以下、図面を用いて、本発明の実施形態について説明する。
<<<全体構成>>>
本発明の一実施形態として、熱溶解積層法(FFF)により三次元造形物を造形する三次元造形装置について説明する。なお、本実施形態における三次元造形装置は、熱溶解積層法(FFF)を用いたものに限定されるものではなく、造形手段により載置台の載置面上に三次元造形物を造形する任意の造形方法を用いたものであってもよい。
図1は、一実施形態に係る三次元造形装置の構成を示す模式図である。図2は、図1の三次元造形装置における吐出モジュールの断面を示す模式図である。三次元造形装置1は、射出成形では金型が複雑になる、あるいは、成形できないような三次元造形物を造形することができる。
三次元造形装置1における筐体2の内部は、三次元造形物Mを造形するための処理空間となっている。筐体2の内部には載置台としての造形テーブル3が設けられており、造形テーブル3上に三次元造形物Mが造形される。
造形には、熱可塑性樹脂をマトリックスとした樹脂組成物からなる長尺のフィラメントFが用いられる。フィラメントFは、細長いワイヤー形状の固体材料であり、巻き回された状態で三次元造形装置1における筐体2の外部のリール4にセットされている。リール4は、フィラメントFの駆動手段であるエクストルーダ11の回転に引っ張られることで、大きく抵抗力を働かせることなく自転する。
筐体2の内部の造形テーブル3の上方には、造形材料吐出部材としての吐出モジュール10(造形ヘッド)が設けられている。吐出モジュール10は、エクストルーダ11、冷却ブロック12、フィラメントガイド14、加熱ブロック15、吐出ノズル18、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、およびその他の部品によってモジュール化されている。フィラメントFは、エクストルーダ11によって引き込まれることで、三次元造形装置1の吐出モジュール10へ供給される。
撮像モジュール101は、吐出モジュール10に引き込まれるフィラメントFの360°像、すなわち、フィラメントFにおけるある部分の全方位の画像を撮像する。図2の吐出モジュールには2つの撮像モジュールが設けられているが、例えば、反射板を用いるなどして、1つの撮像モジュール101により、フィラメントFの360°像を撮像してもよい。なお、撮像モジュール101としては、レンズなどの結像光学系と、CCD(Charge Coupled Device)センサやCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)センサなどの撮像素子と、を備えたカメラが例示される。
ねじり回転機構102は、ローラにより構築されており、吐出モジュール10に引き込まれるフィラメントFを、幅方向に回転させることでフィラメントFの方向を規制する。径測定部103は、撮像モジュール101により撮像されたフィラメントの画像から、X軸、Y軸の2方向におけるフィラメントのエッジ間の幅を、それぞれ径として測定し、規格外の径を検出した際、エラー情報を出力する。エラー情報の出力先は、ディスプレイであってもよいし、スピーカであってもよいし、他の装置であってもよい。径測定部103は、回路であってもよいし、CPUの処理によって実現される機能であってもよい。
加熱ブロック15は、ヒータなどの熱源16と、ヒータの温度を制御するための熱電対17と、を有し、移送路を介して、吐出モジュール10に供給されたフィラメントFを加熱溶融させて、吐出ノズル18へ供給する。
冷却ブロック12は、加熱ブロック15の上部に設けられる。冷却ブロック12は、冷却源13を有し、フィラメントを冷却する。これにより、冷却ブロック12は、溶融したフィラメントFMの吐出モジュール10内の上部への逆流、フィラメントを押し出す抵抗の増大、あるいは、フィラメントの固化による移送路内での詰まりを防ぐ。加熱ブロック15と冷却ブロック12との間には、フィラメントガイド14が設けられている。
図1及び図2に示すように、吐出モジュール10の下端部に、造形材料であるフィラメントFを吐出する吐出ノズル18が設けられている。吐出ノズル18は、加熱ブロック15から供給された溶融状態あるいは半溶融のフィラメントFMを造形テーブル3上に線状に押し出すようにして吐出する。吐出されたフィラメントFMは、冷却固化されて所定の形状の層が形成される。さらに、吐出ノズル18は、形成した層に、溶融状態あるいは半溶融状態のフィラメントFMを、線状に押し出すようにして吐出する操作を繰り返すことで、新たな層を積み上げて積層させる。これにより、三次元造形物が得られる。
本実施形態では、吐出モジュール10に2つの吐出ノズルが設けられている。第一の吐出ノズルは、三次元造形物を構成するモデル材のフィラメントを溶融して吐出し、第二の吐出ノズルは、サポート材のフィラメントを溶融して吐出する。なお、図1において、第一の吐出ノズルの奥側に第二の吐出ノズルが配置されている。なお、吐出ノズルの数は2個に限らず任意である。
第二の吐出ノズルから吐出されるサポート材は、通常、三次元造形物を構成するモデル材とは異なる材料である。サポート材により形成されるサポート部は、最終的にはモデル材により形成されるモデル部から除去される。サポート材のフィラメントおよびモデル材のフィラメントは、それぞれ、加熱ブロック15にて溶融され、それぞれの吐出ノズル18から押し出されるように吐出されて、層状に順次積層される。
また、三次元造形装置1には、吐出モジュール10により形成中の層の下層を加熱する加熱モジュール20が設けられている。加熱モジュールには、レーザを照射するレーザ光源21が設けられている。レーザ光源21は、下層におけるフィラメントFMが吐出される直前の位置にレーザを照射する。レーザ光源としては、特に限定されないが、半導体レーザが例示され、レーザの照射波長としては、445nmが例示される。
吐出モジュール10および加熱モジュール20は、装置左右方向(図1中の左右方向=X軸方向)に延びるX軸駆動軸31(X軸方向)に対し、連結部材を介して、スライド移動可能に保持されている。吐出モジュール10は、X軸駆動モータ32の駆動力により、装置左右方向(X軸方向)へ移動することができる。
X軸駆動モータ32は、装置前後方向(図1中の奥行方向=Y軸方向)に延びるY軸駆動軸(Y軸方向)に沿ってスライド移動可能に保持されている。X軸駆動軸31がX軸駆動モータ32ごとY軸駆動モータ33の駆動力によってY軸方向に沿って移動することにより、吐出モジュール10および加熱モジュール20はY軸方向に移動する。
一方、造形テーブル3は、Z軸駆動軸34、及び、ガイド軸35に通され、装置上下方向(図1中の上下方向=Z軸方向)に延びるZ軸駆動軸34に沿って移動可能に保持されている。造形テーブル3は、Z軸駆動モータ36の駆動力により、装置上下方向(Z軸方向)へ移動する。造形テーブル3には、積載された造形物を加熱するための加熱部が設けられていてもよい。
フィラメントの溶融吐出を経時で続けると、吐出ノズル18周辺部が溶融した樹脂で汚れることがある。これに対して、三次元造形装置1に設けられたクリーニングブラシ37により、吐出ノズル18周辺部に対し定期的にクリーニング動作を行うことで、吐出ノズル18の先端に樹脂が固着することを防ぐことができる。好ましくは、クリーニング動作は、固着防止の観点から、樹脂の温度が下がりきらないうちに実行されることが好ましい。この場合、クリーニングブラシ37は、耐熱性部材からなることが好ましい。クリーニング動作時に生じる研磨粉については、三次元造形装置1に設けられたダストボックス38に集積させて、定期的に捨ててもよいし、あるいは吸引路を設けて、外部へ排出させてもよい。
図3は、一実施形態に係る三次元造形装置のハードウェア構成図である。三次元造形装置1は、制御部100を有する。制御部100は、CPU(Central Processing Unit)あるいは回路などによって構築されており、図3に示すように各部と電気的に接続されている。
三次元造形装置1には、吐出モジュール10のX軸方向位置を検知するX軸座標検知機構が設けられている。X軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてX軸駆動モータ32の駆動を制御して、吐出モジュール10を目標のX軸方向位置へ移動させる。
三次元造形装置1には、吐出モジュール10のY軸方向位置を検知するY軸座標検知機構が設けられている。Y軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてY軸駆動モータ33の駆動を制御して、吐出モジュール10を目標のY軸方向位置へ移動させる。
三次元造形装置1には、造形テーブル3のZ軸方向位置を検知するZ軸座標検知機構が設けられている。Z軸座標検知機構の検知結果は、制御部100に送られる。制御部100は、その検知結果に基づいてZ軸駆動モータ36の駆動を制御して、造形テーブル3を目標のZ軸方向位置へ移動させる。
このように、制御部100は、吐出モジュール10および造形テーブル3の移動を制御することにより、吐出モジュール10および造形テーブル3の相対的な三次元位置を、目標の三次元位置に移動させる。
さらに、制御部100は、エクストルーダ11、冷却ブロック12、吐出ノズル18、レーザ光源21、クリーニングブラシ37、回転ステージRS、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、径測定部103、および温度センサ104の各駆動部に制御信号を送信することで、これらの駆動を制御する。なお、回転ステージRS、側面冷却部39、撮像モジュール101、ねじり回転機構102、径測定部103、および温度センサ104については後述で説明する。
<<加熱方法>>
図4は、下層を加熱する動作の一例を示す模式図である。以下、一実施形態として、レーザを用いて加熱する方法について説明する。
吐出モジュール10による上層の造形中、レーザ光源21は、下層における、フィラメントFMが吐出される直前の位置にレーザを照射して再加熱する。再加熱とは、溶融したフィラメントFMが冷却されて固化した後、再度加熱することを表す。再加熱の温度は、特に限定されないが、下層のフィラメントFMが溶融する温度以上であることが好ましい。
加熱前の下層温度は、温度センサ104により、センシングされる。温度センサ104の位置は、加熱前の下層面をセンシング可能な任意の位置に配置される。本実施形態では、図4において、レーザ光源21の奥側に温度センサ104が配置されている。加熱前の下層温度を温度センサ104によりセンシングして、センシングの結果に基づいてレーザの出力を調整することで、下層を所定の温度以上に再加熱することができる。別の方法として、再加熱中の下層温度を温度センサ104によりセンシングして、センシングの結果が任意温度以上になるまで、レーザから下層へのエネルギーの入力を行ってもよい。その際は、温度センサ104の位置は、加熱面をセンシング可能な任意の位置に配置する。温度センサ104としては、公知の任意の装置が用いられ、接触式であってもよいし、非接触式であってもよい。
下層の表面を再加熱することにより、下層と、下層の表面に吐出されたフィラメントFMとの温度差が小さくなり、下層と吐出されたフィラメントが混ざり合うことで、積層方向の接着性が向上する。
図5は、一実施形態における加熱モジュールを造形テーブル3側から見た平面図である。図5において、加熱モジュール20は、回転ステージRSに取り付けられている。回転ステージRSは、吐出ノズル18を中心に回転する。レーザ光源21は、回転ステージRSの回転に伴い回転移動する。これにより、レーザ光源21は、吐出ノズル18の移動方向が変わっても、吐出ノズル18による吐出位置に先回りしてレーザ光を照射することができる。
図6は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。以下、吐出モジュール10により造形中の層を上層Ln、造形中の層の一つ下の層を下層Ln-1、下層Ln-1の一つ下の層を下層Ln-2と表す。図6中の矢印は、吐出モジュールの移動経路(ツールパス)を示す。図6以降では、吐出モジュールのツールパスが分かるように、吐出されたフィラメントを楕円柱で表している。このため、フィラメントとフィラメントとの間に空隙が形成されているが、実際は、強度の点で空隙が形成されないように造形することが好ましい。
図6の(A)は、下層を再加熱せずに上層を形成するときの造形物を示す模式図である。下層Ln-1を再加熱せずに上層Lnを形成すると、下層Ln-1が固化した状態で上層Lnを形成できるため、外形面OSの変形は、生じない。ただし、この場合、上層Lnと下層Ln-1との間で十分な接着強度が得られない。
図6の(B)は、下層を再加熱しながら上層を形成するときの造形物を示す模式図である。下層Ln-1を再加熱しながら上層Lnを形成すると、下層Ln-1が溶融した状態で、上層Lnを形成できるため外形面OSが変形する。
図6の(C)は、下層を再加熱しながら上層を形成するときの造形物を示す模式図である。図6の(C)の例では、モデル部Mの下層Ln-1を再加熱しながら上層Lnを形成しても、サポート部Sによりモデル部Mは支えらえるため、モデル部Mの外形面OSは変形しない。
本実施形態では、下層Ln-1を部分的に再溶融させた状態で上層Ln層を形成する。これにより、上層Lnと、下層Ln-1との間の高分子の絡み合いが促進され、造形物の強度が向上する。また、再溶融の条件を適切に設定することで、形状精度とモデル部の積層方向強度の両立を図ることができる。以下、本実施形態における、再溶融領域の設定例と、その効果について説明する。
なお、モデル材とサポート材とは、同じ材料であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、モデル部Mとサポート部Sとを同じ材料で形成した場合でも、これらの界面の強度をコントロールすることで、造形後に分離することができる。
図7は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。図7の(A)の造形方法では、三次元造形装置1は、下層Ln-1におけるモデル部Mの表面および、サポート部Sにおける外周部を除く表面を再加熱し、再溶融部RMを形成して、上層Lnを形成する。この方法によると、モデル部Mにおける外形面OS側の領域を再溶融させて造形するので、層間の接着性が向上し、積層方向の強度が向上する。また、外形面OS側を溶融させることで、サポート部Sとモデル部Mとの造形中の剥がれが生じにくくなり、造形精度が向上する。ただし、サポート部Sとモデル部Mとの接着性が高くなりすぎると、造形後のサポート部Sの離形性が低下する。さらに、加熱温度によっては、モデル部Mの中にサポート部Sが混ざり合うことで、モデル部Mの強度が減少することもある。材料の混ざり合いは、積層面に対し非接触により加熱する方法を用いたり、接触して加熱する場合には、接触部材の動きを工夫したり、接触部材をクリーニングしたりすることで、防止することができる。また、サポート部Sの離形性については、サポート材として、モデル材と異なる材料であり、モデル材よりも融点が低い材料を用いることで、改良される。
図7(B)の造形方法では、三次元造形装置1は、モデル材およびサポート材を用いてサポート部Sを形成する。この場合、三次元造形装置1は、サポート部Sにおけるモデル部M側の領域Ssにサポート材を配置し、外周側の領域Smにモデル材を配置する。この場合、三次元造形装置1は、モデル部Mおよびサポート部Sにおける領域Smをモデル材により形成し、続いて、モデル材の隙間にサポート材を流し込むことで造形してもよい。続いて、三次元造形装置1は、下層Ln-1におけるモデル部Mの表面、ならびにサポート部Sの外周部を除く表面を再加熱しながら上層Lnを形成する。
図7(B)の造形方法は、サポート部Sの離形性に優れる場合に適している。また、図7(B)の造形方法は、領域Ssの形状精度や構造体としての強度が低い場合でも、領域Smが、領域Ssを支えることで、領域Ssの形状精度や強度を補える点で好ましい。
図7の(C)の造形方法では、三次元造形装置1は、モデル部Mにおける外形面OS近傍を除く表面を再加熱しながら上層Lnを形成する。この方法によると、再溶融時に、モデル部Mの熱はサポート部Sに伝わりにくいので、サポート部Sの形状が安定する。図7の(C)の造形方法は、モデル部Mの形状を維持しやすく、モデル部Mとサポート部Sとの離形性を確保しやすい点で有効であるが、モデル部Mの表面の全体を再溶融する造形方法と比較すると、積層方向の強度は弱くなる。従って、図7の(C)の造形方法は、内部構造が強固な造形物を造形する場合や、造形精度や離形性に重点を置く場合に有効である。
図8は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。図8の(A)の造形方法は、モデル部Mの表面における再溶融しない領域を外形面OSからより離れた位置まで広げて、再溶融部RMをより小さくした点で図7の(C)の造形方法と異なる。図8の(A)の造形方法によると、図7の(C)の造形方法と比較して、サポート部Sの形状が安定するので、モデル部Mの形状を維持できる点でより有効である一方で、モデル部Mにおける積層方向の強度はより小さくなる。
図8の(B)の造形方法は、モデル部Mにおける外形面OS近傍まで下層Ln-1の表面を再加熱する点で、図7の(C)の造形方法と異なる。図8の(B)の造形方法は、モデル材よりもサポート材の融点が高い場合に有効である。図8の(B)の造形方法によると、図7の(C)の造形方法と比較して、モデル部Mにおける積層方向の強度が大きくなる。
図8の(C)の造形方法では、三次元造形装置1は、先に上層Lnのサポート材を吐出してサポート部Sを形成してから、下層Ln-1のモデル部Mを再溶融させて、上層Lnのモデル部Mを形成する。サポート部Sは、造形後に最終的には除去されるため、造形中に剥がれない程度の強度を有していればよく、モデル材ほどの強度は要求されない。このため、サポート材としては、モデル材もより高精度に積層可能な材料を選択することが好ましい。下層Ln-1が固化している状態で上層Lnのサポート部Sを形成することで、サポート部Sの造形精度は向上する。図8の(C)の造形方法によると、サポート部Sとモデル部Mとを独立して形成する。このため、三次元造形装置1は、サポート部Sの積層ピッチをモデル部Mの積層ピッチよりも細かくすることもできる。例えば、図8の(C)の構成では、サポート部の積層ピッチは、モデル部Mの積層ピッチの1/2となっている。溶融したモデル材はサポート部Sの形状にならうため、サポート部Sの積層ピッチを細かくすることで、モデル部Mの外形面OSがより滑らかになる。モデル部Mに比べサポート部Sの方が精度よく造形できる場合には、図8の(C)の方法は好適である。
図9は、上層形成時の造形物の状態を示す模式図である。図9の(A)の造形方法は、先に上層Lnにおけるサポート部Sを形成してから、上層Lnにおけるモデル部Mを形成する点で、図8の(B)と異なる。モデル材よりもサポート材の融点が高い場合、モデル部Mにおける外形面OSの近傍まで加熱しても、サポート部Sは溶融しない。図9の(A)の造形方法によると、離形性に優れ、積層方向の強度が高い造形物が得られ、造形精度が向上する。
図9の(B)の造形方法は、先に上層Lnにおけるサポート部Sを形成してから、上層Lnにおけるモデル部Mを形成する点で、図7の(B)の方法と異なる。図9の(B)の方法によると、領域Ssの形状精度や構造体としての強度が低い場合でも、領域Smが、領域Ssを支えることで、領域Ssの形状精度や構造体としての強度を補える。ただし、図9の(B)の造形方法によると、再溶融時に領域Ssが溶融すると、サポート部Sの離形性が低下することもある。
図9の(C)の造形方法は、先に上層Lnにおけるモデル部Mの外周側を形成してから、上層におけるモデル部Mの残りの部分を造形する点で図8の(A)と異なる。図9の(C)の造形方法によると、モデル部Mのみで造形するので、形状が安定し、造形精度が向上する。また、上層Lnにおけるモデル部Mの側面の一部を再溶融させながら造形するためモデル部Mの強度も向上する。
図10は、本実施形態における再加熱範囲の一例を示す模式図である。三次元造形装置1は、外形形状維持を目的として、三次元造形物Mにおける外周部を再加熱せず、再溶融部RMを意図的に狭めることで、造形物の形状を維持しつつ、積層間の密着性を向上させる。なお、図10では、フィラメントの形状を示しておらず、造形物形状のみを示している。図10に示すように再溶融部RMを意図的に狭めることにより、内側で積層間の密着性を向上させることができる一方で、三次元造形物Mの外形を乱すことがないので、造形品質の維持を図ることができる。
一方、図10に示すように再溶融部RMを意図的に狭めると、三次元造形物Mの形状を維持することができる一方で、外周部が再溶融されないため、外周部における積層間の密着性の向上が充分に図れない可能性がある。
図11は、本実施形態における再加熱範囲の他の例を示す模式図である。なお、図11でも、図10と同様に、フィラメントの形状を示さず、造形物形状のみを示している点に留意されたい。三次元造形装置1は、三次元造形物Mの形状の外周部の強度の向上を目的として、三次元造形物Mにおける外周部を含めて再加熱し、再溶融部RMを可能な限り広げることができる。これにより、外周部を含めた積層間の密着性を向上させることができる。この場合には、外周部の再溶融により造形乱れが生じる可能性がある。しかしながら、外周部の強度が向上しているため、形状乱れが生じても二次加工で対応することが可能である。
上述したように、適切な再加熱範囲を設定して再溶融を行うことで、造形物の積層強度の向上および造形品質の向上を図ることができる。
<<再加熱の温度条件>>
図12は、再加熱の好ましい温度条件を説明する模式図である。図12に示すように、フィラメントの造形材料は、その材料固有の特性として、溶融温度を有し、さらに、それよりも高いところに炭化温度を有することが一般的である。
再加熱に際して好ましい温度条件は、図12において太線の矢印で示される通りである。通常、吐出ノズル18から吐出される温度は、溶融温度と炭化温度との間に設定される。そして、再加熱により下層の造形材料を溶融することができれば、下層の材料と、吐出された材料が混合し、接着性を向上させることができる。一方、上述したように、材料には炭化温度があるため、加熱による造形材料の温度が、溶融温度以上、かつ、造形材料固有の炭化温度以下となるように、加熱が制御されることが好ましい。
なお、再加熱による温度は、図12に太線の矢印で溶融温度より下の領域を含めて示しているように、必ず溶融温度以上にする必要があるというわけではない。吐出される造形材料の温度は、通常溶融温度より高く設定されているため、再加熱された下層の温度が溶融材料温度よりも低い場合であっても、溶融したフィラメントFMに接することで、下層の温度が充分に再溶融できる程度に上昇する場合がある。すなわち、少なくとも溶融した造形材料に接した下層の領域の温度が、造形材料が溶融する温度以上となるように再加熱が制御されればよい。なお、吐出される溶融材料の温度は、炭化する温度よりも低く設定されているので、加熱された下層に吐出された場合でも、下層を炭化する温度以上に上昇する懸念はない。
なお、フィラメントの材料が、結晶性プラスチックのように、明瞭な融点が観測できる材料である場合は、上述した溶融温度は、融点と一致する。しかしながら、非晶性プラスチックのように、明瞭な融点が観測されない材料もあり、このような材料である場合は、吐出されたフィラメントと混ざり合うことができる所定の流動性が得られる温度であればよく、上述した「溶融温度」には、使用する造形材料によっては、このような温度が含まれる。また、樹脂は、熱分解により黒色に変化するが、分解開始温度前でも酸化により変色する場合もあるので、上述した「炭化温度」は、品質上許容できない変色や物性の変化を生じ得る温度として定義することができる。
このように、レーザ装置などの加熱手段による再加熱の際には、充分に積層強度の向上が図れるように、造形材料、造形(形状)データおよび移動速度に応じて、所定の温度範囲となるように適切な熱量で造形材料を加熱することが好ましい。
しかしながら、加熱手段により所定の熱量で加熱を行っても、造形材料層が所望の温度に達しない場合がある。そのような場合は、造形材料層が充分に溶融せず、期待される積層強度の向上が得られない可能性がある。このような所望の温度に達しない要因としては、造形環境(温度、湿度)、造形材料の管理状況、造形装置のバラツキなどを挙げることができる。これらの要因に左右されず充分に溶融することができるように加熱量を増大させることも検討されるが、上述したように、加熱量をあまり上げ過ぎると、造形材料が炭化しやすくなるので、不用意に加熱量を大きくすることはできない。
以下に説明する実施形態による三次元造形装置1は、積層強度の向上を図った造形が安定して行えるよう、造形材料層の温度情報を出力するものである。
<<機能ブロック>>
以下、図13を参照しながら、再加熱にかかる造形材料層の温度情報を出力することにより、造形物の積層強度を向上を図った造形を安定して行うための三次元造形装置1の構成についてより詳細に説明する。
図13は、制御部100の機能ブロックを周辺のコンポーネントとともに説明する図である。なお、図13には、制御部100の周辺コンポーネントとして、吐出ノズル18を含む吐出モジュール10と、回転ステージRSおよびレーザ光源21を含む加熱モジュール20と、X軸駆動モータ32と、Y軸駆動モータ33と、表示装置106と、通信装置108とが示されている。さらに、図13には、三次元造形装置1の外部の装置として、通信装置108にLAN(ローカル・エリア・ネットワーク)などのネットワークなどを介して接続される情報端末200が示されている。
本実施形態による制御部100は、加熱モジュール20による再加熱を制御する加熱制御部110と、吐出モジュール10による造形動作を制御する造形制御部120と、加熱制御部110および造形制御部120に造形パラメータを設定する処理部130と、加熱モジュール20による加熱に際し、造形材料層の温度に関する情報を出力する温度情報出力部160とを含み構成される。
造形制御部120は、入力された立体モデルのデータに基づいて、三次元造形物の造形動作を制御する。ここで、立体モデルのデータは、立体モデルを所定間隔でスライスしたときの層毎の画像データを含み構成されるものであり、この層毎の画像データを造形データDと参照する。造形制御部120は、吐出モジュール10をXY平面内で移動させつつ、造形データDに基づいて、目標の位置で吐出ノズル18から溶融状態のフィラメントFMを吐出させる。
ツールパスに沿ってフィラメントFMが吐出されることにより、一層分の造形が行われる。そして、Z軸方向に移動させて複数層分の造形動作が繰り返されることによって、入力された立体モデルのデータに応じた三次元造形物の全体が造形されることになる。なお、ここでは、一層分の造形に焦点を当てて、以下説明を続ける。
造形制御部120に対し設定される造形パラメータとしては、例えば、ヘッドのXY平面内での移動速度および造形材料の吐出量を挙げることができる。移動速度や吐出量などの造形パラメータは、処理部130により設定される。造形制御部120は、造形パラメータの設定値に基づいて、駆動モータ32,33を駆動して、吐出モジュール10を搭載するヘッドのXY平面内での相対的位置を目標の位置に移動しつつ、吐出ノズル18からの造形材料の吐出を制御する。
加熱制御部110は、造形データDに基づいて、造形パラメータとして設定される加熱量の設定値に応じて、造形中の上層Lnの下にある下層Ln-1の加熱モジュール20による再加熱を制御する。加熱量などの造形パラメータは、処理部130により設定される。加熱モジュール20のレーザ光源21から所定出力値でレーザ光を照射させることによって、所定の温度範囲内で下層の再加熱が行われる。
なお、吐出モジュール10は、ヘッドに搭載されてXY平面内を移動し、加熱モジュール20も、典型的には、吐出モジュール10を有するヘッドに搭載される。そして、図5を参照しながら説明したように、レーザ光源21は、回転ステージRSにより、吐出モジュール10の吐出ノズル18による吐出位置に先回りして、下層におけるフィラメントFMが吐出される直前の所定位置にレーザ光を照射し、加熱するよう構成されている。
また、再加熱に際しては、図10または図11に示すような適切な再加熱範囲が設定され、各座標検知機構からの検知結果に基づいて、再加熱範囲として設定された領域でのみレーザ光源21からのレーザ光の照射が行われよう構成される。再加熱範囲は、造形が完了した最も上の層(下層Ln-1)の造形データ、および、造形が完了していない層のうちの最も下の層(上層Ln)の造形データに基づいて、外周部を含めず、あるいは、外周部を含めて、下層Ln-1においてその上に上層Lnが形成される領域が決定される。
造形パラメータとしての加熱量の設定値に応じた加熱制御は、図14に例示される方法で行われる。図14は、レーザ装置を加熱手段として用いる場合に、レーザ光源21の出力(加熱量)を調整するための方法を説明する模式図である。レーザ装置を用いて光エネルギーによって造形材料層を加熱する特定の実施形態においては、加熱制御部110は、レーザ光源21の単位時間当たりの駆動時間およびレーザ光源21の駆動電流のいずれか一方または両方を変化させることにより、レーザ光源21による加熱量を制御することができる。
単位時間当たりの駆動時間を制御する駆動時間制御では、チャート300に模式的に示すように、レーザの発光タイミングTONや消灯タイミングTOFFを制御することで、単位時間あたりにレーザ光が下層を照射する正味の時間の比率(TON/T;T=TON+TOFF)が調整される。単位時間あたりの照射時間の比率(デューティ比)を増加させると加熱量が増加する。このような駆動時間制御は、一般的には、PWM(Pulse Width Modulation)と呼ばれる。駆動時間制御では、レーザを駆動する駆動電流が同一であっても、単位時間あたりの照射時間を変更することで加熱量をコントロールすることができる。
レーザ光源21の駆動電流を制御する駆動電流制御では、チャート302で模式的に示すように、レーザを駆動する駆動電流を調整することでレーザ光の光量が調整される。駆動電流を増大させると加熱量が増加する。なお、駆動電流制御では、デューティ比が同一であっても、駆動電流を制御することで加熱量をコントロールすることができるが、駆動電流制御と駆動時間制御とを組み合わせて使用してもよい。
なお、レーザ装置を加熱手段とする場合に、移動速度が同一であれば、レーザの出力(駆動時間または駆動電流)が大きく加熱量が大きいほど材料の温度が上昇しやすい。一方、加熱量が同一であっても、加熱が継続されると、時間の経過とともに材料の温度が上昇する。つまり、ヘッドの移動速度によって、加熱される部位にレーザ照射される正味の時間が異なるため、移動速度に応じて温度の上昇の仕方が変化することになる。
ここで、再び図13を参照すると、本実施形態による制御部100は、さらに、温度取得部140を含み構成される。さらに、図13には、制御部100の周辺コンポーネントとして、温度センサ104が示されている。
温度センサ104は、下層Ln-1において再加熱される部位の造形材料の温度を検出する温度検知手段である。説明する実施形態では、温度センサ104は、再加熱中または再加熱直後(その上にフィラメントFMが吐出される前)の下層Ln-1の表面温度を計測する。温度センサ104は、典型的には、加熱モジュール20を有したヘッドに搭載され、ヘッドの移動に追従し、加熱モジュール20により加熱された下層Ln-1の表面温度を検出する。他の実施形態では、装置本体に固定され、加熱モジュール20を搭載するヘッドの動きに追従して温度センサ104が可動制御されるものとしてもよい。温度取得部140は、加熱モジュール20により加熱された下層の温度センサ104による温度の測定結果を取得し、取得した下層の温度の測定結果を温度情報出力部160に渡す。
温度情報出力部160は、渡された下層の温度の測定結果を、三次元造形装置1が備える表示装置106、通信装置108を介して接続される他の情報端末200、または三次元造形装置1が備える制御部100の処理部130に出力する。より好ましくは、温度情報出力部160は、温度情報として、下層温度に加えて、あるいは、下層温度に代えて、積層強度を示す指標値を出力することができる。積層強度を示す指標値の計算方法については、詳細を後述する。
図13に示す制御部100は、さらに、温度算出部150を含み構成される。上述した温度取得部140は、温度センサ104による実測値として下層の温度を取得するものであった。これに対し、温度算出部150は、加熱モジュール20により加熱されたとした場合の下層の温度を算出し、推定値として下層の温度を取得する。温度算出部150は、環境温度や環境湿度などの造形環境Eおよび、加熱制御部110による加熱量のいずれか一方または両方に基づいて、造形材料の層毎の温度を算出し、温度情報出力部160に算出結果を渡す。また、ヘッドの移動速度に応じて、加熱による温度の上昇の仕方も異なってくるので、温度算出部150は、移動速度に応じて造形材料の層毎の温度を算出してもよい。さらに、造形材料に応じて加熱による温度の上昇の仕方も変わる可能性があるため、温度の算出の際は、造形材料の種類なども考慮される。さらに、環境温度や環境湿度以外にも造形材料の管理状況、造形装置のバラツキが影響するため、温度の算出に際して、造形材料に関する情報や造形装置に関する情報などを考慮してもよい。
温度情報出力部160は、渡された下層の温度の算出結果を、三次元造形装置1が備える表示装置106、通信装置108を介して接続される他の情報端末200または三次元造形装置1が備える制御部100の処理部130に出力する。
好ましい実施形態では、温度算出部150は、三次元造形物の造形を開始する前に、上述した層毎の温度を算出することができる。この場合、温度算出部150は、層毎の温度から造形物全体の温度を算出してもよい。温度情報出力部160は、三次元造形物の造形を開始する前に、渡された層毎の温度の算出結果および造形物全体の温度の算出結果を出力することができる。
なお、説明する実施形態では、図13に示すように、温度センサ104および温度取得部140と、温度算出部150とを両方備えるものとして説明した。しかしながら、温度センサ104および温度取得部140を備える場合は、他の実施形態では、温度算出部150を省略してもよい。また、温度算出部150備える場合は、他の実施形態では、温度センサ104および温度取得部140を省略してもよい。
処理部130は、加熱制御部110および造形制御部120に対し、適切な造形パラメータを設定して、再加熱および造形を行う。再溶融および造形動作中、温度センサ104の測定値に応じて、造形パラメータの変更制御を行うこともできる。例えば、処理部130は、検出される下層温度が所望の温度となるように、加熱モジュール20による加熱量を変更制御することができる。
説明する実施形態による三次元造形装置1は、下層表面を加熱により再溶融させる際に、下層表面の温度を測定ないし算出し、測定ないし算出された温度を出力する。これにより、積層強度の向上が期待できる箇所と期待できない箇所を判別可能とし、積層強度の向上を図った造形を安定的に実現する。
<<処理および動作>>
続いて、一実施形態における三次元造形装置1の処理および動作について説明する。図15は、一実施形態に係る造形処理を示すフロー図である。
三次元造形装置1の制御部100は、立体モデルのデータの入力を受け付ける。立体モデルのデータは、立体モデルを所定間隔でスライスしたときの層ごとの画像データによって構築される。
三次元造形装置1の制御部100は、X軸駆動モータ32またはY軸駆動モータ33を駆動して吐出モジュール10をX軸またはY軸方向に移動させる。吐出モジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、最下層の画像データに基づいて、吐出ノズル18から造形テーブル3へ溶融状態または半溶融状態のフィラメントFMを吐出させる。これにより、三次元造形装置1は、造形テーブル3上に画像データに基づいた形状の層を形成する(ステップS11)。
吐出モジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、造形が完了していない層のうち最も下の層の画像データに基づいて、レーザ光源21からレーザを照射させる。これにより、下層におけるレーザ照射位置が再溶融する(ステップS12)。なお、制御部100は、図7の(C)、図8の(A)、(C)、図9の(C)の造形方法のように、画像データの示す範囲の内部にレーザを照射させてもよい。あるいは、制御部100は、例えば、図7の(A)、(B)、図9の(B)の造形方法のように、画像データの示す範囲を超えて、レーザを照射させてもよい。ステップS12における下層の加熱温度は、フィラメントの溶融温度以上に制御される。
吐出モジュール10が移動している間に、制御部100は、入力された立体モデルのデータのうち、造形が完了していない層のうち最も下の層の画像データに基づいて、吐出ノズル18から造形テーブル3上の下層へフィラメントFMを吐出させる。これにより、下層の上に、画像データに対応する形状を有する層が形成される(ステップS13)。このとき、下層は再溶融しているので、造形する層と下層の層間の界面の接着性が向上する。
なお、ステップS12における下層を再溶融させる処理と、ステップS13における層の形成処理と、をオーバーラップさせてもよい。この場合、三次元造形装置1は、下層にレーザを照射する処理を開始してから、照射範囲全体へのレーザの照射が完了する前に、フィラメントFMの吐出を開始する。
三次元造形装置1の制御部100は、ステップS13で形成された層が最表層であるか判断する(ステップS14)。最表層とは、立体モデルのデータのうち、積層方向(Z軸)の座標が最も大きい画像データに基づいて形成される層である。ステップS14でNOと判断された場合、三次元造形装置1の制御部100は、最表層が形成されるまで、再溶融の処理(ステップS12)と、層形成の処理(ステップS13)と、を繰り返す。
最表層の形成が完了すると(ステップS14のYES)、三次元造形装置1は、造形処理を終了する。
<<測定による温度情報出力処理>>
以下、図16および図17を参照しながら、下層の温度を計測しながら温度情報を出力する温度情報出力処理について、より詳細に説明する。
図16は、一実施形態に係る温度情報出力処理を示すフロー図である。なお、図16に示す処理は、例えば、図15に示したステップS12における下層を再溶融させる処理とともに開始される。
ステップS12での下層再溶融処理においては、典型的には、吐出モジュール10および加熱モジュール20を有するヘッドがツールパスの始点へ移動させられて、ヘッドのツールパスに沿った走査、加熱モジュール20による再加熱および吐出モジュール10によるフィラメントの吐出動作が開始される。ステップS21~ステップS23のループでは、この再加熱および吐出動作中、温度取得部140により、温度センサ104による下層温度の測定値が逐次取得され、一層分の温度測定データの記録が行われる。
ステップS21では、温度取得部140は、温度センサ104から、加熱モジュール20により加熱する領域の下層Ln-1の温度の測定値を取得する。ステップS22では、温度取得部140は、現在加熱部位の相対位置座標に関連付けて、温度センサ104による下層温度の測定値を記録する。XY平面内の座標に関連付けられた温度の測定値により、1層分の温度分布を示す温度測定データが構成される。
ステップS23では、温度取得部140は、一層分の再加熱が終了したか否かを判定する。ステップS23で、まだ走査中であり一層分の再加熱が終了していないと判定された場合(NO)は、ステップS21へ処理をループさせる。一方、ステップS23で、ツールパスの終点に到達し、一層分の再加熱が終了したと判定された場合(NO)は、ステップS24へ処理が進められる。
ステップS24では、温度情報出力部160は、記録された1層分の温度測定データに基づいて、造形された上層Ln(より正確には上層Lnおよび下層Ln-1の接合面)における各位置での積層強度を示す指標値を計算する。XY平面内の座標に関連付けられた積層強度の指標値により、一層分の積層強度分布を表す積層強度データが構成される。ステップS25では、温度情報出力部160は、温度測定データおよび積層強度データを出力し、本処理を終了させる。
図16に示す温度情報出力処理を複数の層分だけ繰り返すことにより、三次元造形物を構成する層毎の温度測定データおよび積層強度データが出力される。
図17は、一実施形態に係る温度測定結果を示す画面306を説明する図である。図17に示す温度測定結果表示画面306は、例えば、三次元造形装置1が備える表示装置106、当該三次元造形装置1のホストとなる情報端末200が備える表示装置上に表示される。
図17に示す温度測定結果表示画面306は、三次元造形物の立体形状を表す三次元構造表示領域310と、選択された層の積層強度分布を表す積層強度表示領域320と、選択された層の温度分布を表す温度表示領域330とを含む。
三次元構造表示領域310は、三次元造形物の立体形状312を表示するとともに、この立体形状312において、注目する層を指定するためのグラフィカル・ユーザ・インタフェース(GUI)を提供する。オペレータは、三次元構造表示領域310において、マウスなどの操作によって、立体形状312に対しスライス面314を設定することによって、注目する層を指定することができる。積層強度表示領域320および温度表示領域330には、このスライス面314に対応した層の積層強度分布322および温度分布332が示される。積層強度分布322および温度分布332には、それぞれ、積層強度を示すスケール324および温度スケール334が示されている。
図17の温度表示領域330に示すように、スライス面で示された層の温度分布を表示することで、造形物の積層強度が向上している箇所および向上していない箇所の判断が可能となる。
以下、積層強度の計算方法について説明する。ここで、積層強度情報は、各温度条件で予め実験で求められた積層強度の実測値に基づいて、検出または算出された再加熱時の下層の温度に対して予測される積層強度の指標値である。積層強度の指標値としては、例えば、積層ではなく溶融した造形材料を固めたものの強度を基準(これを100%とする。)としたときの比率、加熱溶融しない通常造形時の強度からの向上率などとして計算することができる。あるいは、造形材料に応じて特定の閾値温度(例えば造形材料の溶融温度)を設定し、その特定の閾値温度を基準して、それを上回った場合は、「強度あり」とし、下回った場合は「強度なし」とするように、指標値を求めてもよい。なお、図17に示す例は、造形材料に特定の閾値温度を設定した場合のものに対応する。
図17の積層強度表示領域320に示すように、スライス面で示された層の積層強度分布を表示することで、造形物の積層強度が向上している箇所および向上していない箇所(326)の判断が可能となる。特に、オペレータが、造形材料の温度から積層強度を見積もることが困難な場合でも、造形物の強度品質の見極め、造形動作の継続あるいは停止の判断を容易とすることができる。
説明した測定による温度情報出力処理によれば、造形材料層の温度情報を出力することで、積層強度が向上するか否かの判断による、造形動作の処理あるいは対応が可能となる。処理あるいは対応が可能となることで、積層強度の向上した造形物を安定して得ることができるようになる。例えば、複数部の三次元造形物を造形する際に、オペレータは、先行して造形した造形物の温度測定データや積層強度データに基づいて、後続する造形動作の継続の際の造形条件を変更したり、後続する造形動作の継続のそのものを中止したりすることができる。
<<算出による温度情報出力処理>>
上述した図16に示す温度情報出力処理は、温度センサ104により実測した下層温度を出力するものであった。以下、図18を参照しながら、下層の温度を算出しながら温度情報を出力する温度情報出力処理について、より詳細に説明する。
図18は、他の実施形態に係る温度情報出力処理を示すフロー図である。なお、図18に示す処理も、例えば、図15に示したステップS12における下層を再溶融させる処理とともに開始される。
ステップS12での下層再溶融処理においては、吐出モジュール10および加熱モジュール20を有するヘッドがツールパスの始点へ移動させられて、ヘッドのツールパスに沿った走査、加熱モジュール20による再加熱および吐出モジュール10によるフィラメントの吐出動作が開始される。ステップS31~ステップS34のループでは、この再加熱および吐出動作中、温度算出部150により下層温度の推定値が算出され、一層分の温度算出データの記録が行われる。
ステップS31では、温度算出部150は、造形環境Eの情報(温度、湿度)および加熱制御部110の加熱量の情報を取得する。ステップS32では、温度算出部150は、取得した造形環境情報および加熱量に基づいて、加熱中の下層の表面温度の推定値を算出する。ここで、どのような環境条件(温度や湿度)で、どの程度の加熱量で所定の造形材料を加熱した場合に、どの程度の温度に上昇するかは、実験やシミュレーションなどによって予め求めておくことができる。ステップS33では、温度算出部150は、現在の加熱部位の相対位置座標に関連付けて、下層温度の推定値を記録する。XY平面内の座標に関連付けられた温度の推定値により、1層分の推定温度分布を示す温度算出データが構成される。
ステップS34では、温度算出部150は、一層分の再加熱が終了したか否かを判定する。ステップS24で、まだ走査中であり一層分の再加熱が終了していないと判定された場合(NO)は、ステップS31へ処理をループさせる。一方、ステップS34で、ツールパスの終点に到達し、一層分の再加熱が終了したと判定された場合(NO)は、ステップS35へ処理が進められる。
ステップS35では、温度情報出力部160は、記録された温度算出データに基づいて、造形された層Lnの各位置で予測される積層強度を示す指標値を計算する。XY平面内の座標に関連付けられた積層強度の指標値により、1層分の積層強度分布を表す積層強度データが構成される。ステップS36では、温度情報出力部160は、温度算出データおよび積層強度データを出力し、本処理を終了させる。
説明した算出による温度情報出力処理によれば、算出された造形材料層の温度情報を出力することで、温度センサ104を備えない場合でも、積層強度が向上するか否かの判断による、造形動作の処理あるいは対応が可能となる。
<<造形前の算出による温度情報出力処理>>
上述した図18に示した温度情報出力処理では、各層の再加熱および造形動作を行いながら、各時点で取得される環境情報および加熱量の情報に基づいて、下層の温度の推定置を算出するものであった。以下、図19を参照しながら、造形開始前に、各層の再加熱を伴った造形の際の下層温度の推定値を算出し、温度情報を出力する温度情報出力処理について、より詳細に説明する。
図19は、さらに他の実施形態に係る温度情報出力処理を示すフロー図である。なお、図19に示す処理は、例えば、図15に示したステップS11の前に行われる。
ステップS41では、温度算出部150は、造形開始前の現時点の造形環境Eの情報(温度、湿度)を取得する。ステップS42では、温度算出部150は、加熱制御部110に設定される加熱量の情報を取得する。
ステップS43では、温度算出部150は、取得した造形環境情報および加熱量に基づいて、各層を形成する際の下層の各部位における加熱時の下層の表面温度の推定値を算出する。各層の各部位の位置に関連付けられた温度の推定値により、各層分の推定される温度分布を示す温度算出データが構成され、これが複数層分計算されることで、構造物の三次元的な温度算出データが構成される。なお、ここでは、造形動作中にわたり造形環境情報がそれほど大きく変化しないものとしている。
ステップS44では、温度情報出力部160は、造形物の各層の各部位での算出された温度の推定置に基づいて、積層強度を算出する。各層の各部位の位置に関連付けられた積層強度の指標値により、各層分の推定される積層強度分布を示す積層強度データが構成され、これが複数層分計算されることで、構造物の三次元的な積層強度データが構成される。
ステップS45では、温度情報出力部160は、三次元的な温度算出データおよび三次元的な積層強度データを出力し、本処理を終了させる。
以降、温度分布や積層強度分布を評価したオペレータにより、造形続行の指示が行われると、図15に示した造形処理が開始される。あるいは、造形停止の指示が行われると、図15に示した造形処理を行わずに処理を終了させる。
説明した算出による温度情報出力処理によれば、算出された造形材料層の温度情報を出力することで、温度センサ104を備えない場合でも、積層強度が向上するか否かの判断による、造形動作の処理あるいは対応が可能となる。また、造形開始前に積層強度の見込みが得られるので、無駄な造形が防止され、造形材料や造形時間などの無駄を発生させることがない。
<<<実施形態の変形例A>>>
続いて、実施形態の変形例Aについて上記の実施形態と異なる点を説明する。図20は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
実施形態の変形例Aにおいて、加熱モジュール20は、温風源21´を有する。温風源21´としては、ヒータおよびファンが例示される。実施形態の変形例Aにおいて、温風源21´は、高温の温風を吹き付けることにより下層を加熱して、再溶融させる。実施形態の変形例Aにおいても、再溶融させた下層にフィラメントFMを吐出して上層を形成することで、下層と上層の材料が混ざり合い、上層と下層の接着性が向上する。
<<<実施形態の変形例B>>>
続いて、実施形態の変形例Bについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。図21は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
実施形態の変形例Bにおいて、三次元造形装置1の加熱モジュール20は、加熱モジュール20´に置き換えられる。加熱モジュール20´は、三次元造形物Mにおける下層を加熱および加圧する加熱プレート28と、加熱プレート28を加熱する加熱ブロック25と、加熱ブロック25からの熱伝導を防ぐための冷却ブロック22と、を備える。加熱ブロック25は、ヒータなどの熱源26と、加熱プレート28の温度を制御するための熱電対27と、を備える。冷却ブロック22は、冷却源23を備える。加熱ブロック25と冷却ブロック22との間には、ガイド24が設けられている。
加熱モジュール20´は、装置左右方向(図1中の左右方向=X軸方向)に延びるX軸駆動軸31(X軸方向)に対し、連結部材を介して、スライド移動可能に保持されている。加熱モジュール20´は、加熱ブロック25によって加熱されて高温になる。その熱がX軸駆動モータ32に伝わるのを低減するため、フィラメントガイド14等を含めた移送路またはガイド24は、低熱伝導性であることが好ましい。
加熱モジュール20´において、加熱プレート28の下端は、吐出ノズル18の下端よりも、1層分低くなるように配置されている。吐出モジュール10および加熱モジュール20を、図21に示す白抜き矢印方向に走査しながら、フィラメントを吐出すると同時に、加熱プレート28は、造形中の層の一つ下の層を再加熱する。これにより、造形中の層と、一つ下の層との温度差が小さくなり、層間で材料が混ざり合うので、造形物の層間強度が向上する。なお、加熱した層を冷却する方法としては、雰囲気温度を設定する方法、所定の時間放置する方法、もしくは、ファンなどを利用する方法などが例示される。
実施形態の変形例Bによると、層間の材料を物理的に混ぜる事で、層間の界面の密着力を向上させることができる。また、実施形態の変形例Bによると、造形物の外形を崩さずに、選択的に下層を加熱し、下層が再溶融している間に次の吐出を行うことで、界面の密着力が向上する。
<<<実施形態の変形例C>>>
続いて、実施形態の変形例Cについて、上記の実施形態の変形例Bと異なる点を説明する。図22は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
実施形態の変形例Cにおいて、加熱モジュール20´における加熱プレート28は、タップノズル28´に置き換えられる。タップノズル28´は、加熱ブロック25によって加熱される。タップノズル28´は、モータ等の動力により、三次元造形物Mを垂直上方から繰り返しタップするタップ動作により、三次元造形物Mにおける下層を加熱し加圧する。これにより、造形中の層と、一つ下の層との温度差が小さくなり、層間で材料が混ざり合うので、造形物の層間の強度が向上する。タップ動作後、吐出ノズル18からは、タップ動作によって凹んだ下層の表面を埋めるようにフィラメントFMを吐出する。下層の凹んだ部分がフィラメントFMによって埋められることで、最表面の形状が平滑に仕上がる。
<<<実施形態の変形例D>>>
続いて、実施形態の変形例Dについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。図23は、一実施形態における下層加熱の動作を示す模式図である。
実施形態の変形例Dにおいて、加熱モジュール20には、三次元造形物Mの側面、すなわちZ軸に対し平行な面を冷却する側面冷却部39が設けられている。側面冷却部39としては、三次元造形物Mの側面を冷却可能な冷却源であれば特に限定されないが、ファンが例示される。
外形を維持する処理を行うことなく、三次元造形物Mにおける外周部を再加熱すると、外形が崩れ、造形精度が劣化する。そこで、実施形態の変形例Dでは、三次元造形物Mの側面に冷却風を当てつつ、三次元造形物Mの外周部を再加熱することで、造形部の形状を維持しつつ、材料を積層することができる。
<<<実施形態の変形例E>>>
続いて、実施形態の変形例Eについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。
下層、あるいは造形空間を加熱しながら造形すると、三次元造形物Mにおける加熱部の粘性が下がることで、外形が崩れて、造形精度が失われることがある。一方、下層、あるいは造形空間を加熱せずに造形すると、三次元造形物Mの粘性は高くなるが、積層方向の強度の維持が困難となる。そこで、実施形態の変形例Eでは、材料構成を偏在させたフィラメントを用いて造形する。
図24は、材料構成を偏在させたフィラメントの一例を示す断面図である。図24の(A)の例では、フィラメントFの両側に高粘性の樹脂Rhが配置され、中心部には低粘性の樹脂Rlが配置されている。
フィラメントFの両側に配置される高粘性の樹脂Rhとしては、特に限定されないが、アルミナ、カーボンブラック、カーボンファイバー、ガラスファイバー等といったフィラーを配合することで高粘性とした樹脂が例示される。フィラーが所望の機能を阻害する場合は、高粘性の樹脂Rhとして、分子量をコントロールした樹脂を用いてもよい。
フィラメントFの中心部に配置される低粘性の樹脂Rlとしては、特に限定されないが低分子量グレードである樹脂が例示される。
図25は、図24のフィラメントの吐出物の断面図である。図26は、図24のフィラメントを用いて造形される造形物の断面図である。図24の(A)のフィラメントを吐出することで、図25の(A)の形状の吐出物が得られ、図26の造形物が得られる。図26の造形物において、外周部には高粘性の樹脂が配置されるため、必然的に造形物が崩れにくくなる。
図24の(B)は、材料構成を偏在させたフィラメントの他の一例を示す。図24の(B)のフィラメントを吐出することで、図25の(B)の形状の吐出物が得られる。このように、図24の(B)のフィラメントを用いても、外周部に粘性の高い樹脂が配置された造形物が得られる。加えて、製造方法の観点でも低粘性樹脂を包み込む本構成の方が、図25の(A)の構成よりもフィラメントを作りやすいといったメリットもある。
ただし、図25の(B)のフィラメントを用いる際は、層の下部も粘性の高い状態となる。粘性の高い樹脂は、粘性の低い樹脂と比較して融点が高い場合が多い。高温で下層を再溶融させたときに、溶融した樹脂が水平方向に移動することを防ぐため、造形物の外周部の加熱を避けることが好ましい。このため、加熱手段としては、小スポットで加熱できるレーザ等が好ましい。
外周部の積層方向密着力を向上させるため、外周部を加熱する場合には、造形物の横から板などを直接当てる形で加熱すると良い。これにより、粘度低下による樹脂の水平方向の移動は規制される。図27は、規制手段を有する三次元造形装置の一例を示す模式図である。
図27の例では、三次元造形装置1には、規制手段の一例としてアシスト機構41が設けられている。FFF方式においては、1層の厚みは0.10~0.30mm程度である。そのため、アシスト機構41における板はシックネスゲージのような薄い板となる。アシスト機構41は、吐出モジュール10、あるいは、吐出モジュール10に対し間接的に固定されたブラケットに固定される。
アシスト機構41における板は、常温よりも高い温度に加熱されていることが好ましい。用いる樹脂にもよるが、結晶性樹脂の場合は、常温の板が当たると急冷されることにより、アモルファス化が進行し、所望の強度が得られなくなることがある。
一般的に粘度は、温度およびせん断速度の関数で表される。熱溶解積層法(FFF)で用いられるエンプラ(Engineering plastic)、あるいは、スーパーエンプラ等は、温度あるいはせん断速度などの変数に対して非線形挙動を示すので、樹脂の融点Tm以上でなくても、FFF方式で必要なせん断抵抗、すなわち、樹脂の粘度が得られることがある。一方で、Tm以上の領域において所望のせん断速度(S.Rate)における粘度が低すぎる場合はノズルからの液垂れ、フィラメント引き込み(リトラクト動作)時における引き込み不足、それに付随する吐出初期のショートショット、造形物の崩れ等といった課題が生じる。
Tm以上の所定の温度の樹脂において、一般的には、S.Rate=0、すなわち、非吐出動作時に、当該温度における最も粘度が高い状態となる。この状態でも液垂れするような場合は、フィラーによる樹脂のコンポジット化が、液垂れを防止するための、有効な手段となり得る。樹脂にフィラー添加して、配合比、あるいは、配合するものの粒度/繊維長分布等をコントロールすることで、溶融時のチキソトロピー性が付与され、非吐出動作時には垂れにくく、吐出動作時には粘性の低い状態となる。
下層温度の上昇に付随して生じやすい造形物の崩れにおいても、フィラメントにフィラーを添加する方法は好適である。フィラーの添加によっても、造形精度を保てない場合は、造形物の側面を規制することが好ましい。
<<<実施形態の変形例F>>>
続いて、実施形態の変形例Fについて、上記の実施形態の変形例Eと異なる点を説明する。
材料構成を偏在させたフィラメントを用いる場合、造形物の外周部に高粘性の樹脂Rhが配置されるように、吐出モジュール10へ導入されるフィラメントの方向を規制することが好ましい。
図28は、フィラメントの方向を規制する処理の一例を示すフロー図である。三次元造形装置1の撮像モジュール101は、吐出モジュール10へ導入されるフィラメントを撮像し、得られた画像データを制御部100へ送信する。
制御部100は、撮像モジュール101によって送信されたフィラメントの画像データを受信する(ステップS21)。制御部100は、受信したフィラメントの画像データを解析して回転量を演算する(ステップS22)。回転量の演算方法としては、特に限定されないが、フィラメントFにおける高粘度の樹脂Rhと低粘度の樹脂Rlとの境界が所定の位置となるように、回転量を決定する方法が例示される。例えば、吐出モジュール10をX軸方向に移動させながらフィラメントを吐出する場合、フィラメントにおける高粘度の樹脂RhをY軸の正負方向に偏在させておくことで、造形物における最外殻に高粘性の樹脂が配置される。このため、制御部100は、樹脂RhがY軸の正負方向に偏在した配置となるように、フィラメントの回転量を決定する。
制御部100は、決定された回転量に基づいて、フィラメントを回転させるための信号をねじり回転機構102へ送信する。ねじり回転機構102は、信号に基づいてフィラメントを回転させる(ステップS23)。これにより、フィラメントが、所望の方向に規制される。
なお、フィラメントの外側に高粘性の樹脂が配置されると、移送路において、フィラメントの壁部側の流速が極端に遅くなり、高粘性の樹脂が滞留することで、所望の配置でフィラメントを吐出できなくことがある。このため、加熱ブロック25よりも搬送経路下流側の領域、すなわち融点以上の温度が付与される領域においては、移送路の内壁は耐熱性の高いフッ素等により加工されていることが好ましい。移送路に離形層が形成されることで、溶融樹脂と移送路の内壁との摩擦抵抗が下がり、高粘性の樹脂の滞留は起こりにくくなる。
また、制御部100は、ねじり回転機構102から吐出ノズル18までの区間の搬送のタイムラグを考慮して、制御の遅れを防ぐためフィードフォワード制御を行うことが好ましい。例えば、制御部100は、吐出モジュール10の進行方向が曲がるタイミングで、フィラメントの方向が切り替わるように、ねじり回転機構102の駆動を制御する。また、吐出モジュール10を曲線に進行させる場合も、制御部100は、タイムラグ考慮して段階的にねじり回転機構102の駆動を制御する。
なお、フィラメントが極端にねじられている状態だと、リール4から吐出モジュール10の導入部までの経路で絡まる恐れがある。この絡まりをほどくのはユーザーにとっては非常に煩雑である。このため、リール4から導入部まではガイドチューブが導入されていることが好ましい。ただし、極端にフィラメントがねじられている場合は、ガイドチューブとフィラメントの摩擦抵抗が高まり、正常にフィラメントが導入されないこともある。また、ガイドチューブの継ぎ手等の内径の狭いオリフィス部において、フィラメントが削られる恐れがある。また、フィラーが配合された強化フィラメント等においては、樹脂特有の柔軟性が失われていることも多い。このようなフィラメントに、ねじり負荷がかけられるとフィラメントが折れて、正常な造形が出来ないことがある。
このため、制御部100は、フィラメントの累積ねじり量を、例えば、基準角度から±180°に規制することが好ましい。
また、例えば図25のように、吐出物において樹脂が所望の状態に配置されるように、フィラメントを回転させる機構に代えて、吐出モジュール10の全体を回転可能な機構を用いてもよい。この場合は、熱源16を制御する熱電対17や、熱源16自体の配線、冷却源13の配線、及び、オーバーヒートプロテクター等の複数の配線系も同時に回転することになるため、フィラメントの回転方向よりも配線の観点では煩雑になる。
<<<実施形態の変形例G>>>
続いて、実施形態の変形例Gについて、上記の実施形態と異なる点を説明する。図29は、一実施形態における造形および表面処理動作を示す模式図である。
実施形態の変形例Gにおいて、三次元造形装置1は、加熱モジュール20´´を備える。加熱モジュール20´´は、三次元造形物Mを加熱および加圧するホーン30を有する。三次元造形装置1には、超音波振動装置が設けられている。ホーン30は、Z軸駆動モータによって三次元造形物Mにおける積層面の上方から下方へ移動し、積層面に圧力を印加する。これにより、超音波振動装置によって発生させた超音波の振動を、三次元造形物Mに伝達する。三次元造形物Mに超音波の振動が伝達されると、三次元造形物Mにおける上層Lnおよび下層Ln-1が溶着して接合する。三次元造形装置1において、ホーン30の数は、一つに限定されず、適宜選択される。ホーン30が複数設けられる場合、ホーンの形状は、統一されていなくてもよく、異なる形状のホーンが搭載されていてもよい。
<<実施形態の主な効果>>
上記実施形態の三次元造形装置1(造形装置の一例)の吐出モジュール10(吐出手段の一例)は、溶融したフィラメント(造形材料の一例)を吐出して、造形材料層を形成する。三次元造形装置1の加熱モジュール20(加熱手段の一例)は、形成された造形材料層を加熱する。吐出モジュール10は、加熱された造形材料層に対し、溶融したフィラメントを吐出することで、造形材料層を積層させて造形する。上記実施形態によると、再溶融し造形材料層(下層)にフィラメントを吐出して造形材料層(上層)を積層させることで、層間の材料が混ざり合うので、造形物における積層方向の強度を向上させることができる。また、上層を積層させる処理により、外形の視認性に影響を与えることなく、造形することができる。
上述した実施形態では、造形材料で形成される造形材料層の温度に関する温度情報が出力される。このため、積層強度が向上した造形を安定的に行うことが可能となる。例えば、出力された温度情報を三次元造形装置1や情報端末200の表示装置に出力することで、オペレータが造形物の積層強度を見積もることが可能となり、オペレータによる造形継続/中断の判断を支援することができる。結果、積層強度の向上しない造形物は、造形されず、強度向上した造形物が安定して造形できるようになる。あるいは、造形材料が溶融する温度に加熱されるよう造形パラメータを変更制御することもできる。
特定の実施形態では、加熱されるとした場合の造形材料層の温度を算出する温度算出手段を有することができる。これにより、温度センサ104などの温度測定手段を備えない場合であっても、造形材料層の温度に関する温度情報を求めることができる。この温度情報は、造形環境および加熱量のいずれか一方または両方に応じたものとして求めることができる。
さらに、特定の実施形態では、造形開始前に温度情報を出力することができる。これにより、予め造形前に積層強度を見積もることが可能となり、造形材料や造形時間などの無駄を発生させることがない。
特定の実施形態では、加熱された造形材料層の温度を検出する温度センサ104といった温度検出手段を有することができる。これにより、実測された温度に基づいて精度高く積層強度を見積もることができる。
特定の実施形態では、温度情報に造形物の積層強度を示す指標値を含ませることができる。これにより、オペレータが、造形材料の温度から積層強度を見積もることが困難な場合でも、造形物の強度品質の見極め、造形動作の継続あるいは停止の判断を容易とすることができる。
三次元造形装置1の加熱モジュール20は、造形材料層の所定の領域を選択的に加熱する。これにより、造形物の形状を維持しながら造形することが可能となる。
特に、再加熱する範囲から形状の周縁部を除くことにより、外形乱れの発生が防止される。
三次元造形装置1の回転ステージRS(搬送手段の一例)は、所定位置に対し異なる方向から加熱可能になるよう加熱モジュール20を搬送する。これにより、加熱モジュール20は、吐出モジュール10の移動に追随して、造形材料層を加熱することが可能となる。
三次元造形装置1は、加熱モジュール20によって加熱される造形材料層の温度を測定する温度センサ104(測定手段の一例)を備える。加熱モジュール20は、温度センサ104によって測定された温度に基づいて、造形材料層を加熱する。これにより、三次元造形装置1は、層間の接着強度あるいは造形精度などの所望の特性に応じて、適切に造形材料層を再加熱することができる。
加熱モジュール20は、レーザ光を照射するレーザ光源21(源照射装置の一例)であってもよい。これにより、加熱モジュール20は、造形物に接触することなく、選択的に造形物を加熱することができる。
加熱モジュール20は、加熱した空気を送風する温風源(送風手段の一例)であってもよい。これにより、加熱モジュール20は、造形物に接触することなく、造形物を選択的に加熱することができる。
加熱モジュール20´は、造形材料層に接触して加熱する加熱プレート28またはタップノズル28´(部材の一例)であってもよい。これにより、加熱モジュール20´は、造形物を選択的に加熱することができる。
三次元造形装置1は、複数の加熱モジュール20を備えていてもよい。これにより、吐出モジュール10の走査方向が変わっても、いずれかの加熱モジュール20により造形物を加熱できるようになるので、造形時間が短縮される。
三次元造形装置1の側面冷却部39(冷却手段の一例)は、造形材料により形成される造形物の外周部を冷却する。これにより、三次元造形装置1は、造形物の形状を維持したまま造形することができる。
フィラメントには、粘度の異なる複数の材料が配置されている。これにより、吐出モジュール10は、制御部100による制御に基づいて、外周部により粘度の低い材料が配置されるように、フィラメントを吐出することが可能となる。
三次元造形装置1のアシスト機構41(支持部材の一例)は、形成された造形材料層を支持する。これにより、形成された造形材料層の形状を維持しながら造形することが可能となる。