A.第1実施形態:
図1は、本発明の実施形態の液体噴射装置100の構成を模式的に示す説明図である。
液体噴射装置100は、液体の一例であるインクを媒体12に噴射するインクジェット方式の印刷装置である。液体噴射装置100は、印刷用紙の他、樹脂フィルムや布等の任意の材質の印刷対象を媒体12とし、これらの各種の媒体12に対して印刷を行う。図1以降の各図に示したX方向は、後述する液体噴射ヘッド26の搬送方向(主走査方向)であり、Y方向は、主走査方向と直交した媒体送り方向(副走査方向)であり、Z方向は、XY平面に直交したインク噴射方向である。また、向きを特定する場合には、正の方向を「+」、負の方向を「-」として、方向表記に正負の符合を併用する。
液体噴射装置100は、液体容器14と、媒体12を送り出す搬送機構22と、制御ユニット20と、ヘッド移動機構24と、液体噴射ヘッド26とを備える。液体容器14は、液体噴射ヘッド26から噴出される複数種のインクを個別に貯留する。液体容器14としては、可撓性フィルムで形成された袋状のインクパックや、インク補充が可能なインクタンクなどが利用可能である。制御ユニット20は、CPU(Central Processing Unit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)等の処理回路と半導体メモリー等の記憶回路とを含み、搬送機構22やヘッド移動機構24、液体噴射ヘッド26等を統括制御する。搬送機構22は、制御ユニット20の制御下で動作し、媒体12を+Y方向に送り出す。
ヘッド移動機構24は、媒体12の印刷範囲に亘ってX方向に掛け渡された搬送ベルト23と、液体噴射ヘッド26を収容して搬送ベルト23に固定するキャリッジ25とを備える。ヘッド移動機構24は、制御ユニット20の制御下で動作し、液体噴射ヘッド26を主走査方向(X方向)においてキャリッジ25を往復移動させる。キャリッジ25の往復移動の際、キャリッジ25は図示しないガイドレールにより案内される。なお、複数の液体噴射ヘッド26をキャリッジ25に搭載したヘッド構成や、液体容器14を液体噴射ヘッド26と共にキャリッジ25に搭載したヘッド構成としてもよい。
液体噴射ヘッド26は、液体容器14から供給されるインクを、制御ユニット20の制御下で、複数のノズルNzから媒体12に向けて噴射する。液体噴射ヘッド26の往復移動の間のノズルNzからのインク噴射により、媒体12に所望の画像等の印刷がなされる。液体噴射ヘッド26は、図1に示すように、複数のノズルNzを副走査方向に沿って並べたノズル列を備え、このノズル列を主走査方向に沿って予め定められた間隔を隔てて2列有する。この2列のノズル列は、図においては第1ノズル列L1、第2ノズル列L2として示されており、第1ノズル列L1のノズルNzと第2ノズル列L2のノズルNzとを、主走査方向に並ぶように備える。以下の説明においては、第1ノズル列L1と第2ノズル列L2の中央を中心軸としこの中心軸を含んでY方向に貫くYZ平面を、説明の便宜上、中心面AXとする。なお、第1ノズル列L1と第2ノズル列L2におけるノズルNzの並びは、媒体送り方向(Y方向)にずれた千鳥状の並びでもよい。また、第1ノズル列L1と第2ノズル列L2は、液体容器14が備える複数種類のインクに合わせて設けられているが、他のノズル列については、その図示を省略する。
図2は、液体噴射ヘッド26の主要なヘッド構成材を分解視して示す説明図である。第1ノズル列L1と第2ノズル列L2とを有する液体噴射ヘッド26は、ヘッド構成材を積層した積層体である。図2では、理解の便を図って、構成材である第1流路基板31の一部部位を破断して示している。また、図3は、図2におけるIII-III断面図である。また、図3の破断位置の理解を容易にするため、後述する図4にもIII-III破断面を示している。以下、両図を適宜参照しながら、液体噴射ヘッド26の構造については説明する。なお、図2、図3において、図示される各構成部材の厚みは、実際の構成材の厚みを示しているものではない。
図2、図3に示すように、液体噴射ヘッド26は、筐体部48と、流路形成部材30を構成する第2流路基板32、第1連通板311および第2連通板312が、-Z方向上側からこの順に積層される。第1連通板311および第2連通板312は、互いに対向する面を接着剤によって接続されて1枚のプレート体である第1流路基板31を構成する。図2には、第1流路基板31の一部である第1連通板311の-Z方向側の面(以下、「第1流路基板31の上面Fa」とも呼ぶ)と、第1流路基板31の一部である第2連通板312の-Z方向側の面(以下、「第1流路基板31の下面Fb」とも呼ぶ)とが示されている。
第1流路基板31の下面Fbには、ノズルプレート50および吸振体54が、互いに重ならない位置に貼付される。筐体部48は、第1流路基板31および後述する保護部材46の外表面を覆う部材であり、樹脂材料の射出成形により形成される。筐体部48および保護部材46は、技術の理解を容易にするため、図2には図示されていない。
液体噴射ヘッド26は、第1ノズル列L1のノズルNzに関連する構成と、第2ノズル列L2のノズルNzに関連する構成と、各ノズルNzに接続される各流路とを、中心面AXを挟んだ面対称となるように備える。すなわち、液体噴射ヘッド26のうち、中心面AXを挟んで+X方向側の第1部分P1と-X方向側の第2部分P2とでは、その構成が共通する。第1ノズル列L1のノズルNzは第1部分P1に属し、第2ノズル列L2のノズルNzは第2部分P2に属し、中心面AXは第1部分P1と第2部分P2の境界面となる。
流路形成部材30は、X方向に並列された2つの第2流路基板32を第1流路基板31の上面Fa側に積層して構成される。第2流路基板32は、Y方向に長尺なプレート体である。
以下に説明するように、液体流路は、第1流路基板31を構成する第1連通板311および第2連通板312と、第2流路基板32とに設けられた開口部や溝を組み合わせることにより形成される。また、第1流路基板31の下面Fbに設けられた溝は、ノズルプレート50や吸振体54が第1流路基板31の下面Fbに貼付されることにより、ノズルプレート50や吸振体54との間に流路を形成する。
第1流路基板31では、第1連通板311と第2連通板312とが接続されることによって、第二流入室59と、供給液室60と、個別供給路61と、連通路63と、第一個別流路71と、第一流入室65と、が備えられる。第一流入室65は、Y方向を長手方向とする開口であり、第1流路基板31のX方向の中心に、Y方向に延在するように設けられる。他方、第二流入室59は、Y方向を長手方向とする開口であり、第1流路基板31のX方向両側に、それぞれY方向に延在するよう設けられる。第1流路基板31の下面Fbであって、第一流入室65の両側には、第一個別流路71として、各連通路63に至る溝が形成されている。
第1連通板311は、シリコン基板であり、連通路63の一部と第二共通流路52の一部である第二流入室59とを含んでいる。第2連通板312は、ガラス基板であり、連通路63の一部と第二共通流路52の一部である供給液室60とを含んでいる。第1連通板311および第2連通板312は、-Z方向上側からこの順に積層されることで、連通路63の一部および第二共通流路52の一部の各々を互いに接続している。
また、第1連通板311と第2連通板312とを接続することで、第1流路基板31の下面Fbには、第二流入室59から第1流路基板31の中心側に続く流路が、供給液室60として形成される。以下、各部の構成の説明の際には、第1連通板311および第2連通板312を接続させた第1流路基板31として扱う。第二流入室59と供給液室60とは、筐体部48に設けられた他の構成部材と共に、第二共通流路52を構成する。第一流入室65は、同じく筐体部48に設けられた他の構成部材と共に第一共通流路51を構成する。これら第一共通流路51,第二共通流路52の構成については、後で詳しく説明する。
第一流入室65と第2流入室第59とに挟まれた位置に、ノズルNzの数に対応した数の連通路63と個別供給路61とが設けられている。これらの連通路63と個別供給路61とは、第1流路基板31に設けられた角形の開口である。連通路63と個別供給路61とは、第2流路基板32に設けられた圧力室62と共に、第二個別流路72を形成している。個別供給路61は、第1流路基板31のうち第1連通板311にのみ形成され、-Z方向側は圧力室62と接続され、Z方向側は第2連通板312の供給液室60と接続されている。第二個別流路72の詳細な構成と働きについては、第一個別流路71と共に、後で詳しく説明する。
2つの第2流路基板32は、第1流路基板31における-Z方向側の上面Faに、接着剤を用いて固定される。2つの第2流路基板32は、第1流路基板31の上面Faの第1部分P1と第2部分P2とにそれぞれ設置される。この第2流路基板32の下面側には、長方形状の複数の溝が形成されている。この溝は、第2流路基板32が、第1流路基板31の第1部分P1,第2部分P2に接着されると、第1流路基板31の上面Faと共に、圧力室62を形成する。第2流路基板32のそれぞれの圧力室62の+Z方向側の外形は、第1流路基板31のそれぞれの個別供給路61および連通路63の-Z方向側の外形を含む。これにより、圧力室62と、個別供給路61および連通路63とが接続され、第二個別流路72が構成される。
図3には、個別供給路61内のインクの流通方向に沿った向きの個別供給路61の長さD1と、連通路63内のインクの流通方向に沿った向きの連通路63の長さD2とが示されている。本明細書において、流路内のインクの流通方向に沿った向きとは、流路の中央部分における巨視的なインクの流通方向のことを表す。本実施形態において、個別供給路61の長さD1は、連通路63の長さD2よりも小さい。
第2流路基板32の上面(-Z方向側の面)であって、圧力室62に対応する部位のそれぞれには、圧電素子44が貼付されており、振動部42を構成する。圧力室62を構成する溝の深さは、第2流路基板32の厚みより僅かに短いものとされている。つまり、圧力室62の部位において、第2流路基板32は薄肉とされ、圧電素子44の歪みに併せて変形動可能な壁面とされている。
第1流路基板31の下面Fbに貼付されるノズルプレート50は、複数のノズルNzを備える平面状の部材である。ノズルプレート50は、シリコン(Si)の単結晶基板で形成され、半導体製造技術、例えば、ドライエッチングやウェットエッチング等の加工技術によってノズルNzが形成される。
ノズルNzは、インクを外部に噴射するための貫通孔である。本実施形態において、ノズルNzのインクの噴射方向はZ方向である。複数のノズルNzは、第1ノズル列L1と、第2ノズル列L2として、それぞれ直線上に配列されている。
ノズルプレート50の-Z方向側の壁面は、各ノズルNzが、各連通路63の真下(Z方向側)となる位置となるようにして第1流路基板31の下面Fbに貼付される。このとき、ノズルプレート50のノズルNz以外の-Z方向側の壁面は、第1流路基板31の第一流入室65と、連通路63と、第一流入室65と連通路63との間に溝として設けられた第一個別流路71を覆う。したがって、ノズルプレート50は、第1流路基板31の第一流入室65、第一個別流路71、連通路63の部位において、流路の内壁となる。
図示したように、ノズルプレート50のX方向の両側に配置された2つの吸振体54は、可撓性を有する膜を有する。吸振体54は、例えばコンプライアンス基板によって形成される。それぞれの吸振体54の-Z方向側の面は、接着剤を用いて第1流路基板31の下面Fbの第1部分P1と第2部分P2とに貼付される。このとき、吸振体54は、第1流路基板31の供給液室60および第二流入室59を覆うようにして配置される。これにより、吸振体54は、-Z方向側の面が、供給液室60および第二流入室59の部位において、各流路の内壁となる。
図3に示すように、この流路形成部材30の-Z方向側の上面Faには、筐体部48が接着剤により固定される。筐体部48には、第1流路基板31に設けられた第二流入室59に対応する位置に、第二流入室59と同形状の溝である第二液室58が設けられている。この第二流入室59には、Y方向中心に第二循環口57が設けられている。第二液室58および第二循環口57は、既に説明した供給液室60、第二流入室59と共に、第二共通流路52を形成する。このように、第二液室58は、第二流入室59と接続されることによって一つの空間を形成し、インク貯留室(リザーバーRs2)としての機能を果たす。これにより、複数の連通路63と圧力室62とに、共通にインクを供給又は排出の少なくとも一方を行う共通流路である第二共通流路52を構成する。また、上述したように、本実施形態の液体噴射ヘッド26における第1流路基板31は、第1連通板311および第2連通板312を積層することで、第二共通流路52の一部の各々を互いに接続している。これにより、第二個別流路72に接続された第二共通流路52の容積をより大きくすることができ、第二個別流路72へのインクの供給がより容易となる。
筐体部48のX方向中心には、第一流入室65に対応する位置に、第一流入室65と同形状の溝である第一液室66が設けられ、この第一液室66のY方向両端には、貫通孔である第一循環口67が設けられている。この第一液室66および第一循環口67は、既に説明した第一流入室65と共に、第一共通流路51を形成する。第一液室66および第一流入室65とは、インク貯留室(リザーバーRs1)を形成する。これにより、複数の連通路63と圧力室62とに、共通にインクを供給又は排出の少なくとも一方を行う共通流路である第一共通流路51を構成する。
更に、筐体部48は、第2流路基板32に対応する位置にも、第2流路基板32と同形状の溝部が形成されており、ここに第2流路基板32とその上面に貼付された圧電素子44を保護する保護部材46とを収容する。
以上説明した液体噴射ヘッド26の構造を整理すると、以下の通りである。液体噴射ヘッド26のX方向中心には、Y方向に沿って第一共通流路51が形成されている。他方、液体噴射ヘッド26のX方向両側には、それぞれY方向に沿って第二共通流路52が形成されている。ノズルNzが存在する連通路63を中心にみると、第一共通流路51との間には第一個別流路71が存在しており、第二共通流路52との間には第二個別流路72が存在する。従って、第一共通流路51から第二共通流路52までが液体に満たされていれば、第一共通流路51の第一循環口67から流体が流入すると、流体は、共通流路である第一共通流路51から、複数設けられた第一個別流路71を通って個別の連通路63に至り、更に、ここから複数設けられた第二個別流路72を通って、共通流路である第二共通流路52に再び集まる。流体が、第二共通流路52の第二循環口57から流入する場合は、流体の流れはこの逆となる。このように、本実施形態の液体噴射ヘッド26は、図1に示した中心面AXを挟んで、両側に対称な構造を備える。第一共通流路51から第二共通流路52に至る流路を、循環流路90と総称する。循環流路90内の流体は、少なくともノズルNzからの液体噴射時に循環することが好ましい。これにより、クロストークの発生を抑制させることができる。また、循環流路90内の流体は、非噴射時であっても循環することがさらに好ましい。これにより、ノズルNzの乾燥防止や循環流路90の気泡や異物の除去を促進させることができる。
本実施形態の液体噴射ヘッド26では、1つの第一共通流路51に対して、第1部分P1側に複数の個別流路70および1つの第二共通流路52が備えられ、第2部分P2側に複数の個別流路70および1つの第二共通流路52が備えられる。なお、一つの循環流路90内の複数の個別流路70を「個別流路群17」とも呼ぶ。液体噴射ヘッド26は、第1部分P1と、第2部分P2とにそれぞれ個別流路群17を備える。すなわち、本実施形態の液体噴射ヘッド26は、1つの第一共通流路51と、2つの第二共通流路52とが、2つの個別流路群17によって接続されて2つの循環流路90を構成する。このように、本実施形態の液体噴射ヘッド26では、複数の循環流路90を備えていることによって一つの液体噴射ヘッド26に備えられるノズルNzの数を増加させている。
圧電素子44は、いわゆるピエゾ素子であり、制御ユニット20からの駆動信号を受けて変形する能動素子である。圧電素子44は、この変形によって振動を発生させる。圧電素子44による振動は、振動部42に伝達され、圧力室62の内部のインクに圧力の変化を発生させる。このように、圧電素子44を備えた振動部42は、第1ノズル列L1および第2ノズル列L2のノズルNzごとの圧力室62の液体の圧力を変化させる圧力発生部として機能する。この圧力変化は、連通路63を経てノズルNzに到達し、インクをノズルNzから噴射させる。
本実施形態の液体噴射ヘッド26は、インクが流路の内部を流通される場合において、連通路63の上流側の第一個別流路71での流路抵抗は、連通路63の下流側にあたる圧力室62、個別供給路61のそれぞれの流路抵抗よりも大きく設定されている。したがって、液体噴射時における第一個別流路71へのインクの供給に伴うクロストークの発生を抑制することができる。
連通路63の上流側の第一個別流路71での流路抵抗が、連通路63の下流側にあたる圧力室62、個別供給路61のそれぞれの流路抵抗よりも大きく設定されている時は、本実施形態の液体噴射ヘッド26のように、吸振体54が流路の下流側にあたる第二共通流路52の内壁となる位置に設けられるのが好ましい。特に、第二共通流路52のうち、個別供給路61に最も近い供給液室60に吸振体54を設けることが最も好ましい。液体噴射時において、圧力室62に発生する圧力によって、第一個別流路71内のインクに加え、流路抵抗が小さい側となる第二共通流路52からも連通路63にインクが供給される。そのため、この第二共通流路52に吸振体54が設けられることによって、第二共通流路52のイナータンスを増加させることができ、クロストークの発生を抑制できるからである。
図4は、液体噴射ヘッド26の上面側からの平面視におけるインクの経路を模式的に表す説明図である。図4には、技術の理解を容易にするため、図中の手前側に位置する部材によって視認することができない部材も図示されている。
本実施形態の液体噴射ヘッド26は、上述したように、第一共通流路51と、第二共通流路52と、第一個別流路71と、第二個別流路72とによって構成される循環流路90を、中心面AXを中心とした両側に2つ備える。液体噴射ヘッド26は、更に、液体容器14と、ポンプ15と、供給管16と、循環機構75と、を備える。
液体容器14は、インクを貯留するタンクである。液体容器14は、ポンプ15と接続されている。供給管16は、液体容器14から供給されたインクを循環流路90に供給するための配管である。本実施形態において、供給管16は、4つ備えられ、2つの第一循環口67と、2つの第二循環口57とにそれぞれ接続されている。
液体容器14に貯留されたインクは、ポンプ15によって供給管16の内部を圧送される。圧送されたインクは、循環流路90のインクの流通方向に応じて、第二循環口57または第一循環口67に選択的に供給される。本実施形態において、液体容器14に貯留されたインクは、第一循環口67に供給される。
循環機構75は、第二循環口57または第一循環口67に供給されたインクを、循環流路90を通過させて移動させる流動機構である。本実施形態において、循環機構75は、液体噴射ヘッド26のノズルNzを備える側とは逆側(すなわち、上面側)に接続されている。循環機構75は、インク貯留槽76と、圧力調整部77とを備える。圧力調整部77は、インク貯留槽76の内部のインクの圧力をポンプ15の圧送圧より低圧に調整する。循環流路90でのインクの循環は、ポンプ15および圧力調整部77による圧力を調整することによって実現される。
図4に示された矢印は、本実施形態におけるインクの流通方向を模式的に表している。液体容器14に貯留されたインクと、インク貯留槽76とに貯留されたインクは、第一共通流路51の第一循環口67に圧送される。第一循環口67から供給されたインクは、第一液室66を通過して、第一流入室65に到達する。第一流入室65に到達したインクは、ノズルプレート50の内壁に接触しノズルプレート50の面方向に沿って流通する。このとき、インクは、Y方向に沿って行き渡るとともに、第1部分P1および第2部分P2のそれぞれの個別流路群17の第一個別流路71に分配される。
第一個別流路71に流入されたインクは、ノズルプレート50の面方向に沿って流通して第二個別流路72の連通路63に供給される。連通路63に流入されたインクは、連通路63に接続された圧力室62に導かれる。このとき、圧電素子44による振動がインクに伝達される場合、連通路63のインクは、ノズルNzから外部に向けて噴射される。
圧力室62に流入されたインクは、個別供給路61に導かれる。個別流路群17のそれぞれの個別供給路61から排出されたインクは、第二共通流路52の供給液室60で合流する。供給液室60のインクは、吸振体54の壁面に沿って第二流入室59に導かれる。第二流入室59に流入されたインクは、第二液室58に流入し、第二循環口57から後述するインク貯留槽76に排出される。
以上のように、本実施形態の液体噴射ヘッド26では、第一共通流路51に供給されたインクが、第一個別流路71および第二個別流路72を通過して第二共通流路52に供給される。すなわち、第一共通流路51は、本実施形態におけるインクの流路の上流側であり、第二共通流路52は、インクの流路の下流側である。第二共通流路52を通ったインクは循環機構75に送り出され、再び第一共通流路51に供給される。以上のように、本実施形態の液体噴射ヘッド26は、2つの循環流路90と、循環機構75とによってインクを循環させる。なお、下流側の流路の内圧は、圧送されたインクにかかる圧力の減衰によって上流側の流路の内圧よりも低くなる。
図5は、図4の範囲Arを拡大した平面図である。図5には、循環流路90のうち、第一共通流路51と、第二共通流路52のほか、+Y方向の端部側における3つの個別流路70が示されている。以下、この3つの個別流路70は、+Y方向側の端部に位置する個別流路70Dと、個別流路70Dに隣接する個別流路70aと、個別流路70aに隣接する個別流路70bとして表す。
個別流路70Dは、いわゆるダミー流路である。本実施形態において、個別流路70Dの流路構成は、他の個別流路70の流路構成と同じであり、個別流路70Dにもインクが流通される。しかし、個別流路70Dの圧電素子44は駆動されず、インクは個別流路70のノズルNzから噴射されない。なお、この個別流路70DのノズルNzは備えられなくても差し支えない。同様に、圧電素子44が備えられなくても差し支えない。このような態様においては、個別流路70Dによってインクが噴射されない態様であればよい。
本実施形態の液体噴射ヘッド26では、最も端部側に位置する個別流路70Dは、-Y方向側に個別流路70aを備えるが、+Y方向側には部材による壁面が備えられる。すなわち、+Y方向側の壁面のコンプライアンスは略ゼロである。そのため、各循環流路90には、Y方向に沿って配列された両端側にはダミー流路となる個別流路70Dが備えられる。これにより、ダミー流路に隣接する個別流路70aは、ダミー流路である個別流路70Dの隔壁のコンプライアンスも得ることができる。
以下、本実施形態の液体噴射ヘッド26のコンプライアンスの構成について、図5とともに図3を参照して説明する。本実施形態の液体噴射ヘッド26では、個別流路70aの連通路63は、-Y方向側に隣接する個別流路70bの連通路63とは隔壁W5を介して配列され、+Y方向側に隣接する個別流路70Dの連通路63とは隔壁W1を介して配列されている。隔壁W1の厚みは厚みT1である。個別流路70aの圧力室62は、個別流路70bの圧力室62とは隔壁W6を介して配列され、個別流路70Dの圧力室62とは隔壁W2を介して配列されている。同様に、個別流路70aの個別供給路61および第一個別流路71は、個別流路70bとはそれぞれ隔壁W7および隔壁W8を介して配列され、個別流路70Dとはそれぞれ隔壁W3および隔壁W4を介して配列されている。図5には、隔壁W1、W2、W5、W6のそれぞれの厚みT1、T2、T5、T6が示されている。
本実施形態の液体噴射ヘッド26は、連通路63に隣接する隔壁W1、W5のコンプライアンスC1、C5の合計値は、圧力室62の両側の隔壁W2、W6のコンプライアンスC2、C6と、第一個別流路71の両側の隔壁W4,W8のコンプライアンスC4、C8と、個別供給路61の隔壁W3,W7のコンプライアンスC3、C7との合計値よりも大きい。すなわち、以下の式(1)で表される。
(C1+C5)> (C2+C3+C4+C6+C7+C8) …(1)
個別流路70aには、個別流路70aの圧力発生部によって圧力室の容積の変動によって、インクには固有振動周期Tcの圧力振動が生じる。より具体的には、圧力発生部によって圧力室62内のインクに圧力変動を生じさせてノズルNzからインクを噴射させると、圧力室62内のインクには、その圧力変動に伴って圧力室62内があたかも音響管であるかのように振る舞う圧力振動(インクの固有振動)が励起される。この固有振動周期Tcは、以下の式(2)で表すことができる。
Tc=2Π√(M×C) …(2)
M:個別流路70aのイナータンス
C:個別流路70aのコンプライアンス
例えば、個別流路70の複数の圧力発生部を同時に駆動させた場合、第一流入室65内のインクは、複数の第一個別流路71に供給される。そうすると、隣接する第一個別流路71同士でインクを取り合うような振る舞いが発生する。そのため、各流路間の隔壁が擬似的に延長され、第一個別流路71のイナータンスが増加する場合がある。したがって、複数の個別流路70の圧力発生部を同時に駆動させた場合のイナータンスM2は、以下の式(3)で表すことができる。
M2=M1+ΔM …(3)
M1:1つの個別流路70の圧力発生部を駆動した場合の流路のイナータンス
ΔM:1つの個別流路70に隣接する第一個別流路71の間の隔壁が擬似的に延長されて増加するイナータンスの推定値
したがって、固有振動周期Tc2は、固有振動周期Tc1に対してΔMの分だけイナータンスが増加し,周期の値が増加する。
一つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合の固有振動周期Tcを固有振動周期Tc1としたとき、以下の式(4)によって表すことができる。
Tc1=2Π√(M1×C1) …(4)
M1:インクが流動する個別流路70のイナータンスの合計値
C1:1つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合のコンプライアンスの合計値
このとき、コンプライアンスC1は、以下の式(5)によって表すことができる。
C1=Ci1+Cd1+Cw1 …(5)
Ci1:1つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合の個別流路70内のインクのコンプライアンス
Cd1:1つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合の振動部42の振動板のコンプライアンス
Cw1:1つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合の個別流路70の隔壁のコンプライアンス
複数の個別流路70の圧力発生部を同時に駆動させた場合の固有振動周期Tcを固有振動周期Tc2としたとき、以下の式(6)によって表すことができる。
Tc2=2Π√(M2×C2) …(6)
C2:複数の圧力発生部を同時に駆動させた場合のコンプライアンスの合計値
上述した通り、固有振動周期Tc2は固有振動周期Tc1よりも大きい。
また、複数の個別流路70の圧力発生部を同時に駆動させた場合、各圧力室62で略同一の圧力が発生する。そのため、各圧力室62の間の隔壁は、略同一の圧力が互いに向き合う(釣り合う)ことによって変形せず、個別流路70の隔壁のコンプライアンスCw2は略ゼロとなる。したがって、コンプライアンスC2は、以下の式(7)によって表すことができる。
C2=Ci2+Cd2 …(7)
Ci2:複数の個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合の個別流路70内のインクのコンプライアンス
Cd2:複数の個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合の振動部42の振動板のコンプライアンス
ここで,個別流路70内のインクのコンプライアンスCiは、インクの物性値および流路の体積によって規定される。そのため,1つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合と、複数の個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合とでは、インクのコンプライアンスCiの大きさは変わらない。そのため、Ci1=Ci2とみなすことができる。同様に,振動板の変形する方向は,複数の個別流路70が配列される方向に対して垂直な方向である。そのため,振動部42の振動板のコンプライアンスCdは,複数の個別流路70において相互の影響を受けない。これにより,Cd1=Cd2とみなすことができる。
したがって、1つの個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合のコンプライアンスC1は、複数の個別流路70の圧力発生部を駆動させた場合のコンプライアンスC2よりも、個別流路70の隔壁のコンプライアンスCw1の分だけ大きい。以上をまとめると,上記の式(4)、式(6)で表される固有振動周期Tc1,Tc2の内訳における関係は,M1<M2,C1>C2であり、C1はC2よりもCw1分だけ大きい。そのため、個別流路70の隔壁のコンプライアンスCw1を増加させることによって、固有振動周期Tc1と固有振動周期Tc2との差を小さくすることができる。
本実施形態の液体噴射ヘッド26は、連通路63に隣接する隔壁W1、W5のコンプライアンスC1、C5の合計値は、圧力室62の両側の隔壁W2、W6のコンプライアンスC2、C6と、第一個別流路71の両側の隔壁W4,W8のコンプライアンスC4、C8と、個別供給路61の隔壁W3,W7のコンプライアンスC3、C7との合計値よりも大きい。そのため、流路の隔壁のコンプライアンスCw1を増加させることができる。したがって、固有振動周期Tc1とTc2との差を小さくすることができる。これにより、隣接する複数の個別流路70のうち、一つの圧力発生部を駆動させる場合と、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくなり、クロストークの発生を抑制することができる。
また、本実施形態の液体噴射ヘッド26では、連通路63の隔壁W5の厚みT5は、圧力室62の隔壁W6の厚みT6より小さく、連通路63の隔壁W1の厚みT1は、圧力室62の隔壁W2の厚みT2より小さい。ここで、コンプライアンスCwは、以下の式(8)によって表すことができる。
Cw=(1-p2)×W5×L/(60×E×T3) …(8)
p:隔壁のポアソン比
W:隔壁の短手方向の長さ
L:隔壁の長手方向の長さ
E:隔壁のヤング率
T:隔壁の厚み
本実施形態の液体噴射ヘッド26では、連通路63の隔壁W2の厚みは、圧力室62の隔壁W6の厚みより小さく、連通路63の隔壁W1の厚みは、圧力室62の隔壁W2の厚みより小さい。したがって、ノズルNz近傍の流路である連通路63のコンプライアンスを増加させることができる。
図3に示されるように、本実施形態の液体噴射ヘッド26は、2枚の連通板である第1連通板311および第2連通板312を接続し、連通路63の一部を互いに接続している。これにより連通路63の隔壁の面積をより大きくさせて、連通路63の隔壁のコンプライアンスを増加させている。なお、連通板は2枚には限定されず、3枚以上であってもよい。これにより、連通板を積層する量に応じて連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることができる。
図3に示されるように、本実施形態の液体噴射ヘッド26では、個別供給路61の長さD1は、連通路63の長さD2よりも小さい。したがって、個別供給路61のイナータンスが小さくなり、固有振動周期Tcを短くすることができ、ノズルNzからの液体の噴射周期を短くすることができる。
個別供給路61は、第1流路基板31のうち第1連通板311にのみ形成され、この第1連通板311に第2連通板312を積層することによって個別供給路61の流路の長さに対し、連通路63および供給液室60の流路の長さを延長させている。これにより、個別供給路61の流路の長さを維持しつつ、連通路63の隔壁のコンプライアンスを増加させ、供給液室60の容積をより大きくさせている。したがって、個別供給路61のイナータンスを維持しつつ、リザーバーRs2を拡大させることによって第二個別流路72に対しインクをより容易に供給することができる。
第1流路基板31は、複数の連通板によって構成され、そのうちの第2連通板312はガラス基板によって構成される。本実施形態のガラス基板には硼珪酸ガラスが用いられる。これにより、第1流路基板31の流路の隔壁は、シリコン基板より低いヤング率を有する。これにより、上記式(8)に示されるようにコンプライアンスのより大きい隔壁を流路に備えることができる。
なお、ガラス基板には、シリコン(Si)と類似した線膨張係数(シリコンの線膨張係数は、42×10-7/℃程度である。)の材料を用いることが好ましい。また、硼珪酸ガラスとしては、コーニング社(米国)のパイレックス(登録商標)、ショット社(ドイツ)のテンパックス・フロート(登録商標)の線膨張係数は、共に32×10-7/℃程度であり、シリコンと近い線膨張係数を有するためガラス基板への適用として好ましい。
第1流路基板31のうち第1連通板311はシリコン基板によって構成される。硼珪酸ガラスに比べ、シリコンの方が微細な加工が容易である。したがって、個別供給路61に対して、例えば、半導体技術を適用した微細な流路を形成できる。なお、ノズルNzのような微細な流路を備えるノズルプレート50もシリコンを用いることが好ましい。
上述したように、本実施形態の液体噴射ヘッド26には、流路の隔壁のコンプライアンスを大きくしている。そのため、例えば、吸振体54を備えない態様とすることもできる。これにより、液体噴射ヘッド26を小型化することができる。
B.他の実施形態:
(B1)上記実施形態の液体噴射ヘッド26は、連通路63に隣接する隔壁W1、W5のコンプライアンスC1、C5の合計値は、圧力室62の両側の隔壁W2、W6のコンプライアンスC2、C6と、第一個別流路71の両側の隔壁W4,W8のコンプライアンスC4、C8と、個別供給路61の隔壁W3,W7のコンプライアンスC3、C7との合計値よりも大きい。これに対して、連通路の隔壁のコンプライアンスは、圧力室の隔壁のコンプライアンスより大きい態様であってもよい。連通路の隔壁のコンプライアンスC1が隣接する一方の圧力室の隔壁のコンプライアンスC2より大きくてもよく、連通路の両側の隔壁のコンプライアンス(C1+C5)が、隣接する圧力室の両側の隔壁のコンプライアンス(C2+C6)であってもよい。このような態様であっても、ノズル近傍の流路である連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることができる。
(B2)上記実施形態の液体噴射ヘッド26では、連通路63の隔壁W5の厚みT5は、圧力室62の隔壁W6の厚みT6より小さく、連通路63の隔壁W1の厚みT1は、圧力室62の隔壁W2の厚みT2より小さい。これに対して、連通路の隔壁の厚みが圧力室の厚みより大きい態様であってもよい。このような態様においては、例えば連通路の流路の長さをより大きくして連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることがこのましい。
このような態様であってもノズル近傍の流路である連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることができる。
(B3)上記実施形態の液体噴射ヘッド26では、配列された個別流路70のうち最も端部側にダミー流路である個別流路70Dが備えられる。これに対して、ダミー流路が備えられない態様であってもよい。このような態様であっても、連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることで、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくすることができる。
(B4)上記実施形態の液体噴射ヘッド26では、個別供給路61の長さD1は、連通路63の長さD2よりも小さい。これに対して、個別供給路の長さD1は、連通路の長さD2よりも大きい態様であってもよい。このような態様であっても、連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることで、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくすることができる。
(B5)上記実施形態の液体噴射ヘッド26において、第1流路基板31は、第1連通板311と、第2連通板312とを備える。これに対して、第1流路基板は、1枚の連通板によって構成される態様とすることもできる。このような態様においては、1枚の連通板の内部において、連通路の長さが個別供給路の長さよりも大きくなるように加工することが好ましい。このような態様であっても、上記実施形態と同様な効果が得られることができる。
(B6)上記実施形態の液体噴射ヘッド26において、個別供給路61は、第1流路基板31のうち第1連通板311にのみ形成される。これに対して、個別供給路は、複数の連通板に亘って形成される態様であってもよい。このような態様においては、連通路の流路の長さが個別供給路の流路の長さよりも長くなるように構成されることが好ましい。
(B7)上記実施形態の液体噴射ヘッド26において、第2連通板312はガラス基板によって構成される。これに対して、第2連通板は、例えば、ガラス基板やセラミック基板、単結晶基板といったシリコン基板以外の種々の基板によって構成されていてもよい。このような態様であっても、連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることで、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくすることができる。
(B8)上記実施形態の液体噴射ヘッド26において、第1流路基板31のうち第1連通板311はシリコン基板によって構成される。これに対して、第1連通板は、例えば、ガラス基板やセラミック基板、単結晶基板といったシリコン基板以外の種々の基板によって構成されていてもよい。このような態様であっても、連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることで、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくすることができる。
(B9)上記実施形態では、液体噴射ヘッド26は、1つの第一共通流路51と、2つの第二共通流路52とが、2つの個別流路群17によって接続されて2つの循環流路90を構成する。これに対して、第二共通流路は1つであってもよく、3以上を備える態様であってもよい。このような態様においては、第二共通流路と同じ数の個別流路群を備えることがより好ましい。
(B10)上記実施形態の液体噴射ヘッド26は、インクが流路の内部を流通される場合において、連通路63の上流側の流路での流路抵抗は、連通路63の下流側の流路抵抗よりも大きく設定されている。これに対して連通路63の上流側の流路での流路抵抗は、連通路の下流側の流路抵抗よりも小さく設定されていてもよい。このような態様であっても、連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることで、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくすることができる。連通路63の上流側の流路での流路抵抗を、連通路の下流側の流路抵抗よりも小さく設定した場合には、上流側の共通流路に吸振体54を設けるのが好ましい。この場合はインクの供給は、図3の第二循環口57から行う。
(B11)上記実施形態の液体噴射ヘッド26では、圧電素子を用いてインクを噴射させる。これに対して、噴射駆動素子としてピエゾ素子以外の種々のものを利用することが可能である。例えば、インク通路に配置したヒータに通電し、インク通路内に発生する泡(バブル)によりインクを吐出するタイプの吐出駆動素子を備えたプリンタに適用することも可能である。
(B12)上記実施形態の液体噴射ヘッド26では、循環機構75は、液体噴射ヘッド26の上面側に接続されている。これに対して、液体噴射ヘッドは循環機構を備えず、液体噴射装置が循環機構を備える態様であってもよい。このような態様においては、循環機構は、第一共通流路および第二共通流路に対してインクを供給又は排出の少なくとも一方を行えるように流路を接続されることが好ましい。
C.他の形態:
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実現することができる。例えば、本発明は、以下の形態(aspect)によっても実現可能である。以下に記載した各形態中の技術的特徴に対応する上記実施形態中の技術的特徴は、本発明の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、本発明の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
(1)本発明の一形態によれば、液体を外部に噴射する液体噴射ヘッドが提供される。この液体噴射ヘッドは、前記液体を噴射する複数のノズルと、複数の圧力室の各々に個別に配置され、前記圧力室の圧力を変化させて前記ノズルから前記液体を噴射させる複数の圧力発生部と、前記複数のノズルの各々が個別に配置され、前記複数の圧力室の各々と連通する複数の連通路と、前記複数の連通路と前記複数の圧力室とを含む複数の流路に前記液体を供給又は排出の少なくとも一方を行う共通流路と、を備える。前記複数の連通路は、隣接する連通路と隔壁を介して配列され、前記複数の圧力室は、隣接する圧力室と隔壁を介して配列され、前記連通路の隔壁のコンプライアンスを、前記圧力室の隔壁のコンプライアンスよりも大きくする。この形態の液体噴射ヘッドによれば、連通路の隔壁のコンプライアンスが圧力室のコンプライアンスよりも大きい。そのため、ノズル近傍の流路である連通路の隔壁のコンプライアンスを増加させることができる。したがって、固有振動周期Tc1とTc2との差を小さくすることができる。これにより、隣接する複数の個別流路のうち、一つの圧力発生部を駆動させる場合と、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくなり、クロストークの発生を抑制することができる。
(2)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記共通流路は、前記液体が前記圧力室に供給される第一共通流路と、前記連通路および前記圧力室を通過した前記液体が受け入れられる第二共通流路と、を備える。前記連通路および前記圧力室が、前記第一共通流路と前記第二共通流路とを接続する複数の個別流路の一部を構成する。前記複数の個別流路は、前記連通路と前記第一共通流路とを接続する複数の第一個別流路と、前記圧力室と前記第二共通流路とを接続する流路である複数の個別供給路と、を備える。前記複数の第一個別流路は、隣接する第一個別流路と隔壁を介して配列され、前記複数の個別供給路は、隣接する個別供給路と隔壁を介して配列され、前記連通路の隔壁のコンプライアンスを、前記圧力室の隔壁のコンプライアンスと、前記第一個別流路の隔壁のコンプライアンスと、前記個別供給路の隔壁のコンプライアンスとの合計値よりも大きくする。この形態の液体噴射ヘッドによれば、隣接する連通路間の隔壁のコンプライアンスは、圧力室間の隔壁のコンプライアンスと、第一個別流路間の隔壁のコンプライアンスと、第二個別流路間のコンプライアンスとの合計値よりも大きくなる。したがって、ノズル近傍の流路である連通路の隔壁のコンプライアンスがより大きくなる。したがって、隣接する複数の個別流路のうち、一つの圧力発生部を駆動させる場合と、複数の圧力発生部を駆動させる場合との固有振動周期Tcの変化が小さくなり、クロストークの発生を抑制することができる。
(3)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記複数の個別流路のうち、配列の両端側に備えられる前記個別流路には、前記液体を前記外部に噴射しないダミー流路が隣接されてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、複数の個別流路の両端側にはダミー流路となる個別流路が備えられる。これにより、ダミー流路に隣接する個別流路は、ダミー流路である個別流路の隔壁によるコンプライアンスも得ることができる。
(4)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記個別供給路内の前記液体の流通方向に沿った向きの前記個別供給路の長さを、前記連通路の長さよりも小さくしてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、連通路に対して個別供給路の流路を短くすることができる。したがって、個別供給路のイナータンスが小さくなり、固有振動周期Tcを短くすることができ、ノズルからの液体の噴射周期を短くすることができる。
(5)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記連通路の一部と前記第二共通流路との一部を含む板状の複数の連通板と、前記複数の連通板を積層し、前記連通路の一部および前記第二共通流路の一部の各々を互いに接続した流路基板と、を備えていてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、連通路の隔壁の面積を大きくすることができる。したがって、連通板を積層する量に応じて、連通路のコンプライアンスを増加させることができる。また、第二個別流路に接続された第二共通流路の容積をより大きくすることができ、第二個別流路へのインクの供給がより容易となる。
(6)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記個別供給路は、前記流路基板のうち前記圧力室と接続される前記連通板のみに含まれてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、個別供給路の流路の長さを維持しつつ、連通路と、第二共通流路との容積をより大きくすることができる。したがって、個別供給路のイナータンスを維持しつつ、連通路のコンプライアンスを増加し、第二個別流路に対しインクをより容易に供給することができる。
(7)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記個別供給路を含む前記連通板は、シリコン基板であってもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、第二個別流路を備える連通板をシリコン基板で構成し、ガラス基板を含む連通板によって流路の隔壁が構成される。第二個別流路に対して半導体技術を適用した微細な流路を形成できるとともに、より大きいコンプライアンスを有する隔壁を流路に備えることができる。
(8)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記複数の連通板の少なくとも1つはガラス基板であってもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、ガラス基板によって流路の隔壁が構成される。したがって、シリコン基板のみで流路の隔壁を構成する態様と比較して、低いヤング率を有する流路の隔壁を構成することができる。これにより、上記式(7)に示されるようにコンプライアンスのより大きい隔壁を流路に備えることができる。
(9)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記連通路の隔壁の厚みを、前記圧力室の隔壁の厚みよりも小さくしてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、連通路の隔壁の厚みTは、圧力室の隔壁の厚みより小さくなる。したがって、ノズル近傍の流路である連通路のコンプライアンスを増加させることができる。
(10)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記液体が前記流路の内部を流通される場合において、前記連通路の内圧よりも高い内圧を有する側の流路の流路抵抗を、前記連通路の内圧よりも低い内圧を有する側の流路の流路抵抗よりも大きくしてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、液体が流路内を流通している場合に連通路よりも上流側に下流側よりも流路抵抗の大きい流路が備えられる。したがって、流路へのインクの供給に伴うクロストークの発生を抑制することができる。
(11)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記共通流路における圧力の変化を吸収する平面状の吸振体を備えてもよい。前記低い内圧を有する側の流路は、前記共通流路の一部を含み、前記吸振体は、前記低い内圧を有する側の共通流路の内壁を構成する。この形態の液体噴射ヘッドによれば、吸振体が、流路抵抗が小さい流路の下流側にあたる共通流路の内壁となる位置に備えられる。これにより、共通流路におけるイナータンスを増加させることができ、クロストークの発生を抑制することができる。
(12)上記形態の液体噴射ヘッドにおいて、前記流路に前記液体を通過させて移動させる流動機構を備えていてもよい。この形態の液体噴射ヘッドによれば、流動機構が、液体噴射装置の液体噴射ヘッドに備えられる。したがって、装置を大型化させることなく流動機構を備えた液体噴射ヘッドを実現することができる。
(13)本発明の他の形態によれば、液体噴射装置が提供される。この液体噴射装置は、上記各形態の液体噴射ヘッドと、前記共通流路を介して前記流路に前記液体を通過させて移動させる流動機構と、を備える。この形態の液体噴射装置によれば、液体噴射ヘッド内の流路に液体を流通させる流動機構が液体噴射装置に備えられる。したがって、より出力の大きい流通機構によって、液体噴射ヘッドの流路に液体を流通させることができる。
本発明は、インクを噴射する液体噴射装置に限らず、インク以外の他の液体を噴射する任意の液体噴射装置にも適用することができる。例えば、以下のような各種の液体噴射装置に本発明は適用可能である。ファクシミリ装置等の画像記録装置、液晶ディスプレイ等の画像表示装置用のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射装置、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイや、面発光ディスプレイ(Field Emission Display、FED)等の電極形成に用いられる電極材噴射装置、バイオチップ製造に用いられる生体有機物を含む液体を噴射する液体噴射装置、
精密ピペットとしての試料噴射装置、潤滑油の噴射装置、樹脂液の噴射装置、時計やカメラ等の精密機械にピンポイントで潤滑油を噴射する液体噴射装置、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂液等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸性又はアルカリ性のエッチング液を噴射する液体噴射装置、他の任意の微小量の液滴を噴射させる液体噴射ヘッドを備える液体噴射装置等の形態で実現することができる。