JP7145140B2 - ゲノム再編方法及びその利用 - Google Patents

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本明細書は、ゲノム再編方法及びその利用等に関する。
細胞や植物体等などの各種生物体において、ゲノムDNAにおける遺伝的組換えを誘発してゲノム再編を促進することにより、有用な生物体を効率的に取得する試みがなされている。
遺伝的組換えを誘発する手法の1つとして、TaqIなどのDNA二本鎖切断酵素を酵母などの細胞内で発現させて、DNA二本鎖切断酵素を40℃以上の高温で60分以下程度の短時間の処理により活性化して、人為的かつ高温でしかも短時間にDNAの切断及び組換えを生じさせることが行われている(特許文献1~3)。
特開2011-160798号公報 特開2006-141322号公報 特開2012-44883号公報
しかしながら、かかる高温かつ短時間の処理でDNA二本鎖切断酵素を短時間活性化するという手法であると、処理条件のDNA二本鎖切断頻度を制御することが困難であった。すなわち、温度又は処理時間によっては、切断が不十分であり十分な遺伝的組換えが行われなない一方、過度な切断により細胞が脆弱化してしまっていた。こうした結果、意図したゲノムの再編が困難であったり、また、十分なゲノム再編効率を獲得することが困難であったりする場合もあった。
一方、DNA二本鎖切断酵素の作動は、細胞の存続自体や増殖を著しく抑制すると考えられる。したがって、細胞周期、例えば、酵母であれば2時間~数時間の範囲を超えてDNA二本鎖切断酵素を作動させることは現実的とはいえなかった。
本明細書は、より実用的なゲノム再編方法、すなわち、ゲノム再編レベルを制御でき優れたゲノム再編効率を得ることができるゲノム再編方法及びその利用を提供する。
本発明者らは、DNA二本鎖切断処理を従来法(高温及び短時間)とは異なり、細胞が十分に増殖する環境の条件(細胞の増殖環境条件)下で、DNA二本鎖切断酵素を作用させることで、意外にも、ゲノム再編レベルを自在に制御しつつしかもゲノム再編効率を飛躍的に高めることができるという知見を得た。こうした知見に基づき、本明細書は、以下の手段を提供する。
(1)真核生物体におけるゲノム再編方法であって、
真核生物体の細胞内において、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、前記細胞の増殖環境条件下で一時的に作用させて遺伝的組換えを行う1又は2以上のゲノム再編工程を備える、方法。
(2)前記タンパク質は好熱菌由来の耐熱性DNA二本鎖切断酵素である、(1)に記載の方法。
(3)前記タンパク質は、BclI、Sse9I、BstUI、TfiI、TseI、Tsp45I、TaqI及びPhoIから選択される1種又は2種以上である、(1)又は(2)に記載の方法。
(4)前記タンパク質は、Sse9I、BstUI、TfiI、TseI、Tsp45I及びTaqIから選択される1種又は2種以上である、(1)~(3)のいずれかに記載の方法。
(5)前記タンパク質は、TaqIである、(1)~(4)のいずれかに記載の方法。
(6)前記ゲノム再編工程は、前記タンパク質を誘導的に発現させる工程である、(1)~(5)のいずれかに記載の方法。
(7)前記ゲノム再編工程は、前記タンパク質を1時間以上72時間以下作用させる工程である、(1)~(6)のいずれかに記載の方法。
(8)前記細胞増殖環境条件は、前記細胞が十分な増殖能を発揮する温度を含む条件である、(1)~(7)のいずれかに記載の方法。
(9)前記真核生物体は、植物体である、(1)~(8)のいずれかに記載の方法。
(10)前記真核生物体は、微生物である、(1)~(9)のいずれかに記載の誘発方法。
(11)前記真核生物体は、酵母である、(1)~(10)のいずれかに記載の方法。
(12)前記真核生物体は、ホモタリズム性酵母である、(1)~(11)のいずれかに記載の方法。
(13)前記ホモタリズム性酵母について第1の前記再編工程を実施後に、再編されたゲノムセットを有する前記ホモタリズム性酵母に第1の形質の選択圧下で選抜する胞子育種を含む選抜工程を実施し、さらに、選抜された前記ホモタリズム性酵母について第2の前記再編工程を実施する、(12)に記載の方法。
(14)再編されたゲノムセットを備える真核生物体の生産方法であって、
真核生物体の細胞内において、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、前記細胞の増殖環境条件下で一時的に作用させて遺伝的組換えを行う1又は2以上のゲノム再編工程、
を備える、方法。
(15)さらに、再編されたゲノムセットを保持する前記真核生物体の集団から、任意の指標に基づいて意図する真核生物体を選抜する1又は2以上の選抜工程、
を備える、(14)に記載の生産方法。
(16)前記真核生物体は、ホモタリズム性酵母である、(14)又は(15)に記載の生産方法。
(17)前記真核生物体は、ホモタリズム性酵母であり、
前記選抜工程は、胞子育種工程を含む、(15)に記載の生産方法。
(18)真核生物体集団の生産方法であって、
真核生物体の細胞内において、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、前記細胞の増殖環境条件下で一時的に作用させて遺伝的組換えを行う1又は2以上のゲノム再編工程、
を備える、方法。
(19)DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持する、ホモタリズム性酵母である育種材料。
TaqI遺伝子酵母発現用ベクターの構造の概要を示す図である。 ゲノム再編効率の評価のためのGF-FPレポーター遺伝子を含むプラスミドの構築を示す図である。 GF-FPレポーター遺伝子を用いたゲノム再編評価法の概要を示す図である。 BY4741+GFP(HIS)株を用いた各誘導温度でのTaqI発現量の比較を示す図である。 BY4741+GFP(HIS)株を用いた高温かつ短時間の熱処理によるゲノム再編効率を示す図であり、Aは、熱処理直後における再編効率を示し、Bは回復培養後における再編効率を示す。 BY4741+GFP(HIS)株を用いた細胞増殖温度における処理によるゲノム再編効率を示す図である。 細胞増殖温度での処理による1倍体、2倍体及び4倍体酵母を用いたゲノム再編効率の比較を示す図である。 細胞増殖温度での処理による1倍体、2倍体及び4倍体酵母を用いたTaqI処理時間による倍数性ヒストグラムを示す図である。 染色体間の遺伝的組換え(ゲノム再編)の評価系(A及びB)及び細胞増殖温度での処理による評価結果(C)を示す図である。 高温かつ短時間での遺伝的組換えによる染色体間のゲノム再編効率の評価結果を示す図である。 集積培養工程における菌体量の推移を示す図である。 OC2A-C5株のキシロース資化能力についての発酵試験結果(5%キシロース発酵培地)を示す図である。 OC2A-C5株のキシロース資化能力についての発酵試験結果(高糖濃度のグルコース+キシロース混合発酵培地(80 g/L グルコース及び100 g/Lキシロース)を示す図である。 OC2A-TT株の耐熱性(40℃)についての発酵試験結果(グルコース+キシロース混合発酵培地(30g/Lグルコース、30g/Lキシロース)を示す図である。 OC2B-TT1株及びOC2B-TT2株の耐熱性(40℃)についての発酵試験結果(グルコース+キシロース混合発酵培地(50g/Lグルコース、50g/Lキシロース)を示す図である。 細胞増殖温度における処理によるゲノム再編効率の評価結果(全細胞)を示す図である。 細胞増殖温度における処理によるゲノム再編効率の評価結果(生細胞)を示す図である。
本明細書の開示は、ゲノム再編方法及びその利用に関する。本明細書に開示するゲノム再編方法(以下、単に、本再編方法ともいう。)によれば、真核生物体の細胞内において、制限酵素などのDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、細胞の増殖環境条件下で一時的に作用させることで、ゲノム再編のレベル(程度)を容易に調節して、しかも従来に比して高いゲノム再編効率を実現することができる。こうした、本再編方法によれば、染色体内における各種のゲノム再編効率のほか、従来法では低効率であった染色体間のゲノム再編効率も向上させることができる。
従来のゲノム再編は、細胞に適用される一般的な細胞増殖環境条件でない条件下、例えば、一般的な培養温度よりも高温で制限酵素を細胞内で短時間作用させて遺伝的組換えを実施しゲノム再編していた。そして、その後、通常の培養温度に戻すことで、制限酵素が作用しないようにしてゲノム再編を終了させて、個々の細胞において種々の遺伝的組換えによって生成した種々のゲノムセットを備える細胞ライブラリを構築していた。
しかしながら、本発明者らの検討によれば、制限酵素は、細胞内では意外にも十分に低い温度でDNA二本鎖切断活性を染色体DNAに作用させることが可能であることがわかった。また、高温かつ短時間という作用条件では、DNA切断と同時に、細胞が本来有するDNA修復作用が発揮されていなかったことがわかった。その結果、高温かつ短時間という作用条件では結果として遺伝的組換えを促進するのが困難であり十分なゲノム再編効率を実現できていなかった。
本明細書の開示を拘束するものではないが、本発明者らは、本再編方法の優位性について以下のように推論することができる。すなわち、本再編方法によれば、細胞増殖環境条件を採用することで、DNA二本鎖切断作用とともに、細胞本来のDNAの修復作用を発揮させることもできる。DNA二本鎖切断作用とDNA修復作用、さらに、細胞の生育ひいては増殖を経ることで、結果として、DNA切断による染色体や遺伝子の機能ダメージを効果的に回避又は抑制されて、遺伝的組換えの結果、すなわち、様々に再編されたゲノムセットが細胞内で許容されることになる。以上のことから、多様な再編ゲノムセットを有し、しかも増殖可能な細胞を得ることができると考えられる。
さらに、本再編方法によれば、細胞増殖環境条件下での温度や時間等により、DNA二本鎖切断作用とDNA修復作用とをコントロールして、遺伝的組換えの促進と細胞等のダメージとを調節できる。この結果、ゲノム再編レベルを制御しつつ、優れたゲノム再編効率を得ることができると考えられる。
以上の結果、本再編方法によれば、ゲノムセット組成の多様性に富む真核生物体集団を効率的に構築することができる。こうして得られるゲノムセット組成の多様性に富む真核生物体集団は、同時に、形質の多様性に富む真核生物体集団となる。
この真核生物体集団は、進化の過程で生じうる新たな形質を獲得した真核生物体、形質を喪失又は劣化した真核生物体、形質が向上した真核生物体など、形質の獲得、向上、喪失、低下、改変などを種々の態様で備えうる真核生物体の集団となっていると考えられる。
したがって、本再編方法によって得られる真核生物体集団に対して、所望の指標に基づいて選抜を実施することで、効率的に意図した真核生物体を取得することができる。
本明細書において「ゲノムセット」とは、真核細胞において染色体DNAとして存在し、真核細胞において自己複製可能であって娘細胞に伝達されるDNAをいうものとする。
また、本明細書において「遺伝的組換え」とは、広い意味において、DNA間で起きるDNA切断・再結合現象を意味する。したがって、本明細書における「遺伝的組換え」には、相同組換え、非相同組換を包含する。さらに、本明細書における「遺伝的組換え」は、1又は2以上の塩基の置換、挿入及び欠失等による遺伝子突然変異及び染色体の逆位、不等交叉、交叉、転座、重複、欠失、コピー数の低下、コピー数の増大、染色体倍数化及び染色体異数化等の染色体突然変異を包含する。また、本明細書における「遺伝的組換え」には、同一染色体内における遺伝的組換えと異なる染色体間における遺伝的組換えの双方を包含する。
以下、本明細書の開示の各種実施形態について、詳細に説明する。
(真核生物体におけるゲノム再編方法)
(ゲノム再編工程)
本再編方法は、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、真核生物体の細胞内において、前記細胞の増殖環境条件下で一時的に作用させるゲノム再編工程(以下、単に再編工程という。)を備えることができる。再編工程は、真核生物体の細胞に適用される。再編工程は、必要に応じ1又は2回以上繰り返して実施することができる。また、再編工程後に集積培養などの各種の選抜工程を行うことができる。また、こうした再編工程と選抜工程とを繰り返して実施することもできる。
(真核生物体)
本再編方法は、任意の真核細胞生物体に適用可能である。本再編方法に適用される真核生物体としては、動物、植物、真核性微生物が挙げられる。動物としては特に限定しないで、哺乳動物及び各種の魚類などの非哺乳動物が挙げられる。また、本再編方法に適用される動物としては、動物に由来するものであればよく、細胞、組織、器官、受精卵などいずれの形態であってもよい。受精卵など、完全な動物に再生する能力を保持しているものであれば、改変した動物を得るのに都合がよい。
本再編方法に適用される植物としても特に限定するものではないが、例えば、双子葉植物、単子葉植物、例えばアブラナ科、イネ科、ナス科、マメ科、ヤナギ科等に属する植物(下記参照)が挙げられる。
アブラナ科:シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、アブラナ(Brassica rapa、Brassica napus)、キャベツ(Brassica oleracea var. capitata)、ハクサイ(Brassica rapa var. pekinensis)、チンゲンサイ(Brassica rapa var. chinensis)、カブ(Brassica rapa var. rapa)、ノザワナ(Brassica rapa var. hakabura)、ミズナ(Brassica rapa var. lancinifolia)、コマツナ(Brassica rapa var. peruviridis)、パクチョイ(Brassica rapa var. chinensis)、ダイコン(Brassica Raphanus sativus)、ワサビ(Wasabia japonica)など。
ナス科:タバコ(Nicotiana tabacum)、ナス(Solanum melongena)、ジャガイモ(Solaneum tuberosum)、トマト(Lycopersicon lycopersicum)、トウガラシ(Capsicum annuum)、ペチュニア(Petunia)など。
マメ科:ダイズ(Glycine max)、エンドウ(Pisum sativum)、ソラマメ(Vicia faba)、フジ(Wisteria floribunda)、ラッカセイ(Arachis. hypogaea)、ミヤコグサ(Lotus corniculatus var. japonicus)、インゲンマメ(Phaseolus vulgaris)、アズキ(Vigna angularis)、アカシア(Acacia)など。
キク科:キク(Chrysanthemum morifolium)、ヒマワリ(Helianthus annuus)など。
ヤシ科:アブラヤシ(Elaeis guineensis、Elaeis oleifera)、ココヤシ(Cocos nucifera)、ナツメヤシ(Phoenix dactylifera)、ロウヤシ(Copernicia)など。
ウルシ科:ハゼノキ(Rhus succedanea)、カシューナットノキ(Anacardium occidentale)、ウルシ(Toxicodendron vernicifluum)、マンゴー(Mangifera indica)、ピスタチオ(Pistacia vera)など。
ウリ科:カボチャ(Cucurbita maxima、Cucurbita moschata、Cucurbita pepo)、キュウリ(Cucumis sativus)、カラスウリ(Trichosanthes cucumeroides)、ヒョウタン(Lagenaria siceraria var. gourda)など。
バラ科:アーモンド(Amygdalus communis)、バラ(Rosa)、イチゴ(Fragaria)、サクラ(Prunus)、リンゴ(Malus pumila var. domestica)など。
ナデシコ科:カーネーション(Dianthus caryophyllus)など。
ヤナギ科:ポプラ(Populus trichocarpa、Populus nigra、Populus tremula)など。
イネ科:トウモロコシ(Zea mays)、イネ(Oryza sativa)、オオムギ(Hordeum vulgare)、コムギ(Triticum aestivum)、タケ(Phyllostachys)、サトウキビ(Saccharum officinarum)、ネピアグラス(Pennisetum pupureum)、エリアンサス(Erianthus ravenae)、ミスキャンタス(ススキ)(Miscanthus virgatum)、ソルガム(Sorghum)スイッチグラス(Panicum)など。
ユリ科:チューリップ(Tulipa)、ユリ(Lilium)など。
フトモモ科:ユーカリ(Eucalyptus camaldulensis、Eucalyptus grandis)など。
本再編方法に適用される植物としては、植物に由来するものであればよいが、完全な植物に再生する能力を保持しているものであれば、ゲノム変性した植物を得るのに都合がよい。したがって、植物としては、細胞、組織、器官、種子、カルスなどいずれの形態であってもよい。
また、微生物としても、特に限定するものではないが、物質生産等を考慮すると、麹菌などのカビや酵母などの微生物細胞が挙げられる。麹菌としては、アスペルギルス・アキュリータス(Aspergillus aculeatus)、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus orizae)等のアスペルギルス属が挙げられる。また、酵母としては、公知の各種酵母を利用できるが、サッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cerevisiae)等のサッカロマイセス属の酵母、シゾサッカロマイセス・ポンベ(Schizosaccharomyces pombe)等のシゾサッカロマイセス属の酵母、キャンディダ・シェハーテ(Candida shehatae)等のキャンディダ属の酵母、ピキア・スティピティス(Pichia stipitis)等のピキア属の酵母、ハンセヌラ(Hansenula)属の酵母、クロッケラ属(Klocckera)の酵母、スワニオマイセス属(Schwanniomyces)の酵母及びヤロイア属(Yarrowia)の酵母、トリコスポロン(Trichosporon)属の酵母、ブレタノマイセス(Brettanomyces)属の酵母、パチソレン(Pachysolen)属の酵母、ヤマダジマ(Yamadazyma)属の酵母、クルイベロマイセス・マーキシアヌス(Kluyveromyces marxianus)、クルイベロマイセス・ラクティス(Kluveromyces lactis)等のクルイベロマイセス属の酵母、イサトケンキア・オリエンタリス(Issatchenkia orientalis)等のイサトケンキア属の酵母が挙げられる。なかでも、工業的利用性等の観点からサッカロマイセス属酵母が好ましい。なかでも、サッカロマイセス・セレビジエが好ましい。
また、酵母としては、ヘテロタリズム性の酵母のほか、ホモタリズム性酵母であってもよい。ホモタリズム性酵母は、再編工程後に選抜工程を行う場合において、胞子育種を経ることで、正の(優れた)遺伝的組換え結果を増強し、負の遺伝的組換えの影響を排除することができる。また、負の遺伝的組換えを有するゲノムセットを保持する酵母を効率的に排除して正の遺伝的組換え結果を有するゲノムセットを保持するホモタリズム性酵母集団を得ることができるため、さらに1又は2以上の再編工程を繰り返す場合であっても、優れたゲノム再編効率を得ることができる。
本再編方法においては、固有倍数性を超える倍数体である真核生物体を用いることもできる。こうした倍数体を真核生物体として用いることで、DNA二本鎖切断による種々の遺伝的組換えによるダメージを抑制又は回避して、飛躍的かつ効率的にゲノムセット組成及び形質の多様性に富み、増殖に有利な集団を構築できる。
固有倍数性を超える倍数体としては、例えば、動物の固有倍数性は2倍数性あるから、2倍体を超える倍数体を真核生物体として用いることができる。また、植物の固有倍数性は種々であるため、その固有倍数性を超える倍数体を真核生物体として用いることができる。微生物においては、例えば、酵母などにおいては、2倍数性を超える倍数体を真核生物体として用いることができる。
固有倍数性を超える倍数体としては、野生型であってもよい。例えば、コムギなど野生型として2倍体が存在する一方、2倍体を超える野生型コムギ、すなわち、4倍体コムギ、6倍体コムギも野生型として存在する場合には、こうした4倍体以上のコムギを用いてもよい。真核生物体としては、人為的にゲノムサイズ増大操作を行って得られた真核生物体を用いることもできる。
真核生物体は、好ましくは4倍体以上の倍数体である。4倍体以上の倍数体は、例えば、4倍体のほか、5倍体、6倍体、7倍体、8倍体等が挙げられる。本開示によれば、染色体の倍数性が高くても、DNA二本鎖の切断を介したゲノムセットの遺伝的組換えにより、ゲノムサイズの大きさに関する不都合を回避してゲノムサイズメリットを生かした多様性のある真核生物体集団を取得できる。したがって、真核生物体の固有倍数性が4倍体以上であると、遺伝的組換えの効率が高まり、顕著に多様性に優れる真核生物体集団を構築できるようになる。より好ましくは5倍体であり、さらに好ましくは6倍体であり、なお好ましくは7倍体であり、一層好ましくは8倍体以上である。
真核生物体は、人為的なゲノムサイズ増大操作を行って固有倍数性を超えるように至った真核生物体であってもよい。こうした真核生物体を用いる場合、前もって取得された、あるいは既に存在している人為的なゲノムサイズ増大操作を行って得られた真核生物体を、再編工程に供してもよい。また、真核生物体となる真核生物体に対してゲノムサイズ増大操作を行って安定的に固有倍数性を超える倍数性の真核生物体を得る工程を行い、この工程によって得られた真核生物体について再編工程を行う形態であってもよい。
人為的なゲノム増大操作としては、各種細胞を用いた細胞融合、動物における受精卵や未受精卵における温度や圧力による減数***の抑制処理、植物における交配、コルヒチンなどの染色体倍化誘発剤の供給等が挙げられる。さらに、酵母であれば、一般ヘテロタリズム株間の低頻度接合体の選択分離、接合型変換系を応用する方法及び細胞融合法等が挙げられる(生物化学実験法第39巻、酵母分子遺伝学実験法(大嶋泰治、学会出版センター)。なお、当業者であれば、固有倍数性を超える倍数性の真核生物体を得るため、公知の手法を適宜真核生物体に適用することができる。
(本タンパク質:DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質)
本タンパク質としては、特に限定しないが、例えば、公知のDNA二本鎖切断酵素を用いることができる。本再編方法では、細胞増殖環境条件の下、細胞が有するDNA修復活性を作用させつつDNA二本鎖切断活性を作用させるものであり、これらを容易に制御できるため、結果として本タンパク質が備えるDNA二本鎖切断活性については特に限定されない。したがって、公知の制限酵素等から任意の制限酵素等を選択して本タンパク質として使用することができる。
DNA二本鎖切断酵素が有する切断部位(認識部位)は特に限定するものではない。概して制限酵素は種々の認識部位を有しており、認識部位が違うことで、異なるゲノム再編効果を得ることができる場合もある。遺伝的組換えの効率の観点からは、DNA上の4塩基~6塩基程度を認識部位とする、いわゆる多頻度制限酵素と称されるDNA二本鎖切断酵素が好ましい。ゲノムにおける切断箇所の数がゲノム再編効率に寄与するため、かかる塩基数の認識部位とすることで、好ましい頻度で染色体DNAを切断できる。例えば、4塩基又は5塩基の認識部位とするDNA二本鎖切断酵素がより好ましく、4塩基の認識部位とすることがさらに好ましい。このようなDNA二本鎖切断酵素としては、特に限定されないが、ApeKI、BsrI、BssKI、BstNI、BstUI、BtsCI、FatI、FauI、PhoI、PspGI、SmlI、TaqI、TfuI、TseI、Tsp45I、TspRIが挙げられる。また、Sse9I、MseI、DnpI及びCviAII等などの公知の各種の多頻度性酵素を挙げることができる。
DNA二本鎖切断酵素の認識部位が異なることで、異なる遺伝的組換え、すなわち、異なるゲノム再編が可能となる。したがって、再編工程に用いるDNA二本鎖切断酵素の認識部位を適宜選択することによって、異なる再編結果を得ることができる。したがって、再編工程を、1種類のDNA切断酵素を用いて行ってもよいし、2以上の異なる認識部位を有するDNA切断酵素を用いて行ってもよい。さらに、再編工程を複数回実施する場合において、異なる再編工程を、異なる認識部位を有する1又は2以上のDNA二本鎖切断酵素を用いておこなってもよい。
制限酵素としては、好熱菌由来の制限酵素であって、真核生物体の細胞の培養温度よりも高温領域にDNA二本鎖切断活性についての至適温度を有する制限酵素(いわゆる耐熱性DNA二本鎖切断酵素)を使用することがより好ましい。こうしたタンパク質であると、細胞増殖温度で比較的緩やかなDNA二本鎖切断活性を作用させることができるからである。
こうした本タンパク質としては、例えば、DNA二本鎖切断活性の至適温度が50℃以上80℃以下の制限酵素を用いることができる。例えば、至適温度が50℃、55℃、60℃、65℃、及び75℃(いずれも、カタログ値)が挙げられる。制限酵素の至適温度は、各種の販売会社のカタログ等に基づいて(カタログ値)等に基づいて選択することができる。至適温度は50℃未満であると、至適温度が後述する細胞増殖環境条件の温度(細胞増殖温度という。)に近くなることが多く、細胞増殖温度においてDNA二本鎖切断活性が強くなりすぎる場合がある。至適温度が80℃を超えると、細胞増殖温度において、DNA二本鎖切断活性が弱くなりすぎる場合がある。概して、至適温度は、好ましくは、55℃以上であり、より好ましくは60℃以上であり、62℃以上であってもよく、65℃程度であってもよい。また、概して、至適温度は、75℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以下であり、また、68℃以下であってもよい。
また、本タンパク質としては、DNA二本鎖切断活性が強すぎると細胞のダメージが大きいため、例えば、細胞増殖温度よりも、DNA二本鎖切断活性の至適温度が高いDNA二本鎖切断酵素を用いることが好ましい。こうすることで、緩和な切断作用を生じさせることができ、また、切断作用の調節も容易であるからである。
概して、本タンパク質は、そのDNA二本鎖切断活性の至適温度が、用いる真核生物体の細胞増殖温度の上限又はその近傍温度よりも10℃以上高いことが好ましい。より好ましくは15℃以上高く、さらに好ましくは20℃以上である。
例えば、酵母についての細胞増殖温度は、20℃以上40℃以下であるため、酵母の再編工程に用いるDNA二本鎖切断酵素の至適温度は、好ましくは50℃以上であり、より好ましくは55℃以上であり、60℃以上であってもよく、65℃程度であってもよい。
また、本タンパク質は、37℃においては、至適温度時のDNA二本鎖切断活性を100%したとき、37℃の活性が、例えば、10%以上30%以下であることが好ましい。この程度活性が低くても遺伝的組換えを促進できる一方、細胞へのダメージを抑制できるからである。
例えば、本タンパク質としては、以下の公知の制限酵素から適宜選択して用いることができる。
Figure 0007145140000001
本再編方法では、上述のとおり、本タンパク質が備えるDNA二本鎖切断活性については特に限定されず、任意の制限酵素等から選択して使用することができる。例えば、BclI、Sse9I、BstUI、TfiI、TseI、Tsp45I、TaqI及びPhoIなどから選択することができる。これらの制限酵素は、至適温度が50℃以上75℃以下で、認識部位の塩基長が4以上6以下である。
また、例えば、至適温度及び認識部位の観点からは、ApeKI、BsrI、BssKI、BstNI、BstUI、BtsCI、FatI、FauI、PhoI、PspGI、SmlI、Sse9I、TaqI、TfuI、TseI、Tsp45I、TspRIが本タンパク質として好適な制限酵素として挙げられる。また、至適温度と細胞増殖温度との間における活性比からは、例えば、ApeKI、BsaBI、BsaJI、BsaWI、BsIEI、BslI、BsmBI、BsmI、BspQI、BsrDI、BsrI、BssKI、BstAPI、BstBI、BstNI、BstUI、BstYI、FatI、FauI、MwoI、Nb.BsmI、Nb.BsrDI、PspGI、SfiI、SmlI、TaqI、TfiI、TliI、TseI、Tsp45I、Tsp509I、TspMI、TspRI、Tth111I等が挙げられる。
本タンパク質、至適温度や細胞増殖温度との関係のほか、その切断頻度や態様(認識塩基数や認識配列の特徴)も考慮して再編工程に用いるのに好適なものが選択される。なお、至適温度については、制限酵素に一般的に適用される制限反応条件(制限酵素10ユニット、DNA1μg、当該制限酵素に推奨されるバッファ、BSA(必要に応じ、100μg/ml)、反応時間は典型的には1時間)で複数種類の反応温度で制限反応を実施することで取得できるほか、制限酵素の入手先のカタログ等から取得できる。また、細胞増殖温度におけるDNA二本鎖切断活性の比(対至適温度時の活性)もカタログ等から取得できるほか、制限酵素に応じた制限反応条件下でその至適温度と細胞増殖温度とを変更する以外は同一条件で制限反応を実施することで取得できる。
本タンパク質を真核生物体の細胞内において作用させるには、少なくとも、本タンパク質を細胞内に存在させる。本タンパク質は、本来的に細胞内に存在するが、至適温度の観点及び一時的な作用をコントロールする観点から、好ましくは、外部から供給する。外部から供給するのにあたり、本タンパク質は、真核生物体の細胞に直接供給してもよいし、あるいは本タンパク質をコードする遺伝子を発現可能とする発現ベクターを真核生物体の細胞に供給して形質転換してもよい。好ましくは、本タンパク質を真核生物体の細胞内で発現誘導を経て作用させる。こうすることで、意図したタイミングで、本タンパク質の作用を発現させることができる。
真核生物体の細胞において、本タンパク質を発現させるベクターは、当業者であれば、従来公知の手法により適宜細胞の種類や形質転換手法に応じて構築することができる。本タンパク質をコードする塩基配列は、制限酵素名などに基づき、各種データベースより入手可能である。また、細胞に応じたベクターを適宜入手可能であるほか、適切なプロモーター、ターミネーター、エンハンサーなども適宜選択した、所望の発現カセットを構築することができる。なお、特に限定するものではないが、用いる真核生物体において有用な核移行シグナルを伴うことが好ましい。
例えば、植物の細胞内において、タンパク質を発現させるための発現ベクターの母体となるベクターとしては、従来公知の種々のベクターを用いることができる。例えば、プラスミド、ファージ、またはコスミド等を用いることができ、導入される植物細胞や導入方法に応じて適宜選択することができる。具体的には、例えば、pBR322、pBR325、pUC19、pUC119、pBluescript、pBluescriptSK、pBI系のベクター等を挙げることができる。特に、植物体へのベクターの導入法がアグロバクテリウムを用いる方法である場合には、pBI系のバイナリーベクターを用いることが好ましい。pBI系のバイナリーベクターとしては、具体的には、例えば、pBIG、pBIN19、pBI101、pBI121、pBI221等を挙げることができる。
プロモーターは、植物体内で制限酵素遺伝子を発現させることが可能なプロモーターであれば特に限定されるものではなく、公知のプロモーターを好適に用いることができる。かかるプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV35S)、各種アクチン遺伝子プロモーター、各種ユビキチン遺伝子プロモーター、ノパリン合成酵素遺伝子のプロモーター、タバコのPR1a遺伝子プロモーター、トマトのリブロース1,5-二リン酸カルボキシラーゼ・オキシダーゼ小サブユニット遺伝子プロモーター、ナピン遺伝子プロモーター等を挙げることができる。後述するように、例えば、シロイヌナズナのシグマ因子由来のSIG2(AtSIG2)プロモーターなどの、発現強度が35Sプロモーターよりも低いプロモーターであることも好ましい。
発現ベクターは、適宜、プロモーター及び上記制限酵素遺伝子に加えて、さらに他のDNAセグメントを含んでいてもよい。当該他のDNAセグメントは特に限定されるものではないが、ターミネーター、選抜マーカー、エンハンサー、翻訳効率を高めるための塩基配列等を挙げることができる。また、上記組換え発現ベクターは、さらにT-DNA領域を有していてもよい。T-DNA領域は特にアグロバクテリウムを用いて上記組換え発現ベクターを植物体に導入する場合に遺伝子導入の効率を高めることができる。
転写ターミネーターは転写終結部位としての機能を有していれば特に限定されるものではなく、公知のものであってもよい。例えば、具体的には、ノパリン合成酵素遺伝子の転写終結領域(Nosターミネーター)、カリフラワーモザイクウイルス35Sの転写終結領域(CaMV35Sターミネーター)等を好ましく用いることができる。この中でもNosターミネーターをより好ましく用いることできる。
その他、選抜マーカー及び翻訳効率を高めるための塩基配列としては、公知の要素を適宜選択して用いることができる。発現ベクターの構築方法についても特に限定されるものではなく、適宜選択された母体となるベクターに対して、必要とする要素を適宜導入すればよい。
こうした発現ベクターは、かかるタンパク質を一過的に発現させるかあるいは恒常的に発現させるように、植物細胞に導入される。タンパク質を一過的に発現させるには、例えば、PEG法、エレクトロポレーション法及びパーティクルガン法を用いて発現ベクターをプラスミド等として植物細胞内に物理的に導入する。また、恒常的に発現させるには、アグロバクテリウム法等を用いて植物ゲノムに組み込むようにする。
アグロバクテリウム法を用いる場合には、本タンパク質をコードする遺伝子の導入に起因する植物細胞の死滅割合を低くすることができるため、ゲノムセットの多様性を確保することができる点において、有利である。また、アグロバクテリウム法は、双子葉植物、特にシロイヌナズナに適用することが好ましい。
形質転換した植物細胞等から、植物体を再生する方法については、従来公知の方法を適用することができる。
また、酵母などの細胞内において、本タンパク質を発現させるには、同様に酵母に適した発現ベクターを構築し、酵母に導入すればよい。発現ベクターは、当業者であれば、公知の方法を用いて、プロモーター、ターミネーター他、適宜エンハンサーを用いて構築することができる。発現カセットを染色体導入形態に構成することもできるし、染色体外で保持される形態に構成することもできる。
発現ベクターを構築するのにあたっては、タンパク質を発現させるタイミングを意図的に決定できる誘導的プロモーターを用いることが好ましい。また、発現強度を所望のレベルに設定するために、プロモーターやターミネーターなどの他の制御領域についても適宜設定することが好ましい。
例えば、誘導的プロモーターは、GAL1及びGAL10などのガラクトース誘導性プロモーター、Tet-onシステム/Tet-offシステムなどのドキシサイクリンの添加による誘導/除去による誘導システムに用いるプロモーター、HSP10、HSP60、HSP90などの熱ショックタンパク質(HSP)をコードする遺伝子のプロモーター等を用いることができるが、好ましくは、銅イオンの添加で活性化するCUP1プロモーターを用いる。CUP1プロモーターを用いることで、グルコース等の炭素源を含み銅イオンを含まない培地で細胞を培養し、その後銅イオン化合物を培地に添加して培養することでDNA二本鎖切断酵素を発現誘導することができる。なお、銅イオンの添加濃度は適宜設定できるが、例えば、50μM以上300μM以下程度とすることができる。また、培養時間は、1時間~6時間程度とすることができる。さらに、発現誘導と同時にDNA二本鎖切断酵素を作用しないためには、DNA二本鎖切断酵素の作用条件に該当しない温度等(例えば、25℃以下程度、好ましくは20℃以下程度)で細胞を培養することが好ましい。CUP1プロモーターは、意図的なDNA二本鎖切断酵素の発現誘導を簡易にかつ迅速に実行できるという利点がある。
こうした発現ベクターを酵母に導入して、染色体内又は染色体外に保持するように酵母を形質転換することは、当業者であれば、従来公知の方法に基づき実施できる。
なお、本再編方法においては、真核細胞体として、本タンパク質をコードする遺伝子を保持して発現可能であって、しかも、当該真核細胞体の固有の倍数性を超える所望の倍数性を有する真核細胞体を用いることができる。かかる真核細胞体を得るには、所望の倍数性を備える真核生物体候補に、本タンパク質をコードする遺伝子を導入し形質転換して所望の倍数性を備える真核生物体を得ることができる。かかる所望の倍数性を備える真核生物体候補は、固有倍数性を超える倍数性を有する真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返すことで得るようにしてもよい。
また、固有倍数性を有する真核生物体に、こうした遺伝子を導入して形質転換後、形質転換体に対して人為的なゲノム増大操作を1又は2回以上繰り返すことで、所望の倍数性を備える真核生物体を得ることができる。
以上説明したように、本タンパク質をコードする遺伝子を発現可能に保持する真核生物体は、育種等のための真核生物体又は真核生物集団を作製するための育種材料でもある。したがって、本明細書の開示によれば、本再編方法に好適に用いることのできる育種材料としても有用な真核生物体及びその生産方法も提供される。
また、例えば、特に、所望の倍数性を備える育種材料を生産するのに適した生産方法は、固有倍数性を有する倍数体である真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の真核生物体を得る工程と、前記所望の倍数性の真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、を備えることができる。また、この生産方法は、固有倍数性を有する倍数体である真核生物体をDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質をコードする遺伝子を発現可能に形質転換する工程と、形質転換された前記真核生物体に対して人為的なゲノム増大操作を1回又は2回以上繰り返して、所望の倍数性の形質転換された真核生物体を得る工程と、を備えることができる。
こうした真核生物体及びその生産方法における、真核生物体、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質、倍数性又は倍数体、DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質、及び当該タンパク質をコードする遺伝子の発現、人為的なゲノム増大操作等については、既に、説明した本再編方法について説明した各種実施態様を適用できる。
(真核生物体の細胞内において本タンパク質を作用させる態様)
次いで、真核生物体の細胞内において本タンパク質を作用させる態様について説明する。以下の説明において、真核生物体の細胞内というときには、真核生物体の態様は特に限定するものではない。例えば、真核生物体が植物体の場合には、植物体の態様は問わないで、植物個体の一部としての細胞、組織、器官のほか、種子、幼苗、あるいはその後の成長した植物個体のほか、カルスにおける細胞内を意味している。また、真核生物体が、酵母など微生物の場合には、その細胞内で本タンパク質を作用させることを意味する。
再編工程では、細胞増殖環境条件下で、真核生物体の細胞内において本タンパク質を一時的に作用させるようにする。こうすることで、本タンパク質によるDNA二本鎖切断活性の作用ともに、細胞が本来的に有するDNA修復活性を作用させることができ、しかも条件を制御してこれらのバランスを取ることができる。
本タンパク質を細胞内で一時的に作用させるためには、細胞に対して一時的に外部から本タンパク質を供給することもできるし、本タンパク質をコードする遺伝子を誘導性プロモーターの制御下に備える発現カセットを染色体に保持する場合には、一時的に誘導条件を付与するようにする。
例えば、本タンパク質をコードする遺伝子を発現誘導可能に保持する細胞内において、本タンパク質を細胞増殖環境条件下で一時的に作用させるには、本タンパク質を予め発現誘導しておき、その後細胞増殖環境条件下に適用してもよいが、本タンパク質を発現誘導しつつ細胞増殖環境条件下に適用してもよい。後者の方法であると、本タンパク質の発現誘導を再編工程内において実施できるため都合がよい。なお、前者の方法を採用するときには、発現誘導工程を、DNA二本鎖切断活性の作用を抑制するために、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性の至適温度よりも十分に低い温度で行うことが好ましい。例えば、発現誘導工程は、15℃以上25℃以下程度で実施することができる。
(細胞増殖環境条件)
細胞増殖環境条件とは、真核生物体の細胞が十分な増殖能を発揮する温度(細胞増殖温度)を含む条件をいう。より具体的には、真核生物体の細胞の増殖に好適な温度又は一般的に用いられる温度を少なくとも含む条件をいう。細胞増殖温度は、用いる真核生物体又はその個体によって異なりうる。例えば、Saccharomyces cerevisiaeなどの酵母の場合には、概して約20℃から約40℃である。したがって、酵母における細胞増殖温度(範囲)としては、20℃以上40℃以下とすることができる。また、例えば、用いる真核生物体が植物体あるいはその一部の器官、組織又は細胞等であるときには、これらに適用される通常の生育又は培養温度が細胞増殖温度(範囲)に相当する。
再編工程での細胞増殖温度は、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性の至適温度における活性を100%としたとき、5%以上30%以下程度となる温度であることが好ましく、より好ましくは5%以上20%以下程度となる温度であることが好ましい。こうした低い活性でも、十分に遺伝的組換えを促進できるし、また、細胞等のダメージも抑制できるからである。
細胞増殖温度は、本タンパク質の種類や真核生物体の種類にもよるが、概して、例えば、18℃以上45℃以下とすることができる。より好ましくは、例えば、下限が20℃以上であり、さらに好ましくは22℃以上であり、なお好ましくは25℃以上であり、一層好ましくは30℃以上であり、より一層好ましくは35℃以上である。また、例えば、好ましくは上限は45℃以下であり、より好ましくは42℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下であり、なお好ましくは38℃以下であり、一層好ましくは37℃以下であり、一層好ましくは36℃以下である。こうした温度であると、細胞自体へのダメージを抑制できるとともに、細胞が本来的に有するDNA修復活性を発現させて、遺伝的組換え促進によるゲノム再編が許容されやすくなるからである。特に酵母などの微生物や植物体において上記細胞増殖温度が好適である。
細胞増殖環境条件には、温度のほか、細胞が必要とする、光、ガス、水分、栄養要素など、真核生物体に応じた条件を含みうるが、これらの条件について、当業者であれば各種の公知情報に基づいて適宜設定することができる。
本タンパク質を細胞内で作用させる時間は、特に限定するものではないが、DNA修復作用の発現を考慮すると、真核生物体の細胞の倍加時間を超える時間とすることが好ましい。作用時間は、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性(至適温度や切断頻度等)や真核生物体の種類等に応じて、好適なゲノム再編や再編効率が得られるように適宜設定される。概して、例えば、通常1時間又は1時間を超えるものであり、好ましくは2時間以上であり、より好ましくは3時間以上、さらに好ましくは4時間以上、なお好ましくは6時間以上、一層好ましくは8時間以上、より一層好ましくは10時間以上である。また、12時間以上であってもよいし、18時間以上であってもよいし、24時間以上、48時間以上、60時間以上又は72時間以上であってもよい。また、作用時間の上限は特に限定するものではないが、168時間程度以下とすることができ、144時間以下、120時間以下、96時間以下、72時間以下であってもよい。
再編工程は、細胞内において本タンパク質を一時的に作用させるものであればよく、一時的な作用の態様は特に限定するものではない。例えば、再編工程の当初にのみ誘導性プロモーターに対して誘導を行い、誘導物質の枯渇を放置しておいてもよいし、誘導物質を補充等するなどして連続的に誘導してもよいし、不連続的に複数回誘導を行ってもよい。
例えば、上述のTaqIに関しては、親真核生物体の種類や時期にもよるが、TaqIを発現した細胞を、好ましくは20℃以上45℃以下、より好ましくは25℃以上42℃以下、さらに好ましくは30℃以上42℃以下、なお好ましくは30℃以上40℃以下、一層好ましくは35℃以上40℃以下、より一層好ましくは37℃程度の温度条件で培養ないし生育させることができる。作用時間は、好ましくは2時間以上、より好ましくは4時間以上、さらに好ましくは5時間以上、なお好ましくは6時間以上、一層好ましくは12時間以上、より一層好ましくは24時間以上、さらに一層好ましくは36時間以上、なお一層好ましくは48時間以上、さらにまた好ましくは60時間以上、さらに一層好ましくは72時間以上生育又は培養する。特に酵母などの微生物や植物体においてこうした条件が好適である。
本タンパク質を真核生物体の細胞内で作用させる再編工程は、例えば、植物においては、本タンパク質を発現可能に形質転換した植物である真核生物体から収穫した播種前の種子、播種後から発芽までの間、発芽後の幼苗、より成長した植物体に対して一定期間実施する。また、例えば、酵母においては、本タンパク質を発現可能に形質転換した酵母に対して、一定期間、本タンパク質を発現させて実施する。
こうした再編工程は、好ましくは、真核生物体が植物の場合には、種子又は幼苗である。多検体処理が容易であって再編されたゲノムセットを有する真核生物体の集団を得るのに好都合であるからである。また、酵母のなど場合には、体細胞***期など、出芽が活発に行われている周期(すなわち、真核生物体の倍数性が維持されている周期)であることもが好ましい。
再編工程は、例えば、真核生物体が植物であるとき、種子、幼苗、成長した植物などを、37℃の温度条件下で24時間生育し、その後、より低い温度の生育条件(例えば、シロイヌナズナの場合、20℃~25℃程度)に戻すようすることができる。
また、真核生物体が酵母であるときの再編工程は、酵母の培養条件を37℃、24時間維持してその後、通常の培養温度(おおよそ25℃~30℃程度)に戻すような態様が挙げられる。
なお、こうした本タンパク質を作用させる温度や時間などの作用条件は、当業者であれば、本タンパク質の発現状況、真核生物体の生育(増殖)状況、ゲノム再編効率の評価(レポーター遺伝子を用いた評価や倍数性ヒストグラムによる評価)等を用いて、用いる本タンパク質、真核生物体や意図するゲノム再編効率を考慮して適宜決定することができる。
再編工程は、適宜終了させることができる。再編工程の終了は、本タンパク質の作用を意図的に停止させるか、あるいは本タンパク質の発現誘導されない状態とすること等で終了させることができる。例えば、本タンパク質をコードする遺伝子の発現を制御する誘導性プロモーターの誘導因子を除去すればよい。
再編工程を実施することで、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性が作用して、細胞内の染色体DNAが切断されるとともに、細胞本来のDNA修復活性も作用して、細胞や遺伝子へのダメージが抑制又は回避されつつ、染色体内における遺伝的組換えや染色体間における遺伝的組換えが促進される。この結果、真核生物体が細胞本来の固有の倍数性を備えていても、細胞や遺伝子へのダメージが抑制されて、大規模な(多様な)ゲノム再編が増殖可能な細胞内において許容されることとなる。それにより、飛躍的にゲノム再編効率を向上させることができる。さらに、大規模なゲノム再編が許容される結果、多様なゲノムセットを保持する増殖可能な細胞集団(ライブラリ)を得ることができ、結果として多様な形質を備え、選択圧にも十分対応できるなど集積培養等による育種に有利な細胞集団を取得できる。こうした効果は、従来の高温かつ短時間という作用条件からは全く予想できなかったことである。
また、細胞増殖環境条件下で本タンパク質を細胞内で作用させることで、細胞のDNA修復活性を作用させることができるため、本タンパク質のDNA二本鎖切断活性(至適温度や認識配列等)、作用温度や作用時間を制御して、ゲノム再編レベルやゲノム再編効率を自在に制御することができる。こうした効果も、従来の高温かつ短時間という作用条件からは全く予想できなかったことである。
また、本再編方法によれば、DNA二本鎖切断活性とDNA修復活性とのバランスを制御できるため、種々の認識部位(長さ、配列の特徴など)や至適温度を有する制限酵素などの本タンパク質を用いることができるようになり、1種類の制限酵素のみならず、2種類以上の制限酵素を組み合わせて用いた再編工程や、異なる認識特性や異なる至適温度等を有する制限酵素を用いた複数回の再編工程を組み合わせることができる。すなわち、本再編方法によれば、用いることのできる制限酵素等の本タンパク質の多様性も拡大できるという点からも、多様性に富むゲノムセットを有する細胞を取得できるようになる。
さらに、本再編方法において、真核生物体としてホモタリズム性酵母を用いるとき、ホモタリズム性酵母に第1の再編工程を実施後に、再編されたゲノムセットを有する前記ホモタリズム性酵母に第1の形質の選択圧下で選抜する胞子育種を含む選抜工程を実施し、さらに、選抜された前記ホモタリズム性酵母について第2の再編工程を実施することもできる。ホモタリズム性酵母のライブラリに対して胞子育種を含む選抜工程を実施することで、遺伝子組換えの正の影響が増強され、負の影響が除去されたホモタリズム性酵母が得ることができる。こうしたホモタリズム性酵母に対して第2の再編工程を実施することで、より優れた遺伝的構成のゲノムセットを備える酵母ライブラリを得ることができる。
再編工程によれば、再編工程に供された各真核生物体において、遺伝的組換えが生じ、その遺伝子組換えによって再編されたゲノムセットが保持される。その結果、再編されたゲノムセットを備える真核生物体の集団を得ることができる。この真核生物体の集団の個々の真核生物体は、もとの真核生物体の集団において生じた遺伝的組換えによって生じた種々の「再編されたゲノムセット」を備えている。再編工程を経た真核生物体のゲノムセット組成は、DNA二本鎖切断活性とDNA修復活性の作用により、従来の手法に比べて、多様性に富むものとなっている。
例えば、本再編方法によって得られた、新たに構築された真核生物体集団を構成する真核生物体のゲノムセットは、遺伝的組換えの結果、染色体異数性を有しているか又は増大する傾向がある。また、かかる真核生物体のゲノムセットは、遺伝的組換えの結果、染色体の一部に欠失及び/又は重複を備える傾向がある。さらに、かかる真核生物体のゲノムセットは、遺伝的組換えの結果、ゲノムセットの一部の領域が脱落するなどして低下したゲノムサイズを有する傾向や、ゲノムセットの一部が重複するなどして増大したサイズを有する傾向がある。また、こうした真核生物体のゲノムセットにおいては、1又は2以上の突然変異を備えている傾向がある。さらに、こうした真核生物体のゲノムセットにおいては、染色体間の遺伝的組換えを備えている傾向がある。
以上説明したように、本再編方法によれば、高いゲノム再編効率が実現されることで、多様性に優れたゲノムセットを備える真核生物体の細胞集団を得ることができる。そして、こうした細胞集団は、集積培養等などのスクリーニングにおいても、適応性に優れており、効率的な育種が可能となっている。
なお、本再編方法は、前記真核生物体集団から選抜した1又は2以上の真核生物体を真核生物体として、さらに再編工程を実施するなど、再編工程と選抜工程とを繰り返して実施することもできる。
以上のことから、本再編方法は、上記再編工程を備える、再編されたゲノムセットを備える真核生物体の集団の生産方法としても実施できる。
(再編されたゲノムセットを有する真核生物体の生産方法)
本明細書に開示される再編されたゲノムセットを有する真核生物体の生産方法は、上記した1又は2以上の再編工程と、再編されたゲノムセットを保持する前記真核生物体の集団から、任意の指標に基づいて意図する真核生物体を選抜する1又は2以上の工程と、を備えることができる。本方法によれば、多様性に優れる真核生物体の集団から意図した1又は2以上の真核生物体又はその集団を選抜するため、効率的に意図した真核生物体を得ることができる。また、本方法によれば、選抜した真核生物体を利用して効率的な育種が可能である。したがって、本生産方法は、植物体や酵母などの真核生物体の育種方法としても実施することができる。なお、有用な植物や酵母などが得られた後のさらに後代の育種については、従来公知の育種技術を適用することができる。
本方法における再編工程は、既に説明した本再編方法における再編工程の各種実施態様をそのまま適用することができる。また、本方法においては、再編工程と選抜工程とを繰り返し実施してもよい。すなわち、選抜された1又は2以上の真核生物体又はその集団を真核生物体として再編工程と選抜工程を実施してもよい。
また、本生産方法によれば、再編工程によってゲノム再編して得られた一次ライブラリに対して第1の形質の選択圧をかけて選抜工程を行って、有用な真核生物体の細胞(集団)を得ることができる。そして、こうした細胞(集団)に対して、さらにゲノム再編を行って得られた二次ライブラリに対して第2の形質の選択圧をかけて選抜することができる。異なる形質を相加的に備える細胞(集団)を効率的に得ることができる。
また、真核生物体としてのホモタリズム性酵母に本生産方法を適用する場合、選抜工程として胞子育種を実施することが好ましい。すなわち、選抜工程において、胞子を形成する過程を経ることで、再編工程で導入されたヘテロな変異がホモ化される。ホモ化された酵母集団から集積培養などの選抜工程を経ることで、負の遺伝的組換えを除去するとともに、正の遺伝的組換えを倍加することができ、より優れた遺伝的構成のゲノムセットを備える酵母を取得することができる。
本明細書において、ホモタリズム性酵母とは、本来的に活性のあるHO遺伝子を有する野生型ホモタリズム性酵母のほか、ヘテロタリズム性酵母であって、HO遺伝子を外部から導入して形質転換によりホモタリズム化した酵母も含むものである。
以下、本明細書の開示を具現化した実施例について説明する。なお、以下の実施例は、本開示を説明するものであってその範囲を限定するものではない。
(TaqI遺伝子酵母発現用ベクターの作製)
TaqI遺伝子酵母発現用ベクターとして、図1に示すように、ガラクトース誘導型プロモーター(pGAL1)の下流に酵母コドンに最適化したTaqI遺伝子(TtTaqI opt)、Saccharomyces cerevisiae由来DIT1タンパク質の3’UTR(tDIT1)を配置したpORF-pGAL1-TtTaqI-tDIT1(AUR)を用いた。
(ゲノム再編評価酵母の作製)
図2に示すように、ゲノム再編効率を評価するGF-FPレポーター遺伝子は、緑色蛍光蛋白質(GFP)のN末端側約600 bpとC末端側600 bpで抗生物質Nourseothricin耐性マーカー(nat1)を挟むようにデザインされている。このカセットを用いることで、TaqIによる二本鎖DNA切断により、GF-FP間で相同組換えが起こり、完全長のGFP遺伝子が再構築された場合、酵母が緑色蛍光を発するため、フローサイトメーター等を用いる事でゲノム再編を検出することが出来る(図3参照)。
S. cerevisiae BY4741株とBY4742株のADH3遺伝子上流領域(転写開始点より上流3000 bp~2000 bp)にGF-FPレポーター遺伝子を導入した株をそれぞれ、BY4741+GFP株、BY4742+GFP株とした。また、それぞれの株のleu2遺伝子、his3遺伝子をS. cerevisiae S288C由来LEU2遺伝子、HIS3遺伝子で相補したBY4741+GFP(LEU)株、BY4741+GFP(HIS)株、およびBY4742+GFP(LEU)株、BY4742+GFP(HIS)株を作製した。
(TaqIの発現誘導条件の検討)
実施例1で作製したTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、pORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)を実施例2で作製したBY4741+GFP(HIS)株へ形質転換した(BY4741+GFP(HIS)+TaqI)。グルコースを糖源とするYPD培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Glucose)+0.5 mg/L オーレオバシジンA(AbA)を用いて、30℃で終夜培養後、ガラクトースを糖源とするYPG(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Galactose)+0.5 mg/L AbA培地に培地交換し、20、22.5、25、27.5、30℃で終夜培養することで、TaqIの発現誘導を行った。各温度でのTaqI発現量を測定するために、菌体量を揃えてSDS-PAGEを行い、抗TaqI抗体を用いて、ウエスタンブロッティングを行った。結果を図4に示す。
図4に示すように、20℃で発現誘導した場合が最もTaqIの発現量が高い事が分かった。また、生菌率を比較した結果、温度が高くなるにつれ生菌率が減少しており、30℃においてもTaqIが活性化され、ゲノム切断による細胞死が生じていることが分かった。
(高温かつ短時間の熱処理によるゲノム再編効率の評価)
BY4741+GFP(HIS)+TaqI株を用いて、実施例3と同様に20℃でTaqIの発現誘導を行った。42℃で30分間、または60分間熱処理する事で、一過的にTaqIの活性化を促した後、フローサイトメーターで1×105細胞中のGFP蛍光を持つ細胞の割合を測定することでゲノム再編効率を算出した。結果を図5Aに示す。その結果、ゲノム再編効率は0.03~0.04%だった。一方、図5Bに示すように、熱処理後にYPD培地に培地交換し、回復培養を18時間行った場合、ゲノム再編効率は0.06~0.07%に上昇した。
(細胞増殖温度における処理によるゲノム再編効率の評価)
BY4741+GFP(HIS)+TaqI株を用いて、実施例3と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、20、25、30、35℃でTaqIを発現誘導しながら、穏やかにTaqIの活性化を行った。5、23、46時間後に酵母を回収し、実施例4と同様にフローサイトメーターでゲノム再編効率を測定した。結果を図6に示す。
図6に示すように、その結果、どの温度においても時間経過とともにゲノム再編効率が上昇した。特に30℃以上では、ゲノム再編効率が著しく上昇し、高温かつ短時間の熱処理の約10~20倍に達した。
(2倍数体酵母および4倍体酵母の作製)
BY4741+GFP(LEU)株とBY4742+GFP(LEU)株、BY4741+GFP(HIS)株とBY4742+GFP(HIS)株を定法に従いそれぞれ接合し、SD-Met-Lys寒天プレートで30℃、5日間培養した。生育したコロニーをシングル化後、フローサイトメーターでゲノムDNA量を測定し、2倍体であることを確認した株をBY4743+GFP(LEU)株、BY4743+GFP(HIS)株とした。
BY4743+GFP(LEU)株とBY4743+GFP(HIS)株を細胞融合し、4倍体酵母を作製した。細胞融合はプロトプラスト-PEG法を用いて行った。SD-Leu-His寒天プレートで生育したコロニーを細胞融合候補株とした。生育したコロニーをシングル化後、フローサイトメーターでゲノムDNA量を測定し、4倍体であることを確認した株をBY4744+GFP(LH)株とした。
(細胞増殖温度の処理による倍加酵母を用いたゲノム再編効率の測定)
実施例1で作製したTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、pORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)を実施例2、6で作製した各倍加酵母へ形質転換した。形質転換体を用いて、実施例3と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、35℃でTaqIを発現誘導しながら、細胞増殖温度でTaqIの活性化を行った。22時間後に酵母を回収し、実施例4と同様にフローサイトメーターでゲノム再編効率を測定した。結果を図7に示す。
図7に示すように、1倍体酵母のゲノム再編効率が0.5~0.75%だったのに対し、2倍体酵母では1.0%、4倍体酵母では2.5%と増加し、ゲノムの倍加がゲノム再編効率を向上させることが示された。
(細胞増殖温度の処理による倍加酵母のゲノム再編による倍数性の変化)
実施例7と同様に、各倍加酵母を用いて35℃でTaqIを発現誘導しながら、細胞増殖温度でTaqIの活性化を行った。0、16、46時間後に酵母を回収し、70%エタノールで固定後、DAPI染色によりゲノムDNAを蛍光染色した。蛍光染色した各倍加酵母を用いてフローサイトメーターで核相解析を行った。結果を図8に示す。図8に示すように、倍加酵母では、倍数性が増加または減少した個体の出現頻度の上昇が認められた。
(染色体間でのゲノム再編評価酵母の作製)
実施例2で作製したpRS436(NAT)のGF-nat1領域をPCRで増幅した後、オーバーラッピングPCRを用いて両末端にδ配列を付加した。増幅したPCR産物でBY4741株を形質転換し、δインテグレーション法によりゲノムの複数個所にGF-nat1をランダム導入した酵母ライブラリーを作製した。同様に、nat1-FP領域をBY4742株にδインテグレーションした酵母ライブラリーを作製し、両ライブラリーをランダム接合することで染色体間でのゲノム再編評価酵母ライブラリーを作製した(図9A)。図9Bに示すように、この評価系では染色体間のGF、FP領域で相同組換えが生じ、完全長のGFP遺伝子が再構成された場合に酵母が緑色蛍光を発するため、フローサイトメーター等を用いる事でゲノム再編を検出することが出来る。
作製した染色体間ゲノム再編評価酵母ライブラリーをpORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)で形質転換した(+Taq)。また、コントロールとしてpORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1からTaqI遺伝子を欠失させたベクターで、染色体間ゲノム再編評価酵母ライブラリーを形質転換した(-Taq)。作製した染色体間ゲノム再編評価酵母ライブラリーを用いて、実施例7と同様に35℃でTaqIを発現誘導しながら、TaqIの活性化を行った。0、24、48、72時間後に酵母を回収し、フローサイトメーターで1×106細胞中のGFP蛍光を持つ細胞の割合を計算することでゲノム再編効率を算出した。結果を図9Cに示す。
図9Cに示すように、TaqIを発現しない場合(-Taq)と比較して、TaqIを発現した場合(+Taq)は、最大でゲノム再編効率が15倍に上昇した(図9C)。
さらに、実施例4と同様に20℃で誘導培養を行った後、42℃で30分間、または60分間熱処理する事で、一過的にTaqIの活性化を行った。フローサイトメーターで1×106細胞中のGFP蛍光を持つ細胞の割合を計算することでゲノム再編効率を算出した。結果を図10に示す。
図10に示すように、TaqIの発現の有無に関わらず、ゲノム再編効率は上昇しなかった。また、熱処理後にYPD培地に培地交換し、回復培養を18時間行ったが、ゲノム再編効率は上昇しなかった。以上のことから、高温かつ短時間で制限酵素を作用させる方法では、染色体間の遺伝的組換え効率が低いことがわかった。
(ゲノム倍加とゲノム再編によるキシロース資化能力の進化育種)
(OC2-A(CF)株の取得)
ワイン酵母OC-2株にキシロース資化遺伝子を導入したOC2-A株を作製した。すなわち、ワイン酵母OC-2株にキシロース資化遺伝子を導入したOC700株(特開2014-193152)をベースに、ADH2遺伝子を破壊するとともにADH1遺伝子を増強し、mhpF遺伝子(E.coli由来)を導入したOC2-A株を取得した。
(OC2-A(CF)株の取得)
OC2-A株を用いて、以下のとおり、ゲノム再編によるキシロース資化能力の進化育種を行った。OC2-A株にKluyveromyces lactis由来のURA3遺伝子を導入したOC2-A(KlURA3)株と、Kluyveromyces marxianus由来のTRP1遺伝子を導入したOC2-A(KmTRP1)株を作製した。両株を用いてプロトプラスト-PEG法による細胞融合を行い、細胞融合株OC2-A(CF)株を作製した。
OC2-A(CF)株をTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、pORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)で形質転換しOC2-A(CF)+TaqI株を取得した。OC2-A(CF)+TaqI株を用いて、実施例3と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、20℃で終夜培養することでTaqIを発現誘導した。その後、35℃で8~24時間、TaqIの活性化を行った後、YPD培地+0.5 mg/L AbA培地で回復培養を行ったサンプルをゲノム再編酵母ライブラリーとした。
(OC2A-C5株の取得)
キシロースを主な糖源とする培地で培養、植え継ぎを繰り返すことで集積培養(35℃)を行った。集積培養を開始後、約300時間までは僅かにグルコースを加えたYPX培地(10g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、1 g/L Glucose、20 g/L Xylose)で培養した。その後、キシロースのみを糖源とするYPX培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Xylose)に変更し、さらに集積培養を約200時間行った。これらの培養工程における菌体量の推移を図11に示す。集積培養後の培養液をYPD寒天プレートにストリークし、シングル化した株をOC2A-C5株とした。
(OC2A-C5株のキシロース資化能力試験)
OC2A-C5株のキシロース資化能力を発酵試験により評価した。5%キシロース発酵培地(10 g/L Yeast extract、50 g/L Xylose)にOC2-A株、OC2-A(CF)株、OC2A-C5株をそれぞれOD600 = 1.0で植菌し、32℃で発酵試験を行った。0、16、24、48、72時間でサンプリングを行い、HPLCでキシロース及びエタノールを測定した。結果を図12に示す。
図12に示すように、OC2A-C5株は、親株であるOC2-A株、その細胞融合株であるOC2-A(CF)株と比較して、キシロースの資化能力が顕著に向上し、48時間で50 g/Lのキシロースを完全に消費し、21.3 g/Lのエタノールを生産した。
さらに、高糖濃度のグルコース+キシロース混合発酵培地(10 g/L Yeast extract、80 g/L Glucose、100 g/L Xylose)とするほかは、上記資化能力試験と同様に発酵能力の評価を行った。結果を図13に示す。
図13に示すように、OC2A-C5株は、親株であるOC2-A株、その細胞融合株であるOC2-A(CF)株と比較して、キシロースの資化能力が向上し、72時間で80 g/Lのグルコースと100 g/Lのキシロースを完全に消費し、76.2 g/Lのエタノールを生産した。
図12及び図13に示すように、OC2A-C5株は、キシロースの資化能が顕著に増大し、その結果、エタノールなどを生産発酵する能力も増大していることがわかった。特に現実的な発酵条件である高糖濃度での発酵試験でも、OC2-A(CF)株に対して約1.3倍、OC2-A株に対して約1.4倍の発酵能を呈しており、実用的なキシロース資化性能に優れていることがわかった。
以上の結果から、TaqI遺伝子が導入されたOC2-A(CF)+TaqI株を、TaqI遺伝子の発現させたゲノム再編後に、キシロース含有培地という進化圧力の下で集積培養することで、進化的変化及び淘汰により、有用な株であるOC2A-C5株を取得できることがわかった。すなわち、DNA二本鎖切断酵素を発現し活性化した状態の細胞を、任意の条件下で増殖させることにより、条件に適合した細胞を効率的に得られることがわかった。
(ゲノム再編による耐熱性の進化育種)
実施例10で作製したOC2A-C5株を用いて、実施例10と同様にしてTaqI処理を行ってさらにゲノム再編工程を実施し、ゲノム再編酵母ライブラリーを作製した。次に、YPX培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Xylose)、39~41℃で培養、植え継ぎを繰り返すことで集積培養を約500時間行った。集積培養後の培養液をYPD寒天プレートにストリークし、シングル化した株をOC2A-TT株とした。
OC2A-TT株及び同を用いて、40℃での発酵試験により耐熱性を評価した。グルコース+キシロース混合発酵培地(10 g/L Yeast extract、30 g/L Glucose、30 g/L Xylose)にOC2-A株、OC2-A(CF)株、OC2A-C5株、OC2A-TT株をそれぞれOD600 = 1.0で植菌し、40℃で発酵試験を行った。0、16、24、48、65時間でサンプリングを行い、HPLCでグルコース、キシロース及びエタノールを測定した。結果を図14に示す。
図14に示すように、OC2A-TT株は、他の株と比較して、40℃での増殖能(耐熱性)が増大していることがわかった。図14に示すように、OC2A-TT株の耐熱性が顕著に増大しており、良好な高温培養でも良好なキシロース資化能を示し、は、キシロースの資化能が顕著に増大し、その結果、エタノールなどを生産発酵する能力も増大していることがわかった。特に現実的な発酵の際の糖濃度での発酵試験でも、OC2-A株に対して約1.2倍、OC2-A(CF)株やOC2A-C5株に対しては約3倍もの発酵能を呈しており、耐熱性に特化して実用上においても優れていることがわかった。
以上の結果から、TaqI遺伝子が導入されたOC2-A(C5)+TaqI株を、TaqI遺伝子の発現させた再度の再編後に、今度は高温という進化圧力の下で集積培養することで、当初とは異なる進化的変化及び淘汰により、有用な株であるOC2A-TT株を取得できることがわかった。本再編方法によれば、以下のことがわかった。すなわち、ゲノム再編して得られた一次ライブラリに第1の形質の選択圧をかけて選抜した細胞(集団)に対して、さらにゲノム再編を行って有用な二次ライブラリを取得することができる。そして、この二次ライブラリに対して第2の形質の選択圧をかけて選抜することができる。異なる形質を相加的に備える細胞(集団)を効率的に得ることができる。
(ゲノム再編と胞子育種による耐熱性の向上)
ワイン酵母OC-2株にキシロース資化遺伝子を導入したOC700株(特開2014-193152)をベースに、ADH2遺伝子を破壊、ADH1遺伝子を強化、mhpF遺伝子(E.coli由来)を導入後、馴化培養によりキシロース資化能力が向上したOC2-B株を用いて、ゲノム再編と胞子育種による耐熱性の進化育種を行った。OC2-B株をTaqI遺伝子酵母発現用ベクター、実施例1で作製したpORF-pGAL1-TtTaqIopt-tDIT1(AUR)で形質転換しOC2-B+TaqI株を取得した。OC2-B+TaqI株を用いて、実施例3と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、20℃で終夜培養する事でTaqIを発現誘導した。その後、35℃で8~24時間、TaqIの活性化を行った後、YPD培地+0.5 mg/L AbA培地で回復培養を行ったサンプルをゲノム再編酵母ライブラリーとした(1st-TAQing)。YPX培地(10 g/L Yeast extract、20 g/L Peptone、20 g/L Xylose)、40~42℃で培養、植え継ぎを繰り返すことで集積培養を行った。途中、再度TaqI処理を行い(2nd-TAQing)、42~43℃でさらに集積培養を行った。集積培養後の培養液をYPD寒天プレートにストリークし、シングル化した株をOC2B-TT1株とした。
また、集積培養後の培養液を胞子形成寒天プレート(10 g/L Potassium acetate、1g/L Yeast extract、0.5 g/L Glucose、20 g/L Agar)に塗布し、胞子形成を行った。胞子形成寒天プレートから菌体を回収し、常法に従い胞子を抽出後、希釈してYPD寒天プレートに塗布した。OC2株はホモタリズム株なため、胞子から自動的に2倍体化する際に、ゲノム再編により導入されたヘテロな変異がホモ化することが期待される。YPD寒天プレートに生育した菌体約10000クローンを回収し、YPX培地、42~44℃で集積培養を行った。集積培養後の培養液をYPD寒天プレートにストリークし、シングル化した株をOC2B-TT2株とした。
OC2B-TT1株、OC2B-TT2株を用いて、40℃での発酵試験を行った。グルコース+キシロース混合発酵培地(10g/L Yeast extract、50g/L Glucose、50g/L Xylose)にOC2-B株、OC2B-TT1株、OC2B-TT2株をそれぞれOD600 = 5.0で植菌し、40℃で発酵試験を行った。0、17、24、48時間でサンプリングを行い、HPLCで測定した。結果を図15に示す。
図15に示すように、親株であるOC2-B株と比較して、OC2B-TT1株、OC2B-TT2株ともに40℃でのキシロース資化能力が向上した。特に、ゲノム再編後に、胞子育種を行ったOC2B-TT2株は48時間で50g/Lのグルコースと50g/Lのキシロースを完全に消費し、40.0g/Lのエタノールを生産した)。以上の結果から、胞子育種を経たOC2B-TT2株は、そうでないOC2B-TT1株に比較してより一層高いキシロース資化能を発揮した。以上のことから、再編されたゲノムセットを有するホモタリズム性酵母について、胞子育種を経ることで、ヘテロな変異がホモ化することで、遺伝子組換えの正の影響は増強され、負の影響が低減されることがわかった。
(細胞増殖温度での処理によるゲノム再編効率の評価)
BY4741+GFP(HIS)+TaqI株を用いて、実施例3と同様にYPG+0.5 mg/L AbA培地に培地交換した後、20、25、30、35、37、38、39、40℃でTaqIを発現誘導しながら、長時間TaqIの活性化を行った。0、5、24、48、72、147時間後に酵母を回収し、生死判別をするためにPI染色を行った。生細胞は細胞膜によりPIが細胞内に浸透しないが、死細胞は細胞膜が破壊されているため、PIが細胞内に入りこみ、核酸が染色されることで生死判別が可能になる。染色後の酵母を実施例4と同様にフローサイトメーターで解析し、ゲノム再編効率を測定した。結果を図16及び図17に示す。
図16に示すように、全細胞を解析対象とした場合、35-39℃の温度域において、0.8~1.0%と最も高いゲノム再編効率を示した。また、図17に示すように、生細胞を解析対象とした場合は、35-37℃が0.5%程度で最も高いゲノム再編効率だった。以上の結果から、酵母に適用される、一般的な培養条件(培養温度40℃以下)において、比較的弱いレベルでDNA二本鎖切断活性を作用させることで、高いゲノム再編効率が得られることがわかった。また、DNA二本鎖切断活性とそれを作用させる温度を、真核生物体に一般的に適用される培養温度とDNA二本鎖切断活性を有するタンパク質の至適温度から適宜設定することで、ゲノム再編効率向上の有利でしかも多様性のあるゲノム再編が可能であることがわかった。

Claims (14)

  1. 真核細胞(ただし、酵母細胞、植物細胞、ヒト受精卵を含む完全なヒトに再生する能力を保持する胚及び生殖細胞並びにヒト生体内におけるヒト細胞を除く。)におけるゲノム再編方法であって、
    好熱菌由来の耐熱性DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、30℃以上40℃以下の温度又は前記真核細胞の増殖温度で、誘導的に発現させると同時に前記真核細胞内のゲノムに作用させて遺伝的組換えを行う1又は2以上のゲノム再編工程、
    を備え、
    前記ゲノム再編工程における、前記タンパク質を誘導的に発現させると同時に前記ゲノムに作用させる再編時間は、18時間以上168時間以下である、方法。
  2. 前記再編時間は、24時間以上である、請求項1に記載の方法。
  3. 前記再編時間は、24時間以上72時間以下である、請求項1又は2に記載の方法。
  4. 前記再編時間は、24時間以上48時間以下である、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
  5. 前記タンパク質は、BclI、Sse9I、BstUI、TfiI、TseI、Tsp45I、TaqI及びPhoIから選択される1種又は2種以上である、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
  6. 前記タンパク質は、Sse9I、BstUI、TfiI、TseI、Tsp45I及びTaqIから選択される1種又は2種以上である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
  7. 前記タンパク質は、TaqIである、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
  8. 前記タンパク質を、前記ゲノムに作用させる温度は、30℃以上40℃以下の温度又は前記真核細胞の増殖温度の範囲内であって前記タンパク質のDNA二本鎖切断活性の至適温度における活性を100%としたとき5%以上20%以下程度となる温度である、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
  9. 前記真核細胞は、固有倍数性を超える倍数体である、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
  10. 前記倍数体は、人為的なゲノムサイズ増大操作による倍数体である、請求項9に記載の方法。
  11. 前記真核細胞は、動物細胞である、請求項1~10のいずれかに記載の方法。
  12. 再編されたゲノムセットを備える真核細胞(ただし、酵母細胞、植物細胞、ヒト受精卵を含む完全なヒトに再生する能力を保持する胚及び生殖細胞並びにヒト生体内におけるヒト細胞を除く。)の生産方法であって、
    好熱菌由来の耐熱性DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、30℃以上40℃以下の温度又は前記真核細胞の増殖温度で、誘導的に発現させると同時に前記真核細胞内のゲノムに作用させて遺伝的組換えを行う1又は2以上のゲノム再編工程、
    を備え、
    前記ゲノム再編工程における、前記タンパク質を誘導的に発現させると同時に前記ゲノムに作用させる再編時間は、18時間以上168時間以下である、方法。
  13. さらに、再編されたゲノムセットを保持する前記真核細胞の集団から、任意の指標に基づいて意図する真核細胞を選抜する1又は2以上の選抜工程、
    を備える、請求項12に記載の生産方法。
  14. 真核細胞(ただし、酵母細胞、植物細胞、ヒト受精卵を含む完全なヒトに再生する能力を保持する胚及び生殖細胞並びにヒト生体内におけるヒト細胞を除く。)の集団の生産方法であって、
    好熱菌由来の耐熱性DNA二本鎖切断活性を有するタンパク質を、30℃以上40℃以下の温度又は前記真核細胞の増殖温度で、誘導的に発現させると同時に前記真核細胞内のゲノムに作用させて遺伝的組換えを行う1又は2以上のゲノム再編工程、
    を備え、
    前記ゲノム再編工程における、前記タンパク質を誘導的に発現させると同時に前記ゲノムに作用させる再編時間は、18時間以上168時間以下である、方法。
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