提供されるエピトープは、抗体が結合した時にLAIR1の生物学的活性をモジュレ―トする。いくつかの態様では、本明細書において提供されるエピトープは、抗体が結合した時にLAIR1を活性化させる。いくつかの態様では、本明細書において提供されるエピトープは、抗体が結合した時にLAIR1の活性化を抑制する。いくつかの態様では、本明細書において提供されるエピトープは、抗体が結合した時にコラーゲンとLAIR1との相互作用をモジュレ―トする。
いくつかの態様では、抗体と接触するまたは抗体が覆い隠す残基を含有するドメイン/領域は、LAIR1中の特定の残基を変異させることおよび変異されたLAIR1タンパク質に抗体が結合できるかどうかを判定することにより同定することができる。多数の個々の変異を作製することにより、結合に直接的な役割を果たす残基または変異が抗体と抗原との結合に影響できるように抗体に充分に近接する残基を同定することができる。これらのアミノ酸の知識から、抗原結合タンパク質と接触するまたは抗体により覆われる残基を含有する抗原のドメインまたは領域を解明することができる。そのようなドメインは、抗原結合タンパク質の結合エピトープを含むことができる。
いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、LAIR1のIgドメイン(アミノ酸残基25~121)に特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、LAIR1のIgドメイン内に含有されるエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基25~47、53~81、88~96および/または102~119内に含有されるLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基30~34、45~47および/または88~89内に含有されるLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基37~41、116~119、98~105、59~63および/または66~71内に含有されるLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基30~34、37~41、45~47、59~63、66~71、88~89、98~105、108~110または116~119を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基35~36、44、53~56、64~65、73~81、89~96、106~107または111~115を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基25、35、56、65~68、73、75~77、80、89、93、106、107または109を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基59~69および/または100~112内に含有されるLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基59、61、65、67、68、69、100、102、109、111または112を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、アミノ酸残基59、61および109を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、LAIR1のアミノ酸残基61または62を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、LAIR1のアミノ酸残基68または69を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、LAIR1のアミノ酸残基61または62、65または66、および111または112を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。いくつかの態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、LAIR1のアミノ酸残基111または112を含むLAIR1のエピトープに特異的に結合することができる。
3.競合抗原結合タンパク質
別の局面では、本開示は、LAIR1への特異的結合について、本明細書に記載されているエピトープに結合する例示される抗体または抗原結合断片の1つと競合する抗原結合タンパク質を提供する。そのような抗原結合タンパク質はまた、本明細書において例示される抗体または抗原結合断片の1つと同じエピトープ、またはオーバーラップエピトープに結合することができる。例示される抗体と競合するまたは同じエピトープに結合する抗原結合タンパク質は、類似の機能的特性を示すことが予想される。例示される抗体としては、表1~5に列記される重鎖および軽鎖の可変領域およびCDRを有するものなど、上記される抗体が挙げられる。
C.抗体配列の操作
様々な態様において、発現の向上、交差反応性の向上、またはオフターゲット結合の減少などの様々な理由のために、同定された抗体の配列を操作することを選択することができる。以下は、抗体操作のための関連技術の一般的議論である。
ハイブリドーマを培養した後、細胞を溶解し、トータルRNAを抽出することができる。ランダムな六量体をRTで使用してRNAのcDNAコピーを生成させた後、全てのヒト可変遺伝子配列を増幅することが期待されるPCRプライマーのマルチプレックス混合物を使用してPCRを行うことができる。PCR生成物をpGEM-T Easyベクターにクローニングした後、標準的なベクタープライマーを使用する自動化されたDNAシークエンシングによりシークエンシングすることができる。ハイブリドーマ上清から回収され、Protein Gカラムを使用してFPLCにより精製された抗体を使用して結合および中和のアッセイを行うことができる。クローニングベクターからの重鎖および軽鎖Fv DNAをIgGプラスミドベクターにサブクローニングすることにより組換え全長IgG抗体を生成させ、HEK293細胞またはCHO細胞にトランスフェクトし、抗体をHEK293またはCHO細胞上清から回収および精製することができる。
最終cGMP製造方法と同じ宿主細胞および細胞培養方法において製造された抗体の迅速な利用可能性は、方法開発プログラムの期間を低減させる潜在能力を有する。
抗体分子は、例えば、mAbのタンパク質分解切断により製造される断片(F(ab')、F(ab')2など)、または、例えば組換え手段を介して製造可能な一本鎖免疫グロブリンを含む。そのような抗体誘導体は一価である。一態様では、そのような断片は、互いに組み合わせることができ、または他の抗体断片もしくは受容体リガンドと組み合わせて「キメラ」結合分子を形成させることができる。顕著なことに、そのようなキメラ分子は、同じ分子の異なるエピトープに結合できる置換基を含有してもよい。
1.抗原結合の改変
関連する態様では、抗体は、開示される抗体の誘導体、例えば、開示される抗体中のCDR配列と同一のCDR配列を含む抗体(例えば、キメラ抗体、またはCDRグラフト抗体)である。あるいは、抗体分子中への保存的変化の導入などの改変を行うことが望まれる場合がある。そのような変更の実施において、アミノ酸のハイドロパシー指数が考慮されうる。タンパク質への相互作用性生物学的機能の付与におけるハイドロパシーアミノ酸指数の重要性は、当技術分野において一般に理解されている(Kyte and Doolittle, 1982)。アミノ酸の相対的なハイドロパシーの特徴は、結果として得られるタンパク質の二次構造に寄与し、そしてそれがタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、受容体、DNA、抗体、抗原など)の相互作用を規定することが認められている。
同様のアミノ酸の置換は親水性に基づいて効果的に行うことができることも当技術分野において理解されている。参照することにより本明細書に組み入れられる米国特許第4,554,101号には、隣接するアミノ酸の親水性により支配されるタンパク質の最大の局所的な平均の親水性はタンパク質の生物学的特性と互いに関連することが述べられている。米国特許第4,554,101号に詳述されるように、以下の親水性の値がアミノ酸残基に割り当てられている:塩基性アミノ酸:アルギニン(+3.0)、リシン(+3.0)、およびヒスチジン(-0.5); 酸性アミノ酸:アスパラギン酸(+3.0±1)、グルタミン酸(+3.0±1)、アスパラギン(+0.2)、およびグルタミン(+0.2); 親水性非イオン性アミノ酸:セリン(+0.3)、アスパラギン(+0.2)、グルタミン(+0.2)、およびスレオニン(-0.4)、硫黄含有アミノ酸:システイン(-1.0)およびメチオニン(-1.3); 疎水性非芳香族アミノ酸:バリン(-1.5)、ロイシン(-1.8)、イソロイシン(-1.8)、プロリン(-0.5±1)、アラニン(-0.5)、およびグリシン(0); 疎水性芳香族アミノ酸:トリプトファン(-3.4)、フェニルアラニン(-2.5)、およびチロシン(-2.3)。
アミノ酸は、類似の親水性を有する別のアミノ酸を置換して、生物学的または免疫学的に改変されたタンパク質を生じさせることができることが理解されている。そのような変更では、親水性の値が±2以内のアミノ酸の置換が好ましく、±1以内のものが特に好ましく、±0.5以内のものが特によりいっそう好ましい。
上記に概要を述べたように、アミノ酸置換は、一般に、アミノ酸側鎖置換基の相対的な類似性、例えば、疎水性、親水性、電荷、サイズなどに基づく。様々な以上の特徴を考慮に入れた例示的な置換は当業者に周知であり、以下が挙げられる:アルギニンおよびリシン; グルタミン酸およびアスパラギン酸; セリンおよびスレオニン; グルタミンおよびアスパラギン; およびバリン、ロイシンおよびイソロイシン。
本開示はまた、アイソタイプ改変を企図している。異なるアイソタイプを有するようにFc領域を改変することにより、異なる機能を達成することができる。例えば、IgG1への変更は抗体依存性細胞傷害を増強することができ、クラスAへの切換えは組織分布を向上させることができ、クラスMへの切換えは結合価を向上させることができる。
改変された抗体は当業者に公知の任意の技術により調製することができ、該技術としては、標準的な分子生物学技術を通じた発現、またはポリペプチドの化学合成が挙げられる。組換え発現の方法はこの文献中の他の箇所で取り扱われる。
2.Fc領域の改変
本明細書において開示される抗体は、Fc領域内に改変を含むようにも操作することができ、これは典型的には、抗体の1つまたは複数の機能的特性、例えば、血清半減期、補体結合、Fc受容体結合、および/またはエフェクター機能(例えば、抗原依存性の細胞傷害)を変化させるためのものである。さらには、本明細書において開示される抗体は、これもまた抗体の1つまたは複数の機能的特性を変化させるために、化学的に修飾することができ(例えば、1つまたは複数の化学的部分を抗体に結合させることができる)、またはそのグリコシル化を変化させるように修飾することができる。これらの態様のそれぞれは以下にさらに詳細に記載されている。Fc領域中の残基のナンバリングは、KabatのEUインデックスのものである。本明細書において開示される抗体はまた、変化したエフェクター機能を提供するように改変された(またはブロックされた)Fc領域を有する抗体を含む。例えば、米国特許第5,624,821号; WO2003/086310; WO2005/120571; WO2006/0057702を参照されたい。そのような改変を使用して、免疫系の様々な反応を増進させまたは抑制することができ、診断および療法において有益な効果を有し得る。Fc領域の変更としては、アミノ酸変化(置換、欠失および挿入)、グリコシル化または脱グリコシル化(脱グリコシル化は非グリコシル化と称されることもある)、および複数のFcの付加が挙げられる。Fcの変更はまた、治療的抗体において抗体の半減期を変化させることができ、これはより少ない頻度の投薬、したがって簡便性の増加および材料の使用の減少を可能とする。この変異は、ヒンジ領域中の重鎖ジスルフィド架橋間の不均質性を無くすることが報告されている。
一態様では、CH1のヒンジ領域は、ヒンジ領域中のシステイン残基の数が増加または減少するように改変される。このアプローチは米国特許第5,677,425号にさらに記載されている。CH1のヒンジ領域中のシステイン残基の数を変更することにより、例えば、軽鎖および重鎖のアセンブリーが促進されて、抗体の安定性が増加または減少する。別の態様では、抗体は、その生物学的半減期を増加させるように改変される。様々なアプローチが可能である。例えば、米国特許第6,277,375号に記載されているように、以下の変異の1つまたは複数を導入することができる:T252L、T254S、T256F。あるいは、生物学的半減期を増加させるために、米国特許第5,869,046号および同第6,121,022号に記載されているように、抗体をCH1またはCL領域内で変化させて、IgGのFc領域のCH2ドメインの2つのループからのサルベージ受容体結合エピトープを含有させることができる。さらに他の態様では、Fc領域は、抗体のエフェクター機能を変化させるために、異なるアミノ酸残基で少なくとも1つのアミノ酸残基を置換することにより変更される。例えば、抗体がエフェクターリガンドについて変化した親和性を有するが親抗体の抗原結合能力を保持するように、アミノ酸残基234、235、236、237、297、318、320および322から選択される1つまたは複数のアミノ酸を異なるアミノ酸残基で置換することができる。親和性を変更させるエフェクターリガンドは、例えば、Fc受容体または補体のC1成分であり得る。このアプローチは、米国特許第5,624,821号および同第5,648,260号にさらに詳細に記載されている。
別の例では、アミノ酸位置231および239内の1つまたは複数のアミノ酸残基が変更されて、それにより抗体の補体結合能力が変更される。このアプローチは、PCT公開WO94/29351にさらに記載されている。さらに別の例では、Fc領域は、以下の位置:238、239、243、248、249、252、254、255、256、258、264、265、267、268、269、270、272、276、278、280、283、285、286、289、290、292、293、294、295、296、298、301、303、305、307、309、312、315、320、322、324、326、327、329、330、331、333、334、335、337、338、340、360、373、376、378、382、388、389、398、414、416、419、430、434、435、437、438または439の1つまたは複数のアミノ酸を改変することにより、抗体依存性細胞傷害(ADCC)を媒介する抗体の能力を増加もしくは減少させるためおよび/またはFcγ受容体についての抗体の親和性を増加もしくは減少させるために改変される。このアプローチは、PCT公開WO00/42072にさらに記載されている。さらに、FcγRI、FcγRII、FcγRIIIおよびFcRnについてのヒトIgG1上の結合部位がマッピングされており、また向上した結合性を有するバリアントが記載されている。位置256、290、298、333、334および339における特定の変異は、FcγRIIIに対する結合を向上させることが示された。さらに、以下の組合せの変異体は、FcγRIII結合を向上させることが示された:T256A/S298A、S298A/E333A、S298A/K224AおよびS298A/E333A/K334A。
一態様では、Fc領域は、残基243および264を改変することにより、エフェクター機能を媒介する抗体の能力を減少させかつ/または抗炎症特性を増加させるために改変される。一態様では、抗体のFc領域は、位置243および264における残基をアラニンに変更することにより改変される。一態様では、Fc領域は、残基243、264、267および328を改変することにより、エフェクター機能を媒介する抗体の能力を減少させかつ/または抗炎症特性を増加させるために改変される。さらに別の態様では、抗体は特定のグリコシル化パターンを含む。例えば、非グリコシル化された抗体を調製することができる(すなわち、抗体はグリコシル化を欠いている)。抗体のグリコシル化パターンを変化させて、例えば、抗原についての抗体の親和性またはアビディティを増加させることができる。そのような改変は、例えば、抗体配列内のグリコシル化部位の1つまたは複数を変化させることにより達成することができる。例えば、可変領域フレームワークグリコシル化部位の1つまたは複数の除去をもたらし、それによりその部位におけるグリコシル化を取り除く1つまたは複数のアミノ酸置換を行うことができる。そのようなグリコシル化は、抗原についての抗体の親和性またはアビディティを増加させ得る。例えば、米国特許第5,714,350号および同第6,350,861号を参照されたい。
グリコシル化パターンが低フコシル化または非フコシル化されたグリカンを含む抗体も調製することができ、低フコシル化された抗体または非フコシル化された抗体は、グリカン上のフコシル残基の量が低減されている。抗体はまた、増加した量の二分岐GlcNac構造を有するグリカンを含んでもよい。そのような変化したグリコシル化パターンは、抗体のADCC能力を増加させることが実証されている。そのような改変は、例えば、特定のグリコシル化パターンを有する糖タンパク質を産生するようにグリコシル化経路が遺伝子操作された宿主細胞中で抗体を発現させることにより達成することができる。これらの細胞は当技術分野において記載されており、本発明の組換え抗体を発現し、それにより変化したグリコシル化を有する抗体を製造するための宿主細胞として使用することができる。例えば、細胞株Ms704、Ms705、およびMs709はフコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8(α(1,6)-フコシルトランスフェラーゼ)を欠いており、それによりMs704、Ms705、およびMs709細胞株中で発現された抗体は、糖鎖上にフコースを欠いている。Ms704、Ms705、およびMs709 FUT8-/-細胞株は、2つの置換ベクターを使用するCHO/DG44細胞におけるFUT8遺伝子の標的破壊により作出された(米国特許出願公開第20040110704号を参照されたい。別の例として、EP1176195には、フコシルトランスフェラーゼをコードする機能的に破壊されたFUT8遺伝子を有する細胞株であって、そのような細胞株中で発現された抗体が、α-1,6結合関連酵素を低減させまたは取り除くことにより低フコシル化を呈する細胞株が記載されている。EP1176195にはまた、抗体のFc領域に結合するN-アセチルグルコサミンにフコースを加える酵素活性が低いまたは該酵素活性を有しない細胞株、例えばラット骨髄腫細胞株YB2/0(ATCC CRL 1662)が記載されている。PCT公開WO03/035835には、バリアントCHO細胞株、Lec13細胞が記載されており、これはAsn(297)連結糖鎖にフコースを結合させる能力が低減されており、その宿主細胞中で発現される抗体の低フコシル化ももたらす。改変されたグリコシル化プロファイルを有する抗体はまた、PCT公開WO06/089231に記載されているように、ニワトリ卵において製造することができる。あるいは、改変されたグリコシル化プロファイルを有する抗体は、植物細胞、例えばアオウキクサ属(Lemna)植物細胞中で製造することができる(米国特許第7,632,983号)。植物系における抗体の製造方法は、米国特許第6,998,267号および同第7,388,081号に開示されている。PCT公開WO99/54342には、糖タンパク質修飾性グリコシルトランスフェラーゼ(例えば、β(1,4)-N-アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼIII(GnTIII))を発現するように操作された細胞株が記載されており、操作された細胞株中で発現された抗体は、増加した二分岐GlcNac構造を呈し、抗体のADCC活性の増加をもたらす。
あるいは、フコシダーゼ酵素を使用して抗体のフコース残基を切り離すことができ、例えば、フコシダーゼα-L-フコシダーゼは抗体からフコシル残基を除去する。本明細書において開示される抗体は、哺乳動物様またはヒト様グリコシル化パターンを有する糖タンパク質を産生するように遺伝子操作された下等真核生物宿主細胞、特に真菌宿主細胞、例えば酵母および糸状真菌中で製造された抗体をさらに含む。現在使用されている哺乳動物細胞株に対するこれらの遺伝子改変された宿主細胞の特定の利点は、細胞中で産生される糖タンパク質のグリコシル化プロファイルを制御する能力であり、それにより特定のN-グリカン構造が支配的である糖タンパク質の組成物を製造することができる(例えば、米国特許第7,029,872号および同第7,449,308号を参照)。これらの遺伝子改変された宿主細胞は、支配的に特定のN-グリカン構造を有する抗体を製造するために使用されている。
加えて、真菌、例えば酵母または糸状真菌は、フコシル化糖タンパク質を産生する能力を欠いているので、そのような細胞中で産生された抗体は、フコシル化糖タンパク質を産生するための酵素経路を含むように細胞がさらに改変されない限り、フコースを欠く(例えば、PCT公開WO2008112092を参照)。特定の態様では、本明細書において開示される抗体は、下等真核宿主細胞中で製造され、フコシル化および非フコシル化ハイブリッドおよび複合体N-グリカンを含む抗体をさらに含み、該N-グリカンとしては、二分岐および多アンテナ(multiantennary)種が挙げられ、GlcNAc(1-4)Man3GlcNAc2; Gal(1-4)GlcNAc(1-4)Man3GlcNAc2; NANA(1-4)Gal(1-4)GlcNAc(1-4)Man3GlcNAc2などのN-グリカンが挙げられるがこれらに限定されない。特定の態様では、本明細書において提供される抗体組成物は、GlcNAcMan5GlcNAc2; GalGlcNAcMan5GlcNAc2; およびNANAGalGlcNAcMan5GlcNAc2からなる群より選択される少なくとも1つのハイブリッドN-グリカンを有する抗体を含んでもよい。特定の局面では、ハイブリッドN-グリカンは、組成物中の支配的なN-グリカン種である。さらなる局面では、ハイブリッドN-グリカンは、組成物中のハイブリッドN-グリカンの約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%を構成する特定のN-グリカン種である。
特定の態様では、本明細書において提供される抗体組成物は、GlcNAcMan3GlcNAc2; GalGlcNAcMan3GlcNAc2; NANAGalGlcN AcMan3 GlcNAc2; GlcNAc2Man3GlcNAc2; GalGlcNAc2Man3GlcNAc2; Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2; NANAGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2; およびNANA2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2からなる群より選択される少なくとも1つの複合体N-グリカンを有する抗体を含む。特定の局面では、複合体N-グリカンは、組成物中の支配的なN-グリカン種である。さらなる局面では、複合体N-グリカンは、組成物中の複合体N-グリカンの約30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、95%、97%、98%、99%、または100%を構成する特定のN-グリカン種である。特定の態様では、N-グリカンはフコシル化されている。一般に、フコースは、N-グリカンの還元末端においてGlcNAcとα1,3連結しており、N-グリカンの還元末端においてGlcNAcとα1,6連結しており、N-グリカンの非還元末端においてGalとα1,2連結しており、N-グリカンの非還元末端においてGlcNacとα1,3連結しており、またはN-グリカンの非還元末端においてGlcNAcとα1,4連結している。
したがって、上記糖タンパク質組成物の特定の局面では、グリコフォームは、α1,3連結またはα1,6連結フコースであって、Man5GlcNAc2(Fuc)、GlcNAcMan5GlcNAc2(Fuc)、Man3GlcNAc2(Fuc)、GlcNAcMan3GlcNAc2(Fuc)、GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)、GalGlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)、Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)、NANAGal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)、およびNANA2Gal2GlcNAc2Man3GlcNAc2(Fuc)からなる群より選択されるグリコフォームを生じさせ; α1,3連結またはα1,4連結フコースであって、GlcNAc(Fuc)Man5GlcNAc2、GlcNAc(Fuc)Man3GlcNAc2、GlcNAc2(Fuc1-2)Man3GlcNAc2、GalGlcNAc2(Fuc1-2)Man3GlcNAc2、Gal2GlcNAc2(Fuc1-2)Man3GlcNAc2、NANAGal2GlcNAc2(Fuc1-2)Man3GlcNAc2、およびNANA2Gal2GlcNAc2(Fuc1-2)Man3GlcNAc2からなる群より選択されるグリコフォームを生じさせ; またはα1,2連結フコースであって、Gal(Fuc)GlcNAc2Man3GlcNAc2、Gal2(Fuc1-2)GlcNAc2Man3GlcNAc2、NANAGal2(Fuc1-2)GlcNAc2Man3GlcNAc2、およびNANA2Gal2(Fuc1-2)GlcNAc2Man3GlcNAc2からなる群より選択されるグリコフォームを生じさせる。
さらなる局面では、抗体は高マンノースN-グリカンを含み、これには、Man8GlcNAc2、Man7GlcNAc2、Man6GlcNAc2、Man5GlcNAc2、Man4GlcNAc2、またはMan3GlcNAc2 N-グリカン構造からなるN-グリカンが含まれるがこれらに限定されない。上記のさらなる局面では、複合体N-グリカンは、フコシル化および非フコシル化された二分岐および多アンテナの種をさらに含む。本明細書において使用される場合、「N-グリカン」および「グリコフォーム」という用語は交換可能に使用され、N連結オリゴサッカリド、例えば、ポリペプチドのアスパラギン残基へのアスパラギン-Nアセチルグルコサミン連結により結合したものを指す。N連結糖タンパク質は、タンパク質中のアスパラギン残基のアミド窒素に連結したN-アセチルグルコサミン残基を含有する。
D.一本鎖抗体
単鎖可変断片(scFv)は、短い(通常、セリン、グリシン)リンカーと共に連結した免疫グロブリンの重鎖および軽鎖の可変領域の融合物である。このキメラ分子は、定常領域の除去およびリンカーペプチドの導入にもかかわらず、元々の免疫グロブリンの特異性を保持する。この改変は、通常、変化されないまま特異性を残す。これらの分子は歴史的に、単一のペプチドとして抗原結合ドメインを発現することが高度に簡便であるファージディスプレイを促進するために作出された。あるいは、scFvは、ハイブリドーマに由来するサブクローニングされた重鎖および軽鎖から直接的に作出することができる。単鎖可変断片は、完全抗体分子中に見出され、したがって抗体を精製するために使用される一般的な結合部位(例えば、タンパク質A/G)である定常Fc領域を欠いている。プロテインLはκ軽鎖の可変領域と相互作用するので、これらの断片は、多くの場合、プロテインLを使用して精製/固定化することができる。
フレキシブルリンカーは、一般に、ヘリックスおよびターン促進性アミノ酸残基、例えば、アラニン、セリンおよびグリシンから構成される。しかしながら、他の残基もまた機能することができる。Tang et al.(1996)は、タンパク質リンカーライブラリーから一本鎖抗体(scFv)用に特化したリンカーを迅速に選択する手段としてファージディスプレイを使用した。重鎖および軽鎖可変ドメイン用の遺伝子が可変組成物の18アミノ酸ポリペプチドをコードするセグメントにより連結されたランダムリンカーライブラリーが構築された。scFvレパートリー(約5×106個の異なるメンバー)が糸状ファージ上に提示され、ハプテンでの親和性選択に供された。選択されたバリアントの集団は結合活性の有意な増加を呈したが、かなりの配列多様性を保持した。1054種の個々のバリアントのスクリーニングは、可溶性形態で効率的に製造された触媒活性scFvをその後にもたらした。配列解析により、選択されたテザーの唯一の共通の特徴としてVHのC末端の後のリンカーの2残基における保存されたプロリンおよび他の位置における多数のアルギニンおよびプロリンが明らかになった。
本開示の組換え抗体はまた、受容体の二量体化または多量体化を可能とする配列または部分を伴ってもよい。そのような配列としては、J鎖との組合せで多量体の形成を可能とする、IgAに由来する配列が挙げられる。別の多量体化ドメインはGal4二量体化ドメインである。他の態様では、鎖は、2つの抗体の組合せを可能とする剤、例えばビオチン/アビジンで修飾されてもよい。
別の態様では、一本鎖抗体は、非ペプチドリンカーまたは化学ユニットを使用して受容体の軽鎖および重鎖を連結することにより作出することができる。一般に、軽鎖および重鎖は別個の細胞において製造され、精製され、その後に適切な方法で連結されて一緒にされる(すなわち、適切な化学的架橋を介して重鎖のN末端が軽鎖のC末端に取り付けられる)。
2つの異なる分子の官能基を結び付ける分子架橋を形成させるために架橋試薬、例えば、安定化剤および凝固剤が使用される。しかしながら、同じアナログの二量体もしくは多量体または異なるアナログから構成されるヘテロマー複合体を作出できることが企図されている。工程毎の方法で2つの異なる化合物を連結させるために、望ましくないホモポリマー形成を取り除くヘテロ二機能性架橋剤を使用することができる。
例示的なヘテロ二機能性架橋剤は2つの反応性基を含有し、1つは第一級アミン基(例えば、N-ヒドロキシスクシンイミド)と反応し、他方はチオール基(例えば、ピリジルジスルフィド、マレイミド、ハロゲンなど)と反応する。第一級アミン反応性基を通じて、架橋剤は1つのタンパク質(例えば、選択された抗体または断片)のリシン残基と反応してもよく、チオール反応性基を通じて、第1のタンパク質に既に結び付けられた架橋剤は、他のタンパク質(例えば、選択的な剤)のシステイン残基(遊離スルフヒドリル基)と反応する。
血液中で合理的な安定性を有する架橋剤が用いられることが好ましい。ターゲティング剤と治療/予防剤とをコンジュゲートさせるための使用に成功することができる多種類のジスルフィド結合含有リンカーが公知である。立体障害を受けるジスルフィド結合を含有するリンカーはインビボでより大きな安定性を与えて、作用部位に達する前のターゲティングペプチドの放出を防ぐことがある。したがって、これらのリンカーは連結剤の一群である。
別の架橋試薬はSMPTであり、これは隣接するベンゼン環およびメチル基により「立体障害を受ける」ジスルフィド結合を含有する二機能性架橋剤である。ジスルフィド結合の立体障害は、組織および血液中に存在し得るグルタチオンなどのチオレートアニオンによる攻撃から結合を保護する機能を果たし、それにより、結合した剤の標的部位への送達の前のコンジュゲートの脱連結の防止を助けると考えられる。
多くの他の公知の架橋試薬と同様に、SMPT架橋試薬は、システインのSHまたは第一級アミン(例えば、リシンのイプシロンアミノ基)などの官能基を架橋する能力を与える。別の可能な種類の架橋剤としては、切断性ジスルフィド結合を含有するヘテロ二機能性の光反応性フェニルアジド、例えばスルホスクシンイミジル-2-(p-アジドサリチルアミド)エチル-1,3’-ジチオプロピオネートが挙げられる。N-ヒドロキシ-スクシンイミジル基は第一級アミノ基と反応し、フェニルアジドは(光分解により)任意のアミノ酸残基と非選択的に反応する。
障害を受ける架橋剤に加えて、障害を受けないリンカーも本発明にしたがって用いることができる。保護されたジスルフィドを含有または生成するとは考えられない他の有用な架橋剤としては、SATA、SPDP、および2-イミノチオランが挙げられる(Wawrzynczak&Thorpe, 1987)。そのような架橋剤の使用は当技術分野においてよく理解されている。別の実施形態は、フレキシブルリンカーの使用を伴う。
米国特許第4,680,338号には、アミン含有ポリマーおよび/またはタンパク質とのリガンドのコンジュゲートを製造するため、特に、キレーター、薬物、酵素、検出可能な標識などとの抗体コンジュゲートを形成させるために有用な二機能性リンカーが記載されている。米国特許第5,141,648号および同第5,563,250号には、様々な穏やかな条件下で切断可能な不安定な結合を含有する切断性コンジュゲートが開示されている。このリンカーは、対象となる剤がリンカーに直接的に結合されて、切断が活性剤の放出をもたらし得る点で特に有用である。特定の使用としては、遊離アミノまたは遊離スルフヒドリル基をタンパク質、例えば抗体、または薬物に付加することが挙げられる。
米国特許第5,856,456号は、融合タンパク質、例えば一本鎖抗体を調製するためのポリペプチド構成要素の接続に使用するためのペプチドリンカーを提供する。リンカーは最大約50アミノ酸の長さであり、荷電アミノ酸(好ましくはアルギニンまたはリシン)の後にプロリンの少なくとも1つの存在を含有し、かつより大きな安定性および低減された凝集により特徴付けられる。米国特許第5,880,270号には、様々な免疫診断および分離技術において有用なアミノオキシ含有リンカーが開示されている。
E.精製
ある特定の態様では、本開示の抗体は精製されてもよい。「精製された」という用語は、本明細書において使用される場合、他の成分から単離可能な組成物であって、タンパク質がその天然に得られ得る状態と比べて任意の程度まで精製された組成物を指すことが意図される。したがって、精製されたタンパク質はまた、それが天然に存在し得る環境から解放されたタンパク質を指す。「実質的に精製された」という用語が使用される場合、この指定は、タンパク質またはペプチドが組成物の主成分を形成し、例えば、組成物中のタンパク質の約50%、約60%、約70%、約80%、約90%、約95%、またはそれより多くを構成する組成物を指す。
タンパク質精製技術は当業者に周知である。これらの技術は、1つのレベルでは、ポリペプチドおよび非ポリペプチド画分への細胞環境の粗分別を伴う。他のタンパク質からポリペプチドを分離したら、クロマトグラフィーおよび電気泳動技術を使用して対象となるポリペプチドをさらに精製し、部分的または完全な精製(または均一までの精製)を達成することができる。純粋なペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動である。タンパク質精製のための他の方法としては、硫酸アンモニウム、PEG、抗体など、または熱変性による沈殿の後の遠心分離; ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイトおよびアフィニティークロマトグラフィー; ならびにそのような技術および他の技術の組合せが挙げられる。
本開示の抗体の精製において、原核または真核発現系においてポリペプチドを発現させ、変性条件を使用してタンパク質を抽出することが望ましい場合がある。ポリペプチドは、ポリペプチドのタグ付き部分に結合する親和性カラムを使用して他の細胞成分から精製することができる。当技術分野において一般に公知のように、様々な精製工程を実行する順序は変更してもよく、またはある特定の工程を省略してもよく、それでもなお実質的に精製されたタンパク質またはペプチドの調製のための好適な方法をもたらすと考えられる。
一般的に、完全抗体は、抗体のFc部分に結合する剤(すなわち、プロテインA)を利用して分画される。あるいは、抗原を使用して適切な抗体を同時に精製および選択してもよい。そのような方法は、多くの場合、カラム、フィルターまたはビーズなどの支持体に結合した選択剤を利用する。抗体を支持体に結合させ、汚染物を除去し(例としては例えば、洗浄除去し)、条件(塩、熱など)を適用することにより抗体を放出させる。
タンパク質またはペプチドの精製の程度を定量化する様々な方法は本開示に照らして当業者に公知であろう。これらには、例えば、活性画分の比活性を決定すること、またはSDS/PAGE解析により画分内のポリペプチドの量を評価することが含まれる。画分の純度を評価する別の方法は、画分の比活性を算出し、それを初期抽出物の比活性と比較し、したがって純度の程度を算出することである。活性の量を表すために使用される実際の単位は、当然、精製にしたがって選択された特定のアッセイ技術、および発現されたタンパク質またはペプチドが検出可能な活性を呈するか否かに依存する。
ポリペプチドの泳動は、異なる条件のSDS/PAGEを用いることで、時に著しく、変化し得ることが公知である(Capaldi et al., 1977)。したがって、異なる電気泳動条件下で、精製または部分精製された発現産物の見かけの分子量は変化し得ることが理解されるであろう。
F.抗体組成物
本開示はまた、抗LAIR1抗体および/またはそれを生成するための抗原を含む組成物を提供する。
1.薬学的組成物
本明細書において提供される薬学的組成物は、予防または治療有効量の抗体またはその断片、および薬学的に許容される担体を含む。特定の態様では、「薬学的に許容される」という用語は、動物、より具体的にはヒトにおいて使用するために連邦もしくは州政府の規制機関により承認され、または米国薬局方もしくは他の一般に認識される薬局方に列記されることを意味する。「担体」という用語は、治療剤がそれと共に投与される希釈剤、賦形剤、またはビヒクルを指す。そのような薬学的担体は、無菌の液体、例えば水および油であってもよく、石油、動物、野菜または合成起源のもの、例えば、ピーナッツ油、大豆油、鉱油、ゴマ油などが挙げられる。水は、薬学的組成物が静脈内に投与される場合の特定の担体である。食塩水溶液および水性デキストロースおよびグリセロール溶液もまた液体担体、特に注射溶液用の液体担体として用いることができる。他の好適な薬学的賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、コメ、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、モノステアリン酸グリセロール、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが挙げられる。
所望の場合、組成物は、微量の湿潤剤もしくは乳化剤、またはpH緩衝剤も含有することができる。これらの組成物は、溶液、懸濁液、エマルション、錠剤、丸剤、カプセル、粉末、持続放出配合物などの形態をとることができる。経口配合物は、標準的な担体、例えば、薬学的グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどを含むことができる。好適な薬学的剤の例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、患者への適切な投与のための形態を提供するように好適な量の担体と共に、好ましくは精製された形態の、予防または治療有効量の抗体またはその断片を含有する。配合物は投与方式に適するべきであり、投与方式は、経口、静脈内、動脈内、頬内、鼻腔内、噴霧、気管支吸入、または機械的換気による送達であり得る。
本明細書に記載されている本開示の抗体は、非経口投与のために配合することができ、例えば、皮内、静脈内、筋肉内、皮下、腫瘍内または腹腔内経路を介した注射のために配合することができる。抗体は、代替的に、粘膜に直接的に局所経路により、例えば、点鼻、吸入、またはネブライザーにより投与されてもよい。薬学的に許容される塩としては、酸の塩および無機酸、例えば塩酸もしくはリン酸、または有機酸、例えば、酢酸、シュウ酸、酒石酸、マンデル酸などと形成された塩が挙げられる。遊離カルボキシル基と形成された塩はまた、無機塩基、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、または水酸化第二鉄、および有機塩基、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来してもよい。
人為的獲得受動免疫として公知である抗体の受動的移入は、一般に、静脈注射の使用を伴う。抗体の形態は、静脈内(IVIG)または筋肉内(IG)の使用のためのプールされたヒト免疫グロブリンとして、免疫化されたまたは疾患から回復しているドナーからの高力価ヒトIVIGまたはIGとして、およびモノクローナル抗体(MAb)としての、ヒトまたは動物の血漿または血清であり得る。そのような免疫は、一般に、短期間しか続かず、過敏反応、および血清病、特に非ヒト起源のガンマグロブリンからの血清病の潜在的なリスクもある。しかしながら、受動免疫は即時の保護を提供する。抗体は、注射のために好適な、すなわち無菌の注射針を通過可能な担体中に配合される。
一般に、本開示の組成物の成分は、例えば、気密密封容器、例えば、活性剤の量を示すアンプルまたはサシェ中に、例えば、凍結乾燥粉末または無水濃縮物として別々にまたは単位投与剤形中に一緒に混合されて供給される。組成物が注入により投与される場合、無菌の薬学的グレードの水または食塩水を含有する注入ボトルを用いて分配することができる。組成物が注射により投与される場合、成分が投与の前に混合され得るように注射用の滅菌水または食塩水のアンプルを提供することができる。
本開示の組成物は、中性または塩の形態として配合することができる。薬学的に許容される塩としては、アニオン、例えば、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来するアニオンと形成された塩、およびカチオン、例えば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2-エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来するカチオンと形成された塩が挙げられる。
2.抗体コンジュゲート
本開示の抗体は、少なくとも1つの剤と連結させて抗体コンジュゲートを形成させることができる。診断または治療剤としての抗体分子の有効性を増加させるために、少なくとも1つの所望の分子または部分を連結させまたは共有結合させまたは複合体化させることが慣例として為されている。そのような分子または部分は、少なくとも1つのエフェクターまたはレポーター分子であってもよいがこれらに限定されない。エフェクター分子は、所望の活性、例えば細胞傷害活性を有する分子を含む。抗体に取り付けられたエフェクター分子の非限定的な例としては、毒素、抗腫瘍剤、治療酵素、放射性核種、抗ウイルス剤、キレート剤、サイトカイン、成長因子、およびオリゴまたはポリヌクレオチドが挙げられる。対照的に、レポーター分子は、アッセイを使用して検出され得る任意の部分として定義される。抗体にコンジュゲートされたレポーター分子の非限定的な例としては、酵素、放射性標識、ハプテン、蛍光標識、リン光性分子、化学発光分子、発色団、光親和性分子、有色粒子またはリガンド、例えばビオチンが挙げられる。
抗体コンジュゲートは、一般に、診断剤としての使用のために好ましい。抗体診断は、一般に、2つのクラス内に入り、すなわち、インビトロ診断、例えば様々なイムノアッセイにおいて使用するためのもの、および一般に「抗体指向性イメージング」(antibody-directed imaging)として公知の、インビボ診断プロトコールにおいて使用するためのものである。多くの適切なイメージング剤が当技術分野において公知であり、抗体へのそれらの取付け方法についても同様である(例えば、米国特許第5,021,236号、同第4,938,948号、および同第4,472,509号を参照)。使用されるイメージング部分は、常磁性イオン、放射活性同位体、蛍光色素、NMRで検出可能な物質、およびX線イメージング剤であり得る。
常磁性イオンの場合、例として、クロム(III)、マンガン(II)、鉄(III)、鉄(II)、コバルト(II)、ニッケル(II)、銅(II)、ネオジム(III)、サマリウム(III)、イッテルビウム(III)、ガドリニウム(III)、バナジウム(II)、テルビウム(III)、ジスプロシウム(III)、ホルミウム(III)および/またはエルビウム(III)などのイオンが挙げられ、ガドリニウムが特に好ましい。X線イメージングなどの他の文脈で有用なイオンとしては、ランタン(III)、金(III)、鉛(II)、および特にビスマス(III)が挙げられるがこれらに限定されない。
治療および/または診断への応用のための放射活性同位体の場合、アスタチン211、14炭素、51クロム、36塩素、57コバルト、58コバルト、銅67、152Eu、ガリウム67、3水素、ヨウ素123、ヨウ素125、ヨウ素131、インジウム111、59鉄、32リン、レニウム186、レニウム188、75セレニウム、35硫黄、テクニシウム99mおよび/またはイットリウム90が挙げられる。125Iは、多くの場合、ある特定の態様における使用のために好ましく、テクニシウム99mおよび/またはインジウム111もまた、多くの場合、低いエネルギーおよび長距離検出のための好適性により好ましい。放射性標識された本開示のモノクローナル抗体は、当技術分野における周知の方法にしたがって製造することができる。例えば、モノクローナル抗体は、ヨウ化ナトリウムおよび/またはカリウムならびに化学的酸化剤、例えば次亜塩素酸ナトリウム、または酵素酸化剤、例えばラクトペルオキシダーゼと接触させることによりヨウ素化することができる。本開示によるモノクローナル抗体は、リガンド交換法により、例えば、過テクネチウム酸(pertechnate)を第一スズ溶液で還元し、還元したテクネチウムをSephadexカラムにキレートさせ、かつこのカラムに抗体を適用することにより、テクネチウム99mで標識されてもよい。あるいは、例えば、過テクネチウム酸、還元剤、例えばSNCl2、緩衝溶液、例えばフタル酸ナトリウム-カリウム溶液、および抗体をインキュベートすることにより、直接的な標識化技術を使用してもよい。金属イオンとして存在する放射性同位体を抗体に結合させるために多くの場合に使用される中間体官能基は、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)またはエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)である。
コンジュゲートとして使用するために企図されている蛍光標識としては、Alexa 350、Alexa 430、AMCA、BODIPY 630/650、BODIPY 650/665、BODIPY-FL、BODIPY-R6G、BODIPY-TMR、BODIPY-TRX、Cascade Blue、Cy3、Cy5,6-FAM、フルオレセインイソチオシアネート、HEX、6-JOE、Oregon Green 488、Oregon Green 500、Oregon Green 514、Pacific Blue、REG、Rhodamine Green、Rhodamine Red、Renographin、ROX、TAMRA、TET、テトラメチルローダミン、および/またはTexas Redが挙げられる。
本開示において企図されている別の種類の抗体コンジュゲートは、主にインビトロでの使用のために意図されるものであり、その場合、抗体は、二次結合リガンドおよび/または発色基質との接触により有色生成物を生成する酵素(酵素タグ)に連結される。好適な酵素の例としては、ウレアーゼ、アルカリホスファターゼ、(ホースラディッシュ)水素ペルオキシダーゼまたはグルコースオキシダーゼが挙げられる。好ましい二次結合リガンドは、ビオチンならびにアビジンおよびストレプトアビジン化合物である。そのような標識の使用は当業者に周知であり、例えば、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号および同第4,366,241号に記載されている。
抗体への分子の部位特異的取付けのさらに別の公知の方法は、ハプテンベースの親和性標識との抗体の反応を含む。本質的に、ハプテンベースの親和性標識は抗原結合部位中のアミノ酸と反応し、それによりこの部位を破壊しかつ特定の抗原反応をブロックする。しかしながら、これは抗体コンジュゲートによる抗原結合の損失をもたらすので、有利でないことがある。
アジド基を含有する分子もまた、低強度紫外光により生成される反応性ニトレン中間体を通じてタンパク質への共有結合を形成するために使用されてもよい(Potter and Haley, 1983)。特に、プリンヌクレオチドの2-および8-アジドアナログは、粗細胞抽出物中のヌクレオチド結合タンパク質を同定するための部位指向性光プローブ(site-directed photoprobe)として使用されている(Owens&Haley, 1987; Atherton et al, 1985)。2-および8-アジドヌクレオチドは、精製されたタンパク質のヌクレオチド結合ドメインをマッピングするためにも使用されており(Khatoon et al, 1989; King et al, 1989; Dholakia et al, 1989)、抗体結合剤として使用することができる。
抗体のそのコンジュゲート部分への取付けまたはコンジュゲートのためのいくつかの方法が当技術分野において公知である。いくつかの取付け方法は、例えば、抗体に取り付けられた有機キレート剤、例えば、ジエチレントリアミンペンタ酢酸無水物(DTPA); エチレントリアミンテトラ酢酸; N-クロロ-p-トルエンスルホンアミド; および/またはテトラクロロ-3α-6α-ジフェニルグリコウリル(diphenylglycouril)-3を用いる金属キレート錯体の使用を伴う(米国特許第4,472,509号および同第4,938,948号)。モノクローナル抗体はまた、カップリング剤、例えばグルタルアルデヒドまたは過ヨウ素酸塩の存在下で酵素と反応させてもよい。フルオレセインマーカーとのコンジュゲートは、これらのカップリング剤の存在下でまたはイソチオシアネートとの反応により調製される。米国特許第4,938,948号では、モノクローナル抗体を使用して***腫瘍のイメージングが達成されており、検出可能なイメージング部分は、リンカー、例えばメチル-p-ヒドロキシベンズイミデートまたはN-スクシンイミジル-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートを使用して抗体に結合されている。
他の態様では、抗体の組合せ部位を変化させない反応条件を使用して免疫グロブリンのFc領域中にスルフヒドリル基を選択的に導入することによる免疫グロブリンの誘導体化が企図される。この方法論にしたがって製造される抗体コンジュゲートは、向上した寿命、特異性および感度を呈することが開示されている(米国特許第5,196,066号; 参照することにより本明細書に組み入れられる)。レポーターまたはエフェクター分子がFc領域中の炭化水素残基にコンジュゲートされるエフェクターまたはレポーター分子の部位特異的取付けもまた文献に開示されている(O’Shannessy et al, 1987)。このアプローチは、現在臨床評価されている診断的および治療的に有望な抗体を製造することが報告されている。
G.使用方法
本開示は、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を使用する方法をさらに提供する。
1.がんの治療
がん
過剰増殖性疾患は、細胞が制御不能に増殖し始めることを引き起こす任意の疾患に関連付けることができるが、その原型的な例はがんである。がんの鍵となる構成要素の1つは、細胞の正常なアポトーシス周期が妨害され、したがって細胞の増殖を妨害する剤がこれらの疾患を治療するための治療剤として重要であることである。ここで、可能性のある必要条件は、がん細胞の表面上、特にがん幹細胞の表面上、またはLAIR1のそのような存在により阻害される免疫細胞の表面上にLAIR1が存在することである。
本開示にしたがって治療され得るがん細胞としては、膀胱、血液、骨、骨髄、脳、***、結腸、食道、胃腸、歯肉、頭、腎臓、肝臓、肺、鼻咽頭、頸部、卵巣、前立腺、皮膚、胃、膵臓、精巣、舌、子宮頸部、または子宮からの細胞が挙げられるがこれらに限定されない。加えて、がんは具体的には、これらに限定されないが以下の組織学的種類のものであってもよい:悪性新生物;癌腫;未分化癌;巨細胞および紡錘細胞癌;小細胞癌;乳頭癌;扁平細胞癌;リンパ上皮癌;基底細胞癌;毛母癌;移行細胞癌;乳頭状移行細胞癌;腺癌;悪性ガストリノーマ;胆管癌;肝細胞癌;肝細胞癌と胆管癌との複合癌;小柱腺癌;腺様嚢胞癌;腺腫様ポリープ内腺癌;腺癌、家族性大腸ポリポーシス;固形癌;悪性カルチノイド腫瘍;細気管支肺胞腺癌;乳頭腺癌;色素嫌性癌;好酸性癌;好酸性腺癌;好塩基性癌;明細胞腺癌;顆粒細胞癌;濾胞腺癌;乳頭濾胞腺癌;非被包性硬化性癌;副腎皮質癌;子宮内膜様癌;皮膚付属器癌;アポクリン腺癌;脂腺腺癌;耳垢腺癌;粘膜類表皮癌;嚢胞腺癌;乳頭状嚢胞腺癌;乳頭状漿液性嚢胞腺癌;粘液性嚢胞腺癌;粘液性腺癌;印環細胞癌;浸潤性管癌;髄様癌;小葉癌;炎症性癌;***パジェット病;腺房細胞癌;腺扁平上皮癌;扁平異形成を伴う腺癌;悪性胸腺腫;悪性卵巣間質腫瘍;悪性卵胞膜細胞腫;悪性顆粒膜細胞腫瘍;悪性アンドロブラストーマ;セルトリ細胞癌;悪性ライディッヒ細胞腫瘍;悪性脂質細胞腫瘍;悪性傍神経節腫;悪性***外傍神経節腫;褐色細胞腫;血管球血管肉腫;悪性黒色腫;無色素性黒色腫;表在性黒色腫;巨大色素性母斑内悪性黒色腫;類上皮細胞黒色腫;悪性青色母斑;肉腫;線維肉腫;悪性繊維性組織球腫;粘液肉腫;脂肪肉腫;平滑筋肉腫;横紋筋肉腫;胎児性横紋筋肉腫;肺胞横紋筋肉腫;間質肉腫;悪性混合腫瘍;ミュラー混合腫瘍;腎芽腫;肝芽腫;癌肉腫;悪性間葉腫;悪性ブレンナー腫瘍;悪性葉状腫瘍;滑膜肉腫;悪性中皮腫;未分化胚細胞腫;胎児性癌;悪性奇形腫;悪性卵巣甲状腺腫;絨毛癌;悪性中腎腫;血管肉腫;悪性血管内皮腫;カポジ肉腫;悪性血管周囲細胞腫;リンパ管肉腫;骨肉腫;傍骨性骨肉腫;軟骨肉腫;悪性軟骨芽腫;間葉性軟骨肉腫;骨の巨細胞腫瘍;ユーイング肉腫;悪性歯原性腫瘍;エナメル上皮歯牙肉腫;悪性エナメル芽細胞腫;エナメル芽細胞線維肉腫;悪性松果体腫;脊索腫;悪性神経膠腫;上衣腫;星状細胞腫;原形質性星状細胞腫;線維性星状細胞腫;星状芽細胞腫;膠芽腫;乏突起膠腫;希突起膠芽腫;未分化神経外胚葉;小脳肉腫;神経節芽細胞腫;神経芽腫;網膜芽腫;嗅神経腫瘍;悪性髄膜腫;神経線維肉腫;悪性神経鞘腫;悪性顆粒細胞腫瘍;悪性リンパ腫;ホジキン病;傍肉芽腫;小リンパ球性悪性リンパ腫;大細胞びまん性悪性リンパ腫;濾胞性悪性リンパ腫;菌状息肉症;他の特定の非ホジキンリンパ腫;悪性組織球増加症;多発性骨髄腫;肥満細胞肉腫;免疫増殖性小腸疾患;白血病;リンパ性白血病;形質細胞白血病;赤白血病;リンパ肉腫細胞白血病;骨髄性白血病;好塩基性白血病;好酸性白血病;単球性白血病;肥満細胞白血病;巨核芽球性白血病;骨髄性肉腫;および有毛細胞白血病。ある特定の局面では、腫瘍は、骨肉腫、血管肉腫、横紋筋肉腫、平滑筋肉腫、ユーイング肉腫、膠芽腫、神経芽腫、または白血病を含み得る。
2.急性骨髄性白血病
急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)としても公知の急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)または急性非リンパ性白血病(ANLL)は、骨髄中に蓄積しかつ正常な血液細胞の産生に干渉する異常な白血球の急速な増殖により特徴付けられる骨髄系列の血液細胞のがんである。AMLは、成人が罹患する最も一般的な急性白血病であり、その発生率は年齢と共に増加する。AMLは、米国におけるがんでの死亡の約1.2%を占める比較的希少な疾患であるが、その発生率は集団の高齢化につれて増加することが予想される。
AMLの症状は、正常な骨髄が白血病細胞で置換されて赤血球、血小板、および正常な白血球の低下を引き起こすことにより引き起こされる。これらの症状としては、疲労、息切れ、紫斑ができやすいことおよび出血しやすいこと、および感染のリスクの増加が挙げられる。いくつかのリスク因子および染色体異常が同定されているが、具体的原因は明確でない。急性白血病として、AMLは急速に進行し、治療しない場合、典型的に数週間または数ヶ月以内に致死的なものとなる。
AMLはいくつかのサブタイプを有し、治療および予後はサブタイプ間で様々である。サブタイプに応じて、5年生存率は15~70%と様々であり、再発率は33~78%と様々である。AMLは最初に、寛解を誘導することを目的とする化学療法で治療され、患者は追加の化学療法または造血幹細胞移植を受けることに進むことがある。AMLの遺伝学における最近の研究は、どの薬物が特定の患者にとって最もよく機能し得るかの他に、その患者がどれほど長く生存しそうかを予測できる試験を利用可能とした。
AMLのほとんどの徴候および症状は、正常な血液細胞が白血病細胞で置換されることにより引き起こされる。正常な白血球産生の欠如は、患者を感染に対して感受性とさせるが、白血病細胞自体は白血球前駆細胞に由来し、感染と戦う能力を有しない。赤血球数の低下(貧血)は、疲労、蒼白、および息切れを引き起こし得る。血小板の欠如は、軽微な外傷で紫斑ができやすいことまたは出血しやすいことに繋がり得る。
AMLの早期の徴候は、多くの場合、不明瞭かつ非特異的であり、インフルエンザまたは他の一般的な病気のそれに類似することがある。いくつかの一般化された症状としては、発熱、疲労、体重減少または食欲不振、息切れ、貧血、紫斑ができやすいことまたは出血しやすいこと、点状出血(出血により引き起こされる皮膚下の扁平帽針頭大の斑点)、骨および関節痛、および持続性または頻繁な感染症が挙げられる。
脾臓の腫大がAMLにおいて起こることがあるが、それは典型的に軽度かつ無症候性である。急性リンパ芽球性白血病とは対照的に、リンパ節腫脹はAMLにおいてはまれである。皮膚は、皮膚白血病の形態の時間の約10%に関与する。稀に、スウィート症候群、皮膚の腫瘍随伴炎症がAMLと共に起こることがある。
AMLを有する一部の患者は、歯肉組織への白血病細胞の浸潤により歯肉の腫脹を経験することがある。稀に、白血病の最初の徴候は、緑色腫と呼ばれる、骨髄の外側での固形の白血病性の塊または腫瘍の発生である場合がある。時折、人は症状を示さないことがあり、白血病が常用血液試験の間に偶然発見されることがある。
AMLの発症についての多数のリスク因子が同定されており、それらとしては、他の血液障害、化学的曝露、電離放射線、および遺伝学が挙げられる。
骨髄異形成症候群または骨髄増殖性疾患などの「前白血病性」血液障害は、AMLに進展することがあり、正確なリスクはMDS/MPSの種類に依存する。抗がん化学療法、特にアルキル化剤への曝露は、その後にAMLを発症するリスクを増加させ得る。リスクは化学療法の約3~5年後に最も高い。他の化学療法剤、具体的にはエピポドフィロトキシンおよびアントラサイクリンもまた、治療関連白血病に関連付けられている。これらの治療関連白血病は、多くの場合、白血病細胞における特定の染色体異常に関連する。ベンゼンおよび他の芳香族有機溶媒への職業上の化学的曝露は、AMLの原因として議論を呼ぶものである。ベンゼンおよびその誘導体の多くは、インビトロで発癌性であることが公知である。ベンゼンへの職業上の曝露とAMLの増加したリスクとの関連が一部の研究により示唆されているが、帰すことができるリスクが、それがあったとしても、わずかであることを他の研究は示唆している。高量の電離放射線曝露はAMLのリスクを増加させ得る。AMLについて遺伝性リスクが存在するようである。偶然のみで予測されるよりも高い率で家族内でAMLを発症する多数の症例が報告されている。いくつかの先天的条件が白血病のリスクを増加させることがあり、最も一般的なものは恐らくダウン症候群であり、これはAMLのリスクの10~18倍の増加に関連する。
AMLの診断の最初の手掛かりは、典型的には、全血球計算での異常な結果である。過剰の異常な白血球(白血球増加症)が一般的な所見であり、白血病性芽球が時に見られるが、AMLはまた、単離される血小板、赤血球の減少を示すこともあり、または低い白血球数(白血球減少症)を示すことすらある。AMLの推定診断は、循環する白血病性芽球がある場合、末梢血スメアの検査を介して行うことができるが、確定診断は、通常、充分な骨髄吸引および生検を必要とする。
白血病の存在を診断するため、AMLを他の種類の白血病(例えば、急性リンパ芽球性白血病-ALL)から区別するため、および疾患のサブタイプ(下記を参照)を分類するために、光顕微鏡法の他に、フローサイトメトリーを介して髄または血液が検査される。髄または血液の試料は、典型的には、常用の細胞遺伝学または蛍光インサイチュハイブリダイゼーションにより染色体異常についても試験される。疾患のアウトカムに影響を及ぼし得るFLT3、ヌクレオフォスミン、およびKITなどの遺伝子中の特定の変異を見つけるために遺伝子研究を行うこともできる。
血液および骨髄スメアに対する細胞化学染色は、ALLからのAMLの区別、およびAMLの細分類において助けになる。ミエロペルオキシダーゼまたはスダンブラック染色および非特異的エステラーゼ染色の組合せは、ほとんどの場合、所望の情報を提供する。ミエロペルオキシダーゼまたはスダンブラック反応は、AMLの素性の確立およびそのALLからの区別において最も有用である。AMLにおける単球成分を同定するためおよび低分化単芽球性白血病をALLから区別するために非特異的エステラーゼ染色が使用される。
AMLの診断および分類は困難なことがあり、有資格の血液病理医または血液学者により行われるべきである。直接的な症例では、ある特定の形態学的特徴(アウエル小体など)の存在または特定のフローサイトメトリーの結果によりAMLを他の白血病から区別することができるが、そのような特徴の非存在下では診断はより困難なことがある。
広く使用されているWHOの基準によれば、AMLの診断は、白血病性骨髄芽球による血液および/または骨髄の20%より多くの関与を実証することにより確立される。French-American-British(FAB)分類はこれより少し厳格であり、AMLの診断のために骨髄(BM)または末梢血(PB)において少なくとも30%の芽球パーセンテージを必要とする。AMLは、異なる治療が為される「前白血病性」状態、例えば骨髄異形成または骨髄増殖性症候群から慎重に区別されなければならない。
急性前骨髄球性白血病(APL)は最も高い治癒可能性を有し、独特の形態の治療を必要とするので、このサブタイプの白血病の診断を迅速に確立または除外することが重要である。血液または骨髄に対して行われる蛍光インサイチュハイブリダイゼーションは、APLを特徴付ける染色体の転座[t(15;17)(q22;q12);]を容易に同定するので、この目的のために多くの場合に使用される。その転座の発がん性産物であるPML/RARA融合タンパク質の存在を分子的に検出することも必要である。
AMLのファーストライン治療は主に化学療法からなり、2つの段階:誘導療法および寛解後(または地固め)療法に分けられる。誘導療法の目標は検出不可能なレベルまで白血病細胞の数を低減させることにより完全寛解を達成することであり、地固め療法の目標はあらゆる残留した検出不可能な疾患を取り除き、治癒を達成することである。造血幹細胞移植は、通常、誘導化学療法が失敗した場合または患者が再発した後に考慮されるが、移植はまた時に、高リスク疾患を有する患者のフロントライン療法として使用される。
M3を除く全てのFABサブタイプは、通常、シタラビン(ara-C)およびアントラサイクリン(最も多くはダウノルビシン)を用いる誘導化学療法を与えられる。この誘導化学療法レジメンは「7+3」(または「3+7」)として公知であるが、これはシタラビンが連続する7日間連続的なIV注入として与えられ、アントラサイクリンが連続する3日間IVプッシュとして与えられるためである。70%までの患者がこのプロトコールで寛解を達成する。単独の高用量シタラビン、FLAG様レジメンまたは治験薬などの他の代替的な誘導レジメンもまた使用することができる。骨髄抑制および感染症のリスクの増加などの療法の毒性効果のため、誘導化学療法は非常に高齢の者には与えられないことがあり、選択肢としてはより強度が低い化学療法または緩和ケアを挙げることができる。
急性前骨髄球性白血病(APL)としても公知のAMLのM3サブタイプは、ほぼ普遍的に、誘導化学療法、通常アントラサイクリンに加えて薬物オールトランスレチノイン酸(ATRA)で治療される。前骨髄球がそれらの顆粒の内容物を末梢循環中に放出した時にAPLの治療を複雑化させる播種性血管内凝固(DIC)を予防するように注意しなければならない。APLは抜きんでて治癒可能であり、治療プロトコールが充分に報告されている。
誘導段階の目標は完全寛解に到達することである。完全寛解は疾患が治癒したことを意味せず、それはむしろ、利用可能な診断方法で疾患が検出できないことを表す。完全寛解は、新たに診断された成人の約50%~75%で得られるが、これは上記される予後因子に基づいて変化し得る。寛解の長さは元々の白血病の予後の特徴に依存する。一般に、全ての寛解は、追加の地固め療法なしでは失敗することになる。
完全寛解が達成された後でさえ、白血病細胞は現行の診断技術で検出するには少なすぎる数で残留する可能性がある。さらなる寛解後または地固め療法が与えられない場合、ほぼ全ての患者が結局再発する。したがって、検出不可能な疾患を取り除き、かつ再発を予防する、すなわち、治癒を達成するためにより多くの療法が必要である。
特定の種類の寛解後療法は、患者の予後因子(上記を参照)および全般的健康状態に基づいて個別化される。予後良好白血病(すなわち、inv(16)、t(8;21)、およびt(15;17))のために、患者は、典型的には、地固め化学療法として公知の追加の3~5回の重点的な化学療法を受ける。再発のリスクが高い患者(例えば、高リスク細胞遺伝学、基礎MDS、または療法関連AMLを有する患者)について、患者が移植に忍容することができかつ好適なドナーがいる場合、同種幹細胞移植が通常推奨される。中リスクAML(低リスクまたは高リスク群に入らない正常な細胞遺伝学または細胞遺伝学的変化)のための最良の寛解後療法は明確性がより低く、患者の年齢および全体的健康状態、患者の個人的価値観、および好適な幹細胞ドナーが利用可能であるかどうかなどの特定の状況に依存する。
幹細胞移植に適格でない患者について、地固めの完了後のヒスタミンジヒドロクロリド(セプレン)とインターロイキン2(プロロイキン)との組合せでの免疫療法は絶対再発リスクを14%低減させることが示されており、これは寛解が維持される可能性の50%の増加と言い換えられる。
AMLを再発した患者について、唯一の証明された治癒可能性のある療法は、それがまだ行われていない場合、造血幹細胞移植である。2000年に、モノクローナル抗体連結細胞毒性剤ゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ)が、高用量化学療法の候補ではない再発性AMLを有する60歳超の患者について米国において承認された。この薬物は2010年にその製造者、Pfizerにより市場から自主的に撤退された後、変更された処方情報(PI)と共に2017年にPfizerにより再発売された。再発性AMLのための治療オプションは非常に限られているので、緩和ケアが与えられることがある。
幹細胞移植の候補ではない再発性AML患者、または幹細胞移植後に再発した患者は、従来の治療オプションは限られるので、臨床試験において治療を与えられることがある。治験中の剤としては、細胞毒性薬物、例えばクロファラビンの他に、標的療法、例えば、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、デシタビン、およびMDR1(多剤耐性タンパク質)の阻害剤が挙げられる。再発性急性前骨髄球性白血病(APL)について、三酸化ヒ素が治験で試験されており、米国FDAにより承認されている。ATRAと同様、三酸化ヒ素はAMLの他のサブタイプでは機能しない。
急性骨髄性白血病は治癒可能な疾患であるが、特定の患者についての治癒の可能性は多数の予後因子に依存する。AMLにおける単一の最も重要な予後因子は細胞遺伝学、または白血病細胞の染色体構造である。ある特定の細胞遺伝学的異常は非常に良好なアウトカムに関連付けられる(例えば、急性前骨髄球性白血病における(15:17)転座)。AML患者の約半分は「正常な」細胞遺伝学を有し、彼らは中リスク群に入る。治療後の予後不良および再発の高いリスクと関連する多数の他の細胞遺伝学的異常が公知である。
以前から存在する骨髄異形成症候群(MDS)または骨髄増殖性疾患から生じるAML(いわゆる二次性AML)はより不良な予後を有し、別の先行する悪性腫瘍の化学療法後に生じる治療関連AMLについても同様である。これらの実体の両方は、高率の不都合な細胞遺伝学的異常に関連付けられる。
一部の研究において、60歳より高い年齢および上昇した乳酸デヒドロゲナーゼレベルもまた不良なアウトカムに関連付けられた。ほとんどの形態のがんと同様、パフォーマンスステータス(すなわち、患者の全般的身体状態および活動性レベル)も予後において大きな役割を果たす。
FLT3遺伝子内縦列重複(ITD)は、AMLにおいて不良な予後を付与することが示されている。より侵攻性の療法、例えば最初の寛解における幹細胞移植でのこれらの患者の治療は、長期生存を増進させないことが示されている。FLT3のITDは白血球停滞に関連することがある。2017年にNovartisは、化学療法と組み合わせた、FDAに承認された試験による検出でFMS様チロシンキナーゼ3変異陽性(FLT3+)である新たに診断された患者における急性骨髄性白血病(AML)の治療についてRydapt(登録商標)(ミドスタウリン、旧PKC412)の米国食品医薬品局(FDA)の承認を受けた。
研究者たちはAMLにおけるc-KIT変異の臨床的意義を研究している。c-KITの活性を薬理学的にブロックできるチロシンキナーゼ阻害剤、例えばイマチニブおよびスニチニブが利用可能であるので、これらは広く行われており、また臨床的に妥当である。予後因子または治療標的として研究されている他の遺伝子としては、CEBPA、BAALC、ERG、およびNPM1が挙げられる。
3.急性リンパ芽球性白血病(ALL)
急性リンパ芽球性白血病(ALL)または急性リンパ性白血病は、リンパ芽球として公知のがん性の未熟な白血球の過剰産生により特徴付けられる急性の形態の白血病、または白血球のがんである。ALLを有する人において、リンパ芽球が骨髄で過剰産生され、連続的に倍化し、骨髄中の正常細胞、例えば、赤血球、白血球および血小板の産生を阻害することによりおよび他の臓器に浸潤することにより損傷および死を引き起こす。ALLは小児期に最も一般的であり、発生率のピークは2~5歳、別のピークは高齢期である。
ALLの症状は機能的な血液細胞の産生の低減を示し、その理由は、新たな機能性血液細胞を産生するために通常使用される骨髄の供給源を白血病が使い果たすことにある。これらの症状は、発熱、感染症のリスクの増加(特に、好中球減少による肺炎などの細菌感染症;そのような感染症の症状としては、息切れ、胸部の痛み、咳、嘔吐、排便または排尿習慣の変化が挙げられる)、(血小板減少による)出血傾向の増加、ならびに蒼白、頻脈(高心拍数)、疲労および頭痛を含む貧血を示す徴候を含み得る。
約6,000症例が米国において毎年報告さており、他の国からの統計を得ることは難しいが、米国、イタリアおよびコスタリカにおいてより一般的であることが公知である。治癒は現実的な目標であり、罹患した子供の80%より多くにおいて達成されるが、成人では20~40%のみが治癒することができる。「急性」は、疾患の比較的短い時間経過を指し、多年にわたる時間経過の可能性がある慢性リンパ性白血病からそれを区別する。
症状はALLに特異的でないが、医療的補助が求められるところまで悪化する。それらは、正常かつ健常な血液細胞の欠如のもたらされるが、それはそれらが悪性かつ未熟な白血球(白血球細胞)により押しのけられることによる。したがって、ALLを有する人は、赤血球(赤血球細胞)、白血球、および血小板の機能不良からの症状を経験する。異常を示す可能性がある実験室試験としては、血液数試験、腎臓機能試験、電解質試験、および肝臓酵素試験が挙げられる。
ALLの徴候および症状は可変的であるが、骨髄置換および/または臓器浸潤から得られ、全身脱力感および疲労、貧血、めまい、頻繁なまたは原因不明の発熱および感染症、体重減少および/または食欲不振、過度の原因不明の紫斑、骨疼痛、関節痛(骨の表面または髄腔の関節への「芽球」細胞の拡散により引き起こされる)、息切れ、リンパ節、肝臓および/または脾臓の腫脹、下肢および/または腹部における圧痕浮腫(腫脹)、および低い血小板レベルによる皮膚のごく小さい赤色斑点または線である点状出血が挙げられる。
一般に、がんは、増殖を引き起こす化学シグナルの増加または増殖を制御する化学シグナルの妨害のいずれかにより、制御されない細胞増殖に繋がりかつ身体全体に広がるDNAの損傷により引き起こされる。損傷は、融合遺伝子の形成の他に、別の遺伝子、例えばT細胞受容体遺伝子のプロモーターへのがん原遺伝子の並置を介したがん原遺伝子の調節異常を通じて引き起こされ得る。この損傷は、環境要因、例えば、化学物質、薬物または放射線により引き起こされることがあり、有糸***または他の正常なプロセスの間に天然に起こる(但し、細胞は、これを低減するのを助けるDNA修復の多数の機構を有する)。
ALLは、動物およびヒトにおいて放射線および化学物質への曝露に関連する。高レベルの放射線曝露は、広島および長崎における原子爆弾曝露の生存者の研究により見出されたように、白血病を発症する公知のリスク因子である。動物において、ベンゼンおよび他の化学物質への曝露は白血病を引き起こし得る。疫学研究は化学物質への職場での曝露と白血病を関連付けたが、これらの研究は決定的なものではない。一部の証拠は、放射線および化学療法を用いて他のがんについて治療された個体においてその治療の結果として二次性白血病が発症し得ることを示唆する。
ALLの診断は、病歴、身体検査、全血球計算、および血液スメアで始まる。症状は非常に全般的であるので、類似の症状を有する多くの他の疾患が除外されなければならない。典型的には、白血球数が多くなるほど、予後はより不良となる。症例の大部分において血液スメアで芽球細胞が見られる(芽球細胞は全ての免疫細胞株の前駆細胞(幹細胞)である)。骨髄生検はALLの決定的な証明である。
腰椎穿刺(脊椎穿刺としても公知)は、脊柱および脳に浸潤しているかどうかを示す。
病理学的検査、細胞遺伝学(特に、フィラデルフィア染色体の存在)、および免疫表現型解析は、骨髄芽球性(好中球、好酸球、または好塩基球)またはリンパ芽球性(Bリンパ球またはTリンパ球)細胞が問題であるかどうかを確立する。RNA試験は疾患がどれほど侵攻性であるかを確立することができ、異なる変異はより短いまたはより長い生存に関連付けられている。免疫組織化学試験は、白血病細胞の表面上のTdTまたはCALLA抗原を明らかにすることがある。TdTは、プレTおよびプレB細胞の発生の早期に発現されるタンパク質である一方、CALLAは、ALLの症例の80%において、およびCMLの「急性転化」においても見出される抗原である。医療イメージング(超音波またはCTスキャンなど)は、他の臓器、一般的に、肺、肝臓、脾臓、リンパ節、脳、腎臓、および生殖器の浸潤を見つけることができる。
急性リンパ性白血病の検出が早期であればあるほど、治療はより効果的となる。目的は永続する寛解を誘導することであり、これは身体中に検出可能ながん細胞が存在しないこととして定義される(通常、骨髄中に5%未満の芽球細胞)。急性白血病の治療は、化学療法、ステロイド、放射線療法、集中併用治療(骨髄または幹細胞移植を含む)、および成長因子を含み得る。
化学療法は、選択される最初の治療である。ほとんどのALL患者は異なる治療の組合せを与えられる。悪性細胞が身体全体に分布することにより、手術の選択肢はない。一般に、ALLのための細胞傷害性化学療法は、様々な組合せで複数の抗白血病性薬物を組み合わせる。ALLの化学療法は3つの段階:寛解誘導、強化、および維持療法からなる。
化学療法レジメンは集中的かつ長引くことがあるので(GMALL UKALL、HyperCVADまたはCALGBプロトコールの場合、多くは約2年;ALLについてCOGプロトコールで男性について約3年2ヶ月;女性について2年2ヶ月(精巣は潜在的な貯蔵所であるので男性についてより長い)、多くの患者は、大静脈に静脈内カテーテルを挿入され(中心静脈カテーテルまたはヒックマンラインと称される)、またはPortacathを挿入され、これは皮膚下、通常は鎖骨近くに外科移植されるシリコーンノーズを有する円錐形ポートであり、低い感染リスクおよびportacathの長期持続能力により、利用可能な最も効果的な製造物である。
放射線療法(または放射線治療)は、高疾患負荷の痛みのある骨領域において、または骨髄移植の準備の部分(全身照射)として使用される。全脳放射線の形態の放射線もまた、脳における白血病の再発を予防するために中枢神経系の予防のために使用される。全脳予防放射線は、子供のALLの治療において使用される一般的な方法である。
CNS化学療法は好都合な結果を提供するが発生上の副作用はより小さいことが最近の研究により示された。結果として、全脳放射線の使用はより限定されている。成人白血病のほとんどの専門家はCNS予防のための放射線療法の使用を取り止めており、代わりに髄腔内化学療法を使用している。
再発性ALLの一部のサブタイプについて、化学療法と組み合わせてプロテアーゼなどの生物学的標的に狙いを定めることは、臨床試験において有望な結果を与えている。白血病性リンパ芽球に対する組合せ効果に基づく生物学的標的の選択は、ALL治療の効果の改善のための臨床試験に繋がり得る。進行中の臨床試験において、CD19-CD3二重特異性モノクローナルマウス抗体ブリナツモマブは大きな有望性を示している。
キメラ抗原受容体(CAR)はALLのための有望な療法として開発された。この技術は、ALLを治療する方法として細胞表面マーカーCD19を認識するように設計された単鎖可変断片(scFv)を使用する。CD19は全てのB細胞上に見出される分子であり、患者における潜在的に悪性のB細胞集団を区別する手段として使用することができる。この療法では、マウスがCD19抗原で免疫化され、抗CD19抗体を産生する。骨髄腫細胞株に融合されたマウス脾臓細胞から発生したハイブリドーマを、CD19特異的抗体をコードするcDNAの供給源として開発することができる。cDNAがシークエンシングされ、これらの抗体の可変重鎖および可変軽鎖をコードする配列が小さいペプチドリンカーを使用して一緒にクローニングされる。この結果として得られる配列はscFvをコードする。CARのエンドドメインとなるものをコードする導入遺伝子にこれをクローニングすることができる。エンドドメインとして使用されるサブユニットには様々な構成があるが、それらは、一般に、scFvに結合するヒンジ領域、膜貫通領域、CD28などの共刺激分子の細胞内領域、およびITAMリピートを含有するCD3ゼータの細胞内ドメインからなる。頻繁に含まれる他の配列は4-1bbおよびOX40である。次に、scFvおよびエンドドメイン配列を含有する最終の導入遺伝子配列は、患者から得られ、インビトロで増幅された免疫エフェクター細胞に挿入される。先行する治験において、これらは細胞傷害を行うことができるT細胞の一種であった。エフェクター細胞へのDNAの挿入はいくつかの方法により達成することができる。最も一般的には、これは、導入遺伝子をコードするレンチウイルスを使用して行われる。シュードタイプの自己不活性化レンチウイルスは、標的細胞のゲノムDNAへの所望の導入遺伝子の安定な挿入のための効果的な方法であることが示されている。他の方法としてはエレクトロポレーションおよびトランスフェクションが挙げられるが、導入遺伝子の発現が時間と共に減少するので、これらは有効性が限られている。次に、遺伝子改変エフェクター細胞は患者に再び移植される。この処置は、典型的には、注入されるT細胞の効果を増強することが示されているシクロホスファミドなどのコンディショニングレジメントと組み合わせて行われる。この効果は、免疫学的空間ニッチの作出に帰せられている。処理は全体として、エフェクター細胞、典型的にT細胞をもたらし、これは主要組織適合複合体非依存的に腫瘍細胞抗原を認識し、かつ細胞傷害性応答を開始させることができる。
4.慢性リンパ芽球性白血病(CLL)
慢性リンパ性白血病(CLL)としても公知のB細胞慢性リンパ性白血病(B-CLL)は、成人において最も一般的な種類の白血病(白血球のがんの一種)である。CLLは、骨髄を起源とし、リンパ節において発生し、通常、抗体を産生することにより感染と戦うB細胞リンパ球に影響する。CLLにおいて、B細胞は制御されずに増殖し、骨髄および血液に蓄積され、そこで健常な血液細胞を押しのける。CLLは、主にリンパ節において現れる、B細胞リンパ腫の一種である小リンパ球性リンパ腫(SLL)の1ステージである。CLLおよびSLLは同じ基礎疾患であり、現れ方のみ異なると考えられる。CLLは成人の疾患である。CLLを有すると新たに診断されるほとんど(75%より多く)の人々は50歳を超えており、大多数は男性である。しかしながら、希少な症例では、ティーンエージャーおよび時折小児において起こることがある。これらの一部は遺伝的素因に関係することがある。
ほとんどの人々は、高い白血球数を返す常用の血液試験の結果として症状なしに診断されるが、進行するにつれ、CLLは、腫大したリンパ節、脾臓、および肝臓、そしてやがて貧血および感染症をもたらす。早期CLLは治療されず、後期CLLは化学療法およびモノクローナル抗体で治療される。
DNA解析により、異なる生存期間を有する2つの主要な種類のCLLが区別されている。マーカーZAP-70が陽性のCLLは8年の平均生存を有し、ZAP-70が陰性のCLLは25年より長い平均生存を有する。緩徐に進行する疾患を有する多くの患者、特に高齢患者は生涯においていかなる治療も必要とせずに安心していられることがある。
ほとんどの人々は、高い白血球数を返す常用の血液試験の結果として症状なしに診断される。より頻度は低いが、CLLは、高い白血球数を伴わずにまたは血液における疾患の証拠なしにリンパ節腫脹を示すことがある。これは小リンパ球性リンパ腫と称される。一部の個体において、新生物細胞が骨髄中で圧倒的なものとなり、疲労または虚弱を生じさせる貧血をもたらした後に初めて疾患が明らかになる。
CLLは、通常、全血球計算(CBC)試験におけるリンパ球増加症の存在、白血球の種類の増加により最初に疑われる。これは頻繁に、日常的な通院での偶然の発見である。多くの場合、リンパ球数は血液1マイクロリットル(μl)当たり4000細胞より多いが、はるかに多いこともある。高齢者個体におけるリンパ球増加症の存在は、CLLについての強い疑いを生じさせるはずであり、臨床的に不必要でない限り、確認診断試験、特にフローサイトメトリーを行うべきである。
CLLの診断は、細胞表面上の分子の普通でないが特徴的なパターンを示す血液、骨髄、または組織中のBリンパ球の異常な集団の実証に基づく。この非典型的な分子パターンとしては、細胞表面マーカー分化クラスター5(CD5)および分化クラスター23(CD23)の共発現が挙げられる。加えて、1個体内の全てのCLL細胞はクローン性、すなわち遺伝学的に同一である。実際上、これは、異常なB細胞の集団全体における互いに排他的な抗体軽鎖、κまたはλの1つのみの検出により暗示される。正常なBリンパ球は、異なる抗体産生細胞の混合からなり、κ発現およびλ発現の両方の細胞の混合物をもたらす。κおよびλ産生B細胞の正常な分布の欠如は、任意のB細胞悪性腫瘍(B細胞非ホジキンリンパ腫)の診断を確立する鍵となる構成要素であるクローン性を実証するための1つの基礎である。
末梢血の顕微鏡検査とクローン性およびマーカー分子発現を確認するためのフローサイトメトリーによるリンパ球の分析との組合せがCLLの診断を確立するために必要とされる。両者は小量の血液で容易に達成される。フローサイトメーターは、液体中の個々の細胞上の分子の発現を調べることができる機器である。これは、該機器により認識される蛍光タグを有するマーカー分子に対する特異的抗体の使用を必要とする。CLLにおいて、リンパ球は、B細胞系列(マーカー分子である分化クラスター19(CD19)およびCD20を発現する)の遺伝学的クローンであり、マーカー分子CD5およびCD23を特徴的に発現する。これらのB細胞は顕微鏡下で正常なリンパ球に似ているが、わずかにより小さく、ガラススライドに塗り付けた時にもろく、「スマッジ」または「スメア」細胞と呼ばれる多くの壊れた細胞を生じさせる。
MatutesのCLLスコアは、5つのマーカーの発現(CD5、CD23、FMC7、CD22および免疫グロブリン軽鎖)の非定型/混合CLLとは異なる、古典的なCLLの均質のサブグループの同定を可能とする。MatutesのCLLスコアリングシステムは、古典的なCLLと他のB細胞慢性リンパ増殖性疾患との間の鑑別診断に非常に役立つが、混合/非定型CLLとマントル細胞リンパ腫(MCL悪性B細胞)との間の免疫学的な区別には役立たない。CLLとMCLとの識別は、CD54およびCD200などの非常用マーカーを加えることにより改善することができる。常用のマーカーの中で最も識別力のある特徴は、CD20/CD23平均蛍光強度比である。対照的に、FMC7の発現は、驚くべきことに、境界症例について誤った方向に導くことがある。
疾患の範囲を判定する病期分類は、Rai病期分類システムまたはBinet分類(詳細を参照)により行われ、主に低血小板数または低赤血球数の存在に基づく。初期の疾患は、治療される必要はない。
CLLの治療は、完全な治癒よりもむしろ、疾患およびその症状を制御することに焦点を当てている。CLLは、化学療法、放射線療法、生物学的療法、または骨髄移植により治療される。症状は、外科的に(肥大した脾臓の脾摘除術)または放射線療法(リンパ節腫大の「減量」(de-bulking))により治療される場合がある。
初期のCLL治療は、疾患の厳密な診断および進行に応じて、さらに医療従事者の選択および経験によって異なる。多数の剤がCLL療法のために使用される。フルダラビン、シクロホスファミド、およびリツキシマブ(FCRとして公知)を含有する初期の治療レジメンは、より高い全奏効率および完全奏効率を実証している。
University of Pennsylvaniaの研究者らにより実行された研究では、疾患と戦うために、遺伝子改変されたT細胞を使用してCD19タンパク質を発現する細胞を攻撃した。2013年に、研究者らは、59人の患者のうち26人が完全寛解を達成したこと、および元患者は腫瘍が残っていないままであることを発表した。
白血病は妊娠に関連することはほとんどなく、10,000人の妊婦のうち約1人しか罹患しない。慢性リンパ性白血病の治療は多くの場合、妊娠の終了後まで延期することができる。治療が必要な場合、第2または第3三半期に化学療法を与えることで、第1三半期に治療するよりも妊娠損失または先天性欠損をもたらす可能性がより低くなる。
一般に治癒不可能と考えられているが、CLLはほとんどの場合、緩徐に進行する。CLLを有する多くの人々は、長年にわたり、一部の場合には数十年間、通常の活発な生活をしている。発症が遅いため、早期のCLL介入は生存期間または生活の質を改善しないと考えられており、したがって早期CLLは一般に治療されない。代わりに、疾患パターンのあらゆる変化を検出するために状態が経時的にモニターされる。
疾患が患者の生活の質に影響し得る程度まで進行していることを、患者の臨床症状または血球数が示す場合、CLL治療を開始する決定が為される。Rai 4病期分類システムおよびBinet分類などの臨床的「病期分類システム」は、患者を治療する時期および方法を決定するために役立ち得る。治療を開始する時期およびどのような手段によるかを決定することは多くの場合に難しいが、研究により、極めて早期に疾患を治療する生存上の利点はないことが示されている。The National Cancer Institute Working Groupは、治療開始前に満たされるべき特定のマーカーを含む、治療のためのガイドラインを発行している。
併用化学療法レジメンは、新たに診断されたCLLおよび再発性CLLの両方において効果的である。アルキル化剤(シクロホスファミド)とのフルダラビンの以下の組合せは、単剤よりも高い奏効率および長い無増悪生存を生じさせる:
FC(フルダラビンおよびシクロホスファミド)
FR(フルダラビンおよびリツキシマブ)
FCR(フルダラビン、シクロホスファミド、およびリツキシマブ)
CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチンおよびプレドニゾロン)
プリンアナログフルダラビンが、一次療法としてクロラムブシルより優れた奏効率を与えることが示されたが、フルダラビンの早期使用が全生存期間を改善させるという証拠はなく、一部の臨床医は、再発性疾患用にフルダラビンを取っておくことを好む。
FCRを用いる化学免疫療法は、良好な体力により選択されたCLL患者の大規模な無作為化試験において、奏効率、無増悪生存期間、および全生存期間を改善させることを示している。これは、ファーストライン療法の選択が、CLL患者の全生存期間を改善させ得ることを実証する最初の臨床試験であった。CLLのために承認されたアルキル化剤としては、ベンダムスチンおよびシクロホスファミドが挙げられる。
標的療法は、正常細胞に害を与えないことを目的として、特定の標的においてがん細胞を攻撃する。(CD52に対する)アレムツズマブ、ならびに(CD20に対する)リツキシマブおよびオファツムマブなどのモノクローナル抗体はCLLに使用される。チロシンキナーゼ阻害剤療法もまた、CLLに使用することができる。2014年2月に、FDAは、イブルチニブに、慢性リンパ性白血病を治療するための承認を与えた。イブルチニブはブルトン型チロシンキナーゼ(BTK)阻害剤である。2014年7月に、FDAおよびEMAは、イデラリシブに、異なる種類の白血病を治療するための承認を与えた。イデラリシブは、PI3Kδ経路を標的とするPI3K阻害剤である。イデラリシブは経口摂取される。
レシピエント自身の細胞を使用する自己幹細胞移植は治癒的でない。若年の個体は、CLLで死亡するリスクが高い場合、同種造血幹細胞移植(HSCT)を考慮することができる。健常ドナーからの血液細胞を使用する高リスク治療である、骨髄破壊(骨髄死滅)形態の同種幹細胞移植は、治癒的なことがあるが、治療関連毒性が大きい。低強度コンディショニング同種幹細胞移植と呼ばれる中間レベルは、高齢患者または虚弱患者により良好に忍容されることがある。
「難治性」CLLは、もはや治療に対して有望に応答しない疾患である。この場合、レナリドミド、フラボピリドール、および骨髄(幹細胞)移植などのより侵攻性の療法が考慮される。モノクローナル抗体である(CD52に対する)アレムツズマブは、難治性骨髄系疾患の患者に使用されることがある。
合併症としては、リヒター症候群、再発性感染症に繋がる低ガンマグロブリン血症、10~15%の患者における温式自己免疫性溶血性貧血、高悪性度リンパ腫への転換が挙げられる。慢性リンパ性白血病は、慢性リンパ性白血病を有する患者において、リヒター症候群、急速に増殖するびまん性大B細胞リンパ腫、前リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、または急性白血病の発生に転換することがある。その発生率は、CLL患者の約5パーセントであると推定されている。
胃腸(GI)病変は、慢性リンパ性白血病ではほとんど起こることがない。報告された外徴の一部としては、腸重積症、小腸の細菌汚染、大腸炎、および他のものが挙げられる。通常、CLLとのGI合併症は、リヒタートランスフォーメーション後に起こる。現在までに、リヒタートランスフォーメーションのない慢性リンパ性白血病のGI病変の症例報告は2件存在している。
5.非小細胞肺がん
非小細胞肺癌(NSCLC)は、小細胞肺癌(SCLC)以外の任意の種類の上皮性肺がんである。クラスとして、NSCLCは、小細胞癌と比較して、化学療法に対して比較的感受性がない。可能な場合、それらは主に治癒目的での外科的切除により治療されるが、化学療法は、術前(ネオアジュバント化学療法)および術後(アジュバント化学療法)の両方でますます使用されている。
最も一般的な種類のNSCLCは、扁平細胞癌、大細胞癌、および腺癌であるが、より少ない頻度で発生するいくつかの他の種類があり、全ての種類は、異常な組織学的変種で、および混合細胞型の組合せとして、発生することがある。「非小細胞肺がん」という語句は、(「特記されていない限り」またはNOS)、より詳細な診断ができない場合に通常、総称的に使用される。これはほとんどの場合、病理医が細胞学的検体または生検検体において少量の悪性細胞または組織を検査する場合に当てはまる。
喫煙未経験者の肺がんはほぼ例外なくNSCLCであり、大多数は腺癌である。比較的稀な場合では、悪性肺腫瘍は、SCLCおよびNSCLCの両方の成分を含有することが判明している。これらの症例では、腫瘍は混合型小細胞肺癌(c-SCLC)として分類されるべきであり、(通常)「純粋な」SCLCと同様に治療される。
肺の腺癌は、現在、「喫煙未経験者」(生涯非喫煙者)において、最も一般的な種類の肺がんである。腺癌は肺がんの約40%を占める。歴史的に、腺癌は、小細胞肺がんおよび扁平細胞肺がんよりも肺の末梢でより頻繁に見られ、小細胞肺がんおよび扁平細胞肺がんの両方はより多くの場合、中枢に位置する傾向があった。しかしながら、興味深いことに、最近の研究は、腺癌および扁平細胞癌の両方について「中枢に発生する病変対末梢に発生する病変の比」が、統一に向かって収束している可能性があることを示唆している。
肺の扁平細胞癌(SCC)は、女性よりも男性において一般的である。それは、喫煙歴と密接に関連しており、他のほとんどの種類の肺がんよりもそれが当てはまる。Nurses’Health Studyによれば、SCCの相対リスクは、喫煙未経験者と比較して、過去の喫煙期間が1~20年の者および20~30年の者の両方において約5.5である。相対リスクは、過去の喫煙期間が30~40年で約16に、40年を超えると約22まで増加する。
大細胞肺癌(LCLC)は、がん化した肺上皮細胞に由来する未分化悪性新生物の不均質群である。典型的にLCLCは、これまでNSCLCの約10%を構成してきたが、新しい診断技術は、より低分化の扁平細胞癌および腺癌に有利に働き、「古典的」LCLCの診断の発生率を低減させるようである。事実上LCLCは、小細胞癌、扁平細胞癌、腺癌、または他のより特異的な組織学的種類の肺がんとして新生物を分類する光学顕微鏡特性を腫瘍細胞が欠いているという点で、「除外診断」である。LCLCは、主により大きい退形成細胞のサイズ、より高い細胞質対核サイズ比、および「ごま塩状」のクロマチンの欠如により、小細胞肺癌(SCLC)から区別される。
多くの場合、がんの病期、個体の健康全般、年齢、化学療法の奏効、および治療により起こり得る副作用などの他の要因に応じて、複数種類の治療が使用される。NSCLCは通常、化学療法および/または放射線にあまり感受性がないので、初期に診断された場合、手術が選択すべき治療であり、多くの場合、シスプラチンを含むアジュバント(補助的な)化学療法を伴う。他の治療選択肢は、化学療法、放射線療法(放射線治療)、および標的療法である。
放射線治療を与える新しい方法により、医師による肺がんの治療がより的確であることが可能になる。これは、近くの健常組織に影響する放射線がより少ないことを意味する。新しい方法は、サイバーナイフおよび定位手術的照射(SRS)を含む。他の治療は、高周波アブレーションおよび化学塞栓である。
多様な化学療法が、進行した(転移性)NSCLCに使用されている。EGFR遺伝子に特定の変異を有する一部の患者には、ゲフィチニブなどのEGFRチロシンキナーゼ阻害剤が奏効する。NSCLCの約7%がEML4-ALK転座を有し、これらは、臨床試験中のALK阻害剤から利益を受けることがある。クリゾチニブは、2011年8月にFDAの承認を取得した。
6.胃がん
胃がん(stomach cancer)または胃がん(gastric cancer)は、胃の内壁から発症するがんである。早期症状は、胸やけ、上腹部痛、吐き気および食欲不振を含むことがある。後の徴候および症状は、とりわけ、体重減少、黄色皮膚、嘔吐、嚥下困難、および血便を含むことがある。がんは、胃から身体の他の部分、特に、肝臓、肺、骨、腹部の内壁、およびリンパ節に広がることがある。多くの場合に発見時までに腫瘍が転移しているという事実、および状態を有するほとんどの者が診察時に高齢である(年齢中央値は70~75歳である)ことから、胃がんの予後は一般に不良である。胃がんの5年生存率は、10%未満であると報告されている。
最も一般的な原因は、ピロリ菌(Helicobacter pylori)による感染であり、これは症例の60%超を占める。ある特定の種類のピロリ菌は、他のものよりもリスクが高い。他の一般的な原因としては、野菜の漬物を食べることおよび喫煙が挙げられる。約10%の症例は、家族内で発症し、1%~3%の症例は、遺伝性びまん性胃がんなどの、個人の両親から遺伝する遺伝的症候群によるものである。胃がん(stomach cancer)のほとんどの症例は胃癌腫(gastric carcinoma)である。この種類は、多数のサブタイプに分けることができる。リンパ腫および間葉性腫瘍もまた、胃内で発症することがある。ほとんどの場合、胃がんは何年にもわたって多数の病期を経て発症する。診断は通常、内視鏡検査中に行われる生検による。これに続いて、疾患が身体の他の部分に広がっているかどうかを判定するために、医療イメージングが行われる。疾患の割合が高い2ヶ国である日本および韓国では、胃がんのスクリーニングを行っている。
地中海食は、禁煙と同様にがんのリスクを低下させる。ピロリ菌の処置が将来のリスクを減少させるという暫定的な証拠がある。がんが早期に治療されれば、多くの症例は治癒可能である。治療は、手術、化学療法、放射線療法、および標的療法のいくつかの組合せを含んでもよい。治療が遅れた場合、緩和ケアが勧められることがある。アウトカムは多くの場合、不良であり、世界的には5年生存率は10%未満である。これは概ね、病態を有するほとんどの者が進行した疾患を示すためである。米国では、5年生存率は28%である一方、韓国では、部分的にはスクリーニングの努力により、65%を上回っている。
世界的には、胃がんはがんの原因の第5位、がんによる死因の第3位であり、症例の7%および死亡の9%を占める。2012年には、胃がんは950,000人に発生し、723,000人の死亡を引き起こした。1930年代まで、米国および英国を含む世界の大部分では、胃がんはがんによる死亡の最も一般的な原因であった。それ以来、世界の多くの地域で死亡率が減少している。これは、食品を新鮮に保つ方法としての冷蔵庫が開発された結果として、塩漬け食品および漬物を食べることが少なくなったためと考えられている。胃がんは、東アジアおよび東ヨーロッパで最も一般的であり、男性では、女性の2倍の頻度で発生する。
胃がんは多くの場合、その初期において、無症候性(顕著な症状を生じない)であるか、または非特異的症状(胃がんだけでなく他の関連障害もしくは関連のない障害にも特異的な症状)のみを引き起こすことがある。症状が出現するまでに、がんは多くの場合、進行期に達し(下記を参照)、転移している(身体の他の部分、ことによると遠位の部分に広がっている)こともあり、これらは、予後が比較的不良な主な理由の1つである。早期がんは、消化不良または灼熱感(胸やけ)を伴うことがある。しかしながら、消化不良のために内視鏡検査を勧められた人のうちがんに罹患しているのは50人に1人未満である。腹部不快感および特に肉に対する食欲不振が起こることがある。
肥大して正常組織に浸潤した胃がんは、衰弱、疲労、食事後の胃の膨満感、上腹部の腹痛、吐き気、時折の嘔吐、下痢、または便秘を引き起こすことがある。さらなる肥大は、体重減少または吐血を伴う出血もしくは血便を引き起こすことがあり、後者は黒色変色(下血)として現れ、貧血に繋がる場合がある。嚥下困難は、噴門の腫瘍または胃腫瘍の食道への拡張を示唆する。
胃がんは多因子性疾患である。ピロリ菌感染は、胃がんの65~80%における本質的なリスク因子であるが、このような感染のわずか2%である。ピロリ菌が胃がんを誘導する機序は、慢性炎症、またはCagAなどのピロリ菌毒性因子の作用を潜在的に伴う。喫煙は胃がんを発症するリスクを有意に増加させ、習慣的喫煙者でのリスクの40%増加から重度喫煙者での82%増加に及ぶ。喫煙による胃がんは、主に食道の近くの胃の上部で起こる。一部の研究により、アルコール摂取によるリスクの増加もまた示されている。
食事因子は証明された原因ではないが、燻製食品、塩および塩分豊富な食品、赤身肉、加工肉、野菜の漬物、およびワラビなどの一部の食品が、胃がんの高リスクに関連する。塩漬け肉の硝酸塩および亜硝酸塩は、ピロリ菌などのある特定の細菌により、動物の胃がんを引き起こすことが判明している化合物に変換され得る。他方、新鮮な果物および野菜の摂取、柑橘果物の摂取、および抗酸化物の摂取は、胃がんリスクの低下に関連する。地中海食もまた、定期的なアスピリン使用と同様に、胃がんの発生率の低下に関連する。
ヨウ素欠乏と胃がんとの間には相関がある。胃がんは、女性1人に対して多くとも2人の男性が罹患しているので、発生率における男性優位を示す。エストロゲンは、このがん形態の発症から女性を保護している可能性がある。症例の約10%が、遺伝要素を示す。
人は、胃がんについての感受性を変化させ得るある特定のリスク因子、例えば身体的または遺伝的なリスク因子を有することがある。肥満は、胃食道逆流症(GERD)の発症に寄与することにより胃腺癌のリスクを増加させることが判明しているこのような身体的リスク因子の1つである。肥満がGERDを引き起こす正確な機序は完全には知られていない。食物脂肪の増加により、過剰な脂肪組織が胃および下部食道括約筋への圧力増加に繋がり、それが1つの役割を果たしている可能性があると研究は仮定しているが、統計的に有意なデータは収集されていない。しかしながら、GERDの存在に伴う胃噴門部腺癌のリスクは、肥満者について2倍を超えて増加することが判明している。胃がんの遺伝的リスク因子は、遺伝性びまん性胃がん(HDGC)として公知のCDH1遺伝子の遺伝的欠陥である。E-カドヘリンをコードするCDH1遺伝子は、第16染色体上にある。この遺伝子が特定の変異を経験すると、充分には理解されていない機序を通じて胃がんが発症する。この変異は常染色体顕性と考えられており、すなわち、キャリアの子供の半分が同じ変異を経験する可能性がある。遺伝性びまん性胃がんは通常、親または祖父母などの家族を含む少なくとも2つの症例が診断され、少なくとも1人が50歳前に診断される場合に、診断される。家族内に少なくとも3人の症例がある場合に診断が為されることもあり、この場合、年齢は考慮されない。
国際がんゲノムコンソーシアム(International Cancer Genome Consortium)は、胃がんに関連するゲノム変化を同定する主要な取り組みである。びまん性型胃がん(以下の組織病理学を参照)の非常に小さな割合は、遺伝した異常なCDH1遺伝子から生じる。遺伝子検査および治療オプションが、リスクのある家族に利用可能である。
リスク増加に関連する他の要因は、AIDS、糖尿病、悪性貧血、慢性萎縮性胃炎、メネトリエ病(過形成性、過剰分泌性の胃疾患)、および腸上皮化生である。
症状の原因を見つけるために、医師は患者の病歴を尋ね、身体検査を行い、検査を指示することがある。胃鏡検査は最良の診断方法である。これは、視覚化のために光ファイバーカメラを胃の中に挿入することを伴う。上部GIシリーズ(バリウムX線像と呼ばれることがある)。腹部のコンピュータ断層撮影またはCTスキャンは、胃がんを明らかにすることがあるが、隣接する組織への浸潤または局所リンパ節への広がりの存在の判定においてより有用である。限局性、偏心性、および増進性のある1cmを超える壁の肥厚は、悪性腫瘍に好都合である。
胃鏡検査で見られる異常組織は、外科医または消化器病医により生検される。次に、この組織は、がん細胞の存在をチェックする顕微鏡下の組織学的検査のために病理医に送られる。生検およびその後の組織学的分析は、がん細胞の存在を裏付ける唯一の確実な方法である。
様々な胃鏡モダリティーが、細胞構造を強調しかつ異形成の領域を同定することができる色素で検出される粘膜の収量を増加させるために開発されている。エンドサイトスコピーは、細胞構造を視覚化して異形成の領域をより良好に決定する超高倍率化を伴う。光干渉断層法などの他の胃鏡モダリティーも、類似の用途のために研究において試験されている。
多数の皮膚病態は、胃がんに関連する。多くの場合に腋窩および鼠径部にある、皮膚の黒ずんだ過形成の病態は、黒色表皮腫として公知であり、これは胃がんなどの腹腔内がんに関連する。胃がんの他の皮膚外徴としては、トライプパーム(tripe palm)(手のひらの皮膚の類似の黒ずむ過形成)および脂漏性角化症として公知の皮膚病変の急速な発症であるレーザー・トレラー徴候が挙げられる。貧血をチェックするための全血球計算(CBC)、および血便をチェックするための便潜血検査などの様々な血液検査が行われてもよい。
感染者におけるピロリ菌の除去は、少なくともアジア人において、胃がんのリスクを減少させる。特に健康食からの低用量のビタミンは、胃がんのリスクを減少させる。これまでのサプリメントの検討では、裏付けとなる証拠、および潜在的により不良のアウトカムは見つからなかった。
胃のがんは、初期(広がり始める前)に発見されない限り治癒するのが難しい。残念なことに、早期の胃がんはほとんど症状を引き起こさないので、疾患は通常、診断が為される時には、進行している。胃がんの治療は、手術、化学療法、および/または放射線療法を含んでもよい。生物学的療法および現行の方法を使用する改善された方法などの新しい治療アプローチが、臨床試験において研究されている。
手術は、依然として胃がんの唯一の治癒的療法である。異なる外科的技術のうち、内視鏡粘膜切除(EMR)は、日本で開拓された早期胃がん(腫瘍が粘膜のみを伴う)の治療であるが、米国の一部の施設でも利用可能である。この手順では、腫瘍は、内視鏡を通る電気ワイヤーループを使用して、胃(粘膜)の内壁と共に、胃壁から除去される。利点は、胃を除去するよりそれがはるかに小さい手術であるということである。内視鏡粘膜下剥離(ESD)は、日本で開拓された類似の技術であり、粘膜の大きい領域を1つの部分として切除するために使用される。切除された検体の病理学的検査が不完全な切除または腫瘍による深い浸潤を示す場合、患者は本式の胃切除を必要とすることになる。
診察時に転移性疾患を有する者は姑息手術を受けることがあり、それは依然として、手術自体の合併症の可能性およびそれが化学療法を遅延させ得るという事実により議論があるが、これまでのところ、データはほとんど肯定的であり、このアプローチで治療された者において生存率の改善が見られる。
胃がんを治療する化学療法の使用には、充分に確立されたケア基準がない。残念なことに、胃がんはこれらの薬物および化学療法に対して特に感受性はなく、使用される場合、通常、腫瘍のサイズを一時的に低減させ、疾患の症状を緩和し、かつ生存期間を増加させるために働く。胃がん治療において使用される一部の薬物としては、5-FU(フルオロウラシル)またはそのアナログカペシタビン、BCNU(カルムスチン)、メチル-CCNU(セムスチン)およびドキソルビシン(アドリアマイシン)の他にミトマイシンC、より最近ではシスプラチンおよびタキソテールが挙げられ、多くの場合、様々な組合せの薬物が使用されている。単独および組合せでのこれらの異なる薬物の相対的利益は不明である。臨床研究者は、腫瘍を縮小させるための手術の前に、または手術後に残りのがん細胞を破壊するためのアジュバント療法として、化学療法を与える利点を探求している。最近、トラスツズマブと呼ばれる標的治療が、腫瘍細胞にHER2遺伝子を過剰発現するがんを治療するための化学療法と共に使用することが可能になっている。
放射線療法(放射線治療とも呼ばれる)もまた、多くの場合、化学療法および/または手術のアジュバントとして、胃がんを治療するために使用されることがある。
7.抗体の投与
いくつかの態様では、本開示は、対象においてLAIR1に関連する病態を治療する方法であって、対象に治療有効量の本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を投与することを含む、方法を提供する。ある特定の態様では、本開示は、LAIR1に関連する病態を予防し、検出し、または診断する方法であって、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片を、LAIR1に関連する病態を有することが疑われるまたは有するまたは有するリスクがある対象から得られた生体試料と接触させること、および生体試料中のLAIR1に結合するLAIR1抗体またはその抗原結合断片のレベルを決定することを含む、方法を提供する。
本明細書において提供される抗体またはその抗原結合断片の(単独でまたは化学療法剤などの他の剤と組み合わせて使用された場合の)治療有効量は、当技術分野において公知の様々な要因、例えば、治療される疾患の種類、抗体の種類、対象の体重、年齢、過去の病歴、現在の医薬、健康状態、免疫状態、ならびに交差反応、アレルギー、感受性および有害な副作用の可能性の他に、投与の経路および種類、疾患の重篤度および発症ならびに主治医または獣医の自由裁量に依存する。ある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、1日当たり1回または複数回、約0.001mg/kg~約100mg/kgの治療上効果的な投与量で投与されてもよい(例えば、1日当たり1回または複数回、約0.001mg/kg、約0.3mg/kg、約0.5mg/kg、約1mg/kg、約3mg/kg、約5mg/kg、約10mg/kg、約15mg/kg、約20mg/kg、約25mg/kg、約30mg/kg、約35mg/kg、約40mg/kg、約45mg/kg、約50mg/kg、約55mg/kg、約60mg/kg、約65mg/kg、約70mg/kg、約75mg/kg、約80mg/kg、約85mg/kg、約90mg/kg、約95mg/kg、または約100mg/kg)。ある特定の態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、約50mg/kg以下の投与量で投与され、ある特定の態様では、投与量は、20mg/kg以下、10mg/kg以下、3mg/kg以下、1mg/kg以下、0.3mg/kg以下、0.1mg/kg以下、または0.01mg/kg以下、または0.001mg/kg以下である。ある特定の態様では、投与量は治療の経過にわたって変化させてもよい。例えば、ある特定の態様では、最初の投与の投与量はその後の投与の投与量より高くてもよい。ある特定の態様では、投与量は、対象の反応に応じて治療の経過にわたって変化させてもよい。
投与レジメンは、最適な所望の応答(例えば、治療奏功)を提供するように調整されてもよい。ある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、1回でまたは一連の治療にわたって対象に投与される。ある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、疾患の種類および重篤度に応じて、1つもしくは複数の別々の投与により、または連続的な注入により対象に投与される。ガイダンスは、例えば、米国特許第4,657,760号;同第5,206,344号;同第5,225,212号に見出すことができる。
本明細書において提供されるモノクローナル抗体および抗原結合断片は、当技術分野において公知の任意の経路、例えば、非経口(例えば、皮下、腹腔内、静脈内注入などの静脈内、筋肉内、または皮内注射)または非経口以外(例えば、経口、鼻腔内、眼内、舌下、直腸、または局所)の経路により投与されてもよい。
ある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体およびその抗原結合断片は、制御放出の様式で投与されてもよい。制御放出用非経口調製物は、インプラント、油注射または粒子状システム(例えば、マイクロスフェア、マイクロ粒子、マイクロカプセル、ナノカプセル、ナノスフェア、およびナノ粒子)として調製することができる(Banga, A.J., Therapeutic Peptides and Proteins:Formulation, Processing, and Delivery Systems, Technomic Publishing Company, Inc., Lancaster, Pa., (1995);Kreuter, J., Colloidal Drug Delivery Systems, J.Kreuter, ed., Marcel Dekker, Inc., New York, N.Y., pp.219-342(1994);Tice&Tabibi, Treatise on Controlled Drug Delivery, A.Kydonieus, ed., Marcel Dekker, Inc.New York, N.Y., pp.315-339, (1992)を参照)。ある特定の態様では、本明細書において開示されるモノクローナル抗体およびその抗原結合断片は、分解性または非分解性のポリマーマトリックス中で投与されてもよい(Langer, Accounts Chem.Res.26:537-542, 1993を参照)。
LAIR1に関連する病態は、免疫関連疾患または障害、感染症、およびがんであり得る。ある特定の態様では、病態は、固形腫瘍、血液学的障害、感染性疾患、自己免疫疾患または線維性疾患である。ある特定の態様では、固形腫瘍としては、例えば、非小細胞肺がん(扁平/非扁平)、小細胞肺がん、腎臓細胞がん、結腸直腸がん、結腸がん、卵巣がん、乳がん(基底乳癌、管癌および小葉性乳癌など)、膵臓がん、胃癌、膀胱がん、食道がん、中皮腫、黒色腫、頭頸部がん、甲状腺がん、肉腫、前立腺がん、膠芽腫、子宮頸がん、胸腺癌、黒色腫、骨髄腫、菌状息肉症(mycoses fungoids)、メルケル細胞がん、肝細胞癌(HCC)、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、および他の肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、リンパ性腫瘍、基底細胞癌、腺癌、汗腺癌、甲状腺髄様癌、甲状腺乳頭癌、褐色細胞腫 皮脂腺癌、乳頭癌、乳頭腺癌、髄様癌、気管支原性癌、ヘパトーマ、胆管癌、絨毛癌、ウィルムス腫瘍、子宮頸がん、精巣腫瘍、精上皮腫が挙げられる。ある特定の態様では、血液障害としては、例えば、古典的ホジキンリンパ腫(CHL)、原発性縦隔大B細胞リンパ腫、T細胞/組織球豊富型B細胞リンパ腫、急性リンパ性白血病(ALL)、急性骨髄球性白血病、急性骨髄性白血病および骨髄芽球性白血病、前骨髄球性白血病、骨髄単球性白血病、単球性白血病および赤白血病、慢性骨髄球性(顆粒球性)白血病、慢性骨髄性白血病、慢性リンパ性白血病、真性多血症、肥満細胞由来腫瘍、EBV陽性および陰性PTLD、およびびまん性大B細胞リンパ腫(DLBCL)、血漿芽球性リンパ腫、節外性NK/T細胞リンパ腫、鼻咽頭癌、およびHHV8関連原発性滲出性リンパ腫、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫、ワルデンストレームマクログロブリン血症、重鎖病、骨髄異形成症候群、有毛細胞白血病および脊髄形成異常、中枢神経系(CNS)の新生物、例えば、原発性CNSリンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹部神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫(craniopharyogioma)、上衣腫、松果体腫、血管芽腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫(menangioma)、黒色腫、神経芽腫および網膜芽腫が挙げられる。ある特定の態様では、がんは急性骨髄性白血病(AML)である。
いくつかの態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、単独でまたは1つもしくは複数の追加の治療剤もしくは手段と組み合わせて投与することができる。例えば、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、第2の療法、例えば、放射線療法、化学療法、標的療法、遺伝子療法、免疫療法、ホルモン療法、血管新生阻害、緩和ケア、がんの治療のための手術(例えば、腫瘍摘出術)、1つもしくは複数の抗嘔吐剤もしくは化学療法により生じる合併症の他の治療、またはLAIR1により媒介されるがんもしくは任意の医学的障害の治療において使用するための第2の治療剤、例えば、別の抗体、治療ポリヌクレオチド、化学療法剤、抗血管新生剤、サイトカイン、他の細胞毒性剤、増殖阻害剤と組み合わせて投与されてもよい。これらのある特定の態様では、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片は、1つまたは複数の追加の治療剤と同時に投与されてもよく、これらのある特定の態様では、モノクローナル抗体またはその抗原結合断片および追加の治療剤は、同じ薬学的組成物の部分として投与されてもよい。しかしながら、別の治療剤と「組み合わせて」投与される抗体またはその抗原結合断片は、その剤と同時にまたは同じ組成物中で投与される必要はない。別の剤の前または後に投与される抗体またはその抗原結合断片は、その剤と「組み合わせて」投与されると考えられ、該語句は、たとえ抗体または抗原結合断片および第2の剤が異なる経路を介して投与される場合であっても本明細書において使用される。可能な場合、本明細書において提供されるモノクローナル抗体またはその抗原結合断片と組み合わせて投与される追加の治療剤は、追加の治療剤の製品情報シートに列記されるスケジュールにしたがって、またはPhysicians’Desk Reference 2003(Physicians’Desk Reference, 57th Ed; Medical Economics Company; ISBN:1563634457; 57th edition(November 2002))もしくは当技術分野において周知のプロトコールにしたがって投与される。
H.併用療法
追加の抗がん療法と組み合わせて本開示の抗体を使用する併用治療を提供することも望ましいことがある。これらの療法は、1つまたは複数の疾患パラメーターの低減を達成するために効果的な合わせた量で提供される。この方法は、例えば、両方の剤を含む単一の組成物または薬理学的配合物を使用して、または1つの組成物が抗体を含みかつ他の組成物が他の剤を含む2つの別個の組成物または配合物と細胞/対象を同時に接触させることにより、細胞/対象を両方の剤/療法と同時に接触させることを伴い得る。
あるいは、抗体は、数分から数週に及ぶ間隔で他の治療に先立ってもよく、またはその後であってもよい。一般に、各送達の時点の間に長い期間が過ぎないようにして、療法が細胞/対象に対して有利に組合せ効果をなおも発揮できることを確実にする。そのような例では、細胞を両方のモダリティーと互いに約12~24時間以内、互いに約6~12時間以内、または約12時間のみの遅延時間で接触させることが企図される。しかしながら、いくつかの状況では、治療の期間を大幅に延長させて、各投与の間に数10日間(例えば、2、3、4、5、6、または7)から数週間(例えば、1、2、3、4、5、6、7、または8)が過ぎるようにすることが望ましいことがある。
抗体または他の療法のいずれかを複数回投与することが所望されることも考えられる。以下に例示されるように、抗体を「A」とし、他の療法を「B」とする様々な組合せを用いることができる。
他の組合せが企図されている。細胞を殺傷し、細胞増殖を阻害し、転移を阻害し、血管新生を阻害し、またはそれ以外に腫瘍細胞の悪性表現型を後退させもしくは低減させるために、本発明の方法および組成物を使用して、標的細胞または部位を抗体および少なくとも1つの他の療法と接触させることができる。これらの療法は、がん細胞を殺傷しまたはその増殖を阻害するために効果的な合わせた量で提供される。この方法は、細胞/部位/対象を剤/療法と同時に接触させることを伴ってもよい。
本開示の抗体との併用療法のために企図されている特定の剤としては、化学療法および造血幹細胞移植が挙げられる。化学療法は、シタラビン(ara-C)およびアントラサイクリン(最も多くの場合、ダウノルビシン)、高用量シタラビン単独、誘導化学療法、通常アントラサイクリンに加えてオールトランスレチノイン酸(ATRA)、地固め療法の完了後のヒスタミンジヒドロクロリド(セプレン)およびインターロイキン2(プロロイキン)、高用量化学療法の候補ではない再発性AMLを有する60歳を超える年齢の患者のためのゲムツズマブオゾガマイシン(マイロターグ)、クロファラビンの他に、標的療法、例えば、キナーゼ阻害剤、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、デシタビン、およびMDR1(多剤耐性タンパク質)の阻害剤、または三酸化ヒ素もしくは再発性急性前骨髄球性白血病(APL)を含んでもよい。
ある特定の態様では、併用療法のための剤は、アントラサイクリントポイソメラーゼ阻害剤、ダウノルビシン、ヌクレオシド代謝阻害剤、シタラビン、ダウノルビシンとシタラビンとの組合せ、注射用のダウノルビシンおよびシタラビンリポソーム、Vyxeos、オールトランス-レチノイン酸(ATRA)、ヒ素、三酸化ヒ素、ヒスタミンジヒドロクロリド、セプレン、インターロイキン2、プロロイキン、ゲムツズマブオゾガマイシン、マイロターグ、クロファラビン、ファルネシルトランスフェラーゼ阻害剤、デシタビン、IDH1阻害剤、IDH2阻害剤、エナシデニブ、Idhifa、IDO阻害剤、エパカドスタット、白金複合体誘導体、オキサリプラチン、キナーゼ阻害剤、チロシンキナーゼ阻害剤、PI3キナーゼ阻害剤、BTK阻害剤、イブルチニブ、PD-1抗体、PD-L1抗体、CTLA-4抗体、LAG3抗体、ICOS抗体、TIGIT抗体、TIM3抗体、腫瘍抗原に結合する抗体、T細胞表面マーカーに結合する抗体、骨髄細胞またはNK細胞表面マーカーに結合する抗体、アルキル化剤、ニトロソウレア剤、代謝拮抗物質、抗腫瘍性抗生物質、植物由来アルカロイド、トポイソメラーゼ阻害剤、ホルモン療法薬剤、ホルモンアンタゴニスト、アロマターゼ阻害剤、およびP糖タンパク質阻害剤からなる群より選択される。
I.免疫異常の治療
別の局面では、本開示は、非限定的に、炎症、自己免疫疾患、および移植拒絶などの免疫異常を治療するために本明細書において開示される抗体またはその抗原結合断片を使用する方法を提供する。
1.炎症および自己免疫疾患
本明細書において使用される場合、自己免疫疾患は、正常な身体部分への異常な免疫応答から生じる病態を指す。自己免疫疾患により引き起こされる80種より多くの病気がある。ほぼあらゆる身体部分が関与し得る。自己免疫疾患は多様な異なる効果を有し、該効果としては、組織の損傷または破壊、変化した臓器成長および変化した臓器機能が挙げられる。米国において約2千4百万(7%)人が自己免疫疾患に罹患している。
性質として自己免疫疾患または炎症と考えられるいくつかの一般的な疾患としては、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、円形脱毛症、強直性脊椎炎、抗リン脂質抗体症候群、自己免疫性アジソン病、自己免疫性溶血性貧血、自己免疫性肝炎、自己免疫性内耳疾患、自己免疫性リンパ増殖症候群(ALPS)、自己免疫性血小板減少性紫斑病(ATP)、ベーチェット病、水疱性類天疱瘡、心筋症、セリアック病、セリアックスプルー皮膚炎、慢性疲労免疫不全症候群(CFIDS)、慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチー、瘢痕性類天疱瘡、寒冷凝集素病、CREST症候群、クローン病、デゴス病、皮膚筋炎、若年性皮膚筋炎、円板状ループス、本態性混合型クリオグロブリン血症、線維筋痛-線維筋炎、グレーブス病、ギラン・バレー、橋本甲状腺炎、特発性肺線維症、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、IgA腎症、炎症性腸疾患、インスリン依存型糖尿病(またはI型糖尿病)、若年性関節炎、メニエール病、混合性結合組織病、多発性硬化症、重症筋無力症、尋常性天疱瘡、悪性貧血、結節性多発性動脈炎、多発性軟骨炎、多腺症候群、リウマチ性多発筋痛症、多発性筋炎および皮膚筋炎、原発性胆汁性肝硬変、乾癬、レイモンドの現象、ライター症候群、リウマチ熱、関節リウマチ、サルコイドーシス、強皮症、シェーグレン症候群、スティッフマン症候群、全身性エリテマトーデス、高安動脈炎、側頭動脈炎/巨細胞性動脈炎、潰瘍性大腸炎、ぶどう膜炎、白斑、およびウェゲナー肉芽腫症が挙げられる。
関節リウマチは、主に関節に影響する長期の自己免疫疾患であり、典型的に関節の温まり、腫大および痛みをもたらす。他の症状としては、少ない赤血球数、肺および心臓の周囲の炎症、発熱および低エネルギーが挙げられる。関節リウマチの原因は明確でないが、遺伝要因と環境要因との組合せが関与すると考えられている。基礎となる機序は、身体の免疫系が関節を誤って攻撃することを伴い、これは炎症および関節包の肥厚をもたらしかつ裏打ちする骨および軟骨にも影響する。
ループスとしても公知の全身性エリテマトーデスは、身体の免疫系が身体の多くの部分にある健常組織を誤って攻撃する疾患である。一般的な症状としては、関節の痛み(panful)および腫大、発熱、胸部の痛み、脱毛、口腔潰瘍、リンパ節腫大、疲労感、および最も一般的には顔の赤い発疹が挙げられる。ループスの原因はいまだに分かっていないが、遺伝要因および環境要因の両方が関与する可能性がある。ループスの機序は、最も一般的には炎症をもたらす抗核抗体である、個体自身の組織に対する自己抗体による免疫応答を伴う。
1型糖尿病は、充分なインスリンが産生されず、身体中に高血糖レベルをもたらす糖尿病の形態である。1型糖尿病の症状としては、頻尿、口渇の増加、空腹の増加、体重減少、かすみ目、疲労感および治癒不良が挙げられる。1型糖尿病の原因は分かっていないが、基礎となる機序は、膵臓中のインスリン産生性β細胞の自己免疫破壊を伴う。
多発性硬化症は、脳および脊髄における神経細胞の絶縁性被覆が個体自身の免疫系により損傷する自己免疫疾患である。損傷は、神経系が交信する能力を破壊し、複視、片目の失明、筋肉衰弱、感覚障害、またはコーディネーション障害を含む広範な症状を引き起こす。原因は明確でないが、多発性硬化症の基礎となる機序は免疫系による破壊であると考えられている。提唱される原因は、遺伝要因および環境要因を含む。
自己免疫疾患は広範であるが、それらの原因は一般に明確でない。T細胞およびB細胞の両方を含むヒト適応免疫系は、自己抗原と反応することができる。しかし、これらの自己反応性T細胞およびB細胞は通常、免疫系内で活性となる前に殺傷されるか、アネルギーの状態に置かれるか、または制御性細胞により免疫系内でのそれらの役割を除去される。これらの機序のいずれか1つが失敗した場合、一部の自己反応性細胞は免疫系内で機能的となり、自己免疫疾患を引き起こすことがある。
2.移植拒絶
移植拒絶は、移植された組織がレシピエントの免疫系により拒絶され、該免疫系が移植された組織を破壊する時に起こる。拒絶の基礎となる機序は、キラーT細胞により媒介される細胞性免疫を介する適応免疫応答と活性化B細胞により媒介される液性免疫との組合せを伴う。自然免疫応答のいくつかの成分、例えば食細胞および可溶性免疫タンパク質が関与することもある。
急性移植拒絶は、免疫抑制療法により治療されることがある。免疫抑制薬としては、コルチコステロイド、例えばプレドニゾロンおよびヒドロコルチゾン、カルシニューリン阻害剤およびmTOR阻害剤が挙げられる。選択的免疫成分に特異的な抗体もまた免疫抑制療法において使用することができる。
J.免疫検出法
またさらなる態様では、本開示は、LAIR関連がんを結合し、精製し、除去し、定量化しおよびそれ以外に一般に検出するための免疫検出法に関する。そのような方法は伝統的な意味で応用することができるが、別の使用は、ワクチンおよび他のウイルスストックの品質管理およびモニタリングであり、それらにおいては、本開示による抗体をウイルス中のH1抗原の量または完全性(すなわち、長期安定性)を評価するために使用することができる。あるいは、適切な/所望の反応性プロファイルについて様々な抗体をスクリーニングするために方法を使用してもよい。
少数を挙げると、いくつかの免疫検出法としては、酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、イムノラジオメトリックアッセイ、フルオロイムノアッセイ、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、およびウエスタンブロットが挙げられる。特に、LAIR1の検出および定量のための競合アッセイも提供される。様々な有用な免疫検出法の工程が、例えば、Doolittle and Ben-Zeev(1999)、Gulbis and Galand(1993)、De Jager et al.(1993)、およびNakamura et al.(1987)などの科学文献に記載されている。一般に、免疫結合法は、LAIR1関連がんを含有することが疑われる試料を得ること、および、場合により、免疫複合体の形成を可能とするために効果的な条件下で、本開示による第1の抗体と試料を接触させることを含む。
これらの方法は、試料からのLAIR1またはLAIR1関連がん細胞を検出または精製する方法を含む。抗体は、好ましくは、固体支持体、例えば、カラムマトリックスの形態の固体支持体に連結され、かつ、LAIR1関連がん細胞を含有することが疑われる試料は、固定化された抗体に適用される。望ましくない成分はカラムから洗浄されて、固定化された抗体に免疫複合体化したLAIR1発現細胞を残し、次に該複合体は、カラムから生物または抗原を除去することにより回収される。
免疫結合法はまた、試料中のLAIR1関連がん細胞または関連成分を検出しかつその量を定量化するためならびに結合処理の間に形成された任意の免疫複合体の検出および定量化のための方法を含む。ここでは、LAIR1関連がん細胞を含有することが疑われる試料を得、かつ試料をLAIR1またはその成分に結合する抗体と接触させた後、特定の条件下で形成された免疫複合体を検出しかつその量を定量化する。抗原検出に関して、分析される生体試料は、LAIR1関連がんを含有することが疑われる任意の試料、例えば、組織切片もしくは検体、ホモジナイズされた組織抽出物、血液および血清などの体液、または糞便もしくは尿などの分泌物であってもよい。
免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能とするために効果的な条件下かつそのために充分な期間にわたり選択された生体試料を抗体と接触させることは、一般に、単純に抗体組成物を試料に加え、かつ抗体が免疫複合体を形成する、すなわちLAIR1に結合するために充分な長さの期間にわたって混合物をインキュベートすることである。この時間の後、試料-抗体組成物、例えば、組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウエスタンブロットは、一般に、あらゆる非特異的に結合した抗体種を除去するために洗浄され、一次免疫複合体内に特異的に結合した抗体のみが検出されることを可能とする。
一般に、免疫複合体形成の検出は当技術分野において周知であり、多数のアプローチの適用を通じて達成され得る。これらの方法は、一般に、標識またはマーカー、例えば、放射性タグ、蛍光タグ、生物学的タグ、および酵素タグのいずれかの検出に基づく。そのような標識の使用に関する特許としては、米国特許第3,817,837号、同第3,850,752号、同第3,939,350号、同第3,996,345号、同第4,277,437号、同第4,275,149号および同第4,366,241号が挙げられる。当然、当技術分野において公知のように、二次結合リガンド、例えば、二次抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合の構成の使用を通じて追加の利点が見出され得る。
検出に用いられる抗体は、検出可能な標識にそれ自体が連結されてもよく、その場合、単純にこの標識を検出することにより、組成物中の一次免疫複合体の量を決定することが可能となる。あるいは、一次免疫複合体内に結合した第1の抗体は、該抗体に結合親和性を有する第2の結合リガンドにより検出されてもよい。これらの場合、第2の結合リガンドは、検出可能な標識に連結されてもよい。第2の結合リガンドは多くの場合、それ自体が抗体であり、その場合それは「二次」抗体と称されることがある。二次免疫複合体の形成を可能とするために効果的な条件下かつそのために充分な期間にわたり、一次免疫複合体を、標識された二次結合リガンド、または抗体と接触させる。次に、二次免疫複合体は、一般に、あらゆる非特異的に結合した標識された二次抗体またはリガンドを除去するために洗浄された後、二次免疫複合体中に残った標識が検出される。
さらなる方法は、2工程アプローチによる一次免疫複合体の検出を含む。上記のように、二次免疫複合体を形成するために、該抗体に結合親和性を有する抗体などの第2の結合リガンドが使用される。洗浄後、これもまた免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能とするために効果的な条件下かつそのために充分な期間にわたり、第2の抗体と結合親和性を有する第3の結合リガンドまたは抗体と二次免疫複合体を接触させる。第3のリガンドまたは抗体は検出可能な標識に連結され、そのように形成される三次免疫複合体の検出を可能とする。この系は、これが所望される場合、シグナル増幅を提供し得る。
免疫検出の1つの方法は2つの異なる抗体を使用する。標的抗原を検出するために第1のビオチン化抗体が使用され、次に複合体化したビオチンに結合したビオチンを検出するために第2の抗体が使用される。その方法では、試験される試料は最初に、第1の工程の抗体を含有する溶液中でインキュベートされる。標的抗原が存在する場合、抗体の一部は抗原に結合してビオチン化抗体/抗原複合体を形成する。次に、ストレプトアビジン(またはアビジン)、ビオチン化DNA、および/または相補的ビオチン化DNAの連続溶液中でのインキュベーションにより抗体/抗原複合体を増幅させ、各工程では抗体/抗原複合体に追加のビオチン部位が付加される。好適なレベルの増幅が達成されるまで増幅工程を繰り返し、それが達成された時点で、ビオチンに対する第2の工程の抗体を含有する溶液中で試料がインキュベートされる。この第2の工程の抗体は、例えば、色原体基質を使用する組織酵素学により抗体/抗原複合体の存在を検出するために使用できる酵素により標識される。好適に増幅されると、巨視的に可視的なコンジュゲートを産生することができる。
免疫検出の別の公知の方法は、イムノPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)の方法論を利用する。PCR法は、ビオチン化DNAとのインキュベーションまでCantorの方法に類似するが、複数ラウンドのストレプトアビジンおよびビオチン化DNAのインキュベーションを使用する代わりに、抗体を解放させる低pHまたは高塩の緩衝液でDNA/ビオチン/ストレプトアビジン/抗体複合体が洗浄される。次に、結果として得られる洗浄溶液を使用して、適切な対照と共に好適なプライマーを用いるPCR反応が実行される。少なくとも理論上は、単一の抗原分子を検出するために、PCRの非常に大きい増幅能力および特異性を利用することができる。
1.ELISA
最も単純かつ直接的な意味において、イムノアッセイは結合アッセイである。ある特定の好ましいイムノアッセイは、当技術分野において公知の様々な種類の酵素連結免疫吸着アッセイ(ELISA)およびラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を使用する免疫組織化学検出もまた特に有用である。しかしながら、検出はそのような技術に限定されないこと、およびウエスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS分析などもまた使用されてもよいことが容易に理解されるであろう。
1つの例示的なELISAでは、本開示の抗体は、タンパク質親和性を呈する選択された表面、例えば、ポリスチレンマイクロタイタープレート中のウェルに固定化される。次に、LAIR1関連がん細胞を含有することが疑われる試験組成物がウェルに加えられる。結合および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄後に、結合した抗原を検出することができる。検出は、検出可能な標識に連結された別の抗LAIR1抗体を加えることにより達成することができる。この種類のELISAは単純な「サンドイッチELISA」である。検出はまた、第2の抗LAIR1抗体を加えた後、第2の抗体に結合親和性を有する、検出可能な標識に連結された第3の抗体を加えることにより達成されてもよい。
別の例示的なELISAでは、LAIR1関連がん細胞を含有することが疑われる試料をウェル表面に固定化させた後、本開示の抗LAIR1抗体と接触させる。結合および非特異的に結合した免疫複合体を除去するための洗浄の後に、結合した抗LAIR1抗体が検出される。最初の抗LAIR1抗体が検出可能な標識に連結されている場合、免疫複合体は直接的に検出されてもよい。ここでもまた、免疫複合体は、第1の抗LAIR1抗体に結合親和性を有する第2の抗体(第2の抗体は検出可能な標識に連結されている)を使用して検出されてもよい。
用いられるフォーマットにかかわらず、ELISAは、ある特定の特徴、例えば、コーティング、インキュベーションおよび結合、非特異的に結合した種を除去するための洗浄、および結合した免疫複合体の検出を共通して有する。これらを以下に記載する。
抗原または抗体のいずれかでのプレートのコーティングでは、一般に、終夜または特定された時間にわたり、プレートのウェルを抗原または抗体の溶液とインキュベートする。次に、プレートのウェルを洗浄して、不完全に吸着した材料を除去する。次に、試験抗血清に関して抗原として中性である非特異的タンパク質でウェルのあらゆる残っている利用可能な表面を「コーティング」する。これらには、ウシ血清アルブミン(BSA)、カゼインまたは粉乳の溶液が含まれる。コーティングにより、固定化表面上の非特異的な吸着部位のブロッキングが可能となり、したがって表面上への抗血清の非特異的結合により引き起こされるバックグラウンドが低減される。
ELISAにおいて、直接的な手順よりもむしろ、二次または三次検出を使用することが恐らくより慣例的である。したがって、ウェルにタンパク質または抗体を結合させ、非反応性材料でコーティングしてバックグラウンドを低減させ、洗浄して未結合の材料を除去した後、免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能とするために効果的な条件下で、試験される生体試料を固定化表面に接触させる。次に、免疫複合体の検出は、標識された二次結合リガンドまたは抗体、および標識された三次抗体または第3の結合リガンドと組み合わせた二次結合リガンドまたは抗体を必要とする。
「免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能とするために効果的な条件下」は、条件が、好ましくは、抗原および/または抗体を溶液、例えば、BSA、ウシガンマグロブリン(BGG)またはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)/Tweenで希釈することを含むことを意味する。これらの加えられる剤はまた、非特異的なバックグラウンドの低減を補助する傾向がある。
「好適な」条件はまた、インキュベーションが、効果的な結合を可能とするために充分な温度または期間行われることを意味する。インキュベーション工程は、典型的には、約1から2時間から4時間程度、好ましくは25℃~27℃程度の温度で行われ、または約4℃程度で終夜行われてもよい。
ELISAにおける全てのインキュベーション工程後、接触させた表面を洗浄して、複合体化していない材料を除去する。好ましい洗浄手順は、PBS/Tween、またはホウ酸緩衝液などの溶液での洗浄を含む。試験試料と元々結合した材料との特異的免疫複合体の形成、およびその後の洗浄後、微量の免疫複合体の存在さえも決定することができる。
検出手段を提供するために、第2または第3の抗体は、検出を可能とするための会合した標識を有する。好ましくは、これは、適切な発色基質とインキュベートすると呈色を生成する酵素である。したがって、例えば、さらなる免疫複合体形成の発生に有利に働く期間および条件下(例えば、PBS-TweenなどのPBS含有溶液中、室温で2時間のインキュベーション)でウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたは水素ペルオキシダーゼコンジュゲート抗体と第1および第2の免疫複合体を接触させまたはインキュベートすることが望まれる。
標識された抗体とのインキュベーション、および未結合の材料を除去するためのその後の洗浄後、例えば、発色基質、例えば、尿素、またはブロモクレゾールパープル、または2,2’-アジノ-ジ-(3-エチル-ベンズチアゾリン-6-スルホン酸(ABTS)、または酵素標識としてペルオキシダーゼの場合はH2O2とのインキュベーションにより標識の量が定量化される。次に、例えば可視スペクトル分光光度計を使用して、発色の程度を測定することにより定量化が達成される。
2.ウエスタンブロット
ウエスタンブロット(あるいはタンパク質イムノブロット)は、組織ホモジネートまたは抽出物の所与の試料中の特定のタンパク質を検出するために使用される分析技術である。それは、ポリペプチドの長さにより(変性条件)またはタンパク質の3D構造(天然/非変性条件)により天然または変性タンパク質を分離するためにゲル電気泳動を使用する。次に、タンパク質を膜(典型的にニトロセルロースまたはPVDF)に転写し、標的タンパク質に特異的な抗体を使用してプロービング(検出)する。
試料は、全組織からまたは細胞培養物から採ることができる。ほとんどの場合、ブレンダーを使用して(大きい試料体積の場合)、ホモジナイザーを使用して(小さい体積)、または超音波処理により、固体組織を最初に機械的に壊す。上記の機械的方法の1つにより細胞を破砕してもよい。しかしながら、細菌、ウイルスまたは環境試料がタンパク質の供給源であり得、ウエスタンブロッティングは細胞研究のみに制限されないことが注意されるべきである。細胞の溶解を促しかつタンパク質を可溶化するために、組み合わせた界面活性剤、塩、および洗浄剤を用いてもよい。それ自体の酵素による試料の消化を防止するために、プロテアーゼおよびホスファターゼ阻害剤が多くの場合に加えられる。組織調製は多くの場合、タンパク質の変性を回避するために低温で行われる。
ゲル電気泳動を使用して試料のタンパク質を分離する。タンパク質の分離は、等電点(pi)、分子量、電荷、またはこれらの因子の組合せにより為され得る。分離の性質は、試料の処理およびゲルの性質に依存する。これは、タンパク質を決定するために非常に有用な方法である。単一の試料から二次元にタンパク質を広げる二次元(2-D)ゲルを使用することもできる。タンパク質は、第1の次元において等電点(中性の総電荷となるpH)にしたがって、および第2の次元において分子量にしたがって分離される。
タンパク質を抗体検出のためにアクセス可能なものとするために、それらをゲル内からニトロセルロースまたはポリビニリデンジフルオリド(PVDF)で作られた膜上に移動させる。膜をゲルの上に置き、積み重ねた濾紙をその上に置く。積み重ねた全体を緩衝溶液に入れると、緩衝溶液は毛管作用により紙の上方向に移動し、それと共にタンパク質を運ぶ。タンパク質を転写する別の方法はエレクトロブロッティングと呼ばれ、電流を使用してタンパク質をゲルからPVDFまたはニトロセルロース膜中に引き寄せる。タンパク質は、ゲル内での編成を維持しながらゲル内から膜上に移動する。このブロッティング処理の結果として、タンパク質は検出のために薄い表面層上に露出される(下記を参照)。非特異的タンパク質結合特性(すなわち、全てのタンパク質に等しく結合する)のために両方の種類の膜が選択される。タンパク質の結合は、疎水性相互作用の他に、膜とタンパク質との電荷相互作用に基づく。ニトロセルロース膜はPVDFよりも安価であるがはるかにもろく、プロービングの繰返しに良好に耐えることができない。ゲルから膜へのタンパク質の転写の均一性および全体的な有効性は、クマシーブリリアントブルーまたはポンソーS色素で膜を染色することによりチェックすることができる。タンパク質が転写されたら、標識された一次抗体を使用して、または未標識の一次抗体の後に一次抗体のFc領域に結合する標識されたプロテインAまたは二次標識抗体を使用する間接的検出を使用してタンパク質が検出される。
3.免疫組織化学
本開示の抗体はまた、免疫組織化学(IHC)による研究のために調製された新鮮凍結組織ブロックおよび/またはホルマリン固定、パラフィン包埋組織ブロックのいずれとも組み合わせて使用することができる。これらの粒子検体から組織ブロックを調製する方法は、様々な予後因子の先行するIHC研究において使用されて成功しており、当業者に周知である(Brown et al, 1990; Abbondanzo et al, 1990; Allred et al, 1990)。
簡潔に述べれば、凍結切片は、小さいプラスチックカプセル中の50ngの凍結「粉砕」組織を室温でリン酸緩衝生理食塩水(PBS)中で再水和させ、遠心分離によって粒子をペレット化し、それらを粘性の包埋媒体(OCT)中に再懸濁し、カプセルを倒立させかつ/もしくは遠心分離によって再度ペレット化し、-70℃のイソペンタン中でスナップ冷却し、プラスチックカプセルを切断しかつ/もしくは凍結した円筒状の組織を取り出し、クライオスタットミクロトームチャック上に円筒状の組織を固定し、かつ/またはカプセルから25~50個の連続切片を切り出すことによって調製することができる。あるいは、凍結組織試料全体を連続切片の切り出しのために使用してもよい。
永久切片は、50mgの試料をプラスチック微量遠心チューブ中で再水和させ、ペレット化し、10%のホルマリン中で再懸濁して4時間固定化し、洗浄/ペレット化し、温めた2.5%の寒天中に再懸濁し、ペレット化し、氷冷水で冷却して寒天を固化させ、組織/寒天ブロックをチューブから取り出し、ブロックをパラフィンで浸潤させかつ/もしくは包埋し、かつ/または最大50個の連続永久切片を切り出すことを伴う類似の方法によって調製することができる。ここでもまた、組織試料全体を置換してもよい。
4.免疫検出キット
またさらなる態様では、本開示は、上記される免疫検出法と共に使用するための免疫検出キットに関する。抗体はLAIR1関連がん細胞を検出するために使用することができるため、抗体をキット中に含めることができる。したがって、免疫検出キットは、好適な容器手段中に、LAIR1に結合する第1の抗体、および任意で免疫検出試薬を含む。
ある特定の態様では、抗体は、固体支持体、例えば、カラムマトリックスおよび/またはマイクロタイタープレートのウェルに予め結合させてもよい。キットの免疫検出試薬は、所与の抗体に会合または連結された検出可能な標識などの様々な形態のいずれか1つとすることができる。二次結合リガンドに会合または連結された検出可能な標識も企図されている。例示的な二次リガンドは、第1の抗体に結合親和性を有する二次抗体である。
本発明のキットにおいて使用するためのさらなる好適な免疫検出試薬は、第1の抗体に結合親和性を有する第2の抗体と共に、第2の抗体に結合親和性を有する第3の抗体(第3の抗体は検出可能な標識に連結されている)を含む、2成分試薬を含む。上記の通り、多数の例示的な標識が当技術分野において公知であり、全てのそのような標識を本開示と関連して用いることができる。
キットは、検出アッセイのための標準曲線の作成に使用することができるように、標識化されていても未標識でもよい、LAIR1の好適に分注された組成物をさらに含んでもよい。キットは、抗体-標識コンジュゲートを、完全にコンジュゲートされた形態か、中間体の形態か、またはキットの使用者によってコンジュゲートされる別々の部分として、含有してもよい。キットの構成要素は、水性媒体中または凍結乾燥形態のいずれかにパッケージ化することができる。
キットの容器手段は、一般に、少なくとも1つのバイアル、試験管、フラスコ、ボトル、シリンジまたは他の容器手段を含み、その中に抗体を入れるか、または好ましくは適切に分注することができる。本開示のキットはまた、典型的には、抗体、抗原、および任意の他の試薬容器を、市販用に厳重に密閉して含有するための手段を含む。そのような容器としては、射出成形またはブロー成形されたプラスチック容器を挙げることができ、所望のバイアルをその中に保持する。
K.実施例
以下の実施例は、好ましい態様を実証するために含めたものである。以下の実施例に開示される技術は、態様の実施において良好に機能することが本発明者らにより発見された技術を提示するものであり、したがってその実施のための好ましい様式を構成すると考えることができることが当業者により理解されるべきである。しかしながら、開示される特定の態様において多くの変更を行うことができ、それでもなお本開示の精神および範囲から離れることなく同様または類似の結果を得ることができることを当業者は本開示に照らして理解するべきである。
実施例1
本実施例は、ヒトLAIR1の細胞外ドメイン(ECD)に結合するLAIR1モノクローナル抗体(mAb)を説明する。
本発明者らは、抗原としてヒトLAIR1 ECDを使用して、モノクローナル抗体群を生成した。当該モノクローナル抗体の配列の詳細は表1~5に列記されている。
(表1)抗LAIR1抗体の可変領域のアミノ酸配列(配列番号は下記の表6を参照)
(表2)重鎖CDRのアミノ酸配列(配列番号は下記の表6を参照)
(表3)重鎖CDRの核酸配列(配列番号は下記の表6を参照)
(表4)軽鎖CDRのアミノ酸配列(配列番号は下記の表6を参照)
(表5)軽鎖CDRの核酸配列(配列番号は下記の表6を参照)
本発明者らは、次に、ELISAによる濃度滴定(0~10μg/ml)を使用して、ヒトLAIR1 ECDに結合するLAIR1モノクローナル抗体(mAb)を決定した。ELISAアッセイの結果を図2~39および表7に示す。図2~39では、X軸は抗体濃度を示し、Y軸はOD(450nm)として測定された結合シグナルである。ELISAアッセイを行うために、高吸収96ウェルプレートをLAIR1 ECD組換えタンパク質でコーティングした。コーティング/ブロッキングしたプレートに、段階希釈(3倍)したLAIR1 mAbを加え、二次抗体としてヤギ抗ウサギF(ab')2コンジュゲートHRPを使用して検出した。全てのアッセイを3回繰り返し、EC50の推定のためにGraphPadソフトウェアを使用し、4パラメーターフィッティング曲線を使用して滴定曲線のフィッティングを行った。
(表7)ELISAによりアッセイした、ヒトLAIR1に結合する抗LAIR1抗体のEC
50
本出願の目的のために、ELISAの値は以下の通りに決定することができる:HEK293細胞にて(C末端に6Hisタグを有する)LAIR1細胞外ドメイン(ECD)タンパク質を組換え製造し、1μg/mlの濃度(100μl/ウェル)で高結合96ウェル透明プレート(Corning-Costar、Fisher Scientific)をコーティングし、4℃で終夜インキュベートした。プレートをすすいだ後、200μl/ウェルの5%脱脂乳/PBSにより37℃で2時間ブロッキングした。
10mg/mlから開始して3倍ずつ12段階にわたって希釈したLAIR1モノクローナル抗体(IgGまたはscFv断片)の段階希釈液を96ウェルプレートに加え、アッセイプレートに蓋をして37℃で45分インキュベートすることにより結合させた。次に、Tween 20(0.05%の濃度)を含有するPBSで3回およびPBSで1回プレートを洗浄した。製造者の示唆する希釈にしたがって、抗ヒトまたは抗ウサギもしくは他の種のIgG特異的抗体の二次抗体-HRPコンジュゲート(Jackson ImmunoResearch)を加えて室温で1時間インキュベートした。HRP基質であるTMB(ThermoFisher)を10分間加えることにより検出を実行し、50μl/ウェルの2N H2SO4を加えることにより停止させた。プレートリーダー(SpectraMax M4、Molecular Devices)を使用して450nmでの吸光度についてプレートの読取りを行った。データを収集し、EC50の算出のためにGrapPad Prism 7ソフトウェアを用いて4パラメーターフィッティング曲線を使用してグラフを作成した。
実施例2
本実施例は、LAIR1 ECDへのコラーゲンIの結合に対するLAIR1抗体の効果を説明する。
コラーゲンIは、LAIR1のリガンドとして提唱されている(Lebbink, R.J., de Ruiter, T., Adelmeijer, J.et al.2006.Collagens are functional, high affinity ligands for the inhibitory immune receptor LAIR-1.J.Exp.Med.203:1419.)
LAIR1抗体の群のLAIR1 ECDへの結合を明らかにした後、本発明者らは続いて、LAIR1 ECDへのコラーゲンIの結合に対するLAIR1抗体の効果を評価した。アッセイを行うために、高結合96ウェル透明プレート(Corning-Costar、Fisher Scientific)を濃度2μg/ml(100μl/ウェル)のコラーゲンIでコーティングし、4℃で終夜インキュベートした。C末端に6×Hisタグを含有するLAIR1細胞外ドメイン(ECD)タンパク質(10μg/ml)をLAIR1モノクローナル抗体(10μg/ml)と30~60分間プレインキュベートした。次に、コラーゲンIでコーティングしたプレートをpH7.4のPBSで簡単に洗浄した後、そこにLAIR1-his/LAIR1抗体混合物を加えた。
プレート上のコラーゲン1に結合したHISタグ付きLAIR1に、HRPとコンジュゲートした抗HISタグ抗体が結合できることを利用して、コラーゲンIへのLAIR1の結合を同定した。TMB基質を使用してこの結合を実証し、プレートリーダーを使用して450nmでプレートの読取りを行った。
図40に示すように、対照ウサギIgGまたはPBSは、コラーゲン1でコーティングしたプレートへのLAIR1の結合を阻害しなかった。LAIR1モノクローナル抗体LA-94とのプレインキュベーションはコラーゲンへのLAIR1の結合を増進させ、LAIR1モノクローナル抗体LA-235とのプレインキュベーションはコラーゲンプレートへのLAIR1の結合を阻害した。
実施例3
本実施例は、Octet RED96(図41)において行った古典的サンドイッチエピトープビニングアッセイフォーマットを使用した38種の抗LAIR1ウサギmAbのBLI解析を説明する。
LAIR1 mAbのエピトープビニングのために使用した手順を図42に示す。第1の抗体(40μg/mL)をOctet 8-channel Red96のプロテインAセンサーにロードし、センサーを対照ウサギ抗体(200μg/ml)でブロッキングした後、センサーをキネティクスバッファーに10秒間浸した。次にセンサーを組換えLAIR1(25μg/mL)に4分間曝露した。最後に、センサーを競合物/第2の抗体(40μg/mL)に4分間曝露して結合をチェックした。収集した速度論的データを、ForteBioのデータ解析ソフトウェア7.0を用いて処理し、競合的結合について抗体ぺアを評価した。第2の抗体によるセンサーチップ上の任意の追加の結合の検出はエピトープがふさがれていないことを示し(非競合「-」)、チップ上に第2の抗体の結合がないことはエピトープがブロックされていることを示す(競合「+」)。
図45に示されているように、第1のセット(セット1)のビニング群は14種のウサギmAbについて5つのエピトープビンを決定した。
図46に示されているように、第2のセット(セット2)のビニング群は7種のウサギmAbについて2つのエピトープビンを決定した。
図47に示されているように、第3のセット(セット3)のビニング群は7種のウサギmAbについて2つのエピトープビンを決定した。
図48に示されているように、第4のセット(セット4)のビニング群は7種のウサギmAbについて2つのエピトープビンを決定した。
実施例4
本実施例は、Octetを使用して決定された選択されたLAIR1抗体についての速度論的結合センサーグラムを説明する。
アッセイを行うために、抗体(30μg/mL)をプロテインAセンサーに4分間ロードした後、短い緩衝化を行ってキネティクスバッファーにおけるベースラインを確立した。次に、ロードされたセンサーを速度論的結合検出のために一連の組換えLAIR1濃度(0.1~200nM)に曝露した。バックグラウンド除去を使用してセンサーのドリフティングを訂正した。全ての実験は1,000rpmでの振とうと共に行った。抗体のみをロードした参照センサーからバックグラウンド波長シフトを測定した。ForteBioのデータ解析ソフトウェアを使用して1:1結合モデルへのデータのフィッティングを行い、会合速度および解離速度を抽出した。ForteBioのデータ解析ソフトウェア7.0を使用し、比koff/koffを使用してKDを算出した。
Octetを使用したmAb LA-121についての速度論的結合センサーグラムを図49に示す。
Octetを使用したmAb LA-258-3についての速度論的結合センサーグラムを図50に示す。
Octetを使用したmAb LA-258-2についての速度論的結合センサーグラムを図51に示す。
Octetを使用したmAb LA-259-2についての速度論的結合センサーグラムを図52に示す。
抗LAIR1抗体についての速度論的結合アッセイの結果を表8に示す。
(表8)Octetバイオセンサーチップを使用して決定された抗LAIR1抗体についての速度論的結合定数
実施例5
本実施例は、抗LAIR1アゴニスト抗体およびアンタゴニスト抗体のスクリーニングを説明する。
モノクローナル抗体産生ウサギ形質細胞の培養上清中の抗LAIR1抗体を、プロテインAでコーティングしたウェル上でインキュベートした。24時間後にGFP+LAIR1レポーター細胞の割合(%)(Kang et al Nat Cell Biol 2015, 17(5):665-677に記載されているように、LAIR1の機能的結合を示す)を検出した(図53A)。
LAIR1リガンドであるコラーゲンIでウェルの表面をコーティングした後、可溶性Abを加え、24時間後にGFP+LAIR1レポーター細胞の割合(%)を検出した(図53B)。
LAIR1リガンドであるコラーゲンIでウェルの表面をコーティングした後、可溶性AbおよびFc受容体陽性細胞株K562を加え、24時間後にGFP+LAIR1レポーター細胞の割合(%)を検出した(図53C)。
レポーター細胞系を使用して、2つのアゴニスト抗体候補(LA-94およびLA-192)およびN297A Fc変異型のLA-94(N297A94)、4つのアンタゴニスト抗体候補(LA-235、LA-219、LA-252、LA-259)およびLA-235のN297A Fc変異体型(N297A235)を確認した(図53D)。全てのGFP発現情報を表(図53Dの下パネル)に要約した。
抗LAIR1アンタゴニスト LA-235は、LAIR1レポーター細胞のコラーゲン誘導性の上方調節を用量依存的にブロックする活性を示した(図53E)。対照的に、アゴニストAb LA-94は、LAIR1レポーター細胞のコラーゲン誘導性の上方調節を増強する能力を示した。
実施例6
本実施例は、抗LAIR1抗体がNSG異種移植モデルにおいて白血病の発症をブロックすることを説明する。
0日目に1×106個のルシフェラーゼ安定発現THP-1細胞を尾静脈注射によりNSGマウスに移植し、30分後に抗LAIR1抗体を眼静脈注射により投与した。腫瘍発生をBLIイメージングによりモニタリングした(図54A)。
図54Bに示すように、抗LAIR1抗体LA-94、LA-235、およびN297A変異型のLA-94は、マウスの寿命を有意に延長させた。
0日目に5×106個のGFP+MV4-11細胞を尾静脈注射によりNSGマウスに移植し、30分後に10mg/kgの抗LAIR1抗体を眼静脈注射により処置した。24時間後に臓器を回収し、フローサイトメトリーによりGFP+MV4-11細胞を検出した。図54Cに示すように、抗LAIR1抗体LA-94およびLA-235は、マウスにおいてGFP+MV4-11の数を有意に減少させた。
-7日目に1×105個/ウェルのヒト内皮細胞を24ウェルのトランスウェルプレートの上室に播種した。0日目に1×105個のMV4-11細胞を加え、1日目(18時間後)に下室のMV4-11細胞の細胞数をフローサイトメトリーを使用して計数した。図54Dに示すように、抗LAIR1アンタゴニスト抗体LA-235およびN297A235は、MV4-11細胞の遊走を有意に減少させた。
実施例7
本実施例は、抗LAIR1抗体がヒトLAIR1発現MLL-AF9マウスモデルにおいて白血病の発症をブロックすることを説明する。
図55Aは、ヒトLAIR1を発現するMLL-AF9マウスモデルの構成図を示す。
図55Bに示すように、Aにおける移植に使用されるGFP+細胞は、100%のヒトLAIR1陽性に近いが、マウスLAIR1を発現しない。
図55Cに示すように、マウス骨髄細胞において発現されるヒトLAIR1は、リン酸化SHP1を上方調節し(左)、かつコロニー形成単位(CFU)の数を増加させた(右)。
図55Dに示すように、移植の5、7、および9日後にマウス1匹当たり100μgの抗LAIR1抗体をヒトLAIR1発現マウスモデルに注射した。15日目に末梢血試料を回収し、フローサイトメトリーを使用してGFP+細胞の割合(%)を検出した。
実施例8
本実施例は、抗LAIR1抗体がFc依存的にヒトマクロファージの食作用を増強する能力を示すことを説明する。CFSE染色したTHP-1細胞を対照または抗LAIR1抗体と共に氷上で15分間インキュベートした後、PBSで洗浄した。次に、細胞をヒトPBMC由来マクロファージと共に30分間インキュベートした。
ヒトマクロファージによるTHP-1細胞の食作用を測定した。図56に示すように、抗LAIR1抗体LA-94およびLA-235はTHP-1細胞の食作用を有意に増加させたが、抗体のN297A改変は食作用を増強する抗体の能力を実質的に損なわせ、このことは、食作用を増強する抗体の能力はFc依存的であることを示している。
実施例9
本実施例は、抗LAIR1アゴニスト抗体がT細胞活性を阻害することを説明する。
示した濃度の抗CD3抗体で96ウェル平底プレートのウェルの表面をコーティングした後、対照または抗LAIR1抗体(最終濃度50μg/ml)と混合した1×105個のPBMCをインキュベートした。5日目にCD3+T細胞の割合(%)をフローサイトメトリーにより検出した。図57Aに示すように、抗LAIR1アゴニスト抗体LA-192は、PBMC中のT細胞の割合(%)を有意に減少させた。
ヒトT細胞/GFP+THP-1細胞混合物を、示した対照または抗LAIR1抗体により処理した。4時間後にGFP+THP-1細胞のアポトーシスを測定した。図57Bに示すように、抗LAIR1アゴニスト抗体LA-94は、T細胞により誘導されたTHP-1細胞のアポトーシスを有意に減少させ、このことは、T細胞活性に対する当該抗体の阻害効果を示している。